連載小説
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炎を司る異質な男VS異質な戦闘狂火竜(前編)
「はあーやっと着いた。なあリベートここが師匠の言ってたバトルクラブって所か?」

 俺はとある洞窟の前に止まり、誰もいないのに独り言のように場所の確認をする。
ちなみに頭が狂ってたり、幻覚が見えるわけじゃないぞ!俺が今付けているこのネックレス、実はこれに人口AIなるものがついていて、まあ要するに俺をサポートしてくれる便利なネックレスで名前はリベートってんだ。

『炎馬様、何をさっきから考えてるのかは分かりませんがこの洞窟がバトルクラブのある闘技場に続いてるのは間違いありません』
「勝手に人の頭をのぞくなよ・・・ふー、行くか」

 勝手に人の地の文を読むリベートに呆れつつ、俺は一息ついてから洞窟に入ることにした。
洞窟に入ると所々に矢印が書かれた看板が立てられていた。

「これって道に迷わないようにってことか?」
『今この洞窟を調べてみたところかなり複雑な迷路になっているみたいですがこの矢印は恐らく闘技場と思われる場所までしっかり示していると思われます』
「調べたって、それももしかして・・・」
『はい。リリアン様にプログラムされた108の機能の内の一つで・・・』
「ああー、わかったから皆まで言わんでいい。とりあえずこの矢印を辿っていきゃいいんだな?」
『Yes,My Master』

 俺はリベートの了解の意思をを確認して洞窟を突き進んでいく。



 ・・・・・・リベートから送られてきた洞窟の地図のイメージ見て思っていたことだったんだが・・・闘技場までの道のり長っ!?
なんでこんなに奥深くに闘技場なんて作ったんだよ!どう考えても客のこととか考えてないだろうこれ!・・・っと愚痴を零しても仕方が無いか、それで早く着くわけじゃねえし・・・そうだ!まだ俺の自己紹介してなかったな。
俺の名前は須藤炎馬(スドウエンマ)18歳だ。
元々はただの高校生だったんだが、何の因果かこっちの世界に召喚されて勇者に祭り上げられて、なんだかんだあって初っ端から魔物側に寝返って、今はリリアンっていうバフォメットの所で街を守る守護者兼ギルドのメンバーとして活動している。ちなみにこの歳で早くも嫁さんをもらってしまったのは俺の小さな自慢だ!
 さて、大体説明が出来たと思うがそんな街の守護者がなぜこんなところまで来てるんだ?ともっともな疑問が容易に思いつくと思うが、原因は俺の師匠の所為だったりする。だってさ!あの無茶苦茶な師匠がいきなり!
【バトルクラブのDFバトルに参加して勝ち残って来い!っていうか勝利するまで帰ってきちゃ駄目ね♪】
なんていい出すんだぜ!多分修行の一環何だろうけど、よりにもよって噂に聞こえた戦闘狂の聖地に弟子を送り込むってどうよ!?
しかもDFバトルって噂だと通常のバトルよりもさらに手ごわいって聞いた事があるんだけど、これってつまり死ねってことか?
・・・とまあー様々な経緯があってここに来たわけなんだ。

『ちなみに炎馬様はヘリッド様にバトルクラブで手に入れた賞金を自由に使っていいと言われた時にステア様にプレゼントを買おうと密かにやる気を出していたりします』
「ちょっ、おまっ!なんで知ってるの!?っていうか暴露するなよ!」
『私と炎馬様はある意味一心胴体、ネックレスが首から下ろされている時点であらゆる情報が私に流れ込んでくるのですから、隠し事は無駄です』
「だったら今度から大事な話の時は外す事にするか」
『炎馬様が冷たいです』

 なんて事をやっているうちに闘技場の入り口と思われる扉が見えてきてたし。

「リベートここで合ってるか?」
『・・・はい、ここが入り口のようです』
「まあここまで来たら後には引けないし」
『当たって砕けていきましょう』
「いや砕けちゃ駄目だろ!」

−−−受付−−−

 さてとまずは受付でバトルの参加登録をしなくちゃいけないわけなのだが・・・

「炎馬どのじゃな(ニコッ)待っておったのじゃ!ささっこっちに来るのじゃ♪」

 何故か扉を開けたとたんに有無を言わさぬ手際のよさで手をすばやく捕まれて俺の手を引っ張ってゆくバフォメットがいた。

「あのー、一ついいですか?」
「うむ?なんじゃ?」
「なんで俺が来ることを知ってたんですか?っていうか何で俺の名前知ってるんですか?というより俺をどこに連れて行くんですか?というかあんた誰?」
「おぬし、一つと言っておきながら質問がどんどん増えとるぞ」

 いかん。あまりの急展開につい混乱してしまった。ここは冷静さを保って対処をしなくては、師匠もよく言ってたじゃないか、冷静さを失えば全てを失うぞと。

「ワシはここの主であるデルフィニアの親友でミレーヌというものじゃ。おぬしのことはリリアンから聞いとるから知っておるんじゃ。それと今回おぬしはDFバトルに参加するのじゃろう?おぬしの師匠からリリアン経由で連絡が来ておってな、なんでも『私の弟子がそちらに伺うと思うけど、DFバトルでかなり強い炎の使い手と戦わせてあげてね♪』という連絡をされてのぉ、予約という形でもう登録は済んでおるのじゃ」
「俺に選択権すらくれないのか!師匠は!!!」

 なるべく弱い奴を選んでなんとかしようと思ってたのにいきなり目論見が崩れたし!おのれ!!師匠め!!そんなに俺をイジメたいのか!?

「なんじゃ、聞いておらんかったのか?まあ何にせよ、すでに登録ずみじゃからあきらめるんじゃな」
「はあー、腹を括るしかねえか。ところで俺の相手ってどんな奴なの?」

 出来ることなら男がいいんだけどな、女性だとあまり気が乗らないし。
えっ?師匠だって女だろって?だって師匠はチートなんだもん。

「そうじゃな、情報くらい教えんとさすがにおぬしが可哀想じゃからな。おぬしの相手はサラマンダーのブレイズ=ソラリスという奴じゃ」
「な、な、なんだってー!!!」
「なんじゃ、知っておったか。異世界人じゃと聞いておったから知らんと思っておったのじゃが」
「ブレイズ=ソラリスって言ったら全世界で指名手配されてる犯罪者じゃないか!!!戦闘を楽しむためならどんなことでもやってのけると言われるほどの悪逆非道な奴で本当に魔物なのか?と疑われるほどの戦闘狂で有名な奴!いくらこの世界に疎い俺でも知ってるよ!!!」
「ふむ、そうか」
「なんで、犯罪者がバトルクラブで戦闘員なんてやってるんだよ!」
「このバトルクラブではのぉ、犯罪者じゃろうが、死神じゃろうが、そんなものは関係無いのじゃ」
「なんだって」
「そもそも、ここはまともな思考の持ち主はおらん場所じゃ。それこそ戦闘が好きで好きでしょうがないという戦闘狂しか集まらん場所じゃからな、犯罪者、元教団兵、元勇者、魔物と様々な連中がおる。根本的に無理やり参加させられる以外は戦いが好きな奴らばかりじゃ、そんな場所に表のルールが持ち込まれるわけがなかろう」
「だけど、もしその犯罪者がここで暴れたらどうするんだよ!」
「心配はいらんのじゃ、そんな不届きモノがおったらデルフィニアが始末するじゃろう。ここではデルフィニアは絶対的な強さを誇っておるからのぉ、死にたくないからよっぽどの馬鹿でない限りは暴れるものはおらんのじゃ」
「・・・・・・」
「それとおぬしは少しばかり勘違いしておるのぉ」
「俺がいったい何を勘違いしてるんだよ?」
「おぬしは闘うことをどういう風に考えておるのじゃ?」
「い、いきなりなんだよ?」
「答えるんじゃ」
「・・・大切なものを守るための手段だと思ってるが」
「やはりな・・・恐らくおぬしの師匠はそれを勉強させるためにここに送ったのじゃろうな」
「ど、どういうことだよ?」
「それは・・・ブレイズから教わると良いじゃろう」

 それっきり、ミレーヌは喋らなくなり黙々と歩き続けた。

−−−DFバトル闘技場−−−

「ここがDFバトル闘技場じゃ、おぬしの健闘を祈っておるぞ」
「・・・・・・行って来るわ」

 俺は入り口でミレーヌと別れ闘技場の中心部を目指して歩いていく。
周りの観客が異様な盛り上がりを見せ、まるで地響きでも起こしているんじゃないかと言うほどにうるさかった。
恐らくは中心部で何かを喋ってる司会者が会場を盛り上げているのだろう。
・・・・・・なんで、師匠はこんな犯罪者の巣窟に俺を送り込んだんだ?
勉強しろって、犯罪者から何を学べってんだ?訳がわかんねえ!
俺が納得が出来ないことを何度もぐるぐると自問自答をしていた時だった。

『炎馬様、前方から敵が来ました』
「何?」

 はっ!となり、前を見るとそこにはノシノシとゆっくりと歩き近づいてくるサラマンダーがいた。
見た目はボサボサのショートヘアーで赤い髪をしていて、装備は軽装の鎧(胸、肩、腰、手にしか無い)で目は狂喜を含んだ目をしていた。
サラマンダー特有の赤い鱗が手、足、尻尾にあるが顔の右半分も鱗で覆われていた。体の至る所には切り傷が出来ていていくつもの修羅場を潜り抜けたのは容易に想像できた。
俺の脳が瞬間的に警告を出してきた。
危険だ!用心しろ!油断をするな!と。
こんなに汗が出てきたのは「軽く、本気だすよ♪」といい襲い掛かってきた師匠と対峙して以来じゃないか?

「ルールは知っていると思うが、観客に手を出さなければ何でもありだが、俺が無理だと判断したら止めるからそのつもりで」

 俺が目の前のサラマンダーに意識を奪われている間に審判らしき男が説明を終えて警告をしていた。

「よし、それでは互いに名乗ってから離れろ」
「私はブレイズ=ソラリスっていうの。楽しませてね♪」

 ・・・・・・やべえ、うちの師匠と少し似てるかもしれない。

「俺は須藤炎馬だ」

 互いに名乗りあった後、十分に距離を取り、審判の合図を待つ。

「試合開始!!!」

「いくぜ!リベート!サポートは任せたぜ!!」
『Yes,My Master』
「どんな戦いになるのか楽しみだね♪」

 俺はまずこの遠距離を有効に使うために懐から2丁の赤いハンドガンを取り出して、即座に連射していた。
俺の視界には確かにブレイズの姿が捉えられていた。
なのに・・・

「君なんだか珍しい銃を使うみたいだけど・・・それだけじゃ私は倒せないよ♪」
『後ろです!炎馬様!』
「んな!?」

 後ろを振り向くと相も変わらずに狂喜を含んだ目をして笑っているブレイズが拳を握って今にも殴りかかろうとしていた。
俺は寸での所で体を後ろに反らしてパンチを回避していた。

『追撃が来ます!!!』
「くっ!」
「この体勢で避けられるかな♪」

 今度は腹部目掛けてエルボーを仕掛けてきていた。
俺は無理やり体を捻って位置をずらしてこの追撃も避けることが出来た。
かわされたエルボーはそのまま俺に当たること無く地面に落ちていく。

バキッ ビキビキ

「へっ?」

 あ、ありえねえ!一見なんの変哲も無いただのエルボーなのに地面が割れた。

『今の衝撃エネルギーを見るにまともにもらえば骨が簡単に折れますね』

 なんともうれしくねえ情報をリベートが伝えてくれる。

「へえーあの体勢から回避するなんてやるじゃないか、これは少し骨がありそうでいいね♪」
「気楽に言ってくれるぜ。こっちはあんたの一撃を受ければやばいってのに」
「ほめ言葉として受け取っておくよ♪さあもっといくよ♪」

 そういうとブレイズは一瞬で間を詰めて避けにくい場所を重点的に素手で攻撃を仕掛けてくる。
それに対して俺はリベートから送られてくる回避方法や独自の判断で攻撃をかわし、避けきれない攻撃は小太刀を使っていなしていく。
何度も攻防を繰り返し、慣れてきた所で一つ反撃をしようとした時にブレイズが距離を取った。

「ヒュー♪すごいね!私の攻撃をここまでかわすなんて大したもんだよ♪」
「これでも凄腕のチート師匠に鍛えられてるしな、冷や汗が出ることもあったがあんたの攻撃パターンは見切ったからもう攻撃は通用しないぜ」

 そう、俺から見てブレイズの攻撃は一つ一つが洗練されていてパワフルな攻撃だが、それでもわずかな隙はうかがえた。これならば師匠に氷の魔術を用いて半殺しの憂き目に会ったときに比べれば100倍はマシなほうだ。

「ふーん、見切ったねー。じゃあ試してみようか♪」

 そういうとブレイズは姿勢を低くして、今にも飛び掛らんばかりの体勢を取る。
俺はそれに対して刀に手をかけて、居合いの体勢を取る。
わずかな間静寂の時が流れていた。






唐突にブレイズが姿を消した。

『炎馬様!来ます!』
「わかってらー!」

 俺はリベートの言葉を聞き、手にかけていた刀を魔力を開放しつつ抜き放っていた。

【春風】

 抜き放った刀を静かに鞘に収める。

「終わったな」

 手ごたえはあった。今まで何度か感じたことのある生き物を斬ったときと同じ感覚が・・・たしかにあったはずだった。

「何が終わったって?」
『炎馬様!回避してください!』
「!?」

 俺は咄嗟に横っ飛びをして迫り来る何かを回避していた。

「駄目だろうが、相手の状態を確認するまで気を抜いちゃ」
「ば、馬鹿な!なんで生きてんだよ!?」

 そこに居たのは腕から血を流しているだけで特に外傷が見られないブレイズの姿だった。

「さすがにあの居合いはやばかった。あと少し反応が遅ければ死んでたかもな・・・フッ、久しぶりに闘志が湧いたよ。ここの所ろくな相手がいなかったからね、あんたなら退屈せずに済みそうだ」
「お、お前さっきと口調が違わないか?」
「ああ、これが俺の本性さ。俺は戦いを糧に生きる種族サラマンダーだぜ?闘志が高まると口調がだんだんと乱暴になっていくんだ。そして、闘志が高まれば高まるほど・・・」

 そういうとブレイズの尻尾から勢いよく炎が出始めていた。

「炎が出るってわけさ」
「へっ、闘志が高けりゃ戦いは勝てるってもんじゃないぜ。大体たかが尻尾から炎が出ただけじゃねえか」
『炎馬様それは・・・』
「言っておくがサラマンダーは炎が大きければ大きいほど実力が上昇する種族だ。つまり今の俺はさっきよりも数段強くなっている」
『彼女の言うとおりです炎馬様、先ほどよりも感じていたエネルギーが約3倍に増えています。戦闘能力も上がったと見て間違いが無いです』
「マジで!?」
「さあ楽しい闘いを始めようぜ!!!」

 ブレイズは背中に背負っていた両手剣を片手で抜き放った。
抜き放った両手剣も赤くなり始めたと思ったら炎を出し始めていた。

「なんだあの剣!?刀身が燃えてるぞ!」
『・・・・・・解析完了。あれは魔剣の一つで【クリムゾン】という両手剣です』
「クリムゾン?」
「なんだい、俺の剣のことを知ってるのか?この剣は俺の闘志に反応して刀身が熱を帯びて炎を出す仕組みになっているのさ。サラマンダーの俺だからこそ扱える代物さ」
「なんだか、俺の特性に少し似てる気もするが・・・ってことはまさか」
『はい温度が高ければ高いほど炎は勢いを増し、同時に切れ味も増します』
「とことん似てるな。だったらどっちの特性が上かはっきりさせてみるか!サポートはしっかり頼むぜリベート!」
『Yes,My Master』

 こうして俺とブレイズの2ラウンド目が幕をあけた。
この先に死闘が待ち構えていることをこの時の俺は知る由もなかった。

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11/12/02 00:52更新 / ミズチェチェ
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■作者メッセージ
どうも皆様お久しぶりです!!!
やっとこさ書くことができました!
今回はゲストとして、knife様の須藤炎馬君を登場させています。
ちなみに当初もらっていた設定を現在出演している作品に合わせて描いているのでだいぶ設定が変わっています。
そして基本的に台詞と炎馬君視点で進めていますが違和感はありませんでしょうか?
今回は長くなりそうなので、前編と後編に分けました。
とりあえず、現在リアルが忙しいのでなかなか書く暇は出来ませんが、せめて今年中にもらったゲストキャラは消費したいですね。
さて前編は軽いジャブの展開を見せましたが後編はもっと熱く、ドッカーンとした感じの話を書く予定です。
次の更新がいつになるか分かりませんが楽しみに待っていてください。

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