第三章 エリエール道中日記 (ほのぼの、ギャグ、バトル)
晴れ渡った広い空、雲ひとつないきれいな青空、外を歩くにはまさに絶好の日といえよう。
今私は冒険者になるためにエリエールに向かう道中を進んでいる。
私が向かうエリエールはオステカの村から徒歩なら三日、馬なら一日とかなり遠い場所にある。
今はオステカの村を出て二日目になる、ようやく半分まで来たというところだ。
それにしても野宿というのもなかなかどうして厄介なものだ。
寝ることのできる場所を探すのがこれほど大変だとは思わなかった。
さすがにその辺の道端で寝るわけにはいかないし、かといって道から大きく離れるわけにもいかないし困ったものだったな。
まあ昨晩は偶然にも洞穴があったからそこで野宿をしたが岩がごつごつして非常に眠るのが大変だったのはいうまでもないがな。
これから先もこういう風に野宿をする機会も増えるだろうから早いうちに打開策を考えようと私は心に決めた。
さて食料についてだが昨日は村から持ってきた食料を食べて凌いだが、この分だとすぐに尽きてしまいそうだ。慎重に食べなければ。
そのうち何とか食料を手に入れる術を手に入れなければ、長期の旅になった時に食糧難になってしまう。
わずか一日だけだが冒険がいかに大変なものかが理解できた。
本を読んでいるだけでは理解できないものがたくさんあることに気づいた。
私は悲観せずむしろ喜びを感じていた。
村にずっと住んでいたら、絶対に気づけなかったことだから。
これが行動することで発見できることなのかと実感していた。
そんなフレイヤが喜びを実感しているころ、遠巻きからフレイヤのことを観察している三人の影があった。
しばらく歩いていると遠くにある道に何かが見えた。
フレイヤは何かあると最初は認識したが何かはわからないのでそんなに気にしなかったが次第にその影が人が倒れているように見えたあたりでフレイヤは駆け出した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
その影の近くまでよるとそれは少女だった。
よく見てみると、耳が長かった。
たしか魔物図鑑によればゴブリンだったかな?
フレイヤは思い出しながら近寄る。
「おい。大丈夫かしっかりしろ」
フレイヤは声をかけ、体を軽くゆする。
「うっ、うーん、あ、あ、なたは、誰?」
少女は気づいたようで質問をしてくる。
「私はヴァル=フレイヤ。どうしたんだいったいこんなところで」
「じ、実は、お腹がすいて、動けないんです」
「空腹で動けなくなったのか、待ってろ私の食料を少し分けてやる」
「い、いいん、ですか?」
「構わない、困ったときはお互い様というだろ」
「そうですか」
ニヤリ・・・
フレイヤがアイテムバックから食料を探している最中、少女は笑った。
そしてしずかに手を上げる。
フレイヤは食料を見つけ取り出そうとしたときだ。
背後に気配を感じ、後ろを向いた。
するとそこにはこん棒とひのきの棒を構えた二人の少女がいた。
二人は構えたまま固まっている。
さっきの少女の方に振り返るとどこから出したのか木製のハンマーを構えて襲い掛かろうとしていた。
「・・・これは、いったい何の真似かな」
フレイヤの問いにビクッとする三人。
当然である。フレイヤの声はさっきの優しさがある声ではなく、冷たさが混ざった声なのだから。
「「「い、いやこれは、その〜」」」
三人に冷や汗が流れる。
フレイヤの顔はたしかに笑っているが、しかし目がまったくといっていいほどに笑っていないのだ。
「まあ察するに私を襲おうというところだな。違うかな?」
すると開き直ったのか、一人の勝気な少女が高々と声を張り上げた。
「ふ、ふん!!気づかれちゃ〜しょうがないわね。そのとおりよ。あたし達はあんたから荷物を盗んでやろうと思ってここで待ち伏せていたのよ」
「盗みね。なぜそんなことをする」
「なぜ?」
「そんなことを?」
「する?」
「「「それはあたし達が盗賊だからさ〜!!!」」」
「そこに盗めるものあらば、どこまでもかけつけ!!!」
「狙った獲物は確実に!!!」
「し、姉妹の力を、ひ、一つにして」
「「「いざ盗み出さん、あたしらゴブリン三姉妹!!!」」」
ドッカーン!!!!
という効果音が聞こえそうなくらいに見事なキメ台詞とポージングだった。
その光景をフレイヤは呆然として見ていた。
どうしようこのまま逃げてしまおうかな?
いやしかしなんだか無視するのもかわいそうだし、もうちょっと付き合ってあげようかな?と真剣に悩んでいるフレイヤをよそに、三姉妹はというと・・・
「や、やったよカリンおねえちゃん、コリンおねえちゃん、あたし初めてポージングとキメ台詞成功したよ〜」
「やったなーマリン。ついに成功したんだな」
「よくがんばったねー。まあでも最後のポージングちょっと失敗していたけどそこはあとでいたずらするだけで許してあげるは」
「えー!?そんな〜」
などとどうでもいいことで喜んでいた。
「こほん、こほん」
フレイヤはとりあえず付き合うことにしたのか、せき払いをして三姉妹の気を引いた。
それに気づいた三姉妹はあわてて武器を構える。
「そ、そういうことだから、おとなしく荷物を渡しなさい!」
「まあ盗んだ荷物は知り合いの商人ゴブリンに売り渡たしますけどね」
「えっと、その、わ、渡してください」
三人は一斉に飛び上がり武器を振りかぶる。
フレイヤはため息をついて、後ろにとびのき剣を抜き、盾を構える。
三姉妹の武器が一斉に地面に当たる。
ドカッ!ビキビキ・・・・
地面は三つの武器でヒビが入る。
それだけで三姉妹のパワーがわかる。当たれば大怪我は確実だろう。
だがしかし肝心のスピードが殺されてすっごく遅い。
これでは避けてくださいといっているようなものだ。(あれ、なんだかこれ前にもあったような)
できれば人を殺めるのは極力避けたいところだ。
例えそれが私を襲う魔物でも。
フレイヤが思案している最中、三姉妹は三方に散り、フレイヤを中心として逃がさないように囲んだ。
さすがにフレイヤも少しあせりが出てきた。
いくら遅いとはいえ、囲まれては死角ができてしまう、前方に三人がいるならともかく、三角の陣で囲まれれば、二人までは何とか見れるが一人は死角に消えてしまう。
ならばと全神経を集中し、研ぎ澄ませてゆく。
「こい」
フレイヤがしずかに言い放った。
三姉妹がバラバラのタイミングで飛び出す。
最初に飛び込んだのがカリンと呼ばれていた少女だ。
「くらえーーーー!!」
持っていたこん棒を振りかざし、そのまま振り下ろしてくる。
最小限の動きでかわし、剣の柄で攻撃をしようとした、しかし、フレイヤの後ろから気配を感じ、横に飛びのいた。
そこにはハンマーを振り下ろすコリンと呼ばれていた少女がいた。
「おしいですね〜、もう少しだったんですけど」
間一髪で避けたフレイヤ、しかし突如影ができ、上を見上げたフレイヤの目に映ったのはひのきの棒を振り下ろしながら落下してくる、マリンと呼ばれた少女だった。
「ご、ごめんなさい!」
なぜか、誤りながら振り下ろしてきた。
咄嗟に盾を前に出し、受け止めるフレイヤ。
しかし盾とはいえ皮で出来た盾ではそれほど防御力は望めず、しかも相手はゴブリン、パワーは向こうが上。
ガツン!!
多少痛みがくると予想していたのだが、痛みはなかった。
(あれ、痛くない)
何故かと考えて、私は思い出した。
(そういえば、リサにお守りをもらったんだっけ)
そう思いながら再び距離をとるためにいったん走って後退する。
ダッ!!!タッタッタッ・・・・
「待てー!!」
「待ちなさい!」
「待ってください」
三姉妹がさらに追ってくる。
そして足が速い順に追ってくる。
実はここにフレイヤの狙いがあった。
三人をいっぺんに相手をすれば苦戦は必至、ならば一対一の状況を作ればいい
、距離を取れば自然と足の速いやつが追いついてくるからだ。
これはある戦術の本に書かれていた多対一での戦術の一つである。
最初に追いついてきたのは、どうやらカリンのようだ。
「よーし、やっと追いつい・・!?」
喋り終わる前に私はカリンに接近していた。
そして、後頭部にすかさず先ほどやろうとしたことをやる。
剣の柄をつかって手刀の要領で叩き込む。
ガツン!!
「か、は・・」
ドサッ
「まずは一人」
「あなたー!!カリン姉さんに何するのよ!!」
次に追いついてきたのはコリンのようだ。
「くらいなさいー!!」
そういってハンマーを構え、ジャンプして振り下ろしてくる。
横に避けると同時にハンマーが地面を激しく抉る。
先ほどとは段違いの破壊力だ。
どうやら少しは手加減をしてくれていたらしい。(あれ、これもどこかでみたような)
「うーーーーん!!!」
そして今ハンマーを抜こうとしているらしいが全然抜ける気配がない。
ガツン!!
先ほど同様後頭部に剣の柄を叩き込む。
「!?・・・・」
ドサッ
「はあはあ、待ってよーお姉・ちゃ・・ん」
マリンが目にしたのは気絶している二人の姉の姿とそこに立っているフレイヤの姿だった。
「お姉ちゃんたちが・・嘘・どうして?」
「心配するな、気絶させただけだ。それと、まだ私を襲う気があるのかな?」
マリンは首を横に振った。
「もう襲わないよ、だから、だから、お姉ちゃんを殺さないで、お願いだから」
今にも泣き出しそうなマリンを見て、フレイヤは剣を鞘に収めた。
「大丈夫、私は人であろうが魔物であろうが殺しはしないよ。もう君が襲う気がないというならば、私も戦う理由がないからな。お姉ちゃんたちにひどいことをしてすまないな」
フレイヤがマリンの目線にあわせて子供をあやすように話しかけた。
「そんな、お姉ちゃんが誤ることないよ、元はといえばあたし達がお姉ちゃんを襲ったのがいけないんだし、その、ごめんなさい」
「ふっ、それならばお互い様ということでいいかな」
「うん」
そういうとマリンは笑った。
「私はそろそろいかなければ行かないのだが、だいぶ日も暮れてきたことだし野宿する場所を確保したいんだが、この近辺にいい場所はないかな?」
「え、えーと・・・・そうだ。たしかこの先に中継地点の宿屋があったはずだよ」
「宿屋か・・・まあ泊まれるならそれに越したことはないか・・・そうだ、せっかくだからそこで君のお姉さん達を傷つけたお詫びに一泊、一緒に泊まらないか?」
「えっ!?でも私達が襲ったからこうなったんですよ?別に気にすることじゃないと思いますよ」
「いや。身を守るためとはいえ傷つけたことに変わりはない、それに私の気がすまないんだ。たのむここは私の我侭だと思って聞いてくれ」
「それじゃー、お言葉に甘えます」
そして私はアイテムバックを取り、二人を抱きかかえて、マリンを連れてこの先の宿屋に向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「うーーん、うん?えっここどこ?」
「あっ、カリンお姉ちゃん気がついたんだね」
カリンが目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。
「マリン・・ここどこ?たしかあたし達はあのデカイ女を襲ってたはずだけど」
「そのデカイ女とは私のことか?」
そこには顔は笑っているが、目が笑ってないフレイヤが椅子に座っていた。
たらたらたら・・・・・
カリンから尋常じゃないほどのひや汗が滝のように流れている。
「ゴメンナサイ」
「よろしい」
そこではっと気づく、自分はなぜこんなところで寝ているのかを。
「なんであたしはこんなところで寝てるのさ・・・えっと」
「フレイヤ、ヴァル=フレイヤだ」
「のさフレイヤ」
「それは私がお前達に傷つけてしまったから、その償いさ」
「償いって、バカかフレイヤは、あたし達はフレイヤを襲ったんだよ。なのになんで襲った相手を助けてるのさ」
「さあな、なぜだろう私にもよくわからないんだ。ただほっといちゃいけない気がしてな、ただそれだけだ」
「フレイヤは変わってるよ、普通はほっとくもんだよ。そんなお人好しだといつか損しちゃうぜ」
「かもしれないな」
フフフフフと私達は笑っていた。
「うーーん、ここはどこ?」
「カリンお姉ちゃん、コリンお姉ちゃんも起きたよ」
「おお本当だー。おっはー」
「???おっはー???あれ、カリン姉さんここどこ?」
「うん、実はかくかくしかじかなんだ」
「そうなのですか!?かくかくしかじかなのですね!!」
素晴らしきかな、「かくかくしかじか」の便利性。
「本当に変わってますね、普通敵を助けますか?」
「それをいわれるのは今日で三度目だな」
「だけどいいなあ、そういう情に厚い人柄あたしは好きだな」
「あ、あたしも」
「そんなの単なるお人好しってだけじゃない、まあ別に嫌いってわけじゃないけど」
「・・・よし決めた!!」
「なにを?」
「決まってんじゃん、フレイヤの姉貴にあたし達はついていくんだよ!!」
「「ええええーーーーーー!!」」
「えっ!?ついてくるの?」
「当然でしょ。姉貴は強くて優しくて、もう惚れました。一生あたしらはついていきますよ」
「あたしらってあたし達まで行くの?」
「当然。リーダーがいくところ部下がついてくる、これ自然の摂理。オーケー?」
「いや、オーケーとかじゃないし。少しはあたし達にも相談しなさいよ」
「じゃあ選択肢をやろう。それから一つ決めてくれ」
「わ、わかったわよ」
一、喜んでついてくる
二、素直についてくる
三、渋々ついてくる
四、いいからついてこい
「さあ選べ!!!」
「ついていかないという選択肢はないのか!!!!あと四つ目何よこれ!!ほとんど命令じゃない!」
「なにー聞こえんなー!!」
「このバカ姉貴がー!!!」
ギャーギャー ボカスカボカスカ
「じゃ、じゃー、一で」
ピタッ
「おおー、マリン喜んでついてきてくれるか」
「うん」
頬を赤く染めながら頷くマリン。
「さあー後はコリンだけだよ」ビシッ
「はあー拒否権はないんでしょ、それじゃ一でいいわよ」
「ふうー初めから素直になればいいのに、素直じゃないねー」
「うるさいわよ」
この風景を眺めていたフレイヤは急な展開についていけず、ただただ呆然としていた。
「とっいうわけで、これからよろしくね姉貴♪」
「まあとりあえずよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
フレイヤもかなり困っていたがまあ心強い仲間が出来たと思えばいいかと自分の心に説得し、同時にお金、大丈夫かなと心配になりながらも。
「あ、ああよろしく」
と返事をしてしまった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
一人旅のつもりがいきなり四人で旅をするとは思わなかったが、まあこれも冒険の醍醐味の一つとして受け入れるかなと、自分を納得させた。
これから先はいったいどうなることやら、だが一つ言えることはこれからは賑やかになることは間違いないということだ。
○月×日 ヴァル=フレイヤ
今私は冒険者になるためにエリエールに向かう道中を進んでいる。
私が向かうエリエールはオステカの村から徒歩なら三日、馬なら一日とかなり遠い場所にある。
今はオステカの村を出て二日目になる、ようやく半分まで来たというところだ。
それにしても野宿というのもなかなかどうして厄介なものだ。
寝ることのできる場所を探すのがこれほど大変だとは思わなかった。
さすがにその辺の道端で寝るわけにはいかないし、かといって道から大きく離れるわけにもいかないし困ったものだったな。
まあ昨晩は偶然にも洞穴があったからそこで野宿をしたが岩がごつごつして非常に眠るのが大変だったのはいうまでもないがな。
これから先もこういう風に野宿をする機会も増えるだろうから早いうちに打開策を考えようと私は心に決めた。
さて食料についてだが昨日は村から持ってきた食料を食べて凌いだが、この分だとすぐに尽きてしまいそうだ。慎重に食べなければ。
そのうち何とか食料を手に入れる術を手に入れなければ、長期の旅になった時に食糧難になってしまう。
わずか一日だけだが冒険がいかに大変なものかが理解できた。
本を読んでいるだけでは理解できないものがたくさんあることに気づいた。
私は悲観せずむしろ喜びを感じていた。
村にずっと住んでいたら、絶対に気づけなかったことだから。
これが行動することで発見できることなのかと実感していた。
そんなフレイヤが喜びを実感しているころ、遠巻きからフレイヤのことを観察している三人の影があった。
しばらく歩いていると遠くにある道に何かが見えた。
フレイヤは何かあると最初は認識したが何かはわからないのでそんなに気にしなかったが次第にその影が人が倒れているように見えたあたりでフレイヤは駆け出した。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
その影の近くまでよるとそれは少女だった。
よく見てみると、耳が長かった。
たしか魔物図鑑によればゴブリンだったかな?
フレイヤは思い出しながら近寄る。
「おい。大丈夫かしっかりしろ」
フレイヤは声をかけ、体を軽くゆする。
「うっ、うーん、あ、あ、なたは、誰?」
少女は気づいたようで質問をしてくる。
「私はヴァル=フレイヤ。どうしたんだいったいこんなところで」
「じ、実は、お腹がすいて、動けないんです」
「空腹で動けなくなったのか、待ってろ私の食料を少し分けてやる」
「い、いいん、ですか?」
「構わない、困ったときはお互い様というだろ」
「そうですか」
ニヤリ・・・
フレイヤがアイテムバックから食料を探している最中、少女は笑った。
そしてしずかに手を上げる。
フレイヤは食料を見つけ取り出そうとしたときだ。
背後に気配を感じ、後ろを向いた。
するとそこにはこん棒とひのきの棒を構えた二人の少女がいた。
二人は構えたまま固まっている。
さっきの少女の方に振り返るとどこから出したのか木製のハンマーを構えて襲い掛かろうとしていた。
「・・・これは、いったい何の真似かな」
フレイヤの問いにビクッとする三人。
当然である。フレイヤの声はさっきの優しさがある声ではなく、冷たさが混ざった声なのだから。
「「「い、いやこれは、その〜」」」
三人に冷や汗が流れる。
フレイヤの顔はたしかに笑っているが、しかし目がまったくといっていいほどに笑っていないのだ。
「まあ察するに私を襲おうというところだな。違うかな?」
すると開き直ったのか、一人の勝気な少女が高々と声を張り上げた。
「ふ、ふん!!気づかれちゃ〜しょうがないわね。そのとおりよ。あたし達はあんたから荷物を盗んでやろうと思ってここで待ち伏せていたのよ」
「盗みね。なぜそんなことをする」
「なぜ?」
「そんなことを?」
「する?」
「「「それはあたし達が盗賊だからさ〜!!!」」」
「そこに盗めるものあらば、どこまでもかけつけ!!!」
「狙った獲物は確実に!!!」
「し、姉妹の力を、ひ、一つにして」
「「「いざ盗み出さん、あたしらゴブリン三姉妹!!!」」」
ドッカーン!!!!
という効果音が聞こえそうなくらいに見事なキメ台詞とポージングだった。
その光景をフレイヤは呆然として見ていた。
どうしようこのまま逃げてしまおうかな?
いやしかしなんだか無視するのもかわいそうだし、もうちょっと付き合ってあげようかな?と真剣に悩んでいるフレイヤをよそに、三姉妹はというと・・・
「や、やったよカリンおねえちゃん、コリンおねえちゃん、あたし初めてポージングとキメ台詞成功したよ〜」
「やったなーマリン。ついに成功したんだな」
「よくがんばったねー。まあでも最後のポージングちょっと失敗していたけどそこはあとでいたずらするだけで許してあげるは」
「えー!?そんな〜」
などとどうでもいいことで喜んでいた。
「こほん、こほん」
フレイヤはとりあえず付き合うことにしたのか、せき払いをして三姉妹の気を引いた。
それに気づいた三姉妹はあわてて武器を構える。
「そ、そういうことだから、おとなしく荷物を渡しなさい!」
「まあ盗んだ荷物は知り合いの商人ゴブリンに売り渡たしますけどね」
「えっと、その、わ、渡してください」
三人は一斉に飛び上がり武器を振りかぶる。
フレイヤはため息をついて、後ろにとびのき剣を抜き、盾を構える。
三姉妹の武器が一斉に地面に当たる。
ドカッ!ビキビキ・・・・
地面は三つの武器でヒビが入る。
それだけで三姉妹のパワーがわかる。当たれば大怪我は確実だろう。
だがしかし肝心のスピードが殺されてすっごく遅い。
これでは避けてくださいといっているようなものだ。(あれ、なんだかこれ前にもあったような)
できれば人を殺めるのは極力避けたいところだ。
例えそれが私を襲う魔物でも。
フレイヤが思案している最中、三姉妹は三方に散り、フレイヤを中心として逃がさないように囲んだ。
さすがにフレイヤも少しあせりが出てきた。
いくら遅いとはいえ、囲まれては死角ができてしまう、前方に三人がいるならともかく、三角の陣で囲まれれば、二人までは何とか見れるが一人は死角に消えてしまう。
ならばと全神経を集中し、研ぎ澄ませてゆく。
「こい」
フレイヤがしずかに言い放った。
三姉妹がバラバラのタイミングで飛び出す。
最初に飛び込んだのがカリンと呼ばれていた少女だ。
「くらえーーーー!!」
持っていたこん棒を振りかざし、そのまま振り下ろしてくる。
最小限の動きでかわし、剣の柄で攻撃をしようとした、しかし、フレイヤの後ろから気配を感じ、横に飛びのいた。
そこにはハンマーを振り下ろすコリンと呼ばれていた少女がいた。
「おしいですね〜、もう少しだったんですけど」
間一髪で避けたフレイヤ、しかし突如影ができ、上を見上げたフレイヤの目に映ったのはひのきの棒を振り下ろしながら落下してくる、マリンと呼ばれた少女だった。
「ご、ごめんなさい!」
なぜか、誤りながら振り下ろしてきた。
咄嗟に盾を前に出し、受け止めるフレイヤ。
しかし盾とはいえ皮で出来た盾ではそれほど防御力は望めず、しかも相手はゴブリン、パワーは向こうが上。
ガツン!!
多少痛みがくると予想していたのだが、痛みはなかった。
(あれ、痛くない)
何故かと考えて、私は思い出した。
(そういえば、リサにお守りをもらったんだっけ)
そう思いながら再び距離をとるためにいったん走って後退する。
ダッ!!!タッタッタッ・・・・
「待てー!!」
「待ちなさい!」
「待ってください」
三姉妹がさらに追ってくる。
そして足が速い順に追ってくる。
実はここにフレイヤの狙いがあった。
三人をいっぺんに相手をすれば苦戦は必至、ならば一対一の状況を作ればいい
、距離を取れば自然と足の速いやつが追いついてくるからだ。
これはある戦術の本に書かれていた多対一での戦術の一つである。
最初に追いついてきたのは、どうやらカリンのようだ。
「よーし、やっと追いつい・・!?」
喋り終わる前に私はカリンに接近していた。
そして、後頭部にすかさず先ほどやろうとしたことをやる。
剣の柄をつかって手刀の要領で叩き込む。
ガツン!!
「か、は・・」
ドサッ
「まずは一人」
「あなたー!!カリン姉さんに何するのよ!!」
次に追いついてきたのはコリンのようだ。
「くらいなさいー!!」
そういってハンマーを構え、ジャンプして振り下ろしてくる。
横に避けると同時にハンマーが地面を激しく抉る。
先ほどとは段違いの破壊力だ。
どうやら少しは手加減をしてくれていたらしい。(あれ、これもどこかでみたような)
「うーーーーん!!!」
そして今ハンマーを抜こうとしているらしいが全然抜ける気配がない。
ガツン!!
先ほど同様後頭部に剣の柄を叩き込む。
「!?・・・・」
ドサッ
「はあはあ、待ってよーお姉・ちゃ・・ん」
マリンが目にしたのは気絶している二人の姉の姿とそこに立っているフレイヤの姿だった。
「お姉ちゃんたちが・・嘘・どうして?」
「心配するな、気絶させただけだ。それと、まだ私を襲う気があるのかな?」
マリンは首を横に振った。
「もう襲わないよ、だから、だから、お姉ちゃんを殺さないで、お願いだから」
今にも泣き出しそうなマリンを見て、フレイヤは剣を鞘に収めた。
「大丈夫、私は人であろうが魔物であろうが殺しはしないよ。もう君が襲う気がないというならば、私も戦う理由がないからな。お姉ちゃんたちにひどいことをしてすまないな」
フレイヤがマリンの目線にあわせて子供をあやすように話しかけた。
「そんな、お姉ちゃんが誤ることないよ、元はといえばあたし達がお姉ちゃんを襲ったのがいけないんだし、その、ごめんなさい」
「ふっ、それならばお互い様ということでいいかな」
「うん」
そういうとマリンは笑った。
「私はそろそろいかなければ行かないのだが、だいぶ日も暮れてきたことだし野宿する場所を確保したいんだが、この近辺にいい場所はないかな?」
「え、えーと・・・・そうだ。たしかこの先に中継地点の宿屋があったはずだよ」
「宿屋か・・・まあ泊まれるならそれに越したことはないか・・・そうだ、せっかくだからそこで君のお姉さん達を傷つけたお詫びに一泊、一緒に泊まらないか?」
「えっ!?でも私達が襲ったからこうなったんですよ?別に気にすることじゃないと思いますよ」
「いや。身を守るためとはいえ傷つけたことに変わりはない、それに私の気がすまないんだ。たのむここは私の我侭だと思って聞いてくれ」
「それじゃー、お言葉に甘えます」
そして私はアイテムバックを取り、二人を抱きかかえて、マリンを連れてこの先の宿屋に向かった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「うーーん、うん?えっここどこ?」
「あっ、カリンお姉ちゃん気がついたんだね」
カリンが目を覚ますとそこは見知らぬ部屋だった。
「マリン・・ここどこ?たしかあたし達はあのデカイ女を襲ってたはずだけど」
「そのデカイ女とは私のことか?」
そこには顔は笑っているが、目が笑ってないフレイヤが椅子に座っていた。
たらたらたら・・・・・
カリンから尋常じゃないほどのひや汗が滝のように流れている。
「ゴメンナサイ」
「よろしい」
そこではっと気づく、自分はなぜこんなところで寝ているのかを。
「なんであたしはこんなところで寝てるのさ・・・えっと」
「フレイヤ、ヴァル=フレイヤだ」
「のさフレイヤ」
「それは私がお前達に傷つけてしまったから、その償いさ」
「償いって、バカかフレイヤは、あたし達はフレイヤを襲ったんだよ。なのになんで襲った相手を助けてるのさ」
「さあな、なぜだろう私にもよくわからないんだ。ただほっといちゃいけない気がしてな、ただそれだけだ」
「フレイヤは変わってるよ、普通はほっとくもんだよ。そんなお人好しだといつか損しちゃうぜ」
「かもしれないな」
フフフフフと私達は笑っていた。
「うーーん、ここはどこ?」
「カリンお姉ちゃん、コリンお姉ちゃんも起きたよ」
「おお本当だー。おっはー」
「???おっはー???あれ、カリン姉さんここどこ?」
「うん、実はかくかくしかじかなんだ」
「そうなのですか!?かくかくしかじかなのですね!!」
素晴らしきかな、「かくかくしかじか」の便利性。
「本当に変わってますね、普通敵を助けますか?」
「それをいわれるのは今日で三度目だな」
「だけどいいなあ、そういう情に厚い人柄あたしは好きだな」
「あ、あたしも」
「そんなの単なるお人好しってだけじゃない、まあ別に嫌いってわけじゃないけど」
「・・・よし決めた!!」
「なにを?」
「決まってんじゃん、フレイヤの姉貴にあたし達はついていくんだよ!!」
「「ええええーーーーーー!!」」
「えっ!?ついてくるの?」
「当然でしょ。姉貴は強くて優しくて、もう惚れました。一生あたしらはついていきますよ」
「あたしらってあたし達まで行くの?」
「当然。リーダーがいくところ部下がついてくる、これ自然の摂理。オーケー?」
「いや、オーケーとかじゃないし。少しはあたし達にも相談しなさいよ」
「じゃあ選択肢をやろう。それから一つ決めてくれ」
「わ、わかったわよ」
一、喜んでついてくる
二、素直についてくる
三、渋々ついてくる
四、いいからついてこい
「さあ選べ!!!」
「ついていかないという選択肢はないのか!!!!あと四つ目何よこれ!!ほとんど命令じゃない!」
「なにー聞こえんなー!!」
「このバカ姉貴がー!!!」
ギャーギャー ボカスカボカスカ
「じゃ、じゃー、一で」
ピタッ
「おおー、マリン喜んでついてきてくれるか」
「うん」
頬を赤く染めながら頷くマリン。
「さあー後はコリンだけだよ」ビシッ
「はあー拒否権はないんでしょ、それじゃ一でいいわよ」
「ふうー初めから素直になればいいのに、素直じゃないねー」
「うるさいわよ」
この風景を眺めていたフレイヤは急な展開についていけず、ただただ呆然としていた。
「とっいうわけで、これからよろしくね姉貴♪」
「まあとりあえずよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
フレイヤもかなり困っていたがまあ心強い仲間が出来たと思えばいいかと自分の心に説得し、同時にお金、大丈夫かなと心配になりながらも。
「あ、ああよろしく」
と返事をしてしまった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
一人旅のつもりがいきなり四人で旅をするとは思わなかったが、まあこれも冒険の醍醐味の一つとして受け入れるかなと、自分を納得させた。
これから先はいったいどうなることやら、だが一つ言えることはこれからは賑やかになることは間違いないということだ。
○月×日 ヴァル=フレイヤ
10/12/21 08:06更新 / ミズチェチェ
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