命喰者(ライフイーター)の死ねない恐怖 後編
「ひえええええええ!!!!!!」
「待てコラー!!!」
闘技場に響き渡る声、発しているのはもちろん闘技場でバトルをしている者たちだが・・・
「逃げるんじゃねえ!!!」
「おねがいだからもうやめてー!!!!!!」
何故かバトルせずに追いかけっこをしていた。
もちろんただの追いかけっこではなく命のやり取りをする追いかけっこなのだが、やはり緊張感に欠ける。
追いかけているのは俺は山賊だと言わんばかりの格好をした斧を振り回す男だ。
逃げているのは・・・
「やっぱりのうりょくをじゆうにあやつるだなんてむりだよー!!!!!!」
命喰者ことDFバトルの一員でもあるグリン・レーパーである。
現在彼は斧を振り回す男から必死に逃げ回っている。
なぜ彼が戦わずに逃げているのか?
単純な話が彼は戦い方も分からない一般人と同レベルだから戦えないのである。
そして戦えないのに何故ここに居るのか?
それはデルフィニアとある契約を交わしてしまったからだ。
その契約は・・・
『その能力を自由に使えるようにすれば、ここから逃げる事を許そう』
というものだからだ。
能力というのはグリンが持つ命喰者のことだ。
命喰者は自分に命の危機が迫ると自動的に発動するもので命の危機に晒した相手の命を吸い取ってしまうという能力なのだ。
普通に考えれば、どうやっても自由に使うというのは無理な話だ。
しかし、それでもこの地獄から抜けるには自分の能力を自由に使えるようにしなくてはいけない。
そのためにグリンは戦う事を決意したのだが、やはり戦闘中に素人が能力を操る術を見つけるのは困難なわけで、現在必死に逃げ回っているというわけだ。
「はあ、はあ、やっと追い詰めたぞ!」
息切れをしながら男はようやく追い詰める事に成功したと笑みを浮かべている。
「はあ、はあ、はあ、や、やめてください・・・」
追い詰められたグリンも息切れをしながら必死に懇願をする。
「ぼ、ぼくをころそうとしたら、あなたがしんでしまいます。だから・・・」
「逃げ回っていたくせにどうやってお前が俺を殺そうってんだ!あ〜ん!?」
男はグリンの言葉を遮り、持っていた斧を勢い良く振り下ろした。
「ひっ!?」
グリンは目を瞑り来るであろう衝撃に身構えていた。
しかしいつまでたってもその衝撃が来ないので恐る恐る目を開けると目の前で斧が止まっていてブルブルと震えていた。
視線をさらに上にあげると男が自分の胸を抑え、顔は青ざめて苦しそうなうめき声を出していた。
「ウッ・・・グゥゥウウウウ・・・・グワアアアアアアアア!!!!!!」
そしてうめき声が徐々に上がりついには白目を向いて、叫び声をあげ始めた。
だんだんと声は小さくなりやがて口から血を吐き出しはじめて、そのまま前のめりに倒れこんだのである。
「う、うわ!?」
グリンは自分に倒れこんでくる男を避けるために慌てて体を起こして横に避けた。
男は倒れこんだっきり何の反応も示さなくなっていた。
審判が駆け寄り状態を確認してこう告げた。
「勝者 グリン・レーパー!!!」
勝ち名乗りを受けてへたんと腰をおろすグリン。
観客は一応拍手だけはするもののやはり面白みに欠けるのか勢いはあまり無い。
グリンはしばらくした後に立ち上がり、闘技場を後にした。
−−−DFバトル闘技場控え室−−−
グリンは戻ってくるなり戦士用のベッドへとダイブした。
DFバトル戦士用のベットだけあってとてもふかふかしている。
そのふかふか差加減にどんどん全身の力が抜けていく。
「・・・・・・いきてるんだな、ぼくは」
グリンは無意識にそんな事を発していた。
「ぼくの・・・のうりょくか・・・・・・どうすればいいのかな?」
そんな自問自答のようなことをつぶやいていると。
「何をなやんでおるんじゃ?」
「うわ!?」
「急に大きな声をあげるでない!おどろくじゃろうが!」
そういうと声の主はポカリと頭を小突く。
イテテと頭をさすりながら声の主を見てみるとそこには可愛らしい幼女の顔があった。
「えっ?こども?」
「むっ!ワシは子供ではない!ミレーヌという立派な名前があるバフォメットじゃ!」
「・・・えっと、そのみれーぬさんがなんでここにいるんですか?」
グリンがもっともな疑問を口にする。
「そうじゃな、理由としてはお主のことが心配じゃったからじゃな。戦う力も無いのに無理やりここで戦っておるんじゃろう?お主の精神状態が無事かどうかも確かめたくてな」
「でも、なんで?みずしらずのぼくのために」
「まったく見ず知らずというわけではないぞ、お主デルフィニアに拉致されてきたのじゃろう?」
「!?・・・はい」
デルフィニアという名に一瞬ビクッと反応を示すグリン。
「そう怖がるでないといっても無理な話かの、いきなりこんな戦闘狂ばかりがそろう場所に拉致されてはな、あやつはワシの親友でもあってのぉー残酷な性格ではあるのじゃが、それでも筋の通らないことや無闇に他人を傷つけるような奴では無いのじゃ。まあバトルクラブなんぞ開いている戦闘狂でもあるのじゃがな・・・・・・今回お主を拉致したのも何か理由があるはずなんじゃよ」
だから代わりに謝りにもきたのじゃよとミレーヌはニシシと笑みを浮かべながら話していた。
グリンは正直に信じられないと心の中で思っていたが・・・
たしかによく考えてみると、思い当たることがたくさんある。
もしも拉致されなければ自分はどうなっていたのか?
親には近寄らないでとまるで化け物を見るかのような目で見られていたし、恐らくは村を追い出されていたはずだ。
その辺りで野たれ死んでいたかもしれないし、デルフィニアの言うとおり教団に捕まり利用されていたかもしれない。
グリンが答えを出そうと悩んでいると。
「どうやら思い当たる事はあるようじゃな、あやつのやる事全てが正しいとは思わんがそれでもやはり拉致したのには何か理由があるはずじゃ、だから頑張るのじゃ」
「・・・はい」
「ところで話は変わるんじゃが、さっきは何を悩んでいたのじゃ?」
「じつは・・・」
グリンはデルフィニアとの契約についてを話した。
「なるほどのぉー、能力を自由に操る事がここから逃げ出す条件なんじゃな」
「はい、そうです」
「しかしあやつも無茶な注文をするものじゃ」
「むちゃですか?」
「うむ、かなり無茶じゃなそもそも発動条件が限定されているものを自分の意思で操るには凄まじい精神力が必要なのじゃ」
「せいしんりょくですか?」
「うむ、それこそ自分の中に住まうその能力と会話が出来るくらいの精神力でないと話にもなるまい」
「そうですか・・・」
「なんじゃったら少し試して見るか?」
「ためす?」
「うむ、ワシの魔法でお主には深く寝てもらい深層心理まで深く潜ってもらうんじゃ、うまくいけば能力を操るきっかけが出来るかもしれんからの」
「それに、きけんはないんですか?」
「正直わからんのじゃ、場合によってはかなり危険かもしれん」
グリンは危険という発言に頭を悩ませた。
自分の命を天秤にかけてまでやる事なのかと?
考えるまでも無いか。
「おねがいします。そのまほうをぼくにかけてください」
「良いのか?提案しておいてなんじゃが安全は保障できんぞ」
「どのみちあやつれるようにならなきゃどうしようもないですから」
グリンの表情に迷いは無かった。
「・・・うむ、良い表情じゃ。その覚悟があれば例え危険が迫っても跳ね返せるじゃろう」
そう言うとミレーヌは距離を取って両手を前に出して魔法の詠唱を始めた。
『眠りをつかさどりし精霊よ、眠りの霧をを用いてこの者に深い眠りを与えたまえ、スリープ・ミスト!』
魔法を唱えるのと同時にグリンのまわりに薄い霧が出始めた。
霧に包まれたグリンは段々と目蓋が落ちてそのまま深い眠りについた。
「まず第一段階は成功じゃ、さてここからがワシの腕の見せ所じゃ」
続けてミレーヌは別の魔法の詠唱を始めた。
その魔法は夢を操るための魔法で難易度は眠り系の魔法の中で最上級に位置しているものだ。
しかし、ミレーヌは難なく詠唱を終えてグリンの夢の操作を始めた。
「ワシが干渉してやれるのはあくまでお主を心の奥深くまで送る事だけじゃ、そこから先は自分で何とかするのじゃぞ」
そんなことを聞こえているはずの無いグリンに向けて喋っていた。
−−−????−−−
「んんん、はっ!?ここは?」
グリンが体を起こすとそこはさっきまで居た部屋ではなくいつのまにか外に寝ていたのだ。
「なんで、そとでねてるんだ?それに・・・なんでいろがないんだ?」
そうグリンが言うとおりなぜかまわりの景色が白黒でまったくといっていいほど色が無いのだ。
外にいるはずなのに風も感じられない、まるで時が止まってしまったかのような空間、そこにグリンは居るのだ。
「・・・もしかしてここがぼくの『こころのなか』なのかな?」
『ソウダヨ』
突如後ろから声が聞こえてきたので慌てて後ろを向くグリン。
「!?・・・なんで・・・ぼくがいるの?」
驚くのも無理は無い、振り向いた先に居たのは白黒になったグリンだったのだから。
『アタリマエダロウ、オレハモウヒトリノオマエダカラナ』
「もうひとりのぼく?」
『ソウダ、オマエハイマ、シニソウニナルトアルノウリョクガハツドウスルダロウ」
「ま、まさか・・・」
『サッシガイイナ、ソウオマエノノウリョク【ライフイーター】ハ、オレガハツドウダセテイルンダ」
「きみがはつどうさせていたんだね、でもなんでぼくのすがたをしているんだ」
『オマエアノトキノコトヲオボエテイルカ?』
「あのとき?」
『オマエガハジメテコロサレソウニナッタトキノコトダ」
「うん、おぼえてる」
『アノトキノオマエノココロハコウサケンデイタ。【シニタクナイ】ッテナ、ソノツヨイオモイガオレヲウミダシタンダ』
「おもいが?」
『ソウダ、ソノツヨイオモイトドウジニ、オマエノナカニアッタキョウリョクナマリョクトヒキカエニオレハウマレタ。オマエジシンヲマモルタメニ』
「まりょくって、ぼくはのうかのむすこだよ?なんでそんなきょうりょくなまりょくがあるの?」
『ソンナモノオレガシルワケナイダロウ。オレハオマエトイッシンドウタイナンダカラナ、オマエガシラネエコトハオレダッテシラネエヨ。マアソレデモオレダケシカシラネエコトモアルケドナ』
「きみだけしかしらないこと?それってなに?」
『ノウリョクダヨノウリョク。【ライフイーター】ハイマオレダケシカツカエナインダゼ、コレハオレダケガシッテイルコトダロウ』
「たしかに・・・おねがいだもうひとりのぼく、そののうりょくのつかいかたをぼくにおしえてくれ」
グリンは希望の光が見えたと確信して、教えてもらおうと頭をさげた。
『イヤナコッタ』
しかしその希望はもう一人のグリンの一言であっという間に一蹴された。
「どうして!?いいじゃないかおしえてくれても!」
『・・・オレハアクマデオマエノイノチノキキニダケハツドウスル、イワバホケンミタイナモノナンダ、オマエガアヤツリカタヲオボエテ、ダレカレカマワズニヒトノイノチヲウバワナイトイウホショウハドコニアルンダ?』
「そんなことはしない!ぼくはただじゆうをてにしたいだけなんだ!それいがいのためにつかうなんてぜったいしないよ!」
『シンジラレナイナ、ニンゲンッテヤツハアッサリトココロガワリスルモノダ、オマエダッテシッテイルハズダ、オヤデサエオレタチヲミステタンダゼ』
「!?」
その一言にグリンは黙り込んでしまう。
たしかにもう一人のグリンが言うとおりグリンは親に見捨てられていた。
デルフィニアが目の前でさらっていったというのにあの時の親の表情は安堵の表情を浮かべていた。
『モウヨウハナイダロウ?ダッタラサッサトカエンナ。ココデノセイカツモワルクナイトオモイハジメテルンダロウ?』
「・・・・・・いやだ」
『ナニ?』
「いやだ!かえらない!それでもやっぱりぼくはじゆうがほしいんだ!おねがいだじゆうになるためにもぼくにのうりょくのあやつりかたをおしえてくれ!もしそののうりょくでぼくがひとをむさくいにころしはじめたらそのときはぼくのいのちをきみにあげるだから!」
グリンは地面に手を付いて頭を下げた。
『ホンキカ?』
「もちろん!」
グリンは目をそらさずにもう一人のグリンの目を見続けた。
『・・・・・・フー、ワカッタヨオシエテヤルヨアヤツルホウホウヲ』
「ほんとう!?」
『ノウリョクヲジザイニアヤツルホウホウハオレヲコロスコトダ』
「・・・・・・えっ、きみを・・・ころす・・・」
『アタリマエダロウ、オレジシンガ【ライフイーター】ナンダカラナ、ジブンノノウリョクトシテツカイタインナラオレヲコロスシカネエ。オレヲコロセバノウリョクヲオマエノイシデジユウニアツカエルヨウニナルハズダ』
「で、でも」
『オレヲコロスイシモミセラレナイッテイウンナラ、ハナッカラコノノウリョクヲツカウシカクハネエゾ。サアドウスル、オレヲコロスカ、アキラメテカエルカ、スキナホウヲエラビナ』
グリンはかつて無いほどの究極の選択を迫られていた。
能力を得るにはもう一人の自分を殺さらなければならず、殺す事を拒否すればこのまま帰らなければいけない、一生をこの地獄で生きていかなければならないのだ。
「ぼくは・・・ぼくは・・・」
『サアドウスル、ドッチヲエラブ、ノウリョクカ、ジゴクカ』
しばらくの間沈黙が続きグリンは顔を上げて答えを出した。
「ぼくはどっちもいやだ!」
これがグリンの答えだった。
『ドッチモイヤダッテ・・・ソレジャアナンノカイケツニモナラナイゾ』
「だってきみをころして、じゆうをてにしたとしてもそれはほんとうのじゆうじゃないとおもうんだ。きみもぶじで、なおかつのうりょくをえられるほうほうをいっしょにかんがえようよ、おなじぼくなんだから」
もう一人のグリンはぽかんとした顔をしていたがやがてフッと笑いこういった。
『オマエ・・・・・・フッ、ヤッパバカダナオマエハ」
「えっ?」
『コノジョウキョウデダイサンノセンタクヲツクルトハナ、オレノソウゾウヲコエタオヒトヨシダヨオマエハ、オナジオレノハズナノニカンガエテルコトガチガウッテイウノモフシギナハナシダナ』
話し終えるともう一人のグリンは掌を上に向けて目を閉じた。すると掌の上にナイフが音も無く現れたのだ。
『マアソンダケオヒトヨシナラベツニコノノウリョクヲテワタシテモダイジョウブダロウ』
「えっ?そのないふで、なにをするの」
『・・・コウスルノサ』
グサッ!!!!!
もう一人のグリンはナイフを振り上げて、自分の胸に突き刺したのだ。
「えっ・・・」
グリンの目の前でゆっくりと倒れこむもう一人のグリン。
「な、なんで」
『コ、コウデモ、シナイト、オマエニ、ノウリョクヲ、ワタセナイ、ダロウ』
「だ、だからって!」
『ナ、ナクナヨ、モウヒトリノ、オレ・・・イインダ、ホントウニ、コノホウホウ、デシカ、ワタセナイ、ダカラナ』
「でもやっぱりおかしいよ、なんできみがきずつかなくちゃならないんだ!」
『フッ・・・ヤッパリ、オマエハ、ヤサシイナ・・・ソノヤサシサ、ワス、レ、ル、ナ・・・・・・』
「ねえ、もうひとりのぼく、ねえってば、へんじをしてよ!めをあけてよ!ねえもうひとりのぼく!!!」
グリンは何度ももう一人の自分に向かって声を掛けてゆすり続けた。
しかしどうやってももう一人のグリンの目が開く事は無かった。
次第にもう一人のグリンの体は霧散をはじめ、空へと消えていったのだ。
「う、う、うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
グリンは初めて自分の行動を呪った。
なぜ自分はここに来てしまったのか、ここに来なければもう一人の自分を殺すことも無かったんじゃないのかと、心のそこから呪った。
−−−DFバトル闘技場控え室−−−
「おい!しっかりするんじゃ!いったいなにがあったのじゃ!?」
ミレーヌが必死にグリンを起こそうと躍起になっていた。
原因は眠っていたはずのグリンが突如涙を流し始めたからだ。
心の中で何かが起こったに違いないと確信したミレーヌは先ほどから声を掛け続けているのだ。
その声掛けが届いたのかグリンは静かに目を開いた。
「ミレーヌさん・・・」
「おお、気が付きおったかとりあえずは安心なのじゃ」
ミレーヌは安堵のため息をついて、先ほどから気になっている事聞いた。
「先ほどお主は涙を流していたのじゃが、心の中で何かあったのかの?」
「・・・・・・実は」
グリンは心の中で起こったことを全て話した。
「なるほどのぉ。もう一人の自分か・・・それが涙を流したわけか」
「はい」
「それは辛かったじゃろう、じゃが・・・割り切るしかあるまい例えどんなに辛くとも死んだものは生き返らんのじゃ、それも魂に近いものはなおさらじゃ」
「はい」
「そういえばお主喋り方がずいぶんと良くなったようじゃな」
「・・・そうですか?」
「うむ、寝る前はどこか精神が不安定だったせいなのか喋り方がぎこちなかったのじゃが、今はずいぶんと安定しておるわ。恐らくはもう一人のお主が死んだ事で精神と魔力が体内に戻り安定したのじゃろう」
「ということは・・・」
「うむ、意思は無いかも知れぬがお主の中にそやつはおるのじゃろう」
「僕のなかにもう一人の僕が・・・」
「その命大事に使わなければいかんのう」
「はい!!!」
「さて今からデルフィニアに報告にでもいくか?」
「いいえ、まだ報告はしません」
「なぜじゃ?能力が使えるようになったのじゃろう?だったら報告してすぐにでも自由の身になるべきじゃ」
「今のままじゃたぶんダメです」
「なぜじゃ?」
「僕にはまだ人を殺す覚悟が足りていない、命喰者の能力を自由に扱うという事は人の命を自由に奪う事ができるのと同じ事なんです。僕はこの能力を完璧に使いこなせるようにならなきゃいけません。無闇に人の命を奪わないためにも、それがもう一人僕と交わした約束だから」
「そうか・・・ならば頑張るが良い」
「はい!!!」
僕は命喰者の能力を手に入れた。
今後その能力を使う責任を僕は背負わなければならない。
できる事ならこの能力を使わないようにするほどの強さがほしい。
僕が強ければ能力を使わずとも相手を追い払う事も出来るはずだ。
そのためにも今ここを抜け出すわけには行かない。
それがもう一人の僕と決めた約束だから。
後に彼は命を司る戦士として名を馳せることとなるがそれはまだまだ先の話のことである。
ここはとある地下にある闘技場。
己のすべてをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。
次なる挑戦者はいったい誰か。
TO BE CONTINUE
「待てコラー!!!」
闘技場に響き渡る声、発しているのはもちろん闘技場でバトルをしている者たちだが・・・
「逃げるんじゃねえ!!!」
「おねがいだからもうやめてー!!!!!!」
何故かバトルせずに追いかけっこをしていた。
もちろんただの追いかけっこではなく命のやり取りをする追いかけっこなのだが、やはり緊張感に欠ける。
追いかけているのは俺は山賊だと言わんばかりの格好をした斧を振り回す男だ。
逃げているのは・・・
「やっぱりのうりょくをじゆうにあやつるだなんてむりだよー!!!!!!」
命喰者ことDFバトルの一員でもあるグリン・レーパーである。
現在彼は斧を振り回す男から必死に逃げ回っている。
なぜ彼が戦わずに逃げているのか?
単純な話が彼は戦い方も分からない一般人と同レベルだから戦えないのである。
そして戦えないのに何故ここに居るのか?
それはデルフィニアとある契約を交わしてしまったからだ。
その契約は・・・
『その能力を自由に使えるようにすれば、ここから逃げる事を許そう』
というものだからだ。
能力というのはグリンが持つ命喰者のことだ。
命喰者は自分に命の危機が迫ると自動的に発動するもので命の危機に晒した相手の命を吸い取ってしまうという能力なのだ。
普通に考えれば、どうやっても自由に使うというのは無理な話だ。
しかし、それでもこの地獄から抜けるには自分の能力を自由に使えるようにしなくてはいけない。
そのためにグリンは戦う事を決意したのだが、やはり戦闘中に素人が能力を操る術を見つけるのは困難なわけで、現在必死に逃げ回っているというわけだ。
「はあ、はあ、やっと追い詰めたぞ!」
息切れをしながら男はようやく追い詰める事に成功したと笑みを浮かべている。
「はあ、はあ、はあ、や、やめてください・・・」
追い詰められたグリンも息切れをしながら必死に懇願をする。
「ぼ、ぼくをころそうとしたら、あなたがしんでしまいます。だから・・・」
「逃げ回っていたくせにどうやってお前が俺を殺そうってんだ!あ〜ん!?」
男はグリンの言葉を遮り、持っていた斧を勢い良く振り下ろした。
「ひっ!?」
グリンは目を瞑り来るであろう衝撃に身構えていた。
しかしいつまでたってもその衝撃が来ないので恐る恐る目を開けると目の前で斧が止まっていてブルブルと震えていた。
視線をさらに上にあげると男が自分の胸を抑え、顔は青ざめて苦しそうなうめき声を出していた。
「ウッ・・・グゥゥウウウウ・・・・グワアアアアアアアア!!!!!!」
そしてうめき声が徐々に上がりついには白目を向いて、叫び声をあげ始めた。
だんだんと声は小さくなりやがて口から血を吐き出しはじめて、そのまま前のめりに倒れこんだのである。
「う、うわ!?」
グリンは自分に倒れこんでくる男を避けるために慌てて体を起こして横に避けた。
男は倒れこんだっきり何の反応も示さなくなっていた。
審判が駆け寄り状態を確認してこう告げた。
「勝者 グリン・レーパー!!!」
勝ち名乗りを受けてへたんと腰をおろすグリン。
観客は一応拍手だけはするもののやはり面白みに欠けるのか勢いはあまり無い。
グリンはしばらくした後に立ち上がり、闘技場を後にした。
−−−DFバトル闘技場控え室−−−
グリンは戻ってくるなり戦士用のベッドへとダイブした。
DFバトル戦士用のベットだけあってとてもふかふかしている。
そのふかふか差加減にどんどん全身の力が抜けていく。
「・・・・・・いきてるんだな、ぼくは」
グリンは無意識にそんな事を発していた。
「ぼくの・・・のうりょくか・・・・・・どうすればいいのかな?」
そんな自問自答のようなことをつぶやいていると。
「何をなやんでおるんじゃ?」
「うわ!?」
「急に大きな声をあげるでない!おどろくじゃろうが!」
そういうと声の主はポカリと頭を小突く。
イテテと頭をさすりながら声の主を見てみるとそこには可愛らしい幼女の顔があった。
「えっ?こども?」
「むっ!ワシは子供ではない!ミレーヌという立派な名前があるバフォメットじゃ!」
「・・・えっと、そのみれーぬさんがなんでここにいるんですか?」
グリンがもっともな疑問を口にする。
「そうじゃな、理由としてはお主のことが心配じゃったからじゃな。戦う力も無いのに無理やりここで戦っておるんじゃろう?お主の精神状態が無事かどうかも確かめたくてな」
「でも、なんで?みずしらずのぼくのために」
「まったく見ず知らずというわけではないぞ、お主デルフィニアに拉致されてきたのじゃろう?」
「!?・・・はい」
デルフィニアという名に一瞬ビクッと反応を示すグリン。
「そう怖がるでないといっても無理な話かの、いきなりこんな戦闘狂ばかりがそろう場所に拉致されてはな、あやつはワシの親友でもあってのぉー残酷な性格ではあるのじゃが、それでも筋の通らないことや無闇に他人を傷つけるような奴では無いのじゃ。まあバトルクラブなんぞ開いている戦闘狂でもあるのじゃがな・・・・・・今回お主を拉致したのも何か理由があるはずなんじゃよ」
だから代わりに謝りにもきたのじゃよとミレーヌはニシシと笑みを浮かべながら話していた。
グリンは正直に信じられないと心の中で思っていたが・・・
たしかによく考えてみると、思い当たることがたくさんある。
もしも拉致されなければ自分はどうなっていたのか?
親には近寄らないでとまるで化け物を見るかのような目で見られていたし、恐らくは村を追い出されていたはずだ。
その辺りで野たれ死んでいたかもしれないし、デルフィニアの言うとおり教団に捕まり利用されていたかもしれない。
グリンが答えを出そうと悩んでいると。
「どうやら思い当たる事はあるようじゃな、あやつのやる事全てが正しいとは思わんがそれでもやはり拉致したのには何か理由があるはずじゃ、だから頑張るのじゃ」
「・・・はい」
「ところで話は変わるんじゃが、さっきは何を悩んでいたのじゃ?」
「じつは・・・」
グリンはデルフィニアとの契約についてを話した。
「なるほどのぉー、能力を自由に操る事がここから逃げ出す条件なんじゃな」
「はい、そうです」
「しかしあやつも無茶な注文をするものじゃ」
「むちゃですか?」
「うむ、かなり無茶じゃなそもそも発動条件が限定されているものを自分の意思で操るには凄まじい精神力が必要なのじゃ」
「せいしんりょくですか?」
「うむ、それこそ自分の中に住まうその能力と会話が出来るくらいの精神力でないと話にもなるまい」
「そうですか・・・」
「なんじゃったら少し試して見るか?」
「ためす?」
「うむ、ワシの魔法でお主には深く寝てもらい深層心理まで深く潜ってもらうんじゃ、うまくいけば能力を操るきっかけが出来るかもしれんからの」
「それに、きけんはないんですか?」
「正直わからんのじゃ、場合によってはかなり危険かもしれん」
グリンは危険という発言に頭を悩ませた。
自分の命を天秤にかけてまでやる事なのかと?
考えるまでも無いか。
「おねがいします。そのまほうをぼくにかけてください」
「良いのか?提案しておいてなんじゃが安全は保障できんぞ」
「どのみちあやつれるようにならなきゃどうしようもないですから」
グリンの表情に迷いは無かった。
「・・・うむ、良い表情じゃ。その覚悟があれば例え危険が迫っても跳ね返せるじゃろう」
そう言うとミレーヌは距離を取って両手を前に出して魔法の詠唱を始めた。
『眠りをつかさどりし精霊よ、眠りの霧をを用いてこの者に深い眠りを与えたまえ、スリープ・ミスト!』
魔法を唱えるのと同時にグリンのまわりに薄い霧が出始めた。
霧に包まれたグリンは段々と目蓋が落ちてそのまま深い眠りについた。
「まず第一段階は成功じゃ、さてここからがワシの腕の見せ所じゃ」
続けてミレーヌは別の魔法の詠唱を始めた。
その魔法は夢を操るための魔法で難易度は眠り系の魔法の中で最上級に位置しているものだ。
しかし、ミレーヌは難なく詠唱を終えてグリンの夢の操作を始めた。
「ワシが干渉してやれるのはあくまでお主を心の奥深くまで送る事だけじゃ、そこから先は自分で何とかするのじゃぞ」
そんなことを聞こえているはずの無いグリンに向けて喋っていた。
−−−????−−−
「んんん、はっ!?ここは?」
グリンが体を起こすとそこはさっきまで居た部屋ではなくいつのまにか外に寝ていたのだ。
「なんで、そとでねてるんだ?それに・・・なんでいろがないんだ?」
そうグリンが言うとおりなぜかまわりの景色が白黒でまったくといっていいほど色が無いのだ。
外にいるはずなのに風も感じられない、まるで時が止まってしまったかのような空間、そこにグリンは居るのだ。
「・・・もしかしてここがぼくの『こころのなか』なのかな?」
『ソウダヨ』
突如後ろから声が聞こえてきたので慌てて後ろを向くグリン。
「!?・・・なんで・・・ぼくがいるの?」
驚くのも無理は無い、振り向いた先に居たのは白黒になったグリンだったのだから。
『アタリマエダロウ、オレハモウヒトリノオマエダカラナ』
「もうひとりのぼく?」
『ソウダ、オマエハイマ、シニソウニナルトアルノウリョクガハツドウスルダロウ」
「ま、まさか・・・」
『サッシガイイナ、ソウオマエノノウリョク【ライフイーター】ハ、オレガハツドウダセテイルンダ」
「きみがはつどうさせていたんだね、でもなんでぼくのすがたをしているんだ」
『オマエアノトキノコトヲオボエテイルカ?』
「あのとき?」
『オマエガハジメテコロサレソウニナッタトキノコトダ」
「うん、おぼえてる」
『アノトキノオマエノココロハコウサケンデイタ。【シニタクナイ】ッテナ、ソノツヨイオモイガオレヲウミダシタンダ』
「おもいが?」
『ソウダ、ソノツヨイオモイトドウジニ、オマエノナカニアッタキョウリョクナマリョクトヒキカエニオレハウマレタ。オマエジシンヲマモルタメニ』
「まりょくって、ぼくはのうかのむすこだよ?なんでそんなきょうりょくなまりょくがあるの?」
『ソンナモノオレガシルワケナイダロウ。オレハオマエトイッシンドウタイナンダカラナ、オマエガシラネエコトハオレダッテシラネエヨ。マアソレデモオレダケシカシラネエコトモアルケドナ』
「きみだけしかしらないこと?それってなに?」
『ノウリョクダヨノウリョク。【ライフイーター】ハイマオレダケシカツカエナインダゼ、コレハオレダケガシッテイルコトダロウ』
「たしかに・・・おねがいだもうひとりのぼく、そののうりょくのつかいかたをぼくにおしえてくれ」
グリンは希望の光が見えたと確信して、教えてもらおうと頭をさげた。
『イヤナコッタ』
しかしその希望はもう一人のグリンの一言であっという間に一蹴された。
「どうして!?いいじゃないかおしえてくれても!」
『・・・オレハアクマデオマエノイノチノキキニダケハツドウスル、イワバホケンミタイナモノナンダ、オマエガアヤツリカタヲオボエテ、ダレカレカマワズニヒトノイノチヲウバワナイトイウホショウハドコニアルンダ?』
「そんなことはしない!ぼくはただじゆうをてにしたいだけなんだ!それいがいのためにつかうなんてぜったいしないよ!」
『シンジラレナイナ、ニンゲンッテヤツハアッサリトココロガワリスルモノダ、オマエダッテシッテイルハズダ、オヤデサエオレタチヲミステタンダゼ』
「!?」
その一言にグリンは黙り込んでしまう。
たしかにもう一人のグリンが言うとおりグリンは親に見捨てられていた。
デルフィニアが目の前でさらっていったというのにあの時の親の表情は安堵の表情を浮かべていた。
『モウヨウハナイダロウ?ダッタラサッサトカエンナ。ココデノセイカツモワルクナイトオモイハジメテルンダロウ?』
「・・・・・・いやだ」
『ナニ?』
「いやだ!かえらない!それでもやっぱりぼくはじゆうがほしいんだ!おねがいだじゆうになるためにもぼくにのうりょくのあやつりかたをおしえてくれ!もしそののうりょくでぼくがひとをむさくいにころしはじめたらそのときはぼくのいのちをきみにあげるだから!」
グリンは地面に手を付いて頭を下げた。
『ホンキカ?』
「もちろん!」
グリンは目をそらさずにもう一人のグリンの目を見続けた。
『・・・・・・フー、ワカッタヨオシエテヤルヨアヤツルホウホウヲ』
「ほんとう!?」
『ノウリョクヲジザイニアヤツルホウホウハオレヲコロスコトダ』
「・・・・・・えっ、きみを・・・ころす・・・」
『アタリマエダロウ、オレジシンガ【ライフイーター】ナンダカラナ、ジブンノノウリョクトシテツカイタインナラオレヲコロスシカネエ。オレヲコロセバノウリョクヲオマエノイシデジユウニアツカエルヨウニナルハズダ』
「で、でも」
『オレヲコロスイシモミセラレナイッテイウンナラ、ハナッカラコノノウリョクヲツカウシカクハネエゾ。サアドウスル、オレヲコロスカ、アキラメテカエルカ、スキナホウヲエラビナ』
グリンはかつて無いほどの究極の選択を迫られていた。
能力を得るにはもう一人の自分を殺さらなければならず、殺す事を拒否すればこのまま帰らなければいけない、一生をこの地獄で生きていかなければならないのだ。
「ぼくは・・・ぼくは・・・」
『サアドウスル、ドッチヲエラブ、ノウリョクカ、ジゴクカ』
しばらくの間沈黙が続きグリンは顔を上げて答えを出した。
「ぼくはどっちもいやだ!」
これがグリンの答えだった。
『ドッチモイヤダッテ・・・ソレジャアナンノカイケツニモナラナイゾ』
「だってきみをころして、じゆうをてにしたとしてもそれはほんとうのじゆうじゃないとおもうんだ。きみもぶじで、なおかつのうりょくをえられるほうほうをいっしょにかんがえようよ、おなじぼくなんだから」
もう一人のグリンはぽかんとした顔をしていたがやがてフッと笑いこういった。
『オマエ・・・・・・フッ、ヤッパバカダナオマエハ」
「えっ?」
『コノジョウキョウデダイサンノセンタクヲツクルトハナ、オレノソウゾウヲコエタオヒトヨシダヨオマエハ、オナジオレノハズナノニカンガエテルコトガチガウッテイウノモフシギナハナシダナ』
話し終えるともう一人のグリンは掌を上に向けて目を閉じた。すると掌の上にナイフが音も無く現れたのだ。
『マアソンダケオヒトヨシナラベツニコノノウリョクヲテワタシテモダイジョウブダロウ』
「えっ?そのないふで、なにをするの」
『・・・コウスルノサ』
グサッ!!!!!
もう一人のグリンはナイフを振り上げて、自分の胸に突き刺したのだ。
「えっ・・・」
グリンの目の前でゆっくりと倒れこむもう一人のグリン。
「な、なんで」
『コ、コウデモ、シナイト、オマエニ、ノウリョクヲ、ワタセナイ、ダロウ』
「だ、だからって!」
『ナ、ナクナヨ、モウヒトリノ、オレ・・・イインダ、ホントウニ、コノホウホウ、デシカ、ワタセナイ、ダカラナ』
「でもやっぱりおかしいよ、なんできみがきずつかなくちゃならないんだ!」
『フッ・・・ヤッパリ、オマエハ、ヤサシイナ・・・ソノヤサシサ、ワス、レ、ル、ナ・・・・・・』
「ねえ、もうひとりのぼく、ねえってば、へんじをしてよ!めをあけてよ!ねえもうひとりのぼく!!!」
グリンは何度ももう一人の自分に向かって声を掛けてゆすり続けた。
しかしどうやってももう一人のグリンの目が開く事は無かった。
次第にもう一人のグリンの体は霧散をはじめ、空へと消えていったのだ。
「う、う、うわあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
グリンは初めて自分の行動を呪った。
なぜ自分はここに来てしまったのか、ここに来なければもう一人の自分を殺すことも無かったんじゃないのかと、心のそこから呪った。
−−−DFバトル闘技場控え室−−−
「おい!しっかりするんじゃ!いったいなにがあったのじゃ!?」
ミレーヌが必死にグリンを起こそうと躍起になっていた。
原因は眠っていたはずのグリンが突如涙を流し始めたからだ。
心の中で何かが起こったに違いないと確信したミレーヌは先ほどから声を掛け続けているのだ。
その声掛けが届いたのかグリンは静かに目を開いた。
「ミレーヌさん・・・」
「おお、気が付きおったかとりあえずは安心なのじゃ」
ミレーヌは安堵のため息をついて、先ほどから気になっている事聞いた。
「先ほどお主は涙を流していたのじゃが、心の中で何かあったのかの?」
「・・・・・・実は」
グリンは心の中で起こったことを全て話した。
「なるほどのぉ。もう一人の自分か・・・それが涙を流したわけか」
「はい」
「それは辛かったじゃろう、じゃが・・・割り切るしかあるまい例えどんなに辛くとも死んだものは生き返らんのじゃ、それも魂に近いものはなおさらじゃ」
「はい」
「そういえばお主喋り方がずいぶんと良くなったようじゃな」
「・・・そうですか?」
「うむ、寝る前はどこか精神が不安定だったせいなのか喋り方がぎこちなかったのじゃが、今はずいぶんと安定しておるわ。恐らくはもう一人のお主が死んだ事で精神と魔力が体内に戻り安定したのじゃろう」
「ということは・・・」
「うむ、意思は無いかも知れぬがお主の中にそやつはおるのじゃろう」
「僕のなかにもう一人の僕が・・・」
「その命大事に使わなければいかんのう」
「はい!!!」
「さて今からデルフィニアに報告にでもいくか?」
「いいえ、まだ報告はしません」
「なぜじゃ?能力が使えるようになったのじゃろう?だったら報告してすぐにでも自由の身になるべきじゃ」
「今のままじゃたぶんダメです」
「なぜじゃ?」
「僕にはまだ人を殺す覚悟が足りていない、命喰者の能力を自由に扱うという事は人の命を自由に奪う事ができるのと同じ事なんです。僕はこの能力を完璧に使いこなせるようにならなきゃいけません。無闇に人の命を奪わないためにも、それがもう一人僕と交わした約束だから」
「そうか・・・ならば頑張るが良い」
「はい!!!」
僕は命喰者の能力を手に入れた。
今後その能力を使う責任を僕は背負わなければならない。
できる事ならこの能力を使わないようにするほどの強さがほしい。
僕が強ければ能力を使わずとも相手を追い払う事も出来るはずだ。
そのためにも今ここを抜け出すわけには行かない。
それがもう一人の僕と決めた約束だから。
後に彼は命を司る戦士として名を馳せることとなるがそれはまだまだ先の話のことである。
ここはとある地下にある闘技場。
己のすべてをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。
次なる挑戦者はいったい誰か。
TO BE CONTINUE
11/09/13 02:54更新 / ミズチェチェ
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