命喰者(ライフイーター)の死ねない恐怖 前編
今回はバトルというよりはある一人の少年の悲惨な決して救われる事の無いストーリーを重視したバトル物です。
なので特定の対戦者は出てきません。(所謂雑魚キャラしか出てこないというかバトルすらちゃんとしたものが無いです)
その事を理解した上でお読みください。
ではどうぞ。
−−−DFバトル闘技場控え室−−−
一人の少年が椅子に座り、ひざを抱えて震えていた。
少年はまるで呪詛でもつぶやくかのようにこの言葉を繰り返していた。
『死にたくない・・・もう嫌だ・・・誰か助けてよ』
この言葉を聞けば分かるように少年は戦いが得意なわけではない、むしろこれまでの人生において戦いとは無縁の生活を送っていた。
少年は毎日農具を手に地面と格闘を続ける農民だった。
そうあの事件が起きて、あの美しくも残酷なドラゴンに拉致されるまでは・・・。
コンコン
「!!!」
控え室の扉がノックされる。
その音にビクッと過剰な反応を見せる少年。
ガチャリという音をたてて、ある人物が入ってきた。
「あ・・・」
「やあグリン・レーパー、調子はどうだね」
入ってきたのはこの少年をさらった張本人ことバトルクラブの主のデルフィニアである。
少年はデルフィニアが現れた事によりいっそう震えを増し、目には恐怖の色でいっぱいになっていた。
「ふっ、そこまで怖がられると少々良心が痛むではないか、怖がらないで欲しいな」
「な、なに・・・いってる、んですか・・・こんなめに、あっているのは・・・だれの・・・せいだと・・・」
「たしかにこのような目にあわせているのは我に違いないが・・・そもそもの原因は貴様にもあるのだがな、『命喰者(ライフイーター)』」
デルフィニアの言葉にまたもビクッと脅えるグリン。
「理不尽な話だが、貴様の能力は我の目から見れば面白い玩具にしか見えないのだよ、恨むならそのような能力を開放させてしまった己を恨むが良い」
「・・・・・・」
デルフィニアの言葉にグリンはさらに涙目になり、悔しさに握りこぶしを作りさらに震えるのだった。
「だが、そこまで我の元から逃げ出したいのならば契約をしないか?」
「・・・けいやく?」
「そうだ」
「・・・どうすれば・・・いいんですか」
「簡単な話だ。その能力を自由に使えるようにすればいい」
「!?・・・そ、そんな、むちゃくちゃな」
「無茶苦茶ではないぞ、貴様はすでに有名人だ。今表に出て行けば、危険人物として追われ続けるか、教団の連中に捕まりいいように利用されるのが関の山だ、ならば自分の能力をコントロールできた方が都合が良いとは思わないか?
むしろこれはチャンスだぞ、貴様が生き抜くための力を手にする事が出来る上にこの地獄からも開放される、良いこと尽くめではないか」
たしかに良いこと尽くめかもしれないが、グリンの持つ命喰者は発動条件が限定されている。
それは、自分が死に掛けた時だけそれも本人の意思と関係なくに発動してしまうのだ。
能力は相手の魂を吸い取り、自分の寿命にしてしまうこと。
結果として自分が死ぬことなく相手を殺す事はできるが、それでも一般人程度の力しかないグリンにとっては毎回寿命を磨り減らして戦わなければならないから溜まったものではない。
戦士でもないグリンにとってこの契約はまさに最悪といってもいいものだった。
万に一つ、億に一つの可能性でしかないのだ。これを最悪といわずしてなんというのか?
グリンは絶望の表情を浮かべ黙り込んでしまう。
「まあすぐに返事をよこせとは言わないさ、気が向いたらいつでも私の部屋に来たまえ」
そういうとデルフィニアは控え室を後にした。
「・・・・・・」
再びグリンはひざを抱えて震えだすのであった。
−−−−−−−−−−
「盗み聞きか、ミレーヌ?」
「盗み聞きとは人聞きが悪いのじゃ、偶然おぬしの姿を見かけたので後を追いかけてきたらお主の会話が聞こえただけじゃよ」
「それを世間は盗み聞きというのだが」
「・・・こほん、それはともかく聞きたいことがあったのじゃが良いかの?」
「・・・ここで話すのはちょっと悪い、我の部屋で話そう」
「いいじゃろう」
そういうとミレーヌは指をパチンと鳴らした。
すると二人の足元を魔法陣が囲みだした瞬間に二人の体はあっという間に消えてしまったのだった。
−−−デルフィニアの私室−−−
誰も居ない私室に魔法陣が展開される。
魔法陣が光った瞬間に先ほど消えた二人が姿を現す。
「さあ着いたのじゃ」
「相変わらず無駄に高度な魔法を使うのだな」
「無駄とは失礼じゃな、ワシの頭脳があったればこその魔法じゃぞ」
実のところ切っ掛けは楽チンに移動できる方法は無いかなと模索した結果だったりする。
「さて先ほど聞こうとした話じゃが、単刀直入に聞こうかの。なぜあの少年を拉致したのじゃ?」
普段おちゃらけているミレーヌとは思えないほどに真剣な表情と僅かな怒気を含んだ言葉を放っていた。
「あの少年は少々特殊な能力を持っているだけのただの一般人じゃ、能力も死に掛けた時のみ発動するだけで実質被害は出にくいものじゃ、何よりお主は戦士の戦いは好きでも一般人を巻き込む戦いは嫌いだったはずじゃ、改めて聞こうなぜ拉致したのじゃ?」
「・・・先ほど盗み聞きしていたはずだ。同じ問いを何度もするのは嫌いなのだが?」
「・・・馬鹿を申す出ない、あれが全てお主の本音というわけでもあるまい。何年お主と過ごしてきたと思っているんじゃ」
おぬしの考えなどお見通しじゃといわんばかりにデルフィニアの言葉をあっさりと否定する。
「・・・あの少年を拉致したのは本当に気まぐれだ」
「・・・気まぐれのお」
「ああ、気まぐれだ」
しばらく両者が視線を交わし、沈黙が部屋を支配する。
「・・・あの少年このままじゃと確実に精神崩壊を起こしてしまうじゃろう。お主はその責任をどうするつもりじゃ?」
「・・・精神崩壊を起こしたのならばそこまでの人間だった、それだけのことだ」
あまりにも自分勝手なことを告げるデルフィニア。
しかし、ミレーヌはそれ以上追求することなく、やがてそうかと一言告げて部屋から出て行こうとする。
そしてドアノブに手を掛けたときにこう告げた。
「ワシはお主の事を気に入っている、残酷な性格じゃという事も理解しているつもりじゃ・・・じゃがもしもあの少年を本当にただの気まぐれで壊した場合は・・・ワシも黙ってはおらぬからな。闘技場の一つや二つ壊れる事を覚悟しておく事じゃ」
冷たい言葉を投げかけ部屋から出て行くミレーヌ。
部屋に残ったデルフィニアは無表情のまま椅子に座り、深いため息を吐いていた。
(ミレーヌの反応は予想通りだったが実際に言われるとなかなかどうしてきついものだな・・・我も甘くなってしまったのかもしれん。偶然とはいえあの姿を見た時、我は初めて人間を助けたいと思ってしまったのだからな)
−−−回想〜山奥の上空−−−
「ふむ、この辺りもなかなか自然豊かな良い土地だ」
木々が多い茂る山の上空を自慢の羽を使い飛行しているデルフィニア。
目的は新しいクラブを設立するための土地探し、デルフィニアは度々暇を作ってはこのように各地に視察しに行く事があった。
「どこに作れば良いかな・・・ん?この臭いは人里か?このような山奥に作るとは酔狂な人間も居たものだ、どれ少し覗いてみるか」
そういうとデルフィニアは人里のある方角に飛行していくのだった。
−−−農村上空−−−
「農村か・・・おかしい昼間だというのに畑に人が一人もいない。ん?」
デルフィニアは村の上空から人がいないことを不思議に思っているとある匂いに気が付いたのだ。
「この匂いは・・・血の匂いか」
−−−農村付近−−−
農村付近の森の中に数十名で行動している一団があった。
全員が銀色の鎧を身に付けその左胸には神の兵だという証なのか教団の紋章が刻まれていた。
彼らは教団の兵士、俗に言う神を敬い、魔物は悪だと決め付けている宗教団体だ。
その一団の隊長であろう男が農村を視界に入れたとたんに後方の部下に手を上げて進軍を止めさせた。
「よし止まれ・・・見つけたぞ穢れし魔物どもの住処を、皆の者速やかに殲滅の準備を行うのだ」
「待ってください隊長、さらわれたと思われる人々もいます。先に救助をするべきなのでは?」
一人の兵士が隊長に質問をする。
「何を言っているのだね君は?穢れし魔物と住んでいるのだよ、あれはもはや人間ではない同じ魔物だ。殲滅するのだよ、神の名の下に」
「し、しかし我々の任務はあくまで魔物にさらわれた人々を救い出すのが任務のはずです」
「さらわれた人々は魔物の手により食料としてすでに食された後だったということにすれば、人々の魔物に対する疑いはより濃いものになるだろう。そうすれば我々教団をさらに崇め、敬い、魔物は悪だという絶対的な正義が確立されるのだよ、この小さな犠牲はやむを得まい、たとえそれが我々の同胞も含まれるとしてもな」
言い終わるのと同時に隊長格の男はロングソードを抜き、兵士の首を跳ねた。
ゴトッと兵士の首が落ち、首からは血があふれ出し、体は支えを失い倒れていく、後ろに控えていた兵士がそれを避けることなく受け止め、切られた兵士の体は兵士の体をこすりずり落ちて地面に倒れ落ちる。
隊長格の男は一振りしてロングソードの血を払い鞘に収める。
「喜びたまえ、君は魔物と勇敢に戦い散った英雄として崇められ、そして我らが敬愛して止まない神の元にいけるのだからな、まあ元々このために連れてきたのだがな、さあ皆の者神の名の下に穢れたこの村を浄化するのだ!かかれ!」
後ろに控えていた兵士たちが声を発することなく静かにそれぞれの武器を持ち黙々と村に突撃をしかけていく。
先ほど殺された兵士の事など無かったかのごとく、ただ無感情に突撃をする。
やがて先頭を走る一人の兵士が最初の現れた村人に対し攻撃をしかけていく。
「ひっ!?・・いやー!!!!!!」
「魔物は排除する」
「グフウ!!?」
突然の襲撃に悲鳴をあげて逃げようとする村人、しかし無情にも兵士は村人を容赦なく切って捨てた。
悲鳴に気づき駆けつけてきた村人たちはその光景に戦慄と緊張が走った。
「くそ!教団の奴らか!もう見つかっちまったのかよ!戦える奴らはあいつ等を足止めして戦えない奴らを逃がすぞ!!!」
そのうちの一人の男が即座に判断して指示を飛ばす。
周りに居た村人は即座に反応して行動に移る。
戦士として活動していた男たちや戦う事が得意な魔物は足止めに残り、戦いが得意でない者たちは逃げるために走り出す。
「目標が数名残り、数十名が逃亡を図っている。即座に目の前の目標を撃破して残りの目標を始末する」
兵士の感情の無い声が発せられた後、後ろに控えていた兵士達もこくりと同意を示して行動に移る。
通常の人間ではありえないスピードで村人に接近する兵士。
そのスピードに驚き反撃しようとするが時すでに遅く、兵士のロングソードであっさりと切られてしまう。
「何!?・・・まさかこいつら噂の洗脳兵士か!?」
この疑問に答えるものはおらず、兵士たちは瞬く間に足止めにのこった村人を容赦なく切って捨てたのだ。
「目標の死亡を確認、続けて殲滅作戦を続行する」
兵士たちは逃げていった村人たちの方角に駆け出すのだった。
−−−−−−−−−−
「皆早く逃げて!!!」
必死に逃げる村人たち、いつ追いつかれるか分からない恐怖に駆られながらもただ必死に足を動かし森に避難しようと急いでいた。
だが。
「目標を捕捉、速やかに排除する」
突如目の前に姿を現す教団の洗脳兵士たち。
兵士たちは武器に手を掛けて切りかかっていた。
一人また一人と次々に切り殺していく兵士たち。
そしてある一人の少年に狙いを定めて切りかかろうとした時だった。
ピタッ
切りかかる直前に突然動きを止める兵士。
ブルブルと体が震えだし、ついには武器も手からこぼれ落ち。
「グッ・ウウウウウ・グ・・ギャア・・アアアアアアア!!!!!!!!!」
突然奇声をあげて、前のめりに倒れる兵士。
突然の事態に村人も兵士たちも、そして攻撃されそうだった少年も何が起こったのだという顔をしていた。
この少年こそが命喰者の能力を発動させたグリン・レーパーだったのだ。
その後はデルフィニアが空から降りてきて村に攻めてきていた兵士を一人残らず殺している。
隊長格だった男はその様子を見て即座に離脱していたそうだ。
−−−−−−−−−−−
(あの後のことははっきり覚えている。一応感謝はされたが我のことも怖かったのだろうすっかり恐れられていた。そしてあの少年も謎の能力があるのが分かり村人たちから我と同様に恐れられていた。親にさえも近寄らないでなどと脅えられていたときの少年の表情を見て我の迷いは完全に失せていたこの少年を助けたいと)
「悪逆非道のバトルクラブの主がこのような感情を持つとはな、これも雌の母性本能とやらが成せる想いなのかもしれないな」
コンコン
出会ったときのことを思い出しているとノックの音が鳴った。
「入るが良い」
「・・・しつれいします」
入ってきたのはグリン・レーパーだった。
その姿を確認するとデルフィニアは先ほどの深刻な表情を無くして、いつもの笑みを浮かべていた。
「グリン・レーパーか。どうした我と契約を結ぶ気になったのか?」
「ほんとうににがしてくれるんですね?」
「我は一度言った契約は守る主義だ。バトルクラブの主の名にかけてしかと契約は守ろうぞ」
「それなら、ぼくとけいやくしてください」
その言葉を聞きさらに口角をあげるデルフィニア。
「よかろう、我デルフィニアはグリン・レーパーとの契約をいかなることがあろうとも違えること無く果たすと約束しよう」
ここに一つの契約が結ばれた。
契約は命喰者の能力を自在に操れたら開放すること。
果たして少年グリン・レーパーは契約を果たす事ができるのか?
後編に続く。
なので特定の対戦者は出てきません。(所謂雑魚キャラしか出てこないというかバトルすらちゃんとしたものが無いです)
その事を理解した上でお読みください。
ではどうぞ。
−−−DFバトル闘技場控え室−−−
一人の少年が椅子に座り、ひざを抱えて震えていた。
少年はまるで呪詛でもつぶやくかのようにこの言葉を繰り返していた。
『死にたくない・・・もう嫌だ・・・誰か助けてよ』
この言葉を聞けば分かるように少年は戦いが得意なわけではない、むしろこれまでの人生において戦いとは無縁の生活を送っていた。
少年は毎日農具を手に地面と格闘を続ける農民だった。
そうあの事件が起きて、あの美しくも残酷なドラゴンに拉致されるまでは・・・。
コンコン
「!!!」
控え室の扉がノックされる。
その音にビクッと過剰な反応を見せる少年。
ガチャリという音をたてて、ある人物が入ってきた。
「あ・・・」
「やあグリン・レーパー、調子はどうだね」
入ってきたのはこの少年をさらった張本人ことバトルクラブの主のデルフィニアである。
少年はデルフィニアが現れた事によりいっそう震えを増し、目には恐怖の色でいっぱいになっていた。
「ふっ、そこまで怖がられると少々良心が痛むではないか、怖がらないで欲しいな」
「な、なに・・・いってる、んですか・・・こんなめに、あっているのは・・・だれの・・・せいだと・・・」
「たしかにこのような目にあわせているのは我に違いないが・・・そもそもの原因は貴様にもあるのだがな、『命喰者(ライフイーター)』」
デルフィニアの言葉にまたもビクッと脅えるグリン。
「理不尽な話だが、貴様の能力は我の目から見れば面白い玩具にしか見えないのだよ、恨むならそのような能力を開放させてしまった己を恨むが良い」
「・・・・・・」
デルフィニアの言葉にグリンはさらに涙目になり、悔しさに握りこぶしを作りさらに震えるのだった。
「だが、そこまで我の元から逃げ出したいのならば契約をしないか?」
「・・・けいやく?」
「そうだ」
「・・・どうすれば・・・いいんですか」
「簡単な話だ。その能力を自由に使えるようにすればいい」
「!?・・・そ、そんな、むちゃくちゃな」
「無茶苦茶ではないぞ、貴様はすでに有名人だ。今表に出て行けば、危険人物として追われ続けるか、教団の連中に捕まりいいように利用されるのが関の山だ、ならば自分の能力をコントロールできた方が都合が良いとは思わないか?
むしろこれはチャンスだぞ、貴様が生き抜くための力を手にする事が出来る上にこの地獄からも開放される、良いこと尽くめではないか」
たしかに良いこと尽くめかもしれないが、グリンの持つ命喰者は発動条件が限定されている。
それは、自分が死に掛けた時だけそれも本人の意思と関係なくに発動してしまうのだ。
能力は相手の魂を吸い取り、自分の寿命にしてしまうこと。
結果として自分が死ぬことなく相手を殺す事はできるが、それでも一般人程度の力しかないグリンにとっては毎回寿命を磨り減らして戦わなければならないから溜まったものではない。
戦士でもないグリンにとってこの契約はまさに最悪といってもいいものだった。
万に一つ、億に一つの可能性でしかないのだ。これを最悪といわずしてなんというのか?
グリンは絶望の表情を浮かべ黙り込んでしまう。
「まあすぐに返事をよこせとは言わないさ、気が向いたらいつでも私の部屋に来たまえ」
そういうとデルフィニアは控え室を後にした。
「・・・・・・」
再びグリンはひざを抱えて震えだすのであった。
−−−−−−−−−−
「盗み聞きか、ミレーヌ?」
「盗み聞きとは人聞きが悪いのじゃ、偶然おぬしの姿を見かけたので後を追いかけてきたらお主の会話が聞こえただけじゃよ」
「それを世間は盗み聞きというのだが」
「・・・こほん、それはともかく聞きたいことがあったのじゃが良いかの?」
「・・・ここで話すのはちょっと悪い、我の部屋で話そう」
「いいじゃろう」
そういうとミレーヌは指をパチンと鳴らした。
すると二人の足元を魔法陣が囲みだした瞬間に二人の体はあっという間に消えてしまったのだった。
−−−デルフィニアの私室−−−
誰も居ない私室に魔法陣が展開される。
魔法陣が光った瞬間に先ほど消えた二人が姿を現す。
「さあ着いたのじゃ」
「相変わらず無駄に高度な魔法を使うのだな」
「無駄とは失礼じゃな、ワシの頭脳があったればこその魔法じゃぞ」
実のところ切っ掛けは楽チンに移動できる方法は無いかなと模索した結果だったりする。
「さて先ほど聞こうとした話じゃが、単刀直入に聞こうかの。なぜあの少年を拉致したのじゃ?」
普段おちゃらけているミレーヌとは思えないほどに真剣な表情と僅かな怒気を含んだ言葉を放っていた。
「あの少年は少々特殊な能力を持っているだけのただの一般人じゃ、能力も死に掛けた時のみ発動するだけで実質被害は出にくいものじゃ、何よりお主は戦士の戦いは好きでも一般人を巻き込む戦いは嫌いだったはずじゃ、改めて聞こうなぜ拉致したのじゃ?」
「・・・先ほど盗み聞きしていたはずだ。同じ問いを何度もするのは嫌いなのだが?」
「・・・馬鹿を申す出ない、あれが全てお主の本音というわけでもあるまい。何年お主と過ごしてきたと思っているんじゃ」
おぬしの考えなどお見通しじゃといわんばかりにデルフィニアの言葉をあっさりと否定する。
「・・・あの少年を拉致したのは本当に気まぐれだ」
「・・・気まぐれのお」
「ああ、気まぐれだ」
しばらく両者が視線を交わし、沈黙が部屋を支配する。
「・・・あの少年このままじゃと確実に精神崩壊を起こしてしまうじゃろう。お主はその責任をどうするつもりじゃ?」
「・・・精神崩壊を起こしたのならばそこまでの人間だった、それだけのことだ」
あまりにも自分勝手なことを告げるデルフィニア。
しかし、ミレーヌはそれ以上追求することなく、やがてそうかと一言告げて部屋から出て行こうとする。
そしてドアノブに手を掛けたときにこう告げた。
「ワシはお主の事を気に入っている、残酷な性格じゃという事も理解しているつもりじゃ・・・じゃがもしもあの少年を本当にただの気まぐれで壊した場合は・・・ワシも黙ってはおらぬからな。闘技場の一つや二つ壊れる事を覚悟しておく事じゃ」
冷たい言葉を投げかけ部屋から出て行くミレーヌ。
部屋に残ったデルフィニアは無表情のまま椅子に座り、深いため息を吐いていた。
(ミレーヌの反応は予想通りだったが実際に言われるとなかなかどうしてきついものだな・・・我も甘くなってしまったのかもしれん。偶然とはいえあの姿を見た時、我は初めて人間を助けたいと思ってしまったのだからな)
−−−回想〜山奥の上空−−−
「ふむ、この辺りもなかなか自然豊かな良い土地だ」
木々が多い茂る山の上空を自慢の羽を使い飛行しているデルフィニア。
目的は新しいクラブを設立するための土地探し、デルフィニアは度々暇を作ってはこのように各地に視察しに行く事があった。
「どこに作れば良いかな・・・ん?この臭いは人里か?このような山奥に作るとは酔狂な人間も居たものだ、どれ少し覗いてみるか」
そういうとデルフィニアは人里のある方角に飛行していくのだった。
−−−農村上空−−−
「農村か・・・おかしい昼間だというのに畑に人が一人もいない。ん?」
デルフィニアは村の上空から人がいないことを不思議に思っているとある匂いに気が付いたのだ。
「この匂いは・・・血の匂いか」
−−−農村付近−−−
農村付近の森の中に数十名で行動している一団があった。
全員が銀色の鎧を身に付けその左胸には神の兵だという証なのか教団の紋章が刻まれていた。
彼らは教団の兵士、俗に言う神を敬い、魔物は悪だと決め付けている宗教団体だ。
その一団の隊長であろう男が農村を視界に入れたとたんに後方の部下に手を上げて進軍を止めさせた。
「よし止まれ・・・見つけたぞ穢れし魔物どもの住処を、皆の者速やかに殲滅の準備を行うのだ」
「待ってください隊長、さらわれたと思われる人々もいます。先に救助をするべきなのでは?」
一人の兵士が隊長に質問をする。
「何を言っているのだね君は?穢れし魔物と住んでいるのだよ、あれはもはや人間ではない同じ魔物だ。殲滅するのだよ、神の名の下に」
「し、しかし我々の任務はあくまで魔物にさらわれた人々を救い出すのが任務のはずです」
「さらわれた人々は魔物の手により食料としてすでに食された後だったということにすれば、人々の魔物に対する疑いはより濃いものになるだろう。そうすれば我々教団をさらに崇め、敬い、魔物は悪だという絶対的な正義が確立されるのだよ、この小さな犠牲はやむを得まい、たとえそれが我々の同胞も含まれるとしてもな」
言い終わるのと同時に隊長格の男はロングソードを抜き、兵士の首を跳ねた。
ゴトッと兵士の首が落ち、首からは血があふれ出し、体は支えを失い倒れていく、後ろに控えていた兵士がそれを避けることなく受け止め、切られた兵士の体は兵士の体をこすりずり落ちて地面に倒れ落ちる。
隊長格の男は一振りしてロングソードの血を払い鞘に収める。
「喜びたまえ、君は魔物と勇敢に戦い散った英雄として崇められ、そして我らが敬愛して止まない神の元にいけるのだからな、まあ元々このために連れてきたのだがな、さあ皆の者神の名の下に穢れたこの村を浄化するのだ!かかれ!」
後ろに控えていた兵士たちが声を発することなく静かにそれぞれの武器を持ち黙々と村に突撃をしかけていく。
先ほど殺された兵士の事など無かったかのごとく、ただ無感情に突撃をする。
やがて先頭を走る一人の兵士が最初の現れた村人に対し攻撃をしかけていく。
「ひっ!?・・いやー!!!!!!」
「魔物は排除する」
「グフウ!!?」
突然の襲撃に悲鳴をあげて逃げようとする村人、しかし無情にも兵士は村人を容赦なく切って捨てた。
悲鳴に気づき駆けつけてきた村人たちはその光景に戦慄と緊張が走った。
「くそ!教団の奴らか!もう見つかっちまったのかよ!戦える奴らはあいつ等を足止めして戦えない奴らを逃がすぞ!!!」
そのうちの一人の男が即座に判断して指示を飛ばす。
周りに居た村人は即座に反応して行動に移る。
戦士として活動していた男たちや戦う事が得意な魔物は足止めに残り、戦いが得意でない者たちは逃げるために走り出す。
「目標が数名残り、数十名が逃亡を図っている。即座に目の前の目標を撃破して残りの目標を始末する」
兵士の感情の無い声が発せられた後、後ろに控えていた兵士達もこくりと同意を示して行動に移る。
通常の人間ではありえないスピードで村人に接近する兵士。
そのスピードに驚き反撃しようとするが時すでに遅く、兵士のロングソードであっさりと切られてしまう。
「何!?・・・まさかこいつら噂の洗脳兵士か!?」
この疑問に答えるものはおらず、兵士たちは瞬く間に足止めにのこった村人を容赦なく切って捨てたのだ。
「目標の死亡を確認、続けて殲滅作戦を続行する」
兵士たちは逃げていった村人たちの方角に駆け出すのだった。
−−−−−−−−−−
「皆早く逃げて!!!」
必死に逃げる村人たち、いつ追いつかれるか分からない恐怖に駆られながらもただ必死に足を動かし森に避難しようと急いでいた。
だが。
「目標を捕捉、速やかに排除する」
突如目の前に姿を現す教団の洗脳兵士たち。
兵士たちは武器に手を掛けて切りかかっていた。
一人また一人と次々に切り殺していく兵士たち。
そしてある一人の少年に狙いを定めて切りかかろうとした時だった。
ピタッ
切りかかる直前に突然動きを止める兵士。
ブルブルと体が震えだし、ついには武器も手からこぼれ落ち。
「グッ・ウウウウウ・グ・・ギャア・・アアアアアアア!!!!!!!!!」
突然奇声をあげて、前のめりに倒れる兵士。
突然の事態に村人も兵士たちも、そして攻撃されそうだった少年も何が起こったのだという顔をしていた。
この少年こそが命喰者の能力を発動させたグリン・レーパーだったのだ。
その後はデルフィニアが空から降りてきて村に攻めてきていた兵士を一人残らず殺している。
隊長格だった男はその様子を見て即座に離脱していたそうだ。
−−−−−−−−−−−
(あの後のことははっきり覚えている。一応感謝はされたが我のことも怖かったのだろうすっかり恐れられていた。そしてあの少年も謎の能力があるのが分かり村人たちから我と同様に恐れられていた。親にさえも近寄らないでなどと脅えられていたときの少年の表情を見て我の迷いは完全に失せていたこの少年を助けたいと)
「悪逆非道のバトルクラブの主がこのような感情を持つとはな、これも雌の母性本能とやらが成せる想いなのかもしれないな」
コンコン
出会ったときのことを思い出しているとノックの音が鳴った。
「入るが良い」
「・・・しつれいします」
入ってきたのはグリン・レーパーだった。
その姿を確認するとデルフィニアは先ほどの深刻な表情を無くして、いつもの笑みを浮かべていた。
「グリン・レーパーか。どうした我と契約を結ぶ気になったのか?」
「ほんとうににがしてくれるんですね?」
「我は一度言った契約は守る主義だ。バトルクラブの主の名にかけてしかと契約は守ろうぞ」
「それなら、ぼくとけいやくしてください」
その言葉を聞きさらに口角をあげるデルフィニア。
「よかろう、我デルフィニアはグリン・レーパーとの契約をいかなることがあろうとも違えること無く果たすと約束しよう」
ここに一つの契約が結ばれた。
契約は命喰者の能力を自在に操れたら開放すること。
果たして少年グリン・レーパーは契約を果たす事ができるのか?
後編に続く。
11/09/01 00:15更新 / ミズチェチェ
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