伝説の武人VS強さを求める若者
「・・・・・・退屈だ」
この言葉を漏らしたのはバトルクラブの主デルフィニアだ。
「最近はレベルの低い戦いばかりで退屈だ・・・」
デルフィニアが試合を観戦しながらそうつぶやいた。
「なんじゃ?また退屈になっておるのか?」
「・・・ミレーヌか?」
いつのまに現れたのかデルフィニアの後ろにミレーヌが立っていた。
「貴様いつの間に入ってきたのだ?」
「なに、ヌシが退屈だと言ったあたりから転移魔法でやってきたんじゃよ」
「・・・普通はドアを開けて入るものだぞ、もし我が遊んでいる最中だったらどうする気だ?」
「その時はワシも混ぜてもらうのじゃ♪」
「・・・・・・まあいい、で何のようだ?」
「なに、そろそろヌシのことだから退屈になって不貞腐れ始める気がしてのぉ・・・話し相手になってやろうと思ってのぉ」
「・・・ふん、そんな事を言っておるが実際は貴様が暇だっただけであろう」
「バレておったか、だがさっき言ったことは本当じゃよ」
「・・・ならば我の昔話にでも付き合え、そうすれば多少は退屈は忘れられる」
「うむ・・・してどんな話なのじゃ?」
「・・・・・・我らドラゴンからしてみれば昨日のことの用に思い出せることだが、今から100年前のことだ。このバトルクラブに名勝負といってもよい戦いがあったのだ。我も思わず手に汗握ったほどの名勝負が・・・・・・」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
100年前のバトルクラブ闘技場。
「お待たせいたしました。バトルクラブフリートーナメント、決勝戦を行いたいと思います!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
司会者の宣言と同時に大歓声があがる。
観客のボルテージは最高潮まであがっていた。
なぜなら。
「このフリートーナメント、皆様ご存知の通り最高4名までチームを組める。何でもありのトーナメントです。大概の場合は4名で出場するチームが最後まで残るのですが、今回はなんと両者最初から一人で出場して決勝まで生き残りました。その技の数々、人間を超えたかのような身体能力、その戦闘能力に我々は度肝を抜かれました。今回は我々の想像を超えた凄まじいバトルが展開されるはずです。皆様どうか一瞬たりとも気を抜かずにご観戦ください。・・・それではバトルクラブフリートーナメント!!!決勝!!!選手の入場です!!!!!!」
フッと闘技場全体が薄暗くなる。
ドッカーン!!!!!!
突如爆発が起こる。
ちなみにこれは我の部下の魔法を使った演出によるものだ。
爆発が終わるのと同時に薄暗かった闘技場が再び明るくなる。
もくもくと上がる爆煙の中に2つの人影が見え始めた。
次第に爆煙は薄れて、2つの人影が消えて代わりに2人の姿を現し始めた。
一人は若者で身の丈ほどもある大剣を背負い、鉄の仕込まれた靴とガントレットを装備していた。
もう一人は一見すると老婆のような老人で、左手が無く、右手で大剣持っており、人を威圧するかのような鋭い眼光をしていた。
「ご紹介しましょう!!!数々の猛者を大剣一本と己の体一つで蹴散らしAブロックを勝ち上がってた若き旅人、その名も【アルト・カルトリンク】!!!、対するは旧世代の頃から生き続けその年齢は100を超えると言われる伝説の偉人!隻腕のアルこと【アルレイン・フォン・クレールヘン】!!!」
闘技場全体が盛り上がりヒートアップする中、対峙している2人は逆に静かに戦いの時に向けて備えていた。
「・・・・・・」
冷静さを保っているようでアルの心中は穏やかではなかった。
目の前に生きる伝説と言われる武人が存在するのだ。
元々アルは幼馴染を探して旅をしている最中に自身の力不足を感じて、このままではいずれ旅の途中で力尽きてしまうと懸念し、自分より数段強い相手を求めバトルクラブにやってきていたのだ。
たしかに強者を求めた。
自身を高めるために、だが、体が強張る、額から静かに汗が滴る、そして今すぐにでも逃げ出してしまいたいと思ってしまうほどの強烈なプレッシャー。
今まで対戦してきた連中は確実に自分と同等かそれ以上の使い手ばかりだった。
しかし、今それらを遥かに超えるほどの存在が目の前にいる。
恐怖感が心を覆いつくしてしまいそうになる。
そんな状況だというのに、その恐怖感と同時に興味が湧いていた。
確かに怖い・・・だがこいつはいったいどれほど強いんだ?そして俺はこいつにどれだけ通用するんだ?
そんな気持ちも同時に湧いていた。
「それではいよいよ決勝戦の開始です!!!!!!両者とも準備はいいですか!!!?」
いつのまにか試合開始直前になっていたようだった。
アルは大剣を静かに構える。
対するアルレインは右腕だけで大剣を構える。
「ではバトル開始!!!!」
開始の合図が宣言された。
先に動いたのはアルだった。
渾身の力で地を蹴り走り出す。
「うおおおおおおおおお!!!」
雄叫びと共に大剣を横薙ぎに払う。
しかし、攻撃はわずかな動作でかわされる。
その動作を予期していたのか、横薙ぎした大剣をそのままさらに回転させもう一歩踏み込みさらに攻撃を仕掛ける。
ガッキーン!!!
今度は大剣で受け止めるアルレイン。
アルは苦虫を潰したような顔をするが、続けざまに攻撃をした。
アルは自身にできる最高の攻めをした。
自分の背よりもでかい大剣を自在に操り、あらゆる方向から攻撃し続けた。
すでに何回攻撃したのか分からないほどの攻撃をおこなった。
今までなら自分より格上の相手でもこれだけ攻撃すれば何かしらの手ごたえというものがあった。
しかし、目の前にいるアルレインからは何の手ごたえも感じないのである。
なぜならば、あれだけ攻撃したにもかかわらずほぼ動かずに攻撃をすべて止められたのだ。
あまりの核の違いにアルは信じられないといった表情でアルレインを見ていた。
(悔しいが実力が違う・・・だったらせめて一撃、一撃だけでも、どんな攻撃でもいい当てるんだ!)
アルは走り出し、突きの体勢で突っ込んでゆく。
アルレインはそれを難なくかわす。
かわされた後、強引に足を踏ん張り一回転して大剣を払う。
その攻撃を受け止めるアルレイン。
受け止めたのを確認したアルは瞬時に手を離し一気に懐に詰め寄る。
詰め寄った勢いのまま、アルレインの腹部に向かって拳を繰り出す。
これは当たる!!!
アルはそう確信しながら拳を出した。
しかし、アルの目の前にアルレインの姿は無く出した拳は空しく空を切っていた。
「なっ!?いない・・・」
「いかんな、そう簡単に武器は手放すものではないぞ」
アルが後ろを振り向くといつ移動したのかアルレインが立っていた。
「だがなかなか良い攻撃だった、並みの者なら今の一撃を受けていただろう。若いのにたいしたものだ」
アルレインは心底感心したように頷いていた。
「なぜだ!?」
「何のことかな?」
「惚けないでくれ!アンタは今俺に攻撃をすることができたのにそれをしなかった。どういうつもりかは知らないが今までだって俺を攻撃するチャンスはあったはずだなのにあんたは一撃も反撃してこないじゃないか!俺を舐めているのか!!!」
アルは落ちている大剣を拾いあげ、感じたことを率直にアルレインにぶつけた。
「そんなことはないぞ。たしかにお前さんの言うとおりわしに攻撃するチャンスはあった、だがそれでは少々つまらんからな。お前さんのような将来有望な者をみるとつい鍛えてやりたくなってしまう。だからお前さんのポテンシャルを確認していた。それだけの話だ」
アルは驚いていた。
ここは仮にも殺し合いの場だというのに勝つことではなく鍛えてやりたいなどと考えるやつがいるとは思わなかったからだ。
「・・・それは大変嬉しいことだが、できればそんな考えは今すぐ捨ててくれるか」
「なぜかな?」
「手を抜かれているみたいでむかつくからだ」
「・・・それはすまないな、わしとしたことが・・・ならば全力を持ってお前さんの相手をしよう」
「ありがとう・・・ございます・・・」
先ほどよりも数段強いプレッシャーがアルを襲う。
(やはりまだ本気をだしていなかったんだな)
アルの額から冷たい汗が滴り落ちる。
数分の間にらみ合いが続く。
(・・・来る!)
アルの勘が攻撃を仕掛けてくると警鐘を鳴らしていた。
その勘が的中したのかアルレインが突然姿を消した。
(後ろか!)
アルは咄嗟に後ろの方に大剣を振るった。
ガッキーン!!!
アルの振るった大剣は見事にアルレインの攻撃を受け止めていた。
「ほう、良い反応だ」
「ぐぅ!」」
アルは受け止めることには成功したが、アルレインの力強さに正直に下を巻いていた。
(見た目は老婆・・・いや老爺か?どっちでもいいが、これが100歳を超えた人間の腕力か!?)
必死に押し込まれないように押し返していたがアルレインが突然後ろに引いた。
「うお!?」
アルは必死に押し返していたために突然力のやり場を失い、自然と前に体勢を崩した。
その瞬間を見逃すまいとアルレインは人間離れしたスピードで詰め寄り攻撃を仕掛けてきた。
アルの脳がこのままだと危険だと警鐘をガンガン鳴らしていた。
瞬時にそう判断したアルは崩れた体勢を直さずに、逆に崩れる勢いを利用してそのまま前に前転した。
アルの先ほどまで居た場所にアルレインの大剣が一閃していた。
(あぶねえ!!あのまま判断が遅れていれば上半身と下半身が泣き別れるところだ!!)
「ほう、あの体勢から回避するとは」
「それなりの修羅場はくぐってるからな」
(とは言ったものの、どうすればいいかな。倒すどころか一撃を当てることすら困難な状況だ)
考え事をしているうちに再びアルレインが攻撃を仕掛けてきた。
(!今は考えている場合じゃない、少しでも気を抜けばやられる!)
アルは防御に徹した。
アルレインのあらゆる攻撃をアルは防ぎ、アルレインは表情を変えることなく連撃を繰り出す。
どれくらいの時間が流れたのかすでに分からないほど感覚。
すでに何回攻撃を受けたのかどうかも分からない。
全身は汗がとめどなく流れ落ち、避けきれなかった傷が目立つようになっていた。
「はぁはぁはぁ・・・はぁはぁはぁ・・・」
「わしの攻撃をここまで受けるとは・・・最近ではわしの孫くらいだったのだが」
そう言ってとにこりと笑うアルレイン。
「まだまだ骨のある若者は存在するようだ」
「アンタの孫か・・・はぁはぁ・・・さぞかし強いんだろうな」
「まあな」
笑っていた顔を元に戻し、再び鋭い顔付きに戻るアルレイン。
「さて、そろそろ決着をつけるか」
「・・・そうだな」
アルの体力はもはや限界に近かった。
正直に言えば伝説の武人の攻撃をここまで防ぎ続けたのだからもうギブアップしてもいいんじゃないかとも考えていた。
しかし。
(一撃も与えられないで終わるのは・・・ごめんだ!!!)
残った体力でありったけの力で攻撃する。
それがアルの考えていたことだった。
「・・・いくぜ!!!」
大剣を構え、一気に走り出すアル。
「うおおおおおおおお!!!!!!」
雄叫びをあげて最後の攻撃を繰り出す。
重突進と言うべきなのか、あきらかに体力は限界に近いはずなのにまるで今始まったかのようなスピードで突っ込んでいく。
そしてそのままの勢いで大剣を振り下ろす。
アルレインは先ほど同じく見えないスピードで消えたために大剣は地面に刺さる。
「うらあああああ!!!!」
読んでいたと言わんばかりに右手で裏拳を繰り出す。
それを大剣で受け止めるアルレイン。
「うおおおおおおおお!!!!!!」
再び雄叫びをあげ、残った左手で強引に大剣を抜き放つ。
ビキビキビキビキ
アルの筋肉から断裂するかのような悲鳴が聞こえた。
苦痛の表情を見せるが、構わずにそのまま斬り付ける。
ガッキーン!!!!!!
その攻撃も大剣で防がれる。
しかしアルは大剣を斬り付けるのと同時にその勢いを使いそのまま左足で蹴りも繰り出していた。
ドカッ!
アルレインはその捨て身の連続攻撃に反応しきれずについに一撃を食らった。
(入った!!!)
ついに一撃を入れたそんな気持ちが生まれた時だった。
バチン!!
「うお!?」
突然何かに弾かれたようにふっとぶアル。
何が起きたのか分からずにいると。
「まさかわしにこの力を使わせるとはな」
アルレインを見ると先ほど蹴りを入れた場所に不思議な光が出来ていた。
「・・・そうか、それがあの有名な幻想防壁(イリュージョン・アイギス)か」
上半身だけ起こしていたアルはそれを知ってばたんと倒れる。
「・・・まいった。俺の負けだ」
「・・・いや、この勝負お前さんの勝ちだ」
「・・・!?」
「なぜなら」
ピシッ・・・ピシッピシッ・・・キーン!
突然アルレインの持っていた大剣が折れた。
「わしの大剣はお前さんの攻撃で壊れてしまったからな、武器を無くしてしまってはわしに勝ち目は無い。だからわしの負けだ」
「・・・・・・本当に変わった人だ」
呆然と見守っていた司会者がハッと我に返る。
「どうやらこのすばらしい戦いに決着が着いた模様です!この試合の勝者は【アルトカルト・リンク】選手です!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!
一斉に歓声があがり拍手が巻き起きる。
アルはゆっくりと体を起こし会場を後にするアルレインを最後まで見送っていた。
「・・・俺はまた一つ強くなれたのかな?」
ぼそりとつぶやいたその一言は歓声の中にかき消されていった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「これが100年前に行われた名勝負だ」
「・・・あの狂戦士として有名なアルトカルト・リンクがこれまた有名なアルレイン・フォン・クレールヘンと戦っておったとはのぉ」
「まあアルトカルト・リンクはまだ狂戦士と言われる前の実力だからまだ並みの強者といったところだったんだろうが、この戦いをきっかけにメキメキと強くなったようだな」
「わしも見てみたかったのぉ」
「これくらいレベルの高い戦いは最近ではまったく見られないといった意味がこれでわかったであろう」
「うむ・・・じゃがそれを求めるのは少しばかりわがままというものじゃと思うんだがのぉ」
「・・・・・・」
「まあそのうちにまた名勝負はやってくるはずじゃよ。それまで我慢するんじゃな」
「・・・・・・そうだな」
ここはとある地下にある闘技場。
己のすべてをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。
次なる挑戦者はいったい誰か。
TO BE CONTINUE
この言葉を漏らしたのはバトルクラブの主デルフィニアだ。
「最近はレベルの低い戦いばかりで退屈だ・・・」
デルフィニアが試合を観戦しながらそうつぶやいた。
「なんじゃ?また退屈になっておるのか?」
「・・・ミレーヌか?」
いつのまに現れたのかデルフィニアの後ろにミレーヌが立っていた。
「貴様いつの間に入ってきたのだ?」
「なに、ヌシが退屈だと言ったあたりから転移魔法でやってきたんじゃよ」
「・・・普通はドアを開けて入るものだぞ、もし我が遊んでいる最中だったらどうする気だ?」
「その時はワシも混ぜてもらうのじゃ♪」
「・・・・・・まあいい、で何のようだ?」
「なに、そろそろヌシのことだから退屈になって不貞腐れ始める気がしてのぉ・・・話し相手になってやろうと思ってのぉ」
「・・・ふん、そんな事を言っておるが実際は貴様が暇だっただけであろう」
「バレておったか、だがさっき言ったことは本当じゃよ」
「・・・ならば我の昔話にでも付き合え、そうすれば多少は退屈は忘れられる」
「うむ・・・してどんな話なのじゃ?」
「・・・・・・我らドラゴンからしてみれば昨日のことの用に思い出せることだが、今から100年前のことだ。このバトルクラブに名勝負といってもよい戦いがあったのだ。我も思わず手に汗握ったほどの名勝負が・・・・・・」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
100年前のバトルクラブ闘技場。
「お待たせいたしました。バトルクラブフリートーナメント、決勝戦を行いたいと思います!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
司会者の宣言と同時に大歓声があがる。
観客のボルテージは最高潮まであがっていた。
なぜなら。
「このフリートーナメント、皆様ご存知の通り最高4名までチームを組める。何でもありのトーナメントです。大概の場合は4名で出場するチームが最後まで残るのですが、今回はなんと両者最初から一人で出場して決勝まで生き残りました。その技の数々、人間を超えたかのような身体能力、その戦闘能力に我々は度肝を抜かれました。今回は我々の想像を超えた凄まじいバトルが展開されるはずです。皆様どうか一瞬たりとも気を抜かずにご観戦ください。・・・それではバトルクラブフリートーナメント!!!決勝!!!選手の入場です!!!!!!」
フッと闘技場全体が薄暗くなる。
ドッカーン!!!!!!
突如爆発が起こる。
ちなみにこれは我の部下の魔法を使った演出によるものだ。
爆発が終わるのと同時に薄暗かった闘技場が再び明るくなる。
もくもくと上がる爆煙の中に2つの人影が見え始めた。
次第に爆煙は薄れて、2つの人影が消えて代わりに2人の姿を現し始めた。
一人は若者で身の丈ほどもある大剣を背負い、鉄の仕込まれた靴とガントレットを装備していた。
もう一人は一見すると老婆のような老人で、左手が無く、右手で大剣持っており、人を威圧するかのような鋭い眼光をしていた。
「ご紹介しましょう!!!数々の猛者を大剣一本と己の体一つで蹴散らしAブロックを勝ち上がってた若き旅人、その名も【アルト・カルトリンク】!!!、対するは旧世代の頃から生き続けその年齢は100を超えると言われる伝説の偉人!隻腕のアルこと【アルレイン・フォン・クレールヘン】!!!」
闘技場全体が盛り上がりヒートアップする中、対峙している2人は逆に静かに戦いの時に向けて備えていた。
「・・・・・・」
冷静さを保っているようでアルの心中は穏やかではなかった。
目の前に生きる伝説と言われる武人が存在するのだ。
元々アルは幼馴染を探して旅をしている最中に自身の力不足を感じて、このままではいずれ旅の途中で力尽きてしまうと懸念し、自分より数段強い相手を求めバトルクラブにやってきていたのだ。
たしかに強者を求めた。
自身を高めるために、だが、体が強張る、額から静かに汗が滴る、そして今すぐにでも逃げ出してしまいたいと思ってしまうほどの強烈なプレッシャー。
今まで対戦してきた連中は確実に自分と同等かそれ以上の使い手ばかりだった。
しかし、今それらを遥かに超えるほどの存在が目の前にいる。
恐怖感が心を覆いつくしてしまいそうになる。
そんな状況だというのに、その恐怖感と同時に興味が湧いていた。
確かに怖い・・・だがこいつはいったいどれほど強いんだ?そして俺はこいつにどれだけ通用するんだ?
そんな気持ちも同時に湧いていた。
「それではいよいよ決勝戦の開始です!!!!!!両者とも準備はいいですか!!!?」
いつのまにか試合開始直前になっていたようだった。
アルは大剣を静かに構える。
対するアルレインは右腕だけで大剣を構える。
「ではバトル開始!!!!」
開始の合図が宣言された。
先に動いたのはアルだった。
渾身の力で地を蹴り走り出す。
「うおおおおおおおおお!!!」
雄叫びと共に大剣を横薙ぎに払う。
しかし、攻撃はわずかな動作でかわされる。
その動作を予期していたのか、横薙ぎした大剣をそのままさらに回転させもう一歩踏み込みさらに攻撃を仕掛ける。
ガッキーン!!!
今度は大剣で受け止めるアルレイン。
アルは苦虫を潰したような顔をするが、続けざまに攻撃をした。
アルは自身にできる最高の攻めをした。
自分の背よりもでかい大剣を自在に操り、あらゆる方向から攻撃し続けた。
すでに何回攻撃したのか分からないほどの攻撃をおこなった。
今までなら自分より格上の相手でもこれだけ攻撃すれば何かしらの手ごたえというものがあった。
しかし、目の前にいるアルレインからは何の手ごたえも感じないのである。
なぜならば、あれだけ攻撃したにもかかわらずほぼ動かずに攻撃をすべて止められたのだ。
あまりの核の違いにアルは信じられないといった表情でアルレインを見ていた。
(悔しいが実力が違う・・・だったらせめて一撃、一撃だけでも、どんな攻撃でもいい当てるんだ!)
アルは走り出し、突きの体勢で突っ込んでゆく。
アルレインはそれを難なくかわす。
かわされた後、強引に足を踏ん張り一回転して大剣を払う。
その攻撃を受け止めるアルレイン。
受け止めたのを確認したアルは瞬時に手を離し一気に懐に詰め寄る。
詰め寄った勢いのまま、アルレインの腹部に向かって拳を繰り出す。
これは当たる!!!
アルはそう確信しながら拳を出した。
しかし、アルの目の前にアルレインの姿は無く出した拳は空しく空を切っていた。
「なっ!?いない・・・」
「いかんな、そう簡単に武器は手放すものではないぞ」
アルが後ろを振り向くといつ移動したのかアルレインが立っていた。
「だがなかなか良い攻撃だった、並みの者なら今の一撃を受けていただろう。若いのにたいしたものだ」
アルレインは心底感心したように頷いていた。
「なぜだ!?」
「何のことかな?」
「惚けないでくれ!アンタは今俺に攻撃をすることができたのにそれをしなかった。どういうつもりかは知らないが今までだって俺を攻撃するチャンスはあったはずだなのにあんたは一撃も反撃してこないじゃないか!俺を舐めているのか!!!」
アルは落ちている大剣を拾いあげ、感じたことを率直にアルレインにぶつけた。
「そんなことはないぞ。たしかにお前さんの言うとおりわしに攻撃するチャンスはあった、だがそれでは少々つまらんからな。お前さんのような将来有望な者をみるとつい鍛えてやりたくなってしまう。だからお前さんのポテンシャルを確認していた。それだけの話だ」
アルは驚いていた。
ここは仮にも殺し合いの場だというのに勝つことではなく鍛えてやりたいなどと考えるやつがいるとは思わなかったからだ。
「・・・それは大変嬉しいことだが、できればそんな考えは今すぐ捨ててくれるか」
「なぜかな?」
「手を抜かれているみたいでむかつくからだ」
「・・・それはすまないな、わしとしたことが・・・ならば全力を持ってお前さんの相手をしよう」
「ありがとう・・・ございます・・・」
先ほどよりも数段強いプレッシャーがアルを襲う。
(やはりまだ本気をだしていなかったんだな)
アルの額から冷たい汗が滴り落ちる。
数分の間にらみ合いが続く。
(・・・来る!)
アルの勘が攻撃を仕掛けてくると警鐘を鳴らしていた。
その勘が的中したのかアルレインが突然姿を消した。
(後ろか!)
アルは咄嗟に後ろの方に大剣を振るった。
ガッキーン!!!
アルの振るった大剣は見事にアルレインの攻撃を受け止めていた。
「ほう、良い反応だ」
「ぐぅ!」」
アルは受け止めることには成功したが、アルレインの力強さに正直に下を巻いていた。
(見た目は老婆・・・いや老爺か?どっちでもいいが、これが100歳を超えた人間の腕力か!?)
必死に押し込まれないように押し返していたがアルレインが突然後ろに引いた。
「うお!?」
アルは必死に押し返していたために突然力のやり場を失い、自然と前に体勢を崩した。
その瞬間を見逃すまいとアルレインは人間離れしたスピードで詰め寄り攻撃を仕掛けてきた。
アルの脳がこのままだと危険だと警鐘をガンガン鳴らしていた。
瞬時にそう判断したアルは崩れた体勢を直さずに、逆に崩れる勢いを利用してそのまま前に前転した。
アルの先ほどまで居た場所にアルレインの大剣が一閃していた。
(あぶねえ!!あのまま判断が遅れていれば上半身と下半身が泣き別れるところだ!!)
「ほう、あの体勢から回避するとは」
「それなりの修羅場はくぐってるからな」
(とは言ったものの、どうすればいいかな。倒すどころか一撃を当てることすら困難な状況だ)
考え事をしているうちに再びアルレインが攻撃を仕掛けてきた。
(!今は考えている場合じゃない、少しでも気を抜けばやられる!)
アルは防御に徹した。
アルレインのあらゆる攻撃をアルは防ぎ、アルレインは表情を変えることなく連撃を繰り出す。
どれくらいの時間が流れたのかすでに分からないほど感覚。
すでに何回攻撃を受けたのかどうかも分からない。
全身は汗がとめどなく流れ落ち、避けきれなかった傷が目立つようになっていた。
「はぁはぁはぁ・・・はぁはぁはぁ・・・」
「わしの攻撃をここまで受けるとは・・・最近ではわしの孫くらいだったのだが」
そう言ってとにこりと笑うアルレイン。
「まだまだ骨のある若者は存在するようだ」
「アンタの孫か・・・はぁはぁ・・・さぞかし強いんだろうな」
「まあな」
笑っていた顔を元に戻し、再び鋭い顔付きに戻るアルレイン。
「さて、そろそろ決着をつけるか」
「・・・そうだな」
アルの体力はもはや限界に近かった。
正直に言えば伝説の武人の攻撃をここまで防ぎ続けたのだからもうギブアップしてもいいんじゃないかとも考えていた。
しかし。
(一撃も与えられないで終わるのは・・・ごめんだ!!!)
残った体力でありったけの力で攻撃する。
それがアルの考えていたことだった。
「・・・いくぜ!!!」
大剣を構え、一気に走り出すアル。
「うおおおおおおおお!!!!!!」
雄叫びをあげて最後の攻撃を繰り出す。
重突進と言うべきなのか、あきらかに体力は限界に近いはずなのにまるで今始まったかのようなスピードで突っ込んでいく。
そしてそのままの勢いで大剣を振り下ろす。
アルレインは先ほど同じく見えないスピードで消えたために大剣は地面に刺さる。
「うらあああああ!!!!」
読んでいたと言わんばかりに右手で裏拳を繰り出す。
それを大剣で受け止めるアルレイン。
「うおおおおおおおお!!!!!!」
再び雄叫びをあげ、残った左手で強引に大剣を抜き放つ。
ビキビキビキビキ
アルの筋肉から断裂するかのような悲鳴が聞こえた。
苦痛の表情を見せるが、構わずにそのまま斬り付ける。
ガッキーン!!!!!!
その攻撃も大剣で防がれる。
しかしアルは大剣を斬り付けるのと同時にその勢いを使いそのまま左足で蹴りも繰り出していた。
ドカッ!
アルレインはその捨て身の連続攻撃に反応しきれずについに一撃を食らった。
(入った!!!)
ついに一撃を入れたそんな気持ちが生まれた時だった。
バチン!!
「うお!?」
突然何かに弾かれたようにふっとぶアル。
何が起きたのか分からずにいると。
「まさかわしにこの力を使わせるとはな」
アルレインを見ると先ほど蹴りを入れた場所に不思議な光が出来ていた。
「・・・そうか、それがあの有名な幻想防壁(イリュージョン・アイギス)か」
上半身だけ起こしていたアルはそれを知ってばたんと倒れる。
「・・・まいった。俺の負けだ」
「・・・いや、この勝負お前さんの勝ちだ」
「・・・!?」
「なぜなら」
ピシッ・・・ピシッピシッ・・・キーン!
突然アルレインの持っていた大剣が折れた。
「わしの大剣はお前さんの攻撃で壊れてしまったからな、武器を無くしてしまってはわしに勝ち目は無い。だからわしの負けだ」
「・・・・・・本当に変わった人だ」
呆然と見守っていた司会者がハッと我に返る。
「どうやらこのすばらしい戦いに決着が着いた模様です!この試合の勝者は【アルトカルト・リンク】選手です!!!」
うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!
一斉に歓声があがり拍手が巻き起きる。
アルはゆっくりと体を起こし会場を後にするアルレインを最後まで見送っていた。
「・・・俺はまた一つ強くなれたのかな?」
ぼそりとつぶやいたその一言は歓声の中にかき消されていった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「これが100年前に行われた名勝負だ」
「・・・あの狂戦士として有名なアルトカルト・リンクがこれまた有名なアルレイン・フォン・クレールヘンと戦っておったとはのぉ」
「まあアルトカルト・リンクはまだ狂戦士と言われる前の実力だからまだ並みの強者といったところだったんだろうが、この戦いをきっかけにメキメキと強くなったようだな」
「わしも見てみたかったのぉ」
「これくらいレベルの高い戦いは最近ではまったく見られないといった意味がこれでわかったであろう」
「うむ・・・じゃがそれを求めるのは少しばかりわがままというものじゃと思うんだがのぉ」
「・・・・・・」
「まあそのうちにまた名勝負はやってくるはずじゃよ。それまで我慢するんじゃな」
「・・・・・・そうだな」
ここはとある地下にある闘技場。
己のすべてをぶつけ合う場所。
一攫千金を狙える場所。
次なる挑戦者はいったい誰か。
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11/05/10 22:28更新 / ミズチェチェ
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