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第五章 エリエールの日記 散策編その四 (街紹介、バトル、シリアス)
 私は今中央地区を走り回っている。
今回の散策の依頼カリン達にそれぞれ一つずつ担当してもらっているが私は二つも担当している。
のんびりしていては朝日が出てしまうだろう。
幸いこの街についてから、中央地区を散策していたから主な場所はすでに調べてある。
残りはあと三つ、早く切り上げて例の北居住区に向かわねば。

フレイヤは急いで走っていった。

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エリエール軍施設前

「はあはあ、ここがエリエール軍の施設か」

エリエール軍、このエリエールの守りを担っている軍隊。
この軍には歴史があり、昔は自警団として創設されていた。
しかし、教団派の侵攻を受け、一時は壊滅状態に追いやられたこともある。
そのあと、魔界軍からの援護を受け、エリエール軍として発展して教団派を撃退することに成功したのだ。
この時からエリエールは軍事力と防衛力に力を入れ始めた。
おかげでこのように平和な街が保たれているのだ。

「すごい、やっぱり本で読むよりずっとすごいや。こうして歴史に手を触れられるのは幸せだなー。・・・はっ、いかんうっとりしている場合ではない。次にいかなければ」

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賭博闘技場前

「はあはあはあ、ふうーさすがに疲れた。走りっぱなしは体に堪える。ここがエリエールの賭博闘技場か」

賭博闘技場、月に一回だけ開催される戦いの祭典。
市民たちにも何か楽しめる催しを開かなければ商売のモチベーションがあがらないと感じた当時の領主が作ったもので、戦う姿と賭け事を楽しめるというこの賭博闘技場を作ったのだ。
結果としてこれが大当たりして、現在でも月に一回開催されている。

「賭博闘技場か、私も自警団時代は何度もきたいと思っていた。残念ながらこれなかったわけだが、そういえば今月は開催されるのだろうか?」

フレイヤが辺りを探し始めると立て札が見えた。

今月は○日に開催します。皆様のご参加をお持ちしております

「この日に開催するのか、ぜひとも参加したいところだ。おっと、次にいかなければ」

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エリエール大型病院前

「はあはあはあはあ、これで最後だ」

エリエール大型病院、ここでは主に長期入院が必要な患者がやってくる。各地区に診療所はあるがそこで対応できない患者がここに運び込まれてくるのだ。
ちなみにこの病院は昔から創設されていて、昔の教団派との戦いの時にも大いに活躍している。
教団派に奪われたときも、そのまま教団派が使っていたため。唯一その戦いにおいて無傷の建物と言える。

「私も冒険者になったからな、ここのお世話にはならないようにしなくては。さてこれで中央地区は終わりだ。次は反魔物地区でもある北居住区だ」

 正直に言ってここが一番不安な場所だ。
この北居住区は昔の戦いで負傷した反魔物派、つまり教団派の生き残りが住んでいる地区なのだ。
当時の領主は、皆殺しを嫌い、教団派の人間にも慈悲を与えるべきだと主張し彼らが安心して暮らせる環境を提供したのだ。
しかし、そんな慈悲を与えたにもかかわらず生き残った教団派は生まれてきた子供たちにいまだに魔物は悪だと教えているのだ。
もちろんこのエリエールの住人も悪だと教えている。
そういう経歴があるため、何度かエリエールを襲ったことがあるのだ。
その度に返り討ちにあっているのだが。
現在では魔物が悪だという考えが間違いなんじゃないかという考えを持つ者達といいや魔物は滅ぼすべき存在だと決め込む者達で対立しているのが現状である。

そんなことを考えながらフレイヤは北居住区を目指した。

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北居住区関所前

「止まれ。このような時間に北居住区に何用だ」

関所の前では厳重な警備が敷かれていた。

「私はヴァル=フレイヤ、冒険者だ。依頼を受けてこの街の散策を行っている。通してもらえないか?」

「・・・いいだろう。しかしくれぐれも気をつけていけ、この先は治外法権だ。下手をすれば命が危険にさらされる場合がある。心していけ」

「ありがとうございます」

 私は一礼をして、関所を通り抜けた。

通り抜けた先に見えたのはまず大通りだった。
しかし、その大通りには無数の傷跡が見えた。
まるで日々争いが行われてるのではと思われる傷跡だった。

「ともかく早く散策をして切り上げよう、なんだか嫌な予感がする」

フレイヤは地図を片手に歩き出した。

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 あれから私はいろいろな場所に赴いた。
役所、商店街、住宅、診療所、学校、いろいろな場所を散策して思ったことは一つ、遅い時間帯とはいえ人が人っ子一人いない。
いくらなんでもこれは不自然だ。
あまりにも不自然だから家の中も覗いて見た。
しかし、人はいなかった。
私はこのあまりに不自然な出来事に不安感を募らせていた。
地図によれば、後は教会を残すのみなんだがここが一番嫌な予感がして近づけないでいた。
私は意を決して教会に行くことにした。

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教会前

「やはり、ここだけ明かりが灯されている。何かあるのだろうか?」

疑問に思いつつも、調べるために扉を開けた。
しかし、おそらく大聖堂に当たる部分だろう場所にはやはり人がいなかった。
たくさんの椅子に彼らが神と崇める石像があるだけだった。

「おかしい、ここにも人がいないなら彼らはいったいどこにいったんだ」

フレイヤは辺りを警戒しながら歩いていく。
特に怪しいものは見つからず、とりあえずこの異常性を伝えるべきだと判断し引き返そうとしたその時。
何か悲鳴のような声がかすかに聞こえたのだ。
その声は祭壇の方から聞こえてきた。
気になったフレイヤは祭壇の方へと駆け出した。
すると祭壇の裏側に階段があった。
どうやら先ほどの悲鳴のような声はここから聞こえてきたらしい。
フレイヤは引き返すかどうか迷ったが、真実が知りたいという思いから階段を恐る恐る降りていった。

階段降りていくにつれて段々と悲鳴が大きくなるのがわかった。
長い階段を降り終わるころには悲痛な叫びが断続的に聞こえるのだ。
フレイヤはいったい何が起こっているのか理解できないでいた。
ただわかることはこれは人の悲鳴だということだ。
声はこの先の扉から聞こえる。
恐る恐るフレイヤは扉を少し開けた。

するとそこには信じられない光景が広がっていた。
老若男女を問わず死体が無数に転がっているのだ。
死体には切り傷がつけられており、おそらく斬殺されたのだろう。
フレイヤは気分が悪くなり、おもわず口を押さえた。

 信じられない、何が起こっているんだ。なぜ人が死んでいるんだ?

直感的にやばいと感じたフレイヤは慌てて去ろうとした。

 ギィ ガタン!!

扉の取っ手を離した瞬間に扉が勢いよく閉まってしまったのだ。

誰だ!!侵入者がいるぞ!!

 しまった、気づかれた。

フレイヤは駆け出した。
いくらなんでもこんなところで見つかればただではすまない。
その思いで必死に逃げ出した。
先ほどの階段を必死に登りもうすぐ逃げられると思った矢先だった。
大聖堂に飛び出したフレイヤの目に映ったのは白銀の鎧を身にまとい整然と待ち伏せをしている教会騎士団だった。

「貴様か我らの秘密を見た者は」

待ち伏せをしている騎士団の中から、いかにも団長といった感じの男が出てきた。

「バ、バカなあそこからどうやって先回りしたというんだ」

「何、簡単な話だ。我々には魔導師がいてな、その魔導師の転移魔法を使い先回りをしたのだよ」

「くっ、なんてこった」

「さて、我々の秘密を見たのだ。当然生きて帰れるとは思っていないだろうな」

「秘密というのはあの死体の山のことか?」

「そうだ」

「なぜだ、お前達は魔物を憎んでいるだけのはずだ。なのになぜ同じ人間を殺した!?」

「それをなぜ貴様に教えなければいけないっといいたいとこだが冥土の土産に教えてやろう。奴らは反逆者だ」

「反逆者?」

「そうだ。奴らはこともあろうに魔物と手を取り歩み寄ろうと言い出したのでな、我々が神に変わり罰を与えたのだ」

「な、なんてひどいことを、そんなことをして何になるんだ。お前達の戦力ではエリエールを落とせないことくらい知っているはずだ」

「ああ、知っているとも、だが我々だけではなく増援が来るとすればどうだろうか」

「ぞ、増援」

「その増援がまもなく到着する予定なのだよ、アイビスカからね」

「ま、まさか!?」

「そうそのまさかだ。我々は再びこの地を奪還し、悪しき魔物を滅ぼすのだ」

「ならばなおのことここで死ぬわけにはいかない、意地でも逃げ切って見せる」

「そうはいかん、ここが貴様の墓場となるのだ。かかれ!!!!」

彼の部下であろう騎士達が一斉に剣を抜き遅いかかってきた。

はあああああああ!!!!!!

四方八方からフレイヤを殺そうと切りかかる騎士達。

「くっ!」

そしてそれを受けまいと盾と剣を使いながら攻撃をかわすフレイヤ。
反撃をしようと試みたが、いかんせん数が多い。
反撃ができる隙がまったく見当たらない。
まさに八方塞だった。
次第に交わしきれなくなってきたのかフレイヤの体に切り傷がつき始めた。

「ふっふっふ、どうやらかなりできるようだがさすがにこの人数ではひとたまりもあるまい。あきらめて死ぬがよい」

フレイヤは思考をフル回転させていた。
どうすればこの戦局から逃げ出せるか。
そしてあることを思い出した。
それは護身用にとアーニーから渡された閃光石だった。
これは強い衝撃を与えると凄まじい閃光が放たれる不思議な石だという。
これをつかえば何とかなるかもしれない。

「さあお前達その女を楽にしてやれ」

うおおおおおおおおお!!!!!!

騎士達が再び襲い掛かってきた。
その瞬間にフレイヤは閃光石を叩き付けた。

 カッ ピカーーーー

突如フレイヤの足元で凄まじい閃光がおきた。
その光に襲い掛かった騎士達は目を眩ませてしまいその場で動けなくなってしまった。

フレイヤはここだと言わんばかりに一気に駆け出した。
しかし。

「待て、どこへ行こうというのかな」

そこには騎士団長がいた。

「くっ、なぜ?」

「貴様が閃光石を使う瞬間が見えたからな、閃光石は近くのものには有効だが遠くのものには余り効果が無いのだ。そして私は使う瞬間に目を閉じたからな」

「くそ!」

「どうやら部下はしばらく目が使えないらしい、よって私がお相手をしよう」

フレイヤは感じていた。この男は今まで戦ったどんなやつよりも強いと、戦わずして通り抜けることはできそうにないと、そう感じていた。

「我が神に祝福されしこの聖剣の錆にしてやろうではないか、ゆくぞ!!」

男は剣を勢いよく振り下ろした。
フレイヤはとっさに横っ飛びをした。

 ドッカーン!!

振り下ろされた場所はその剣の凄まじい威力で吹き飛んでいた。

「なんて威力だ。あんなものまともにもらうわけにはいかない」

「なかなかいい反応だ。ではこれはどうかな?」

すると男は一気に間合いを詰め連続で切りつけてきた。
その攻撃はリサの連撃に非常に似ていた、しかし威力はリサよりも上なのがわかりフレイヤはあせった。

 ガッキーン!!!!

フレイヤは盾と剣を使い男の攻撃を止めた。

「ふむ、この連撃が危険と見て止めにきたか、いい判断だがその装備でいつまで持つかな?」

「くっ!!」

男が言うとおりフレイヤの装備は冒険者の初期装備、とてもじゃないが強度はそれほどよくない。

 グ ググ グググ バッキーン

フレイヤの剣がついに折れてしまった。
男はそのままフレイヤを切りつけた。

「ぐああああああああ!!!!」

正面から切りつけられ倒れるフレイヤ。

「なかなかがんばったようだが、これで終わりだ」

男が剣を振りかぶり、振り降ろそうとした時。

「んんっ!!」

フレイヤが持っていた盾を投げたのだ。

 バシッ

「ぐお!」

フレイヤは持てる力を使いその隙を突いて駆け出した。

「ぐっ、貴様待てー!!!」

全力で走ってはいるが先ほど切られた傷の影響があるのか動きが鈍い。
何とか教会の外に出れたがフレイヤに走る体力は残っていなかった。

「手間を取らせやがって、さっさと死ぬがいい」

 こんどこそもうだめか。
フレイヤの心が折れかかったその時だった。

 ガッキーン!!!

剣がはじかれる音がした。
フレイヤはその音のほうを見た。
そこにいたのは大剣で攻撃を受け止めていたターキン=レオンだった。
レオンは凄まじい形相をしていた。
その表情は怒りに染まっていた。

「よくもフレイヤに剣を向けやがったな、てめえ覚悟できてるんだろうな!!」

「なっ、き、貴様は」

「死にやがれー!!!」

刹那、騎士団長はぶっ飛んでいた。

「ぐわああああ!!!!!」

 ドサッ

鎧ごと切られて、騎士団長は白目をむいて気絶していた。

「れ、レオ・ン・・殿・・・」

「大丈夫か!フレイヤ!・・・」

 私の意識はここで途絶えた。

   −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

気がついたとき私は病院のベッドの上に寝かされていた。
周りには私の看病に来ていたのかカリン達をはじめ、レオンとアーニーもいた。

「ここは病院?」

「そうじゃ、すまなかったワシの出した依頼のためにこのような怪我を負わせてしまい、まことに申し訳ないのじゃ」

「そうか、私はあの男に切られて気絶してしまったのか」

「よかったぜ。フレイヤに死なれたら困るからな、まったくあんなところまで突っ込むなんて何を考えているんだ!」

フレイヤは驚いていた。
普段はおちゃらけていそうなレオンがこんなにもまじめに怒っていることに。

「すいません」

「あいつらのことなら心配するな、軍を使って捕まえたからな。まったく恩をあだで返すとはこのことだぜ」

「はっ、そうだ!やつらがアイビスカより援軍がくるといっていました!」

「その点は大丈夫だ。グランが叩き潰して追い返したそうだ」

「叩き潰した?」

「ああ、なんでも南関所を襲撃してきたやつらがいてな、そいつらが所持していた物に教団のマークがあったからな」

「そうなんですか」

「さあもう少し寝ていろ、目が覚めたとはいえ安静には変わりないんだからな」

「はい」

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こうして私の初めての依頼は半分成功、半分失敗という形で幕を下ろした。
北居住区はほとんどの人が教団に惨殺され生き残りはいなかったらしい。
今後は新しい住人が住み着くのを待つ状態らしい。
私はもっと強くなりたい、そう思うようになった。
なぜならカリン達が私のことを見て泣いていたからだ。
もう彼女達を心配させまいと私は心に決めたのだった。

                                        ○月×日 ヴァル=フレイヤ

11/01/19 16:46更新 / ミズチェチェ
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■作者メッセージ
よっしゃー投下じゃー。
何とか散策編を終えることができました。
この先はギルドでの活躍編に移っていこうと思います。
皆様の感想を楽しみにしております。
ちなみにちょっと後半をやっつけ作業で書いてしまいましたので後で直すかもしれません。

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