一話 入学式
俺は伊勢谷 満(いせや みつる)。今年、高校生になる。
ただの一般人さ。そう思っていたよ。今日この日までは。
ウィルフィート学園。
俺がこれから通う学校だ。
世間一般では、ウィルフィート高校と呼ばれている
ここは、ほかの学校とは少し違ったところがある。それは、人魔共学という異例の制度があるということだ。
ここの生徒は、魔物、神族、親魔物派、反魔物派と大きく別けて四つのグループがある。いや、二つかな?
だって、判るだろ?そこはまぁ察してくれ。どうしても判らないなら、学校の受付の人に聞いてくれ。そもそも人かどうかは知らないけど。
そんな事をブツブツと呟いてるうちに、どうやら校門の前に着いた。
学校の外側は白い壁で覆われ、門は赤い。
そして内側はかなり豪華で、一言で言えば何処かの宮殿の様な広い造りになっていた。
「ここが『ウィルフィート学園』、と。随分広いなぁ。」
見れば見るほど、本当に中は広く感じられた。
そして、中に入ろうとすると、警備員の様な格好をした恐らくは人間の男性の職員に止められる。
「おい君、君のお父さんかお母さんはどうしたんだい?」
どうやら、不審者としてではなく、単に親が同伴していない事に対する心配だったようだ。
「母さんも父さんも仕事でこっちに来ることができないから、一人で行くように言われたんだ。」
そう伝えると彼は少し考えた顔をして、こう訪ねてきた。
「何か伝言を預かってないかい?」
「あぁ、『アイリスの紹介だ。』って言えと言われたよ。」
「分かった、ちょっと待っててくれないか?」
「はい…。」
そう言うと彼は守衛室の電話を取り、誰かと連絡を取り始めた。
「お待たせ。じゃ、付いてこい。君の担任の先生の所まで案内してやろう。」
「ありがとうございます。」
◇
「あぁ、君が例の新入生か。うちは西行 桜ゆうんや。ほな、よろしゅうな。」
「あ、はい。俺は伊勢谷満です。よろしく。…っていうか『例の』ってどういうことですか?」
「ふふ、それは後のお楽しみや。」
西行先生は、なんかおっとりとしていて毒気を抜かれてしまった。
俺の担任の先生はどうやら妖狐の様だ。尻尾は九本。最上位の妖狐だということがわかる。
なぜそんな事がわかるかって?大抵の妖獣はしっぽの本数で強さや位が決まるのさ。
「そろそろ教室に行っとき。後でまたお話ししまひょ。」
「はい、では失礼します。」
職員室を後にして、先生から貰った簡単な学校の地図を貰い、教えられた教室に向かった。
◇
ガラガラ…
今時珍しい横引の扉を開けて、教室に入る。
教室には色んな種族の魔物や人間の生徒が殆ど揃い、席についていた。
いくらかの生徒はすでに友達を作り始めている。
教卓の上に置いてある座席表を見て、自分の席に着いた。
しばらくすると、教室の前の扉から西行先生が入ってきた。
「はーい皆さん、おはようさん。うちは今日から君らの担任になる、西行 桜いいます。よろしゅうな〜。」
彼女はさっさと自己紹介を済ませ、生徒たちの名前の確認などを始めた。
俺の名前の確認のときは、みんなには分からない程の微かな笑みを浮かべていた。だがその笑みには卑しさはなく、どこかこれからの事に期待するような優しい笑みだった。
「さぁて、そろそろ入学式やから廊下に私の指示した通りに並んで頂戴な〜。」
◇
「………これで、入学式を閉式致します。どうか良い学園生活を!」
今日は何故か校長が不在で、代わりに学園教頭が挨拶をしていた。
理由を西行先生に訊いてみても、「さぁ、何でやろねぇ?」
などととぼけてみせた。
教室に戻り、自分の席で机に突っ伏し「グデーン」という効果音が相応しい程にグダグダしていたら、不意に声を掛けられた。
「なぁなぁ、お前ってニンゲンだろ?入試試験ってどんな事をしたんだ?」
声を掛けてきたのは、身体の所々に黒い体毛を生やした、恐らくはワーウルフらしき男子生徒(?)だ。見た目が中性的で一見すると男か女か判らない。
見た目は、まぁ魔物っていうところを除けば普通より少し明るめな高校生と言えるようなやつだった。
「…?この学園って入試試験があったのか?」
「え!?…ってことは試験を受けなかったのか?」
…何だと、この学園に入試試験があったなんて初耳だぞ。
っていうかだったら何故俺は入学できてる?
頭の中は疑問でいっぱいになった。
帰ったら親に聞いて見るか。
そう考えていると校内放送で、俺の名前が呼ばれた。『一年A組、伊勢谷 満君。至急職員室に来てください。繰り返します、………。』
…え、お、俺、何かしたのか?…え?
「おい、何かやらかしたのか?」
「分かんねぇ、でもとりあえず行ってくるわ。」
俺は急いで教室を後にして職員室に向かった。
◇
「遅れました、伊勢谷です。」
「おぉ、こっちやこっち。おいでや〜。」
職員室に入るとすぐに声を掛けられ、そっちの方へ向かう。
「どうやった?この学園は。まぁだ見とらへんところがあるかも知らへんけどええとこやろ?」
「はい、思ったより…」
「…思ったより和やかやった?」
「はい…。」
彼女はこっちの考えを見透かしているように言葉を先回りした。
「あと、一つ訊きたいことがあるんですけど。」
「何故、『試験を受けずに入学できたのか。』かいな?」
やはり心を読まれているのか。九尾の妖狐なだけある。
「いやいや、さっきのは心は読んどらんよ?当然の疑問やからなぁ。」
「…!」
「うちは心を読もうと思えばいくらでも出来るんやけど、それやと何か味気ない気がしてな、普段は読んどらんのよ。」
彼女はクスリと笑った。
「話がズレたけどな、なぁんで君がここに入学出来たのか教えたるわ。付いてき。」
俺は彼女に手を掴まれ、校長室に連れて行かれた。
「これは…。」
「驚いた?君のお母はんはサキュバスなんや。そして…」
彼女は校長室の脇にある窓側の本棚の前に立ち、聞き取りにくい呪文を唱えると、『ガコンッ』という音と共に本棚が床に沈むように降りていった。
「ここは…?」
「ここは理事長室や。ほな、これ見てみぃ。」
「これ、親父じゃないか…!」
「これで分かったかな、君が試験も無しに入学できた理由は。」
…まぁ、一応は納得できるが、まだ分からないところがある。
それは何故、『この学園でなければならなかったのか』ということだ。
親父も、母さんも二人揃って脅迫のような勧め方をしてきたから、仕方なく入ったようなものだった。本来、どの学校でも良かった筈なものなのに。
「詳しいことはうちにも分からへんから、まぁ帰ったら聞いてみるのも良いかもしれへんなぁ。」
「そうですね…、そうします。」
少し困ったような顔をしてそう言った彼女に俺はそう答えることしかできなかった。
「そろそろ、戻ったほうがええな。」
「はい。」
彼女は懐中時計を見つつそう提案してきた。
◇
教室に戻ると皆から不思議なものを見るような目で見られた。
「おい、どうだったんだ。何かあったのか?」
「いや、何でもない、大丈夫さ。」
俺が席に着くと彼は、すぐに駆け寄ってきた。
「あ、そういや俺、お前の名前訊いてなかったわ。とりあえず俺から自己紹介な。『伊勢谷 満。種族は見ての通り人間。得意なものは『行動の先読み』程度だ。」
「じゃあ、次はオレだな。『オレは、アルフレッド・ローウェン。種族はワーウルフ!得意なものは誰よりも速く駆ける事さ!』」
◇
放課後、俺たち二人は途中まで一緒に帰ることにした。
彼の方が家が近いらしく、途中で別れた。
そして俺は家に帰宅した。
やはりというか、案の定家には誰もいなく、リビングのテーブルには生姜焼きが置いてあり、こう書き置きがあった。
『ごめんね、みっくん。母さんたちは今忙しくて、大した料理を作れないの。なるべく早く仕事を終わらせる様にするから待っててね?』
…分かってる。分かってるよ母さん。
少し冷めかけた母さんの料理に、少し寂しさを覚えるけど、だけどそこにはしっかりと温かな優しさがあった…。
ただの一般人さ。そう思っていたよ。今日この日までは。
俺がこれから通う学校だ。
世間一般では、ウィルフィート高校と呼ばれている
ここは、ほかの学校とは少し違ったところがある。それは、人魔共学という異例の制度があるということだ。
ここの生徒は、魔物、神族、親魔物派、反魔物派と大きく別けて四つのグループがある。いや、二つかな?
だって、判るだろ?そこはまぁ察してくれ。どうしても判らないなら、学校の受付の人に聞いてくれ。そもそも人かどうかは知らないけど。
そんな事をブツブツと呟いてるうちに、どうやら校門の前に着いた。
学校の外側は白い壁で覆われ、門は赤い。
そして内側はかなり豪華で、一言で言えば何処かの宮殿の様な広い造りになっていた。
「ここが『ウィルフィート学園』、と。随分広いなぁ。」
見れば見るほど、本当に中は広く感じられた。
そして、中に入ろうとすると、警備員の様な格好をした恐らくは人間の男性の職員に止められる。
「おい君、君のお父さんかお母さんはどうしたんだい?」
どうやら、不審者としてではなく、単に親が同伴していない事に対する心配だったようだ。
「母さんも父さんも仕事でこっちに来ることができないから、一人で行くように言われたんだ。」
そう伝えると彼は少し考えた顔をして、こう訪ねてきた。
「何か伝言を預かってないかい?」
「あぁ、『アイリスの紹介だ。』って言えと言われたよ。」
「分かった、ちょっと待っててくれないか?」
「はい…。」
そう言うと彼は守衛室の電話を取り、誰かと連絡を取り始めた。
「お待たせ。じゃ、付いてこい。君の担任の先生の所まで案内してやろう。」
「ありがとうございます。」
◇
「あぁ、君が例の新入生か。うちは西行 桜ゆうんや。ほな、よろしゅうな。」
「あ、はい。俺は伊勢谷満です。よろしく。…っていうか『例の』ってどういうことですか?」
「ふふ、それは後のお楽しみや。」
西行先生は、なんかおっとりとしていて毒気を抜かれてしまった。
俺の担任の先生はどうやら妖狐の様だ。尻尾は九本。最上位の妖狐だということがわかる。
なぜそんな事がわかるかって?大抵の妖獣はしっぽの本数で強さや位が決まるのさ。
「そろそろ教室に行っとき。後でまたお話ししまひょ。」
「はい、では失礼します。」
職員室を後にして、先生から貰った簡単な学校の地図を貰い、教えられた教室に向かった。
◇
ガラガラ…
今時珍しい横引の扉を開けて、教室に入る。
教室には色んな種族の魔物や人間の生徒が殆ど揃い、席についていた。
いくらかの生徒はすでに友達を作り始めている。
教卓の上に置いてある座席表を見て、自分の席に着いた。
しばらくすると、教室の前の扉から西行先生が入ってきた。
「はーい皆さん、おはようさん。うちは今日から君らの担任になる、西行 桜いいます。よろしゅうな〜。」
彼女はさっさと自己紹介を済ませ、生徒たちの名前の確認などを始めた。
俺の名前の確認のときは、みんなには分からない程の微かな笑みを浮かべていた。だがその笑みには卑しさはなく、どこかこれからの事に期待するような優しい笑みだった。
「さぁて、そろそろ入学式やから廊下に私の指示した通りに並んで頂戴な〜。」
◇
「………これで、入学式を閉式致します。どうか良い学園生活を!」
今日は何故か校長が不在で、代わりに学園教頭が挨拶をしていた。
理由を西行先生に訊いてみても、「さぁ、何でやろねぇ?」
などととぼけてみせた。
教室に戻り、自分の席で机に突っ伏し「グデーン」という効果音が相応しい程にグダグダしていたら、不意に声を掛けられた。
「なぁなぁ、お前ってニンゲンだろ?入試試験ってどんな事をしたんだ?」
声を掛けてきたのは、身体の所々に黒い体毛を生やした、恐らくはワーウルフらしき男子生徒(?)だ。見た目が中性的で一見すると男か女か判らない。
見た目は、まぁ魔物っていうところを除けば普通より少し明るめな高校生と言えるようなやつだった。
「…?この学園って入試試験があったのか?」
「え!?…ってことは試験を受けなかったのか?」
…何だと、この学園に入試試験があったなんて初耳だぞ。
っていうかだったら何故俺は入学できてる?
頭の中は疑問でいっぱいになった。
帰ったら親に聞いて見るか。
そう考えていると校内放送で、俺の名前が呼ばれた。『一年A組、伊勢谷 満君。至急職員室に来てください。繰り返します、………。』
…え、お、俺、何かしたのか?…え?
「おい、何かやらかしたのか?」
「分かんねぇ、でもとりあえず行ってくるわ。」
俺は急いで教室を後にして職員室に向かった。
◇
「遅れました、伊勢谷です。」
「おぉ、こっちやこっち。おいでや〜。」
職員室に入るとすぐに声を掛けられ、そっちの方へ向かう。
「どうやった?この学園は。まぁだ見とらへんところがあるかも知らへんけどええとこやろ?」
「はい、思ったより…」
「…思ったより和やかやった?」
「はい…。」
彼女はこっちの考えを見透かしているように言葉を先回りした。
「あと、一つ訊きたいことがあるんですけど。」
「何故、『試験を受けずに入学できたのか。』かいな?」
やはり心を読まれているのか。九尾の妖狐なだけある。
「いやいや、さっきのは心は読んどらんよ?当然の疑問やからなぁ。」
「…!」
「うちは心を読もうと思えばいくらでも出来るんやけど、それやと何か味気ない気がしてな、普段は読んどらんのよ。」
彼女はクスリと笑った。
「話がズレたけどな、なぁんで君がここに入学出来たのか教えたるわ。付いてき。」
俺は彼女に手を掴まれ、校長室に連れて行かれた。
「これは…。」
「驚いた?君のお母はんはサキュバスなんや。そして…」
彼女は校長室の脇にある窓側の本棚の前に立ち、聞き取りにくい呪文を唱えると、『ガコンッ』という音と共に本棚が床に沈むように降りていった。
「ここは…?」
「ここは理事長室や。ほな、これ見てみぃ。」
「これ、親父じゃないか…!」
「これで分かったかな、君が試験も無しに入学できた理由は。」
…まぁ、一応は納得できるが、まだ分からないところがある。
それは何故、『この学園でなければならなかったのか』ということだ。
親父も、母さんも二人揃って脅迫のような勧め方をしてきたから、仕方なく入ったようなものだった。本来、どの学校でも良かった筈なものなのに。
「詳しいことはうちにも分からへんから、まぁ帰ったら聞いてみるのも良いかもしれへんなぁ。」
「そうですね…、そうします。」
少し困ったような顔をしてそう言った彼女に俺はそう答えることしかできなかった。
「そろそろ、戻ったほうがええな。」
「はい。」
彼女は懐中時計を見つつそう提案してきた。
◇
教室に戻ると皆から不思議なものを見るような目で見られた。
「おい、どうだったんだ。何かあったのか?」
「いや、何でもない、大丈夫さ。」
俺が席に着くと彼は、すぐに駆け寄ってきた。
「あ、そういや俺、お前の名前訊いてなかったわ。とりあえず俺から自己紹介な。『伊勢谷 満。種族は見ての通り人間。得意なものは『行動の先読み』程度だ。」
「じゃあ、次はオレだな。『オレは、アルフレッド・ローウェン。種族はワーウルフ!得意なものは誰よりも速く駆ける事さ!』」
◇
放課後、俺たち二人は途中まで一緒に帰ることにした。
彼の方が家が近いらしく、途中で別れた。
そして俺は家に帰宅した。
やはりというか、案の定家には誰もいなく、リビングのテーブルには生姜焼きが置いてあり、こう書き置きがあった。
『ごめんね、みっくん。母さんたちは今忙しくて、大した料理を作れないの。なるべく早く仕事を終わらせる様にするから待っててね?』
…分かってる。分かってるよ母さん。
少し冷めかけた母さんの料理に、少し寂しさを覚えるけど、だけどそこにはしっかりと温かな優しさがあった…。
12/09/18 17:15更新 / 花林糖
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