読切小説
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波の歌声
僕が毎週末に必ずこの海岸に来るようになって1か月になる。

8月の頭から仕事が上手く行かずにもやもやした気分で毎日を過ごしていた僕は、
貴重な週末を家にこもって特に何をするわけでもなく朝からゴロゴロしていた。
「暇だ……」
とは言っても何もする気も起きず、その日は面倒だしもう寝てしまおうかと布団にくるまった。
自覚はなかったが、疲れていたのだろう。僕はすぐに眠りに落ちてしまった。

目が覚めると時計は昼前を指していた。随分と懐かしい夢を見た。
あれは小学校の低学年くらいだっただろうか。家族で海に行った時の記憶。
ぼんやりとした記憶だが、場所は何となく覚えていた。
いい気分転換になるかもしれない。楽しかったあの頃を思い出して久しぶりに海を見たくなった僕は、自転車に乗ってマンションを出た。

「マジか……」
海岸へ向かうトンネルの入り口は看板とチェーンで塞がれていた。
どうやら10数年の間で立ち入り禁止になってしまったらしい。
海水浴場というわけでもなかったし、大きな岩もあちこちにあったような気がするから、
恐らく危険だということで封鎖されたのだろう。
しかしここまで1時間かけて来たのにはいそうですかと素直に帰るのも癪ではある。
「まあただのチェーンだしいいか」
少し錆びたチェーンを乗り越え、僕は再び自転車に乗ってトンネルの中を進んで行った。
トンネルを抜けると、柔らかな日差しと共に潮の香りと一面の青い海が目に飛び込んできた。
「うわぁ…」
10数年ぶりに見る海は凪いでいて、きらきらと輝いて見えた。
「こんなに綺麗だったっけ…。来てよかったな」
この光景を見ただけでもう満足しているが、せっかくだし海岸まで行ってみようと
自転車を走らせた。
顔を撫でる風が気持ちいい。浜風が吹いているのにべたつかないし、
町からあまり離れていないはずなのに空気も綺麗な気がする。
こんなにもいい所なのにどうしてあれ以来一度もこの海岸に遊びに来なかったのだろうか。
そんなことを考えていると、海岸にたどり着いた。
左右が大きな岩で囲まれていて、この浜辺のあたりだけ窪んでいる。
僕は自転車を止め、少しの荷物を持って浜辺へと向かった。
小さな岩場に腰を落ち着け、改めて海を見る。
「思い出は美化されるっていうけど、あの頃より今の方がずっと綺麗な気がするなぁ」
感性が変わったのか、視点が変わったからなのか。記憶の中の海よりも輝いて見えた。
まああの頃は遊ぶのに夢中だったからかもしれないが。
そんなことを考えながら、道中コンビニで買ったおにぎりを取り出す。
道中そこそこ時間がかかったこともあり、僕の胃袋は鳴き声を上げていた。
具は普通の鮭だが、潮の香りもあってか普段より旨い気がする。
ゆっくりした時間を過ごしていると、さらさらとした波の音の間に別の音が聞こえてきた。

  ラ〜ラ〜ララ〜

「?…歌?」
どこからか聞こえてくる歌は歌詞は無く大きな声ではなかったが、波の音に掻き消されず
しっかりと歌声を僕の耳に届けてきた。
「綺麗な声だな…」
はっきりと通る澄んだ声なのにとても優しく、母親が子に聞かせる子守唄のような暖かさを感じた。
僕は昼食を食べるのも忘れ、目を閉じてその歌声にすっかり聞き入ってしまった。

ふと気が付くと海はオレンジに染まっており、あの綺麗な歌声もいつの間にか消えてしまっていた。
いつの間にか眠ってしまっていたようで、顔を上げた僕の前からバサバサと鳥が数羽飛び立っていった。
僕はどうやら彼らへ食事をおごってしまったらしい。
仕方がないので彼らの食べ残しとごみを片付け、自転車へ向かう。
昼食は食べ損ねたが、あの歌声の人のおかげで今までにないくらい幸せな時間を過ごせたからむしろお釣りがくるだろう。
「あの歌…また聞けるかな」
明日も休みだしまた来てみよう。僕の休日の予定が久しぶりに埋まったのだった。
しかし心と予定は埋まったが、僕のお腹は抗議の声を上げていた。
「…なんか食べて帰るか…」
翌日、大体同じ時間帯にあの場所へ向かったが、その日はあの歌声の主は現れなかった。

日曜には聞けなかったものの、あの歌のおかげで僕はその週の仕事のモチベーションを維持することができ、
だんだんと以前のようにこなせるようになってきた。
次の週末も丁度晴れていたので、僕はあの海岸へと足を運んだ。
同じくらいの時間に向かったからだろうか、浜辺に着くとあの歌声が聞こえてきた。
前回はあまりよく分からなかったが、よくよく聞いてみるとどうやら岸壁の裏の方から聞こえてくるようだ。
先週と同じ岩に腰かける。今日は食事は先に済ませ、代わりに本を持ってきた。
彼女の歌声は癒し効果でもあるのか、とてもリラックスして読書ができると思ったのだ。
よくよく聴いていると、偶に音がずれることがあるが、あまり気にならなかった。むしろ完璧すぎなくて好みだし、かわいらしくもある。
「って勝手に女の人だと思ってるけど、どうなんだろ?高い声だけど…」
ある程度読んだところでふとそんなことを考えた。ぜひこの声の主に会ってみたいが、岩陰に隠れて歌っているということは
あまり人前に出たくないのだろう。流石に無理やり顔を見に行くのは失礼だろうし、僕もそんなことはしたくない。
今日も観客に徹することにしたのであった。

次の週末も、その次の週末も彼女の歌を聴きに行った。仕事がつらくとも週末に彼女の歌が聞けると思うと頑張れた。
そして1か月がたった今日。そろそろ夏も終わりかけで最近は夜も肌寒く感じてきた。
「夏が終わったら彼女には会えないのかな…」
流石に秋や冬に刺すような浜風の海で歌う人はいないだろう。そう思うと、
彼女の歌がもう聞けなくなるんじゃないかと不安になってきた。
「いつまでも依存するわけにもいかないよな…」
もしかしたら今回で最後かもしれない、そんな気がして僕は最後に彼女に声をかけることにした。
日が傾き、いつも通りの綺麗な歌が終わった後、僕は岩陰に向かって拍手を送った。
「うひゃぁ!」
…すごい変な声で驚かれた。どうも僕の存在には全く気付いていなかったらしい。まあ今まで静かにしていたし当然といえば当然なのだが。
「すいません、まさかそんなに驚かれるとは…」
「えっ…誰…?まさか聞いてたの…?」
あぁ。歌ってなくてもきれいな声だなぁ…。
「はい。ここ一か月ほど毎週こさせていただきました。とても素敵な歌声だと思って。」
よくよく考えると誰かもわからない男に毎週こっそり歌を聞かれるってストーカーじゃないのだろうか。
もしかしたら結構まずいことをしてしまったかもしれない。
「えぇー…全部聞かれてたの…?恥ずかし…誰もいないと思ってたんだけどなぁ」
「その、別に変な意味とかじゃないんです。ただ、お礼を言いたくて」
「お礼?私何かしたかな…?」
一度声を掛けてしまったし、もう会う機会もないかもしれない。だから僕の気持ちを全部伝えることにした。
「初めてここに来たとき、僕は仕事が上手くいっていなくて、少しは気分転換になるんじゃないかと思って昔遊びに来たこの海岸に来たんです。そしたらあなたの歌が聞こえてきて…。あたたかく包まれるような、そんな優しい歌だと感じたんです。」
彼女は黙って僕の話を聞いてくれているようだ。波の音でよく分からないが、きっとまだそこにいてくれているはずだ。
「あなたの歌を聴いてとても幸せな気持ちになれました。おかげで今は仕事の方も順調ですし、毎週あなたの歌を聴けると思うと頑張れています。全部…あなたのおかげです。本当にありがとうございました」
「そ…そこまで言われるとちょっと照れる…」
ちゃんと聞いていてくれてたみたいだ。それにあまり変な奴と思われてないみたいだし良かった。
「そろそろ肌寒くなってくる時期ですし、流石に寒い時期には海で歌わないんじゃないかと思って。もうあなたの歌が聞けないかもしれないし、最後にお礼が言いたかったんです」
「あー確かに最近寒くなってきたもんね…うん。私の歌も今日でおしまい。
…ねぇ、ちょっと暗くなってきたけど、今日で最後だし、せっかくだからもう一回聞いていかない?」
「えっ!いいんですか!?ぜひお願いします!」
彼女の方からこんな提案をされるとは思ってなかった。どうせ明日は何もないし、多少遅くなっても何も問題ない。
むしろここで拒否する方があり得ないだろう。
「うん。それじゃ、いくよ…」
それから暫く夕暮れの中彼女の歌に聞き入った。最後だから気合が入っているのだろう、彼女の歌はいつもより美しく、しっとりとしているのに海のようにどこまでも広がっていくような歌声だった。

「…はい。これでおしまい。誰かに聞いてもらってると思うと緊張しちゃった。どうだった?」
あぁ、これで終わってしまうのか…。彼女の歌声を惜しみながら、僕はさっき思ったことを素直に伝えた。
「そっか…うん。こんなに褒めてくれるなんて、聴いてるこっちが恥ずかしくなってきちゃうね」
僕の気のせいかもしれないけれど、そう答えた彼女の声は寂しいような、悲しいような、そんな感じがした。その声を聞いて、僕は絶対にしないと決めていたのに、どうしても彼女の顔を見たくなってしまった。
どんな顔をしているかわからないけど、分かれる前に彼女には笑っていてほしいから。
「?どうしたの…?」
近づいてくる足音に気づいたのだろう。彼女が声を掛けてきた。
「すみません。やっぱりどうしてもあなたを一目見たい。目を見てちゃんとお礼が言いたいんです」
すると、彼女は急に慌てた様子で僕を制止した。
「ダメ!こっちに来ちゃダメ!暗くなって足場も見づらいし、足元も滑るし!それに…」
「大丈夫です。気を付けますから」
「ダメだってば!わたしを見てもがっかりするだろうし、びっくりするだろうから…」
びっくりするとはどういうことだろうか?足元に集中していた気がそれて、岩の上のぬめりに気が付かず彼女の忠告通り足を滑らせてしまった。
頭に響く鈍い音と体が海に倒れこむ音。そしてぼんやりした視界には青白い肌の女性が泣きそうな顔でこちらに泳ぎ寄って来ていた。彼女に抱きかかえられながら、僕の意識は波の中へ消えていった。


正直変な奴だと思った。私なんかの歌を素敵だと褒めてくれたのだ。
私は自分の歌に全く自信がない。いや、無くなってしまったという方がいいだろう。
以前沖の方で漂いながら歌っていたら、どこから飛んできたのか数人のセイレーンが聴いていたらしく、くすくす笑いながら
「随分かわいい声だと思ったらこわーいサメのお姉さんじゃない♪」
「ときどき音程がずれてるじゃない。これじゃあその辺のマーメイドの子供の方がずっと上手いんじゃないの?」
「そんなんじゃ男の人捕まえられないね。あ、マーシャークってそうやって捕まえるんじゃないんだっけ?じゃああんまり上手くなくても大丈夫かな♪」
私は反論しようとしたが、矢継ぎ早に言葉を浴びせかけられ私は堪らず海の中に逃げ込んでしまった。
私の歌ってそんなに酷かったのだろうか。そうと知らずに今までずっと歌ってきたなんて、恥ずかしい。皆私の歌を聴いてさっきのセイレーンみたいに笑ってたのかな。
そう思うと、悔しくて、悲しくて、気が付けば私が寝床にしている沈没船の部屋の隅の方でうずくまっていた。
「ねぇ…カーラ?あんまりあの娘達の言うことを真に受けちゃ駄目よ?」
聞きなれた声がする。なんでか私の世話を焼きたがるシー・ビショップのソフィアだ。どうやら私の後をつけてたらしい。
「セイレーンって歌がすっごく上手な種族だからあの娘達と比較しても意味ないわ。
それにあの娘達結構嫌味な性格で有名だし。旦那さんがいるんだからもう少し丸くなってもいいと思うんだけど…」
「そっか。あの娘達には旦那さんがいるんだ…あはは…」
ソフィアの声が頭の中を滑っていく。でもあの娘達に旦那がいるというということだけは出ていかなかった。
「カーラ…?」
「私、何してるんだろうね。あの娘達だってソフィアだって旦那さんがいるのに、私だけなんにもない。」
「なんにも無くないじゃない。あなただってすぐに…」
「同情なんていらない。慰めなんて聞きたくもない。どうせあなたも心の中ではあの娘達みたいにへたくそだって笑ってたんでしょ?」
ああ、駄目だ。抑えられない。私の中に溜まってた黒いモノが止まらない。
「そんなことない!私は…!」
「男の人を捕まえるチャンスがあってもいっつも私だけ出遅れて気が付けば周りは皆彼氏か旦那持ち。いつまで経っても独り寂しく歌ってる私を嘲笑っていたんでしょ?」
こんなことを言いたいんじゃないのに。言いたくないのに。
「カーラ…!」
「うるさい!うるさいうるさい!もう構わないで!」
私は彼女からも逃げ出してしまった。住処を飛び出し、滅茶苦茶に泳ぐ。ソフィアが追ってきている気配がしたが、止まれなかった。
どこか遠い、誰もいない所へ行きたかった。一人になりたかった。
どれだけ泳いだろうか、私はあの浜辺にたどり着いた。流石にここまで追って来てはいないようでほっとしたが、寂しくもあった。
私は唯一の友達に酷いことを言ってしまった。傷つけてしまった。そう思うと、随分泣いたはずなのにまた涙が溢れてきた。
それからというもの、私は陸地からも海からも見えづらい岩場に腰かけ、何をするわけでもなくただ毎日を過ごしていた。
でも、気が付くと歌っていることがあって、やめようと思ってもいつの間にか声を出している。
自分でもわかる。私はあの娘達の言う通りへたくそかもしれないけれど、どうしようもなく歌うのが好きなんだと。
あれから何週間たったろうか。突然男の人に声を掛けられた。拍手をされたときは誰もいないものだと思っていたから
心臓が飛び出るんじゃないこと思うくらいにびっくりしたし、正直褒められるなんて微塵も思っていなかった。
彼曰く、私の歌は優しいらしい。生まれて初めて歌を褒められて凄く嬉しかった。だからアンコールなんて柄にもないことをしちゃったし。
まあ、そのあとに言われた歯の浮いたような感想は流石にどうかと思ったけれども。
その直後に彼がこちらへ来ようとしてることに気づき、慌てて止めた。波をかぶっている岩場は滑って危ないし、何より自分の姿を見られたくなかった。私たちマーシャークは人間に酷く怖がられているようで、前に海に物を落とした人は拾って来てあげた私を見るなり一目散に逃げていったのを今でもよく覚えている。
私の歌を、声を好きだと言ってくれる彼に怖がってほしくないから、私の中の幸せな思い出でいたかったから来ないでと言ったのに。
「どうして…だから言ったのに…!」
彼は私の言った通り足を滑らせ、頭を打ってしまったようだ。彼を抱き寄せた私の手が赤く染まる。
「やだ、嘘…こんな…!」
血が止まらない。どうすればいいかわからない。私は、私はどうすればいいの…!
「まだありがとうって…聞いてくれてありがとう言ってないのに…!こんなのやだ…やだよぅ…誰か助けて…!」
「もう、仕方ないですね。友達のよしみで助けてあげますよ」
聞きなれた、でもとても懐かしく感じる声に私は顔を上げた。
「ソフィア!どうしてここに…」
「そんなことは後!ほら、早く見せて!」
私は彼を恐る恐るソフィアに預ける。彼女はすぐに傷の確認をすると、眉をハの字に歪めた。
「これは…ちょっとまずいかも」
「そ、んな…」
自分でも声が震えているのがわかる。もう助からないの…?
「大丈夫、助けるわ。助けて見せる。ただ、その為にはカーラ、あなたに協力してもらわなきゃいけないの」
助かる…?彼が…!なら答えは一つ。なにも迷うことはない。
「わかった。どうすればいいの?何でも言って」
「これから彼に回復魔法をかけるわ。ただ私はこの魔法があまり得意じゃない。それに傷も結構深いし時間もかかる。まず間違いなく魔力が足りなくなるわ」
…それは、つまり…
「あなたの魔力を彼に注いでほしいの。私の魔法が終わるまで、ね」
あぁ、やっぱりそういうことか。…初めてはもっとロマンチックなのがいいなって思ってたけど、背に腹は代えられないよね。
「うん、わかった。私、彼とセックスするよ」
ソフィアは私の言葉を聞くが早いか、彼を波の来ない位置の岩場の上へ連れて行き、自分の服を脱いで彼をその上に寝かせた。
「彼はまだ儀式をしていないし、傷口に海水が当たるのはよくないから、やりづらいと思うけどここでしてほしいの」
彼女の上等な服を汚してしまうのは躊躇われたが、彼の命には比べられなかった。後で頑張って弁償するからそれで許してもらおう。
私が彼の元へたどり着くや否や、私達の周りに大きな魔法陣が浮かんだ。と同時に彼の傷口も淡く光り始めた。
私は彼の服を脱がせる間も惜しんで、彼のペニスをズボンから取り出す。
意識を失っているから小さくなっているそれを私は口に含み、舌で丹念に嘗め回した。
すると意識がなくとも気持ちがよいのか、だんだんと大きくなってきた。
こういうことをするのは初めてだったけど喜んでくれているみたいで嬉しくなった私は、大きくなった彼のペニスを
舐めているだけで十分に濡れてしまった自らの秘所にあてがい、膣内へと沈み込ませていった。
「んっ…ふっ…んぁっ…♥♥」
初めては痛いと聞いていたから少し身構えてしまったが、代わりにやってきたのは強い快感だった。
「こんなにっ…気持ちいいなんてっ♥♥…しらなっ…んんっ♥♥」
腰を上げて下ろす度に痺れるような感覚が股から頭の先まで走り抜けていく。
彼の上で体を支えている腕も震え、快感に負けて今にも崩れ落ちそうな状態だ。
でも、ここでやめたら彼が助からない。ちゃんと目を見て言いたいから…!
私は気合を入れなおし、腰を振るスピードを上げた。


なんだろう。凄く気持ちがいい。暖かくて優しい何かに包まれているような気分だった。
段々と意識がはっきりしてくると同時に、どこが気持ちいいのかもはっきりしてきた。具体的にはチンポがすごく気持ちいい。
僕は暖かさと気持ちよさに流されそうな意識を引き留め、重い瞼をゆっくりと上げる。
「な、なにを…うぅっ」
僕の目に飛び込んできたのは、白い肌を赤く染めながら必死に腰を振る女性の姿だった。
いや、よく見ると人ではない。熱い息が漏れている口からは鋭い牙が覗き、僕の上で震えながらも自重を支えている腕からは
大きなヒレのようなものが生えている。何より、僕のチンポと繋がっている彼女の下半身は、魚の下半身だった。
驚いて目を上の方に戻すと、彼女の黄色い瞳と目が合った。
「!目が覚めたのっ…良かった…んっ♥♥」
訳が分からない。どうしてこうなったのか考えようとすると急に激しい頭痛に襲われた。
顔をしかめ、とっさに手で頭を押さえると、ぬるりとした感触があり、手を見てみると、僕の手は血に染まっており、僕は血の気が引いていくのが自分でも分かった。
「大丈夫!?まだ痛むの…?」
「まだ完全に傷が塞がっていないみたい。そのまま続けて」
聞きなれない声の方を見ると、僕の上にいる彼女と似た姿をした女性が魔法陣のようなものの中におり、目を閉じてなにやら唱えているようだった。こちらは彼女と違い絵本とかに出てくる人魚そのものの外見をしていたが。
「んぁっ♥♥…わかった、わ…絶対、助けてあげるからねっ…♥」
そう言って腰を振る彼女の声は、正に岩陰で会話していた彼女の声で、動揺していた僕の心を落ち着けるには十分だった。
彼女が人間でなかったことは驚いたが、そんなことが気にならないくらい彼女は美しく見えたし、好きになった綺麗な声は変わらなかったからだ。
それどころかあの綺麗な声で淫猥に喘いでいる今の彼女は僕をひどく興奮させた。
そんなことを考えていたが、下半身の強烈な快感に意識を戻される。セックスなんてしたことが無かったが、女性の膣内はこんなにも気持ちがいいものなのか。
彼女の膣内は僕のチンポを咥えこんで離すまいと締め上げてくるし、彼女の腰の動きに合わせて自在に形を変えるおかげで、イクのをこらえるのに必死だったが、そろそろ限界を迎えようとしていた。
「も、もう出そうですッ!抜いてください…!」
出そうといった瞬間に彼女の目が変わった。まるでこちらを捕食しようとしているかのような目だ。
「出そうなのっ??…そのまま膣内でっ、出してぇっ??!」
そう言うと同時に彼女はチンポをギュウッと締め上げた。急に襲い掛かってきた快感に僕は耐える間もなく彼女の膣内に精を解き放ってしまった。
「で、出るッ!」
「あっ!んあぁっ♥♥!いっぱいっ♥♥出てるぅ♥♥」
射精したと同時に彼女もイッたのか、更に締め付けが強くなり、倒れこむように僕に抱き着いてきた。
彼女の肌はざらついていたが柔らかく、僕は今まで出したことのない量の精液を彼女の膣内のに注ぎ込んだ。
「あっ…♥♥あっ…♥♥んあぁっ…♥♥」
僕のチンポが跳ねるたびに彼女も小さくイッているのか、耳元で蕩けそうな喘ぎ声をあげ、僕の耳を犯してくる。
長い射精を終え、僕と彼女は肩で息をしながら見つめ合った。
近くで見ると、長いまつ毛に切れ長で綺麗な眼、上気したように赤くなった頬、枝毛の一つもないサラサラの髪。
彼女の全てが人間の中でトップクラスに入る、いや、それ以上のものだと感じた。
彼女が瞳を閉じる。僕はその柔らかそうな唇に引き寄せられるように近づき…
「できたっ!これで完成!」
その大きな声に僕らはハッとし、顔を赤くしながら離れた。
「できたって、それじゃあソフィア、彼は…!」
「ええ、もう大丈夫よ。最後の中出しが効いたみたい。すっごい量の魔力の循環だったわ。おかげで彼の傷はもうばっちり完治よ!」
そう言われ、僕は再び頭に手を伸ばす。血の感触はあったものの、痛みは嘘のように消えていた。
「あぁ…良かった…本当に良かった…」
彼女が涙ぐみながら僕の頭を抱えるように抱き着いてきた。おっきくて柔らかいけど何も見えないし息もできない。
「あー、カーラ?感動のシーンのとこ申し訳ないんだけれど、彼が何か言いたそうにしてるわよ?」
そろそろヤバそうだと思っていたところに人魚の人?が声を掛けてくれた。彼女は驚いたのか、バッと僕から離れていった。
少し息を整え、僕は彼女達の方へ向き直った。
「た、助けていただきありがとうございます。それであの、あなた達は一体…?ヒト、ではないようですけど…」
「あら?シー・ビショップとマーシャークを知らない…?ってことはもしかして」
人魚の人は少し考え、合点がいったようで彼女に話しかけた。
「彼、別の世界の人かも」
「別の世界って、あの噂になってる?」
何を言っているのかさっぱりだったが、彼女達の話から察するに、どうも今いるここは僕のもといた世界ではないようだ。
確かにさっきは魔法を使っているように見えたし、人魚だし。
「カーラ、カーラ!」
僕が考え込んでいると、彼女たちは声を潜め、内緒話を始めたようだ。



「な、なによ」
「これはチャンスよ!彼はマーシャークのことを知らなかった。ってことはこっちの人達みたいに怖がられないんじゃない?」
「!それは…でも…」
「大丈夫よ!彼、あなたとシてる最中も今も全然怖がるそぶりないじゃない!大丈夫大丈夫イケるイケる!」

こんなにグイグイ来る子だったかな…?もっとおしとやかな子だと思ってたけど…
…正直私は怖い。この想いを伝えて、彼に拒絶されたら、今度こそ立ち直れないだろう。でも…
「ここで行かなきゃ、一生後悔するかもしれないよ?カーラ。勇気を出して!」
あぁ、彼女の言う通りだ。ここまで来たら、もう胸の内にしまっておくなんてできない。
私は、この半日にも満たない時間の中で、彼のことが、
どうしようもなく好きになってしまったのだから。



内緒話は終わったのか、人魚の人がこちらの岩場に近づいてきた。
「申し遅れました。私はソフィア。ソフィア・ハスティ。種族はシー・ビショップです。それでこっちの娘が」
「カーラよ。種族はマーシャーク。…遅くなっちゃったけど、よろしくね」
「あ、すみません。僕の名前は船木海斗です」
ううむ、種族、と言われてもよく分からないが、某RPGのスライムとかサボテ○ダーとかそんな感じだろうか。
分かったようなわからないような顔をしていると、シェリアさんがこちらに寄ってきた。
「突然で驚くかもしれないけど、今いる此処はあなたの元いた世界とは違う世界なの。
どうやってかわからないけど、こちらの世界とどこかで繋がっちゃったみたい」
「それじゃああのトンネルの先は本当はここじゃなかったのか…」
まあ納得はいく説明だった。僕の世界で彼女たちのような生き物は居なかったし、思い出の中の海もだいぶ美化されているとはいえここまで綺麗じゃなかった。
それに空気そのものがあちらとは違うと感じていたからだ。
「見たところあなたにはこちらの世界に来ても特に影響が無いみたいだし、安心してね。…それでね、貴方にカーラから大事なお話があるの」
シェリアさんがそう言うと、カーラさんも僕の方に寄ってきた。代わりにシェリアさんがカーラさんの肩をポンと叩いて後ろの方に下がっていった。
「あ、あの…やっぱり、あなたの言う通り、こういうのはちゃんと顔を見て言うべきだと思って…その…」
顔を赤らめ、指を絡ませてもじもじしながらも、彼女はこちらの顔をしっかりと見て言葉を続けた。
「私の声を…歌を…好きって言ってくれて、ありがとう。とっても嬉しかった」
そういってにっこりとほほ笑む彼女はとても可愛らしく、胸の鼓動が早くなるのを抑えきれなかった。
彼女が面と向かって伝えてくれたのだ。こちらも伝えなければなるまい。もともとはそのつもりでここまで来たのだし。
「僕も、きちんとあなたの目を見て言いたかった。…僕に元気をくれてありがとう。素敵な歌声を聞かせてくれて、本当にありがとうございました」
ああ、やっときちんと伝えられた。僕が安堵していると、彼女の顔がみるみる赤くなっていった。
「がんばれー!カーラ!」
ソフィアさんの謎の声援を受けてカーラさんは深呼吸を数回し、落ち着いたのかこちらを見て言った。
「あのね、海斗さん、…その…つ、伝えたいことが、他にもあって!そ、その…」
彼女はもう一度大きく深呼吸をして、僕の目を見た。
「私は今日あなたと出会って、あなたに歌を聴いてもらって…。この数時間の間で、
あなたのことがどうしようもなく好きになってしまいました!つ、付き合って、下さい!」
「えぇっ!」
まさか、告白されるとは微塵も思っていなかった僕は、変な声を上げてしまった。どうやらそれを否定と捉えたのだろう。彼女はハッと顔を上げると、目からポロポロと涙が零れてきた。これはまずい。
「あ、いや、駄目っていうんじゃなくて!今のはその、驚いただけですから!
…僕なんかでよければ、こちらこそよろしくお願いします」
告白なんてしたこともないし、されたこともない僕は、恥ずかしくて顔を見られず頭を下げた。
「いいの…?本当に…?私こんな見た目なんだよ?歯は尖ってるし顔は怖いしそもそも人じゃないし…」
顔を上げると、涙は止まったようだが、カーラさんは信じられないというような表情をしていた。
「全然大丈夫です。というか全然怖くないし綺麗だと思います。正直凄くタイプです」
黙っているときのカーラさんは儚げな感じがしてて凄く好きだし、シている時は蕩けそうなあの表情が堪らなく好きだし、泣きそうになっている表情も可愛らしくて好きだ。確かに人とは少し違うかもしれないが、些細な問題に思えるくらい僕も彼女に惹かれていた。
「カーラさん。その、僕からも一つ、言わせてください」
「えっ、や、やっぱり嫌だった…?」
「いいえ、そうじゃなくって。…こういうのは本当は男の方から言うもんだと思ってましたけども」
僕は頭を下げて彼女に向かって声をかける。
やっぱりこちらからも言葉に出して言わなきゃね。僕にだって一応プライドってもんがあるわけだし。
「僕も、あなたのことが好きです。わがままかも知れないけど、これからは、僕の為だけに歌ってくれませんか」
うわぁ、言っちゃったよ。物凄く恥ずかしいセリフまで付けちゃったし。また顔が熱くなってきた。
返事がないので顔を上げると、彼女の引っ込んだはずの涙がまた出てきていた。
「良かった…よがっだよぉ〜」
カーラさんがソフィアさんに抱き着いて泣き始めた。大分恥ずかしかったけど上手くいったようで良かった。
「良かったね、カーラ。…ほら、ちゃんと返事もしなきゃ、ね?」
「う、うん…」
泣き腫らした目をぐしぐしと擦り、満面の笑みを僕に向けた。
「…はい!私の歌、あなたに…あなただけに捧げます!」

あれから一週間後、彼、海斗さんと私は一緒に暮らすことにした。
あっちの仕事を辞めて私と一緒に暮らしてくれるらしい。
でも一緒に暮らすってことはまたシェリアの前でシなきゃいけないってことだよね…
あの時は切羽詰まってたから気にならなかったけど改めてするとなると結構恥ずかしい…
でも彼と一緒になるためだし、頑張らなきゃね。
そういえば、あの数人のセイレーンたちは旦那さん達にこっぴどく叱られたらしい。
きっとシェリアがチクったのだろう、旦那さんから暫くセックスをお預けにされたようだ。いい気味ね。
あぁ、もうすぐ約束の時間だ。
私はいつもの場所で、これまで通り準備をする。
はやる気持ちを抑え、深呼吸をし、彼へと届けるために歌う。
これまでとは違う、彼だけの為の歌を。


僕は仕事の引継ぎや引っ越しの準備等を終え、自転車に詰めるだけの荷物を持ってあの浜辺に向かっていた。
マーシャークの彼女とどうやって一緒に住むのか見当もつかないが
そこはシェリアさんが何とかしてくれるらしい。
「そのかわり、カーラを泣かせたら承知しないわよ?あの娘、繊細で臆病なところがあるけどとってもいい娘なんだから。ちゃんと幸せにしてあげてよね?」
などと言われてしまったが。これは彼女のこれまでより何倍も幸せにしてあげねば。
…あのトンネルを抜け、そろそろあの浜辺に近づいてきた。
風に乗って彼女の歌が流れてくる。
はやる気持ちを抑えられず、僕は自転車を漕ぐ足を速めた。

今日の彼女の歌は一段と綺麗に聞こえた。
18/09/27 00:11更新 / 戦記絶唱サヤ

■作者メッセージ
このあと滅茶苦茶儀式(セックス)した。

マーシャークの被害報告が少ないので頑張って書いてみました。
ベッドの中でする妄想なら幾らでもできるのにいざ文章にしようとすると全然できなくてつらい。
エッチシーンも短いし全体的に上手く文章にできてないと思いますが、それでも読んで頂けた方、本当にありがとうございました。
もっとSS増えろーらぶらぶエッチなSS増えろー

皆様感想有難うございます
今読み返してみるとご指摘の通りいまいちマーシャークの特性を
活かせませんでした…
もし次何か書く際は個性を出していけるように頑張ります

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