読切小説
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他の女の匂いがする…
ある日の夜。俺は愛する妻の待つ、自宅へと急いでいた。会社から徒歩60分。ようやく自宅へとたどり着いた。
玄関のカギは空いている。おそらく妻が、自分が帰宅するのを見越して鍵を開けてくれたのだろう。
「おかえりなさい、旦那様ぁ」
出迎えてくれたのは、下半身が蛇の美しい女性。俺の妻で、白蛇という種族の魔物娘だ。
「ただいま、桔梗。遅くなってごめんよ」
そう言いながら、俺は妻の白く艶やかに光る髪をなでた。
「んむー」
桔梗は嬉しそうに目を細める。このしぐさも、たまらなく愛おしい。
ひとしきり髪を撫でると、桔梗は俺にもたれかかり、匂いを嗅いでくる。
毎日の習慣になっているので普段は気にしないが、今夜は急いできたので、だいぶ汗臭くなっているだろう。
「桔梗、走ってきたからだいぶ汗臭いぞ」
「大丈夫ですよぉ、いつもの旦那様の匂いです。落ち着きます」
そう言って匂いを嗅ぎ続ける桔梗だったが、突然硬直してしまった。
不思議に思い、俺は声をかける。
「桔…」
「だ・ん・な・さ・まぁ?知らない女のにおいがしますよ?」
顔を上げた桔梗はぞっとするほどの無表情だった。その顔からは生気も意思も読み取れず、俺は恐怖を覚えた。
「私に隠れてほかの女と会ってたんですか。旦那様…きのう私に言ってくれたじゃないですかぁ、私が一番だって。ほかのどの女より、私がきれいだって。その言葉、全部”嘘”だったんですか…?」
いつの間にか、俺の体に桔梗の下半身が巻き付いていた。痛みを感じるほどの強さもないが動く余地のない締め付け。絶対に逃がさないという強い意志が感じられた。
「旦那様、正直に答えてください。ほかの女と何してたんですか?ねえ?」
「それは…」
俺が口ごもっていると、桔梗は下半身を巻き付けたまま、上半身を密着させ、顔を近づけてきた。お互いの吐息がかかる絶妙な距離。桔梗は俺を見つめ、ニコリとほほ笑んだ。
桔梗が激怒している印だ。こうなると、俺も観念せざるを得ない。
「実は、仕事カバンの中に、」
言い終わる前に尻尾だけで器用にかばんを開けられた。ほどなくして取り出されたのは箱入りの2つのプリン。もちろん、俺と桔梗の分だ。
「これは…?」
「二人で食べるためにおいしいプリンを探しに行ってたんだよ。桔梗が言っているのは多分、プリンを買った時の会計してくれた時の店員さんだな」
「旦那様、私のためにわざわざ…」
「ほら。この前プリン食べたいって言ってたろ?俺も丁度食べたかったから買ってきたんだ」
「旦那様…」
唇と唇がふれあい、そして離れた。視界に映る桔梗は、とても美しい笑顔だった。
「旦那様、ごめんなさい、私ったら、つい勘違いをして…旦那様を傷つけて…」
俺は自由になった右手で桔梗の頭を撫でながら、耳元でそっと囁く。
「大丈夫。平気だよ。これも桔梗が、俺を想ってくれたからだよね。ありがとう」
俺たちは強く抱き合った。もう離れないように。お互いの愛を確かめるように。

二人で食べたプリンはとっても甘く、おいしいものだった。
19/06/14 20:21更新 / 海里

■作者メッセージ
ヤンデレ書きたくなって書きました。ヤンデレいいよね

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