連載小説
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ニ話『初陣』
『……で! カッコつけたはいいけど何からすりゃいい!?』

『……何か武器になりそうな物を拾え』

心なしか呆れを滲ませる腰部に固定された石の声に従い、翔一は手近にある壁に張り付いた鉄パイプを強引に引っこ抜く
派手な音に比べ楽に抜けたその棒は、取ってはみたものの武器としては頼りないものだった。

《FORM SPEAR》

すると、直後に石から再び無機質な音声が流れ、持ったパイプが光に包まれる

『おおっ、こりゃあスゲェ……ってなんじゃこりゃああ!?』

手のひらを返すように翔一は変化した己の獲物に向かって絶叫するが、それも無理はない
なぜなら、変化し、槍と化した武器の肝心の穂先は男性の股間についてるアレの戦闘形態であったからである
なまじ銀色で金属特有の光沢があるくせに、ビクビクと脈打っているため余計に気持ちが悪い

『えっ!? これでやるのか!? やらなきゃいけないのかッ!?』

『来るぞ! 迎え撃て!』

動揺する翔一をおいてけぼりにして石の警告と同時、痺れを切らしたスライムがこちらへと襲いかかってくる

『ああもう! どうにでもなれえええ!!』

迫り来る青い粘液の怪物に翔一は半ばヤケクソ気味に槍を思い切り突き出す。
それは幸運にもカウンターでスライムに粘着質な手応えを感じながら突き刺さる
スライムは突き刺さった姿勢のまま暫くビクビクと震えていたが――

『……んあああぁぁぁぁあああ♥♥』

やがて顔にあたる部分を紅潮させ、だらしなく開いた口から絶叫が漏れると形が保てなくなったのか、ズルリと槍が抜けそのまま地面の中へと吸い込まれていった。

『!? 倒した……のか?』

『惚けている時間はないぞ! 次だ!』

石の声にハッと我を取り戻した翔一はすぐにその場から跳躍し、直後になだれ込んできた青い流擊を回避する

『気をつけろ、彼女たちの体は無生物溶解性の超強力な媚薬だ、まともに喰らえばこの体でもひとたまりもないぞ!』

『また随分独特な攻撃方法だな、と!』

すれ違いざま、流水となったスライムに槍を突き立て二、三体分の嬌声と共に形を崩すスライムがドロドロに溶けていく

『だが、キリがねえ! このままじゃ囲まれるぜ!』

『むう……復活早々に使うのはしんどいが、仕方ない! 小僧! 槍を彼女たちに向けろ!』

石が言うが早いか、翔一は言葉を言い切られる前に槍を集まりつつあるスライムに向かって真正面に構える

《WHITE IMPACT》

その音声の後、光が槍の先端部分に眩いほどに集中し、これでもかというほどに怒張していく

『……おい、これってまさか――』

『そのまさか! お前もしんどいが、なあに、気持ちいいぞ!』

『馬鹿野郎オオオオオ!!』

翔一が後悔した時には既に遅く、ついに槍から渾身の一撃が放たれた――


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ハァ……! ハァ……! ハァ……!」

変身の解けた翔一は荒い息を整え、腰が砕けそうになる放出感に耐えながら膝を握る手に力を込めながら立ち上がり、辺りを見渡す。

「あー……広瀬、その…………大丈夫か?」

「猛さん……」

そこに、色々と複雑そうな顔をした猛が先ずは心配の言葉をかけて翔一に駆け寄る、翔一はそれには答えずふぅと一つため息をすると、改めて戦いの後を眺めた。

「とりあえず……片付けどうしましょう?」

そこにはビクビクと体を真っ白に染めて倒れ伏すスライムの面々と、粘ついた白濁の液体がそこかしこに飛び散っている光景だった。
16/06/16 00:50更新 / BUM
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