読切小説
[TOP]
パイロゥちゃんのペットになる話
最近、電車に乗るとよく視線を感じるが、そのたびにあたしは言いようのない不安に襲われる。
なにか顔についていただろうか?髪型がセットしきれていなかっただろうか?このままで好きな男の前に出られるだろうか?
手鏡を出すのもなんだか気恥ずかしい。視線を窓にやって自分の姿を確認する。
髪型。ふわりと柔らかく整えたショートボブ。根元は黒だがすぐに金色に変わっている。これが地毛だ。
顔。母さんが教えてくれた秘伝お化粧法だ。そう簡単に崩れるはずはない。
服装。白いシャツに指定の紺ブレザー、同色のスカートを極限まで着崩してあたしの身体を惜しみなくさらしてる。個人的にはショートパンツを穿きたいところだ。
……問題ない。脳内でデフォルメされた人虎が人差し指を指す。髪型もしっかりセットされているし、顔に何かついているわけでもない。
それに母さんもお姉ちゃんもきれいだと言ってくれている。お父さんは言ってくれない。母さんのほうがきれいだと言う。まあそれはいい。
ぐるりと車内を見渡す。これまでも視線の主を探さなかったわけではないが、今日の電車は空いている。きっと見つけやすいだろう。
壁に手をついて後背位で性交をしているサキュバス。疲れからか座席でとろけてしまったスライム。ビジネス書を読んでいるアマゾネス。
祝日だというのに仕事なのだろうか、大人は大変だ。
そういうあたしも補習なのだが……。パートナーを用意しなかったので淫技実習の単位を落としてしまったのだ。ちぇ。
視界の端で男が文庫本に目を伏せる。擦り切れそうなほど着古した垢抜けない古着、ぼさついて整えたことなどないかのような黒髪の、いかにもダメそうな男の人だ。
見切り品のかごのなかで惨めそうに変色したキャベツのようだった。
その耳がほんのりと赤く染まっている。あたしの脳を直感が貫く。あいつだ。
あたしはその文庫本男に声をかけようとしたが、列車が急停車。
つんのめって近くで性交していた男にぶつかった。
「うあ……っ!あっ……、っああ……」
「あぁん……っ!あっつうい……っ!」
「わっ。ごめんなさい!鞄、引っかかってしまって」
「い、いえ、大丈夫です。こちらこそ、ごめんなさいね」
彼のペニスがより深く挿入されてサキュバスが嬌声をあげ、男の腰が震えた。結合部からは白濁の粘体がどろりと垂れ、床を汚す。
あたしたちがが謝罪合戦を繰り広げているうちに文庫本男は降車してしまった。まあいい。チャンスはこれからもある。
彼が座っていた座席に座った。あたしのスカート越しのお尻や剥き出しの尻尾に彼のぬくもりが伝わる。
すんすんと鼻から息を吸うと彼の残り香だろうか、少し汗のようなにおいがあたしの肺を満たす。
脳裏に浮かぶのは彼が読んでいた小説。
あれは少し前に読んだことがあった。真面目な男性が若く美しい少女に貢ぎ続け、人生をささげてしまう……というものだ。
美しい物語であたしは結構好きだ。読書感想文をこれで書いて発表したところ、先生は頭を抱えていたが。
「よお。なんかいいことあったのか?」
ぼんやりと考えごとをしていると、となりの席にどかりと男の子が座った。
頭の半分は丸刈りにしているが、残りの半分は肩まで伸ばした長髪。左耳につけた、蛇型のピアスがよく似合っている。
彼は学校でも一番チャラチャラしてる男友達だ。
「どう見えるの?あたし」
「そうだなぁ……」
自らの坊主頭を撫でながらあたしの顔を眺める。必然的にあたしも彼を見つめることになった。
筋肉質で大柄な肉体を持つ奇妙な髪型の男の子。その顔はよく見るとどことなく愛嬌がある。
「いつもよりも可愛いな。口説きたいところだが……、なんていえば喜んでくれるんだ?君は」
彼はウインク、のつもりで両目をつぶった。
彼女にしたくて練習していたようだが、その成果は出ていない。
あたしはくすりと笑う。ウインクの他にもジョークの練習が必要そうだ。
「あたし口説いたってどーにもなんないよ。またひいひい言わされるんじゃない?」
「ここならバレないだろ。あいつ電車乗らないし」
あたしはポケットからケータイを取り出して画面を見た。そこには短文が表示されている。
『わたしの彼氏はバカなのかしら?』
あーあ。

夕方、あたしは文庫本男が降りた駅の中、設置されたベンチに座っていた。
隣では小さい男の子とアリスだろうか?かわいらしい二人が手をつないで電車を待っている。
ケータイの通知がうるさいのでマナーモードにする。画面には目まぐるしい速度であたしにメッセージが表示されては消えていく。
画面を見ないでフリック入力しているのか、誤字が多い。
『あうけて』
『おわれてふ』
『ともの』
『あ』
『わたしのバカが悪かったわね。確保したわ』
逃げられるわけがないのだ。
建物の外で鉄と鉄のこすれる音が響き、ドアが開く音がすると同時、乗客たちの足音が聞こえる。
夕暮れの駅であたしは例の男を待っていた。
あの男がこの駅、この時間帯で降りることはすでに調べがついている。さすがはラタトスクの情報網、半日足らずで行動パターンのみならず住所まで特定できるとは。
代わりにあたしのお小遣いは半分以下になってしまったが、その価値はあっただろう。
男を探してあたしは雑踏に目を向ける。
華奢な少年に迎えられるドラゴン、少し太った男と腕を組むデビル、娘たちを世話しながら歩くエキドナの夫婦……。
それら夫婦や恋人同士に交じり、どことなく落ち着きのない様子で例の男が歩いている。よく見ると黒い瞳が物陰で交わる魔物たちを見ており、顔はうっすらと赤くなっている。
あたしは後ろからその男の腕に絡みつき、赤い耳元で誘惑を囁く。
「おにーさん。顔、赤いけど大丈夫?スッキリしてく?」
「い、いや、大丈夫……です」
彼の口は拒否しているが、目線を下に向けるとズボンが盛り上がっている。あたしは尻尾の先で優しく勃起をなぞり、耳に息を吹きかける。
「ひゃ……っ」
「あははっ!ひゃ……って、おにーさん、かわいい声あげるんだ?」
「ち、ちょっと、やめ……っ」
男はなおも誘惑に抵抗をつづける。なかなかにしぶといが視線はあたしの胸元に注がれている。
あたしは男の腕を胸に挟み、乳肉を擦り付ける。尻尾に触れるテントが震え、あたしの胸を見る視線が一層熱を帯びたのがわかる。その熱さに唇がぞわぞわとした感覚を覚え、ゆるむ。
「ねえ、おにーさん。そこの物陰ならバレないよ……。ここですっきりしてかないと、ほら、ほかの魔物に襲われちゃうよ……?」
あたしの視線の先を彼も見る。そこには男を連れていない魔物たちがたむろしていた。
興味なさそうに壁に背を預けている大百足。自販機の影に隠れるようにしてたたずんでいるギルタブリル。両者とも隠してはいるが、鋭い視線をこちらに向けている。おそらくはグルだ。
正直なところ、早く勝負を決めないとまずい。このまま続けるにしてもほかの魔物たちが寄ってくる、早く誘惑しきらないと混ざってくるだろう。
多少強引かもしれないが、さっさと物陰に連れ込んだ方がいい。ほかの魔物が混ざって取られるのはお断りだった。
あたしは無理やり男の唇を奪うと同時、パイロゥの魔力を流し込む。
パイロゥの魔力は欲情と積極的にさせる力があるが、この方法では初めてだった。何しろ練習相手がいないのだ。
魔力だけであれば友達の男の子にもかけたことがある。あれは楽しかった。全力で魔力をぶつけた瞬間、彼は教室の外に飛び出して校長のバフォメットに告白したのだ。
ただ魔力をぶつけただけであれだ。キスも重ねたから何とかなるだろう。多分。
唇を離し、耳元で甘く囁く。
「ね、一緒に来てくれたら、も〜っと気持ちいいことできるよ……?」
「う……」
絡みついたあたしの腕、その先の手を彼は握った。思わずにんまりとした笑みがこぼれる。
あたしは彼の手を引きながら人の通らなさそうな通路に向かった。そこには同じことを考えていた魔物たちが肌を重ねている。
「む……、よそに行くぞ」
「は、はい、校長先生……」
「馬鹿者、母様と呼べ」
バフォメットが指を鳴らして異界への入口を作ると、制服を着た少年の手を引きながら奥に消えていく。母様と呼べ、か……。校長先生は難儀な性癖を抱えているようだ。
「じゃ、、おにーさん、手早くスッキリしよっか。安くしとくね」
「あ、ああ……」
あたしはどこかうっとりとした表情の彼を壁に押し付け、盛り上がったズボンの頂点を指先でかりかりとくすぐる。
「あ……ッ、くぅ……!」
「あはっ、声、ガマンしなくていーよ。誰も気にしないからさ」
ズボンの上から彼の勃起を優しく握る。布越しとはいえ、確かな弾力を備えた熱い肉棒をしっかりと感じて下腹部に熱がこもるのがわかる。
「ん……。かっちかちだね、おにーさんの。すぐ気持ちよくしたげるからね……」
あたしは彼の体に密着し、キスする寸前まで顔を寄せた。同時にベルトを緩めてファスナーを下ろしていく。
ガチ恋距離の少し荒れた肌は紅潮し、かさついた唇からは荒い息。発情して潤んだ黒い瞳が困惑したように揺れた。
「キス、したい……」
「んふ、キスはだーめ。まだ恋人じゃないもんね。さっきのは特別だよ、おにーさん」
キスを拒否すると泣きそうな顔をするが、下着の上から勃起を握るとすぐに嬉しそうな顔になった。
うっとりしたり泣きそうになったり。ころころと表情が変わり、見ているだけで楽しい気持ちになってくる。
「ね、キスはしてあげないけど、ふふ、こんなに近いとドキドキするね」
あたしは耳元で吐息を吹きかけながら囁く。手の中の肉棒が震え、滲み出した先走り液で下着の色がより深くなる。
「うああ……。触って……」
「んー?触ってほしいの?ここかな?」
布越しにペニスを握る手はそのまま。彼の首に回した手で耳や頭を撫でてあげる。
「ああ……、違う、そっちじゃなくて……」
彼はあたしの手に擦りつけるようにして腰を動かす。パンツ越しに手筒を味わった彼はもう止まらない。
あたしの体にしがみつき、発情した犬のように腰を振り立てる。その姿はなんとも情けなく、また可愛らしい。
「気持ちいい、気持ちいいよ……。出る、イっちゃう……」
耳元でうわごとのようにつぶやかれる言葉が燃えている。興奮して赤くなった男体が震えた。
あたしは手を離す。刺激の与えられなくなったペニスはへこへこと動き、虚空を何度か突き刺した。
「あぁ……っ!な、なんで……?あと少しだったのに……、イかせて……」
「んふ、直接触ってあげるね、おにーさん」
パンツを少し下ろして陰茎を露出させる。ぴょこ、とバネ仕掛けのように勃起した陰茎が飛び出し、先から液体が垂れた。
「ま、待って、これ、恥ずかしい……」
「みんなほかのヒトなんか見てないよ。お互いに夢中なんじゃないかなあ。ね、おにーさんもあたしに夢中になって?」
彼の目を見つめながら勃起を順手で握ると、布地を介さない陰茎の感触が掌に伝わった。
それは蕩けてしまいそうなほど熱く火照り、汗と先走り液でしっとりと湿っている。少し力をこめれば表皮に浮き出た血管の凹凸が脈打ち、手の中で震えた。
「ん……、おにーさん、切ない顔してる。もう出したくて仕方なーいって顔……、可愛い……」
「やめて……、みないでぇ……、あぁぁ……ッ!」
彼は必死そうな顔であたしの手筒を陰茎で味わう。
鈴口から溢れた潤滑油のおかげか、ピストン動作はオイルを注した機械のようにスムーズに動く。
あたしはかくかくと動く腰に合わせて手を動かし、与える刺激を最小限にとどめた。
「なんで、なんで……っ?出させて、射精させて……」
「イけないね……。おちんちんからせーしぴゅっぴゅして気持ちよくなりたいのに、全然イかせてもらえないの苦しいね……、ふふっ」
「いやだぁ……、出させて、何でもするから……」
懇願の声があたしの鼓膜を蠱惑的に撫でる。
「ね、おにーさん、あたしね、欲しいものあるんだ。少しでいいから、お金、欲しいなぁ……」
「はらう、はらうから……っ、射精したい……」
あたしは彼を包む手筒の内径を狭めた。親指と人差し指で作られた輪から入り込んだ亀頭を、指や掌で形作られたヒダで刺激してあげる。
「あ……っ、そこ、だめぇ……っ」
「こーら、おにーさん、逃げちゃダメだよ。んふふ、ほら、気持ちよくなって?」
与えられる暴力的快楽に耐えきれず、彼は腰を引こうとするが後ろは壁だ。彼の敏感なところはあたしの手から逃げられない。
指で作られたリングでカリ首を圧迫しながら小刻みに動かす。同時に中指から小指をばらばらに動かし、包まれた亀頭を甘やかした。
すると、彼の表情がふっと緩み、恍惚を浮かべる。蕩けた表情、限界まで張り詰めた肉棒。それがあたしの手の中で震え、どくどくと射精する。熱い体液が手からあふれて床に垂れた。
あたしは手を彼の前にかざし、快楽の証を見せつける。白濁のそれは蛍光灯の光に照らされ、てらてらと光った。
「ふふ、すごい気持ちよさそうだったね、おにーさん。ほら、これぜんぶおにーさんがオモラシしたんだよ……」
「あぁぁ……、ごめん、汚した……」
「おにーさん、あたしは魔物だよ?んふふ、おいしそ……」
あたしは両手で手皿を作り、口の中に精液を流し込む。まだ熱く湯気さえ立ちそうなそれはあたしの喉を犯しながら体内へ落ちていく。
店で売られている精液とは違う、新鮮な精液の味。エナジードリンクや刺激物を多く食べているのか、辛みと苦みが混ざったような、大人の味だ。
精液の味は食生活や生活習慣によって変わる。母さんはお父さん含めてあたしたちの食事を用意しているが、精液の味を調整するためだろう。
あたしもこの人にご飯作ってあげた方がいいのだろうか?精子の味からするとあまりいい食生活じゃなさそうだ。良い精子はほろ苦い中に甘みがあると母さんが言っていた。
どちらにしてもこれを味わってしまうと、今までの食生活には戻れない。さらば、精摂取菓子、精摂取調味料。君たちのことは嫌いだった。なぜあれほどまずいのか。
鞄からウェットティッシュを取り出して萎えたペニスを拭いてあげ、ズボンを直してあげる。先ほどまで自己主張していたペニスはしぼみ、苦も無く衣類に収まった。
あたしは手を彼の尻ポケットに回して財布を取り出すと、数枚の紙幣を抜き取る。それなりに高級なブーツが買えるほどの額だ。名刺が入っていたのでそれもついでに拝借していく。
「ね、おにーさん。またしてほしいでしょ?ケータイだしてよ」
彼のポケットから携帯電話を取り出し、脱力した彼の指に押し付ける。持ち主の指紋を認識した機械は画面に光を灯した。
幸いにも彼の機種はあたしとお揃いだ。まごつくことなく操作して互いの連絡先を交換する。
あたしの携帯の画面にはユウマ、彼の画面にはヒオリの文字が表示された。
「はい。また気持ちよくしてほしかったら連絡してね」

満員電車のなか、あたしは隅の方で翼を畳んで景色を見ていた。
進行方向に対して背を向けているので防風林や畑、古びた橋が前方へと流れていく。
ぎゅうぎゅうに詰められた学生やサラリーマンたちにうんざりしながら外を見ると、大きな翼で空を飛ぶ魔物達が見える。
いいなぁ。あたしの翼もあれぐらい動けたらな……。ちょっとくらいしか飛べないんだよね……。
邪魔にならないよう畳んだ翼がなんだか情けなく、その感情を振り払うようにちいさくはためかせた。
『あぁっ、つぎは、つぎ、はあああぁぁっ……!』
スピーカーからアナウンス交じりの嬌声が響く。ブレーキが掛けられた車輪は線路と噛み合い、金切り声をあげた。
『右、みぎです、でぐちっ、ちがう、そこでぐち……っ!はいらないってぇ……っ!』
「うるせーアバズレ!このクソアマ、自慢しやがって!わたしだってなあ!」
スピーカーに分厚い本が投げつけられ、落ちる。投げつけたのはダークメイジだろう。彼女の顔をよく見ると濃いクマが目の周りを覆っており、髪はぼさついている。
余程の激務で疲れ果て、感情のコントロールができないのだろう、泣きながらスピーカーに紙を投げつけている。
「よさんさえ……、よさんさえおりていれば……、わたしは……っ!うわああああ!!……ふぐぅぅぅ……」
本がぶつかったゲイザーの瞳が光る。ダークメイジは泣きながら近くの少年に縋りつき泣き始め、彼は困惑した表情を浮かべながら縋りつく魔女の髪を撫でた。
この光景はたまに見る。疲れ果てた男性なり魔物娘なりが感情を爆発させ、暴れ始める。今回のはゲイザーのお姉さんが何とかした。
電車の扉が開き、人混みが車内に入る。その中に目当ての男がいた。ユウマだ。
彼は座るところがないことに気づくと、壁際に流れて文庫本を読み始める。これも読んだことがある。盲目の女性音楽家に対して弟子の男性が献身的に奉公する話だ。
あたしは人込みをすり抜け、彼の正面に立つ。
「……っと、おはよ、おにーさん」
彼は文庫本を閉じると足元に置いた鞄にしまう。
「おはよう。これから学校?」
ちら。
「そだよ。マジメに通ってるんだから」
「意外じゃん。サボってそうなのに」
ちら。
穏やかに話しているが、定期的に目線が下を向いている。おそらく開いた胸元を見ているのだろう。
彼があたしの体に欲情の視線をひそやかに(多分彼はそう思っている)送るたび、下腹部の燻りを自覚する。
「わ……っと」
「おっと」
電車が揺れてあたしは体勢を崩してしまい、彼の肉体に寄りかかった。
肩を掴み、支える手は男性らしい骨格だが痩せている。このくらいの肉体であれば、押さえつけて無理やり犯すことができるだろうな。
「大丈夫?足くじいてない?」
彼は肉の足りない手であたしを優しく抱きとめたままだ。力も背の高さもお父さんに劣る。何ならあたしにも劣るが、彼があたしを支えているという事実に頬が熱くなる。
「だいじょー、……っと」
電車が急制動。後ろの壁に手をつけば耐えられるだろうが、せっかくなのでユウマに甘えることにする。
慣性にしたがって、あたしの肉体はユウマに押し付けられる。肩を掴んでいた手は背中に回り、左右にずれないようにあたしの体を包んだ。
『すっ、みません……!きけんがありましたので、ていしゃ、いたしました……っ!みなさ、まっ……、もうしわけ、ありませんでした……っ!ああぁ……っ!きもちいい……!』
ちらりと窓を見ると、てこてこと狸の親子が走っていくのが見えた。坂道で小さな狸が転び、大きな狸が走り寄って助ける。一家は揃って線路から脱出し防風林に消えていった。
「狸だ。へぇ、ここら辺にもいるんだな。……っと、ごめん」
「あ……」
男の腕から離れるのが名残惜しく、このまま抱き締めてしまいたい衝動に駆られる。
ユウマも平静を装っているが密着した胸からは彼の拍動を、視線からは熱を感じる。あたしは紅潮した耳に唇を寄せた。
「おにーさん、あたしのこと抱き締めてどきどきしてるんだ?」
「ん……。いや、してない」
「へぇ……」
あたしは密着したまま脚を動かし、彼の股間をなぞりあげる。ズボン越しに硬い感触……、欲情の印を膝に感じた。
「あ……っ」
「んふふ、可愛い声でたね。また昨日みたいにいじめてほしいんだ?」
「ち、違う……。やめて……。」
「あー、そんなこと言っていいんだー?」
彼のベルトに指を入れて隙間を作ると、そこに尻尾を伸ばし入れてしゅるしゅると愛撫していく。
もちろん尻尾の炎は熱くなりすぎないように調整していた。
「……っ!」
尻尾が鼠径部のあたりに差し掛かった時、彼がくすぐったそうに腰をよじった。
「あ、ここ、イイんだ……。ふうん……」
肉棒の根元、触れるか触れないか。ギリギリのところで焦らすように尻尾をうねらせる。
内腿。
鼠径部。
睾丸。
会陰部。
男の人はここら辺が感じるはずだ。お母さんがお父さんにしてあげているのを覗き見たことがあった。
長身でがっちりした男性がなすすべなく喘いでいる姿は今でも目に焼き付いている。まあ、あたしの目の前にいる彼は小柄で華奢なのだけれど。
ユウマの股間で力強く盛り上がっているテントを優しく握ると、彼は吐息がちな声で拒否の声をあげる。
「こ、ここじゃダメだよ……。ほかの人いるし、皆見てるから……」
「ふうん……。じゃ、おにーさんが我慢できたら誰もいないとこでしてあげる」
「え……?」
あたしは至近距離で自己主張しているものを太ももで挟み、柔らかく締め付けた。
「ふふ、セックスしてるみたいだね。ほら、手、握ってあげる」
「ふ、うぅ……っ」
「あたしはこれだけ……。おにーさんは動いてもいーよ?気持ちいいと思うなあ。あたしとお手々つないだまま、っふふ、ぴゅるる〜ってするの……」
次の駅まではもうすぐだろう。このまま密着しているのもいいが、性欲に負けて腰を振り始めてしまう様を眺めるのも悪くない。どうなってもユウマを味わえるのだ。
恋人繋ぎをした手がじっとりと濡れているのがわかる。緊張によるものか、尻尾から与えられる熱によるものか、あたしかユウマかもわからない。多分ユウマだろう、あたしが緊張するはずがない。
あたしは唇を舐めた。舌にはぬるりとした感触と少し甘い味が広がる。あとでリップを塗りなおさないといけない。
一度、初めての誘惑の時にキスをしているが、まだ二回目を許すには早い。しかし無理やり来たら受け入れるしかないだろう。いざというときにかさついた唇ではユウマをうっとりさせてあげられない。
汗で湿り気を帯びた首筋には彼の荒い息がかかり、火照った肌に心地よい。ここまで近いと匂いが気になるが対策はしている。
朝出る前にシャワーを浴びているし、蒸れにくい下着をつけている。匂い対策は万全だ。少し潔癖かもしれないが、匂い対策や清潔感を意識するのはやりすぎて困ることはない。
……そのはずだ。脳内でイマジナリーお姉ちゃんの言葉がリフレインする。
『男ってのはね、少しにおうくらいが好きなのよ。ふふ、私の彼ピもそうなの。少し汗をかいてた方が燃えるのよ、彼』
ああ……っ!しまったあ……!あたしがシャワーを浴びた後のお姉ちゃんはどこか生暖かい視線をよこしていた!でもお父さんは清潔な方がいいって言ってた……っ!
ユウマはどっちを……!?
「……と、まった、から……、ごめん、すこし離れて……」
飛ぶような思考を追うのに集中していたせいか、電車が止まるのに気づかなかった。後ろからはどやどやと乗客が電車を降りていく気配がする。
ユウマと視線を合わせると潤んで発情しきった瞳はそのまま。あたしの太ももに挟まれた性器は硬いまま。
「ん。じゃあ、近くの路地裏いこっか、おにーさん」
あたしは彼の手を引きながら駅を出る。
確か、近くに人目につかない路地裏があったはずだ。
あたしは汗ばんだ手を握り、二人っきりになれる場所に向かう。
路地裏の奥、といってもゴミ箱やポイ捨てされたものなどはない。いたって普通の行き止まり。そこについた途端、彼はあたしにしがみついた。
身長差のため、彼の性器があたしの太ももに当たる。電車の中でたっぷりと焦らされたそれは、思わず苦笑してしまうほどに硬い。
「こーら、このままだとおにーさんの下着が汚れちゃうでしょ。ほら、脱がしてあげるから」
「ま、待って……、自分で、脱ぐから……」
ユウマはよほど発情しきっているのか、ベルトを外すのにも梃子摺っている。時間があれば後ろから抱きしめながら焦らして遊べたが……。
生憎、互いに予定がある。あたしは目の前の男の方が大事なので学校などふけてしまってもいいが、彼はそうもいかないだろう。それに本当にサボってしまえばお父さんに叱られてしまう。
「もー、ちゃちゃっとしないと二人とも仲良く遅刻だよ?」
あたしは彼の細い手と共同するようにしてベルトを外す。それと同時に自分自身のシャツのボタンをいくつか外し、黒いブラを露出させる。日陰で半裸になり、そよぐ風が心地よい。
「んふふ。おにーさん、あたしのおっぱい好きでしょ。ぎゅってしていーよ」
許可を出した途端、彼はあたしの胸に顔を埋めて腰を激しく動かし始める。すでに先走りと汗でじっとりと滑っているので痛みはないはずだ。
「ん……ふふ、もうガマンできないね……。いーよ、たくさん腰カクカクさせてきもちよくなって?」
もう彼は何も言わない。あたしの胸に顔を擦り付けたり、ブラを舐めたりして自らの性感を高め、放出の悦楽を味わおうとするだけだった。
電車の中だとこちらを気遣うことができたのに。誰もいないところで射精を餌にされ、犬のようになってしまう彼がたまらなく滑稽で、また愛しい。
一心不乱に性器を擦り付ける男性の背中と頭をあやすように撫でる。垢抜けない短髪の感触と古い衣服特有のごわごわとした感触が手に伝わった。
服は買わないのだろうか?見た目に気を遣ったりとか……、あんまりしないタイプっぽいしなぁ。
「ごめん……、射精る……」
「んふ、たくさんオモラシして?はい、ぴゅっ、ぴゅうっ、ぴゅるる〜♪」
「……っ!ふ……っ、ふ、あ、あぁぁ……っ!」
あたしの太ももにびゅるびゅると白濁液が引っ掛けられる。褐色の肌と白い液体のコントラストがとても鮮やかだ。
精を放出しきったのか、ぐったりとした様子の彼は完全にあたしに体を預けて荒くなった息を整えている。胸に顔を埋めたままなので吐息がくすぐったい。
「おにーさんすっごく可愛かったよ〜……。ジョシコーセーの太ももとセックスごっこして、情けなく無駄打ち射精するの気持ちよかったね〜……」
「ううぁぁ……。言わないで……」
「恥ずかしいね〜、年下の女の子にしがみついて、ワンちゃんみたいにへこへこ〜って自分から腰振ってたんだもんね……」
「うう……」
「あはは、ゴメンね。ほんとのこと言われるのはイヤだよね……」
密着したユウマの胸が言葉責めに反応し、どきどきと高鳴るのがわかる。そのたびにあたしの唇はむずむずとした感覚を抑えられずに緩んでしまう。
「あ、ごめん……、スカート汚した……」
「……ん、ちょっとゴメンね。セーシ、このままだと落ち着かないよね」
あたしは尻尾を自らの太ももに這わせ、その燃える先端で精液を取り込み、燃やしていく。パイロゥは皮膚や粘膜からだけでなく、こんな方法で精を取り込むこともできる。
もちろん膣内や口からの方がより高効率かつ満足度が高いのは言うまでもないが。
さて、スカートの染みだが、これはもうどうしようもない。どうせ学校の教師も精液染みのあるスーツを着ているのだ。気にすることもないだろう。
「じゃ、洗濯代もらうね、おにーさん。んふふ」
彼の足にまとわりついているズボン。あたしはその尻ポケットに尻尾を差し向けた。

今日も退っ屈な授業がすべて終わった。
鞄に教科書と文房具を突っ込んでいるあたしに蹄の音が近づき、ハスキーな声がかかった。カオリだ。
「これからカラオケでもどうだい?君の歌をもう一度聴かせてくれないか?」
「んー、いーよ、いこいこ!がっこダルかったし!あ、でもお酒はナシだよ。また怒られるのめんどいから」
「私も君も、飲酒が問題ない種族なんだがね……」
カラオケ!悪くない。学校の憂さを歌って晴らすとしようか。
お小遣いの大半はなくなってしまっているが、まだ余っている。ここらで使い切ってしまおう。
カオリの耳がぴくりと動く。眼鏡をかけた男子生徒にも声をかけたが、ものすごく歯切れが悪そうだ。
「それと、あー、マコト。君もどうだい?もし、良かったらだけど、一緒に……」
「あ、誘ってくれてありがとう、カオリ。すごく嬉しいよ。でも僕お金ないや。二人で楽しんでね」
マコトはにっこりと笑って断った。
屈託のない笑顔から、誘ってくれたことが本当に嬉しく、あたしたち二人がカラオケで遊んでくることを喜んでいるようだった。
「あ……、ああ、わかったよ、マコト。金欠なら仕方ないな。今度、お金がたまったら、また誘うよ」
カオリの耳が垂れさがり、一瞬悲しそうな声をあげたが、持ち直した。
見ていられない……!
あたしは自分の財布からお小遣いを取り出し、マコトに押し付けた。
「この間、お金借りてたからさ。今あるから返すちゃうね」
「あれ、そんなことあったのか?言ってくれれば出したのに……」
カオリが間の抜けた発言をする。
いかにも王子様然とした顔立ちの彼女はなかなかに察しが悪い。
このあたしがお金の管理を失敗するわけがないだろう。
あたしは必死に目配せをした。翼をはためかせ、尻尾を揺らしてアピールする。
カオリは奇異なものを見る目をこちらに向ける。
その隣にいるマコトはこくりと頷き、口を開いた。
「そ……うだったね。ごめんね、ヒオリさん。忘れてた。ありがとう。ありがたく、大事に使わせてもらうよ」
こっちが察しちゃったか……。
ま、まあ結果としてうまくいくならそれでもいいか。
何か言われるよりも早くあたしはケータイを見るふりをする。
「あ、ごめん。あたしちょっと用事できちゃったからさ、二人で行ってきて」
「んむ、わ、わかった。すまないな」
「ヒオリさん、返してくれてありがとうね。ちゃんと使うから」
「あはは……。じゃあねぇ」
マコトとすれ違いざまに彼の肩を叩き、教室を出た。
その後、あたしは自宅に帰らずにユウマが降りる駅まで行った。
駅員はおらず、仕事や学校から帰るまばらな人影だけが夕日に焼かれながら歩いている。
地平線に沈む夕暮れを浴びながら駅にたたずむ。
ただそれだけで心臓の鼓動はどくどくと激しくなり、女性器がしっとりと湿り気を帯びる。こないだまでこんなことはなかった。
なんだかあたし自身がユウマのものになったみたいで、そのおかしさに一人でくすりと笑う。
笑った瞬間に風が強く吹いた。ぬるい風ではなく、ひんやりとした秋の風。あたりを見回すと街路樹の葉はもう枯れている。
最近は夕暮れになると急に冷え込むようになってきた。明日にでもコートを出そう。もたもたしていると雪が降る。
あたしはベンチから立ち上がり、近くの自販機でホットココアを買う。これが最後のお金だ。がしゃん、とスチール缶が落ちる音。
自販機の開口部に手を入れ、温かな缶を取り出すとプルタブを引っ張って開ける。
喉を滑り落ちる熱い液体は甘ったるい。美味しいが精液にはかなわない。
先ほどまで座っていたベンチに戻り、ココアを飲みながらゆっくりとユウマを待つ。
すっかり冷えてしまったココアを飲み干したとき、電車が止まるのが見えた。人込みの中にユウマがいる。彼もこちらに気づいたようだ。
彼は少し小走りでこちらに近づく。まるで飼い主を見つけた犬のようだ。彼に尻尾があれば勢いよく左右に揺れているだろう。
「なんだ、待ってなくてよかったのに」
あたしは彼に自分の肉体を絡めた。ズボンの股間がぴくりと反応する。
「んー?おにーさんは待ってたんじゃないの?ほら、どっかですっきりしようよ……」
「ぐ……。しばらくダメだ……」
「なんでー?ガマンは体に良くないよー?ほら、素直になって、おにーさん?」
彼は自分の財布をあたしに手渡す。黒い折り畳みの財布は射精した後のペニスのようになっている。
中身を見ると紙幣は一、二枚ほど。それに数枚の硬貨が寂しそうに寄り添い合っていた。
少なくとも今のあたしよりもお金持ちではある。
「あらら、出費激しかったの?」
「君のせいだぞ」
彼は恨めしそうにこちらを見るが、口の端が緩んでいたり、瞳が楽しそうに揺れている。
非難する意図はなく、じゃれ合いたいだけだろう。やれやれ、甘えん坊め。
あたしは財布をユウマのポケットの中にねじ込んだ。
「んふ。おにーさんが自分からおねだりしたんでしょ?」
「まあ……それはそうだけど」
「気持ちよかった?」
「もっと稼いでいればもっと払ってる」
へえ……。もっと搾ってあげてもいいな。もっと気持ちよくしてあげて、ユウマの情けない姿を眺めたい……。
お金も、精液も搾りあげて彼の人生、全部あたしのものにしたい……。めらめらと燃え上がる欲望をあたしは自覚した。
お金は大事。稼ぐのに人生を支払う必要がある。彼がどんな仕事をしているのかは知らないが、大変だろうと思う。
そうして稼いだお金、人生が変換されたものをあたしにあげても良いとまで言った。
あたしに払うのか、快楽に払うのかは怖くて聞けない。
快楽と答えられれば魔物として誇らしく思うべきだろうが、あたし以外でもよいということになる。それはダメだ。とにかくダメだ。
あたしは何かを振り払うように笑った。どうだろう、上手く笑えているだろうか?
「じゃあこれからも〜っと、稼がないとね。おにーさん」
「……?まあ、そうね。努力はするけれど稼がしてくれるかどうかは上司次第だよね」
「もー、嘘でもたくさん稼ぐって言ってよ。そこはさ」
あたしたちは話しながら歩く。肉体を絡めたままでは歩きにくいので手をつなぎ、歩幅を合わせながら。
「あれ、家どっちかって言ってなかったよね?」
あ。住所は調べればすぐにわかるが、自分の住所が調べられて気分が良いと感じる男性は少ないだろう。
答えに窮するが、彼は特に気にしていないようだった。警戒心がなさすぎる。
「まあ、調べればすぐわかるか。悪用する気だったらもう大変なことになってるだろうし。君んちはどのへんなの?」
「紅水のはずれ。なーんにもないよ、温泉くらいしか」
あとは畑ばかりで本当に何もない。街灯も少ないが、そもそも夜に出歩くほど人口が多いわけじゃないので治安はいい。危険と言えばたまにクマやイノシシが出るくらいだろう。
「遠っ。ここからまた電車乗るの?」
「?うん、そうだけど。あ、気にしてくれるんだ?」
ほどなくしてユウマの家につく。単身者向けの安そうなアパートで、駐車場には小さめの自動車が停まっている。
彼は助手席のドアを開けた。中は意外と整理されているが、運転席のドリンクホルダーには炭酸飲料の赤い缶が入ったままだ。
「もしよかったら送っていくけど」

あたしは自分のベッドに横たわる。
送ってもらえたのは嬉しいが、家についてからが大変だった。
車から降りたところを両親に見られてしまい、二人とも夕食に誘ったのだ。
ユウマは明日も仕事だからと断ったが、都合のつく日に来るように約束してしまった。
ここで断れないのが彼のいいところでもあり、悪いところでもある。
自己主張が弱く、押されるとダメなのだ。
まあ、そこに付け込んでいるのはあたしもなのだが……。
机の上の貯金箱を見る。彼から搾ったお金を入れるために用意したものだ。
犬を象った陶器を持つとずしりとした感覚が伝わる。紙幣をすべて硬貨に両替しているためだ。
重さから、彼があたしにどれほどの価値を置いているかを実感できる。
この中に彼の人生の一部が入っているんだ……。これから、あたしはこの中に彼を入れるんだ……。
貯金箱を見ながら自らの指を秘所に這わせる。下着に覆われた割れ目はしっとりと濡れており、指を挿し入れるとほかほかと暖かい。
「んっ……、ふっ、ふうぅぅ……」
あたしはふわふわのショートパンツとショーツを一緒に下ろした。
ゆっくりと右手の指を奥に入れ、左手はナイトブラの上からくすぐるように乳首を刺激していく。ぞわぞわとした感覚が背筋から爪先と脳天に広がっていく。
しばらく続けていると、サウナに入っているかのように体が熱くなる。ブラの上からでは刺激が足りず、ぐいっと引き上げて乳首を露出させる。
控えめな褐色の山、その桜色の頂点がふっくらと盛り上がり、自らの性感が高まっていることを自覚させた。
あたしは乳房を下から支えるように揉みながら、クリトリスを指でつまんで刺激する。
「ユウマぁ、ユウマぁ……」
桃色に染まる脳は声を押さえることができず、口からは恋人の名前が漏れる。
快感を求めるように腰はがくがくと動き、足はシーツを伸ばすように何度も足裏を擦り付ける。
視界にはあたしの下でうっとりと夢見るユウマが映り、同時に胸に顔を埋める彼の顔がフラッシュバックした。
「あ……、あぁぁ……ッ!ふぅ、ぐうぅ……!」
あたしはたまらずタオルケットに噛みついて声を殺す。だくだくとよだれが唇から漏れ、ふんわりとした布地を濡らした。
ちかちかと白い光が瞬き、角の先から翼、尻尾の先端、爪先に至るまで、稲妻が走ったかのようにびりびりと痺れる。
「あ……。は、ふふ、ふぅ……っ」
絶頂を迎えたあたしはぐったりと脱力し、ベッドに体を預けた。
自慰で火照った体がシーツのひんやりとした感触に包まれ、気持ちがいい。
今回はあまりにも早い絶頂を迎えてしまった。原因は明らかだ。ユウマのせいだ。
呼吸を整えながらあたしは唇だけで笑う。
視界の隅で携帯電話の画面が点灯する。ユウマから連絡だ。
 今日はありがとうございます。
 久しぶりに楽しい時間を過ごせました。
 それと、明日から忙しくなるようです。もしかしたらしばらく会えなくなるかもしれません。
 申し訳ないです。
すいすい。
あたしは指を画面上で動かす。
 こっちも楽しかったよー。おにーさんも楽しんでくれてて嬉しいな。
 お父さんたちは一緒にご飯食べようって言ってたけど、あんなの無視していいからね。
 どうせあたしをからかいたいだけなんだから。
 しばらく会えないのは残念だけど、仕方ないよね。お仕事頑張って!
変じゃないか?変じゃないよね?送っても大丈夫かな。
まあもう少し待とう。ちがう、既読が付いちゃってるだろうから既読無視されてると思われたら目も当てられない。
推敲、推敲しよう。早く、焦らないで。
楽しい時間を過ごせましたに対してあたしも楽しかったって伝えた。
お父さんの誘いなんか断っていいよって伝えた。
仕事で会えないことについても大丈夫、お仕事頑張ってって伝えた。
いいはずだ。大丈夫、大丈夫、大丈夫。
あたしは震える指で画面に触れ、返信する。ひゅぽ、と間の抜けた音が携帯から鳴った。
送った、送っちゃった!大丈夫かな、変じゃなかったかな。既読つくかな、早くついてほしいけど見ないでほしいな。
既読、既読ついた!怖い怖い怖い、あたし、変なこと書いてないはずだよね……?
いずれ来る返信が恐ろしく、あたしは布団の中に携帯をしまい込む。
怯える心にイマジネーションお姉ちゃんが降臨。憂いを帯びた笑顔があたしに助言をくれる
『男の子ってのはね、なんだかんだ言って優しくて甘えさせてくれる女が好きなのよ。そんな返信ができたかしら?』
ああっ!その助言は数秒前に欲しかった……!できた、できてたかな……?
『あたしの彼ピはね……』
二人が仲良かったら、どうでもいいかな……。
布団の中からくぐもった電子音が鳴る。あたしは恐る恐る返信を見る。
 ヒオリさんのご家族とはしっかり挨拶するべきなので、都合をつけて食事に参ります。
 かなり緊張するはずなので、迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。
 ヒオリさんも学校と青春を楽しんでください。
 お疲れさまでした。
 夜は冷えますから、暖かくして寝てください。
 おやすみなさい。
すいすい。
す、すいすい。
す、す、す。
すいすい。
 男の人は体が弱いからユウマも暖かくしてね。
 おやすみなさい。
ひゅぽ。

最後にユウマとあってから約一週間ほど経っていた。
限界である。
精が足りずになんとなくぼんやりしており、食事は摂っているのに異様なほどの空腹感が襲い続ける。
ユウマに会いたくてたまらないが、ただ会うだけではだめだろうと思う。なので近くのスーパーで食材を買ってきた。
食事を振る舞うためだ。きっと大体の魔物はこの瞬間のために家事の鍛錬を積んでいるのだろう。
まあ、あたしの家事スキルはお母さんにも、チャラ男にも負けるが……。
お姉ちゃんは料理が上手いが、それしかできない。ずぼらでがさつだから掃除や管理ができないのだ。悪口じゃないよ?
先日摂取した彼の精の味から、どういった食生活なのかは大体想像できる。少なくともあたしが同じ食生活をすると耐え切れないだろう。
彼の部屋の前で足元にビニールの袋と鞄を置き、扉に体重を預ける。扉はひんやりしているだろうが、コート越しにはわからない。
「どうも」
「あ、どうも」
向かいの部屋から出てくる男の人は怪訝そうな顔でこちらに挨拶をする。あたしは同じ言葉を交わし、頭を下げた。
これから夜勤なのだろうか。作業服を着た男の人は使い込んだ自動車に乗っていった。
太陽が完全に沈み、魔物達の時間になる。ポケットからケータイを取り出すも彼からの返信はない。既読はついているのであたしが来ることは知っているだろう。
友人のチャラ男からはまだメッセージが届く。
『つらい』
『つかれた』
『もうたたない』
あたしは忙しい。メッセージを華麗にスルーし、ケータイをポケットに戻す。
熱が与えられなくなった風は冷たく、枯葉を乗せてどこかへと飛んでいく。
冷気が首筋を撫でるたびに胸を締め付けるような感覚が襲う。あたしは誤魔化すように、コートのフードをかぶった。
ポケットから着信音。
ユウマかもしれない!
落としそうになりながらケータイを取り出し、電話に出る。
『あ、もしもし。ヒオリさん?ごめんね、多分待ってるでしょ?今電車降りたから。もうすぐ着くからね』
「うん、まってる」
『ご飯どうする?なんか買ってこうか?もうコンビニくらいしかやってないけど』
「ん……。あたし作るよ。おにーさんお金ないでしょ」
『いや、それは悪いよ。それに家に食材なんもないよ。酒と割材しかない』
「あはは、料理の練習台になってもらうだけだから気にしないで。材料はだいじょーぶ。近くのスーパーで買ってきてるよ」
『ん、……うん。わかった、ありがとうね。あ、歩くの遅くなるからそろそろ切るね』
「はーい。楽しみにしててね」
ふつりと電話が切れる。
大丈夫かな、変なこと言って無いかな……?
顔が見えて触れ合った状態なら表情や視線、匂い、仕草から望んでいることがある程度わかるが、電話やメールは慣れない。
ユウマは電話やメールの方が饒舌で少しだけ羨ましい。
少し不安はあるが、話せたことであたしの心は軽い。
フードを下すと、火照った首筋を爽やかな秋の風が撫でていく。穏やかな風に乗って鈴虫が近くの畑へ飛んでいった。
ユウマのアパート近くには畑と田んぼがあり、そこから響く虫と蛙の合唱が心地よい。
しばらく待っていると電灯に人影が照らされた。あたしの視力は飛び抜けていいわけではないが、走り方や鞄からユウマだとわかる。
彼はあたしのもとにつくと、荒れた息を整えながら部屋の鍵を開ける。
「ごめんね、寒かったでしょ。急に寒くなったもんね」
「ううん、あたしは寒いの平気だよ。コートも着てるし」
使い込まれたスニーカーの横に黒いロングブーツを置く。
「あ、少し待ってて。部屋の中のごみだけ片付けちゃうから」
彼はドアの奥に消えると、ばたばたと片づけを始める。
プラスチックの容器がこすれたり、ハンガーをかけたりしている音が聞こえる。
男の人が一人で暮らしている部屋などあまり片付けられていないだろう。普段から人を呼ぶようなタイプでもないだろうし。
まあ、片づけをするというのは良いことだ。もちろん普段からしておけば土壇場で焦ることもないのだが。
「お待たせ。普段はあんまりお客さん呼ばないからさ。ははは……」
「まあ、部屋見たらわかるよ。誰かを呼ぶことを想定した部屋じゃないよね」
ざっと見たところ、寝るための部屋だ。実家の時の自室をここに持ってきました、位なものだろうが、冷蔵庫とコンロがあってよかった。なかったらどうしようと思っていた。
あたしはコートをユウマに手渡すと鞄からエプロンを取り出す。
「あ、ヒオリさんはエプロンつける派なんだ。俺自炊するときエプロンつけたことない」
あたしは揚げ物の時くらいしかつけない。お姉ちゃんは彼氏の前で全裸で揚げ物を作ろうとして油をひっくり返し、やけどをしていたことがある。
ここでつけたのは制服を油であまり汚したくないのと、気合を入れるためだ。
このエプロンは腰ひもを結ぶタイプなので、くびれが目立って見ているユウマも嬉しいだろう。
……多分。自分の外見に自信はあるが、あったはずなのだが……。
ええい、ビビってんじゃない!
バレないように深呼吸し、少し大きい声を出した。
「っし!じゃ、ご飯作るけど食べられないものとかある?」
「なんでも食べるよ」
「ん。じゃあ少し待っててね」
家以外のキッチンで料理するのは初めてだろうか、まあ何とかなるだろう。
あたしはビニール袋から食材を取り出し、緊張を押さえるように再度、深呼吸をした。
緊張とは裏腹に、さくさくと料理は進んでいった。
豚肉とキノコの生姜焼きに付け合わせとしてキャベツの千切り、白菜とにんじんの浅漬け、インスタントの味噌汁と炊き立てごはんが調理台に並ぶ。
本来はテーブルの上に置くべきだろうが、彼の家にそんな気の利いたものはない。狭いスペースで密着しながら大皿に盛られた料理を二人でつついて食べる。
良い出来だ。十分に火も通っているし、キノコの食感もいいアクセントになっている。生姜もしっかり効いており、あたしの気持ちに合うように辛い。
漬物もつかりすぎず、丁度良い。キャベツの千切りも同様に、箸休めにシャキシャキとした歯ごたえがなんとも楽しく、箸が進んでしまう。
ちらりと隣を見るとユウマと目があう。彼は不思議そうに顔で口の中の物を飲み込んだ。
「……どうしたの?おいしいよ」
「少し辛かったかなって思って気になったの。大丈夫そうで良かった」
「あ、だいぶ生姜効いてるもんね。これくらい効いてた方が美味しいかなぁ。自分で作った時は味がぼやけちゃってさ」
「おにーさん料理するの?なんかできなさそう……」
調理中に台所の中を確認したところ、料理用具はさびも汚れもない。そう手の込んだ料理は作らなさそうだ。
冷蔵庫の中も常備菜の類はなかった。彼が言った通り、缶やペットボトルに入った炭酸飲料とお酒しかない。
「ずぼら飯しか作れないしね。普段は食欲もあんまりないしなあ」
「……?具合悪いの?」
「や、なんかしばらく前から食欲もないし、あんまり眠れないんだよね。まあいいかと思って毎日生きてる。あ、今は食欲あるよ。ちゃんと美味しいし」
確かにそれなりのペースで箸を進めている。普段はないだけで今日はあるのだろうか?
無理してないといいけれど……。
食事が終わり、食器の上が空になった。米の一粒も残されていない。ずいぶんきれいに食べてくれたようで、なんだか嬉しい。
片付けようと動くユウマを尻尾で掴む。
「あたし片付けとくからさ、おにーさんはお風呂入っといでよ。上がったらマッサージしてあげる。お代はつけといてあげるから」
「君にそこまでさせるわけにもいかないでしょ……」
やれやれ。楽をしても問題ない時には楽をしておくべきだと思うのだが……。
「んふふ、早くお風呂入った方が早く寝られて明日も元気に働けるよ。忙しいんでしょ?ほら、早く早く、それとも一緒にお風呂入りたい?」
「わ、わかった、先に風呂入ってくるから……」
彼は申し訳なさそうにして脱衣所に向かう。本当は洗濯もしたいがそこまでやると時間もかかるし、ユウマに負い目ができてしまうだろう。
食器棚を開けて使えそうな皿をいくつか出すと、余った生姜焼きを小分けにして冷蔵庫へ。
炊飯器の中の米はラップで何個かのおにぎりにする。鞄の中から付箋を取り出し、いつまで食べられるのかメモして冷凍庫へ入れる。
発生した洗い物をちゃちゃっと洗い、ペーパーで拭きとると食器棚へ戻す。使ったペーパーはカビやハエを避けるため水分を絞り、炎の魔力で乾燥させてごみ箱へ。
見回すと壁際などの隅の汚れが気になる。壁に立てかけていた掃除用具で簡単に掃除を行う。
奥の部屋には万年床であろうお布団が畳まれていたので、そこも簡単に掃除をして整えておく。
……いつの枕カバーなのだろう?変色している。嗅ぐと洗剤の匂いがするので最近洗ったのだろうけれど、もうここまで色が変わっちゃうと買いなおした方がいい気がする。
「うわっ、掃除までさせちゃった。ほんとにごめんね、ありがとう」
「いーよ、時間もあったし。おにーさんのことだからもっと汚いかと思ってたくらいだもんね」
「そんなにずぼらにみえるかな……?」
見える。主に垢抜けない髪型といつ買ったのかわからない服装のせいでそう見える。肌もそんなにきれいじゃないし、マメじゃなさそうな感じがする。
あたしは曖昧に笑って誤魔化す。いつか一緒に服を買いに行こう。そのときに髪型も変えてもらおう。肌は……、これから頑張ろう。
「え〜っと、俺は布団に横になればいいのかな?」
若干濡れた髪のままお布団に横たわろうとする彼を制する。
困惑した表情のユウマを抱き締め、彼の髪を撫でる手に魔力を集中させて髪を乾燥させていく。
ドライヤーがあればこんな方法は使わなくてよいのだが、ないので仕方ない。うん、仕方ない。
「ん……」
彼の口からうっとりとした吐息が漏れる。お風呂から上がってしっとりとした男の肌があたしの情欲をそそり、膣が熱い粘液を分泌し始めた。
「ふふ。髪、乾かしたしお布団に行こっか」
あたしは彼の手を引きながらお布団に歩み寄って座ると、向かい合う形でユウマも座る。
風呂上りというだけではないだろう。上気して赤くなった頬、視線はあたしの下腹や胸元を行ったり来たり、布地越しでもわかるほど勃起したペニス。
積極的な男の子だったら押し倒そうとしてきただろうが、彼はどこか切なそうな、緊張したような面持ちで正座をしている。
完全にあたしが性的支配権を握っており、女主人としてユウマの精神に君臨していることが分かった。
「ん……。それじゃ、おにーさん、あおむけにごろーんして」
「う、うん」
ユウマはごろんとあおむけに寝ころぶ。下着しか身に着けていないので、パンツの裾からは勃起した肉棒がはみ出てしまっていた。
「ご、ごめん。しばらく出してないから……」
恥ずかしそうにパンツをずらそうとする手。それをあたしは優しく握った。
「ふうん……?最近シコシコしてなかったんだ?」
「い、忙しかったし……。それに一人だと気持ちよくなかったから……」
「へえ……、おにーさん、あたしじゃないとダメになっちゃったんだ?」
何も言わず、ただ頷く。その姿にぞくぞくとした快感が背筋を貫くと同時、心臓を掴まれたような気持ちになる。
あたしはユウマに太ももが陰茎をなぞりあげるようにして覆いかぶさり、耳元に口を寄せて囁く。
「マッサージ終わったら気持ちよくしてあげる。んふふ、つけにしといてあげるから。楽しみにしてて」
「あぁ……っ」
彼の唇から甘い声が漏れた。それはあたしの鼓膜を心地よくなぞりあげ、脳髄に麻薬のように染み渡る。
「あはっ、もうカッチカチ。じゃあお手々からやってくね……」
ユウマの手から腕、肩、胸の順に張った筋肉をほぐしていく。
やはり普段はあまり食事を摂らないのだろう。彼の肉体はほっそりとしており、栄養を摂らないせいで疲労がたまり、体を修復できていない。
予算が足りずにメンテナンスが行われていない道路のような体だった。
マッサージの知識は淫技実習で習った程度しかないが、それでもやらないよりはいいだろう。
「苦しくないかな、だいじょーぶ?」
「うん。だいじょうぶ、あったかくてあんしんする」
ふわりと蕩けたような、本当に安心しきって恍惚に浸る声と表情。
それらはあたしの官能を刺激し、最高の喜びを伝えた。
「良かった。続けていくから、痛かったり苦しかったりしたら言って?」
「ん……」
あたしは下半身のマッサージに移るため、体をずらす。自然とあたしの秘所が彼の肉棒と擦れあう。
あたしのショーツ越しの性器に肉棒が焦らすように触れ、ぴりりと性感が走った。
「う……、ごめん。おさまんなくて……」
「んー?元気でよろしい♪ふふ、今はガマンして?」
ユウマの痩せた脛のあたりに陣取る。末端から中枢に向かって血液を流すようにマッサージを行っていく。
多分デスクワークなのだろう。上半身と比べ、下半身はもっと筋肉が凝っている。
「ん……。前は終わったからうつぶせになって」
余程リラックスしていたのか、緩慢な動作でうつぶせになる。勃起した男性器のせいで少し腰が浮いており、その滑稽な姿が何となく愛おしい。
体重を膝で殺しながらユウマのお尻にまたがり、背面全身にマッサージを行う。
背中から指先に流していくときにはたと気づく。
あたしの方が体格がいい。このまま指先まで流すと体重がかかって苦しいのでは?
「……っと」
翼を広げて支えにしながら背中に胸を当て、ゆっくりと手先までほぐす。
お風呂から上がったばかりのユウマの頭部からはシャンプーの匂い。密着した胸には彼の心臓の拍動が伝わる。
「ふ……」
何度かマッサージを繰り返すうちにもじもじと彼の腰が動き始めた。勃起したペニスの位置を直したいというより、もどかしそうな印象を受ける。
「んふふ、おっぱい当たって気持ちよくなっちゃった?」
彼は赤い顔で頷いた。
「ね、おにーさん。しばらくオモラシしてなかったんだよね。どんなふうにピュッピュしたい?」
「あ……、手で。後ろから抱きしめてもらいながら、手で……」
「んふ、抱き締めてもらいながら手でシゴいてほしいの?欲張りな変態さんだ……」
あたしは彼の隣にぺたんと座ると手を広げた。
「はい、おいで〜♪」
彼は誘われるがままにあたしの前に座る。その小柄な体はあたしの中にすっぽりと包まれた。
あたしはユウマを背中から抱きしめる。シャンプーと汗が混ざりあった煽情的な匂いが鼻孔から肺に入り、あたしの体を満たしていく。
「ヒ、ヒオリさん、あんまりかがないで……」
恥ずかしそうな声があたしの鼓膜を誘惑する。ぞくぞくとした快感が体の深奥に生まれ、じんじんと痺れるようだ。
ユウマを抱き締めたまま乳首や太ももなどの性感帯を撫でまわす。
そのたびにぴくぴくとペニスが揺れ、先走りがとろりと漏れた。お布団に零れるのもイヤだろうし、雫を受け止められるように翼の位置を調節する。
「まだ直接触ってないのに、もうおちんちん最高にボッキしてるね。ほら、えっちなお汁、とろとろ〜って。この分だとすぐ射精しちゃうかな?」
「さ、触って……。はやく……」
「だぁめ。もっと気持ちよくなってから触ったげる」
「やだ……。もう、でちゃ、う、からぁ……」
彼の腰はへこへこと動き、陰茎の根元をパンツの布地がすれるだけ。本来はこの程度では射精しないはずだ。
しかし、一週間ほどあたしと離れてくすぶり続けた性欲にはこの程度で十分。
放出される精液があたしの翼にかかるように鈴口の前へ寄せ、カリ首のくびれをさわさわと翼膜でくすぐる。サオは痛くならないようにふんわりと握り、柔らかく扱いていく。
あたしはユウマの頭を撫でながら耳元に唇を寄せて囁いた。
「気持ちいいね……。ジョシコーセーに抱き締めてもらって、おちんちんシゴいてもらって……セックスしてるみたいに腰振って」
「きもちいい、きもちいいよぉ……。ヒオリさん、もっと、もっとぉ……」
理性が崩壊してしまったようだ。
今のユウマは脳髄が蕩け切ってあたしで射精することしか考えられない状態のはずだが、それでも押し倒すことはない。
それどころか空いた手があたしの翼や尻尾を優しく撫で、甘えるように後頭部をあたしに擦りつけているのがくすぐったい。
この前はあたしにしがみついて腰を擦り付けていたのだが……。まあ、疲れていて甘えたいのだろう。
「ヒオリさん……でちゃう……」
「ん……、ふふ。どーぞ、たくさん射精して?」
「あ……っ!ふっ、んっう……っ!んあ……っ!っは……、ふあ……っ!や、だめ、ぇ……っ!」
精一杯自己主張する可愛らしい生殖器は、その先端から大量の白濁液を放出した。
一度ではない、二度、三度、四度、五度。痙攣にも似てがくがくと動く腰、まるで壊れた蛇口のように精液を吹き出す陰茎。射精のたびに口から漏れる喘ぎ声。
あたしの翼はたっぷりと精液を引っ掛けられ、夕闇色の翼膜に白い雲がかかる。何となくノスタルジーを刺激する色合いだ。
この翼もあたしの肉体であるため、そこからでも精を吸収できる。
精液を握るように翼を畳み、もみ込むように動かしてじんわりと精液を吸収していく。
腰のあたりにその濃厚な味が伝わった。たっぷりと重く、ぴりぴりと痺れるほどに辛い。まるで一口にフルコースを凝縮したような味。
「あはっ、いっぱい射精たね〜……、すっごく濃くて美味しい……」
「あ……、は、ああぁぁぁ……」
ぐったりと脱力してあたしに全体重を預ける彼の顔を見ると、力なく白目をむいてよだれをたらしている。
どうやらたまったものをすっかり吐き出して気絶、もとい眠ってしまったようだ。
あたしはとりあえず彼に寝間着代わりのスウェットを着せ、お布団をかける。
「ちゅ……、んふ」
垂れたよだれを舐めとり、頬に口づける。唇に伝わる熱く柔らかな皮膚の感触があたしを燃やす。
極上の肉を体内に収めてしまいたい衝動をこらえながら体を離し、身支度を整えようとあたりを見回した。
あたしのコートは確か、ユウマにしまってもらったはず。若干の申し訳なさを感じながらクローゼットの扉を開け、自分のコートを羽織る。
「お疲れ様……。明日からも頑張って」
外は満天の星空。熱く火照った肉体を秋の風が冷ましていく。
時刻はすでに十一時を過ぎ、もう終電はない。あたしはケータイをとりだした。
『もっし〜、おかけになった電話番号は現在も絶賛使用中でぇす』
「あ、お姉ちゃん?○○駅まで迎えに来てほしいんだけど。大丈夫?」
『おっけぇい。ちょっと待ってなさいな』
別に迎えに来てくれるなら誰でもよいのだが、ここで親を呼ぶほどあたしはデリカシーのない魔物ではない。
駅に向かおうと足を動かすたびに水音が鳴る。すでにショーツはしっとりと濡れていた。

駅前の繁華街を早歩き。
右も左も魔物と男性で賑わっていた。視界の隅に映る路地裏には酒瓶を抱えて倒れているエンジェルとデビル。
学生であるあたしには本来、用のない場所である。しかし、今はのっぴきならない事情により繁華街にいる。
あたしは見てしまったのだ。ユウマと魔物が二人で駅から出てくるのを。
かなり離れていたので見間違いだと思おうとしたが、それはできなかった。あたしが彼を見間違うはずがない。
心臓は激しい鼓動を打ち、吸い込む空気は冷たく胸を切り裂いていく。
感覚を研ぎ澄ませて彼がどこにいるのかを探る。
ユウマの熱はどこにいてもわかるほど、あたしの中でその存在は大きくなっていた。
彼を追うためにエンジェルとデビルが寝ている路地裏を通る。どうやら二人は夢の中で好みの男性とあっているようだ。
「うへへへ、いっしょに祈りませんか、だ〜れも見てないから安心ですよ。うぇひひひ……」
「だめですよぅ……、まだ火が通ってないです、食べられないですよぅ……」
路地裏を抜ければちょうどユウマの背後に出る。あたしは彼に後ろから抱きつき、胸を押し付ける。
「おにーさん、今日はデート?モテモテだねぇ……」
「うわっ!ヒオリさん!?」
あたしはユウマの感触を味わいながら目の前の魔物を威圧するように睨んだ。
黒く長い髪に頭から生える犬耳、オオカミのような手足にふさふさとした尻尾。アヌビスだ。
あたしの態度を意にも介さず、微笑みすら浮かべて値踏みするように見る。どことなく居心地が悪く、萎えそうになる気力を振り絞って睨みつけ続ける。
「ああ、噂の。よろしく、ヒオリ君」
「あなたは誰?ユウマの何?」
「ち、ちょっとヒオリさん……。態度……」
アヌビスはくっくっと笑いながら口を開いた。
「いや、なかなか女運がいいじゃないか、ユウマ君。私は彼の上司のリコだ。心配して来たのだろうから言っておくが、すでに既婚だ」
既婚の魔物が男と二人で食事?珍しいどころの話ではないが、嘘を言っているようにも見えない。
「なに、友人の息子がなかなか大変な仕事を成功させたのでね。ねぎらいが必要だろう?」
リコと名乗るアヌビスは懐から携帯を取り出し、どこかの店に電話をかけた。
「さて、一人増えたが席は問題ない。食事はまだだろう?ヒオリ君」
睨みつけるあたしを笑いながらチェーン店の居酒屋に入っていく。

「すみません、ちょっと、お手洗いに……」
ユウマが立ち上がり、個室から出ていく。
リコさんはジョッキを傾け、なみなみと注がれた液体を喉に流し入れる。
すでに彼女はビールを十杯以上飲んでいるが、全く顔色が変わらない。ザルとかワクとかいう奴だろう。
一息で三分の二ほど減らすとこちらを見る。
「ユウマ君と仲がいいようだな?」
「そうですけど?」
何か問題があるのか?
あたしは苛立たしさを隠すように刺身を口に放り込む。
わさびを挟み、醤油をつけられた魚肉の濃厚な味が口いっぱいに広がる。
脂が良く乗っており、舌にのせるだけで蕩けそうなほど。咀嚼するたびに旨味が溶け出し、口内を幸せで満たしていく。
「あれは生きるのが下手だからな。私が未婚だったら管理してやっても良かったが……」
リコさんは首に巻いた黒革のチョーカーを愛しそうに撫でた。
「たまに、料理の実験台にするぐらいが関の山だ」
話を聞きながらあたしは箸を動かしていく。
刺身についてきた大根のつまにわさびを乗せ、大葉で巻く。
大根が零れないように注意しながら醤油につけて口に入れた。
舌に伝わるのは大葉のざらりとした感触、それと初夏の森を思わせる爽やかな酸味に醤油の塩辛さ。大根からにじみ出る水分と甘みが口中で混ざり合う中でわさびのつんとした辛さが鼻に抜けていく。
「うちの会社に入った男は大体が寿退社していくからな……。あれはあれでいまいちやる気が見られなかったが、最近は様子が変わってきた。君のおかげだろう?」
お茶を口に含む。熱い緑の液体は舌に残った脂と味を洗い流し、さっぱりとした風味を残して喉に落ちていった。
リコさんもビールを飲んで口を湿すが、残りがなくなっていることに気づいて卓の隅にあるボタンを押す。
ボタンが押された瞬間、がらりと扉が開く。店員のデビルバグが愛想よくメモを構える。
「お待たせしましたっ!ご注文は何にいたしましょうかっ?」
「ビールを大ジョッキで。それと熱燗を。ヒオリ君、おかわりは?」
「あ、いいんですか?じゃあウーロン茶をお願いします」
「はいっ、ビール大と熱燗、ウーロン茶ですねっ!少々お待ちくださいっ!」
デビルバグは復唱してにっこりと笑うと、大量のジョッキを盆にのせて去っていった。
結構早く動いていたけど、落とさないのだろうか?あたしは心配で店員の様子をうかがった。
彼女、いや、彼女たちは店内を滑るように動き、配膳と片づけを行っている。
脇腹から飛び出している昆虫腕を含め、四本の腕が縦横無尽に動く。食器を落とさないように絶妙にバランスを取ったままだ。
「ここの店は店員の元気がいい。たまに来ると元気をわけてもらえる」
リコさんは嫌そうにサラダを口に放り込み、あまり噛まずに飲み込む。野菜は嫌いなようだ。
「この間から金が欲しいというので仕事を任せた。残業をしていたがうまくやり遂げた。いつもこれくらいやってくれると良いのだが」
「残業にならないように仕事を振るのも上司の仕事じゃないですか」
そのせいで会えなかったのだ。
苛立ちを押さえられず、あたしはリコさんに噛みついてしまうが、彼女はおかしそうに笑った。
見下すでもなく自然に愛情すら感じられるような笑い声。それはなんとも居心地が悪い。
この居心地の悪さはなんだろう?
「残業にならないように成長し続けるのが部下の責務。上司の仕事はそうなるように、っくく、成長できるように手を貸し、導くことだ。
お前たちはまだ若い。これからいくらでも成長するのだから待っていたまえ。あれを信じるのもパートナーであるヒオリ君の役割だからな。
それに、稼いだ金は君のために使われるのだろう?あれはそのために働いているのだからそう怒ってやるな」
そういわれては納得するしかないが……。
「……でも会えないのは寂しかったです」
「ユウマ君にはっきりそう言いたまえ。あれのやる気も出てくる」
「あれ、俺の話ですか?」
ユウマが帰ってきた。彼はあたしのとなりに座ると、残ったビールを飲み干し、刺身を口に入れて嬉しそうな顔をした。
「みんな飲み物ないっすね。なんか飲みます?次俺熱燗行きますけど」
「もう頼んである。そろそろ来るはずだが……」
「あ、すみません。ありがとうございます」
付き合いの長さを感じさせるやり取りに苛立ち、ユウマの皿に残っていた赤い刺身を奪う。脂がのった魚肉はあたしの舌で蕩ける。
「あ……っ、俺のサーモン……」
「し、失礼します……」
お礼の声に隠れながら、からからと控えめに扉が開く。胸に研修中と書かれた札を下げた若い男性店員が料理と飲み物を持ってきたようだ。
彼はぎこちなくあたしたちの前に飲み物と串焼きを置くと、一礼して去っていった。
「やった♪熱燗久しぶりだなぁ、徳利は注ぐのが楽しいよなぁ」
なみなみと注がれたお酒は彼の口の中へ吸い込まれる。喉仏が上下するといかにもおいしそうに目を瞑り、唸りながら破顔する。
顔が赤くなっているのはアルコールのせいだけではないだろう。あれからたまにご飯を作りに行っているので、栄養が摂れて血色がよくなっているようだ。
「お酒好きなの?おにーさんの家、お酒しかなかったし」
「好きだよ。ちょっと前まで寝るための酒だったけど」
困惑するあたしをよそにリコさんは笑みを浮かべて口を開く。夜空の瞳の奥には心配するような光が揺れていた。
「最近は忙しかったからな。寝られているか?食事はどうだ?」
「まあそうですね。最近はいろいろと調子もいいですよ。ヒオリさんがたまにご飯作ってくれますし。」
「ふん?」
心配の光は色を変え、おもちゃを見つけた子供のような光になった。
普段からユウマにべったりであることを察され、なんだか気恥ずかしい。
「あ、掃除とかマッサージもしてくれたんですよ。すごくないですか?ちょっとシャワー浴びてる間にさささーって部屋綺麗にしてくれたんですよ。
自分で掃除しろよと言われたらまあそうなんですけど、俺すっごい嬉しくって。ヒオリさんと出会えてよかったなぁって」
「ち、違いますからね、リコさん。部屋があんまりにもあんまりだったから。やっぱり清潔な部屋の方がいいじゃないですか。リコさんもそうじゃないですか?」
「そうだな。綺麗な部屋の方が盛り上がる。ま、私の夫はそこらへん出来てるからな。結婚したての頃は家事は分担するはずだったが、いつの間にか甘え切ってしまっている」
「こないだリコさんのデート見ましたよ。旦那さんすごいイケメンで家事もできるってすごいですよねえ。天は二物を与えるんですねえ」
「ふふふ、そうだろう?ヒオリ君も見るか?私の夫の写真だ」
リコさんは取り出した手帳から写真を抜き出した。
「見てみてヒオリさん、めっちゃイケメンだよ。すごくない?」
確かに笑ってしまうほどに顔が良い。長身によく鍛えられた筋肉質な身体と朗らかな笑顔。男性らしいだけではなくどこか愛嬌を感じさせる、まさに絶世の美男子だった。
しかし……。
「あの、なんで全裸なんです?」
「私の夫は全裸が好きでな……。まあ脱ぐ手間が省けて楽ではあるな」
穏やかに笑い、写真と手帳は彼女の懐へしまわれる。
「リコさんは全裸で過ごさないんですか?」
隣でユウマが咳き込みながらも、リコさんの胸のふくらみや腰のくびれをチラ見した。
バレていないと思っているのか?あたしどころか、多分リコさんにもわかってしまうだろう。
「ははっ。一度だけ、彼に合わせて全裸で過ごそうとしたんだ。でも嫌がられてしまってね。ふふ、独占欲を浴びるのも悪くない……」
彼女は照れたようにビールを煽る。
独占欲ねえ……。あたしは隣の男を見る。チラ見は忘れたように呑気な顔で串焼きをほおばり、お酒を口に含むとゆっくりと飲み込む。その姿は何となく安心しきった犬のようだ。
なさそうだなぁ……。
少し残念だが、そういう子なので仕方がない。
串に刺された鳥肉をほおばり、肉の繊維をかみ切ると熱い肉汁が舌の上に広がった。絶妙な焼き加減の肉から出る甘みを塩が引き立たせており、非常に美味しい。
「ん……美味しいですね」
「あ、ヒオリさんも肉好きなの?っていうか俺ヒオリさんの好きな食べ物とか知らないや。良かったら教えてくれないかな?」
ユウマは酔っているらしく、普段よりも口が軽くて積極的だ。
なんだかユウマの知らない面を見られてとても嬉しい。
「何でも好きだよ。今のとこ食べられないのはないけど、そうだなぁ……」
あたしはユウマの内腿に手を這わせると、彼はびくりと体を震わせ、一気に股間部が盛り上がっていく。
「あ……」
期待、羞恥、歓喜……。それらの感情を秘めた光がオスの瞳の中で輝いた。
ぱ、とあたしは手を放した。瞳に宿った情欲は残念そうな、安心したような光に変わる。
「んふ、おにーさんは何が好き?」
「……っと、君が作ってくれたものなら何でも好きかな。ね、この間の生姜焼き、ほんとに美味しかった。ちゃんとお礼も言ってなかった気がするからさ。ありがとね」
熱を帯びた感謝の言葉。それは思いもよらぬ逆襲だった。
意味を理解した途端に角の先から爪先、翼、尻尾で揺らめく炎までがびりびりと痺れ、どんな絶頂もかすんでしまうほどの快楽を浴びる。
今ここで押し倒して唇を吸ってあげたい。
彼の精液を浴び、体内に注ぎ込ませてあげたい。
彼のすべてをあたしの子宮の中にしまってあげたい。
ぐっ、と足に力をこめた時だった。
音もなく扉が開き、店員のマンティスが深々とお辞儀をした。
「失礼します。先ほど、私のおっ……っ、あー……、店員が間違えて別の銘柄で熱燗をお出ししてしまったようです。大変申し訳ありません」
店員によって出鼻をくじかれたあたしは熱を冷ますためにお茶を口に含んだ。
冷たいお茶はすっきりと甘く、控えめな酸味の中に隠れた苦みが精神を落ち着かせる。
「あれ、そうなんですか?なんだかすごく美味しかったので、おかしいなあ、杜氏の方がめっちゃ頑張ったのかなあって思ってました。お代はお支払いしますね。えっと……」
ユウマが鞄から財布を取り出そうとするのをマンティスは手を広げて制する。彼女は焦っているのか鎌も一緒に動いて壁にぶつかった。
「いえ、お代を頂くわけにはまいりません。ただ、ヒトが飲むには少々強いものですから、お冷をお持ちしましたので、よろしければ」
「あ、ありがとうございます。ふふ、冷やを飲んだ後はお冷ですね」
「……?」
「……?」
飲んでいるのは熱燗だったと思うが、いったい何を言っているのだろうか?
「ああ、ごめんなさい。彼はだいぶ酔っているようですね。今グラスに残っているものを飲んだらお会計をします」
リコさんの呆れたような顔。マンティスは無表情の上にハテナマークを浮かべながら会釈、退室していった。
時間を見るともうそろそろ電車がなくなる時間だ。確かにそろそろ帰らないといけない。
「君、家はどこだ?私の夫が迎えに来るから送らせよう」
「あ、電車で帰るので大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「ならば駅まで送ろう。そこの酔っ払いは私が責任を持って家に放り込んでおく」
「え?酔ってないですよ。まだいけますって……おとと」
手酌でお酒を注ごうとしてこぼしてしまった。テーブルの上につくられた透明な水たまりが甘く芳醇に香り立つ。
「やれやれ……」
「ごめんなさい。ダメですね、これ。酔ってました」
「もー、おにーさんはお酒もってじっとしててよ。あたし拭くから待ってて」
あたしは脇に置いてある箱から何枚かのティッシュを取り出し、一息に拭く。
アルコールを含んだ紙ごみはそのまま近くのクズかごに投げ入れる。ホールインワン。
「ほら、徳利渡して。お酌したげる。こぼすよりいいでしょ?もったいないし」
「ご、ごめん、ヒオリさん……」
徳利の首と底を手で支えながら傾けると、熱を含む小さな滝が出来上がった。
極小の滝つぼは陶器に収まり、彼が飲み込むと食道で第二の滝を作るだろう。
「んふふ、美味しい?」
「ん、うん。美味しいけどもっと酔いそう」
すこし困ったような顔でお酒を飲むユウマ。ちらりと視線をずらすとリコさんが穏やかな顔でジョッキを傾けていた。
「うん?こちらのことは気にしなくていい。存分に甘えたまえ」
「逆ですよ。ユウマがあたしに甘えてるんです」
「年上の男としてはちょっとアレですけど……、概ねそうです。甘えっぱなしですね……。少しはかっこいいとこ見せたいんですが」
かわいいところはたくさんある。むしろもっとカッコ悪くて情けないところを見せてほしい。
「ま、頑張りたまえ。そろそろ迎えが来るはずだ」
「わかりました。じゃあ全部注いじゃいますね」
「おととと……。こぼれるこぼれる」
あたしは徳利の中に残ったお酒をすべてお猪口の中に注ぎ入れ、ユウマはそれを一気に煽った。
ほどなくしてリコさんの夫が迎えに来た。
あたしたちはその車に乗り込む。助手席に乗り込んだリコさんは夫と話している。その声は少し高く、甘い響きを帯びていた。
駅に到着し、車から降りるとリコさんも一緒に降りた。
「あれ、どうしたんですか?」
「ああ、お礼を言いたくてな」
「お礼……?」
何かしただろうか?食事中は少し態度が悪かったし、怒られるのだろうか?
「うん。私とユウマ君の母親は仲が良くてね、彼は私の子供……、あー、甥のようなものだ。オムツを変えたこともある。いろいろと抱え込む子だからな、よろしく頼む」
リコさんは深々と頭を下げた。

町から車で揺られて約三時間。休みながら来たがさすがに腰や翼の付け根が痛い。伸びをすると背骨や翼、尻尾がぺきぺきと音を鳴らした。
「ぐ……、いてて。」
ユウマも同じように伸びをすると、ぼきぼきとくぐもった音が鳴る。
助手席から見ていただけでもわかるほど、かなり気を張って運転していたのだろう。
整備の行き届いていない山道や農道も比較的揺れていなかったし、真剣な表情でハンドルを握っていた。
あたしは彼の手を握った。運転のせいか、それとも緊張のせいか手汗がにじんでおり、しっとりと熱い。
「行こ。んふふ、あたしここで泊まるの初めて」
「あれ、そうなの?君の家に近いしたまに来るかと思ってた」
近いといっても車で約一時間ほど。道に慣れてなければもう少しかかるだろう。
「あたしとお姉ちゃんがいるときは日帰りだよ。お父さんたちはたまに泊ってるけど。……んふ、ほかの人と来てたらヤキモチ焼いちゃう?」
「そりゃ焼くよ……。年齢だって離れてるし……、そんなに稼げてもないし……」
そうだろうか?六〜七歳差くらいいくらでもいるだろう。学生と成人のカップルも珍しくはない。あたしの知っている年齢差は最大千二百七十三歳差だ。
収入だって稼げていないと言われても説得力はない。単純に支出が多かっただけだ。あたしが財布を握ってからは十分に貯まっている。支出が多い理由は外食と無理な飲酒が多かったからだし。
「あ、噂をすれば。あのヒト達があたしの知ってる中で最大の年齢差だよ」
あたしが指さした先には校長先生と男の子。
男の子のほうはあたしを見つけると、はにかんだ笑顔で手を振ってくる。先生はこちらを見るとにやりと笑い、男の子の手を引きながらホテルの中へと消えていった。
……どうやら気を利かせてくれたようだ。
「あれ、友達?挨拶とか……」
「いーよ、学校に行ったらあたしから説明しとくから」
フロントに入ると愛想のよい鰻女郎が住所と代金を求めてくる。住所を書いている途中のユウマの尻ポケットから財布を取り出し、お釣りの出ない金額を受付に支払った。
すでに彼の家計はあたしがすべて管理していた。月々の給与と支出がいくらなのか、すべて把握している。
「ふふ……、ごゆっくり」
鰻女郎から部屋の鍵を受け取る。手の中の洋白が軽い音を立てるので心地よく、無意味にちゃりちゃりと鳴らしながら部屋へ向かう。
「ヒオリさんって鍵なくしたことある?俺あるんだよね。家の鍵なくしたこと」
「もらったことないや。あたしんちいつも母さん居るから鍵開けっぱなんだよね」
「あ、そうなんだ。俺の親二人とも働いてたんだ。それでさ、友達と鍵投げ合って遊んでたらどっかいっちゃって」
ユウマは懐かしそうに笑った。にっこりとした笑顔はどこかあどけなく可愛らしい。
「冬だったし見つかんなさそうだったからさ、そのまま帰って玄関先で親来るの待ってた。寒いけどどうしようもないし」
「なんで鍵投げてたの?」
「え?なんでだろ。雪玉とかでもいいのにね。子供の時の行動って後から考えると笑っちゃう」
どこにもたどり着かない会話をするうちに部屋につく。
鍵を開けて指定された部屋に入ると、温泉地特有の匂いと使い込まれた畳の匂いが混ざり、嗅覚を快く刺激する。
「ん……っと、ふふ。ねぇ、脱がして?」
「うん。君、足きれいだよな」
あたしは上がりかまちに座って足を伸ばすと、ユウマは膝をついてブーツを脱がしていく。
すこしつっかえながら脱がしていくが、視線はあたしの太腿やホットパンツの裾、足の付け根あたりに向いていた。
「あはっ、気になるんだ、ココ」
「あ……、ごめん、つい……」
両手を太ももに這わせ、尻尾で衣服越しの秘所をなぞった。黒い瞳の奥で欲望がちらつくもすぐに視線をそらす。
あたしは笑いながら彼の動きに合わせて足を動かした。ブーツからストッキングに包まれた脚が解放され、どこかスッキリとした気持ちになる。
「どうしよっか。先にご飯食べる?それとも館内見て回ろうか?俺こういうところのゲームコーナー好き。ノスタルジィを刺激されるよね」
「あ、わかる。何となく懐かしいよね。でも先にお弁当冷蔵庫に入れちゃお?」
彼は話しながらあたしの後ろに回るとコートを脱がし、ハンガーにかける。自分のジャケットも同様だ。
そして備え付けられていたブラシで簡単に汚れを落としていく。
うん、あたしが教えてあげた動作だ。できるようになっている。
「服、大事に扱えるようになったじゃん」
「君のものでもあるからね……。大事にするよ」
あたしが教えたことを従順に守る男を見ていると、母性と性欲を刺激されてしまった。
テレビの下にある小さな冷蔵庫へ向かうユウマの顔を両手で挟んで引き寄せ、キスをする。彼の手から夕食に買ったお弁当を入れたビニール袋が落ちる。
「ん、んふ……。ぷぁ、んう、れろ、ちゅ……」
「〜〜〜〜!?」
驚きに固まっている唇を自らの口で包み、何度もついばむように重ねる。
接吻を重ねるうち、固く閉じていた城門はゆっくりと開く。その隙間にあたしは舌をねじ込んだ。
唾液で暖かくぬめった口内を舌で犯していく。一方的に互いをつなぐ赤い蛇は歯列をなぞり唾液を交換するために動かす。
さらりとした液体を吸い取り、それと交換であたしの口が産んだ体液を送り込む。
ふんだんに分泌されたそれは呼吸のたびに口から溢れ、彼の顎へと伝っていく。
唇を離すとあたしと彼の口元を透明な橋が繋いだ。
とろんとした瞳を見据え、笑顔を浮かべる。
「あはっ、すごくうっとりしてる……。はじめてのキス、どうだった?」
「な、なんか、すごかった……」
あたしは彼の頬に口づけると耳元で囁いた。
「ね、次はユウマからキスしてよ」
「ん、うん……」
彼は頷くとキスをしようとしてあたしに顔を近づけるが、身長差のせいで唇に届かない。一生懸命に背伸びをしてもその差が縮まるわけもなく。
……ここまで必死に求められるのは悪くない。
キスの余韻に加え、好きな男の人に求められる喜びに浸り、あたしの唇はほころんでしまう。
「ごめん、キスできないから、その、かがんでくれないかな……」
あたしはその場に座り、両手を広げる。彼は少し迷ったような表情を浮かべると、おずおずとあたしの中に入っていく。
太腿には心地よい重み、密着した下腹部には固く勃起したペニスが当たり、頬が熱くなる。
「な、なんか照れるね……」
恥ずかしそうな彼の声があたしの鼓膜をくすぐる。どこまであたしを誘惑すれば気が済むのだろうか?
「えっと、じゃあ、キスするね」
黒い瞳が瞼に隠れる。温かなつぼみがあたしの唇に触れ、ちゅっと音を立てた。
「ん……、ちゅっ」
彼は何度もあたしの口を吸い、音を立てる。おそらくキスをしたことがなく、これしか知らないのだろう。
これだけでも楽しいが、なんだか焦らされているみたいでたまらない。
ユウマのたどたどしいキスは女性経験の少なさを感じさせた。それは女性を知らない童貞をあたし好みに染めていく楽しみがあるということだ。
彼の最初で最後の存在にあたしはなるんだ……。
下腹部をきゅんきゅんとした感覚が満たしていき、女の本能が与える悦びからあたしはくすりと笑ってしまう。
すると、キスをバカにされたと思ったのか、怒ったような照れたような声があたしの鼓膜を叩く。
「し、仕方ないでしょ……。ヒオリさんが初めてなんだから……!」
「んはは、もっと力抜いて。やりたいようにキスしていーよ」
「わ、わかった。がんばるから……」
そう気負わなくても良いのだが……。はじめては誰だって失敗したり緊張したりするものだ。
ユウマと視線がぶつかる。その黒い瞳は澄んだ夜の海を思わせ、水面にあたしの顔が映っているような感覚を覚えてしまう。
「ヒオリさんの目って夕暮れみたいで、すごくきれいだ……。太陽が水平線に下りていくときに残る光みたい」
「ん……」
独特な褒め方だ。
ラミアやドラゴンなどであれば鱗、アルラウネやマンイーターなら花の色など、特有の器官を褒めることはある。
あたしたちのようなサキュバス属を褒めるとすれば、この肉体がもつ性的魅力だろうか。
他者から外見を褒められるのはもちろん嬉しい。あたしもよくラミアの友達に嫉妬交じりの称賛を受けながら足を撫でられている。
こっちとしては蛇体で恋人をたっぷり抱き締めてあげられる、ラミア系の子たちが羨ましいが……。
「俺、夕暮れ好きだよ。仕事が終わった後だから」
「でも残業つづ……はむぅっ」
褒められた気恥ずかしさから茶化そうとした唇が塞がれる。
男の子の唇はあたしを貪るように動き、うごめく口の端から吐息が漏れてくすぐったい。
「は、あむ。……んふ、ちゅ、はぁ……。んぐ、ふあ……」
「んふ……ちゅっ。……ふふ」
あたしを貪る唇は受け取る快楽に夢中になっており、唇だけでなく首筋や胸元までキスの範囲を広げていった。
シャツのボタンを外そうとする手があたしの肌に触れるたび、ぱちぱちと爆ぜるような感覚が肌を焼く。
「ごめん……、俺、我慢できない……」
互いの唾液でべたべたになった顔は赤く燃えており、蕩けた瞳は欲情に揺れている。
「ん……、いーよ、脱がしてあげる。はい、ばんざーい……」
あたしは彼を立たせると、そういいながら両手で彼のシャツを上に引っ張り、同時に尻尾と翼でズボンとパンツを脱がしていく。
解放されたペニスはぴくぴくと震え、今にもオモラシしてしまいそうだ。
「あはっ……。震えてる、可愛い……」
「ふぁ……っ、だめぇ……っ」
あたしは小動物を触れ合うようにして優しく握った瞬間、彼はとろんとした甘い声を上げて亀頭が弾けた。
びくびくと震える肉棒から熱い粘液が迸り、あたしの手を白く汚していく。
「ご、ごめん……、俺……」
涙を湛えて潤んだ瞳は雫が零れ落ちそうだ。早すぎる射精に情けなさを感じているのだろう。
あたしは彼の頬に口づけて笑う。
「嬉しいな……。そんなに興奮してくれたんだ……」
零れた雫を舌で舐めとると塩辛い味が舌に沁み込んでいった。
「ん……美味し……。ね、あたしの服も脱がして?」
ユウマはこくりと頷き、あたしの服に手をかけた。
その動きはたどたどしく、少し手間取りながらあたしのシャツを留めるボタンを外していく。
布越しに触れる熱い手はどこかおどおどとしており、震える指先で一生懸命あたしを脱がしている彼の姿はなんとも滑稽で、また愛しい。
ユウマは自発的にあたしに触れることが少ない。触れても手や髪くらいなものだ。女慣れしておらず、遠慮しているのだろうと思う。
その彼があたしの服を脱がしている……。あたしの口角は自然と上がっていった。
「背中に腕回すね……、んっと……」
彼はあたしに密着すると、背中に腕を回してシャツを脱がす。
熱っぽい肌が外気に曝された。彼の腕はあたしの体をなぞりながら衣服を優しく剥がしていく。
「ん……」
緩んだ口から吐息が漏れた。自分でも驚くほどに艶かしい、発情した声だった。
「うわ……、エロい……」
あたしの半裸をまっすぐに見た男の口から感嘆の声が漏れた。
「んふ。このブラ、かわいーでしょ」
今日は泊りで温泉旅館デート。
つまり、勝負をかけるべき日。決戦であるとあたしは思っている。
なので飛び切りの勝負下着を装備してきた。
黒地に鮮やかな青い花の刺繍、谷間を作れるように四分の三カップ。ショーツとセットのものだ。
お姉ちゃんに相談したら下着専門店に連れていかれ、一日使って選んだものだ。
正直なところ気取りすぎてちょっと恥ずかしかったが、反応を見る限りつけてきてよかった。
脳内に出現したイマジナリーお姉ちゃんが親指を立て、そのまま人差し指と中指で親指を挟んだ。
イマジナリーお姉ちゃんを思考の外に押しやり、視線を下にやると可愛らしい生殖器が硬くなり、先端からとろりと液体が漏れている。
「あはっ……、準備万端……って感じだね……」
「う……。そりゃ、恋人の下着姿を見たらこうなるよ……」
恋人!尻尾の炎が激しく燃え上がった。
「胸に顔埋めていい……?ブラの形が崩れるとか汚れるとかあればやめるけど……」
恥ずかしそうに確認する声。
もちろんそんなことは構わない。二人で愉しむための下着なのだからユウマの好きにすればいいのだ。
それに顔を埋めたり性器を擦り付けたりするくらい、どうということはない。アラクネの糸にあたしの魔力をこめて作られたそれは耐久力も高く、柔らかな手触りの逸品だ。
これでペニスを包み扱いてあげれば、彼はきっとすぐにおもらししてしまうだろう。
「いーよ、ほら、来て……。ぎゅって抱き締めて……」
許可を出した瞬間、彼はあたしの胸に顔を埋める。
マーキングするように顔を擦り付け、すんすんとあたしの匂いをかいでいる。まるで本当に犬になったかのようだ。
「ほんと、おっぱい大好きだよね……。もっと大きかったらよかったんだけど……」
あたしは彼の頭を撫でた。
褐色の指は短く整えられた髪の中を泳ぎ、耳の裏をくすぐる。すると、あたしの胸に甘える犬はむずかるように声をあげた。
「ん……。撫でられるの気持ちいい……」
うっとりと目を細め、あたしの手に頭を預けてくる。
あたしは少しかがんで彼の頬に口づけると耳元で吐息がちな声を出した。
「ね……。ブラも外してほしいな……。ゆっくりでいいからね……」
「あ……、う、うん」
彼はあたしを抱き締めるようにして背中に手をまわした。
「えっと……」
ユウマは困ったような声をあげた。吐息が胸元に当たってくすぐったい。
彼の指はあたしのブラホックにかかっているが、表面をかりかりと柔らかく撫でるだけである。どうやら外し方がわからないらしい。
あたしは唇だけで笑うとそっと囁いた。
「ほら、早く外さないと……。ふふ、また気持ちよくなっちゃうよ……?」
あたしの太ももには硬い感触。どうやら、彼のペニスが可愛らしい自己主張を行っている様だ。
悪戯心を起こしたあたしは少しだけ足を動かした。
「んあ……っ!」
勃起して露出した亀頭をストッキングで擦られ、彼は大げさなほどに喘ぎ声をあげた。
だらだらと垂れていた先走りが潤滑液となり、彼の性器に激しい快楽を与える。
「んふふ……。後ろ、ホックになってるから、両手で優しく外して……」
「あ……っ、あっあっ……わかった……っ」
彼はブラとあたしの背中の間に指を挿しこみ、優しく引っ張るとぷつりとホックが外れた。
同時にあたしの胸部を締め付けていた感覚が緩むが、完全にはなくならない。ユウマはあたしを抱き締めてブラを当てたまま固まっている。
「えっと、どこに……?」
どうしようか。
どこに置けばいいのかを聞かれてもわからないが、まあ、その辺に置いといても大丈夫だろう。
「とりあえず、どっかそのあたりに置いてよ。少し雑に扱ったぐらいじゃなんともないから」
「あ、うん……」
ブラをつまんだユウマの手が動き、あたしの胸が彼の目の前に曝される。
彼の手に収まるほどの丘。その桜色の頂点は隆起しており、凝視されると恥ずかしさと同時に、ぞくぞくとした喜びが文字通り胸を満たしていく。
「あはっ、すっごく見てる……。はじめて見たおっぱいはどんな感じ……?」
お姉ちゃんも母さんもおっぱいが大きい。リコさんも大きかった。彼があたしのおっぱいをどう思っているのか純粋に気になる。
「えっと……、手のひらに収まる感じで落ち着く。それに下着越しでも心臓の音が聞こえて、すごくドキドキした……」
「んふふ……。はい、ぎゅー♪」
あたしは胸を見つめる男を抱き締め、その耳を胸に密着させる。
自分でもわかるほどに心臓の鼓動は強く、早い。血液と魔力が全身に行き渡っており、くらくらしそうだ。
「ねえ。あたし、どんな感じ?」
「あ……、俺もだけど、すごくドキドキしてる。それに、柔らかくって、すべすべだ……。ん……いい匂いする……。あっ、太もも、ストッキングで気持ちいい……」
「おちんちん、すっごくとろとろ……。もっかい射精してスッキリしよっか……。ん……っ」
褐色に紅葉した双丘。その山頂に咲き誇る赤い花。彼はそこを口に含むと柔らかな性感があたしに捧げられ、思わず喘ぎ声が出てしまった。
熱くぬめった唇がちゅっちゅっと音を立てる。あたしによって充血した海綿体が太ももに押し当てられ、セックスするみたいにカクカクと擦り付けられる。
「ごめん、ごめんっ……!きもちいい、きもちいいよぉ……、ヒオリさん、ヒオリさん……!」
「んふ、赤ちゃんみたいで可愛い……」
夢中になって腰を振り立て、硬くなった短刀をあたしの太ももで研ぎあげているオス。赤ちゃんをあやすときみたいにその頭を優しく撫でた。
あたしのことが欲しくて、決して離すまいとして抱き締めるオスの感触と母性を求める唇のぬめり。そしてストッキング越しでもわかるほどに熱く硬い肉茎……。
膣内が石炭でも突っ込まれたかのように熱く、脳からは早くこのオスの性器を迎え入れてたっぷりと搾り取ってやれという命令が下る。
また、それと同時に感じる本能的欲求は、この男のよがる顔をもっと見ていたい、もっと気持ちよくしてあげたい……、と嗜虐的な楽しみを提案する。
相反する欲求の中でフリーズしそうな脳を恋人の声が揺らした。
「ヒオリさん、ヒオリさん……、でちゃう、でちゃうぅ……!」
必死な表情と切ない声、射精したくて一生懸命にへこへこと動く腰。文字通りあたしの肉体に淫するみっともないオスの姿。
あたしは彼の髪を撫でながら、射精を許可した。
「いーよ、あたしの太ももでオモラシして?はい、ぴゅっぴゅ〜♪」
「あっ、あぁっ、き、もち、いい……!ヒオリさん、ヒオリさぁん……」
胸元であたしの名前を呼び、気持ちよさそうな声をあげた。黒いストッキングには尿道から飛び出した白い悦楽がへばりつく。
彼は射精の余韻を楽しむかのようにペニスをぐいぐいと太ももに押し付け、両腕であたしをきつく抱きしめていた。
「は、はぁ……、ヒオリさん、ヒオリさん……」
「んひひ……。ユウマ、これ好きだもんね。電車の時もたっぷり出したもんね……」
「うう……、だって君の脚好きだし……。長くて、筋肉ついてるのにすらっとしてて、アスリートみたい……」
尻尾の炎で精液を燃焼させる。尾骨のあたりから子宮にかけて、何か熱いものがこみ上げるような感覚があたしを満たす。白くねばついた体液は余さずあたしの血肉となっていく。
「ありがと……。んふ、セーエキ、美味しかった……。このまま全部脱がして……?」
「ん……わかった……」
ユウマはあたしに抱き着いたまま膝立ちになるとパンツのウエストを咥え、後ろに回った手をゆっくりと前に戻していく。
ふんふんとあたしの匂いをかぐ鼻息が下腹部を撫で、膣に力がこもっていった。
「ぬがひゅね……っと、うわ……あ……」
ホットパンツを咥えたまま喋る。するり、と青い布地が下に落ちた。彼の唇があたしの性器の間近でため息をついた。
「んふふ、よくできました。いーこ、いーこ……。ねぇ、ストッキングとショーツも口で脱がしてよ」
すりっ、と彼の黒髪が下腹部に擦り付けられる。頷きに合わせた柔らかな愛撫が心地よい。
「えろっ……、はむ……」
彼が口に含んでいるストッキングもアラクネの糸で編まれ、あたしの魔力を注がれたものだ。
あたしの恋人である彼にとっては手触り、舌触り共に最高を約束する。
肌と蜘蛛糸生地の間に舌を挿しこみ、黒い布を唇で挟む。歯は立てておらず、衣類を傷つけないようにしているようだ。
貧乏性というか、なんというか……。まあ、金銭感覚が近いのは良いことだろうか。あたしとしてはもっと強引に来てもいいと思っているのだが。
「ん、れろぉ……、ちゅっ」
ユウマはゆっくりと舐めとるようにストッキングを脱がし、時たま思い出したかのようにキスをする。
彼が床に手をついて四つん這いになると口の位置が下がり、それに伴ってあたしの足が曝された。
赤い舌がくるぶしのあたりをさまよい、いじらしく開いた花弁が足首を吸う。
愛しい男があたしの足を愛撫するたびに、今まで味わったことのない、自分がいけないことをしているような陶酔に襲われる。
あたしは尻尾と翼でバランスをとりつつ片足をあげ、彼の頭を踏み撫でた。さりさりとした感触があたしの足に直接触れる。
好きな男を足で愛撫する喜ぶと同時、好きな男を踏みつけにする背徳を味わう。
「そうそう、ふふ、じょーずだよ……。かーわいい……」
褒めてあげるとさらに接吻はねちっこくなり、舌を這わせながら上に向かっていく。
彼の口内から伸びたナメクジはあたしの腰に向かい、通った後は唾液でてらてらと光った。
「えっと、紐、解けばいいかな……?」
「そだよ……。あんっ……、んふふ……」
あたしの下半身をなめまわすオスは、あたしの秘所へ下着越しの口づけをして紐を咥える。
柔らかな感触を受けたあたしは蕩けた声をあげてしまった。
「ん、濡れてる……、ここ、きもちいい……?」
あたしの秘部に何度もキスを行うが、布を隔てた愛撫は快感が鈍い。一回の口づけごとにじれったいような気持になってくる。
「ねえ、早く脱がして……」
「……?わかった、脱がすね……、ちゅ」
しっとりと濡れた甘い唇が下腹に触れ、あたしはぼうっと燃え上がるような感覚に包まれた。
「ん……、んふ、んー?……はむ、ちゅっ……、れろ……」
彼は苦心しながらも紐を口だけで外す。
唇の動きに合わせ、硬くとがってぬめりを帯びたものが肌をくすぐり、ねろねろと舌が腰を撫でていく。
衣服で締め付けられていた部分が甘やかな吐息を浴び、垂れた唾液があたしの足の甲を濡らした。
すとん、と湿ったショーツが体から離れ、夕日が照らすのは一糸まとわぬあたしの姿。オスの瞳孔が開き、しんなりとしていたペニスが急激に回復していく。
彼の瞳があたしに釘付けになっていることがわかり、唇の端がむずむずとする。
「あ……」
「んふ、女の子のハダカ、初めてみるでしょ?感想は言わなくてもいーよ、わかってるから……」
あたしは薄い胸板に足を当て、体をなぞりながら下におろしていく。
「あう……」
愛しい男の体をなぞる褐色の蛭は下腹を通って彼の勃起に到達する。そのまま体重をかけないように踏みつけ、くにくにと刺激する。
敏感なオスの器官をストッキングとあたしの足裏に挟まれた彼は甘い声をあげ、快楽に耐えようとあたしの尻尾を握った。
残念だが、あたしの尻尾は触ると気持ちよくなるように魔力を通してある。彼だけでなく、あたしも気持ちよくなってしまうのは困りものだが。
じんわりとした性感があたしの背骨を貫き、ばさりと翼が広がる。
「んあっ……、それ、ダメ……」
「ダメなんだ?これ。……じゃ、やめてあげるね……」
「え……っ?」
ゆっくりと足を彼自身から離していくと、足裏に縋りつくようにしてペニスが持ち上がる。
そしてあたしはペニスが完全に離れたところで足を止める。先ほどまで愛撫していた鈴口によって塗り付けられた粘液がとろりと垂れ、一生懸命に自己主張する竿の根元を濡らした。
彼は先ほどまで愛撫していた足を求めて腰を動かすが、小さく愛らしい生殖器では届かない位置で足を止めている。頑張って腰を動かせば届きそうだが絶対に届かない。
彼の身体能力と勃起時の大きさは完全に把握できていることを確認でき、ぞくぞくとした支配的な喜びが足の先から角の先まで稲妻のように迸った。
「やだ……っ、なんでぇ……っ?」
「なあに?ダメって言ったのに続けてほしいんだ?」
「そ、そういう意味じゃなくて……」
「んふ、続けてほしい?そしたら可愛くおねだりして?」
羞恥に赤く染まった頬、性感を焦らされて切ない瞳が揺れる。
彼は体を起こしてあたしに縋りつき、太ももに口づけをしながら懇願した。
「踏んで……、ちんちんを足で気持ちよくして下さい……」
あたしはにんまりと笑いながら彼の肩に体重をかけ、足で勃起を圧迫していく。
床に脱がされたままのストッキングと足裏に挟まれて極上の感触を味わっているのか、ユウマの唇はため息を漏らした。
彼はゆるゆると腰を動かし、快楽を享受している。
「あ……っ、きもちいい、きもちいい……。ん……、ちゅっ」
「あは、かわい……。もう頭のなかオモラシでいっぱいだね……」
ユウマはあたしの太ももを口で、足裏をペニスで味わう。
同時にあたしは彼の口の温かさや唾液の滑り、はあはあと喘ぐ荒い息を太ももで、ぬるりとした硬く弾力のある肉の感触を足裏で味わった。
「あっ、あぁっ……、きもちいい、きもちいいよぉ……!」
彼の腰の動きが一段と早くなり、足裏のぬめりが強くなる。切羽詰まった声からしてもう限界なのだろう。
「ん……、ふふ、うごき、早くなったね……。もうげんか〜い、ガマンできな〜い……。おちんちんからなさけな〜くぴゅっぴゅした〜いってなっちゃってるね……」
「あうう……。あ……っ、だめ……っ」
踏みつけられていた肉棒がドクンドクンと脈動する。それと同時に迸る熱くねっとりとした液体を足裏で受け止める。
勢いよく飛び出していくそれは、足裏どころかストッキングを超えて畳を汚した。
彼が自らのお漏らしを見やすいようにあたしは足を持ち上げる。
「ね、見える……?男の子の大事なところ、踏みつけられてオモラシしちゃったね……。んふ、美味し……」
あたしは彼を抱き起した。体は自分が出した精液で、顔はあたしの唾液と愛液でべたべたになっている。多分あたしも似たようなものだろう。
ユウマが落とした弁当を冷蔵庫に入れると、鞄からヘアクリップを出して簡単に髪をまとめる。このままお風呂に入ると髪が痛んでしまうのだ。
「べたべたになっちゃったし、お風呂行こ?」
「うん……。き、きもちよかったぁ……」
彼の腕を取り、ぴったりと密着しながら二人で浴室へと歩く。
とった部屋には露天風呂が備え付けられており、そこからは景色が良く見える。
夕日は山に陰り、様々に色づいた肌を隠すようにヴェールを下す。遮るもののない空には星々が煌めく中、月が恥じらうように顔を出す。
刻一刻と迫る闇の中、赤い夕陽と青い月光を交ぜるように体をくねらせて飛んでいる龍。どうやら恋人とのクルージングを楽しんでいるようだ。
「おお……。いい景色」
ユウマが絶景に目を奪われ、その口からため息がもれる。あたしは彼の顎を掴むと、ため息の形のままのそれにちゅっと口づけた。
「あ、え……?」
ムードも何もない。綺麗な景色を見たハダカのあたしは衝動に体を任せて彼の唇に軽いキスをした。
困惑と照れが混ざった表情。その顔を見ていると満たされたような気持になる。
「町よりも空気が澄んでて空もキレイだね……、キスしたくなっちゃった。んふ、体、洗おっか」
「わ、かった……」
彼は備え付けのシャワーを手に取り、湯加減を確認してからあたしに向けた。体を濡らしていくぬるめの湯が心地よい。
「う、わっ……と」
「んふふ……♪」
あたしは彼を濡れた体で抱き締め、シャワーを奪い取るとお互いが濡れるようにお湯をかける。
尻尾でボディソープを取り、羽にたっぷりかけて泡立てると彼の体にこすりつけていった。
ふんわりとした泡に包まれたあたしの体は相当に気持ちがいいらしく、脇腹や乳首、鼠径部などの性感帯を撫でるたびに彼は甘く喘ぎ声をあげる。
もちろんあたしだって気持ちいい。彼のほっそりとした華奢な肉体を撫でるたびに胸がときめく。甘く切ない吐息があたしに触れるたびに脳髄が蕩ける。
ぬるぬるとした指があたしの背中を撫でてくる感触に、にんまりとした笑みが零れてしまう。
彼は受け身だがちゃんとこちらに反応を返してくれ、こういったことも不慣れながら頑張ってくれている姿に角の根元が締め付けられるような感じがして、あたしの口からむずかるような声が漏れた。
「ん……」
「あ、ここ気持ちいい……?」
泡にぬめる指が腰のあたり、羽の付け根を優しく撫でた。恋人に触れられ、ぞわぞわとした快感が腰を痺れさせた。
パイロゥの羽は体温調節や魔力の吸収・放出を担う他、羽ばたくとちょっと浮けるなど重要な器官であり、保護しやすいように鋭い感覚が具わっている。
また、その付け根はあたしの性感帯でもあった。
「羽、痛かったり、いやだったら言ってね。すぐやめるから……」
「大丈夫……。くすぐったいけど、気持ちいいよ……」
愛撫する手は翼橈骨から上翼骨(人間の腕に合わせると上腕〜下腕に当たるだろうか?)をすりすりと撫でていく。
「君の羽、ちゃんと触るの初めてな気がする……。つるつるしてて、膜は柔らかくて……、ずっと触っていたい……」
「ん……ありがと。ね、付け根のほうも触って……?」
「うん……。こう、かな……?」
彼の指が羽の付け根をつまんでゆっくりとしごくと、柔らかく優しい快楽刺激が腰のあたりから全身に伝播する。
白くぬめる泡に包まれている太ももは濡れてきたが、シャワーのお湯が原因ではない。
「あは……っ、気持ちいいよ……。尻尾のあたりも……、ね……?」
あたしに触れる手は誘いに応じる。
「温かい……、尻尾の付け根、脈打ってどきどきしてる……。わ……、すべすべだ……」
羽と同じく、尻尾も感じやすい。彼の手が尻尾の生え際を撫でるたび、根元から先端までを優しく扱くたび、ぱちぱちと爆ぜるような感覚に襲われる。
ああ……。彼が欲しい。あたしを気持ちよくしてくれている彼をもっと気持ちよくしてあげたい……。
太ももに当たる肉棒を優しく握った。浮き出た血管はとくん、とくん、と彼の性を感じさせる。
「あ……っ」
「んふふ……、洗いっこしよ?」
彼の手を握って胸へ移動させると、ふんわりとした力加減で胸を揉まれる。
あたしはパイロゥのはずなのに、触られるだけで心臓が跳ねた。
「柔らか……っ!す、すごい……、ふわふわしてるし、どきどきしてる……」
「もー、何度も触ってるじゃん。すこしは慣れたら?」
「な、慣れるわけないよ……。うわ、すご……」
「ほぉら、おっぱいに夢中になってないで。ちゃんとあたしのカラダ、洗って?」
「あ……、わかってるよう……」
彼の手は名残惜しそうにあたしのおっぱいから肩へと移動する。腕を動かしやすいようにあたしは彼の肉体にぎゅっと密着した。
二人で抱き合い、ぶくぶくと泡だった白い粘液でお互いを包んでいく。
「気持ちいいね……。温かくて、ぬるぬるで……」
「うん……、あ……っ」
硬く勃起した肉棒を手で包む。その輪郭を柔らかくなぞるようにして泡を塗り付けるとあたしの胸に吐息がかけられ、泡がふわりと飛んでいく。
「ん……、三回も出したのに、もうカッチカチ……。ほぉら、ホーケーさんの皮、剥いたげる……♪」
あたしの胸元でもれている喘ぎ声を楽しみながらゆっくりと皮を剥いていく。
包茎とは言ったが、仮性である。ある程度亀頭が露出しているため、包皮は簡単に引き下ろすことができ、カリ首があたしの手に触れる。
「ひあ……っ」
「はい。っふふ、全部むけたね……。ここも汚れたまってるんだよ……」
亀頭のくびれを指のリングで包み、ドアノブを洗うようにして回転させる。事前に洗い流したらしく、それほど恥垢はたまっていない。
しかし、あたしは丹念にカリ首を洗う……。という体で彼のペニスを責め立てている間、漏れ聞こえる喘ぎ声はいつもよりも切なそうに聞こえ、気持ちよさそうだ。
「あっ、ああっ……。そこ、ダメ……。よわい、からあ……っ!」
「こら、洗ってるだけだよ?危ないからしっかり立って?」
「や……っ、むりい……っ!」
「もー、しかたないなぁ……♪」
彼の引けた腰を翼で包み、ゆっくりと床に座らせる。床は木製で座っても痛みはないはずだ。
あたしはそのまま彼に寄り添う。翼は彼を支え、片手はペニスを包み、もう片方は彼と手をつなぐ。
あたしの翼程度でも男の人を支えるなんてことは朝飯前だ。細かい愛撫はできないが、その分彼を包んであげることとしよう。
「あう……」
「んふふ、もう暴れらんないね……。ほら、続き、洗ってくよ……」
カリ首の恥垢は落としたので次は陰嚢から会陰部を撫でていく。
彼の陰嚢はすでに射精の準備を終えているのか、キュッと締まっており、なんだか怯えているみたいで可愛らしい。
まるで繊細な彫刻のような皺をなぞるようにして洗っていくと、うっとりとした声が漏れ、むずかるようにして腰が揺れた。
「ふ……う……っ、ん……」
「男の子ってここも気持ちいーんでしょ……。んふ、その反応、自分じゃあんまり触んないんだ……」
「うあ……。だ、だって、発散するだけならとりあえず射精できればよかったから……。あんまり楽しいとかなかったし……。あ……っ」
「ん〜……?ふふ、今はどう?」
「し、幸せ……、あぁぁ……」
彼は絡ませた指を握り返しながら目を閉じる。だらしなく緩んだ口もとからよだれが垂れ、多幸感を味わっていることがよくわかる。
「よかったねぇ……。これからも〜っと気持ちよくなって……、アタマおかしくなっちゃうくらい幸せになっちゃうんだよ……」
肛門の垢をこそげ落とすたびに腰が震え、括約筋がひくひくと動く。
「そこ、やだ……っ、恥ずかしい……」
「だぁめ、ちゃんと全部綺麗にしよ?ね、力抜いて……」
あたしに包まれた男は言うとおりに脱力した。首がだらんと垂れ、力なく伸ばした足が床を撫でる。
ずっしりとした体重があたしの翼にかかると同時、肛門の中にあたしの指が入る。
「あっー……!やだ……、苦しい、これ……!は、早く抜いて……っ!」
しまった。いきなりすぎた。いけるんじゃないかと思ったが……。
挿入された異物が与える感覚を耐えようと、苦悶の声をあげる彼の表情。
眉根を寄せて口をOの形にあけたままで、うめき声とも喘ぎ声ともつかない、獣のような声が漏れる。
もっと見ていたい……。
あたしはしがみついてくる肉体を翼で抱き締め、耳元で囁いた。
「ゆっくり、息して。力が入って抜けないから……。すー……、はー……、すー……、はー……」
「ふ……ぁっ、は……っ」
しばらく二人で呼吸をしていると、指を締め付ける力が弱くなっていく。
声に混ざる苦しさも幾分か少なくなっているようで、指はぬるりとした感触とともに肛門から引き抜かれた。
「ん……、抜けたよ。ご……」
「待って……。さっきはびっくりしちゃったけど、次は覚悟するから……」
「……いいの?」
彼は深呼吸し、こくりとうなずく。
「力抜いて……、さっきみたいに。息もゆっくりだよ、すーぅ……、はーぁ……」
言った通りに弛緩する菊の花弁。その中央にあたしの指がぬるりと入った。
「あ……。お、おああ……。うーぁ……」
「そのままだよ……。痛くなったらすぐ教えてね……。あたしのこと、とんとんって、二回叩いて……」
「ああぁぁぁ……」
返事かどうかわからないような、どろりと粘度の高い喘ぎ声があたしの鼓膜を蠱惑的に揺らす。
パン生地のような喘ぎ声は一度だけでなく、彼の出口に指を突っ込んでいる間は永遠に出てくるのではないかと思うほど長い。
「ん……、ふふ……っ。おちんちんかっちかちだね。やっぱり気持ちいいんだ……?」
あたしは両翼で彼の体を支え、片手は彼のペニスを包む。
陰茎はリンゴほどに硬くなっており、あたしの手を膣だと勘違いしていることがわかった。
人差し指はクルミを捉えている。くいくいと柔らかく刺激するたびに果物の硬さが金属に近くなり、我慢汁がつうっと尿道口から垂れてあたしの手を湿らせた。
「あー……。うあぁぁ……。おぉぉ……」
ユウマは口から固体状の声を出した。
その腰は動いていないのにもかかわらずぶるぶると肉棒が震え、先端から白い粘液がため息のように押し出されていく。
あたしの翼膜に触れる背中からは彼の鳥肌を感じ、だらしなく開いた唇からよだれが垂れた。
「あ……、もったいない……。ちゅっ、じゅるるる……んぐ、れろ、ちゅ、んはぁ……っ」
「んっ、は、あぁぁむ……っ、ふ、んあぁぁ……、っはぁぁー……」
垂れたよだれを舐めとりながら唇を重ねる。
赤い唇から垂れる液体は糖蜜のように甘く、飲み込むごとに頭の奥が重く蕩けふわふわとした心地になる。
子供のころ、晩酌しているお父さんにお酒を飲ましてもらったことを思い出した。
パイロゥとはいえ、子供に飲ませるには抵抗があったのだろう。やけどしそうなほど熱い紅茶にスパイス、涙のようなビンから数滴の琥珀を落としたものだった。
一口飲むと体中が燃えるように熱くなり、視界はぐらぐらと揺れて。なんだか叫びだしたくなったことを覚えている。
ずるり、と肛門から人差し指を引き抜き、火の魔力をその爪先に集中させて清潔にする。
何も準備しないまま突っ込んだのだ。いろいろとついているだろうし、それを見ればユウマが気にする。
「んふふ……♪きもちよかったね……。はい、も〜っとだして……?」
「あ……っ、ん、う……っ」
あたしは両手を組み合わせて祈りの形に整えると、硬いままのペニスを包む。
すると眼前で開いたままの唇から甘い吐息が漏れ、じれったそうに腰が揺れた。
「きもちいいね……、さっきはお尻いじめられて、おちんちんからとろとろ〜って、おもらししちゃったもんね……」
「あぁぁ……、ああぁぁぁ……」
ユウマは喘ぎ声を垂れ流しながら腰を揺らす。
男性にしてはほっそりとした腰(これでも出会った当初に比べれば肉付きが良くなっている)がかくかくと動くたび、あたしの両手に包まれた子犬が切なげに脈動する。
これまでに何度も彼を射精させている。射精はそろそろだろう。
あたしは赤く染まった耳元で囁いた。
「……ね、かっこいいお射精見せて?」
「ん……っ!んぅ……っ、ふ、あ……っ、んあ……っ!」
あたしの手に包まれた性器は叫ぶように何度も震え、白く濁った声をあげた。
じゅうっと火傷しそうなほどに煮えたぎる熱があたしの体にかかる。精液が指の間から飛び出したのだ。
組んだ両掌からどぷどぷと大量の精液が漏れ出し、彼の肉体はぐったりと脱力した。
幸せそうな表情のまま弛緩した肉体をあたしの翼に預け、一人分の体重が翼膜を引っ張る。
「あは……、すっごく幸せそ……♪おもらしかっこよかったよ〜……。……くすっ」
「ああぁぁぁ……」
多幸感に緩んだ頬に口づけ、互いの体を覆う泡をシャワーで流していく。ぬるめのお湯があたしたちの体をなぞる感覚が気持ちいい。
泡をすべて洗い流して互いのハダカが露わになったころ、恍惚感から覚めたユウマが口を開いた。
「す、すっごく気持ちよかった……。ちんちんが溶けたのかと思った……」
「顔もとろとろだったもんね……。オモラシしてる時の顔、すっごく可愛かったよ〜……。さ、お風呂入って温まろ?」
「うん。よっ……と」
二人で湯船に入る。あたしが座ると膝の上にユウマが座った。
隣に座ると思っていたのだが、すでに定位置のようになっている。からかうと照れて離れていってしまうかもなので、そのまま手を前に回して抱き締める。
すると、後頭部をこちらに預けて回された手に自らの手を重ねてきた。
黒褐色でぬるぬるとしたお湯はあたしたち二人を歓迎し、じんわりとした温もりが伝わっていく。
「あ、ヒオリさん、みてみて。月きれい。完全に夜になってたのか。夢中で気づかなかった」
その言葉を聞き、空に目を向ける。空は深い藍に染められ、ちらちらと輝く星の中で素月が冴え冴えとした光を投げかけている。
お湯を見ると星と月が沈んでいる。体を動かすと、波紋によってゆらゆらと揺れ、いくつもの光に割れる。
まるで夜空に抱かれているようだった。
「んふふ……。今なら触れるくらいに近いね……」
あたしは彼の手を握りながら赤い耳に囁く。照れているのか、それとも少しのぼせているのか。
密着した互いのカラダ。心臓の音がシンクロし、呼吸のリズムが混ざり合う。
……。……あんまり長く入っていると本当にのぼせてしまいそうだ。
「そろそろ上がろっか。夜は長いから……」
「あ……、うん」
湯船から上がってバスタオルをユウマに手渡す。
「ね、拭いて……」
普段は魔力を使って瞬時に体を乾かすが、今は互いに拭き合いたい。
いちゃいちゃしたいのだ。
彼はこくりとうなずくとバスタオルを広げ、あたしを抱き締めるようにして拭いていく。
がしがしと擦りつけるのではなく、タオル地を体にまとわせて水分を吸収していく拭き方だ。
「う……」
拭いていくうちに彼のペニスがむくむくと充血していき、あたしの太腿に触れてしまう。
ただそれだけであたしの唇は緩み、下腹部が熱くなる。
「えっと、翼と尻尾も拭くけど、燃えないかな。大丈夫?」
「大丈夫だよ。燃やそうと思わないと燃えないから」
「ん、わかった。じゃあ翼広げて……」
水滴が飛ばないように翼を広げ、身をゆだねる。水滴を吸収するため、翼膜や翼の付け根を撫でていくタオルの感触が心地よい。
「あん……っ、んふふ……」
柔らかな布が尻尾の付け根をくるみ、先端まで滑る。その感触は言葉にできないほどに気持ちが良く、耐え切れずに嬌声をあげてしまう。
「拭いてくれてありがと……。次はあたしが拭いてあげる……」
ユウマからバスタオルを受け取る。大判で厚手のそれは吸水性が高く、いくらでも拭けそうだ。
先ほどの彼と同じようにバスタオルを広げ、彼を包むようにして抱き締める。
小柄で華奢な彼はこれだけでバスタオルに包まれ、体についた水滴のほとんどが吸収されてしまう。
「はい、ばんざ〜い……。くす……っ」
手を上にあげさせて脇から下るようにして拭いていく。
下半身に差し掛かると、一生懸命に主張しているペニスが眼前に曝される。
ぴくぴくと震えながら先から粘液が滲む肉棒がなんとも愛しく、あたしは息を吹きかけた。
「ふぅ〜っ」
「ぁん……っ!」
「あはは……っ!可愛い……、あ、ん……、んふふ……」
「あ……、あっ、ちょっと、や、汚いから……っ」
「んー?ひゃっひ、あらっひゃれひょ……、れろぉ……っ」
咥え込んだペニスにたっぷりと唾液をまぶしつける。しっかり潤滑油をつけておかないと刺激が強すぎるだろうから。
吸い込みながらゆっくりと頭を引くと、ちゅぽん、と音を立てながらバネ仕掛けのように飛び出す。
あたしは首を傾けて睾丸を甘噛みする。しっとりと湿ったヒダヒダの感触が楽しく、前歯を軽く引っ掛けながら舌で舐め上げる。
「んうぅ……っ」
頭上からむずかるような甘い声が降ってくる。
あたしの方がかなり背が高い。そのため彼の声は下からするものだが、今は上から降りてくる。なんだか新鮮だ。
「あーん……、んふ、れろ、れるれる……」
睾丸の片方を口に含み、もう片方を手で愛撫していく。
「あぁぁ……。あはぁぁ……」
「んふふ……、えろ、れろぉぉぉ……。ちゅっ、じゅるるる、はぁむ……」
陰嚢だけでなく、鼠径部や内腿を愛撫し、口づけしていく。
男の肉体に舌を這わせるたびに彼の口からは喘ぎ声が漏れ、手で輪郭をなぞるたびに彼の体はびくびくと震える。
「ちゅぽ……、んふ、あんあん喘いで……、女の子みたいだね……。じゅぶぶぶ……」
もう射精まで余裕はないだろう。その証拠にヒダ袋は真空パックみたいにキュッと締り、鈴口からはとろとろと先走り液が垂れている。
視線を上に向けるとあたしを見下ろす黒い瞳は切羽詰まった光を湛え、口はだらしなく緩んで開いたまま。さらされた肌は真っ赤に染まっていた。
あたしは彼の手を握り、音を立てながら彼の陰茎を口の中に咥え込む。
唾液がたっぷりまぶしつけられた肉棒は、何の抵抗もなくすんなりとあたしの口の中に入った。
限界まで充血した海綿体、その先の割れ目からはとめどなく塩味の粘液が流れている。
あたしはぱんぱんに腫れあがった先端に舌をあてがい、ねろねろといたぶる。尿道口から亀頭、カリ首、竿……。
「あ……っ、だめ、はなれて……、でちゃうぅぅ……っ!」
「んふ、いーよ、らくひゃんらひて……」
腰を引こうとするのを翼で引き留め、彼の体を撫でていた手で両手を掴む。尻尾で彼の背中をくすぐり撫でる。頭を前後に振り立て限界寸前のペニスを吸い舐る。
「あ……っ、ん……っ!あぁぁ……っ、ごめん……!」
「ん、じゅるるる、んぐ、ふ、はぁむ、むふ……、んくっ、こく、こくん……」
「あぁぁぁ……、すわないでぇぇ……」
びゅるびゅると尿道口から飛び出す粘液を口内で受け、そのまま飲み込んでいく。
射精のタイミングにあわせて吸い上げていると、なんだかハンバーガー店で頼んだミルクシェイクを思い出してしまう。
耳朶を甘く撫でる嬌声と舌上を通る精液があたしの脳を蕩かし、拭いてもらったはずの内腿が濡れていることを自覚する。
「っぷ……、れろぉ……、ちゅっ。んふふふふ……、美味しかった……」
あたしはすっかり萎えてしまったペニスを口外へ滑らせ、唇についた汗や精液を舐めとった。
ユウマは脱力して膝立ちになりながらあたしに体を預けている。
「は〜い、んふふ……。口の中でオモラシしておちんちん気持ちよかったねぇ……んっ……」
「ん……、ちゅ、れろ、はぷ……じゅるる」
脱力したまま、彼はあたしに唇を重ねてくる。
彼の舌は口内粘膜をなぞり、唾液を吸い上げ、舌裏に残った精液を舐めとっていく。
あたしは彼の温かくぬめったざらつきに舌を合わせ、唾液と混ざった精液を吸い取り、飲み込んでいく。
月明かりが射しこむ暗い部屋で互いしか見えず、世界から二人っきりになったような気持ちのまますべてを貪りあうような深いキス。
唇をしゃぶり、口蓋に舌を這わせる。歯の裏を舌でなぞられたかと思えば口の端に吸い付く唇。
口を開くと唾液が垂れてユウマの顎を濡らし、それがあたしの胸元に当たる。首筋を甘噛みされているのだ。
洗ったばかりで石鹸のいい匂いがする頭皮に歯を立て、口に入る髪を舐め引く。
無意識だろうか、首筋を甘噛みするわんちゃんはすっかり勃起した性器をあたしに押し付け、かくかくと腰を動かしている。
あたしは甘噛みする唇に指を挿しこんで制止する。
ユウマはあたしの指を口に含むと、まるでフェラチオするみたいにしゃぶり、舌を絡ませ、首を動かした。
指先から感じる甘美な舌に酔いながらあたしは彼の耳に囁く。
「ね、おちんちん苦しそうだよ……。お布団いこ……」
「ん……、ちゅぱっ、うん……」
あたしは彼の手を取ってお布団に座ると、その手をあたしの秘所に導く。
「わかる……?ここに挿入れるんだよ……」
「うわ……あったか……っ!ぬるぬるしてて、毛、ふわふわしてる……」
「もう、感動しすぎだよ。……指、入れてみよっか」
「ん、うん……」
ユウマは返事をすると、ゆっくりとあたしのナカに指を挿し入れてくる。
あたしの指よりも細く短いが、ごつごつとした感触がある。その刺激がなんとも新鮮で、彼の肉体があたしの中に入ってくることを期待し、膣が収縮しているのがわかる。
「あ……、んふ、そこだよ、わかる……?」
「これ、大丈夫……?痛くないの……?」
「ん〜?痛くないよ……おちんちん挿入れるためのとこだもん。それにここから赤ちゃん出てくるんだよ……。指くらいヘーキ」
ず……っ、と指がゆっくりと抜かれる。ただそれだけなのに、何かを失ってしまったかのような喪失感と寂しさがあたしの脳を襲う。
あたしはお布団の上で脚を開き、指で女陰を開く。たっぷりと分泌された潤滑油が膣内を満たしており、触れてるだけでも温かなぬめりが指を迎え入れそうだ。
「見て……、とろとろで温かくなってる。んふ、今入れたらすっごく気持ちいいんじゃないかなぁ……」
「あ、う……」
「おいで……、ユウマの火種、あたしに頂戴……?」
彼はあたしに覆いかぶさると蕩けた媚肉に自らの性器を入れようとするが、うまく入らない。
ワレメのすぐ横、大陰唇や鼠径部へとペニスがぬるりと逃げてしまう。あたしの肉体を彼の性器が撫でる感触は得も言われぬほどだ。
「あ……っ、ご、ごめん、なかなか入んない……。あん……っ」
挿入に失敗するたびにあたしの肌に擦れ、恍惚の喘ぎ声があたしの鼓膜を揺らす。
「ん……、ちょっとゴメンね。……っと」
あたしは手を彼のペニスに添えて固定してあげた。これで逃げることはないだろう。
「このまま、腰まっすぐ突き出して……。……んっ、ふふ、じょーず、じょーず……」
「あ、あっつくてきもちいい……っ、あっ、これ、だめ、ごめん……っ」
亀頭があたしそのものに触れた途端、一際大きく膨らんだような気がした。その瞬間に射精が始まり、どぷどぷと白い粘液が入り口から零れる。
睾丸から尿道を通り、解放された精液はあたしの膣口から内部へと流れ込むのがわかる。灼けた鉄のような熱さが下腹部を燃やし、その熱に反応して女性器が蠢動する。
「あうぅぅ……、また……。ごめ、あぁ……っ、きもちいい……」
「んふふふふ……、我慢できなくってオモラシしちゃったんだ……♪ほぉらぁ、そのまま腰突き出して……」
足を彼の腰に絡め、ぐい、と腰を突き出すのを手伝ってあげる。さながら半だいしゅきホールドといったところか。
彼が腰を突き出す動きに合わせて膝を曲げると、ぷちぷちと何かが千切れるような感触とともに彼の陰茎があたしの膣内に滑り込む。
「はい、ドーテー卒業おめでとー♪初めてのオンナノコはどんな感じかなぁ?」
「あ、あっつくて、ぬるぬるしてて……。あっ、や、柔らかい……、腰とまんない……。ふあぁ……っ」
あたしを気持ちよくするどころか、快楽を生み出すための腰遣いではない。ただ本能のままにへこへこと腰を振っている。
稚拙な動きではあるが、魔物として好きな男に求められるのはたとえようもなく充足感を覚える。
「ヒオリさん、ヒオリさぁん……。きもちいい……。すき、すきぃ……っ、ちゅぱっ、ちゅ、れろ、んんん……」
「あはは……っ♪ほんとにおっぱい好きすぎて赤ちゃん返りしちゃってるね……♪こっちはしっかりオトナなのに……、くすっ」
ユウマはあたしのおっぱいを味わいながら腰を動かしている。
母性をくすぐられたあたしは彼を抱き締めながら膣内をゆるく締め上げようと下腹部に力をこめた。
亀頭のあたりは感覚でわかる。うーん……この辺だろう。
「あ……っ、んぅ……」
下腹部に力をこめるとあたしに覆いかぶさるオスが情けない声をあげた。
「んふふ、おちんちんさんも赤ちゃんみたいに敏感だったね……♪はい、ぴゅっぴゅ……っ♪」
「あっあっ……、ヒオリさん、ヒオリさぁん……。ふあぁぁ……っ」
射精の瞬間、彼は一際強くあたしを抱き締めて腰を押し付ける。否、あたしが腰を浮かし、彼の精液をこぼすまいとしているのか。
膣内で快楽を迸らせる亀頭をきゅうきゅうと締め上げる。そのたびにユウマは気持ちよさそうな声をあげた。
「あははっ♪まだおちんちん硬いままだね……。そんなにあたしとエッチしたかったんだ?」
これで九回目の射精だというのに、彼のは未だ硬くなったままだ。
存在を確かめるようにヴァギナに力をこめると、吐息交じりの蕩けた声があたしの首筋に当たる。
「あぁぁ……っ!いま、敏感だから……っ、ちょっと待って……」
彼はあたしの秘裂から性器を抜こうとするが、それを両足と翼、尻尾を使って抱き締めて阻止する。
脚だけ使うのがだいしゅきホールドならば、これは両手両足両翼尻尾を使った四倍だいしゅきホールドだ。
「だぁめ……。挿入れたまま休憩して?」
「あ……っ、これ、きゅうけいじゃないぃ……っ、ああぁぁ……っ!」
抜こうとするたびに力をこめてあたしのナカに引き戻す。それだけでピストン運動となり、彼に天国を見せる。
「あっあっあぁぁ……っ、いい……っ、きもちいい、きもちいよぉ……っ!」
「はーい、こわれちゃった……♪んふふ……」
快楽に理性を破壊された彼はあたしを抱き締めかえして腰を振り始める。
もう遠慮も何もない。あたしの肉体を味わい、快楽を愉しみ、膣内に射精することしか考えられなくなっているのだろう。
切なそうな表情を浮かべ、犬のようにカクカクと腰を振る男を見ていると唇が緩んでしまう。
「あっあっあ……っ、ヒオリさん、ヒオリさぁん……っ!すき、だいすき……っ!結婚して、ずっと一緒にいて……。じゃなきゃやだ……っ!」
「んふふふふ……、いーよぉ……、はい、あたしのなかにオモラシして……?……っふふ、とけちゃいそうなカオしてる……♪」
溶けちゃいそうと表現したが、あたしのナカにたっぷりと精液を漏らしている彼の表情はドロドロに溶けており、顔から出る体液がすべて出ている。
社会に出て働いている成人男性の面影はもうすでに無い。人生最高の性感を味わってすべてが崩壊した、あたしの、あたし専用のペット兼ごはんなのだ。
膣内に情けなく射精する彼の肉体、汗でじっとりと湿った皮膚をあたしの手指がなぞっていく。
好きな男を抱き締めながら中出しセックスをする。
たったそれだけで脳内を快楽が満たしていく。美味しいものを食べた時はおろか、自慰なんかは軽く飛び越えてしまうほどに気持ちがいい。
今まで気持ちが良かったことを百として、最大値を百とする。ユウマと交わっている間中、最大値はぶち壊されて常に更新し続け、那由多をすでに通り過ぎてしまっていた。
ユウマに会う前の感覚でこれを味わっていたらどうなっていただろうか。間違いなくアヘ顔を曝して失禁しながら気絶していただろう。
快楽に浸っている途中で脚の付け根がひんやりとする。それと同時にあたしの魂からずるり、と何かが抜け出たような感覚。ユウマが体を離してペニスを抜いたのだ。
「あぁぁぁ……。き、もちよかったぁぁぁ……。柔らかくって温かくって……」
「んふふふ……、あたしもすっごく気持ちよかった……」
横から寄り添うユウマに向き合い、あたしの胸に埋めるように抱き締める。
彼は抵抗することもなくうっとりと目を瞑り、手を背中に回した。あたしを確かめるように背中をさすり、胸に口づける。
「んっ、ふふ……。もー、ずっとおっぱいじゃん。そんなに好きなの?」
「や、なんか包まれてる感があって安心するし……、イヤかな……?」
少し体を離してあたしに尋ねるが、その瞳は不安そうな光を宿していた。
「んーん、ヤじゃないよ。嬉しかっただけ……。んふ、ほら、ギュってして?」
あたしは体の力を抜いてユウマに体をゆだねると恐る恐るといった様子であたしを抱きしめ、やはり胸に顔を埋めた。
「はーい、よしよし……。おっきいあかちゃんでちゅねぇ……。おかーさんのおっぱいで安心してね……」
「んぅ……っ」
ユウマはあたしに抱かれてむずかるような声をあげる。同時に口から漏れた吐息が胸元をくすぐり、ぞわぞわとした感覚が背骨を撫でる。
胸を締め付けるような甘い陶酔が子宮を蕩かす感覚に耐えられず、彼を抱き締める。
苦しくないように強く。壊れてしまっても構わないくらいに優しく。
「ご、ごめん。ちょっと、上に行くね」
彼はあたしに抱かれたまま体をずらした。
濡れた黒曜石の中にあたしが浮かぶ。赤い頬が笑顔の形に緩んで白い歯が唇からのぞいた。
「君の方が俺より背が高いよね。こうやって見つめ合えるの、なんだか嬉しいな。君の顔、とても綺麗なんだ。初めて見た時、びっくりしちゃった。
魔物はみんな綺麗だけど、見とれちゃったのは初めてだから。ずっと綺麗でいられるって、ものすごい努力してるんだろうなって思ってる」
「母さんにもちょっと見とれてたでしょ」
外見がいいということを足掛かりに、それを磨き上げてきたことを褒めている。
ストレートに褒められると照れくさくって、あたしはつい茶化してしまう。
「ん……。君に似てたから。君が俺と一緒にいたら、どんな風になるんだろうって。俺は君と一緒にいたらどんな風になるんだろうって思ったんだ。
きみのお母さんもお父さんもすごく素敵だった。俺、ちゃんと君と一緒にいれるかな、君のお父さんみたいになれるかなって」
……。
「もちろん君のお父さんとは生き方が違うから、同じものにはなれないけれど。でも、君や君のお母さん、あったことないけどお姉さんもきっと素敵なんだろうな。
うーん、なんだか俺の話、脱線しちゃってる気がするなぁ」
「いーよ、少しくらい脱線しても。ユウマの気持ち、聞きたいな」
「えっと、こういうこと、初めてなんだ。うまく言えないけど……」
ちゅ、とあたしの頬に口づけた。
「その、初めてがヒオリさんで良かった。これからずっと、君といたいからよろしくね。そりゃあ、ダメなところも俺はたくさんあるけれど、言ってくれれば頑張って直すから」
言い終わった瞬間にはにかんで笑った。

熱されたフライパンに鶏モモ肉を入れる。
小麦粉がまぶされた肉が薄くひかれた油に触れ、じゅうっとはじける音がする。
すかさず蓋をかぶせる。蒸し焼きにして中までしっかり火を通すつもりだ。
隣のコンロでは味噌汁が沸騰しそうだ。火を止めてからお玉でかき回し、汁を落ち着かせる。
味噌汁の具としてごろごろとした野菜と豆腐が入っている。お玉でかき回すときに豆腐が崩れてしまうが、彼はこちらの方が食べている時に楽しいと言っていた。
窓を見ると雪がへばりついており、隙間から見える景色も強く降る雪でよく見えない。
ここら辺は遮るものが少ない豪雪地帯だ。落ち着いている間に雪かきをしておいてよかったが、この分なら寝る前にも簡単に雪かきをしないと明日の朝が大変だろう。
しかし、この程度の雪では電車は止まらない。雪国のMR(Monster girl's Railways)は強いからだ。
あたしは鶏もも肉をひっくり返して両面に焼き色を付けると、合わせ調味料をかけた。激しい音とともに油が躍り、なんだか楽しい気分になる。
ケータイから通知音。画面を見るとチャラ男からだった。
『彼女が冬眠期に入った。準備を手伝ってくれてありがとう。しばらく休む。休み中のプリントは郵便受けに入れといてくれ』
先日、友達のラミアが冬眠期に入るのでその手伝いをした。チャラ男がそのお礼をこちらに送ったのだ。
冬の間は友人が減ってしまうのは少し寂しいが、彼女らは二人っきりで冬を過ごせるのは羨ましい。
時計を見ると、6時半を指していた。綺麗に掃除されたそれは、電池を入れ替えられてから元気に針をまわしている。
甲高い音。インターホンだ。
あたしはコンロの火を止め、玄関に向かった。
ドアノブをまわしながら口を開く。
「おかえりなさい!」
24/09/01 09:40更新 / ほのの

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33