空が赤い。西から照らす灼熱の名残が長い階段に影を作っていた。人影は一歩一歩ゆっくりと石段を登っていく。
　青年は夏休みに家族ととも田舎へと帰省していた。自然と共生する家には親戚が集まり、百鬼夜行を行える状態だった。彼の祖母はぬらりひょん、その姉妹も同じくぬらりひょん。それぞれが伴侶を得ており、その娘や息子たちもそれぞれの家族とともに帰省していた。赤い肌で水のように酒を飲む鬼。料理やつまみを作り続ける青い鬼。黒く毛深い八本足で悪餓鬼どもとじゃれ合う鬼。多くの鬼や妖とともに家事にいそしむ狐。そのほか彼の知らぬ種族の女たち。それぞれが仲睦まじい様子で男性や子供たちとともにいた。
　大人数での宴は今でも続いているだろうが、彼は戻る気がなかった。少なくともしばらくの間は。なにせ、酔った鬼や狐、淫魔など様々な魔族がぬらりひょんの魔力に中てられている。夕食の時間までは淫らな饗宴が続く。幼い子供たちは誰かしらが面倒を見るだろうし、ことによると手をつける者もいるかもしれない。逃げるように家を出た彼は夕暮れの景色を味わいに、山上の神社を目指していた。
　目指している神社は、長く使われていないようで朽ちた姿を晒している。しかし、付近には豊かな水源があった。暑い夏の夜も水源のおかげで涼しいだろう。山上から夕暮れに沈む集落。沢から流れる清らかな水のせせらぎ。彼は幼いころに見た情景を思い、石段を踏んだ。
　
　先客がいたようだ。朽ちた神社の前で長い身体を伸ばし、寝そべっている。側頭部から鹿を思わせる１対の角。鱗や膜を思わせる独特な耳。たっぷりとした乳房は和服で隠されているが、はだけて谷間が大胆にのぞいている。両指の太い爪は傷つけぬように丸く整えられていた。下半身は緑の鱗が隙間なく覆い、赤い鬣が生えている。
　龍だ。うっすらと目が開き、彼の姿をとらえる。凛とした雰囲気を纏った金色の視線が彼を貫いた。彼女は何も言わずにこちらに来るように手招き。龍の威容に青年は熱に浮かされるように近寄り、侍った。
　「かしこまる必要はない。私はその辺にいるただの龍だ。ほら、砂利の上で座るのはつらいだろう」
　彼は差し出された龍体を困ったように見るとおずおずと座った。
　「さて、お前は何しにここへ来たのだ？見るものなどないだろう。腐った建物と森、水だけだ」
　「ここから集落の景色を見に来ました。家は気まずくて」
　気圧されていながらもはっきりとした物言い。龍は興味深そうに青年の黒い瞳を眺め、彼の手を優しくつかんだ。じっとりと手汗がにじむのがわかる。
　「ほぉ、魔物慣れしていないのだな。珍しい」
　「……何となく運が悪くて」
　「いや、お前は運がいい。このためにとっておいたのだろう」
　龍は素早く背後に回ると、そのまま鱗に覆われた両腕が彼の胴体をつかんだ。離れぬようにしっかりと抱き締める。悲鳴を上げる青年を気にせず、龍は夕暮れに身を投げた。
　「――――‼‼」
　「夕暮れの集落を見たかったのだろう？ほら、あそこがお前の家だ。一際暗く魔力が漏れている」
　初めは恐怖に竦んでまともに景色を眺めることはできなかった。しかし、腰に当たる両腕の頼もしさに気づき、彼は平静を取り戻した。呼吸もできるし声が届く速さと高度だ。万一落ちても助けて下さるだろう。彼女の言葉に疑問を返す。
　「そうですけど、なんでわかったんです？」
　「ぬらりひょんの魔力が残っている。すぐにわかるさ」
　ゆっくりと上空を旋回する。青年の視界には集落の全景が映っていた。祖父母の家はぬらりひょんの魔力が漏れ出し、龍の言葉通りに暗くなっている。その向かいには畑なのか水田なのか、整然と並んだ植物が見える。近くに住む大百足夫妻の家が視界に入った。自然と調和するように塗られた外壁は山を越えて迫る闇に染め上げられ、爽やかな緑の屋根は赤黒に分けられる。山と人工の建造物が作り出した影、山間から差し込む夕日。それぞれが複雑な線を作り出していた。
　「リクエストします！空と山を一緒に見てみたいですけど、大丈夫です？」
　「お安い御用だ。身を任せろ」
　低い声が彼の耳元で囁くと、集落を眺める視界がぐるりと半回転した。龍は上体を起こして後退するように浮遊、ゆったりとした速度で背中側に移動していく。少年の視界を何かが横切っていった。大きな蜻蛉、オニヤンマだろうか。集落よりも山深い方面からは黒い群体が青と黒の水平線を目指している。蝙蝠だ。ずいぶん遠くのはずだが何万もの群れなのか羽音が耳に心地よく響いた。
　「すごいですね……。地上からとは全然違う。空を飛べる人たちはいつもこんな気持ちで飛んでるんですか？」
　「こんな気持ちになるのは中々ない。特別だな、今夜は」
　昼の山は絵の具で塗りつぶしたような青の中で葉緑色にそびえており、車で山中の道を進めば整備された道を揺られる。夜はどうだろうか。太陽はすでに沈み、残るは赤光の残滓。彼が父の運転で通った道は暗闇に閉ざされ、どこから集落に入ったのかもわからない。爽快に山を覆っていた緑色は、光の残滓の陰で人を拒む顔を見せている。自然は日光では見えない側面を、夜闇の中にむき出していた。知らず、彼は腰に回されている腕に手を添えた。

　龍に抱かれて境内へと降りていく。あたりは夜が覆いつくしているが、月と星が青い光を投げかけていた。都会では電灯に阻まれて弱々しい光だが、自然の中ではこんなにも明るいのか。足が砂利に触れると腰から両手が離れ、支えがなくなった寂しさがよぎった。とにかく、彼女に礼を言わなければ。
　「ありがとうございました。僕一人だとあんな景色は見ることができなかったです」
　「何、礼としてお前をもらうだけだ」
　彼の眼前に龍の整った顔が迫る。ふっくらと柔らかく潤った唇は青年のそれと重なった。困惑した青年の視界に龍の整った顔が映る。閉じられた瞼を隠す睫毛の数まで数えられそうなほどに近い。長く艶のある黒髪は先ほど見た夜の闇を湛え、垂れた一房が青年の顔にかかる。つつましく伸びた鼻からは音がする。深く息を吸ったのだ。彼がとっさに力を込めた唇にはあやすように、ぬめりを帯びた長い舌が絡んだ。接吻の息継ぎなのか彼女が唇を離す。
　「……怖いか？」
　龍は瞳を瞼に伏せながら青年に声をかける。その声は穏やかで落ち着かせようとする雰囲気があった。青年は臍下丹田に力を籠めて言葉を紡いだ。
　「いえ、急だったので。それと、その、初めてなので……優しくお願いします」
　耳は赤く染まっている。おそらく、このようなことを魔物にいうことすら初めてだったのだろう。龍は己の唇を舐めた。
　互いの唇を優しく触れ合わせる。まだ緊張しているのか、青年の唇は一文字に結ばれていた。細い舌が彼の唇をなぞり、下半身に長大な龍体が巻き付いていく。体に触れる鱗のざらりとした感触とみっちりと詰まった筋肉の温かみ、それが彼に安らぎをもたらした。汗に濡れた両の掌が女の肩にすがりつく。少しずつ唇の力が緩むが、細い舌はこじ開けようとはしない。唇を舐めたと思えば頬や額にキスをする。日が沈んだとはいえ季節は夏。舌は青年の体を這いまわり、しっとりと湿った汗の塩辛さを楽しんだ。青年の喉仏が上下に動き、小さな声を発した。
　「あの、そろそろ……」
　「ん、どうしてほしいんだ…？」
　彼はゆっくりと彼女の唇に自分のそれを合わせた。咀嚼するように口内粘膜で優しくなぞっていく。見知らぬ街の路地裏を通るように、彼の舌は二股に分かれた細長いぬれた肉へと絡ませた。口づけの返礼に必死な彼には気づかなかったであろうが、龍の瞳は会心の笑みを浮かべていた。
　「ん、ふ……れろ、ちゅ……」
　自らの献身が拒まれないことを確信した龍は大胆な行動に出た。手本を示すように彼の舌にさらに絡めたのだ。彼女は自らの唾液を青年の口内に送り込み、それと同時に細い舌は彼の口内を踏破していく。前歯の裏を撫でたかと思えば硬口蓋を通過する。軟口蓋を舐められると噛まないよう力を籠めれば、優しく唇の裏を舐めとられていく。彼は返礼むなしく、完全に主導権を握られて彼女に翻弄され、口内を龍の細い舌に蹂躙されていた。それを示すように彼の下半身は力強く盛り上がり、先端は濃く変色していた。
　「ん……？ふふ、まさか、口を犯されて喜んでいるのか？変態め」
　彼は否定の言葉を口にしようとしたが、自らの肉体に気づいた。何も言わずに目を伏せる。その姿を龍は愛おし気に眺めた。鱗に覆われた両の指はゆっくりとシャツのボタンに向かう。一つ、また一つとボタンが外されるたび、湿ったインナーが露わになる。汗をよく吸った黒色に浮かぶ二つの突起。翡翠の爪先が転がすように刺激するたび、肩にかけられた手が震えた。
　龍は自らの百分の一も生きていない青年に対して、献身に隠れた欲望を実感していた。彼女にとっても初めてのことだったが、何のことはない。他者に対する献身、眼前で快楽に震える男に対する献身、それぞれ分けて受け止めることができた。この未熟な男に快楽を教えてやりたい。女体の味を教え込み、ほかの女との性交では満足できないようにしたい。悠久の時をこの男の為に費やしてあげたい。布に隠された生殖孔から、粘度の高い滴が垂れた。
　乳首から離れた爪先は脇腹をくすぐりながらインナーの裾に触れる。龍の唇は離れるとゆっくりと動いた。
　「ほら、万歳だ」
　彼が両手を上げるのに合わせ、シャツとともに脱がせる。汗に湿る肌をぬるい夜の風が撫でた。あらわになった素肌を細長い舌が這い回り、その先端が桜の突起の周りを味わうようになめ上げる。肌色との境界線に残った唾液は夜風に当たり、ひんやりとした感覚を与えた。乳首の頂点は固くなっていく。焦るように彼の唇は疑問の声を上げた。
　「な、なんで……」
　「どうした、なめてほしいところがあるのか？教えてくれないとわからないな」
　彼の頬は星に照らされ、深紅をさらしていた。迷うように震える呼吸。鱗に包まれた龍体が月光を反射し雨に洗われた碧玉のように輝く。あたりには虫の鳴き声が響き、小さな声をかき消した。
　「ん……聞こえなかったな」
　とぼけたように舌はあらぬ場所をなめ始めた。乳首から離れ、脇腹や臍、くすぐるように上半身を這っていく。笑う彼女の鼓膜を大きな声が揺らした。
　「乳首！……乳首を、舐めて下さい」
　金の瞳は細まり、にんまりとした笑みを浮かべた。おねだり通りに濡れた舌が突起を這い回る。片方の乳首は執拗に舐め上げられ、もう片方は龍の唇が吸い付いていた。舌先が繊細に突起を舐め上げ、れろれろとなぞりあげる。唾液にぬめる唇は吸い上げながら、柔らかく咀嚼するように動いた。両の乳首は血流が巡り、硬くなっていく。それは彼にとって未知の快楽だった。こらえられないのか、控えめな嬌声が上がるたびに彼女の耳は羽ばたくように動いた。
　巻き付いた龍体が位置を変え、青年の股間をなぞった。ざらりとした感触がズボン越しに伝わる。彼は反射的に腰を浮かせ、龍体にこすりつけた。鱗の下に詰まった筋肉が反発し、彼の性器は強い圧迫刺激を受けた。いつの間にか舌は離れ、目の前にははだけた着物の合わせ目が映っている。月光が作り出した艶かしい陰影を含む胸元を凝視し、一心不乱に腰を振る。耳に低い声が響く。押し殺したような笑い声。顔を上げると嘲りの混じった笑みを浮かべる女と目が合った。浅ましい行為をしていることに気づき、動きが止まる。ズボンの盛り上がり、その頂点からは粘液が滲み出ていた。
　「続けないのか？ほら、私の胸元を眺めながら、擦り付けたいのだろう？その硬くなったものを、この体に」
　ゆっくりとした動きで彼女の龍体が股間を撫ぜていく。柔軟性と硬度を両立させるための細かい鱗。それがびっしりと覆った下半身は固いペニスに強烈な刺激を与えた。快楽を与えながら、龍は追い詰めていく。
　「気持ちがいいだろうな。私の体をじっくりと眺めながらしがみつき、この胸に顔をうずめる。匂いがお前の肺を満たしていく。どんな匂いがするのだろうな？その硬くなったおちんちんを私の下半身にこすりつける。想像してみろ、ズボン越しでこんなに気持ちよかったんだ。そのズボンを脱いで、直接こすりつけたらどんなに気持ちが良いだろうな？鱗の硬くざらりとした感触、私の体の柔らかさ。ふふ、滑りをよくする必要はないな、私の体をこんなに汚して。月の下でもよくわかるぞ？ほら、ほら、ほら」
　青年の脳は桃色に染まり切った。かろうじて残っていた理性は耳を犯していく声と、自らの想像力の前に消える。龍の言葉通りの行動を起こし、たっぷりと射精したい。その欲求だけが彼を動かした。
　龍体と自らの体の間に両腕を滑りこませ、下着ごとズボンを下した。彼の華奢な男根は勢いよく外へと飛び出し、龍体に当たる。鱗に包まれた下半身は柔らかくペニスを受け止めた。ズボンを下した両手は龍の背中に回される。着物からこぼれる白い渓谷に顔を埋め、深呼吸。ぬるく湿った甘い匂いが肺を満たしていく。両腕で抱き締めた女の体は汗に濡れていた。そのままの体勢で腰を振り立て、細かな翡翠にペニスを擦り付ける。痛みはない。鈴口から漏れ出た先走りが潤滑油となっている。強くぬめった龍体は彼に蕩けるような快楽を押し付けた。薄く開いた唇から吐息が漏れ、唾液が垂れていく。発情した小型犬が女飼い主の体に生殖器を擦り付けるような光景。飼い主の細い舌が口の端から垂れる唾液を舐めとった。
　彼は歯を食いしばり、抱き締める力を強めた。尿道からは勢いよく精液が飛び出し、緑の鱗を白濁に染め上げる。射精が終了するまで腰を龍体に押し付け続けた。双丘に包まれた顔から荒い息が吐き出される。夜空に浮かぶ月は光を投げかけ、二人の肉体が浮かべた汗を煌めかせた。
　「ふ、ふ。たっぷりと漏らしたな？いい子だ」
　鱗に覆われた手が彼の頭をあやすように撫でる。よほど疲れたのか、顔も上げずに埋もれたまま荒い呼吸を繰り返していた。
　細い舌が龍体を這い回り、白濁を舐めとっていく。口づけや乳首責めでたっぷりと性感を刺激されたためか、一回の射精にしては量が多く、濃厚で上質な精液であった。それを綺麗になめとると、唾液でぬらりと光る赤い蛇は萎えたペニスを次の標的とした。青年を引き剥がすと下半身の先端、尻尾付近に移動させてそのまま下半身で持ち上げる。胴体を巻き上げられた彼は動くこともできずに、精液まみれの柔らかいペニスを女の眼前にさらした。
　「ふぅ〜っ。くく、期待しているようだな？」
　眼前にぶら下がる、萎えたペニスに息を吹きかけた。柔らかで可愛らしい皮に守られたそれは穏やかな刺激に反応。ぴくりと動き、少し充血した様子を見せる。黒い瞳は食い入るように見つめていた。
　彼女は鈴口に口づけると、皮かむった亀頭を口に含んで弄び始めた。舌は先端をくすぐり、唇は心地よい圧迫感をカリ首に与え、吸い込む。だんだんと充血し硬度を増していくペニス。その持ち主は情けない喘ぎ声を漏らし、唇の吸引に合わせて腰を振り始めた。
　「は……あっ、んっ、やぁ……」
　「ちゅ、む……れろ、じゅるるる、んふ、れる……ちゅぷ。ん、ふふ」
　性経験の全くなかったペニスは、口に含まれてから数分もたたないうちに勃起していた。小さいといっても過言ではないそれを、舌が舐りまわして清めていく。舌の腹が彼自身をなぞりあげるたび、青年の唇からは切ない声が響いた。
　「あっ、だめ、だめっ」
　「ん？ふふ、だめだ。まだ、な」
　彼女は青年の声と睾丸の締りから射精が近いことを判断。ちゅぷ、と音を立てて唇を離し、地面の上に青年を組み敷いた。自らの体重がかからぬよう圧し掛かった龍は口の端をゆがめる。彼の顔へと零れ落ちる一房の髪。
　「ここで、お漏らししたいだろう？」
　彼女の秘所は月明かりの下でもわかるほどに濡れていた。ペニスの上に位置するそれからは、とろりとした液体が垂れる。勃起したペニスに愛蜜がかかる様から目が離せない。青年の喉仏は上下に動いた。
　「そら、私の中に喰われていくぞ……ん……？」
　「あっあぁ、はあっ……あ。ふっ、ん……う」
　龍の生殖孔が青年の屹立を飲み込もうと、先端に口をつける。その時だった。龍の口の中、お預けを食らっていたペニスは挿入の刺激に耐えられなかったのだ。青年は荒い呼吸を繰り返しながら、白濁液を入り口で漏らしている。その情けない童貞卒業の姿に、龍は目を細めた。喉の奥から押し殺したような笑い声が漏れた。
　「くっ、くく、ふふふ、我慢できなかったのか？２回目だというのに……情けない」
　言葉とは裏腹に彼の頬に唇を寄せ、頭を撫でる。疲れからか、彼の瞳は星を見上げていた。荒く、肩で息をしている。
　「っふふ、気にすることはない。これから何度もしていけばいいさ。それに、これはこれで良かっただろう？」
　彼は何も言わず唇を重ねた。笑みを浮かべた龍は瞼を閉じる。二人を隠すように月は雲に隠れ、薄い闇の中で虫の声だけが響いていた。