永遠に
月日は巡り、佐奈と過ごす日々は高校生活の終わりまで続いていた。
どんなときも隣に佐奈がいる。笑顔で悠真を縛っている。
卒業が近づいても、その状況は変わらなかった。
進路相談の紙を記入する時でさえ、佐奈は隣に座り『どこに行くのか一緒に考えましょう』と当然のように言う。自分の未来は、いつの間にか彼女の未来と不可分になっていた。
そして悠真は気づく。この甘い牢獄に、自由はない。
息詰まるこの日常で、自由を求めたくなる。
だが、自由を求めるほどに、足元に絡みつく鎖が強く重くなっていく。
卒業式の日が近づくたびに、解放ではなく『終わりのない束縛』の始まりを告げているように感じられた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
高校の卒業式を終えたあと、悠真は胸の奥にひそやかな光を抱えていた。
——これで、終わったんだ。ようやく。
佐奈に絡め取られるように過ごした最後の一年間。
振り返れば、彼女の笑顔や声に支えられた瞬間も確かにあったが、それ以上に、息苦しさや見えない鎖に繋がれていた記憶の方が鮮烈だった。
二年生までは友人と自由に過ごす時間もあった。
だが三年に進級してから、気付けば彼女が日常の中心にいて、他の人間関係はひとつ、またひとつと削ぎ落とされていった。
けれど、大学進学は絶好の口実となった。
「実家から通うつもりだよ。頑張って朝早くに起きるさ」と佐奈には笑顔で告げた。
彼女はその場で怪しむ素振りを見せなかった。
むしろ「結構遠いのに、すごいですね先輩」と誇らしげに言ってくれさえした。
だから悠真は胸をなで下ろした。
本当は、大学までの距離を理由に、一人暮らしを始めることを決めていた。
新しいアパートの鍵を受け取った瞬間、胸の内を締め付けていた重しがほんの少し軽くなった気がした。
白いワンルーム。まだ何もない空間に一歩足を踏み入れるだけで、心が羽ばたくようだった。
机もベッドも揃っていないのに、この小さな部屋こそが自分にとっての“自由”に思えた。
「……やっと、始まるんだ」
そう呟いた声は、誰にも聞かれない。
窓の外から差し込む午後の光が眩しく、未来が拓けていくように見えた。
けれど、その夜。
新居で初めての布団に横たわった悠真の胸に、妙なざわめきが生まれた。
佐奈は気付いていないはずだ。いや、気付いていないに決まっている。
あの笑顔は疑うものではなかった。そう思い込もうとする。
だが、脳裏には彼女の大きな瞳が浮かぶ。細かな変化を敏感に察知する、あの眼差しを。
「大丈夫だ。これは俺だけの選択だ」
必死に自分を落ち着けようとした。だが眠りに落ちる直前、ふと背筋に寒気が走る。
まるで——見つめられているような錯覚が、暗闇に忍び寄ってきた。
どんなときも隣に佐奈がいる。笑顔で悠真を縛っている。
卒業が近づいても、その状況は変わらなかった。
進路相談の紙を記入する時でさえ、佐奈は隣に座り『どこに行くのか一緒に考えましょう』と当然のように言う。自分の未来は、いつの間にか彼女の未来と不可分になっていた。
そして悠真は気づく。この甘い牢獄に、自由はない。
息詰まるこの日常で、自由を求めたくなる。
だが、自由を求めるほどに、足元に絡みつく鎖が強く重くなっていく。
卒業式の日が近づくたびに、解放ではなく『終わりのない束縛』の始まりを告げているように感じられた。
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高校の卒業式を終えたあと、悠真は胸の奥にひそやかな光を抱えていた。
——これで、終わったんだ。ようやく。
佐奈に絡め取られるように過ごした最後の一年間。
振り返れば、彼女の笑顔や声に支えられた瞬間も確かにあったが、それ以上に、息苦しさや見えない鎖に繋がれていた記憶の方が鮮烈だった。
二年生までは友人と自由に過ごす時間もあった。
だが三年に進級してから、気付けば彼女が日常の中心にいて、他の人間関係はひとつ、またひとつと削ぎ落とされていった。
けれど、大学進学は絶好の口実となった。
「実家から通うつもりだよ。頑張って朝早くに起きるさ」と佐奈には笑顔で告げた。
彼女はその場で怪しむ素振りを見せなかった。
むしろ「結構遠いのに、すごいですね先輩」と誇らしげに言ってくれさえした。
だから悠真は胸をなで下ろした。
本当は、大学までの距離を理由に、一人暮らしを始めることを決めていた。
新しいアパートの鍵を受け取った瞬間、胸の内を締め付けていた重しがほんの少し軽くなった気がした。
白いワンルーム。まだ何もない空間に一歩足を踏み入れるだけで、心が羽ばたくようだった。
机もベッドも揃っていないのに、この小さな部屋こそが自分にとっての“自由”に思えた。
「……やっと、始まるんだ」
そう呟いた声は、誰にも聞かれない。
窓の外から差し込む午後の光が眩しく、未来が拓けていくように見えた。
けれど、その夜。
新居で初めての布団に横たわった悠真の胸に、妙なざわめきが生まれた。
佐奈は気付いていないはずだ。いや、気付いていないに決まっている。
あの笑顔は疑うものではなかった。そう思い込もうとする。
だが、脳裏には彼女の大きな瞳が浮かぶ。細かな変化を敏感に察知する、あの眼差しを。
「大丈夫だ。これは俺だけの選択だ」
必死に自分を落ち着けようとした。だが眠りに落ちる直前、ふと背筋に寒気が走る。
まるで——見つめられているような錯覚が、暗闇に忍び寄ってきた。
25/08/31 17:24更新 / 禊
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