第一話 無表情
「ここは本当に静かだな・・・」
首にぶら下げたカメラを構え、シャッターを切った。
俺はフリーカメラマン、名前は光酉 広太。
主に自然や動物、はたまた魔物を撮影している。
今回は訳あって北の針葉樹林帯に来ていた。
「とりあえずここら辺でいいかな?」
背負った荷物を置き、一息つく。
この仕事を始めて3年が経った。
ごく普通の高校を卒業し、ごく普通の二流大学をでた俺はそのまま就職することに疑問を感じた。いや、正確にはこのままの自分の人生に希望を感じれなかったのかもしれない。だから俺は内定を蹴り、フリーカメラマンになった。大きな変化があれば今までの自分を変えられると思っていた。
「とりあえずテントはこんなもんだろ。もうすぐ夜だし火を焚かないとな」
個人活動を長く続けるとどうも独り言が増える。
三年目ともなってくると拠点づくりはお手の物。手際よく火をつけ、持って来た缶詰などを軽く調理する。
今回はただ森にきているのではなく依頼だ。依頼の内容は針葉樹林帯の自然、動物の撮影。依頼主はどこかのアウトドア好きの老人。足腰が弱くなって自分の足では歩けないから写真を撮って来てほしいとのことだった。
食事を終え、横になる。寝る前に次の日の写真に付いて考えるのが俺の癖だ。
その日の夜は遠吠えも虫の声も聞こえない。ただ木々たちの葉の擦れるおとだけが響いていた。
木々の隙間から朝日が差し込む。
「朝か・・・。さて、仕事しますかね・・・」
どんなところでも朝日は心を落ち着かせてくれる。砂漠でも森でも変わらない朝日が俺は大好きだ。
身支度を済ませ、商売道具のカメラを持つ。独り身に俺にとってはこいつが友達で彼女のようなものだ。
今日の目標は動物を撮ること。
だが、少し気になることがあった。それはこの森の静かさだ。
今まで撮影してきた森に比べ、あまりにもこの森は静かすぎる。動物がいないという訳でもない。行きにシカの群れをみたが、ここの動物は他の森にでは感じられない風格を感じる。
だが、なぜか落ち着く。ものすごく落ち着くのだ。
あの老人がこの森を指定したのはこういう理由があるからかもしれない。
テントの周りの景色を確認し、歩き出す。何枚か撮った後、倒れた木に腰をおろし少しここでまってみることにした。
少し歩いただけでもわかる、この森はとても豊かだ。木々はとても青々とし、動物も少ない訳でもない、バランスがとれているのがよくわかる。
いい写真が撮れそうだ。
気がつくと、オオカミがこちらをじっと睨んでいる。
「クソ・・・」
オオカミは頭がいい、それに複数で行動する。オオカミと出会ったら気づかれないようにするか、気づかれたら目をそらさずに逃げるかだ。どちらにせよ熊の次にあいたくない相手。
しかし、こちらを睨んでいたオオカミは顔をそらし、別の方向へ歩いていった。
「なんだったんだろう、まるで何かを譲るように去っていったが・・・」
背後に気配を感じる。
「・・・!」
「動くな。獲物が逃げる」
振り返ろうとした瞬間、耳に落ち着いた女性の声が流れる。
「逃げてしまったか・・・」
オオカミがいた方向とは別の方向からシカが逃げていくのが見えた。
「人間、この森に入るのは勝手だが、狩りの邪魔はしないでくれないか」
さっきと同じ声、その声には言葉とは裏腹に怒りがこもっていなかった。
だが、この森の主であることは気配から感じることができた。オオカミも俺ではなくこの声の主に気づいたんだろう。
「すまない、邪魔するつもりはなかったんだ。ただ写真が撮りたくて。ここの森の主なんだろう?挨拶がしたい」
そういって振り返ると、そこにいたのは大きな鎌をもった女性。
いや、魔物の一種マンティスだ。
彼女はとても整ったきれいな顔をしていたが、無表情。全く感情が感じられない。
「俺はフリーカメ・・・おい!まてよ!」
自己紹介しようとすると彼女は顔色一つ変えず別の方向に歩きだす。
「おい!待てって、挨拶ぐらいさせろよ!」
「挨拶など必要ない。ただ狩りの邪魔はしないでくれ、それだけだ」
そう言うと彼女はサッと森の中に姿を消した。
「なんなんだよ・・・」
そう言ってカメラを握り直す。だが、どうも撮る気になれない。
その後、一日森を歩き回ったが、結局シャッターをきらなかった。どちらかというときれなかった。
彼女のあの無表情な顔が頭から離れなかった。
首にぶら下げたカメラを構え、シャッターを切った。
俺はフリーカメラマン、名前は光酉 広太。
主に自然や動物、はたまた魔物を撮影している。
今回は訳あって北の針葉樹林帯に来ていた。
「とりあえずここら辺でいいかな?」
背負った荷物を置き、一息つく。
この仕事を始めて3年が経った。
ごく普通の高校を卒業し、ごく普通の二流大学をでた俺はそのまま就職することに疑問を感じた。いや、正確にはこのままの自分の人生に希望を感じれなかったのかもしれない。だから俺は内定を蹴り、フリーカメラマンになった。大きな変化があれば今までの自分を変えられると思っていた。
「とりあえずテントはこんなもんだろ。もうすぐ夜だし火を焚かないとな」
個人活動を長く続けるとどうも独り言が増える。
三年目ともなってくると拠点づくりはお手の物。手際よく火をつけ、持って来た缶詰などを軽く調理する。
今回はただ森にきているのではなく依頼だ。依頼の内容は針葉樹林帯の自然、動物の撮影。依頼主はどこかのアウトドア好きの老人。足腰が弱くなって自分の足では歩けないから写真を撮って来てほしいとのことだった。
食事を終え、横になる。寝る前に次の日の写真に付いて考えるのが俺の癖だ。
その日の夜は遠吠えも虫の声も聞こえない。ただ木々たちの葉の擦れるおとだけが響いていた。
木々の隙間から朝日が差し込む。
「朝か・・・。さて、仕事しますかね・・・」
どんなところでも朝日は心を落ち着かせてくれる。砂漠でも森でも変わらない朝日が俺は大好きだ。
身支度を済ませ、商売道具のカメラを持つ。独り身に俺にとってはこいつが友達で彼女のようなものだ。
今日の目標は動物を撮ること。
だが、少し気になることがあった。それはこの森の静かさだ。
今まで撮影してきた森に比べ、あまりにもこの森は静かすぎる。動物がいないという訳でもない。行きにシカの群れをみたが、ここの動物は他の森にでは感じられない風格を感じる。
だが、なぜか落ち着く。ものすごく落ち着くのだ。
あの老人がこの森を指定したのはこういう理由があるからかもしれない。
テントの周りの景色を確認し、歩き出す。何枚か撮った後、倒れた木に腰をおろし少しここでまってみることにした。
少し歩いただけでもわかる、この森はとても豊かだ。木々はとても青々とし、動物も少ない訳でもない、バランスがとれているのがよくわかる。
いい写真が撮れそうだ。
気がつくと、オオカミがこちらをじっと睨んでいる。
「クソ・・・」
オオカミは頭がいい、それに複数で行動する。オオカミと出会ったら気づかれないようにするか、気づかれたら目をそらさずに逃げるかだ。どちらにせよ熊の次にあいたくない相手。
しかし、こちらを睨んでいたオオカミは顔をそらし、別の方向へ歩いていった。
「なんだったんだろう、まるで何かを譲るように去っていったが・・・」
背後に気配を感じる。
「・・・!」
「動くな。獲物が逃げる」
振り返ろうとした瞬間、耳に落ち着いた女性の声が流れる。
「逃げてしまったか・・・」
オオカミがいた方向とは別の方向からシカが逃げていくのが見えた。
「人間、この森に入るのは勝手だが、狩りの邪魔はしないでくれないか」
さっきと同じ声、その声には言葉とは裏腹に怒りがこもっていなかった。
だが、この森の主であることは気配から感じることができた。オオカミも俺ではなくこの声の主に気づいたんだろう。
「すまない、邪魔するつもりはなかったんだ。ただ写真が撮りたくて。ここの森の主なんだろう?挨拶がしたい」
そういって振り返ると、そこにいたのは大きな鎌をもった女性。
いや、魔物の一種マンティスだ。
彼女はとても整ったきれいな顔をしていたが、無表情。全く感情が感じられない。
「俺はフリーカメ・・・おい!まてよ!」
自己紹介しようとすると彼女は顔色一つ変えず別の方向に歩きだす。
「おい!待てって、挨拶ぐらいさせろよ!」
「挨拶など必要ない。ただ狩りの邪魔はしないでくれ、それだけだ」
そう言うと彼女はサッと森の中に姿を消した。
「なんなんだよ・・・」
そう言ってカメラを握り直す。だが、どうも撮る気になれない。
その後、一日森を歩き回ったが、結局シャッターをきらなかった。どちらかというときれなかった。
彼女のあの無表情な顔が頭から離れなかった。
13/09/29 02:02更新 / nipo
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