連載小説
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意地と不器用と謎の男B
「250回目の決闘は随分人気ないところでやるのね」
ブラックエデン居住区の外れ、現在は使われていない廃工場にてリザードマンの少女と人間の少年が向かい合っていた。
「果たし状っつのも古風よねー、嫌いじゃないけど!」
事の内約はこうだ。今朝リザの家にツインからの手紙が届いていたのだ。それは決闘の申し込みであり、場所と時間が記されたシンプルなものであった。道場での試合の他、個人で決闘を申し込まれるのは珍しいことではなかった。今までもあったことであったし大して驚きもしなかった。リザにも断る理由はないので、こうして指定地に赴いたわけだが、昨日の今日で決闘を申し込まれるのは、初めてのことだった。そしてよく考えれば、気になることが幾つかあった。
「てゆうか何でさっきから黙りなのよ。私ばっかり喋ってるじゃない」
何時も強気で荒々しい彼が、不気味な程に無口なのだ。加えてずっとうつ向いて両手をだらんとさげ、何かに憑かれているのではないかと感じてしまう。そして、リザのその勘は正しかった。
「・・・つ・・・勝つ・・・」
よく耳を澄まさなければ聴こえない程の声量。
「聴こえないわよ。もっと大きな声で言いなさい」
「勝つ!絶対勝つううう!」
がばっと顔を挙げた彼を見て、リザはぎょっとした。彼女の目の前にいるのは、他でもないツインであるはずだ。
だが、いつものツインとはかけ離れていた。
むすっとした表情を浮かべている顔には仮面のような無表情。囈言のように「勝つ」とだけ言葉を紡ぐ口。まるで「何かに支配されている」かのようなツインに、リザは恐怖を覚えていた。
「ど、どしたのその顔・・・。怖いわよ・・・」
「勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ勝つ!!」
狂ったようにー寧ろ正気ではないのかもしれないー叫びだすと、彼は懐からカードを取り出した。鍬形虫のイラストが書かれた、並々ならぬ魔力を放つカードを。
「絶っ対!勝つ!」
大きく叫び、そのカードを額に押し付けた。
(stag beetle!)
カードがツインの額に根を張るように埋め込まれると、そこを中心にして黒い甲殻が形成されていく。そこからはあっという間だった。彼の体が次々と甲殻に覆われ、姿を変えていく。
頭には何かを挟み込めそうな鋸状の角が生える。両腕にそれぞれ外側に反った鋭い鎌が形作られる。ツインだったものは、今や鍬形虫を思わせる異形ースタッグビートル・ゴレイブーへと変化を遂げた。
「あ・・・は・・・」
考えられない事象が現実となった時、人(彼女を人と呼ぶかは疑問だが)はどうなるのだろう。少なくとも、彼女の場合は思考が考えることを放棄し、意味のない単語を吐き出すというのが正解のようだ。
金魚のように口を開閉させ、言葉にならない音を紡いでいる間に、鍬形虫の異形がリザの元へと迫る。
「ウウ・・・ウアアアア!!」
手首から生えた鎌を振りかざし、スタッグビートル・ゴレイブがリザを刻まんと迫る。
「いやああああ!」
「『ボアタックル』!」
ゴシカァン。
突如現れた黒衣に身を包む少女の体当たり。スタッグビートル・ゴレイブは衝撃をもろに受けドラム缶の山へと突っ込む。
「おーおー、またおっかないのがいるじゃないの」
微かに笑みを浮かべる少女、クレットは愉快そうに告げる。
「ありがと、助かったわ」
「年上には敬語使いな、蜥蜴娘。けがないかい?」
「え?はい。大丈夫です?」
クレットの言葉に若干違和感を覚えつつも、我に還ったリザは戦慄しつつも正気を保った。
「『プラントバイオ』!」
「ウ?ウアア!」
スタッグビートル・ゴレイブの足元から植物の蔦が幾つも出現し、ゴレイブを捕縛する。腕の鎌で蔦を切って迎撃しているが多勢に無勢、すぐに身動き出来なくなった。
「凍っちまいな、『ポーラーブリザード』!」
追い討ちをするように次の魔法を詠唱・発動。真っ白い冷気がスタッグビートル・ゴレイブを包む。
ピキピキと音を立てて白い煙幕に包まれる異形。そして。
「悪趣味な氷像出来上がり、っと」
煙が晴れると、そこには異形が閉じ込められた氷像が出来ていた。
「さて、行くよ蜥蜴娘。さっさととんずらだ」
「で、でも」
「あん?」
あれは大切な友人だから元に戻して下さい。という旨を伝えようとしたとき。
「ウ・・・ガアアア!」
「中から砕いた!?」
氷を砕き、異形がまた暴れだした。
「ウガアアア!」
「!?」
ザクッ!


















「やることねーなー・・・」
その頃ヒノは木陰に寄り掛かり、無益な時を過ごしていた。平和なのは良いことなのかもしれないが、平和というものは得てして刺激に欠けるものである。
大きな欠伸を一つ。そこへ。
みー。
「何だお前・・・?」
どうにも名状しがたい生き物がヒノを見上げていた。
鱗の生えた馬のような頭部と胴体。そこから生える蝙蝠の羽根。三本指の鳥足。なんなのだろう、この生き物は。
みーみーみみみみー、みみーみ、みみー。
「お前は何を言っているんだ」
口ではそう言うが、ヒノの頬が緩んでいる。不気味な姿だが、その仕草はなんだか和むのだ。
みー・・・。
がっかりしたように馬面を伏せる。その仕草が妙に愛らしく、思わず微笑んでしまう。
み!みみみみ!
思い付いたように顔を上げ、その羽根で飛び上がると、顔を左右に揺らしはじめた。
みー、みみ!
ヒノを向いてから、勢いを付けて明後日の方向を振り向く。その仕草はまるで。
「着いてこいってか?」
みー!みみ!
嬉しそうに鳴く。どうやら正解らしい。
そしてヒノは若干の不安を感じながらも、謎の生物の先導を受けて走っていった。
その生物の懸命に羽ばたく姿に癒されながら。
















「マジかよ・・・」
謎の生物に導かれてたどり着いたのは、地獄でした。などと言いたくなるような酷い有り様であった。
切り刻まれたドラム缶、垂れ流しのオイル、そして異臭。その中心に立つ異形。
「だいたいわかった、お前、あいつを倒させるために俺を連れてきたんだな?」
みー。大きく頷く。素直でよろしい。
「へへっ、いいぜ、やってやるよ!」
バッグからベルトを取り出して腰に巻き。
「変身!」
(『ハーピー!』『ワーキャット!』『デビルバグ!』ハ!キ!バ!ハキバハッキッバッ♪)シャキーン!
手慣れた手付きでヒノは、仮面ファッカーオーガ・ハキバコンボに変身した。
「俺!参jわあああ!」
変身して直ぐ様、スタッグビートル・ゴレイブが斬撃を繰り出してきた。紡ごうとした言葉を中断させ、大きく後ろへ跳躍した。
「ったく、主役の口上はしっかり聞くもんだぜ?」
決め台詞を潰されて機嫌が悪くなったヒノだが、その瞳は既に戦士のものへと変わっていた。
激しく叫びながら突っ込んでくる異形。拳を構えてスタッグビートル・ゴレイブの挙動をよく観察する。そこへ。
「そりゃ!」
切りかかろうとしたところへ強烈なカウンターハイキック。異形の顔面を捉え、その頭を大きく揺らした。
のけ反ったところへ追撃。ふらつく異形の頭を両手で抱え。
「せい!はあ!とう!」
その顔面へ膝蹴りをぶちこみはじめた。5発程蹴りつけたところで解放。そこに。
「ファイト一発っ!」
ストレートをたたきこんだ。それを受けて吹き飛ぶスタッグビートル・ゴレイブ。誰の目にも、ヒノが優勢であるのは明らかである。

そして、それを物陰から眺める、灰色のメッシュが特徴的な一人の男がいた。
「ふむ、融合係数が低いとこんなもんか。理性の消失も顕著だし、これじゃあゴッドカードの力の半分も引き出せないね」
落胆したように溜め息。
「ま、ボクはデータさえ取れれば何がどうなろうと知ったこっちゃないし」
コートからカードを取り出す。それにはコブラのイラストが描かれている。
「だけど、もう少しだけデータ採取させてもらおうかな」
そう言って男はカードを右手に押し当てた。
(cobra!)

「ちゃっちゃと決めるか」
右腰からスキャナーを取り外し、メダルを読み込む。
キキキン!
(スキャニンDチャージ!)
「はあああああ・・・」
胸の円形のアーマーが光を放つ。ハキバコンボの必殺技、ハキバキックの予備動作である。
「たあっ!」
ヒノが垂直に飛び上がると、スタッグビートル・ゴレイブとの間に赤・黄色・緑の3つのリングが形成されていく。
「せいやあー!」
リングを通る度にデビルバグレッグにエネルギーが集約されていく。そして多大なエネルギーを帯びたハキバキックがスタッグビートル・ゴレイブに炸裂。
「させないよ」
しなかった。
「はっ!」
「ぐあっ!」
突如現れたゴレイブの鞭攻撃にハキバキックが潰されてしまった。
弾き飛ばされたヒノは工場の煉瓦の壁に背中を強打してしまう。老朽化が進んでいたのか煉瓦の壁は見事に崩壊して、彼女を工場外へ押し出されてしまった。
「あっ・・・く・・・」
ダメージは決して軽くはない。だが思ったよりもダメージが軽かったのは、やはりこのアーマーのおかげなのだろう。
尤も、だからといって状況が芳しくないというのは変わらないだろう。
絶え絶えに息をしながら、突然現れた異形を見遣る。
赤と紫の鱗状の甲殻に全身を包み、蜷局を巻いた蛇のような胸郭。そして頭は、団扇のようなフォルムに不気味な顔が浮かび上がり、その上に牙を剥く蛇の装飾が見てとれる。
「悪いけど、この子まだ倒さないでくれよ。もう少しデータを取りたいんだ」
蛇の異形ーコブラ・ゴレイブーが告げる。
「データ・・・だと?」
「そ、もうしばらくしたら手を出さないから。それまでは大人しくしててよ」
言葉を紡ぎながら左手を天に掲げる。するとコブラ・ゴレイブの左手に毒々しい紫色の液体が滲み出る。それは重力に逆らって横に棒状に広がっていく。その形状が杖のようになると、コブラ・ゴレイブがそれを握る。するとそれは手からこぼれ落ちることなく物質として手中に収められた。
コブラ・ゴレイブがその杖で前方を凪ぎ払うように振るうと、その軌道上に紫色の球が無数に出現する。
「んじゃ、バイバイ」
杖で球体を小突くと、それを引き金に一斉に球体がヒノに向かって飛来していく。
「う!うあ!」
着弾すると小爆発を起こす。両手で上半身を庇うようにガードするが、その激しさに眼も開けることが出来ずに後退し続ける。
「特大一発っと」
器用に杖を指先だけで杖を回転させるコブラ・ゴレイブ。そして発現するは巨大な紫色。
「シュート」
同じように小突く。巨大な爆弾がヒノに向かって飛んでいく。
ガードに手一杯で前方への気配りが出来ていなかった彼女は。
「うああああ!」
ズゴォォォン・・・。
大きな爆発音と炎に包まれるのだった。

















現在使用可能メダル
ハーピー・カラー
ワーキャット・カラー
デビルバグ・カラー
11/06/04 03:37更新 / Joker!
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■作者メッセージ
皆様おはこんばんちは(出典、ドクタースランプ)。Joker!です。
やっちまいました、第二話。構想ばかり先に思いついてそこに至るまでの文章が書けないっていう、典型的な状況に入っております。
とか言っている間に本家は最強フォームだの映画だのの話が出ちゃってるわけですが。
不定期更新故に、次回は気長にお待ちください。
そしてやっぱり次回予告でお別れしましょう。















〜♪
「次回!仮面ファッカーオーガ!」

ヒノ「データってどうゆうことだ?」
クレット「協力する訳じゃないんだからな」
灰メッシュの男「ボクは皆平等に扱ってるよ」
ナルシャ「仮面ファッカー!新しいメダルじゃっ!」
ヒノ「公私混同だけど、俺しか出来ないなら俺がやらなきゃな」
















嘘です。Joker!は何も考えておりません。

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