寝て、眠って、寝かせない
「ねぇコウ、もう寝たほうがいいんじゃないの〜？」
耳に入るのになんの抵抗も刺激もない眠たげなその声は、まるで子守唄のようだった。ストレスなく脳に届くその歌声は、聞くものすべてを眠りに誘う。実際にその意図が明確に込められており、ワーシープのユミの本気の声だった。
「お…お願いだ、まだ寝かさないでくれ…これが終わったら寝るから…！」
「昨日も同じ事いってたよ〜。ねぇ〜コウ〜」
さらに力を込めるユミ。ふわふわの羊毛に身を包み、頭には丸くねじ巻かれた角が生えており、腰からは胴体の羊毛とはまた少し違ったタイプのふわふわの毛に覆われた尻尾を携えている。ワーシープとは、眠りに特化したような魔物娘であり、そのもふもふのふわふわにいざ一度包まれたら、まるで天使の羽に包まれたかのような安心感になり、羊毛に込められた眠りの魔力を吸収しすべてのものを深い眠りへと誘うのだ。彼女から発せられる声はすべて子守唄となり、その動作はやや子寝かしつける撫でる慈母の所作となり、彼女が本気を出せば眠らない人などいないのだ。
しかし今回の場合は少し事情があったのだ。声では眠りを誘う魔力を全力で込めているのだが、それ以外のワーシープの眠りの武器は使っていない。ユミは本気を出せていないのだ。
その理由は、目を真っ赤に充血させ、迫り来る睡魔に耐えるために唇を強く噛み、タブレットにペンを走らせ、液晶画面を睨み付けているこの男にあった。名前はコウ、イラストレーターの卵だ。彼は就活を目前に控えた就活生であり、希望する就職企業先に自分の実力をPRする作品制作に死力を尽くしていた。昔からゲーム会社に就職するために努力を重ねてきたコウを、ユミはよく知っていた。だからこそ、2日の徹夜を敢行していてもコウを強引に寝かしつけることを躊躇っていたのだ。
「ねぇ、コウ〜」
「…何？ユミ」
ユミは、コウが睡魔に敗北させるため、攻撃の手を緩めない。いつも眠たげで、ほとんど寝ているイメージのあるワーシープのユミも、この状況ではしっかりと目を覚まして積極的に話しかける。大好きな彼に、無理をしてほしくない。ただ安眠を届けてあげたいその一心だった。
「…最近ユミと一緒に寝てくれないよね」
「ぶほっ！」
その投げかけが意外だったのか、コウは思わず吹き出してしまった。おかげで少し目が覚めた。ユミの攻撃は失敗してしまった。
「何だよ急に…つかその言い方だと第三者に多大な誤解を招くからやめてくれ」
「どうして寝てくれないの？」
「どうしてって…それは…その…」
作業の手を止めてこちらに振り返って話をしてくるコウ。ユミはこれがチャンスだと思い、たたみかける。
「コウはちっちゃいとき、眠くなるとすぐに私にぎゅってしにきてたのに。今は全然してくれない」
「子供の頃の話じゃん！今とは、その…色々と違うんだよ…」
コウは昔のユミと一緒に寝ていた頃を思い出したのか、顔を真っ赤にさせて作業に戻ってしまった。しかし眠りの魔法はずっと送り続けている。コウも眠たさが限界に来ているはずだ。焦らず、確実に勝負に勝つ。ワーシープとしての意地があった。
「コウはわたしのおっぱいが好きだったもんね。触ると落ち着くからって、よく寝るときに揉んでたね」
「だあああやめて！昔の話！昔の話だから！今は違うから！」
ぶんぶんと首を横に振り回し、照れを隠すコウ。過去の痴情を赤裸々に掘り起こしていくユミ。コウ照れ屋で、この手の話には弱い。無駄な労力を使わせ、眠くさせる作戦だ。照れを隠すのにつられて、ペンを動かす手も世話しなく早くなる。
「コウは寝相が良くて寝てるときは大人しいんだけど、手癖は悪かったもんね。すぐにおっぱいを揉んできて…」
「嘘、俺寝ながらも触ってたか…ていうか起きてたのか…」
「うん。コウの寝顔がかわいくて、いつも寝不足だったの」
「だから学校でもあんなに寝てたのか…ってなんだよかわいいって！」
二人は小学校からの幼馴染で、ずっと同じ環境で育ってきた。趣味も話も合う、よき友人だった。彼女を魔物娘と意識することはなく関係は良好だったが、コウは彼女を女として強く意識してしまってから、高校の頃から肉体的な関係は距離をおいていた。肉体的な関係と端から聞けば一体何の情事かと思うが、ただ一緒に寝ているだけなのだ。彼女の人として、魔物娘として、女としての魅力は、ずっと一緒にいたコウ自身が一番よく知っている。自分がゲーム会社に就職を強く希望していて、なおかつその為に今睡眠時間を削って努力している事は彼女もよく知っている。そして、コウも自分の体調を気遣ってくれていて、でも自分の意思を尊重してくれているユミのことを知っている。コウは今、自分の意思を尊重するか、ユミの意思を尊重するか、天秤の真ん中で揺れていた。
「…寝ないの？」
「…もうすぐ終わるから、それまで」
ユミは機会をうかがっていた。今ユミとコウは、まだ友達以上恋人未満の関係だった。ユミは、とうにコウと男女の関係になる覚悟はついていた。永遠の伴侶とする男は、コウ以外ありえないと、まだ短い生の中で既に決定していた。問題は、いつ、どうやって一線を越えるかだった。無理矢理迫れば、コウに嫌われるかもしれない。ずっと何もせず、機会を逃せば、コウは他の女の人の所へ行くかもしれない。このはちきれんばかりの性欲はずっと蓋をして押さえつけている。これを一辺倒に押し付けたら、きっと嫌われてしまう。ずっと揺れ動いていたが、魔物娘としての性が、じれったさに拍車をかけた。もう子供を抜け出し、成熟しきった女の肉体は、目の前にいる自分が認めた伴侶を待ちわびて蜜を滴らせている。胸の奥底に貯めている愛の言葉は、はやく言葉にして彼に届けたいと蓋を叩いていた。今が、本当のチャンスかもしれない。ユミの一世一代の行動にでた。
「わかった。コウが早く作業が終わるように、お手伝いする」
「…おぉ？意外なことを言うんだな…」
コウは驚いた。ユミはずっと、睡眠時間を削って作業する自分を快く思っていなかった。いつもちゃんと寝てと小言のように言われていたが、今回は作業に協力してくれるという。意外な発言を不思議に思ったが、無理矢理寝かされて作業が滞るよりはるかにいい。
「そっか！それじゃコーヒーのおかわりを…」
「えいっ」
むにゅん、音はしていないものの、言葉としてこれを表現するには最適なものだった。二つの柔らかいものが、コウの顔に押し付けられていた。もふもふでもふわふわでもない、ユミのふかふかのおっぱいだった。
「ちょ、ユミ！？」
「ほら、コウ、目が覚めたでしょ？はやく絵を書いて」
確かに、男としてはこれ以上のない目覚ましだった。コウも立派な男であり、ユミで初の精通を果たしたこの男には何よりも効果的な興奮材だった。昔よりはるかに大きくなってる。すごくいいにおいがする。昔と比べて大人っぽい、香水のような甘くて、優しくて、それでいてきつくない、リラックスできるにおい。コウの脳内はすでにおっぱいのレビューのためにすべての機能が使われており、もはや絵を書く能力は残っていなかった。
「ちょっ、ちょ、む、胸で前が見えないし、そんなに近付くと眠気が…！」
ワーシープは眠りを扱う魔物娘。そのふかふかのおっぱいと同時にふわふわの羊毛に包まれ、羊毛に込められた眠りの魔力で強烈な眠気に襲われた。しかしワーシープの眠気の魔力を持ってしても、コウが眠りに落ちることはなかった。コウは絵の執筆作業のために、かなりの期間禁欲的な生活を送っていたため、性欲は最高潮にまで来ていた。そんな所に大好きな女の人、加えて性の特権の魔物娘に性的な刺激を与えられ、脳は色んなものを大量に分泌していた。極限の眠気と、極限の性的な快感の間を往来させられているコウは、もうまとのは判断能力は無かった。あるのはただ好きな人を見つめながら、ペンを握り続けることだった。
「コウ…寝ちゃうの？作業しなくていいの？」
「ふがっ…ユミ…あぁ、作業…しなくちゃ…」
コウが眠りにつくまでは、もう時間の問題だった。しかし、ユミの作戦はまだ続いていた。このまま、二人の関係の一線を越えるつもりなのだ。
「コウ寝ちゃいそう。わたしが起こしてあげる」
「んぁ…？」
ユミは両手をコウの股間に伸ばし、ズボンのチャックをあけ、トランクスを勢いよくずらした。中からはちきれそうなほどに膨張したコウのムスコが飛び出てきた。ユミは思わず言葉を失ってしまった。
(うそ…昔見たときより、すごく大きくなってる…すごい…)
魔物娘とはいえ、ユミもまだ生娘。完全に勃起した男性器をまじまじと見たのは今回が初だった。小さい頃はコウと一緒にお風呂も入っていたため、小さい通常モードのちんちんは何度か見たことがあったのだ。その経験から、今回の痛々しいほどの勃起に加えてコウの成長期によって、ユミには強いギャップを感じさせた。
「ちょ、ユミ、それは…ダメだって…」
意識は朦朧としつつも、興奮で寝ることのできないコウは、まるで寝起きで機嫌を損ねた子供のようなかすれた声で抗議の声を上げる。ユミは先端部分をつんつんと人差し指でつつくと、それに答えるようにペニスはビクビクと小さな膨張と縮小を繰り返す。その反応は上へ上へと突き動き、苦しそうにもがき続けて解放を求めてた。ここからのユミの行動は、ほとんど本能だった。愛しい、意中の男性に奉仕する、魔物娘の本能によって突き動かされ、ユミはワーシープとしての最盛期を迎えていた。ユミは手のひらで包むようにコウのペニスを握った。その手に手を握られると離すことは叶わず、その手に撫でられればどんな気持ちも一瞬にして落ち着く癒しの手は今、魔性の手として、ペニスを射精へと誘うためだけの道具へと変貌を遂げた。しっとりと吸い付くような肌を持った、細くてしなやかな右手を包むようにペニスを握ると、優しくしぼるように愛撫していく。人差し指、中指、薬指小指親指…まるで邪悪な触手のように生々しくうねりを見せては時折慈母がやや子の頭を撫でててあやすようにも見せる。強弱緩急。ただ右手が動いているだけのはずなのに男の情欲を激しくかき回して刺激してくる。魔物娘の真骨頂、生まれ持った天性の力。人と魔物の絶対的な差。性欲まっさかりのただの一般男子専門学生のコウにあがらう術などあるはずもなかった。
「も、もうダメ…うぐぅ！！」
彼の世界は閃光のように瞬いて暗転したのちに黄色に染まった。はちきれんばかりに膨張した凶悪なモノは、外へ外へと解放を求め続けた白濁が外へと、魔性のユミの凶悪な右手に放出されたのだ。解放と表現するには穏やかではない激しく上下に痙攣し賢者モードへの突入というよりは白痴になり「果てた」ようだった。
放出されたソレは、まるでユミの右手を孕ませるかのごとく纏わりつき、強い粘性を持ってこびりついた。脳を突き刺す強いにおい。でろり、にちゃり、耳をくすぐる水音。どれも本能を呼び起こす、掻き立てるモノ。ユミの心の内にずっと燻っていた愛、本能、欲望、性欲、枷、まぐわい、性交、エッチ、セックス。
「これが…コウの」
右手についた精液をまじまじと眺める。よほどたまっていたのか、したたる速度はものすごく遅い。右手からこぼれそうになった部分からなめとっていく。大好きなお菓子を少しずつ食べる子供のように、ちびちびと、惜しむように舐めとっていく。舌の上にのせた途端、またひとつ性欲に拍車がかかる。口の中に含んで自分の唾液と混ぜ合わせじっくりあじわう。刺激的な味。心をさらに燃え滾らせ、思考は性のひとつに絞られていく。
ぐつぐつと煮えたぎっていた気持ちの蓋は、ついさっき木星あたりまで吹き飛んだ。魔物娘としてのユミを抑えるものは何もない。コウの両親はちょうどよく一週間の旅行に出かけていて、明日は土日で学校が休み。ユミの友達には用事があると事前に伝えているし、コウも締め切り間際で忙しいと友人に愚痴をこぼしていたため、知り合いからの横やりはない。晩御飯は昨日の作り置きがあるし、風呂はさっき洗って今沸かしている。邪魔するものは何もない。邪魔するものは何もない。
邪魔するものは何もない。
「コウ…誰にも邪魔されないよ…♡」
紅潮させた頬に火照った肌。性の悪魔…サキュバスのごとく鋭い視線はコウひとつに注がれた。すべての精液を丁寧に舐めとったあと、その右手でコウのペニスを撫でる。コウは既に限界点に調達していて、目は半開きの状態ではあるもののほぼ眠っている状態だった。コウはすでに世界が黄色に染まっていて、ユミに与えられた強い刺激でようやく目が覚めている状態だった。ほぼ全身に力の入っていない、170ｃｍと平均身長体重のコウを、まるで魔法で浮かしているかのように、天女が羽衣で遊んでいるかのように、ふわりとコウの体をベッドに寝かせる。すぐにユミはコウの上にまたがり、両手でコウの両頬に手を当てる。
「おやすみ、コウ♡」
そのままゆっくり、軽くそっと触れるだけの、フレンチキスをした。
「………ユミ…」
魔性の女の一撃。ワーシープ渾身の睡眠魔法、安眠魔法で、コウはついに夢の世界へと旅立った。ユミは左手でコウの頭を撫で、左手だけでコウの服を脱がしていく。あるだけの魔力をたっぷりと込めて、喉を鳴らすような声で子守歌を歌って耳から眠りの魔力を注ぎ、なでる手のひらからも塗りたくるように魔力をしみこませる。完全な眠りへといざなったのだ。ワ―シープ、ユミの全身全霊の眠りの魔法だった。ここまで魔力を注ぐ理由のひとつに、これからすることに魔力は必要ないからだ。一体どういう訳か寝転がった状態のまま片手だけでコウの服はどんどん脱がされ、すぐに生まれたままの姿を赤裸々にさらすことになっていた。ユミの服もいつの間にか脱いでおり、艶めかしい肢体をさらしていた。
コンドームなどない。手加減などしない。求めるがまま、望むがままに。想い人は、なぜかたまたま眠ったままイチモツを勃起させている。これなら、いくら自分勝手に情欲をむさぼっても文句は言われない。もとより、これから始まることは常人であれば腹上死し脳のシナプスが焼き切れてしまうため、ある意味最善の選択だったのかもしれない。魔法や自身の羊毛を駆使して相手を眠らせ、眠ったところで肉体を貪る。まさに、凶悪な魔物の手口であるが…、実際は、ただ好きな人に、自分がドスケベであることがバレたくなかったから取った手法なだけであった。
ベッドは精液や汗、涙、唾液…すべて人の体から出る液体でずぶぬれになっていた。部屋はむせ返るようなイカくさいにおいで充満していた。この部屋だけ外気温からかけ離れて熱く、サウナのような状態であった。そんな異常な環境のなかで、ずぶぬれのベッドでふたり、幼いころの過去に何度も経験したであろう、ずっと求めてやまなかった大切な思い出、ふたりで抱き合いながらの添い寝を堪能している男女がいた。
とても幸せそうであったが、片方は別の意味で昇天しかけていた。
耳に入るのになんの抵抗も刺激もない眠たげなその声は、まるで子守唄のようだった。ストレスなく脳に届くその歌声は、聞くものすべてを眠りに誘う。実際にその意図が明確に込められており、ワーシープのユミの本気の声だった。
「お…お願いだ、まだ寝かさないでくれ…これが終わったら寝るから…！」
「昨日も同じ事いってたよ〜。ねぇ〜コウ〜」
さらに力を込めるユミ。ふわふわの羊毛に身を包み、頭には丸くねじ巻かれた角が生えており、腰からは胴体の羊毛とはまた少し違ったタイプのふわふわの毛に覆われた尻尾を携えている。ワーシープとは、眠りに特化したような魔物娘であり、そのもふもふのふわふわにいざ一度包まれたら、まるで天使の羽に包まれたかのような安心感になり、羊毛に込められた眠りの魔力を吸収しすべてのものを深い眠りへと誘うのだ。彼女から発せられる声はすべて子守唄となり、その動作はやや子寝かしつける撫でる慈母の所作となり、彼女が本気を出せば眠らない人などいないのだ。
しかし今回の場合は少し事情があったのだ。声では眠りを誘う魔力を全力で込めているのだが、それ以外のワーシープの眠りの武器は使っていない。ユミは本気を出せていないのだ。
その理由は、目を真っ赤に充血させ、迫り来る睡魔に耐えるために唇を強く噛み、タブレットにペンを走らせ、液晶画面を睨み付けているこの男にあった。名前はコウ、イラストレーターの卵だ。彼は就活を目前に控えた就活生であり、希望する就職企業先に自分の実力をPRする作品制作に死力を尽くしていた。昔からゲーム会社に就職するために努力を重ねてきたコウを、ユミはよく知っていた。だからこそ、2日の徹夜を敢行していてもコウを強引に寝かしつけることを躊躇っていたのだ。
「ねぇ、コウ〜」
「…何？ユミ」
ユミは、コウが睡魔に敗北させるため、攻撃の手を緩めない。いつも眠たげで、ほとんど寝ているイメージのあるワーシープのユミも、この状況ではしっかりと目を覚まして積極的に話しかける。大好きな彼に、無理をしてほしくない。ただ安眠を届けてあげたいその一心だった。
「…最近ユミと一緒に寝てくれないよね」
「ぶほっ！」
その投げかけが意外だったのか、コウは思わず吹き出してしまった。おかげで少し目が覚めた。ユミの攻撃は失敗してしまった。
「何だよ急に…つかその言い方だと第三者に多大な誤解を招くからやめてくれ」
「どうして寝てくれないの？」
「どうしてって…それは…その…」
作業の手を止めてこちらに振り返って話をしてくるコウ。ユミはこれがチャンスだと思い、たたみかける。
「コウはちっちゃいとき、眠くなるとすぐに私にぎゅってしにきてたのに。今は全然してくれない」
「子供の頃の話じゃん！今とは、その…色々と違うんだよ…」
コウは昔のユミと一緒に寝ていた頃を思い出したのか、顔を真っ赤にさせて作業に戻ってしまった。しかし眠りの魔法はずっと送り続けている。コウも眠たさが限界に来ているはずだ。焦らず、確実に勝負に勝つ。ワーシープとしての意地があった。
「コウはわたしのおっぱいが好きだったもんね。触ると落ち着くからって、よく寝るときに揉んでたね」
「だあああやめて！昔の話！昔の話だから！今は違うから！」
ぶんぶんと首を横に振り回し、照れを隠すコウ。過去の痴情を赤裸々に掘り起こしていくユミ。コウ照れ屋で、この手の話には弱い。無駄な労力を使わせ、眠くさせる作戦だ。照れを隠すのにつられて、ペンを動かす手も世話しなく早くなる。
「コウは寝相が良くて寝てるときは大人しいんだけど、手癖は悪かったもんね。すぐにおっぱいを揉んできて…」
「嘘、俺寝ながらも触ってたか…ていうか起きてたのか…」
「うん。コウの寝顔がかわいくて、いつも寝不足だったの」
「だから学校でもあんなに寝てたのか…ってなんだよかわいいって！」
二人は小学校からの幼馴染で、ずっと同じ環境で育ってきた。趣味も話も合う、よき友人だった。彼女を魔物娘と意識することはなく関係は良好だったが、コウは彼女を女として強く意識してしまってから、高校の頃から肉体的な関係は距離をおいていた。肉体的な関係と端から聞けば一体何の情事かと思うが、ただ一緒に寝ているだけなのだ。彼女の人として、魔物娘として、女としての魅力は、ずっと一緒にいたコウ自身が一番よく知っている。自分がゲーム会社に就職を強く希望していて、なおかつその為に今睡眠時間を削って努力している事は彼女もよく知っている。そして、コウも自分の体調を気遣ってくれていて、でも自分の意思を尊重してくれているユミのことを知っている。コウは今、自分の意思を尊重するか、ユミの意思を尊重するか、天秤の真ん中で揺れていた。
「…寝ないの？」
「…もうすぐ終わるから、それまで」
ユミは機会をうかがっていた。今ユミとコウは、まだ友達以上恋人未満の関係だった。ユミは、とうにコウと男女の関係になる覚悟はついていた。永遠の伴侶とする男は、コウ以外ありえないと、まだ短い生の中で既に決定していた。問題は、いつ、どうやって一線を越えるかだった。無理矢理迫れば、コウに嫌われるかもしれない。ずっと何もせず、機会を逃せば、コウは他の女の人の所へ行くかもしれない。このはちきれんばかりの性欲はずっと蓋をして押さえつけている。これを一辺倒に押し付けたら、きっと嫌われてしまう。ずっと揺れ動いていたが、魔物娘としての性が、じれったさに拍車をかけた。もう子供を抜け出し、成熟しきった女の肉体は、目の前にいる自分が認めた伴侶を待ちわびて蜜を滴らせている。胸の奥底に貯めている愛の言葉は、はやく言葉にして彼に届けたいと蓋を叩いていた。今が、本当のチャンスかもしれない。ユミの一世一代の行動にでた。
「わかった。コウが早く作業が終わるように、お手伝いする」
「…おぉ？意外なことを言うんだな…」
コウは驚いた。ユミはずっと、睡眠時間を削って作業する自分を快く思っていなかった。いつもちゃんと寝てと小言のように言われていたが、今回は作業に協力してくれるという。意外な発言を不思議に思ったが、無理矢理寝かされて作業が滞るよりはるかにいい。
「そっか！それじゃコーヒーのおかわりを…」
「えいっ」
むにゅん、音はしていないものの、言葉としてこれを表現するには最適なものだった。二つの柔らかいものが、コウの顔に押し付けられていた。もふもふでもふわふわでもない、ユミのふかふかのおっぱいだった。
「ちょ、ユミ！？」
「ほら、コウ、目が覚めたでしょ？はやく絵を書いて」
確かに、男としてはこれ以上のない目覚ましだった。コウも立派な男であり、ユミで初の精通を果たしたこの男には何よりも効果的な興奮材だった。昔よりはるかに大きくなってる。すごくいいにおいがする。昔と比べて大人っぽい、香水のような甘くて、優しくて、それでいてきつくない、リラックスできるにおい。コウの脳内はすでにおっぱいのレビューのためにすべての機能が使われており、もはや絵を書く能力は残っていなかった。
「ちょっ、ちょ、む、胸で前が見えないし、そんなに近付くと眠気が…！」
ワーシープは眠りを扱う魔物娘。そのふかふかのおっぱいと同時にふわふわの羊毛に包まれ、羊毛に込められた眠りの魔力で強烈な眠気に襲われた。しかしワーシープの眠気の魔力を持ってしても、コウが眠りに落ちることはなかった。コウは絵の執筆作業のために、かなりの期間禁欲的な生活を送っていたため、性欲は最高潮にまで来ていた。そんな所に大好きな女の人、加えて性の特権の魔物娘に性的な刺激を与えられ、脳は色んなものを大量に分泌していた。極限の眠気と、極限の性的な快感の間を往来させられているコウは、もうまとのは判断能力は無かった。あるのはただ好きな人を見つめながら、ペンを握り続けることだった。
「コウ…寝ちゃうの？作業しなくていいの？」
「ふがっ…ユミ…あぁ、作業…しなくちゃ…」
コウが眠りにつくまでは、もう時間の問題だった。しかし、ユミの作戦はまだ続いていた。このまま、二人の関係の一線を越えるつもりなのだ。
「コウ寝ちゃいそう。わたしが起こしてあげる」
「んぁ…？」
ユミは両手をコウの股間に伸ばし、ズボンのチャックをあけ、トランクスを勢いよくずらした。中からはちきれそうなほどに膨張したコウのムスコが飛び出てきた。ユミは思わず言葉を失ってしまった。
(うそ…昔見たときより、すごく大きくなってる…すごい…)
魔物娘とはいえ、ユミもまだ生娘。完全に勃起した男性器をまじまじと見たのは今回が初だった。小さい頃はコウと一緒にお風呂も入っていたため、小さい通常モードのちんちんは何度か見たことがあったのだ。その経験から、今回の痛々しいほどの勃起に加えてコウの成長期によって、ユミには強いギャップを感じさせた。
「ちょ、ユミ、それは…ダメだって…」
意識は朦朧としつつも、興奮で寝ることのできないコウは、まるで寝起きで機嫌を損ねた子供のようなかすれた声で抗議の声を上げる。ユミは先端部分をつんつんと人差し指でつつくと、それに答えるようにペニスはビクビクと小さな膨張と縮小を繰り返す。その反応は上へ上へと突き動き、苦しそうにもがき続けて解放を求めてた。ここからのユミの行動は、ほとんど本能だった。愛しい、意中の男性に奉仕する、魔物娘の本能によって突き動かされ、ユミはワーシープとしての最盛期を迎えていた。ユミは手のひらで包むようにコウのペニスを握った。その手に手を握られると離すことは叶わず、その手に撫でられればどんな気持ちも一瞬にして落ち着く癒しの手は今、魔性の手として、ペニスを射精へと誘うためだけの道具へと変貌を遂げた。しっとりと吸い付くような肌を持った、細くてしなやかな右手を包むようにペニスを握ると、優しくしぼるように愛撫していく。人差し指、中指、薬指小指親指…まるで邪悪な触手のように生々しくうねりを見せては時折慈母がやや子の頭を撫でててあやすようにも見せる。強弱緩急。ただ右手が動いているだけのはずなのに男の情欲を激しくかき回して刺激してくる。魔物娘の真骨頂、生まれ持った天性の力。人と魔物の絶対的な差。性欲まっさかりのただの一般男子専門学生のコウにあがらう術などあるはずもなかった。
「も、もうダメ…うぐぅ！！」
彼の世界は閃光のように瞬いて暗転したのちに黄色に染まった。はちきれんばかりに膨張した凶悪なモノは、外へ外へと解放を求め続けた白濁が外へと、魔性のユミの凶悪な右手に放出されたのだ。解放と表現するには穏やかではない激しく上下に痙攣し賢者モードへの突入というよりは白痴になり「果てた」ようだった。
放出されたソレは、まるでユミの右手を孕ませるかのごとく纏わりつき、強い粘性を持ってこびりついた。脳を突き刺す強いにおい。でろり、にちゃり、耳をくすぐる水音。どれも本能を呼び起こす、掻き立てるモノ。ユミの心の内にずっと燻っていた愛、本能、欲望、性欲、枷、まぐわい、性交、エッチ、セックス。
「これが…コウの」
右手についた精液をまじまじと眺める。よほどたまっていたのか、したたる速度はものすごく遅い。右手からこぼれそうになった部分からなめとっていく。大好きなお菓子を少しずつ食べる子供のように、ちびちびと、惜しむように舐めとっていく。舌の上にのせた途端、またひとつ性欲に拍車がかかる。口の中に含んで自分の唾液と混ぜ合わせじっくりあじわう。刺激的な味。心をさらに燃え滾らせ、思考は性のひとつに絞られていく。
ぐつぐつと煮えたぎっていた気持ちの蓋は、ついさっき木星あたりまで吹き飛んだ。魔物娘としてのユミを抑えるものは何もない。コウの両親はちょうどよく一週間の旅行に出かけていて、明日は土日で学校が休み。ユミの友達には用事があると事前に伝えているし、コウも締め切り間際で忙しいと友人に愚痴をこぼしていたため、知り合いからの横やりはない。晩御飯は昨日の作り置きがあるし、風呂はさっき洗って今沸かしている。邪魔するものは何もない。邪魔するものは何もない。
邪魔するものは何もない。
「コウ…誰にも邪魔されないよ…♡」
紅潮させた頬に火照った肌。性の悪魔…サキュバスのごとく鋭い視線はコウひとつに注がれた。すべての精液を丁寧に舐めとったあと、その右手でコウのペニスを撫でる。コウは既に限界点に調達していて、目は半開きの状態ではあるもののほぼ眠っている状態だった。コウはすでに世界が黄色に染まっていて、ユミに与えられた強い刺激でようやく目が覚めている状態だった。ほぼ全身に力の入っていない、170ｃｍと平均身長体重のコウを、まるで魔法で浮かしているかのように、天女が羽衣で遊んでいるかのように、ふわりとコウの体をベッドに寝かせる。すぐにユミはコウの上にまたがり、両手でコウの両頬に手を当てる。
「おやすみ、コウ♡」
そのままゆっくり、軽くそっと触れるだけの、フレンチキスをした。
「………ユミ…」
魔性の女の一撃。ワーシープ渾身の睡眠魔法、安眠魔法で、コウはついに夢の世界へと旅立った。ユミは左手でコウの頭を撫で、左手だけでコウの服を脱がしていく。あるだけの魔力をたっぷりと込めて、喉を鳴らすような声で子守歌を歌って耳から眠りの魔力を注ぎ、なでる手のひらからも塗りたくるように魔力をしみこませる。完全な眠りへといざなったのだ。ワ―シープ、ユミの全身全霊の眠りの魔法だった。ここまで魔力を注ぐ理由のひとつに、これからすることに魔力は必要ないからだ。一体どういう訳か寝転がった状態のまま片手だけでコウの服はどんどん脱がされ、すぐに生まれたままの姿を赤裸々にさらすことになっていた。ユミの服もいつの間にか脱いでおり、艶めかしい肢体をさらしていた。
コンドームなどない。手加減などしない。求めるがまま、望むがままに。想い人は、なぜかたまたま眠ったままイチモツを勃起させている。これなら、いくら自分勝手に情欲をむさぼっても文句は言われない。もとより、これから始まることは常人であれば腹上死し脳のシナプスが焼き切れてしまうため、ある意味最善の選択だったのかもしれない。魔法や自身の羊毛を駆使して相手を眠らせ、眠ったところで肉体を貪る。まさに、凶悪な魔物の手口であるが…、実際は、ただ好きな人に、自分がドスケベであることがバレたくなかったから取った手法なだけであった。
ベッドは精液や汗、涙、唾液…すべて人の体から出る液体でずぶぬれになっていた。部屋はむせ返るようなイカくさいにおいで充満していた。この部屋だけ外気温からかけ離れて熱く、サウナのような状態であった。そんな異常な環境のなかで、ずぶぬれのベッドでふたり、幼いころの過去に何度も経験したであろう、ずっと求めてやまなかった大切な思い出、ふたりで抱き合いながらの添い寝を堪能している男女がいた。
とても幸せそうであったが、片方は別の意味で昇天しかけていた。
18/11/07 02:45更新 / 知恵しっぽ