夏の暑さも最高潮に達した休日の午後2時。
　ベンチに座り、公園で遊ぶ子供たちを何をするでもなくただ眺めている一人の男がいた。
　名を八尾環といい、年齢は中年の域に達しかけている。

　妻子のない八尾は普段であれば休日は家の中に閉じこもり趣味に没頭するのが常であるが、たまの一日ならばと、波の少ない―そう八尾自身は自覚している―人生に変化を求め外に出た。
　しかしながら、仕事柄仕方のない面もある不摂生な生活や生来の運動嫌いもあり、その締まりのない贅肉にまみれた体が早々に悲鳴をあげた八尾は、自宅近辺の大きな公園にいくつか置いてあるベンチで休んでいたのだった。

　こうなることは分かっていたのに、と八尾は俯き呟いた。
　大人しくいつものように家にいれば良かったのだ、なんでこんな無駄なことをしたのだろう、ただ体力を消耗しただけではないか。

　たとえ自分が決めたことであろうと、失敗したとひと度思ったら後悔の念が長い間絶えないのは八尾の昔からの癖だった。

　「ねぇおじさん、だいじょうぶ？」

　そう言葉をかけられ驚いた八尾は即座に頭を上げた。
　目の前には少し驚いたように後ろへ背を反らす女の子がいた。
　どぎつい柄のブラウスを着て、ショートパンツを履いたとても可愛らしい女の子だった。

　「あ、あぁ、大丈夫だよ、ははは……」
　
　数秒の沈黙の後、現状を認識した八尾の第一声はとりあえずのその場しのぎだった。

　◆

　数十分後、女の子は八尾の隣りに座っていた。
　女の子は真野明子と名乗り、歳の離れた小汚い八尾を恐れたり疎んだりする様子は欠片も見せず、取り留めのない話をしたり、かと思えばぼうっと沈黙するのを繰り返していた。

　見ず知らずの怪しい風体である自分に何ら忌避的な感情を示さない上、饒舌に話しかけてくる明子を「変わった子」だと感じ、八尾も最初は訝しんだ。
　しかし、人との触れ合いに乏しい生活を送る八尾にとって、少なくとも好意的な感情のみを自分に対して向ける明子との会話は、たとえ相手が幼子であろうと多大な癒しを与えてくれるもので、本人も気づかぬ間に疑念はその姿を消していた。
　
　「それでね、このまえね、はじめくんにかのじょができたの。あたしもかれしほしいなぁ」
　「ははは、明子ちゃんぐらい可愛かったらすぐにでも出来るよ」
　「ほんと？そっか〜、えへへ」

　頬を赤らめ明子ははにかんだ。
　瞬間、八尾は違和感を自覚した。明らかな圧迫感と重苦しい快感が八尾を同時に襲った。
　その違和感の正体は、傍目に見てもわかるほどに屹立していた。
　八尾のペニスが勃起していたのだ。

　咄嗟に八尾は屈んでペニスを隠した。こんな時ばかりは自分のだらしない肉体をありがたく感じた。

　「？ どうしたの、おじさん」
　「い、いや、何でもないさ、何でもないんだ……」

　どうこの場をしのぐか考えようと辺りを見回した時、時計が目に入った。時針は3を示しかけており、分針は11を示していた。

　「あ、明子ちゃん。そろそろおやつの時間だけど、帰らなくていいの？」
　「あっ！ほんとだ！教えてくれてありがとねおじさん！またね！」
　「う、うん。またね。休みの日はまたここにいるから……」
　「うん！ばいばーい！」

　そう言って明子は走り去っていった。
　姿も遠くなり、八尾が体を起こした頃には既にペニスは通常のサイズへと戻っていた。

　八尾は重い足取りで帰っていった。後ろにはまだ明子の姿があったが、申し訳なさや罪悪感に支配された今の八尾に振り向く勇気はなかった。
　そのような状態で、遠くから舌舐めずりをして好色そうに自分を見つめる者に気づくはずもなかった。

　◆

　数日経ったある日の夜、八尾は自慰に耽っていた。

　あの日、明子の笑顔を見ただけで勃起をしたという事実は八尾の心を折るに足りた。
　自分は世間で異常とされる性嗜好の持ち主だったと、何よりも己のペニスが雄弁に語っていたことを否定したいが為に、最初の頃は仕事に打ち込んだ。
　だが、そうすればするほどに明子を思い出し、その度に仕事が手につかなくなるほどの性欲が八尾の脳を支配する。

　そして耐えられなくなるとひたすら自慰に耽り、自分でも気味が悪いと思うほどの量の精液をティッシュへと放出する。
　そんな毎日は、もはや八尾が己の異常を嫌でも受け入れるに十分な時間だった。
　
　◆

　明子と近況を語り合うだけの数週間が過ぎても異常な性欲はなお盛んで、げっそりするほどに自慰を繰り返して無理やり反応させないようにすらしていた。
　もはや逃れようのないところまで自分は堕ちたのだと八尾は結論づけていた。

　そんな自分に嫌気が差しながら「おじさんのことをおしえて」とせがむ明子に、こんな冴えない男の何が知りたいのかと甚だ疑問に思いつつ己のことを語るのが最近の八尾の休日だった。

　「ねぇねぇおじさん」
　「なんだい？」
　「おじさんのおうちにあそびにいきたい！」

　八尾は思わず耳を疑い、硬直した。

　「え？」
　「だからぁ、おじさんちにあそびにいきたいの！だめ？」

　駄目に決まっている。いくらある程度は互いの気心が知れてきたからといって、汚らしい風体の男が幼い子供を家に連れ帰るなど、バレたらただでは済まない。
　自覚せざるを得なかったこの性嗜好のことを考えれば、それこそ家に入れるわけにはいかない。
　第一、冷静に考えたら女の子といつもしゃべっているというこの状況が既に怪しい。
　なんでそんなことにも気付かなかったのだろうと、あらゆる意味で八尾は辟易し始めた。

　「流石に駄目だよ。いくら僕たちの仲が良くてもそれは駄目」
　「なんで？」
　「僕みたいな人が明子ちゃんをおうちに連れて帰ったら、おまわりさんが来ちゃうよ」
　「なぁんだ、そんなことか。だいじょうぶだよ、だから連れてって」

　まったく論理的でない子供の理論が返ってきたら、普通は大人として正しい方向に諭すものである。
　しかし、この時の八尾はそんな子供の言うことをさも正しいかのように感じていた。

　（明子ちゃんが言うなら大丈夫か、じゃあ良いや）
　「仕方ないなぁ、じゃあ特別だよ？」
　「ほんと？やったー！」

　明子と連れ立って八尾は自宅へと歩き始めた。

　◆

　趣味と生活費以外に金を使わない独り身の八尾の自宅は、それなりにゆとりのある2LDKの賃貸マンションだ。

　「わぁ、おじさんのおうちっておっきいねぇ！」
　「そうかい？ あんまり気にしたことないからなぁ」

　そう言いつつも、己の経済力を賞賛されたような気になって、八尾は内心とても気分を良くしていた。

　しばらく明子の気の赴くままにさせて、八尾はジュースや菓子類の用意などをしていると、奥から物音がした。
　まさかと思い八尾が向かうと、そこにはクローゼットを少し改装して作った物置を開き、置いてあるものを見つめている明子がいた。

　しまったと八尾は思った。
　物置に置いてあるのは、古今東西の妖怪変化をモチーフにしたフィギュアだった。
　こういった趣味は女性には理解されないものだと、八尾はこれまでの破綻した―と言っても一度しかない―女性との交際経験から自覚している。
　最近の子供のませた価値観を思えばいくら明子だろうとこれには、と八尾はネガティブな想像を巡らしていた。

　「うわぁすっごいなぁ、おにんぎょうさんがいっぱいだぁ」
　「へ？」

　実に子供らしい発言に八尾は思わず間抜けな声が漏れた。
　同時に、凶悪かつ血なまぐさい造形のフィギュアを見てそんな発言が出てくる辺り随分と胆力のある子なのだなと、八尾は明子という人間の認識を改めた。

　◆

　その後は用意した菓子やジュースを飲み食いしながら、八尾が明子の望むことをさせてやっていた。
　変に度胸がある以外は普通の子供だな、と思って相手をしている内に、気づけば空が茜色に染まっていた。

　「明子ちゃん、もう夕方だよ。そろそろ帰ろうか」
　「えー！やだー！もっとおじさんとあそびたいー！」

　駄々を捏ね始めたので八尾が何とか諭そうとすると、「あっ！」と叫んで明子はポーチから携帯電話を取り出した。
　物凄い速度で文字を打ってメールを誰かに送ると、すぐに返信が来た。
　明子が八尾に携帯電話の画面を見せると、そこには八尾の家に外泊しても良いかどうか判断を仰ぐ明子の文章と、それを許可すると共に数日の間自分と父親は帰ってこられないという旨の母親からの文章が記されていた。

　「これでいいでしょ？」

　明子は言質は取ったと言わんばかりの顔をしていた。
　自分の素性を知っていてなお外泊を認める明子の母親の対応には流石に疑問を感じざるを得なかったので、八尾は渋り始めた。

　「駄目、絶対に駄目」
　「もぉーだいじょーぶだって。それにパパとママ、いつかえってくるかわかんないし、ひとりでいるとさみしいよ……」

　明子の発言を聞いて、またもや何の粗もない理路整然とした弁明でも聞いたかののように八尾は納得した。

　「そっか、じゃあ仕方ないね。でも、良い子にするんだよ」
　「もちろん！」

　◆

　今、八尾は風呂場にいた。明子と一緒に。
　外泊を許される程には自立出来ている―と推測できる―わりに、一人で風呂に入ることは恐れるという一面に歪さを八尾は感じたが、その違和感も本人の知らぬ間に消え失せた。

　「んっ♥ ふぅ♥」
　「は、はぁ、はぁ……」

　体を洗って欲しいと明子にせがまれた八尾はためらいなくそれを受け入れた。

　八尾は正常な思考ではなくなっていた。
　自分は幼い女の子に欲情するような人間なのだから、あちらから向かってくる者を拒む理由などない。
　それに、こんな自分をこれだけ好いてくれているのならば、あわよくば。

　そんなことを考えながら八尾が腕、脇、体、背中と洗ってやると、明子は妙な色気を含んだ声を出す。
　そんなことなど歯牙にもかけず、興奮は高まっていく。ペニスなどとうにガチガチになっている。

　下半身を洗うために、八尾はその身を密着させた。というのは名目であり、本心ではペニスを明子の臀部に擦り付け、快楽を求めることが目的だった。
　もはや八尾は自身の欲望を満たすことになりふり構わなくなっていた。

　「ぁ♥ ……なんだかおしりがあついよ……？」
　「そうかい？ おじさんは特になんともないけど」

　とぼけながら明子の下半身を入念に、入念すぎるほどに洗う。
　その分密着する時間が増えるからだ。

　丹念に隅々まで洗い泡を流すと、明子は八尾の方を振り向いた。
　目線は下腹部に向いている。己と相手の性を正確に認識していることを示す、情欲に潤みきった目だった。

　「おじさんのおちんちん、すっごくおおきくなってるよぉ♥？」

　肌の色が青くなり、白目は黒く染まって、瞳を赤く輝かせて明子は舌舐めずりしながらそう言った。
　直感的に悪魔だと八尾は思った。そして、それでもいいとも思った。

　◆

　「ちゅっ♥ ちゅるっ♥ じゅるるるっ♥♥♥」
　「あっあっ、うあっ……」

　八尾は快感に喘いでいた。
　明子がペニスを舐め回しながら玉袋を優しく揉み込むように刺激して精を搾り取ろうとするからだ。

　既に一度放出してしまっているが、それは明子の口内へと正確に狙い撃たれ、体内に収められた。
　それでもなお、まったくと言っていいほどにペニスは衰えを感させず、雄々しくそそり立っていた。

　「んむっ、じゅるっ♥」
　鈴口から先走りが溢れ出てくる度、それを吸い出し飲み下す。

　「ぷはぁ♥ おじさんのおちんちんたくましすぎだよぉ♥ においもたまんない♥♥♥」

　うっとりした様子で、明子は八尾のペニスに頬ずりをする。
　幼子の柔肌がペニスによって蹂躙される様は八尾の征服欲を十分に満たした。

　「あっ♥」

　興奮が高まってきた八尾は明子をその場に押し倒した。
　小さく喜悦の声を上げる明子を見て、悪魔はそういう天性のものを持っているのだろうと八尾は思った。

　八尾は己の体の全てを使って明子を押さえつけ、ためらいなくペニスを挿入した。
　明子のヴァギナは濡れに濡れ、一切の引っ掛かりなく最奥まで到達した。

　「ぁひっ♥ ひゅごぃっ♥♥ きたぁ♥♥♥」

　息も絶え絶えに明子は絶頂に到達した。
　甘い痺れが全身に行き届き、爪先はぴんと尖るほどだった。

　間髪を容れず、八尾はペニスを乱暴に出し入れする。
　カリ首が明子の膣を削るように刺激する度、最奥にまで突き刺すようにする度、互いに脳天を貫くような快楽が迸っていた。

　数分と経たず猛烈な射精感がこみ上げてきた八尾は、その衝動に身を任せた。

　「あっ♥ あっ♥ あっ♥ あっ♥ んぅ〜♥♥♥」

　八尾は目の前が赤くなるほどの解放感に、明子は目の前が白く明滅して意識を一瞬手放すほどの法悦に浸った。

　◆

　八尾は体を横たえていた。それは休むためではなく、また次のまぐわいに興じるためだ。

　ペニスは未だ衰えず、明子の未熟に見えてその実態は熟れに熟れた淫らなヴァギナを心待ちにしていた。

　「じゃあいれちゃうよぉ♥ んぁあっ♥」

　がに股で屈み込み、明子は八尾のペニスを己のヴァギナへと誘う。
　途中、焦らすかのようにその入口をこすり合わせて八尾の性感を煽ったりもしたが、結局明子の方が我慢の限界だった。

　「ぉほぉっ♥ すっごぉいっ♥♥」

　狭く、それでいてペニスにぴったりと収まるかのようなヴァギナが押し広げられていく快感は明子にとってたまらないものだった。

　勝手に動いていると形容するにふさわしいほど、明子の腰は快感を求めていた。
　幼いならがも艶やかさを醸す太ももが、精を搾り取ろうと波打つように動く膣が、子種のやってくるのを今か今かと待ち受けている子宮が、あらゆる肉が快楽を得ようと八尾の体へと打ち付けられる。

　打ち付けるような動きから一転して、明子の腰は八の字を描くような縦横無尽さで八尾のペニスを刺激した。
　先ほどまでの動きでは得られなかった未知の快楽が二人を襲い、一気に絶頂がやってきた。

　「あぁっ♥ きたぁ♥ すごいのきたぁ♥♥」

　◆

　場所は変わり、今二人がいるのはリビングだった。

　互いに裸のままで、明子はテーブルの縁に手をついていた。
　八尾は背を向けている明子の脇腹を掴んだ。これで明子の体を支えるものは己の腕のみとなる。

　そして自分のペニスに丁度良い位置まで持ち上げると、一気にペニスを押し込んだ。

　「あはぁっ♥ こんなのっ♥ はじめてっ♥ しゅごいぃっ♥♥」

　足で踏ん張ることができないというのは想像以上の快楽をもたらすようで、明子の反応はそれまで以上に大きいものだった。
　先ほどと比べれば余裕が出てきた八尾は、明子の見せる恍惚の表情を楽しもうという嗜虐心を芽生えさせていた。

　「イクぅっ♥ イクの止まんないよぉ♥♥」
　「あぁん♥ じらすのやだぁ♥」

　しかしながら、最初はそういったことを楽しもうと思ったり、拙いながらも己のの技巧を駆使してやろうと思ったりしても、段々とそれらよりも何よりも交わることの幸福感や快楽が上回り、気づけば八尾は無我夢中で肉をぶつけるのだった。

　「明子ちゃんっ！また出すよっ！ぐぅっ出るっ！！」
　「あっ♥ これっ♥ すごっ♥♥ しきゅうとけりゅぅ♥♥♥」

　その後も狂ったように二人は交わり続け、気づけば朝だった。

　◆

　あれから一ヶ月ほどの時間が過ぎても、暇さえあれば二人は交わっていた。

　冷静になってから再度人外の者の姿を目にすればその素性を問いたださざるを得なかった。
　明子も素直にそれには応じ、聞かれたことには全て答えた。

　自分は悪魔であること。
　一目惚れ故にかなり無茶な誘惑をしたこと。
　そのために八尾が精神的に参っていたのに気付かなかったこと。

　明子が全てを告白し、それを八尾が受け入れ、少々歪な流れを踏まえた上で二人は想いを通じ合わせることが出来た。

　「どうだい明子ちゃん。インキュバス化してパワーアップした僕のおちんちんは」
　「しゅごいですぅ♥ おじさんのおちんちんにしきゅうがくっぷくしてるのわかるのぉ♥♥」

　今日もまた、マンションの一角で、幼子の喜悦の声が響いていた。