水の音がする。ごつごつとした冷たい感触。それに身体に水が触れている。
　目を開けたが瞼に力が入らない、視界がぼやけている。灰色と緑の色が目に入ってきた。だがすぐに目は閉じてしまった、だが音は聞こえている。

「誰か倒れてるよ〜？」

「なに？…息はあるな…よし………」



　次に彼が気付いた時は、柔らかなベッドの上に寝かせられていた。白い石膏の天井が目に入り、そこがどこか住居のような所であると気付く。
「…ここ…は…？」
　少し掠れたような声で発した言葉は、初歩的な疑問であった。辺りを見回したが、白い壁と一つの窓とドアがあるだけで具体的なことは全く分からない。

　その時そのドアが開き、オーバーオールを履いた女性が入ってきた。
「あ〜、目が覚めたんですねぇ〜？」
　彼女は少しおっとりとした喋り方でそう言った。彼女は白と黒の毛で、オーバーオールの裾から見える足は白黒の斑模様の体毛に覆われ、蹄がコツコツと床の木を打ち鳴らしていた。
　頭部から生えた角は短く、何よりその豊満な胸が目立った。

「あなたは…？」

「わたしはシーナ。
　ビックリしたよ〜、河原に倒れてるのを見た時は〜。あなたの名前は〜？」

「…ベリオン…」
　彼がそう名前を告げた時、また一人男が入ってきた。彼の髪の毛は銀髪、まだ若い男だったがどこか落ち着いた感じを醸している。
　彼はその赤い瞳でベリオンを見た。
「気が付いたのか。
　俺とシーナが河原で倒れていた君を見つけて、ここまで運んだ。ここは俺の家だ」

「河原で………」

　ベリオンはその前のことをボゥっと思い出した。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　−−−−−−−−−−

「……んなさい……」
「え？」
　ベリオンが振り向くとメアリがナイフを振りかざしてきた。ベリオンは慌ててその手を押さえた。
「メアリッ、どうしたっ！？」
「うぅ…ごめんなさいっ…でも、あなたを消さないと…お父さんやお母さんが―」
「なにっ！？」

　そしてベリオンはメアリに激流の川へと落とされたのだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　−−−−−−−−−−

「………」
　ベリオンの眉間にしわが寄った。
「君の剣や防具はちゃんと保管してある。ただ、君がどちらの人間か聞いておきたい」
　男は真剣な面もちでそう訊ねた。
「俺は…魔人の騎士団の者だ…」

「そうか…」
　男は安心したような口調で言った。
「すまない、あの防具は一見教団の物に見えたのでね…」

「…それも間違いじゃない。俺は元々そっちの人間だった…」

　その言葉を聞き、男とシーナは顔を見合わせた。

「それでも今は、親魔物派なんだな？」

「ああ、そうだ」
　とベリオンは答えた。そしてベリオンは体を起こしベッドから立ち上がろうとした。
「うっ…」
　だがベリオンの身体に痛みが走り、小さく呻き声を上げて手で腹部をおさえた。
「まだ起きちゃだめですよぉ〜」

「う…しかし…今日は何日だ…？」

「今日は六月の七日だ。だがどうして？」

「…あれから五日も…
　…そう言えばここはどの辺だ？レンパトス峡谷地帯からどのくらいの所だ？」

「そうだな…歩いて三日だ」

「……そんな距離か…！
　くそ、急がなければ追いつけない…うぐっ―」

「ほらみろ、無理をするな。
　…仲間とはぐれたのか？だとしてもその身体で何が出来る？ちゃんと治せ」

「…お前の言うとおりだな…えっと…」

「ワイトだ、ワイト＝クロウズ」

「ベリオン＝ヴァン＝ガルーダだ。助けてくれたというのに、礼も言ってなかったな…」

「気にすることはないさ」




　ベリオンは翌朝には何とか動けるようにはなっていたが、全快というわけではなかった。まだ少しふらついている。
「何か食べますか〜？」
　シーナはベリオンに訊ねた。
「ああ、軽い物なら食べれそうだ…」

「朝の残りのパンでもいいですか〜？」

「ああ」
　ベリオンは差し出されたパンを千切りながら食べた。そして一緒に出されたミルクを口にした。
（…うまい…）
「このミルクは…」

「私のなんです〜」
　シーナは少し恥ずかしげに笑っていった。
「そうか…とてもおいしいよ」

「そう言って貰えると〜うれしいな〜」
　シーナはにっこりと笑って「それじゃあ洗濯物干してきますね〜」と言って外に出ていった。

　一人になったベリオンは溜息をついて、椅子の背もたれにもたれ掛かると天井を見つめた。

（…メアリ…君はどうしてこんな事を…）

　そう思った脳裏に思い出されたのはこの言葉だった。

『あなたを消さないと…お父さんやお母さんが―』

（『お父さんやお母さんが』…？
　俺を消さないとどうなるって言うんだ？彼女は確か離れて暮らしてるって…ん？もしかして…）

　ベリオンはある推測をした。それはあの教団がいかにもやりそうなことだ。

　その時だった。

「きゃあぁっ！」

「―！」
　シーナの悲鳴が聞こえた。ベリオンは慌てて席を立つと、壁に掛けられていたフェゴ・ディ・フェンサを取って外に飛び出た。

「こんな所に魔物ですか」

「成敗してくれる…！」
　外には騎士が三人、剣をシーナに向けていた。ベリオンは滑り込むように両者の間に割って入り、剣を抜いた。
「…教団か…！」

「何だ貴様？」

「ほう？その魔物を庇うと言うのか？」

「ならば貴様も切り捨ててやろうっ！」

　騎士は剣を振り上げて、ベリオンに斬りかかった。ベリオンは騎士の剣を受け流して柄で殴りつけ、その後剣を振った。
　しかし騎士はそれを避け、別の騎士が斬りかかった。ベリオンは剣を受け止めると騎士の腹を蹴り付けた。

「ぐっ…このぉっ！」

「うぐぁ―！」
　ベリオンは剣で防いだが、この状態で受けきるのは無理だったようで後ろに倒れ込んだ。
　騎士が高く剣を振り上げる。
「死ねぇー！」

　ベリオンはもうダメかと思って騎士を睨み付けた、その時だ。ベリオンの後ろから何かが飛んできて騎士の剣を弾き飛ばした。

「ベリオン、下がれっ！」

　その声の主はベリオンの脇を駆け抜けると、騎士を斬りつけた。そして回し蹴りで顔を蹴って騎士を右へ飛ばすと、右手に持った剣らしき物で左右の二人の腹を斬り裂いた。

「ワイト…」

「…そんな身体でよく…
　…いや、シーナを庇ってくれてありがとう。中へ入ろう」

　シーナとワイトはベリオンを抱え起こして家の中へ入り、ベリオンを椅子に座らせると自分たちも座った。

「ワイトは戦闘経験があったんだな？…まぁあっても不思議はないが…」

「ああ、元々俺はここには三年の旅を経て住み着いたんだ。この剣、カタールという種の剣もその最中にサイクロプスから貰った物だ。
　お前の剣もそうだろう？」

「ああ、まぁな…」

「…しかし、とうとうここにも侵攻してきたか…この辺りには魔物も多いからな、戦闘に不向きな奴らもいる」

「うん…」

「…ワイトは―」
　ベリオンは指を組んだ手をテーブルの上に置き、ワイトを見つめた。
「どう思ってるんだ？今の状況を…」
　ワイトは少し俯いて静かに目を閉じた。
「剣を―」
　ワイトはゆっくりと目を開いた。
「只飾っておける状態じゃなくなったとは…思っている」

「ワイト…」
　シーナは悲しそうな顔をして彼の名を呼んだ。
「ワイト、良かったら一緒に来ないか？」

「………」

「…いや、無理にとは言わない。お前には彼女もいるわけだしな…」
　ワイトは黙っていた。シーナも心配そうな目で彼を見つめていた。

「…お前はすぐにでも発ちたいだろうが、今の身体のままじゃここを発ってもすぐに倒れる…
　…一晩待ってくれ。準備を済ます、その間に少しでも体を休めろ」

「それじゃあ…」

「ああ、俺も共に」
　シーナは笑いながらもやはり悲しそうだった。そして俯いて「そう」と言った。
「それじゃ俺は少し休ませて貰う…」

「ああ」
　ベリオンは彼の寝ていた部屋に入っていった。
　そして二人だけになるとシーナは口を開いた。
「ワイト、やっぱり行っちゃうんだ…」

「…ああ」

「そう言うと思ってけどね〜
　…けどいざってなると…やっぱり寂しいし、恐いし、ヤだな…」

「…俺は」
　シーナは顔を上げてワイトを見た。
「お前を守りたい。教団なんかにお前を傷つけさせてたまるか…
　それに、俺は絶対に戻るから」

「ワイト…」
　シーナは席を立つとワイトに近寄り、ワイトも立ち上がると熱い抱擁を交わした。
「でも…ワイトが傷つくの…ヤダ…
　ワイトは私が傷つくの、嫌かもしれない。けど、私もワイトが大好きだから、ヤダ…」

「シーナ…」

　シーナはワイトの背中に手を回すとキスをした。ワイトもシーナの背中に手を回した。

「ワイト…思いっきり…抱いて…」

「ああ。思いきり、な」


　二人はワイトの寝室に行くと、熱いキスを交わしたままベッドにゆっくりと倒れ込んだ。そして、ワイトはシーナのオーバーオールのホックを外し、するすると脱がせた。

　ワイトは右手でその豊満な胸を揉みほぐし、左手で秘部をかき回した。
「うあっ…ひゃんっ…あんっ…ひゃぁんっ…」
　大きな喘ぎ声が部屋に響き渡る。そしてシーナは積極的にキスを求め、ワイトもそれに応えた。
　くぐもった喘ぎ声に変わり、クチュクチュという水音が次第に大きくなるとシーナの身体はビクリビクリと震えた。

「ハァ…ハァ…」
　唇を離すとシーナの息が荒くなっていて、目には涙さえ浮かんでいた。
「…もっと…して…」
　彼女はそう言うとワイトのズボンを下ろし、大きくなったペニスを掴んだ。
「ああ、してやる…」

　ワイトは彼女を抱き起こし、ワイトの座っている上に向かい合ってシーナが座る体位を取った。
　そしてゆっくりと肉棒を彼女の穴の中へと進入させた。
「あっ…んっ…」

　シーナが自ら腰を動かし始める。必死にワイトにしがみ付き、快感に堪えているようだった。
「あんっ…あんっ…あっ…んっ…」
　腰の速度はだんだんと速く、そして締め付けがキツくなって来た。
「…もうッ…イっちゃうッ…！」

「俺も…もう…」

　ワイトとシーナがほぼ同時に果て、ぐったりとシーナは仰向けに倒れたワイトの上に倒れ込んだ。
「…はぁ…はぁ…はぁ…」
　シーナは息も荒く、まだ入れたままワイトを抱きしめた。
「ワイト…大好き…」

「俺もだよ、シーナ」
　そう言ってワイトはその肉棒を抜いた。



「ワイトがここに来てから、もう五年も経つんだね〜」

「そうだな…思ってみれば早いな…」
　二人はベッドに裸のままベッドに入り寄り添って寝ころんでいる。
「…うん…
　ちゃんと…待ってる…から………ここで……」
　シーナはそう言いながらワイトの胸に顔をうずめ、腕に抱かれて眠りに就いた。
「…俺も、ちゃんと戻ってくるから…」




　翌日、ベリオンとワイトはシーナに見送られて出発した。シーナは笑顔で門出を見送り、手を振った。ワイトも手を振り返した。
「ところで、あんな所に彼女を置いていていいのか？」

「ああ、リザードマンの集落が近くにあるんだ。彼女にはそこにいて貰うことにしたよ」

「そうか…よかった」

　二人は辿るルートを確認し、その目的を一団との合流ではなく目的地への到着とした。
　ここから約一週間、目指すは魔人の騎士団の新拠点『マウントーラ』。


　アルテミス侵攻作戦まで　あと４０日―

■作者メッセージ
ここで登場させました、僕の初連載の主人公ワイト＝クロウズ。

知らない人はそれをかる〜く読んでみてください。

僕はこの作品とその初連載作をすこしリンクさせようと思っていたんです。
で、今回エロ描写を入れました。やっと入ったよ、エロ描写。

次はいつはいる事やら...汗