前編
腹が減った。満足に飢えを満たすことが出来ない日々が続いている。
俺達は国から命を受けて開拓者としてこの土地の開墾をしている。
命を受けたと言っても、俺達はもう国の人間ではない。
俺たちの住んでいた国は、肥沃な大地を持つ他の地域に比べ土地が枯れており、毎年民の食料の確保さえままならないような状況であった。
加えて近年の日照り続きから飢饉が起きる寸前であり、民の不満も溜まる一方であった。
そこで国は、そのような状況を打開すべくある方策を打ち出した。
食料と金銭、道具や肥料、種籾等を渡す代わりに国を出て、首都から離れた荒れ果てた土地を開墾する。
開拓者としての命を受けた者達は荒野を耕し治水をし、村を作る。
そうして出来た村は開拓者達が自治権を有し租税を納める必要もなく、ただ国と食料の取引に応じてくれれば良い、という条件であった。
要は体のいい口減しだ。少量の食料と『手切れ金』を渡して、土台無理な村作り畑作りが成功すれば良し、失敗しても棄民として切り捨てれば良いだけだ。
だが俺は目の前にぶら下げられた当座の腹を満たせる食料に欲が眩んだこと、そして何より、このまま慢性的に飢えながら暮らすよりも、人生一発逆転の賭けに出る方が良いと考えた。
悪友共も同じ考えだった。俺達はそれに飛びつき、そして賭けに負けた。
大任を託されたと国のため、人々のために真っ先に志願した開拓者達のリーダーと、農耕や灌漑の有識者である研究者達の指示に従い耕せども耕せども、この土地は土壌が死んでいた。
治水をしようにも周囲にまともな水源はなく、山の木々は枯れ果てていて湿原は汚染されており毒の沼地のような状態と化していた。
最初に国から貰った食料はとうに食い尽くしており、何とか数少ない野生動物を狩って生活をしていたが、それでも最早この人数の飢えを凌ぐのは不可能だ。
後はもう、育てる筈の作物や種籾を食べるしかないが、それを行った時点で俺たちの開墾計画は終わりを迎える。
「どうする…このままでは飢え死にするだけだ…」
「こんな土地で村や畑を作るなんて無理だったんだよ」
「国に戻ろうぜ、そうすれば元の生活には…」
「馬鹿野郎、何のための口減らしだよ。兵士に追い返されるに決まってる」
「どこかに行こうにも、受け入れてくれる場所に辿り着くまで生きてられるわけないな」
「もう野盗や山賊でもやるしかねーだろ」
「あーせめて死ぬ前に女くらい抱きてぇよ〜」
「アホかお前、こんな状況で出る言葉がそれかよ」
男達は口々に悲観的な言葉を口にしていた。空腹から来る諦観と、絶望。
それでも一部の者はどこかあっけからんとして笑っているのは、恐らく元から肉体労働に勤しんでいた分、頭よりも心でモノを考える者達であったから。分の悪すぎる賭けだと知って命を張る様な連中だったからだろう。
不思議と、自分達を棄民同然に捨てた国に対して恨み等は抱いていなかった。
貴族や上流階級が私服を肥やしていようものなら腹も立つが、そういう連中までもがこれまでギリギリの生活をしてきたのだ。
「あー腹減ったぁ〜……ん?」
ある男がうわ言の様に空腹を口にし呆けた顔で空を見上げていると、突然空を見上げたまま、怪訝そうな顔で目を細めた。
「なあ、あれ……何だ?」
「何だありゃあ……鳥の群れか?」
遠くの空で、黒い何かが蠢いている。それは、遥か遠くに居るにも関わらず肉眼で目視できるほどに、あまりに巨大な怪物の様に見えた。
「鳥にしちゃデカ過ぎんだろ…ありゃ魔物か?」
「へっこんな枯れた土地にゃ魔物すら寄りつきも住みつきもしなかったけどな」
「生で拝んだ事はねぇが…何でも魔物ってのは今は、やたら色っぽい姉ちゃんみてえな姿なんだろ?」
「ありゃどう見てもそんなんじゃねぇだろ、化け物だ化け物」
「じゃあその話が嘘なんだろ。魔物が来たんだよ、本物の魔物が」
蠢いている巨大な怪物が段々と近づいてくるにつれて、その姿が少しずつ鮮明になっていく。
巨大な一塊の怪物に見えたそれは、一糸乱れぬ統率の取れた動きで飛行している無数の魔物の群れであった。
虫の様なシルエットをしており、塊として見えていた時に比べれば小さく感じてしまうものの、彼方と此方の距離からして明らかに単なる虫程度の大きさではない。
「はーっこちとら餓死するか否かって時に、泣きっ面に蜂かよ」
「いや…ありゃ蜂ってより、どっちかっつーと……」
目を凝らして、遠くの物体を見やる。多数の蠢くそれは、昆虫の様な羽と尾を備えた……
━━━━━━蝗だな
棄てられる者あれば、飢える者あり
空を覆う無数の巨大な蝗の群れ。嫌でも終末を思い起こさせる恐ろしい光景であったが、男達は以外な程に冷静だった。
恐らくそれは、目の前に広がる非現実的な光景がもたらす恐怖よりも、それ以前に渇き、飢えといった現実的な死の恐怖が付き纏っており、身近なものになっていた故であろう。
空の一角を埋めるのみであった大群はいつの間にかこちらの真上上空にまで到達しており、空に所狭しと並ぶ程の数である事が、ぶんぶんと五月蝿いくらいに鳴り響く羽音の存在感で嫌というほど強調されている。
哨戒するような素振りでこちらの真上をくるくると飛び回った後、その中で最も大きいシルエットの一匹が地上に降り立つと、その他の虫達も次々と飛来した。
「えーと……あー、とりあえず……こんにちは」
「こんにちは。」
遠目には単なる巨大な虫の様にしか見えないシルエットであったが、近くに降り立ったそれを見ると、昆虫のような羽や尻尾が生え、その他外殻のような部分があり多節の腕が四本生えているものの、その顔や体付きは人間の少女の様であった。
見た目の嫌悪感や恐怖感は大方解消されたため、一先ずコミュニケーションを計ろうとする。こちらが挨拶を投げかけたところ、群れの中の一人がそれを返した。
声は見た目の通り少女のもので、高く透き通る声は幼さを感じさせるものであったが、同時に無表情な顔と起伏と抑揚の乏しい語り口からは、大人びた印象も感じさせる。
「それで…あんた達は一体何者で、何の用でここに?」
「我々はアバドン。クイーンの命でここに降り立った」
「アバドン…ですか?」
村の宣教師となり教会を作るべく、布教のため開拓者達と行動を共にしている主神教徒の神父が口を開く。
曰く、アバドンとは既に古代に絶滅したと言い伝えられている魔物であり、膨大な数と無尽蔵の食欲で人を、世界を喰らい尽くす直前まで迫った巨大な蝗の怪物とされている。
「……そうなの?」
「そうなの…?って、お前らの事だろ。何で俺たちに聞くんだよ」
宣教師の説明にキョトンとしたような顔で小首を傾げるアバドン。その仕草と少女の姿が合わさり、先程までの説明と同じ生物であるとは微塵も思えない様子だった。
「わからない……我々は、ただクイーンの命に従っているだけ」
「従っているって……だから、そもそもお前達は何しにここに来たんだよ」
「大きな目的、至上命題についてクイーンは、『過去の清算』『運命に抗う』『贖罪』って言った」
「贖罪、ですか?何故魔物がそのような事を…」
「わからない……生まれたばかりの我々は、クイーンの言う過去を、知らないから」
「でもここに来た理由は多分、貴方達と同じ」
群れの少女達が口々に言葉を紡いでいく。それぞれ声は十人十色で違っていたが、抑揚のない語り口調は共通している。
「同じ…?何を言ってんだ、そんなわけ」
「お腹が空いたから」
その一言で、先程までのどこか弛緩した場の雰囲気が凍り、一同に緊張感が走る。
お腹が空いた、と彼女は言った。即ちそれは神父の語ったアバドンと、姿形こそ違うが同じ存在であるならば、こいつらは人も物も関係無しに全てを喰らい尽くして止まないということ。
彼女達は人外の能力を持つ魔物であり、武装もしている。こちらは全員丸腰であり、まともな武器も無ければ魔物と戦える力を持つ勇者どころか、殴り合いの喧嘩程度はした事あれどそもそも戦う訓練を身に付けている兵士すらもいない。
数ですら有利どころか同程度であるというのにこの戦力差では勝負にもならず、一瞬で殺されて全員捕食されるのがオチだろう。
(こいつらが贖罪、つまり罪滅ぼしなんて殊勝な考えを持ってるっていうんなら……)
「なあ、アンタら言葉が通じるって事は…話の分かる奴らだと見込んで提案があるんだが…ああ、俺の名はブロウ、取り急ぎな」
「……?なに…?」
先程からコミュニケーションを試みていた男が、アバドン達の群れの前に一歩踏み出す。男の名はブロウ。
短く刈りそろえた髪からは、ワイルドな印象と同時に、顔付きからかどこかスマートな印象も受ける。
「見ての通りこの荒れ果てた土地には食いもんもなけりゃ飲みもんもない、だから俺達が命乞いしようにも代わりに渡せる物なんて何も無いんだよ」
「だから、こうしよう。俺たち、ここにいる…まあ俺と同じようなアホ面下げたこの野郎どもの事だ」
「ハハハ!テメェと一緒にすんじゃねぇよバカヤロウ!」
「俺やこいつらはどうせ何にも出来ねぇ穀潰しだ、後は遅かれ早かれ飢え死ぬのを待つだけって訳だ」
「だからせめて、お前らの腹の足しになるように食われてやる。じわじわと飢えや渇きで死ぬよりは、そっちの方がまだマシに死ねそうだからな」
「ああでも、生きたままバリバリと食うのはよしてくれ。ちゃんと一思いに殺してから新鮮なうちに召し上がれって話だ」
「だが、後ろにいる連中はダメだ。俺たちと違ってあいつらにゃこれからも大事な仕事がある。国民を飢えさせないよう、これからも開拓者達の頭として働く必要があんだよ」
「み、皆さん…」
開墾が失敗すると確信するや否や、あっさりと諦めて生き残る為に野盗や山賊に身をやつそうとする俺達と違って、支給される目先の食い物に食いついて釣られた俺達と違って、リーダー、研究者、神父達は本当に国のため民のために尽力しようとしてきた。
俺達のようなバカ相手にも誠実に接してくれたし、皆の力になりたいと熱く語るその情熱に、柄にもなく心を打たれた。
だからこそ、あの人達はここで死なす訳にはいかん。
穀潰しの俺達は国に帰ろうとしても追い返されるのがオチだが、有能なアンタ達が戻るなら国も悪い扱いはしないだろう。
「後ろの連中を見逃してくれるなら、俺達は抵抗しない。あいつらが安全に逃げ延びたのを確認したら、後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「お前らだっていくら簡単に殺せる相手とはいえ、無駄な抵抗されて痛い思いはしたくないだろ、な?」
男達の思いは同じだった。話を終えるとブロウは融和を図る様に、そしてリーダー達を魔物から守るように両手を広げ、他の男達も前に躍り出る。
荒くれ共はこれから一戦交えるぞと言わんばかりに首をゴキゴキと鳴らし、指をポキポキと鳴らす。
「…………わからない」
話の内容に困惑する様に、アバドンはぼそっと呟いた。
(!?やっぱり話の通じる相手じゃねぇか……!)
考えてみれば簡単な話であった。食欲の権化であり、虜であり、それのみが行動原理の存在にとって、何故我々がわざわざ食える量を減らす様な提案を受け入れなければいけないのか。恐らくそう思っているのだと彼らは感じ取った。
ブロウは後ろのリーダー達、そして野郎共と目配せをしながら、身構える。
こちらから先制して掴み掛かり、目玉を食いちぎったりすれば少しは時間を稼げるか、などと思案する。
……こいつらの飛行能力の高さと速さから無駄な抵抗にしかならないかもしれない。そもそも提案が通ったとしても俺達が食い殺された後に、国が落ちリーダー達が死ぬのも時間の問題かもしれない。
それでも、俺達よりもせめて、一分一秒でも長く生きて、0.1%でも生き残る確率が上がるなら、それに縋ってほしい。ブロウはそう願っていた。
(やるしかねぇ……ッ!)
「どうして我々が貴方達を殺さなければならないの?」
「……えっ?」
「そんな事ありえない。絶対にしない」
心底理解できないという風に、彼女達は相変わらず抑揚のついていない喋り方の中でも、少し動揺が見て取れる声の上ずり方をしていた。
今にも掴み掛からんとしていた男達は、強張っていた身体の力が抜け、緊張の緩和によりどっと汗が滲み出る。
「どうしても何も…お前らは食事をしに来たんだろ?」
「そう。我々はお腹が空いている、ずっとずっと。今も。」
「お、おう。そうか……それで、何でこっちに近づいて来てんだ…?」
アバドン達と交渉していたブロウの前にずいっと、主な受け答えをしていたアバドンの少女が眼前まで迫る。
群れのリーダー格であろうアバドンよりも一回り程小さい背丈で、相変わらずの無表情のまま上目遣いでこちらを見上げる形で対面する。
むっちりとした太ももと大きいお尻、熟れた肢体を存分に際立たせた下半身とあどけなさを感じさせる顔付きがアンバランスな魅力を引き立て、男の劣情と本能を否が応にも掻き立てる。
そんな姿の少女が間近に迫って来てブロウは動揺と、こんな状況であるにも関わらず欲情を隠せずにいた。
「我々が食べるのは、貴方達の精」
「せい…?なんだそ…!?」
「はぁむ♡……んちゅ♡んれぇお……くちゅ♡」
「ム!?ふっ……くぅ……んんッ!♡……や、やめろって!」
「んぅ…ぷはあっ♡……?」
突如として交わされた熱い抱擁と口づけ。舌を絡める情熱的な、突然の行為にもたらされた快感に驚愕し為すがままのブロウであったが、暫し時間が経った後に我を取り戻し、がばっと引き剥がす様に少女を押し除ける。
先程まで淫蕩な行為をしていたとは微塵も思わせないような、あどけない表情でまた小首を傾げた。
四つの多腕で優しく、しかし力強く抱きしめいた彼女を引き剥がせることが出来たのは、力で優ったのではなく恐らく剥がそうとする意思表示に少女が疑問を感じた故であろう。
「きゅ、急にっこんな時に何してんだよ!」
「食事を摂る、まずは我々から。貴方達にとっても少しは活力になる筈」
「活力って…腹が減って仕方がないって時に無駄に体力使った…ら……あれ?」
空腹感こそ収まっていないが、口づけを交わした後、満足な栄養が取れずに感じていた気だるさや、焦燥感といったものが確かに少し薄れていた。
「我々の食事で一先ず、我々と貴方達の魔力、生命力を補充する。貴方達の食事はその後我々が採ってくる。これが一番効率的で合理的」
その一言に端を発したかのように、その他大勢のアバドンが一斉に男達に襲いかかる。
襲いかかるという言葉の響きとは裏腹に、皆ゆっくりと男達に向かい、じっとお互いに見つめ合った後に、ブロウに行ったのと同様に濃厚なキスをし合った。
個というものが希薄なように感じられる態度の彼女達からすると意外なほどに、ただ誰でもいいという風に機械的に近い男に向かうような事はしなかった。
仲間同士で何かしらのコミュニケーションを取りながら頬を赤らめ、中々男に向かわないような者もいれば、初めから決めていた、狙っていたと言わんばかりにすぐさま特定の男に向かっていった者もいる。
男の前に辿り着いてからも、表情は崩さぬものの、もじもじと勇気が出ぬかのように四つの腕で髪を弄り、頬に手を当て、不安げに指を組みながら上目遣いで男の顔を見つめるだけの者もいれば、逆に積極的に男の手を取り何回か会話を交わした後直ぐに濃厚なキスをし合う者もいた。
その様子は、獲物を捕食するというよりもどこか、少女達が意中の異性との逢瀬にドギマギと緊張し、そして楽しんでいるように見えた。
群れの長であろう、最も大きい体躯を持つアバドンは、全てのアバドンが男と抱き合えたその様子を満足気に眺めた後、のっそりとした動きで最後に一人残った、開拓者達のリーダーの元へと向かった。
「あ、あのぉ……これは……うわっ!ぷ」
「捕まえた……♡ぎゅー♡」
荒くれ者の開拓者達に比べればやや背丈に劣るとはいえ、リーダーの身長や体格は平均的な成人男性のそれに劣っていない。
にも関わらず巨大な体躯を誇るアバドンの長は、リーダーの男よりも頭一つ分ほど高い身長で、その体格ですっぽりと男を包み込むように抱きしめた。
アバドンの長の声は、感情の起伏に乏しい様に感じられる他のアバドン達とはやや異なり、物静かな雰囲気とゆったりとした語り口調はそのままに声色はとろけるようで、甘えるような、かつ甘やかしているかのような声であった。
「や、やわらかぁ…♡って、違う!な、何するんですか!?やめっ…あっ♡」
「ふふ……♡大丈夫……♡私に任せて……♡はぁむ♡じゅるっ♡れろぉ……♡んぶぅ♡」
豊満な胸に顔を埋めさせられ、思わず惚けた顔を晒してしまったリーダーの男。
残った理性で何とか行為の意味を問いただそうとするものの、そのまま大きな尾で身体を支え膝立ちに近い姿勢となったアバドンの大きな胸の感触を全身に感じたまま優しく、甘い濃厚なキスをされ、蕩けるような快感を浴びて再度、何も言えなくなってしまった。
ブロウと少女は一足先に行為をしていた事もあり、既に何回も口づけを交わしていた。
最初は抵抗する素振りを見せていたが、開拓者としてこちらに来る前に女衒で女と一夜を共にしたきり、ご無沙汰していた彼にとっては、もたらされる甘い快感と少しずつ回復する活力、ムラムラと湧き上がる性欲から既に抵抗する意思を失っていた。
「あむっ♡へろぉ♡くちゅ……んっ♡……勃起を確認した」
二つの腕で男を抱きしめたまま、もう二つの腕でカチャカチャと男のズボンを弄り、勃起した陰茎を露わにする。
「う…ああっ……♡こ、今度は何を……うっ♡」
「今は急を要するから、快感よりも精を得る事を優先する。あまり気持ちがよくなくても、許して…えおえおえお♡はむっ♡じゅっ♡じゅるっ♡」
ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡
ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡
「むーっ♡むー!♡ふっ……♡むぅ♡」
舌と舌を絡ませたまま、腕を体に絡ませたまま、少女が男の肉棒を手で優しく扱き上げる。
快感に喘ぐ男の声が口腔の中で響き、お互いの歯と舌に甘い振動が伝わる。
機械のように正確に一定のリズムを刻みながら、上下に手を這わせ、急を要するという言葉の通りどこか事務的な作業を思わせる行為であるが、無理矢理搾精する様に力任せにするのではなく、デリケートな陰茎を傷つける事なく、痛みを感じさせる事のない様に丁寧に扱っている。
「んっ……ぢゅっ♡……我慢しないで、出して」
ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡
ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡
「あっ…あぁ…っ♡出るっ…ううっ♡」
ぼびゅっ♡びゅるっ♡びゅっ♡びゅっ♡……ちゅっ♡ちゅる♡
「はあっ♡はあっ……♡貴方の精……いただきます……はむっ♡じゅるっ♡くちゅ♡れろぉ♡じゅっ♡じゅっ♡…………んんぅ……♡ふぅ……ッ♡……ごくっ♡」
速度を増した手淫の快感により、我慢の限界に呆気なく達した陰茎の先から勢いよく少女の手へと精液が放たれる。
それらを全て、一滴も溢す事なく手で受け止めて、陰茎に手を這わせて綺麗に絡めとる。
手の中の精液を、まるで自らの手ごと食べる様な勢いで口に含み、手を舐り、指を舐め回して精を食べ尽くす。
口の中の精液を軽く咀嚼し、味わい尽くすかのように舌で転がし、なんとも言えない幸せそうな顔で目を細め、頬を紅潮させ、歓喜と快感に震えるかのようにぶるっ、と顔を痙攣させる。
「甘ぁい……♡これが精の味……♡貴方の味……♡」
幸福の源をごくりと飲み干した後に、余韻に浸るかのように、口角こそ先程までと変わらないものの表情全体は蕩けたように幸せそうに緩まり、目の中にはハートが浮かんで見えるかのように、愛おしそうに男を見つめていた。
「うっ…♡くっ…♡はーっ…はーっ…何なんだ、これは…何なんだ…」
「♡……我々の食事は終わった。次は貴方達の食事を採ってくる、ここで待ってて」
ブロウは突然もたらされた快感の渦と、あまりにも特異なこの状況を消化できずにいた。
呆気に取られる男を尻目に、口腔の快楽の余韻に浸った後すぐさま人が変わったかのように、先程までの冷静かつ無表情、無感情に見える態度に戻り、ひとしきりアバドンの長からの指示を受けた後に、一斉に飛び去っていった。
「……何だったんだ、あいつらは」
立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、それは鳥だけでなく蝗の魔物である彼女達も同じであるらしい。
彼女達の姿が空に消え、羽音すらも聞こえなくなった今、彼女達がいた痕跡も、ここで行われた行為も何もかもが、まるで初めから無かったかのような状態となっている。
男達の中にはブロウのように立ったまま行為を終えた者も、足を投げ出し座ったまま行為に及んだ者も居たが、まるで先程までの景色からそのまま、彼女達のみを切り取って外したかの様に、同じ体勢で皆茫然としていた。
突然もたらされた下半身の快感以外には何も残っていない、まるで狐につままれて幻を見たかの様な一時。
男たちの体は射精の疲労感こそあるものの、何故か飢えて空元気しか無かったはずの身体には活力がある程度備わり、空腹感のみはなお残っているものの、健康そのものといった状態に戻っていた。
それが夢現ではなく、はっきりと現実である事を裏付けられるのは、アバドンの長である個体と開拓者達のリーダーが、群れが飛び去った今もなお目の前でまぐわい続けているからに他ならない。
「も、もう大丈夫だから…っ♡元気出たからっ♡放して……あぁッ♡」
「ふふ……♡だーめ……♡少し元気が出たからって直ぐに働こうとして…♡まずは我々に任せて♡今はただ、義務も嫌な事も全部忘れて、快感に浸ってて……♡」
ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡
ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡
アバドンの長は規格外とも言える下半身の大きさと、尻尾や羽の異形の部分の大きさから威圧感を感じ、一見でっぷりと肥え太っている様に見える。
だが骨太で安産型な骨格であるもののウエストは引き締まっており、片側だけで彼女の顔と同じ位の大きさで男の手でも持て余す豊満な乳房と、ウエストよりも太いむっちりした太もも、それに支えられた凄まじい肉付きの尻を持つ極端なグラマラス体型であった。
彼女は男を組み伏せ、豊満な胸を男の胸板ごと包み込むように乗せながら、肉棒の上にまたがりその重量を感じさせる巨大で、柔らかな尻を叩きつけるかのように降ろす。
自らの体重を全部乗せるかのように、力強く落とす腰から肉棒にもたらされる膣内の圧迫感とその肉感の柔らかさ、快感は想像を絶するものだろう。
「だ、駄目だって♡は、恥ずかしいっ、し…ッ!だ、誰か止めて…うああっ♡で、でも気持ちいい…♡や…やめないで…くああっ♡」
「ふふっ……♡良い子……♡素直が一番……♡んー…ちゅっ♡」
ぬちゃっ♡ぬちゃっ♡ぬちゃっ♡ぬちゃっ♡ぐぐ、ぐっ……♡
ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡
ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡
ぼびゅるっ♡ぼびゅっ♡ぼびゅ♡びゅるっ♡びゅーっ♡びゅっ♡びゅっ…♡
腰使いを変化させ、肉棒を深く咥えたまま円を描くようなストロークで腰を動かし、柔らかな肉で包み込んだまま緩やかな快感を与える。
膣圧をかけたままゆっくりと陰茎を引き上げ、嵐の前の静けさかの様に一度腰を止め動きを止める。
その後先程よりも早いペースで腰を打ちつけ、でっぷりとした尻肉で飲み込むかの様に陰茎を容赦なく刺激する。
肉棒をぎゅっと凄まじい力で締め付けるかの様な圧力と、それに反してどこまでもどこまでも柔らかく優しく包み込む柔肉の感触がもたらす矛盾に、男はなす術もなく大量の精液を吐き出した。
男達は目の前のその光景を、なるべく見ない様に、聞かない様にしていた。
こんなところでやるなよと言おうにも、ここには資材も何もなかったので、雨風をしのげるだけの簡易なテントくらいしか無い場所だ。
このような激しい行為に及んではテントの中だろうと外だろうと変わらないだろう。
先程までは命に変えても守る!と気迫のある凄まじい剣幕で誓っていたが、こうなってしまっては止めるのも野暮だし、なんだかんだとてつもなく幸せそうなので、なすがままにするしか無いだろう。
気まずさからか、行くあてもないのにそそくさと、とりあえずその場から離れる一同。
その後聞いた話によると、行為が終わった後もアバドンの長は、開拓者達のリーダーを胸の中で抱き寄せて、頭を撫でたりキスをしたりして、終始甘やかし続けていたという。
俺達は国から命を受けて開拓者としてこの土地の開墾をしている。
命を受けたと言っても、俺達はもう国の人間ではない。
俺たちの住んでいた国は、肥沃な大地を持つ他の地域に比べ土地が枯れており、毎年民の食料の確保さえままならないような状況であった。
加えて近年の日照り続きから飢饉が起きる寸前であり、民の不満も溜まる一方であった。
そこで国は、そのような状況を打開すべくある方策を打ち出した。
食料と金銭、道具や肥料、種籾等を渡す代わりに国を出て、首都から離れた荒れ果てた土地を開墾する。
開拓者としての命を受けた者達は荒野を耕し治水をし、村を作る。
そうして出来た村は開拓者達が自治権を有し租税を納める必要もなく、ただ国と食料の取引に応じてくれれば良い、という条件であった。
要は体のいい口減しだ。少量の食料と『手切れ金』を渡して、土台無理な村作り畑作りが成功すれば良し、失敗しても棄民として切り捨てれば良いだけだ。
だが俺は目の前にぶら下げられた当座の腹を満たせる食料に欲が眩んだこと、そして何より、このまま慢性的に飢えながら暮らすよりも、人生一発逆転の賭けに出る方が良いと考えた。
悪友共も同じ考えだった。俺達はそれに飛びつき、そして賭けに負けた。
大任を託されたと国のため、人々のために真っ先に志願した開拓者達のリーダーと、農耕や灌漑の有識者である研究者達の指示に従い耕せども耕せども、この土地は土壌が死んでいた。
治水をしようにも周囲にまともな水源はなく、山の木々は枯れ果てていて湿原は汚染されており毒の沼地のような状態と化していた。
最初に国から貰った食料はとうに食い尽くしており、何とか数少ない野生動物を狩って生活をしていたが、それでも最早この人数の飢えを凌ぐのは不可能だ。
後はもう、育てる筈の作物や種籾を食べるしかないが、それを行った時点で俺たちの開墾計画は終わりを迎える。
「どうする…このままでは飢え死にするだけだ…」
「こんな土地で村や畑を作るなんて無理だったんだよ」
「国に戻ろうぜ、そうすれば元の生活には…」
「馬鹿野郎、何のための口減らしだよ。兵士に追い返されるに決まってる」
「どこかに行こうにも、受け入れてくれる場所に辿り着くまで生きてられるわけないな」
「もう野盗や山賊でもやるしかねーだろ」
「あーせめて死ぬ前に女くらい抱きてぇよ〜」
「アホかお前、こんな状況で出る言葉がそれかよ」
男達は口々に悲観的な言葉を口にしていた。空腹から来る諦観と、絶望。
それでも一部の者はどこかあっけからんとして笑っているのは、恐らく元から肉体労働に勤しんでいた分、頭よりも心でモノを考える者達であったから。分の悪すぎる賭けだと知って命を張る様な連中だったからだろう。
不思議と、自分達を棄民同然に捨てた国に対して恨み等は抱いていなかった。
貴族や上流階級が私服を肥やしていようものなら腹も立つが、そういう連中までもがこれまでギリギリの生活をしてきたのだ。
「あー腹減ったぁ〜……ん?」
ある男がうわ言の様に空腹を口にし呆けた顔で空を見上げていると、突然空を見上げたまま、怪訝そうな顔で目を細めた。
「なあ、あれ……何だ?」
「何だありゃあ……鳥の群れか?」
遠くの空で、黒い何かが蠢いている。それは、遥か遠くに居るにも関わらず肉眼で目視できるほどに、あまりに巨大な怪物の様に見えた。
「鳥にしちゃデカ過ぎんだろ…ありゃ魔物か?」
「へっこんな枯れた土地にゃ魔物すら寄りつきも住みつきもしなかったけどな」
「生で拝んだ事はねぇが…何でも魔物ってのは今は、やたら色っぽい姉ちゃんみてえな姿なんだろ?」
「ありゃどう見てもそんなんじゃねぇだろ、化け物だ化け物」
「じゃあその話が嘘なんだろ。魔物が来たんだよ、本物の魔物が」
蠢いている巨大な怪物が段々と近づいてくるにつれて、その姿が少しずつ鮮明になっていく。
巨大な一塊の怪物に見えたそれは、一糸乱れぬ統率の取れた動きで飛行している無数の魔物の群れであった。
虫の様なシルエットをしており、塊として見えていた時に比べれば小さく感じてしまうものの、彼方と此方の距離からして明らかに単なる虫程度の大きさではない。
「はーっこちとら餓死するか否かって時に、泣きっ面に蜂かよ」
「いや…ありゃ蜂ってより、どっちかっつーと……」
目を凝らして、遠くの物体を見やる。多数の蠢くそれは、昆虫の様な羽と尾を備えた……
━━━━━━蝗だな
棄てられる者あれば、飢える者あり
空を覆う無数の巨大な蝗の群れ。嫌でも終末を思い起こさせる恐ろしい光景であったが、男達は以外な程に冷静だった。
恐らくそれは、目の前に広がる非現実的な光景がもたらす恐怖よりも、それ以前に渇き、飢えといった現実的な死の恐怖が付き纏っており、身近なものになっていた故であろう。
空の一角を埋めるのみであった大群はいつの間にかこちらの真上上空にまで到達しており、空に所狭しと並ぶ程の数である事が、ぶんぶんと五月蝿いくらいに鳴り響く羽音の存在感で嫌というほど強調されている。
哨戒するような素振りでこちらの真上をくるくると飛び回った後、その中で最も大きいシルエットの一匹が地上に降り立つと、その他の虫達も次々と飛来した。
「えーと……あー、とりあえず……こんにちは」
「こんにちは。」
遠目には単なる巨大な虫の様にしか見えないシルエットであったが、近くに降り立ったそれを見ると、昆虫のような羽や尻尾が生え、その他外殻のような部分があり多節の腕が四本生えているものの、その顔や体付きは人間の少女の様であった。
見た目の嫌悪感や恐怖感は大方解消されたため、一先ずコミュニケーションを計ろうとする。こちらが挨拶を投げかけたところ、群れの中の一人がそれを返した。
声は見た目の通り少女のもので、高く透き通る声は幼さを感じさせるものであったが、同時に無表情な顔と起伏と抑揚の乏しい語り口からは、大人びた印象も感じさせる。
「それで…あんた達は一体何者で、何の用でここに?」
「我々はアバドン。クイーンの命でここに降り立った」
「アバドン…ですか?」
村の宣教師となり教会を作るべく、布教のため開拓者達と行動を共にしている主神教徒の神父が口を開く。
曰く、アバドンとは既に古代に絶滅したと言い伝えられている魔物であり、膨大な数と無尽蔵の食欲で人を、世界を喰らい尽くす直前まで迫った巨大な蝗の怪物とされている。
「……そうなの?」
「そうなの…?って、お前らの事だろ。何で俺たちに聞くんだよ」
宣教師の説明にキョトンとしたような顔で小首を傾げるアバドン。その仕草と少女の姿が合わさり、先程までの説明と同じ生物であるとは微塵も思えない様子だった。
「わからない……我々は、ただクイーンの命に従っているだけ」
「従っているって……だから、そもそもお前達は何しにここに来たんだよ」
「大きな目的、至上命題についてクイーンは、『過去の清算』『運命に抗う』『贖罪』って言った」
「贖罪、ですか?何故魔物がそのような事を…」
「わからない……生まれたばかりの我々は、クイーンの言う過去を、知らないから」
「でもここに来た理由は多分、貴方達と同じ」
群れの少女達が口々に言葉を紡いでいく。それぞれ声は十人十色で違っていたが、抑揚のない語り口調は共通している。
「同じ…?何を言ってんだ、そんなわけ」
「お腹が空いたから」
その一言で、先程までのどこか弛緩した場の雰囲気が凍り、一同に緊張感が走る。
お腹が空いた、と彼女は言った。即ちそれは神父の語ったアバドンと、姿形こそ違うが同じ存在であるならば、こいつらは人も物も関係無しに全てを喰らい尽くして止まないということ。
彼女達は人外の能力を持つ魔物であり、武装もしている。こちらは全員丸腰であり、まともな武器も無ければ魔物と戦える力を持つ勇者どころか、殴り合いの喧嘩程度はした事あれどそもそも戦う訓練を身に付けている兵士すらもいない。
数ですら有利どころか同程度であるというのにこの戦力差では勝負にもならず、一瞬で殺されて全員捕食されるのがオチだろう。
(こいつらが贖罪、つまり罪滅ぼしなんて殊勝な考えを持ってるっていうんなら……)
「なあ、アンタら言葉が通じるって事は…話の分かる奴らだと見込んで提案があるんだが…ああ、俺の名はブロウ、取り急ぎな」
「……?なに…?」
先程からコミュニケーションを試みていた男が、アバドン達の群れの前に一歩踏み出す。男の名はブロウ。
短く刈りそろえた髪からは、ワイルドな印象と同時に、顔付きからかどこかスマートな印象も受ける。
「見ての通りこの荒れ果てた土地には食いもんもなけりゃ飲みもんもない、だから俺達が命乞いしようにも代わりに渡せる物なんて何も無いんだよ」
「だから、こうしよう。俺たち、ここにいる…まあ俺と同じようなアホ面下げたこの野郎どもの事だ」
「ハハハ!テメェと一緒にすんじゃねぇよバカヤロウ!」
「俺やこいつらはどうせ何にも出来ねぇ穀潰しだ、後は遅かれ早かれ飢え死ぬのを待つだけって訳だ」
「だからせめて、お前らの腹の足しになるように食われてやる。じわじわと飢えや渇きで死ぬよりは、そっちの方がまだマシに死ねそうだからな」
「ああでも、生きたままバリバリと食うのはよしてくれ。ちゃんと一思いに殺してから新鮮なうちに召し上がれって話だ」
「だが、後ろにいる連中はダメだ。俺たちと違ってあいつらにゃこれからも大事な仕事がある。国民を飢えさせないよう、これからも開拓者達の頭として働く必要があんだよ」
「み、皆さん…」
開墾が失敗すると確信するや否や、あっさりと諦めて生き残る為に野盗や山賊に身をやつそうとする俺達と違って、支給される目先の食い物に食いついて釣られた俺達と違って、リーダー、研究者、神父達は本当に国のため民のために尽力しようとしてきた。
俺達のようなバカ相手にも誠実に接してくれたし、皆の力になりたいと熱く語るその情熱に、柄にもなく心を打たれた。
だからこそ、あの人達はここで死なす訳にはいかん。
穀潰しの俺達は国に帰ろうとしても追い返されるのがオチだが、有能なアンタ達が戻るなら国も悪い扱いはしないだろう。
「後ろの連中を見逃してくれるなら、俺達は抵抗しない。あいつらが安全に逃げ延びたのを確認したら、後は煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「お前らだっていくら簡単に殺せる相手とはいえ、無駄な抵抗されて痛い思いはしたくないだろ、な?」
男達の思いは同じだった。話を終えるとブロウは融和を図る様に、そしてリーダー達を魔物から守るように両手を広げ、他の男達も前に躍り出る。
荒くれ共はこれから一戦交えるぞと言わんばかりに首をゴキゴキと鳴らし、指をポキポキと鳴らす。
「…………わからない」
話の内容に困惑する様に、アバドンはぼそっと呟いた。
(!?やっぱり話の通じる相手じゃねぇか……!)
考えてみれば簡単な話であった。食欲の権化であり、虜であり、それのみが行動原理の存在にとって、何故我々がわざわざ食える量を減らす様な提案を受け入れなければいけないのか。恐らくそう思っているのだと彼らは感じ取った。
ブロウは後ろのリーダー達、そして野郎共と目配せをしながら、身構える。
こちらから先制して掴み掛かり、目玉を食いちぎったりすれば少しは時間を稼げるか、などと思案する。
……こいつらの飛行能力の高さと速さから無駄な抵抗にしかならないかもしれない。そもそも提案が通ったとしても俺達が食い殺された後に、国が落ちリーダー達が死ぬのも時間の問題かもしれない。
それでも、俺達よりもせめて、一分一秒でも長く生きて、0.1%でも生き残る確率が上がるなら、それに縋ってほしい。ブロウはそう願っていた。
(やるしかねぇ……ッ!)
「どうして我々が貴方達を殺さなければならないの?」
「……えっ?」
「そんな事ありえない。絶対にしない」
心底理解できないという風に、彼女達は相変わらず抑揚のついていない喋り方の中でも、少し動揺が見て取れる声の上ずり方をしていた。
今にも掴み掛からんとしていた男達は、強張っていた身体の力が抜け、緊張の緩和によりどっと汗が滲み出る。
「どうしても何も…お前らは食事をしに来たんだろ?」
「そう。我々はお腹が空いている、ずっとずっと。今も。」
「お、おう。そうか……それで、何でこっちに近づいて来てんだ…?」
アバドン達と交渉していたブロウの前にずいっと、主な受け答えをしていたアバドンの少女が眼前まで迫る。
群れのリーダー格であろうアバドンよりも一回り程小さい背丈で、相変わらずの無表情のまま上目遣いでこちらを見上げる形で対面する。
むっちりとした太ももと大きいお尻、熟れた肢体を存分に際立たせた下半身とあどけなさを感じさせる顔付きがアンバランスな魅力を引き立て、男の劣情と本能を否が応にも掻き立てる。
そんな姿の少女が間近に迫って来てブロウは動揺と、こんな状況であるにも関わらず欲情を隠せずにいた。
「我々が食べるのは、貴方達の精」
「せい…?なんだそ…!?」
「はぁむ♡……んちゅ♡んれぇお……くちゅ♡」
「ム!?ふっ……くぅ……んんッ!♡……や、やめろって!」
「んぅ…ぷはあっ♡……?」
突如として交わされた熱い抱擁と口づけ。舌を絡める情熱的な、突然の行為にもたらされた快感に驚愕し為すがままのブロウであったが、暫し時間が経った後に我を取り戻し、がばっと引き剥がす様に少女を押し除ける。
先程まで淫蕩な行為をしていたとは微塵も思わせないような、あどけない表情でまた小首を傾げた。
四つの多腕で優しく、しかし力強く抱きしめいた彼女を引き剥がせることが出来たのは、力で優ったのではなく恐らく剥がそうとする意思表示に少女が疑問を感じた故であろう。
「きゅ、急にっこんな時に何してんだよ!」
「食事を摂る、まずは我々から。貴方達にとっても少しは活力になる筈」
「活力って…腹が減って仕方がないって時に無駄に体力使った…ら……あれ?」
空腹感こそ収まっていないが、口づけを交わした後、満足な栄養が取れずに感じていた気だるさや、焦燥感といったものが確かに少し薄れていた。
「我々の食事で一先ず、我々と貴方達の魔力、生命力を補充する。貴方達の食事はその後我々が採ってくる。これが一番効率的で合理的」
その一言に端を発したかのように、その他大勢のアバドンが一斉に男達に襲いかかる。
襲いかかるという言葉の響きとは裏腹に、皆ゆっくりと男達に向かい、じっとお互いに見つめ合った後に、ブロウに行ったのと同様に濃厚なキスをし合った。
個というものが希薄なように感じられる態度の彼女達からすると意外なほどに、ただ誰でもいいという風に機械的に近い男に向かうような事はしなかった。
仲間同士で何かしらのコミュニケーションを取りながら頬を赤らめ、中々男に向かわないような者もいれば、初めから決めていた、狙っていたと言わんばかりにすぐさま特定の男に向かっていった者もいる。
男の前に辿り着いてからも、表情は崩さぬものの、もじもじと勇気が出ぬかのように四つの腕で髪を弄り、頬に手を当て、不安げに指を組みながら上目遣いで男の顔を見つめるだけの者もいれば、逆に積極的に男の手を取り何回か会話を交わした後直ぐに濃厚なキスをし合う者もいた。
その様子は、獲物を捕食するというよりもどこか、少女達が意中の異性との逢瀬にドギマギと緊張し、そして楽しんでいるように見えた。
群れの長であろう、最も大きい体躯を持つアバドンは、全てのアバドンが男と抱き合えたその様子を満足気に眺めた後、のっそりとした動きで最後に一人残った、開拓者達のリーダーの元へと向かった。
「あ、あのぉ……これは……うわっ!ぷ」
「捕まえた……♡ぎゅー♡」
荒くれ者の開拓者達に比べればやや背丈に劣るとはいえ、リーダーの身長や体格は平均的な成人男性のそれに劣っていない。
にも関わらず巨大な体躯を誇るアバドンの長は、リーダーの男よりも頭一つ分ほど高い身長で、その体格ですっぽりと男を包み込むように抱きしめた。
アバドンの長の声は、感情の起伏に乏しい様に感じられる他のアバドン達とはやや異なり、物静かな雰囲気とゆったりとした語り口調はそのままに声色はとろけるようで、甘えるような、かつ甘やかしているかのような声であった。
「や、やわらかぁ…♡って、違う!な、何するんですか!?やめっ…あっ♡」
「ふふ……♡大丈夫……♡私に任せて……♡はぁむ♡じゅるっ♡れろぉ……♡んぶぅ♡」
豊満な胸に顔を埋めさせられ、思わず惚けた顔を晒してしまったリーダーの男。
残った理性で何とか行為の意味を問いただそうとするものの、そのまま大きな尾で身体を支え膝立ちに近い姿勢となったアバドンの大きな胸の感触を全身に感じたまま優しく、甘い濃厚なキスをされ、蕩けるような快感を浴びて再度、何も言えなくなってしまった。
ブロウと少女は一足先に行為をしていた事もあり、既に何回も口づけを交わしていた。
最初は抵抗する素振りを見せていたが、開拓者としてこちらに来る前に女衒で女と一夜を共にしたきり、ご無沙汰していた彼にとっては、もたらされる甘い快感と少しずつ回復する活力、ムラムラと湧き上がる性欲から既に抵抗する意思を失っていた。
「あむっ♡へろぉ♡くちゅ……んっ♡……勃起を確認した」
二つの腕で男を抱きしめたまま、もう二つの腕でカチャカチャと男のズボンを弄り、勃起した陰茎を露わにする。
「う…ああっ……♡こ、今度は何を……うっ♡」
「今は急を要するから、快感よりも精を得る事を優先する。あまり気持ちがよくなくても、許して…えおえおえお♡はむっ♡じゅっ♡じゅるっ♡」
ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡
ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡ ちゅこっ♡ちゅこっ♡ちゅこっ♡
「むーっ♡むー!♡ふっ……♡むぅ♡」
舌と舌を絡ませたまま、腕を体に絡ませたまま、少女が男の肉棒を手で優しく扱き上げる。
快感に喘ぐ男の声が口腔の中で響き、お互いの歯と舌に甘い振動が伝わる。
機械のように正確に一定のリズムを刻みながら、上下に手を這わせ、急を要するという言葉の通りどこか事務的な作業を思わせる行為であるが、無理矢理搾精する様に力任せにするのではなく、デリケートな陰茎を傷つける事なく、痛みを感じさせる事のない様に丁寧に扱っている。
「んっ……ぢゅっ♡……我慢しないで、出して」
ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡
ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡ ちゅこ♡ちゅこ♡ちゅこ♡
「あっ…あぁ…っ♡出るっ…ううっ♡」
ぼびゅっ♡びゅるっ♡びゅっ♡びゅっ♡……ちゅっ♡ちゅる♡
「はあっ♡はあっ……♡貴方の精……いただきます……はむっ♡じゅるっ♡くちゅ♡れろぉ♡じゅっ♡じゅっ♡…………んんぅ……♡ふぅ……ッ♡……ごくっ♡」
速度を増した手淫の快感により、我慢の限界に呆気なく達した陰茎の先から勢いよく少女の手へと精液が放たれる。
それらを全て、一滴も溢す事なく手で受け止めて、陰茎に手を這わせて綺麗に絡めとる。
手の中の精液を、まるで自らの手ごと食べる様な勢いで口に含み、手を舐り、指を舐め回して精を食べ尽くす。
口の中の精液を軽く咀嚼し、味わい尽くすかのように舌で転がし、なんとも言えない幸せそうな顔で目を細め、頬を紅潮させ、歓喜と快感に震えるかのようにぶるっ、と顔を痙攣させる。
「甘ぁい……♡これが精の味……♡貴方の味……♡」
幸福の源をごくりと飲み干した後に、余韻に浸るかのように、口角こそ先程までと変わらないものの表情全体は蕩けたように幸せそうに緩まり、目の中にはハートが浮かんで見えるかのように、愛おしそうに男を見つめていた。
「うっ…♡くっ…♡はーっ…はーっ…何なんだ、これは…何なんだ…」
「♡……我々の食事は終わった。次は貴方達の食事を採ってくる、ここで待ってて」
ブロウは突然もたらされた快感の渦と、あまりにも特異なこの状況を消化できずにいた。
呆気に取られる男を尻目に、口腔の快楽の余韻に浸った後すぐさま人が変わったかのように、先程までの冷静かつ無表情、無感情に見える態度に戻り、ひとしきりアバドンの長からの指示を受けた後に、一斉に飛び去っていった。
「……何だったんだ、あいつらは」
立つ鳥跡を濁さずという言葉があるが、それは鳥だけでなく蝗の魔物である彼女達も同じであるらしい。
彼女達の姿が空に消え、羽音すらも聞こえなくなった今、彼女達がいた痕跡も、ここで行われた行為も何もかもが、まるで初めから無かったかのような状態となっている。
男達の中にはブロウのように立ったまま行為を終えた者も、足を投げ出し座ったまま行為に及んだ者も居たが、まるで先程までの景色からそのまま、彼女達のみを切り取って外したかの様に、同じ体勢で皆茫然としていた。
突然もたらされた下半身の快感以外には何も残っていない、まるで狐につままれて幻を見たかの様な一時。
男たちの体は射精の疲労感こそあるものの、何故か飢えて空元気しか無かったはずの身体には活力がある程度備わり、空腹感のみはなお残っているものの、健康そのものといった状態に戻っていた。
それが夢現ではなく、はっきりと現実である事を裏付けられるのは、アバドンの長である個体と開拓者達のリーダーが、群れが飛び去った今もなお目の前でまぐわい続けているからに他ならない。
「も、もう大丈夫だから…っ♡元気出たからっ♡放して……あぁッ♡」
「ふふ……♡だーめ……♡少し元気が出たからって直ぐに働こうとして…♡まずは我々に任せて♡今はただ、義務も嫌な事も全部忘れて、快感に浸ってて……♡」
ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡
ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡ ばちゅっ♡
アバドンの長は規格外とも言える下半身の大きさと、尻尾や羽の異形の部分の大きさから威圧感を感じ、一見でっぷりと肥え太っている様に見える。
だが骨太で安産型な骨格であるもののウエストは引き締まっており、片側だけで彼女の顔と同じ位の大きさで男の手でも持て余す豊満な乳房と、ウエストよりも太いむっちりした太もも、それに支えられた凄まじい肉付きの尻を持つ極端なグラマラス体型であった。
彼女は男を組み伏せ、豊満な胸を男の胸板ごと包み込むように乗せながら、肉棒の上にまたがりその重量を感じさせる巨大で、柔らかな尻を叩きつけるかのように降ろす。
自らの体重を全部乗せるかのように、力強く落とす腰から肉棒にもたらされる膣内の圧迫感とその肉感の柔らかさ、快感は想像を絶するものだろう。
「だ、駄目だって♡は、恥ずかしいっ、し…ッ!だ、誰か止めて…うああっ♡で、でも気持ちいい…♡や…やめないで…くああっ♡」
「ふふっ……♡良い子……♡素直が一番……♡んー…ちゅっ♡」
ぬちゃっ♡ぬちゃっ♡ぬちゃっ♡ぬちゃっ♡ぐぐ、ぐっ……♡
ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡
ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡ ばちゅ♡
ぼびゅるっ♡ぼびゅっ♡ぼびゅ♡びゅるっ♡びゅーっ♡びゅっ♡びゅっ…♡
腰使いを変化させ、肉棒を深く咥えたまま円を描くようなストロークで腰を動かし、柔らかな肉で包み込んだまま緩やかな快感を与える。
膣圧をかけたままゆっくりと陰茎を引き上げ、嵐の前の静けさかの様に一度腰を止め動きを止める。
その後先程よりも早いペースで腰を打ちつけ、でっぷりとした尻肉で飲み込むかの様に陰茎を容赦なく刺激する。
肉棒をぎゅっと凄まじい力で締め付けるかの様な圧力と、それに反してどこまでもどこまでも柔らかく優しく包み込む柔肉の感触がもたらす矛盾に、男はなす術もなく大量の精液を吐き出した。
男達は目の前のその光景を、なるべく見ない様に、聞かない様にしていた。
こんなところでやるなよと言おうにも、ここには資材も何もなかったので、雨風をしのげるだけの簡易なテントくらいしか無い場所だ。
このような激しい行為に及んではテントの中だろうと外だろうと変わらないだろう。
先程までは命に変えても守る!と気迫のある凄まじい剣幕で誓っていたが、こうなってしまっては止めるのも野暮だし、なんだかんだとてつもなく幸せそうなので、なすがままにするしか無いだろう。
気まずさからか、行くあてもないのにそそくさと、とりあえずその場から離れる一同。
その後聞いた話によると、行為が終わった後もアバドンの長は、開拓者達のリーダーを胸の中で抱き寄せて、頭を撫でたりキスをしたりして、終始甘やかし続けていたという。
25/12/09 23:51更新 / 甘党
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