連載小説
[TOP][目次]
U:陽と陰と【Double persona】 5章
「さてインザーギ君、この戦況をどう見る。」
「見たまんまだろ。戦況もクソもあったもんか。」

ここはグランベルテの首都ノルバニアから北東にある地…スィスネ高原。
王国の関所や砦が点在するこの地は王国軍が野戦訓練を行う地であり、
首都の最終防衛ラインでもある。
このような領内深くまで敵に侵攻されたことは一度もない。
だが、今度ばかりは勝手が違った。

魔界で増え続ける未婚の魔物娘達の集団大移動………
ただひたすら夫を求める魔物たちの群れはグランベルテを目指し、
領土の東からまるで津波のように町や村を呑みこんでいった。
当然王国も軍を動員したが、押し寄せるスタンピードの前に為す術もない。
群れは、出現の報告からわずか四日あまりで首都近郊まで接近。
この緊急事態に王国軍はついに前主力を投入したのだが…

戦闘開始直後、まず前衛歩兵がサキュバス達の魅了にかかって骨抜きにされて
あっというまに崩れてしまい、前衛がいなくなった弓兵や魔道士たちも
魔物娘達の突撃を止める力はなかった。
そして…攻撃の主力の王国騎士たちはここぞという時に
丘の上から一気に突撃して敵を粉砕する役目を担っているのだが、
ロクな抵抗もできずに蹂躙されていく味方を見て、
完全に攻撃の機を逸してしまっている。
もはやいまさら自分たちが突っ込んだ所で、相手に経験値をくれてやるだけだろう。


「おのれ魔物らめ!これ以上好き勝手にさせんぞ!王国騎士隊突撃!!」
『おーっ!!』

しかし王国騎士隊の隊長は果敢にも突撃命令を下した。
攻撃せずに退くなど、騎士として恥ずべきことだと思ったのだろう。

「おーし、こうなったら俺たちだけでも頑張らねぇとな!」
「こ…これが私の初めての実戦……大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよミリア。俺も可能な限り援護してあげるからさ。」
「は、はいっ!!」
「おっしゃ!いくぜ!」

インザーギ、ボーリュー、そして新入りのミリアを含む
王国騎士隊800騎は隊長を先頭に魔物の群れへ斬り込む。
丘を下った時の香速力は猛烈な突進力を生み、敵を蹴散らす……はずだった。


「見て!新手よ!」
「あれって王国騎士っていう人たちよね!」
「や〜ん、おいしそう♪もらっちゃえ〜!」

ワーワー


結論から言うと、王国騎士隊の突撃は完全に無為に終わった。
先頭集団がサキュバス達に斬りかかろうとしたその瞬間、
足元に発生した魔法陣から強い衝撃が発生し、騎士たちを馬ごと吹き飛ばした。
ダメージは殆どなかったものの、放り出された無防備な騎士たちは
たちまち魔物娘たちに取り囲まれ、その場で凌辱されることになる。
インザーギ達は直撃こそ免れたものの、完全に包囲されてしまい
もはや進むも退くもままならない状況に陥った。

「大変だ!隊長がやられた!」
「くそっ…こんな時にマイヤーやモルティエがいれば…!」

騎士隊でもずば抜けた実力だった二人がいなくなってしまったので、
戦力が大幅に落ちてしまっているのも問題だった。

「くっ……このままじゃ何もできずに全滅してしまう!
インザーギ君、今ならまだ遅くない。城に戻って伝えてくれるかな…。
スィスネ高原は突破され、我が軍は壊滅状態ですってね。」
「ば、バカヤロウ!俺一人だけで城に戻れってのか!?
冗談じゃねえ……お前はどうするんだ!?親友を見捨てろってのか!?」
「そんなの決まってるじゃないか。君の脱出を援護するために
俺が少しでも時間を稼いでおくよ。さあ、早く!」
「………わかった。俺が行ってきてやるよ。
俺だけ生き残るなんてこの上なくみっともねぇがよ。」
「すまない、たのんだよインザーギ君……また会う日まで!」


こうして、インザーギは大急ぎで王都に引き返していく。
早めに決断したため、ギリギリで追ってくる魔物を振り切ることに成功した。

「さて……ああ言ってかっこつけてはみたものの…むんっ!!
これ以上はどうにもならない…っと!そいやっ!!」

一方のボーリューは周りの騎士が次々と倒れていく中で、粘り強く交戦している。
しかしその奮闘も長くは続かないようだ。
疲労で徐々に息が上がり、額には汗を浮かべ、腕の動きが鈍くなる。
だが…

「せ、先輩!大変です!」
「ミリア、どうかしたのかい!?」

ミリアに呼ばれるまま振り向いたボーリュー。

「隙ありっ♪」
「なっ!?ええーーっ!?」

次の瞬間、よりによって味方のはずのミリアにいきなり抱きつかれ、
その場に思い切り落馬する。ミリアがかばってくれたからか
後頭部を打つことはなかったが、それよりもなぜ後輩が突然…

「うふふ…、先輩♪ちゅっ、ちゅ、ちゅ。ん……ちゅ、ちゅ、ちゅうう。」
「んむっ!?ん……んんんっ!?ぷはっ、な…いきなり何するんだよ!」

ボーリューを地面におさてつけたミリアは、
何のためらいもなく彼の唇に自分のそれを重ね合わせ、
さらに舌を深く潜り込ませて口の中を舐めまわす。
なんとか口から離すことが出来たボーリューだったが、
逃れようとするも手足が全く動かない。

「先輩………私が下級騎士の身分に落ちて…みんなから
軽蔑されても、何から何まで…優しくしてくれましたよね。」
「ま、まあ…それは、ね。」
「だから………」

ミリアの背中から、悪魔のような小振りな翼が生え、
腰の付け根から先端がハートを逆にしたような形の尻尾が見える。

(ごめんよ…インザーギ君。それにマイヤー君…モルティエ…
君達より先に、幸せになってしまうようだ♪)





スィスネ高原の戦い。
王国側は6割の兵士が魔物娘達の虜になり、
逆に魔物の群れは誰一人として死傷しなかった。

王国軍を打ち破った魔物の群れは、もう王都の目の前まで来ていた。







「魔物だー!!魔物がくるぞーー!!」
「戦いに出てた兵士はみんな喰われちまったらしいぞ!!」
「逃げなくちゃ!!」

王国軍敗北の報は瞬く間に王都に広まり、
住民たちは収拾がつかないほどの混乱を起こした。
普段から魔物は恐ろしい存在としか教えられていない国民たちは、
我先にと王都から脱出しようと試みる。
本来なら王国軍の兵士たちが素早く城門を閉じて、
一刻も早くこの混乱を鎮静化させるべきなのだが、
主力はすでに先ほどの戦いで大半がいなくなっていて
生憎王都に残っているのは殆どが新兵であったため
ついには兵士まで国民と一緒になって逃げ出し始める始末。
また、国民だけではなく、国を守る義務を負っているはずの貴族達も
わが身のおしさに一目散に脱出を急いでいる。
つい先日まで平和だった王国がにわかに滅亡の危機に陥るとは
誰が予想できただろうか………



「ん〜〜……遅いなぁクルト。」

ドッペルクリスティーネは、緊急招集でグルとマイヤーが出ていった後も
こうして彼の家で帰りを待ち続けていた。

「あぁ…早くクルトと思いっきりエッチしたいよぅ……
おもいっきりパックンして、じゅぽじゅぽ腰振りたいよぉ。」

彼が飛び出して行ってからすでに四日が経過し、
彼女もそろそろ性欲を我慢しきれなくなってきているようだ。


「魔物が来るぞ〜〜!!」
「逃げろ!!皆殺しにされるぞ!!」

「あれ?外が騒がしい………魔物が来た?え、それって…」

外の様子を耳にした彼女は、窓を開けて周囲をうかがう。
辺りでは近衛騎士たちの家族とみられる貴族たちが、
馬車に慌てて物を積みこんでいて、まるで夜逃げのように見える。

「あ…………本当だ、大きな魔力の気配を感じる……。
ってことはもうすぐこの王国も魔界になるのね。そしたら……」

(もう誰にも憚られることなくクルトと一緒に過ごせるっ!!)

クルトと本格的に同棲するために色々と策を練ってきたが、
ここが魔界と化せばその必要もなくなる。
身分も地位も気にせず好きなだけイチャつくことができる。

「うふふっ、そうと決まれば何も迷うことはないわ。
他の娘に取られる前にクルトを迎えに行かなくちゃ♪」

彼女はその場で素早くクリスティーネの格好に変装し、
意気揚々とクルトの家から飛び出していった。

(今行くからねクルト♪)





その時であった。


シャッ

「なっ!?」



突然背後から、彼女の首に刃物が突きつけられた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
国民たちが右往左往しているにもかかわらず、
グランベルテ王宮内では王族たちが逃げる準備をしている。

「近衛騎士クルトマイヤー。国王陛下より、
そなたに残る王国軍の総指揮を任せるとの宣旨が下った。
この城を守備し、最後の一兵まで戦い抜くようにとのご命令だ。」
「はっ………」

その中で、クルトマイヤーは宰相から最終防衛戦の大将に抜擢された。
しかし……殆どの近衛騎士たちは防衛線には加わらず、
王族たちの護衛という名目で、戦わずに脱出するつもりのようだ。
クルトマイヤーはそのための時間稼ぎを命じられたのだ。
かく言う宰相も、クルトマイヤーに命令を伝えた後、
そそくさと走り去ってしまった。相当焦っているようだ。

「インザーギいるか?」
「おうマイヤー。」

クルトマイヤーは、先ほど大急ぎで戻って来たばかりのインザーギを呼びだす。

「この場に残って戦える者は何人いる?」
「今集めて見たんだが……500人もいねぇな。」
「そうか……」

二人が必死になってかき集めた戦力はわずか438名。
元々この城には3000人近くの兵士がいたのだが、
王族も逃げ出しているのを見て、彼らも士気が萎えてしまったようだ。

王宮の正門前広場に整列した騎士や兵士達。
彼らの顔にはやはり不安の色が濃く表れている。


「貴様ら、よーく聞け!今ここに残った俺達はまず間違いなく
魔物たちにやられてしまうだろう!しかし!俺たちが頑張れば頑張るほど、
多くの民の命が救える!俺を含めてここにいる全員は名誉のために死ぬのだ!
顔を上げろ!前を向け!背筋を伸ばせ!最後まで諦めるな!
魔物どもに人間の最後の根性を見せてやれ!!」
『応!!』

クルトマイヤーは演説で彼らの士気を取り戻し、
早速、部隊配置に取り掛かった。

「ところでマイヤー、モルティエはどうした?」
「あ…そう言えば見ないな。まぁ、あいつは第三王女様の護衛だ。
恐らく今頃クリスティーネ様と共に脱出の準備をしてるだろうよ。」
「んじゃ仕方ねぇな。あいつがいればもっと戦えるのによぅ。」

もうすぐここも危ないというのに、
二人には特段緊張はみられない。


「……そういえばマイヤー。」
「なんだ?」
「今聞くのもアレかもしれんが……、お前が近衛に入ったのは
王女様に恋をしていたから…ってのは結局本当なのか?」
「…本当だと思うか?」
「い、いや、な。正直あまり本気にはしてないんだが、
もし本当だったら、お前もやっぱり人間味がある奴なんだなって思って。」
「ふふふ、そうかそうか。実はな……」


ここでクルトマイヤーはようやくインザーギにも、
自分が近衛に入った本当の理由を話した。
同時に、近衛に入ってからどのようなことが起きたかも同時に語った。

「そっか。結局上手くいかなかったワケか。そいつは残念だ。
にしてもひでぇなクリスティーネ王女は。せっかくマイヤーが努力して
また会えるようになったってのに、これだから王族ってやつは……」
「まあ聞け。まだ続きがある。実はこれは
モルティエにも話していないことなんだが……」

次に、クリスティーネ王女と内密に肉体関係を持ったことまでバラした。
自分たちはどうせ生き残れないだろうから、少しくらいバラしても、
大したことはないと思ったのだろう。

「…………やるなお前。たいした男(ヤロー)だぜ。」
「ありがとよ。だが…もう顔も見れなくなる。それが心残りだ。
だが、クリス様には俺の命に代えても無事に生き残ってほしい。」
「馬鹿野郎…クリスティーネ様は一生悲しむぞ。それでもいいのか。」
「いいもなにも、これが俺に課せられた使命だ。」

本当は、ずっとそばにいてあげたかった。
国も使命もかなぐり捨てて、二人でどこか遠くに行ってしまいたい。

(いくじなしがっ……!!)

だが結局彼は自分と恋人だけの幸せより、
国と名もなき人々のために自分を犠牲にすることを選んだ。
その気になればこの混乱に乗じてクリスティーネの手を取り、
姿をくらませることくらいわけなかっただろうに。


「た、大変ですクルトマイヤー先輩!!」
「どうした!」

後輩の女性騎士が大慌てでクルトマイヤーの元に駆けこんできた。

「魔物の群れが…東門を突破!市街地に突入しました!」
「くそっ…もうきたか!全軍持ち場に付け!奴らを通すな!」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
さて、王族たちが次々と逃げ出す中、
クリスティーネも城から脱出する準備を整えるべく自分の部屋へと向かった。
ここ数日は王宮内がてんてこ舞いだったのでその間自分の部屋に戻れず、
ずっと一族同じ部屋に集まっていたので、久しぶりの自分の部屋だ。

「いいですか姫様、持っていく物は最小限にとどめておいてくださいね。」
「わかってるわよ。オルティナ姉さんみたいに衣裳箪笥何個も持って
なんてことはしないわ。でもせめて本数冊だけは…!
そう言えばモルティエはどうしたのよ?さっきまで一緒にいたのに。」
「そういえば…そうですね。モルティエさんは居残り組になったのでは?」
「まあそうよね、あの子も下級騎士出身だからそっちにまわされたのかもね。」

速足で自室に戻ったクリスティーネはカメリアに命じて、
棚にあるいくつかの本を持ち出すように指示を出す。
普段から教養の本ばかり読まされている彼女だが、読書自体は嫌いではなく
密かに物語本を蔵書して時折読んでいたようである。
どれもすすけるくらい読み返されている本の数々の殆どは、
お姫様と騎士が結ばれる恋愛もののサガであり、
幼いころからこういった関係にずっと憧れていたことを表している。


「で、あとは………あら?」

クリスティーネがふと机の上を見ると、数日前から放置されているワインとグラス、
それと何かが書いてある羊皮紙を発見した。
何が書いてあるのだろうと思った彼女は羊皮紙に目を通す。


すると


彼女の顔から見るみる血の気が引いていく…………




『クルトは今でも姫様だけを愛しています』



たったそれだけの文字…
あのときモルティエがクリスティーネに渡しそびれた……
唯一真実への懸け橋となる鍵………



「………なくちゃ……」

「…?どうかしましたか姫様?顔色が優れない様子ですが…。」
「謝ら…なくちゃ………クルトに、謝らなくちゃ……」
「姫様………!?」

酷くショックを受けた様子のクリスティーネは震える両手で
羊皮紙をゆっくり胸にしまい、放心状態のままふらふらと部屋から出ていこうとした。
その動きをカメリアが慌てて制する。

「お待ちください姫様!どこへ行くおつもりですか!」
「いやっ!放してっ!!私はクルトに会いに行かなくちゃいけないのっ!!」
「いけません姫様!早く脱出しなければこの城ごと魔物に包囲されてしまいます!」
「構うものですかっ!!お願いっ!!行かせてよっ!!」

カメリアに掴まれたまま、まるで子供の様に泣きわめくクリスティーネ。
真実を知ってしまった彼女は、現在の逼迫した状況も相まって
すっかり理性を失って心が暴走し始めている。
元々抑圧生活が長かったせいもあって情緒不安定気味だったのだが、
今まさに壊れる一歩寸前まで行ってしまったのだ。

コンコンッ

だが、この危機的状況は意外な形で鎮められることになる。
クリスティーネの部屋のドアを誰かがノックする音が聞こえた。

入ってきたのはどこかに行っていたモルティエだった。


「あっモルティエさん!丁度いいところに!どうか姫様を抑えて下さい!」
「モルティエっ……あなたまで邪魔をするなら容赦しないわよ!」

そのモルティエの様子も少々変だったが、その理由はすぐに判明した。

彼女の右手には握られたバスタードソードがあり、
腕にはどこかで見たような女性が捕まっている。

いや、どこかで見たようなというどころの話ではなかった。


「むぐぐぅ……ど、どうして私がこんな所に…連れて来られて………」
「ひ、姫様…!?」
「わたし…………????」

その女性は茶色の長髪に大きめの瞳、清楚な顔立ち、
しなやかで美しい身体を赤を基調としたドレスが包む。
まさにクリスティーネそのものだった。

モルティエに捕まえられていたクリスティーネはその場に解放され、
カメリアに押さえつけられているクリスティーネの前に転がり出た。




「あなたは誰?」
「あなたは誰?」
「私はクリスティーネ。」
「私はクリスティーネ。」
「違う私がクリスティーネよ。」
「違う私がクリスティーネよ。」


まるで鏡に話しかけているようだ。

「な……も、モルティエさん…これは一体どういうことですか!?」

モルティエは何も言わず、今度はカメリアの手を引いて部屋の外に出ていった。
部屋の中には二人のクリスティーネが残ることになる。


カメリアの手を引きながら、モルティエは速足で廊下を進む。
彼女ほど背が高くないカメリアは駆け足でついていくしかなかった。

「モルティエさんっ!あの人はいったい!?なぜ姫様が二人も!?」

例のごとく羊皮紙を取り出して書く。

『あの子はまもの。クリス様のドッペルゲンガー』

「な、なんと…!では余計に姫様の身が危ないのでは!?」

『もう遅いよ。クリス様はクルトのこと以外考えられなくなってる』

「…………そんな、姫様は…もう……
神よ…なぜ姫様に、慈悲を与え賜らないのでしょう……」

突然主を失ったカメリアは途方にくれながら、
首にかかっているロザリオを握りしめて神に縋った。







「私はね…あなた、クリスティーネのドッペルゲンガーなの。」
「ドッペルゲンガー……?」
「知ってる?私たちドッペルゲンガーがどうして生まれるのかって。
私はね、貴女に振られて辛い思いをしていたクルトの負の気に引き寄せられてきたの。
そして……私は名もなきドッペルゲンガーから、少女クリスになることができた。
クルトはね、あなたのことがずっとずっと大好きだったから……
私のことをとっても愛してくれたわ。」
「そう…なんだ。私はてっきり、あの時からクルトは
私のことが嫌いになっちゃったんじゃないかって思って。
本当にバカだ私は……クルトと再会した時、私は思わず怖くなっちゃって
こんなのクルトじゃないって拒絶しちゃったんだから………
私だって昔に比べたら高慢になってるし生意気だし、でも私がクルトを
ちゃんと受け入れてあげていれば…クルトに笑顔一つ見せてあげていれば……」
「ようやくあなたも反省したようね。あなたはこの十年間ずっと頑張ってきたわ。
でも、頑張ってきたのはあなただけじゃない。クルトもなの。」
「その想い……私が自分で打ち砕いちゃったんだね。
だからあなたが、私に変わってクルトを愛してくれたのね。
あなたのそばにいるだけで感じるの、クルトがどれだけ愛してくれたのかを……
ふふふ、そっか、これはきっと神様が私に与えた罰なのね。」
「神様が与えた罰?どうして?」
「たとえ今、私がこの世界からいなくなっても……
あなたがいるならクルトは幸せに生きていけるわ。
本物も偽物もない……あなたがクリスティーネになって、私は消える。
これは大切な人を信じ切れなかった私に与えられた世界で最も重い罪なの。」
「いえ、それは違うわ。」

クリスティーネがもう一人のクリスティーネをしっかりと抱きしめる。
同じ背丈、同じ体格、同じ顔……寸分違わぬ構造の二人。
違うのは魂の器のみ。だが、それすら同一となったら………

「私はあなたに罰を与えに来たんじゃないの。あなたにチャンスをあげに来たのよ。
もし私があなただったら…私の様にクルトと愛し合えたら。そう思わない?」
「でも私にそんな資格は………」
「そんなの関係ない。あなたは今でもクルトを愛してるんでしょ?」
「うん…私だってクルトのことが好きなの。クルトだけを愛したいの。」
「だったらもっと素直になりましょう?私はあなた、あなたは私、それでいいの。
私達は少女クリスティーネ。きっと私達は二人で一人。」

抱きしめ合う二人の鼓動が一つになり、別々の記憶が混じり合う。
やがて………魂までも……
12/07/27 14:19更新 / バーソロミュ
戻る 次へ

■作者メッセージ
"Words have the power to both destroy and heal. When words are both true and kind, they can change our world"
-Lilith=Fastsard

言葉は人を傷つける事も癒す事も出来る。
言葉から憎しみと偽りが消えた時、それは世界を変える力になる。

―リリス=ファストサルド

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33