桔梗の愛馬は、嫉妬深いお嬢様
―ユニコーン―
額に伸びる一本の角と白く美しい毛並みが特徴のケンタウルス種の魔物。
魔物ながらも『純潔』『貞操』『柔和』の象徴とされ、性格は温厚で献身的。
さらに彼女たちが夫として選ぶ男性は一度も性交を経験してない者に限られ、
生涯ただ一人の夫に尽くし続けるという変わった性質もある。
これは彼女たちが独特の魔力素を持っているため、
別の魔力が混ざって変質するのを防ぐためだとされている。
なので、魔界ではあまり好まず、もっぱら自然が豊かな地に生息する。
(なお、魔力の影響を受けたユニコーンがどうなるかについては、
後日改訂される予定の魔物図鑑を参照されたし。)
そんなユニコーンであるが、現魔王陛下が即位される前の時代…
即ち魔物が『魔物娘』になる前の時代ではどのような生態だったのだろう?
元々ユニコーンは性格が大きく変わった以外は特に個体としての変化はなく、
ユニコーンの特徴的な能力である角の魔力による強大な治癒力をはじめ、
自然豊かな森林に群れを作らず常に一匹で生活していたようだ。
しかしながら、先ほど述べたように性格は大きく異なる。
今でこそユニコーンは人間に対して非常に好意的で、
どの生物に対しても敵対的な意志を持つことは殆どないが、
元々ユニコーンは非常にプライドが高く、むしろ人間どころか
同じ魔物相手にすら明確な敵意を持っていたと言われている。
ケンタウロス特有の機動力に加え、額の角は鋭く、戦闘にも向いていた。
ユニコーンの不興を買った生物は貫けない物はないと言われる角の一撃で貫かれ、
無尽蔵とも言える治癒力は瀕死の重傷を負った時にも戦闘続行を可能にした。
このように、前時代のユニコーンは人間にとって危険な魔物であったといえる。
(もっとも、危険ではない魔物を探す方が難しい)
前述の通り前時代のユニコーンはプライドが非常に高く、
特に人間に対しては出会った瞬間から問答無用で敵視してきた。
伝承によれば、人の力では殺すことは出来ても、
生け捕りにすることは出来なかったという。たとえ生きたまま捕らえられたとしても、
絶対に飼い馴らすことは出来ず、激しい逆上の中、自殺してしまうという。
今からしてみれば考えられないかもしれないが、ちょっと考えてほしい。
仮に今あなたが屋根裏部屋に住むような薄汚いネズミに襲われて、
抵抗むなしくネズミの群れに倒されてしまい、家畜とされると想定するなら…
当時のユニコーンにしてみれば人間など下等生物でしかなかったのだ。
ただ、唯一処女の女性だけには心を許したともいわれるので、
現在のユニコーンの性格はそこから発展したのかもしれない。
さて、読者諸君はユニコーンの夫婦を見かけたことはあるだろうか?
見たことがある者なら分かるはずだ、あの忌々しいまでのいちゃつきぶり。
その時彼らは、ユニコーンの背に夫を乗せて歩くことも珍しくない。
まあそもそもケンタウルスはかなりの恥ずかしがり屋なので
恋人を背中に乗せることすら躊躇う者も多い中、ユニコーン夫妻は
むしろ当たり前のように騎乗していたりするので、印象に残りやすいはずだ。
だが、前時代のユニコーンでは性格上それはほぼ不可能。
決してなつかないと言われるくらいであるから当然だ。
ところが、前時代にもユニコーンを手懐けた人がいたらしい。
そのような例は極めてまれであり、信憑性に欠けることが多いが、
興味深いのはそのうちの一つに丁度、魔王交代の時期に
活躍した人物の記録があることだ。
では前書きはここまでにして本題に入るとしよう。
昔々、アルトリアという国のオルトヴァ地方にシオリアという男がいた。
くすんだ銀髪に人懐っこそうな顔が特徴、背は平均程度だった。
明るく気さくな青年で、また若干天然ボケ気味だとも言われている。
彼はウェリトラエという辺境の町で生まれ育ち、
幼い弟妹の面倒を見ながら伝馬(馬を使った郵便配達)の仕事をしていた。
貧しいながらも平和で穏やかな日々を過ごしていた彼は、
元々は戦いとは無縁の人生を送るはずだった。
だが、その平穏な生活は突如破られる。
紀元前4年…つまり現魔王陛下が即位なさる4年ほど前。
アルトリア王国に魔物の大軍が侵攻。その数は50万とも100万ともいわれる。
さらに人間の中にも『蒼褪めたヴェール』という破滅思考を持った者達が
魔物と結託したため、アルトリア王国の善戦空しく首都は陥落。
国土の3割は魔界となり、残る大半の地域も蒼褪めたヴェールが支配し、
アルトリアは急速な勢いで荒廃していったのだった。
シオリアの故郷ウェリトラエにも頻繁に魔物が襲来するようになり、
度重なる戦闘で兵が摩耗、ついには民兵まで駆り出されることになる。
彼もまた民兵として徴兵され無理やり戦場に出されることになった。
シオリアには戦闘経験などなかった。しかし、日ごろ身体を鍛えていた成果だろうか、
持ち前の馬術を駆使して奮戦、一般兵に勝るとも劣らない戦果をあげた。
さらに彼の幸運は続く。
アルトリア王家の唯一の生き残りだった王女ルーシアがウェリトラエに逃れてきた。
その王女ルーシアを救いウェリトラエまで連れてきたのが、勇者フライヤーだ。
勇者フライヤーはウェリトラエの領主の力を借りてアルトリア解放軍を結成、
この時シオリアもまた誘いに応じてアルトリア解放軍の一員となる。
勇者フライヤー率いるアルトリア解放軍は機を見て反攻作戦を開始、
各地で同志を増やしながら魔物や蒼褪めたヴェールと戦ってゆく。
それに従いシオリアも潜在能力を開花させ、目覚ましい働きを見せた。
特に馬の扱いが抜群に上手く、柵くらいなら乗馬したまま乗り越えたとか。
解放軍に身を投じて半年ほどが経った頃だろうか。シオリアに大きな機転が訪れる。
とある村で、森に住む凶暴なユニコーンを退治してほしいという依頼が来る。
なんでも少しでも近付けば額の角で突き殺されてしまうため、
安心して森で狩りをしたり採取したりすることが出来なくて困っていたらしい。
シオリアは依頼を引き受けた。出来るという自信からというよりも、
初めて見るユニコーンがどのようなものか興味深かったからなのだろう。
探索の末シオリアはユニコーンに遭遇。
そのユニコーンは白く美しい毛並みに青銅色の鬣を持ち、
体つきも軍馬はおろか、そのあたりの名馬すらも遠く及びつかないほど
しなやかで且つ力強い体躯を誇っていた。だが、美しい見た目とは裏腹に
気性は非常に荒く、鋭い眼光は射抜かれただけで思わず身体が
止まってしまいそうであった。額に生えた角は岩で研ぎ澄まされており、
突撃時の威力は鋼の槍とは比べ物にならないだろう。
彼とユニコーンの対決は今でもしっかりと記録に残っている。
シオリアを見つけた瞬間、何のためらいもなく突き殺そうとするユニコーン。
だが彼は攻撃をかわし続け、驚くことに隙を見て背中に乗ることに成功した。
元々シオリアは脚力や腕力が非常に優れていたため、
ユニコーンの突進を跳躍で避け、樹の枝を軸に背中に着地できたのだ。
振り落とそうともがくユニコーン。シオリアも振り落とされまいと鬣をつかむ。
ユニコーンの暴れぶりは凄まじかった。全力疾走、急停止、棹立ち、急旋回を繰り返し、
果ては自分にもダメージを負うことも覚悟で大木に突進したり、
岩に身体を打ちつけたり、大胆に横転するなどもした。
けれどもシオリアはぼろぼろになりながらも落馬することはなかった。
さらに上手いことにユニコーンが自身に回復魔法を使えば、
ぴったりとくっついているシオリアにまで効果が及んでしまう。
いつ死んでもおかしくない必死の攻防は翌日の夜明けまで続いた。
シオリアの仲間も援護しようと試みるが、鬼気迫る攻防を前に
近付くことすらできず、ただ傍観しているほかなかった。
丸一日の戦いの末、ついに疲れ果てたユニコーンはシオリアに屈した。
彼は卓越した馬術でユニコーンを乗りこなしたのだ。
大人しくなったユニコーンに素早く轡と鐙を付け、自分のものとし、
ユニコーンは雌であったことから『クラリッサ』と名付けた。
英雄『桔梗の騎兵(ベルフロムハザーエ)・シオリア』誕生の瞬間だった。
最強の愛馬を得たシオリアにもはや敵などない。
あれだけ激しく抵抗したクラリッサはすっかりシオリアに懐き、
戦場に出れば人馬一体の突進で阻む者を片っ端から蹴散らした。
角の魔力による回復も健在で、傷を受けてもたちどころに回復した。
一介の伝馬青年がここまで強くなるとはだれが想像しただろうか。
それからさらに一年間、勇者フライヤー率いるアルトリア解放軍は戦い続け
ついに首都アルトリアを奪還し、クランガ山で前魔王四天王の一体である
蛮魔オルタスと、彼が自身の命を犠牲に召還した赤炎竜アンケロンとの決戦に勝利。
こうしてアルトリア王国は平和を取り戻し、荒れた魔界は元の豊かな大地に戻る。
救国の英雄フライヤーは王女ルーシアと結婚し、新生アルトリア国王として
戦争で傷ついた世界を復興していくのだった。
戦争が終わり、シオリアも英雄として騎士階級を授与されたが
彼はそれを受け足らず、再び貧しいながらも平穏な日々を望んだと言われる。
さて、英雄となったシオリアには、愛馬クラリッサにまつわる様々な逸話がある。
激闘の末シオリアの愛馬となったクラリッサだったが、シオリアには懐いても
他の人間には相変わらず懐かなかったと言われている。
うっかり馬体に触ろうとすれば、強烈なキックをお見舞いした。
どうやらクラリッサは相当嫉妬深いユニコーンだったらしく、
女性に対してはシオリアに近付くことすら許さなかった。
それどころか雌馬すらも嫉妬の対象になり、片っ端から追い払った。
餌もシオリアから与えられる物以外は一切口にしなかったという徹底ぶり。
しかもそれだけでもまだ満足できなかったのか、
厩舎に繋いだ後もシオリアと離れるのを大いに嫌がり、
根負けしたシオリアはそれ以来どんな立派な町に滞在する時でも
クラリッサと共に厩舎で寝泊まりしたという。さぞ馬臭くなったことだろう…
本人は「馬小屋って意外と住み心地悪くないね。いやむしろ気に入った」
と言っていたそうだが、俄かには信じがたい話である………
とにかく、呆れるくらいクラリッサは四六時中シオリアにべったりで、
折角端正な顔で異性にもてそうだったにもかかわらず浮いた話は全くなく、
「桔梗野郎はユニコーンと添い遂げるつもりだ」とさえいわれた。
ただ本人も人間女性にあまり興味を示さなかったらしいが。
シオリアは解放軍が目的を達成、解散した後は軍隊に残らず
クラリッサと共に弟妹が待つ故郷ウェリトラエに戻った。
彼は故郷で再び伝馬として働こうと考えていた。
その気になれば富も名誉も得放題であったにもかかわらず、
なによりも家族とそしてクラリッサと穏やかに暮らすことを望んだ。
しかし、故郷で彼を待っていたのはささやかな出迎えではなく、
町が輩出した偉大な英雄としての大規模な歓待だった。
世界を救った勇者の反攻の地となった栄誉だけでもこの上なく嬉しい上に、
一緒になって付いていった名もなき青年が有名人になって帰ってきたのだ、
領主を始め故郷の民の喜びは想像に難しくない。
確かに、大勢の人に歓迎されたのはとても嬉しかっただろう。
だがその後の生活は意外と不自由だったらしい。
英雄として祭り上げられた彼は当然伝馬などという下級の仕事は
似合わないと言われ、家も無償で豪華な邸宅が用意された。
ところがクラリッサが彼と離れたがらないので結局家を改装して
クラリッサも一緒に屋内で住めるようにしたらしいが、
日頃から質素な生活をしていた彼は何の不自由もない環境が落ち着かなかった。
せめて何か仕事をと申し出るが、彼に与えられたのは
再び軍務について兵士たちの指導をしてほしいという要望だった。
仕方なく彼は申し出を受けて再び軍隊に戻ったが。
そしてその数ヶ月後…はるか遠くの地で、魔王が勇者に打ち倒される。
紀元前2年のことであった。
…
「はい、じゃあ今日の訓練はこれで終わり。気をつけ!礼!」
『ありがとうございました!!』
とある夏の日の午後―
暑い日差しが照りつける中、騎乗した青年…シオリアの号令が響く。
今日も今日とて新人騎兵の訓練を指導し、次代の精鋭を育成している。
「いつも言っているように、帰ったら馬の手入れを欠かさないようにね。」
『はーい!』
「あと、たまにでもいいから馬と一緒に寝食を共にしてあげようね!」
『ムリーっす!』
「だよね……あはは。」
半ば本気の冗談を交わしつつ、シオリアもまた訓練の汗をぬぐうため
布切れで軽く顔を拭き、続いてユニコーンから降りて自分の身体以上に丹念に拭いてやる。
「クラリッサもお疲れ様。今日もあんまり動かなかったけど…ごめんね。」
ユニコーン…クラリッサはシオリアの呼びかけにコクンと頷く。
彼女とシオリアはこうして頷きや首ふりで普通に意思疎通できる。
「さ、今日も暑いからいつものように泉に水浴びに行こっか。」
クラリッサは先ほどよりも大きくコクンと頷いた。
あの激しい戦いの日々が終わってどれほど経っただろうか?
一介の伝馬から兵士となり、勇者と共に戦い続け、
ある時、暴れユニコーンだったクラリッサを激闘の末、手懐けた。
それ以来彼の活躍はとても目覚ましく、また華麗であった。
ついには『桔梗の騎兵』の二つ名を持つ英雄となったシオリアは、
騎士や貴族と言った地位や莫大な報酬を固辞して故郷に戻ってきた。
彼にとってそのような物は自分の身を縛る不要のものとして、
愛馬のクラリッサと充実した日々を過ごせればそれでいいと考えていた。
ところがいくら彼が富や地位を拒否しようとも、名声だけは別だった。
故郷の街でも英雄として大いに称えられた彼は、三日三晩の祝祭の後、
領主の意向を受けて、結局軍事教官として兵士の指導をすることになった。
彼自身は再び伝馬役として郵便配達することを望んでいたのだが、
稀代の英雄にそのような仕事をさせるわけにはいかないとして断られた。
そして、彼の愛馬クラリッサもまたその美しさゆえに人々の興味を
大いに引くこととなったのだが、凶暴な性格はまだ持っており、
迂闊に近付くと額の角で威嚇してくる。
それでもなおその馬体に触れたいと実力行使に出た愚か者もいたが、
ある者は強靭な後ろ足で蹴飛ばされ、顎の骨を砕かれる大けがを負い、
またある者は鋭い角に突かれ、危うく死ぬところであった。
それだけにとどまらず、女性はシオリアに近付くだけでも
敵意をむき出しにするほど嫉妬深い。実際、シオリアに近付いた女性は、
殺されはしないものの(無暗に殺すとシオリアに迷惑がかかるから?)、
やはり蹴られたり、話している間に身体を割り込ませたりと、
徹底的に妨害行為をしてくる。
そのせいか、なかなか端正な顔立ちで、性格もいいシオリアだが
今まで付き合った女性はおらず、浮いた話一つすら出ない。それどころか
「桔梗野郎はユニコーンと添い遂げるつもりだ」と仲間に言われたくらいだ。
「よいしょっ…よいしょっ……はい、次は後ろ足っと。」
町の外に広がる森にある泉でクラリッサの身体を丁寧に洗ってやる。
クラリッサと出会ってから今日にいたるまで、よほど時間がない日以外は
一日たりとも毛並みの手入れを欠かしたことはない。
彼が毎日手入れしていることもあってクラリッサは常に美しく、
気品のある姿を保っていられるのだ。
ゴーシ、ゴシ、ゴシ、ゴーシ、ゴシ
「んっしょ…よいしょ……どう、気持ちいいかい?」
「(コクン)」
「うん、それはよかった。今日は暑くてたくさん汗を……君はユニコーンだから
この程度じゃ汗かかないよね。むしろ汗をたくさん掻いたのは僕の方だったね。
あ、だからと言って手は抜かないから安心しな。…じゃあ流すよー。」
ジャバジャバジャバ…
身体を満遍無く磨きあげると、桶で水を汲んで全身を洗い流す。
後は木綿布でよく拭いてあげれば水浴び完了だ。
磨くのにかけた時間は1時間半…シオリアの徹底ぶりがうかがえる。
洗い終わったクラリッサの顔もどことなく嬉しそうに見える。
「うん、綺麗になった!元々君は綺麗だけど、こうして磨いた後は
また一段と凛々しく見えるよ。……と、こんなこと言うと
なんだか恋人同士みたいだ…なんてね。」
「(スリスリ♪)」
「あはは、君もそう思ってくれるんだ…嬉しいな。」
愛おしそうに顔をすりつけてくるクラリッサを撫でてやると、
本当にクラリッサと一生を添い遂げてもいいと思えてくる。
むしろ、絶対に人に懐かないと言われるユニコーンと
一生を添い遂げられるのはとても幸運なことじゃないかとも思えた。
「そうだ、明後日あたり久々に遠乗りしよっか。たまには思いっきり走りたいでしょ。」
「(コクコク!)」
クラリッサの手入れを一通り終えて、夕暮れ時に家に帰宅すると
シオリアの妹(次女)が玄関で出迎えてくれた。
「ただいまー!」
「おかえり兄さん。お客さんが来てるよー。」
「お客さんが来てる?誰だろう?」
「ん〜、何か見たことない人だけど、王都から来た軍人さんみたい。
長い金髪で黒い服着て……あと手が片っ方無いの。」
「手が片方ない?…ああ、わかった。」
「クラリッサちゃんもお帰りっ!今日も綺麗にしてもらったんだね。」
「(……)」
一応シオリアの家族には近付いても特に敵意を向けなくなった。
愛想の悪さは相変わらずだが。
さて、客人は妹が言っていた通り金の長髪に全身黒一色の鎧、
腰には長めの刀を差し、そしてなによりも左腕がなかった。
「御機嫌よう『桔梗の騎兵』殿。遅くに失礼している。」
「こんばんわ、やっぱりあなただったんだねアルレインさん。
それと…『桔梗の騎兵殿』は堅苦しいから遠慮したいなぁ。」
「おっと、英雄殿に失礼のないようにと思ったのだが、
むしろこちらの方が失礼だったようだな。済まなかったなシオリア殿。」
「英雄どのなんてそんな…。」
「まあそう謙遜しなさるな。」
客人…アルレインも先の大戦でシオリアと共に戦った仲間の一人である。
シオリアとは同い年だが、彼は高名な武官一族の出身だった。
彼はアルトリア陥落の際に、王女と新人騎士たちを逃がすためにたった一人で殿を務め、
その際自分の片腕と引き換えに敵の幹部のバフォメット・フェルリに瀕死の重傷を
負わせた……が、奮戦むなしく捕らえられ、邪教集団『蒼褪めたヴェール』に
操られるまま敵として殺戮の限りを尽くした。
しかし、王女ルーシアが奇跡を起こし、彼は正気を取り戻す。
以後、アルレインも解放軍の一員となって仲間と共に人間の勝利に貢献したのだ。
ただ、仲間になったのがかなり後半だったせいで、シオリアとはあまり面識はない。
それでも『片腕』といえばアルレインの顔が思い浮かぶくらい彼も有名ではある。
「それにしてもアルレインさんがわざわざこんな所まで来るなんて。
手紙の一通でもくれれば僕がそっちまで行ったのに。」
「はっはっはっ、俺が貴殿を手紙一枚で呼び出すなんてことしたら、
『裏切り者風情が英雄様に対して失礼だ!』なんて云われるのが関の山だ。」
「あはは…あまり虐めないでほしいなあ。クラリッサに突っつかれるよ。」
「(ギロリ)」
「おおう、相変わらず嫉妬深いお嬢様でございますな。こう見ても俺は男ですが。
ではクラリッサお嬢様の機嫌を損ねないよう単刀直入にお話ししよう。
シオリア殿は新天地に興味はないかね。」
「新天地?まさか新天地を共に開拓しようと?」
「そのまさか、というわけさ。このたびアルトリア王宮では国力増強のために
未開の地を開発しようというつもりだ。そして俺も責任者の一人に選ばれた。」
「ふうん……確かにちょっと興味深い話だね。もう少し詳しく聞かせてくれるかい。」
アルレインの話によると、度重なる戦によって難民が増え、国土も荒れてしまったために
新しく土地を開発して国力を回復するのが目的らしい。
候補に挙がった地はアルトリアの最西端ハルモニアからさらにずっと西…
野蛮な戦闘民族が跋扈するユリスという地域らしい。
その地に住む先住民族を文明化して、豊かな大地を切り開こうという思惑だ。
「とまあざっとこんな感じだな。」
「…あの、言っちゃ悪いかと思うんだけど……これ一種の左遷では?」
「んー、まぁそう言えばそうだな。何せ一度は死んだと思われた人間だからな、
自分で言うのもなんだが俺はもともと名門だし、扱いにくいだろうよ。
でも俺はむしろこの任務は非常に楽しみだ。冒険心を掻き立てると思わないか。」
「確かに。」
「だろう?それに俺の勘が正しければ…貴殿は今の境遇には満足していまい。」
「!」
「共に戦った時期こそ短かったが、貴殿の戦いぶりを見ると分かる気がするんだ。
型にはまることを良しとせず己の道は己自身の手で切り拓く……
未知への好奇心が人一倍強く、恐れることのない勇気がある。
だからこそ貴殿は地位も富も望むことなく、元の生活を選んだ。違うか?」
アルレインの洞察力の深さにシオリアは思わず舌を巻いた。
少ししか会ってないにも拘らず人の心をこれほどまでに見抜く観察眼…
戦った相手の太刀筋でその人が歩んだ人生が大まかに分かるという噂も
あながち間違いではないのかもしれない。
「そんなわけで貴殿を開拓者の一団としてスカウトしにきたってわけだ。
ただ…王宮があまり予算を付けてくれなかったせいで給料はあまり払えない。
貴殿にも家族がいるだろうから無理に来てくれとは言わん。だがもしこの話に
乗るというのであれば俺はいつでも大歓迎だ。これから俺はハルモニアで
開拓団編成の準備をしにいく。心構えが決まったらハルモニアに来てくれ。」
「わかった…よく考えておくよ。」
「うむ、良い返事を期待している。」
結局、話すだけ話した後帰ろうとするアルレイン。
彼もまた色々と忙しいのだろう。
「む、そうだ…貴殿に一つ言い忘れていた話がある。」
「おっと、まだ何か面白い話があるのかな?」
「面白いかどうかは分からんが重要な話だ。
俺もつい最近になって知ったのだが…どうやら魔王が討伐されたらしい。」
「魔王が討伐された!?それは本当かい!」
「うむ、なんでも遥か彼方の地で4人の勇者が魔王城に突入し、
激戦に次ぐ激戦の末に魔王を打ち倒したそうだ。」
「驚きだね。ただでさえアルトリアの歴史が大きく変わったのを
目の当たりにした上に、魔王の打倒が僕たちの生きている間に起こるなんて。」
「同感だ。どうやら俺たちは知らないうちに人類の大きな節目に立たされているようだな。」
魔界の中心から遥か遠く離れたアルトリアの人々にはあまり実感できなかったが、
魔王が討伐されたことにより魔物の勢力が急激に弱体化することは目に見えており、
逆に人類はますます勢いよく発展する可能性が高い。
「うーん…クラリッサにも何か悪い影響が出るかな?」
「分からん。何しろ過去の記録がないからな。」
「そっか。でも今のところは特に異常はないみたいだし、たぶん大丈夫さ。」
「そうだな、貴殿がしっかり世話をしていれば少なくとも貴殿より長生きするに違いないさ。」
「あはは…確かに。僕がお爺ちゃんになってもクラリッサは若いままってね。」
「(……)」
「まあまあそんな悲しそうな顔をしないでよ。僕だっていつかは寿命が来るんだから。」
「まったくな。人間の命の何と儚きことか。俺も後20年生きればいいほうだ。
おっと話がそれたな。とにかく魔王が倒れた今こそ我々が飛翔するときってわけだ。
じゃあいい加減俺はお暇しよう。あまり話しすぎるとお嬢様に蹴飛ばされるからな。」
そういって今度こそシオリアの家を後にするアルレイン。
今でこそ、魔王を倒しても魔物が絶滅することはなく、
また新しい魔王が誕生するのは常識と言っても過言ではないが、
この頃の人間は魔王を倒せば魔物がいなくなると本気で信じていたらしい。
客人が帰り、軽く夕飯をすませると
シオリアは所在無さげに、仰向けにベッドの上に寝転がった。
そしていつものようにクラリッサが首だけベッドの上に乗せてくる。
クラリッサの頭を撫でてやりつつ、黙々と思考にふけるシオリア。
「新天地か……どんな所なんだろう?自然が豊かで、気候が安定してて…
でも先住民族がいるとも言ってたしなぁ。どうしよっかねクラリッサ。」
「(?)」
「まあ君に聞いても首を傾げるしかないよね。」
「(…………)」
「そっか。」
クラリッサはどことなく「あなたの行くところならどこまでもついていく」
といいたそうな顔をしている。
「そうだね、君と一緒なら地の果てまで行けるような気がする。
だったら二人でどこまで行けるか試してみるのも悪くないかもね。」
シオリアの決意は固まった。
元より故郷や持っている財産には特に固執していないし、
弟妹たちを食べさせていければそれで十分だった。
それよりも、溢れだす好奇心は思えば思うほど膨れ上がり、
このまま待っていても、いてもたってもいられなくなるだけと判断した彼は、
翌朝の朝食で弟妹たちの了承を取り付けると、荷造りを任せて
自分はクラリッサと共にアルレインのいるハルモニアを目指した。
「やあアルレインさん。来たよ!」
「フフン(←得意げ)」
「ちょっとまて、なぜ貴殿が先にいる…」
ただ、クラリッサの足があまりにも速すぎたせいで、途中でアルレインを
追い越して、先にハルモニアについてしまったことをここに追記しておく。
それから二年―
ユリスに移り住んだシオリアはクラリッサと共に各地を駆け回っていた。
新天地での生活は時に楽しく、時に辛く、毎日が新たな発見の連続で、
退屈だった日はほぼ無かったと言ってよかった。
移住して間もないころは何もない土地での基点作りから始まり、
少ない物資をどうにかやりくりしながら街を作っていった。
さらには好戦的な先住民族とも交流しようと試みる。
初めのうちは侵略者と見なされて何度も攻撃を受けたが、
今では友好な部族も多く抱え、先進文明を伝授しているところだ。
だが、最も厄介なのはこの地方の魔物の強さだった。
スライムやラージマウスといった手ごろな強さの魔物はおらず、
代わりにオーガやサラマンダーといった非常に戦闘に強い魔物が
そこらを我が物顔でのし歩き、山岳にはドラゴンが普通に棲みつくなど、
危険な地域が数多くあり、探索の手を非常に煩わせていたのだ。
この地域の先住民族が戦闘に特化しているのはこういった理由だからなのだろう。
「ん〜〜っ、今日も一日ご苦労様っと!」
「フフッ」
「クラリッサもお疲れさん。はい、今日の夕ご飯だよ。」
「(〜〜♪)」
一仕事終えた彼らは、陽が落ちる頃に夕食を摂る。
照明用の魔法道具のおかげで最近は夜でも本が読めるくらい部屋が明るくなったが、
ここに来た当時はそうもいかなかったので、みんな早めに夕食をとっていたら、
二年経った今でもすっかり早めの夕食の習慣が付いてしまったようだ。
「どう、美味しいかい?そのニンジンはシュホルト族(先住民族の一つ)
からもらったんだ。まだ小さい畑だったけど、これからもっと大きくなるね。」
「(コクコク)」
「あとは……いつもと同じで林檎や桃ばっかりだけど。」
「(コクン)」
今晩のクラリッサの食事はニンジン4本に林檎5つに桃4つ。
相変わらずシオリアに食べさせてもらわないと何も口にしない彼女だが、
逆にシオリアから与えられる物はほぼ何でも喜んで食べる。
「じゃあ僕も夕食にしよっと。」
一方彼の夕食は黒パンとチーズ、それとウサギの肉。
黒パン以外のおかずは日々の供給によってコロコロ変わるが、
今日はなかなか豪勢なメニュー……だとシオリアは思っている。
「そういえば…クラリッサと出会ってからもう4年にもなるんだね。」
「(コクン)」
「後何十年もすれば、あのバフォメット……フェルリみたいに
僕とクラリッサも言葉を交わすことが出来るようになるのかな。」
「(………)」
「それともあれはバフォメットだから特別なのかな?
でもね、最近思うんだ。君ともっと色々話せたらってね。
まあ逆もありかもね!僕が馬語を理解するってね!無理か。」
フェルリ……前大戦で魔物のアルトリア侵攻において軍師をしていたバフォメット。
巨体から繰り出す圧倒的な物理攻撃、そして底知れぬ魔力を用いた魔法攻撃、
どちらも使いこなす難敵であり、アルレインの片腕を消し飛ばしたのも彼だ。
アルトリアが奪還された今でもこのユリスの地に逃れて魔物を集め、
再びアルトリアを手に入れようと画策しているようだった。
どうやらフェルリとアルレインの因縁はまだまだ終わっていないらしい。
フェルリは人語を解し、敵である人間とある程度コミュニケーションをとることが出来る。
本人にしてみればバフォメットだからむしろそれが当然だと思っているようだが、
大半の魔物は人語を解さず、相互理解は不可能。人間より知能が高いと言われる
ユニコーンですらも、言葉でコミュニケーションをとることはできない。
シオリアとクラリッサが意思疎通できるのは、深い絆で結ばれているからだが、
正確に意思疎通出来ているのかは両者ともまだ少し不安なのだ。
「人と…魔物…か。」
「…」
夕食を平らげ満足したクラリッサは、甘えるようにシオリアにしなだれかかってくる。
クラリッサがもし人間の女性だったらドキドキしてしまうだろう。
だがさすがのシオリアもユニコーンに欲情したりはしない。
あくまで彼女はパートナーであり、それ以上の関係には決して発展しない。
逆に、だからこそ安心して頭を撫でてやったりすることが出来るのかもしれない。
人魔歴0年………この年この月のこの日この瞬間世界は一変した
「あれ?……今何か身体を通り過ぎたような…?」
一瞬感じた違和感。あまりにも一瞬だったソレがなんだったのかは分からない。
気のせいだろう…そう判断しようとしたシオリアだったが、
その判断が彼の心で下される前に驚くべきことが彼の目の前で起こり始めた。
突如、クラリッサの上半身が謎の光に包まれたのだ。
「フ!?フフッ!フカーッ!?」
「え、ええっ!?クラリッサ!いったいどうなって…!?」
その光は…白くもあり、黒くもあり…青くもあり、赤くもあり…
とにかく表現しがたく、しかしどこか温かなその光は、
クラリッサの上半身を思い切り濃く、下半身を申し訳程度に薄く包む。
特に馬体の喉から上の部位の発光が非常に激しく、もはや原型が見えないほどだった。
「…………!……!!……………!」
「ど、どうしよう…何かの病気?…それとも呪い?」
今のシオリアにはクラリッサを抱きしめることしかできなかった。
何が起こっているのかは分からない。でも、決して離さない。
呪いが掛けられているなら、一緒にかけられてもかまわない。
どこかへ連れ去られるなら、一緒に連れ去られよう。
シオリアは覚悟を決めた。
しかし変化はさらに驚く方向に進んだ。
どういうわけか、顔から少し下のあたりの側面から光が徐々に伸びていた。
伸びる光は一直線にシオリアの両肩あたりを目指し、肩を越えたあたりで屈折する。
「これは………」
光は彼の首元にしがみつく形で止まった。傍から見れば不気味な光景だが、
本人は不思議と嫌な気持ちはしなかった。寧ろ光はクラリッサの体温に似て、
心地よい暖かさと安心感を与えてくれるようだった。
変化は進む。
伸びた光の正面部分の部位が圧迫するように膨らみ始め、
逆にその上の部分は絞られるように細くなっていく。
細く長かった顔も丸くなっていく。鬣は頭部に集まり、そこから急激に伸びる。
そして………
―パリン―
卵の殻が割れたような音と共に、身体を覆っていた光が消える。
「はあっ……はあっ……」
「くら…りっさ?」
気が付けば、シオリアの腕の中に絶世の美女がいた。
ウェーブがかかった青銅色の長く美しい髪の毛、
今まで見たことのないような整った顔立ちと額に一本の角、
肩を包んでいた光は細く華奢な腕と化し、肌の色は抜けるように白い。
また、バストは熟れたメロンのように大きく弾力性に富み、
抱きついているせいもあってシオリアの胸に押しつけられる。
伸びた背筋、シミ一つない美しい肌……しかし人間の表現が出来るのはここまで。
それより下はいくつか細かい相違点はあるものの、
おおむねユニコーンの馬体を維持していた。
「大丈夫かいクラリッサ!どこか痛い所とかない?」
「んぅ……ごしゅじん…さま……」
「気が付いたみたいだね。よかった。」
「あれ?私……?」
クラリッサは自分の身体を見渡す。
「ご主人様!私、半分人間になっちゃってます!」
「あはは、見れば分かるよ。不思議なこともあるんだね。
でも、クラリッサ…人間になっても凄い綺麗だ…。」
「…!ご主人さまと…ちゃんと会話できる!私ご主人様とお話してるっ!
うれしい……うれしいよぉ…ご主人様ぁ!」
嬉しさのあまり目一杯顔をシオリアの胸に擦りつける。
クラリッサがよく行う愛情表現だ。
「私…ずっとご主人様と会話出来たらいいなって思ってたの。
だって、頷きや鳴き声だけじゃ伝わらなかったことが…一つだけあったから…」
「僕も嬉しいよ。こうしてクラリッサの気持ちが直接伝わるから。言ってごらん。」
「うん。私ね…ご主人様のことが……大好き!」
「クラリッサ……」
「好き!大好きぃっ!やっと伝えられた!やっと伝わった!」
「ごめんねクラリッサ…君の気持にずっと気付いてあげられなくて。
でもね、僕もクラリッサのことを愛してる。君だけをずっと愛してるよ。」
「私のことを…愛してるって言ってくれた……嬉しい。」
二人はそのまま顔を近付け、唇を重ねる。
初めはただ重ねただけの軽い口付け。
だが、二度目はおもいっきり深く唇を重ね、舌の先と先が触れ合う。
一旦離してさらに三度目、今度はクラリッサの舌がシオリアの口腔に侵入、
まさぐるような動きで歯茎や頬の内側をなぞる。
「ぷはっ…!ごひゅじんひゃま……ひゅきぃ…」
「ずいぶんと積極的だね。そんなに慌てなくても僕は逃げないから。」
「らって……らって…」
半開きの口から舌がはみ出て、舌の先端から唾液のかけ橋が
シオリアの口へと続き、瞳はとろんとして目の焦点が合っていない。
「ああもうっ!可愛すぎるよ君は!」
「んんっ!?」
今度はシオリアの方から唇を重ね、クラリッサの口腔をまさぐる。
受け入れるクラリッサの顔はとろけきり、
その表情がより一層加虐心を掻き立てるようだ。
視線を少し下に下げると、胸に押しつけられている豊かな乳房が目についた。
「クラリッサの胸って、すごい大きいね。ちょっと触ってもいいかな?」
「はい…ご主人様、お好きなだけ触れて下さい………あっ」
にこやかな微笑みに促されて、シオリアはクラリッサの胸に手を添える。
「これは…想像以上だ。他の人となんか比べ物にならないよ……」
「っ!!ご主人様!」
「あ、ごめん…痛かった?」
「そうじゃないの!ご主人様は他の人のおっぱいを触ったことがあるんですか!?」
「あはは、何言ってるの。母親くらいしかないよ。もっとも記憶は全然ないけどね。」
「本当……ですよね?」
「だいたいさ、クラリッサがみんな追っ払っちゃうから、
妹以外の女の子なんて触れたことすらないよ。ふふっ、我ながら情けないね。」
「そうなんだ…えへへ、よかった。私はご主人様を…他の人に取られたくないの。
だから…ね。私以外の女の子のおっぱいなんて触っちゃだめだから…」
「そうだね……こんなに綺麗な恋人がいるんだし。」
あいかわらずのクラリッサの嫉妬深さに苦笑いしつつ、
胸に伸ばした手に少し力を加える。
柔らかく弾力のある乳房は、手の動きに合わせて形を変える。
きめ細かな肌触りと、適度に温かい体温を伴い、
手をそっと触れているだけでもすごく気持ちがいい。
シオリアは未知の感覚に思わず夢中になってしまった。
「クラリッサの胸は本当に気持ちいいね。こうして揉んでいるだけでも
くらくらして……思わず吸いつきたくなるくらいだ。人間の本能なのかな?」
「あっ、はぁっ、ご主人様になら何をされても構いません!」
「そう…じゃあちょっと恥ずかしいかもしれないけど……」
そう言って、乳首にチュっと口付けする。
「んあぁっ!?そんな……ご主人様、痺れてしまいます……」
「おやおや、少し触れただけなのに…感じやすいんだね。」
「お願いしますご主人様!もっと私のおっぱいを吸って!
私の胸をご主人様だけのものにして……好きなように使って!」
「ふふ……本当にいやらしいね、クラリッサは。
意地汚いユニコーンにはお仕置きが必要かな。」
今度は舌でなめ回した後、大胆に口に含む。
それだけでクラリッサの身体に強い電流の様な感覚が走る。
「やあっ!?ご主人様、それ…気持ちよすぎる!すごい!こんなの初めてぇ!」
あまりの気持ちよさに顔を仰け反らせるクラリッサ。
押し寄せる快感の波が徐々に彼女の理性を洗い流していく。
シオリアも、見えを一切捨てて子供のようにクラリッサの乳房を貪る。
ふと、下半身のあたりが湿っぽくなってきたことに気が付く。
一体何が起きたのかとさらに視線を下げると、
人体と馬体の境目あたりに窪みがあり、
そこから暖かい液体がとめどなく溢れているのが分かった。
「あれ……ここってまさか…いや、馬の生殖器官は尾の付け根あたりだったはず。
でも、ここの位置は…僕の知識が間違っていなければ人間女性の……」
「んっ…ご主人様、ごめんね……私、もうこんなに濡れちゃったの…
……私は、早くご主人様のものになりたいの。お願い…。」
「クラリッサ…いいよ、おいで。」
「ご主人様!」
我慢の限界だったクラリッサは、生えたばかりの手を使って
シオリアの着ている物を乱暴にはぎとっていく。
上着のボタンを素早く外し、シャツをまくり、ベルトを外し、
ズボンを下ろし、下着を脱がし…あっという間に彼は裸に剥かれる。
今は夏から秋に移ろうとする季節なので寒くはなかった。
しかし、何も着ていないというのは結構恥ずかしい。
「これは…ご主人様の男性器………だよね?」
「う、うん。見られるとちょっと恥ずかしいけど。」
「こんなに大きくなったところは…初めて見た…」
シオリアが沐浴する時や着替える時など、
シオリアの男性器を目にする機会は今まで何度もあったが、
勃起しているところを見るのは初めてのようだ。
クラリッサは興味津々に屹立に手を伸ばし、
腫れものに触れるかのようにゆっくりと優しくなぞっていく。
「ご主人様の……すごく熱い、それに脈打ってる。
これが今から私の中に……あぁ、すごいドキドキする……」
「挿れるときはすごく痛いって聞くから、気をつけてね。」
「はい…ご主人様……」
ベッドの上に腰かけるシオリアに向かいあうような態勢のクラリッサは、
前足をベッドの上に乗せ、手をシオリアの肩に添える。
そしてゆっくりと腰を下ろし、自らの秘所に屹立の先端をあてがう。
「私の初めてを…ご主人様にあげる。だから…ご主人様の初めてを……もらうね。」
シオリアは何も言わずゆっくりうなずいた。
それを切っ掛けに、クラリッサは腰を沈めてくる。
クラリッサの膣内に潜り込んだ屹立はすぐに狭まった個所で一時停止する、
しかし、意を決したクラリッサはわずかに腰を浮かせた後、
二倍の力を持って再び一気に腰を沈める。
するとシオリアの剛槍が障害となっている個所を貫通し、
そのまま際限なく奥に奥にと吸い込まれていく。
「んっ、んんんんんんん!」
「くっ…これは……」
侵入した途端、強い締め付けと熱の塊が二人の意識を吹き飛ばした。
そして…内部に侵入する屹立は行き止まりにぶつかる。
瞬間、クラリッサの身体に今まで感じたことのない強い衝撃が走り、
その圧倒的な感覚をどう受け止めていいか分からなかった。
「やっ、やあああああぁぁぁっ!?」
「ま、待ってクラリッサ!そんなに締め付けたら……うぁっ!?」
シオリアがクラリッサの最奥にぶつかった快感でクラリッサは絶頂に達してしまい、
絶頂によって急激に締め付けられたシオリアも、快感を我慢することが出来なかった。
二人とも初めてだったせいか、動く暇もなく達してしまったようだ。
シオリアの屹立から吐き出された精液が彼女の膣内に満ちていき、
行き場を失った分が結合部分から彼女の血と共に溢れ出ていた。
さまざまな感覚がごちゃ混ぜになり脳が混乱してしまった二人は、
正気を取り戻すまでに1分近く要した。
「はぁっ、はぁっ……クラリッサ、大丈夫かい?」
「ううっ…ご主人様ごめん、我慢できなかった……
ご主人様に気持ちよくなってもらおうと思ったのに…失敗しちゃった……」
「泣かないで…クラリッサ。僕だって失敗しちゃったし、お互い様だよ。
それに、失敗したなら成功するまで何度でも挑戦すればいいんだから。
ね、少し落ち着くまで待ってあげるからさ。」
「は、い……ご主人様。んんっ、はっ…あぁ……」
クラリッサを落ち着かせるように、髪の毛をそっと撫でてあげる。
興奮した時や、寝る前にはこうしていつもシオリアに撫でてもらった。
そうすると、落ち着くような気持ちよさに包まれて安心できる。
「ご主人様…動いていい?」
「いいよ。でも、無理しないでね。」
意識をしっかりと取り戻したクラリッサは、今度こそ腰を動かし始める。
今の体勢だと下半身が馬体のクラリッサ相手ではシオリアが動くことが難しいので、
必然的にクラリッサが騎乗位のように腰を動かさなければならない。
「あぁ……本当にご主人様と繋がってる…やっと一つになれた…
ずっとずっと、ご主人様と一つになりたかったの!」
「んっ…それって、姿が代わる前からかい?」
「うん!だから私は他の人にご主人様を取られたくなかった!
叶わない望みだって分かってたけど、でもご主人様が他の人と
交尾してほしくないって思ってたから!んんっ…はぁぁ……」
「そっか……僕もね、たまに性欲を持て余すこともあったんだけど、
その時に…もし君の中に入ることが出来たらって考えたこともある。
でもね、そんなことしたらクラリッサに嫌われるんじゃないかって思って……」
「人と魔物……やっぱり完全なコミュニケーションなんて出来なかった。
でも…いまはこうして……んっ、二人で愛し合える。まるで…夢みたい。」
そうしているうちに、再び締め付けが強くなっていく。
クラリッサの膣内は溢れだす大量の愛液と先ほど出した精液が混ざって
淫猥な水音を立て始めている。それに合わせクラリッサの腰の動きも加速し、
シオリアの屹立に容赦なく快感をもたらす。
「く…クラリッサ?あんまりやりすぎると、またすぐに果てちゃうかも?」
「だ、だって…ご主人様と繋がってると……嬉しすぎて、
腰……とまらなっ、勝手に…動いちゃうっ!はっ…はぁっ…あっ!
ご主人様…!好きっ!大好き!もっとご主人様をっ!」
深く腰を沈めながら、同時に唇を重ねる。
貪欲に快感を求めるクラリッサの舌がシオリアの口の中を蹂躙する。
シオリアもお返しとばかりにクラリッサの胸に手を沈め、
先ほどよりも乱暴に揉みしだく。加減を知らない二人の行為は、
快感を際限なく増幅させ、さらに肉欲を刺激していった。
「くっ、あぁ…クラリッサ、もっと君を感じさせて。全てを忘れるくらいに。」
「はいっ!んっ、はっ…んんっ!もっと…私を感じて!」
一秒でも長く快感を貪っていたかった。しかし、増大しすぎた快感は
二人の行為の歯止めを失わせ、エクスタシーの高みへ向かわせる。
まだ行為自体に慣れてない二人にこの波を止めることは難しかった。
「やぁ…ご主人様ぁっ!私、また…イって、しまいそうっ!
もっと、もっと!ご主人様を感じたいのに!」
「奇遇だね…。僕もそろそろ、限界が近いよ……っ」
「ご主人様!ご主人様っ!また…さっきみたいに……
私のお腹の中に…赤ちゃんの素をっ、いっぱい…ほしいの!
火傷しそうなくらい熱くて…お腹が一杯になるくらい多く…!
あっ、やっ!飛ぶ!飛んじゃうっ!あっ、あっ、あっ、あっ……
あああああぁぁぁぁっ!!」
「あ……くっ…」
二人同時に二度目の絶頂を迎える。
二度目にもかかわらず、初めての時と勝るとも劣らない量の精液が
膨大な熱量を伴ってクラリッサの膣内に浸みわたる。
耐えがたき快感に二人はギュッと目を閉じ、強く抱き合う。
絶頂に達した後も二人の息は荒く、意識を整えるのに精いっぱいだった。
「はぁっ、はぁっ…素敵だったよ、クラリッサ。」
「私もです…ご主人様。愛し合うのが…こんなに心地いいなんて…」
「ん…僕もだよ。」
「それに…こんなにたくさん、ご主人様の想いが籠った精をもらって…
私はとっても幸せです。ご主人様、愛してる。んっ…」
二人は再び深く唇を重ねる。
絶頂の余韻が収まると、クラリッサはその場に立ちあがって屹立を抜いた。
彼女の膣壁が別れを惜しむかのように絡みついていたが、
やがて、こぷっという音とともに屹立が中から抜けだした。
「ねぇ…ご主人様。」
「ん、なんだい?」
「次は後ろの方の初めてももらってほしいな。」
「後ろの方……ってそっちもあったのか。」
まさか性器が二つあるということにシオリアは驚いた。
「うーん、でもちょっと…さすがに三連続はきついかな?
後ろの方はまた明日にでも……」
「それっ、かいふく〜〜」
「あれっ!?うそ…」
クラリッサはここぞとばかり角の治癒魔法でシオリアの男性器を回復させる。
すると、なえていた彼の分身はまた勢いを取り戻してきた。
「また明日なんて言ったら、もしかしたら私がどこかの誰かに襲われて
後ろの処女を取られちゃうかもしれないじゃない。」
「そ、そうかな?」
「それとも…ご主人様は私のこと……愛してくれないの?」
「何言ってるの、そんなことあるわけないじゃないか。
もう、君には勝てないな。じゃ、後ろにも入れてあげよう。」
「嬉しい!今度はご主人様が動く番だからね。」
「わかってるって。」
二人は今度は後ろの性器で交尾を行い、それが終わると前に、
そしてまた後ろにと、数え切れないほど繰り返すこととなった。
クラリッサの回復魔法によりシオリアは一向に衰えず、
消費する魔力はシオリアの性をもらって補充するため底をつかず、
ついには三日後に姿が見えないから心配になった弟妹たちが、
家の外から声をかけるまで行為を続けたらしい。
二人が初めて愛し合った日から数週間が経った。
初めのうちはとりあえず愛馬が半分人化し、ついでに愛し合ったということを
同僚たちにどう説明したらいいかかなり悩み、結局成り行きに任せることにしたが、
いざ同僚たちに会いに行ってみると、そこにはトカゲの尻尾をはやした女性剣士が
いたため、同僚たちからは『何だお前の愛馬もか』くらいの反応しかしなく、
寧ろシオリアやクラリッサの方がさらに混乱するくらいだった。
アルレインから話を聞いたところ、どうやらこの世界に新たな魔王が誕生し、
原因はよく分からないが魔物が例外なく全て人間女性のような姿に
変わってしまったというのだ。目の前のリザードマンも元は雄だったそうで、
それ以外にも畑を荒らすブラックハーピーや、開拓団を苦しめたオーガも、
果てはアルレインの宿敵だったバフォメットのフェルリが、
人間の幼児並みにまで身長が縮んでいるのには非常に驚いたものだ。
しかし今ではこの異常事態に皆すっかり慣れてきていて、
魔物と親しく話す者もちらほら見かけるようになった。
「まさか魔物がみんな女の子になっちゃうなんてねぇ。不思議なこともあるんだね。」
「でも、そのおかげでこうしてご主人様と愛し合えるんだもの。」
シオリアとクラリッサも仲間内ではすっかりバカップル認定されており、
普通に街を歩いていると「あれ?今日お前は休業か?」とからかわれたり、
気が早い者は、赤ちゃんが生まれたら使うといいと言って
育児道具をプレゼントしてくる者がいる始末。
だが、一つだけ言えることは…誰もが皆、何の偏見も持たずに
二人の中を祝福してくれた。それだけで、非常に嬉しかった。
「ねぇご主人様、私達も早くみんなの期待にこたえてあげようよ。」
「うん、そうだね。帰ったらまた……」
「はぁぁ…楽しみ。」
睦ごとを交わしながら家路につく二人の姿は、
まるで陽を受けて輝く桔梗のように美しかった。
額に伸びる一本の角と白く美しい毛並みが特徴のケンタウルス種の魔物。
魔物ながらも『純潔』『貞操』『柔和』の象徴とされ、性格は温厚で献身的。
さらに彼女たちが夫として選ぶ男性は一度も性交を経験してない者に限られ、
生涯ただ一人の夫に尽くし続けるという変わった性質もある。
これは彼女たちが独特の魔力素を持っているため、
別の魔力が混ざって変質するのを防ぐためだとされている。
なので、魔界ではあまり好まず、もっぱら自然が豊かな地に生息する。
(なお、魔力の影響を受けたユニコーンがどうなるかについては、
後日改訂される予定の魔物図鑑を参照されたし。)
そんなユニコーンであるが、現魔王陛下が即位される前の時代…
即ち魔物が『魔物娘』になる前の時代ではどのような生態だったのだろう?
元々ユニコーンは性格が大きく変わった以外は特に個体としての変化はなく、
ユニコーンの特徴的な能力である角の魔力による強大な治癒力をはじめ、
自然豊かな森林に群れを作らず常に一匹で生活していたようだ。
しかしながら、先ほど述べたように性格は大きく異なる。
今でこそユニコーンは人間に対して非常に好意的で、
どの生物に対しても敵対的な意志を持つことは殆どないが、
元々ユニコーンは非常にプライドが高く、むしろ人間どころか
同じ魔物相手にすら明確な敵意を持っていたと言われている。
ケンタウロス特有の機動力に加え、額の角は鋭く、戦闘にも向いていた。
ユニコーンの不興を買った生物は貫けない物はないと言われる角の一撃で貫かれ、
無尽蔵とも言える治癒力は瀕死の重傷を負った時にも戦闘続行を可能にした。
このように、前時代のユニコーンは人間にとって危険な魔物であったといえる。
(もっとも、危険ではない魔物を探す方が難しい)
前述の通り前時代のユニコーンはプライドが非常に高く、
特に人間に対しては出会った瞬間から問答無用で敵視してきた。
伝承によれば、人の力では殺すことは出来ても、
生け捕りにすることは出来なかったという。たとえ生きたまま捕らえられたとしても、
絶対に飼い馴らすことは出来ず、激しい逆上の中、自殺してしまうという。
今からしてみれば考えられないかもしれないが、ちょっと考えてほしい。
仮に今あなたが屋根裏部屋に住むような薄汚いネズミに襲われて、
抵抗むなしくネズミの群れに倒されてしまい、家畜とされると想定するなら…
当時のユニコーンにしてみれば人間など下等生物でしかなかったのだ。
ただ、唯一処女の女性だけには心を許したともいわれるので、
現在のユニコーンの性格はそこから発展したのかもしれない。
さて、読者諸君はユニコーンの夫婦を見かけたことはあるだろうか?
見たことがある者なら分かるはずだ、あの忌々しいまでのいちゃつきぶり。
その時彼らは、ユニコーンの背に夫を乗せて歩くことも珍しくない。
まあそもそもケンタウルスはかなりの恥ずかしがり屋なので
恋人を背中に乗せることすら躊躇う者も多い中、ユニコーン夫妻は
むしろ当たり前のように騎乗していたりするので、印象に残りやすいはずだ。
だが、前時代のユニコーンでは性格上それはほぼ不可能。
決してなつかないと言われるくらいであるから当然だ。
ところが、前時代にもユニコーンを手懐けた人がいたらしい。
そのような例は極めてまれであり、信憑性に欠けることが多いが、
興味深いのはそのうちの一つに丁度、魔王交代の時期に
活躍した人物の記録があることだ。
では前書きはここまでにして本題に入るとしよう。
昔々、アルトリアという国のオルトヴァ地方にシオリアという男がいた。
くすんだ銀髪に人懐っこそうな顔が特徴、背は平均程度だった。
明るく気さくな青年で、また若干天然ボケ気味だとも言われている。
彼はウェリトラエという辺境の町で生まれ育ち、
幼い弟妹の面倒を見ながら伝馬(馬を使った郵便配達)の仕事をしていた。
貧しいながらも平和で穏やかな日々を過ごしていた彼は、
元々は戦いとは無縁の人生を送るはずだった。
だが、その平穏な生活は突如破られる。
紀元前4年…つまり現魔王陛下が即位なさる4年ほど前。
アルトリア王国に魔物の大軍が侵攻。その数は50万とも100万ともいわれる。
さらに人間の中にも『蒼褪めたヴェール』という破滅思考を持った者達が
魔物と結託したため、アルトリア王国の善戦空しく首都は陥落。
国土の3割は魔界となり、残る大半の地域も蒼褪めたヴェールが支配し、
アルトリアは急速な勢いで荒廃していったのだった。
シオリアの故郷ウェリトラエにも頻繁に魔物が襲来するようになり、
度重なる戦闘で兵が摩耗、ついには民兵まで駆り出されることになる。
彼もまた民兵として徴兵され無理やり戦場に出されることになった。
シオリアには戦闘経験などなかった。しかし、日ごろ身体を鍛えていた成果だろうか、
持ち前の馬術を駆使して奮戦、一般兵に勝るとも劣らない戦果をあげた。
さらに彼の幸運は続く。
アルトリア王家の唯一の生き残りだった王女ルーシアがウェリトラエに逃れてきた。
その王女ルーシアを救いウェリトラエまで連れてきたのが、勇者フライヤーだ。
勇者フライヤーはウェリトラエの領主の力を借りてアルトリア解放軍を結成、
この時シオリアもまた誘いに応じてアルトリア解放軍の一員となる。
勇者フライヤー率いるアルトリア解放軍は機を見て反攻作戦を開始、
各地で同志を増やしながら魔物や蒼褪めたヴェールと戦ってゆく。
それに従いシオリアも潜在能力を開花させ、目覚ましい働きを見せた。
特に馬の扱いが抜群に上手く、柵くらいなら乗馬したまま乗り越えたとか。
解放軍に身を投じて半年ほどが経った頃だろうか。シオリアに大きな機転が訪れる。
とある村で、森に住む凶暴なユニコーンを退治してほしいという依頼が来る。
なんでも少しでも近付けば額の角で突き殺されてしまうため、
安心して森で狩りをしたり採取したりすることが出来なくて困っていたらしい。
シオリアは依頼を引き受けた。出来るという自信からというよりも、
初めて見るユニコーンがどのようなものか興味深かったからなのだろう。
探索の末シオリアはユニコーンに遭遇。
そのユニコーンは白く美しい毛並みに青銅色の鬣を持ち、
体つきも軍馬はおろか、そのあたりの名馬すらも遠く及びつかないほど
しなやかで且つ力強い体躯を誇っていた。だが、美しい見た目とは裏腹に
気性は非常に荒く、鋭い眼光は射抜かれただけで思わず身体が
止まってしまいそうであった。額に生えた角は岩で研ぎ澄まされており、
突撃時の威力は鋼の槍とは比べ物にならないだろう。
彼とユニコーンの対決は今でもしっかりと記録に残っている。
シオリアを見つけた瞬間、何のためらいもなく突き殺そうとするユニコーン。
だが彼は攻撃をかわし続け、驚くことに隙を見て背中に乗ることに成功した。
元々シオリアは脚力や腕力が非常に優れていたため、
ユニコーンの突進を跳躍で避け、樹の枝を軸に背中に着地できたのだ。
振り落とそうともがくユニコーン。シオリアも振り落とされまいと鬣をつかむ。
ユニコーンの暴れぶりは凄まじかった。全力疾走、急停止、棹立ち、急旋回を繰り返し、
果ては自分にもダメージを負うことも覚悟で大木に突進したり、
岩に身体を打ちつけたり、大胆に横転するなどもした。
けれどもシオリアはぼろぼろになりながらも落馬することはなかった。
さらに上手いことにユニコーンが自身に回復魔法を使えば、
ぴったりとくっついているシオリアにまで効果が及んでしまう。
いつ死んでもおかしくない必死の攻防は翌日の夜明けまで続いた。
シオリアの仲間も援護しようと試みるが、鬼気迫る攻防を前に
近付くことすらできず、ただ傍観しているほかなかった。
丸一日の戦いの末、ついに疲れ果てたユニコーンはシオリアに屈した。
彼は卓越した馬術でユニコーンを乗りこなしたのだ。
大人しくなったユニコーンに素早く轡と鐙を付け、自分のものとし、
ユニコーンは雌であったことから『クラリッサ』と名付けた。
英雄『桔梗の騎兵(ベルフロムハザーエ)・シオリア』誕生の瞬間だった。
最強の愛馬を得たシオリアにもはや敵などない。
あれだけ激しく抵抗したクラリッサはすっかりシオリアに懐き、
戦場に出れば人馬一体の突進で阻む者を片っ端から蹴散らした。
角の魔力による回復も健在で、傷を受けてもたちどころに回復した。
一介の伝馬青年がここまで強くなるとはだれが想像しただろうか。
それからさらに一年間、勇者フライヤー率いるアルトリア解放軍は戦い続け
ついに首都アルトリアを奪還し、クランガ山で前魔王四天王の一体である
蛮魔オルタスと、彼が自身の命を犠牲に召還した赤炎竜アンケロンとの決戦に勝利。
こうしてアルトリア王国は平和を取り戻し、荒れた魔界は元の豊かな大地に戻る。
救国の英雄フライヤーは王女ルーシアと結婚し、新生アルトリア国王として
戦争で傷ついた世界を復興していくのだった。
戦争が終わり、シオリアも英雄として騎士階級を授与されたが
彼はそれを受け足らず、再び貧しいながらも平穏な日々を望んだと言われる。
さて、英雄となったシオリアには、愛馬クラリッサにまつわる様々な逸話がある。
激闘の末シオリアの愛馬となったクラリッサだったが、シオリアには懐いても
他の人間には相変わらず懐かなかったと言われている。
うっかり馬体に触ろうとすれば、強烈なキックをお見舞いした。
どうやらクラリッサは相当嫉妬深いユニコーンだったらしく、
女性に対してはシオリアに近付くことすら許さなかった。
それどころか雌馬すらも嫉妬の対象になり、片っ端から追い払った。
餌もシオリアから与えられる物以外は一切口にしなかったという徹底ぶり。
しかもそれだけでもまだ満足できなかったのか、
厩舎に繋いだ後もシオリアと離れるのを大いに嫌がり、
根負けしたシオリアはそれ以来どんな立派な町に滞在する時でも
クラリッサと共に厩舎で寝泊まりしたという。さぞ馬臭くなったことだろう…
本人は「馬小屋って意外と住み心地悪くないね。いやむしろ気に入った」
と言っていたそうだが、俄かには信じがたい話である………
とにかく、呆れるくらいクラリッサは四六時中シオリアにべったりで、
折角端正な顔で異性にもてそうだったにもかかわらず浮いた話は全くなく、
「桔梗野郎はユニコーンと添い遂げるつもりだ」とさえいわれた。
ただ本人も人間女性にあまり興味を示さなかったらしいが。
シオリアは解放軍が目的を達成、解散した後は軍隊に残らず
クラリッサと共に弟妹が待つ故郷ウェリトラエに戻った。
彼は故郷で再び伝馬として働こうと考えていた。
その気になれば富も名誉も得放題であったにもかかわらず、
なによりも家族とそしてクラリッサと穏やかに暮らすことを望んだ。
しかし、故郷で彼を待っていたのはささやかな出迎えではなく、
町が輩出した偉大な英雄としての大規模な歓待だった。
世界を救った勇者の反攻の地となった栄誉だけでもこの上なく嬉しい上に、
一緒になって付いていった名もなき青年が有名人になって帰ってきたのだ、
領主を始め故郷の民の喜びは想像に難しくない。
確かに、大勢の人に歓迎されたのはとても嬉しかっただろう。
だがその後の生活は意外と不自由だったらしい。
英雄として祭り上げられた彼は当然伝馬などという下級の仕事は
似合わないと言われ、家も無償で豪華な邸宅が用意された。
ところがクラリッサが彼と離れたがらないので結局家を改装して
クラリッサも一緒に屋内で住めるようにしたらしいが、
日頃から質素な生活をしていた彼は何の不自由もない環境が落ち着かなかった。
せめて何か仕事をと申し出るが、彼に与えられたのは
再び軍務について兵士たちの指導をしてほしいという要望だった。
仕方なく彼は申し出を受けて再び軍隊に戻ったが。
そしてその数ヶ月後…はるか遠くの地で、魔王が勇者に打ち倒される。
紀元前2年のことであった。
…
「はい、じゃあ今日の訓練はこれで終わり。気をつけ!礼!」
『ありがとうございました!!』
とある夏の日の午後―
暑い日差しが照りつける中、騎乗した青年…シオリアの号令が響く。
今日も今日とて新人騎兵の訓練を指導し、次代の精鋭を育成している。
「いつも言っているように、帰ったら馬の手入れを欠かさないようにね。」
『はーい!』
「あと、たまにでもいいから馬と一緒に寝食を共にしてあげようね!」
『ムリーっす!』
「だよね……あはは。」
半ば本気の冗談を交わしつつ、シオリアもまた訓練の汗をぬぐうため
布切れで軽く顔を拭き、続いてユニコーンから降りて自分の身体以上に丹念に拭いてやる。
「クラリッサもお疲れ様。今日もあんまり動かなかったけど…ごめんね。」
ユニコーン…クラリッサはシオリアの呼びかけにコクンと頷く。
彼女とシオリアはこうして頷きや首ふりで普通に意思疎通できる。
「さ、今日も暑いからいつものように泉に水浴びに行こっか。」
クラリッサは先ほどよりも大きくコクンと頷いた。
あの激しい戦いの日々が終わってどれほど経っただろうか?
一介の伝馬から兵士となり、勇者と共に戦い続け、
ある時、暴れユニコーンだったクラリッサを激闘の末、手懐けた。
それ以来彼の活躍はとても目覚ましく、また華麗であった。
ついには『桔梗の騎兵』の二つ名を持つ英雄となったシオリアは、
騎士や貴族と言った地位や莫大な報酬を固辞して故郷に戻ってきた。
彼にとってそのような物は自分の身を縛る不要のものとして、
愛馬のクラリッサと充実した日々を過ごせればそれでいいと考えていた。
ところがいくら彼が富や地位を拒否しようとも、名声だけは別だった。
故郷の街でも英雄として大いに称えられた彼は、三日三晩の祝祭の後、
領主の意向を受けて、結局軍事教官として兵士の指導をすることになった。
彼自身は再び伝馬役として郵便配達することを望んでいたのだが、
稀代の英雄にそのような仕事をさせるわけにはいかないとして断られた。
そして、彼の愛馬クラリッサもまたその美しさゆえに人々の興味を
大いに引くこととなったのだが、凶暴な性格はまだ持っており、
迂闊に近付くと額の角で威嚇してくる。
それでもなおその馬体に触れたいと実力行使に出た愚か者もいたが、
ある者は強靭な後ろ足で蹴飛ばされ、顎の骨を砕かれる大けがを負い、
またある者は鋭い角に突かれ、危うく死ぬところであった。
それだけにとどまらず、女性はシオリアに近付くだけでも
敵意をむき出しにするほど嫉妬深い。実際、シオリアに近付いた女性は、
殺されはしないものの(無暗に殺すとシオリアに迷惑がかかるから?)、
やはり蹴られたり、話している間に身体を割り込ませたりと、
徹底的に妨害行為をしてくる。
そのせいか、なかなか端正な顔立ちで、性格もいいシオリアだが
今まで付き合った女性はおらず、浮いた話一つすら出ない。それどころか
「桔梗野郎はユニコーンと添い遂げるつもりだ」と仲間に言われたくらいだ。
「よいしょっ…よいしょっ……はい、次は後ろ足っと。」
町の外に広がる森にある泉でクラリッサの身体を丁寧に洗ってやる。
クラリッサと出会ってから今日にいたるまで、よほど時間がない日以外は
一日たりとも毛並みの手入れを欠かしたことはない。
彼が毎日手入れしていることもあってクラリッサは常に美しく、
気品のある姿を保っていられるのだ。
ゴーシ、ゴシ、ゴシ、ゴーシ、ゴシ
「んっしょ…よいしょ……どう、気持ちいいかい?」
「(コクン)」
「うん、それはよかった。今日は暑くてたくさん汗を……君はユニコーンだから
この程度じゃ汗かかないよね。むしろ汗をたくさん掻いたのは僕の方だったね。
あ、だからと言って手は抜かないから安心しな。…じゃあ流すよー。」
ジャバジャバジャバ…
身体を満遍無く磨きあげると、桶で水を汲んで全身を洗い流す。
後は木綿布でよく拭いてあげれば水浴び完了だ。
磨くのにかけた時間は1時間半…シオリアの徹底ぶりがうかがえる。
洗い終わったクラリッサの顔もどことなく嬉しそうに見える。
「うん、綺麗になった!元々君は綺麗だけど、こうして磨いた後は
また一段と凛々しく見えるよ。……と、こんなこと言うと
なんだか恋人同士みたいだ…なんてね。」
「(スリスリ♪)」
「あはは、君もそう思ってくれるんだ…嬉しいな。」
愛おしそうに顔をすりつけてくるクラリッサを撫でてやると、
本当にクラリッサと一生を添い遂げてもいいと思えてくる。
むしろ、絶対に人に懐かないと言われるユニコーンと
一生を添い遂げられるのはとても幸運なことじゃないかとも思えた。
「そうだ、明後日あたり久々に遠乗りしよっか。たまには思いっきり走りたいでしょ。」
「(コクコク!)」
クラリッサの手入れを一通り終えて、夕暮れ時に家に帰宅すると
シオリアの妹(次女)が玄関で出迎えてくれた。
「ただいまー!」
「おかえり兄さん。お客さんが来てるよー。」
「お客さんが来てる?誰だろう?」
「ん〜、何か見たことない人だけど、王都から来た軍人さんみたい。
長い金髪で黒い服着て……あと手が片っ方無いの。」
「手が片方ない?…ああ、わかった。」
「クラリッサちゃんもお帰りっ!今日も綺麗にしてもらったんだね。」
「(……)」
一応シオリアの家族には近付いても特に敵意を向けなくなった。
愛想の悪さは相変わらずだが。
さて、客人は妹が言っていた通り金の長髪に全身黒一色の鎧、
腰には長めの刀を差し、そしてなによりも左腕がなかった。
「御機嫌よう『桔梗の騎兵』殿。遅くに失礼している。」
「こんばんわ、やっぱりあなただったんだねアルレインさん。
それと…『桔梗の騎兵殿』は堅苦しいから遠慮したいなぁ。」
「おっと、英雄殿に失礼のないようにと思ったのだが、
むしろこちらの方が失礼だったようだな。済まなかったなシオリア殿。」
「英雄どのなんてそんな…。」
「まあそう謙遜しなさるな。」
客人…アルレインも先の大戦でシオリアと共に戦った仲間の一人である。
シオリアとは同い年だが、彼は高名な武官一族の出身だった。
彼はアルトリア陥落の際に、王女と新人騎士たちを逃がすためにたった一人で殿を務め、
その際自分の片腕と引き換えに敵の幹部のバフォメット・フェルリに瀕死の重傷を
負わせた……が、奮戦むなしく捕らえられ、邪教集団『蒼褪めたヴェール』に
操られるまま敵として殺戮の限りを尽くした。
しかし、王女ルーシアが奇跡を起こし、彼は正気を取り戻す。
以後、アルレインも解放軍の一員となって仲間と共に人間の勝利に貢献したのだ。
ただ、仲間になったのがかなり後半だったせいで、シオリアとはあまり面識はない。
それでも『片腕』といえばアルレインの顔が思い浮かぶくらい彼も有名ではある。
「それにしてもアルレインさんがわざわざこんな所まで来るなんて。
手紙の一通でもくれれば僕がそっちまで行ったのに。」
「はっはっはっ、俺が貴殿を手紙一枚で呼び出すなんてことしたら、
『裏切り者風情が英雄様に対して失礼だ!』なんて云われるのが関の山だ。」
「あはは…あまり虐めないでほしいなあ。クラリッサに突っつかれるよ。」
「(ギロリ)」
「おおう、相変わらず嫉妬深いお嬢様でございますな。こう見ても俺は男ですが。
ではクラリッサお嬢様の機嫌を損ねないよう単刀直入にお話ししよう。
シオリア殿は新天地に興味はないかね。」
「新天地?まさか新天地を共に開拓しようと?」
「そのまさか、というわけさ。このたびアルトリア王宮では国力増強のために
未開の地を開発しようというつもりだ。そして俺も責任者の一人に選ばれた。」
「ふうん……確かにちょっと興味深い話だね。もう少し詳しく聞かせてくれるかい。」
アルレインの話によると、度重なる戦によって難民が増え、国土も荒れてしまったために
新しく土地を開発して国力を回復するのが目的らしい。
候補に挙がった地はアルトリアの最西端ハルモニアからさらにずっと西…
野蛮な戦闘民族が跋扈するユリスという地域らしい。
その地に住む先住民族を文明化して、豊かな大地を切り開こうという思惑だ。
「とまあざっとこんな感じだな。」
「…あの、言っちゃ悪いかと思うんだけど……これ一種の左遷では?」
「んー、まぁそう言えばそうだな。何せ一度は死んだと思われた人間だからな、
自分で言うのもなんだが俺はもともと名門だし、扱いにくいだろうよ。
でも俺はむしろこの任務は非常に楽しみだ。冒険心を掻き立てると思わないか。」
「確かに。」
「だろう?それに俺の勘が正しければ…貴殿は今の境遇には満足していまい。」
「!」
「共に戦った時期こそ短かったが、貴殿の戦いぶりを見ると分かる気がするんだ。
型にはまることを良しとせず己の道は己自身の手で切り拓く……
未知への好奇心が人一倍強く、恐れることのない勇気がある。
だからこそ貴殿は地位も富も望むことなく、元の生活を選んだ。違うか?」
アルレインの洞察力の深さにシオリアは思わず舌を巻いた。
少ししか会ってないにも拘らず人の心をこれほどまでに見抜く観察眼…
戦った相手の太刀筋でその人が歩んだ人生が大まかに分かるという噂も
あながち間違いではないのかもしれない。
「そんなわけで貴殿を開拓者の一団としてスカウトしにきたってわけだ。
ただ…王宮があまり予算を付けてくれなかったせいで給料はあまり払えない。
貴殿にも家族がいるだろうから無理に来てくれとは言わん。だがもしこの話に
乗るというのであれば俺はいつでも大歓迎だ。これから俺はハルモニアで
開拓団編成の準備をしにいく。心構えが決まったらハルモニアに来てくれ。」
「わかった…よく考えておくよ。」
「うむ、良い返事を期待している。」
結局、話すだけ話した後帰ろうとするアルレイン。
彼もまた色々と忙しいのだろう。
「む、そうだ…貴殿に一つ言い忘れていた話がある。」
「おっと、まだ何か面白い話があるのかな?」
「面白いかどうかは分からんが重要な話だ。
俺もつい最近になって知ったのだが…どうやら魔王が討伐されたらしい。」
「魔王が討伐された!?それは本当かい!」
「うむ、なんでも遥か彼方の地で4人の勇者が魔王城に突入し、
激戦に次ぐ激戦の末に魔王を打ち倒したそうだ。」
「驚きだね。ただでさえアルトリアの歴史が大きく変わったのを
目の当たりにした上に、魔王の打倒が僕たちの生きている間に起こるなんて。」
「同感だ。どうやら俺たちは知らないうちに人類の大きな節目に立たされているようだな。」
魔界の中心から遥か遠く離れたアルトリアの人々にはあまり実感できなかったが、
魔王が討伐されたことにより魔物の勢力が急激に弱体化することは目に見えており、
逆に人類はますます勢いよく発展する可能性が高い。
「うーん…クラリッサにも何か悪い影響が出るかな?」
「分からん。何しろ過去の記録がないからな。」
「そっか。でも今のところは特に異常はないみたいだし、たぶん大丈夫さ。」
「そうだな、貴殿がしっかり世話をしていれば少なくとも貴殿より長生きするに違いないさ。」
「あはは…確かに。僕がお爺ちゃんになってもクラリッサは若いままってね。」
「(……)」
「まあまあそんな悲しそうな顔をしないでよ。僕だっていつかは寿命が来るんだから。」
「まったくな。人間の命の何と儚きことか。俺も後20年生きればいいほうだ。
おっと話がそれたな。とにかく魔王が倒れた今こそ我々が飛翔するときってわけだ。
じゃあいい加減俺はお暇しよう。あまり話しすぎるとお嬢様に蹴飛ばされるからな。」
そういって今度こそシオリアの家を後にするアルレイン。
今でこそ、魔王を倒しても魔物が絶滅することはなく、
また新しい魔王が誕生するのは常識と言っても過言ではないが、
この頃の人間は魔王を倒せば魔物がいなくなると本気で信じていたらしい。
客人が帰り、軽く夕飯をすませると
シオリアは所在無さげに、仰向けにベッドの上に寝転がった。
そしていつものようにクラリッサが首だけベッドの上に乗せてくる。
クラリッサの頭を撫でてやりつつ、黙々と思考にふけるシオリア。
「新天地か……どんな所なんだろう?自然が豊かで、気候が安定してて…
でも先住民族がいるとも言ってたしなぁ。どうしよっかねクラリッサ。」
「(?)」
「まあ君に聞いても首を傾げるしかないよね。」
「(…………)」
「そっか。」
クラリッサはどことなく「あなたの行くところならどこまでもついていく」
といいたそうな顔をしている。
「そうだね、君と一緒なら地の果てまで行けるような気がする。
だったら二人でどこまで行けるか試してみるのも悪くないかもね。」
シオリアの決意は固まった。
元より故郷や持っている財産には特に固執していないし、
弟妹たちを食べさせていければそれで十分だった。
それよりも、溢れだす好奇心は思えば思うほど膨れ上がり、
このまま待っていても、いてもたってもいられなくなるだけと判断した彼は、
翌朝の朝食で弟妹たちの了承を取り付けると、荷造りを任せて
自分はクラリッサと共にアルレインのいるハルモニアを目指した。
「やあアルレインさん。来たよ!」
「フフン(←得意げ)」
「ちょっとまて、なぜ貴殿が先にいる…」
ただ、クラリッサの足があまりにも速すぎたせいで、途中でアルレインを
追い越して、先にハルモニアについてしまったことをここに追記しておく。
それから二年―
ユリスに移り住んだシオリアはクラリッサと共に各地を駆け回っていた。
新天地での生活は時に楽しく、時に辛く、毎日が新たな発見の連続で、
退屈だった日はほぼ無かったと言ってよかった。
移住して間もないころは何もない土地での基点作りから始まり、
少ない物資をどうにかやりくりしながら街を作っていった。
さらには好戦的な先住民族とも交流しようと試みる。
初めのうちは侵略者と見なされて何度も攻撃を受けたが、
今では友好な部族も多く抱え、先進文明を伝授しているところだ。
だが、最も厄介なのはこの地方の魔物の強さだった。
スライムやラージマウスといった手ごろな強さの魔物はおらず、
代わりにオーガやサラマンダーといった非常に戦闘に強い魔物が
そこらを我が物顔でのし歩き、山岳にはドラゴンが普通に棲みつくなど、
危険な地域が数多くあり、探索の手を非常に煩わせていたのだ。
この地域の先住民族が戦闘に特化しているのはこういった理由だからなのだろう。
「ん〜〜っ、今日も一日ご苦労様っと!」
「フフッ」
「クラリッサもお疲れさん。はい、今日の夕ご飯だよ。」
「(〜〜♪)」
一仕事終えた彼らは、陽が落ちる頃に夕食を摂る。
照明用の魔法道具のおかげで最近は夜でも本が読めるくらい部屋が明るくなったが、
ここに来た当時はそうもいかなかったので、みんな早めに夕食をとっていたら、
二年経った今でもすっかり早めの夕食の習慣が付いてしまったようだ。
「どう、美味しいかい?そのニンジンはシュホルト族(先住民族の一つ)
からもらったんだ。まだ小さい畑だったけど、これからもっと大きくなるね。」
「(コクコク)」
「あとは……いつもと同じで林檎や桃ばっかりだけど。」
「(コクン)」
今晩のクラリッサの食事はニンジン4本に林檎5つに桃4つ。
相変わらずシオリアに食べさせてもらわないと何も口にしない彼女だが、
逆にシオリアから与えられる物はほぼ何でも喜んで食べる。
「じゃあ僕も夕食にしよっと。」
一方彼の夕食は黒パンとチーズ、それとウサギの肉。
黒パン以外のおかずは日々の供給によってコロコロ変わるが、
今日はなかなか豪勢なメニュー……だとシオリアは思っている。
「そういえば…クラリッサと出会ってからもう4年にもなるんだね。」
「(コクン)」
「後何十年もすれば、あのバフォメット……フェルリみたいに
僕とクラリッサも言葉を交わすことが出来るようになるのかな。」
「(………)」
「それともあれはバフォメットだから特別なのかな?
でもね、最近思うんだ。君ともっと色々話せたらってね。
まあ逆もありかもね!僕が馬語を理解するってね!無理か。」
フェルリ……前大戦で魔物のアルトリア侵攻において軍師をしていたバフォメット。
巨体から繰り出す圧倒的な物理攻撃、そして底知れぬ魔力を用いた魔法攻撃、
どちらも使いこなす難敵であり、アルレインの片腕を消し飛ばしたのも彼だ。
アルトリアが奪還された今でもこのユリスの地に逃れて魔物を集め、
再びアルトリアを手に入れようと画策しているようだった。
どうやらフェルリとアルレインの因縁はまだまだ終わっていないらしい。
フェルリは人語を解し、敵である人間とある程度コミュニケーションをとることが出来る。
本人にしてみればバフォメットだからむしろそれが当然だと思っているようだが、
大半の魔物は人語を解さず、相互理解は不可能。人間より知能が高いと言われる
ユニコーンですらも、言葉でコミュニケーションをとることはできない。
シオリアとクラリッサが意思疎通できるのは、深い絆で結ばれているからだが、
正確に意思疎通出来ているのかは両者ともまだ少し不安なのだ。
「人と…魔物…か。」
「…」
夕食を平らげ満足したクラリッサは、甘えるようにシオリアにしなだれかかってくる。
クラリッサがもし人間の女性だったらドキドキしてしまうだろう。
だがさすがのシオリアもユニコーンに欲情したりはしない。
あくまで彼女はパートナーであり、それ以上の関係には決して発展しない。
逆に、だからこそ安心して頭を撫でてやったりすることが出来るのかもしれない。
人魔歴0年………この年この月のこの日この瞬間世界は一変した
「あれ?……今何か身体を通り過ぎたような…?」
一瞬感じた違和感。あまりにも一瞬だったソレがなんだったのかは分からない。
気のせいだろう…そう判断しようとしたシオリアだったが、
その判断が彼の心で下される前に驚くべきことが彼の目の前で起こり始めた。
突如、クラリッサの上半身が謎の光に包まれたのだ。
「フ!?フフッ!フカーッ!?」
「え、ええっ!?クラリッサ!いったいどうなって…!?」
その光は…白くもあり、黒くもあり…青くもあり、赤くもあり…
とにかく表現しがたく、しかしどこか温かなその光は、
クラリッサの上半身を思い切り濃く、下半身を申し訳程度に薄く包む。
特に馬体の喉から上の部位の発光が非常に激しく、もはや原型が見えないほどだった。
「…………!……!!……………!」
「ど、どうしよう…何かの病気?…それとも呪い?」
今のシオリアにはクラリッサを抱きしめることしかできなかった。
何が起こっているのかは分からない。でも、決して離さない。
呪いが掛けられているなら、一緒にかけられてもかまわない。
どこかへ連れ去られるなら、一緒に連れ去られよう。
シオリアは覚悟を決めた。
しかし変化はさらに驚く方向に進んだ。
どういうわけか、顔から少し下のあたりの側面から光が徐々に伸びていた。
伸びる光は一直線にシオリアの両肩あたりを目指し、肩を越えたあたりで屈折する。
「これは………」
光は彼の首元にしがみつく形で止まった。傍から見れば不気味な光景だが、
本人は不思議と嫌な気持ちはしなかった。寧ろ光はクラリッサの体温に似て、
心地よい暖かさと安心感を与えてくれるようだった。
変化は進む。
伸びた光の正面部分の部位が圧迫するように膨らみ始め、
逆にその上の部分は絞られるように細くなっていく。
細く長かった顔も丸くなっていく。鬣は頭部に集まり、そこから急激に伸びる。
そして………
―パリン―
卵の殻が割れたような音と共に、身体を覆っていた光が消える。
「はあっ……はあっ……」
「くら…りっさ?」
気が付けば、シオリアの腕の中に絶世の美女がいた。
ウェーブがかかった青銅色の長く美しい髪の毛、
今まで見たことのないような整った顔立ちと額に一本の角、
肩を包んでいた光は細く華奢な腕と化し、肌の色は抜けるように白い。
また、バストは熟れたメロンのように大きく弾力性に富み、
抱きついているせいもあってシオリアの胸に押しつけられる。
伸びた背筋、シミ一つない美しい肌……しかし人間の表現が出来るのはここまで。
それより下はいくつか細かい相違点はあるものの、
おおむねユニコーンの馬体を維持していた。
「大丈夫かいクラリッサ!どこか痛い所とかない?」
「んぅ……ごしゅじん…さま……」
「気が付いたみたいだね。よかった。」
「あれ?私……?」
クラリッサは自分の身体を見渡す。
「ご主人様!私、半分人間になっちゃってます!」
「あはは、見れば分かるよ。不思議なこともあるんだね。
でも、クラリッサ…人間になっても凄い綺麗だ…。」
「…!ご主人さまと…ちゃんと会話できる!私ご主人様とお話してるっ!
うれしい……うれしいよぉ…ご主人様ぁ!」
嬉しさのあまり目一杯顔をシオリアの胸に擦りつける。
クラリッサがよく行う愛情表現だ。
「私…ずっとご主人様と会話出来たらいいなって思ってたの。
だって、頷きや鳴き声だけじゃ伝わらなかったことが…一つだけあったから…」
「僕も嬉しいよ。こうしてクラリッサの気持ちが直接伝わるから。言ってごらん。」
「うん。私ね…ご主人様のことが……大好き!」
「クラリッサ……」
「好き!大好きぃっ!やっと伝えられた!やっと伝わった!」
「ごめんねクラリッサ…君の気持にずっと気付いてあげられなくて。
でもね、僕もクラリッサのことを愛してる。君だけをずっと愛してるよ。」
「私のことを…愛してるって言ってくれた……嬉しい。」
二人はそのまま顔を近付け、唇を重ねる。
初めはただ重ねただけの軽い口付け。
だが、二度目はおもいっきり深く唇を重ね、舌の先と先が触れ合う。
一旦離してさらに三度目、今度はクラリッサの舌がシオリアの口腔に侵入、
まさぐるような動きで歯茎や頬の内側をなぞる。
「ぷはっ…!ごひゅじんひゃま……ひゅきぃ…」
「ずいぶんと積極的だね。そんなに慌てなくても僕は逃げないから。」
「らって……らって…」
半開きの口から舌がはみ出て、舌の先端から唾液のかけ橋が
シオリアの口へと続き、瞳はとろんとして目の焦点が合っていない。
「ああもうっ!可愛すぎるよ君は!」
「んんっ!?」
今度はシオリアの方から唇を重ね、クラリッサの口腔をまさぐる。
受け入れるクラリッサの顔はとろけきり、
その表情がより一層加虐心を掻き立てるようだ。
視線を少し下に下げると、胸に押しつけられている豊かな乳房が目についた。
「クラリッサの胸って、すごい大きいね。ちょっと触ってもいいかな?」
「はい…ご主人様、お好きなだけ触れて下さい………あっ」
にこやかな微笑みに促されて、シオリアはクラリッサの胸に手を添える。
「これは…想像以上だ。他の人となんか比べ物にならないよ……」
「っ!!ご主人様!」
「あ、ごめん…痛かった?」
「そうじゃないの!ご主人様は他の人のおっぱいを触ったことがあるんですか!?」
「あはは、何言ってるの。母親くらいしかないよ。もっとも記憶は全然ないけどね。」
「本当……ですよね?」
「だいたいさ、クラリッサがみんな追っ払っちゃうから、
妹以外の女の子なんて触れたことすらないよ。ふふっ、我ながら情けないね。」
「そうなんだ…えへへ、よかった。私はご主人様を…他の人に取られたくないの。
だから…ね。私以外の女の子のおっぱいなんて触っちゃだめだから…」
「そうだね……こんなに綺麗な恋人がいるんだし。」
あいかわらずのクラリッサの嫉妬深さに苦笑いしつつ、
胸に伸ばした手に少し力を加える。
柔らかく弾力のある乳房は、手の動きに合わせて形を変える。
きめ細かな肌触りと、適度に温かい体温を伴い、
手をそっと触れているだけでもすごく気持ちがいい。
シオリアは未知の感覚に思わず夢中になってしまった。
「クラリッサの胸は本当に気持ちいいね。こうして揉んでいるだけでも
くらくらして……思わず吸いつきたくなるくらいだ。人間の本能なのかな?」
「あっ、はぁっ、ご主人様になら何をされても構いません!」
「そう…じゃあちょっと恥ずかしいかもしれないけど……」
そう言って、乳首にチュっと口付けする。
「んあぁっ!?そんな……ご主人様、痺れてしまいます……」
「おやおや、少し触れただけなのに…感じやすいんだね。」
「お願いしますご主人様!もっと私のおっぱいを吸って!
私の胸をご主人様だけのものにして……好きなように使って!」
「ふふ……本当にいやらしいね、クラリッサは。
意地汚いユニコーンにはお仕置きが必要かな。」
今度は舌でなめ回した後、大胆に口に含む。
それだけでクラリッサの身体に強い電流の様な感覚が走る。
「やあっ!?ご主人様、それ…気持ちよすぎる!すごい!こんなの初めてぇ!」
あまりの気持ちよさに顔を仰け反らせるクラリッサ。
押し寄せる快感の波が徐々に彼女の理性を洗い流していく。
シオリアも、見えを一切捨てて子供のようにクラリッサの乳房を貪る。
ふと、下半身のあたりが湿っぽくなってきたことに気が付く。
一体何が起きたのかとさらに視線を下げると、
人体と馬体の境目あたりに窪みがあり、
そこから暖かい液体がとめどなく溢れているのが分かった。
「あれ……ここってまさか…いや、馬の生殖器官は尾の付け根あたりだったはず。
でも、ここの位置は…僕の知識が間違っていなければ人間女性の……」
「んっ…ご主人様、ごめんね……私、もうこんなに濡れちゃったの…
……私は、早くご主人様のものになりたいの。お願い…。」
「クラリッサ…いいよ、おいで。」
「ご主人様!」
我慢の限界だったクラリッサは、生えたばかりの手を使って
シオリアの着ている物を乱暴にはぎとっていく。
上着のボタンを素早く外し、シャツをまくり、ベルトを外し、
ズボンを下ろし、下着を脱がし…あっという間に彼は裸に剥かれる。
今は夏から秋に移ろうとする季節なので寒くはなかった。
しかし、何も着ていないというのは結構恥ずかしい。
「これは…ご主人様の男性器………だよね?」
「う、うん。見られるとちょっと恥ずかしいけど。」
「こんなに大きくなったところは…初めて見た…」
シオリアが沐浴する時や着替える時など、
シオリアの男性器を目にする機会は今まで何度もあったが、
勃起しているところを見るのは初めてのようだ。
クラリッサは興味津々に屹立に手を伸ばし、
腫れものに触れるかのようにゆっくりと優しくなぞっていく。
「ご主人様の……すごく熱い、それに脈打ってる。
これが今から私の中に……あぁ、すごいドキドキする……」
「挿れるときはすごく痛いって聞くから、気をつけてね。」
「はい…ご主人様……」
ベッドの上に腰かけるシオリアに向かいあうような態勢のクラリッサは、
前足をベッドの上に乗せ、手をシオリアの肩に添える。
そしてゆっくりと腰を下ろし、自らの秘所に屹立の先端をあてがう。
「私の初めてを…ご主人様にあげる。だから…ご主人様の初めてを……もらうね。」
シオリアは何も言わずゆっくりうなずいた。
それを切っ掛けに、クラリッサは腰を沈めてくる。
クラリッサの膣内に潜り込んだ屹立はすぐに狭まった個所で一時停止する、
しかし、意を決したクラリッサはわずかに腰を浮かせた後、
二倍の力を持って再び一気に腰を沈める。
するとシオリアの剛槍が障害となっている個所を貫通し、
そのまま際限なく奥に奥にと吸い込まれていく。
「んっ、んんんんんんん!」
「くっ…これは……」
侵入した途端、強い締め付けと熱の塊が二人の意識を吹き飛ばした。
そして…内部に侵入する屹立は行き止まりにぶつかる。
瞬間、クラリッサの身体に今まで感じたことのない強い衝撃が走り、
その圧倒的な感覚をどう受け止めていいか分からなかった。
「やっ、やあああああぁぁぁっ!?」
「ま、待ってクラリッサ!そんなに締め付けたら……うぁっ!?」
シオリアがクラリッサの最奥にぶつかった快感でクラリッサは絶頂に達してしまい、
絶頂によって急激に締め付けられたシオリアも、快感を我慢することが出来なかった。
二人とも初めてだったせいか、動く暇もなく達してしまったようだ。
シオリアの屹立から吐き出された精液が彼女の膣内に満ちていき、
行き場を失った分が結合部分から彼女の血と共に溢れ出ていた。
さまざまな感覚がごちゃ混ぜになり脳が混乱してしまった二人は、
正気を取り戻すまでに1分近く要した。
「はぁっ、はぁっ……クラリッサ、大丈夫かい?」
「ううっ…ご主人様ごめん、我慢できなかった……
ご主人様に気持ちよくなってもらおうと思ったのに…失敗しちゃった……」
「泣かないで…クラリッサ。僕だって失敗しちゃったし、お互い様だよ。
それに、失敗したなら成功するまで何度でも挑戦すればいいんだから。
ね、少し落ち着くまで待ってあげるからさ。」
「は、い……ご主人様。んんっ、はっ…あぁ……」
クラリッサを落ち着かせるように、髪の毛をそっと撫でてあげる。
興奮した時や、寝る前にはこうしていつもシオリアに撫でてもらった。
そうすると、落ち着くような気持ちよさに包まれて安心できる。
「ご主人様…動いていい?」
「いいよ。でも、無理しないでね。」
意識をしっかりと取り戻したクラリッサは、今度こそ腰を動かし始める。
今の体勢だと下半身が馬体のクラリッサ相手ではシオリアが動くことが難しいので、
必然的にクラリッサが騎乗位のように腰を動かさなければならない。
「あぁ……本当にご主人様と繋がってる…やっと一つになれた…
ずっとずっと、ご主人様と一つになりたかったの!」
「んっ…それって、姿が代わる前からかい?」
「うん!だから私は他の人にご主人様を取られたくなかった!
叶わない望みだって分かってたけど、でもご主人様が他の人と
交尾してほしくないって思ってたから!んんっ…はぁぁ……」
「そっか……僕もね、たまに性欲を持て余すこともあったんだけど、
その時に…もし君の中に入ることが出来たらって考えたこともある。
でもね、そんなことしたらクラリッサに嫌われるんじゃないかって思って……」
「人と魔物……やっぱり完全なコミュニケーションなんて出来なかった。
でも…いまはこうして……んっ、二人で愛し合える。まるで…夢みたい。」
そうしているうちに、再び締め付けが強くなっていく。
クラリッサの膣内は溢れだす大量の愛液と先ほど出した精液が混ざって
淫猥な水音を立て始めている。それに合わせクラリッサの腰の動きも加速し、
シオリアの屹立に容赦なく快感をもたらす。
「く…クラリッサ?あんまりやりすぎると、またすぐに果てちゃうかも?」
「だ、だって…ご主人様と繋がってると……嬉しすぎて、
腰……とまらなっ、勝手に…動いちゃうっ!はっ…はぁっ…あっ!
ご主人様…!好きっ!大好き!もっとご主人様をっ!」
深く腰を沈めながら、同時に唇を重ねる。
貪欲に快感を求めるクラリッサの舌がシオリアの口の中を蹂躙する。
シオリアもお返しとばかりにクラリッサの胸に手を沈め、
先ほどよりも乱暴に揉みしだく。加減を知らない二人の行為は、
快感を際限なく増幅させ、さらに肉欲を刺激していった。
「くっ、あぁ…クラリッサ、もっと君を感じさせて。全てを忘れるくらいに。」
「はいっ!んっ、はっ…んんっ!もっと…私を感じて!」
一秒でも長く快感を貪っていたかった。しかし、増大しすぎた快感は
二人の行為の歯止めを失わせ、エクスタシーの高みへ向かわせる。
まだ行為自体に慣れてない二人にこの波を止めることは難しかった。
「やぁ…ご主人様ぁっ!私、また…イって、しまいそうっ!
もっと、もっと!ご主人様を感じたいのに!」
「奇遇だね…。僕もそろそろ、限界が近いよ……っ」
「ご主人様!ご主人様っ!また…さっきみたいに……
私のお腹の中に…赤ちゃんの素をっ、いっぱい…ほしいの!
火傷しそうなくらい熱くて…お腹が一杯になるくらい多く…!
あっ、やっ!飛ぶ!飛んじゃうっ!あっ、あっ、あっ、あっ……
あああああぁぁぁぁっ!!」
「あ……くっ…」
二人同時に二度目の絶頂を迎える。
二度目にもかかわらず、初めての時と勝るとも劣らない量の精液が
膨大な熱量を伴ってクラリッサの膣内に浸みわたる。
耐えがたき快感に二人はギュッと目を閉じ、強く抱き合う。
絶頂に達した後も二人の息は荒く、意識を整えるのに精いっぱいだった。
「はぁっ、はぁっ…素敵だったよ、クラリッサ。」
「私もです…ご主人様。愛し合うのが…こんなに心地いいなんて…」
「ん…僕もだよ。」
「それに…こんなにたくさん、ご主人様の想いが籠った精をもらって…
私はとっても幸せです。ご主人様、愛してる。んっ…」
二人は再び深く唇を重ねる。
絶頂の余韻が収まると、クラリッサはその場に立ちあがって屹立を抜いた。
彼女の膣壁が別れを惜しむかのように絡みついていたが、
やがて、こぷっという音とともに屹立が中から抜けだした。
「ねぇ…ご主人様。」
「ん、なんだい?」
「次は後ろの方の初めてももらってほしいな。」
「後ろの方……ってそっちもあったのか。」
まさか性器が二つあるということにシオリアは驚いた。
「うーん、でもちょっと…さすがに三連続はきついかな?
後ろの方はまた明日にでも……」
「それっ、かいふく〜〜」
「あれっ!?うそ…」
クラリッサはここぞとばかり角の治癒魔法でシオリアの男性器を回復させる。
すると、なえていた彼の分身はまた勢いを取り戻してきた。
「また明日なんて言ったら、もしかしたら私がどこかの誰かに襲われて
後ろの処女を取られちゃうかもしれないじゃない。」
「そ、そうかな?」
「それとも…ご主人様は私のこと……愛してくれないの?」
「何言ってるの、そんなことあるわけないじゃないか。
もう、君には勝てないな。じゃ、後ろにも入れてあげよう。」
「嬉しい!今度はご主人様が動く番だからね。」
「わかってるって。」
二人は今度は後ろの性器で交尾を行い、それが終わると前に、
そしてまた後ろにと、数え切れないほど繰り返すこととなった。
クラリッサの回復魔法によりシオリアは一向に衰えず、
消費する魔力はシオリアの性をもらって補充するため底をつかず、
ついには三日後に姿が見えないから心配になった弟妹たちが、
家の外から声をかけるまで行為を続けたらしい。
二人が初めて愛し合った日から数週間が経った。
初めのうちはとりあえず愛馬が半分人化し、ついでに愛し合ったということを
同僚たちにどう説明したらいいかかなり悩み、結局成り行きに任せることにしたが、
いざ同僚たちに会いに行ってみると、そこにはトカゲの尻尾をはやした女性剣士が
いたため、同僚たちからは『何だお前の愛馬もか』くらいの反応しかしなく、
寧ろシオリアやクラリッサの方がさらに混乱するくらいだった。
アルレインから話を聞いたところ、どうやらこの世界に新たな魔王が誕生し、
原因はよく分からないが魔物が例外なく全て人間女性のような姿に
変わってしまったというのだ。目の前のリザードマンも元は雄だったそうで、
それ以外にも畑を荒らすブラックハーピーや、開拓団を苦しめたオーガも、
果てはアルレインの宿敵だったバフォメットのフェルリが、
人間の幼児並みにまで身長が縮んでいるのには非常に驚いたものだ。
しかし今ではこの異常事態に皆すっかり慣れてきていて、
魔物と親しく話す者もちらほら見かけるようになった。
「まさか魔物がみんな女の子になっちゃうなんてねぇ。不思議なこともあるんだね。」
「でも、そのおかげでこうしてご主人様と愛し合えるんだもの。」
シオリアとクラリッサも仲間内ではすっかりバカップル認定されており、
普通に街を歩いていると「あれ?今日お前は休業か?」とからかわれたり、
気が早い者は、赤ちゃんが生まれたら使うといいと言って
育児道具をプレゼントしてくる者がいる始末。
だが、一つだけ言えることは…誰もが皆、何の偏見も持たずに
二人の中を祝福してくれた。それだけで、非常に嬉しかった。
「ねぇご主人様、私達も早くみんなの期待にこたえてあげようよ。」
「うん、そうだね。帰ったらまた……」
「はぁぁ…楽しみ。」
睦ごとを交わしながら家路につく二人の姿は、
まるで陽を受けて輝く桔梗のように美しかった。
12/03/12 09:35更新 / バーソロミュ