私はリリムである
わたしはリリムである。名前はヴィオラートという
魔王を母に、当世屈指の勇者を父にもつ
母譲りの銀髪に父譲りのルビーのような瞳
透き通るような白い肌に、究極的なまでの悩ましい体つき
私がひとたび外を歩けば誰もが振り返る
男性なら一旦釘づけにしてしまえば即座に欲情する
時には女性からも熱愛の眼差しで見られることもある
生まれつき才能に恵まれ、知勇兼備の魔物としてその名を知られる
努力しなくたって、能力は誰よりも上を行った
私は悩みと言う物を知らない
私は不満と言う物を知らない
私は苦しみと言う物を知らない
だって
私にできないことなんてないんだから!
あーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!
「鏡の前で仁王立ちした後、おもむろに大爆笑ですか。いい御身分なのです。」
「げえっ!フェルリ!!」
「プライベートなら構わないのですが、
外でそのような豪快な真似は謹んでくださいなのです。」
「分かってるわよそんなことぐらい。」
何の音も気配もなく、この私の後ろに現れた奴はフェルリっていうの。
魔王軍の最高幹部を務めてるとってもえらい(といっても立場は私の方が上)
バフォメットっていうロリで幼女でペッタンコの魔物なの。
ピンクの巻き毛ドリルを持っていて、頭の上にはぶかぶかの帽子を
パフッっと被っているんだよ。とっても可愛いわ。
でもせめて来る時は扉からノックして入るか、
「ジャーン!ジャーン!ジャーン!」みたいに効果音鳴らして現れてほしい。
「で、フェルリ。あなたがわざわざ何の用かしら。」
「本日はヴィオラ様のために書物を持ってきたのです。」
「書物を?」
なんだろう?
もしかして全世界のいい男の情報がまとめられているとか…
はたまた数千年前に作られたとされる幻の同人誌とか!
「フェルリ…お主も悪よのう。」
「まだ中身をお見せしていないのです。」
「あ、そっか(汗」
フェルリはどこからか豪華な装飾が施された宝箱を取り出した。
中にはぎっしりと黒い表紙に数字が書かれた本が詰まっているわ。
う〜ん、魔術の本か何かしら?
「なによこれ。」
「『夜戯極意書 全四十八巻』なのです。」
「これ全部エロ本!?」
「魔王陛下からのお達しで、これを読んでエッチの勉強をしろとのことなのです。
いくらヴィオラ様がリリムという種族であらせられても、
少しは殿方を喜ばせる方法を習得したほうがいいのではないかと思うのです。」
「ふーん…これを読んで人間の男を堕とす方法を学べってことね。」
「そういうことなのです。」
……………
「だが断る!」
「な、なんですとぉ!?」
「私こんなの勉強しなくってもどんな男でも魅了しちゃうのよ?
それなのにわざわざ…めんどくさいったらありゃしないわ。」
「で…ですが!少しは勉強しておけばいざというときに役に立つのです!
とにかく、毎日少しずつでいいんで読んでおいてくださいなのです!」
「エロ本で勉強しろって言われてもね。」
「しかとお申し付けいたしましたのです!では私は仕事に戻るのです!」
あ〜あ、行っちゃったわ。
あれじゃまるで押し売りじゃない。
それに、私にとって小細工なんか必要ないわ。
気に入った人がいたとしても私の天性の美貌でイチコロよ♪
「さてさて、煩いのもいなくなったことだし、
久しぶりに『外』の散歩にでもいこっと。」
『外』っていうのは、私が住んでるココ『魔界』の外のこと。
悪魔の木や触手の森や淫毒の沼みたいなものがない殺風景な世界だけど
基本的に未婚の人間の男は『外』にしかいないから、
たまには魔界から出て運命の出会いを探すことも大事なのよ。
逆に魔界を歩くときは、私の場合注意しないと
魔界にいる男性の目まで引き付けちゃって
奥さんの魔物から折檻を受ける原因を作ることになりかねないのよね。
ああ、私ったら罪な女!
「今日はどこに行こうかな。」
部屋に備え付けてある地球儀をくるくると回す。
私くらいになれば、地球の裏側にだって一瞬で行けちゃうのよ。
前回行ったところはたしか…グルニアだっけ。
「まいふぁーざー!まいふぁーざー!」って叫びながら
闇夜を爆走する馬で逃げる男の腕に抱えられていたショタを半日も追っかけて
結局その後(おいしくいただきました)しちゃったのよね。
「よし!ここに決定!」
今回の行き先はサンタルス地方。確か葡萄の名産地だったはず。
人間の皇帝ですら簡単には飲めないような高級ワインを手に入れてこよう!
それと、出来れば……私の運命の人に…会えますように。
「いざ行かん!ワインと情熱の地、サンタルスへ!」
気が赴くまま、私は転移魔法ではるか遠くの地へと転移していった。
11/04/27 21:12更新 / バーソロミュ
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