|
||
|
「初めまして。私はユリアと申します。」 「これはどうもご丁寧に。俺がこの軍の司令官を務めている エルクハルトです。エルと呼んで下さって構いませんよ。」 とある平原に軍が駐屯する陣地が敷かれていた。 その陣地の中央にある司令部用の幕舎に、 二人の人物がいた。 一人は、腰から下まで伸ばした長い金髪に全身を黒で統一した服装。 もう一人は、同じく腰まで伸ばした金髪に無垢な白い衣を纏う。 「この度は我が軍の行李（軍事行動）に 同行してくれるとのことで、とても光栄に存じます。」 「そう言っていただけるととても嬉しいです。 この度の同行は私が自ら望んだことでして、 受け入れてもらえるか心配でしたが、杞憂でしたね。 ではエルさん、これから何かとお世話になるかと思います。 不束者ですがよろしくお願いします。」 「はい…、一応先に言っておきますが俺は…」 「女性ではなく男性でしたね。存じ上げております。」 「そうでしたか…。ありがたいことです。」 もう少し詳しく説明すると、 前者はユリス地方の都市国家ロンドネルの軍を率いる若き司令官のエル。 本名はエルクハルトだが、微妙に長いので通称であるエルと呼ぶ者が大半である。 腰より下まである長さの金髪に、透き通るような肌を持ち、 そこらの女性ではとても足元にも及ばない美貌を持つが… 驚くことに彼は男性である。 おまけに、二十歳になった現在でも変声期が来てないがために 声まで女らしいので、彼を一目見ただけで男性だと見抜ける人は殆どいない。 なので、せめて口調だけは男らしくしているが、 容姿とのギャップがたまらないともっぱらの評判である。 一時期は必死に男性のような容姿になるよう努力したのだが、 結局どうやっても男らしくならなかったので、あきらめた。 しかし、能力は見た目とは裏腹に鬼そのもので、 彼の指揮した軍は未だ一度の敗北もなく、 武器をとれば彼の右に出る者はあまりいないという。 内面で女らしいところといえば大の甘党であるくらいか。 本来は、高祖父（ひいひいじいさんのこと）が運営する冒険者ギルドに所属し 少数では達成が難しい依頼が来た際に、多数の冒険者を率いるなどしていたが 領主にその統率力を買われ、若くして軍事顧問となった経緯を持つ。 それゆえ、反魔物勢力を率いながらも、魔物に対してもかなりの知識を持ち、 少なくともこの世界の教会が主張するような思想は持っていない。 しかし、彼が反魔物軍で戦っているのにはある理由があるのだが、 それはまた別の話。 そしてもう一人の方の名はユリアといい、 天界から地上に遣わされたエンジェルである。 他のエンジェルと同じく輝くような金髪に無垢な白地の衣をまとっている。 そして背中にはエンジェル特有の聖なる白い羽を持つ。 彼女はエンジェルの中でも高位の存在なのか、その容姿はどこか大人びており、 その上胸もそこそこの大きさがある。 今回は、エル軍が教会の軍に代わって聖戦を続行するに当たり 彼女は自ら教会に対してエル軍への同行を申し込んだ。 彼女の申し出を拒みきれなかった教会は、渋々許可を出し、 そして今、こうして司令官のエルと顔を合わせているところである。 彼女はエルとの直接的な面識は初めてだが、 なぜか会う以前から彼のことを知っているように思われる。 「さて、………ちょっと見苦しいところを見せるかもしれませんが。」 お互いの自己紹介が終わったところで、 エルは幕舎の入口に顔を向ける。 「おい騎士隊長。あらかた自己紹介は終わったから 入口で盗み聞きするのをやめて入ってこい。」 先ほどまでと打って変わってエルの口調が厳しくなった。 「盗み聞きなどとは聞き捨てならんな。 我々教会騎士団に対して失礼にもほどがあるぞ。」 幕舎に入ってきたのはかなり大きめの身長を持つ 男性騎士だった。 「私はただ、もし天使様の身に何か間違いがあっては困ると思い、 貴様が不埒なことを仕出かさぬ様、待機していたのだ。」 「寝言は寝て言え。世間ではそういうのを普通盗み聞きって言うんだ。 いまでもどうせ俺のことを男とは思ってないくせに何が不埒だ。」 「くっ…、口を慎みたまえ！」 「だが断る。それよりもお前たち教会騎士団は被害が大きいんだから 用無しどもはさっさと荷物をまとめて自分たちの巣穴へ帰れ。 後は全部俺たちがやっておくから安心しろ。」 「ちっ……、今回の計画、失敗したらただは済まんぞ。」 捨て台詞を残して、長身の騎士は幕舎から出て行った。 気配から察するに、もう戻ってくることはないだろう。 「いかがでしたか？これが俺の『地』なんですが…、不快に思いますでしょうか？」 「ふふふ、大丈夫ですよ。私自身も教会自体にはあまり思い入れはありませんから。 これからは、全てエルさんの言うとおりに動きますよ。」 「さらっと今とんでもないことを言いましたよね！？」 「あら、心配ですか？」 「そんなことはありませんが、私の抱いていたエンジェルの印象より 大分砕けているようですね。むしろ親近感がわきました。」 エンジェルは個体の違いはあれ、大半は自分が一番正しいと思っていて エルのように、教会を平気で蔑にする人物とは 実はあまり相性が良くないはずだった。 よって、当初エンジェルが同行を願い出たという話を聞いた時、 もしかしたら面倒なことになる恐れがあったため 受け入れるかどうか若干悩んだが、結局直接会って判断することにした。 そして直接会った結果、ユリアは予想以上にエルと気が合いそうだった。 「あ、忘れるところでした。私からエルさんに渡すものがありました。」 「俺に渡すものが？なんでしょう。」 「はい。これになります。」 ユリアは彼女が所持する小さなカバンから、 リボンで封をしたシンプルで小さな袋を取り出し、 エルに手渡した。 「どうぞ。開けてみてください。」 「ええ、では………。ん？これは…」 袋の中に入っていたのは小粒な砂糖菓子…コンフェートだ。 甘いものが何よりも大好きな彼は早速一粒食べてみる。 「うん！普通のコンフェートよりも甘くて、俺好みの味です！」 「そこまで喜んでいただけて嬉しいです！私も作った甲斐がありました。」 「え！？これユリアさんが作ってくださったんですか！？」 「はい！エルさんに気に入ってもらえるよう、工夫してみました！」 ユリアは今までにないほど満面の笑みを浮かべている。 もし、エルが自分の受け入れに否定的であった場合の 最終手段として用意してきたものだったが、 思いのほか好印象だったので、すっかり忘れそうになった。 エルは、先ほどあったばかりなのになぜユリアが自分の好みを知っているのか疑問だったが、 砂糖菓子をほおばることに夢中で、深く考えるのをやめた。 「とても美味しいです！わざわざ俺のために作っていただいてありがとうございます！」 エルはユリアにお礼を言うと同時に、輝かんばかりの笑顔を向ける。 その笑顔を見たユリアは思わず赤面する。 「エルさんの笑顔…本当に素敵ですね…。」 「そうですか？」 「はい！そんな笑顔を向けられたら女性でも男性でも、 思わず心を射抜かれてしまいますよ。」 「女性はともかく…男性は困りますね…」 何度も言うが、エルは男である。 「では、改めましてこれからよろしくお願いしますね、エルさん♪」 「こちらこそよろしくお願いしますよ、ユリアさん。」 すっかり意気投合した二人は互いに握手を交わす。 エルの手にはユリアの優しさが籠った温かさが。 ユリアの手にはエルの強さが籠った温かさが。 それぞれ伝わっていった。 時代は、初代魔王が倒されてから100年くらい経った頃の話。 魔王の代替わりによって、突如魔物が人化し 人と魔物のコミュニケーションが可能となった。 そのため、徐々に魔物と交流する人間が増えたものの 依然として魔物と人間の間にあるわだかまりは消えていない。 そして、それ以上に影響が大きかったのは 魔物が人化したことで、人間と同じような文明的な生活を営む魔物が急激に増え、 次々と魔物によって国が作られていった。 このことは人間社会に大きな混乱を巻き起こしたのだ。 それと同時に、人が魔物と暮らし始める関係が 安定し始めるのもこの時代からであり、 人と魔物の交流が黎明期を過ぎようとしていた。 しかし、この風潮をよしとしない勢力も当然存在する。 特に、世界各地にその勢力を持つ教会勢力は このころから教義を曲解解釈してでも魔物を撃ち滅ぼすようになり、 以後後世に至るまで、人類を魔物との戦いにけしかけていくことになる。 そんなまだ歴史が混迷から抜けきっていない時代に、 エルとユリアは出会った。 この後二人が向かうのは、山岳を越えた先の半島地域。 そこは、近年親魔物勢力によって覆われ、 教会や反魔物勢力は締め出されてしまった。 それを、再び取り戻すために起こったのが 「レ・コンキスタ（国土回復戦争）」だ。 教会が起こしたこの戦争は、3ヶ月も経たないうちに 教団の軍が総敗北してしまったため、 半島地域の利権と引き換えに、エルの国が戦争を続行することにしたのだ。 この後も、長年にわたって共に戦うことになる二人。 その第一歩を、二人はこの瞬間に歩み始めることになる。
11/02/13 11:03 up
登場人物評 エルクハルト（エル） 総司令官40Lv 武器：方天画戟 本作主人公。チート性能を誇る男の娘(20)で、あらゆる面で常人を凌駕する。 歴史書では「戦略の母」と呼ばれており、戦争手腕のみが取り上げられるが 彼の性別については、歴史学者の間でいまだに議論になっているとか。 ユリア エンジェル30Lv 武器：聖魔術（サンライズ、オーラなど） ヒロインのエンジェル。年上のお姉さんのような風格を持つ。 天界にいたときからすでにエルのことは知っていたらしい。 そのせいか、物語の最初から最後までエル一直線の恋する天使。 注）レベルとかはクラスはあくまで目安です。 ファ○アー・エ○ブレムみたいな感じ。 ご挨拶 ユリア「みなさん、ごきげんようございます。 エンジェルのユリアと申します。 この度は「英雄の羽」を読んでいただきありがとうございます。 ここでは詳しくは言えませんが、元の小説が大変なことになってしまいした。 管理者に問い合わせてみたのですが、返答が戻ってこないため 独断で始めからやり直すことにしました。 もっとも、原因はすべて私たちにあるので 私からも深くお詫び申し上げます。 しかし、これを機に設定がまだ曖昧だった序盤をリメイクし さらに私とエルさんが出会った時の話を追加してみました。 本来は、外伝としてもう少し後に過去話として入れる予定でしたが それほどボリュームがなかったため、早めに日の目を見ました。 最新話の執筆も順調なので ルピナス河の戦いまで回復した暁には最新話を更新できると思います。 ただ、投稿規約により、隔日での回復となりますので 今しばらくお待ちください。 なお、今までにもらった感想が消えてしまったのはとても心苦しいですが、 感想を貰う度に嬉しくて何度も見てしまう性分なので、 今でも一字一句しっかりと心に刻んであります。 忘れることはないのでご心配なく。 さて、この話が始まって丁度一ヶ月が経ちましたが 未だに文章が拙いところが多々見受けられると思います。 読者様方におかれましては、ご指摘や苦情などなんでも結構ですので 是非感想の方をよろしくお願いいたします。 正直に言いますと、読者方がどう思っているのか 参謀本部としてもとても気になるそうなので…。 自信のなさの表れですかね？ でも、よほど苦情が来ない限り連載を中止することはないので これからも気軽に見に来てくださいね。 これからも皆さんも日々を幸せに過ごされるよう 心からお祈り申し上げます。 以上、ユリアからでした。 バーソロミュ
|