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カンパネルラ攻略を目指す十字軍が最初に目指すのは やや標高が高い平野に位置する、自由都市アネット。 前線基地のアレイオンからは最短距離で4日と そこそこの距離がある。 さらにカンパネルラまでは直線距離でも二週間かかる。 この先、プラム盆地を抜けることを考えれば 相当な期間がかかることは想像に難しくない。 アネット攻略隊の先発として投入されたのは、 カーター率いる第三軍団だった。 進むべき道は高低差が大きく、幹線道路以外は 村と村をつなぐ程度の道しかない。 軍団規模で素早く行軍するには、幹線道路を通るしかない。 「カーター軍団長。この先に、ようやく開けた土地が見つかりました。」 カーターにそう報告するのは、緑の髪をツンツンに伸ばした男性騎士だった。 彼はユリス諸国連合所属のシモンという竜騎士の将軍である。 「そうか、ご苦労。今日はそこで野営で決定だ。 この先に平地があるとは限らないからな。」 「はっ、では全軍にそう通達しておきます。」 一方でカーターの意見に応じたのは、立派な赤髭を持つ重騎士だった。 こちらは帝国軍所属の将軍、ゼクト。 彼はカーターが帝国で将軍になってから常に右腕として活躍してきた。 多国籍軍を率いるカーターにとっては最も頼りになる将軍である。 「さて、シモン。アネットまでの行軍路をどう見る?」 「そうですね、このままいけば幹線道路を進んでいき、 明日の夕方頃にはアネット攻略の前線基地建設に取り掛かれるでしょう。 しかし、おそらく敵は何らかの形で幹線道路を封鎖してくる可能性が高いでしょう。」 「だよな。そう簡単にアネットまでたどり着けるとは思え…」 「カーターさんただいまー!」 「うぉう!なんだ、その声はミーティアか!?」 「ぴんぽーん!大正解!」 突如として何もないところから声がしたかと思うと、 その場に一人のフェアリーが出現する。 「軍団長、なんですかその妖精は?」 「こいつはユリアさんから紹介してもらった特別偵察兵だ。」 「どもっ!私はミーティアって言います!よろしくね!」 「え、あ、うん。」 やたらテンションが高いミーティアに押され気味のシモン。 出陣の前、ユリアが北の森に住むミーティアに別れの挨拶をしたところ 「だったら私も一緒に戦う!」 といって勝手についてきたので、どうせだからということで 特別偵察兵として生き生きと任務をこなしている。 彼女は妖精でありながら、若干の転移魔法と隠蔽魔法を使えるので 偵察兵としてうってつけだった。 「それよりもカーターさんにお知らせっ!」 「何か発見したのか?」 「この先の道で何か建設している部隊がいたわ。」 「ほう、どのへんだ。」 「うーんと、ここらへんかな?」 机の上に広げてあるアネット周辺の詳細な地図の ある一か所をミーティアは指差した。 「幹線道路沿いの丘…ですね。それも道の両側に。」 シモンは等高線をみて即座に判断した。 「まるでおっぱいみたいだね。乳首でも建設してるのかな。」 「バカヤロウ!もっとましな例えが出来んのか!」 「落ち着けシモン。俺は結構的確な表現だと思う。」 顔を真っ赤にして怒鳴るシモンをカーターはなだめる。 「ですが軍団長…」 「真面目なのはいいことだが、少し心に余裕を持った方がいいぞ。 さて、話を戻すがこの二つの高台に陣を構えて、 高低差を生かした防御陣地を築くつもりなのは明らかだ。 柵と簡単な櫓なら一日で建設できる。」 「では今夜中に夜襲をして陣地を破壊するのは?」 「まあまて。まずは今日の野営地を確保して そのあと将軍たちを集めて作戦会議だ。」 第三軍団30000人はやや開けた土地を危険がないか判断してから 野営の準備を進めた。 今日は司令部の幕舎を真っ先に張り さっそく第三軍団の将軍たちを招集した。 内訳は ・カーター:帝国軍出身 軍団長 男性 ドS ・ゼクト:帝国軍出身 副軍団長 男性 赤髭 ・シモン:諸国同盟出身 第一師団長 男性 緑髪ツンツンヘアー ・カシス:教会騎士団出身 第二師団長 男性 茶髪オールバック ・ミラリィ:諸国同盟出身 第三師団長 女性 常に伏せ目 ・カステヘルミ:帝国軍出身 第四師団長 女性 年増 ・ブロイゼ:帝国軍出身 第五師団長 男性 パンチパーマ ・テア:帝国軍出身 第一師団参軍 女性 白い司祭の服装 ・イーフェ:諸国同盟出身 第二師団参軍 男性 鉢巻してる ・カレルヴァ:教会騎士団出身 第三師団参軍 男性 身長が一番大きい ・トステム:諸国同盟出身 第四師団参軍 男性 眼帯 ・フェスティ:帝国軍出身 第五師団参軍 女性 黒髪ウェーブ ミーティア「えー、ここからの会議は話がごちゃごちゃすると思うから、台詞の前に名前を付けてみることにしまーす。」 カーター「ではこれより会議を始める。偵察兵の報告によると、 ここから10q先で敵軍の工作物を確認した。」 シモン「この工作物は防御陣地と射手用の櫓のようです。 典型的な足止め目的かと思われます。」 テア「防御陣地はもう完成しているのですか?」 カーター「いや、まだ建設途上のようだが明日には完成すると思われる。」 カシス「だったら今すぐ騎兵部隊で建設を阻止すべきではないのか? なんだったら、私が行ってきてもよいのだぞ。」 カステヘルミ「いいや、あたしたち帝国竜騎士部隊がちゃっちゃとやっつけてやるさ。」 ブロイゼ「まあまてお前ら。こいつは射手中心の陣地だぞ? 騎兵や竜兵だけじゃ分が悪いぜ。」 ゼクト「それにこういった陣地は後ろに本隊が控えているのが常だ。 少数兵力で向かっても返り討ちだろう。」 シモン「やはり地道に攻めるしかないんですかね。」 イーフェ「だけど今回の戦いはスピードが勝負だ! こんなところで手間取っている暇はないぞ!」 トステム「あのなイーフェ。むやみに突撃したところで 損害が増えるだけだ。 こんなところで消耗していてはアネット戦に支障をきたす。」 カステヘルミ「ちっ、じゃあどうすればいいんだい?」 ミラリィ「第二軍団なら遠距離攻撃が主体なので問題なさそうなのですが。」 カレルヴァ「第二軍団はまだ来ていないからなぁ。 彼らが到着するまで待ちます?」 カーター「ま、たしかにファーリルのセプテントリオンがあれば あんな陣地は一瞬で粉砕できるんだが、 そんなの使わなくても突破できる方法はある。」 カシス「ほう、すでに秘策を考えていたとはな。 して、その方法とは?」 カーター「簡単だ。後ろから回り込めばいい。」 トステム「え?後ろから回り込むっていったい?」 カーター「この周辺は幹線道路のほかに細かい道がいくつかある。 そこから別動部隊を使って背後から襲いかかるんだ。」 ブロイゼ「たしかにそれならいけそうな気はしますが 本当にうまくいきますかね?」 テア「敵もそれは考えている可能性がありますし、 下手をすれば敵の本隊と挟み撃ちです。」 ゼクト「でしたらカーター軍団長。 側面攻撃部隊も陽動にしてみては?」 カーター「ほう、面白いことを言うな。 一応別の作戦もあったのだが、聞こうか。」 ゼクト「一部隊を陽動として間道を進ませて 時間差でもう一部隊を背後に送り込むのです。」 イーフェ「なるほど、そうすれば敵の攻撃を 分散させることが出来るな!」 フェスティ「陽動部隊は危険が伴いますが…」 シモン「だからこそこの作戦は速攻を心がけねば。 成功すれば損害を抑え、なおかつ 素早く突破できそうです。」 カーター「よし、決まりだな。この案に少し手を加えて速攻で突破する。 まずはカレルヴァとフェスティの部隊は夜明けとともに間道を突破し ミラリィとブロイゼはその30分後に、同じ道を行け。 あと、シモンとカステヘルミには特殊な任務を用意する。 それ以外の部隊は本体と共に行動せよ。」 全員『了解しました!』 カーター「では、明日に備えて英気を養っておけ。 ゼクトはこの後一応夜襲への備えをしてくれ。」 ゼクト「承知。」 こうして第三軍団の作戦は決定した。 翌朝、アネット軍の本隊にて。 「フェデリカ様!前線基地から敵軍を発見したとの報告がありました!」 伝令のワーラビットであるキーニがフェデリカの幕舎に飛び込んできた。 「なんだよ、もうきたのか。じゃ、予定通りいくとするか。」 いつもならまだ朝食もとらない時間帯だが、 素早く行動しないとチャンスを逃してしまう。 眠い自分に喝を入れて、部隊に出陣命令を出す。 それと同時に、配下の将軍二名を呼び出す。 「お呼びですか、フェデリカ様!」 「フェデリカ様、ご命令を。」 やってきたのはケンタウルスとリザードマン。 「おう、まずはドロテア。 お前は兵士2000人で北の道から回り込め。」 「わかりました!」 ドロテアと呼ばれたケンタウルスはすぐに部隊を編成する。 「レナータも同じく兵士2000人で南の道から回り込め。」 「了解しました。」 一方のリザードマン、レナータも部隊を編成して出撃する。 「そして私たちはもう一つの道を通って 時間差で敵の背後に抜ける。これでいいんだな、カペラ。」 そういって、この作戦を計画した策士…カペラに話を振る。 「ええ、上出来ね。後は敵を包囲するだけだわ。」 「まさか前線基地を餌に使うとはな、 私だったら考え付かなかったよ。」 「しかも敵は予想以上に早く食いついてきたわ。 一応夜襲に備えて弓兵を大量に配備しておいたけど、 結局夜の間は来なかったみたいね。」 「相手の機動兵力を減らせなかったのは少し残念だが、 その代り万全の態勢で臨むことが出来そうだ。」 この後彼女も軍を率いて出発した。 それから半刻後、 早くも北の道でカレルヴァの部隊がドロテアの部隊と遭遇した。 「申し上げます。この先から敵の部隊が進軍してきます。 その数はおよそ2000。敵はまだこちらに気付いていないようです。」 「ほう、陽動のつもりだったが敵も何か企んでいたようだな。」 「いかがいたしますか?カーター様からは無理に戦うなと言われていますが。」 「いや、どうせなら我々で撃破しよう。 兵をこの辺りの崖の陰に隠して敵の度肝を抜いてやれ。」 カレルヴァは兵士を崖の陰に隠し敵が来るのを待った。 「うーん、何かが潜んでいるような気配がするんだけど…」 ケンタウルスのドロテアは野生の勘があるのか カレルヴァ達の気配をなんとなく察知するが、 近くに隠れていることに気付けなかった。 「今だ!攻撃開始!」 『おおーっ!!』 突如左右から現れた敵兵にドロテアの部隊は不意を突かれた。 「くっ!今までの気配はこいつらだったのか!? みんな、うろたえるな!応戦しろ!」 「地獄の訓練をくぐりぬけた成果を見せてやれ!」 両者とも果敢に敵兵に向かう。 だが、初撃で士気が落ちていたドロテアの部隊は 集団戦法を駆使して襲いかかってくるカレルヴァの部隊に 一方的にやられていく。 「不浄なる魔物め!わが剣の錆にしてくれる!」 「何が不浄だ!この殺人鬼どもめ!」 ドロテアを敵将と判断したカレルヴァは 一直線に彼女めがけて接近する。 シャッ!キーン!カン! レイピアを繰り出すカレルヴァに対し短剣で応戦するドロテア。 彼女の得意武器は弓なので、接近されると使えなくなる。 よって護身用の短剣で身を守るほかない。 だが、いくら武闘派の魔物とはいえ得意ではない武器で戦うのは難しい。 そして… ドスッ! 「かはっ!」 数合打ち合った末、ついにカレルヴァのレイピアが ドロテアの胸を貫く。 「フェデリカ…様、どう…か、ご武運を…」 散り際の一言をなんとか言いきったドロテアは その場に崩れ落ちた。 「敵将は討ち取った!残りの奴らも覚悟しろ!」 この一言で将軍が打ち取られたと知ったアネット兵たちは、 これ以上は戦えないと判断して退却し始めた。 「よし!神の剣たる我らの勝利だ!」 「やりましたね!カレルヴァ将軍!」 教会騎士たちにとって久々の完全勝利だった。 「追撃しますか?」 「もちろんだ!奴らを一兵たりとも生かして返すな!」 勝利の勢いに乗るカレルヴァ部隊は、追撃を開始した。 一方、南の道でもフェスティとレナータの部隊が交戦していた。 双方とも同時にお互いの存在を認識し 正面からぶつかり合った。 フェスティの部隊には数台ほど「戦車(チャリオット)」が配備されていた。 戦車はいわゆる戦闘のための馬車みたいなものであり、 一人乗り用と複数人乗り用がある。 彼女が持ってきた戦車は3人乗りで、 御者、槍兵、弓兵を乗せて二頭の馬にひかせる 帝国軍のスタンダードな戦車だった。 南の道は比較的傾斜が少ないため戦車の強さを十分発揮できた。 逆に、アネット兵は戦車を初めて見た者が大半だった。 攻守双方に優れた戦車にどう対応したらいいかわからない。 「強いな…。今までの相手とはわけが違う。 どうしたらいいものか。」 レナータも先頭に立って剣を振うが、 常に複数人を相手にしなければならないのはつらい。 「我が方が優勢ですね。戦車を持ってきて正解でした。」 フェスティ自身も戦車に乗って槍を振う。 「ラスティ。あのリザードマンを敵将と見ました。」 「了解!姉さん!」 「エスティ。援護射撃を頼みます。」 「分かってますよ、姉さん。」 なんと彼女が乗ってる戦車は全員姉妹だった。 御者は次女のラスティ。 射手は三女のエスティである。 三人とも姉と同じ黒髪だが ラスティはツインテール、エスティはおかっぱだ。 『敵将!私たちが相手だ!』 「えーっ。」 その見事なハモリ口上にレナータは唖然とした。 だが、一瞬にして気を取り直し、彼女たちに向かう。 おそらく馬車と同じく蹴飛ばせば転倒するだろう。 側面から衝撃を加えるべく飛び上がろうとしたその時… 「ていっ!」 ピュン! 「おっと!?」 危うく空中で弓を受けるところだったが 寸前で避けることに成功した。 「よけられますか?」 「む!」 キン!キン!キーン! いつの間にか接近した戦車からフェスティが槍を繰り出す。 それに素晴らしい反応速度で捌くレナータだが 一方的に攻撃されるばかりである。 「なんということだ。馬車相手に苦戦するとは…。」 そうしているうちに後ろから帝国騎兵3騎が襲いかかる。 「お前らに私の相手が務まると思うな!」 一瞬で跳躍し、一人を斬り倒すともう二人を同時に応戦し 隙を見て一人を討ち取る。さすがにもう一人は一時的に後退した。 一時的に無茶な動きをしたため一瞬体を休めるが、 ヒュン!ヒュン! 「うおっ!」 続けざまに放たれた矢を何とかかわす。 フェスティの戦車が方向転換して戻ってきたのだ。 さすがにこれ以上は限界と判断したレナータ。 「全員退却だ。被害が大きくならないうちに退け。」 レナータ率いるアネット軍もまた、目的を果たすことなく退却する。 「やったね姉さん!」 「ええ、彼らもおそらく私たちと同じ意図だったのでしょう。 未然に阻止できて何よりです。」 「姉さん、このまま追撃しますか?」 「私たちは十分陽動の役目を果たしたと思われます。 もう少しこの場で待機した後、なにも来ないようであれば 私たちも側面攻撃に参加しましょう。」 カレルヴァとは対照的に追撃をしないことにしたフェスティだった。 そしてこちらは正面の第三軍団本隊と防御陣地の戦闘。 カーターはゼクトの重装歩兵師団と 矢から身を守るための木製の可動防壁を前面に出し、 その後ろから弓兵で攻撃した。 被害はかなり少ないものの、相手にもあまり被害を与えられない。 ただただ双方とも射程ギリギリで撃ち合うだけだった。 「敵も被害を恐れているのか、消極的ね。 足止めは大方成功と言ったところかしら。」 そういって櫓から戦闘を見守るのは レナータの姉、ゾーエ。 彼女も腕の立つリザードマンの将軍である。 「しかしどうも効率の悪い攻め方ね。 本当にこいつらやる気あるのか?それとも何か裏が…」 と、なんとなく南の方に目をやると… 「敵の側面に出たぞ!全軍攻撃開始!」 ブロイゼ率いる第五師団が南の丘にある陣地に攻めよせる。 「なるほど!そういうことか!兵の一部はあいつらの攻撃を防げ!」 指示に応じて、戦闘に参加していない兵士たちが 第五師団の迎撃に向かう。 だが、それとほぼ同じころに 「南側ではすでに始まっているようですね。私たちも参戦しましょう。」 ミラリィ率いる第三師団もまた南側の陣地を攻め立てた。 南側の陣地もまた戦闘してない兵士が迎撃に出る。 カーターはこの時を待っていた。 「ゼクト。例の合図を。」 「承知。」 ゼクトは軍楽隊に命じて合図をさせる。 大太鼓の音が響き渡った。 少しした後、カーターの上空を無数の竜騎士が飛び立っていった。 その異変に部下のデュラハンがいち早く気がついた。 「ゾーエ様!あれを!」 「ドラゴンナイトか!櫓の弓兵はあいつらを撃ち落とすことを優先しろ!」 そう命じたものの、竜騎士たちは櫓の射程を迂回して陣地の背後に回った。 これでは矢が届かない。 「よしシモン!後は俺達に任せろ!全軍突撃!」 「まてまて、降ろし終わったらおれたちも攻撃に参加するぞ。」 シモンの飛竜に乗っていたイーフェが降りて早々敵陣に向かって行った。 そのほかの飛竜からも続々と兵士たちが降りていく。 「早く降りな!あたしも攻撃に向かうんだ!」 「くそっ!なんでこんな年増と…」 「何か言ったかい!?」 「なんでもねぇよ!行くならさっさと行け!」 カステヘルミの飛竜からもトステムが降り、 彼の部隊もまた次々と他の飛竜から降りて行った。 カーターの切り札。 それは、豊富に配備された飛行部隊だった。 弓兵の攻撃が分散したところを見計らって一気に背後に空輸し、 空輸した部隊を起点に陣地を攻撃したのだ。 それと同時に、消極的に攻撃させていた正面の部隊にも 一斉攻撃を命じた。 「まずい!まさか奴らは部隊を空輸するとは!」 ゾーエは一瞬にして苦境に立たされた。 「ゾーエ様!このままでは本隊が後ろに回り込むまで持ちません!」 「わかってる!だけどここで私たちが引いたら作戦全体が失敗するんだ!」 ゾーエのリザードマンとしての誇りが、退却を許さなかった。 しかし、前後左右からの猛攻により陣地はあっという間に制圧されていく。 正面からの攻撃を突破した重装歩兵部隊は、櫓を強引に根元から破壊していった。 「う、うわああぁぁ!!」 櫓の崩壊に巻き込まれたゾーエは全身を強く打ちつけてしまった。 「ぐっ、がぁっ…」 リザードマンでなかったらとっくに死んでいたであろう。 強靭な肉体を持つ彼女はなんとか立ち上がることが出来た。 だが、全身が強く痛む。骨も何箇所か折れているようだった。 かすむ視界の中、あたりを見回すと さっきまで隣にいた部下のデュラハンは衝撃で首がとれたらしく、 目の前の兵士たちに向かって暴走した結果、 複数の槍に身を貫かれていた。 そしてその直後、彼女の身にも別の何かが襲いかかった。 ヒュンッ!ピシィ! 「がっ……!な…何が…」 彼女の体にはわずかに熱を持った鞭が巻きついていた。 カーターのライトニングウィップである。 いつの間にか彼は最前線まで移動してきたのだ。 「捕縛成功。大人しくしろよ。」 そういってカーターは恐ろしいオーラを発する。 肉体の限界に来ていたゾーエに もはや抵抗する力は残っていなかった。 「このままさらに痛めつけるのもアリだが…」 『…………』 周りの兵士はカーターのあまりのどす黒さに 心の中で「やめてやってください!」といってしまう。 相手は魔物娘なのにも関わらず… どうやら、少しではあるが兵士たちの魔物への 考え方が変化しているようだった。 「ま、今はそんな暇はないな。 増援が来るかもしれないから今のうちに隊列を整えろ。」 『ほっ…』 結局ゾーエは捕虜として移動式の檻に入れられた。 カーターが防御陣地を制圧する数十分前。 先ほどから追撃に移っていたカレルヴァの部隊は 調子に乗ってかなり深入りしていた。 「足の速い奴らだ。騎兵でもなかなか追いつけん。」 一般の人間兵士や足の遅い魔物はすでに彼らの手にかかり、 残るは同じ騎兵か脚力に優れる魔物だけとなった。 それでも、そろそろ追いつかれそうだった。 必死に逃げるアネット軍。 そんな彼らの前に大きな希望がもたらされた。 「フェデリカ!あれを!」 「なっ!あれはドロテアの別行動部隊じゃないか!」 「何者かに追われているわ!」 「同胞を見捨てるわけにはいかない! みんな!進路変更だ!あいつらを助けるぞ!」 背後に回るために進んでいたフェデリカ本隊が 偶然にもこの場所に差し掛かったのである。 フェデリカは別行動部隊を助けるべく進路を変更して カレルヴァの部隊に向かって行った。 「カレルヴァ様!新手を発見しました!」 「少し深入りしすぎたか? だが、ここで退いたとなれば教会騎士団の恥だ! 我らの強さを思い知らせてやれ!」 勢いに乗っているカレルヴァの部隊は、 そのままフェデリカの本隊に攻撃を開始した。 フェデリカの部隊も応戦する。 厳しい訓練の成果が出たのか、カレルヴァの部隊は 序盤フェデリカの部隊を圧倒する。 「今までの奴らとは違って、相当強いな。 だが、久々に強い相手と戦えて熱くなってきた!」 闘争心に火がついたフェデリカは、 愛用の斧を振って騎兵たちに果敢に挑む。 そして、あっという間にランスナイト4騎を討ち取る。 アネットの革命で大活躍した彼女の強さは半端ではない。 その一方で 「さ、ぼうやたち。眠りなさい…」 カペラが広範囲の催眠魔法「アークスリープ」を唱える すると、彼女の方に向かってきた兵が 次々と昏睡し、無力化してしまう。 彼らはそのまま捕縛されることとなる。 さらに数十分もすると、形勢が次第に逆転していく。 カレルヴァの部隊は陽動部隊ゆえに2500人しかおらず、 フェデリカの部隊は18000人もいる。 指揮官がエルだったらまだしも、カレルヴァでは 七倍の兵力相手に戦えば、物量で押し切られるのは明白だ。 初戦で敵をあっさり撃破したカレルヴァは、 それゆえ引き際を誤ったと言える。 「いかん!このままでは逆に全滅してしまう!退却だ!」 いつの間にか1000人程度まで数を減らしていた十字軍。 今度はこちらが逃げる番となった。 「ちょいとそこのでかい奴!私と勝負しろ!」 「お前にでかいとか言われたくない!」 カレルヴァも身長が190台とかなり大きいが、 フェデリカの方がさらに大きい。 そう、カレルヴァも突っ込みたくなるくらいに。 シャッ!ガキーン! バキッ! 「なっ!なにぃ!」 カレルヴァのレイピアはフェデリカの斧を受け砕け散った。 元々レイピアはそれほど耐久度がなく、 敵の攻撃を防ぐのではなくかわす戦いをしなければならない。 いくら剣は斧と武器相性がいいとしても、 受け止めるのには向いていないのだ。 メインウエポンを破壊されたカレルヴァは護身用の短剣を取りだそうとするも… 「うりゃあ!」 「わーっ!」 あっという間に馬から引きずり落とされるカレルヴァ。 「もはやこれまでか!さあ、俺を殺せ! 教会騎士の名にかけて命乞いはせん!」 「ふっふっふ、大丈夫あんたを殺したりなんかしないよ。 そんな馬鹿な覚悟はさっさと捨てちまいな。」 「なんだと…?」 フェデリカはカレルヴァに馬乗りになっている。 よって、カレルヴァは身動きが出来ない。 「近くで見ると、なかなかどうして男前な顔をしてるじゃないか。」 「え…、え!?」 生まれて初めて男前と言われ、急に顔が熱くなる。 「よし!気に入った!今日からお前は私の夫だ!」 「いやいやいや!いきなり何を言うんだ! 俺は教会騎士だぞ!それが魔物の夫になるなんて…!」 「そんなこと関係ないな!これは運命なんだよ! あーもー、今すぐ愛を交わしたいくらいだが もうちょっとまってろ!すぐに残りの奴らを片付けるからな。」 「…もう何が何だか。」 結果、400人程度は無事退却したが 何と半数にわたる約1200人が捕虜となった。 この捕虜たちは、後で新たなる夫として 功労があった未婚の兵士に分配されるだろう。 一方でアネット軍が受けた被害も意外と大きく、 1500人が討ち取られ、重軽症者も2000人を超えた。 七倍の兵力差をもってしても被害率は何と10%にも及んだ。 「大分手間取ったわね。早くしないと作戦に支障をきたすわ。」 「そうだな、今は目の前の戦いに集中しないと。」 負傷兵と捕虜を後方に移送させ、改めて行軍しようとしていたところに 伝令のブラックハーピーが飛んできた。 「大変ですフェデリカ様!前線基地が敵の攻撃を受けて壊滅しました!」 「なんだと!!うそだろ!!」 「ええ…いくらなんでも早すぎるわ…」 敵のあまりの速攻に二人は大いに驚いた。 「ゾーエ様は生死不明、残る兵士たちは本陣に退却していきました!」 「まずい、このまま本陣を攻撃されればたまったものではないな!」 「前線基地が落ちた以上は作戦は失敗ね… ここは早めに本陣に戻りましょう。」 「残念だが、収穫もあったことだ。このへんにしておくか。」 アネット軍本隊はすぐさま来た道を戻って行った。 本陣に戻ったフェデリカ達を待っていたのは、 ぼろぼろになったレナータだった。 「申し訳ありませんフェデリカ様…、我が部隊は一敗地まみれました。」 「いや、生き残って何よりだ。残念なことにドロテアは戦死した。 お前の姉、ゾーエも生死不明だという。」 「姉が…」 常に平静を保っているレナータがこの時ばかりは涙を浮かべる。 だが、戦死したと決まったわけではない。 捕虜となっていたら戦ってでも助け出すまでだ。 「すまんな。私が不甲斐ないばかりに。」 「いえ…そんなことはありません。」 そのまま幕舎に戻ると、そこにはリリシアがいた。 「リリシア、すまん。初戦は我らの負けだ。いくらでも罵るがいい。」 「なにをおっしゃるのフェデリカ。勝敗は兵家の常、ですわ。 一度負けたくらいでくよくよなさるなんて、あなたらしくありませんわ。」 謝るフェデリカをリリシアは彼女なりに慰める。 「それよりどうしてリリシアがここに?」 「ええ、どうやらあの軍団の後ろの本隊がついに動き始めたようですわ。 本隊は一丸となって幹線道路を進んでいましてよ。」 「となれば、そろそろここも危険か。そのために代わりに留守番しててくれたんだな。」 「その通りですわ。勢いに乗ったあの軍団が攻めてきたときに備えまして こうして増援部隊を率いてきたのですわ。 しかし、長居は無用ですわね。早くアネットまで戻った方がよろしくてよ。」 「だな、アネットに戻ればひとまずは安全だ。 キーニ。全員に陣をたたんでアネットに戻ると伝えておいてくれ。」 「わかりました!」 フェデリカは早速軍を撤退させる準備を命じた。 「ところでリリシア!この捕虜を見てくれ!こいつをどう思う?」 「……………」 そこには簀巻きにされたカレルヴァの姿があった。 もはや抵抗しても無駄だと悟ったのか、大人しくしている。 「すごく…大きいですわ。」 「だろ!あたしは一目見てこいつを気に入ったんだ! 城に戻ったら改めて(ベットの上で)一騎打ちをして、 そのあと結婚式をする予定だ!」 「あなたにもやっと春が来たようですわね… わたくしの王子様はいつになりましたら現れるのでしょうね。」 「なーに!そのうちお前にもいいお相手が見つかるって! 何せ相手は150000人以上いるからな!」 「まあ、そう考えますと逆に楽しみかもしれませんわ。」 戦場で花開いた(?)新たなカップルを見て、 リリシアもまだ見ぬ自分の王子様に思いをはせていた。 視点は戻ってカーターの軍。 「カーターさん!一大事です!」 「ミーティアか。何があった?」 「カレルヴァさんの部隊が深入りしすぎて壊滅しちゃったみたい!」 ミーティアの報告にカーターは特に表情を変えなかったが、 周りの将軍たちは少し驚くと同時に呆れた顔をした。 〜名前付き台詞タイム〜 ブロイゼ「あいつめ、陽動目的なのに本隊に突っ込むとか馬鹿だろ。」 テア「きっと久々の勝利に酔っていたんでしょうね。」 カシス「その我々教会騎士団が日頃から負けっぱなしという 認識はやめてもらいたいが、今回ばかりは 私の後輩の不手際だったようだな。謝罪しよう。」 カステヘルミ「ま、その代り敵本隊を釘付けにしたんだから 悪いことばかりじゃあないがね。」 フェスティ「これを教訓に、敵を侮らないよう心掛けるべきですね。」 イーフェ「尊い犠牲って奴かね?俺も気をつけねぇとな。」 ゼクト「このことは本隊にも伝えておきますか。」 カーター「うむ。負け戦も報告しないと他の将軍も学習しないからな。」 シモン「また、新たに入った報告によりますと、 この先に陣地を構えていたアネット軍は、都市に撤退した模様です。」 カシス「奴らは決戦を避けたか。つまらん。」 トステム「今の兵力じゃ攻城戦はとても無理だな。第二軍団の到着を待つか。」 ミラリィ「とりあえず、今は我々だけで陣地を形成しましょう。」 カーター「そうだな。退却してくる敗残兵を収容した後に アネットの3q前方にまで迫る。 ミーティアは戦果報告と現在状況を本隊に報告してきてくれ。」 ミーティア「わかりましたー!」 こうして第三軍団は再び進軍を開始した。 エルが率いる十字軍本隊も第三軍団が通った後の道を進んでいた。 「エルさーん!伝令です!」 「お、ミーティアか。早速内容を。」 「実は…」 ―――説明中――― 「なるほど、状況はすべて把握した。早速頑張ったようだな。」 「しかし、陽動部隊の敗北も全軍に通知する必要があるわね。」 同じ場所にいたユニースが意見をする。 「そのことについては軍団ごとの会議で通知しておけ。 それよりも、敵がこちらの予想通りに動いてきたようだ。 位置的に、今が分水嶺だな。」 「じゃあ、いよいよ。」 「うむ。書記官はファーリルにこのまま進むよう伝えておけ。」 命令を受けた書記官は第二軍団へ伝令に向かう。 「そしてマティルダ。」 「はっ!」 「第一軍団と第四軍団に合図だ。」 指示を出すエルはどこか生き生きしていた。 「これより本隊と第四軍団は南に進路を変更する。 目標は…チェンバレンだ!」 この後第二軍団と分離した本隊と第四軍団は、 進路を急激に変更して、一路チェンバレンに向かった。 戦闘の歴史に今でも名を残すカンパネルラ電撃戦は ここから始まった… カンパネルラ電撃戦 前編 概要図
11/02/21 08:45 up
登場人物評 十字軍第三軍団 ゼクト ジェネラル27Lv 武器:勇者の槍 百戦錬磨、質実剛健な重騎士で、カーターの右腕的な存在。 帝国軍の中でも上位に入る実力の持ち主だが、突っ込み力は皆無。 シモン ドラゴンマスター24Lv 武器:スレンドスピア(投擲可能な槍) 山岳地帯に領地を持つ国の出身で、竜騎士部隊を率いる。 生真面目な性格ゆえに下ネタを極端に嫌う。 カシス テンプルナイト24Lv 武器:ファルシオン(剣) 教会騎士団の将軍で、例にもれずプライドが高い。 しかし、ある程度融通は利く現実主義者の面もある珍しい人。 ミラリィ 賢者23Lv 武器:風魔法(トルネードなど) シモンと同じ国の出身。空気の流れを操る風魔法を得意とする。 常に伏せ目で、視線がどこを向いているのか分かりにくい。 カステヘルミ ドラゴンマスター25Lv 武器:銀の戦斧 帝国軍所属の女竜騎士。彼女の率いる空軍は、周辺国にとっては脅威。 アマゾネスみたいな男勝の性格で、喧嘩っ早い。 ブロイゼ パラディン24Lv 武器:銀の剣 パンチパーマが特徴的な帝国軍所属の将軍。 もともと帝国の市民ではなかったが、実力で今の地位を得た。 テア 司祭18Lv 武器:光魔法(パージなど) 軍を率いると同時に、治癒の魔法で味方を癒す帝国軍所属の司祭。 おしとやかなのだが、こう見えても破戒僧。教会と仲が悪い。 イーフェ 勇者20Lv 武器:バスタードソード 元傭兵だった将軍で、エルと同じく冒険者ギルド長をしている。 歩兵による切り込みを主体とする猪突猛進主義。 カレルヴァ テンプルナイト18Lv 武器:レイピア 教会騎士団所属の若き将軍。大きな体躯に似合わず、素早い刺突が持ち味。 記念すべき十字軍初のカップル成立。このあとどうなってしまうのか。 トステム サージェント19Lv 武器:スレンドスピア 諸国同盟出身の隻眼将軍。ぶっきらぼうだが、命令は堅実にこなす。 隻眼はコンプレックスで、鏡に映る自分を殴りつけたくなるという。 フェスティ チャリオット20Lv 武器:ウイングドスピア ラスティ 御者 武器:馬鞭 エスティ 射手 武器:銀の弓 三姉妹で1ユニットの戦車娘たち。三姉妹によるチームワークは抜群。 エスティが牽制し、フェスティで突く。そしてラスティが轢いてとどめ。 ミーティア フェアリー15Lv 武器:補助魔法 ユリアに頼み込んで十字軍に協力する、歴史上稀にみる軍属妖精。 底抜けに明るく、どんな相手にも対等に接する。 アネット軍 フェデリカ ミノタウルス22Lv 武器:サイクロプスの斧 自由都市アネットの市長であるミノタウルス。身長がとにかく大きい。 今回の戦いで念願の夫を手に入れる。幸せ真っ盛り。 カペラ サキュバス19Lv 武器:状態異常魔法 カンパネルラの北にある町、エオメルの市長。状態異常のスペシャリスト。 同時に、策士でもあり軍師のような立場にいる。そして自称痴女。 キーニ ワーラビット5Lv 武器:短剣 フェデリカの元で伝令をしている。戦闘能力はない。 一応アネットに住むワーラビット達の長老だが、微塵も雰囲気がない。 ドロテア ケンタウルス17Lv 武器:短弓 フェデリカに忠誠を誓うケンタウルスの将軍。責任感が強い。 アネットの革命のときからフェデリカとともに戦ってきた古参である。 レナータ リザードマン18Lv 武器:鋼の大剣 ドロテアと同じく、革命のときからの古参である将軍。 常に平静で真顔。しかし、その心には熱い闘争心を秘める。 ゾーエ リザードマン19Lv 武器:キルソード レナータの姉。妹とは正反対に感情の起伏が激しい。腕は姉妹で互角。 初めは将軍になる気はなかったが、妹に勧められ、今では頼れる上官に。 カーター「やけに多いな…」 注)次回はもっと多いです。 バーソロミュ
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