熔ける
冬だというのに、とてつもなく熱い……
黙々と志向に耽る俺の体は欲望を滾らせる製鉄所、脳は溶鉱炉のようだ。
「ヒット(もう一枚)…」
静かに宣言する。
目の前に現れたカードはスペードの9。
手札はハートの7とダイヤの8。くそう……
「ちっ…バーストか。」
「ほほう。すっかり集中力をなくしているようじゃな。
サレンダー(降りる)なら今の内じゃぞ。」
有り得ないほど完成された妖艶な美女を前に、
俺は蛇にのまれる前の蛙同然だった。
……
俺は世界を股にかける貿易商を父に持つ、自分でも言うのもなんだが御曹司ってやつだ。
それにちゃんと腕前にだって自身がある。
三年前には大時化の海を越えて霧の大陸からとある公国まで
命を懸けて運搬して大儲けしたことだってある。
それに今では支店の一つまで任される身にもなった。
ところが、だ。
たまたま仕入れのために立ち寄った、この国…『キルナス王政国家』。
その首都レミーマルタンは不夜城都市として有名だ。
無数の歓楽街が広がり、一日に動く金の量は大国の国家予算すら凌駕する。
だが、この町の虜になった奴は、まるで底なし沼に足を踏み入れたように
二度と戻ってこれなくなるのだという。
かくいう俺もその一人…
この国最大のカジノに毎日入り浸るようになってしまった俺は、
湯水のようにギャンブルに金をつぎ込み……
今では会社の資金すらつぎ込んでいる有様。
こんなことが親父にばれたら、当然勘当だろう。
せめてつぎ込んだ資金分の負け位取り戻さなければ。
この日の俺は、確かにツイていたはずだ。
ルーレットで大勝し、ポーカーでも連勝。
実際、負け分どころかもう少しで会社の運営資金に匹敵するくらい
とんでもなく儲かっていたのだ。
しかし残念ながらここでやめとけばよかったものを、
俺の欲望は際限というのを知らなかった。
そして行き着いたのがここ……
このカジノでも限られたものしか入ることのできない『超VIP室』。
ツキについていた俺に目をつけてきた謎の美女に誘われるまま
この部屋へと連れ込まれてしまった。
…
「いけない…目の前にこんな美女がいたら気が散っていけないや。」
「降りるか?それもよかろう。今負けを認めれば、プラスマイナス0じゃからな。
それに……足の裏を舐めさせてやるくらいならしてやってもよいのじゃぞ?」
「馬鹿言え。俺をだれだと思ってるんだ。まだ終わらせるわけにはいかないんだよ。」
俺はこのままではジリープアー(略)
男らしく一世一代の大勝負に出てやろうじゃないか!
霧の大陸からの奇跡の生還を起こした男をなめるなよ!
「ほらよ!掛け金はこれだ!」
「なんと。正気かお主?」
「いや、気が狂ったのかもな。」
俺は…残りのチップすべてを山に置いた。
「いい度胸じゃ、ますます気に入ったわ。ほれ、おぬしのカードじゃ。」
まず相手のカード。
1枚目はダイヤの3か。2枚目はまだわからない。
そしてこちらのカードは…………!
「ほらよ、どんなものだ。これでスタンド(止め)だ。」
「……ここに来て運を引き寄せた様じゃな。」
俺の手札はスペードの10とクローバーの10。
合計は…20!!
どうやら、最後の最後で笑うのは俺の方だったようだな。
「まあよい。おぬしはなかなかギャンブル慣れしておる様じゃのう。
それに運の巡りも中々よさそうじゃ。」
相手が二枚目に開いたカードはハートの9。合計12…
「あとは引き際さえ心得ていればもっと成り上がれたやも知れぬのに、惜しいな。」
三枚目を引く。
出たカードは……
「おい…うそ、だろ……」
「ま、こんなもんじゃ。初手で空気に呑まれた時点で終わりだったのじゃよ。」
ダイヤの…9!
合計21点!
俺は目の前が真っ暗になった。
……
「タヌキ…それがあんたの正体か。」
「まあのう。正確に言えば刑部狸。こうみえてもお主より
数百年は長く生きておるのじゃ。ま、人生の経験値の違いじゃ。」
「…で、俺を裸に剥いた上に、縛り上げてどうする気だ?」
あの後何もかもを失った俺は、カジノ関係者と思わしきメイドたちに身ぐるみをはがされ
いつの間にか真っ暗な部屋に入れられた。
そして目の前の美女には狸特有のぼふっとした尻尾が…。
「これからお主にはきちっと負け分を体で払ってもらわねばならん。」
「おいおい、まさか臓器をとかいわないよな。」
「安心せい…悪いようにはせん。ちょっとした余興の主役になってもらおうと思ってな。
それとじゃな、おぬしに初めて会ったとき、ちゃんと家には帰すと約束したがな……」
「?」
何をされるつもりだろうと身構えた瞬間、
俺の真下にある床に突然大きな穴が開いた。
「あれは嘘じゃ。」
ガコン
「うわああああぁぁぁぁぁぁ」
…
カジノの地下3階には、VIP中のVIPしか入れない空間が存在する。
その中心には大きなステージがあり、普段はここでバニーガールの格好をした
サキュバスたちが艶めかしい踊りを披露したりするのだが、
1日に1度、このステージでイベントショーのような賭け事が行われる。
日によって内容が違うため、毎日着ても飽きることのない
刺激的なショーを見ることが出来るのだ。
「選ばれし者の皆様、本日も当カジノへご来店いただきまして誠にありがとうございます♪
ただいまより、本日のメインイベントを開催いたします♪」
黒に金の縁のシルクハットをかぶった男装の麗人がマイクを片手に
狂気のイベントの開催を告げると、場に集まっていた紳士淑女の面々は
熱狂的な拍手をもって参加を熱望した。
「それでは…本日の趣向はコチラ。」
ステージに用意されたのは人間が30人以上入りそうな大きな水槽。
その中には…おお、なんということだろう!
真っ赤なマグマがゴポゴポと音を立てながら煮えたぎっているではないか!
そして上からは、裸のままロープでつるされた一人の男が…!
「お、おい……うそだろ…?」
床から落ちたその下に広がる、灼熱のマグマ。
飛び込んでしまえば溶岩遊泳どころか骨まで跡形もなく燃え尽きる…!
ステージの周囲には数えきれぬほどの男女、
誰もが哀れな生贄に悲しみの目を向けるどころか、
今から起こるであろうショーを待ち望む笑みを浮かべている。
「じゃあさっそく、ショーターイム♪」
身体を縛っていたロープが、どんな魔法を使ったかわからないが
一瞬で跡形もなく消え去る。
マグマのプールの中へまっしぐら!
(ごめんよ…親父、お袋…)
走馬灯を見る暇もなく、ダイブしていく。
ドボーン!!
…
……
………
(あれ?生きてる?)
心地よい浮遊感の中でうねるように蠢く周囲の感覚で、俺は目をあけた。
身体を包む世界の感覚は重く、うねりを帯び打ち寄せる。
いつもと違う感覚に俺は眉をひそめたが、目の前に広がる光景を見て自分の今を理解した。
ここはマグマの中。目の前が真っ赤だ。
『ツ・カ・マ・エ・タ♪』
「!?」
身体を包んでいたマグマが徐々に変形し始めると同時に、
身体の節々…とくに性器にぎゅっと圧力がかかり始める。
そう、それはまるで誰かに抱きしめられているかのような…
変形し終わった俺の目の前にいたのは、岩戸マグマでヒト型を作ったような女性。
顔は有名芸術家が一生を賭して掘られたかのような心奪われそうな美しさ。
しかしその瞳は煌々と輝き、赤々とした涎を垂らしながら喉を鳴らして近づいてくる。
…
「さあ皆様お立合い!この娘はケイグリッド火山からわざわざ運んできた
天然取れたてのラヴァーゴーレムちゃん♪彼女の爆発的な性欲で
この方を何回絶頂させられるでしょうか?ぜひご参加ください♪」
「30回は余裕と見た。」
「これは…50イクとも限らんな。」
「俺だったら70は余裕だな。」
観客たちは暢気に賭け事に沸いている。
常識ある者が見たら、狂ってると思うだろうが、
残念ながらこの場にまともな思考回路を持つ者はいない。
金と欲望と性欲のみが支配する、超日常の空間に
常識の割り込む余地はない。
…
「んじゅ♪んちゅくっ♪」
熱を帯びた体に抱きしめられながらいきなり濃厚なキス。
それと同時に下腹部を貫いていた自身が急激に熱を帯び始める。
一度に桁外れな快楽が襲い掛かり、早くも精液を噴火させてしまう。
「く…はぁ…っ!」
「んふぅぅぅん♪イっちゃったね♪あっ…あぁ、熱くてキモチイイ♪」
だが当然これだけでは終わらない。
ラヴァーゴーレムは俺のことがよほど気に入ったのか、
自ら腰を振り積極的にシゴきあげてくる。
とてもじゃないがこの快感は今まで味わったどんな女の身体よりも
桁外れの威力だったため、一分も持たずに二回目の噴火!
「あふぅぅ♪せっくすサイコー♪頭真っ白になっちゃいそう♪」
さすがに二回も出して果てるかと思いきや、
俺の性欲は衰えるどころかむしろ油を注がれた炎の様に高まるのみ。
彼女の発する熱気でとろけそうな脳内には、
ただただ彼女ともっとつながっていたいという気持ちだけが支配する。
「次はお口で♪どんな味がするのかな♪」
続いて口での抽送。熱を帯びた唾液が滴るたびに、
肉棒が焼けそうな快感に包まれる。
「あ…あつい!あついあつい…あつ、い…」
「ん♪おいひ♪じゅぷじゅぷ、じゅぽぉ♪」
もう、苦痛と快楽の違いも分からない。
熱い暑いアツい…熱量の過剰で体が爆発四散しそうだ!
俺たち二人が絡み合い、何度も絶頂に達するたびに
観客たちのテンションも爆発的に高まっていく。
熱狂がホールを支配し、灼熱地獄まっしぐら。
「すごいすごい!大噴火大噴火!現在カウントは23!」
23…!もうそんなにイったのか!?
もう自分でも何が何だかわからない…
俺にできることはただ一つ、目の前にいる彼女に精液を注ぎ込む!ただそれだけ!
「カウント!45!46!47!48!」
「すきぃ♪大好きぃ♪もっともっと中に出してぇ♪」
「ああーっ!!」
ピストン運動が止まらない!
うおォン 俺はまるで人間火力発電所だ!
………
……
…
「カウント終了♪記録は……108!」
『うおおおぉぉぉぉ!!』
ギャラリーの歓声が響く中、俺と彼女は水槽の中で抱き合いながらぐったりとしていた。
さすがに8時間も連続とは……しかし不思議と疲れは感じなかった。
「もう……離さないから♪」
「望むところさ…」
こうして俺は、欲望の不夜城に熔けたのだった。
14/02/11 00:02更新 / バーソロミュ