日蝕
さてさて、私はどうしてこのようなことをしているのだろうか。
何度も何度も自問自答を繰り返すが、その都度出る結論は
『自分自身の意志の弱さが招いた結末』でしかなかった。
責任、道徳、名誉、分別…これらの言葉が、見えないところから
私に対して指を突き付け、お前は世界一の愚か者だと非難する。
「ルナ…その、私重くないかしら…」
「何を仰られるのですか。私は勇者様より重たいものを振り回すこと
だけが取り柄の様なものです。どうってことありませんよ。」
傷つけないよう慎重に丁寧に、両腕で抱きかかえた大切な人が
この上ない羞恥の表情で抱きかかえる私を見上げてくる。
私もなるべく平然を装い応答するが、やはり顔が熱い。
きっと私の顔も熟したリンゴのように真っ赤になっているに違いない。
「あっ……」
ふと、彼女は私の頭から伸びる―私の数少ない自慢の―銀色に輝く髪の毛を
その手に取り、うっとりとした目つきで眺め、すんと一呼吸して
発せられる匂いを堪能する。…そんなことされると余計ドキドキしてしまう。
「この子も…ルナみたいな綺麗な銀色の髪の毛になるといいな。」
「そ、そうですか?私は勇者様の髪の毛も素晴らしいと……」
「ううん、私はあなたの髪の毛の方が好き…。」
ねっ、と笑いながら私の髪の毛を自らの指にくるくると絡ませる。
「それにね、安心するの。…ルナのだっていうこれ以上ない証明になるでしょ♪」
「………」
返す言葉がなかった。それは逆に、私が犯した罪の証明にもなるのだから。
でも…とてもうれしかった。心が張り裂けんばかりにとめどない気持ちが
溢れて止まらない。自分の役目をすべて投げ出して、どこかに逃げてしまいたい。
「勇者様。」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
ああ、なにもかもがあの時と同じ道をたどっている。
きっと私は一生この女性には逆らえない。月が太陽に勝てるわけがないのだ。
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
勇気を振り絞って愛しい人の名を囁くと、彼女は満足したようなとろけた笑みを浮かべ
片手で私の髪を弄びながら、もう片方の手で自身の腹部を愛おしそうに撫でまわした。
隠しようもないくらい、いやらしく膨らんだそのお腹を…
…
【太陽の勇者】ソルといえば、
この世界でもとくに有名な勇者の一人であることは間違いない。
腰まで届く波打つような紺碧の髪にサファイアのようだと例えられる
深海のような色の瞳、うっすらと飴色をした健康的な肌に、
「我こそは正義」と言わんばかりの凛とした顔が特徴的だ。
先祖に勇者や聖女を何人も輩出した名家の生まれで、
正義感が強く、弱きを助け強きをくじく立派な性格の持ち主。
幼いころから何事も人一倍優秀だった彼女は、すぐに勇者候補として
出身地・エクセール王国に召集され、サンドリヨン中央教会で洗礼を受けた。
彼女の優れたところは、その才能だけではなく自ら努力を怠らなかったことだろう。
王国の剣術だけではなく、修業のために時折隣国に出かけては
数多くの流派の剣術や魔術を学び、瞬く間に自分のものとしていった。
そして、18歳になり正式に勇者と認められる。
中央教会から『聖剣・ソル』…彼女の名前を冠した最強の聖剣が手渡され、
神族のお告げにより勇者としての加護をその身に宿した。
彼女が持つにいたった加護の力は、類を見ないほどの強力なもので、
その効果に王国や教団のだれもが驚きを隠せなかったという。
彼女は光の神ルグスの加護により、陽が出ている間は身体能力が大幅に向上し、
剣を一振りするだけで周囲数百メートルに浄化の光が振りまかれる。
これを浴びれば、邪なるものは抵抗するまもなく光にかき消され、
心正しき者は傷がたちどころに癒え、勇気が無限に湧いてくる。
それはまさに、闇を暴き、世界を照らす太陽。
彼女の勇姿を人々は大いに讃えたのだった。
勇者と認められてしばらくもしないうちに、彼女に任務が課された。
それは、世界各地に散らばった「星の欠片」を回収するというもの…
元々一つの聖なる宝玉だったものが、先代主神が魔王討伐の際に誤って割ってしまい
(しかもこれ、他の神からの借り物だったらしく……)
それが欠片となってバラバラに飛び散ってしまったのだ。
もしかしたら、中には魔界の奥深くに飛んで行ってしまったものもあるかもしれない。
回収は困難を極めると予想された。
それと同時に、中央教会はそのような回りくどいことをする必要はなく、
彼女自身の力で魔王を討ち滅ぼしてしまえばいいと確信していた。
歴史上このような短絡的な考え方は身を滅ぼすことが証明されているのだが、
生憎自分たちを絶対正義と信じる者たちは、それが理解できずにいる。
その点で彼女が幸運だったのは、エクセール王国女王が勇者ソルへの
バックアップ体制を完璧にしようと全面協力してくれたことだろう。
エクセール王国の女王は非常に聡明な人物であり、かつ、機転も働く性格だった。
いきなり敵の本丸へ突入させようと画策する無謀な教団の計画に真っ向から反対し、
何年かかっても構わないから高度な経験と完全な装備を整え、
確実に魔王を倒せばいいと声高に主張したのだ。そこで、勇者ソル本人の
意向を汲むことにし、結果彼女は「急がば回れ」をえらんだことになる。
今思っても、女王の提案は王道かつ理にかなったものであり、殆ど経験もないのに
いきなり魔界に放り込もうとする現在の教団の方針は乱暴以外の何物でもない。
さて、ここまでは物事はすべて完璧だったと言えるが、
やはり人間の人生は完璧に全うすることは不可能だった。
その要因は…何を隠そうこの私の存在だった。
私の名前はルナ。
確実とは言えないが、記憶している限りの簡単な生い立ちを話そう。
私の父は第3代エクセール国王…つまり現女王の父親でもあるが、母親が違った。
母は王宮に仕える近衛の女性騎士で、王国の盾とも言われた強者だったらしい。
…らしい、というのは、私はそもそも母の顔を見たことがない。
なんでも、不義の密通の末私を生んだ母は、その責任を感じて
魔物との戦いでがむしゃらに戦った挙句に戦死(実際は行方不明らしい)したそうだ。
ここで問題なのは私の処遇だった。いくら国王の子とは言え、浮気してできた子を
王位につかせることはできない。かといっても、国を代表する猛将の残した粒でもある、
ポイと捨ててしまうのはおしい……、そんなわけで、私はやや遠方の国で
名目上は人質として、実際は有事があった際に戦力となるように徹底的に鍛えさせられた。
そして、10代前半にして、私はその国の『白銀騎士団』の一員となり、
数年後にはその腕を認められ、将来の隊長の地位を約束されるにいたった。
私に対する他人の評価は「それはまるで生きた彫刻のよう。白銀に輝く髪はひざ裏まで届き、
痩身で雪のような儚く白い肌、ただし表情は人形のように固く、視線は氷のように冷たい。」
とか言われていたが、特に痩身だの雪のような肌だの言われるのは嫌だったので、
いつの間にか『装甲姫』の異名がつくほど、顔以外のすべての個所をドレス型の鎧で覆った。
(ただし、母親の形見である銀色の髪の毛は数少ない自慢で、一度たりとも鋏を入れなかった)
そんな私に目を付けたのが異母姉であるエクセール女王だった。
女王の名で私に帰還招集がかかった。名目は、新生勇者の護衛任務。
この時エクセール王国と教団の間では、勇者ソルを巡る最後の意見対立が起きていた。
すなはち、女王側は「勇者と言えども一人での任務は困難を極める。それゆえに、
勇者ソルを中心とするパーティーを組み、協力して事を起こすべきだ。」
と主張したのに対し、教団側は「彼女の名誉のため、同行者は多くても一人か二人にとどめるべき。
それに間違いが起きぬよう同性のみで編成すべし」とこれまたむちゃな要求を出してきた。
実際、勇者ソルは教団から受けた教育の過程で、異性に対して否定的な考えを
植えつけられてきたせいで、男性恐怖症とまではいかなくとも、
男性を汚らわしいものという偏った考えを持っていたことも問題だった。
しかしながら、女性で尚且つ彼女よりも一部でも技能的に優れた人物は皆無に近い。
恐らく私の母が生きていれば、あるいは有り得たかも知れないが……
女王陛下もそう思ったのかは知らないが、真っ先に白羽の矢がったったのが私だった。
…
今でも鮮明に覚えている…あの日、勇者ソルと初めて顔を合わせた。
「貴女がルナさん?はじめまして、私がソルよ!よろしくね!」
「はっ」
初対面にもかかわらず物怖じもせずに明るく挨拶を交わしてくる勇者ソルに対し、
私は相変わらずの無機質な声で応答し、彼女の前に跪く。
一瞬彼女は困惑したが、すぐに笑顔を戻して私にその場に立つよう言った。
今日から目の前に立つ勇者様が、私の絶対の主となる…そう思うと、
自然と視線が彼女の全身をジロジロとみてしまう。
―何と眩しい方だろうか―
私は心の中で驚きの声を上げた。
彼女は私にないものをたくさん持っていた。それは、人を惹きつける魅力の様なものだ。
正直、彼女に会うまでは勇者の護衛程度…と考えていたが、
勇者ソルに出会った瞬間にその考えは彼方にまで吹き飛んだ。
むしろ「この方のためなら命を捨てても惜しくはない。」と無条件で感じてしまうくらいだった。
人形同然の無機質な私に対して、勇者様は人間の温かみ溢れる人物で、
それが私にとって、とても新鮮な感覚だったのだ。
「ルナ…さんって、そういえば私より年上なんだっけ?何て呼んだらいいのかな?」
「勇者様、私のことは呼び捨てで構いません。私は勇者様の忠実な僕ですので。」
「僕だなんて…!ルナと私は対等な仲間なんだから、勇者様なんて呼ばないで
私のことも名前で呼んでほしいな。勇者だからって遠慮はいらないのよ。」
「そうはいきませぬ勇者様。上下関係ははっきり区別せねば。」
「ぅ…か、硬いわねこの娘……」
上下関係がすべての世界で生きてきた私にとって、主従の区別は当然のことだった。
私の役目は勇者様が受ける傷を可能な限り引き受ける盾。
私情は一切はさまず、命を賭して勇者様をお助けすることこそが、
生きる彫刻たる私の使命なのだから。
「…コホン!」
と、そばに控えていた教団の司教がわざとらしく咳払いすると、
もの珍しそうに私の鎧をぺたぺた触る勇者様は一瞬で表情を引き締め、
勇者にふさわしいピシッとした姿勢を形作る。
なるほど、彼女にも逆らえない存在があるのだろう。
「白銀騎士団、五十人隊長ルナ。」
「はっ」
「そなたは主神様に、勇者ソルの僕と認められた。
すでにその身は御身の物に非ず、勇者の為神の為、
惜しむことなく全身全霊を捧げよ。」
「承知仕りました。不肖ルナ、何事に代えましても勇者様をお守りいたします。」
神への誓いの言葉と共に、私は再び勇者様の前に跪き、差し出された手を取る。
健康的な飴色の手…女性の手なのに暖かで、力強い手だと思った…
そのとき勇者様は、私の手に両手を重ねると、こともあろうか装着していた手甲を
ガチャガチャと外し始めるではないか。そして、ここ数年間一度も外さなかった
(一応浄化魔法は日に数度掛けているので不潔ではないはず…)漆黒の手袋を外す。
日に当たらず、色素が抜け落ちてより白く儚くなった私の手……
このような物を見せてしまうとは…私はいささか恥ずかしくなった。
だが勇者様は、私の手を見るなりこういった。
「綺麗な手ね。でも、私に負けないくらい力強い。」
恥ずかしながら、この時の私は夢心地だった。
勇者様の手は美しいだけではなく、触れるとその暖かみが伝わってくる…
その熱は私の手を伝って、鉄の塊のように冷たい体に染みわたった。
「ふふ、ルナの体にも血が通ってる…ね。あなたは彫刻なんかじゃないわ。
第一彫刻なんかに私の身が守れるはずないもんね!
私からもお願いするわ、これからずっと頑張っていこう♪」
「ありがたき幸せ…」
私はこの時初めて「優しさ」というものに触れることが出来た。
…
勇者とその従者がエクセール王国を出発して一か月もたたないうちに、
太陽の勇者ソルと装甲姫ルナのコンビの噂は大陸全土に広がった。
光の神の加護を受けた勇者ソルは、太陽が出ている時間…
それは例え曇っていようが雨が降ろうが、例外なくその身体能力は
大幅に強化され、力が最も強くなる正午には通常の3倍にもなるという。
また、魔法の腕もそこらの上級魔道士も裸足で逃げ出すほど
強力で扱いにくい魔法をいとも簡単に使って見せた。
そして、ただでさえ強い勇者ソルを援護する装甲姫ルナもまた、
華奢な体にまとった巨大な盾と、ミスリルをも貫く突撃槍で、
近づくものを薙ぎ払い、勇者ソルに対して傷一つ負わせなかった。
愛用している鎧は、魔法宝珠と呼ばれる貴重な宝石をふんだんに使ったものだ。
服に一つ埋め込むだけでもかなりの防御力を発揮するが、素材は高価で
さらにかなり重量がかさむ。よって、普通は軽いローブの先端に織り込んだり、
ビキニアーマーの様に表面積を節約することになるのだが、ルナはこともあろうか
魔法宝珠でフルプレートをオーダーメイド。重量は40kgを超えた。
その上これまた嵩張る大盾に、普通は両手で持つ重さの突撃槍。
もはや超人の類と言っても過言ではない。
二人は行く先々でそこ国が抱える問題を律儀に解決しつつも、
目的である星の欠片の捜索も怠らなかった。
12個あると思われる欠片のうち3つは人間国家で発見された。
続けて2つの欠片も、それほど回収が困難ではないところにあった。
ここまでわずか半年しか要さず、その先も順調にいくかと思われた。
ガキイィッ!!
「くっ…くうぅぅっ!?」
「ルナっ!?」
「こしゃくな…わが一撃を耐えるか……」
旅を始めてからそろそろ一年経ったある日、ルナは生涯初めての傷を負った。
今まで数多くの冒険者を沈めてきた凶悪な一匹のドラゴンが、
よりによって星の欠片の一つを持っていることが判明したため、
ドラゴンが住む険しい山に乗り込み、戦いを挑んだのだった。
ただ、ドラゴンにしてみれば今までため込んだ宝の山を眺めて
ウハウハしていただけなのに見ず知らずの人間に駆られるのは御免だったろう。
ソルとルナを見るや否や、源竜変化を行い攻撃を仕掛けてきたのだ。
ドラゴンの一撃は凄まじく…ブレスは鉄をも溶かし、尻尾の一撃は岩をも砕いた。
しかし、それでも勇者ソルは怯むことなく攻撃に徹し、
ルナはドラゴンの一撃から彼女を守る。だが、勇者ソルが一瞬の隙を突かれ
ドラゴンの鋭利な爪が襲う……絶対に避けられない間合い、その攻撃を
ルナは身を挺して受け止めたのだ。
「せやあぁぁっ!!」
「ンアーーーーーッ!?」
逆に自身の渾身の一撃を受け止められて隙が出来たドラゴンに対し、
勇者ソルが聖剣による必殺の一撃を叩き込んだ。
強大な光の力の前に、さすがのドラゴンも大幅に魔力を失い、
源竜の力を保てなくなったことで、元の姿に戻ってしまった。
「く、くそっ!私の宝物が…覚えてろよ!」
「ふぅ…これでようやく半分。思ったよりも厳しいかもしれないわね。」
「左様でございますね。」
ドラゴンを退治して、二人はほっと一息つく。
「あ、そういえばルナ!あなた傷は!」
「傷ですか。大したことありません。鎧が威力を緩和したために、
かすり傷程度で済んだようです。ご心配おかけしました。」
「そんな…ルナを心配するのは当然よ。」
ルナは大した傷ではないというが、その傷口は縦に大きくえぐられていて、
白い肌に血がたらたらと滴っているのが見える。
ソルはすぐに回復魔法を唱えて傷口をいやしたのだが、
それと同時に嫌でも現実を直視させられることとなった…
ルナもまた人間である。それは不壊の楯に非ず。
自分に落ち度があれば、その分だけルナが傷ついていくことにもなるのだ。
ここ一年で、勇者ソルがルナを見る目は大きく変わった。
初めのうちは対等な相棒とは言いながらも、やはり二人の間には距離があった。
太陽のように明るいソルに対して、人間味の欠けるルナ。
ルナは宿屋に宿泊するときも、自分はソルの護衛だからと言って
ベッドに入らず、それどころか甲冑を脱ぐこともせずずっと夜番に徹していた。
それらの行動は人間の生き方とかけ離れた不気味さがあり、どうすれば
もっと親しくなれるのか真剣に悩んだ時期もあった。
だが、長い間接しているうちにルナにも以外に人間味のある部分もあることも分かってきた。
見たこともない生物と出会ったとき、初めて食べる料理を食べた時、
まるで子供の様に一直線に興味を示すのがどこか可愛かった。
そしてなにより、ルナの顔をじっと見つめてあげると、決まってルナは
ソルよりも長い間顔を直視することが出来ず、頬を赤くして視線をそらせてしまう。
そのしぐさがまた何とも言えず可愛らしかった。
ところで、前も述べたように勇者ソルは男を寄せ付けないことで有名だった。
そもそも偉大な勇者様を口説こうなどする輩はそうそういないのだが、
たとえ言い寄られても、問答無用で袖にしてしまうという。
実は彼女、若干百合の気があった。
これは彼女が持っている元々の素質というよりも(無論それもあるかもしれないが)
教団が施した英才教育に偏りがあったのが大きかった。
なるべく身近に男性を近づけず、異性との接触は殆どなかった。
旅に出た後はさすがに男性と接する機会はそれなりにあったため、
特に恐怖症のような類を発症することはなかったが……
で、それがどうしたと言えばそれまでだが、
要するに勇者ソルは恋愛ごとに興味はなかったのかどうか…
ここまで言えばもうわかるかもしれないが、彼女は自分でも気づかない間に
相棒であるルナに対して淡い恋心を抱いてしまったのだった。
…
私、ルナには誰にも言えない大きな秘密があった。
この秘密がばれたら最後、私はこの世界にいられなくなるだろう。
敬愛する勇者様に裏切り者と誹りを受けながら、その剣で首を断たれるだろう。
だが、それは勇者様を主と誓ったその日から覚悟していたこと…
私は騎士団に所属していた当時、隊長からこのようなことを仰せつかった。
「これから先、どのようなことがあろうとも、身につけたその装甲を脱いではいけない。
あなたがその装甲を一枚でも剥がしたとき、身も心も闇に呑まれるだろう…」
一般人であればそんな馬鹿なと思うかもしれないが、少なくとも私たち
白銀騎士団は騎士叙勲を受けたその日から常在戦場を心掛け、
身体を休める時も絶対に背中を見せてはならないとされている。
私は本当に強い人間なのだろうか?
貝や甲羅を背負う動物たちと同じで、常に何かに身を預けなければ
自分の身一つ守れない軟弱な生き物なのではないか?
その答えは今からさらに一年後に判明する。
魔界化していない地域を長期間渡り歩いた結果、どうも残り半分の欠片は
魔界にいかなければ回収できないという結論に達した私と勇者様は、
その年の秋に覚悟を決めて魔界へと足を踏み入れる。
魔界における探索の難易度は人間界とは比べ物にならないほど困難を極めた。
絶え間なく襲いかかってくる魔物や、人間に悪影響を及ぼす気候が
私と勇者様の体への負担となり、結局探索できるのは
勇者様の力が高まる日中の三刻間(6時間…すなわち午前9時から午後3時まで)だけ。
当然のことながら芳しい成果を上げることは到底かなわなかった。
それでも、勇者様の持つ加護は魔界でも失われず、魔力による干渉を跳ね除けた。
私もまた体に纏う無数の魔法宝珠からなる鎧が功をなし、
極秘図鑑に書かれているような色香に惑わされるといった症状は出なかった。
しかし、勇者様も私も気が付かなかった大きな落とし穴があった。
………日が沈んでからの半日間は強力な光の加護の効力が失われてしまう。
つまり、陽が沈んだ後の時間は魔力汚染に対する抵抗力が普通の勇者程度にまで
落ち込んでしまうことを意味していた。それでも私は念には念を入れて、
魔界から戻った後は勇者様の体を教会でしっかりと清め、魔物の襲撃に備えて
毎晩臨戦態勢を崩したことはなかった。…が、残念ながらその対策は完璧にはいかなかった。
「明緑魔界」。現魔王の代になってから見られるようになった特殊な魔界である。
そこは一見すると緑が広がる自然豊かな土地なのだが、魔界と言われるだけあって
魔力濃度は人間界と比較にならないほど高い。
私と勇者様はそんなことも知らず、時折明緑魔界と化した地で宿泊することがあった。
魔界の魔力は知らないうちに勇者様の体に徐々に蓄積されていく。
いや、今までの旅路だったのなら夜のうちにたまった魔力は陽の昇る間に
自然に浄化されていくことだろう。しかしながら、今や勇者様と私は
本格的な魔界探索に乗り出している。必然的に強力な光の加護も、
身体を冒そうとする強力な魔力を跳ね返すために使われることになるだろう。
0 2-3 2…これが次の日に持ち越される魔力汚染の総量。
やがて小さな変化が現れた。今まで、同じ部屋の中で休むことがなかった私だが、
ある夜勇者様が「添い寝をしてほしい…」と頬を染めて呟いた。
初めのうちは故郷が寂しくなったのかと思い、適当な返答で部屋に帰してしまった。
だが、これがいけなかったのか、その日を境に勇者様は毎晩、何かと理由をつけては
添い寝を求めてきた。こんな鉄の塊と寝たらさぞ寝心地が悪いだろうに…
そう思ってはいたがさすがに断りきれず、同じ部屋の中で一晩過ごす形で妥協した。
ところが…である。
不思議なことに、朝起きると勇者様は私に添い寝を求めたことをすっかり忘れてしまっていた。
初めて同じ部屋で夜を過ごした日の朝、目を覚ました勇者様が、
私が部屋の中央でじっとしているのを見て非常に驚いていた。
「ど…どうしてルナが私の部屋に!?珍しいこともあるものね…」
「珍しいと言われましても、昨夜勇者様は私にあれほど部屋の中に入るよう
勧めてきたではありませんか。」
「え!?私知らないわよそんなこと…?」
「……申し訳ありません。私の勘違いか何かだったのでしょう。
許可なく勇者様の部屋に立ち入ったことを深くお詫び申し上げます。」
「そんな、お詫びだなんて…私は構わないわ!むしろ…その、一緒にいたほうが…
私が昨日何を言ったか覚えていないけど、これからも、一緒の部屋にいてくれるとうれしいな。」
「勿体なきお言葉…」
何かがおかしい。そう感じた時点で、すでに手遅れだったのだ。
ここのところ勇者様は日が落ちる時間帯になると、ほんの数分本人の意思に関係なく
眠ってしまうという不可解な現象を発症した。そして再び目覚めた後の勇者様は
陽が出ている間の勇者様と纏う雰囲気が違うことに気が付く。
明るく活発で爽やかな性格はそのままなのだが、僅かながら色気を帯び始めた様子…
まあ、勇者様とて人間の女性だ。恋をしたい年頃なのだろう。
その相手がどこの誰であろうと私には関係のない話だし、口を出す問題ではない。
私は盾。私は盾…だ。
「ル〜ナ♪」
「…如何なさいましたか勇者様。」
ある日、魔界のすぐ近くにある辺境の村で宿をとっていた時のこと、
勇者様は私の背中から肩に抱き着き、いつも以上に密着してきた。
季節はそろそろ冬、私の纏う鎧も外気で冷え切っているし、触れても冷たいだけだ。
きっとすぐに離れるだろう。そう思っていたが、なかなか放してくれる気配がない。
「ねえルナ、私たちが一緒に旅してそろそろ2年になるのに、
ルナが鎧を脱いだのを一度も見たことがないの…不思議だと思わない?」
「そう仰られましても、勇者様をお守りすることが私の役目。
たとえ信頼する者の前でも決して武具を離さないのが白銀騎士団の掟です。」
「ふ〜ん……ルナは私と掟、どっちが大事?」
「え…」
勇者様から出されたあんまりな質問に、私はどう答えていいのかわからなかった。
しかし、答えなければ失礼にあたる。
「それは、勇者様です。」
「本当に?」
「はい。」
「嘘じゃないよね?」
「はい。」
「じゃあ、今ここでその鎧脱いじゃおうか♪」
「は―――…ぇ!?」
まさか勇者様にパワーハラスメントをされる日が来るとは思わなかった。
私はもう何年もこの鎧を着たまま…今更脱げと言われても抵抗がある。
「勇者様の命令とはいえ、承諾しかねます。」
「えぇ〜、じゃあさっき言ってたことは嘘なのね。ルナのうそつき!」
「…甚だ心外です。」
「私、もっとルナと触れあいたいの…それすらも許されないというの?」
「……っ」
いつの間にか私は勇者様に迫られ、今まで見たこともない心打つ表情で懇願された。
頬は赤く染まり、切なそうに眉毛を垂らし、今にも泣きそうな顔だった。
普通の人にこの様な顔で懇願されても冷淡にあしらえる自信があったが、
敬愛する勇者様となれば話は別だった。このような視線は私の心が耐えられない。
私の鎧は…私にしか外せない最高度のロックがかかっている。
留め金のような部品は一切ない。外すか外さないかは私の意志にかかっている。
ああ…勇者様は私の心をこじ開けてしまった。私は勇者様の所有物、
勇者様にはあける権利がある。今私は、心の留め金を外した。
ガシャン!
まず肩当てが外れる
ガシャッ!ガキン!
腰回りのフォールド、側面二枚板金のタセットを外すと、
キュレットスカートというスカートの形状をした下半身の主力装甲を脱着。
全体の重さの3分の1を占めるそれは、轟音を立てて床に崩れ落ちた。
カシャッ!カシャッ!ガチガチ!ガシャン!
喉、肘、二の腕、手甲、そして最後に胸甲…
私を「装甲姫」足らしめた白銀の鎧はすべて私の体から剥がれ落ち、
キャベゾン(鎧下に着る衣服)のみが残ることになった。
自分の体重以上の重量を誇った装甲を失った私は、突然得も言えぬ不安感を感じ、
身体を動かす時も必要以上の力がこもってしまってぎくしゃくする。
「これで…よろしいでしょうか…?」
まるで恋人に寝間着姿を見られた乙女の様に縮こまってしまう私。
「うわ〜ぁ…ルナってこんなに細かったんだ。
それなのにこんな重い鎧を着せられて…なんだか可哀そう。」
可哀そうと言われましても、これは私が自分で着こんだのですが…
「ふふっ…、でもこれでやっと、添い寝できるよね♪」
「!!」
「今夜は寒いでしょ、こういう日は人肌恋しくなるもの。
私とルナで肌を重ねて…抱き合って眠りたいの、きっと暖かいよね。」
「勇者様…!い、いけません!」
私ににじり寄る勇者様、勇者様から離れようとする私。
肌を重ねるだなんて冗談ではない…!
私、ルナには誰にも言えない大きな秘密があった。
この秘密がばれたら最後、私はこの世界にいられなくなるだろう。
思考が混濁する中、いつの間にか私はベッドにまで追い詰められていた。
「ルナ、怖がることは何もないよ。ね、ほら……優しくしてあげるから…」
「あ…ぁ…」
勇者様が私に覆いかぶさるように身を重ねてくる。
今まで感じたことのない、人間の暖かさと柔らかさ…
まるで金縛りにあったように私は身動きが取れなくなり、
心臓が早鐘を打つようにガンガン鳴り響き、熱っぽさを感じる。
そして…勇者様の右手が…私の下腹部をなぞった。
キャベゾンの上からも隠しようもないくらい、いやらしく膨らんだ下腹部を…
「やっぱり…ルナって男の子だったんだ♪」
「………はい。一体いつ気が付いたのですか?」
「だって、ルナから女の子にはない、いい匂いがするんだもの。」
そう…私は男性だった。
これは私が王国から離れて、公に存在が公表されなかった理由の一つであり、
場合によっては子供の内から去勢してしまおうという案もあったらしい。
だがはっきり言ってその必要はなかった。
世の中には、遺伝子バランスの関係で男性なのに女性のような容姿や
性格を持つ人間がいる。また、逆も然りである。
中には先天性の異常の者もいるが、大抵の場合はもともと中性的な人間が
第二次成長期に体内魔力を限界まで消費して無理な修練を行うと、
成長過程で使われるホルモンバランスが崩れ、症状が軽くても
変声期が一生来なかったり性格が女々しくなったりするが、
これが重度となると性倒錯や性器の不具といった笑えない後遺症もありうる。
そして何を隠そう私もその後遺症により、変声期も来ず、見た目も
ほぼ女性の容姿が備わった。今思えばこれもまた神の意志だったのかもしれない。
だから私は、最低限のプライドとして自分のことを絶対に女性だとは言わなかった。
言わなくてもまわりは勝手に勘違いしてくれたし、四六時中鎧を着てれば
ばれることは殆どなかった。それなのに今…
よりによって勇者様にばれるという失態を冒した。
「ルナは男の子として、私のことをいつもどう見ていたの?」
「そ…それは…」
「…答えてくれないの?」
体を覆う装甲も心を覆う装甲も剥がされた私は、
勇者様の色っぽい言葉に逆らうことはできなかった。
「いえ…勇者様は強いくて、頭もよくて、責任感も強く…
誰にでも分け隔てなく明るい笑顔で接することができる素晴らしい方……
だから皆にも信頼されて慕われて…私の理想の女性で……」
「ほかには?ほかには?」
「他には…と言われましても、私の貧弱なボキャブラリーでは何とも…」
「ねぇルナ、私たち…恋人同士になろうよ♪」
「恋…人…?」
恋人という言葉を耳元でささやかれた瞬間、
私の脳は沸騰したように正常な思考が出来なくなり始めた。
生まれて初めての感情に戸惑い、どう対処していいかわからなかったのだ。
今私はみられると恥ずかしいくらい無残な顔をしているだろう。
「私はルナが好き…。ずっとずっと、私のために頑張ってくれたルナが好き。
ずっとずっと…つかず離れずの距離で見守ってくれたルナが…大好き♪」
「………あ、あのっ…そのっ…わ、私も…ゆ、勇者様の…ことが…」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
めっ、と人差し指を唇に当ててくる。
私は…もう一歩進んでしまったら、今まで築き上げたすべてを崩すことになるだろう。
一時の情に流されて理性を失うことなどあってはならない。
だが、冷静になれない、誰かの助けなしでは一歩も引き返せない。
優しさと寂しさを覚えてしまったこの体は、暖かみに飢えている。
装甲を纏わぬ私は…こんなにも弱い存在だったなんて…
勇者様、もしあなたに大義のために小さき心を捨てる果断さがあるのなら…
今この瞬間に私の首を体から切り離し、地獄へと送ってください。
私は今まさに…あなたの優しさに屈しようとしてるのだから…
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
私の唇に、ソルのそれが覆いかぶさるように重なった。
ソルにとっても私にとっても初めてのキス…甘い陶酔感が体に広がる。
「ルナ…愛してるわ。んっ、ちゅっ…ちゅむっ、んちゅる…」
「…ソル、私もソルを愛しています。」
「嬉しい…♪ふぁ…」
二度目のキス。お互いの気持ちがずれてしまわないように、
ソルは長く大胆に、唇を奪ってきた。
今でも信じられなかった…昼間の勇者様と今のソルは全くの別人に思えてくる。
恥ずかしさと嬉しさがごちゃ混ぜになった色っぽい顔で私を求める
その姿は、太陽の勇者ソルではなく、一途に恋する乙女そのもの…
「寝間着…脱がせてくれる?」
「はい…」
言われるまま、キスしながらソルの寝巻の紐に手をかけた。
同時に私のキャベゾンもソルの手ではらはらと脱がされていく。
だが、私がソルの胸を抑える布を取るのに手間取っている間に
私の方はあっという間に表面を覆っていた布のほとんどがはぎ取られ…
「こ…これが、ルナの…」
「…っ!!そ、ソルっ…あまり見ないで…下さい……」
「いいじゃない…減るものでもないし♪」
そういいつつも、おずおずと私の男性気に手を伸ばし手で包み込むように触れる。
急所に触れられただけでゾクッと未知の感覚が電流のように走り、
思わず湿っぽい吐息を吐いてしまう。
「なんだ…聞いたほど気持ち悪いものじゃないのね。ううん、むしろ…
ルナったら…見た目は私より美人なのに、ここはしっかりと男の子してるのね。
まずは、この皮をむいてあげるんだっけ…?は、初めてだから下手かもだけど、
私…ルナのために頑張る…。ん…ちゅっ、れろっ…」
「あ…や…ソル、そんなところ……汚い、舐めちゃ…だめぇ…」
これではどちらが女でどちらが男かわかりやしない。
私は情けない悲鳴をあげながら、徐々に男性器の皮をむかれていった。
ソルの舌が皮と果肉の隙間に唾液を塗りたくりながらまくるように
尚且つ私が痛くないよう優しく優しく…剥いていく。
「ひうっ…!」
「ん…剥けた♪…ほうほう、竿の方の皮は、ずいぶん……伸びるのね?
それに対して、先っぽの方はツルツルで……ぶよぶよしてる。
熱くて…硬くて……不思議といつまでも触っていたい…
あっ、私ったら、いつも聖剣を持つ手でルナの大事握っちゃってる♪」
私の性器を弄りながら、ソルは好奇心旺盛にいちいち驚いて見せる。
肉胴の皮を引っ張ったり、血液をため込んでパンパンに膨らむ
亀頭を手のひらでぎゅっと圧迫してみたり。
「これは…ルナが私だけにくれた、夜の聖剣だもの……。
剣の名前は『聖剣・ルナ』…♪私の聖剣に負けないくらい…立派よ。」
「その、あまり恥ずかしいことを言わないでもらえませんか?
聞いてる私もいたたまれなくなってくるのですが…」
「ふふ、だって…」
ソルは右手で行為を継続しながら、私の耳元につぶやいてくる。
吐息が耳にかかり、背筋がゾクゾクと震えた。
「これが、私の中に入っちゃうんでしょ?」
「あ……ああっ!ソル…ほ、本気で?」
いくら私でも、人間の性行為の知識は人並みにはある。
もっとも、自分には縁のないものだと思っていたのだが…
ソルに言われてようやく、自分の性器をソルの中に突き入れる
想像図が浮かび上がり、未知に対する興奮でますます震えが大きくなる。
「愛し合ってるなら、身体を重ねることは自然なことなの。
好きよ…ルナ。私たちはもう恋人同士、これくらい普通だと思うわ。」
「そんな優しいこと耳元で言っちゃ…あうっ!?
だ、だめです……このままだとソルの手、汚しちゃいます!」
「わ…ルナの聖剣……すごく熱くなってきた………
大きさも、さっきより膨らんだかもしれない。
私のご奉仕…そんなに気持ちいい?嬉しいな、ルナ……」
「はあ、はあ、ぁ…私、何か来ちゃいますから…!
くあっ…出る!出ちゃう!早く…手、放してください!」
「ダメ…ちゃんと最後まで見せて!ルナ…ルナっ!
私の手の中であなたの聖剣の力を解放するところ見せて…!」
ソルの手で愛撫された私のモノは、我慢の限界に達して暴発した。
体の奥からこみ上げる熱いマグマの塊が鈴口から吐き出され、
モノに添えられた右手を腕の辺りまで容赦なく汚していく。
「うああぁっ………!?あ、はあぁっ!?」
「ひゃっ!?あ、熱いっ……なにこれ、凄い量…はっ、あぁ…
まだまだ出てくるっ…、これが…ルナの精子なのね…」
「ソル…ごめんなさ……、ソルのきれいな手…汚してしまって……」
「ううん、汚くなんかないよ。その証拠に………ん、ぴちゃっ…」
なんということか!ソルは手に付着した私の精液を舌で舐り始めたのだ!
「そ…そんな……」
「ちゅるっ、ちゅぱっ…ん、不思議な味がする。それに…噛めちゃうくらい
濃くてドロドロして…匂いも凄い、歯磨きしても落ちないかも♪
ふふふ…どうしよう、癖になっちゃいそう。もっとちょうだい……」
腰が抜けて動けない私の目の前で、ソルは手に付着した精液を
一滴残らず舐め尽くすと、まだ尿道に残っている分を吸い出そうと
私の男性器を口に含み始めた。これには私も驚いて、
あわてて止めようとした。しかし、力が出せない今では無駄なこと。
「いけません…!ソルの口なんかに…あっ、し…舌が……」
「ちゅるっ…ぢゅるるるぅっ!ん…また硬くなってきた♪」
吸出されたときの快感のせいで、再び欲望が再装填されてしまったようだ。
ソルの口の中で再び硬さを取り戻していく男性器…
「私のご奉仕、気持ちよかった?」
「ご、ご奉仕だなんてそんな…」
「ルナが聖剣の力を解放したとき、凄い気持ちよさそうな顔してた…。
いままで泣いたことも怒ったこともないルナが…私にだけ
あんな無防備な顔を見せてくれるのが、こんなにもゾクゾクするなんて。
もう…可愛いルナは私だけのもの、ほかの誰にも…見せたくない。」
そういってソルは再び私を抱きかかえると、
私のうなじに顔をうずめながら、素肌を私の体に摺り寄せてきた。
金属以外の何かに包まれることのなかった私の身体は
快感に非常に敏感になっているらしく、ソルの吐息があたるだけでも
おもわずビクンと身体を震わせてしまう。その様子がソルは
甚く気に入ったのか、蕩ける様な妖艶な笑みで私の顔をのぞいては、
ちゅっちゅと小刻みに口付けをしてくる。特に鎖骨部には、
まるで食むように強烈なキスを食らわせられる。
するとそこにはソルの唇の痕がくっきりと残った。
「これは…ルナが私のものだって言う証…。
ね、ルナも…私の首にキスマーク…つけてくれる?」
「…はい。」
私もソルのやり方をまねて、首筋に吸い付くような口づけをした。
「んはぁっ…ルナっ、き…きもちいい……もっと強く、
一生消えないように…私に所有の烙印を…刻み込んでっ!」
とうとう、やってしまった。
私がつけた唇の痕は、その存在を主張するようにソルの首筋に浮かび上がっている。
しかしながら、ソルはまだ満足していない。むしろ…これから
いろいろな意味で本番に違いない。窓から差し込む満月の光に照らされた
ソルの裸体が私の腰と合わさる位置に、確かめるようにして跨って来る。
間違いない…私はソルに……犯される…
「はっ…あぁ……、初めてって、やっぱり緊張するわ。
ふふ…とうとう、私の純潔が…聖剣ルナに破られるの……。
ルナが男の子でよかった…♪女の子同士じゃこんなことできないもんね。」
「はい…その、やさしくお願いしますね…?」
「もう、ルナったら、普通それは私が言うセリフよ。んっ、でも悪くないわ。
ね……ルナ、いくよ…私の本気、受け止めて欲しい……からっ」
ソルは両手で私の両手をしっかり掴み、ふぅっと一呼吸して
意を決すると、私の上にゆっくりと腰を下ろす。
まずは私のモノの先端が、ソルの膣前庭に卑猥な音を立てて沈む。
『ひうっ!?』
…二人同時に、同じような喘ぎ声が出てしまうほど気持ちよかったが、
それでもソルは止まることなくより深く腰を沈めてくる。
急激な圧迫が私のモノを容赦なく締め付けながら…
みちっみちっと時折何かをちぎるような衝撃とともに
徐々に確実に深く深く沈んでいく。
「い…痛い!これが…喪失の痛み、なんだ……!」
「無理しないで下さい…ソル!痛みをこらえる顔を見ると…
それも痛みを与えているのが私だというのも…とてもつらいですから!」
「だい…丈夫、むしろ…この痛みが私を幸せな気持ちにしてくれる…
ルナに、初めてを上げてるんだと思うと…胸が、キュンとするの……!
だから………っ、あっ…ああっ……はあぁぁっ!?」
ズルン…という衝撃と共に、私の性器は完全にソルの膣内に飲み込まれた。
初めて男を迎え入れたソルの性器は、まるでルナを握りつぶさんばかりに
むちゃくちゃな締め付けをしてくる。しかしながら、せっかくの挿入も
触覚の許容量を超えた快感で脳がほぼ機能停止状態におちいてしまったせいで
じっくりと味わう余裕は一切なかった。
「ルナ…私の中に入ってる……、あぁ…なんて幸せ……
教団の司祭様に褒められた時よりも…勇者として認められたときよりも…
今この瞬間に比べれば…んはぁっ、なんて…小さなものだったのかしら♪」
「私もです…ソル。こんな幸せなことがあるなんて…あぁ、知らなかった…」
「んっ…好きぃ、ルナ…もっと、愛し合いましょう…」
ソルは一度腰を浮かせると、再度強く腰を落とす。
わたしのモノが中の襞や残っている膜に絡みつき、しごかれる。
「あっ…あっ…ま、まだ少し痛いけど……でもそれ以上に凄く気持ちいい!
ひゅふぅっ!あっ…こ、子作り凄い!!私とルナで子作りしてる!
ルナの聖剣が…はぁっ、んっ…私の、子宮を突く度に…子宮口が開きそうになるくらい…
お腹の奥が痺れちゃうのぉっ!あんっ、あんっ…好きっ!大好きよルナ!」
「うあぁっ…ソルっ、ソルうぅっ…」
我を忘れて容赦なく腰を振り、快感をむさぼるソルに対して、
私はただただソルに与えられる快感におぼれて、よがることしか出来なかった。
この時点で私はもはや完全に今までのことを忘れ去り、
自分の上で淫らな舞を舞う女性は、勇者様などではなく、大切な恋人となっている。
自我を抑えていた理性は完全に吹き飛び、小作りというフレーズを聞いただけで、
恋人の中に自分の種を注入して、ソルの要求にこたえてあげようとすら思ってしまう。
私はもう鉄の人形なんかじゃない。誇り高きソルの恋人なんだ…
「もうだめ…ソル、また…出ちゃいそう……です!」
「うん…!いいよ、出して…ルナ♪私の膣内に…溢れる位、
ルナの赤ちゃんの素、いっぱいいっぱい…出してね♪
んっ…んっ…!ルナッ、ルナぁっ!来て……私の中に…!
ふあぁっ、あっ…ああああぁぁぁぁぁぁっ!!??」
こうして、本日二度目の射精がソルの身体の中で行われた。
強烈な快感に身体が大きく震え、下半身に溜め込まれていた何かが
竿の中を駆け上って、たちまちソルの中を満たしてゆく。
「ひぁぁぁ…で、出てる……!私の子宮に…ルナの精子が……!
あ、熱い……熱いぃ、妊娠しちゃうよぉ……♪」
ドクドクと注がれる私の精液に膣内を蹂躙されたソルは、
まるで全身を電撃でやられたかのようにがくがくさせ、
普段から表情豊かなソルが一度として見せたことがなかった、
所謂アクメ顔でもたらされる快感に陶酔した。
二人で同時に達した後、ようやく一息つくと、
役目を終えた私の性器は自然にソルの中から抜け出し、
私の精液とソルの愛液がブレンドされたおぞましい液体を
シーツの上に撒き散らしてしまった。
「ルナ……私、いまとっても幸せ♪」
「…ソル。でも、明日の朝になったら、きっと…」
「言わないで。たとえ…今夜限りだったとしても……
この暖かさは絶対に忘れないから…。ね、ルナ…。大好…き。」
激しい運動で疲れたのか、ソルは私の腕の中で
満面の笑みを浮かべながら眠りについた。
そして、私はソルを抱えながら…
「……やってしまった。」
全ては遅すぎた。
…
次の日の朝、私はいつものように鎧を着こみ、部屋の中央で
勇者様が起床なされるのを待つ。
「ふ…ぁ…おはよぉルナ。」
「おはようございます勇者様。」
「うん、今日も一日頑張ろう♪」
やはりというかなんと言おうか…勇者様には昨晩の記憶が内容だった。
私が勇者様と呼ぶことに違和感を覚えなかったのがその証拠である。
そして今日もまた、魔界の探索を開始する……その前に、
念のため勇者様にもう一度だけ確認する。
「勇者様。」
「ん、なあに?ルナの方から話しかけてくるなんて珍しいわね。」
「…いえ。勇者様は私を女性だと思っていますか、男性だと思っていますか?」
「あははっ、おかしなこと聞いてくるのね!ルナは私より美人さんじゃない!
誰かがルナのことを男っぽいとか言ったのかしら?少なくとも私は、
ルナ以上にきれいな女の人はいないと思ってるわよ!自信持ちなさい!」
「はっ…」
どうやら昼になれば昨夜のことを忘れてしまうのは確定的のようす。
ならば私はいつものように、勇者様絶対死守を念頭に動けばいいわけである。
正直私はほっとしていた。むしろ昨晩の記憶があったら、
この先私は勇者様にどう付き合っていけばいいか悩むことになるから…
「でも…ルナが男の人だったら、それはそれで……///」
「何か仰られましたか勇者様?」
「え!?ううん…なんでもないの!さ、行きましょう!」
昨日の夜の痴態が嘘のように、明るく爽やかな勇者様を見て、
私もまた昨夜の記憶は頭の片隅に追いやることにした。
しかし…
太陽の時間は終わり、今日もまた西の空に陽が沈む。
それと同時に勇者様の加護が弱り始め、宿屋に戻ってすぐに眠りについた。
で、数分意識を失った後、再び目覚めると…
「ん…ルナ、おはよ♪」
「目が覚めましたか勇者様。夕食の準備が出来ております。」
「もう、ルナったら…私のことは名前で呼んでって言ったじゃない♪
もう忘れちゃったの?」
「………う、あ…いぇ、そんなことはありませんよ…ソル。」
「よろしい。ちゅっ…。さ、ルナ…鎧脱いで♪」
…昨夜のソルが戻ってきてしまったようだ。
嫌な予感はしていたが、やはり加護が消えるともう一方の人格が
出てきてしまうようで……早い話、勇者ソルはいつの間にか
二重人格になってしまっていたようだ。
起き掛けに私の頬にキスをすると、ソルは私に鎧を脱ぐように命じた。
「いえ…まだダメです。夕食が先です。それと…」
「分かってるわよルナ…でも、私は一秒でも早くルナの体を
ぎゅっとしたいの。ルナだってそう思うでしょ?」
「…はい。その通り…です。」
「ふふふ、じゃあ、お夕飯食べちゃおっか。ルナが鎧を脱いでいいのは、
私と一緒にいる時だけだもんね。ご飯食べたら、二人でお風呂に入りましょ。
恋人同士だもん…お風呂だって一緒に入るのは普通だよね♪」
「お風呂…ですか。」
「あったかいお湯で二人で洗いっこして、お互いの体を綺麗にして…
そのあとはお楽しみの、二人だけの恋人の時間…あぁ、楽しみ♪」
結局その夜も、ベッドの上でソルとつながった。
久しぶりに湯あみして火照った体を求めあうのはとても新鮮で、
私はソルの中に、求められるまま三回も出してしまった。
そしてまた夜が明け、いつもの勇者様が戻ってくる。
「ルナ、行くよ!星の欠片はもうすぐよ!」
「はっ…勇者様。」
一日が終わり日が沈む。
「ルナ…今夜もいっぱい愛し合いましょう♪」
「承知しました…ソル。」
私は何の対策も打てないまま、昼間は勇者様の忠実な盾として、
夜はソルの恋人として……同じ人なのに、違う接し方をする。
今のままでも冒険に何の支障もないし、何よりも夜になれば
恋人同士となったソルとの睦愛が癖になってしまっていた。
残念ながら、私は戦う術は知っていても先々のことを考えて行動するだけの
見識を持ち合わせていなかった。私の生き方の半分は勇者ソルに依存している。
勇者様が突撃しろと命じられたら、私は自分の命を試みず突撃するし、
ソルが抱き合いながら胸を愛撫してほしいとせがんだら、やはりその通りにする。
そんな生活がまた更に一年ほど続き、このまま何事もなく任務を遂行できると思っていた。
「ルナ……、昼間の私…やっぱり夜のこと忘れちゃってるのかな?」
「はい。こればかりは仕方がありません。」
この夜も、ベッドの中で情事に耽ったあと、二人してピロートークで余韻に耽る。
「でもね…そろそろ、昼間の私も現実を直視しなきゃならない時が来るわ。」
「それはどういうことです、ソル?」
「そうね、そもそも今私が…結構夜更かしできるのもその証拠なんだけど…」
確かに、今までのソルは体質的に日付が変わるまで起きていられなかったのだが、
現在では草木を眠る丑三つ時になっても、私と話す余裕がある。
だが…その代償として勇者様が朝起きる時間が明らかに遅くなっていた。
前までは日の出とともに起床していた勇者様も、今では陽が出てから
半刻ほどたたないと目覚めなくなってしまい、夕方眠り始める時間も
日によって時間はバラバラとはいえ、確実に早くなってきている。
つまり、勇者ソルを支配する勢力バランスに変化が生じてしまっていたのだ。
そして数週間後に、またしても勇者様の身に変調が訪れた。
いつも明るかった勇者様は、時折私に対しても今まで決して洩らさなかった
冒険への不安や望郷の思いを吐露するほど、精神が不安になることがあった。
「ルナ…この先ずっと私に付いて来てくれるよね。」
「当然です。勇者様の行くところであれば、場所は厭いません。」
「うん…ありがとう。もう旅に出て三年にもなるのに、いまだに先が見えないから…」
「大丈夫です。残りの星の欠片はあと三つ…あともう少しです。」
それだけではない。たまに激しい戦闘があると、決まって勇者様は嘔吐感を催した。
特に激しい嘔吐感ではないらしいのだが…私も少し心配になってくる。
で…さらに数週間が経過すると……
「ねぇルナ…」
「如何しましたか勇者様。」
「えと、その……月のものが…来ないの。どうしたんだろう…?」
「月が…来ない?」
精神の不安定、体調不良や嘔吐感、それに月経の不来…
これらが示す兆候に心当たりがあった。
―妊娠―
勇者様のお腹の中には胎児がいる…それならばすべての説明はつく。
ではそれは誰の子供か?心当たりがあるのは……
「もしかして私…妊娠しちゃった、のかな…?」
「勇者様…心当たりは御座いますでしょうか?」
「心当たりなんてないわ!私は今まで誰とも…その、したことないし…!
あ、そうよ…これはきっとどこかでかけられた呪いに違いないわ!
私本で読んだことがあるんだけど…約百年前の人と魔物の戦いで
人間側の兵士たちが疑似妊娠の呪いをかけられて負けちゃったことがあったの。
きっと……それと同じものに違いないわ。」
「左様…で、御座いますか。では、ここは無理をせず一旦王国に戻り、
呪いの効果が解けるまで休養してはいかがでしょうか。」
「ううん大丈夫。これしきこと、どうってことはないわ。」
「しかし…」
「休むのは星の欠片を集め終わってからで十分よ。」
勇者様は明らかに無理をしている。
本来はそれをフォローするのが私の役目であるのだが、
今の勇者様に私が何を言おうと聞く耳を持たないだろう。
こうなったら、夜のうちにソルに問い詰めるしかない。
「どう?昼間の私は。そろそろ素直になったかしら?」
「ソル…たしか私とするときは、避妊の魔法をかけているとおっしゃっていましたよね?」
「ええ、ちゃんと使ってるわよ。でも…絶頂に達しそうになると解いちゃうけどね。」
「なんですって!?それでは避妊の意味がないではありませんか!!」
「だって……私、ルナとの強い絆が欲しかったんだもん。
それにね、夜だけじゃなくて…一日中ルナと恋人でいたいから……」
「う…」
だが、やはりソルが見せる色っぽい懇願の表情に私は逆らえなかった。
「ふふふ…私のお腹の中に、ルナと私の子供がいるのね。嬉しいな…。」
「そうは言いましても、出産したらそのあとどうなさるおつもりですか。」
「そうなったら勇者夫婦って肩書きで冒険続ければいいじゃない。
既成事実を作っちゃえば誰も文句は言えないはずよ。ね…♪
誰にも祝福されなくても構わない…私にはルナだけいればそれでいいんだから…」
そして事態はさらにエスカレートする。
勇者様は、加護を受ける時間の間にも私に甘えてくるようになった。
「不安だから手を繋いでほしい」にはじまり、「腕を組みたい」
「少しでいいから抱き着かせて」と事あるごとに接触を求めてくる。
夜と違ってしっかりと装甲を着こんでいるので、勇者様の体温は
直接私に伝わることはないが、勇者様の感じている不安感は十分に伝わってきた。
勇者様は特に私の髪の怪我お気に入りらしく、小休止の際には
無意識に私の髪の毛を背中越しに触れて弄ぶことが多かった。
やがて、勇者様は吐き気を催さなくなり、体調も安定してきた。
それと同時に、奇妙なことに魔界探索中に魔物に襲われることがほとんどなくなる。
つい先日まではそれこそ数えきれないほどの魔物に遭遇しては襲い掛かられ、
その都度応戦してきた。幸い光の加護の力は健在で、私も十二分に力を振るい
勇者様の聖剣ソルの光で、魔物たちは光の中にかき消された。
ところが今では、魔物たちは私たちを見ても襲い掛かってこないばかりか、
場合によってはなぜか微笑ましい笑顔を向けてくることもあった。
「やったわルナ!とうとう呪いの効果は消えたみたいよ!
その証拠に魔物たちは私の加護を恐れて襲い掛かってこないし、
不快感も嘔吐感も消えたわ!心配かけてごめんね、ルナ。」
「いえ、勇者様もご無事で何よりです。」
「ん〜…でも、やっぱまだちょっと寂しい感じがする…かな?
ねえルナ、ちょっとの間でいいの。手甲を外して、直接手を握ってくれない?」
「手甲を…?それはできません。戦闘がほぼなくなったとはいえ、
たとえ信頼する者の前でも決して武具を離さないのが白銀騎士団の掟です。」
「そう…よね。ん、ごめんねルナ、無理言っちゃって。」
「ご理解いただけて何よりです。」
「その代り、腕を組んで♪」
「承知しました。」
「ん…♪女の子同士なのに腕組みなんて…やっぱおかしいかな?」
「いえ。勇者様がご所望であれば、なんなりと。」
この後私たちは、魔界の湖に沈む星の欠片をどうやってとろうかと思案している最中、
運よく湖に住む精霊ウィンディーネに遭遇して、底に沈んでいるのを取ってきてもらえた。
魔界にも、人間に対して友好的な精霊がいるものだと感心しつつ、
残りあと二つとなった欠片の行方を追い求める。
それからさらに数週間…
「ルナ…。最近私太ってきちゃったかも…。」
「左様でございますか。」
「どうしてだろう?最近朝も昼もたくさん食べないと気がすまなくなってきたし。
それにほら、お腹がポッコリとしてるでしょ。おっぱいまで大きくなっちゃったのは、
まあ…若干嬉しいけど。それに引き替えルナは……やっぱ細いよね、
ルナの体って。私もルナみたいに鎧着込めばいい運動になるかしら。」
「ご冗談を。勇者様の技は動きの鋭さが持ち味ですので、私の様に
装甲で身を固められては無意味になるかと存じます。」
「ん〜、やっぱ最近ロクに戦ってないのが原因なのかな?」
…勇者様のお腹が大きくなってきた。これはいよいよまずい。
「んふふふ♪いい子いい子…、私とルナの子供、こんなに大きくなって。お母さん嬉しいわ。」
「ソル、私も触っていいかな。」
「いいよ、好きな時に触って。ルナが種付けしてくれた愛の結晶だもの。
ルナに撫でてもらうとこの子もうれしいって喜んでるような気がする。」
もはや見た目で隠し通すのが不可能になりつつある。
一応町の人や関係者には、呪いの影響だと言ってあるのでなんとかなっているが、
いずれはこの町を引き払って人里離れた場所に拠点を移す必要があるかもしれない。
「しかしこれだけ大きくなってしまったら、この子の安全のために
性行為は控えた方がいいのではないでしょうか?」
「ええ〜っ!?いやよそんなの!私は毎日欠かさずルナの聖剣ミルク欲しいの!」
「ですが、もうお腹の中に子供がいる以上、子作りの意味は……」
「だめっ!これは愛の営みなの!恋人は毎日欠かさず愛情を確かめ合う義務があるの!
それにこの子だってルナの聖剣ミルクおいしいって言ってくれてるのに!
それともルナは私のことが嫌いになったの?」
「そ、そんなわけ…ないじゃないですか。ソルを嫌いになんて、頼まれても無理です…」
「でしょ♪そうと決まったら今日も私と妊娠エッチ♪そろそろ母乳も出るかもだから、
ルナには赤ちゃんより先に味見してもらおうかな。」
「ぼ…母乳って…」
ちなみに、その日から本当に母乳が出てしまい、
毎日毎日味見と称してソルの特性ミルクを飲まされることになる。
味は特にまずくもないが、人肌程度のぬるさなのでなんだか中途半端な感じがした。
で、一方の魔界探索も驚くほど順調に進み、
とあるヴァンパイアが住む館にある星の欠片を求めて、館に乗り込んだ。
「くっくっく!ようこそ、死すべき定めの者よ。アガリを用意させようか。」
特に眷属とかに遭遇することもなく(というか使用人ばかりいた)館の奥に
到達したためか、主のヴァンパイアは押っ取り刀で玉座に姿を現した。
…着替えも急いだのかどうか知らないが、服が裏表逆だ。
「私は太陽の勇者ソル!あなたが持ってる星の欠片を取り戻しに来たわ!」
「星の欠片…ですって。ああ、もしかしてこの前拾ったあの珍しい石のことかしら?
ちょっと待っててね、今持ってくるから。あ、待ってる間にお茶とお菓子用意するね。」
「え、あの?ちょっと!?そこまで気を使ってもらわなくても…」
ヴァンパイアは使用人に命じて勇者様と私にお茶を出させている間、
ぱたぱたと星の欠片を取りに行ってくれた。正直拍子抜けしてしまう。
「これのことかしら?うちの庭の花壇に落ちてたんだけど。」
「これよ!私が探してた欠片は!」
「まあ、持ち主さんでしたのね!それはよかった!はい、お返しします。」
「え、いいの?」
「当然ですよ。拾ったものは持ち主に返さなきゃね。」
「…あ、ありがとう!優しいヴァンパイアさん!恩に着るわ!」
「いえいえ。もしよかったら少し遊んでいきませんか?私のお友達も来てるんです、
ちょっと癖のある人ばっかりだけど、いい人たちだから、歓迎してくれると思うわ。」
「いえ…わ、私たちは急いでいるので、失礼するわ!」
「そうでしたか…。それは残念です。だけど気が向いたらまた遊びに来てね!」
とりあえず吸血鬼の家にまた遊びに行くなんて冗談ではないので、
星の欠片をもらった後は直ちに退却することにした。
これで残るはあと一つ。ミッションコンプリートまであと一歩に迫る。
そしてさらに数週間が経過し、とうとう………
「ル…ルナ……私、もう…だめ。」
「勇者様、どうしたのですか。急に弱気になられて…」
朝起きてすぐに、私は勇者様に思い切り泣きながら抱き着かれた。
いくら夜になると毎日肌を重ねているとはいえ、気持ちを切り替えている朝に
いきなり抱きつかれるとは思っていなかった。
「やっぱり、私太ってるんじゃない…妊娠しちゃってる……。
い、いままで…恋人もいなかったし、子作りもしたことがないのに…!
起きた時…私のお腹の中の子が……お腹の中を蹴ったの…」
「勇者様……」
「ルナ、私最近…夜の記憶がないんだけど……、
その間私は…ルナ以外の人に何かひどいことされなかった?」
「当然です。私以外の方には指一本も触れさせていません。」
嘘は言っていない。
「そう…なんだ。じゃあ、やっぱり…正夢なのかな?」
「夢?」
「うん。このところ毎日夢を見るの。私がルナのことを呼ぶと…
ルナは私に「ソル」って言い返してくれるの。おかしいよね。
ルナは私のこと絶対に…勇者様としか言ってくれないし。」
「当然です…。上下関係の区分はつけなくてはいけませんので。」
「それとね、最近では…その……、キスもしてくれるようになったし…
女の子同士でもいいから子供が欲しいっておねだりしたら、
夢の中のルナったら…子供が出来ますようにって、お腹を撫でてくれるの。
…………、私ったら何を言っているのかしら。ルナも嫌だよね…
私女の子なのに、女の子のルナを…す、好きになっちゃうなんて……。」
「勇者…様。」
このようなことはありえない。勇者様から同性愛の告白などとは…。
だったらもう…隠し通す必要もないだろう。今までだったら絶対に、
信じてもらえなかったかもしれないが、今ならきっと信じてくれるだろう。
「勇者様…私が装甲を脱いだ姿、見たくありませんか?」
「ルナ!?い、いいの…?あれほど頼んでも絶対脱いでくれなかったのに。」
「もう、いいのです。『装甲姫』という名の幻想は終わりにしなくては。」
ガシャン!
まず肩当てが外れる
ガシャッ!ガキン!
フォールド、タセットを外すと、キュレットスカートを脱着。
全体の重さの3分の1を占めるそれは、轟音を立てて床に崩れ落ちた。
カシャッ!カシャッ!ガチガチ!ガシャン!
喉、肘、二の腕、手甲、そして最後に胸甲…
私を「装甲姫」足らしめた白銀の鎧はすべて私の体から剥がれ落ち、
キャベゾンのみが残ることになった。
「…如何でしょう?」
「ふあぁ…やっぱりルナって細いなぁ。憧れちゃうよ。
あ、でも…その……このまま抱きしめてもいい?」
「お気の召すままに。」
私はベッドの上の勇者様のすぐ隣に腰かけると、
勇者様はゆっくりと、恐る恐る私の体に身を預けてきた。
健康的な四肢が私の体に絡みつき、顔をうなじにうずめ、
ぽっこりと突き出た腹部の重みも壊さないよう撫でながら受け止める。
「これが…ルナの体?初めて触れたはずなのに、まるでいつも
触れてるような嬉しい気持ちがこみ上げてくる…。」
「その通りです。勇者様は毎晩…私の体を心行くまで堪能しているのですから。」
「え…!?そ、それって…?」
「さて勇者様、私からも一つ告白しなければならないことがありまして。」
「う、うん!!いいよ…もっとルナの秘密を教えて!」
「……驚かないでくださいね。」
私は覚悟を決めて、下半身のキャベゾンをおろし、下着を下げた。
その瞬間、勇者様の目は私の股間にくぎ付けになる。
女性では決してありえないモノがついている!
「る…るるる、ルナ!こ、これって…!」
「私の男性器です。」
「つ、つまりルナは……お、男の子…」
「はい。」
ショックを受けている勇者様に追い打ちをかけるように、
私は今まで、夜の間にソルと過ごした赤裸々な出来事を一から説明した。
勇者様は夜になると人格が変わってしまうこと。昼間の時に比べて、
まるで別人のように私を強く求めてきたこと。そして男性であることがばれ、
押し倒されて性交するに至った私は、それ以降も毎日ソルの求めに応じて
生殖行為をやめなかったこと。
「ルナ…。うん、よくわかったわ。辛くても話してくれてありがとう。」
「いえ。私は世界で最も重い罪を犯しました。仮にも世界を背負う勇者様を、
一時の情に流され懐妊させてしまうとは。覚悟はとうにできています。
私のことを罵ってもらっても構いません。慈悲のご処断を…」
「ダメよルナ。ルナは罪なんて犯してないわ。むしろ私のことを
そんなに愛してくれていたなんて……とても嬉しくて、夢みたい。
好き…大好きよ……ルナ。これからも、ずっと一緒にいようね。」
「勇者様…」
この日初めて、私は勇者様と口付を交わした。
…
「ルナ…その、私重くないかしら…」
「何を仰られるのですか。私は勇者様より重たいものを振り回すこと
だけが取り柄の様なものです。どうってことありませんよ。」
ここで、冒頭の部分に戻る。
私と勇者様は、その日は気分を落ち着けるために魔界探索を中止して、
のどかな自然の風景が広がる平原に足を運んだ。いわばデートの様なものだ。
勇者様はすでに、歩くのも億劫になるほどお腹が膨れているので、
人目を避けながらお姫様抱っこの状態で勇者様を抱えている。
時折勇者様の顔を覗くようにみると、勇者様もまた頬を染めながら笑顔を向けてくれた。
「あっ……」
ふと、彼女は私の頭から伸びる―私の数少ない自慢の―銀色に輝く髪の毛を
その手に取り、うっとりとした目つきで眺め、すんと一呼吸して
発せられる匂いを堪能する。…そんなことされると余計ドキドキしてしまう。
「この子も…ルナみたいな綺麗な銀色の髪の毛になるといいな。」
「そ、そうですか?私は勇者様の髪の毛も素晴らしいと……」
「ううん、私はあなたの髪の毛の方が好き…。」
ねっ、と笑いながら私の髪の毛を自らの指にくるくると絡ませる。
「それにね、安心するの。…ルナのだっていうこれ以上ない証明になるでしょ♪」
「そうですね…勇者様。」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
こうなるのも、また運命だったということか。
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
抱き合ったまま、私たちは唇を重ねる。
こうして陽が出ている間に顔を近づけると、よりソルの顔がはっきり見ることが出来て
なんだか新鮮な気持ちになってしまう。ソルもまた興奮してしまっているのか、
ことあるごとに私の耳元で愛の言葉をつぶやいてきた。
それがあまりにも嬉しくて……私は思わず頬が緩んでしまう。
「あ!ルナが笑った!」
「笑った…?私が、ですか?」
「うん、今すごく幸せそうな顔をしてた…。ルナもそんな顔できるんだね。」
「これもすべて、ソルのおかげですよ。」
「あはは、そうだったら嬉しいな♪ふふふ…ルナは私の恋人……んふふ♪」
そんなやり取りをしているうちに、今日の目的地が見えてきた。
広い平原にぽつんと存在する小さな丘があり、一面色とりどりの花で覆われている。
季節はすでに春。冬の間雪の下で暖かい季節を待っていた花たちが、
競い合うように花開き、天然の絨毯を形成しているようだった。
「降ろしますよ、ソル。」
「ありがとう。さ、て、と…ルナ、鎧とか槍とか全部ここで外しちゃいなさい。
今日はせっかくのデートなんだから、無粋な物は持ち込まないで行きましょう。」
「はい。」
私はソルに言われたとおり、素直にすべての武装をその場に外す。
ソルもまた命の次に大事な聖剣ソルを、鞘ごと地面に突き刺すと、
私の手を取って、花咲き誇る丘の頂に歩みを進めた。
頂に腰を下ろした私たちは、特に何をするでもなくとりとめのない会話を交わす。
そういえば今までずっと休むことのない戦いの連続で、ゆっくり休んだ日はなかった。
たまにはこんな日もいいだろう。蒼く澄み渡った空に、香る草木の匂い。
そしてとすぐ隣には、大切な恋人がいる。たったそれだけで、
心温まる幸福感を無限に得られるような気がした。
「そうだ、ルナ。じゃ〜ん!お弁当作ってきちゃった♪」
「ソルお手製のお弁当…!言ってくれれば私も…作れませんね。」
「仕方ないよ。ルナって闘い以外のことに関しては不器用なんだから。
はい、あ〜んして。あ〜ん♪」
「あ…あ〜ん……」
なんだこれ、新手の羞恥プレイか何かですか?
「うっふふ…一度やってみたかったの。ルナにあ〜んってするのを♪」
「そ、そうですか……。では、お返しです。」
「ん!?…んんっ、ちゅっ…ちゅぱっ♪」
私もやられっぱなしでは申し訳ないので、反撃とばかりに
口移しでソルの口の中に舌ごと捻じ込んで差し上げた。
「あん♪ルナってば…意外と大胆。」
「…夜にされるソルの仕打ちに比べれば、まだまだ甘い方ですが。」
こうして私たちはもつれ合いながら、ゆっくりと食事をとった後、
ソルは私の膝の上に横になり、食後の休憩をする。
「ルナ。」
「如何しました。」
「夜の私って、そんなに積極的なの?」
「…ええ。毎晩毎晩、限界まで搾り取ろうとしてこられます。」
「じゃあ…私にも教えてよ。ルナがどんなことされたかを…♪」
「ここで、ですか?」
「うん。ここで♪私たち以外誰もいないし。」
「ええと…」
このような場所で迫られるとは…。さて、どうしたものかと考えていると、
心なしかあたりが徐々に暗くなってきているような気がした。
それと同時に、ソルの体に急に変化が訪れた。
「あ…あれ?おか、しいな…。」
「どうかしましたかソル!」
「急に…体が熱く……、ルナ…!」
「ソル!いけない…熱があります!」
「それよりもルナ、あれ見て…!太陽が!」
私はソルに促され、手で遮るように太陽の方を見る。
そこで私は驚くべきものを見た。
「太陽が…欠ける……」
それは「日食」と呼ばれる天文現象。
当時まだ人間の間では天文学があまり進んでおらず、この怪現象に人々は相当恐怖していた。
月が徐々に太陽の上に覆いかぶさる。これにより光が遮られて、
あたりは徐々に暗くなっていく。
「ああ…ルナ、やっと思い出した……」
「ソル?」
「私ったら、毎晩あんなにルナと愛し合ったのに…全部忘れちゃうなんて。
本当にひどい恋人だよね…ごめんねルナ。本当に、私は…」
「あ、ソル…まさか!」
「好きっ、ルナぁ…好きぃ、大好き♪んちゅっ、ちゅぷっ…ちゅっ♪」
ソルの加護が…失われていく。
私は何もできないままその場に押し倒され、唇をむさぼられた。
その舌遣いは今までにないほど気持ちよく蕩けそうで、抵抗できないまま
着ていた服をすべて脱がされてしまう。ソルの舌が私の舌に絡みつき、
歯茎の裏を舐めまわして唾液を吸い上げるたびに、私の体は敏感になり骨抜きにされる。
「ん、ルナの顔…とろとろに蕩けて気持ちよさそう♪
でもこれからはいつでもこの顔を見せてもらうよ。大好きな私の恋人…ルナ♪」
ソルもまた着ている服を取り払うと、まるで私の体を背もたれにするように
背を向けながら、躊躇なく私のモノを膣内に呑み込んだ。
すでにソルの膣内は私の性器の形に合わせるように完成していて、
挿入した瞬間に襞という襞が総勢力で迎えてきていた。
その気持ちよさに、私の理性はあっという間に吹き飛び、無意識に
妊娠して張に張った乳房を右手でつかみ、左手で膨らんだ彼女の腹部を優しくなでまわす。
「あんっ!あっ…!あんっ!いいよ…ルナ!聖剣ルナで容赦なく私をいじめて!!
ふああぁぁ…っ、いいのぉ!ルナせっくす…しゅごいぃ!」
「くはっ…ソル!いつもより締め付けが………!」
そう。私はソルの恋人。私たちはずっと愛し合ってきた。
そしてこれからもずっと愛し合っていくだろう。
ソルが勇者様であろうと関係ない。ソルは私だけのものだ。
右手で揉み次第た乳房から、ソルの体内で熟成された母乳が噴き出す。
左手で赤ちゃんをあやし、安眠妨害する父親を嫌いにならないでほしいと語りかける。
身体全体でぎゅっと抱きしめるような格好でソルを捕縛し、
容赦なく腰と腰を打ち付ける。それはもう、折檻に近い。
日食が進み、周囲がほとんど夕方の暗さになる中、私の性欲はそれに比例するように
私の心をピンク色に塗りつぶす。もはやソルを気持ち良くすることしか
考えられない。きっと今日は今までにない快感を得られるだろう。
「ふっ…ふ、あっ……ソル!そろそろイクきますから!覚悟…してくださいね!」
「はぁ…ん…っ、き…来て……ルナ♪子宮の中に収まりきらないくらい多くて…
濃くてドロドロした聖剣エキス…欲しい、欲しいっ!ひゅふっ…いっ、ああっ!
い…イクっ!ルナの聖剣で…私の光ので覆われた殻が…!やぶれ…!
はっ、あっ、あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!??」
「くうぅっ!!」
私は持てる力の限り、聖剣を奥まで突き刺し、
精液を流し込んだ瞬間…一瞬世界は完全な闇に包まれた。
日航が遮断され、星明りもない真っ暗闇の中で、私はソルの体の感触のみを
しっかりと確かめる。どくどくと暴れる下半身…体重を支える足…
母乳でべたべたになった右手とわが子をあやす左手…
バサッ
羽が広がるような音がした。
シュルッ
腰に尻尾のような何かが巻き付く。
ツン
髪の毛の中に角のような硬いものが当たった。
やがて皆既日食は終わり、世界には再び光が戻る。
「ルナ…私は一生ルナだけのもの♪そしてルナも一生私だけのもの♪
もう私は勇者様なんかじゃないけど…その代り、ルナの妻として…
この子の母親として……一生離れないで暮らそうね。」
「はい。承知しました。」
絶頂の余韻に浸りながら、私はゆっくりと両目をあける。
私の両腕の中には今まで以上に美しい私の恋人が収まっている。
空の様に透き通るような青色の小ぶりな翼に、愛おしそうに
私の腰に絡みつく、先端がハートの形をした茜色の尻尾。
紺碧の髪の毛から突き出た二本の角。
私は勇者を魔物に堕としてしまったのだった。
でも、今はそれすらも嬉しかった。
もう誰にも憚られることなく、ソルと愛し合うことが出来るようになった。
それにお腹の中には私とソルの子供もいる。
こんな幸せなことがこの世にあるだろうか。
…
太陽の勇者ソル、護衛の装甲姫ルナと共に突如消息を絶つ。
この報は世界中の教団や国々にとって青天の霹靂だった。
すでに星の欠片は11個まで集まりあと一つ集めれば人類史上
有数の偉業が完成したというのに、完成を間近にしてこの世界から消えた。
現在のところは呪いによって命を落としたという説が有力だったが、
すぐ後になって聖剣ソルと聖者の装備一式、それと装甲姫が
常に身に纏っていた白銀の装甲すべてが名もなき花畑に残されているだけで
正確な真実は今もなお判明していない。
勇者ソルの後を継ごうと志した勇者や、第二の装甲姫の名を欲した
世界中の騎士たちが二人の装備を争うように装着しようとしたが、
聖剣ソルの効果を発揮できた勇者は一人もおらず、装甲姫の残した装甲は
重すぎて常人には装備不可能であった。
結局、あと一歩で完成しそうだった光の宝玉は、この世界がすべて魔界にのまれるまで
完成することはなく、その力を発揮する機会を逃した。
噂では、最後のひとかけらは元の持ち主だった神様が所持していたものの、
主神に従うのが面白くないとしてその欠片を隠してしまったのではないかという
与太話がのちの余まで語り継がれていくことになる。
「ま、そんなことどうでもいいけどね。」
「誰に向かって話しているのですソル?」
「ううん、なんでもないわ、ルナ。」
あの後二人は、人間界から特殊な方法でしか行くことが出来ない
人跡未踏の空中庭園に移住し、のんびりと甘い生活を送っている。
雲の上から眺める地上の風景は毎日見ても飽きないものだ。
「おとーさーん!おかーさーん!」
「お買い物行って来たー!」
「お帰り二人とも。遅かったね、また寄り道してきたでしょ。」
「あん、なんでわかるのお父さん!?」
「お姉ちゃん、頬っぺたに餡子ついてる。」
新しい家族もできた。
お腹の中にいた時は分からなかったが、生まれてみると胎児は双子であった。
二人とも思わず見入ってしまうような銀髪に、サファイアのような
深い青色の瞳が特徴的な、文句なしの美少女で、ちょうどうまい具合に
母親と父親の特色が出ている。
ソルは相変わらずの天真爛漫な性格だったが、サキュバスになってからは
事あるごとに発情してはルナを振り回し、そのルナもまた
インキュバスになって信じられないくらい表情豊かになった。
親に内緒で買い食いしてきた娘二人を「めっ」と、
冗談半分の叱り顔で諭すのも日常茶飯事だ。
和気あいあいとした親子のやり取りに、ソルも思わず笑みがこぼれる。
「ふふ…、あなたたちももうすぐお姉ちゃんになるんだから、
ちゃんといい子にして、あまり羽目外さないようにね。ハメるのはいいけど♪」
「冗談きついよソル。……ほら、この子も起きてるしね。」
「本当!私にも聞かせて!」
「私も!」
「はいはい、優しくなでてあげるのよ………。ね、ルナ。私は今、すごく幸せ♪」
隠しようがないくらい、いやらしく膨らんだそのお腹を撫でながら…
何度も何度も自問自答を繰り返すが、その都度出る結論は
『自分自身の意志の弱さが招いた結末』でしかなかった。
責任、道徳、名誉、分別…これらの言葉が、見えないところから
私に対して指を突き付け、お前は世界一の愚か者だと非難する。
「ルナ…その、私重くないかしら…」
「何を仰られるのですか。私は勇者様より重たいものを振り回すこと
だけが取り柄の様なものです。どうってことありませんよ。」
傷つけないよう慎重に丁寧に、両腕で抱きかかえた大切な人が
この上ない羞恥の表情で抱きかかえる私を見上げてくる。
私もなるべく平然を装い応答するが、やはり顔が熱い。
きっと私の顔も熟したリンゴのように真っ赤になっているに違いない。
「あっ……」
ふと、彼女は私の頭から伸びる―私の数少ない自慢の―銀色に輝く髪の毛を
その手に取り、うっとりとした目つきで眺め、すんと一呼吸して
発せられる匂いを堪能する。…そんなことされると余計ドキドキしてしまう。
「この子も…ルナみたいな綺麗な銀色の髪の毛になるといいな。」
「そ、そうですか?私は勇者様の髪の毛も素晴らしいと……」
「ううん、私はあなたの髪の毛の方が好き…。」
ねっ、と笑いながら私の髪の毛を自らの指にくるくると絡ませる。
「それにね、安心するの。…ルナのだっていうこれ以上ない証明になるでしょ♪」
「………」
返す言葉がなかった。それは逆に、私が犯した罪の証明にもなるのだから。
でも…とてもうれしかった。心が張り裂けんばかりにとめどない気持ちが
溢れて止まらない。自分の役目をすべて投げ出して、どこかに逃げてしまいたい。
「勇者様。」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
ああ、なにもかもがあの時と同じ道をたどっている。
きっと私は一生この女性には逆らえない。月が太陽に勝てるわけがないのだ。
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
勇気を振り絞って愛しい人の名を囁くと、彼女は満足したようなとろけた笑みを浮かべ
片手で私の髪を弄びながら、もう片方の手で自身の腹部を愛おしそうに撫でまわした。
隠しようもないくらい、いやらしく膨らんだそのお腹を…
…
【太陽の勇者】ソルといえば、
この世界でもとくに有名な勇者の一人であることは間違いない。
腰まで届く波打つような紺碧の髪にサファイアのようだと例えられる
深海のような色の瞳、うっすらと飴色をした健康的な肌に、
「我こそは正義」と言わんばかりの凛とした顔が特徴的だ。
先祖に勇者や聖女を何人も輩出した名家の生まれで、
正義感が強く、弱きを助け強きをくじく立派な性格の持ち主。
幼いころから何事も人一倍優秀だった彼女は、すぐに勇者候補として
出身地・エクセール王国に召集され、サンドリヨン中央教会で洗礼を受けた。
彼女の優れたところは、その才能だけではなく自ら努力を怠らなかったことだろう。
王国の剣術だけではなく、修業のために時折隣国に出かけては
数多くの流派の剣術や魔術を学び、瞬く間に自分のものとしていった。
そして、18歳になり正式に勇者と認められる。
中央教会から『聖剣・ソル』…彼女の名前を冠した最強の聖剣が手渡され、
神族のお告げにより勇者としての加護をその身に宿した。
彼女が持つにいたった加護の力は、類を見ないほどの強力なもので、
その効果に王国や教団のだれもが驚きを隠せなかったという。
彼女は光の神ルグスの加護により、陽が出ている間は身体能力が大幅に向上し、
剣を一振りするだけで周囲数百メートルに浄化の光が振りまかれる。
これを浴びれば、邪なるものは抵抗するまもなく光にかき消され、
心正しき者は傷がたちどころに癒え、勇気が無限に湧いてくる。
それはまさに、闇を暴き、世界を照らす太陽。
彼女の勇姿を人々は大いに讃えたのだった。
勇者と認められてしばらくもしないうちに、彼女に任務が課された。
それは、世界各地に散らばった「星の欠片」を回収するというもの…
元々一つの聖なる宝玉だったものが、先代主神が魔王討伐の際に誤って割ってしまい
(しかもこれ、他の神からの借り物だったらしく……)
それが欠片となってバラバラに飛び散ってしまったのだ。
もしかしたら、中には魔界の奥深くに飛んで行ってしまったものもあるかもしれない。
回収は困難を極めると予想された。
それと同時に、中央教会はそのような回りくどいことをする必要はなく、
彼女自身の力で魔王を討ち滅ぼしてしまえばいいと確信していた。
歴史上このような短絡的な考え方は身を滅ぼすことが証明されているのだが、
生憎自分たちを絶対正義と信じる者たちは、それが理解できずにいる。
その点で彼女が幸運だったのは、エクセール王国女王が勇者ソルへの
バックアップ体制を完璧にしようと全面協力してくれたことだろう。
エクセール王国の女王は非常に聡明な人物であり、かつ、機転も働く性格だった。
いきなり敵の本丸へ突入させようと画策する無謀な教団の計画に真っ向から反対し、
何年かかっても構わないから高度な経験と完全な装備を整え、
確実に魔王を倒せばいいと声高に主張したのだ。そこで、勇者ソル本人の
意向を汲むことにし、結果彼女は「急がば回れ」をえらんだことになる。
今思っても、女王の提案は王道かつ理にかなったものであり、殆ど経験もないのに
いきなり魔界に放り込もうとする現在の教団の方針は乱暴以外の何物でもない。
さて、ここまでは物事はすべて完璧だったと言えるが、
やはり人間の人生は完璧に全うすることは不可能だった。
その要因は…何を隠そうこの私の存在だった。
私の名前はルナ。
確実とは言えないが、記憶している限りの簡単な生い立ちを話そう。
私の父は第3代エクセール国王…つまり現女王の父親でもあるが、母親が違った。
母は王宮に仕える近衛の女性騎士で、王国の盾とも言われた強者だったらしい。
…らしい、というのは、私はそもそも母の顔を見たことがない。
なんでも、不義の密通の末私を生んだ母は、その責任を感じて
魔物との戦いでがむしゃらに戦った挙句に戦死(実際は行方不明らしい)したそうだ。
ここで問題なのは私の処遇だった。いくら国王の子とは言え、浮気してできた子を
王位につかせることはできない。かといっても、国を代表する猛将の残した粒でもある、
ポイと捨ててしまうのはおしい……、そんなわけで、私はやや遠方の国で
名目上は人質として、実際は有事があった際に戦力となるように徹底的に鍛えさせられた。
そして、10代前半にして、私はその国の『白銀騎士団』の一員となり、
数年後にはその腕を認められ、将来の隊長の地位を約束されるにいたった。
私に対する他人の評価は「それはまるで生きた彫刻のよう。白銀に輝く髪はひざ裏まで届き、
痩身で雪のような儚く白い肌、ただし表情は人形のように固く、視線は氷のように冷たい。」
とか言われていたが、特に痩身だの雪のような肌だの言われるのは嫌だったので、
いつの間にか『装甲姫』の異名がつくほど、顔以外のすべての個所をドレス型の鎧で覆った。
(ただし、母親の形見である銀色の髪の毛は数少ない自慢で、一度たりとも鋏を入れなかった)
そんな私に目を付けたのが異母姉であるエクセール女王だった。
女王の名で私に帰還招集がかかった。名目は、新生勇者の護衛任務。
この時エクセール王国と教団の間では、勇者ソルを巡る最後の意見対立が起きていた。
すなはち、女王側は「勇者と言えども一人での任務は困難を極める。それゆえに、
勇者ソルを中心とするパーティーを組み、協力して事を起こすべきだ。」
と主張したのに対し、教団側は「彼女の名誉のため、同行者は多くても一人か二人にとどめるべき。
それに間違いが起きぬよう同性のみで編成すべし」とこれまたむちゃな要求を出してきた。
実際、勇者ソルは教団から受けた教育の過程で、異性に対して否定的な考えを
植えつけられてきたせいで、男性恐怖症とまではいかなくとも、
男性を汚らわしいものという偏った考えを持っていたことも問題だった。
しかしながら、女性で尚且つ彼女よりも一部でも技能的に優れた人物は皆無に近い。
恐らく私の母が生きていれば、あるいは有り得たかも知れないが……
女王陛下もそう思ったのかは知らないが、真っ先に白羽の矢がったったのが私だった。
…
今でも鮮明に覚えている…あの日、勇者ソルと初めて顔を合わせた。
「貴女がルナさん?はじめまして、私がソルよ!よろしくね!」
「はっ」
初対面にもかかわらず物怖じもせずに明るく挨拶を交わしてくる勇者ソルに対し、
私は相変わらずの無機質な声で応答し、彼女の前に跪く。
一瞬彼女は困惑したが、すぐに笑顔を戻して私にその場に立つよう言った。
今日から目の前に立つ勇者様が、私の絶対の主となる…そう思うと、
自然と視線が彼女の全身をジロジロとみてしまう。
―何と眩しい方だろうか―
私は心の中で驚きの声を上げた。
彼女は私にないものをたくさん持っていた。それは、人を惹きつける魅力の様なものだ。
正直、彼女に会うまでは勇者の護衛程度…と考えていたが、
勇者ソルに出会った瞬間にその考えは彼方にまで吹き飛んだ。
むしろ「この方のためなら命を捨てても惜しくはない。」と無条件で感じてしまうくらいだった。
人形同然の無機質な私に対して、勇者様は人間の温かみ溢れる人物で、
それが私にとって、とても新鮮な感覚だったのだ。
「ルナ…さんって、そういえば私より年上なんだっけ?何て呼んだらいいのかな?」
「勇者様、私のことは呼び捨てで構いません。私は勇者様の忠実な僕ですので。」
「僕だなんて…!ルナと私は対等な仲間なんだから、勇者様なんて呼ばないで
私のことも名前で呼んでほしいな。勇者だからって遠慮はいらないのよ。」
「そうはいきませぬ勇者様。上下関係ははっきり区別せねば。」
「ぅ…か、硬いわねこの娘……」
上下関係がすべての世界で生きてきた私にとって、主従の区別は当然のことだった。
私の役目は勇者様が受ける傷を可能な限り引き受ける盾。
私情は一切はさまず、命を賭して勇者様をお助けすることこそが、
生きる彫刻たる私の使命なのだから。
「…コホン!」
と、そばに控えていた教団の司教がわざとらしく咳払いすると、
もの珍しそうに私の鎧をぺたぺた触る勇者様は一瞬で表情を引き締め、
勇者にふさわしいピシッとした姿勢を形作る。
なるほど、彼女にも逆らえない存在があるのだろう。
「白銀騎士団、五十人隊長ルナ。」
「はっ」
「そなたは主神様に、勇者ソルの僕と認められた。
すでにその身は御身の物に非ず、勇者の為神の為、
惜しむことなく全身全霊を捧げよ。」
「承知仕りました。不肖ルナ、何事に代えましても勇者様をお守りいたします。」
神への誓いの言葉と共に、私は再び勇者様の前に跪き、差し出された手を取る。
健康的な飴色の手…女性の手なのに暖かで、力強い手だと思った…
そのとき勇者様は、私の手に両手を重ねると、こともあろうか装着していた手甲を
ガチャガチャと外し始めるではないか。そして、ここ数年間一度も外さなかった
(一応浄化魔法は日に数度掛けているので不潔ではないはず…)漆黒の手袋を外す。
日に当たらず、色素が抜け落ちてより白く儚くなった私の手……
このような物を見せてしまうとは…私はいささか恥ずかしくなった。
だが勇者様は、私の手を見るなりこういった。
「綺麗な手ね。でも、私に負けないくらい力強い。」
恥ずかしながら、この時の私は夢心地だった。
勇者様の手は美しいだけではなく、触れるとその暖かみが伝わってくる…
その熱は私の手を伝って、鉄の塊のように冷たい体に染みわたった。
「ふふ、ルナの体にも血が通ってる…ね。あなたは彫刻なんかじゃないわ。
第一彫刻なんかに私の身が守れるはずないもんね!
私からもお願いするわ、これからずっと頑張っていこう♪」
「ありがたき幸せ…」
私はこの時初めて「優しさ」というものに触れることが出来た。
…
勇者とその従者がエクセール王国を出発して一か月もたたないうちに、
太陽の勇者ソルと装甲姫ルナのコンビの噂は大陸全土に広がった。
光の神の加護を受けた勇者ソルは、太陽が出ている時間…
それは例え曇っていようが雨が降ろうが、例外なくその身体能力は
大幅に強化され、力が最も強くなる正午には通常の3倍にもなるという。
また、魔法の腕もそこらの上級魔道士も裸足で逃げ出すほど
強力で扱いにくい魔法をいとも簡単に使って見せた。
そして、ただでさえ強い勇者ソルを援護する装甲姫ルナもまた、
華奢な体にまとった巨大な盾と、ミスリルをも貫く突撃槍で、
近づくものを薙ぎ払い、勇者ソルに対して傷一つ負わせなかった。
愛用している鎧は、魔法宝珠と呼ばれる貴重な宝石をふんだんに使ったものだ。
服に一つ埋め込むだけでもかなりの防御力を発揮するが、素材は高価で
さらにかなり重量がかさむ。よって、普通は軽いローブの先端に織り込んだり、
ビキニアーマーの様に表面積を節約することになるのだが、ルナはこともあろうか
魔法宝珠でフルプレートをオーダーメイド。重量は40kgを超えた。
その上これまた嵩張る大盾に、普通は両手で持つ重さの突撃槍。
もはや超人の類と言っても過言ではない。
二人は行く先々でそこ国が抱える問題を律儀に解決しつつも、
目的である星の欠片の捜索も怠らなかった。
12個あると思われる欠片のうち3つは人間国家で発見された。
続けて2つの欠片も、それほど回収が困難ではないところにあった。
ここまでわずか半年しか要さず、その先も順調にいくかと思われた。
ガキイィッ!!
「くっ…くうぅぅっ!?」
「ルナっ!?」
「こしゃくな…わが一撃を耐えるか……」
旅を始めてからそろそろ一年経ったある日、ルナは生涯初めての傷を負った。
今まで数多くの冒険者を沈めてきた凶悪な一匹のドラゴンが、
よりによって星の欠片の一つを持っていることが判明したため、
ドラゴンが住む険しい山に乗り込み、戦いを挑んだのだった。
ただ、ドラゴンにしてみれば今までため込んだ宝の山を眺めて
ウハウハしていただけなのに見ず知らずの人間に駆られるのは御免だったろう。
ソルとルナを見るや否や、源竜変化を行い攻撃を仕掛けてきたのだ。
ドラゴンの一撃は凄まじく…ブレスは鉄をも溶かし、尻尾の一撃は岩をも砕いた。
しかし、それでも勇者ソルは怯むことなく攻撃に徹し、
ルナはドラゴンの一撃から彼女を守る。だが、勇者ソルが一瞬の隙を突かれ
ドラゴンの鋭利な爪が襲う……絶対に避けられない間合い、その攻撃を
ルナは身を挺して受け止めたのだ。
「せやあぁぁっ!!」
「ンアーーーーーッ!?」
逆に自身の渾身の一撃を受け止められて隙が出来たドラゴンに対し、
勇者ソルが聖剣による必殺の一撃を叩き込んだ。
強大な光の力の前に、さすがのドラゴンも大幅に魔力を失い、
源竜の力を保てなくなったことで、元の姿に戻ってしまった。
「く、くそっ!私の宝物が…覚えてろよ!」
「ふぅ…これでようやく半分。思ったよりも厳しいかもしれないわね。」
「左様でございますね。」
ドラゴンを退治して、二人はほっと一息つく。
「あ、そういえばルナ!あなた傷は!」
「傷ですか。大したことありません。鎧が威力を緩和したために、
かすり傷程度で済んだようです。ご心配おかけしました。」
「そんな…ルナを心配するのは当然よ。」
ルナは大した傷ではないというが、その傷口は縦に大きくえぐられていて、
白い肌に血がたらたらと滴っているのが見える。
ソルはすぐに回復魔法を唱えて傷口をいやしたのだが、
それと同時に嫌でも現実を直視させられることとなった…
ルナもまた人間である。それは不壊の楯に非ず。
自分に落ち度があれば、その分だけルナが傷ついていくことにもなるのだ。
ここ一年で、勇者ソルがルナを見る目は大きく変わった。
初めのうちは対等な相棒とは言いながらも、やはり二人の間には距離があった。
太陽のように明るいソルに対して、人間味の欠けるルナ。
ルナは宿屋に宿泊するときも、自分はソルの護衛だからと言って
ベッドに入らず、それどころか甲冑を脱ぐこともせずずっと夜番に徹していた。
それらの行動は人間の生き方とかけ離れた不気味さがあり、どうすれば
もっと親しくなれるのか真剣に悩んだ時期もあった。
だが、長い間接しているうちにルナにも以外に人間味のある部分もあることも分かってきた。
見たこともない生物と出会ったとき、初めて食べる料理を食べた時、
まるで子供の様に一直線に興味を示すのがどこか可愛かった。
そしてなにより、ルナの顔をじっと見つめてあげると、決まってルナは
ソルよりも長い間顔を直視することが出来ず、頬を赤くして視線をそらせてしまう。
そのしぐさがまた何とも言えず可愛らしかった。
ところで、前も述べたように勇者ソルは男を寄せ付けないことで有名だった。
そもそも偉大な勇者様を口説こうなどする輩はそうそういないのだが、
たとえ言い寄られても、問答無用で袖にしてしまうという。
実は彼女、若干百合の気があった。
これは彼女が持っている元々の素質というよりも(無論それもあるかもしれないが)
教団が施した英才教育に偏りがあったのが大きかった。
なるべく身近に男性を近づけず、異性との接触は殆どなかった。
旅に出た後はさすがに男性と接する機会はそれなりにあったため、
特に恐怖症のような類を発症することはなかったが……
で、それがどうしたと言えばそれまでだが、
要するに勇者ソルは恋愛ごとに興味はなかったのかどうか…
ここまで言えばもうわかるかもしれないが、彼女は自分でも気づかない間に
相棒であるルナに対して淡い恋心を抱いてしまったのだった。
…
私、ルナには誰にも言えない大きな秘密があった。
この秘密がばれたら最後、私はこの世界にいられなくなるだろう。
敬愛する勇者様に裏切り者と誹りを受けながら、その剣で首を断たれるだろう。
だが、それは勇者様を主と誓ったその日から覚悟していたこと…
私は騎士団に所属していた当時、隊長からこのようなことを仰せつかった。
「これから先、どのようなことがあろうとも、身につけたその装甲を脱いではいけない。
あなたがその装甲を一枚でも剥がしたとき、身も心も闇に呑まれるだろう…」
一般人であればそんな馬鹿なと思うかもしれないが、少なくとも私たち
白銀騎士団は騎士叙勲を受けたその日から常在戦場を心掛け、
身体を休める時も絶対に背中を見せてはならないとされている。
私は本当に強い人間なのだろうか?
貝や甲羅を背負う動物たちと同じで、常に何かに身を預けなければ
自分の身一つ守れない軟弱な生き物なのではないか?
その答えは今からさらに一年後に判明する。
魔界化していない地域を長期間渡り歩いた結果、どうも残り半分の欠片は
魔界にいかなければ回収できないという結論に達した私と勇者様は、
その年の秋に覚悟を決めて魔界へと足を踏み入れる。
魔界における探索の難易度は人間界とは比べ物にならないほど困難を極めた。
絶え間なく襲いかかってくる魔物や、人間に悪影響を及ぼす気候が
私と勇者様の体への負担となり、結局探索できるのは
勇者様の力が高まる日中の三刻間(6時間…すなわち午前9時から午後3時まで)だけ。
当然のことながら芳しい成果を上げることは到底かなわなかった。
それでも、勇者様の持つ加護は魔界でも失われず、魔力による干渉を跳ね除けた。
私もまた体に纏う無数の魔法宝珠からなる鎧が功をなし、
極秘図鑑に書かれているような色香に惑わされるといった症状は出なかった。
しかし、勇者様も私も気が付かなかった大きな落とし穴があった。
………日が沈んでからの半日間は強力な光の加護の効力が失われてしまう。
つまり、陽が沈んだ後の時間は魔力汚染に対する抵抗力が普通の勇者程度にまで
落ち込んでしまうことを意味していた。それでも私は念には念を入れて、
魔界から戻った後は勇者様の体を教会でしっかりと清め、魔物の襲撃に備えて
毎晩臨戦態勢を崩したことはなかった。…が、残念ながらその対策は完璧にはいかなかった。
「明緑魔界」。現魔王の代になってから見られるようになった特殊な魔界である。
そこは一見すると緑が広がる自然豊かな土地なのだが、魔界と言われるだけあって
魔力濃度は人間界と比較にならないほど高い。
私と勇者様はそんなことも知らず、時折明緑魔界と化した地で宿泊することがあった。
魔界の魔力は知らないうちに勇者様の体に徐々に蓄積されていく。
いや、今までの旅路だったのなら夜のうちにたまった魔力は陽の昇る間に
自然に浄化されていくことだろう。しかしながら、今や勇者様と私は
本格的な魔界探索に乗り出している。必然的に強力な光の加護も、
身体を冒そうとする強力な魔力を跳ね返すために使われることになるだろう。
0 2-3 2…これが次の日に持ち越される魔力汚染の総量。
やがて小さな変化が現れた。今まで、同じ部屋の中で休むことがなかった私だが、
ある夜勇者様が「添い寝をしてほしい…」と頬を染めて呟いた。
初めのうちは故郷が寂しくなったのかと思い、適当な返答で部屋に帰してしまった。
だが、これがいけなかったのか、その日を境に勇者様は毎晩、何かと理由をつけては
添い寝を求めてきた。こんな鉄の塊と寝たらさぞ寝心地が悪いだろうに…
そう思ってはいたがさすがに断りきれず、同じ部屋の中で一晩過ごす形で妥協した。
ところが…である。
不思議なことに、朝起きると勇者様は私に添い寝を求めたことをすっかり忘れてしまっていた。
初めて同じ部屋で夜を過ごした日の朝、目を覚ました勇者様が、
私が部屋の中央でじっとしているのを見て非常に驚いていた。
「ど…どうしてルナが私の部屋に!?珍しいこともあるものね…」
「珍しいと言われましても、昨夜勇者様は私にあれほど部屋の中に入るよう
勧めてきたではありませんか。」
「え!?私知らないわよそんなこと…?」
「……申し訳ありません。私の勘違いか何かだったのでしょう。
許可なく勇者様の部屋に立ち入ったことを深くお詫び申し上げます。」
「そんな、お詫びだなんて…私は構わないわ!むしろ…その、一緒にいたほうが…
私が昨日何を言ったか覚えていないけど、これからも、一緒の部屋にいてくれるとうれしいな。」
「勿体なきお言葉…」
何かがおかしい。そう感じた時点で、すでに手遅れだったのだ。
ここのところ勇者様は日が落ちる時間帯になると、ほんの数分本人の意思に関係なく
眠ってしまうという不可解な現象を発症した。そして再び目覚めた後の勇者様は
陽が出ている間の勇者様と纏う雰囲気が違うことに気が付く。
明るく活発で爽やかな性格はそのままなのだが、僅かながら色気を帯び始めた様子…
まあ、勇者様とて人間の女性だ。恋をしたい年頃なのだろう。
その相手がどこの誰であろうと私には関係のない話だし、口を出す問題ではない。
私は盾。私は盾…だ。
「ル〜ナ♪」
「…如何なさいましたか勇者様。」
ある日、魔界のすぐ近くにある辺境の村で宿をとっていた時のこと、
勇者様は私の背中から肩に抱き着き、いつも以上に密着してきた。
季節はそろそろ冬、私の纏う鎧も外気で冷え切っているし、触れても冷たいだけだ。
きっとすぐに離れるだろう。そう思っていたが、なかなか放してくれる気配がない。
「ねえルナ、私たちが一緒に旅してそろそろ2年になるのに、
ルナが鎧を脱いだのを一度も見たことがないの…不思議だと思わない?」
「そう仰られましても、勇者様をお守りすることが私の役目。
たとえ信頼する者の前でも決して武具を離さないのが白銀騎士団の掟です。」
「ふ〜ん……ルナは私と掟、どっちが大事?」
「え…」
勇者様から出されたあんまりな質問に、私はどう答えていいのかわからなかった。
しかし、答えなければ失礼にあたる。
「それは、勇者様です。」
「本当に?」
「はい。」
「嘘じゃないよね?」
「はい。」
「じゃあ、今ここでその鎧脱いじゃおうか♪」
「は―――…ぇ!?」
まさか勇者様にパワーハラスメントをされる日が来るとは思わなかった。
私はもう何年もこの鎧を着たまま…今更脱げと言われても抵抗がある。
「勇者様の命令とはいえ、承諾しかねます。」
「えぇ〜、じゃあさっき言ってたことは嘘なのね。ルナのうそつき!」
「…甚だ心外です。」
「私、もっとルナと触れあいたいの…それすらも許されないというの?」
「……っ」
いつの間にか私は勇者様に迫られ、今まで見たこともない心打つ表情で懇願された。
頬は赤く染まり、切なそうに眉毛を垂らし、今にも泣きそうな顔だった。
普通の人にこの様な顔で懇願されても冷淡にあしらえる自信があったが、
敬愛する勇者様となれば話は別だった。このような視線は私の心が耐えられない。
私の鎧は…私にしか外せない最高度のロックがかかっている。
留め金のような部品は一切ない。外すか外さないかは私の意志にかかっている。
ああ…勇者様は私の心をこじ開けてしまった。私は勇者様の所有物、
勇者様にはあける権利がある。今私は、心の留め金を外した。
ガシャン!
まず肩当てが外れる
ガシャッ!ガキン!
腰回りのフォールド、側面二枚板金のタセットを外すと、
キュレットスカートというスカートの形状をした下半身の主力装甲を脱着。
全体の重さの3分の1を占めるそれは、轟音を立てて床に崩れ落ちた。
カシャッ!カシャッ!ガチガチ!ガシャン!
喉、肘、二の腕、手甲、そして最後に胸甲…
私を「装甲姫」足らしめた白銀の鎧はすべて私の体から剥がれ落ち、
キャベゾン(鎧下に着る衣服)のみが残ることになった。
自分の体重以上の重量を誇った装甲を失った私は、突然得も言えぬ不安感を感じ、
身体を動かす時も必要以上の力がこもってしまってぎくしゃくする。
「これで…よろしいでしょうか…?」
まるで恋人に寝間着姿を見られた乙女の様に縮こまってしまう私。
「うわ〜ぁ…ルナってこんなに細かったんだ。
それなのにこんな重い鎧を着せられて…なんだか可哀そう。」
可哀そうと言われましても、これは私が自分で着こんだのですが…
「ふふっ…、でもこれでやっと、添い寝できるよね♪」
「!!」
「今夜は寒いでしょ、こういう日は人肌恋しくなるもの。
私とルナで肌を重ねて…抱き合って眠りたいの、きっと暖かいよね。」
「勇者様…!い、いけません!」
私ににじり寄る勇者様、勇者様から離れようとする私。
肌を重ねるだなんて冗談ではない…!
私、ルナには誰にも言えない大きな秘密があった。
この秘密がばれたら最後、私はこの世界にいられなくなるだろう。
思考が混濁する中、いつの間にか私はベッドにまで追い詰められていた。
「ルナ、怖がることは何もないよ。ね、ほら……優しくしてあげるから…」
「あ…ぁ…」
勇者様が私に覆いかぶさるように身を重ねてくる。
今まで感じたことのない、人間の暖かさと柔らかさ…
まるで金縛りにあったように私は身動きが取れなくなり、
心臓が早鐘を打つようにガンガン鳴り響き、熱っぽさを感じる。
そして…勇者様の右手が…私の下腹部をなぞった。
キャベゾンの上からも隠しようもないくらい、いやらしく膨らんだ下腹部を…
「やっぱり…ルナって男の子だったんだ♪」
「………はい。一体いつ気が付いたのですか?」
「だって、ルナから女の子にはない、いい匂いがするんだもの。」
そう…私は男性だった。
これは私が王国から離れて、公に存在が公表されなかった理由の一つであり、
場合によっては子供の内から去勢してしまおうという案もあったらしい。
だがはっきり言ってその必要はなかった。
世の中には、遺伝子バランスの関係で男性なのに女性のような容姿や
性格を持つ人間がいる。また、逆も然りである。
中には先天性の異常の者もいるが、大抵の場合はもともと中性的な人間が
第二次成長期に体内魔力を限界まで消費して無理な修練を行うと、
成長過程で使われるホルモンバランスが崩れ、症状が軽くても
変声期が一生来なかったり性格が女々しくなったりするが、
これが重度となると性倒錯や性器の不具といった笑えない後遺症もありうる。
そして何を隠そう私もその後遺症により、変声期も来ず、見た目も
ほぼ女性の容姿が備わった。今思えばこれもまた神の意志だったのかもしれない。
だから私は、最低限のプライドとして自分のことを絶対に女性だとは言わなかった。
言わなくてもまわりは勝手に勘違いしてくれたし、四六時中鎧を着てれば
ばれることは殆どなかった。それなのに今…
よりによって勇者様にばれるという失態を冒した。
「ルナは男の子として、私のことをいつもどう見ていたの?」
「そ…それは…」
「…答えてくれないの?」
体を覆う装甲も心を覆う装甲も剥がされた私は、
勇者様の色っぽい言葉に逆らうことはできなかった。
「いえ…勇者様は強いくて、頭もよくて、責任感も強く…
誰にでも分け隔てなく明るい笑顔で接することができる素晴らしい方……
だから皆にも信頼されて慕われて…私の理想の女性で……」
「ほかには?ほかには?」
「他には…と言われましても、私の貧弱なボキャブラリーでは何とも…」
「ねぇルナ、私たち…恋人同士になろうよ♪」
「恋…人…?」
恋人という言葉を耳元でささやかれた瞬間、
私の脳は沸騰したように正常な思考が出来なくなり始めた。
生まれて初めての感情に戸惑い、どう対処していいかわからなかったのだ。
今私はみられると恥ずかしいくらい無残な顔をしているだろう。
「私はルナが好き…。ずっとずっと、私のために頑張ってくれたルナが好き。
ずっとずっと…つかず離れずの距離で見守ってくれたルナが…大好き♪」
「………あ、あのっ…そのっ…わ、私も…ゆ、勇者様の…ことが…」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
めっ、と人差し指を唇に当ててくる。
私は…もう一歩進んでしまったら、今まで築き上げたすべてを崩すことになるだろう。
一時の情に流されて理性を失うことなどあってはならない。
だが、冷静になれない、誰かの助けなしでは一歩も引き返せない。
優しさと寂しさを覚えてしまったこの体は、暖かみに飢えている。
装甲を纏わぬ私は…こんなにも弱い存在だったなんて…
勇者様、もしあなたに大義のために小さき心を捨てる果断さがあるのなら…
今この瞬間に私の首を体から切り離し、地獄へと送ってください。
私は今まさに…あなたの優しさに屈しようとしてるのだから…
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
私の唇に、ソルのそれが覆いかぶさるように重なった。
ソルにとっても私にとっても初めてのキス…甘い陶酔感が体に広がる。
「ルナ…愛してるわ。んっ、ちゅっ…ちゅむっ、んちゅる…」
「…ソル、私もソルを愛しています。」
「嬉しい…♪ふぁ…」
二度目のキス。お互いの気持ちがずれてしまわないように、
ソルは長く大胆に、唇を奪ってきた。
今でも信じられなかった…昼間の勇者様と今のソルは全くの別人に思えてくる。
恥ずかしさと嬉しさがごちゃ混ぜになった色っぽい顔で私を求める
その姿は、太陽の勇者ソルではなく、一途に恋する乙女そのもの…
「寝間着…脱がせてくれる?」
「はい…」
言われるまま、キスしながらソルの寝巻の紐に手をかけた。
同時に私のキャベゾンもソルの手ではらはらと脱がされていく。
だが、私がソルの胸を抑える布を取るのに手間取っている間に
私の方はあっという間に表面を覆っていた布のほとんどがはぎ取られ…
「こ…これが、ルナの…」
「…っ!!そ、ソルっ…あまり見ないで…下さい……」
「いいじゃない…減るものでもないし♪」
そういいつつも、おずおずと私の男性気に手を伸ばし手で包み込むように触れる。
急所に触れられただけでゾクッと未知の感覚が電流のように走り、
思わず湿っぽい吐息を吐いてしまう。
「なんだ…聞いたほど気持ち悪いものじゃないのね。ううん、むしろ…
ルナったら…見た目は私より美人なのに、ここはしっかりと男の子してるのね。
まずは、この皮をむいてあげるんだっけ…?は、初めてだから下手かもだけど、
私…ルナのために頑張る…。ん…ちゅっ、れろっ…」
「あ…や…ソル、そんなところ……汚い、舐めちゃ…だめぇ…」
これではどちらが女でどちらが男かわかりやしない。
私は情けない悲鳴をあげながら、徐々に男性器の皮をむかれていった。
ソルの舌が皮と果肉の隙間に唾液を塗りたくりながらまくるように
尚且つ私が痛くないよう優しく優しく…剥いていく。
「ひうっ…!」
「ん…剥けた♪…ほうほう、竿の方の皮は、ずいぶん……伸びるのね?
それに対して、先っぽの方はツルツルで……ぶよぶよしてる。
熱くて…硬くて……不思議といつまでも触っていたい…
あっ、私ったら、いつも聖剣を持つ手でルナの大事握っちゃってる♪」
私の性器を弄りながら、ソルは好奇心旺盛にいちいち驚いて見せる。
肉胴の皮を引っ張ったり、血液をため込んでパンパンに膨らむ
亀頭を手のひらでぎゅっと圧迫してみたり。
「これは…ルナが私だけにくれた、夜の聖剣だもの……。
剣の名前は『聖剣・ルナ』…♪私の聖剣に負けないくらい…立派よ。」
「その、あまり恥ずかしいことを言わないでもらえませんか?
聞いてる私もいたたまれなくなってくるのですが…」
「ふふ、だって…」
ソルは右手で行為を継続しながら、私の耳元につぶやいてくる。
吐息が耳にかかり、背筋がゾクゾクと震えた。
「これが、私の中に入っちゃうんでしょ?」
「あ……ああっ!ソル…ほ、本気で?」
いくら私でも、人間の性行為の知識は人並みにはある。
もっとも、自分には縁のないものだと思っていたのだが…
ソルに言われてようやく、自分の性器をソルの中に突き入れる
想像図が浮かび上がり、未知に対する興奮でますます震えが大きくなる。
「愛し合ってるなら、身体を重ねることは自然なことなの。
好きよ…ルナ。私たちはもう恋人同士、これくらい普通だと思うわ。」
「そんな優しいこと耳元で言っちゃ…あうっ!?
だ、だめです……このままだとソルの手、汚しちゃいます!」
「わ…ルナの聖剣……すごく熱くなってきた………
大きさも、さっきより膨らんだかもしれない。
私のご奉仕…そんなに気持ちいい?嬉しいな、ルナ……」
「はあ、はあ、ぁ…私、何か来ちゃいますから…!
くあっ…出る!出ちゃう!早く…手、放してください!」
「ダメ…ちゃんと最後まで見せて!ルナ…ルナっ!
私の手の中であなたの聖剣の力を解放するところ見せて…!」
ソルの手で愛撫された私のモノは、我慢の限界に達して暴発した。
体の奥からこみ上げる熱いマグマの塊が鈴口から吐き出され、
モノに添えられた右手を腕の辺りまで容赦なく汚していく。
「うああぁっ………!?あ、はあぁっ!?」
「ひゃっ!?あ、熱いっ……なにこれ、凄い量…はっ、あぁ…
まだまだ出てくるっ…、これが…ルナの精子なのね…」
「ソル…ごめんなさ……、ソルのきれいな手…汚してしまって……」
「ううん、汚くなんかないよ。その証拠に………ん、ぴちゃっ…」
なんということか!ソルは手に付着した私の精液を舌で舐り始めたのだ!
「そ…そんな……」
「ちゅるっ、ちゅぱっ…ん、不思議な味がする。それに…噛めちゃうくらい
濃くてドロドロして…匂いも凄い、歯磨きしても落ちないかも♪
ふふふ…どうしよう、癖になっちゃいそう。もっとちょうだい……」
腰が抜けて動けない私の目の前で、ソルは手に付着した精液を
一滴残らず舐め尽くすと、まだ尿道に残っている分を吸い出そうと
私の男性器を口に含み始めた。これには私も驚いて、
あわてて止めようとした。しかし、力が出せない今では無駄なこと。
「いけません…!ソルの口なんかに…あっ、し…舌が……」
「ちゅるっ…ぢゅるるるぅっ!ん…また硬くなってきた♪」
吸出されたときの快感のせいで、再び欲望が再装填されてしまったようだ。
ソルの口の中で再び硬さを取り戻していく男性器…
「私のご奉仕、気持ちよかった?」
「ご、ご奉仕だなんてそんな…」
「ルナが聖剣の力を解放したとき、凄い気持ちよさそうな顔してた…。
いままで泣いたことも怒ったこともないルナが…私にだけ
あんな無防備な顔を見せてくれるのが、こんなにもゾクゾクするなんて。
もう…可愛いルナは私だけのもの、ほかの誰にも…見せたくない。」
そういってソルは再び私を抱きかかえると、
私のうなじに顔をうずめながら、素肌を私の体に摺り寄せてきた。
金属以外の何かに包まれることのなかった私の身体は
快感に非常に敏感になっているらしく、ソルの吐息があたるだけでも
おもわずビクンと身体を震わせてしまう。その様子がソルは
甚く気に入ったのか、蕩ける様な妖艶な笑みで私の顔をのぞいては、
ちゅっちゅと小刻みに口付けをしてくる。特に鎖骨部には、
まるで食むように強烈なキスを食らわせられる。
するとそこにはソルの唇の痕がくっきりと残った。
「これは…ルナが私のものだって言う証…。
ね、ルナも…私の首にキスマーク…つけてくれる?」
「…はい。」
私もソルのやり方をまねて、首筋に吸い付くような口づけをした。
「んはぁっ…ルナっ、き…きもちいい……もっと強く、
一生消えないように…私に所有の烙印を…刻み込んでっ!」
とうとう、やってしまった。
私がつけた唇の痕は、その存在を主張するようにソルの首筋に浮かび上がっている。
しかしながら、ソルはまだ満足していない。むしろ…これから
いろいろな意味で本番に違いない。窓から差し込む満月の光に照らされた
ソルの裸体が私の腰と合わさる位置に、確かめるようにして跨って来る。
間違いない…私はソルに……犯される…
「はっ…あぁ……、初めてって、やっぱり緊張するわ。
ふふ…とうとう、私の純潔が…聖剣ルナに破られるの……。
ルナが男の子でよかった…♪女の子同士じゃこんなことできないもんね。」
「はい…その、やさしくお願いしますね…?」
「もう、ルナったら、普通それは私が言うセリフよ。んっ、でも悪くないわ。
ね……ルナ、いくよ…私の本気、受け止めて欲しい……からっ」
ソルは両手で私の両手をしっかり掴み、ふぅっと一呼吸して
意を決すると、私の上にゆっくりと腰を下ろす。
まずは私のモノの先端が、ソルの膣前庭に卑猥な音を立てて沈む。
『ひうっ!?』
…二人同時に、同じような喘ぎ声が出てしまうほど気持ちよかったが、
それでもソルは止まることなくより深く腰を沈めてくる。
急激な圧迫が私のモノを容赦なく締め付けながら…
みちっみちっと時折何かをちぎるような衝撃とともに
徐々に確実に深く深く沈んでいく。
「い…痛い!これが…喪失の痛み、なんだ……!」
「無理しないで下さい…ソル!痛みをこらえる顔を見ると…
それも痛みを与えているのが私だというのも…とてもつらいですから!」
「だい…丈夫、むしろ…この痛みが私を幸せな気持ちにしてくれる…
ルナに、初めてを上げてるんだと思うと…胸が、キュンとするの……!
だから………っ、あっ…ああっ……はあぁぁっ!?」
ズルン…という衝撃と共に、私の性器は完全にソルの膣内に飲み込まれた。
初めて男を迎え入れたソルの性器は、まるでルナを握りつぶさんばかりに
むちゃくちゃな締め付けをしてくる。しかしながら、せっかくの挿入も
触覚の許容量を超えた快感で脳がほぼ機能停止状態におちいてしまったせいで
じっくりと味わう余裕は一切なかった。
「ルナ…私の中に入ってる……、あぁ…なんて幸せ……
教団の司祭様に褒められた時よりも…勇者として認められたときよりも…
今この瞬間に比べれば…んはぁっ、なんて…小さなものだったのかしら♪」
「私もです…ソル。こんな幸せなことがあるなんて…あぁ、知らなかった…」
「んっ…好きぃ、ルナ…もっと、愛し合いましょう…」
ソルは一度腰を浮かせると、再度強く腰を落とす。
わたしのモノが中の襞や残っている膜に絡みつき、しごかれる。
「あっ…あっ…ま、まだ少し痛いけど……でもそれ以上に凄く気持ちいい!
ひゅふぅっ!あっ…こ、子作り凄い!!私とルナで子作りしてる!
ルナの聖剣が…はぁっ、んっ…私の、子宮を突く度に…子宮口が開きそうになるくらい…
お腹の奥が痺れちゃうのぉっ!あんっ、あんっ…好きっ!大好きよルナ!」
「うあぁっ…ソルっ、ソルうぅっ…」
我を忘れて容赦なく腰を振り、快感をむさぼるソルに対して、
私はただただソルに与えられる快感におぼれて、よがることしか出来なかった。
この時点で私はもはや完全に今までのことを忘れ去り、
自分の上で淫らな舞を舞う女性は、勇者様などではなく、大切な恋人となっている。
自我を抑えていた理性は完全に吹き飛び、小作りというフレーズを聞いただけで、
恋人の中に自分の種を注入して、ソルの要求にこたえてあげようとすら思ってしまう。
私はもう鉄の人形なんかじゃない。誇り高きソルの恋人なんだ…
「もうだめ…ソル、また…出ちゃいそう……です!」
「うん…!いいよ、出して…ルナ♪私の膣内に…溢れる位、
ルナの赤ちゃんの素、いっぱいいっぱい…出してね♪
んっ…んっ…!ルナッ、ルナぁっ!来て……私の中に…!
ふあぁっ、あっ…ああああぁぁぁぁぁぁっ!!??」
こうして、本日二度目の射精がソルの身体の中で行われた。
強烈な快感に身体が大きく震え、下半身に溜め込まれていた何かが
竿の中を駆け上って、たちまちソルの中を満たしてゆく。
「ひぁぁぁ…で、出てる……!私の子宮に…ルナの精子が……!
あ、熱い……熱いぃ、妊娠しちゃうよぉ……♪」
ドクドクと注がれる私の精液に膣内を蹂躙されたソルは、
まるで全身を電撃でやられたかのようにがくがくさせ、
普段から表情豊かなソルが一度として見せたことがなかった、
所謂アクメ顔でもたらされる快感に陶酔した。
二人で同時に達した後、ようやく一息つくと、
役目を終えた私の性器は自然にソルの中から抜け出し、
私の精液とソルの愛液がブレンドされたおぞましい液体を
シーツの上に撒き散らしてしまった。
「ルナ……私、いまとっても幸せ♪」
「…ソル。でも、明日の朝になったら、きっと…」
「言わないで。たとえ…今夜限りだったとしても……
この暖かさは絶対に忘れないから…。ね、ルナ…。大好…き。」
激しい運動で疲れたのか、ソルは私の腕の中で
満面の笑みを浮かべながら眠りについた。
そして、私はソルを抱えながら…
「……やってしまった。」
全ては遅すぎた。
…
次の日の朝、私はいつものように鎧を着こみ、部屋の中央で
勇者様が起床なされるのを待つ。
「ふ…ぁ…おはよぉルナ。」
「おはようございます勇者様。」
「うん、今日も一日頑張ろう♪」
やはりというかなんと言おうか…勇者様には昨晩の記憶が内容だった。
私が勇者様と呼ぶことに違和感を覚えなかったのがその証拠である。
そして今日もまた、魔界の探索を開始する……その前に、
念のため勇者様にもう一度だけ確認する。
「勇者様。」
「ん、なあに?ルナの方から話しかけてくるなんて珍しいわね。」
「…いえ。勇者様は私を女性だと思っていますか、男性だと思っていますか?」
「あははっ、おかしなこと聞いてくるのね!ルナは私より美人さんじゃない!
誰かがルナのことを男っぽいとか言ったのかしら?少なくとも私は、
ルナ以上にきれいな女の人はいないと思ってるわよ!自信持ちなさい!」
「はっ…」
どうやら昼になれば昨夜のことを忘れてしまうのは確定的のようす。
ならば私はいつものように、勇者様絶対死守を念頭に動けばいいわけである。
正直私はほっとしていた。むしろ昨晩の記憶があったら、
この先私は勇者様にどう付き合っていけばいいか悩むことになるから…
「でも…ルナが男の人だったら、それはそれで……///」
「何か仰られましたか勇者様?」
「え!?ううん…なんでもないの!さ、行きましょう!」
昨日の夜の痴態が嘘のように、明るく爽やかな勇者様を見て、
私もまた昨夜の記憶は頭の片隅に追いやることにした。
しかし…
太陽の時間は終わり、今日もまた西の空に陽が沈む。
それと同時に勇者様の加護が弱り始め、宿屋に戻ってすぐに眠りについた。
で、数分意識を失った後、再び目覚めると…
「ん…ルナ、おはよ♪」
「目が覚めましたか勇者様。夕食の準備が出来ております。」
「もう、ルナったら…私のことは名前で呼んでって言ったじゃない♪
もう忘れちゃったの?」
「………う、あ…いぇ、そんなことはありませんよ…ソル。」
「よろしい。ちゅっ…。さ、ルナ…鎧脱いで♪」
…昨夜のソルが戻ってきてしまったようだ。
嫌な予感はしていたが、やはり加護が消えるともう一方の人格が
出てきてしまうようで……早い話、勇者ソルはいつの間にか
二重人格になってしまっていたようだ。
起き掛けに私の頬にキスをすると、ソルは私に鎧を脱ぐように命じた。
「いえ…まだダメです。夕食が先です。それと…」
「分かってるわよルナ…でも、私は一秒でも早くルナの体を
ぎゅっとしたいの。ルナだってそう思うでしょ?」
「…はい。その通り…です。」
「ふふふ、じゃあ、お夕飯食べちゃおっか。ルナが鎧を脱いでいいのは、
私と一緒にいる時だけだもんね。ご飯食べたら、二人でお風呂に入りましょ。
恋人同士だもん…お風呂だって一緒に入るのは普通だよね♪」
「お風呂…ですか。」
「あったかいお湯で二人で洗いっこして、お互いの体を綺麗にして…
そのあとはお楽しみの、二人だけの恋人の時間…あぁ、楽しみ♪」
結局その夜も、ベッドの上でソルとつながった。
久しぶりに湯あみして火照った体を求めあうのはとても新鮮で、
私はソルの中に、求められるまま三回も出してしまった。
そしてまた夜が明け、いつもの勇者様が戻ってくる。
「ルナ、行くよ!星の欠片はもうすぐよ!」
「はっ…勇者様。」
一日が終わり日が沈む。
「ルナ…今夜もいっぱい愛し合いましょう♪」
「承知しました…ソル。」
私は何の対策も打てないまま、昼間は勇者様の忠実な盾として、
夜はソルの恋人として……同じ人なのに、違う接し方をする。
今のままでも冒険に何の支障もないし、何よりも夜になれば
恋人同士となったソルとの睦愛が癖になってしまっていた。
残念ながら、私は戦う術は知っていても先々のことを考えて行動するだけの
見識を持ち合わせていなかった。私の生き方の半分は勇者ソルに依存している。
勇者様が突撃しろと命じられたら、私は自分の命を試みず突撃するし、
ソルが抱き合いながら胸を愛撫してほしいとせがんだら、やはりその通りにする。
そんな生活がまた更に一年ほど続き、このまま何事もなく任務を遂行できると思っていた。
「ルナ……、昼間の私…やっぱり夜のこと忘れちゃってるのかな?」
「はい。こればかりは仕方がありません。」
この夜も、ベッドの中で情事に耽ったあと、二人してピロートークで余韻に耽る。
「でもね…そろそろ、昼間の私も現実を直視しなきゃならない時が来るわ。」
「それはどういうことです、ソル?」
「そうね、そもそも今私が…結構夜更かしできるのもその証拠なんだけど…」
確かに、今までのソルは体質的に日付が変わるまで起きていられなかったのだが、
現在では草木を眠る丑三つ時になっても、私と話す余裕がある。
だが…その代償として勇者様が朝起きる時間が明らかに遅くなっていた。
前までは日の出とともに起床していた勇者様も、今では陽が出てから
半刻ほどたたないと目覚めなくなってしまい、夕方眠り始める時間も
日によって時間はバラバラとはいえ、確実に早くなってきている。
つまり、勇者ソルを支配する勢力バランスに変化が生じてしまっていたのだ。
そして数週間後に、またしても勇者様の身に変調が訪れた。
いつも明るかった勇者様は、時折私に対しても今まで決して洩らさなかった
冒険への不安や望郷の思いを吐露するほど、精神が不安になることがあった。
「ルナ…この先ずっと私に付いて来てくれるよね。」
「当然です。勇者様の行くところであれば、場所は厭いません。」
「うん…ありがとう。もう旅に出て三年にもなるのに、いまだに先が見えないから…」
「大丈夫です。残りの星の欠片はあと三つ…あともう少しです。」
それだけではない。たまに激しい戦闘があると、決まって勇者様は嘔吐感を催した。
特に激しい嘔吐感ではないらしいのだが…私も少し心配になってくる。
で…さらに数週間が経過すると……
「ねぇルナ…」
「如何しましたか勇者様。」
「えと、その……月のものが…来ないの。どうしたんだろう…?」
「月が…来ない?」
精神の不安定、体調不良や嘔吐感、それに月経の不来…
これらが示す兆候に心当たりがあった。
―妊娠―
勇者様のお腹の中には胎児がいる…それならばすべての説明はつく。
ではそれは誰の子供か?心当たりがあるのは……
「もしかして私…妊娠しちゃった、のかな…?」
「勇者様…心当たりは御座いますでしょうか?」
「心当たりなんてないわ!私は今まで誰とも…その、したことないし…!
あ、そうよ…これはきっとどこかでかけられた呪いに違いないわ!
私本で読んだことがあるんだけど…約百年前の人と魔物の戦いで
人間側の兵士たちが疑似妊娠の呪いをかけられて負けちゃったことがあったの。
きっと……それと同じものに違いないわ。」
「左様…で、御座いますか。では、ここは無理をせず一旦王国に戻り、
呪いの効果が解けるまで休養してはいかがでしょうか。」
「ううん大丈夫。これしきこと、どうってことはないわ。」
「しかし…」
「休むのは星の欠片を集め終わってからで十分よ。」
勇者様は明らかに無理をしている。
本来はそれをフォローするのが私の役目であるのだが、
今の勇者様に私が何を言おうと聞く耳を持たないだろう。
こうなったら、夜のうちにソルに問い詰めるしかない。
「どう?昼間の私は。そろそろ素直になったかしら?」
「ソル…たしか私とするときは、避妊の魔法をかけているとおっしゃっていましたよね?」
「ええ、ちゃんと使ってるわよ。でも…絶頂に達しそうになると解いちゃうけどね。」
「なんですって!?それでは避妊の意味がないではありませんか!!」
「だって……私、ルナとの強い絆が欲しかったんだもん。
それにね、夜だけじゃなくて…一日中ルナと恋人でいたいから……」
「う…」
だが、やはりソルが見せる色っぽい懇願の表情に私は逆らえなかった。
「ふふふ…私のお腹の中に、ルナと私の子供がいるのね。嬉しいな…。」
「そうは言いましても、出産したらそのあとどうなさるおつもりですか。」
「そうなったら勇者夫婦って肩書きで冒険続ければいいじゃない。
既成事実を作っちゃえば誰も文句は言えないはずよ。ね…♪
誰にも祝福されなくても構わない…私にはルナだけいればそれでいいんだから…」
そして事態はさらにエスカレートする。
勇者様は、加護を受ける時間の間にも私に甘えてくるようになった。
「不安だから手を繋いでほしい」にはじまり、「腕を組みたい」
「少しでいいから抱き着かせて」と事あるごとに接触を求めてくる。
夜と違ってしっかりと装甲を着こんでいるので、勇者様の体温は
直接私に伝わることはないが、勇者様の感じている不安感は十分に伝わってきた。
勇者様は特に私の髪の怪我お気に入りらしく、小休止の際には
無意識に私の髪の毛を背中越しに触れて弄ぶことが多かった。
やがて、勇者様は吐き気を催さなくなり、体調も安定してきた。
それと同時に、奇妙なことに魔界探索中に魔物に襲われることがほとんどなくなる。
つい先日まではそれこそ数えきれないほどの魔物に遭遇しては襲い掛かられ、
その都度応戦してきた。幸い光の加護の力は健在で、私も十二分に力を振るい
勇者様の聖剣ソルの光で、魔物たちは光の中にかき消された。
ところが今では、魔物たちは私たちを見ても襲い掛かってこないばかりか、
場合によってはなぜか微笑ましい笑顔を向けてくることもあった。
「やったわルナ!とうとう呪いの効果は消えたみたいよ!
その証拠に魔物たちは私の加護を恐れて襲い掛かってこないし、
不快感も嘔吐感も消えたわ!心配かけてごめんね、ルナ。」
「いえ、勇者様もご無事で何よりです。」
「ん〜…でも、やっぱまだちょっと寂しい感じがする…かな?
ねえルナ、ちょっとの間でいいの。手甲を外して、直接手を握ってくれない?」
「手甲を…?それはできません。戦闘がほぼなくなったとはいえ、
たとえ信頼する者の前でも決して武具を離さないのが白銀騎士団の掟です。」
「そう…よね。ん、ごめんねルナ、無理言っちゃって。」
「ご理解いただけて何よりです。」
「その代り、腕を組んで♪」
「承知しました。」
「ん…♪女の子同士なのに腕組みなんて…やっぱおかしいかな?」
「いえ。勇者様がご所望であれば、なんなりと。」
この後私たちは、魔界の湖に沈む星の欠片をどうやってとろうかと思案している最中、
運よく湖に住む精霊ウィンディーネに遭遇して、底に沈んでいるのを取ってきてもらえた。
魔界にも、人間に対して友好的な精霊がいるものだと感心しつつ、
残りあと二つとなった欠片の行方を追い求める。
それからさらに数週間…
「ルナ…。最近私太ってきちゃったかも…。」
「左様でございますか。」
「どうしてだろう?最近朝も昼もたくさん食べないと気がすまなくなってきたし。
それにほら、お腹がポッコリとしてるでしょ。おっぱいまで大きくなっちゃったのは、
まあ…若干嬉しいけど。それに引き替えルナは……やっぱ細いよね、
ルナの体って。私もルナみたいに鎧着込めばいい運動になるかしら。」
「ご冗談を。勇者様の技は動きの鋭さが持ち味ですので、私の様に
装甲で身を固められては無意味になるかと存じます。」
「ん〜、やっぱ最近ロクに戦ってないのが原因なのかな?」
…勇者様のお腹が大きくなってきた。これはいよいよまずい。
「んふふふ♪いい子いい子…、私とルナの子供、こんなに大きくなって。お母さん嬉しいわ。」
「ソル、私も触っていいかな。」
「いいよ、好きな時に触って。ルナが種付けしてくれた愛の結晶だもの。
ルナに撫でてもらうとこの子もうれしいって喜んでるような気がする。」
もはや見た目で隠し通すのが不可能になりつつある。
一応町の人や関係者には、呪いの影響だと言ってあるのでなんとかなっているが、
いずれはこの町を引き払って人里離れた場所に拠点を移す必要があるかもしれない。
「しかしこれだけ大きくなってしまったら、この子の安全のために
性行為は控えた方がいいのではないでしょうか?」
「ええ〜っ!?いやよそんなの!私は毎日欠かさずルナの聖剣ミルク欲しいの!」
「ですが、もうお腹の中に子供がいる以上、子作りの意味は……」
「だめっ!これは愛の営みなの!恋人は毎日欠かさず愛情を確かめ合う義務があるの!
それにこの子だってルナの聖剣ミルクおいしいって言ってくれてるのに!
それともルナは私のことが嫌いになったの?」
「そ、そんなわけ…ないじゃないですか。ソルを嫌いになんて、頼まれても無理です…」
「でしょ♪そうと決まったら今日も私と妊娠エッチ♪そろそろ母乳も出るかもだから、
ルナには赤ちゃんより先に味見してもらおうかな。」
「ぼ…母乳って…」
ちなみに、その日から本当に母乳が出てしまい、
毎日毎日味見と称してソルの特性ミルクを飲まされることになる。
味は特にまずくもないが、人肌程度のぬるさなのでなんだか中途半端な感じがした。
で、一方の魔界探索も驚くほど順調に進み、
とあるヴァンパイアが住む館にある星の欠片を求めて、館に乗り込んだ。
「くっくっく!ようこそ、死すべき定めの者よ。アガリを用意させようか。」
特に眷属とかに遭遇することもなく(というか使用人ばかりいた)館の奥に
到達したためか、主のヴァンパイアは押っ取り刀で玉座に姿を現した。
…着替えも急いだのかどうか知らないが、服が裏表逆だ。
「私は太陽の勇者ソル!あなたが持ってる星の欠片を取り戻しに来たわ!」
「星の欠片…ですって。ああ、もしかしてこの前拾ったあの珍しい石のことかしら?
ちょっと待っててね、今持ってくるから。あ、待ってる間にお茶とお菓子用意するね。」
「え、あの?ちょっと!?そこまで気を使ってもらわなくても…」
ヴァンパイアは使用人に命じて勇者様と私にお茶を出させている間、
ぱたぱたと星の欠片を取りに行ってくれた。正直拍子抜けしてしまう。
「これのことかしら?うちの庭の花壇に落ちてたんだけど。」
「これよ!私が探してた欠片は!」
「まあ、持ち主さんでしたのね!それはよかった!はい、お返しします。」
「え、いいの?」
「当然ですよ。拾ったものは持ち主に返さなきゃね。」
「…あ、ありがとう!優しいヴァンパイアさん!恩に着るわ!」
「いえいえ。もしよかったら少し遊んでいきませんか?私のお友達も来てるんです、
ちょっと癖のある人ばっかりだけど、いい人たちだから、歓迎してくれると思うわ。」
「いえ…わ、私たちは急いでいるので、失礼するわ!」
「そうでしたか…。それは残念です。だけど気が向いたらまた遊びに来てね!」
とりあえず吸血鬼の家にまた遊びに行くなんて冗談ではないので、
星の欠片をもらった後は直ちに退却することにした。
これで残るはあと一つ。ミッションコンプリートまであと一歩に迫る。
そしてさらに数週間が経過し、とうとう………
「ル…ルナ……私、もう…だめ。」
「勇者様、どうしたのですか。急に弱気になられて…」
朝起きてすぐに、私は勇者様に思い切り泣きながら抱き着かれた。
いくら夜になると毎日肌を重ねているとはいえ、気持ちを切り替えている朝に
いきなり抱きつかれるとは思っていなかった。
「やっぱり、私太ってるんじゃない…妊娠しちゃってる……。
い、いままで…恋人もいなかったし、子作りもしたことがないのに…!
起きた時…私のお腹の中の子が……お腹の中を蹴ったの…」
「勇者様……」
「ルナ、私最近…夜の記憶がないんだけど……、
その間私は…ルナ以外の人に何かひどいことされなかった?」
「当然です。私以外の方には指一本も触れさせていません。」
嘘は言っていない。
「そう…なんだ。じゃあ、やっぱり…正夢なのかな?」
「夢?」
「うん。このところ毎日夢を見るの。私がルナのことを呼ぶと…
ルナは私に「ソル」って言い返してくれるの。おかしいよね。
ルナは私のこと絶対に…勇者様としか言ってくれないし。」
「当然です…。上下関係の区分はつけなくてはいけませんので。」
「それとね、最近では…その……、キスもしてくれるようになったし…
女の子同士でもいいから子供が欲しいっておねだりしたら、
夢の中のルナったら…子供が出来ますようにって、お腹を撫でてくれるの。
…………、私ったら何を言っているのかしら。ルナも嫌だよね…
私女の子なのに、女の子のルナを…す、好きになっちゃうなんて……。」
「勇者…様。」
このようなことはありえない。勇者様から同性愛の告白などとは…。
だったらもう…隠し通す必要もないだろう。今までだったら絶対に、
信じてもらえなかったかもしれないが、今ならきっと信じてくれるだろう。
「勇者様…私が装甲を脱いだ姿、見たくありませんか?」
「ルナ!?い、いいの…?あれほど頼んでも絶対脱いでくれなかったのに。」
「もう、いいのです。『装甲姫』という名の幻想は終わりにしなくては。」
ガシャン!
まず肩当てが外れる
ガシャッ!ガキン!
フォールド、タセットを外すと、キュレットスカートを脱着。
全体の重さの3分の1を占めるそれは、轟音を立てて床に崩れ落ちた。
カシャッ!カシャッ!ガチガチ!ガシャン!
喉、肘、二の腕、手甲、そして最後に胸甲…
私を「装甲姫」足らしめた白銀の鎧はすべて私の体から剥がれ落ち、
キャベゾンのみが残ることになった。
「…如何でしょう?」
「ふあぁ…やっぱりルナって細いなぁ。憧れちゃうよ。
あ、でも…その……このまま抱きしめてもいい?」
「お気の召すままに。」
私はベッドの上の勇者様のすぐ隣に腰かけると、
勇者様はゆっくりと、恐る恐る私の体に身を預けてきた。
健康的な四肢が私の体に絡みつき、顔をうなじにうずめ、
ぽっこりと突き出た腹部の重みも壊さないよう撫でながら受け止める。
「これが…ルナの体?初めて触れたはずなのに、まるでいつも
触れてるような嬉しい気持ちがこみ上げてくる…。」
「その通りです。勇者様は毎晩…私の体を心行くまで堪能しているのですから。」
「え…!?そ、それって…?」
「さて勇者様、私からも一つ告白しなければならないことがありまして。」
「う、うん!!いいよ…もっとルナの秘密を教えて!」
「……驚かないでくださいね。」
私は覚悟を決めて、下半身のキャベゾンをおろし、下着を下げた。
その瞬間、勇者様の目は私の股間にくぎ付けになる。
女性では決してありえないモノがついている!
「る…るるる、ルナ!こ、これって…!」
「私の男性器です。」
「つ、つまりルナは……お、男の子…」
「はい。」
ショックを受けている勇者様に追い打ちをかけるように、
私は今まで、夜の間にソルと過ごした赤裸々な出来事を一から説明した。
勇者様は夜になると人格が変わってしまうこと。昼間の時に比べて、
まるで別人のように私を強く求めてきたこと。そして男性であることがばれ、
押し倒されて性交するに至った私は、それ以降も毎日ソルの求めに応じて
生殖行為をやめなかったこと。
「ルナ…。うん、よくわかったわ。辛くても話してくれてありがとう。」
「いえ。私は世界で最も重い罪を犯しました。仮にも世界を背負う勇者様を、
一時の情に流され懐妊させてしまうとは。覚悟はとうにできています。
私のことを罵ってもらっても構いません。慈悲のご処断を…」
「ダメよルナ。ルナは罪なんて犯してないわ。むしろ私のことを
そんなに愛してくれていたなんて……とても嬉しくて、夢みたい。
好き…大好きよ……ルナ。これからも、ずっと一緒にいようね。」
「勇者様…」
この日初めて、私は勇者様と口付を交わした。
…
「ルナ…その、私重くないかしら…」
「何を仰られるのですか。私は勇者様より重たいものを振り回すこと
だけが取り柄の様なものです。どうってことありませんよ。」
ここで、冒頭の部分に戻る。
私と勇者様は、その日は気分を落ち着けるために魔界探索を中止して、
のどかな自然の風景が広がる平原に足を運んだ。いわばデートの様なものだ。
勇者様はすでに、歩くのも億劫になるほどお腹が膨れているので、
人目を避けながらお姫様抱っこの状態で勇者様を抱えている。
時折勇者様の顔を覗くようにみると、勇者様もまた頬を染めながら笑顔を向けてくれた。
「あっ……」
ふと、彼女は私の頭から伸びる―私の数少ない自慢の―銀色に輝く髪の毛を
その手に取り、うっとりとした目つきで眺め、すんと一呼吸して
発せられる匂いを堪能する。…そんなことされると余計ドキドキしてしまう。
「この子も…ルナみたいな綺麗な銀色の髪の毛になるといいな。」
「そ、そうですか?私は勇者様の髪の毛も素晴らしいと……」
「ううん、私はあなたの髪の毛の方が好き…。」
ねっ、と笑いながら私の髪の毛を自らの指にくるくると絡ませる。
「それにね、安心するの。…ルナのだっていうこれ以上ない証明になるでしょ♪」
「そうですね…勇者様。」
「だめっ、そろそろ勇者様なんかじゃなくて名前で呼んでほしいの。」
「……様―」
「あと、『様』付も禁止。」
こうなるのも、また運命だったということか。
「…ソル」
「ん、ルナ♪」
抱き合ったまま、私たちは唇を重ねる。
こうして陽が出ている間に顔を近づけると、よりソルの顔がはっきり見ることが出来て
なんだか新鮮な気持ちになってしまう。ソルもまた興奮してしまっているのか、
ことあるごとに私の耳元で愛の言葉をつぶやいてきた。
それがあまりにも嬉しくて……私は思わず頬が緩んでしまう。
「あ!ルナが笑った!」
「笑った…?私が、ですか?」
「うん、今すごく幸せそうな顔をしてた…。ルナもそんな顔できるんだね。」
「これもすべて、ソルのおかげですよ。」
「あはは、そうだったら嬉しいな♪ふふふ…ルナは私の恋人……んふふ♪」
そんなやり取りをしているうちに、今日の目的地が見えてきた。
広い平原にぽつんと存在する小さな丘があり、一面色とりどりの花で覆われている。
季節はすでに春。冬の間雪の下で暖かい季節を待っていた花たちが、
競い合うように花開き、天然の絨毯を形成しているようだった。
「降ろしますよ、ソル。」
「ありがとう。さ、て、と…ルナ、鎧とか槍とか全部ここで外しちゃいなさい。
今日はせっかくのデートなんだから、無粋な物は持ち込まないで行きましょう。」
「はい。」
私はソルに言われたとおり、素直にすべての武装をその場に外す。
ソルもまた命の次に大事な聖剣ソルを、鞘ごと地面に突き刺すと、
私の手を取って、花咲き誇る丘の頂に歩みを進めた。
頂に腰を下ろした私たちは、特に何をするでもなくとりとめのない会話を交わす。
そういえば今までずっと休むことのない戦いの連続で、ゆっくり休んだ日はなかった。
たまにはこんな日もいいだろう。蒼く澄み渡った空に、香る草木の匂い。
そしてとすぐ隣には、大切な恋人がいる。たったそれだけで、
心温まる幸福感を無限に得られるような気がした。
「そうだ、ルナ。じゃ〜ん!お弁当作ってきちゃった♪」
「ソルお手製のお弁当…!言ってくれれば私も…作れませんね。」
「仕方ないよ。ルナって闘い以外のことに関しては不器用なんだから。
はい、あ〜んして。あ〜ん♪」
「あ…あ〜ん……」
なんだこれ、新手の羞恥プレイか何かですか?
「うっふふ…一度やってみたかったの。ルナにあ〜んってするのを♪」
「そ、そうですか……。では、お返しです。」
「ん!?…んんっ、ちゅっ…ちゅぱっ♪」
私もやられっぱなしでは申し訳ないので、反撃とばかりに
口移しでソルの口の中に舌ごと捻じ込んで差し上げた。
「あん♪ルナってば…意外と大胆。」
「…夜にされるソルの仕打ちに比べれば、まだまだ甘い方ですが。」
こうして私たちはもつれ合いながら、ゆっくりと食事をとった後、
ソルは私の膝の上に横になり、食後の休憩をする。
「ルナ。」
「如何しました。」
「夜の私って、そんなに積極的なの?」
「…ええ。毎晩毎晩、限界まで搾り取ろうとしてこられます。」
「じゃあ…私にも教えてよ。ルナがどんなことされたかを…♪」
「ここで、ですか?」
「うん。ここで♪私たち以外誰もいないし。」
「ええと…」
このような場所で迫られるとは…。さて、どうしたものかと考えていると、
心なしかあたりが徐々に暗くなってきているような気がした。
それと同時に、ソルの体に急に変化が訪れた。
「あ…あれ?おか、しいな…。」
「どうかしましたかソル!」
「急に…体が熱く……、ルナ…!」
「ソル!いけない…熱があります!」
「それよりもルナ、あれ見て…!太陽が!」
私はソルに促され、手で遮るように太陽の方を見る。
そこで私は驚くべきものを見た。
「太陽が…欠ける……」
それは「日食」と呼ばれる天文現象。
当時まだ人間の間では天文学があまり進んでおらず、この怪現象に人々は相当恐怖していた。
月が徐々に太陽の上に覆いかぶさる。これにより光が遮られて、
あたりは徐々に暗くなっていく。
「ああ…ルナ、やっと思い出した……」
「ソル?」
「私ったら、毎晩あんなにルナと愛し合ったのに…全部忘れちゃうなんて。
本当にひどい恋人だよね…ごめんねルナ。本当に、私は…」
「あ、ソル…まさか!」
「好きっ、ルナぁ…好きぃ、大好き♪んちゅっ、ちゅぷっ…ちゅっ♪」
ソルの加護が…失われていく。
私は何もできないままその場に押し倒され、唇をむさぼられた。
その舌遣いは今までにないほど気持ちよく蕩けそうで、抵抗できないまま
着ていた服をすべて脱がされてしまう。ソルの舌が私の舌に絡みつき、
歯茎の裏を舐めまわして唾液を吸い上げるたびに、私の体は敏感になり骨抜きにされる。
「ん、ルナの顔…とろとろに蕩けて気持ちよさそう♪
でもこれからはいつでもこの顔を見せてもらうよ。大好きな私の恋人…ルナ♪」
ソルもまた着ている服を取り払うと、まるで私の体を背もたれにするように
背を向けながら、躊躇なく私のモノを膣内に呑み込んだ。
すでにソルの膣内は私の性器の形に合わせるように完成していて、
挿入した瞬間に襞という襞が総勢力で迎えてきていた。
その気持ちよさに、私の理性はあっという間に吹き飛び、無意識に
妊娠して張に張った乳房を右手でつかみ、左手で膨らんだ彼女の腹部を優しくなでまわす。
「あんっ!あっ…!あんっ!いいよ…ルナ!聖剣ルナで容赦なく私をいじめて!!
ふああぁぁ…っ、いいのぉ!ルナせっくす…しゅごいぃ!」
「くはっ…ソル!いつもより締め付けが………!」
そう。私はソルの恋人。私たちはずっと愛し合ってきた。
そしてこれからもずっと愛し合っていくだろう。
ソルが勇者様であろうと関係ない。ソルは私だけのものだ。
右手で揉み次第た乳房から、ソルの体内で熟成された母乳が噴き出す。
左手で赤ちゃんをあやし、安眠妨害する父親を嫌いにならないでほしいと語りかける。
身体全体でぎゅっと抱きしめるような格好でソルを捕縛し、
容赦なく腰と腰を打ち付ける。それはもう、折檻に近い。
日食が進み、周囲がほとんど夕方の暗さになる中、私の性欲はそれに比例するように
私の心をピンク色に塗りつぶす。もはやソルを気持ち良くすることしか
考えられない。きっと今日は今までにない快感を得られるだろう。
「ふっ…ふ、あっ……ソル!そろそろイクきますから!覚悟…してくださいね!」
「はぁ…ん…っ、き…来て……ルナ♪子宮の中に収まりきらないくらい多くて…
濃くてドロドロした聖剣エキス…欲しい、欲しいっ!ひゅふっ…いっ、ああっ!
い…イクっ!ルナの聖剣で…私の光ので覆われた殻が…!やぶれ…!
はっ、あっ、あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!??」
「くうぅっ!!」
私は持てる力の限り、聖剣を奥まで突き刺し、
精液を流し込んだ瞬間…一瞬世界は完全な闇に包まれた。
日航が遮断され、星明りもない真っ暗闇の中で、私はソルの体の感触のみを
しっかりと確かめる。どくどくと暴れる下半身…体重を支える足…
母乳でべたべたになった右手とわが子をあやす左手…
バサッ
羽が広がるような音がした。
シュルッ
腰に尻尾のような何かが巻き付く。
ツン
髪の毛の中に角のような硬いものが当たった。
やがて皆既日食は終わり、世界には再び光が戻る。
「ルナ…私は一生ルナだけのもの♪そしてルナも一生私だけのもの♪
もう私は勇者様なんかじゃないけど…その代り、ルナの妻として…
この子の母親として……一生離れないで暮らそうね。」
「はい。承知しました。」
絶頂の余韻に浸りながら、私はゆっくりと両目をあける。
私の両腕の中には今まで以上に美しい私の恋人が収まっている。
空の様に透き通るような青色の小ぶりな翼に、愛おしそうに
私の腰に絡みつく、先端がハートの形をした茜色の尻尾。
紺碧の髪の毛から突き出た二本の角。
私は勇者を魔物に堕としてしまったのだった。
でも、今はそれすらも嬉しかった。
もう誰にも憚られることなく、ソルと愛し合うことが出来るようになった。
それにお腹の中には私とソルの子供もいる。
こんな幸せなことがこの世にあるだろうか。
…
太陽の勇者ソル、護衛の装甲姫ルナと共に突如消息を絶つ。
この報は世界中の教団や国々にとって青天の霹靂だった。
すでに星の欠片は11個まで集まりあと一つ集めれば人類史上
有数の偉業が完成したというのに、完成を間近にしてこの世界から消えた。
現在のところは呪いによって命を落としたという説が有力だったが、
すぐ後になって聖剣ソルと聖者の装備一式、それと装甲姫が
常に身に纏っていた白銀の装甲すべてが名もなき花畑に残されているだけで
正確な真実は今もなお判明していない。
勇者ソルの後を継ごうと志した勇者や、第二の装甲姫の名を欲した
世界中の騎士たちが二人の装備を争うように装着しようとしたが、
聖剣ソルの効果を発揮できた勇者は一人もおらず、装甲姫の残した装甲は
重すぎて常人には装備不可能であった。
結局、あと一歩で完成しそうだった光の宝玉は、この世界がすべて魔界にのまれるまで
完成することはなく、その力を発揮する機会を逃した。
噂では、最後のひとかけらは元の持ち主だった神様が所持していたものの、
主神に従うのが面白くないとしてその欠片を隠してしまったのではないかという
与太話がのちの余まで語り継がれていくことになる。
「ま、そんなことどうでもいいけどね。」
「誰に向かって話しているのですソル?」
「ううん、なんでもないわ、ルナ。」
あの後二人は、人間界から特殊な方法でしか行くことが出来ない
人跡未踏の空中庭園に移住し、のんびりと甘い生活を送っている。
雲の上から眺める地上の風景は毎日見ても飽きないものだ。
「おとーさーん!おかーさーん!」
「お買い物行って来たー!」
「お帰り二人とも。遅かったね、また寄り道してきたでしょ。」
「あん、なんでわかるのお父さん!?」
「お姉ちゃん、頬っぺたに餡子ついてる。」
新しい家族もできた。
お腹の中にいた時は分からなかったが、生まれてみると胎児は双子であった。
二人とも思わず見入ってしまうような銀髪に、サファイアのような
深い青色の瞳が特徴的な、文句なしの美少女で、ちょうどうまい具合に
母親と父親の特色が出ている。
ソルは相変わらずの天真爛漫な性格だったが、サキュバスになってからは
事あるごとに発情してはルナを振り回し、そのルナもまた
インキュバスになって信じられないくらい表情豊かになった。
親に内緒で買い食いしてきた娘二人を「めっ」と、
冗談半分の叱り顔で諭すのも日常茶飯事だ。
和気あいあいとした親子のやり取りに、ソルも思わず笑みがこぼれる。
「ふふ…、あなたたちももうすぐお姉ちゃんになるんだから、
ちゃんといい子にして、あまり羽目外さないようにね。ハメるのはいいけど♪」
「冗談きついよソル。……ほら、この子も起きてるしね。」
「本当!私にも聞かせて!」
「私も!」
「はいはい、優しくなでてあげるのよ………。ね、ルナ。私は今、すごく幸せ♪」
隠しようがないくらい、いやらしく膨らんだそのお腹を撫でながら…
13/02/21 14:54更新 / バーソロミュ