三人称エロパート
「そろそろいい具合になってきたかな?」
ふと、辺りに食欲をそそる香りが立ち込めていることに、ラトアーヌのつぶやきを聞いてノアはようやく気がついた。
それだけこのワインの虜になってしまったのか……みれば辺りには空っぽのボトルが二、三本転がっている。
……すべて、62年もののシャトーラトアーヌだ。
それなりに高い契約料をいただいているノアの身でも、三ヶ月間節制してやっと一本という超高級品がこんなにも胃の腑に流し込まれたのかと思い、彼の背筋をゾッとしたものが走る。
「どうしたんだい?ぼーっとしてさ。君の分」
「え?ぁ……ありがとうございます」
ラトアーヌの声で我に返ったノアは、差し出された木の器を両手で受け取った。
器の中には白い湯気をあげるビーフシチューがなみなみと注がれている。
香辛料と食材の香りと合わさり、先ほどとはまた違ったシャトーラトアーヌの芳醇な匂いだ。
空きっ腹が刺激され、ノアの喉がゴクリとなる。
「ほら、君のパン。是非とも浸して食べてくれたまえ。では……」
食材となった者たちへの感謝を祈り、ラトアーヌはシチューを口に運び始めた。
ノアもそれに習って祈り、器の中のシチューに白パンを浸して食べてみる。
「ぁ……美味しい」
たまらず口からこぼれ出た感想はシンプルなものであった。
煮込まれた牛肉はとろりと柔らかく、野菜はホロリと甘い。
そしてその旨味が溶け出したルウの繊細でやさしい味わい。
日中の気温で多量の汗をかいたノアにはこれ以上ないご馳走だった。
夢中で口に運び、スプーンで皿の隅まで綺麗に食べ尽くし、あっという間に中身を空にしてしまった。
「ふふ、本当に君は美味しそうに食べるなぁ。おかわりはいかが?」
「是非に」
ノアの皿を受け取ったラトアーヌは、またもたっぷりとシチューを盛る。
それからノアは何回もおかわりをし、結局鍋の中はすっかり空っぽになってしまった。
「ふぅ」
腹がすっかり満たされたノアは、ほぉ、と満足げにためいきをついた。
美味い酒に美味い飯、それを美しい女性とともに頂けるのだ、こんなに素晴らしいことがあろうか、ノアはぼんやりとした頭でそんなことを考える。
「食後の一杯はいかがかな」
その言葉にラトアーヌの方を向いてみると、先程までとは違うラベルのワインを取り出し、ノアの返事も待たずにトクトクとカップの中に注いでいた。
「こんなに飲んだら、明日歩けませんよ……」
と、口とは言いつつも。
ノアは差し出されたカップを受け取って、その中身を揺らして眺めた。
濃い紫色の液体はまるで闇の概念をそのまま注ぎ込んだような色だ。
漂う芳醇な香りは先のラトアーヌワインとはまた違う。
「大丈夫さ、私たちのワインっていうのは酔いを引きずらないものなんだ」
「……そうでしたね」
なら遠慮することはないと、ノアはそのワインを静かに、喉に通した。
続けてラトアーヌもその一杯をまるで水のように口に運ぶ。
「う、あ……」
「……ふふ」
美味い、これも同じく、とても美味しいワインだ。
ノアは思わずそのカップの中身をあっという間に飲み干してしまった。
クラっと、強いめまいのような感覚、度数が高いのだろうか。
「うぅ、強いなぁ……ラトアーヌさん、これ、度数はどれほ、ど……」
顔を上げてラトアーヌの顔を見て、ふとノアは違和感に気がついた。
なんだか先ほどよりも随分と辺りが暗い……
日はすっかり落ちて、あとは焚き木に照らされていただけだったはず。
ちらりと火を見ても、勢いは衰えていないのだが。
(目の、錯覚かな……明かりをみすぎて目が慣れたのかな)
ゴシゴシと目をこすっても、その感覚が抜け落ちない。
ノアは不思議に思って、なんとなくラトアーヌを見つめた。
ラトアーヌの姿だけが、暗くなった周囲に対して妙にくっきりと映えて見える。
「どうしたんだい?眠くなったかな」
昼間の疲れかい?そう問いかけながらラトアーヌはノアのそばへと歩み寄り、その頬に手を当てた。
何故か、その当てられた手に胸が弾んだ感覚を覚え、ノアは戸惑いを覚える。
「昼間の戦いが尾を引いているのかな、もう、寝たほうがイイのかもしれないね」
そう言ってラトアーヌはすっと離れると、そのそばのバッグを手探りで探し当て、中から輝石のランタンを取り出した。
「さ、こっちへ」
手を取られて、されるがままにノアはラトアーヌに木の根元へと案内される。
隔絶された空間のはずなのに月明かりだけは二人を優しく照らしている。
ラトアーヌの揺れる髪と、白いうなじから、ノアは目が離せない。
(綺麗だ……)
まるで生娘のように弾む心臓に明らかな違和感を感じながらも、ラトアーヌに握られた手の感触が、彼女の微かな香りが伝わるだけでノアはもう堪らなくなってしまう。
気恥ずかしいような、嬉しいような、今までに感じたことのない感情がノアをじわじわと蝕んでゆく。
「さぁ、ここだよ」
ラトアーヌは立ち止まり、建ててあったテントの中へと潜り込んだ。
中はさほど広くはなく、外の僅かな明かりと小さな輝石ランタンだけでもしっかり照らすことができる。
「今日は、お疲れ様だったね、いつもありがとう、私の旅路がいつも安全なのは、君のおかげだよ」
そう言いながらも、ラトアーヌはシュラフの上に優しくノアを横に寝かせて、旅人向けの服を脱がしてやる。
1日かいた汗と食後の体温の上昇で、むわりとノアの体臭が立ち込める。
まだ、水浴びをしていなかった。
それを吸ったラトアーヌの瞳が、どろりと熔ける。
「ラ、ラトアーヌさん、大丈夫です、一人で大丈夫ですから……その、席を外して、いただけませんか」
「ん?如何してかな?」
「その……臭いでしょう、不快でしょうから」
ノアは、自分の汗臭いのがテントの中に広がったのを感じてたまらないくらい恥ずかしくなった。
なぜだろう、普段ならそこまで気にしないはずなのに、いまはラトアーヌに自分の汗臭さを知られるのがたまらなく恥ずかしい。
顔を真っ赤にしながら目をそらして呟くノアに、ラトアーヌはより一層顔を寄せた。
「大丈夫だよ、君の匂いは、どんな美酒にも勝る香りだ」
そういってラトアーヌは、寝かせたノアの首にそっと手を回して抱き起こす。
ぐっと近づいた顔にノアはビクリと体を震わせる。
「汚、い……です、からっ」
「そんなことはないよ、君はとても綺麗で美しいさ、その髪も、目も、手だって、どこもかしこも……」
「あ、ひ……」
ラトアーヌはノアの其処彼処へとキスを降らせた。
髪に顔を埋めて香りを嗅ぎ、瞼に唇を落とし、引き寄せた手の甲に騎士の如く優しく口づけをする。
「あぁ、本当にノアくんは、格好良くて、凛々しくて、美しくて、でも、今はとってもキュートでチャーミングだよ」
ラトアーヌはそういってノアの上にいよいよ覆いかぶさった。
ノアに影を落とすラトアーヌの柔らかそうな胸がゆさりと揺れる。
「後者二つは私にだけ見ることを許してほしい……んっ」
「ぁ…」
ラトアーヌはそういうと、腰元に下げていた先ほどのワインを取り出し口に中身を含んだ。
その仕草にすら目を奪われてしまうノアは抵抗する間もなくラトアーヌに抱き寄せられ、唇を重ねられた。
二人の間で豊かな乳房がむにりとひしゃげる。
「んっ……」
「むぐっ……」
ノアはキスは初めてではないが、それでもこんなに濃厚な口づけは初めてだった。
溶けるほど熱い舌が唇を割って入り、こちらの舌を絡め取ってくる。
そして同時に口の中に流し込まれるのは、先ほど味わったものと同じ味。
(さっきのワイン……)
ラトアーヌの唾液とのカクテルで口腔を満たされ、それを舌でクチュクチュとかき回される。
まるで口を犯されているかのようだ。
舌の絡み合うたびに粘着質な音が鳴り、羞恥を誘う。
濃厚なキスの間にも、ラトアーヌは侵略を進める。
背に回した手は先ほど脱がせかけたノアの服を器用に剥ぎ取り、背中を露出させる。
べったりと汗で汚れた背中に指を立てたラトアーヌは、その背筋をカリカリと指で軽くひっ掻く。
「んっ、んむぐっ」
「はわいい、はわいいよ、おあふん……んっ……」
キスをしたまましゃべるせいで何を言っているかはわからないのは少し間抜けだ。
そのワインを喉に少しづつ流し込まれる度、どんどん胸の鼓動が強くなってきて、それなりに明るいはずのテントの中が真っ暗になっていく。
そしてその中でなぜかラトアーヌだけはクッキリと浮いたように見ることができる。
(これは……やば……)
「んぐっ……ふぁ」
そして、ついに口の中身を全て飲み込まされた。
ラトアーヌの口からはつい先ほどまで熱烈に絡みついてきた舌がテラテラと妖しく光って覗けている。
その眼はトロリと溶けて、顔色もすっかり朱をおびている。
「ふふ、ふふふ、ノアくん、どうか、今だけは私だけを見てくれないか?私だけのものになってくれないか?私の全てになってくれないか?」
「あ……あ……」
優しく抱きしめられ、耳元で囁かれる甘い言葉。
ノアは朦朧とする意識の中、自分の何もかもがラトアーヌの手中に収められていくような感覚を覚える。
「君の純白の髪も綺麗な瞳も、この白い肌もスッとした鼻も整った口元も可愛い耳もほっぺも首もうなじも胸板もおへそも腹筋も足も手も全部全部全部」
ラトアーヌの髪からワインのような妖しい香りが漂う。
顔はうかがえない、それがとても寂しい。
自分の体に押し付けられる胸の感触に動悸が止まらない。
絡みついてくる手足が感じる体温が囁かれる言の葉が何もかもが全部全部全部。
「私に愛させてくれないか」
愛おしくてたまらない。
「ラト……アーヌ、さん」
「さん付けなんてやめてくれ、ノアくんにはもっときさくに呼んでほしいな」
「……ラトアーヌ」
「少し長くないかなぁ?もっと、思いを込めた愛称で呼んでくれると嬉しいよ……ノア」
「……ラ……ラトア、で、いいですか……?」
「ふふ、うん、それでいい。君にだけ許す私の呼び方だ。ノア、ノア……」
ノアの頬を優しく撫でながらラトアーヌが囁く。
それだけでノアは目をうっとりとさせて、そのくすぐったいような感覚と湧き上がる熱情に、高鳴る鼓動は止まることを知らない。
「ひっ」
「大丈夫だよ、優しくするから……」
そろりと伸びたラトアーヌの手が、ノアの首筋を撫で上げる。
ビクリと震えるノアをあやしながらラトアーヌは己の服に、もう片方の手をかけた。
深い谷間を見せつけるような形状のそれは、首元のボタンをいじれば簡単に外れ、純白のブラがその姿をあらわにする。
そしてそのブラも惜しげもなく取り払ってしまい、柔らかく、そして重量感のある胸を曝け出した。
「胸には自信あるんだけれど、どうかな?」
「え……ぁ……」
「触って、確かめてみてくれないかな」
うなじをねっとりと愛撫していた手を離し、そっとノアの手首が掴まれる。
そしてラトアーヌはその掌を自身の豊満な乳肉へと押し付けた。
「ラ、ラトアー…ラトア、なにを」
「ノアの好みならいいんだけどな〜、このおっぱいがさ、どうかな?是非とも揉んでみて、確かめてほしい」
指を深くまで飲み込む魔性の柔らかさを持つ乳房を、ラトアーヌは更にぐにぐにと押し付けてきた。
ノアの顔は沸騰寸前とばかりに真っ赤になり、目は潤みを蓄え呼吸は浅く早くなる。
「落ち着いて、私はどこにもいきやしない。ノア、好きなようにしていいんだ、君のしたいこと全部、私にしてくれていいんだ」
自分の胸に男の手を押し付けているとは思えない慈愛に満ちた顔に、またノアの心臓が強く跳ねる。
だが、そのラトアーヌの優しい眼差しに勇気付けられたのか、ゆっくりと、その手を動かし始めた。
「んっ……」
ラトアーヌがかすかに呻きにも似た声を上げる。
痛かったのだろうか。
ノアは怯んで思わず手を止めるが、ラトアーヌの視線はもっともっとと促しているようだ。
ノアはさらなる勇気と、そして欲望に身を任せて先ほどよりも強めに胸を揉む。
「あっ……」
微かに甘ったるいのが混じった喘ぎ声が聞こえた。
それがなんだかとても嬉しくて、ノアは胸肉を更に揉み始める。
そうなればもう止まらない。
ノアは胸に沈めた指を好き勝手に動かし、ラトアーヌの柔らかな胸を掴んで解すように揉みしだく。
「んっ、あはっ、ノア、なかな、か、大胆っ、だね……ほら、片方がお留守だよっ」
ラトアーヌは更にもう片手もつかんで、空いた胸へと押し当てた。
両胸を鷲掴みにしたノアは辛抱堪らず、その魅惑の柔らかさを蹂躙することに没頭する。
両胸を寄せ上げて擦り付けあって、下から支えるようにして持ち上げては下げてその重みを弄び、そのうちに固さを増してきた先っぽに人差し指を押し当て、コロコロと転がしながら残りの指で絞るように揉む。
「んあっ、ひゃっ、ふふ、あっ、そんなにおっぱいが好きかい?ノアもなんだかんだで男の子だね……」
ぽふぽふと頭を撫でられて、我を取り戻すノア。
まるで幼子のように乳に甘える自分に今更ながらに羞恥を覚え、しかしそれから目をそらすことができずに思わず硬直してしまう。
「……やめちゃうのかい?」
すると、少し寂しそうな声でラトアーヌがノアの頬をつついてきた。
その目には少しばかり非難の色が宿っている。
しかし冷静な判断力を失っているノアはその視線に罪悪感を覚えながらも羞恥と板挟みになって動けない。
「……じゃあ私も、手を出しちゃうけど、行くよ」
「え、ひぁっ」
すると痺れを切らしたラトアーヌはその右手をノアのズボンの中身へ器用に潜り込ませ、左手はノアの口の中へと滑り込んだ。
「ぁ、んぐっ」
「いじってくれないノアはこうだ、こうだ」
拗ねたような表情で、ラトアーヌはノアの口のなかをズリズリと指で嬲る。
頬の粘膜をそぎ取り、舌をくすぐり歯を撫でる、
ズボンのなかに潜り込んだ手はヒクヒクと震えるノアの分身を握り、やわやわと揉み始めた。
好き勝手に弄られるという立場に置かれてしかし、ノアは自分の心が悦んでいるのを感じた。
しかし、ラトアーヌが拗ねているのは嫌だ、というひどく幼い感情に囚われたノアは、止めていた手を再び動かして、ノアの乳房をむにりむにりと捏ね回す。
「んふっ……そうそう、その調子で、私を気持ちよくしてくれ……ふふ、あはは」
ノアと同じく溶けたような笑みを浮かべたラトアーヌは、グッと上体を倒して間近にノアの顔を見つめてきた。
そして右手はただ揉むだけではなく上下に扱きあげるような動きも追加される。
ノアが短く呻いた。
どこまでも続いてるような深いワインレッドの瞳に見つめられ、ノアは視線を外すことはできない。
口内へと肉棒への責めは未だ続いている。
ノアも胸への奉仕をしてはいるが、ノアの顔を見つめながら微笑みを浮かべているラトアーヌと、潤んで霞む瞳でラトアーヌを見上げるノア、どちらが優勢かは火を見るより明らかだ。
「……ふふ、可愛い眼をして、ノア。まるでハートマークか浮かんでるみたいだよ」
ラトアーヌがノアの額に優しく自分の額を重ねる。
間近にくちりくちりとノアの舌をいじり倒す指の奏でる粘液の音と、右手から伝わる焼けた鉄のような熱に、ラトアーヌの奉仕にも熱がこもる。
扱きあげられてすっかり勃起したノアの肉棒の先に掌を乗せて、クリクリと優しく撫でて甘やかす。
「ふぁ、うあ、や、ひ、ラトア、それは……」
「……んっ」
指を引き抜いたラトアーヌは、まとわりついたノアの唾液や粘膜を舐めとった後に、再び濃厚なキスをノアに落とした。
「っ……!」
ノアはそのワイン味の深く甘く優しい口付けに抗うことができず、ただただなすがまま。
首に腕を回されて逃げることもできず、仕留められた草食動物のように噛まれるのを甘受することしかできない。
いつの間にか胸をいじっていた手も力が抜けて崩れ落ちかけ、それでもラトアーヌから離れたくなくて、弱々しく背に腕を回してしがみつく。
そのいじらしい姿にラトアーヌは腹の奥底がきゅんと熱を持つのを確かに感じた。
「君は可愛すぎる、卑怯だよ。この女殺し、私なんかより君のほうがよほどたらしだよ」
唇を離してそう語るも、ノアの耳には届かない。
ただただキスが終わってしまった寂しさに胸が締め付けられ、泣きそうになりながらラトアーヌにすがりついてくる。
「ラトア……ラトア、やめないでください……もっとして、ください……」
それを見て、いよいよラトアーヌは己の枷が完全に外れたのを感じた。
ノアのズボンをやや乱暴にずり下げて、そのヒクヒクと震えて涙をこぼす肉棒に優しく手を這わせ、すでにすっかり濡れそぼった陰器へと先っぽを沈める。
「ノア……挿入るよ。安心して、手をつないで、痛かったら言うんだよ」
「はい……ラトア……」
ぎゅっと、互いに右手と左手を重ね合わせ、指を絡めてにぎり合う。
ノアの瞳に怯えが完全になくなったのを見届けて、いよいよラトアーヌは一気にその男根を根元までみっちりと飲み込んだ。
「あっ……あっ……」
「んんんんんんんっっ……!ノア、の……が、ついに、ついに、私の中に……」
ノアは舌を突き出してあまりの快感に打ち震える。
ラトアーヌは凄まじいまでに湧き上がる多幸感に完全に翻弄され、ほろほろと涙をこぼしながら、ぎゅうぎゅうとその呑み込んだ肉棒を締め付けた。
「ノア……ごめんよ、私は、もう抑えられない……」
体を幸福のあまり震わせながら、しかし申し訳なさそうな顔でラトアーヌはノアに呟いた。
事実、抑えが利かなくなりつつある体は快感を貪ろうと動き始めた腰を止められていない。
「ラトア……いい、ですよ」
そんなラトアのほほを優しく撫でて、ノアは声を変えた。
ノアもまた余裕は微塵もないが、その顔には確かな相手への愛情がこもっている。
「私も、気持ちいいです……いっしょに、イきましょう」
「っ……!ノア!」
そして、ラトアーヌは腰を上下に振り始めた。
「ひっ!?あっ!うあっ!ラトアァ、ラトアァァ……!」
「ノア、くん!ノア!愛しているよ!誰よりも何よりも愛してるよ!」
ノアの胸板に手をついて、激しく腰を振るラトアーヌ。
結合部からはお互いの液が混じり合ったものがとびちり、ぐちゅんぐちゅんといやらしい音を奏でている。
そしてその動きに合わせて激しく揺れる豊乳に、ノアは思わず手を伸ばした。
「んんっ!ノア、おっぱいも、いいよ、好きにしてほしいっ!んんっ、ハァァッ……!」
「ラトア……!」
固くしこりたったラトアーヌの乳首を、ノアはキュッとつまみ上げた。
そうするとラトアーヌの膣内がぎゅっと締まって、より一層ノアの男根を搾り上げるように蠕動する。
「んんっ……それ、締まっちゃうよ、膣内、すごく……!」
「はぁっ、はぁっ、んくっ……ラトア……!」
欲望のままに、乳を弄るノアはやがて腰も少しずつあわせて降り始めた。
ぱちゅんぱちゅんとちいさな水音混じりだったピストン運動は、徐々に音量を増していき、パンパンと肌のぶつかる音に変わる。
「ノアッ、私はもう……きそうだ、よ……!」
「ラトア……私も、です……!」
ラトアはやや強引に、空いていた手でノアが乳を弄る手をぎゅっと握った。
両手を固く握り合った二人は、もっともっと繋がりたいとと言わんばかりに口づけを交わし、舌を絡み合わせる。
お互いに伸ばした熱を帯びた舌はネチャリネチャリと絡み合い、こぼれた唾液がノアを濡らす。
「んっ……!んんんっ……!!」
そして、ついに限界がくる。
ラトアーヌはパチパチと頭の中に走り始めた閃光を感じて、最後の最後、ギリギリまで腰を引き上げる。
そして、それを一気に最奥まで落として、思い切りノアの亀頭と子宮口を付き合わせた。
「ーーーっあ!!」
「くぁっ、あぁ、あああぁぁぁ……っ!!」
そして、絶頂。
ノアの溜めに溜めた精液がラトアーヌの膣内に解き放たれた。
すっかり下りきった子宮はまるで亀頭に吸い付くように貪欲にその精子を飲み込む。
そのたびに軽い絶頂に震えるラトアーヌとノア、二人は固く強く抱き合い、さあ後の余韻が終わるまでお互いを確かめ合って……
そして、一緒に意識を落とした。
ーーーそれからこーなるーーー
ラムルピュールへと続く道は暑い。
ここだけに住む虫が鳴き、ここだけに住む魔界獣の遠吠えが響き、蒸し暑い風が頬を撫でる。
「わ〜れ〜ら〜の〜あーーーーいはーーー♪けんらんのーーほしのはーなーー♪めくるめくきせつをこーえてー世紀(とき)をこえ、さきほーこるー♪」
そんな中でもラトアーヌは至極上機嫌といった様子で街道を進んでいた。
相棒の魔界豚ロビュストもなんだか機嫌がよく見える、歩く速度もいつもより二割り増しである。
「……はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
一方、ノアの方はいつもの50分の1程度のテンションで、三角座りで商品のワイン樽の上でうずくまっていた。
気のせいか、周りにはどんよりと暗いオーラが漂っている。
「どうしたノア!あんなに楽しいことがあったのにそんなに落ち込んで!」
「いやいやいやいやラトアーヌさん、落ち込むなってほーが無理でしょあんな醜態晒してぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
至極明るいラトアーヌの声に対してノアは呪詛とも取れるような小さく低い声で返答する。
ノアが落ち込んでいるのは、さきのまぐわいが原因である。
あの野営の日、ラトアーヌはノアに『シャトーラトアーヌ62年』以外に、もう一種類の酒を飲ませた。
それは、『just the two of us』。
陶酔の果実のイッッッッチ番濃い身だけを寄せ集め、凝りに凝った製法でワインとなし、そしてそれを五十年間寝かせた超超超超(以下超が80個ほど続く)超高級ワインである。
噂によれば魔王すらもが喉から手を伸ばして欲しがるという珠玉の一品で、愛し合う者通しが互いに一滴ずつ口に含めばそれから一ヶ月間は互いのことしか目に入らないほどの陶酔状態に陥り、繋がりっぱなし愛し合いっぱなしの脳内麻薬分泌しまくりでとんでもない状態になるという。
ラトアーヌは、それをどういうわけか所有してて、ノアに飲ませたのだ、だいたいカップ一杯分。
ラトアーヌも飲んだので『just the two of us
』の中身は1/3ほど失われたのであった、まる。
世のお酒愛好家が聞いたら泣いて喚いてこの世の不条理を嘆くであろう。
バッカス信者なら我を忘れて二人に食ってかかるかもしれない、もっと大切に飲め、と。
そして、互いにそんなとんでもないものを飲んだわけで、その盛りが、一ヶ月『程度で』収まるわけがなかった。
そのあと全く同じタイミングで目が覚めた二人はどちらからともなく愛撫しあい、舌を絡ませ、手足を絡ませ、テントの中でひたすらまぐわい続けた。
口でした、手でした足でした、脇でもしたし胸でも当然した。膣はすでにやったし尻もやった、髪も膝裏も耳も鼻も目も肘裏も太もももお腹もおへそも脇腹もet cetera……とにかく、どの部位でも1000回ずつくらいは少なくともヤった。
胸は10000を超えるかもしれない、おまんこした回数なんて数えてもいない。
で、そんなこんなしてたら、2年経ってました。
「二年間も、二年間もあんな閉じられた空間で延々とやりっぱなしだったなんて」
「いやぁすごかったね、空間を元に戻したら途端に当たりがすっかり魔界になっちゃったよ!」
ノアは遠い目で自分たちがやりふけっていた空間を元に戻したときのことを思い出す。
まるで破裂寸前の水風船を割って辺りに水が飛び散るように、溜めに溜め込まれた二人の発した魔力が辺りに飛び散りかなりの広範囲が魔界とかした……というか、より濃い魔界になった。
この地方はもともと明緑魔界です。
「ほんとーに、何してたんだ私は」
そしてそんなにやりふけってた二人は当然凄まじい強さの魔物とインキュバスになった。
ラトアーヌの方は魔力はバフォメットに並び怪力はミノタウルスをも凌駕するレベルになり、もはやサテュロス(ドラゴン)クラス、ノアの方もまだ試してはいないが恐ろしいほどの魔力と身体能力を手に入れただろう。
1日感謝のセックス100回とかしてればこうもなる。
「いいじゃないか!なんとも魔物らしくてさ!」
「魔物でもここまでやるのは少ないですよ!」
「それにロビュストもワインもすごいことになったし!」
副作用として二人の魔力に当てられ続けた魔界二ロビュストは2年前と比べてすごく元気になった、具体的には1メートルくらい成長した。
そして、樽に積んだワイン。
なんと魔力に当てられ続けたせいか成分が変質し、『シャトーラトアーヌ62年』すらをも超える最高のワインとなっていたのだ。
原理はわからない、まりょくのちからってすげー!
「そして、なによりも……」
ノアにとって一番忘れ去ってしまいたいのは、この二年間ラトアーヌに取り続けてきた自分の態度である。
さながらチャラ男に堕とされた生娘のような者で、彼女の一挙手一投足に胸が弾み、やさしくされれば頬が緩み冷たくされれば涙を浮かべ、求められればどんな変態行為であろうと喜んで応じた。
しかもその記憶は異様なほどはっきりと脳裏に刻み込まれ忘れようにも忘れられない。
「それにしても284日前のノアくんの可愛さときたら想像を絶したね、まさかあんな可愛いおねだりをノアくんがしてくれるなんて私はもう死んでもいいくらいだったよ」
「ほんとやめてください」
もちろんラトアーヌも覚えている。
「はぁ……」
ノアはまたもため息を吐いた。
ノアは思う。自分が何に一番呆れているのかを。
それは、この状況を案外悪くないと感じてしまっている自分自身に他ならない。
ふと、背中に柔らかい感触が覆いかぶさる。
いつの間にかラトアーヌがノアの背に抱きついていた。
「ノア、これからも、よろしくね」
「……」
二年間爛れた生活を送ってきた相手とは思えない言葉に、ノアは言葉を詰まらせた。
「……ええ、こちらこそ」
そして、すぐに返す。
惚れた弱み。
相手がどれだけハチャメチャな存在だっとしても惚れてしまったのだから仕方がない。
ノアは、まわされた腕に自分の手を重ねて、ラトアーヌの体温を感じた。
魔界豚の背負う荷物の上で、しばらく二人はそうして、抱き合っていた。
「ひいてはまず我々がすることは二年間行方不明になっていた理由と納品が遅れた理由造りだね」
「えーーーーーーーーー」
「夫婦の最初の共同作業だね!」
「それだけはマジ勘弁してください」
ふと、辺りに食欲をそそる香りが立ち込めていることに、ラトアーヌのつぶやきを聞いてノアはようやく気がついた。
それだけこのワインの虜になってしまったのか……みれば辺りには空っぽのボトルが二、三本転がっている。
……すべて、62年もののシャトーラトアーヌだ。
それなりに高い契約料をいただいているノアの身でも、三ヶ月間節制してやっと一本という超高級品がこんなにも胃の腑に流し込まれたのかと思い、彼の背筋をゾッとしたものが走る。
「どうしたんだい?ぼーっとしてさ。君の分」
「え?ぁ……ありがとうございます」
ラトアーヌの声で我に返ったノアは、差し出された木の器を両手で受け取った。
器の中には白い湯気をあげるビーフシチューがなみなみと注がれている。
香辛料と食材の香りと合わさり、先ほどとはまた違ったシャトーラトアーヌの芳醇な匂いだ。
空きっ腹が刺激され、ノアの喉がゴクリとなる。
「ほら、君のパン。是非とも浸して食べてくれたまえ。では……」
食材となった者たちへの感謝を祈り、ラトアーヌはシチューを口に運び始めた。
ノアもそれに習って祈り、器の中のシチューに白パンを浸して食べてみる。
「ぁ……美味しい」
たまらず口からこぼれ出た感想はシンプルなものであった。
煮込まれた牛肉はとろりと柔らかく、野菜はホロリと甘い。
そしてその旨味が溶け出したルウの繊細でやさしい味わい。
日中の気温で多量の汗をかいたノアにはこれ以上ないご馳走だった。
夢中で口に運び、スプーンで皿の隅まで綺麗に食べ尽くし、あっという間に中身を空にしてしまった。
「ふふ、本当に君は美味しそうに食べるなぁ。おかわりはいかが?」
「是非に」
ノアの皿を受け取ったラトアーヌは、またもたっぷりとシチューを盛る。
それからノアは何回もおかわりをし、結局鍋の中はすっかり空っぽになってしまった。
「ふぅ」
腹がすっかり満たされたノアは、ほぉ、と満足げにためいきをついた。
美味い酒に美味い飯、それを美しい女性とともに頂けるのだ、こんなに素晴らしいことがあろうか、ノアはぼんやりとした頭でそんなことを考える。
「食後の一杯はいかがかな」
その言葉にラトアーヌの方を向いてみると、先程までとは違うラベルのワインを取り出し、ノアの返事も待たずにトクトクとカップの中に注いでいた。
「こんなに飲んだら、明日歩けませんよ……」
と、口とは言いつつも。
ノアは差し出されたカップを受け取って、その中身を揺らして眺めた。
濃い紫色の液体はまるで闇の概念をそのまま注ぎ込んだような色だ。
漂う芳醇な香りは先のラトアーヌワインとはまた違う。
「大丈夫さ、私たちのワインっていうのは酔いを引きずらないものなんだ」
「……そうでしたね」
なら遠慮することはないと、ノアはそのワインを静かに、喉に通した。
続けてラトアーヌもその一杯をまるで水のように口に運ぶ。
「う、あ……」
「……ふふ」
美味い、これも同じく、とても美味しいワインだ。
ノアは思わずそのカップの中身をあっという間に飲み干してしまった。
クラっと、強いめまいのような感覚、度数が高いのだろうか。
「うぅ、強いなぁ……ラトアーヌさん、これ、度数はどれほ、ど……」
顔を上げてラトアーヌの顔を見て、ふとノアは違和感に気がついた。
なんだか先ほどよりも随分と辺りが暗い……
日はすっかり落ちて、あとは焚き木に照らされていただけだったはず。
ちらりと火を見ても、勢いは衰えていないのだが。
(目の、錯覚かな……明かりをみすぎて目が慣れたのかな)
ゴシゴシと目をこすっても、その感覚が抜け落ちない。
ノアは不思議に思って、なんとなくラトアーヌを見つめた。
ラトアーヌの姿だけが、暗くなった周囲に対して妙にくっきりと映えて見える。
「どうしたんだい?眠くなったかな」
昼間の疲れかい?そう問いかけながらラトアーヌはノアのそばへと歩み寄り、その頬に手を当てた。
何故か、その当てられた手に胸が弾んだ感覚を覚え、ノアは戸惑いを覚える。
「昼間の戦いが尾を引いているのかな、もう、寝たほうがイイのかもしれないね」
そう言ってラトアーヌはすっと離れると、そのそばのバッグを手探りで探し当て、中から輝石のランタンを取り出した。
「さ、こっちへ」
手を取られて、されるがままにノアはラトアーヌに木の根元へと案内される。
隔絶された空間のはずなのに月明かりだけは二人を優しく照らしている。
ラトアーヌの揺れる髪と、白いうなじから、ノアは目が離せない。
(綺麗だ……)
まるで生娘のように弾む心臓に明らかな違和感を感じながらも、ラトアーヌに握られた手の感触が、彼女の微かな香りが伝わるだけでノアはもう堪らなくなってしまう。
気恥ずかしいような、嬉しいような、今までに感じたことのない感情がノアをじわじわと蝕んでゆく。
「さぁ、ここだよ」
ラトアーヌは立ち止まり、建ててあったテントの中へと潜り込んだ。
中はさほど広くはなく、外の僅かな明かりと小さな輝石ランタンだけでもしっかり照らすことができる。
「今日は、お疲れ様だったね、いつもありがとう、私の旅路がいつも安全なのは、君のおかげだよ」
そう言いながらも、ラトアーヌはシュラフの上に優しくノアを横に寝かせて、旅人向けの服を脱がしてやる。
1日かいた汗と食後の体温の上昇で、むわりとノアの体臭が立ち込める。
まだ、水浴びをしていなかった。
それを吸ったラトアーヌの瞳が、どろりと熔ける。
「ラ、ラトアーヌさん、大丈夫です、一人で大丈夫ですから……その、席を外して、いただけませんか」
「ん?如何してかな?」
「その……臭いでしょう、不快でしょうから」
ノアは、自分の汗臭いのがテントの中に広がったのを感じてたまらないくらい恥ずかしくなった。
なぜだろう、普段ならそこまで気にしないはずなのに、いまはラトアーヌに自分の汗臭さを知られるのがたまらなく恥ずかしい。
顔を真っ赤にしながら目をそらして呟くノアに、ラトアーヌはより一層顔を寄せた。
「大丈夫だよ、君の匂いは、どんな美酒にも勝る香りだ」
そういってラトアーヌは、寝かせたノアの首にそっと手を回して抱き起こす。
ぐっと近づいた顔にノアはビクリと体を震わせる。
「汚、い……です、からっ」
「そんなことはないよ、君はとても綺麗で美しいさ、その髪も、目も、手だって、どこもかしこも……」
「あ、ひ……」
ラトアーヌはノアの其処彼処へとキスを降らせた。
髪に顔を埋めて香りを嗅ぎ、瞼に唇を落とし、引き寄せた手の甲に騎士の如く優しく口づけをする。
「あぁ、本当にノアくんは、格好良くて、凛々しくて、美しくて、でも、今はとってもキュートでチャーミングだよ」
ラトアーヌはそういってノアの上にいよいよ覆いかぶさった。
ノアに影を落とすラトアーヌの柔らかそうな胸がゆさりと揺れる。
「後者二つは私にだけ見ることを許してほしい……んっ」
「ぁ…」
ラトアーヌはそういうと、腰元に下げていた先ほどのワインを取り出し口に中身を含んだ。
その仕草にすら目を奪われてしまうノアは抵抗する間もなくラトアーヌに抱き寄せられ、唇を重ねられた。
二人の間で豊かな乳房がむにりとひしゃげる。
「んっ……」
「むぐっ……」
ノアはキスは初めてではないが、それでもこんなに濃厚な口づけは初めてだった。
溶けるほど熱い舌が唇を割って入り、こちらの舌を絡め取ってくる。
そして同時に口の中に流し込まれるのは、先ほど味わったものと同じ味。
(さっきのワイン……)
ラトアーヌの唾液とのカクテルで口腔を満たされ、それを舌でクチュクチュとかき回される。
まるで口を犯されているかのようだ。
舌の絡み合うたびに粘着質な音が鳴り、羞恥を誘う。
濃厚なキスの間にも、ラトアーヌは侵略を進める。
背に回した手は先ほど脱がせかけたノアの服を器用に剥ぎ取り、背中を露出させる。
べったりと汗で汚れた背中に指を立てたラトアーヌは、その背筋をカリカリと指で軽くひっ掻く。
「んっ、んむぐっ」
「はわいい、はわいいよ、おあふん……んっ……」
キスをしたまましゃべるせいで何を言っているかはわからないのは少し間抜けだ。
そのワインを喉に少しづつ流し込まれる度、どんどん胸の鼓動が強くなってきて、それなりに明るいはずのテントの中が真っ暗になっていく。
そしてその中でなぜかラトアーヌだけはクッキリと浮いたように見ることができる。
(これは……やば……)
「んぐっ……ふぁ」
そして、ついに口の中身を全て飲み込まされた。
ラトアーヌの口からはつい先ほどまで熱烈に絡みついてきた舌がテラテラと妖しく光って覗けている。
その眼はトロリと溶けて、顔色もすっかり朱をおびている。
「ふふ、ふふふ、ノアくん、どうか、今だけは私だけを見てくれないか?私だけのものになってくれないか?私の全てになってくれないか?」
「あ……あ……」
優しく抱きしめられ、耳元で囁かれる甘い言葉。
ノアは朦朧とする意識の中、自分の何もかもがラトアーヌの手中に収められていくような感覚を覚える。
「君の純白の髪も綺麗な瞳も、この白い肌もスッとした鼻も整った口元も可愛い耳もほっぺも首もうなじも胸板もおへそも腹筋も足も手も全部全部全部」
ラトアーヌの髪からワインのような妖しい香りが漂う。
顔はうかがえない、それがとても寂しい。
自分の体に押し付けられる胸の感触に動悸が止まらない。
絡みついてくる手足が感じる体温が囁かれる言の葉が何もかもが全部全部全部。
「私に愛させてくれないか」
愛おしくてたまらない。
「ラト……アーヌ、さん」
「さん付けなんてやめてくれ、ノアくんにはもっときさくに呼んでほしいな」
「……ラトアーヌ」
「少し長くないかなぁ?もっと、思いを込めた愛称で呼んでくれると嬉しいよ……ノア」
「……ラ……ラトア、で、いいですか……?」
「ふふ、うん、それでいい。君にだけ許す私の呼び方だ。ノア、ノア……」
ノアの頬を優しく撫でながらラトアーヌが囁く。
それだけでノアは目をうっとりとさせて、そのくすぐったいような感覚と湧き上がる熱情に、高鳴る鼓動は止まることを知らない。
「ひっ」
「大丈夫だよ、優しくするから……」
そろりと伸びたラトアーヌの手が、ノアの首筋を撫で上げる。
ビクリと震えるノアをあやしながらラトアーヌは己の服に、もう片方の手をかけた。
深い谷間を見せつけるような形状のそれは、首元のボタンをいじれば簡単に外れ、純白のブラがその姿をあらわにする。
そしてそのブラも惜しげもなく取り払ってしまい、柔らかく、そして重量感のある胸を曝け出した。
「胸には自信あるんだけれど、どうかな?」
「え……ぁ……」
「触って、確かめてみてくれないかな」
うなじをねっとりと愛撫していた手を離し、そっとノアの手首が掴まれる。
そしてラトアーヌはその掌を自身の豊満な乳肉へと押し付けた。
「ラ、ラトアー…ラトア、なにを」
「ノアの好みならいいんだけどな〜、このおっぱいがさ、どうかな?是非とも揉んでみて、確かめてほしい」
指を深くまで飲み込む魔性の柔らかさを持つ乳房を、ラトアーヌは更にぐにぐにと押し付けてきた。
ノアの顔は沸騰寸前とばかりに真っ赤になり、目は潤みを蓄え呼吸は浅く早くなる。
「落ち着いて、私はどこにもいきやしない。ノア、好きなようにしていいんだ、君のしたいこと全部、私にしてくれていいんだ」
自分の胸に男の手を押し付けているとは思えない慈愛に満ちた顔に、またノアの心臓が強く跳ねる。
だが、そのラトアーヌの優しい眼差しに勇気付けられたのか、ゆっくりと、その手を動かし始めた。
「んっ……」
ラトアーヌがかすかに呻きにも似た声を上げる。
痛かったのだろうか。
ノアは怯んで思わず手を止めるが、ラトアーヌの視線はもっともっとと促しているようだ。
ノアはさらなる勇気と、そして欲望に身を任せて先ほどよりも強めに胸を揉む。
「あっ……」
微かに甘ったるいのが混じった喘ぎ声が聞こえた。
それがなんだかとても嬉しくて、ノアは胸肉を更に揉み始める。
そうなればもう止まらない。
ノアは胸に沈めた指を好き勝手に動かし、ラトアーヌの柔らかな胸を掴んで解すように揉みしだく。
「んっ、あはっ、ノア、なかな、か、大胆っ、だね……ほら、片方がお留守だよっ」
ラトアーヌは更にもう片手もつかんで、空いた胸へと押し当てた。
両胸を鷲掴みにしたノアは辛抱堪らず、その魅惑の柔らかさを蹂躙することに没頭する。
両胸を寄せ上げて擦り付けあって、下から支えるようにして持ち上げては下げてその重みを弄び、そのうちに固さを増してきた先っぽに人差し指を押し当て、コロコロと転がしながら残りの指で絞るように揉む。
「んあっ、ひゃっ、ふふ、あっ、そんなにおっぱいが好きかい?ノアもなんだかんだで男の子だね……」
ぽふぽふと頭を撫でられて、我を取り戻すノア。
まるで幼子のように乳に甘える自分に今更ながらに羞恥を覚え、しかしそれから目をそらすことができずに思わず硬直してしまう。
「……やめちゃうのかい?」
すると、少し寂しそうな声でラトアーヌがノアの頬をつついてきた。
その目には少しばかり非難の色が宿っている。
しかし冷静な判断力を失っているノアはその視線に罪悪感を覚えながらも羞恥と板挟みになって動けない。
「……じゃあ私も、手を出しちゃうけど、行くよ」
「え、ひぁっ」
すると痺れを切らしたラトアーヌはその右手をノアのズボンの中身へ器用に潜り込ませ、左手はノアの口の中へと滑り込んだ。
「ぁ、んぐっ」
「いじってくれないノアはこうだ、こうだ」
拗ねたような表情で、ラトアーヌはノアの口のなかをズリズリと指で嬲る。
頬の粘膜をそぎ取り、舌をくすぐり歯を撫でる、
ズボンのなかに潜り込んだ手はヒクヒクと震えるノアの分身を握り、やわやわと揉み始めた。
好き勝手に弄られるという立場に置かれてしかし、ノアは自分の心が悦んでいるのを感じた。
しかし、ラトアーヌが拗ねているのは嫌だ、というひどく幼い感情に囚われたノアは、止めていた手を再び動かして、ノアの乳房をむにりむにりと捏ね回す。
「んふっ……そうそう、その調子で、私を気持ちよくしてくれ……ふふ、あはは」
ノアと同じく溶けたような笑みを浮かべたラトアーヌは、グッと上体を倒して間近にノアの顔を見つめてきた。
そして右手はただ揉むだけではなく上下に扱きあげるような動きも追加される。
ノアが短く呻いた。
どこまでも続いてるような深いワインレッドの瞳に見つめられ、ノアは視線を外すことはできない。
口内へと肉棒への責めは未だ続いている。
ノアも胸への奉仕をしてはいるが、ノアの顔を見つめながら微笑みを浮かべているラトアーヌと、潤んで霞む瞳でラトアーヌを見上げるノア、どちらが優勢かは火を見るより明らかだ。
「……ふふ、可愛い眼をして、ノア。まるでハートマークか浮かんでるみたいだよ」
ラトアーヌがノアの額に優しく自分の額を重ねる。
間近にくちりくちりとノアの舌をいじり倒す指の奏でる粘液の音と、右手から伝わる焼けた鉄のような熱に、ラトアーヌの奉仕にも熱がこもる。
扱きあげられてすっかり勃起したノアの肉棒の先に掌を乗せて、クリクリと優しく撫でて甘やかす。
「ふぁ、うあ、や、ひ、ラトア、それは……」
「……んっ」
指を引き抜いたラトアーヌは、まとわりついたノアの唾液や粘膜を舐めとった後に、再び濃厚なキスをノアに落とした。
「っ……!」
ノアはそのワイン味の深く甘く優しい口付けに抗うことができず、ただただなすがまま。
首に腕を回されて逃げることもできず、仕留められた草食動物のように噛まれるのを甘受することしかできない。
いつの間にか胸をいじっていた手も力が抜けて崩れ落ちかけ、それでもラトアーヌから離れたくなくて、弱々しく背に腕を回してしがみつく。
そのいじらしい姿にラトアーヌは腹の奥底がきゅんと熱を持つのを確かに感じた。
「君は可愛すぎる、卑怯だよ。この女殺し、私なんかより君のほうがよほどたらしだよ」
唇を離してそう語るも、ノアの耳には届かない。
ただただキスが終わってしまった寂しさに胸が締め付けられ、泣きそうになりながらラトアーヌにすがりついてくる。
「ラトア……ラトア、やめないでください……もっとして、ください……」
それを見て、いよいよラトアーヌは己の枷が完全に外れたのを感じた。
ノアのズボンをやや乱暴にずり下げて、そのヒクヒクと震えて涙をこぼす肉棒に優しく手を這わせ、すでにすっかり濡れそぼった陰器へと先っぽを沈める。
「ノア……挿入るよ。安心して、手をつないで、痛かったら言うんだよ」
「はい……ラトア……」
ぎゅっと、互いに右手と左手を重ね合わせ、指を絡めてにぎり合う。
ノアの瞳に怯えが完全になくなったのを見届けて、いよいよラトアーヌは一気にその男根を根元までみっちりと飲み込んだ。
「あっ……あっ……」
「んんんんんんんっっ……!ノア、の……が、ついに、ついに、私の中に……」
ノアは舌を突き出してあまりの快感に打ち震える。
ラトアーヌは凄まじいまでに湧き上がる多幸感に完全に翻弄され、ほろほろと涙をこぼしながら、ぎゅうぎゅうとその呑み込んだ肉棒を締め付けた。
「ノア……ごめんよ、私は、もう抑えられない……」
体を幸福のあまり震わせながら、しかし申し訳なさそうな顔でラトアーヌはノアに呟いた。
事実、抑えが利かなくなりつつある体は快感を貪ろうと動き始めた腰を止められていない。
「ラトア……いい、ですよ」
そんなラトアのほほを優しく撫でて、ノアは声を変えた。
ノアもまた余裕は微塵もないが、その顔には確かな相手への愛情がこもっている。
「私も、気持ちいいです……いっしょに、イきましょう」
「っ……!ノア!」
そして、ラトアーヌは腰を上下に振り始めた。
「ひっ!?あっ!うあっ!ラトアァ、ラトアァァ……!」
「ノア、くん!ノア!愛しているよ!誰よりも何よりも愛してるよ!」
ノアの胸板に手をついて、激しく腰を振るラトアーヌ。
結合部からはお互いの液が混じり合ったものがとびちり、ぐちゅんぐちゅんといやらしい音を奏でている。
そしてその動きに合わせて激しく揺れる豊乳に、ノアは思わず手を伸ばした。
「んんっ!ノア、おっぱいも、いいよ、好きにしてほしいっ!んんっ、ハァァッ……!」
「ラトア……!」
固くしこりたったラトアーヌの乳首を、ノアはキュッとつまみ上げた。
そうするとラトアーヌの膣内がぎゅっと締まって、より一層ノアの男根を搾り上げるように蠕動する。
「んんっ……それ、締まっちゃうよ、膣内、すごく……!」
「はぁっ、はぁっ、んくっ……ラトア……!」
欲望のままに、乳を弄るノアはやがて腰も少しずつあわせて降り始めた。
ぱちゅんぱちゅんとちいさな水音混じりだったピストン運動は、徐々に音量を増していき、パンパンと肌のぶつかる音に変わる。
「ノアッ、私はもう……きそうだ、よ……!」
「ラトア……私も、です……!」
ラトアはやや強引に、空いていた手でノアが乳を弄る手をぎゅっと握った。
両手を固く握り合った二人は、もっともっと繋がりたいとと言わんばかりに口づけを交わし、舌を絡み合わせる。
お互いに伸ばした熱を帯びた舌はネチャリネチャリと絡み合い、こぼれた唾液がノアを濡らす。
「んっ……!んんんっ……!!」
そして、ついに限界がくる。
ラトアーヌはパチパチと頭の中に走り始めた閃光を感じて、最後の最後、ギリギリまで腰を引き上げる。
そして、それを一気に最奥まで落として、思い切りノアの亀頭と子宮口を付き合わせた。
「ーーーっあ!!」
「くぁっ、あぁ、あああぁぁぁ……っ!!」
そして、絶頂。
ノアの溜めに溜めた精液がラトアーヌの膣内に解き放たれた。
すっかり下りきった子宮はまるで亀頭に吸い付くように貪欲にその精子を飲み込む。
そのたびに軽い絶頂に震えるラトアーヌとノア、二人は固く強く抱き合い、さあ後の余韻が終わるまでお互いを確かめ合って……
そして、一緒に意識を落とした。
ーーーそれからこーなるーーー
ラムルピュールへと続く道は暑い。
ここだけに住む虫が鳴き、ここだけに住む魔界獣の遠吠えが響き、蒸し暑い風が頬を撫でる。
「わ〜れ〜ら〜の〜あーーーーいはーーー♪けんらんのーーほしのはーなーー♪めくるめくきせつをこーえてー世紀(とき)をこえ、さきほーこるー♪」
そんな中でもラトアーヌは至極上機嫌といった様子で街道を進んでいた。
相棒の魔界豚ロビュストもなんだか機嫌がよく見える、歩く速度もいつもより二割り増しである。
「……はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
一方、ノアの方はいつもの50分の1程度のテンションで、三角座りで商品のワイン樽の上でうずくまっていた。
気のせいか、周りにはどんよりと暗いオーラが漂っている。
「どうしたノア!あんなに楽しいことがあったのにそんなに落ち込んで!」
「いやいやいやいやラトアーヌさん、落ち込むなってほーが無理でしょあんな醜態晒してぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
至極明るいラトアーヌの声に対してノアは呪詛とも取れるような小さく低い声で返答する。
ノアが落ち込んでいるのは、さきのまぐわいが原因である。
あの野営の日、ラトアーヌはノアに『シャトーラトアーヌ62年』以外に、もう一種類の酒を飲ませた。
それは、『just the two of us』。
陶酔の果実のイッッッッチ番濃い身だけを寄せ集め、凝りに凝った製法でワインとなし、そしてそれを五十年間寝かせた超超超超(以下超が80個ほど続く)超高級ワインである。
噂によれば魔王すらもが喉から手を伸ばして欲しがるという珠玉の一品で、愛し合う者通しが互いに一滴ずつ口に含めばそれから一ヶ月間は互いのことしか目に入らないほどの陶酔状態に陥り、繋がりっぱなし愛し合いっぱなしの脳内麻薬分泌しまくりでとんでもない状態になるという。
ラトアーヌは、それをどういうわけか所有してて、ノアに飲ませたのだ、だいたいカップ一杯分。
ラトアーヌも飲んだので『just the two of us
』の中身は1/3ほど失われたのであった、まる。
世のお酒愛好家が聞いたら泣いて喚いてこの世の不条理を嘆くであろう。
バッカス信者なら我を忘れて二人に食ってかかるかもしれない、もっと大切に飲め、と。
そして、互いにそんなとんでもないものを飲んだわけで、その盛りが、一ヶ月『程度で』収まるわけがなかった。
そのあと全く同じタイミングで目が覚めた二人はどちらからともなく愛撫しあい、舌を絡ませ、手足を絡ませ、テントの中でひたすらまぐわい続けた。
口でした、手でした足でした、脇でもしたし胸でも当然した。膣はすでにやったし尻もやった、髪も膝裏も耳も鼻も目も肘裏も太もももお腹もおへそも脇腹もet cetera……とにかく、どの部位でも1000回ずつくらいは少なくともヤった。
胸は10000を超えるかもしれない、おまんこした回数なんて数えてもいない。
で、そんなこんなしてたら、2年経ってました。
「二年間も、二年間もあんな閉じられた空間で延々とやりっぱなしだったなんて」
「いやぁすごかったね、空間を元に戻したら途端に当たりがすっかり魔界になっちゃったよ!」
ノアは遠い目で自分たちがやりふけっていた空間を元に戻したときのことを思い出す。
まるで破裂寸前の水風船を割って辺りに水が飛び散るように、溜めに溜め込まれた二人の発した魔力が辺りに飛び散りかなりの広範囲が魔界とかした……というか、より濃い魔界になった。
この地方はもともと明緑魔界です。
「ほんとーに、何してたんだ私は」
そしてそんなにやりふけってた二人は当然凄まじい強さの魔物とインキュバスになった。
ラトアーヌの方は魔力はバフォメットに並び怪力はミノタウルスをも凌駕するレベルになり、もはやサテュロス(ドラゴン)クラス、ノアの方もまだ試してはいないが恐ろしいほどの魔力と身体能力を手に入れただろう。
1日感謝のセックス100回とかしてればこうもなる。
「いいじゃないか!なんとも魔物らしくてさ!」
「魔物でもここまでやるのは少ないですよ!」
「それにロビュストもワインもすごいことになったし!」
副作用として二人の魔力に当てられ続けた魔界二ロビュストは2年前と比べてすごく元気になった、具体的には1メートルくらい成長した。
そして、樽に積んだワイン。
なんと魔力に当てられ続けたせいか成分が変質し、『シャトーラトアーヌ62年』すらをも超える最高のワインとなっていたのだ。
原理はわからない、まりょくのちからってすげー!
「そして、なによりも……」
ノアにとって一番忘れ去ってしまいたいのは、この二年間ラトアーヌに取り続けてきた自分の態度である。
さながらチャラ男に堕とされた生娘のような者で、彼女の一挙手一投足に胸が弾み、やさしくされれば頬が緩み冷たくされれば涙を浮かべ、求められればどんな変態行為であろうと喜んで応じた。
しかもその記憶は異様なほどはっきりと脳裏に刻み込まれ忘れようにも忘れられない。
「それにしても284日前のノアくんの可愛さときたら想像を絶したね、まさかあんな可愛いおねだりをノアくんがしてくれるなんて私はもう死んでもいいくらいだったよ」
「ほんとやめてください」
もちろんラトアーヌも覚えている。
「はぁ……」
ノアはまたもため息を吐いた。
ノアは思う。自分が何に一番呆れているのかを。
それは、この状況を案外悪くないと感じてしまっている自分自身に他ならない。
ふと、背中に柔らかい感触が覆いかぶさる。
いつの間にかラトアーヌがノアの背に抱きついていた。
「ノア、これからも、よろしくね」
「……」
二年間爛れた生活を送ってきた相手とは思えない言葉に、ノアは言葉を詰まらせた。
「……ええ、こちらこそ」
そして、すぐに返す。
惚れた弱み。
相手がどれだけハチャメチャな存在だっとしても惚れてしまったのだから仕方がない。
ノアは、まわされた腕に自分の手を重ねて、ラトアーヌの体温を感じた。
魔界豚の背負う荷物の上で、しばらく二人はそうして、抱き合っていた。
「ひいてはまず我々がすることは二年間行方不明になっていた理由と納品が遅れた理由造りだね」
「えーーーーーーーーー」
「夫婦の最初の共同作業だね!」
「それだけはマジ勘弁してください」
16/04/16 00:32更新 / Y
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