冷たい私が暖かくなるまでのお話
「えっ？人間の何がいいかわからない？それ本気!?」
開口一番でそう言ってきたのは、昔馴染みのイエティだ。
「だって、ぎゅーってすると、ぎゅーってしてくれるんだよ？ぽかぽかするんだよ？」
「そう……」
たまたまこのイエティの家(洞窟)の近くを通ったので顔を出したのだが、なんとこのイエティの家にはしばらく会わないうちに人間の男が一人住み着いていた。
本人が言うには旦那との事……その人間を抱きながら嬉しそうに語っている。
「チュー♪…早くアイシーちゃんにもいい人が見つかるといいね！」
「……」
人間にアツくキスをしながらそう言ってきたイエティ。
アイシーというのは私の事だから、この場合は私に早く旦那が出来るといいねという事だろう。
でも、私にはそれの何がいいのかわからない。
人間は所詮人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「あっ、もう帰るの？じゃーねー!!」
「……」
これ以上ここにいる理由もないので、私は再び外に出た。
別にこれといった用があったわけでもないし、特に問題は無いだろう。
それに近くに居過ぎるとこのイエティでも私の冷気で凍えてしまうだろう……だからというわけでもないが、私は退散する事にしたのだった。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「……」
私は雪の降る中で雪山を、一人静かに散歩中。
別に氷の女王様の命令というわけでもなければ、私の糧となる精を持つ人間を探しているわけでもない。
特にする事がなかったが、じっとしていたくも無かったので、気晴らしに散歩しているだけだ。
だから途中で偶々あのイエティの家の近くを通ったから顔を出したのだが……まさか人間と結ばれているとは。
まあおかしいとかは思わないし、別に誰を好きになろうがあいつの勝手だ。
だが、何故私に人間と結ばれる事を勧めたのかがわからない……私にとって人間は人間、それ以外の何物でもないので興味など湧かない。
「……ん？」
そのまま雪山を一人で散歩していたのだが、雪と木以外何も無いはずのこんな場所で、何かが動いた影が見えた。
小動物か何かだろうけど…まあ他にする事も無いので行くだけ行ってみる事にした。
別にそれが小動物ならそのまま見てればいいだけだし、魔物や人間でも私達や女王様に危害を加える様でなければどうでもいい。男であれば散歩の労力分の精を少し戴くというのもいいかもしれない。
ただ、私達に危害を加える様な人間の可能性も否定出来ないので、確認しに行く事は悪い事ではないだろう。
この山の麓にある村は全て親魔物領なのでそうはいないとは思うが、万が一という事もある。
「……」
という事で私は早速影が見えた場所まで移動してみたのだが……
「んしょ……よいしょ……ん？お姉ちゃん誰？」
「……」
そこにいたのは、ある意味では予想通りではあったが……人間の子供が一人で雪を球状にかき集めて何かを作っていた。
この男の子の見た目的には7歳前後だろう…これなら危害どころか精を戴く事もままならない。
なのでこの男の子には特に用事はないので私は再び雪原の散歩に戻ろうとした。
「ねーねーお姉ちゃんって何の魔物？お姉ちゃんみたいな氷の魔物見た事無いや。イエティさんとかジパングのゆきおんなさんとは違うよね？」
「……グラキエス……」
「へぇー！グラキエスって魔物なんだねお姉ちゃん！」
しかし、この人間の男の子は私に興味を持ったらしい。私に話し掛けてきた。
私はこの男の子に興味は無いとはいえ、無視してしつこつ付き纏われても鬱陶しいので手短に答えた。
相手にする気も無いし、これで興味を無くしてくれたらいいが……
「ふおぉ…！見た目みたいに冷たいねお姉ちゃん！」
「……」
だが、その判断は間違っていたようだ。
男の子は興味を無くすどころか余計に興味を持ったらしい……あろう事か私の身体をペタペタと触り始めた。
「わああすごーい！ヒエヒエ〜!!でも柔らか〜い!!」
「…………」
それどころか私の太腿やお尻や胸まで触り始めた男の子……子供の行動とはいえ、流石に腹が立ってきた。
そもそも他人にベタベタされるのは好きではないのに……デリケートな部分を触られていい気分なんかする訳がない。
だから私は……
「……」
「あぷっ!?」
少し強めにその男の子を突き飛ばした。
それが原因で尻餅をついたとしても、地面は柔らかな雪で覆われているから痛くはないだろうし、怪我をさせる事もないだろうと思っておもいっきり力強く押したのだが……
「わっうわあああぁぁぁぁぁぁ…………」
「!?」
今日はやる事全てが裏目に出るらしい……
突き飛ばした力が強過ぎたのか……その男の子は尻餅どころか叫びながら雪山を転がり落ちていった。
「しまった……」
流石にやり過ぎたと思ったので、私は転がり続ける男の子を追った。
死んではいないだろうけど、怪我とかしているかもしれないし……とにかく無事を確認しなければ……
「……大丈夫？」
「うーん……」
数10メートル先で雪の中に埋まりようやく止まった男の子。
私は男の子を雪の中から引っこ抜き、無事を確認するために声をかけた。
身体は動いているし、呻き声も出ているので生きてはいるだろうけど……怪我していないとは限らない。
とりあえずひっくり返し、顔を見れる様にしたが……
「えははっ！ゴロゴロ〜って面白かった！」
「……」
物凄い笑顔で喜んでいた。
ただし、鼻血を流しながらだ。
「ごめんなさい……」
「へっ？何が？」
「鼻血……」
「ん？あ、ホントだ！」
先に私のデリケートな部分を触ってきたのはこの男の子の方ではあるが、怪我させた事でかなりの罪悪感を感じきた。
笑顔でポケットの中に入れていたティッシュで拭き取ったら血は収まっていたのでたいした事はなさそうだ……だが、たいした事はないとはいえ怪我させたのは事実だ。
なのでとにかく謝ったが……男の子は自分が鼻血を流していた事すら気付いていなかったようだ。
「痛くない？」
「全然！ちょっと怖かったけど楽しかったよ!!」
「そう……」
とにかく無事で何よりだ。
始めからこの男の子が私の身体を必要以上に触らなければこうなる事も無かったのだが……まあグラキエスを見たのが初めてらしいし、子供がいろいろと興味持つのは仕方が無いから叱るのは野暮だろう。
「それじゃあ……」
それ以外に怪我らしきものは無く元気そうなので、私は帰る事にした。
別にこの男の子に用事は無いし、散歩も十分したからだ。
「あ、グラキエスのお姉ちゃん！」
「……？」
だが、この場から去ろうとする私を男の子は呼びとめて……
「明日もヒマだったらここにきて!!」
「……」
明日もここにきてと、私にお願いをしてきた。
「じゃーねー!!」
「……」
そして大きく手を振って私を見送っていた……
「……」
何故また明日も来てと言ったのかよくわからない。
というかあの男の子は明日もあそこに居るつもりなのだろうか？
だが、明日もやる事は無く暇といえば暇なので暇潰しに行ってみても良いだろう。
この日はまだ、男の子の事はただの暇潰し程度としか思ってなかった……
……………………
「……」
あの男の子と会った次の日の同じような時間。
雪山を登山していた男から精を貰い、昨日男の子がいた場所に向かっていた。
別に会いたいとかそういう事は無いが、一方的とはいえ約束を破るのもよくないだろう。
「……よしかんせー!!」
「……」
そしてその場所が見えてきたのだが……昨日自分で言った通り、そこには昨日の男の子がいた。
昨日作っていた大きな雪玉の上にもう一つ一回り小さな雪玉を乗せ、木の枝とかで顔みたいなものを形成していた。
「……何してるの？」
「あ！昨日のグラキエスのお姉ちゃん!!」
何か必死に作っててこちらに気付いてなさそうだったので、とりあえずこちらから声を掛けてみた。
「見て見て〜雪だるま〜!!」
「雪だるま？」
「うん！雪で出来たお人形さん！ボクが一人で作ったんだ!!」
私が居る事に気付いた男の子は、私に作っていたものを見せつけてきた。
本人曰く雪だるまというものらしい……
「どう？結構頑張って作ったんだけど凄い？」
「……わからない……」
「えー!?」
雪で出来たお人形が凄いかと聞かれたが……そもそもこれは人形というのだろうか？
たしかに太い木の枝で手みたいにしてあるし、顔も人間のように見えなくもないから人形だろうけど……特に凄くは無いと思う。
なので正直わからないと答えたら、もの凄く不満のある顔で男の子が抗議してきた。
「誰の手も借りずに一人で作ったんだよ！」
「そう……それで？」
「それでって……」
一人で作ったから何だというのだろうか？
たしかに非力な人間の子供がこんな大きな雪玉（下のに至っては丸まったイエティ並みはあると思う）を作るのは大変かもしれないが、時間を掛ければ誰でも出来る事なので別段凄いとは思わない。
「むぅ……じゃあお姉ちゃんが作ってみてよ」
「……え？」
ただまあ嘘でも褒めておいたほうがよかったかもしれない。
むくれた男の子が、私に同じものを作ってみろと面倒な事を言い始めた。
「何？作れないの？」
「……」
こんな物を作って何になるかはわからないが、作らなければ余計面倒な事になりそうだ。
「見てて……」
だから私は、少年の言う雪だるまを作る事にしたのだった……
………
……
…
「……完成」
「ふおお〜っ!?」
あれから10分。
私と男の子の目の前にはきっちりした円形を描いた雪玉を縦に二つ並べたものに氷の結晶で表情や手を付け加えた雪の人形……もとい雪だるまが堂々と置かれていた。
もちろんこれは私が10分で作ったものだ。男の子の物より数倍は立派だと自分は思う。
あれこれ試行錯誤しながらだったので少し時間は掛かったが、氷の精霊である私にはこれを作る事は造作も無い事だ。
「すっごーい!!パパッと雪だるま作っちゃった!!お姉ちゃん凄いよ!!」
「どうも……」
私が作った雪だるまを見て、男の子は大はしゃぎしている。
嫉妬してムキになって泣き始めたりするかとも思ったが、このはしゃぎ様ではそんな心配は無いようだ。
「お姉ちゃん雪だるま作りの天才だよ!!」
「……」
やたら私を褒めてくる男の子……少しだけ嬉しく思うところも無い事は無いが、こんな雪人形を作るのが上手だから何だというのだろうかと思うとそう嬉しくも無い。
「そっかーお姉ちゃん氷の魔物だもんね。もっと凄いのとか作れるの？」
「……」
そんな男の子は、もっと私に色々と作ってみてと言いたげにこちらを見てきた。
折角戴いた分の精が無くなってしまうので出来ればこれ以上作りたくは無いのだが……
「ねーねー」
「……」
キラキラとした目で興味津々にこちらを見てくるので、いかんせん断り辛い。
「……はぁ……仕方ないか……」
「えっ何か作ってくれるの!?」
なので、仕方なく私は簡単なものを作ってあげる事にした。
「……」
自身の魔力で空気中の水分を掌の上で凝縮させ、私の頭に浮かんだイメージ通りに形を整えていく。
細く、そして滑らかになるように表面を整えながら、肥大化し過ぎないよう微調整を重ね……
「……これでいい？」
「うわーっ!!氷で出来たお姉ちゃんだー!!」
氷で出来た掌サイズの私……というよりグラキエスを作り、男の子に渡してあげた。
グラキエスなのは、やはり自分に関係するものが一番思い浮かべやすいからだ。
まあ男の子は私以外のグラキエスに会った事が無いようなので私と思っても仕方はあるまい。
「すごいすごーい!!きゃはは〜!!」
「……」
それにしてもすごいはしゃぎ様である。
私が渡した氷の人形を手に持ち、雪の上をゴロゴロと転がりながら嬉しそうに笑っている。
「……それあげる……」
「えっいいの!?わーいありがとー!!」
「わっと……」
あまりにも嬉しそうにしているので、私は今作った人形を男の子にあげる事にした。
別に私自身いらないし、そこまで嬉しそうにするならあげようと思ったまでだ。
なのであげると言ったら、男の子は満面の笑みを浮かべ私に抱き付きながらお礼を言ってきた。
「むーお姉ちゃんヒエヒエ〜」
「グラキエスは氷の精霊……冷たくて当たり前……」
「そんなものなんだー……でも柔らかいから温かーい」
「ん？まあいいや、離すよ……」
今回は変な所を触っていないのでそのままにしておいた。
男の子と接触している部分が熱いが、しばらくするうちに私の冷気で冷えてきたのかそんな熱も感じなくなってきた。
このままだと精を取る事になりかねない為、私は男の子を引き剥がした。
「それじゃあ……」
「えーもう帰っちゃうの？」
空を見ると雲行きが怪しかったのでそのまま今日は帰ろうとしたら、男の子がもう帰るのかと言ってきた。
「君も早く帰った方がいい……」
「えっなんで？」
「もう少ししたら吹雪が来る……」
「えっそうなの!?じゃあ帰らないと!!」
なのでこの天気では数十分したら吹雪くだろう事を男の子に伝えたら、大人しく帰る事にしたようだ。
麓の村の子であればここからなら吹雪が来る前に帰れるだろう……一人でここまで来ているわけだし、見送る必要も無い。
「じゃーねーお姉ちゃん!!また明日!!」
「……へ？」
だからここで別れ、それぞれの家に向かう事にしたのだが……男の子は別れ際に私に向かってまた明日と言ってきた。
つまりは、明日もここに来るつもりで、私に会うつもりなのだろうか？
「……」
どういう事か聞こうにも既に向こうは粉雪程度の大きさになっていたので聞けない……
仕方が無いのでまた明日も行く事にしようか。そう考えながら私は帰路に着いたのであった……
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「そういえば、お姉ちゃんって名前あるの？」
「……アイシー……」
「へーお姉ちゃんってアイシーっていうんだ！」
あれから一週間、私は毎日この男の子と会っていた。
毎日会って、別れる度にまた明日と言われてしまうので、4日前ほどにどうして次の日も私と会いたいのか聞いてみたところ……
『だってお姉ちゃんと一緒にいると楽しいもん!!』
……と言われてしまった。
まあ私も生きる為に男から精を貰う事以外は特にする事も無いので、結局毎日会いに来ていた。
ここ2日ぐらいはこの男の子に会う事が日課となりつつある程だ。
「君の名前は？」
「あれ？そういえば言った事無かったね！ボクはウォミー!!あらためてよろしくねアイシーお姉ちゃん!!」
「よろしく……」
ただまあ、この男の子の名前がウォミーというのは今初めて知ったが。
毎日会ううちに少しこのウォミーの事が気になり始めたので聞いてみたのだが……何故自分がウォミーに興味があるのかは自分自身もわからなかった。
「今日は何して遊ぶアイシーお姉ちゃん？」
「何でもいい……ウォミーの好きな事でいいよ……」
「うーん……じゃあまた雪や氷で何か作って!!」
今日はどうやら雪像や氷像を作ってほしいらしい。
以前作った物がよほど感動したらしく、2日か3日に一度そうお願いしてくるウォミー。
「いいよ。何作ってほしい？」
「んー……大きな建物!!」
「わかった……」
始めは魔力を使い疲れるのであまり乗り気になれなかったが、何を作っても喜んでくれるウォミーを見ていると作ってよかったと思えるようになってきた。
なので私は躊躇う事無くウォミーの願いを聞き入れた。
「……」
魔力を集中させ、目の前の開けた雪原に冷気を集めて……
こちら側とは反対側の山から、遠くにうっすらと見える城をイメージしながら形作っていき……
「……」
「おお〜っ!!氷のお城だー!!」
私の数倍は大きい城の形をさせた氷像を、あっという間に作り終えた。
流石に規模が少し大きいので疲れたが、ウォミーが喜んでくれたのでよしとしよう。
「ねえアイシーお姉ちゃん、このお城って中に入れる？」
「無理……でも登る事は出来る」
「ホント！じゃあ登る!!」
流石に内部までは考えていないので大きな入口からこの氷の城に入る事は不可能だが、そんな事を言ってくるような気がしたので城の上部に登れるように裏に階段を作っておいた。
それをウォミー伝えたらにこやかな笑顔のまま走って階段まで行き、いそいそと登り始めた。
「わあー!!ボクの住んでるお家が見える!!」
「そうなの？」
「うん！ほら、あの村にある茶色い屋根のお家!!」
「へぇ…………」
城のバルコニー部分から落ちない程度に身を乗り出して遠くを見ては大はしゃぎするウォミー。
自分の村の方をみて、自分が住んでいる家を見つけたようだ。私に教えてくれた……けど、よくわからなかった。
「こんな高いところからあの村見た事ないや……あんな風になってたんだな……」
「……？」
そして自分の家を見ているうちに、少し寂しそうにし始めたウォミー。
私はウォミーから精を奪った記憶は無いので、おそらく家を見た事によって少し寂しくなったのだろう。
「そういえばアイシーお姉ちゃん」
「ん？」
「お姉ちゃん疲れてる？」
「まあ……」
そんなウォミーがふと私の顔を見て、そう言ってきた。
どうやら疲れが表情に出ていたらしい……まあこんな大きな物を作ったのだ。それなりに魔力は消費したし、精神的にも疲れは溜まる。
「もしかしてこんな大きな建物を作ったから疲れたの？」
「うん。でもウォミーが気にする事じゃないよ。私が自分でこれを作ったんだもの」
「でも……」
何故私が疲れているのかを察したようで、少し暗くなってしまったウォミー。
だがこの氷の城を作ったのは私の意志だ。ウォミーは大きな建物という注文をしただけで、ここまでものを作れと言ったわけじゃないので自分を責める必要は一切無いのだが……
「そうだ！アイシーお姉ちゃん！ボクの精ってやつ貰ってよ！」
「……え？」
それでも何か私にお詫びがしたいようで、私に精をあげると言い始めた。
以前私が普段何を食べているのかと聞かれたので、私が精を糧に生きている事は知っていてもおかしくないし、同様の理由でウォミー達人間、特に男性が精を沢山持っている事は知っているのでそう言ったのだろう。
だがウォミーはまだ8歳（これも以前本人が言っていた）の子供だ……そう易々と貰っていい物では無い。
「いいよ！ボクのわがままで疲れちゃったんだから遠慮しないでよ!!」
「……」
だが……ウォミーはあげる気満々だし、私としても少しでもいいので欲しいところではある。
「……わかった。じっとしてて……」
「うん！」
なので、本当に少しだけ貰う事にした。
ウォミーの周りに冷気を漂わせ、少しずつ精を奪う……
「うぅ……寒い……」
「……」
案の定少し奪っただけでウォミーは寒さに震え始めた。
しかし……私はもう少し欲しいと、そのままウォミーから取り続けた。
なぜなら……今まで奪った誰よりも、ウォミーの精は上質で、少量だというのに元気になってきたからだ。
そして、元気になったと同時に、私の中で何かがもっと欲しいと訴えてくるので、止めようにもなかなか止められずにいたのだ。
しかし……
「うぅ……お母さん……お父さん……」
「っ!?」
私の冷気の効果で、寂しさのあまり泣き始めたウォミーを見て正気になった私はそこで精を奪うのを止めた。
「ご、ゴメンなさい……やり過ぎた……」
「ううん……いいよ……」
自分でもどうしてもっと欲しいと思ったのかはよくわからなかったが、とにかく奪い過ぎたのは事実だ。
謝ってもどうしようもないが、とにかく私はウォミーに謝った。
「今日はもう帰った方がいい……」
「うん……」
ただでさえ村を見て若干寂しそうにしていたのに、そこで私の冷気の効果が来たのだ。今日は早く帰った方がいい。
だから今日は帰宅する事を勧めたのだが……
「それじゃあ……」
「待ってアイシーお姉ちゃん！一人にしないで!!」
私が帰ろうとすると、一人にしないでと後ろから抱きついてきた。
どうやらそこまで心を凍えさせてしまったらしい……
「じゃあ……一緒にウォミーの家まで行こう」
「えっいいの？」
「ウォミーが寂しくなったのも私のせい。だから一緒に行く……」
「ありがとーアイシーお姉ちゃん!!」
流石にそんなウォミーを放って帰る事は出来ないので、私は一緒にウォミーの家に向かう事にしたのだった……
………
……
…
「ここが村……」
「あれ？アイシーお姉ちゃん村まで来た事無いの？」
「うん……」
氷の城を片付けた後、ウォミーと一緒に手を繋ぎながら村まで来た私。
冷たくは無いのかと思ったのだが、ウォミーがどうしてもというので手袋越しで手を握っている。
それと……そこまで遠くは無いとはいえ、普段村まで行く用事は無い為実際に訪れたのは初めてだった。
「人……多いね……」
「そうかな〜？」
周りを見るとあちこちに人がいる。
食材を買っている老婆や、仲良さそうに歩いている夫婦だと思われる妖狐と男性、誰かを待っている雪国だからか流石に着込んでいるサキュバスなど、山とは違いかなりの人や魔物がいた。
しかし、ウォミーはそうでもないと言いたそうだ。
「ボク最近この村に来たばかりだからな〜」
「へぇ…そうなんだ……」
「うん。もっと大きな街に住んでたんだけど、お父さんのお仕事の関係でこの村にお引っ越ししたんだ」
「なるほどね……」
もっと大きな街にいたのならたしかにこの人数は多く感じないのかもしれない。
それでも、雪山に住んでいる私には大勢いるように感じる。
「家はまだ？」
「もうちょっと……ほら、あそこの家だよ!!」
村を見ながら歩いているうちに、ウォミーの家に着いたようだ。
なるほど……たしかに屋根の色は茶色だ。
「お母さんただいまー!!」
「おかえりウォミー……ってあら？」
「どうも……」
玄関を叩くと、中からウォミーの母親と思わしき女性が出てきた。
「あなたがウォミーと毎日遊んで下さったグラキエスさん？」
「えー……はい……」
「あのねお母さん！お姉ちゃんはアイシーって名前なんだよ!!」
「あらそうなの。ウォミーを送って下さりありがとうございます」
「いえ……」
やはり親子らしい……ウォミーと同じく明るい人だ。
「ほらお上がり。外は寒かったでしょ？」
「うん！」
「アイシーさんも。飲み物でもいかがですか？」
「いえ……私はすぐ帰りますので……」
ウォミーは私の手を離し、家の中に入っていった。
少し手に残るウォミーの熱が、なんだか寂しさを伝えてくるような気がする……
「では……」
「毎日ありがとうございます。この子ったら引っ越してきてからなかなか友達が出来なくて……また遊んでやって下さいね」
「えっ!?あ、はい……」
その寂しさに疑問を抱きながらも帰ろうとした時に、ウォミーの母親から礼を言われた。
しかし……ウォミーに友達が出来ないのか……
性格的には私よりはよっぽど友達も出来そうであるが……村の中でも一人ぐらいしか見なかったし、そもそも同世代が少ないのだろう。
だから毎日私に一人で会いに来ていたのか……多少疑問に感じてきたが、これでその疑問は解決した。
「……」
私は一人、村から自分の家に帰る。
それはいつも通りのはずなのに、何故だか寂しく感じた……
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「……あれ？」
更に一月程経ったある日の事。
私はウォミーに会いに、いつもの場所に向かったのだが……
「……いない……」
初めて会った日から毎日この時間にここに行けば会えたウォミーが、今日は何故か居なかった。
「……」
昨日特に何かあったわけじゃない。
しいて言うならば……昨日のウォミーは私の助けなしに雪で家を作ろうとして、なんとか形は出来ていたけどきちんと固まっておらず結局崩れ雪に埋まったりしていたので、もしかしたら風邪でも引いたかもしれない。
「…………」
でも……もしかしたら何かしらの事故に遭ってるかもしれないので、私は無事を確認するためにもウォミーの家に向かう事にした。
一月前に一度行ったきりだったが、なんとなくであるものの覚えているので行く事は出来るだろう。
だから私はその足でウォミーの家に向かおうとした、その時だった……
「やっほーアイシーちゃん！」
「!?」
後ろからもこもこしたもの……昔馴染みのイエティに抱きつかれてしまった。
「……何？」
「あうぅ……なんだかお怒りだね〜……」
「用事ある……離れて……」
急いでウォミーの家に行こうとしたところでの強襲に、私は少し不機嫌になった。
おそらくたまたま散歩中に私を見つけたから抱きついてきたのだろうけど……いかんせんタイミングが悪い。
「あれ？」
「……何？」
とにかく早く離れてほしいのだが、イエティは離れるどころか何か疑問に思ったらしく私をより抱きしめてきた。
本当にそろそろ離してほしい……だから、冷気で凍らしてやろうかと考え始めた時だった。
「なんかアイシーちゃん前より暖かい？」
「……え？」
私に抱きついていたイエティが、私が前より暖かくなっていると言ってきた。
「前にアイシーちゃんをぎゅーってした時はぎゅーってしても冷たかったんだけどー、今はぎゅーってしたらなんかぽかぽかして暖かく感じるよ！」
「本当に？」
「うん。旦那様よりはぽかぽかしないけど、それでもぎゅーってやるとぽかぽかするよ」
私自身そんな気は全く無いのだが……抱きついてる本人がそう言うならそうなのかもしれない。
いやでも……氷の精霊である私が暖かくなるなんてあるのだろうか？
「あ、そういえば用事あるんだよね？」
「うん……」
疑問に思ってた私をようやく解放したイエティ。
「もしかしてアイシーちゃんも旦那様見つけたの？」
「違う……？」
私の用事を旦那探しか何かと思ったらしくそんな事を言ってきたが、私はウォミー以外の人間などに興味は無いので違う。
そう……違うはずなのだが……何か引っかかるような気がした。
「まあいいや。じゃね〜!!」
「じゃあ……」
自分の気持ちがよくわからない……けど、とりあえず私はウォミーの様子を見に行く事にしたのだった。
………
……
…
「……」
村に着いた私は、他には一切目移りしないで一直線にウォミーの家に向かっていた。
道中では注意深く探してみたが居なかったので、雪に埋もれていたりはしてないはずなのでおそらく家に居るはずだ。
「すみません……」
「はいどなた……あらアイシーちゃん。久しぶりね〜」
「どうも……」
少し急ぎ足で移動して、ようやく辿り着いたウォミーの家。
私は早速戸を叩いた……数秒ほどでウォミーの母親が出てきた。
「どうかしたの？」
「いえ……ウォミーがいなかったので……」
「あら……わざわざありがとうね。あの子昨日の夜から熱出しちゃっててね……今は一応落ち着いて安静にしてるわ」
「そうですか……」
どうやら本当に風邪を引いてしまったらしい。
まあ命に係わる程の風邪ではなさそうなので安心した。
「そうだ。あの子のお見舞いしていく？」
「え……」
「お時間があるなら是非あの子に会ってくれないかしら。約束したのに今日は行けないやと落ち込んでいたので……」
「そうですか……では……」
無事も確認できたので今日はもう帰ろうかと思ったが、お見舞いしていかないかとウォミーの母親に言われた。
別に他にやる事は無いし、私自身ウォミーに会いたかったのでお言葉に甘えさせてもらう事にした。
「ごほっごほっ……」
「大丈夫？」
「ごほっ……あ、アイシーお姉ちゃん！」
ウォミーの母親に部屋まで案内されて、早速入ってみたら、ベッドの上で大きな咳をしながら寝ているウォミーがいた。
顔を真っ赤にして辛そうにしているのでまだそこまで体調は回復していないのだろう。
「ゴメンね……昨日約束したのに今日行けなくて……」
「気にしてない……それにもし風邪引いて来てたら怒ってた……」
「う〜ごほっ……来てくれてありがとう……あとお姉ちゃんの手気持ち良い〜」
私が来たのに気付いて身体を起こしたウォミー。
でも風邪を引いているので、私はそんなウォミーの頭を手で押さえて再び寝かせた。
「でもなんかお姉ちゃんの手、会った時より暖かい気がする……お姉ちゃんも風邪？」
「ううん……」
ウォミーもイエティと同じ事を言う……
私の身体が少し暖かくなっているというのだろうか……
「とりあえず安心した……早く元気になってね」
「うん……ごほっ」
「明日も来る……だから大人しく寝る事……」
「え……来てくれるの？」
「うん」
とにかくウォミーもただの風邪だとわかったので、これ以上お邪魔して悪化させるのも悪いので帰る事にした。
本当はもっとウォミーとお話していたかったが……辛そうにしているウォミーを見て、今日は安静にしておいたほうがいいと判断した。
だから私は明日も行く事にした。
明日になれば少しは体調も良くなっているだろうし、お話もできるだろう。
「それじゃあ……」
「うん。バイバイアイシーお姉ちゃん、また明日……」
少し微笑みながらウォミーに手を振って別れる私。
ウォミーもベッドの上で寝ながら笑顔で手を振り返してくれた。
「……」
そして、帰宅中に思った……『どうして私はウォミーの事がこんなにも気になるのだろうか？』と……
ウォミーに限らず、今まで私は人間に興味など持った事はない……それなのに、ウォミーと付き合ううちに片時もウォミーの事を考えてない時が無くなっていた程になっている。
それに……なんだか最近は人間から貰う精が冷たく味気無いように思えてくる……ウォミーから貰って以降特にそう思えるようになった。
この心境の変化と私の身体が少し暖かくなっているのには何か関係があるのだろうか？
「……まあいいか……」
自分の変化に驚きつつも、私がウォミーと仲が良い事には変わらない。
早く明日にならないかと思いつつ、私は帰路に着いたのだった……
……………………
「……大丈夫？」
「あ、本当に来てくれたんだ!!もう元気だよ!!」
次の日。私は早くウォミーに会いたくて、いつもより早めに家を出てウォミーの家に向かった。
家に着いてウォミーの部屋に行ったら、ベッドの上に腰掛けておもちゃを触っているウォミーがいた。
昨日と違いとても元気そうだ……風邪も完治まではしていないだろうけど粗方治ったようだ。
「でも安静に……ぶり返すと大変……」
「うん！暴れてないから大丈夫!!」
私はウォミーのベッドすぐ近くに置いてあった椅子に腰掛け、ウォミーとお話を始めた。
「もう熱も無いよ！確認してみる？」
「うん……!?」
とても元気な様子なのでウォミーが言う通りもう熱は無いのだろう。
でも確認してみるかと言ってきたので、念の為確認をしようと近くに置いてあった体温計を手に取ろうとしたのだが……
「なっ!?」
「ほら、そんなに熱くないでしょ？」
「う、うん……」
なんと、ウォミーは自分の額を私の額に当ててきた。
たしかにそんなに熱くないけど……それ以前に……
「か、顔……」
「うん？」
「顔近い……」
私の目前に、ウォミーの顔が広がっていた。
「あ、ごめんなさいアイシーお姉ちゃん。おでこ嫌だった？」
「いや……その……」
なんだか自分が熱を帯びているような感覚が走る……
ウォミーの顔を見ていると、なんだか自分が溶けているような錯覚に襲われる……とは言っても不思議と怖くなく、むしろ悦びを感じる。
「んー……ん〜？」
「ど、どうしたの？」
額を離してしまったウォミー。
そんなウォミーは少しの間何か考えてるそぶりを見せ、そして……
「やっぱり……アイシーお姉ちゃん暖かくなってる気がする」
「そう……なの？」
「うん。だってお姉ちゃんのおでこそんなに冷たくなかったもん。やっぱりお姉ちゃんも風邪？」
やはり私の身体が暖かくなっていると、心配そうに私に伝えてきた。
「それにほら……」
「わわっ!?」
「前に抱き付いた事あるけど、もっとヒエヒエでこんなに暖かくなかったもん。まだ冷たいけど、お姉ちゃんより雪のほうが冷たいぐらいだもん」
そして、私にぎゅっと抱きついてきた。
前に抱きつかれた時のようにウォミーの熱を感じる……
いや、違う。前はただウォミーの体温が熱かったけど……今は心地良い暖かさを感じる……
「大丈夫お姉ちゃん？」
「……うん……大丈夫……」
私が暖かくなっているのは……
「多分……病気じゃないと思う……」
「そうなの？」
「うん……」
もしかしたら……ウォミーから暖かさを貰っているからかもしれない。
「よかったー！お姉ちゃんに何かあるとボク嫌だもん！」
「どうして？」
「だって……」
いや……もしかしたらではなく、きっとそうだろう……
「ボク、アイシーお姉ちゃんの事大好きだもん!!」
「えっ!?」
だって……今ウォミーに大好きと言われて、その笑顔がくれる暖かさを嬉しく感じる自分がいるのだから……
「あれ？どうしたのお姉ちゃん？」
「あ……その……ありがと……」
それだけじゃない……
「私も……ウォミーの事好き……」
「ホント!?ありがとーお姉ちゃん!!」
自分でウォミーの事を好きと言ったら、確かな暖かさを感じたのだから……
「じゃあこれからもよろしくねお姉ちゃん！」
「うん……ずっと一緒……」
抱きついてるウォミーにぎゅっとすると、ぎゅっとしてくれる……
たしかにぽかぽかして心地良い……
将来、もし私に人間の旦那が出来るとしたら、それは……
「……ふふっ……」
「ん？何かおかしかった？」
「ううん……嬉しかっただけ……」
「ん〜？ヘンなの〜」
より一層強くウォミーを抱きしめながら、私は将来大きくなったウォミーの隣にいる想像をして、つい微笑んでしまっていた……
グラキエス……それは氷の精霊。
もちろん氷なので、身体はとても冷たい。
そんなグラキエスである私も、前は身体は冷たかった。
でも……そんな私も、一人の男の子と関わるうちに暖かくなっていた。
まだ人と比べたら冷たいけど、彼とこれからを共に過ごしたら、人と同じになるのもそう時間は掛からないかもしれなかった……
開口一番でそう言ってきたのは、昔馴染みのイエティだ。
「だって、ぎゅーってすると、ぎゅーってしてくれるんだよ？ぽかぽかするんだよ？」
「そう……」
たまたまこのイエティの家(洞窟)の近くを通ったので顔を出したのだが、なんとこのイエティの家にはしばらく会わないうちに人間の男が一人住み着いていた。
本人が言うには旦那との事……その人間を抱きながら嬉しそうに語っている。
「チュー♪…早くアイシーちゃんにもいい人が見つかるといいね！」
「……」
人間にアツくキスをしながらそう言ってきたイエティ。
アイシーというのは私の事だから、この場合は私に早く旦那が出来るといいねという事だろう。
でも、私にはそれの何がいいのかわからない。
人間は所詮人間だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「あっ、もう帰るの？じゃーねー!!」
「……」
これ以上ここにいる理由もないので、私は再び外に出た。
別にこれといった用があったわけでもないし、特に問題は無いだろう。
それに近くに居過ぎるとこのイエティでも私の冷気で凍えてしまうだろう……だからというわけでもないが、私は退散する事にしたのだった。
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「……」
私は雪の降る中で雪山を、一人静かに散歩中。
別に氷の女王様の命令というわけでもなければ、私の糧となる精を持つ人間を探しているわけでもない。
特にする事がなかったが、じっとしていたくも無かったので、気晴らしに散歩しているだけだ。
だから途中で偶々あのイエティの家の近くを通ったから顔を出したのだが……まさか人間と結ばれているとは。
まあおかしいとかは思わないし、別に誰を好きになろうがあいつの勝手だ。
だが、何故私に人間と結ばれる事を勧めたのかがわからない……私にとって人間は人間、それ以外の何物でもないので興味など湧かない。
「……ん？」
そのまま雪山を一人で散歩していたのだが、雪と木以外何も無いはずのこんな場所で、何かが動いた影が見えた。
小動物か何かだろうけど…まあ他にする事も無いので行くだけ行ってみる事にした。
別にそれが小動物ならそのまま見てればいいだけだし、魔物や人間でも私達や女王様に危害を加える様でなければどうでもいい。男であれば散歩の労力分の精を少し戴くというのもいいかもしれない。
ただ、私達に危害を加える様な人間の可能性も否定出来ないので、確認しに行く事は悪い事ではないだろう。
この山の麓にある村は全て親魔物領なのでそうはいないとは思うが、万が一という事もある。
「……」
という事で私は早速影が見えた場所まで移動してみたのだが……
「んしょ……よいしょ……ん？お姉ちゃん誰？」
「……」
そこにいたのは、ある意味では予想通りではあったが……人間の子供が一人で雪を球状にかき集めて何かを作っていた。
この男の子の見た目的には7歳前後だろう…これなら危害どころか精を戴く事もままならない。
なのでこの男の子には特に用事はないので私は再び雪原の散歩に戻ろうとした。
「ねーねーお姉ちゃんって何の魔物？お姉ちゃんみたいな氷の魔物見た事無いや。イエティさんとかジパングのゆきおんなさんとは違うよね？」
「……グラキエス……」
「へぇー！グラキエスって魔物なんだねお姉ちゃん！」
しかし、この人間の男の子は私に興味を持ったらしい。私に話し掛けてきた。
私はこの男の子に興味は無いとはいえ、無視してしつこつ付き纏われても鬱陶しいので手短に答えた。
相手にする気も無いし、これで興味を無くしてくれたらいいが……
「ふおぉ…！見た目みたいに冷たいねお姉ちゃん！」
「……」
だが、その判断は間違っていたようだ。
男の子は興味を無くすどころか余計に興味を持ったらしい……あろう事か私の身体をペタペタと触り始めた。
「わああすごーい！ヒエヒエ〜!!でも柔らか〜い!!」
「…………」
それどころか私の太腿やお尻や胸まで触り始めた男の子……子供の行動とはいえ、流石に腹が立ってきた。
そもそも他人にベタベタされるのは好きではないのに……デリケートな部分を触られていい気分なんかする訳がない。
だから私は……
「……」
「あぷっ!?」
少し強めにその男の子を突き飛ばした。
それが原因で尻餅をついたとしても、地面は柔らかな雪で覆われているから痛くはないだろうし、怪我をさせる事もないだろうと思っておもいっきり力強く押したのだが……
「わっうわあああぁぁぁぁぁぁ…………」
「!?」
今日はやる事全てが裏目に出るらしい……
突き飛ばした力が強過ぎたのか……その男の子は尻餅どころか叫びながら雪山を転がり落ちていった。
「しまった……」
流石にやり過ぎたと思ったので、私は転がり続ける男の子を追った。
死んではいないだろうけど、怪我とかしているかもしれないし……とにかく無事を確認しなければ……
「……大丈夫？」
「うーん……」
数10メートル先で雪の中に埋まりようやく止まった男の子。
私は男の子を雪の中から引っこ抜き、無事を確認するために声をかけた。
身体は動いているし、呻き声も出ているので生きてはいるだろうけど……怪我していないとは限らない。
とりあえずひっくり返し、顔を見れる様にしたが……
「えははっ！ゴロゴロ〜って面白かった！」
「……」
物凄い笑顔で喜んでいた。
ただし、鼻血を流しながらだ。
「ごめんなさい……」
「へっ？何が？」
「鼻血……」
「ん？あ、ホントだ！」
先に私のデリケートな部分を触ってきたのはこの男の子の方ではあるが、怪我させた事でかなりの罪悪感を感じきた。
笑顔でポケットの中に入れていたティッシュで拭き取ったら血は収まっていたのでたいした事はなさそうだ……だが、たいした事はないとはいえ怪我させたのは事実だ。
なのでとにかく謝ったが……男の子は自分が鼻血を流していた事すら気付いていなかったようだ。
「痛くない？」
「全然！ちょっと怖かったけど楽しかったよ!!」
「そう……」
とにかく無事で何よりだ。
始めからこの男の子が私の身体を必要以上に触らなければこうなる事も無かったのだが……まあグラキエスを見たのが初めてらしいし、子供がいろいろと興味持つのは仕方が無いから叱るのは野暮だろう。
「それじゃあ……」
それ以外に怪我らしきものは無く元気そうなので、私は帰る事にした。
別にこの男の子に用事は無いし、散歩も十分したからだ。
「あ、グラキエスのお姉ちゃん！」
「……？」
だが、この場から去ろうとする私を男の子は呼びとめて……
「明日もヒマだったらここにきて!!」
「……」
明日もここにきてと、私にお願いをしてきた。
「じゃーねー!!」
「……」
そして大きく手を振って私を見送っていた……
「……」
何故また明日も来てと言ったのかよくわからない。
というかあの男の子は明日もあそこに居るつもりなのだろうか？
だが、明日もやる事は無く暇といえば暇なので暇潰しに行ってみても良いだろう。
この日はまだ、男の子の事はただの暇潰し程度としか思ってなかった……
……………………
「……」
あの男の子と会った次の日の同じような時間。
雪山を登山していた男から精を貰い、昨日男の子がいた場所に向かっていた。
別に会いたいとかそういう事は無いが、一方的とはいえ約束を破るのもよくないだろう。
「……よしかんせー!!」
「……」
そしてその場所が見えてきたのだが……昨日自分で言った通り、そこには昨日の男の子がいた。
昨日作っていた大きな雪玉の上にもう一つ一回り小さな雪玉を乗せ、木の枝とかで顔みたいなものを形成していた。
「……何してるの？」
「あ！昨日のグラキエスのお姉ちゃん!!」
何か必死に作っててこちらに気付いてなさそうだったので、とりあえずこちらから声を掛けてみた。
「見て見て〜雪だるま〜!!」
「雪だるま？」
「うん！雪で出来たお人形さん！ボクが一人で作ったんだ!!」
私が居る事に気付いた男の子は、私に作っていたものを見せつけてきた。
本人曰く雪だるまというものらしい……
「どう？結構頑張って作ったんだけど凄い？」
「……わからない……」
「えー!?」
雪で出来たお人形が凄いかと聞かれたが……そもそもこれは人形というのだろうか？
たしかに太い木の枝で手みたいにしてあるし、顔も人間のように見えなくもないから人形だろうけど……特に凄くは無いと思う。
なので正直わからないと答えたら、もの凄く不満のある顔で男の子が抗議してきた。
「誰の手も借りずに一人で作ったんだよ！」
「そう……それで？」
「それでって……」
一人で作ったから何だというのだろうか？
たしかに非力な人間の子供がこんな大きな雪玉（下のに至っては丸まったイエティ並みはあると思う）を作るのは大変かもしれないが、時間を掛ければ誰でも出来る事なので別段凄いとは思わない。
「むぅ……じゃあお姉ちゃんが作ってみてよ」
「……え？」
ただまあ嘘でも褒めておいたほうがよかったかもしれない。
むくれた男の子が、私に同じものを作ってみろと面倒な事を言い始めた。
「何？作れないの？」
「……」
こんな物を作って何になるかはわからないが、作らなければ余計面倒な事になりそうだ。
「見てて……」
だから私は、少年の言う雪だるまを作る事にしたのだった……
………
……
…
「……完成」
「ふおお〜っ!?」
あれから10分。
私と男の子の目の前にはきっちりした円形を描いた雪玉を縦に二つ並べたものに氷の結晶で表情や手を付け加えた雪の人形……もとい雪だるまが堂々と置かれていた。
もちろんこれは私が10分で作ったものだ。男の子の物より数倍は立派だと自分は思う。
あれこれ試行錯誤しながらだったので少し時間は掛かったが、氷の精霊である私にはこれを作る事は造作も無い事だ。
「すっごーい!!パパッと雪だるま作っちゃった!!お姉ちゃん凄いよ!!」
「どうも……」
私が作った雪だるまを見て、男の子は大はしゃぎしている。
嫉妬してムキになって泣き始めたりするかとも思ったが、このはしゃぎ様ではそんな心配は無いようだ。
「お姉ちゃん雪だるま作りの天才だよ!!」
「……」
やたら私を褒めてくる男の子……少しだけ嬉しく思うところも無い事は無いが、こんな雪人形を作るのが上手だから何だというのだろうかと思うとそう嬉しくも無い。
「そっかーお姉ちゃん氷の魔物だもんね。もっと凄いのとか作れるの？」
「……」
そんな男の子は、もっと私に色々と作ってみてと言いたげにこちらを見てきた。
折角戴いた分の精が無くなってしまうので出来ればこれ以上作りたくは無いのだが……
「ねーねー」
「……」
キラキラとした目で興味津々にこちらを見てくるので、いかんせん断り辛い。
「……はぁ……仕方ないか……」
「えっ何か作ってくれるの!?」
なので、仕方なく私は簡単なものを作ってあげる事にした。
「……」
自身の魔力で空気中の水分を掌の上で凝縮させ、私の頭に浮かんだイメージ通りに形を整えていく。
細く、そして滑らかになるように表面を整えながら、肥大化し過ぎないよう微調整を重ね……
「……これでいい？」
「うわーっ!!氷で出来たお姉ちゃんだー!!」
氷で出来た掌サイズの私……というよりグラキエスを作り、男の子に渡してあげた。
グラキエスなのは、やはり自分に関係するものが一番思い浮かべやすいからだ。
まあ男の子は私以外のグラキエスに会った事が無いようなので私と思っても仕方はあるまい。
「すごいすごーい!!きゃはは〜!!」
「……」
それにしてもすごいはしゃぎ様である。
私が渡した氷の人形を手に持ち、雪の上をゴロゴロと転がりながら嬉しそうに笑っている。
「……それあげる……」
「えっいいの!?わーいありがとー!!」
「わっと……」
あまりにも嬉しそうにしているので、私は今作った人形を男の子にあげる事にした。
別に私自身いらないし、そこまで嬉しそうにするならあげようと思ったまでだ。
なのであげると言ったら、男の子は満面の笑みを浮かべ私に抱き付きながらお礼を言ってきた。
「むーお姉ちゃんヒエヒエ〜」
「グラキエスは氷の精霊……冷たくて当たり前……」
「そんなものなんだー……でも柔らかいから温かーい」
「ん？まあいいや、離すよ……」
今回は変な所を触っていないのでそのままにしておいた。
男の子と接触している部分が熱いが、しばらくするうちに私の冷気で冷えてきたのかそんな熱も感じなくなってきた。
このままだと精を取る事になりかねない為、私は男の子を引き剥がした。
「それじゃあ……」
「えーもう帰っちゃうの？」
空を見ると雲行きが怪しかったのでそのまま今日は帰ろうとしたら、男の子がもう帰るのかと言ってきた。
「君も早く帰った方がいい……」
「えっなんで？」
「もう少ししたら吹雪が来る……」
「えっそうなの!?じゃあ帰らないと!!」
なのでこの天気では数十分したら吹雪くだろう事を男の子に伝えたら、大人しく帰る事にしたようだ。
麓の村の子であればここからなら吹雪が来る前に帰れるだろう……一人でここまで来ているわけだし、見送る必要も無い。
「じゃーねーお姉ちゃん!!また明日!!」
「……へ？」
だからここで別れ、それぞれの家に向かう事にしたのだが……男の子は別れ際に私に向かってまた明日と言ってきた。
つまりは、明日もここに来るつもりで、私に会うつもりなのだろうか？
「……」
どういう事か聞こうにも既に向こうは粉雪程度の大きさになっていたので聞けない……
仕方が無いのでまた明日も行く事にしようか。そう考えながら私は帰路に着いたのであった……
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「そういえば、お姉ちゃんって名前あるの？」
「……アイシー……」
「へーお姉ちゃんってアイシーっていうんだ！」
あれから一週間、私は毎日この男の子と会っていた。
毎日会って、別れる度にまた明日と言われてしまうので、4日前ほどにどうして次の日も私と会いたいのか聞いてみたところ……
『だってお姉ちゃんと一緒にいると楽しいもん!!』
……と言われてしまった。
まあ私も生きる為に男から精を貰う事以外は特にする事も無いので、結局毎日会いに来ていた。
ここ2日ぐらいはこの男の子に会う事が日課となりつつある程だ。
「君の名前は？」
「あれ？そういえば言った事無かったね！ボクはウォミー!!あらためてよろしくねアイシーお姉ちゃん!!」
「よろしく……」
ただまあ、この男の子の名前がウォミーというのは今初めて知ったが。
毎日会ううちに少しこのウォミーの事が気になり始めたので聞いてみたのだが……何故自分がウォミーに興味があるのかは自分自身もわからなかった。
「今日は何して遊ぶアイシーお姉ちゃん？」
「何でもいい……ウォミーの好きな事でいいよ……」
「うーん……じゃあまた雪や氷で何か作って!!」
今日はどうやら雪像や氷像を作ってほしいらしい。
以前作った物がよほど感動したらしく、2日か3日に一度そうお願いしてくるウォミー。
「いいよ。何作ってほしい？」
「んー……大きな建物!!」
「わかった……」
始めは魔力を使い疲れるのであまり乗り気になれなかったが、何を作っても喜んでくれるウォミーを見ていると作ってよかったと思えるようになってきた。
なので私は躊躇う事無くウォミーの願いを聞き入れた。
「……」
魔力を集中させ、目の前の開けた雪原に冷気を集めて……
こちら側とは反対側の山から、遠くにうっすらと見える城をイメージしながら形作っていき……
「……」
「おお〜っ!!氷のお城だー!!」
私の数倍は大きい城の形をさせた氷像を、あっという間に作り終えた。
流石に規模が少し大きいので疲れたが、ウォミーが喜んでくれたのでよしとしよう。
「ねえアイシーお姉ちゃん、このお城って中に入れる？」
「無理……でも登る事は出来る」
「ホント！じゃあ登る!!」
流石に内部までは考えていないので大きな入口からこの氷の城に入る事は不可能だが、そんな事を言ってくるような気がしたので城の上部に登れるように裏に階段を作っておいた。
それをウォミー伝えたらにこやかな笑顔のまま走って階段まで行き、いそいそと登り始めた。
「わあー!!ボクの住んでるお家が見える!!」
「そうなの？」
「うん！ほら、あの村にある茶色い屋根のお家!!」
「へぇ…………」
城のバルコニー部分から落ちない程度に身を乗り出して遠くを見ては大はしゃぎするウォミー。
自分の村の方をみて、自分が住んでいる家を見つけたようだ。私に教えてくれた……けど、よくわからなかった。
「こんな高いところからあの村見た事ないや……あんな風になってたんだな……」
「……？」
そして自分の家を見ているうちに、少し寂しそうにし始めたウォミー。
私はウォミーから精を奪った記憶は無いので、おそらく家を見た事によって少し寂しくなったのだろう。
「そういえばアイシーお姉ちゃん」
「ん？」
「お姉ちゃん疲れてる？」
「まあ……」
そんなウォミーがふと私の顔を見て、そう言ってきた。
どうやら疲れが表情に出ていたらしい……まあこんな大きな物を作ったのだ。それなりに魔力は消費したし、精神的にも疲れは溜まる。
「もしかしてこんな大きな建物を作ったから疲れたの？」
「うん。でもウォミーが気にする事じゃないよ。私が自分でこれを作ったんだもの」
「でも……」
何故私が疲れているのかを察したようで、少し暗くなってしまったウォミー。
だがこの氷の城を作ったのは私の意志だ。ウォミーは大きな建物という注文をしただけで、ここまでものを作れと言ったわけじゃないので自分を責める必要は一切無いのだが……
「そうだ！アイシーお姉ちゃん！ボクの精ってやつ貰ってよ！」
「……え？」
それでも何か私にお詫びがしたいようで、私に精をあげると言い始めた。
以前私が普段何を食べているのかと聞かれたので、私が精を糧に生きている事は知っていてもおかしくないし、同様の理由でウォミー達人間、特に男性が精を沢山持っている事は知っているのでそう言ったのだろう。
だがウォミーはまだ8歳（これも以前本人が言っていた）の子供だ……そう易々と貰っていい物では無い。
「いいよ！ボクのわがままで疲れちゃったんだから遠慮しないでよ!!」
「……」
だが……ウォミーはあげる気満々だし、私としても少しでもいいので欲しいところではある。
「……わかった。じっとしてて……」
「うん！」
なので、本当に少しだけ貰う事にした。
ウォミーの周りに冷気を漂わせ、少しずつ精を奪う……
「うぅ……寒い……」
「……」
案の定少し奪っただけでウォミーは寒さに震え始めた。
しかし……私はもう少し欲しいと、そのままウォミーから取り続けた。
なぜなら……今まで奪った誰よりも、ウォミーの精は上質で、少量だというのに元気になってきたからだ。
そして、元気になったと同時に、私の中で何かがもっと欲しいと訴えてくるので、止めようにもなかなか止められずにいたのだ。
しかし……
「うぅ……お母さん……お父さん……」
「っ!?」
私の冷気の効果で、寂しさのあまり泣き始めたウォミーを見て正気になった私はそこで精を奪うのを止めた。
「ご、ゴメンなさい……やり過ぎた……」
「ううん……いいよ……」
自分でもどうしてもっと欲しいと思ったのかはよくわからなかったが、とにかく奪い過ぎたのは事実だ。
謝ってもどうしようもないが、とにかく私はウォミーに謝った。
「今日はもう帰った方がいい……」
「うん……」
ただでさえ村を見て若干寂しそうにしていたのに、そこで私の冷気の効果が来たのだ。今日は早く帰った方がいい。
だから今日は帰宅する事を勧めたのだが……
「それじゃあ……」
「待ってアイシーお姉ちゃん！一人にしないで!!」
私が帰ろうとすると、一人にしないでと後ろから抱きついてきた。
どうやらそこまで心を凍えさせてしまったらしい……
「じゃあ……一緒にウォミーの家まで行こう」
「えっいいの？」
「ウォミーが寂しくなったのも私のせい。だから一緒に行く……」
「ありがとーアイシーお姉ちゃん!!」
流石にそんなウォミーを放って帰る事は出来ないので、私は一緒にウォミーの家に向かう事にしたのだった……
………
……
…
「ここが村……」
「あれ？アイシーお姉ちゃん村まで来た事無いの？」
「うん……」
氷の城を片付けた後、ウォミーと一緒に手を繋ぎながら村まで来た私。
冷たくは無いのかと思ったのだが、ウォミーがどうしてもというので手袋越しで手を握っている。
それと……そこまで遠くは無いとはいえ、普段村まで行く用事は無い為実際に訪れたのは初めてだった。
「人……多いね……」
「そうかな〜？」
周りを見るとあちこちに人がいる。
食材を買っている老婆や、仲良さそうに歩いている夫婦だと思われる妖狐と男性、誰かを待っている雪国だからか流石に着込んでいるサキュバスなど、山とは違いかなりの人や魔物がいた。
しかし、ウォミーはそうでもないと言いたそうだ。
「ボク最近この村に来たばかりだからな〜」
「へぇ…そうなんだ……」
「うん。もっと大きな街に住んでたんだけど、お父さんのお仕事の関係でこの村にお引っ越ししたんだ」
「なるほどね……」
もっと大きな街にいたのならたしかにこの人数は多く感じないのかもしれない。
それでも、雪山に住んでいる私には大勢いるように感じる。
「家はまだ？」
「もうちょっと……ほら、あそこの家だよ!!」
村を見ながら歩いているうちに、ウォミーの家に着いたようだ。
なるほど……たしかに屋根の色は茶色だ。
「お母さんただいまー!!」
「おかえりウォミー……ってあら？」
「どうも……」
玄関を叩くと、中からウォミーの母親と思わしき女性が出てきた。
「あなたがウォミーと毎日遊んで下さったグラキエスさん？」
「えー……はい……」
「あのねお母さん！お姉ちゃんはアイシーって名前なんだよ!!」
「あらそうなの。ウォミーを送って下さりありがとうございます」
「いえ……」
やはり親子らしい……ウォミーと同じく明るい人だ。
「ほらお上がり。外は寒かったでしょ？」
「うん！」
「アイシーさんも。飲み物でもいかがですか？」
「いえ……私はすぐ帰りますので……」
ウォミーは私の手を離し、家の中に入っていった。
少し手に残るウォミーの熱が、なんだか寂しさを伝えてくるような気がする……
「では……」
「毎日ありがとうございます。この子ったら引っ越してきてからなかなか友達が出来なくて……また遊んでやって下さいね」
「えっ!?あ、はい……」
その寂しさに疑問を抱きながらも帰ろうとした時に、ウォミーの母親から礼を言われた。
しかし……ウォミーに友達が出来ないのか……
性格的には私よりはよっぽど友達も出来そうであるが……村の中でも一人ぐらいしか見なかったし、そもそも同世代が少ないのだろう。
だから毎日私に一人で会いに来ていたのか……多少疑問に感じてきたが、これでその疑問は解決した。
「……」
私は一人、村から自分の家に帰る。
それはいつも通りのはずなのに、何故だか寂しく感じた……
＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝
「……あれ？」
更に一月程経ったある日の事。
私はウォミーに会いに、いつもの場所に向かったのだが……
「……いない……」
初めて会った日から毎日この時間にここに行けば会えたウォミーが、今日は何故か居なかった。
「……」
昨日特に何かあったわけじゃない。
しいて言うならば……昨日のウォミーは私の助けなしに雪で家を作ろうとして、なんとか形は出来ていたけどきちんと固まっておらず結局崩れ雪に埋まったりしていたので、もしかしたら風邪でも引いたかもしれない。
「…………」
でも……もしかしたら何かしらの事故に遭ってるかもしれないので、私は無事を確認するためにもウォミーの家に向かう事にした。
一月前に一度行ったきりだったが、なんとなくであるものの覚えているので行く事は出来るだろう。
だから私はその足でウォミーの家に向かおうとした、その時だった……
「やっほーアイシーちゃん！」
「!?」
後ろからもこもこしたもの……昔馴染みのイエティに抱きつかれてしまった。
「……何？」
「あうぅ……なんだかお怒りだね〜……」
「用事ある……離れて……」
急いでウォミーの家に行こうとしたところでの強襲に、私は少し不機嫌になった。
おそらくたまたま散歩中に私を見つけたから抱きついてきたのだろうけど……いかんせんタイミングが悪い。
「あれ？」
「……何？」
とにかく早く離れてほしいのだが、イエティは離れるどころか何か疑問に思ったらしく私をより抱きしめてきた。
本当にそろそろ離してほしい……だから、冷気で凍らしてやろうかと考え始めた時だった。
「なんかアイシーちゃん前より暖かい？」
「……え？」
私に抱きついていたイエティが、私が前より暖かくなっていると言ってきた。
「前にアイシーちゃんをぎゅーってした時はぎゅーってしても冷たかったんだけどー、今はぎゅーってしたらなんかぽかぽかして暖かく感じるよ！」
「本当に？」
「うん。旦那様よりはぽかぽかしないけど、それでもぎゅーってやるとぽかぽかするよ」
私自身そんな気は全く無いのだが……抱きついてる本人がそう言うならそうなのかもしれない。
いやでも……氷の精霊である私が暖かくなるなんてあるのだろうか？
「あ、そういえば用事あるんだよね？」
「うん……」
疑問に思ってた私をようやく解放したイエティ。
「もしかしてアイシーちゃんも旦那様見つけたの？」
「違う……？」
私の用事を旦那探しか何かと思ったらしくそんな事を言ってきたが、私はウォミー以外の人間などに興味は無いので違う。
そう……違うはずなのだが……何か引っかかるような気がした。
「まあいいや。じゃね〜!!」
「じゃあ……」
自分の気持ちがよくわからない……けど、とりあえず私はウォミーの様子を見に行く事にしたのだった。
………
……
…
「……」
村に着いた私は、他には一切目移りしないで一直線にウォミーの家に向かっていた。
道中では注意深く探してみたが居なかったので、雪に埋もれていたりはしてないはずなのでおそらく家に居るはずだ。
「すみません……」
「はいどなた……あらアイシーちゃん。久しぶりね〜」
「どうも……」
少し急ぎ足で移動して、ようやく辿り着いたウォミーの家。
私は早速戸を叩いた……数秒ほどでウォミーの母親が出てきた。
「どうかしたの？」
「いえ……ウォミーがいなかったので……」
「あら……わざわざありがとうね。あの子昨日の夜から熱出しちゃっててね……今は一応落ち着いて安静にしてるわ」
「そうですか……」
どうやら本当に風邪を引いてしまったらしい。
まあ命に係わる程の風邪ではなさそうなので安心した。
「そうだ。あの子のお見舞いしていく？」
「え……」
「お時間があるなら是非あの子に会ってくれないかしら。約束したのに今日は行けないやと落ち込んでいたので……」
「そうですか……では……」
無事も確認できたので今日はもう帰ろうかと思ったが、お見舞いしていかないかとウォミーの母親に言われた。
別に他にやる事は無いし、私自身ウォミーに会いたかったのでお言葉に甘えさせてもらう事にした。
「ごほっごほっ……」
「大丈夫？」
「ごほっ……あ、アイシーお姉ちゃん！」
ウォミーの母親に部屋まで案内されて、早速入ってみたら、ベッドの上で大きな咳をしながら寝ているウォミーがいた。
顔を真っ赤にして辛そうにしているのでまだそこまで体調は回復していないのだろう。
「ゴメンね……昨日約束したのに今日行けなくて……」
「気にしてない……それにもし風邪引いて来てたら怒ってた……」
「う〜ごほっ……来てくれてありがとう……あとお姉ちゃんの手気持ち良い〜」
私が来たのに気付いて身体を起こしたウォミー。
でも風邪を引いているので、私はそんなウォミーの頭を手で押さえて再び寝かせた。
「でもなんかお姉ちゃんの手、会った時より暖かい気がする……お姉ちゃんも風邪？」
「ううん……」
ウォミーもイエティと同じ事を言う……
私の身体が少し暖かくなっているというのだろうか……
「とりあえず安心した……早く元気になってね」
「うん……ごほっ」
「明日も来る……だから大人しく寝る事……」
「え……来てくれるの？」
「うん」
とにかくウォミーもただの風邪だとわかったので、これ以上お邪魔して悪化させるのも悪いので帰る事にした。
本当はもっとウォミーとお話していたかったが……辛そうにしているウォミーを見て、今日は安静にしておいたほうがいいと判断した。
だから私は明日も行く事にした。
明日になれば少しは体調も良くなっているだろうし、お話もできるだろう。
「それじゃあ……」
「うん。バイバイアイシーお姉ちゃん、また明日……」
少し微笑みながらウォミーに手を振って別れる私。
ウォミーもベッドの上で寝ながら笑顔で手を振り返してくれた。
「……」
そして、帰宅中に思った……『どうして私はウォミーの事がこんなにも気になるのだろうか？』と……
ウォミーに限らず、今まで私は人間に興味など持った事はない……それなのに、ウォミーと付き合ううちに片時もウォミーの事を考えてない時が無くなっていた程になっている。
それに……なんだか最近は人間から貰う精が冷たく味気無いように思えてくる……ウォミーから貰って以降特にそう思えるようになった。
この心境の変化と私の身体が少し暖かくなっているのには何か関係があるのだろうか？
「……まあいいか……」
自分の変化に驚きつつも、私がウォミーと仲が良い事には変わらない。
早く明日にならないかと思いつつ、私は帰路に着いたのだった……
……………………
「……大丈夫？」
「あ、本当に来てくれたんだ!!もう元気だよ!!」
次の日。私は早くウォミーに会いたくて、いつもより早めに家を出てウォミーの家に向かった。
家に着いてウォミーの部屋に行ったら、ベッドの上に腰掛けておもちゃを触っているウォミーがいた。
昨日と違いとても元気そうだ……風邪も完治まではしていないだろうけど粗方治ったようだ。
「でも安静に……ぶり返すと大変……」
「うん！暴れてないから大丈夫!!」
私はウォミーのベッドすぐ近くに置いてあった椅子に腰掛け、ウォミーとお話を始めた。
「もう熱も無いよ！確認してみる？」
「うん……!?」
とても元気な様子なのでウォミーが言う通りもう熱は無いのだろう。
でも確認してみるかと言ってきたので、念の為確認をしようと近くに置いてあった体温計を手に取ろうとしたのだが……
「なっ!?」
「ほら、そんなに熱くないでしょ？」
「う、うん……」
なんと、ウォミーは自分の額を私の額に当ててきた。
たしかにそんなに熱くないけど……それ以前に……
「か、顔……」
「うん？」
「顔近い……」
私の目前に、ウォミーの顔が広がっていた。
「あ、ごめんなさいアイシーお姉ちゃん。おでこ嫌だった？」
「いや……その……」
なんだか自分が熱を帯びているような感覚が走る……
ウォミーの顔を見ていると、なんだか自分が溶けているような錯覚に襲われる……とは言っても不思議と怖くなく、むしろ悦びを感じる。
「んー……ん〜？」
「ど、どうしたの？」
額を離してしまったウォミー。
そんなウォミーは少しの間何か考えてるそぶりを見せ、そして……
「やっぱり……アイシーお姉ちゃん暖かくなってる気がする」
「そう……なの？」
「うん。だってお姉ちゃんのおでこそんなに冷たくなかったもん。やっぱりお姉ちゃんも風邪？」
やはり私の身体が暖かくなっていると、心配そうに私に伝えてきた。
「それにほら……」
「わわっ!?」
「前に抱き付いた事あるけど、もっとヒエヒエでこんなに暖かくなかったもん。まだ冷たいけど、お姉ちゃんより雪のほうが冷たいぐらいだもん」
そして、私にぎゅっと抱きついてきた。
前に抱きつかれた時のようにウォミーの熱を感じる……
いや、違う。前はただウォミーの体温が熱かったけど……今は心地良い暖かさを感じる……
「大丈夫お姉ちゃん？」
「……うん……大丈夫……」
私が暖かくなっているのは……
「多分……病気じゃないと思う……」
「そうなの？」
「うん……」
もしかしたら……ウォミーから暖かさを貰っているからかもしれない。
「よかったー！お姉ちゃんに何かあるとボク嫌だもん！」
「どうして？」
「だって……」
いや……もしかしたらではなく、きっとそうだろう……
「ボク、アイシーお姉ちゃんの事大好きだもん!!」
「えっ!?」
だって……今ウォミーに大好きと言われて、その笑顔がくれる暖かさを嬉しく感じる自分がいるのだから……
「あれ？どうしたのお姉ちゃん？」
「あ……その……ありがと……」
それだけじゃない……
「私も……ウォミーの事好き……」
「ホント!?ありがとーお姉ちゃん!!」
自分でウォミーの事を好きと言ったら、確かな暖かさを感じたのだから……
「じゃあこれからもよろしくねお姉ちゃん！」
「うん……ずっと一緒……」
抱きついてるウォミーにぎゅっとすると、ぎゅっとしてくれる……
たしかにぽかぽかして心地良い……
将来、もし私に人間の旦那が出来るとしたら、それは……
「……ふふっ……」
「ん？何かおかしかった？」
「ううん……嬉しかっただけ……」
「ん〜？ヘンなの〜」
より一層強くウォミーを抱きしめながら、私は将来大きくなったウォミーの隣にいる想像をして、つい微笑んでしまっていた……
グラキエス……それは氷の精霊。
もちろん氷なので、身体はとても冷たい。
そんなグラキエスである私も、前は身体は冷たかった。
でも……そんな私も、一人の男の子と関わるうちに暖かくなっていた。
まだ人と比べたら冷たいけど、彼とこれからを共に過ごしたら、人と同じになるのもそう時間は掛からないかもしれなかった……
13/01/01 21:20更新 / マイクロミー