出会いから繋がりまでの前編
カリカリ…カリカリ…
「……やめっ!!筆記用具を机に置き解答用紙に名前が書いてあるかを確認しなさい!」
「……」
終わった…2つの意味で終わった…
段々と涼しくなっていく季節…秋。
秋と言えば…スポーツの秋、食欲の秋、芸術の秋など様々な秋があるわけだが…これらは今の俺には縁の無い物だ。
読書の秋なら多少は縁があるかもしれないけど…読む本に書かれているのは英文法や数式の解き方などで…所謂参考書である。
何故そんな物を読むかと言うと…俺は今高校3年生…つまり受験生だからである。
「はぁ…」
「ん?どうしたそんな大きな溜め息を吐いて…」
「天才生徒会長様にはわかりませんよ…」
「そう言うな…それにもう世代交代したから元生徒会長だ」
「へいへい…じゃあロリファイブ一番の天才頭脳の持ち主にはわかりませんよ…」
「お前なあ…その言い方はどうかと思うぞ」
わざわざ休日に行ったセンター模試も終わり、あまり解けなかった事から酷い結果を予想し大きな溜め息を吐き机に伏していたらロリファイブ(同学年の途中で魔女化した者を除くロリ系魔物5人の事)の一人で同じクラスのエンジェル、そして天才元生徒会長の天野光里(あまのひかり)さんが話し掛けてきた。
俺達が通う学校で魔物が多いにも関わらず性的行為の全面禁止を校則に取り入れた(魔物にとっての)悪魔会長様は以前センター模試で950点中850点以上を取った天才である。
そんな相手に普段から500点台しか取れない俺に模試終了直後に話し掛けられたらこうしたひねくれた態度になってしまっても仕方ないだろう。
「それにだな村井、私は天才というわけではなく普段からコツコツ勉強しているから結果がでるんだ」
「お、俺だって勉強ぐらいしてるわ!!」
「そうか。ならお前があまり良い成績が取れないのは勉強中の集中力が足りないとか…」
「はいはいヒカリストップ!模試終わったばかりで説教を聞きたい人なんか誰も居ないからね」
しかしそんな俺の態度が気にくわなかったのか、それとも天才と言われたのが気にくわなかったのかは知らないが、長くなりそうな説教をしてきた天野さん。
そんな天野さんの説教を、同じ学校のロリファイブの一人であり天野さんと幼馴染みだって言われているバフォメットの八木晶子(やぎしょうこ)さんが止めてくれた。
「しょーこか…別に私は説教なんかしてないが?」
「自分で気付いていないようだけど十分説教してるけど?ねえ村井君?」
「知るかよ…こっちは模試の結果が酷くて落ち込んでんだよ…天才ばかり集まってくんな…」
「あはは…重症みたいだね…」
「だな…」
だが、そんな八木さんも天野さん程で無いにしろ頭が良い…聞いた話では理科と数学の2科目なら天野さんより上だとか。
そんな人が話し掛けてきても出来が悪くて机に伏している俺は対応する気にもならない。
だから俺の機嫌は良くならずに余計落ちるばかりだ。
「…しょーこ、帰るか」
「…そうだね。そうだヒカリ、小澤さんも村井君以上に沈んでると思うから拾っていこうよ」
「そうだな。じゃあ村井、また学校で」
「おう……」
そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか、二人は他のロリファイブの一人で俺以上に残念な成績をもつドワーフの小澤梶子(こざわかじこ)さんを拾って帰るために去っていった。
「はぁ…俺も帰るか……」
2人が去った後に1回大きな溜め息を吐いて、帰る準備をしようと顔を上げたら…
「……ん?なんだあれ?」
俺が座っている席から少し離れた場所に、少しオレンジっぽい赤い水溜まりがあった。
机や椅子に広がっているその水溜まりは…ゲル状なのかそんなに床下には広がっておらず、途中で膜のようになっている。
それ以上に謎なのは…その水溜まりの中にうちの学校の女子の制服が浸かっていた。
周りの人達は何故だか特に気にしてないようだけど…俺は気になるので近付いてみる事にした。
「……」
近付いてみてもよくわからなかったので、なんとなくちょんっと触ってみると…
「……ふにゅ〜……」
「うわあっ!?」
少しひんやりして弾力性があるなぁと思ったのも束の間、いきなりその水溜まりから声が聞こえてきた。
その声を聞いた俺がビックリして固まっていると……
「む〜…誰?」
「へっ?えっ?あ!」
「ん〜?同じ学校の男の子?」
赤い水溜まりが徐々に盛り上がっていき、机の上に人間の女の子の様な…しかもかなり可愛い部類の顔が形成された。
それと同時に水溜まりの中に浸かっていた制服も膨らんでいき…少々胸が大きめな女の子の身体の様になっていた。
あっという間にさっきの俺みたいに机に伏しているうちの学校の女子になった赤い水溜まり……俺は今まで全く接点が無いため知らなかったが、おそらく同じ学校に通っているレッドスライムだろう。
「えっと…君は?」
「わたし〜?わたしは3年2組の赤井愛理(あかいえり)だよ!それで君は誰?」
そんなレッドスライムの赤井さんに「誰?」と聞かれたので、知らない相手ではあるが少しお喋りをする事にした。
「俺は4組の村井和彰(むらいかずあき)。何で赤井さん今液状化してたの?」
「んーとね〜、模試が難しくて全然出来なかったから落ち込んでたの〜…」
「ああ…俺と似たような感じか…」
どうやら赤井さんも模試の出来が悪くて落ち込んでいたらしい。
おそらくアレはスライム属風の机に伏していた感じなのだろう。
「落ち込んでたら急に村井君がわたしの身体を触ってきたからビックリしたよ〜」
「へっ?あっ!!ご、ごめん!!何かよくわからなかったからつい…」
「別にいいよ〜!最初の頃は珍しさでよく触られてたし〜、友達にしょっちゅう抱きつかれたりしてるから気にしないよ〜」
「そ、そうか…」
先程触れられた時の事を言われ、慌てて謝ったが気にしてないと言われた。
今思えば女子の身体の一部を勝手に触ったわけで…あまり良い事とは言えないのだが、笑って許してくれたのでホッとした。
しかし…今の発言の中に少し引っ掛かるものがあったな…
「ん?珍しさって?たしかに青いスライムと比べたらレッドスライムは珍しいけど…」
「ほら、わたし達スライムってあまり頭良くないから〜…」
「あ〜…たしかにあまり高校生のスライム…というか公立の進学校に通ってるスライムって見ないし聞かないな…」
レッドスライムはたしかに珍しいと言えば珍しいけど、それでもさっき居たエンジェルやバフォメットと比べたら別段珍しくはない。
特に俺が住んでいる地域は結構魔物もいるし、スライムもレッドスライムもよく街中で見掛ける。
だから珍しさで触られたという発言が引っ掛かっていたのだけど…そういう事か。
「うん。結構友達にもスライムなのに頭良いねって言われるよ〜」
「その言い方はどうかと…事実かもしれないけどさ…」
スライム属は総じて思考は単純で深く考えられない種族のはずだ…悪い言い方をすると『おバカ』である。
まあダークスライムは賢いらしいけど、実際に見た事は一度も無いしよくわからないので除く事にする。
事実俺が中学生の頃、同級生にスライム2人とレッドスライム1人、そしてぬれおなごが1人いたけど…スライム2人はスライムに有利な職業に就職したし、レッドスライムとぬれおなごの2人は一応進学したが進学校ではないスライム等単純な思考をもつ魔物に適した学科(?)のある高校に行った。
だが俺の通っている高校は…エリート学校とは言わないし、それこそピンからキリまで揃ってはいるが、そこそこの進学校ではある。そんな学校にレッドとはいえスライムがいるっていうのはたしかに珍しいかもしれない。
「おいそこの2人!!いつまでいるつもりだ!!この教室はもう施錠するから早く帰れ!!」
「あっ、すいません!!」
「はい!すぐに帰ります〜!!」
と、2人で喋ってたら試験監督をしていた人に早く帰れと怒られてしまった。
どうやら2人で喋っているうちに結構時間が経っていたようで、いつの間にか教室内には俺と赤井さんしか残っていなかった。
迷惑をかける事にもなるので、俺達は2人とも慌てて教室から飛び出した…
………
……
…
「ねぇ、村井君って家こっちのほうなの〜?」
「おう。この地区の3丁目のほうだ」
「え〜!?意外と近いね〜!わたしすぐ隣の地区の1丁目だよ〜」
「えっ!?じゃあもしかしたら俺達の家って徒歩10分の距離も離れて無いんじゃね?」
「かもね〜」
模試の会場から出た後、俺達はそのままの流れで一緒に帰る事になった。
話しているうちに互いの家が近い事もわかり、話も盛り上がっていた。
「でも戦争って嫌になっちゃうよね〜」
「えっ?何故いきなり戦争の話?」
「ほら〜受験戦争〜」
「…ああそうだな」
…まあ時々よくわからない事を赤井さんは唐突に言ってきたりもするが、楽しくお喋りしながら夜道を2人並んで歩いていた。
レッドスライムとはいえ、同級生の異性とこんなに長く喋ったのは初めてかもしれない。
「はぁ…自己採点したくねぇ〜…」
「わたしも〜…絶対先生に何か言われるもん…」
「先生どころか親にも何言われるか…はぁ……」
だが、家が近付いてくるにつれ現実が楽しい雰囲気をぶち壊す。
暗い気持ちになるにつれ段々と互いに口数が減っていき、いつしか俺のとぼとぼと歩く足音と赤井さんの身体をペタペタと引き摺る(?)音しか聞こえなくなっていた。
そして俺の家が見えてきた辺りで…
「ところでさ〜、村井君は彼女いるの〜?」
「へっ!?なんでいきなり!?」
「なんとなくだよ〜」
突然赤井さんが彼女が居るかどうかを俺に聞いてきた。
「そういうのって魔物ならわかるんじゃないの?」
「ん〜…村井君いなそうだけど一応」
「その通りだよ…周りは女子ばっかなのにな」
あまり異性と長く話をした事のない俺は勿論彼女などいない。
通っている学校の男女比からして人間・魔物含め7割程が女子とこれだけなら彼女もできそうな気がするし、実際に休み時間に話をする事もあるにはあるのだが、俺自身が冴えない容姿や性格をしている為か男女の仲まで行った事はない。
「そういう赤井さんは彼氏居るの?」
「いないよ〜♪」
わかりきった事を聞かれて少しムッとした俺は同じくわかりきった事を聞き返してみた。
もし赤井さんに彼氏がいたとしたら俺と一緒に帰ってなどいないだろうからいないと思っていたが、やっぱりいなかった。
ただ、いないと言った赤井さんが嬉しそうなのは何故なんだろうか?
「あ、俺の家ここね」
「へぇ〜やっぱりわたしの家と近いね〜。ここからなら本当に10分位だよ〜」
と、話しているうちに家に着いてしまった。
「それなら家まで送ってくよ」
「え〜!?いいよ〜迷惑だし〜」
「いいよ気にしなくて。近いんだし、もう夜遅いから女の子が一人で歩いてるのは危ないしね」
「じゃあ…お願いしようかな〜…」
「おう!じゃあ行こうか!!」
だが、俺はもう少し赤井さんと話をしていたかった。
なので俺は暗い夜道を女の子一人で歩かせるわけにはいかないとそれっぽい理由をつけて赤井さんの家まで行く事にした。
だから俺は荷物だけ玄関に投げ捨てて、俺達は再び歩きだした。
「……」
「……」
どんな話をしようかなと考えつつ無言のまま歩き続けていたのだが…
「ねぇ村井君…」
「何赤井さん?」
突然赤井さんのほうから話し掛けてきた。
どうしたのだろうとジッと赤井さんを見ていたのだが…
「……やっぱり何でもない……」
「ん……そうかい……」
街灯の為か、それとも恥ずかしさでもあったのか、少し赤みを増したような顔を俯かせて何でもないと言ってきた。
気にはなるけど、しつこく聞くのも良くないだろうから聞き出さない事にする。
だから俺は別の話題を振る事にした。
「そういえば赤井さんって大学どこ目指してるの?」
「わたし〜?わたしは魔乃(まの)大学の教育学部目指してるの〜」
「えっマジで!?俺と一緒じゃんか!!」
「えー本当に〜!?」
どこの大学を目指しているのか気になったので聞いてみたら、なんと俺と全く同じ大学の学部を目指していた。
つまり…赤井さんは俺のライバルになるというわけ…
「一緒に頑張ろうね〜!!」
「えっ!?あ、うん…」
…とびっきりの笑顔で一緒に頑張ろうと言われてしまった。
「ん〜?もしかして村井君わたしとライバルになるとか思ってた〜?」
「へっ!?ま、まあ…」
笑顔でそう言われた事に驚いていたら、何か思ったらしく俺にこう聞いてきた赤井さん。
先程とは逆に少しムッとした表情をしている。
「も〜たしかに定員とか考えたら〜わたしと村井君は敵かもしれないけど〜、2人で一緒に頑張って2人で合格したほうが良いじゃんか〜!!」
「まあ…たしかに赤井さんの言う通りだけど…」
「それに戦争なら敵を作るより味方がいたほうが良いでしょ〜?」
「ま、まあ…実際の戦争とは違うけどそうだな…」
そのまま剣幕な表情で怒ってきた。
と言っても喋り方は相変わらすゆっくりしているので恐くはなくむしろ可愛い。
ただ身体を震わし力強く言うその姿には反論出来ず圧されっぱなしになってしまう。
まあ…言っている事はもっともだとは思うのでどちらにせよ反論する気はないが。
「だから村井君…一緒に頑張ろうね〜!!」
「お、おう…頑張ろうぜ!!」
そして言いたい事を言い切ったからか、それとも俺が反論しなかった事に気を良くしたのか、再び笑顔になった赤井さん。
一緒に頑張ろうと言いながら手を俺に出してきたので、俺はその手を強く握って頑張ろうと言い返した。
「ひゃうっ!?」
「ん?どうした急に変な声出して?」
「いやぁ〜、村井君の手が冷たかったのと強く握られたから驚いちゃった〜!」
「あっゴメン!!」
赤井さんの手を握った瞬間、強い反発力を感じたのと同時に突然彼女は大きな叫び声を出した。
どうしたのかと思ったら、どうやら俺の握った手が原因だったらしい。なので俺は慌ててその手を離した。
「あっ……」
手を離した時、ほんの少しだけ赤井さんが残念そうな声を出した気がした…けど、おそらく気のせいだろう。
「まあ一緒に頑張ろうな!」
「う、うん…そうだね〜!!」
俺からも一緒に頑張ろうって言ったら嬉しそうな表情をしていたのだから。
「あっ家に着いた〜」
「ああここか!何度か通った事あるわ!」
「本当に〜!?」
そのまま話しながら歩いてたら、あっという間に赤井さんの家に着いてしまった。
その家は何度か見た覚えがあるものだった…まあ特別目立った家ではないからあったなぁ…と思う程度であるが。
「それじゃあ赤井さん、また」
「うん…また月曜日にね〜!!」
そして俺達はここで別れた。
本音を言えばもっと喋っていたかったが、流石に今日知り合ったばかりのしかも異性の家におじゃまするわけにもいかない。
なので俺は赤井さんに別れの挨拶をして、今来た道を戻っていく事にした。
クラスも違う赤井さんがまた月曜日にねと言った意味を特に深く考える事無く帰った……
====================
「はぁ…いってきます…」
土曜日が模試だったせいであまり休んだ気がしなかった休日も終わり月曜日の朝、俺は沈んだ心で学校に向かった。
何故沈んでいるのかと言うと…予想通り模試の自己採点結果が悪かったからである。
勿論目標である魔乃大学のボーダーに全然届いてない程…本試験、少なくともセンター試験まであと2ヶ月程度だというのに…担任に何言われるか…
既に親には昨日1日中ブツブツ言われ…それも気分が沈んでいる原因の一つだ。
一生懸命勉強はしてるつもりなんだが…なかなかそれが結果に繋がらない…
時期が時期なので段々と焦りが生じてくる…が、どうにかしようにも何をすればいいのかわからない…
「はぁ……」
どよ〜んとした雰囲気を醸しながら玄関を出て、学校に行こうと道路に一歩踏み出したら…
「あっ村井君おはよ〜!!」
「おう…おはよ……ん?」
ちょっと俺が歩き始めたタイミングで、おはようと可愛らしい声で挨拶された。
反射で挨拶を返したが…今俺に挨拶をしたのは誰だ?聴いた覚えはある声だけど…
「タイミングぴったりだね〜♪一緒に学校行こ〜!!」
「あっ!赤井さん!!」
誰だろうと思って顔を上げたら…目の前には一昨日一緒に帰った相手、赤井さんがいた。
「何でここに?今まで見た事なかったのに…」
「村井君に遇えるかな〜って思って何時もと道を変えてみたの〜」
登校時に一度も見た事無い赤井さんが居たのが不思議だったので聞いてみたら、俺に遇えるかもしれないかと思ってわざわざ道を変えたとのこと。
これは…もしかして俺に気がある!?
「な、なんでわざわざ…」
「だって〜、1人で寂しく登校するより〜2人で楽しくお喋りしながらのほうが楽しいじゃ〜ん」
「え、あ、うん、そうだな」
なんだ…ただ寂しかったからか…
言い方的に俺でなくてもいい感じだな…
ほんのちょっぴりがっかりしながら、俺は赤井さんとお喋りしながら学校へ向かった。
「そういえば村井君、模試の自己採点どうだった〜?」
「あ、ああ…赤井さんはどうだった?」
「わたし〜?わたしは〜…魔乃大学のボーダーに全然届かなかった〜…」
「そっか…俺も似たようなものだよ…」
「村井君もか〜…なんとかしたいよね〜」
「ああ…そうだよな…はぁ…」
赤井さんと喋りながらの登校はかなり楽しかった。
女の子とお喋りしながら登校…今まで経験した事無いこの出来事に、俺はドキドキしながらも内心喜んでいた。
「でもなんとかしようって思ってもなぁ…」
「難しいよね〜…」
これで会話内容がこの前の模試や成績の事で無ければ最高だったのだが…赤井さんいわく受験戦争中だから仕方がない。
「なんで試験なんかあるんだろうな…希望した人間全員進学とかしてくれてもいいのに…」
「だよね〜…あっでもそれだと人気の大学だと溢れ返っちゃうよ〜」
「ああ…まあわかってるけど…でもそうであるといいなって思いたくもなってくるんだよな…」
「本当にね〜…」
こんな感じに赤井さんとお喋りしながら歩いていたら…
「頭良くなる薬とかどこかに落ちてねーかな…」
「欲しいけど〜そんな薬あったら皆飲んでるだろうから意味無いよ〜」
「だな…あ、もう学校か…」
「ん〜?あ〜ホントだ〜!」
あっという間に学校に着いてしまった。
「そんじゃ赤井さん、俺は4組だからここで…」
「うん〜、またね〜!!」
俺と赤井さんは違うクラスなので、俺達は2組の前で別れ自分のクラスの教室に入っていった……
…………
………
……
…
キーン、コーン、カーン、コーン……
「あれ…今日は補講無いんだな…」
「今日は英語だったけど先生の都合で無くなったって朝言ってたろ。聞いて無かったのか?」
「ああ…そういえばそんな事言ってたような…」
「言ってたようなって…やっぱり聞いて無かったのかよ…」
眠くなる授業も今日の分は全て終わり放課後。
何時もならば月曜日はこの後に英語の補講があるのだが…どうやら今日は無いらしい。
「お前今日の朝ずっとボーッとしてたけど何かあったのか?」
「ああ、まああったと言えばあったな…」
今朝は赤井さん…つまり女の子とお喋りしながら登校したという衝撃的な嬉しさを噛み締めていたので話があまり耳に入って来なかったのだ。
「ふーん…体操服を忘れたのもそれか?」
「いやそれはまた別…おかげでシャツが汗でベトベトして気持ち悪い…」
「忘れたから制服のまま体育に参加だもんな〜…まあ今日は早く帰れるし家で着替える事だな」
「そうする…」
体操服を忘れたのは朝から模試の結果で落ち込んでいたからだが、それで6限の体育は制服で受ける事になってしまった。
そのせいもあって、朝の幸せな時間は、帰りまでに帳消しになってしまったのだ。
唯一の救いは今日は放課後の辛い補講が無い事である。
「そんじゃ帰るか…じゃあな…」
「おう」
という事で俺は友達と別れ、家に帰る為に教室を出たら……
「あ、村井君〜!!」
「ん?あ、赤井さん!」
ちょうど教室を出たところで赤井さんとばったり会った。
「あれ…何で4組の前に?」
「帰る前に水分補給しておこうかなと思って〜」
「あーなるほどね」
昇降口は2組からすると4組と逆の位置にあるので、帰ろうとしているのであればここにいるとは思えなかったので何でか聞いてみたら、水分補給の為との事だった。
まあ赤井さんはレッドスライムだし水分も多分に必要なのかもしれない…のかはわからないが、身体が少し渇いてるのだろう。
つまり4組の向こうにある手洗い場に向かっていた赤井さんと遭遇したという事か…
「あれ〜?村井君汗だく〜?」
「えっあ、うん。さっき体育だったけど体操服忘れたせいで制服のまま受けてたから…」
と、やはり見ただけでわかるほど汗をかいたからか、赤井さんが俺に聞いてきた。
「タオルは〜?気持ち悪く無い〜?」
「この時期滅多にタオルなんか使わないからな…それと気持ち悪いってのもあるけど、汗が冷えてきてちょっと寒くなってきたかな…」
事実ベタついて気持ち悪いし、冷えてきている。
しかし何故そんな事気にするのだろうか?
なんて思ってたら……
「じゃあ吸い取ってあげる〜」
「へっ?うわちょ!?」
赤井さんがいきなり俺に抱き着いてきた。
「ほら動かないで〜」
「いやちょっとまっ!?」
それどころか、スライムの流体を生かして俺の服の隙間から侵入までしてきた。
どうやらシャツに染み込んだ汗を吸い取るつもりらしいが…いきなり抱き着かれ、更に密着されたような形になったので…
「ん〜…村井君の汗美味しいかも〜♪」
「えっ、はっ、ちょっ、ひゃっ、うわっ!?」
気持ち良いやら恥ずかしいやらで俺は半分パニック状態になって自分でもよくわからない声を出し続けていた。
とまあこの良いか悪いか微妙なところのこの出来事は、学校の3年4組の前の廊下で行われているわけだから当然野次馬の注目を集めてしまい、かなり恥ずかしい。
そして問題は学校で、しかも4組の目の前でこんな事をしているという事で……
「おいお前達…いったい何をしているのだ?」
「げっ!?」
悪魔会長様…もとい元生徒会長の天野さんが怒り顔で俺達の前に現れた。
「この学校では性的行為は禁止の筈なのだが…しかも私の目の前でやるとはな…何か言い訳はあるか?」
「えっと…」
正確には違うと思うのだが、どうやら天野さんには性的行為だと取られたらしい。
まあ実際身体中を赤井さんに包まれてるし、ぐにぐにとした動きには不思議な気持ち良さを俺に伝えてくる。
そのせいでまあ少し勃っているし…赤井さんの身体もそこに当たって……
「って俺は何考えてるんだ!?」
「はぁっ?いきなりなんだ?」
「あ、いえ…」
変に意識すると余計よろしくない事態になるので考えないようにしよう。
だが天野さんにどう説明しようか……
「あの〜会長さん〜?」
「ん?言い訳は考えたのか赤井?」
そう思ってたら、俺を包み込んでいた赤井さんが天野さんの方に顔だけ向けて……
「わたし別にエッチな事してないよ〜!」
「ほぉ…では村井に抱き着いて何をしているのだ?」
いつもと変わらない口調なりに、力強くそう言った。
「わたしは〜、村井君が冷えた汗で風邪をひかないように〜、汗を吸い取ってるだけだよ〜!」
「……ほぉ…一応理に敵っているな……」
そして今している事を説明し始めた赤井さん。
その説明に、一応納得してくれそう…
「だがそれがどうした?人前でけしからん事をしている事には変わりないだろ?」
…でもなさそうだ。
「え〜そんな事無いよ〜!!」
「赤井がその気でなくても、村井のほうはどうなんだ?」
「ええっ、お、俺もそんな事は…」
「ほう…ではその膨らんでいるものはなんだ?」
「なっ!?お、お前は何を言ってるんだ!?」
「事実を言っている。そうでないのなら勃起などしていないだろ?」
変わらず厳しい表情で俺達に言い寄ってくる天野さん。
この学校で一番厳しい校則である「学校内での性的行為の禁止」なのだが、これを破ると生徒会長直々の罰が与えられる。
この罰の内容は知られていない…だが、受けた者は次の日再起不能になり、内容を聞き出そうとすると震えだして何も言えなくなってしまうのだ。
しかも天野さんは自分の後継者(現会長である一つ下の学年のエルフ)にその罰を伝授したらしく、会長変わったからと校内セックスをしようとしたダークエルフが次の日再起不能になっていたので、会長変わったからと言って安心は全く出来ない。
そんな恐ろしい罰なんか受けたく無いので、なんとか罰を避けたいのだが…
「さあ…補講も無いことだし生徒会室まできてもらおうか」
「いやだから違うってば!!」
これはもう罰は避けられないかもしれない…
と、諦めかけていたその時……
「まあまあヒカリ、本人達は違うって言ってるし良いんじゃない?」
「な…何をいうのだしょーこ…」
思いもよらなかったとこから助け船が出された。
「大体どっからどうみても赤井さんが村井君にただ抱き着いてるだけじゃんか」
「いやしかしだな…」
「それに汗を吸い取ってるだけでしょ?レッドスライムなら問題無いじゃん。私達が水飲んでるのと同じようなものだし」
「いやそんな事は…」
天野さんに強く意見を言えるただ1人の魔物、天野さんの幼馴染みである八木さんが、この騒ぎに気付いたのか割って入ってきたのだ。
「大体ヒカリ、あんたもう会長引退したでしょ?」
「ま、まあそうだが…だが、私は校則を破る者を見逃せないのだ!!」
「だからその校則を破ってないのに取り締まってどうするの?」
「うっ…」
「何?ヒカリだから違うとは思うけど受験勉強によるストレスで八つ当たり?」
「ち、違う…」
グイグイと天野さんを追い詰める八木さん…流石バフォメット、上級魔物なだけある……って関係無いか。
「あーもういい!!赤井も村井も無罪放免!これでいいか?」
「お、おう…ありがとう天野さん、それに八木さんも…」
「あ、ありがとう〜」
そしてとうとう折れた天野さん。
これで罰を受けずに済む…八木さんには大感謝だ。
「まあ仕方ない…しょーこ、一緒に帰ろうか…」
「……あのね、今日補講が無いのは文系だけなんだけど……」
「ああ…そういえば先生違ったっけ…じゃあ図書室で勉強しながら待ってるよ」
「ん。終わったら向かうわ」
そして天野さんと八木さんは去っていった……
とにかく助かった…
赤井さんも汗を吸い取り終わったようで、いつの間にか俺の横で安心した表情で立っていた。
「じゃあ村井君〜、一緒に帰ろうか〜」
「そうだね一緒に帰ろうか……って一緒に!?」
「うん〜。駄目〜?」
「えっ、いや、いいよ。一緒に帰ろうか…」
取り敢えず帰ろうとしたら、赤井さんが一緒に帰ろうかと言ってきた。
断る理由がない…どころか、むしろ嬉しいので一緒に帰る事にした。
……周りの彼氏、彼女無しが「罰受けろよリア充が…」って呟いてるけど気にしない事にしよう……
………
……
…
「う〜ん…最近めっきり寒くなったよね〜。ちょっと身体が固まっちゃいそうだも〜ん」
「えっ!?スライムって固まるの!?」
「カチコチの氷みたいにはならないけどね〜」
そして2人で他愛の無い会話をしながら下校中。
しかも登校時と違って受験の話はしていないのでただ楽しいだけである。
「そういえば赤井さん。俺の気のせいだとは思うんだけどさ…」
「ん?なーに村井君〜」
「なんか……足元の形になってない部分、今朝よりも大きくなってない?」
その途中で、俺は下校し始めてから気になっていた事を聞いた。
たしか今朝一緒に登校していた時は赤井さんの穿いてる制服のスカートぐらいの面積で高さも踝程だった筈だが…今は一回り大きくなっており、高さも脛辺りまで高くなっていた。
そんなにたらふくではなかったが、もしかしたら帰る前に手洗い場で水を飲んだからだろうか?
「あ〜うんそうだよ〜。村井君から上質な精を貰ったからね〜」
「俺の……精?」
どうやら俺から精を貰ったから…との事だが、俺自身あげた記憶が無い。
さっき抱き着かれた時、たしかに性的に興奮していなかったと言えば嘘になるが、射精まではしていなかったはずだ。
などと考えていたら…
「あ〜精ってさっきの汗から取ったものの事だよ〜。何も精液の事ばかりじゃ無いからね〜」
「へっ?そうなの?」
「そうだよ〜。保健でやらなかった〜?」
「うーん…どうだったかな…」
俺が考えていた事がわかったらしく、そう言ってきた赤井さん。
言われてみれば人間男子が多く持つ精というのは魔物の魔力と同じようなものだって真面目に受けていない保健の授業で聞いた事あった気がする。
「とにかく、俺の汗を吸い取ったから足元のも大きくなったって事?」
「うんそうだよ。普通汗だけだと余剰部分はほとんど増えないけど、お昼ご飯いっぱい食べたし村井君の精美味しかったからね〜」
つまり先程吸収した俺の汗の余分な栄養が溜まっているって事か。
よくわからない部分もあるが、つまりはそういう事なのだろう。
「歩き辛くないの?」
「全然そんな事無いよ〜。スライムって元々こんなだしね〜」
「あーそれもそうか」
重くなって歩き辛いのではと思ったが、そうでもないらしい。
「あ、じゃあさ…その余剰部分ってどれだけ膨らむの?」
「ん〜…レッドスライムのクイーンは聞いた事無いから、多分わたしがお母さんから分裂したときぐらいかな〜…ってわかんないよね〜……」
「赤井さん誕生の瞬間を見ていたわけじゃ無いから流石にね…」
今度はどんだけ膨らむのか聞いてみたけど、本人もいまいちわかっていないらしい。
まあ分裂するというか、子供が出来るだけの大きさまでは膨らむのだろう。
「ならそれが膨らみすぎると子供が出来ちゃうんだよね…大丈夫なの?」
「うん〜。精液いっぱい貰わない限りそこまでは溜まらないよ〜。それにね〜……」
どうやら汗を吸い取った程度では子供は出来ないらしい……というか、子供を作るのには相当な精が必要らしい。
それだけじゃないらしく「それにね」と言いながら赤井さんは……
「え〜いっ!!」
「ええっ!?」
自分の余剰部分を、自分で丸めて切り取ってしまったのだ。
「こんな感じに切り取っちゃえばいいだけだよ〜」
「え、いいの切り取っちゃって?痛くないの?」
「痛みは全く無いよ〜。それに余剰部分だから切り取ってもなんの問題も無いよ〜」
どうやら何も問題は無いらしい…本気で一瞬焦った…
「そうだ〜!汗を吸わせてくれたお礼にこれあげるね〜」
そして赤井さんは、唐突に思い付いたのかお礼と言いながら切り取った身体の一部を俺に渡してきて…
「食べてみてよ〜。多分美味しいよ〜」
「……えっこれ食べられるの!?」
今ここで食べてと言ってきた。
「スライムゼリーだよ。わたしはレッドスライムだから〜、正確にはレッドスライムゼリー。魔力は込めて無いから安心して食べてね〜!」
「え、ああ、うん…いただきます……」
スライムゼリーという物の存在は聞いた事あるけど…まさか本物のスライムの余剰部分だとは思ってなかった。
本人も食べてと言ってるし、少し…いやかなり抵抗があるけど食べてみる。
「あむっ……」
一口かじって、噛んでみる……
「……美味い……」
「でしょ〜!えへへ〜♪」
赤井さん自身を触った時と同じようなぷるっとした食感にさっぱりとした味わい、そして噛む度に甘過ぎない程度の程よい甘さが口の中に広がっていく…
今まで食べたゼリーのどれにも負けない美味しいゼリーと言い切っても全く問題ない…それほど美味しいのだ。
そして美味いと赤井さんに伝えたら、とても嬉しそうに微笑んだ。
その可愛い表情にドキッとなりつつも、俺は残りのゼリーも口に含んでよく味わいながら完食した。
「ごちそうさま…マジで美味かった…」
「良かったら毎日村井君に私のゼリーあげようか〜?」
「えっ!?いやいいよ。なんか悪いし…それに今日は汗のお礼だし、流石にこの時期毎日は汗かかないってかそんな貰えないよ」
「ん〜…気にしなくてもいいけどな〜……」
たしかに美味しかったし、どれだけ食べても飽きがこない気もするけど、流石に毎日貰うのは遠慮したほうがいいだろう。
俺の汗の精を吸収した分を貰っただけだし…そもそも赤井さんからレッドスライムゼリーを貰って食べるという事は、つまり赤井さんの一部を食べているという事で……と考えるとあまりただ同じ学校に通っているという関係でしかない俺がそう食べていい物では無い気がする。
だから赤井さんの申し出を断ったのだが、何故か赤井さんはがっかりした表情をしていた。
「村井君になら…村井君だからあげるのにな〜…」
「ん?何か言った?」
「えっべ、別に何も言ってないよ〜!!」
そして何か呟いていたが、小さ過ぎてよく聞き取れなかった。
なので聞き返したのだが…何故か誤魔化されてしまった。
「あ、もう村井君の家が見えてきちゃったね〜」
「そうだね…」
そうこうしてるうちに家が見えてきた。
「それじゃ赤井さん、今日はお喋りしながら登下校出来て楽しかったよ。またな!」
一昨日は夜道に女の子1人は危ないと理由を付けれたが、今日はまだ明るいし、他の理由を付けて赤井さんの家の前まで行っても露骨すぎる気がするので今日は寂しいがここで別れる事にしようとしたその時……
「あ、あの〜村井君…」
「何赤井さん?」
家に入ろうとする寸前、赤井さんに呼び止められ……
「もし良かったらさ〜、明日からも一緒に学校行ったり帰ったりしない?」
「えっ!?」
明日からも一緒に登下校しないかと誘われてしまった。
「嫌なら別にいいけど……」
「ううん!俺なんかでいいなら全然いいよ!!」
勿論嫌なわけない…むしろそうなったら良いなと思っていた程なのだから、俺は即座に一緒に行こうと言った。
「ホント〜!?じゃあ明日も同じような時間にここ通るから一緒に行こうね〜!」
「了解!それじゃまた明日!」
「うん!じゃあね〜また明日〜!」
そして赤井さんが去って行くのを玄関前で見送った。
「……これは可能性出てきたんじゃねえかな……」
赤井さんから毎日一緒に登下校しないかと誘われたのだから…俺に気があるのかもしれないと思ったっていいはずだ。
赤井さん可愛いし、優しいし、何より俺のストライクゾーンど真ん中だし、一緒に話をするだけで凄く楽しいし…出来る事なら恋人になりたい。
まだ出会って3日だけど、たったそれだけでも俺は赤井さんの事を好きになっていた。
ほとんど一目惚れで、まだ友達と言えるかすら怪しい関係でしかないけど…何時かは赤井さんと付き合いたい。
「まあきっかけとなりゆる繋がりは出来たし、焦らずいこう…」
そう1人で呟きながら、俺は家の中に入っていった……
12/11/01 21:34更新 / マイクロミー
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