旅33 幼き王女の幼馴染み!!
「暑いな……」
「まあ砂漠だしね…でもユウロはいいじゃん、毛皮とかないんだしさ……」
「そうだぞ……これ結構暑くて大変なんだぞ……」
現在14時。
私達はラインを出発し、砂漠の街『ラスティ』に向かって旅を続けていた。
なぜならその街の領主のアイラさんはリリム…即ちアメリちゃんのお姉さんだからだ。
だが砂漠の街の名の通りラスティは砂漠の中に存在するので、私達は砂漠を歩いていた。
上からの容赦無い直射日光とその反射熱でみるみるうちに水分と体力が削られているのがわかる…というか暑い……
「でもライカおじさんがさばくをわたるじゅんびをしてくれたからまだいいんじゃない?」
「まあね…これ無かったら今頃私はおいしく焼かれてラム肉になってたんだろうな……」
「縁起でもねえなぁ……つーかワーシープであって羊ではないだろ……」
「ただのジョークだよ…」
ただ、ラインの領主であるライカさんが砂漠を渡る為の用意をしてくれたおかげでまだ快適に砂漠の旅が出来ている。
具体的にいえば、魔術で中の温度が保てるようにしてある水筒…これのおかげで量こそ限られているもののいつでも冷たいお水が飲めるようになっている。
それと砂漠の強い日光や砂煙を防ぐ為にターバンやガウン状の羽織り物も用意してくれた…これがまた効果があって凄く助かっている。
この為一応そこまで大変ではないのだが…それでも暑いものは暑い。
「まあ街はオアシスにあるようだし、近くになったら少しは涼しいだろう…それにいざとなったら『テント』に入ればいいけどな」
「まあね…だからアメリちゃん、すぐに出せるようにしておいてね」
「うんわかった」
ラスティはオアシスにある街という事で…砂漠の街でも快適だそうだ。
だから到着さえすれば少しは楽になるだろう。
だがまだまだそれらしきものは見えてこない……
到着前に倒れたりすると非常に大変なので、アメリちゃんの『テント』をすぐ出せる状態にしておいてある。
だってあの『テント』…外の環境に全く影響しないんだもの…驚愕である。
「ところで…このペースだとあとどのくらいで辿り着くんだ?」
「うーん…明日のいつかには着くんじゃない?迷子にさえなって無ければだけど…」
「おい…縁起でもない事言うなよ……」
しかし、砂漠で一番困る事は…景色があまり変化無い事である。
一応迷わないよう所々目印になるものはあったりするのだが…ふとしたはずみでその目印が無くなったら笑えない。
「こっちは魔物に襲われないかビクビクしてるんだぜ?余計な心配事増やしたくないんだけど…」
「まあそうだね…一応私達が囲むように歩いてるから大丈夫かもって言われてはいるけど…」
「その『かも』が怖いんだよ…」
更には、この砂漠にも魔物は棲んでいる。
砂漠地方によく居る『ギルタブリル』とかいう魔物が厄介なうえに大勢いるらしいが…どんな姿かよくわからないしあまり気配を感じさせずに近付いてくるというからユウロ的に危険である。
「まあ…もう少ししたら少しは涼しくなってくれると信じて歩こうか…」
「うわ…それはそれで気が滅入る……」
うだうだ話していても余計に体力が持ってかれるので、話はここで一旦止めて進む事だけに集中しようとした……
したのだが……
「な、なあ皆……あれなんだと思う?」
「あれ?」
スズが遠くの方に何かを見つけたらしく、私達に呼びかけて進行方向とはおよそ90度違う方向を指差していた。
いったいなんだろうとスズの指差すほうを見てみると……
「……何だろあれ?」
「黒い……布の塊?」
黄土色の続く砂漠で、一点だけ黒く盛り上がっている場所があった。
始めは岩か何かだと思ったのだが…どこか布みたいな感じもする……
「どうする?確認しに行ってみる?」
「うーん…どうするアメリちゃん?」
「あれは……まさか……でもいないって言ってたし……いやでも……」
「アメリちゃん?」
とりあえず近付いて何かを確認するか相談しようとしたのだが…アメリちゃんの様子がおかしい。
ジッと黒い布の塊を見つめたまま何かブツブツと呟いている…どうしたのだろうか?
「……」
「アメリちゃん?」
「……たしかめてみよ……」
「あ、アメリちゃん?」
そしてブツブツと呟いたまま足早に黒い布の塊に一人で近付いていったアメリちゃん。
何か思い当たる節でもあるのだろうか?
「アメリちゃんも行っちゃったし…俺達も行ってみるか?」
「そうだね…」
とにかく一足先に近付いていったアメリちゃんを追い掛けるように私達は黒い布の塊を調べる事にした。
「……」
「おーいアメリちゃーん、どうしたのー?何か見覚えのあるものなの?」
「……」
近付いてみたらはっきりとわかったが、大きな黒い布の塊は黒いマントみたいな物と黒い傘だった。
その下に何か…マントと傘って事は人の可能性が高いけど…小柄な何かがあるようだ。
アメリちゃんは私の声も聞こえていない様子で、ジッと黒いマントを見つめて…
「……えいっ」
マントの端を掴み、一気に持ち上げてマントの下が見えるようにした。
「……ええっ!?」
「これは……」
「女の……子?」
「……はぁ……やっぱりか……」
その下に居たのは……セミロングで月の光の様に輝く金髪をしている…アメリちゃんぐらいの女の子だった。
耳が尖っているところから……おそらく魔物だと思うけど……とにかく幼い女の子だった。
「なんだ?遭難者か…?」
「子供一人でか?でもまあそうか…肌は白いから砂漠の住民ではなさそうだしな……」
「でも…まだ生きてるか?ピクリとも動かないけど……」
どうしてこんな所でこんな女の子が一人で倒れていたのだろうか…
いや、それも気になるけど…問題は……
「それにしてもアメリちゃん、やっぱりって……」
「はぁ……おきろー」
「ちょっと!?アメリちゃん何してるの!?」
アメリちゃんがこの女の子の事を知っていそうな事と、この女の子を起こす為に頬をペシペシと叩いている事だ。
砂漠で倒れていた子にそれは…知り合いならなおさら良くないと思うのだが……
「ぅ……ぁ……」
「あっ!息してるよこの子!!早く助けてあげないと!!アメリちゃん叩いてないで『テント』に入れてあげないと!!」
「そうだね……」
アメリちゃんが叩いているうちに呻き声をあげた女の子…つまりまだ生きてる。
でも危ない事には変わりないので、早く何とかするべきだと思いアメリちゃんに急いで『テント』を出させた。
しかしそのアメリちゃんは…何時になく不機嫌である……
この子が出てくる前まではそんな事無かったのにいったいどうしたのだろうか?
「はぁ…立て終わったから入るよ……」
「待ったアメリちゃん。その子の足を持ってどうするの?」
「どうするのって…テントに入れるんじゃないの?」
「いや引き摺って行くのは駄目だろ……俺が運ぶからアメリちゃんは水や濡れタオルの用意をしてくれ」
「んー……わかった……」
テントを素早く立て終わったアメリちゃんは、あろう事かその女の子の足を持って引き摺ってテントに運びいれようとした。
流石にそれは良くないと止めたが……別に気にする必要は無いといった感じで返されてしまった。
本当にアメリちゃんどうしたんだろう……
…………
………
……
…
「ん……うーん……ん?」
「あ、気が付いたようだね」
「あ、あれ……ここはどこ?あなたは……?」
現在16時。
倒れていた女の子を『テント』のベッドに寝かせ、濡れタオルで身体を拭いたり氷嚢を作ったりして体内に溜まっていた熱を外に逃がしたおかげか、女の子は目を覚ましたようだ。
「キミは砂漠で倒れていたんだから助けたんだよ。はいこれお水。一気に飲まないようにね」
「あ、そういえば……ありがとうございます」
寝ている時に水分を取らせるのは危なかったので、目を覚ましたこのタイミングでよく冷えたお水を渡した。
ゴクゴクと結構な勢いで飲んでいるところを見ると、やっぱり水分も足りて無かったようだ。
「そんなに慌てて飲まなくても良いからね。まだ飲みたかったら用意するから」
「ふぅ…たすかったぁ……ありがとうございます……あれ?でもここ見たことあるような……」
「だってアメリのテントだもん、あるに決まってるよ」
「あ……」
あっという間に飲みほした後、辺りをキョロキョロと見渡す女の子。
見覚えがありそうな事を口に出した瞬間、ずっと黙ってたアメリちゃんが口を開いた…けど、相変わらず不機嫌そうだ。
でもそんなアメリちゃんを発見した途端……
「アメリさま!!」
「……っ!」
この女の子は笑顔でこう言った……ってアメリ『さま』!?
「よかった〜!アメリさまに会うことが出来て本当によかった〜!!」
「アメリはイヤだったよ…なんでこんな所にいるの?」
「アメリさまに会いたくてこっそりそうこにほうちしてあったポータル使ったらこんなところにとばされてしまいまして…まいごになってさまよってたらたおれちゃいました……」
「ふーん…じゃあ今すぐおうちに帰ってとは言えないか……はぁ……」
「えぇ…ひどいですよアメリさま!!というかなんであたしを置いて旅に行ってしまったのですか〜!?」
さっき以上に不機嫌になったアメリちゃんと女の子のやり取りを聞いている限りだと、どうやら二人は顔馴染みらしいが…
「えっと…キミは誰?アメリちゃんの事知ってるようだけど…」
「えっと…その前にあなた方は?どうしてアメリさまといっしょにいるのですか?」
アメリちゃんの事をアメリさまと様付けで呼ぶこの子はいったい何だろうか?
そんな疑問が止まないが、こう言われたのでまずは自分達から自己紹介する事にしよう。
「私はサマリ。アメリちゃんとは一緒に旅をしているんだよ」
「そうですか…アメリさまと…サマリさん、ありがとうございます」
「俺はユウロ。アメリちゃんと一緒に居る理由はサマリと一緒ね」
「アタイはスズ。以下同文だ」
「ユウロさんにスズさんですか……アメリさまといっしょに旅をしてくださりありがとうございます」
深々と丁寧にお礼を言ってくれた女の子。
まだ小さな子供なのに礼儀がきちんとしているのは凄いな……
「それでキミは?」
「はい…あたしはアメリさまの召使いというか、まあアメリさまの側近で、ヴァンパイアのフランです」
「フラン……ああ、キミがフランか……」
「はい…ユウロさんはあたしのことを知ってるのですか?」
「まあ…何度か名前だけはアメリちゃんが出してたからね」
そしてこの女の子の事を聞いた。
本人曰くアメリちゃんの側近で、今までもアメリちゃんの口から何度か出てたフランであるらしい。
そして種族は『ヴァンパイア』であるらしい……たしかに、言われてみれば口を大きく開けた時にヴァンパイア特有の牙があるのが見える。
それにしては人間であるユウロにも礼儀正しいな……なんでだろう?
「フランちゃんって今何歳?」
「あたしは今8さいです。アメリさまと同じ日に生まれました」
「へぇ〜、じゃあアメリとは完全に同い年なんだ」
「はい、そうです」
子供にしては礼儀正しいフランちゃんの年齢が気になったので聞いてみたが、アメリちゃんと完全に同じ歳であるらしい。
だからアメリちゃんフランちゃんの事を呼び捨てで呼んでいたのか…納得。
「それでフラン、なんでアメリに会おうとしたの?ついてこないでって言ったよね?」
「あ、そ、それは……」
とここで、私達のほうが一段落ついたと思ったのか、アメリちゃんが話に割り込んできてかなり怒っている表情でフランちゃんに強く責め立ててきた。
「なんで?ハッキリ言って」
「それは……あたしはアメリさまの側近としていっしょにいるべきだからと……」
「っ……!!」
そしてそんなアメリちゃんの態度にビクッとしながらもフランちゃんがなんとか答えた途端、アメリちゃんは更に表情を険しくして…
「もういい!!早くおうちに帰って!!」
「え、ですがそれは……」
「てきとうに歩いてたらどっかにつくだろうからそこから帰って!そしてもう二度とアメリの前にあらわれないで!!」
「えっ……」
フランちゃんに帰れと、そして二度と自分の前に現れるなと怒鳴りつけ始めた。
折角アメリちゃんに会いたくて迷子になりながらも来たのに、それを聞いたフランちゃんは、やはりショックだったのか……
「うぅ……そんにゃぁ……」
「あ、お、落ち着いてフランちゃん」
ぽろぽろと大きなワインレッドの瞳から涙を流し始めてしまった。
「こらアメリちゃん、何があるのか知らないけど折角会いに来てくれたのにそれは言いすぎだよ」
「ふんっ!!」
「おいアメリ、流石にフランに謝るべきだぞ」
「知らない!!」
「アメリちゃん…同い年の子を泣かせるのはやり過ぎだぞ。きちんと謝りな」
「イヤだ!!」
私達がアメリちゃんを叱っても一向に謝ろうとしないアメリちゃん。
それどころか機嫌の悪さを示すように大きな足音を立てながら『テント』の入口のほうまで歩いていって……
「側近なんてものならアメリにはいらない!フランがアメリの召使いだっていうんなら今すぐ帰って二度とアメリに会おうとしないでっ!!」
そう叫んで、勢い良く扉を開けて出て行ってしまった……
「うぅ……ぅゎぁああああああああんっ!!」
「あ、おい、落ち着けってフラン、泣くなって、な?」
「わあああああああああ!!」
アメリちゃんが出ていった瞬間、フランちゃんの我慢が限界を迎えてしまったのだろう…大きな声を上げながら泣きだしてしまった。
スズが慌ててあやしてはいるが、一向に泣きやみそうなはい……
「……どうしちゃったんだろうなアメリちゃん……何が気に食わなかったんだろうな……」
「うーん……本人に聞くしかないか……私アメリちゃん追い掛けて訳を聞いてくるよ。ユウロはスズとフランちゃんのほうをお願い」
「おうわかった…でも慎重にな」
「わかってる」
どうしてアメリちゃんはあそこまで不機嫌なのか……
サッパリわからないから、本人に聞きだす為に私はアメリちゃんの後を追う事にした……
=======[アメリ視点]=======
「あ〜〜〜も〜〜〜〜!!」
本当にイライラする……何が側近としていっしょに居るべきかと思ってだ!
なんでそんな理由で……!!
「ふざけないでよもぉ〜〜〜!!フランのバカーーーー!!」
イライラしてるアメリは、さばくでだれもいないから、イライラを少しでもとばすためにさけんだ。
座りながら下を向いたまま、地面に向かって今まで出したことないほどの大きな声で思いっきりさけんだ。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
少しはすっきりしたけど……やっぱりまだはらが立つ……
どうして側近としてとか言うんだろ……
「……アメリちゃん?」
「ん……あ、サマリお姉ちゃん……」
そのままうつむいてたら頭上から声が聞こえてきた。
頭をあげたら…しんぱいそうにアメリを見てるサマリお姉ちゃんがいた。
もしかしたらさっきのさけび声聞こえてたかな……
聞かれてたと思うと少しはずかしくなってきた……
「ねえアメリちゃん……単刀直入に聞くけどさ……どうしてフランちゃんに対してそんなに怒ってるの?」
「……」
サマリお姉ちゃんがここに来た理由は…やっぱりアメリがフランのことをどうしておこってるのかってことだった。
まあアメリもイライラしすぎてさけびながらとびだしちゃったし、聞かれるとは思ったけど…話すべきかなぁ……
「別に言いたくないならいいけどさ……」
「あのねサマリお姉ちゃん……」
「……何アメリちゃん……」
言いたくないなら言わなくてもいい…そう言ってくれるサマリお姉ちゃん。
でも…わざわざアメリをおいかけて来てくれたんだから…話すべきだと思って、アメリははなすことにした。
「さっきフランも言ってたと思うけど…アメリとフランは同じ日に生まれたおさななじみなんだ……」
「そうだね…それで?」
「おさななじみなのに……アメリはフランのあのたいどがゆるせないんだ……」
「あの態度って…礼儀正しかったけど、何が駄目だったの?」
「……」
話しはじめて思ったけど…やっぱりサマリお姉ちゃんでもアメリがおこってる理由がピンとこないらしい。
「わかった…じゃあもっと前から…アメリがフランと初めて会った日からかいつまんではなしてくね…」
「え……うん……おねがいね……」
だからアメリは始めからはなしていくことにした……
アメリがフランと、初めて会った日と……あのかなしい日のことを……
====================
「はじめまして!アメリはアメリっていうんだ!!」
「は、はじめまして……フランです……」
アメリが初めてフランと会ったのは、アメリもフランもまだ4さいのときだった。
広いおうちの中を一人でこっそりとたんけんしてたら、たまたまその中の一室で一人であそんでいた自分と同じくらいの子がいたのを見て、アメリは近付いてこうあいさつした。
このころは自分と同じくらいの他の子供を見たことがなかったから、アメリはわくわくしながらフランに近付いた。
「ねえフラン、いきなりだけどアメリとともだちになろうよ!!」
「え……ともだち?」
「うん!イヤなの?」
「う、ううん!!いいよ!!ともだちになろ!!」
そしてお姉ちゃんたちから聞いていた友だちという存在は、このころはまだアメリにはいなかった。
だからこの出会いはチャンスだと思って、アメリはあまり強く言ってこないフランを強引に友だちにした。
なぜ今まで同じくらいの子供を見たことなかったかというと…アメリが魔王であるお母さんの子供だからだ。
お母さんの子供であるからか、アメリは沢山の魔物のお姉ちゃんたちにおべんきょうをおそわったり、いろんなおはなしは聞いたりしたことはあるけど…同年代の子供はその中にはいなかったからだ。
いや…そもそもアメリが生まれたときに、おうちに住んでいる魔物の中で赤ちゃんを産んだのはフランのお母さん以外にはいなかったらしい…だから同年代の子は見たことがなかったし、そもそもいなかったのだ。
あとで知ったことだけど、元々同じ日に生まれたフランとアメリを5さいのたんじょうびのときに会わせるつもりではあったらしい…けど、その日が来る前にアメリとフランは出会ったのだ。
「でも…ほんとうにあたしがともだちになっていいの?」
「え?どうしてそんなこというの?」
「だってアメリって…まおうさまのこどもだよね?」
「うん……そうだけど……」
そんなフランもアメリのことをさいしょは王女として見ていた。
まあまわりからそう聞かされていたんだろうから仕方ないだろうけど…アメリは少しそれがさみしかった。
「だからアメリってえらい人なんだよね?あたしなんかがともだちになっていいのかな?」
「あたりまえだよ!!ともだちにそんなのかんけいないもん!!」
「でも……」
「それにえらいのはアメリじゃなくておかあさんやおねえちゃんたちだもん。フランはそんなこときにしなくていいんだよ!!」
「……うん、そうか……そうだね……」
友だちと言うのは同じ立場の人…同じ立場だからいっしょにいて楽しいし、いっしょにいたいと思える人…お姉ちゃんに聞いた友だちはそういった人だった。
でもアメリのことをえらいと思って一歩かべを作る人たち…このおうちに住む魔物のお姉ちゃんたちのような人を友だちだなんて思えない……
少なくともアメリに『様』って言ったりけいごでおはなししてくるお姉ちゃんたちはあまり好きになれなかった…別にアメリはえらくはないのに、かってに自分たちとはちがうとこにいる存在あつかいされてるみたいでイヤだった。
だから折角初めて会えた同い年のフランには、気がねなくアメリとおはなししてほしかったから、こうやってフランに言った。
「じゃあアメリ…ともだちになったきねんにいっしょにあそぼ!!」
「うん!!ともだちのフランとあそぶ!!」
そんなアメリの想いがフランに伝わったのか、このときはフランはアメリにかべを作らないで友だちになってくれた。
「じゃあなにしてあそぶ?おにんぎょうあそびでもする?」
「するする!おにんぎょうあそびしよ!!」
初めてできた友だちとあそんだ日…何をしても一人じゃなくて同じ立場の子とあそんだこの日はずっと楽しかった。
だからこの日のことはアメリの中で一生の大切な思い出になった……
「あははは!!」
「えへへへ!!」
……大切な思い出になるはずだった……
……………………
「出来たー!!見てアメリ、お花折れたよ!!」
「ふふーん…フラン、そういうことはこれを見てから言ってよ!!」
「な、つ、つるを折った……の!?」
これはフランと出会ってから2年ほどたった日のこと。
このころはもうアメリとフランは毎日のように会っていた。
なぜなら、このときにはフランはアメリのお付き人として言われていたから、アメリといっしょにおべんきょうしたり、たまにいっしょにねたりしていたほどだからだ。
でもそのすべては側近としてではなく、友だちとしてアメリたち二人はいた。
もちろん友だちとしていっしょにあそんだりもしていた…この日はベリリお姉ちゃんがおしえてくれたおりがみを二人で折っていた。
やっぱり同年代の子供が他にいなかったってのも大きく、二人きりであそぶことが多かった。
「アメリって器用だよね…あたしそんな細かいもの折れないもん…」
「そうかなぁ…ベリリお姉ちゃんにもらったこの折り方のかみ見ながらならけっこうかんたんに折れると思うけど…」
「うぅ…じゃああたしが不器用なのか……」
たまにはケンカしたこともあったけど、アメリたちはずっとなかよくしていた。
「あ、そうだ…今日はあたしに大切な用があるから早く帰ってきなさいって母様に言われてたんだ…」
「え〜そうなの?じゃあ仕方ないね…それじゃあフラン、また明日!」
「うん!また明日もあそぼうねアメリ!!」
「うん…って言ってもおべんきょうもしないとダメだけどね」
それはこの先、どんなに時がたってもかわらないことだと思っていた。
「ねえフラン…」
「ん?何アメリ?」
だからアメリはフランに……
「これからもずっと…アメリたちは友だちだよ!」
「きゅうに何を言うかと思ったら…当たり前だよ!だってあたしたちおさななじみでしょ!それにやくそくしたもん!」
「そうだよね…だってアメリたちは……」
「「ずっといっしょにいる友だちだもんね!たとえだんなさんが出来たって、二人はずっといっしょだよ!!」」
「……へへっ!だよねっ!!」
「うんっ!」
当たり前だよねって感じで、出会って少したってからした二人のやくそくを、二人そろって言った……
「それじゃあ今度こそバイバイアメリ!」
「うん、バイバイフラン!!」
これが『友だちのフラン』とのさいごの会話だって、気付くことないままアメリたちは別れた……
………
……
…
「今日っのごっはんはなっんだっろなー♪」
フランと別れた後、アメリはおうちの中を一人でブラブラしていた。
「おっなかすいたーはっらぺっこだー♪」
この日はもうやることもなかったし、夜ごはんの時間までこの広いおうちをてきとうにアメリが考えたうたをうたいながら歩いていた。
「おててあっわせーていっただっきまーす♪」
もっと小さい時はあぶないしまいごになるからって一人でブラブラしたらおこられてたけど、何度もしてるうちにおこられなくなっていたから、アメリは少しスキップしながらおうちの中で歩いている魔物のお姉ちゃんたちの間をかいくぐりながら目的もなくすすんでいた。
「きょーおっもぱっくぱっくたっべるっのだー♪」
そして、何個目かわからない曲がり角を曲がろうとした時……
「のっこさずぜっんぶーたーべるーのd……」
「なあ知ってるか?今日再教育されるらしいぜ?」
「ああ…アメリ様の従者の…フランだっけか?」
「……えっ」
サラマンダーのお姉ちゃんとデュラハンのお姉ちゃんのおはなしが聞こえてきた。
「そうそう、なんでもアメリ様に対する態度が悪いってな」
「そういえばそんな話もあったな…まだ子供だし仕方ないとは思うのだが…」
どうやらフランの話らしい…
アメリは曲がり角の死角から二人のおはなしをこっそり聞くことにした。
「魔王様の娘様に対等な態度ってのは…まあオレは良いと思うけどな」
「アメリ様自体は何も言わないどころかそれを良しとしているが…それを良くないと思っている者がな…」
「頭の固い連中だなぁ…あれか?男が出来無さ過ぎて八つ当たりか?」
「さあな…礼儀を大事にしたいんじゃないのか?」
イヤな感じがする…
いったい魔物のお姉ちゃんたちはフランに何をする気なのか……
「それにしたってなぁ…まだ6歳だってのにそこまで礼儀とかな…オレなんか口悪すぎるんだぜ?」
「まあただの魔王軍の兵士とリリム様のお付き人では違うのだろう…」
「これからどうなっちまうんだろうなそのフランって子」
「少なくとも敬語はばっちり、あとはアメリ様の身の回りの世話も出来るようにされるのでは?」
「だろうな……ま、それでアメリ様に失礼働く事が無いってんならいいんじゃねえかな…」
「別に生意気と言うわけでは無いとは思うが…やはり王女様の側近としてふさわしくな……」
その話は、最後まであたまに入ってこなかった。
だって…アメリにとってはショックだったから。
フランは友だち…なのに、アメリと話す時にけいごを使うなんて…
そんなのはイヤだった…
でも、フランはずっとアメリの友だちでいてくれるって言ってくれた。
だから、そのあたまのかたいお姉ちゃんの言うことなんか聞かないで、今まで通りアメリといてくれるとしんじていた。
なのに……
「あ、フラン…久しぶり…1か月もどうしてたの?」
「あ…」
それから1ヶ月間フランを全く見ることがなかった。
だけど、1ヶ月たったらアメリの前にフランはあらわれてくれた……
「おはようございます、アメリさま……」
「えっ……」
でも、あらわれたフランは……もう友だちのフランじゃなかった……
「ど、どうしたのフラン…なんでけいごなんか……」
「あたしはアメリさまの側近ですから……もうそんな無礼なことはできませんよ……」
「……」
そこにいたのは…アメリとけいごで会話して、アメリに『様』をつける…
アメリの間に小さな、それでもたしかなかべを作っている、側近のフランだった……
「なんで……」
「ど、どうしましたアメリさま……」
「なんで!?どうして!?」
「あ、アメリさま、おちついて……」
アメリはそのことがショックで、アメリの様子をしんぱいして近付いてきたフランに向かって……
「近付かないで!!」
「え……」
……両手でつきとばしながら、そうさけんでいた……
「もういいよ!フランなんかだいっきらい!!帰って!!」
「え?え?」
「早く帰って!!」
「で、でも……」
「帰れ!!『アクアピストル』!!」
「わっ!?わわっ!!」
そしてアメリは、ちょっと前にお姉ちゃんにおしえてもらったヴァンパイアが苦手な水を出す魔術をフランに向けてはなった。
「あ、アメリさま…」
「もう今日は会いたくない!!来るなら明日から来て!!」
「そ、そうですか…それでは……」
それでもまだアメリの前にいようとしたフランに、アメリはこう言うことで出ていってもらった。
本当は二度とそんなフランには会いたくなかったけど……それを言うとアメリの側近は別の人になってしまう。
そうすると友だちのフランも二度と会えない…
それどころか『フラン』に会えなくなる…それはイヤだった。
「うぅぅ……ぅぅ……ぅわああああああああああああああああああっ!!」
だからアメリはいっぱい泣いて……友だちのフランがいなくなってしまったかなしみを、1日でなくした。
もうそのことで泣かないように……おべんきょうもせずにベッドの中でずっと……
そして次の日から側近のフランを受け入れるよゆうを、少しだけつくった……
おこってフランをきずつけないようにするために……
フランの行動は何もまちがっていないことを、フラン自身がのぞんでこんなかんけいになってしまったわけじゃないことをみとめない自分に……
アメリは大きな声を出しながら、泣きつかれてねむるまでずっと泣きつづけた……
====================
「…つまり、アメリちゃんはフランちゃんと気兼ねなくお話出来るような友達でいてほしいけど、フランちゃんはそうでないから怒ってるって事?」
「うん……」
アメリが話している間、ずっとしずかに聞いてくれていたサマリお姉ちゃんが口を開いた…
「旅してる間に、友だちのフランにもどってたらいいなって思ってた……」
「アメリちゃん……」
「それなのに……フランはアメリの側近だから会いに来たって……」
話しているうちに、ちょっとだけイライラはなくなった……
「アメリがわがまま言ってるのはわかってる……アメリはお母さんの…魔王のむすめだもん…フランはまちがってない……」
「それは……」
「でも…フランはずっとアメリといっしょにいてくれる友だちなんだもん……そんなにかたい接し方してほしくなかった……」
「……」
「アメリはリリムである前に、アメリなんだ…アメリの友だちとして、フランとずっといたかった……」
でもそのぶん、かなしみがアメリの中に生まれていた。
「アメリがフランにあやまらないとダメなのもわかってる……でも……フランにけいご使われると……様って言われると……イライラしちゃう……」
「アメリちゃん…敬語嫌いって言ってたもんね……」
「うん…だからついさけんで……フランをとおざけちゃう……フランはフランなのに……こいつはフランじゃないって思っちゃう……」
あやまらないとって想いがあっても……それをフランに言えない自分にイライラして、かなしかった……
それに……
「ねえサマリお姉ちゃん……」
「何アメリちゃん?」
「アメリたちリリムのじゅみょうって、どれぐらいかわかる?」
「えっと……ごめんわからない……人と同じくらい?」
アメリたちリリムは……
「ううん……リリムはね、とっても永い間生きてるんだ……それこそ人間のユウロお兄ちゃんどころか、サマリお姉ちゃんやスズお姉ちゃんがじゅみょうで死んじゃっても……アメリはずっと生きてるんだ……」
「へぇ……それって凄いね……」
「うん…アメリのこと知ってるお姉ちゃんたちが死んじゃっても…アメリは生きてるんだ……きっとさみしいよ……」
「……そう……かもね……」
魔力が強いから…とても永い時を生きるって、お姉ちゃんたちが言ってた……
「でもね……フランはヴァンパイア……アンデッドなんだ……」
「えっと……つまりフランちゃんは、アメリちゃんと同じくらいは生きていられるの?」
「うん…だんなさんが出来て、何もなければだけどね……」
それは、ヴァンパイアのフランもそう……
「だから…だからこそ……フランにはずっと友だちでいてほしかった……友だちとしてアメリの近くにいてほしかった!」
「そうなんだ…」
「なのに!友だちじゃなくて側近としてだなんて……アメリやだよ……」
永い時を気がねなくいっしょにいられる友だちとして、アメリはフランに近くにいてほしかった……
「アメリさま……ううん、アメリ……」
「……えっ!?」
アメリがサマリお姉ちゃんに言いおわって少ししたら、さいきんは聞いてなかったけど、よく聞いたことある声がアメリのよこから聞こえてきた。
「ごめんねアメリ…さまって付けたほうがいいって言われたからてっきりアメリはこうしてほしいって思ってた……」
「フラン……」
泣いていたのか…ほっぺに水がながれたあとが付いてるフランが、アメリのよこに立っていた。
よこに立って…アメリの話を聞いていたようだ…
「ごめんね…けいごで話さないとアメリが困るって言われたから……」
「ううん……けいごなんて使ってほしくない…フランはアメリの友だちだもん……アメリの側近かもしれないけど、それ以前にアメリのしんゆうだもん!!」
「アメリ……!」
アメリの目をじっと見ながら、フランがゴメンねってあやまってきた。
「ゴメンねフラン……ゴメン……」
「アメリはあやまらなくていいよ…アメリをきずつけてたのあたしだもん……友だちでいるっていったのに、友だちじゃなくなってたのあたしだもん……」
「ううん…フランはわるくない……フランはわるくないのにアメリがフランをとおざけてた…だからアメリがわるい……だからゴメン……」
フランが先に…わるくないのにあやまってくれたからか、それともフランが昔みたいにけいごを使わず、様も付けないでアメリとおはなししてくれるからか…アメリの口から、ずっと言えなかったゴメンという言葉がしぜんと出てきた。
「ごめんねアメリ…今度こそずっと…」
「ゴメンねフラン…何があってもずっと……」
そしてアメリたちは…
「「ずっと…いっしょにいる友だちだ!たとえだんなさんが出来たって、お姉ちゃんたちに何を言われたって、二人はずっとしんゆうだよ!!」」
二人して、ずっと友だちだって約束をした。
「ぐすっ……えへへ……」
「ひっく……あはは……」
お互いに泣きながら…それでいてえがおで……
=======[サマリ視点]=======
「ふぅ…やっと到着したね……」
「ああ……街がやっと出てきて一安心だ……」
現在17時。
ようやくラスティに到着した私達…砂漠はきつかった……
「ふにゅぅ……」
「もう……だからおうちにおいてったのに……ぜったいフランじゃ旅するのたいへんだもん……」
「あうぅ…太陽がまぶしいよぉ……」
昨日出会ったフランちゃんだが、アメリちゃんと仲直りしたこともあって今は一緒に居る。
「もうちょっとで日が沈むからもう少し頑張れフラン」
「うぅ…ありがとうございますスズさん……」
「ゴメンねスズお姉ちゃん…」
「いやいや、気にしなくていいよ!フラン軽いから全然大変じゃないしね」
と言ってもまあ…今は力無くスズにおぶられている状態である。
アメリちゃんがフランちゃんを置いていったのには、嫌っていたから以外にももう一つ理由があった。
それは、ヴァンパイアとしての特性が故であった。
旅は主にお昼の間に行われる事になるのだが…ヴァンパイアであるフランちゃんは日光の下では人間の女の子と同じような、もしくはそれ以下の力しかなくなってしまう。
実際今も砂漠の強い日光で力が入らず、スズに運んでもらっている状態だ。
持っている黒い日傘のおかげである程度はどうにかなっているらしいが、それでも弱るものは弱るらしいし、元々フランちゃんはヴァンパイアの中でも体力が少ないらしい。
だからこそ、旅している最中に倒れてしまったりしないように、アメリちゃんはフランちゃんを置いていったのだ。
ちなみに魔王城がある王魔界はお昼でも暗いらしく、だからこそフランちゃんは他の魔物や人間と同じように朝起きて夜寝るらしいので、お昼もちゃんと起きているんだそうだ。
「もぉ…おうちに住んでるだれかに会ったらいっしょに帰ってもらうからね!」
「うん……さすがにそうする……思ってたよりたいへんだった……」
それでまあフランちゃんの今後についてだけど、本人同士で話し合った結果…
『おうちに住んでいるだれかにぐうぜん出会ったらフランもいっしょにおうちに転移魔法で送ってもらう』
という事で落ち着いたようだ。
まあフィオナさんみたいな例もあるだろうし、旅している途中で魔王城に住んでいる人に出会ったらフランちゃんを送ってもらう、それまでは少し大変だが一緒に旅をするという事で決まった。
なので今フランちゃんは一緒に旅をしている。
「でも…旅って楽しい!!」
「うん!もっと大きくなってもっと旅できるようになったらいっしょに旅しようねフラン!!」
大変そうではあるけれど、アメリちゃんと一緒に旅しているからフランちゃんは楽しそうであった。
「それでだ……アイラさんってどこにいるんだろうな?」
「うーん…領主だって言うし誰か知ってると思う…ちょっと聞いてみようか」
街の中心に向かうにつれて活気が満ちており、人や魔物の姿も多くなってきた。
おそらくアイラさんも中心にいるかなと思いつつも、とりあえず何故か身体のあちこちが燃えている女性に聞いてみる事にした。
「すみませーん、ちょっといいですか?」
「ん?アタシの事か?」
「はい…あの〜、アイラさんってどこにいるかわかります?」
「ん?あんたらアイラさんに用があるのか…アイラさんはオアシスのほうにいるから…まあこの道を真っ直ぐ突き進めばオアシスに着くから、そこからは案内を見てくれ」
「わかりました、ありがとうございます…ところであなたってなんて魔物?」
「アタシはイグニス。火の精霊だよワーシープのお譲さん」
「そうですか…精霊初めて見た……」
『イグニス』の女性曰く、アイラさんはこの街のオアシスのほうにいるらしい。
私達はお礼を述べてから、オアシスのほうに向かう事にした……
…………
………
……
…
「おーすげえ!サンドスライダーだ!サンドスライダーがある!!」
「はいはい落ち着いてユウロ。今回はまずアイラさんに会ってから観光するんでしょ?」
「そうだけどさ…でも凄いよあれ!サンドスライダーだぜ!?」
現在18時。
日も沈み空が暗くなってきたが、街の中心部であるオアシスの周りは街の中で一番賑わっており、屋台や大勢の人達が周りにいて明るかった。
やはり親魔物領らしく魔物の姿もあちこちに…見た事ない魔物が多いけど。
例えば包帯で巻かれてる魔物『マミー』にワーキャットとはまた違う褐色の肌の猫の魔物『スフィンクス』、燃えてるリザードマンの『サラマンダー』や蠍の魔物…アメリちゃん曰くこの魔物が『ギルタブリル』らしい…なんかがいた。
「さてと…アイラさんがいるのはどこだろうな……」
「うーん…案内見てって言ってたからどこかにはあるんだろうけど…」
とりあえず観光はまた後日にして、アイラさんに会いに行こうと手掛かりを探していたら……
「そこの者達、アイラ様に何か用か?」
「怪しい者ではなさそうだが…」
「え…はい。あなた達は?」
後ろから白のベールに黒のタンクトップ、白い薄地のバギーパンツを着て、さらに腕にも白い布を巻いている女性…いや魔物か…と、40代ぐらいの無精髭を生やしたボサボサの髪をした男性に話しかけられた。
「私はアイラ様の近衛隊長を務めるセリアというデュラハンだ」
「俺はマルク。セリアの夫であり師であり…まあもう一つあるがそれは後で。ところで、そこの子供はアイラ様と同じリリムのようだが…」
「うん、アメリはリリムだよ。アメリ会った事ないお姉ちゃんたちに会うために旅してて、アイラお姉ちゃんに会いにきたの!」
「なるほど…ここに居る者はアメリ殿のお連れ様か?」
「あはい…まあそんなところです」
「では案内しよう。俺達についてきな!」
その女性…セリアさんと男性…マルクさんはアイラさんの近衛隊長であるらしい。
アメリちゃんから事情を聞いた後、私達はアイラさんの下まで案内してもらえる事になった……ラッキー。
……………………
「なるほど…ラインの領主殿の紹介か……ではアイラ様が今朝言っていた客人と言うのはアメリ達の事か……」
「ちっこいのに凄いなアメリは!」
「えへへ…ありがとマルクおじさん!」
それから、ちょっとした話を聞きながら案内してもらっていた。
どうやらこのラスティという街は元々反魔物領だったらしいが、魔王軍が制圧してアイラさんが領主になった事で親魔物領になったらしい。
それとこの街は砂漠という過酷な環境であるが故に医薬技術が発達しているらしい…薬は旅の必需品だし、後でお店に行って買おうかな……
さらにはオアシスとは別の地下水脈を利用した巨大プールもあるとの事…明日行ってみよう。
「さて、着いたぞ。ここにアイラ様がいる」
「おおー、でかい!!」
「大きいですねぇ……」
私達が二人に案内してもらったのは…宮殿みたいな場所だった。
「じゃあアイラ様のとこに……」
「その必要はありませんよ…私はここに居ますから」
そしてアイラさんの部屋に案内されるところで…後ろから女性の声がした。
「あ、アイラ様!?どうして外から……」
「ライカさんに妹が尋ねて来ると聞いていたので待ち切れずに外に出ていました」
「そうですか…では、こちらがその妹様とその旅の同行者達です」
どうやらこの女性がアイラさんらしい…
「そう…あなたがアメリね。初めまして私はアイラです」
「初めましてアイラお姉ちゃん!アメリだよ!!」
そのアイラさんの格好は……黒い布…チャドルっていう砂漠地方特有の衣装で顔以外を隠し、更には白いヴェールで目元以外を隠している、露出の少ない不思議な格好をしているリリムだった。
「まあ砂漠だしね…でもユウロはいいじゃん、毛皮とかないんだしさ……」
「そうだぞ……これ結構暑くて大変なんだぞ……」
現在14時。
私達はラインを出発し、砂漠の街『ラスティ』に向かって旅を続けていた。
なぜならその街の領主のアイラさんはリリム…即ちアメリちゃんのお姉さんだからだ。
だが砂漠の街の名の通りラスティは砂漠の中に存在するので、私達は砂漠を歩いていた。
上からの容赦無い直射日光とその反射熱でみるみるうちに水分と体力が削られているのがわかる…というか暑い……
「でもライカおじさんがさばくをわたるじゅんびをしてくれたからまだいいんじゃない?」
「まあね…これ無かったら今頃私はおいしく焼かれてラム肉になってたんだろうな……」
「縁起でもねえなぁ……つーかワーシープであって羊ではないだろ……」
「ただのジョークだよ…」
ただ、ラインの領主であるライカさんが砂漠を渡る為の用意をしてくれたおかげでまだ快適に砂漠の旅が出来ている。
具体的にいえば、魔術で中の温度が保てるようにしてある水筒…これのおかげで量こそ限られているもののいつでも冷たいお水が飲めるようになっている。
それと砂漠の強い日光や砂煙を防ぐ為にターバンやガウン状の羽織り物も用意してくれた…これがまた効果があって凄く助かっている。
この為一応そこまで大変ではないのだが…それでも暑いものは暑い。
「まあ街はオアシスにあるようだし、近くになったら少しは涼しいだろう…それにいざとなったら『テント』に入ればいいけどな」
「まあね…だからアメリちゃん、すぐに出せるようにしておいてね」
「うんわかった」
ラスティはオアシスにある街という事で…砂漠の街でも快適だそうだ。
だから到着さえすれば少しは楽になるだろう。
だがまだまだそれらしきものは見えてこない……
到着前に倒れたりすると非常に大変なので、アメリちゃんの『テント』をすぐ出せる状態にしておいてある。
だってあの『テント』…外の環境に全く影響しないんだもの…驚愕である。
「ところで…このペースだとあとどのくらいで辿り着くんだ?」
「うーん…明日のいつかには着くんじゃない?迷子にさえなって無ければだけど…」
「おい…縁起でもない事言うなよ……」
しかし、砂漠で一番困る事は…景色があまり変化無い事である。
一応迷わないよう所々目印になるものはあったりするのだが…ふとしたはずみでその目印が無くなったら笑えない。
「こっちは魔物に襲われないかビクビクしてるんだぜ?余計な心配事増やしたくないんだけど…」
「まあそうだね…一応私達が囲むように歩いてるから大丈夫かもって言われてはいるけど…」
「その『かも』が怖いんだよ…」
更には、この砂漠にも魔物は棲んでいる。
砂漠地方によく居る『ギルタブリル』とかいう魔物が厄介なうえに大勢いるらしいが…どんな姿かよくわからないしあまり気配を感じさせずに近付いてくるというからユウロ的に危険である。
「まあ…もう少ししたら少しは涼しくなってくれると信じて歩こうか…」
「うわ…それはそれで気が滅入る……」
うだうだ話していても余計に体力が持ってかれるので、話はここで一旦止めて進む事だけに集中しようとした……
したのだが……
「な、なあ皆……あれなんだと思う?」
「あれ?」
スズが遠くの方に何かを見つけたらしく、私達に呼びかけて進行方向とはおよそ90度違う方向を指差していた。
いったいなんだろうとスズの指差すほうを見てみると……
「……何だろあれ?」
「黒い……布の塊?」
黄土色の続く砂漠で、一点だけ黒く盛り上がっている場所があった。
始めは岩か何かだと思ったのだが…どこか布みたいな感じもする……
「どうする?確認しに行ってみる?」
「うーん…どうするアメリちゃん?」
「あれは……まさか……でもいないって言ってたし……いやでも……」
「アメリちゃん?」
とりあえず近付いて何かを確認するか相談しようとしたのだが…アメリちゃんの様子がおかしい。
ジッと黒い布の塊を見つめたまま何かブツブツと呟いている…どうしたのだろうか?
「……」
「アメリちゃん?」
「……たしかめてみよ……」
「あ、アメリちゃん?」
そしてブツブツと呟いたまま足早に黒い布の塊に一人で近付いていったアメリちゃん。
何か思い当たる節でもあるのだろうか?
「アメリちゃんも行っちゃったし…俺達も行ってみるか?」
「そうだね…」
とにかく一足先に近付いていったアメリちゃんを追い掛けるように私達は黒い布の塊を調べる事にした。
「……」
「おーいアメリちゃーん、どうしたのー?何か見覚えのあるものなの?」
「……」
近付いてみたらはっきりとわかったが、大きな黒い布の塊は黒いマントみたいな物と黒い傘だった。
その下に何か…マントと傘って事は人の可能性が高いけど…小柄な何かがあるようだ。
アメリちゃんは私の声も聞こえていない様子で、ジッと黒いマントを見つめて…
「……えいっ」
マントの端を掴み、一気に持ち上げてマントの下が見えるようにした。
「……ええっ!?」
「これは……」
「女の……子?」
「……はぁ……やっぱりか……」
その下に居たのは……セミロングで月の光の様に輝く金髪をしている…アメリちゃんぐらいの女の子だった。
耳が尖っているところから……おそらく魔物だと思うけど……とにかく幼い女の子だった。
「なんだ?遭難者か…?」
「子供一人でか?でもまあそうか…肌は白いから砂漠の住民ではなさそうだしな……」
「でも…まだ生きてるか?ピクリとも動かないけど……」
どうしてこんな所でこんな女の子が一人で倒れていたのだろうか…
いや、それも気になるけど…問題は……
「それにしてもアメリちゃん、やっぱりって……」
「はぁ……おきろー」
「ちょっと!?アメリちゃん何してるの!?」
アメリちゃんがこの女の子の事を知っていそうな事と、この女の子を起こす為に頬をペシペシと叩いている事だ。
砂漠で倒れていた子にそれは…知り合いならなおさら良くないと思うのだが……
「ぅ……ぁ……」
「あっ!息してるよこの子!!早く助けてあげないと!!アメリちゃん叩いてないで『テント』に入れてあげないと!!」
「そうだね……」
アメリちゃんが叩いているうちに呻き声をあげた女の子…つまりまだ生きてる。
でも危ない事には変わりないので、早く何とかするべきだと思いアメリちゃんに急いで『テント』を出させた。
しかしそのアメリちゃんは…何時になく不機嫌である……
この子が出てくる前まではそんな事無かったのにいったいどうしたのだろうか?
「はぁ…立て終わったから入るよ……」
「待ったアメリちゃん。その子の足を持ってどうするの?」
「どうするのって…テントに入れるんじゃないの?」
「いや引き摺って行くのは駄目だろ……俺が運ぶからアメリちゃんは水や濡れタオルの用意をしてくれ」
「んー……わかった……」
テントを素早く立て終わったアメリちゃんは、あろう事かその女の子の足を持って引き摺ってテントに運びいれようとした。
流石にそれは良くないと止めたが……別に気にする必要は無いといった感じで返されてしまった。
本当にアメリちゃんどうしたんだろう……
…………
………
……
…
「ん……うーん……ん?」
「あ、気が付いたようだね」
「あ、あれ……ここはどこ?あなたは……?」
現在16時。
倒れていた女の子を『テント』のベッドに寝かせ、濡れタオルで身体を拭いたり氷嚢を作ったりして体内に溜まっていた熱を外に逃がしたおかげか、女の子は目を覚ましたようだ。
「キミは砂漠で倒れていたんだから助けたんだよ。はいこれお水。一気に飲まないようにね」
「あ、そういえば……ありがとうございます」
寝ている時に水分を取らせるのは危なかったので、目を覚ましたこのタイミングでよく冷えたお水を渡した。
ゴクゴクと結構な勢いで飲んでいるところを見ると、やっぱり水分も足りて無かったようだ。
「そんなに慌てて飲まなくても良いからね。まだ飲みたかったら用意するから」
「ふぅ…たすかったぁ……ありがとうございます……あれ?でもここ見たことあるような……」
「だってアメリのテントだもん、あるに決まってるよ」
「あ……」
あっという間に飲みほした後、辺りをキョロキョロと見渡す女の子。
見覚えがありそうな事を口に出した瞬間、ずっと黙ってたアメリちゃんが口を開いた…けど、相変わらず不機嫌そうだ。
でもそんなアメリちゃんを発見した途端……
「アメリさま!!」
「……っ!」
この女の子は笑顔でこう言った……ってアメリ『さま』!?
「よかった〜!アメリさまに会うことが出来て本当によかった〜!!」
「アメリはイヤだったよ…なんでこんな所にいるの?」
「アメリさまに会いたくてこっそりそうこにほうちしてあったポータル使ったらこんなところにとばされてしまいまして…まいごになってさまよってたらたおれちゃいました……」
「ふーん…じゃあ今すぐおうちに帰ってとは言えないか……はぁ……」
「えぇ…ひどいですよアメリさま!!というかなんであたしを置いて旅に行ってしまったのですか〜!?」
さっき以上に不機嫌になったアメリちゃんと女の子のやり取りを聞いている限りだと、どうやら二人は顔馴染みらしいが…
「えっと…キミは誰?アメリちゃんの事知ってるようだけど…」
「えっと…その前にあなた方は?どうしてアメリさまといっしょにいるのですか?」
アメリちゃんの事をアメリさまと様付けで呼ぶこの子はいったい何だろうか?
そんな疑問が止まないが、こう言われたのでまずは自分達から自己紹介する事にしよう。
「私はサマリ。アメリちゃんとは一緒に旅をしているんだよ」
「そうですか…アメリさまと…サマリさん、ありがとうございます」
「俺はユウロ。アメリちゃんと一緒に居る理由はサマリと一緒ね」
「アタイはスズ。以下同文だ」
「ユウロさんにスズさんですか……アメリさまといっしょに旅をしてくださりありがとうございます」
深々と丁寧にお礼を言ってくれた女の子。
まだ小さな子供なのに礼儀がきちんとしているのは凄いな……
「それでキミは?」
「はい…あたしはアメリさまの召使いというか、まあアメリさまの側近で、ヴァンパイアのフランです」
「フラン……ああ、キミがフランか……」
「はい…ユウロさんはあたしのことを知ってるのですか?」
「まあ…何度か名前だけはアメリちゃんが出してたからね」
そしてこの女の子の事を聞いた。
本人曰くアメリちゃんの側近で、今までもアメリちゃんの口から何度か出てたフランであるらしい。
そして種族は『ヴァンパイア』であるらしい……たしかに、言われてみれば口を大きく開けた時にヴァンパイア特有の牙があるのが見える。
それにしては人間であるユウロにも礼儀正しいな……なんでだろう?
「フランちゃんって今何歳?」
「あたしは今8さいです。アメリさまと同じ日に生まれました」
「へぇ〜、じゃあアメリとは完全に同い年なんだ」
「はい、そうです」
子供にしては礼儀正しいフランちゃんの年齢が気になったので聞いてみたが、アメリちゃんと完全に同じ歳であるらしい。
だからアメリちゃんフランちゃんの事を呼び捨てで呼んでいたのか…納得。
「それでフラン、なんでアメリに会おうとしたの?ついてこないでって言ったよね?」
「あ、そ、それは……」
とここで、私達のほうが一段落ついたと思ったのか、アメリちゃんが話に割り込んできてかなり怒っている表情でフランちゃんに強く責め立ててきた。
「なんで?ハッキリ言って」
「それは……あたしはアメリさまの側近としていっしょにいるべきだからと……」
「っ……!!」
そしてそんなアメリちゃんの態度にビクッとしながらもフランちゃんがなんとか答えた途端、アメリちゃんは更に表情を険しくして…
「もういい!!早くおうちに帰って!!」
「え、ですがそれは……」
「てきとうに歩いてたらどっかにつくだろうからそこから帰って!そしてもう二度とアメリの前にあらわれないで!!」
「えっ……」
フランちゃんに帰れと、そして二度と自分の前に現れるなと怒鳴りつけ始めた。
折角アメリちゃんに会いたくて迷子になりながらも来たのに、それを聞いたフランちゃんは、やはりショックだったのか……
「うぅ……そんにゃぁ……」
「あ、お、落ち着いてフランちゃん」
ぽろぽろと大きなワインレッドの瞳から涙を流し始めてしまった。
「こらアメリちゃん、何があるのか知らないけど折角会いに来てくれたのにそれは言いすぎだよ」
「ふんっ!!」
「おいアメリ、流石にフランに謝るべきだぞ」
「知らない!!」
「アメリちゃん…同い年の子を泣かせるのはやり過ぎだぞ。きちんと謝りな」
「イヤだ!!」
私達がアメリちゃんを叱っても一向に謝ろうとしないアメリちゃん。
それどころか機嫌の悪さを示すように大きな足音を立てながら『テント』の入口のほうまで歩いていって……
「側近なんてものならアメリにはいらない!フランがアメリの召使いだっていうんなら今すぐ帰って二度とアメリに会おうとしないでっ!!」
そう叫んで、勢い良く扉を開けて出て行ってしまった……
「うぅ……ぅゎぁああああああああんっ!!」
「あ、おい、落ち着けってフラン、泣くなって、な?」
「わあああああああああ!!」
アメリちゃんが出ていった瞬間、フランちゃんの我慢が限界を迎えてしまったのだろう…大きな声を上げながら泣きだしてしまった。
スズが慌ててあやしてはいるが、一向に泣きやみそうなはい……
「……どうしちゃったんだろうなアメリちゃん……何が気に食わなかったんだろうな……」
「うーん……本人に聞くしかないか……私アメリちゃん追い掛けて訳を聞いてくるよ。ユウロはスズとフランちゃんのほうをお願い」
「おうわかった…でも慎重にな」
「わかってる」
どうしてアメリちゃんはあそこまで不機嫌なのか……
サッパリわからないから、本人に聞きだす為に私はアメリちゃんの後を追う事にした……
=======[アメリ視点]=======
「あ〜〜〜も〜〜〜〜!!」
本当にイライラする……何が側近としていっしょに居るべきかと思ってだ!
なんでそんな理由で……!!
「ふざけないでよもぉ〜〜〜!!フランのバカーーーー!!」
イライラしてるアメリは、さばくでだれもいないから、イライラを少しでもとばすためにさけんだ。
座りながら下を向いたまま、地面に向かって今まで出したことないほどの大きな声で思いっきりさけんだ。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
少しはすっきりしたけど……やっぱりまだはらが立つ……
どうして側近としてとか言うんだろ……
「……アメリちゃん?」
「ん……あ、サマリお姉ちゃん……」
そのままうつむいてたら頭上から声が聞こえてきた。
頭をあげたら…しんぱいそうにアメリを見てるサマリお姉ちゃんがいた。
もしかしたらさっきのさけび声聞こえてたかな……
聞かれてたと思うと少しはずかしくなってきた……
「ねえアメリちゃん……単刀直入に聞くけどさ……どうしてフランちゃんに対してそんなに怒ってるの?」
「……」
サマリお姉ちゃんがここに来た理由は…やっぱりアメリがフランのことをどうしておこってるのかってことだった。
まあアメリもイライラしすぎてさけびながらとびだしちゃったし、聞かれるとは思ったけど…話すべきかなぁ……
「別に言いたくないならいいけどさ……」
「あのねサマリお姉ちゃん……」
「……何アメリちゃん……」
言いたくないなら言わなくてもいい…そう言ってくれるサマリお姉ちゃん。
でも…わざわざアメリをおいかけて来てくれたんだから…話すべきだと思って、アメリははなすことにした。
「さっきフランも言ってたと思うけど…アメリとフランは同じ日に生まれたおさななじみなんだ……」
「そうだね…それで?」
「おさななじみなのに……アメリはフランのあのたいどがゆるせないんだ……」
「あの態度って…礼儀正しかったけど、何が駄目だったの?」
「……」
話しはじめて思ったけど…やっぱりサマリお姉ちゃんでもアメリがおこってる理由がピンとこないらしい。
「わかった…じゃあもっと前から…アメリがフランと初めて会った日からかいつまんではなしてくね…」
「え……うん……おねがいね……」
だからアメリは始めからはなしていくことにした……
アメリがフランと、初めて会った日と……あのかなしい日のことを……
====================
「はじめまして!アメリはアメリっていうんだ!!」
「は、はじめまして……フランです……」
アメリが初めてフランと会ったのは、アメリもフランもまだ4さいのときだった。
広いおうちの中を一人でこっそりとたんけんしてたら、たまたまその中の一室で一人であそんでいた自分と同じくらいの子がいたのを見て、アメリは近付いてこうあいさつした。
このころは自分と同じくらいの他の子供を見たことがなかったから、アメリはわくわくしながらフランに近付いた。
「ねえフラン、いきなりだけどアメリとともだちになろうよ!!」
「え……ともだち?」
「うん!イヤなの?」
「う、ううん!!いいよ!!ともだちになろ!!」
そしてお姉ちゃんたちから聞いていた友だちという存在は、このころはまだアメリにはいなかった。
だからこの出会いはチャンスだと思って、アメリはあまり強く言ってこないフランを強引に友だちにした。
なぜ今まで同じくらいの子供を見たことなかったかというと…アメリが魔王であるお母さんの子供だからだ。
お母さんの子供であるからか、アメリは沢山の魔物のお姉ちゃんたちにおべんきょうをおそわったり、いろんなおはなしは聞いたりしたことはあるけど…同年代の子供はその中にはいなかったからだ。
いや…そもそもアメリが生まれたときに、おうちに住んでいる魔物の中で赤ちゃんを産んだのはフランのお母さん以外にはいなかったらしい…だから同年代の子は見たことがなかったし、そもそもいなかったのだ。
あとで知ったことだけど、元々同じ日に生まれたフランとアメリを5さいのたんじょうびのときに会わせるつもりではあったらしい…けど、その日が来る前にアメリとフランは出会ったのだ。
「でも…ほんとうにあたしがともだちになっていいの?」
「え?どうしてそんなこというの?」
「だってアメリって…まおうさまのこどもだよね?」
「うん……そうだけど……」
そんなフランもアメリのことをさいしょは王女として見ていた。
まあまわりからそう聞かされていたんだろうから仕方ないだろうけど…アメリは少しそれがさみしかった。
「だからアメリってえらい人なんだよね?あたしなんかがともだちになっていいのかな?」
「あたりまえだよ!!ともだちにそんなのかんけいないもん!!」
「でも……」
「それにえらいのはアメリじゃなくておかあさんやおねえちゃんたちだもん。フランはそんなこときにしなくていいんだよ!!」
「……うん、そうか……そうだね……」
友だちと言うのは同じ立場の人…同じ立場だからいっしょにいて楽しいし、いっしょにいたいと思える人…お姉ちゃんに聞いた友だちはそういった人だった。
でもアメリのことをえらいと思って一歩かべを作る人たち…このおうちに住む魔物のお姉ちゃんたちのような人を友だちだなんて思えない……
少なくともアメリに『様』って言ったりけいごでおはなししてくるお姉ちゃんたちはあまり好きになれなかった…別にアメリはえらくはないのに、かってに自分たちとはちがうとこにいる存在あつかいされてるみたいでイヤだった。
だから折角初めて会えた同い年のフランには、気がねなくアメリとおはなししてほしかったから、こうやってフランに言った。
「じゃあアメリ…ともだちになったきねんにいっしょにあそぼ!!」
「うん!!ともだちのフランとあそぶ!!」
そんなアメリの想いがフランに伝わったのか、このときはフランはアメリにかべを作らないで友だちになってくれた。
「じゃあなにしてあそぶ?おにんぎょうあそびでもする?」
「するする!おにんぎょうあそびしよ!!」
初めてできた友だちとあそんだ日…何をしても一人じゃなくて同じ立場の子とあそんだこの日はずっと楽しかった。
だからこの日のことはアメリの中で一生の大切な思い出になった……
「あははは!!」
「えへへへ!!」
……大切な思い出になるはずだった……
……………………
「出来たー!!見てアメリ、お花折れたよ!!」
「ふふーん…フラン、そういうことはこれを見てから言ってよ!!」
「な、つ、つるを折った……の!?」
これはフランと出会ってから2年ほどたった日のこと。
このころはもうアメリとフランは毎日のように会っていた。
なぜなら、このときにはフランはアメリのお付き人として言われていたから、アメリといっしょにおべんきょうしたり、たまにいっしょにねたりしていたほどだからだ。
でもそのすべては側近としてではなく、友だちとしてアメリたち二人はいた。
もちろん友だちとしていっしょにあそんだりもしていた…この日はベリリお姉ちゃんがおしえてくれたおりがみを二人で折っていた。
やっぱり同年代の子供が他にいなかったってのも大きく、二人きりであそぶことが多かった。
「アメリって器用だよね…あたしそんな細かいもの折れないもん…」
「そうかなぁ…ベリリお姉ちゃんにもらったこの折り方のかみ見ながらならけっこうかんたんに折れると思うけど…」
「うぅ…じゃああたしが不器用なのか……」
たまにはケンカしたこともあったけど、アメリたちはずっとなかよくしていた。
「あ、そうだ…今日はあたしに大切な用があるから早く帰ってきなさいって母様に言われてたんだ…」
「え〜そうなの?じゃあ仕方ないね…それじゃあフラン、また明日!」
「うん!また明日もあそぼうねアメリ!!」
「うん…って言ってもおべんきょうもしないとダメだけどね」
それはこの先、どんなに時がたってもかわらないことだと思っていた。
「ねえフラン…」
「ん?何アメリ?」
だからアメリはフランに……
「これからもずっと…アメリたちは友だちだよ!」
「きゅうに何を言うかと思ったら…当たり前だよ!だってあたしたちおさななじみでしょ!それにやくそくしたもん!」
「そうだよね…だってアメリたちは……」
「「ずっといっしょにいる友だちだもんね!たとえだんなさんが出来たって、二人はずっといっしょだよ!!」」
「……へへっ!だよねっ!!」
「うんっ!」
当たり前だよねって感じで、出会って少したってからした二人のやくそくを、二人そろって言った……
「それじゃあ今度こそバイバイアメリ!」
「うん、バイバイフラン!!」
これが『友だちのフラン』とのさいごの会話だって、気付くことないままアメリたちは別れた……
………
……
…
「今日っのごっはんはなっんだっろなー♪」
フランと別れた後、アメリはおうちの中を一人でブラブラしていた。
「おっなかすいたーはっらぺっこだー♪」
この日はもうやることもなかったし、夜ごはんの時間までこの広いおうちをてきとうにアメリが考えたうたをうたいながら歩いていた。
「おててあっわせーていっただっきまーす♪」
もっと小さい時はあぶないしまいごになるからって一人でブラブラしたらおこられてたけど、何度もしてるうちにおこられなくなっていたから、アメリは少しスキップしながらおうちの中で歩いている魔物のお姉ちゃんたちの間をかいくぐりながら目的もなくすすんでいた。
「きょーおっもぱっくぱっくたっべるっのだー♪」
そして、何個目かわからない曲がり角を曲がろうとした時……
「のっこさずぜっんぶーたーべるーのd……」
「なあ知ってるか?今日再教育されるらしいぜ?」
「ああ…アメリ様の従者の…フランだっけか?」
「……えっ」
サラマンダーのお姉ちゃんとデュラハンのお姉ちゃんのおはなしが聞こえてきた。
「そうそう、なんでもアメリ様に対する態度が悪いってな」
「そういえばそんな話もあったな…まだ子供だし仕方ないとは思うのだが…」
どうやらフランの話らしい…
アメリは曲がり角の死角から二人のおはなしをこっそり聞くことにした。
「魔王様の娘様に対等な態度ってのは…まあオレは良いと思うけどな」
「アメリ様自体は何も言わないどころかそれを良しとしているが…それを良くないと思っている者がな…」
「頭の固い連中だなぁ…あれか?男が出来無さ過ぎて八つ当たりか?」
「さあな…礼儀を大事にしたいんじゃないのか?」
イヤな感じがする…
いったい魔物のお姉ちゃんたちはフランに何をする気なのか……
「それにしたってなぁ…まだ6歳だってのにそこまで礼儀とかな…オレなんか口悪すぎるんだぜ?」
「まあただの魔王軍の兵士とリリム様のお付き人では違うのだろう…」
「これからどうなっちまうんだろうなそのフランって子」
「少なくとも敬語はばっちり、あとはアメリ様の身の回りの世話も出来るようにされるのでは?」
「だろうな……ま、それでアメリ様に失礼働く事が無いってんならいいんじゃねえかな…」
「別に生意気と言うわけでは無いとは思うが…やはり王女様の側近としてふさわしくな……」
その話は、最後まであたまに入ってこなかった。
だって…アメリにとってはショックだったから。
フランは友だち…なのに、アメリと話す時にけいごを使うなんて…
そんなのはイヤだった…
でも、フランはずっとアメリの友だちでいてくれるって言ってくれた。
だから、そのあたまのかたいお姉ちゃんの言うことなんか聞かないで、今まで通りアメリといてくれるとしんじていた。
なのに……
「あ、フラン…久しぶり…1か月もどうしてたの?」
「あ…」
それから1ヶ月間フランを全く見ることがなかった。
だけど、1ヶ月たったらアメリの前にフランはあらわれてくれた……
「おはようございます、アメリさま……」
「えっ……」
でも、あらわれたフランは……もう友だちのフランじゃなかった……
「ど、どうしたのフラン…なんでけいごなんか……」
「あたしはアメリさまの側近ですから……もうそんな無礼なことはできませんよ……」
「……」
そこにいたのは…アメリとけいごで会話して、アメリに『様』をつける…
アメリの間に小さな、それでもたしかなかべを作っている、側近のフランだった……
「なんで……」
「ど、どうしましたアメリさま……」
「なんで!?どうして!?」
「あ、アメリさま、おちついて……」
アメリはそのことがショックで、アメリの様子をしんぱいして近付いてきたフランに向かって……
「近付かないで!!」
「え……」
……両手でつきとばしながら、そうさけんでいた……
「もういいよ!フランなんかだいっきらい!!帰って!!」
「え?え?」
「早く帰って!!」
「で、でも……」
「帰れ!!『アクアピストル』!!」
「わっ!?わわっ!!」
そしてアメリは、ちょっと前にお姉ちゃんにおしえてもらったヴァンパイアが苦手な水を出す魔術をフランに向けてはなった。
「あ、アメリさま…」
「もう今日は会いたくない!!来るなら明日から来て!!」
「そ、そうですか…それでは……」
それでもまだアメリの前にいようとしたフランに、アメリはこう言うことで出ていってもらった。
本当は二度とそんなフランには会いたくなかったけど……それを言うとアメリの側近は別の人になってしまう。
そうすると友だちのフランも二度と会えない…
それどころか『フラン』に会えなくなる…それはイヤだった。
「うぅぅ……ぅぅ……ぅわああああああああああああああああああっ!!」
だからアメリはいっぱい泣いて……友だちのフランがいなくなってしまったかなしみを、1日でなくした。
もうそのことで泣かないように……おべんきょうもせずにベッドの中でずっと……
そして次の日から側近のフランを受け入れるよゆうを、少しだけつくった……
おこってフランをきずつけないようにするために……
フランの行動は何もまちがっていないことを、フラン自身がのぞんでこんなかんけいになってしまったわけじゃないことをみとめない自分に……
アメリは大きな声を出しながら、泣きつかれてねむるまでずっと泣きつづけた……
====================
「…つまり、アメリちゃんはフランちゃんと気兼ねなくお話出来るような友達でいてほしいけど、フランちゃんはそうでないから怒ってるって事?」
「うん……」
アメリが話している間、ずっとしずかに聞いてくれていたサマリお姉ちゃんが口を開いた…
「旅してる間に、友だちのフランにもどってたらいいなって思ってた……」
「アメリちゃん……」
「それなのに……フランはアメリの側近だから会いに来たって……」
話しているうちに、ちょっとだけイライラはなくなった……
「アメリがわがまま言ってるのはわかってる……アメリはお母さんの…魔王のむすめだもん…フランはまちがってない……」
「それは……」
「でも…フランはずっとアメリといっしょにいてくれる友だちなんだもん……そんなにかたい接し方してほしくなかった……」
「……」
「アメリはリリムである前に、アメリなんだ…アメリの友だちとして、フランとずっといたかった……」
でもそのぶん、かなしみがアメリの中に生まれていた。
「アメリがフランにあやまらないとダメなのもわかってる……でも……フランにけいご使われると……様って言われると……イライラしちゃう……」
「アメリちゃん…敬語嫌いって言ってたもんね……」
「うん…だからついさけんで……フランをとおざけちゃう……フランはフランなのに……こいつはフランじゃないって思っちゃう……」
あやまらないとって想いがあっても……それをフランに言えない自分にイライラして、かなしかった……
それに……
「ねえサマリお姉ちゃん……」
「何アメリちゃん?」
「アメリたちリリムのじゅみょうって、どれぐらいかわかる?」
「えっと……ごめんわからない……人と同じくらい?」
アメリたちリリムは……
「ううん……リリムはね、とっても永い間生きてるんだ……それこそ人間のユウロお兄ちゃんどころか、サマリお姉ちゃんやスズお姉ちゃんがじゅみょうで死んじゃっても……アメリはずっと生きてるんだ……」
「へぇ……それって凄いね……」
「うん…アメリのこと知ってるお姉ちゃんたちが死んじゃっても…アメリは生きてるんだ……きっとさみしいよ……」
「……そう……かもね……」
魔力が強いから…とても永い時を生きるって、お姉ちゃんたちが言ってた……
「でもね……フランはヴァンパイア……アンデッドなんだ……」
「えっと……つまりフランちゃんは、アメリちゃんと同じくらいは生きていられるの?」
「うん…だんなさんが出来て、何もなければだけどね……」
それは、ヴァンパイアのフランもそう……
「だから…だからこそ……フランにはずっと友だちでいてほしかった……友だちとしてアメリの近くにいてほしかった!」
「そうなんだ…」
「なのに!友だちじゃなくて側近としてだなんて……アメリやだよ……」
永い時を気がねなくいっしょにいられる友だちとして、アメリはフランに近くにいてほしかった……
「アメリさま……ううん、アメリ……」
「……えっ!?」
アメリがサマリお姉ちゃんに言いおわって少ししたら、さいきんは聞いてなかったけど、よく聞いたことある声がアメリのよこから聞こえてきた。
「ごめんねアメリ…さまって付けたほうがいいって言われたからてっきりアメリはこうしてほしいって思ってた……」
「フラン……」
泣いていたのか…ほっぺに水がながれたあとが付いてるフランが、アメリのよこに立っていた。
よこに立って…アメリの話を聞いていたようだ…
「ごめんね…けいごで話さないとアメリが困るって言われたから……」
「ううん……けいごなんて使ってほしくない…フランはアメリの友だちだもん……アメリの側近かもしれないけど、それ以前にアメリのしんゆうだもん!!」
「アメリ……!」
アメリの目をじっと見ながら、フランがゴメンねってあやまってきた。
「ゴメンねフラン……ゴメン……」
「アメリはあやまらなくていいよ…アメリをきずつけてたのあたしだもん……友だちでいるっていったのに、友だちじゃなくなってたのあたしだもん……」
「ううん…フランはわるくない……フランはわるくないのにアメリがフランをとおざけてた…だからアメリがわるい……だからゴメン……」
フランが先に…わるくないのにあやまってくれたからか、それともフランが昔みたいにけいごを使わず、様も付けないでアメリとおはなししてくれるからか…アメリの口から、ずっと言えなかったゴメンという言葉がしぜんと出てきた。
「ごめんねアメリ…今度こそずっと…」
「ゴメンねフラン…何があってもずっと……」
そしてアメリたちは…
「「ずっと…いっしょにいる友だちだ!たとえだんなさんが出来たって、お姉ちゃんたちに何を言われたって、二人はずっとしんゆうだよ!!」」
二人して、ずっと友だちだって約束をした。
「ぐすっ……えへへ……」
「ひっく……あはは……」
お互いに泣きながら…それでいてえがおで……
=======[サマリ視点]=======
「ふぅ…やっと到着したね……」
「ああ……街がやっと出てきて一安心だ……」
現在17時。
ようやくラスティに到着した私達…砂漠はきつかった……
「ふにゅぅ……」
「もう……だからおうちにおいてったのに……ぜったいフランじゃ旅するのたいへんだもん……」
「あうぅ…太陽がまぶしいよぉ……」
昨日出会ったフランちゃんだが、アメリちゃんと仲直りしたこともあって今は一緒に居る。
「もうちょっとで日が沈むからもう少し頑張れフラン」
「うぅ…ありがとうございますスズさん……」
「ゴメンねスズお姉ちゃん…」
「いやいや、気にしなくていいよ!フラン軽いから全然大変じゃないしね」
と言ってもまあ…今は力無くスズにおぶられている状態である。
アメリちゃんがフランちゃんを置いていったのには、嫌っていたから以外にももう一つ理由があった。
それは、ヴァンパイアとしての特性が故であった。
旅は主にお昼の間に行われる事になるのだが…ヴァンパイアであるフランちゃんは日光の下では人間の女の子と同じような、もしくはそれ以下の力しかなくなってしまう。
実際今も砂漠の強い日光で力が入らず、スズに運んでもらっている状態だ。
持っている黒い日傘のおかげである程度はどうにかなっているらしいが、それでも弱るものは弱るらしいし、元々フランちゃんはヴァンパイアの中でも体力が少ないらしい。
だからこそ、旅している最中に倒れてしまったりしないように、アメリちゃんはフランちゃんを置いていったのだ。
ちなみに魔王城がある王魔界はお昼でも暗いらしく、だからこそフランちゃんは他の魔物や人間と同じように朝起きて夜寝るらしいので、お昼もちゃんと起きているんだそうだ。
「もぉ…おうちに住んでるだれかに会ったらいっしょに帰ってもらうからね!」
「うん……さすがにそうする……思ってたよりたいへんだった……」
それでまあフランちゃんの今後についてだけど、本人同士で話し合った結果…
『おうちに住んでいるだれかにぐうぜん出会ったらフランもいっしょにおうちに転移魔法で送ってもらう』
という事で落ち着いたようだ。
まあフィオナさんみたいな例もあるだろうし、旅している途中で魔王城に住んでいる人に出会ったらフランちゃんを送ってもらう、それまでは少し大変だが一緒に旅をするという事で決まった。
なので今フランちゃんは一緒に旅をしている。
「でも…旅って楽しい!!」
「うん!もっと大きくなってもっと旅できるようになったらいっしょに旅しようねフラン!!」
大変そうではあるけれど、アメリちゃんと一緒に旅しているからフランちゃんは楽しそうであった。
「それでだ……アイラさんってどこにいるんだろうな?」
「うーん…領主だって言うし誰か知ってると思う…ちょっと聞いてみようか」
街の中心に向かうにつれて活気が満ちており、人や魔物の姿も多くなってきた。
おそらくアイラさんも中心にいるかなと思いつつも、とりあえず何故か身体のあちこちが燃えている女性に聞いてみる事にした。
「すみませーん、ちょっといいですか?」
「ん?アタシの事か?」
「はい…あの〜、アイラさんってどこにいるかわかります?」
「ん?あんたらアイラさんに用があるのか…アイラさんはオアシスのほうにいるから…まあこの道を真っ直ぐ突き進めばオアシスに着くから、そこからは案内を見てくれ」
「わかりました、ありがとうございます…ところであなたってなんて魔物?」
「アタシはイグニス。火の精霊だよワーシープのお譲さん」
「そうですか…精霊初めて見た……」
『イグニス』の女性曰く、アイラさんはこの街のオアシスのほうにいるらしい。
私達はお礼を述べてから、オアシスのほうに向かう事にした……
…………
………
……
…
「おーすげえ!サンドスライダーだ!サンドスライダーがある!!」
「はいはい落ち着いてユウロ。今回はまずアイラさんに会ってから観光するんでしょ?」
「そうだけどさ…でも凄いよあれ!サンドスライダーだぜ!?」
現在18時。
日も沈み空が暗くなってきたが、街の中心部であるオアシスの周りは街の中で一番賑わっており、屋台や大勢の人達が周りにいて明るかった。
やはり親魔物領らしく魔物の姿もあちこちに…見た事ない魔物が多いけど。
例えば包帯で巻かれてる魔物『マミー』にワーキャットとはまた違う褐色の肌の猫の魔物『スフィンクス』、燃えてるリザードマンの『サラマンダー』や蠍の魔物…アメリちゃん曰くこの魔物が『ギルタブリル』らしい…なんかがいた。
「さてと…アイラさんがいるのはどこだろうな……」
「うーん…案内見てって言ってたからどこかにはあるんだろうけど…」
とりあえず観光はまた後日にして、アイラさんに会いに行こうと手掛かりを探していたら……
「そこの者達、アイラ様に何か用か?」
「怪しい者ではなさそうだが…」
「え…はい。あなた達は?」
後ろから白のベールに黒のタンクトップ、白い薄地のバギーパンツを着て、さらに腕にも白い布を巻いている女性…いや魔物か…と、40代ぐらいの無精髭を生やしたボサボサの髪をした男性に話しかけられた。
「私はアイラ様の近衛隊長を務めるセリアというデュラハンだ」
「俺はマルク。セリアの夫であり師であり…まあもう一つあるがそれは後で。ところで、そこの子供はアイラ様と同じリリムのようだが…」
「うん、アメリはリリムだよ。アメリ会った事ないお姉ちゃんたちに会うために旅してて、アイラお姉ちゃんに会いにきたの!」
「なるほど…ここに居る者はアメリ殿のお連れ様か?」
「あはい…まあそんなところです」
「では案内しよう。俺達についてきな!」
その女性…セリアさんと男性…マルクさんはアイラさんの近衛隊長であるらしい。
アメリちゃんから事情を聞いた後、私達はアイラさんの下まで案内してもらえる事になった……ラッキー。
……………………
「なるほど…ラインの領主殿の紹介か……ではアイラ様が今朝言っていた客人と言うのはアメリ達の事か……」
「ちっこいのに凄いなアメリは!」
「えへへ…ありがとマルクおじさん!」
それから、ちょっとした話を聞きながら案内してもらっていた。
どうやらこのラスティという街は元々反魔物領だったらしいが、魔王軍が制圧してアイラさんが領主になった事で親魔物領になったらしい。
それとこの街は砂漠という過酷な環境であるが故に医薬技術が発達しているらしい…薬は旅の必需品だし、後でお店に行って買おうかな……
さらにはオアシスとは別の地下水脈を利用した巨大プールもあるとの事…明日行ってみよう。
「さて、着いたぞ。ここにアイラ様がいる」
「おおー、でかい!!」
「大きいですねぇ……」
私達が二人に案内してもらったのは…宮殿みたいな場所だった。
「じゃあアイラ様のとこに……」
「その必要はありませんよ…私はここに居ますから」
そしてアイラさんの部屋に案内されるところで…後ろから女性の声がした。
「あ、アイラ様!?どうして外から……」
「ライカさんに妹が尋ねて来ると聞いていたので待ち切れずに外に出ていました」
「そうですか…では、こちらがその妹様とその旅の同行者達です」
どうやらこの女性がアイラさんらしい…
「そう…あなたがアメリね。初めまして私はアイラです」
「初めましてアイラお姉ちゃん!アメリだよ!!」
そのアイラさんの格好は……黒い布…チャドルっていう砂漠地方特有の衣装で顔以外を隠し、更には白いヴェールで目元以外を隠している、露出の少ない不思議な格好をしているリリムだった。
12/09/15 17:40更新 / マイクロミー
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