旅32 都市『ライン』の非日常 とあるコラボのお話
「う〜ん……」
「ん?どうしたのスズ?考え事をしているようだけど……」
「いや…ちょっとね……」
現在21時。
セレンちゃんとセニックの襲撃を受けた後、特に何も起きる事無く数日間旅を続けていた私達。
そのおかげで明日にはラインに到着する所まで順調に進む事が出来た。
「何?記憶の事?何か思い出したの?」
「まあ…間違っては無いかな…」
それで今は『テント』で夜ご飯も食べ終わって、女子はお風呂から出てゆったりとしている時間。ちなみにユウロは今お風呂に行っている。
アメリちゃんはテーブルの上でライムちゃんから貰った独楽を回しており、私とスズはベッドの上でボーっと腰掛けていたのだが、スズが考え事でもしているらしく突然悩ましげに唸りだした。
「アタイは何も記憶がない…けどさ、たまにあれっ?て思う事があるんだよ」
「ん?どういう事?」
「いや…ほら、アタイの喋り方…特に気にしてなかったけど、どうしてアタイ記憶ないのにこういう喋り方を自然に出来るんだろうって」
「ああ…言われてみれば確かに……誰かに影響されたとかじゃなくて?」
「いや…自分の事をアタイって言ってるのは皆と旅に出るまで誰一人としていなかった…」
「ふ〜ん……」
どうやら自分の記憶の事で考えていたらしい。
たしかに、初めて会った時から記憶を無くしているというのにやたら喋り方とかは安定していたなぁ…
「たぶん…それは記憶が無くなる前からスズが使っていた喋り方だよ」
「そう…なのかな?」
「ほら、記憶が無くなってても言葉自体は忘れてないでしょ?それと一緒で…なんていうんだろ…頭じゃなくて身体が覚えているっていうか…ほらスズ、前に私が二日酔いでダウンしてた時に料理手伝ってもらったけどさ、その時普通に包丁とかの調理器具使えたよね?」
「まあ…そういえば普通に使い方がわかったなぁ…」
「でしょ?そんな風に記憶が無くても自然と覚えている事もあるんだよ!喋り方もその一つだって!」
「そうなのか……へへっ、なんか覚えてる事があると思うだけでも嬉しいや!」
全く記憶が無いのでは無く、少しは意識しないところで覚えている事もあって嬉しいのだろう…
今まで一緒に居ただけでもほとんど見た事無い程の満面の笑みを浮かべている。
「ふい〜、良い湯だったぜ……ん?なんかスズやけに嬉しそうにしてるな」
「あ、ユウロ出てきた。無意識でも覚えてる事があって嬉しいんだよ」
と、しばらくスズと話していたらユウロがお風呂から出てきたようだ。
きちんと寝巻を着てタオルで髪をゴシゴシしながら私達の近くまで歩いてきた。
「ふーん……言葉遣いとかか?」
「そうだ!まあ確証は無いけど、無意識に使ってるって事は可能性あるよな!?」
「まあな……」
そのまま私達の会話に入ったユウロ。
いつもの様な感じだと、こうなると大体……
「アメリもお話するー!!」
「ん?もう独楽回しはいいのかアメリちゃん?」
「うん…アメリもみんなとお話したいもん」
一人で遊んでるのが寂しくなったアメリちゃんが話の輪に入れて欲しそうな目でこっちを見ながら寄ってくるんだよね……
……かわいいなぁもぅ……
「もちろんいいよアメリちゃん!!」
「むきゅっ!」
「あ、ゴメンねアメリちゃん」
私はあまりもの可愛さに近寄ってきたアメリちゃんを抱き寄せた。
ちょっと勢いがあり過ぎて一瞬だけアメリちゃんが苦しそうな顔をしたので謝っておく。
「やっぱアメリちゃんみたいな可愛い妹欲しかったなぁ……」
「そういえばサマリって一人っ子なの?」
「そうだよ。一度親に私が妹欲しいって言ったら両親二人とも何故か悲しそうな顔したからそれ以来言えなかったけどね。スズ……は記憶無いからわからないか」
「うん……でもアタイも妹とかいたらいいなぁ…」
「アメリはお姉ちゃんいっぱいいるよ!妹もね!!」
「そうだね…って妹もいるんだ…魔物って子供出来にくいって聞いたからてっきりアメリちゃんが一番下かと…そういえばユウロは兄弟とかいるの?」
「……」
「……ユウロ?」
そして何気なく呟いた「妹が欲しかった」発言で、話題は兄弟姉妹の話になった。
スズは…まあわかるわけ無いし、アメリちゃんの場合はその姉妹に会う為に旅をしているから当然いる。
まあアメリちゃんの『妹』がいるのには驚いたが……アヤメさん達が言ってたけど魔物って人間と比べて子供が出来にくいらしいからアメリちゃんが末っ子だと思ってたけどそうでもないんだ……
ってそういえば初めて会った時のお昼ご飯の準備をしてる時にたしか魔王様が旦那様と喧嘩してアメリちゃんやお姉ちゃん達や『妹達』に泣きついてくるって言ってたような気もするなぁ……
そして順当にユウロにも話を振ったが……何故か黙りこんでしまった。
「どうしたのユウロお兄ちゃん?」
「あ、ああ…ちょっとな……」
「ん?何?言いたくない事?」
「え……まあ別にいいか……本当の兄弟はいなかった……けど、まあ弟みたいな奴ならいたな……」
「へぇ……」
アメリちゃんが覗きこんで、どこか遠くを見ているような表情でようやく淡々と話し始めたユウロ。
「なあユウロ…『いなかった』とか『いた』とか…なんで過去形なんだ?」
「まあ…もう故郷には戻れないからな……それに……」
「それに?」
「……いや、なんでもない……」
そういえば前に精神的にも物理的にも故郷に戻れないって言ってた事があった気がする。
過去の事を話したがらない事も関係あるのかな?
「まあ話したくないならいいよ。トラウマっぽい事もあるんでしょ?」
「まあな……そうしてもらえると助かる」
どちらにせよユウロ本人が話したがらないし、過去の話になると大体暗くなるから何かあるのだろう……
最近はアメリちゃんとも気兼ねなく話してるし、他の子供とも普通に接してたから忘れてたけど……たしかユウロって子供と接するのが怖いって言ってたな……
もしかしたら…その弟みたいな存在が関係しているのかな?
傷付けるのが怖いって言ってたし……弟みたいな存在を傷付けてしまったとか?
「ま、しょうがないか……そんじゃあ話題を変えてっと……ラインってどんな街だと思う?」
「そうだね…きっと魔物のお姉ちゃんたちがいっぱいいる街だよ!!」
「まあ親魔物領ならいるだろうな……」
これ以上この話題を続けるのもユウロに悪いので、話題を明日到着予定のラインがどんな街なのかという事に変えた。
そして数分後にアメリちゃんが大欠伸をしたので、私達は明日に備えて寝る事にした……
====================
「ここ…かな?」
「そうだな…大きな街だな」
「うわあ〜!!」
現在11時。
私達は予定通りラインに辿り着いた。
地図上で見たとおりやはり大きい街だ…大きな屋敷が街の中心部にある…そして休日なのか人も大勢いる。
「ねえアメリちゃん…お姉さん居そう?」
「う〜ん…わかんない……けど、それっぽい魔力は感じない……かも」
「ま、確実に居ると思ってこの街に来たわけじゃねえし居ないんじゃね?」
だが、肝心のアメリちゃんのお姉さん…リリムは居なそうだ。
まあ大きな街なら確実にいるってわけじゃないし、もしかしたら居るかもね位の感覚であって今回は居ると聞いて来たわけじゃないからがっかりはしない。
でもまあ居たら居たで良かったな…と思いつつも……これからどうしようか。
「そんじゃあとりあえず適当に見て周って、丁度良さそうな時間になったら昼飯にするか」
「そうだね…それじゃあまずどこから行こうか…」
「あの大きなおやしきってなんだろうね〜?」
「アタイも気になるなぁ…あの屋敷から行ってみようよ!!」
お昼にはまだ早いし、適当に見て周って良さそうな店があったら入りながら中心にある大きなお屋敷を目指そうという事になったので、早速歩き始めようとしたら……
ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「んな!?何の音だ?」
「さ、さあ…向こうのほうから聞こえてきたけど……」
街のそう遠くない場所から大きな音が響いてきた。
「なあ……行ってみるか?」
「うん……そうだね……」
危険がある可能性も高いが、そうであれば状況を知っておいたほうが良い……
そう思い私達は大きな音が響いた方へ向かっていった。
…………
………
……
…
「……なんか建物から煙が出てるね……」
「ああ……でも……なんだろこの『いつものように』みたいな空気……」
少し移動した所にあった建物の窓から煙が立っていた。
おそらくさっきの音はここからだろう……けど、近くに居る人は特に何とも思っていないようだ。
いったいどういう事だろうか?
「まあ…中覗いてみればわかるんじゃないかな?」
「そうだね……」
とても気になるので、その煙が出てる窓とは別の窓から内部を覗いてみた……
「……デューナ殿?」
「……ごめんなさい……」
「……どうやったら低威力の斬撃系スキルで岩が爆散するのですか?」
「だからごめんって……威力も種類も考え事して間違えたのよ……」
「まあいつもの事ですが……気を付けて下さい」
「……はい……」
「な、なにしてるんだろ……?」
「さ、さあ……」
中を覗いてみると……どうやら何かの訓練をしているようで、沢山の人がいた。
そして教える側にいるエンジェルが何か怒られてる……ってエンジェル!?
「なんでエンジェルが?ここって親魔物領だよね?」
「まあ…そこは問題無いと思うけど……」
親魔物領なのにエンジェルが普通に居て驚いた……が、ユウロ曰くそこは問題無いらしい。
でもエンジェルって神の使いなんだから親魔物領にいるのは違うんじゃないかな?
とか思ってたら……
「ところで、窓から覗いているのは誰?この街の住民じゃないようだけど……」
「……え!?」
どうやら私達が覗いている事がバレていたらしい。
真顔で私達のほうを向いてこう言ってきた。
「あ、いや…別に怪しいものではありませんが……」
「わざわざ自警団の詰め所を覗いているし魔物が混ざってるから教団の人間ではなさそうだけど…怪しい事には変わりないわよ?」
「あ、ここ自警団の詰め所だったんですか……」
どおりで訓練所みたいな感じになってたのか…
とすると、このエンジェルと近くに居る人は教官か何かかな?
まあとりあえず身の潔白を証明するのが先か……ちょっと疑われてるようだしね。
「で、あなた達は何者?場合によっては……わかってるよね?」
「えっと…私達は旅人です。この街に着いて早々大きな音が聞こえたのでちょっと覗いてみただけです」
「……そう……」
正直に話したら、途端に俯いたエンジェルさん…
どうしたのだろうか?
「もしかして…今の大きな音ってエンジェルのお姉ちゃんが原因?」
「う……」
アメリちゃんにそう言われたらより気まずそうにしたエンジェルさん…という事は正解らしい。
そういえばさっき岩が爆散したとかなんとか……というか岩って爆散する物なのか?
「あの〜……ちょっといい?」
と、さっきから一言も喋って無かったスズが突然口を開いて……
「今って自警団の訓練してるんだよね?」
「え、ええ……」
「じゃあさ……見学してもいい?」
『へっ!?』
目を輝かせながら、突然見学したいと言い出したのだ。
「だってさ、こういうのって滅多に見れないじゃん!それにさ、この前みたいにいきなり戦闘になるかもしれないし、参考までに見たいなと思って」
「ああ、それもそうか……えっと、いいですか?」
「そうね……私がやってるのはスキル…気功みたいなものだと思って…を教える事なんだけど…それでもよければいいわよ。いいよね団長さん?」
「まあ…邪魔しなければ……」
「やったあ!」
たしかにそう無い機会だし、どこ行こうか決めて無かったので見学させてもらうのもいいかもしれない。
そう考えた私達は見学の許可を貰ったので、ちゃんとした入口から中に入って見学させてもらう事になった……
……………………
「……とまあこんな感じかな…それじゃあ午前は各自特訓して終わり。30分したらお昼休憩ね〜」
現在12時。
あれから私達はエンジェルのデューナさんが行っている訓練を大人しく見学させてもらっていた。
「で、あなた達…見学してみてどうだった?」
「デューナさんって強いんだな!!岩がスパっと真っ二つになるなんて思わなかったよ!!」
「そう?あれくらい簡単よ…今日はちょっと考え事してたから失敗も多かったけどね」
「その失敗で岩が粉々になったり綺麗な穴が開くってのも凄すぎるかと…」
「知ってるエンジェルとは桁が違いすぎる……」
内容はスキルとか言うものの訓練で、デューナさんが手本をやっていたのだが……なんというかまあ無茶苦茶強いという事がわかった。
何個か用意されていた岩が良くて石ころ、一部砂になっている物もある程だ。
しかもそれらはどれも『考え事をしていて威力とスキルの系統を間違えたもの』、しかも全く本気は出していないというのだから恐ろしい……
いままで出会った事ある人の中で間違いなく最強なんじゃないだろうか……たぶんエルビやルコニもデューナさんに掛かれば簡単に倒せると思う。
あ、エルビやルコニと言えば……
「そういえばデューナさんはエンジェルなのに親魔物領に居るんですね」
「まあ、ね……」
おっと、この質問はしなかったほうが良かったか…それ聞くなよって言いたそうな目で睨まれてしまった。
それにちょっとだけ空気も重くなってしまった……
「なあなあデューナさん、なんでそんなに強いんだ?」
「ま、こんな仕事してるくらいだし、それに元々戦闘型だしね〜」
「へぇ……」
おそらく空気を読んだわけではないだろうが、スズが話題を変えたので少し重かった空気が無くなってホッとした……
しかし…こんな仕事してるからとか、元々戦闘が得意だからってだけでここまで強いのか?
というか全てのエンジェルがここまで強かったらと思うと……末恐ろしいけど…セレンちゃんからしてそれはないだろうな……
「じゃあさ、そこの木刀君とウシオニの君、私と手合わせしてみる?」
「「いえ、勝ち目無いので遠慮します」」
「そう…ま、わかってるならいいわ」
そしてユウロとスズがデューナさんに手合わせしないかと誘われたが…二人して即断った。
まあ…勝ち目無いどころか一発でも攻撃通ったら良い方だと私も思うから仕方ない。
断られる事をデューナさんもわかってたのだろう…特に気にする事無く話を続けた。
「そういえばあなた達二人は多分この中で戦闘を担ってるのよね?」
「まあ……なんだかんだ言いつつ皆で戦ってる気が…というかアメリちゃんがいちばん活躍してる気もしますが…」
「そう……え?アメリちゃんってこの小さなリリムの女の子の事だよね?」
「うんそうだよ!アメリだよ!!」
「へぇ…小さいのに凄いのね……で、私が聞きたいのは…あなた達は何のために戦ってるのって事」
「何の為…ですか……」
どうやらデューナさんは何の為に戦うのかを二人に聞きたかったらしい。
まあライン自警団体術顧問をしている人だ…そういった事も気になるのだろう……
でも、私達って……
「まあ…状況によって違う……よなあ?」
「へっ?」
「そうだね…今までの旅の中でだって大切な人を助ける為にとか、仲間を護る為とか、先に進む為とか、襲われてる町の人を助ける為とか、特殊な戦いを経験してみたかったからとか…そんな感じだったっけ?」
「おう…大体そんな感じだったな……」
結構戦ってる事も多かったけど…理由はバラバラだ。
ホルミやディナマ達、それにセレンちゃん達やエルビ達との戦いはまあ『大切な存在を護りたいから』で纏められるけど…ルコニ達の時はまさに『先に進みたいから』だったし、キッドさん達と居た時に海賊と戦ったのは『海賊の戦闘を体験してみたかったから』なんて理由だったもんな…
「それ以外で思い付くのは…自分の為とか、ただ戦いたいからとか、命令されたからとか…戦いをしたくないから戦うなんてものもあるな……」
「うーん…ムカついたからとか?」
「スズお姉ちゃん、それちょっと違うと思う」
「……ぷっ、あははは!!」
「ん?どうしたのデューナお姉ちゃん、急に笑ったりして……」
と、真面目に戦う理由を思いつく限り上げていたら、突然デューナさんが笑い始めた。
何か変な事言ったかなぁ?
「いやゴメンゴメン…まさかそんな事言われると思って無かったから…」
「はぁ…」
どうやら私達はデューナさんが予想すらしていなかった事を言っていたらしい…それが面白かったのだろう。
というかなんて言うと思っていたのだろうか……
「気にいったわ。この後私はローランとご飯を食べる為に喫茶店のアーネンエルベに行く予定なんだけど、あなた達も一緒に行く?」
「え、いいのですか?」
「まあお店に行くまでお話ってだけでお店に着いてからは私はローランと一緒に居るけどね」
「わかりました、ならぜひ……ん?」
とにかく、私達はデューナさんに気にいられたようだ。
これから昼食を食べる為に喫茶店に向かうという事だが、その道中でお話しないかと誘ってきた。
まあお昼に丁度良い時間だし、折角だからお話しながら案内してもらおうと思ったのだが…
「ローランって誰です?」
「私の弟の事よ…まあ血は繋がって無いけどね」
「へえ〜、弟さんですか…」
強調するように出てきたローランという人物の事が気になったので聞いてみたら…どうやら弟さんらしい。
「あ、ローランに手を出したらタダじゃ済まさないからね!」
「……いや手を出すつもりは全くないですので安心して下さい……」
「同じく……殺されたくないし……」
「はわわわ……」プルプル
「ならよろしい!」
というか、とても大切で大事な弟さんらしい。
別に何も言って無いのに、凄い脅しを利かせた笑顔で私とスズとアメリちゃんに手を出すなと言ってきたのだから……
…………
………
……
…
「へぇ…お姉さん達に会う為に旅を…」
「それはまた…リリムとはいえ小さな子供が旅しているのは不思議だったが、変わった理由で旅してるのですね……」
「だってアメリ会ったこと無いお姉ちゃんと会ってみたいと思ったんだもん。ナガトお姉ちゃん、そんなに変?」
「えっいや…そんな事はないかな……」
午前の訓練が終わった後、私達はデューナさんと、自警団の事務仕事を今日は緊急だったらしく午前中だけしていた『アヌビス』っていう犬の魔物の長門(ナガト)さんと一緒に喫茶店アーネンエルベに向かっていた。
どうやら長門さんの旦那さんはその喫茶店で働いているらしく、『他の嫁達』も集まってるだろうからとついでに一緒に行くことになったのだ。
「ところで…さっき長門さんが言ってた事って本当なの?」
「ん?さっきと言うと…別世界から来たって事か?本当だぞ」
「そうそれ。そして本当なんだ…」
「ま、この街はそういう人物も居るのよね…『貿易』が盛んだしね」
名前からしてジパング出身かと思ったんだけど…長門さん曰く別世界からここに来たらしい。
しかも旦那さんや他の嫁さん達も同じ世界から、皆揃って来たとの事。
別世界の人は何人か見た事あるし、実際行った事もあるから信じられるけど…結構いるのは驚きだ。
異世界人は珍しい物だと思っていたがそうでもないのかな……
「あ、着いたわよ。ここが目的地の喫茶店よ」
「ほぉ…ここが……」
そうこう話しているうちに目的の喫茶店、アーネンエルベに着いたようだ。
私達の目の前にはちょっと古い感じの建物…よく言えばアンティーク調のおしゃれな喫茶店があった。
「それじゃあ早速入りましょうか……」
チリンチリーン♪
綺麗な音を立てながら扉が開いた…というか、デューナさんが扉を開けた。
「いらっしゃいませ。喫茶店アーネンエルベへようこそ…ってデューナさんでしたか…と思ったら見知らぬお客様も居たようで…」
「ええそうよ。そして自警団の詰め所に来てた旅人達よ。ついでに連れてきたわ…」
「それはありがとうございます。では改めて…お客様は4名様ですね。お席のほうはカウンター席とテーブル席とございますが…」
「あ、ではテーブル席で」
「承知しました。ではご案内させてもらいます」
その音に反応してウエイトレスだと思う男の人がお馴染みの挨拶を述べてきたが…デューナさんを見て一旦止めてしまった。
だが私達に気付いたようで挨拶を再開していた。
カウンター席とテーブル席があると言われたので、私はいつも通りテーブル席に案内してもらう事にした。
「ローラン〜!」
「あ、姉さん。お仕事お疲れ様…って今外なんだから抱きついてこないでよ!」
「え〜だってここ喫茶店だし、それにローランとくっついていたいんだも〜ん♪」
「はは…相変わらず仲の良い姉弟だね」
「もう…悪いね方丈君…ほら姉さん注文するよ」
ちなみに私達が案内されている間にデューナさんは弟さんを発見したようだ。
ここで働いている男の子と話していた子の元へ一目散で駆け寄って飛び付いていた。
更に言えば弟のローラン君と話していた男の子は…
「あ、長門も来たんだ。もう少し遅くなると思ってた」
「正孝(まさたか)…来るのは当たり前だろ?まあ予定より早く来れたが…嫌か?」
「いやいやまさか。まあ皆と座っててよ。後で注文聞きに行くから」
やっぱり長門さんの旦那さんである正孝君だった。
デューナさんと同じタイミングで私達から離れて一直線に正孝君の所へ駆けて行き、少し話した後にミノタウロスとゆきおんなとハーピー…じゃなくてセイレーンかな…が座ってる席へ向かっていった。
おそらく話に出ていた他の嫁さん達だろう…正孝君モテモテだなぁ…
あれ…でもたしか長門さんの話では長門さん含めて5人だったはずだけど……一人足りないな……
「サマリお姉ちゃん、何たのむ?」
「ん?そうだね…」
と、デューナさんや長門さんの様子を見ていたら隣に座ってるアメリちゃんにメニューを渡された。
何があるかなと見てみたら……いっぱいあるなぁ……迷うなぁ……
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、えっと…」
迷っていたらさっきの店員さんが注文を聞きにきたので、私は目に入ったものを適当に注文する事にした。
「んー…私はサンドイッチとマッシュポテト、あとパンプキンパイとミルクティ貰おうかな」
「アメリもサンドイッチ!あとチーズケーキとアップルパイとホットミルク!!」
「アタイは…サンドイッチ…でも野菜ばっかじゃないやつで…あと肉じゃがとチョコケーキとクッキーと…飲み物はダージリンとか言うやつで!!」
お腹も空いていたし、とりあえず美味しそうなものを注文していく私達。
意外とお金はやりくりしているうえに私の毛皮やこの前の分け前などもあってお金は沢山あるからアメリちゃんもスズも沢山注文した。
「俺もサンドイッチ…あとマッシュポテトと飲み物はカフェオレ……あ、カステラとかあるんだ。久しぶりに食べたいからカステラも下さい」
「えっ……!?」
そしてユウロが注文が終わった時、何故か店員さんが驚いた表情を浮かべていた。
「どうしました?俺今何か変な事言いましたっけ?」
「え、いや…そんな事は無いです。かしこまりました」
何か思った事があるらしいけど、注文を聞いた店員さんはとりあえず奥に行ってしまった。
「…何だったんだ?」
「さあ…」
「おなかすいたー早く来ないかなー」
とりあえず注文も済んだし、量が量なのでしばらく掛かるだろうなと思ってボーっとゆらゆらしてるアメリちゃんを見ながら待ってたら…
「おまたせしました。ミルクティとホットミルクとダージリン、あとカフェオレです」
「あ、ありがとうございます」
まず最初に飲み物がやってきた。
各自自分が注文したものを受け取る……うん、良い香りだ。
「ところで、そこの小さな女の子は…リリム?」
「うん。アメリはリリムだよ!!」
「へぇ…アメリちゃんって言うのか…またどうして旅を?」
「んっとね、まだ会ったこと無いお姉ちゃんに会うために旅してるの!!」
そのまま店員さんは残ってお話を始めた…いいのだろうか?
「えっと…」
「あ、僕は星村空理(クウリ)です…どうしましたワーシープのお譲さん?」
「あ、私はサマリです。それでこっちの男の子がユウロでウシオニがスズです。えっと…仕事しなくて大丈夫なのですか?」
「まあ今はマスター達が注文した物を作ってる最中ですからね。他のお客さんは皆顔馴染みですしね」
「それでいいのか…」
まあ空理さん本人がよさそうにしているから良いとしよう。
「そうだ…リリムと言えば前にこの店に来た人もいますよ」
「えっホント!?なんてお姉ちゃん?」
空理さんが言うにはどうやらリリムもこの喫茶店に来た事があるらしい。
会った事無い人か、それとも……
「たしか…フィオナさんって名前だったかな…」
「あーフィオナお姉ちゃんかぁ…」
「おや?知っているお姉さんだった?」
「うん。おうちに住んでるよ」
フィオナさん…といえば、前にマルクトで偶然出会ったお姉さんか…
そういえば旦那さんのユウタさんも異世界人だったなぁ…この街は本当に異世界人が多く集まるんだな。
「ちょっと空理、お話は後にして運ぶの手伝ってよ」
「ん、わかったよ美核(ミサネ)」
しばらく話しているうちに注文したものが出来たらしい…沢山のサンドイッチが乗ったお皿をトレーに乗せて妖狐…じゃなくて稲荷だと思う女性店員…空理さん曰く美核さんがやってきた。
「お待たせしました、サンドイッチです。えっと、野菜少なめの注文をしたのは…」
「あ、アタイです」
「はい…残りの物もすぐお持ちするのでもう少々お待ち下さいね」
「ありがとうございます」
卵が挟んであるもの、ベーコンやトマトやレタスが挟んであるもの、ツナサラダが挟んであるものなど、いろんなサンドイッチがお皿に盛られていた。
「こちらポトフとマッシュポテトです。デザート系は食後でよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」
そして空理さんが肉じゃがをスズに、マッシュポテトを私とユウロに運んできて、一先ず食べるものが揃ったので…
「それじゃあ食べよっか」
「うん!いただきまーす!!」
「「「いただきます!」」」
私達はちょっと遅めのお昼ご飯を食べ始めた。
「う〜んっ!シャキシャキのレタスがおいしい!」
「ベーコンサンドウマい!」
「スズお姉ちゃん、トマト抜いちゃダメだよ」
「えー…だって苦手…レタスは食べてるんだからさぁ…」
「好きキライはダメだよ!」
「はい……アメリに言われたら食べるしかないか……あ、意外といける!」
まずはベーコンとレタスとトマトが挟んである物から食べたが…シャキシャキのレタスにベーコンの旨味、そしてトマトの酸味がマッチしててとてもおいしい。
野菜嫌いのスズがおいしそうに食べている程である。
「もごもご……卵サンドおいしい!!」
「そうだな…味付けがまた絶妙で…いくらでも食べたくなる……」
アメリちゃんとユウロは卵サンドを食べている…黄金色に輝く卵が食欲を促す……
私達は満足した気持ちでお昼ご飯を食べ続けた……
…………
………
……
…
「ふぅ…お腹いっぱい…」
「ごちそーさまー!!ミサネお姉ちゃん、全部おいしかった!!」
「ふふっ、ありがとうアメリちゃん」
デザートも食べ終わって、お腹も満腹になった。
パンプキンパイおいしかった…あと、ユウロに一口貰ったけどカステラっていうケーキもおいしかったなぁ…
後で作り方聞いても良いかなぁ……
「この後どうする?」
「うーんそうだね…美核さん、どこか良い場所知ってます?」
「ん〜そうねぇ…オススメ出来る所は多いし…どうしようかな……」
とりあえずこの街でどこか良い場所が無いかを、ケーキやパイを持ってきた後ずっとお話していた美核さんに聞いてみたが、やはり観光できる場所が多いらしい…
ならばやっぱり適当に見て周ろう…町の中心部にある大きな建物…領主の家らしい…から見て行こうかな…
「ところで美核さん…」
「なんですかサマリさん?」
どこを見に行くかは決まって無いけどまあ決まったので、私は気になっていた事を美核さんに聞く事にする。
「美核さんと空理さんってもしかして恋人同士…だったりします?」
「えっと……その……」
さっきから二人がなんとなく微笑ましかったから聞いてみたが…恥ずかしそうに顔を少し赤くして俯いてしまった。
「まあご想像にお任せしますよ」
「うわあっ!?空理さんいきなり現れないで下さいよビックリしたじゃないですか」
「まあそのつもりだったからね」
そして助け船を出すようにいきなり空理さんが現れた。
気配を消していたようだから気付かなかった……
まあご想像にお任せしますだなんて笑顔で言われたら…肯定って取って良いのかな。
「ところでそっちは皆…少なくともサマリさんとスズさんはユウロ君の嫁さんだったりするのかい?」
「え?違いますよ。全員フリーです」
「えっそうなの!?」
そして逆に私達とユウロが夫婦なのかと聞かれた。
まあ男一人に魔物が数人いたらそう思われるのも無理は無いか…ちょうど目の前に正孝君という例があるしね。
「またそれはなんで?皆想い人が別にいるとか?」
「いえ…まあユウロにもいろいろあるという事です」
「はい…まあ詳しくは言えませんが誰かと恋仲にはなるわけにはいかないので…」
「ふーん…」
なんか二人とも納得してなさそうだったけどこれ以上説明しようがないから仕方が無い。
私だって納得出来ないところもあるけど、本人が話したがらないならどうしようもない。
チリンチリーン♪
「あ、いらっしゃいま…ああジルさん、それにジェミニさんも。リースさん呼んで来ましょうか?」
「ああすまない……」
「よ、よろしく……」
話をしている最中に突然入口のチャイムが鳴った。
どうやらお客さんが…空理さんの反応からすると顔馴染みの人達が来たらしい。
片方は少し表情の読み取りにくい男の人で、もう片方は美しい青白い肌に輝く白髪、朱色の瞳で黒い翼と肌の色と同じ輪が頭上に浮かんでいる…色違いのエンジェルだった。
「あ、ジェミニさん…レンはどうしてますか?」
「あ、方丈君…レンちゃんは今孤児院の子供達を見てもらってるわ…ちょっと行きたそうだったけどね」
「はは…まあ仕事ですしね」
色違いのエンジェルさん…ジェミニさんというらしい…は、正孝君に話しかけられてそう答えた。
おそらく正孝君の口から出たレンって子が残りの一人で、孤児院で働いてるんだろうな……
…というか孤児院か…子供もいっぱいいるかな……
「あら時間どおりね。ジルもジェミニもおはよう」
「あ、リース、おはよう…って今まで寝てたの?」
「まあね。理由はそこに居るゆきおんなの彼女がよく知ってるんじゃないかな」
「あ、店長…お疲れ様です。新しい薬の調合は上手く行きましたか?」
「まあね。夜遅くまで掛かっちゃったからついさっきまで寝てたけどね」
来客のほうを見てたら店の奥から空理さんと一緒にとんがり帽子を被った女の子が出てきた。
そのままジェミニさんやジルと呼ばれた男の人、それと正孝君の嫁の一人のゆきおんなさんと話を始めた。
「さてジェミニ…調子はどう?何か問題は?」
「まあいつも通り大きな問題はないわ。ダークエンジェルらしい思考ってのは困るけどね…」
「まあそれは早く慣れる事ね」
そのままジェミニさんはリースと呼ばれた女の子と話を始めた…というか、女の子が大人っぽく見える……
もしかしてあの女の子…『魔女』なのかな?
そして色違いのエンジェルは『ダークエンジェル』って言うんだ…魔物になったエンジェルってところかな?
後でアメリちゃんに確認してみよう。
「ところで…お前達、さっきからこっちをジロジロ見ているが…何か用か?」
「へっ!?あ、す、すいません…」
と、一連の様子を見ているのがジルさんに気付かれたらしい。
ちょっとムスッとした様子で尋ねられたので謝っておく事にした。
「いやぁ…黒いエンジェル…ダークエンジェルでしたっけ?始めてみたなーって」
「あ、ど、どうも……」
「ちょっと、見世物じゃないわよ?」
「あ、いえ…それと孤児院って聞こえたもので…小さい子供好きなので行ってみたいなって思いまして…」
「え、そうなのサマリ?」
「うん」
そして見ていた理由を素直に言う事にした。
途中ジェミニさんの事を言ったらリースさんに睨まれたけど、まあ何か理由があるのかな…
それと孤児院に行きたい事を言ってみた。
ユウロが驚いてたけど、私小さな子供大好きだし、遊びに行きたいと思ってたからね。
「あ、では、これから少しここでお茶したあと一緒に行きます?」
「いいのですか!ぜひお願いします!!」
「ええ、大人は私含めて3人しかいないので助かります」
「アメリも行く!!友達出来るかな〜♪」
という事で私達はこの後孤児院に行くことが決まったのだが…
「あ、ユウロ君…だっけ?君だけちょっと残ってくれる?」
「はい?俺ですか?」
空理さんがユウロだけ残って欲しいと言ってきた。
「うん。ちょっと確認したい事と、話したい事があるから」
「まあ良いですけど…んじゃあ俺は後から場所教えてもらってから行くわ」
「了解。あ、そうだ…飲み物おかわりいいですか?」
「いいですよ」
どうやらユウロにだけ聞きたい事があるらしい。
さっき驚いていたのと関係あるのかな?
とにかくジェミニさん達もお茶するという事だし、もう少し時間が掛かるだろうから私はミルクティをおかわりして待つ事にした……
…………
………
……
…
「アメリみーっけ!」
「うぅ…アメリかくれんぼ苦手なのかなぁ……」
現在15時。
私達はラインにある唯一の孤児院に来ていた…と言ってもユウロは空理さんとお話がある為喫茶店に残ってはいるが。
「ありがとうサマリ君、スズ君。おかげで今日は楽出来るよ。大変じゃないかい?」
「いえ、子供達の笑顔を見ていると疲れも眠気も飛んで行きますので!」
「アタイも!最初はウシオニだから怖がられるんじゃないかってちょっと怖かったけど皆笑顔で寄ってくるからもう嬉しくて!!」
「そうか、そう言ってくれると助かるよ」
子供達と一緒に遊んだり裏の仕事を手伝ったりと忙しいといえば忙しいかもしれないけど、元気に遊んでいる子供達を見ていると疲れなんか微塵も感じない。
それはスズも同じようで、さっきからウシオニ特有の力を使って子供にせがまれて振り回したりしている…ちょっと危ない気もしないでもないけど糸で吹き飛ばないようにはしているから大丈夫だろう。
その事をこの孤児院の院長さんであるククリスさんに言ったら笑顔でお礼を言ってくれた。
「アメリちゃんはどこに居てもなんとなくわかっちゃうかな」
「えっそうなの!?なんでレンお姉ちゃん?」
「ん〜…リリムとしての存在感?」
「え…それもうどうしようもないじゃんか……うぅ……」
「じ、じゃあ別の事して遊ぼうか…」
ちなみにアメリちゃんはすぐに孤児院の子供達や正孝君の嫁さんの一人、本来は箱に入ってるらしい『ミミック』って魔物の恋歌(レンカ)さん、通称レンさんと仲良くなって一緒に遊んでいた。
「ククリスさん、私皆の夕食作ってきます」
「ああ、頼むよ」
「あ、じゃあ私も手伝います。いつも作ってるので料理は出来ます」
「おおそれは助かる。ぜひお願いするよ」
「ありがとうございますサマリさん」
ジェミニさんが夕食を作るという事で、私も手伝う事にした。
なので私の毛にくっついて眠そうにしていた子供達をスズに預けて、ジェミニさんと厨房に行くことにした。
「今日は何を作るのですか?」
「今日はカレーライスにしようかと」
「なるほど…では私は野菜切りますね」
ジェミニさんと厨房に向かう途中で、私達は軽くお話をしていた。
「そういえばジェミニさんってダークエンジェルでしたっけ?」
「ええ…なんで疑問形?」
「いやぁ…私ってあまり魔物に詳しくないので…」
「魔物なのに?」
「田舎な反魔物領出身の元人間ですからね」
「ええっ!?」
私が元人間だって言ったらジェミニさんが目を大きく見開いて驚いていた。
やっぱこれ言うと驚かれるんだよなぁ…まあワーシープって普通魔物化しない種族らしいから仕方ないか。
「まあちょっとあってですね…アメリちゃんにワーシープにしてもらったんですよ」
「へぇ…実は……私も元エンジェルで……」
「あ、やっぱりダークエンジェルってエンジェルからなるんですね。それが聞きたかったんですよ」
そしてジェミニさんは元エンジェルらしい。
やはりダークエンジェルはエンジェルからなるものなんだな…
「まあ…私の場合は2回魔物化してるんですけどね……」
「へ?何か言いました?」
「いえ…聞こえて無かったようでしたらいいです…あまり言いたい事では無いので…」
「そうですか…ならいいです……」
何かボソッとジェミニさんは呟いたけど私には聞き取れなかった。
聞いてみても言ってくれなかったのでもう気にしない事にした。
言いたくないのに無理矢理聞くのも悪いもんね…
「あ、厨房に着きました」
「ここですか…それじゃあ子供達の為に頑張って作りましょう!」
「ええ!」
話をしているうちに厨房に着いた。
なので私達は話を止め、カレー作りに専念する事にした……
………
……
…
「あ、サマリお帰りー。夜ご飯は完成したのか?」
「後は煮込むだけだからこっち戻ってきた」
現在17時。
ジェミニさんと作っていたカレーももうすぐ完成する。
それでもう人手はいらないと言われたので、私は一足先に戻って子供達とまた遊ぶ事にした。
「あ、サマリお疲れ」
「あっユウロ、来てたんだ」
「おう、ついさっき着いたところだ」
そして子供達がいる部屋に着いたら、いつの間にかユウロが来ていて子供達と遊んでいた。
他にもさっきまでいなかった若い男の人がいた……いったい誰だろうか?
「空理さんとのお話ってなんだったの?」
「ああ…まあなんというか、空理さんの故郷が俺の故郷とほぼ同じだったからその話をしてたんだよ」
「へぇ〜、そうだったんだ…」
どうやら空理さんとユウロは同じ故郷らしい。
そういえば空理さんジパング人ぽかったけどちょっと違う感じもしてたもんな…ユウロみたいに。
「そんでたまたま店に来たこの街の領主のライカさんにここまで送ってきてもらったってわけ」
「ふーん…ライカってあそこで子供達と遊んでいる男の人?」
「そうそう、あのパッと見だと領主に見えない人」
そしてあの男の人はラインの領主さんらしく、ユウロは送って貰ったらしい。
じゃあ一応挨拶しておいたほうが良いかな……
「えっと…ライカさん?」
「はい…ああ、君がサマリちゃん?アメリちゃんから聞いてるよ」
「あ、はい、どうも…」
そう思って挨拶したが…この気軽な感じがあまり領主とは思えない……
まあでも嘘では無いのだろう…ユウロもそう言ってたしね。
「君達リリムを探して旅しているんだろう?」
「はい……もしかして知ってたりします?」
「ああ、そうだよ。その事を君達に言いにきたんだ」
「そうなんですか!では是非教えて下さい!!」
どうやらライカさんはリリムを…アメリちゃんのお姉さんがいる場所を知っているらしい。
今は全く情報が無いし、私はライカさんから聞きだす事にした。
「もちろんいいよ…このラインの北に砂漠があるんだけどね、その砂漠に『ラスティ』って街があるんだ」
「ラスティ…ですか?」
「そう。そのラスティの領主を勤めているのがアイラっていうリリムなんだ」
「そうなんですか…」
このラインの北方面にある砂漠…そこに在る街ラスティの領主アイラさんがアメリちゃんのお姉さんらしい。
「だってアメリちゃん。知ってる?」
「ううん知らない。アメリ会ってみたい!!」
「じゃあ次の目的地はラスティで!良いよね皆?」
「もちろん!」
「異議なし!」
しかもアメリちゃんが知らないお姉さん…という事は行くしかない!
だから私達はラスティに向かう事にした。
「まあ砂漠を渡る事になるし、少し旅の用意を手伝ってあげるよ」
「え、いいのですか?」
「ああいいよ。こうして予定を作っておけば逃げられるからね」
「へ?」
「ああこっちの話だから気にしなくていいよ。明日の午前中に来てくれればいろいろ案内するよ」
「わかりました。ではお願いします」
更にどうやら領主であるライカさんが旅の準備を手伝ってくれるらしい。
何か他の動機もあるようだけど、折角なのでお言葉に甘える事にした。
「皆さん夜ご飯の準備が出来ましたよ!サマリさん達も是非一緒に食べて行って下さい!!」
「わーいご飯だー!!」
「あ、ライカさんもいらしたのですか…どうです?」
「いや、僕は奥さんがね……明日こうして予定作っちゃったし、今日相手しないと後日どうなるやら……」
「はは…相変わらずなんだな…」
話がまとまったところでジェミニさんが現れ、ご飯の完成を告げた。
今日は孤児院の一室を使わせてもらう事になったので私達も子供達と一緒にご飯を食べに向かう事にした。
今度のお姉さん、アイラさんってどんな人なんだろうか……そしてそのお姉さんが領主を勤めるラスティってどんな街なんだろうか…そして砂漠って一度も行った事無いけど…どんな場所なんだろうか……
想像が勝手に膨らみながら、今日の夜は更けていった……
=======[???視点]=======
「あぅぅ……」
あたしは今どこを歩いてるんだろう……非常にあつい……
太陽がつよくて……力が入らないよ……
「うぅぁ……」
足元もあつい……もしかしたらここさばくなのかなぁ……
「やっぱ…大人しくしてたほうがよかったかなぁ……」
のどがカラカラで、汗もいっぱいでて……今にもたおれそう……
やっぱりてきとうなポータル使わなければよかった…
「けっきょく会えないし……どこにいるんだろ……」
おいかけるためにそうこにほうちしてあったポータル使ったけど…へんなところにとばされちゃったもんな…
まずはレスカティエ向かうって言ってたから見つかるのかくごでそっちに送ってもらえばよかった…
「まあ……でも……」
いや…送ってもらってもいみなかったかもしれないな…
あたし…なんでか知らないけどきらわれちゃったもんな……
会えてもきっとおこるだろうし…もしかしたら口もきいてくれないかもしれないもんな……
「ぁっ……も……だめ……」
ふらふらで身体が動かなくなってたおれてしまった……
もう一歩も動けない……
このままあたし会えないままでひからびちゃうのかな……
「会いたいですよぉ……アメリさまぁ……」
あたしは大切なおさな……ううん、仕えてる大切な王女さまの名前をつぶやきながら……
だんだんといしきを遠くにとばしていった……
「ん?どうしたのスズ?考え事をしているようだけど……」
「いや…ちょっとね……」
現在21時。
セレンちゃんとセニックの襲撃を受けた後、特に何も起きる事無く数日間旅を続けていた私達。
そのおかげで明日にはラインに到着する所まで順調に進む事が出来た。
「何?記憶の事?何か思い出したの?」
「まあ…間違っては無いかな…」
それで今は『テント』で夜ご飯も食べ終わって、女子はお風呂から出てゆったりとしている時間。ちなみにユウロは今お風呂に行っている。
アメリちゃんはテーブルの上でライムちゃんから貰った独楽を回しており、私とスズはベッドの上でボーっと腰掛けていたのだが、スズが考え事でもしているらしく突然悩ましげに唸りだした。
「アタイは何も記憶がない…けどさ、たまにあれっ?て思う事があるんだよ」
「ん?どういう事?」
「いや…ほら、アタイの喋り方…特に気にしてなかったけど、どうしてアタイ記憶ないのにこういう喋り方を自然に出来るんだろうって」
「ああ…言われてみれば確かに……誰かに影響されたとかじゃなくて?」
「いや…自分の事をアタイって言ってるのは皆と旅に出るまで誰一人としていなかった…」
「ふ〜ん……」
どうやら自分の記憶の事で考えていたらしい。
たしかに、初めて会った時から記憶を無くしているというのにやたら喋り方とかは安定していたなぁ…
「たぶん…それは記憶が無くなる前からスズが使っていた喋り方だよ」
「そう…なのかな?」
「ほら、記憶が無くなってても言葉自体は忘れてないでしょ?それと一緒で…なんていうんだろ…頭じゃなくて身体が覚えているっていうか…ほらスズ、前に私が二日酔いでダウンしてた時に料理手伝ってもらったけどさ、その時普通に包丁とかの調理器具使えたよね?」
「まあ…そういえば普通に使い方がわかったなぁ…」
「でしょ?そんな風に記憶が無くても自然と覚えている事もあるんだよ!喋り方もその一つだって!」
「そうなのか……へへっ、なんか覚えてる事があると思うだけでも嬉しいや!」
全く記憶が無いのでは無く、少しは意識しないところで覚えている事もあって嬉しいのだろう…
今まで一緒に居ただけでもほとんど見た事無い程の満面の笑みを浮かべている。
「ふい〜、良い湯だったぜ……ん?なんかスズやけに嬉しそうにしてるな」
「あ、ユウロ出てきた。無意識でも覚えてる事があって嬉しいんだよ」
と、しばらくスズと話していたらユウロがお風呂から出てきたようだ。
きちんと寝巻を着てタオルで髪をゴシゴシしながら私達の近くまで歩いてきた。
「ふーん……言葉遣いとかか?」
「そうだ!まあ確証は無いけど、無意識に使ってるって事は可能性あるよな!?」
「まあな……」
そのまま私達の会話に入ったユウロ。
いつもの様な感じだと、こうなると大体……
「アメリもお話するー!!」
「ん?もう独楽回しはいいのかアメリちゃん?」
「うん…アメリもみんなとお話したいもん」
一人で遊んでるのが寂しくなったアメリちゃんが話の輪に入れて欲しそうな目でこっちを見ながら寄ってくるんだよね……
……かわいいなぁもぅ……
「もちろんいいよアメリちゃん!!」
「むきゅっ!」
「あ、ゴメンねアメリちゃん」
私はあまりもの可愛さに近寄ってきたアメリちゃんを抱き寄せた。
ちょっと勢いがあり過ぎて一瞬だけアメリちゃんが苦しそうな顔をしたので謝っておく。
「やっぱアメリちゃんみたいな可愛い妹欲しかったなぁ……」
「そういえばサマリって一人っ子なの?」
「そうだよ。一度親に私が妹欲しいって言ったら両親二人とも何故か悲しそうな顔したからそれ以来言えなかったけどね。スズ……は記憶無いからわからないか」
「うん……でもアタイも妹とかいたらいいなぁ…」
「アメリはお姉ちゃんいっぱいいるよ!妹もね!!」
「そうだね…って妹もいるんだ…魔物って子供出来にくいって聞いたからてっきりアメリちゃんが一番下かと…そういえばユウロは兄弟とかいるの?」
「……」
「……ユウロ?」
そして何気なく呟いた「妹が欲しかった」発言で、話題は兄弟姉妹の話になった。
スズは…まあわかるわけ無いし、アメリちゃんの場合はその姉妹に会う為に旅をしているから当然いる。
まあアメリちゃんの『妹』がいるのには驚いたが……アヤメさん達が言ってたけど魔物って人間と比べて子供が出来にくいらしいからアメリちゃんが末っ子だと思ってたけどそうでもないんだ……
ってそういえば初めて会った時のお昼ご飯の準備をしてる時にたしか魔王様が旦那様と喧嘩してアメリちゃんやお姉ちゃん達や『妹達』に泣きついてくるって言ってたような気もするなぁ……
そして順当にユウロにも話を振ったが……何故か黙りこんでしまった。
「どうしたのユウロお兄ちゃん?」
「あ、ああ…ちょっとな……」
「ん?何?言いたくない事?」
「え……まあ別にいいか……本当の兄弟はいなかった……けど、まあ弟みたいな奴ならいたな……」
「へぇ……」
アメリちゃんが覗きこんで、どこか遠くを見ているような表情でようやく淡々と話し始めたユウロ。
「なあユウロ…『いなかった』とか『いた』とか…なんで過去形なんだ?」
「まあ…もう故郷には戻れないからな……それに……」
「それに?」
「……いや、なんでもない……」
そういえば前に精神的にも物理的にも故郷に戻れないって言ってた事があった気がする。
過去の事を話したがらない事も関係あるのかな?
「まあ話したくないならいいよ。トラウマっぽい事もあるんでしょ?」
「まあな……そうしてもらえると助かる」
どちらにせよユウロ本人が話したがらないし、過去の話になると大体暗くなるから何かあるのだろう……
最近はアメリちゃんとも気兼ねなく話してるし、他の子供とも普通に接してたから忘れてたけど……たしかユウロって子供と接するのが怖いって言ってたな……
もしかしたら…その弟みたいな存在が関係しているのかな?
傷付けるのが怖いって言ってたし……弟みたいな存在を傷付けてしまったとか?
「ま、しょうがないか……そんじゃあ話題を変えてっと……ラインってどんな街だと思う?」
「そうだね…きっと魔物のお姉ちゃんたちがいっぱいいる街だよ!!」
「まあ親魔物領ならいるだろうな……」
これ以上この話題を続けるのもユウロに悪いので、話題を明日到着予定のラインがどんな街なのかという事に変えた。
そして数分後にアメリちゃんが大欠伸をしたので、私達は明日に備えて寝る事にした……
====================
「ここ…かな?」
「そうだな…大きな街だな」
「うわあ〜!!」
現在11時。
私達は予定通りラインに辿り着いた。
地図上で見たとおりやはり大きい街だ…大きな屋敷が街の中心部にある…そして休日なのか人も大勢いる。
「ねえアメリちゃん…お姉さん居そう?」
「う〜ん…わかんない……けど、それっぽい魔力は感じない……かも」
「ま、確実に居ると思ってこの街に来たわけじゃねえし居ないんじゃね?」
だが、肝心のアメリちゃんのお姉さん…リリムは居なそうだ。
まあ大きな街なら確実にいるってわけじゃないし、もしかしたら居るかもね位の感覚であって今回は居ると聞いて来たわけじゃないからがっかりはしない。
でもまあ居たら居たで良かったな…と思いつつも……これからどうしようか。
「そんじゃあとりあえず適当に見て周って、丁度良さそうな時間になったら昼飯にするか」
「そうだね…それじゃあまずどこから行こうか…」
「あの大きなおやしきってなんだろうね〜?」
「アタイも気になるなぁ…あの屋敷から行ってみようよ!!」
お昼にはまだ早いし、適当に見て周って良さそうな店があったら入りながら中心にある大きなお屋敷を目指そうという事になったので、早速歩き始めようとしたら……
ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「んな!?何の音だ?」
「さ、さあ…向こうのほうから聞こえてきたけど……」
街のそう遠くない場所から大きな音が響いてきた。
「なあ……行ってみるか?」
「うん……そうだね……」
危険がある可能性も高いが、そうであれば状況を知っておいたほうが良い……
そう思い私達は大きな音が響いた方へ向かっていった。
…………
………
……
…
「……なんか建物から煙が出てるね……」
「ああ……でも……なんだろこの『いつものように』みたいな空気……」
少し移動した所にあった建物の窓から煙が立っていた。
おそらくさっきの音はここからだろう……けど、近くに居る人は特に何とも思っていないようだ。
いったいどういう事だろうか?
「まあ…中覗いてみればわかるんじゃないかな?」
「そうだね……」
とても気になるので、その煙が出てる窓とは別の窓から内部を覗いてみた……
「……デューナ殿?」
「……ごめんなさい……」
「……どうやったら低威力の斬撃系スキルで岩が爆散するのですか?」
「だからごめんって……威力も種類も考え事して間違えたのよ……」
「まあいつもの事ですが……気を付けて下さい」
「……はい……」
「な、なにしてるんだろ……?」
「さ、さあ……」
中を覗いてみると……どうやら何かの訓練をしているようで、沢山の人がいた。
そして教える側にいるエンジェルが何か怒られてる……ってエンジェル!?
「なんでエンジェルが?ここって親魔物領だよね?」
「まあ…そこは問題無いと思うけど……」
親魔物領なのにエンジェルが普通に居て驚いた……が、ユウロ曰くそこは問題無いらしい。
でもエンジェルって神の使いなんだから親魔物領にいるのは違うんじゃないかな?
とか思ってたら……
「ところで、窓から覗いているのは誰?この街の住民じゃないようだけど……」
「……え!?」
どうやら私達が覗いている事がバレていたらしい。
真顔で私達のほうを向いてこう言ってきた。
「あ、いや…別に怪しいものではありませんが……」
「わざわざ自警団の詰め所を覗いているし魔物が混ざってるから教団の人間ではなさそうだけど…怪しい事には変わりないわよ?」
「あ、ここ自警団の詰め所だったんですか……」
どおりで訓練所みたいな感じになってたのか…
とすると、このエンジェルと近くに居る人は教官か何かかな?
まあとりあえず身の潔白を証明するのが先か……ちょっと疑われてるようだしね。
「で、あなた達は何者?場合によっては……わかってるよね?」
「えっと…私達は旅人です。この街に着いて早々大きな音が聞こえたのでちょっと覗いてみただけです」
「……そう……」
正直に話したら、途端に俯いたエンジェルさん…
どうしたのだろうか?
「もしかして…今の大きな音ってエンジェルのお姉ちゃんが原因?」
「う……」
アメリちゃんにそう言われたらより気まずそうにしたエンジェルさん…という事は正解らしい。
そういえばさっき岩が爆散したとかなんとか……というか岩って爆散する物なのか?
「あの〜……ちょっといい?」
と、さっきから一言も喋って無かったスズが突然口を開いて……
「今って自警団の訓練してるんだよね?」
「え、ええ……」
「じゃあさ……見学してもいい?」
『へっ!?』
目を輝かせながら、突然見学したいと言い出したのだ。
「だってさ、こういうのって滅多に見れないじゃん!それにさ、この前みたいにいきなり戦闘になるかもしれないし、参考までに見たいなと思って」
「ああ、それもそうか……えっと、いいですか?」
「そうね……私がやってるのはスキル…気功みたいなものだと思って…を教える事なんだけど…それでもよければいいわよ。いいよね団長さん?」
「まあ…邪魔しなければ……」
「やったあ!」
たしかにそう無い機会だし、どこ行こうか決めて無かったので見学させてもらうのもいいかもしれない。
そう考えた私達は見学の許可を貰ったので、ちゃんとした入口から中に入って見学させてもらう事になった……
……………………
「……とまあこんな感じかな…それじゃあ午前は各自特訓して終わり。30分したらお昼休憩ね〜」
現在12時。
あれから私達はエンジェルのデューナさんが行っている訓練を大人しく見学させてもらっていた。
「で、あなた達…見学してみてどうだった?」
「デューナさんって強いんだな!!岩がスパっと真っ二つになるなんて思わなかったよ!!」
「そう?あれくらい簡単よ…今日はちょっと考え事してたから失敗も多かったけどね」
「その失敗で岩が粉々になったり綺麗な穴が開くってのも凄すぎるかと…」
「知ってるエンジェルとは桁が違いすぎる……」
内容はスキルとか言うものの訓練で、デューナさんが手本をやっていたのだが……なんというかまあ無茶苦茶強いという事がわかった。
何個か用意されていた岩が良くて石ころ、一部砂になっている物もある程だ。
しかもそれらはどれも『考え事をしていて威力とスキルの系統を間違えたもの』、しかも全く本気は出していないというのだから恐ろしい……
いままで出会った事ある人の中で間違いなく最強なんじゃないだろうか……たぶんエルビやルコニもデューナさんに掛かれば簡単に倒せると思う。
あ、エルビやルコニと言えば……
「そういえばデューナさんはエンジェルなのに親魔物領に居るんですね」
「まあ、ね……」
おっと、この質問はしなかったほうが良かったか…それ聞くなよって言いたそうな目で睨まれてしまった。
それにちょっとだけ空気も重くなってしまった……
「なあなあデューナさん、なんでそんなに強いんだ?」
「ま、こんな仕事してるくらいだし、それに元々戦闘型だしね〜」
「へぇ……」
おそらく空気を読んだわけではないだろうが、スズが話題を変えたので少し重かった空気が無くなってホッとした……
しかし…こんな仕事してるからとか、元々戦闘が得意だからってだけでここまで強いのか?
というか全てのエンジェルがここまで強かったらと思うと……末恐ろしいけど…セレンちゃんからしてそれはないだろうな……
「じゃあさ、そこの木刀君とウシオニの君、私と手合わせしてみる?」
「「いえ、勝ち目無いので遠慮します」」
「そう…ま、わかってるならいいわ」
そしてユウロとスズがデューナさんに手合わせしないかと誘われたが…二人して即断った。
まあ…勝ち目無いどころか一発でも攻撃通ったら良い方だと私も思うから仕方ない。
断られる事をデューナさんもわかってたのだろう…特に気にする事無く話を続けた。
「そういえばあなた達二人は多分この中で戦闘を担ってるのよね?」
「まあ……なんだかんだ言いつつ皆で戦ってる気が…というかアメリちゃんがいちばん活躍してる気もしますが…」
「そう……え?アメリちゃんってこの小さなリリムの女の子の事だよね?」
「うんそうだよ!アメリだよ!!」
「へぇ…小さいのに凄いのね……で、私が聞きたいのは…あなた達は何のために戦ってるのって事」
「何の為…ですか……」
どうやらデューナさんは何の為に戦うのかを二人に聞きたかったらしい。
まあライン自警団体術顧問をしている人だ…そういった事も気になるのだろう……
でも、私達って……
「まあ…状況によって違う……よなあ?」
「へっ?」
「そうだね…今までの旅の中でだって大切な人を助ける為にとか、仲間を護る為とか、先に進む為とか、襲われてる町の人を助ける為とか、特殊な戦いを経験してみたかったからとか…そんな感じだったっけ?」
「おう…大体そんな感じだったな……」
結構戦ってる事も多かったけど…理由はバラバラだ。
ホルミやディナマ達、それにセレンちゃん達やエルビ達との戦いはまあ『大切な存在を護りたいから』で纏められるけど…ルコニ達の時はまさに『先に進みたいから』だったし、キッドさん達と居た時に海賊と戦ったのは『海賊の戦闘を体験してみたかったから』なんて理由だったもんな…
「それ以外で思い付くのは…自分の為とか、ただ戦いたいからとか、命令されたからとか…戦いをしたくないから戦うなんてものもあるな……」
「うーん…ムカついたからとか?」
「スズお姉ちゃん、それちょっと違うと思う」
「……ぷっ、あははは!!」
「ん?どうしたのデューナお姉ちゃん、急に笑ったりして……」
と、真面目に戦う理由を思いつく限り上げていたら、突然デューナさんが笑い始めた。
何か変な事言ったかなぁ?
「いやゴメンゴメン…まさかそんな事言われると思って無かったから…」
「はぁ…」
どうやら私達はデューナさんが予想すらしていなかった事を言っていたらしい…それが面白かったのだろう。
というかなんて言うと思っていたのだろうか……
「気にいったわ。この後私はローランとご飯を食べる為に喫茶店のアーネンエルベに行く予定なんだけど、あなた達も一緒に行く?」
「え、いいのですか?」
「まあお店に行くまでお話ってだけでお店に着いてからは私はローランと一緒に居るけどね」
「わかりました、ならぜひ……ん?」
とにかく、私達はデューナさんに気にいられたようだ。
これから昼食を食べる為に喫茶店に向かうという事だが、その道中でお話しないかと誘ってきた。
まあお昼に丁度良い時間だし、折角だからお話しながら案内してもらおうと思ったのだが…
「ローランって誰です?」
「私の弟の事よ…まあ血は繋がって無いけどね」
「へえ〜、弟さんですか…」
強調するように出てきたローランという人物の事が気になったので聞いてみたら…どうやら弟さんらしい。
「あ、ローランに手を出したらタダじゃ済まさないからね!」
「……いや手を出すつもりは全くないですので安心して下さい……」
「同じく……殺されたくないし……」
「はわわわ……」プルプル
「ならよろしい!」
というか、とても大切で大事な弟さんらしい。
別に何も言って無いのに、凄い脅しを利かせた笑顔で私とスズとアメリちゃんに手を出すなと言ってきたのだから……
…………
………
……
…
「へぇ…お姉さん達に会う為に旅を…」
「それはまた…リリムとはいえ小さな子供が旅しているのは不思議だったが、変わった理由で旅してるのですね……」
「だってアメリ会ったこと無いお姉ちゃんと会ってみたいと思ったんだもん。ナガトお姉ちゃん、そんなに変?」
「えっいや…そんな事はないかな……」
午前の訓練が終わった後、私達はデューナさんと、自警団の事務仕事を今日は緊急だったらしく午前中だけしていた『アヌビス』っていう犬の魔物の長門(ナガト)さんと一緒に喫茶店アーネンエルベに向かっていた。
どうやら長門さんの旦那さんはその喫茶店で働いているらしく、『他の嫁達』も集まってるだろうからとついでに一緒に行くことになったのだ。
「ところで…さっき長門さんが言ってた事って本当なの?」
「ん?さっきと言うと…別世界から来たって事か?本当だぞ」
「そうそれ。そして本当なんだ…」
「ま、この街はそういう人物も居るのよね…『貿易』が盛んだしね」
名前からしてジパング出身かと思ったんだけど…長門さん曰く別世界からここに来たらしい。
しかも旦那さんや他の嫁さん達も同じ世界から、皆揃って来たとの事。
別世界の人は何人か見た事あるし、実際行った事もあるから信じられるけど…結構いるのは驚きだ。
異世界人は珍しい物だと思っていたがそうでもないのかな……
「あ、着いたわよ。ここが目的地の喫茶店よ」
「ほぉ…ここが……」
そうこう話しているうちに目的の喫茶店、アーネンエルベに着いたようだ。
私達の目の前にはちょっと古い感じの建物…よく言えばアンティーク調のおしゃれな喫茶店があった。
「それじゃあ早速入りましょうか……」
チリンチリーン♪
綺麗な音を立てながら扉が開いた…というか、デューナさんが扉を開けた。
「いらっしゃいませ。喫茶店アーネンエルベへようこそ…ってデューナさんでしたか…と思ったら見知らぬお客様も居たようで…」
「ええそうよ。そして自警団の詰め所に来てた旅人達よ。ついでに連れてきたわ…」
「それはありがとうございます。では改めて…お客様は4名様ですね。お席のほうはカウンター席とテーブル席とございますが…」
「あ、ではテーブル席で」
「承知しました。ではご案内させてもらいます」
その音に反応してウエイトレスだと思う男の人がお馴染みの挨拶を述べてきたが…デューナさんを見て一旦止めてしまった。
だが私達に気付いたようで挨拶を再開していた。
カウンター席とテーブル席があると言われたので、私はいつも通りテーブル席に案内してもらう事にした。
「ローラン〜!」
「あ、姉さん。お仕事お疲れ様…って今外なんだから抱きついてこないでよ!」
「え〜だってここ喫茶店だし、それにローランとくっついていたいんだも〜ん♪」
「はは…相変わらず仲の良い姉弟だね」
「もう…悪いね方丈君…ほら姉さん注文するよ」
ちなみに私達が案内されている間にデューナさんは弟さんを発見したようだ。
ここで働いている男の子と話していた子の元へ一目散で駆け寄って飛び付いていた。
更に言えば弟のローラン君と話していた男の子は…
「あ、長門も来たんだ。もう少し遅くなると思ってた」
「正孝(まさたか)…来るのは当たり前だろ?まあ予定より早く来れたが…嫌か?」
「いやいやまさか。まあ皆と座っててよ。後で注文聞きに行くから」
やっぱり長門さんの旦那さんである正孝君だった。
デューナさんと同じタイミングで私達から離れて一直線に正孝君の所へ駆けて行き、少し話した後にミノタウロスとゆきおんなとハーピー…じゃなくてセイレーンかな…が座ってる席へ向かっていった。
おそらく話に出ていた他の嫁さん達だろう…正孝君モテモテだなぁ…
あれ…でもたしか長門さんの話では長門さん含めて5人だったはずだけど……一人足りないな……
「サマリお姉ちゃん、何たのむ?」
「ん?そうだね…」
と、デューナさんや長門さんの様子を見ていたら隣に座ってるアメリちゃんにメニューを渡された。
何があるかなと見てみたら……いっぱいあるなぁ……迷うなぁ……
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「あ、えっと…」
迷っていたらさっきの店員さんが注文を聞きにきたので、私は目に入ったものを適当に注文する事にした。
「んー…私はサンドイッチとマッシュポテト、あとパンプキンパイとミルクティ貰おうかな」
「アメリもサンドイッチ!あとチーズケーキとアップルパイとホットミルク!!」
「アタイは…サンドイッチ…でも野菜ばっかじゃないやつで…あと肉じゃがとチョコケーキとクッキーと…飲み物はダージリンとか言うやつで!!」
お腹も空いていたし、とりあえず美味しそうなものを注文していく私達。
意外とお金はやりくりしているうえに私の毛皮やこの前の分け前などもあってお金は沢山あるからアメリちゃんもスズも沢山注文した。
「俺もサンドイッチ…あとマッシュポテトと飲み物はカフェオレ……あ、カステラとかあるんだ。久しぶりに食べたいからカステラも下さい」
「えっ……!?」
そしてユウロが注文が終わった時、何故か店員さんが驚いた表情を浮かべていた。
「どうしました?俺今何か変な事言いましたっけ?」
「え、いや…そんな事は無いです。かしこまりました」
何か思った事があるらしいけど、注文を聞いた店員さんはとりあえず奥に行ってしまった。
「…何だったんだ?」
「さあ…」
「おなかすいたー早く来ないかなー」
とりあえず注文も済んだし、量が量なのでしばらく掛かるだろうなと思ってボーっとゆらゆらしてるアメリちゃんを見ながら待ってたら…
「おまたせしました。ミルクティとホットミルクとダージリン、あとカフェオレです」
「あ、ありがとうございます」
まず最初に飲み物がやってきた。
各自自分が注文したものを受け取る……うん、良い香りだ。
「ところで、そこの小さな女の子は…リリム?」
「うん。アメリはリリムだよ!!」
「へぇ…アメリちゃんって言うのか…またどうして旅を?」
「んっとね、まだ会ったこと無いお姉ちゃんに会うために旅してるの!!」
そのまま店員さんは残ってお話を始めた…いいのだろうか?
「えっと…」
「あ、僕は星村空理(クウリ)です…どうしましたワーシープのお譲さん?」
「あ、私はサマリです。それでこっちの男の子がユウロでウシオニがスズです。えっと…仕事しなくて大丈夫なのですか?」
「まあ今はマスター達が注文した物を作ってる最中ですからね。他のお客さんは皆顔馴染みですしね」
「それでいいのか…」
まあ空理さん本人がよさそうにしているから良いとしよう。
「そうだ…リリムと言えば前にこの店に来た人もいますよ」
「えっホント!?なんてお姉ちゃん?」
空理さんが言うにはどうやらリリムもこの喫茶店に来た事があるらしい。
会った事無い人か、それとも……
「たしか…フィオナさんって名前だったかな…」
「あーフィオナお姉ちゃんかぁ…」
「おや?知っているお姉さんだった?」
「うん。おうちに住んでるよ」
フィオナさん…といえば、前にマルクトで偶然出会ったお姉さんか…
そういえば旦那さんのユウタさんも異世界人だったなぁ…この街は本当に異世界人が多く集まるんだな。
「ちょっと空理、お話は後にして運ぶの手伝ってよ」
「ん、わかったよ美核(ミサネ)」
しばらく話しているうちに注文したものが出来たらしい…沢山のサンドイッチが乗ったお皿をトレーに乗せて妖狐…じゃなくて稲荷だと思う女性店員…空理さん曰く美核さんがやってきた。
「お待たせしました、サンドイッチです。えっと、野菜少なめの注文をしたのは…」
「あ、アタイです」
「はい…残りの物もすぐお持ちするのでもう少々お待ち下さいね」
「ありがとうございます」
卵が挟んであるもの、ベーコンやトマトやレタスが挟んであるもの、ツナサラダが挟んであるものなど、いろんなサンドイッチがお皿に盛られていた。
「こちらポトフとマッシュポテトです。デザート系は食後でよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます」
そして空理さんが肉じゃがをスズに、マッシュポテトを私とユウロに運んできて、一先ず食べるものが揃ったので…
「それじゃあ食べよっか」
「うん!いただきまーす!!」
「「「いただきます!」」」
私達はちょっと遅めのお昼ご飯を食べ始めた。
「う〜んっ!シャキシャキのレタスがおいしい!」
「ベーコンサンドウマい!」
「スズお姉ちゃん、トマト抜いちゃダメだよ」
「えー…だって苦手…レタスは食べてるんだからさぁ…」
「好きキライはダメだよ!」
「はい……アメリに言われたら食べるしかないか……あ、意外といける!」
まずはベーコンとレタスとトマトが挟んである物から食べたが…シャキシャキのレタスにベーコンの旨味、そしてトマトの酸味がマッチしててとてもおいしい。
野菜嫌いのスズがおいしそうに食べている程である。
「もごもご……卵サンドおいしい!!」
「そうだな…味付けがまた絶妙で…いくらでも食べたくなる……」
アメリちゃんとユウロは卵サンドを食べている…黄金色に輝く卵が食欲を促す……
私達は満足した気持ちでお昼ご飯を食べ続けた……
…………
………
……
…
「ふぅ…お腹いっぱい…」
「ごちそーさまー!!ミサネお姉ちゃん、全部おいしかった!!」
「ふふっ、ありがとうアメリちゃん」
デザートも食べ終わって、お腹も満腹になった。
パンプキンパイおいしかった…あと、ユウロに一口貰ったけどカステラっていうケーキもおいしかったなぁ…
後で作り方聞いても良いかなぁ……
「この後どうする?」
「うーんそうだね…美核さん、どこか良い場所知ってます?」
「ん〜そうねぇ…オススメ出来る所は多いし…どうしようかな……」
とりあえずこの街でどこか良い場所が無いかを、ケーキやパイを持ってきた後ずっとお話していた美核さんに聞いてみたが、やはり観光できる場所が多いらしい…
ならばやっぱり適当に見て周ろう…町の中心部にある大きな建物…領主の家らしい…から見て行こうかな…
「ところで美核さん…」
「なんですかサマリさん?」
どこを見に行くかは決まって無いけどまあ決まったので、私は気になっていた事を美核さんに聞く事にする。
「美核さんと空理さんってもしかして恋人同士…だったりします?」
「えっと……その……」
さっきから二人がなんとなく微笑ましかったから聞いてみたが…恥ずかしそうに顔を少し赤くして俯いてしまった。
「まあご想像にお任せしますよ」
「うわあっ!?空理さんいきなり現れないで下さいよビックリしたじゃないですか」
「まあそのつもりだったからね」
そして助け船を出すようにいきなり空理さんが現れた。
気配を消していたようだから気付かなかった……
まあご想像にお任せしますだなんて笑顔で言われたら…肯定って取って良いのかな。
「ところでそっちは皆…少なくともサマリさんとスズさんはユウロ君の嫁さんだったりするのかい?」
「え?違いますよ。全員フリーです」
「えっそうなの!?」
そして逆に私達とユウロが夫婦なのかと聞かれた。
まあ男一人に魔物が数人いたらそう思われるのも無理は無いか…ちょうど目の前に正孝君という例があるしね。
「またそれはなんで?皆想い人が別にいるとか?」
「いえ…まあユウロにもいろいろあるという事です」
「はい…まあ詳しくは言えませんが誰かと恋仲にはなるわけにはいかないので…」
「ふーん…」
なんか二人とも納得してなさそうだったけどこれ以上説明しようがないから仕方が無い。
私だって納得出来ないところもあるけど、本人が話したがらないならどうしようもない。
チリンチリーン♪
「あ、いらっしゃいま…ああジルさん、それにジェミニさんも。リースさん呼んで来ましょうか?」
「ああすまない……」
「よ、よろしく……」
話をしている最中に突然入口のチャイムが鳴った。
どうやらお客さんが…空理さんの反応からすると顔馴染みの人達が来たらしい。
片方は少し表情の読み取りにくい男の人で、もう片方は美しい青白い肌に輝く白髪、朱色の瞳で黒い翼と肌の色と同じ輪が頭上に浮かんでいる…色違いのエンジェルだった。
「あ、ジェミニさん…レンはどうしてますか?」
「あ、方丈君…レンちゃんは今孤児院の子供達を見てもらってるわ…ちょっと行きたそうだったけどね」
「はは…まあ仕事ですしね」
色違いのエンジェルさん…ジェミニさんというらしい…は、正孝君に話しかけられてそう答えた。
おそらく正孝君の口から出たレンって子が残りの一人で、孤児院で働いてるんだろうな……
…というか孤児院か…子供もいっぱいいるかな……
「あら時間どおりね。ジルもジェミニもおはよう」
「あ、リース、おはよう…って今まで寝てたの?」
「まあね。理由はそこに居るゆきおんなの彼女がよく知ってるんじゃないかな」
「あ、店長…お疲れ様です。新しい薬の調合は上手く行きましたか?」
「まあね。夜遅くまで掛かっちゃったからついさっきまで寝てたけどね」
来客のほうを見てたら店の奥から空理さんと一緒にとんがり帽子を被った女の子が出てきた。
そのままジェミニさんやジルと呼ばれた男の人、それと正孝君の嫁の一人のゆきおんなさんと話を始めた。
「さてジェミニ…調子はどう?何か問題は?」
「まあいつも通り大きな問題はないわ。ダークエンジェルらしい思考ってのは困るけどね…」
「まあそれは早く慣れる事ね」
そのままジェミニさんはリースと呼ばれた女の子と話を始めた…というか、女の子が大人っぽく見える……
もしかしてあの女の子…『魔女』なのかな?
そして色違いのエンジェルは『ダークエンジェル』って言うんだ…魔物になったエンジェルってところかな?
後でアメリちゃんに確認してみよう。
「ところで…お前達、さっきからこっちをジロジロ見ているが…何か用か?」
「へっ!?あ、す、すいません…」
と、一連の様子を見ているのがジルさんに気付かれたらしい。
ちょっとムスッとした様子で尋ねられたので謝っておく事にした。
「いやぁ…黒いエンジェル…ダークエンジェルでしたっけ?始めてみたなーって」
「あ、ど、どうも……」
「ちょっと、見世物じゃないわよ?」
「あ、いえ…それと孤児院って聞こえたもので…小さい子供好きなので行ってみたいなって思いまして…」
「え、そうなのサマリ?」
「うん」
そして見ていた理由を素直に言う事にした。
途中ジェミニさんの事を言ったらリースさんに睨まれたけど、まあ何か理由があるのかな…
それと孤児院に行きたい事を言ってみた。
ユウロが驚いてたけど、私小さな子供大好きだし、遊びに行きたいと思ってたからね。
「あ、では、これから少しここでお茶したあと一緒に行きます?」
「いいのですか!ぜひお願いします!!」
「ええ、大人は私含めて3人しかいないので助かります」
「アメリも行く!!友達出来るかな〜♪」
という事で私達はこの後孤児院に行くことが決まったのだが…
「あ、ユウロ君…だっけ?君だけちょっと残ってくれる?」
「はい?俺ですか?」
空理さんがユウロだけ残って欲しいと言ってきた。
「うん。ちょっと確認したい事と、話したい事があるから」
「まあ良いですけど…んじゃあ俺は後から場所教えてもらってから行くわ」
「了解。あ、そうだ…飲み物おかわりいいですか?」
「いいですよ」
どうやらユウロにだけ聞きたい事があるらしい。
さっき驚いていたのと関係あるのかな?
とにかくジェミニさん達もお茶するという事だし、もう少し時間が掛かるだろうから私はミルクティをおかわりして待つ事にした……
…………
………
……
…
「アメリみーっけ!」
「うぅ…アメリかくれんぼ苦手なのかなぁ……」
現在15時。
私達はラインにある唯一の孤児院に来ていた…と言ってもユウロは空理さんとお話がある為喫茶店に残ってはいるが。
「ありがとうサマリ君、スズ君。おかげで今日は楽出来るよ。大変じゃないかい?」
「いえ、子供達の笑顔を見ていると疲れも眠気も飛んで行きますので!」
「アタイも!最初はウシオニだから怖がられるんじゃないかってちょっと怖かったけど皆笑顔で寄ってくるからもう嬉しくて!!」
「そうか、そう言ってくれると助かるよ」
子供達と一緒に遊んだり裏の仕事を手伝ったりと忙しいといえば忙しいかもしれないけど、元気に遊んでいる子供達を見ていると疲れなんか微塵も感じない。
それはスズも同じようで、さっきからウシオニ特有の力を使って子供にせがまれて振り回したりしている…ちょっと危ない気もしないでもないけど糸で吹き飛ばないようにはしているから大丈夫だろう。
その事をこの孤児院の院長さんであるククリスさんに言ったら笑顔でお礼を言ってくれた。
「アメリちゃんはどこに居てもなんとなくわかっちゃうかな」
「えっそうなの!?なんでレンお姉ちゃん?」
「ん〜…リリムとしての存在感?」
「え…それもうどうしようもないじゃんか……うぅ……」
「じ、じゃあ別の事して遊ぼうか…」
ちなみにアメリちゃんはすぐに孤児院の子供達や正孝君の嫁さんの一人、本来は箱に入ってるらしい『ミミック』って魔物の恋歌(レンカ)さん、通称レンさんと仲良くなって一緒に遊んでいた。
「ククリスさん、私皆の夕食作ってきます」
「ああ、頼むよ」
「あ、じゃあ私も手伝います。いつも作ってるので料理は出来ます」
「おおそれは助かる。ぜひお願いするよ」
「ありがとうございますサマリさん」
ジェミニさんが夕食を作るという事で、私も手伝う事にした。
なので私の毛にくっついて眠そうにしていた子供達をスズに預けて、ジェミニさんと厨房に行くことにした。
「今日は何を作るのですか?」
「今日はカレーライスにしようかと」
「なるほど…では私は野菜切りますね」
ジェミニさんと厨房に向かう途中で、私達は軽くお話をしていた。
「そういえばジェミニさんってダークエンジェルでしたっけ?」
「ええ…なんで疑問形?」
「いやぁ…私ってあまり魔物に詳しくないので…」
「魔物なのに?」
「田舎な反魔物領出身の元人間ですからね」
「ええっ!?」
私が元人間だって言ったらジェミニさんが目を大きく見開いて驚いていた。
やっぱこれ言うと驚かれるんだよなぁ…まあワーシープって普通魔物化しない種族らしいから仕方ないか。
「まあちょっとあってですね…アメリちゃんにワーシープにしてもらったんですよ」
「へぇ…実は……私も元エンジェルで……」
「あ、やっぱりダークエンジェルってエンジェルからなるんですね。それが聞きたかったんですよ」
そしてジェミニさんは元エンジェルらしい。
やはりダークエンジェルはエンジェルからなるものなんだな…
「まあ…私の場合は2回魔物化してるんですけどね……」
「へ?何か言いました?」
「いえ…聞こえて無かったようでしたらいいです…あまり言いたい事では無いので…」
「そうですか…ならいいです……」
何かボソッとジェミニさんは呟いたけど私には聞き取れなかった。
聞いてみても言ってくれなかったのでもう気にしない事にした。
言いたくないのに無理矢理聞くのも悪いもんね…
「あ、厨房に着きました」
「ここですか…それじゃあ子供達の為に頑張って作りましょう!」
「ええ!」
話をしているうちに厨房に着いた。
なので私達は話を止め、カレー作りに専念する事にした……
………
……
…
「あ、サマリお帰りー。夜ご飯は完成したのか?」
「後は煮込むだけだからこっち戻ってきた」
現在17時。
ジェミニさんと作っていたカレーももうすぐ完成する。
それでもう人手はいらないと言われたので、私は一足先に戻って子供達とまた遊ぶ事にした。
「あ、サマリお疲れ」
「あっユウロ、来てたんだ」
「おう、ついさっき着いたところだ」
そして子供達がいる部屋に着いたら、いつの間にかユウロが来ていて子供達と遊んでいた。
他にもさっきまでいなかった若い男の人がいた……いったい誰だろうか?
「空理さんとのお話ってなんだったの?」
「ああ…まあなんというか、空理さんの故郷が俺の故郷とほぼ同じだったからその話をしてたんだよ」
「へぇ〜、そうだったんだ…」
どうやら空理さんとユウロは同じ故郷らしい。
そういえば空理さんジパング人ぽかったけどちょっと違う感じもしてたもんな…ユウロみたいに。
「そんでたまたま店に来たこの街の領主のライカさんにここまで送ってきてもらったってわけ」
「ふーん…ライカってあそこで子供達と遊んでいる男の人?」
「そうそう、あのパッと見だと領主に見えない人」
そしてあの男の人はラインの領主さんらしく、ユウロは送って貰ったらしい。
じゃあ一応挨拶しておいたほうが良いかな……
「えっと…ライカさん?」
「はい…ああ、君がサマリちゃん?アメリちゃんから聞いてるよ」
「あ、はい、どうも…」
そう思って挨拶したが…この気軽な感じがあまり領主とは思えない……
まあでも嘘では無いのだろう…ユウロもそう言ってたしね。
「君達リリムを探して旅しているんだろう?」
「はい……もしかして知ってたりします?」
「ああ、そうだよ。その事を君達に言いにきたんだ」
「そうなんですか!では是非教えて下さい!!」
どうやらライカさんはリリムを…アメリちゃんのお姉さんがいる場所を知っているらしい。
今は全く情報が無いし、私はライカさんから聞きだす事にした。
「もちろんいいよ…このラインの北に砂漠があるんだけどね、その砂漠に『ラスティ』って街があるんだ」
「ラスティ…ですか?」
「そう。そのラスティの領主を勤めているのがアイラっていうリリムなんだ」
「そうなんですか…」
このラインの北方面にある砂漠…そこに在る街ラスティの領主アイラさんがアメリちゃんのお姉さんらしい。
「だってアメリちゃん。知ってる?」
「ううん知らない。アメリ会ってみたい!!」
「じゃあ次の目的地はラスティで!良いよね皆?」
「もちろん!」
「異議なし!」
しかもアメリちゃんが知らないお姉さん…という事は行くしかない!
だから私達はラスティに向かう事にした。
「まあ砂漠を渡る事になるし、少し旅の用意を手伝ってあげるよ」
「え、いいのですか?」
「ああいいよ。こうして予定を作っておけば逃げられるからね」
「へ?」
「ああこっちの話だから気にしなくていいよ。明日の午前中に来てくれればいろいろ案内するよ」
「わかりました。ではお願いします」
更にどうやら領主であるライカさんが旅の準備を手伝ってくれるらしい。
何か他の動機もあるようだけど、折角なのでお言葉に甘える事にした。
「皆さん夜ご飯の準備が出来ましたよ!サマリさん達も是非一緒に食べて行って下さい!!」
「わーいご飯だー!!」
「あ、ライカさんもいらしたのですか…どうです?」
「いや、僕は奥さんがね……明日こうして予定作っちゃったし、今日相手しないと後日どうなるやら……」
「はは…相変わらずなんだな…」
話がまとまったところでジェミニさんが現れ、ご飯の完成を告げた。
今日は孤児院の一室を使わせてもらう事になったので私達も子供達と一緒にご飯を食べに向かう事にした。
今度のお姉さん、アイラさんってどんな人なんだろうか……そしてそのお姉さんが領主を勤めるラスティってどんな街なんだろうか…そして砂漠って一度も行った事無いけど…どんな場所なんだろうか……
想像が勝手に膨らみながら、今日の夜は更けていった……
=======[???視点]=======
「あぅぅ……」
あたしは今どこを歩いてるんだろう……非常にあつい……
太陽がつよくて……力が入らないよ……
「うぅぁ……」
足元もあつい……もしかしたらここさばくなのかなぁ……
「やっぱ…大人しくしてたほうがよかったかなぁ……」
のどがカラカラで、汗もいっぱいでて……今にもたおれそう……
やっぱりてきとうなポータル使わなければよかった…
「けっきょく会えないし……どこにいるんだろ……」
おいかけるためにそうこにほうちしてあったポータル使ったけど…へんなところにとばされちゃったもんな…
まずはレスカティエ向かうって言ってたから見つかるのかくごでそっちに送ってもらえばよかった…
「まあ……でも……」
いや…送ってもらってもいみなかったかもしれないな…
あたし…なんでか知らないけどきらわれちゃったもんな……
会えてもきっとおこるだろうし…もしかしたら口もきいてくれないかもしれないもんな……
「ぁっ……も……だめ……」
ふらふらで身体が動かなくなってたおれてしまった……
もう一歩も動けない……
このままあたし会えないままでひからびちゃうのかな……
「会いたいですよぉ……アメリさまぁ……」
あたしは大切なおさな……ううん、仕えてる大切な王女さまの名前をつぶやきながら……
だんだんといしきを遠くにとばしていった……
12/09/12 08:25更新 / マイクロミー
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