旅25 食べて飲んでの大宴会!!
「ふわあ〜〜っふぅ……おはようございます……」
「あら?サマリちゃんは早起きね〜」
「まあいつも朝ご飯の用意で皆より早く起きますから…そういうメーデさんこそ早いですね…」
「他はサツキに任せてるしぃ、まあ朝ご飯くらいは将来旦那様が出来た時の為にも自分で作らないとって思ってるからね〜」
「なるほど…ふぁあ〜……」
現在6時過ぎ。
昨日はアメリちゃんのお姉さんであるメーデさんの家に泊めてもらった。
夜遅くまで…と言っても23時位までではあるが…メーデさん達とお話していたからまだちょっと眠い。
「というかーサマリちゃんって早起きもしてワーシープらしくないね〜。元人間だって事を含めても変わってるわね〜」
「自覚はしてます…まあ眠い時は眠いですが…ふぁ〜ふぅ……」
それでも朝早く起きてしまうのはやはり人間であった時から変わらない私らしい部分なのだろう。
寝坊する時は盛大に寝坊するが…毛が長かった時も朝は基本的に起きれたからなぁ…
まあその時は船の上な事もあってあまり動いてなかったからお昼はぐっすり寝てたけど。
「あ、朝ご飯作るの手伝いますね」
「あらいいのよ。サマリちゃんはお客さんなんだからゆっくりしててもいいのよ〜」
「いえ…私ご飯作るの大好きなのでぜひ手伝わせて下さい!」
「あらそうなの〜。じゃあ手伝ってもらうわね♪」
まあ折角起きた事なんだし、私も朝ご飯を作るのを手伝う事にした。
この機会に味噌汁の作り方を完璧にしておこう…凄く美味しいもんな…
「あ、そういえばアメリちゃんはどうしました?」
「アメリならまだ寝てるわよ〜。朝早くに起こすのも悪いからね」
「そうですか…ふぁぁ〜…」
「サマリちゃんもまだ眠そうねぇ…なんならアメリと寝てきてもいいよ〜?」
「いえ…それは魅力的な提案ではありますが大丈夫です…欠伸は止まりませんがそれほど眠くは無いので」
「そう…昨日はアメリをとっちゃってゴメンね〜…」
「いえいえ…普段は私がずっと抱いてますから…それに実のお姉さんの頼みですしね…」
ちなみに昨日私はアメリちゃんと一緒には寝ていない。
メーデさんがアメリちゃんの抱き心地の良さにハマってしまい、一緒に寝たいと言ったからだ。
まあ別に駄目な理由は無いし、たしかにあの抱き心地が無くなるのは少し寂しかったが、自分の本当の姉と寝る機会は旅をしている間はあまりないだろうからメーデさんにアメリちゃんを譲ったのだ。
「じゃあ〜ご飯を作ろうか」
「そうですね…朝ご飯は…焼き魚と味噌汁、そして白米ですか」
「そうよ〜。あと沢庵と大根おろしもね。サマリちゃんは〜焼き魚用の大根おろし作ってね〜」
「わかりました!」
という事で私は早速大根を下ろし始めた…
…………
………
……
…
「いははひふぁ〜ふ……」
「いただきます!!」
「はいどうぞ〜」
現在8時。
私はメーデさんと朝ご飯の準備をした後、サツキさんと一緒に皆を起こしに行った。
まだ眠たそうな者も何人かいるけど叩き起こして朝ご飯を食べることにした。
「やっぱ朝はお味噌汁やな…これがあると無いとでは一日の気分が違ってくる…」
「そんなにか?まあ朝飯の味噌汁があると嬉しいのは同意だけどな」
「ふぁぁ〜……もぐもぐ……アメリまだねむい…」
「アメリ〜、ちゃんと起きて食べないとこぼすわよ〜」
まずは味噌汁から……うん、お味噌の味がしっかりしていて美味しい。
メーデさんに教わって味噌汁の作り方はマスターしたし、今度から作ろうかな…
「ところで皆さんは次どこに行かれるかは決めているのですか?」
「いえ…とりあえずは来た方角とは逆に行こうと思っていますが…」
朝ご飯を食べていた時、サツキさんが不意に次の目的地を聞いてきた。
しかし、私達はまだどうするか決めていなかったのでとりあえずこう答えたのだが…
「あ〜だったら〜ノーベちゃんの所に行くといいかも〜」
「ノーベ…ちゃん?」
だったらとメーデさんがノーベという人物の所に行くと良いって言ったけど…誰の事だ?
「ノーベちゃんはわたしのすぐ下の妹の事よ〜。わたしと同じで〜ジパングに住んでるの〜」
「へっ!?そうなの!?じゃあアメリそのノーベお姉ちゃんに会いに行きたーい!!」
ノーベさんというのはメーデさんの妹…つまりアメリちゃんのお姉さんらしい。
そして、どうやらそのノーベさんもジパングに住んでいるらしい。
だったら…次はそのノーベさんに会いに行こう!!
「ノーベちゃんは〜ここから更に東に進むと『伍宮(いつみや)』って街があるんだけど〜、その伍宮から今度は南に進んでいくと『樫紅(かしく)』って集落があってぇ、そこで医者をしてるわ〜」
「そーなんだー!!会ってみたいな〜!!」
という事で、私達はノーベさんがいる樫紅に向かう事にした。
「まあとりあえず朝ご飯を食べようよ。折角のご飯が冷めちゃうしね」
「あ、そうだね!メーデお姉ちゃん、朝ごはんおいしいよ!!」
「ふふっ♪ありがとアメリ〜!」
まあまずは朝ご飯を食べてからだけどね。
うん、焼き魚に大根おろしはとてもあう…美味しいや…
====================
「それではさようなら!!」
「は〜い皆さんまた会いましょ〜!!」
「ごきげんよう!お気をつけて!!」
「うん!またねメーデお姉ちゃん!!サツキお姉ちゃん!!」
現在10時。
朝ご飯も食べ終え、旅支度も終わったので、私達はメーデさんの家からノーベさんが住んでいるという樫紅に向けて…というか、まずはこの山を下った先にあるもう一つの魔物がこの武白山より多く棲むという小さな山の向こうにある伍宮に向けて出発しようとしていた。
「そうそう、樫紅ならウチの故郷の近くやでなんとなく道もわかるで!」
「えっそうなのか?」
「そうや!ウチは樫紅の隣にある倭光(わみつ)っちゅー町出身なんや。隣町にリリムがおるなんて聞いた事無かったけどな」
「へぇ〜…じゃあ道案内はカリンに任せていい?」
「おーええで!!まあ確実じゃないから一応地図見ながらやけどな」
「まあそれでも頼りにしてるぜ」
それも、どうやらカリンの故郷の近くらしく、大体の場所はわかるらしい。
なのでさほど道に迷う事も無く樫紅まで辿り着けるだろう。
「じゃ、行きますか!!」
「うん!」
「では、お世話になりました!」
「は〜い、ノーベちゃんに会ったらよろしく伝えておいてね〜」
「わかりましたー!!あとサツキさん、お昼のお弁当ありがとうございます!!」
「いえいえ…あ、生ものもあるので今日中に全部食べて下さいね!!」
という事で、私達はメーデさん達と別れの挨拶を済ませた後、伍宮に向かって足を進めた。
メーデさんとサツキさんは私達が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「次はどんな場所かなぁ?アメリたのしみ!!」
「そうだな……しかしなぁ…また山登りか…」
「ユウロ、またバテそうならアタイの背中に乗っていくか?」
「いやいいよ…まあ体調からしてこの山みたいに斜面が急じゃなければ問題無いだろうし…」
「まあ急ぐ旅でもないんだし、ゆっくりと行こうよ」
「そうだね…まあ辛くなったら言ってね。アタイが運んであげるからさ」
「そう情けない事になってたまるか!今日は大丈夫だ!!」
こんな感じで、楽しくお喋りしながら旅は続く…
…………
………
……
…
「さて、また登りか…」
「まあさっきも言ったとおりゆっくり行くつもりだし、疲れたら休憩するつもりだから」
「まあ…今日は大丈夫だとは思うけどな…」
現在13時。
武白山を下り、もう一つの小さな山の手前でサツキさんが作ってくれたお昼ご飯を食べ終えた私達は、早速また山登りをしようとしていた。
見た感じだけではさっきより傾斜も緩やかだからそう簡単には疲れないと思うが、ゆっくりと登るほうがいいだろう。
「まあ下りは特に何もなかったけど、また大百足みたいな面倒な魔物が出てきたら嫌だな…」
「まあ面倒かはともかく魔物は出てくるんじゃないかな。メーデさんも魔物が多いって言ってたし」
「だよな…」
メーデさんにこの山は魔物が多く棲むからユウロは気をつけてと言われている。
と言っても私達がきちんと説明すればわかってくれるとも言っていたのでたぶん大丈夫だとは思うが…
「ま、出会った時に考えればいいさ。どっちにしろ行くんだから早く出発しようよ」
「そうだな…その時は皆フォロー頼むよ」
まあスズの時みたいにユウロも簡単には攫われないだろうし、用心しながらも出発する事にした。
「ところでユウロお兄ちゃん…」
「ん?何だいアメリちゃん?」
と、出発したところでアメリちゃんが…
「昨日も思ったけど…ユウロお兄ちゃんってそんなに体力なかったっけ?」
「ん?ああ…」
ゆっくりと歩きながら、微妙に皆が考えてた事を口にした。
元勇者な事もあり、体力は魔物と比べても大差はなさそうだが…何故か昨日はやたらと疲れるのが早かった気がする。
今までの旅ではそんな事無かったのに…急にどうしたのだろうか?
「いやぁ…山なんて普段登らないからな…それにあの速度で歩くもんじゃないしな…ってかあれはもう走っていたし…」
「そう?みんな大丈夫そうだったよ?アメリも平気だったし…というかユウロお兄ちゃんメーデお姉ちゃんに会うより前からつかれてたよ?」
「ああ………まあ………」
「ん?何かあるの?」
それに対して答えているユウロではあるが、何故かハッキリと言おうとしない…
もしやこれも過去に何かあるというのか?
「なんやユウロ…ウチなんとなくわかっとるで?ユウロが昨日寝不足やった事とかな!」
「なっ!?なんでカリンが知ってんだよ!?」
「そらあんな大きな音立てたら気付くっちゅーねん!ユウロのせいでウチまで少し起きてしもうたからな」
「ああ…やっぱりあれ夢じゃなかったんだな…アタイは一瞬だけその音で起きたから夢だと思ってたよ」
「そ、そうか、スズもか…わりぃ…」
…いや、カリンやスズの言っている事からすると何か違いそうだぞ…
夜中に起きた…そして大きな音を立てた…って事は…
「で、なんでなのユウロお兄ちゃん?」
「……わかった言うよ…一昨日は…寝返りしたらベッドから落ちて衝撃で目が覚めて……痛みでサマリが起きる時間の直前まで寝れなかったんだよ……」
やっぱりか。
私は音なんか聞こえずぐっすり寝てたから気付かなかったよ。
たぶん反応的にアメリちゃんも気付かずに寝ていたかな…まあ私に抱かれて寝ていたから簡単には目を覚まさないか。
「へぇ…いたくないの?もう大丈夫?」
「ああ…今日はもうさすがに大丈夫だよ…心配してくれたありがとうなアメリちゃん」
「どういたしまして!」
まあやけに疲れるのが速かった理由もわかったし、私達はこのままのペースで山を登り始めた。
「まあ…あの時の夢をまた見るのが怖くて寝れなかったってのもあるけどな…」
「ん?ユウロ今何か言った?」
「えっ何にも言ってないぞ」
「そう…じゃあ気のせいか…」
何かユウロが呟いたような気はしたが、本人が言ってないと言ったので気のせいだったのだろう。
だから私はこれ以上気にせず足を進めた…
====================
「…たしかに魔物が多いな…」
「そうだね〜…でもユウロを襲おうとする人はいないね」
「だな…おかげで助かったけど…」
現在18時。
武白山よりも小さいとはいえ、意外と道が蛇行していた事もあってようやく頂上付近って所まで辿り着いた。
その途中では、メーデさんが言っていたとおり本当にいろんな魔物と出会った。
例えば…暗殺任務という名の交わりに向かう途中の、ベリリさんとは違い本当に口数が少なかった『クノイチ』さんや、まさかジパングにいるとは思わなかった『グリズリー』さん(本人曰く元人間の退魔師で、退治しに行ったメーデさんにコテンパンにされた揚句グリズリーにされたらしい。魔物になって縛られる生活から自由になったからよかったとの事)などがいた。
「そう言えばカリン…さっきなんでこそこそと隠れるようにして歩いてたの?」
「えっ何の話や?」
「ほら、さっき…えっと…刑部狸さんだっけ?狸の魔物がすれ違った時だよ…カリンやたらスズの陰に隠れるように歩いてなかった?」
「えっ…き、気のせいやろ。そそそんな事せーへんよ。ウチ狸は大好きやし」
「ふーん…まあいいけど…」
あと、何か知らないけど嬉しそうにお金を数えながら歩いていた狸の魔物である『刑部狸』さんなんかもすれ違ったが……その時やたらカリンがこそこそしてたりそのカリンをみた刑部狸さんがニヤニヤしていたのは何だったのだろうか?
気になったのでなんとなく聞いてみたけど誤魔化された気がする…明らかに動揺してるしね…
「…ほっ………」
まあ無理に聞きたい事でもないからこれ以上は聞かないでおくか…
私がもう聞かないとわかってほっとしてる位だし、聞かれたくは無いのだろう。
「それでどうするの?今日はここまでにする?」
「そうだね…空も薄暗くなってきたし、今日はここまでにしようか」
「じゃあアメリテントだすね!」
空は朱色を通り過ぎだんだん暗くなってきて、満天の星空と綺麗な三日月が見え始めたので今日はここまでにしようとしたのだが…
ガサガサ……
「ん?何の音だ?」
「あっ!だれかきたみたいだよ!」
「え〜…俺を攫おうとしてる魔物じゃねえよな…」
突然近くでたぶん草木が擦れる音が聞こえてきた。
このパターンは今までの旅の中でいい事であった記憶が全く無いので警戒して音がしたほうを見てみると……
「おっ!聞いた事の無い声が聞こえると思ったらやっぱり知らない人だったか!」
そこには、お酒らしき物が入った徳利を持ったアカオニの女性が居た。
その赤い顔を更に赤くしているように見えるけど…酔ってまではいないのか、足取りはきちんとしているし、言葉もはっきりとしている。
「あ、アカオニのお姉ちゃん!」
「ん?おや、もしやメーデさんの妹さんか?」
「うん!アメリっていうんだ!旅してるの!!もしかしてお姉ちゃんはここらへんにすんでるの?」
「おう!アタシらオーガ属が住んでいる洞窟がこの近くにあるのさ!」
「へぇ〜!!」
アメリちゃんと仲良くお話する姿からして大丈夫…とは昨日の大百足さんの事もありまだ思えない。
まだじっと様子を見ていると、アカオニさんがこっちを見てきて…
「お、あんたら全員アメリちゃんの連れかい?」
「え、ええ…そうですが…なんですか?」
気さくに話しかけてきた。
ちょっとお酒臭い…もうすでに沢山飲んでいるのだろう…けど、嫌では無いな。
私達がアメリちゃんの連れだとわかると、アカオニさんはうんうんと頷いて…
「アタシは柘榴(ザクロ)、この近くで今仲間と宴会しているんだがあんたらも一緒にどうだい?」
「へ?宴会?」
「そ、宴会。仲間の中の一人が男を手に入れた祝いをしているんだよ」
そんな感じにアカオニさん…ザクロさんが私達に宴会に参加しないかと誘ってきた。
「え…いいんですか?」
「おう、問題無いさ!メーデさんの妹さんとその連れの方なら皆も大歓迎だ!」
悪いかなと思って聞いてみたが、全く問題は無いらしい。
だったら、折角誘われているわけだし参加しようかな…
「なら……」
参加しますと言おうとしたところで…
「あ、でも……ちょっと聞きたい事が…」
重要な事を思い出した。
「ん?なんだい?」
「えっと…ユウロの…この男の子の事でちょっと…」
「うん?この男がどうしたって?」
「いや…誰かにお持ち帰りされると困るな〜っと…」
「あ!そうだよ!!ユウロお兄ちゃんはアメリたちといっしょに旅するんだから!!」
これだけは聞いておかないと大変な事になりかねないからな…
後々トラブルになる事はなんとしても避けたい。
「ああ、それなら最初にアタシが皆に言っておくよ。アメリちゃんがそう言う事だしたぶん大丈夫だろう」
「わかりました!それなら……あ、もう一つ言っておきたい事が…」
「ん?今度はなんだい?」
「えっと…私達お酒弱いのが結構いるのですが…大丈夫ですか?」
それと、オーガ属の宴会という事は…確実にお酒の席であろう。
しかし、私とユウロはお酒に弱く、少量しか飲めない。それどころかアメリちゃんに至ってはまだお酒を飲めない子供である。
カリンは飲めるらしいけど、スズはわからないし…もしお酒ばかりだったら私達はきっと大変な思いをするだろうから、一応聞いてみた。
「ああ…まあ食べ物も沢山あるし、一応水もあるから大丈夫だろう…」
「あ、それなら……」
「だが!全員一杯は飲めよ!!」
…一杯は飲めと言われてしまった。それほどお酒を飲んでほしいのだろう。
まあ仕方がない…一杯飲んだらあとはお水だけにしておこう。
一杯ならユウロが寝てしまう事も無い…だろう。
「アメリも?」
「アメリちゃんは…まあ仕方ないか…オニじゃないからさすがに良くないかな…」
そりゃあそうであろう。子供にお酒は良くない。
というかアカオニは子供もお酒飲んで…いるだろうな…イチゴも小さいときから飲んでるって言ってたし。
「もう質問は無いな!それじゃあ一緒に宴会だ!ついてきな!」
聞きたい事も終わったし、私達はザクロさんの案内で宴会をしている場所まで案内された。
…………
………
……
…
「お〜結構やるじゃねえか!」
「んぐ…んぐ…ぷはぁ!まだまだ!アタイはまだ飲めるよ!!」
「く〜!!ならもう一杯と言わずたくさん飲め!!」
現在19時。
ザクロさんの案内で宴会に混ざった私達は、それぞれでいろんな『オーガ属』の魔物とお話したり、お酒を飲みあったりしていた。
「んぐ…んぐ…んぐ……ぷっはあっ!!いや〜こんないい飲みっぷりの子、仲間内以外では久しぶりに見たよ!」
「いやぁ…アタイもまさか自分がこんなに飲めるとは思って無かったよ!それにしてもここにあるお酒、どれもこれも美味しいな!!」
「そうだろそうだろ!!全部あたい達で作ってるんだぜ?美味いに決まってるだろ!」
「へぇ…これ全部自家製なのか!!凄いな〜!!」
「だろ!?やっぱ酒は自分で作ってこそ美味いもんが出来るってもんだ!…ところであんた、ウシオニなのはわかるが…なんて名前だい?」
「ああ、そう言えば言って無かったね…アタイはスズ!あんたは?肌の色はアタイよりちょっと明るいだけであまり変わらないように見えるけどさ…種族も良くわからないから教えてほしいけど…」
「あたいは『オーガ』の蓬(ヨモギ)さ!まあオーガはジパングじゃあ珍しいからな…あたいはおっかあがジパングに渡ってきてから産んだジパング出身のオーガさ!」
「へぇ〜そうなのか…じゃあ蓬、アタイと飲み比べだ!先に潰れたほうの負けな!!」
「おう!望むところだ!!」
このようにスズはオーガのヨモギさんと飲み比べをしている。
スズは意外にもお酒に強かったらしく、先程からヨモギさんや他のオニ達と比べても謙遜無いほどの飲みっぷりを披露している。
二人の足元にはお酒が入っていた酒樽がそれぞれ2桁近く落ちているのだが…2人の様子を見るとまだまだ飲むのであろう。
「はぁ…皆ガバガバ飲みすぎ…もう少しゆっくりと飲めないのか…」
「あれ?えっと…名前なんでしたっけ?」
「露(ツユ)だが…どうかしたのか…えっと…」
「ユウロです。ツユさんは『アオオニ』にしてはお酒をそう飲みませんね…」
「まあ私は自分がすぐ酔ってしまう事わかってるからな…そうすると酒の良さをあまり堪能出来なくなるからこうゆっくりと飲む事にしてる」
「へぇ…アオオニってお酒をすぐ飲んでアカオニみたいになるものばかりだと…」
「ふん…まあ私も昔はそうだったからな…私の場合は旦那のおかげでゆっくりと酒を飲む楽しさを知ったからもうそんな飲み方はできん」
「そうですか……ってツユさんは旦那さんいるんですか!?」
「まあな…ただ他の娘の旦那に付き合わされて酔い潰れているから今ここには居ないがな…そうでなければユウロ、お前なんかと一緒に喋ってなどいない…」
「ですよね…俺もゆっくりと飲みたいんでここに居るだけですので、鬱陶しいなら無視して下さって構いませんよ」
「そうとは言ってないが…まあここでゆっくりと飲もうじゃないか」
「ですね…」
ユウロはアオオニのツユさんと一緒に、スズ達とは対照的に一杯のお酒をゆっくりと嗜んでいる。
ツユさんは旦那さんが居るのでユウロも襲われる事が無いし、自分のペースで飲めるというので安心してちょっと輪から外れた、大きな木の根元にずっと二人で飲んでいる。
「あのなぁ…ウチやって大変なんや!一生懸命良いもんばかり厳選して売っとるのに高いやのぼったくりやの言われるし…そう言われるとお前なんかにこの商品の何がわかるって言いたくなるねん!!」
「そんな悩みもあるのか…後でアタシにもその厳選された商品見せてくれよ!気にいったら買うからさ!!」
「ほんまか!?じゃあ見せたるわ!ただな…見た結果たいしたもん無いんやなとか思っても言わんでな…ウチそんなん言われた日は悔し涙が止まらんくなるねん…」
「大変なんだな…まあ飲んで今日は辛い事も忘れちまえ!」
「おおきにな柘榴…ウチの愚痴に付き合わせてすまんな…」
「いいって気にすんな花梨!一緒に飲み明かそう!!」
「おっしゃ!じゃあウチも遠慮なく飲み明かすで〜!!」
私達をここまで案内してくれたザクロさんと同じくらい顔を真っ赤にしながら、スズほどではないけどかなりの量を飲んでいるカリン。
結構苦労しているようで飲みながらカリンはずっと愚痴を言っていたが…ザクロさんはその愚痴をちゃんと聞いていた。
「ねえねえお姉ちゃんたちはもうラブラブしたの?」
「おう!アメリちゃんもあたし達の交わりを見てみたいか?」
「うん!って言いたいけど…お兄ちゃんのほうがはずかしそうだから止めておくね」
「そうか…まあこいつは初心だから仕方ないか…」
「でもあとで二人きりでラブラブしてね!」
「当たり前だ!もちろんずっとし続けて…いつかは子供を授かるさ!」
「元気な子供をうんでね!アメリおうえんしてるね!」
「おう!ありがとうなアメリちゃん!!」
アメリちゃんは今回の宴会の主役である新郎新婦とお話していた。
話の内容が聞こえてくるけど…やっぱりアメリちゃんも魔物なんだなって改めて実感するような内容が多い。
それと…やっぱりメーデさんはここら一帯では相当信頼されているらしい。
アメリちゃんがメーデさんの妹だって聞いた瞬間全員が「ならば安心だ」と言ったほどだ。
で、私は今何をしているのかというと…
「サマリさんあったか〜い!」
「お姉さんふわふわ〜!」
「わっ!?こ、こら!そんなにくっつくと…」
「ふわふ……ぐぅ〜……」
「もこもk……すぅ……」
「ああ…もう、だから言ったのに…」
まだ子供であるアカオニやアオオニ、オーガ達と遊んでいたのだが、彼女達もお酒はばっちり飲んでいるせいなのか私のもこもこの毛皮に身体を寄せるとすぐに眠ってしまう。
まあ一人目が寝た後に全員目を輝かせて飛び付いて来たのだからわざとだろうとは思うけど。
「もう…こんな所で寝るのは良くないと思うんだけどな…親も宴に夢中で気付いてないし…」
そんな感じに眠ってしまった子供を柔らかそうな地面に寝かせ、元の場所に戻ってはまた抱きついてきて眠ってしまった子を運び…と繰り返しているうちにいつの間にか近くに居た子供は全滅していた。
「まあいいや…お水飲もう…」
私は先に用意しておいたお水を飲みながら、遠くから宴会の様子を一人寂しく見ていたが…
「なあサマリ、隣いいか?」
「あ、ユウロ…ツユさんは?」
「もう酔ったらしく、旦那とイチャエロする為に走ってどっかいったよ」
同じく一人になったユウロが、最初の一杯目が未だに入っている小さな酒樽を手に持って近づいてきた。
「そう…じゃあ一緒に飲もっか…って私はお水だけどね」
「もう一杯は飲んだのか…俺まだ飲み切れてねえよ」
「まあ一杯位ならすぐ飲めるよ…量飲めないだけだし」
「すげえな…アルコールが強いのか俺全然喉を通らねえよ…」
たしかにちょっとアルコールが強かった気がするな…どうりでユウロは未だに飲みほしていないわけだ。
「しかも少し酔ってきちまった…」
「ん?……ってちょっとユウロ!?何してるの!?」
「わりぃ…ちょっと肩貸してくれ…」
そして私の隣に座ると、すぐに私にもたれ掛ってきた。
よくユウロの顔を見るとたしかに真っ赤なので本当に酔ってはいるのだろうけど…突然過ぎたのでビックリした…
まあ…嫌じゃないから突き飛ばしたりはしないけどね……
「いいけど…眠っちゃっても知らないよ?あそこで寝てる子供、全部私に密着して寝ちゃったんだから」
「ん?……ああ…凄いな。二桁はいるじゃねえか」
「でしょ?ユウロも寝たらあそこに並べるからね?」
「いやそれはちょっと襲われそうなのでやめて下さい」
「冗談よ…わかってるって」
そこまでまだ酔いが回って無いのか、一応すぐには寝そうもないので取り留めのない会話をする事にした。
「ねえユウロ…」
「うん?」
「ユウロは今こうして旅してるけど…勇者やめて良かったと思ってる?」
「まあ…ぶっちゃけ今の生活のほうが楽しいしな…ウザい上司のウザい命令聞かなくて済むしな」
「あはは…大変だったんだね」
「そりゃあ大変さ。だって魔物だから子供でも殺せって言うんだぜ?あり得ないだろ!?」
「そうだよね…そういえばユウロはアメリちゃんを殺しに来た勇者だったっけ…」
「それは言うなよー…」
ユウロと出会ってからまだそんなに経っていないはずなのに、旅に出てからは毎日が濃厚過ぎてもうずいぶん前の事に感じる。
事実カリンやスズとは一週間ちょっとしか一緒に旅してないのに…もうずっと一緒に旅をしているようにも思えるもんな…
「そういえばユウロ…自分の過去を話したがらないけどさ…そんなに知られるのが嫌なの?」
「まあな…変な同情はしてほしくないし、俺自身思い出したくない事が多いからな…」
「そうなの?」
「ああ…だから聞くなよ?酔ってても絶対に喋らないからな!」
「うん…」
そんなユウロの出会う前の事はほとんど知らない…わかっている事と言えば、勇者だったという事ぐらいだ。
前カラステングさんに言われたユウロの昔の名前や出身地、それどころか幼少期の話は全くしようとしないもんな…
そこまで強いトラウマでもあるのかな?
それでも…ちょっとだけでもいいから教えてほしいな…
……ユウロの事をもっと知りたいな……
でも、無理に聞いて嫌われたくは無いから、この話題はこれ以上しないでおくか…
「ふぁぁ…ん〜…」
「ほら、眠くなってるじゃない」
「まあ…酒が入るとやっぱり眠くなっちまうらしい…」
やっと一杯目を飲みほしたユウロは、途端に大きな欠伸をし始めた。
やっぱりお酒が入ると眠くなるのだろう…
さらには私にもたれ掛っているのだ…眠くならないわけがない。
「なら私の背中を貸してあげるよ」
「ん?背中?なんで?」
「地面で寝るよりはいいでしょ?さすがに膝枕は私がお酒の力もあるしユウロを襲っちゃいそうだもん」
「いや、そう言う事じゃなくて…別に地面に転がしておいてもいいけど…」
「いいよ、気にしないで。ほら…」
だから私はユウロに背中で寝ていいよと言って、着ていた上着を脱ぎ始めた。
「ほらって…何してんだよ…」
「いや、私の毛が直接当たってるほうが気持ちいいかと」
「だからって脱ぐなよ…裸じゃねえか…」
「大事な部分は隠れてるから問題無いよ。それとも私のおっぱいに顔を埋めたかった?」
「…そのほうが襲ってくるんじゃね?」
「ははっ…たしかにね…」
ちょっとだけおバカな会話をした後に…
「んじゃまあお言葉に甘えさせてもらうわ…」
「どうぞどうぞ…途中で起こしちゃったらごめんね」
「いいよ……気にしないから……」
ユウロは私の背中にもたれ掛り、そのまま眠り始めた…
「……」
また一人になってしまったけど…別に寂しくないし、嫌じゃない。
背中に感じるユウロの熱が、どこか心地良いものだったから…
「あら?サマリちゃんは早起きね〜」
「まあいつも朝ご飯の用意で皆より早く起きますから…そういうメーデさんこそ早いですね…」
「他はサツキに任せてるしぃ、まあ朝ご飯くらいは将来旦那様が出来た時の為にも自分で作らないとって思ってるからね〜」
「なるほど…ふぁあ〜……」
現在6時過ぎ。
昨日はアメリちゃんのお姉さんであるメーデさんの家に泊めてもらった。
夜遅くまで…と言っても23時位までではあるが…メーデさん達とお話していたからまだちょっと眠い。
「というかーサマリちゃんって早起きもしてワーシープらしくないね〜。元人間だって事を含めても変わってるわね〜」
「自覚はしてます…まあ眠い時は眠いですが…ふぁ〜ふぅ……」
それでも朝早く起きてしまうのはやはり人間であった時から変わらない私らしい部分なのだろう。
寝坊する時は盛大に寝坊するが…毛が長かった時も朝は基本的に起きれたからなぁ…
まあその時は船の上な事もあってあまり動いてなかったからお昼はぐっすり寝てたけど。
「あ、朝ご飯作るの手伝いますね」
「あらいいのよ。サマリちゃんはお客さんなんだからゆっくりしててもいいのよ〜」
「いえ…私ご飯作るの大好きなのでぜひ手伝わせて下さい!」
「あらそうなの〜。じゃあ手伝ってもらうわね♪」
まあ折角起きた事なんだし、私も朝ご飯を作るのを手伝う事にした。
この機会に味噌汁の作り方を完璧にしておこう…凄く美味しいもんな…
「あ、そういえばアメリちゃんはどうしました?」
「アメリならまだ寝てるわよ〜。朝早くに起こすのも悪いからね」
「そうですか…ふぁぁ〜…」
「サマリちゃんもまだ眠そうねぇ…なんならアメリと寝てきてもいいよ〜?」
「いえ…それは魅力的な提案ではありますが大丈夫です…欠伸は止まりませんがそれほど眠くは無いので」
「そう…昨日はアメリをとっちゃってゴメンね〜…」
「いえいえ…普段は私がずっと抱いてますから…それに実のお姉さんの頼みですしね…」
ちなみに昨日私はアメリちゃんと一緒には寝ていない。
メーデさんがアメリちゃんの抱き心地の良さにハマってしまい、一緒に寝たいと言ったからだ。
まあ別に駄目な理由は無いし、たしかにあの抱き心地が無くなるのは少し寂しかったが、自分の本当の姉と寝る機会は旅をしている間はあまりないだろうからメーデさんにアメリちゃんを譲ったのだ。
「じゃあ〜ご飯を作ろうか」
「そうですね…朝ご飯は…焼き魚と味噌汁、そして白米ですか」
「そうよ〜。あと沢庵と大根おろしもね。サマリちゃんは〜焼き魚用の大根おろし作ってね〜」
「わかりました!」
という事で私は早速大根を下ろし始めた…
…………
………
……
…
「いははひふぁ〜ふ……」
「いただきます!!」
「はいどうぞ〜」
現在8時。
私はメーデさんと朝ご飯の準備をした後、サツキさんと一緒に皆を起こしに行った。
まだ眠たそうな者も何人かいるけど叩き起こして朝ご飯を食べることにした。
「やっぱ朝はお味噌汁やな…これがあると無いとでは一日の気分が違ってくる…」
「そんなにか?まあ朝飯の味噌汁があると嬉しいのは同意だけどな」
「ふぁぁ〜……もぐもぐ……アメリまだねむい…」
「アメリ〜、ちゃんと起きて食べないとこぼすわよ〜」
まずは味噌汁から……うん、お味噌の味がしっかりしていて美味しい。
メーデさんに教わって味噌汁の作り方はマスターしたし、今度から作ろうかな…
「ところで皆さんは次どこに行かれるかは決めているのですか?」
「いえ…とりあえずは来た方角とは逆に行こうと思っていますが…」
朝ご飯を食べていた時、サツキさんが不意に次の目的地を聞いてきた。
しかし、私達はまだどうするか決めていなかったのでとりあえずこう答えたのだが…
「あ〜だったら〜ノーベちゃんの所に行くといいかも〜」
「ノーベ…ちゃん?」
だったらとメーデさんがノーベという人物の所に行くと良いって言ったけど…誰の事だ?
「ノーベちゃんはわたしのすぐ下の妹の事よ〜。わたしと同じで〜ジパングに住んでるの〜」
「へっ!?そうなの!?じゃあアメリそのノーベお姉ちゃんに会いに行きたーい!!」
ノーベさんというのはメーデさんの妹…つまりアメリちゃんのお姉さんらしい。
そして、どうやらそのノーベさんもジパングに住んでいるらしい。
だったら…次はそのノーベさんに会いに行こう!!
「ノーベちゃんは〜ここから更に東に進むと『伍宮(いつみや)』って街があるんだけど〜、その伍宮から今度は南に進んでいくと『樫紅(かしく)』って集落があってぇ、そこで医者をしてるわ〜」
「そーなんだー!!会ってみたいな〜!!」
という事で、私達はノーベさんがいる樫紅に向かう事にした。
「まあとりあえず朝ご飯を食べようよ。折角のご飯が冷めちゃうしね」
「あ、そうだね!メーデお姉ちゃん、朝ごはんおいしいよ!!」
「ふふっ♪ありがとアメリ〜!」
まあまずは朝ご飯を食べてからだけどね。
うん、焼き魚に大根おろしはとてもあう…美味しいや…
====================
「それではさようなら!!」
「は〜い皆さんまた会いましょ〜!!」
「ごきげんよう!お気をつけて!!」
「うん!またねメーデお姉ちゃん!!サツキお姉ちゃん!!」
現在10時。
朝ご飯も食べ終え、旅支度も終わったので、私達はメーデさんの家からノーベさんが住んでいるという樫紅に向けて…というか、まずはこの山を下った先にあるもう一つの魔物がこの武白山より多く棲むという小さな山の向こうにある伍宮に向けて出発しようとしていた。
「そうそう、樫紅ならウチの故郷の近くやでなんとなく道もわかるで!」
「えっそうなのか?」
「そうや!ウチは樫紅の隣にある倭光(わみつ)っちゅー町出身なんや。隣町にリリムがおるなんて聞いた事無かったけどな」
「へぇ〜…じゃあ道案内はカリンに任せていい?」
「おーええで!!まあ確実じゃないから一応地図見ながらやけどな」
「まあそれでも頼りにしてるぜ」
それも、どうやらカリンの故郷の近くらしく、大体の場所はわかるらしい。
なのでさほど道に迷う事も無く樫紅まで辿り着けるだろう。
「じゃ、行きますか!!」
「うん!」
「では、お世話になりました!」
「は〜い、ノーベちゃんに会ったらよろしく伝えておいてね〜」
「わかりましたー!!あとサツキさん、お昼のお弁当ありがとうございます!!」
「いえいえ…あ、生ものもあるので今日中に全部食べて下さいね!!」
という事で、私達はメーデさん達と別れの挨拶を済ませた後、伍宮に向かって足を進めた。
メーデさんとサツキさんは私達が見えなくなるまで手を振り続けていた。
「次はどんな場所かなぁ?アメリたのしみ!!」
「そうだな……しかしなぁ…また山登りか…」
「ユウロ、またバテそうならアタイの背中に乗っていくか?」
「いやいいよ…まあ体調からしてこの山みたいに斜面が急じゃなければ問題無いだろうし…」
「まあ急ぐ旅でもないんだし、ゆっくりと行こうよ」
「そうだね…まあ辛くなったら言ってね。アタイが運んであげるからさ」
「そう情けない事になってたまるか!今日は大丈夫だ!!」
こんな感じで、楽しくお喋りしながら旅は続く…
…………
………
……
…
「さて、また登りか…」
「まあさっきも言ったとおりゆっくり行くつもりだし、疲れたら休憩するつもりだから」
「まあ…今日は大丈夫だとは思うけどな…」
現在13時。
武白山を下り、もう一つの小さな山の手前でサツキさんが作ってくれたお昼ご飯を食べ終えた私達は、早速また山登りをしようとしていた。
見た感じだけではさっきより傾斜も緩やかだからそう簡単には疲れないと思うが、ゆっくりと登るほうがいいだろう。
「まあ下りは特に何もなかったけど、また大百足みたいな面倒な魔物が出てきたら嫌だな…」
「まあ面倒かはともかく魔物は出てくるんじゃないかな。メーデさんも魔物が多いって言ってたし」
「だよな…」
メーデさんにこの山は魔物が多く棲むからユウロは気をつけてと言われている。
と言っても私達がきちんと説明すればわかってくれるとも言っていたのでたぶん大丈夫だとは思うが…
「ま、出会った時に考えればいいさ。どっちにしろ行くんだから早く出発しようよ」
「そうだな…その時は皆フォロー頼むよ」
まあスズの時みたいにユウロも簡単には攫われないだろうし、用心しながらも出発する事にした。
「ところでユウロお兄ちゃん…」
「ん?何だいアメリちゃん?」
と、出発したところでアメリちゃんが…
「昨日も思ったけど…ユウロお兄ちゃんってそんなに体力なかったっけ?」
「ん?ああ…」
ゆっくりと歩きながら、微妙に皆が考えてた事を口にした。
元勇者な事もあり、体力は魔物と比べても大差はなさそうだが…何故か昨日はやたらと疲れるのが早かった気がする。
今までの旅ではそんな事無かったのに…急にどうしたのだろうか?
「いやぁ…山なんて普段登らないからな…それにあの速度で歩くもんじゃないしな…ってかあれはもう走っていたし…」
「そう?みんな大丈夫そうだったよ?アメリも平気だったし…というかユウロお兄ちゃんメーデお姉ちゃんに会うより前からつかれてたよ?」
「ああ………まあ………」
「ん?何かあるの?」
それに対して答えているユウロではあるが、何故かハッキリと言おうとしない…
もしやこれも過去に何かあるというのか?
「なんやユウロ…ウチなんとなくわかっとるで?ユウロが昨日寝不足やった事とかな!」
「なっ!?なんでカリンが知ってんだよ!?」
「そらあんな大きな音立てたら気付くっちゅーねん!ユウロのせいでウチまで少し起きてしもうたからな」
「ああ…やっぱりあれ夢じゃなかったんだな…アタイは一瞬だけその音で起きたから夢だと思ってたよ」
「そ、そうか、スズもか…わりぃ…」
…いや、カリンやスズの言っている事からすると何か違いそうだぞ…
夜中に起きた…そして大きな音を立てた…って事は…
「で、なんでなのユウロお兄ちゃん?」
「……わかった言うよ…一昨日は…寝返りしたらベッドから落ちて衝撃で目が覚めて……痛みでサマリが起きる時間の直前まで寝れなかったんだよ……」
やっぱりか。
私は音なんか聞こえずぐっすり寝てたから気付かなかったよ。
たぶん反応的にアメリちゃんも気付かずに寝ていたかな…まあ私に抱かれて寝ていたから簡単には目を覚まさないか。
「へぇ…いたくないの?もう大丈夫?」
「ああ…今日はもうさすがに大丈夫だよ…心配してくれたありがとうなアメリちゃん」
「どういたしまして!」
まあやけに疲れるのが速かった理由もわかったし、私達はこのままのペースで山を登り始めた。
「まあ…あの時の夢をまた見るのが怖くて寝れなかったってのもあるけどな…」
「ん?ユウロ今何か言った?」
「えっ何にも言ってないぞ」
「そう…じゃあ気のせいか…」
何かユウロが呟いたような気はしたが、本人が言ってないと言ったので気のせいだったのだろう。
だから私はこれ以上気にせず足を進めた…
====================
「…たしかに魔物が多いな…」
「そうだね〜…でもユウロを襲おうとする人はいないね」
「だな…おかげで助かったけど…」
現在18時。
武白山よりも小さいとはいえ、意外と道が蛇行していた事もあってようやく頂上付近って所まで辿り着いた。
その途中では、メーデさんが言っていたとおり本当にいろんな魔物と出会った。
例えば…暗殺任務という名の交わりに向かう途中の、ベリリさんとは違い本当に口数が少なかった『クノイチ』さんや、まさかジパングにいるとは思わなかった『グリズリー』さん(本人曰く元人間の退魔師で、退治しに行ったメーデさんにコテンパンにされた揚句グリズリーにされたらしい。魔物になって縛られる生活から自由になったからよかったとの事)などがいた。
「そう言えばカリン…さっきなんでこそこそと隠れるようにして歩いてたの?」
「えっ何の話や?」
「ほら、さっき…えっと…刑部狸さんだっけ?狸の魔物がすれ違った時だよ…カリンやたらスズの陰に隠れるように歩いてなかった?」
「えっ…き、気のせいやろ。そそそんな事せーへんよ。ウチ狸は大好きやし」
「ふーん…まあいいけど…」
あと、何か知らないけど嬉しそうにお金を数えながら歩いていた狸の魔物である『刑部狸』さんなんかもすれ違ったが……その時やたらカリンがこそこそしてたりそのカリンをみた刑部狸さんがニヤニヤしていたのは何だったのだろうか?
気になったのでなんとなく聞いてみたけど誤魔化された気がする…明らかに動揺してるしね…
「…ほっ………」
まあ無理に聞きたい事でもないからこれ以上は聞かないでおくか…
私がもう聞かないとわかってほっとしてる位だし、聞かれたくは無いのだろう。
「それでどうするの?今日はここまでにする?」
「そうだね…空も薄暗くなってきたし、今日はここまでにしようか」
「じゃあアメリテントだすね!」
空は朱色を通り過ぎだんだん暗くなってきて、満天の星空と綺麗な三日月が見え始めたので今日はここまでにしようとしたのだが…
ガサガサ……
「ん?何の音だ?」
「あっ!だれかきたみたいだよ!」
「え〜…俺を攫おうとしてる魔物じゃねえよな…」
突然近くでたぶん草木が擦れる音が聞こえてきた。
このパターンは今までの旅の中でいい事であった記憶が全く無いので警戒して音がしたほうを見てみると……
「おっ!聞いた事の無い声が聞こえると思ったらやっぱり知らない人だったか!」
そこには、お酒らしき物が入った徳利を持ったアカオニの女性が居た。
その赤い顔を更に赤くしているように見えるけど…酔ってまではいないのか、足取りはきちんとしているし、言葉もはっきりとしている。
「あ、アカオニのお姉ちゃん!」
「ん?おや、もしやメーデさんの妹さんか?」
「うん!アメリっていうんだ!旅してるの!!もしかしてお姉ちゃんはここらへんにすんでるの?」
「おう!アタシらオーガ属が住んでいる洞窟がこの近くにあるのさ!」
「へぇ〜!!」
アメリちゃんと仲良くお話する姿からして大丈夫…とは昨日の大百足さんの事もありまだ思えない。
まだじっと様子を見ていると、アカオニさんがこっちを見てきて…
「お、あんたら全員アメリちゃんの連れかい?」
「え、ええ…そうですが…なんですか?」
気さくに話しかけてきた。
ちょっとお酒臭い…もうすでに沢山飲んでいるのだろう…けど、嫌では無いな。
私達がアメリちゃんの連れだとわかると、アカオニさんはうんうんと頷いて…
「アタシは柘榴(ザクロ)、この近くで今仲間と宴会しているんだがあんたらも一緒にどうだい?」
「へ?宴会?」
「そ、宴会。仲間の中の一人が男を手に入れた祝いをしているんだよ」
そんな感じにアカオニさん…ザクロさんが私達に宴会に参加しないかと誘ってきた。
「え…いいんですか?」
「おう、問題無いさ!メーデさんの妹さんとその連れの方なら皆も大歓迎だ!」
悪いかなと思って聞いてみたが、全く問題は無いらしい。
だったら、折角誘われているわけだし参加しようかな…
「なら……」
参加しますと言おうとしたところで…
「あ、でも……ちょっと聞きたい事が…」
重要な事を思い出した。
「ん?なんだい?」
「えっと…ユウロの…この男の子の事でちょっと…」
「うん?この男がどうしたって?」
「いや…誰かにお持ち帰りされると困るな〜っと…」
「あ!そうだよ!!ユウロお兄ちゃんはアメリたちといっしょに旅するんだから!!」
これだけは聞いておかないと大変な事になりかねないからな…
後々トラブルになる事はなんとしても避けたい。
「ああ、それなら最初にアタシが皆に言っておくよ。アメリちゃんがそう言う事だしたぶん大丈夫だろう」
「わかりました!それなら……あ、もう一つ言っておきたい事が…」
「ん?今度はなんだい?」
「えっと…私達お酒弱いのが結構いるのですが…大丈夫ですか?」
それと、オーガ属の宴会という事は…確実にお酒の席であろう。
しかし、私とユウロはお酒に弱く、少量しか飲めない。それどころかアメリちゃんに至ってはまだお酒を飲めない子供である。
カリンは飲めるらしいけど、スズはわからないし…もしお酒ばかりだったら私達はきっと大変な思いをするだろうから、一応聞いてみた。
「ああ…まあ食べ物も沢山あるし、一応水もあるから大丈夫だろう…」
「あ、それなら……」
「だが!全員一杯は飲めよ!!」
…一杯は飲めと言われてしまった。それほどお酒を飲んでほしいのだろう。
まあ仕方がない…一杯飲んだらあとはお水だけにしておこう。
一杯ならユウロが寝てしまう事も無い…だろう。
「アメリも?」
「アメリちゃんは…まあ仕方ないか…オニじゃないからさすがに良くないかな…」
そりゃあそうであろう。子供にお酒は良くない。
というかアカオニは子供もお酒飲んで…いるだろうな…イチゴも小さいときから飲んでるって言ってたし。
「もう質問は無いな!それじゃあ一緒に宴会だ!ついてきな!」
聞きたい事も終わったし、私達はザクロさんの案内で宴会をしている場所まで案内された。
…………
………
……
…
「お〜結構やるじゃねえか!」
「んぐ…んぐ…ぷはぁ!まだまだ!アタイはまだ飲めるよ!!」
「く〜!!ならもう一杯と言わずたくさん飲め!!」
現在19時。
ザクロさんの案内で宴会に混ざった私達は、それぞれでいろんな『オーガ属』の魔物とお話したり、お酒を飲みあったりしていた。
「んぐ…んぐ…んぐ……ぷっはあっ!!いや〜こんないい飲みっぷりの子、仲間内以外では久しぶりに見たよ!」
「いやぁ…アタイもまさか自分がこんなに飲めるとは思って無かったよ!それにしてもここにあるお酒、どれもこれも美味しいな!!」
「そうだろそうだろ!!全部あたい達で作ってるんだぜ?美味いに決まってるだろ!」
「へぇ…これ全部自家製なのか!!凄いな〜!!」
「だろ!?やっぱ酒は自分で作ってこそ美味いもんが出来るってもんだ!…ところであんた、ウシオニなのはわかるが…なんて名前だい?」
「ああ、そう言えば言って無かったね…アタイはスズ!あんたは?肌の色はアタイよりちょっと明るいだけであまり変わらないように見えるけどさ…種族も良くわからないから教えてほしいけど…」
「あたいは『オーガ』の蓬(ヨモギ)さ!まあオーガはジパングじゃあ珍しいからな…あたいはおっかあがジパングに渡ってきてから産んだジパング出身のオーガさ!」
「へぇ〜そうなのか…じゃあ蓬、アタイと飲み比べだ!先に潰れたほうの負けな!!」
「おう!望むところだ!!」
このようにスズはオーガのヨモギさんと飲み比べをしている。
スズは意外にもお酒に強かったらしく、先程からヨモギさんや他のオニ達と比べても謙遜無いほどの飲みっぷりを披露している。
二人の足元にはお酒が入っていた酒樽がそれぞれ2桁近く落ちているのだが…2人の様子を見るとまだまだ飲むのであろう。
「はぁ…皆ガバガバ飲みすぎ…もう少しゆっくりと飲めないのか…」
「あれ?えっと…名前なんでしたっけ?」
「露(ツユ)だが…どうかしたのか…えっと…」
「ユウロです。ツユさんは『アオオニ』にしてはお酒をそう飲みませんね…」
「まあ私は自分がすぐ酔ってしまう事わかってるからな…そうすると酒の良さをあまり堪能出来なくなるからこうゆっくりと飲む事にしてる」
「へぇ…アオオニってお酒をすぐ飲んでアカオニみたいになるものばかりだと…」
「ふん…まあ私も昔はそうだったからな…私の場合は旦那のおかげでゆっくりと酒を飲む楽しさを知ったからもうそんな飲み方はできん」
「そうですか……ってツユさんは旦那さんいるんですか!?」
「まあな…ただ他の娘の旦那に付き合わされて酔い潰れているから今ここには居ないがな…そうでなければユウロ、お前なんかと一緒に喋ってなどいない…」
「ですよね…俺もゆっくりと飲みたいんでここに居るだけですので、鬱陶しいなら無視して下さって構いませんよ」
「そうとは言ってないが…まあここでゆっくりと飲もうじゃないか」
「ですね…」
ユウロはアオオニのツユさんと一緒に、スズ達とは対照的に一杯のお酒をゆっくりと嗜んでいる。
ツユさんは旦那さんが居るのでユウロも襲われる事が無いし、自分のペースで飲めるというので安心してちょっと輪から外れた、大きな木の根元にずっと二人で飲んでいる。
「あのなぁ…ウチやって大変なんや!一生懸命良いもんばかり厳選して売っとるのに高いやのぼったくりやの言われるし…そう言われるとお前なんかにこの商品の何がわかるって言いたくなるねん!!」
「そんな悩みもあるのか…後でアタシにもその厳選された商品見せてくれよ!気にいったら買うからさ!!」
「ほんまか!?じゃあ見せたるわ!ただな…見た結果たいしたもん無いんやなとか思っても言わんでな…ウチそんなん言われた日は悔し涙が止まらんくなるねん…」
「大変なんだな…まあ飲んで今日は辛い事も忘れちまえ!」
「おおきにな柘榴…ウチの愚痴に付き合わせてすまんな…」
「いいって気にすんな花梨!一緒に飲み明かそう!!」
「おっしゃ!じゃあウチも遠慮なく飲み明かすで〜!!」
私達をここまで案内してくれたザクロさんと同じくらい顔を真っ赤にしながら、スズほどではないけどかなりの量を飲んでいるカリン。
結構苦労しているようで飲みながらカリンはずっと愚痴を言っていたが…ザクロさんはその愚痴をちゃんと聞いていた。
「ねえねえお姉ちゃんたちはもうラブラブしたの?」
「おう!アメリちゃんもあたし達の交わりを見てみたいか?」
「うん!って言いたいけど…お兄ちゃんのほうがはずかしそうだから止めておくね」
「そうか…まあこいつは初心だから仕方ないか…」
「でもあとで二人きりでラブラブしてね!」
「当たり前だ!もちろんずっとし続けて…いつかは子供を授かるさ!」
「元気な子供をうんでね!アメリおうえんしてるね!」
「おう!ありがとうなアメリちゃん!!」
アメリちゃんは今回の宴会の主役である新郎新婦とお話していた。
話の内容が聞こえてくるけど…やっぱりアメリちゃんも魔物なんだなって改めて実感するような内容が多い。
それと…やっぱりメーデさんはここら一帯では相当信頼されているらしい。
アメリちゃんがメーデさんの妹だって聞いた瞬間全員が「ならば安心だ」と言ったほどだ。
で、私は今何をしているのかというと…
「サマリさんあったか〜い!」
「お姉さんふわふわ〜!」
「わっ!?こ、こら!そんなにくっつくと…」
「ふわふ……ぐぅ〜……」
「もこもk……すぅ……」
「ああ…もう、だから言ったのに…」
まだ子供であるアカオニやアオオニ、オーガ達と遊んでいたのだが、彼女達もお酒はばっちり飲んでいるせいなのか私のもこもこの毛皮に身体を寄せるとすぐに眠ってしまう。
まあ一人目が寝た後に全員目を輝かせて飛び付いて来たのだからわざとだろうとは思うけど。
「もう…こんな所で寝るのは良くないと思うんだけどな…親も宴に夢中で気付いてないし…」
そんな感じに眠ってしまった子供を柔らかそうな地面に寝かせ、元の場所に戻ってはまた抱きついてきて眠ってしまった子を運び…と繰り返しているうちにいつの間にか近くに居た子供は全滅していた。
「まあいいや…お水飲もう…」
私は先に用意しておいたお水を飲みながら、遠くから宴会の様子を一人寂しく見ていたが…
「なあサマリ、隣いいか?」
「あ、ユウロ…ツユさんは?」
「もう酔ったらしく、旦那とイチャエロする為に走ってどっかいったよ」
同じく一人になったユウロが、最初の一杯目が未だに入っている小さな酒樽を手に持って近づいてきた。
「そう…じゃあ一緒に飲もっか…って私はお水だけどね」
「もう一杯は飲んだのか…俺まだ飲み切れてねえよ」
「まあ一杯位ならすぐ飲めるよ…量飲めないだけだし」
「すげえな…アルコールが強いのか俺全然喉を通らねえよ…」
たしかにちょっとアルコールが強かった気がするな…どうりでユウロは未だに飲みほしていないわけだ。
「しかも少し酔ってきちまった…」
「ん?……ってちょっとユウロ!?何してるの!?」
「わりぃ…ちょっと肩貸してくれ…」
そして私の隣に座ると、すぐに私にもたれ掛ってきた。
よくユウロの顔を見るとたしかに真っ赤なので本当に酔ってはいるのだろうけど…突然過ぎたのでビックリした…
まあ…嫌じゃないから突き飛ばしたりはしないけどね……
「いいけど…眠っちゃっても知らないよ?あそこで寝てる子供、全部私に密着して寝ちゃったんだから」
「ん?……ああ…凄いな。二桁はいるじゃねえか」
「でしょ?ユウロも寝たらあそこに並べるからね?」
「いやそれはちょっと襲われそうなのでやめて下さい」
「冗談よ…わかってるって」
そこまでまだ酔いが回って無いのか、一応すぐには寝そうもないので取り留めのない会話をする事にした。
「ねえユウロ…」
「うん?」
「ユウロは今こうして旅してるけど…勇者やめて良かったと思ってる?」
「まあ…ぶっちゃけ今の生活のほうが楽しいしな…ウザい上司のウザい命令聞かなくて済むしな」
「あはは…大変だったんだね」
「そりゃあ大変さ。だって魔物だから子供でも殺せって言うんだぜ?あり得ないだろ!?」
「そうだよね…そういえばユウロはアメリちゃんを殺しに来た勇者だったっけ…」
「それは言うなよー…」
ユウロと出会ってからまだそんなに経っていないはずなのに、旅に出てからは毎日が濃厚過ぎてもうずいぶん前の事に感じる。
事実カリンやスズとは一週間ちょっとしか一緒に旅してないのに…もうずっと一緒に旅をしているようにも思えるもんな…
「そういえばユウロ…自分の過去を話したがらないけどさ…そんなに知られるのが嫌なの?」
「まあな…変な同情はしてほしくないし、俺自身思い出したくない事が多いからな…」
「そうなの?」
「ああ…だから聞くなよ?酔ってても絶対に喋らないからな!」
「うん…」
そんなユウロの出会う前の事はほとんど知らない…わかっている事と言えば、勇者だったという事ぐらいだ。
前カラステングさんに言われたユウロの昔の名前や出身地、それどころか幼少期の話は全くしようとしないもんな…
そこまで強いトラウマでもあるのかな?
それでも…ちょっとだけでもいいから教えてほしいな…
……ユウロの事をもっと知りたいな……
でも、無理に聞いて嫌われたくは無いから、この話題はこれ以上しないでおくか…
「ふぁぁ…ん〜…」
「ほら、眠くなってるじゃない」
「まあ…酒が入るとやっぱり眠くなっちまうらしい…」
やっと一杯目を飲みほしたユウロは、途端に大きな欠伸をし始めた。
やっぱりお酒が入ると眠くなるのだろう…
さらには私にもたれ掛っているのだ…眠くならないわけがない。
「なら私の背中を貸してあげるよ」
「ん?背中?なんで?」
「地面で寝るよりはいいでしょ?さすがに膝枕は私がお酒の力もあるしユウロを襲っちゃいそうだもん」
「いや、そう言う事じゃなくて…別に地面に転がしておいてもいいけど…」
「いいよ、気にしないで。ほら…」
だから私はユウロに背中で寝ていいよと言って、着ていた上着を脱ぎ始めた。
「ほらって…何してんだよ…」
「いや、私の毛が直接当たってるほうが気持ちいいかと」
「だからって脱ぐなよ…裸じゃねえか…」
「大事な部分は隠れてるから問題無いよ。それとも私のおっぱいに顔を埋めたかった?」
「…そのほうが襲ってくるんじゃね?」
「ははっ…たしかにね…」
ちょっとだけおバカな会話をした後に…
「んじゃまあお言葉に甘えさせてもらうわ…」
「どうぞどうぞ…途中で起こしちゃったらごめんね」
「いいよ……気にしないから……」
ユウロは私の背中にもたれ掛り、そのまま眠り始めた…
「……」
また一人になってしまったけど…別に寂しくないし、嫌じゃない。
背中に感じるユウロの熱が、どこか心地良いものだったから…
12/06/12 22:24更新 / マイクロミー
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