連載小説
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旅24 山の上のゆったり姉
「ここが武白かー…」
「まあ普通の村やな…」
「あの大きな山の上にお姉ちゃんがいるんだね!」

現在10時。
私達は宵ノ宮を出発した後、ややゆっくりとしたペースで歩いて数日…アメリちゃんのお姉さんが住んでいる山の麓の村『武白』に辿り着いた。
まあ武白自体は普通の村のようだし、特に用も無いからアメリちゃんのお姉さんの情報を聞き次第すぐに山登りに行こうと思う。

「さてと…山道にはどうやって入ればいいのかな?」
「そこで畑仕事をしているおじいさんに聞いてみようか…おーいすみませーん!!」
「はいはいどなたですk…おや妖怪さんかね」

なのでとりあえず山を登るにはどこに行けばいいかとか、これからどうすればいいのかを近くに居る人に聞いてみる事にした。

「しかもウシオニのお譲さんとは…珍しいねぇ…」
「おじいさんはアタイを見ても…怖がらないのか?」
「お譲さんは優しそうな眼をしてるからねぇ…今から暴れるっていうなら怖がるかもしれないけど、そんな事無いじゃろ?」
「ああ…ありがとうおじいさん!!」
「スズ……嬉しいのはわかるけどちゃんと聞こうよ…」
「あ、そうだった…なあおじいさん、あそこの山に登りたいんだがどう行けばいい?」

普通に受け入れられて喜んでいるスズには悪いが、早くアメリちゃんのお姉さんに会ってみたい気持ちもあるので質問するように促した。

「ああ…武白山に登るにはこの道を真っ直ぐ行き止まりまで行った後左に曲がって4つ目のわき道…たぶん他よりも広いからわかるじゃろう…そのわき道を右に曲がれば麓に辿り着くぞ」
「そうですか…ありがとうございます!」

山の…おじいさんが言うには武白山の登り方もわかった事だし、早速出発しようとしたら…

「ところでお前さん達…何故あの山を登ろうとするのじゃ?」

おじいさんに止められてしまい、質問された。

「アメリのお姉ちゃんがあの山の上にいるってきいたから会いに行くんだ!」
「ん?お姉ちゃん…ああ、お譲ちゃんはもしかしてメーデさんの妹さんか?」
『メーデ?』

アメリちゃんが元気よく目的を答えたらおじいさんがそう言ってきたのだが…メーデさんって誰だ?アメリちゃんのお姉さんの名前か?

「おや?メーデさんの事じゃ無いのかい?」
「んー…アメリ会ったことないお姉ちゃんに会うために旅してるからわかんない…ねえおじいちゃん…そのメーデってお姉ちゃん、アメリとにてる?」
「おお、そっくりだとも!その蝙蝠のような純白の翼や同じように純白な尻尾や髪なんかメーデさんそっくりだし、顔つきも似ておる」
「ホント!?じゃあアメリのお姉ちゃんだ!!メーデお姉ちゃんって言うんだー!!」

おじいさんが言ったメーデさんの特徴はどう考えてもリリムのものだ。
という事は、メーデさんはアメリちゃんのお姉さんで間違いないだろう。

「へぇ…じゃあ早速そのメーデさんに会いに行こうよ!」
「うん!おじいちゃんありがとー!ばいばーい!!」
「おお、元気でなー!メーデさんによろしく言っておくれー!!」

という事で、早速私達は武白山を登り、メーデさんに会いに行く事にした。




…………




「…あ、しまった!さっきの子達に言い忘れておった…」

「あの山には『大百足』がおるから気をつけて登らんと駄目なのじゃが…」

「まあ半数が妖怪じゃったし、メーデさんの妹さんもおるから大丈夫だとは思うが…」




====================



「ふぅ…結構キツイな…」
「そうか?これ位の山道なら問題ないと思うけど…」
「魔物と人間じゃあ体力の基礎が違うんだよ」

現在12時。
私達は順調に武白山を登っていた。

「でもカリンは楽々と歩いてるけど?」
「ま、ウチはユウロと鍛え方が違うっちゅうことやな!」
「本当にそれだけか?まあいいけど…」
「ハイキングはたのしいな〜♪」

たしかにユウロの言うとおり急な坂道ではあるが、ある程度舗装されているのだからそこまでキツくはない。
アメリちゃんだってにこやかな可愛い顔で楽々と歩いている程だ。

「それじゃあ休憩でもする?ちょうどお昼の時間だし、そこに座るのにちょうどいい岩もあるし」
「賛成!昼飯はともかく俺疲れたからちょっと休憩したい」
「まあええで。それなら昼ご飯にしようか。今日のはきっと満足するで!」

ただユウロは疲れているようだったので休憩する事にした。
まあ私が人間のままだったらユウロより先に疲れていただろうし、限界まで歩いてもう動けないなんて事になったら余計時間掛かるのでこのタイミングがちょうどいいだろう。

という事で私達は、今朝私とカリンが作っておいたお弁当を食べることにした。


「じゃあお弁当だすよー」
「わあ〜!おいしそ〜!!」

今日のお弁当は大量のおにぎりに油揚げの煮物、それとポテトサラダだ。
ちなみに一見同じに見えるおにぎりの具は様々で、例えば鮭に明太子に梅干しまで入っている。
もちろん全員が食べられるものから選んであるのでハズレは無い。
さらに言うと当たりとして一つだけ鶏肉の唐揚げ入りのものがあるが…どれだかわからない。
このようなくじ引き要素はカリンのアイデアだ。おかげでお昼ご飯がより一層楽しくなる。

おにぎりを作るのは大変だったけど…アメリちゃんや皆が喜んでくれているから作った甲斐があったよ。

「それじゃあ…」
『いただきまーす!!』

私達はちょうど座るのに適した形をした岩に座りながらゆっくりとお昼ご飯を食べた。
自分で言うのもなんだが…凄く美味しかったし、皆とお喋りしながら食べたので楽しかった。

…ちなみに当たりの唐揚げおにぎりはアメリちゃんが食べた。
さすがアメリちゃん、持ってるなぁ…




…………



………



……








「う〜ん…どれぐらい歩けば着くんだ?」
「なんだユウロ、もう疲れたのか?さっき休憩したばかりじゃんか」
「スズは足八本あるから一本当たりの負担が少ないだけなんじゃないの?」
「関係ないと思うよ?足の数が一緒でユウロより短いアメリちゃんなんか凄い元気じゃないか」
「そうだな…じゃあやっぱ俺が人間だからだな…」

現在14時。
お昼ご飯を食べ終えた後、私達はずっと山道を登っているが…それらしきものは一向に見えてこない。
というか頂上も見えない…正しくは空も見えない…頭上は木の葉で覆い尽くされているからだ。
武白から山を見たときにやたらと草木が生い茂っていると思ったが、まさか日光がほとんど届かなくなるほどだとは思わなかった。
少しジメッとした空気が漂っているのが何とも言えない不安を煽ってくる。

「うぅ…何か出そうな空気…」
「まあ何かは出るだろうな…よっぽど面倒な魔物じゃなきゃいいけど…」
「まあ何かしらはおると思うけどな…それがジョロウグモやアカオニならまだええけど…」
「あ、あれ?私魔物じゃなくて獣の類で言ったんだけど…魔物なら安全じゃない?」
「そんな事ないで?獣なら何の問題もなく追い返せるやろ…ウチらにはウシオニと元勇者、更に幼いと言ってもリリムまでおるんやから」
「それに魔物ならまた俺がスズの時みたいに連れ去られる可能性もあるし、ジパングにいるかわからないけどいきなり勝負を挑んでくるような面倒な魔物が現れるかもしれないだろ?」
「ああ…それもそうか…」

そんな感じの話をしながらも周りに注意を向けながら進んでいたのだが…



ガサガサ…



「…やっぱり何か来たようだな…」
「うわ…何だろう…獣だったり優しい魔物だったらいいんだけど…」


突然近くの草むらが揺れたので、その草むらのほうを見てみると…

「あ〜やっぱり男の子がいる!!」
「うわぁ…面倒な奴が出てきおった…」
「面倒って?」
「ウシオニと同じくジパングでは怪物と恐れられてる妖怪や…」
「ええっ!?」

髪の毛は薄紫色で、紫の模様が身体中に描かれており、伏し目である女性の上半身があった。
しかし頭からは触角が2本伸びており、下半身は甲殻に覆われた細長く、虫の足が沢山付いた…百足みたいなものだった。
さらには首元と下半身の先端には紫色の液体が滴る顎みたいなものがあった。
怪物だってカリンは言うし、どう見ても魔物の一種だろうけど…なんだろう?

「あ、『大百足』のお姉ちゃんだ!」
「あ、メーデ様…より小さい…誰?」
「アメリだよ!!メーデお姉ちゃんのこと知ってるの?」

どうやらこの魔物は大百足というらしい。そのままだなぁ…
というか、魔物って結構見た目そのままの名前多いよね…私(ワーシープ)もそうだし。
まあスズ(ウシオニ)みたいに想像と違うのもいるし、リンゴ(ネレイス)みたいに見た目じゃわからないのもいるけど。

「メーデ様はこの山に棲む妖怪みんなに優しい素敵なリリム様ですから知ってますよ!」
「へぇ〜…じゃあお姉ちゃんがどこらへんにすんでるかわかる?アメリ会いに行きたいんだ!」
「ん〜…たぶんここにいればそろそろ現れると思いますよ?ここはメーデ様の毎日のお散歩コースですし」
「ホントに!?」

なんかアメリちゃんとお話してる姿は…とてもカリンが言うように怪物とは思えないのだが…

「ところでアメリ様…そこにいる男の子、私が連れて行っていいですか?」
「えっ!?だ、ダメだよ!!ユウロお兄ちゃんはアメリたちといっしょに旅してるんだから!!」
「え〜いいじゃないですか。だってその男の子から他の妖怪の臭いしませんし」
「でもダメなの!!ユウロお兄ちゃんそういうのダメだって言ってるの!!」
「そんな事知りませんよ」

…いや、そうでもないかな。
どう見ても毒だと思う紫色の液体付きの顎みたいなものを頭上に掲げてるし、その狙いは確実にユウロだし…隙あらば連れ去る気だろう。
自分が狙われているのがはっきりわかっているためかユウロはスズの後ろに隠れているし、スズもユウロが連れ去られないように臨戦態勢をとっている。

「ダメったらダメなの!!」
「む〜、何?アメリ様がその男の子を夫にしたいのですか?」
「え?それはちがうけど…」
「じゃあいいじゃないですか!!それとも他の人達が狙っているのですか?」

そう私とカリンとスズに聞いてきた大百足さん。
その質問に対してのそれぞれの回答は…

「うーん…アタイはそういうのは諦めてるからな…」
「恋愛対象として見るならウチの好みやない」
「私は…そういう気持ちがわからない……うん」

こんな感じである。
まあ本人が誰かと恋仲になる事が出来ないと言っているんだし、妥当なところだと思う。

…うん、私も別にそういう目でユウロを見ていないはず…
…何故か断言できないところがあるけど…きっと気のせいだろう。


そして、私達の回答を聞いてスズの後ろで落ち込んでいるように見えるユウロもきっと気のせいだろう。
自分で拒絶しておいて落ち込むはずがないのだから。


「じゃあ…」
「でもユウロをアンタにやるつもりはない!」
「せや!ユウロが仲間である事に変わりはないんや!!あんたにやるつもりはない!」
「そうそう、ユウロは私達を護ってくれる大事な仲間なんだから…あなたなんかには譲るつもりは無い!!」

それでも、ユウロは私達の大事な旅仲間である。
大百足さんに連れ去られてお別れなんてさせるつもりは一切無い。
だから私達はハッキリとそう大百足さんに言った。


今度は喜んでいるユウロが見えるが、それは気のせいでは無いだろう。


「むっ…やっと見つけた男の子を諦められない!」
「わからずややなぁ…強引にくるんやったらこっちも容赦しないで?」
「って花梨がそう言ってもしかないだろ?まあアタイも容赦しないけどね!」

互いに臨戦態勢をとり、いつ動き出してもおかしくない緊張感が辺りを包み始めた…


だが、その時…



パンパンッ!!


「はいは〜い、喧嘩はしちゃだめよ〜」



パンパンと手を叩く音とともに、ゆったりとした声がどこからか聞こえてきた。
その場に居た全員が声がしたほうを見てみると…


「どうしたの〜?何かあったの?」
「あ、メーデ様!!」


その声にあうようなおっとりした表情をしたリリムが森の中から歩いてきた。
大百足さんの反応からして…この人がメーデさんだろう。

「私がやっと男の子を見つけたのにこの人達が自分のでもないのに私に譲ってくれないんですよ!!」
「あのなぁ…一緒に旅してる仲間を売るようなマネすると思うんか?シバくぞ!!」
「なによ!!いいじゃない!!」
「ん〜?あなた達は……あれぇ?」

言い合ってる大百足さんとカリンを無視して私達のほうを見てきたメーデさん。

「キミは…リリム…って事はー、わたしの妹なのかなー?」
「うんそうだよ!!アメリって言うの!!アメリ会ったことないお姉ちゃんに会いたくてみんなと旅してるんだ!!」
「そうなのぉ!?じゃあ〜…わたしはメーデ!よろしくねアメリ〜♪それと皆さんも〜♪」
「うん!よろしくメーデお姉ちゃん!!」
「あ、はい、よろしくお願いします!」

そしてアメリちゃんを見て妹かどうかを聞いて、そのままその調子で自己紹介をしてくれた。
何というか…まあもの凄くゆったりしているお姉さんである。


「でー、どうしたの〜?男の子がどうとか言ってたけど?」
「えっとね、この大百足のお姉ちゃんがユウロお兄ちゃんを自分のものにしたいって言うの…でもアメリやみんなはユウロお兄ちゃんといっしょに旅したいから…」
「あ〜それで言い争いになってたのねぇ…」

本題に入り、アメリちゃんから何が起きているかを聞きだした後メーデさんは少し考えて…

「う〜ん…ユウロ君?」
「え、はい、なんでしょうか?」
「ユウロ君はどっちがいいの〜?」
「そりゃあ皆と一緒に旅がしたいですよ!!それにそんな軽い気持ちで夫婦になったりするのは絶対に駄目です!!」
「……うん」

ユウロにこう質問をした。
そしてユウロの答えをしっかりと聞いた後…小さく、しかしたしかに頷いて…

「だったらぁ大百足さんが諦めなさい」
「ええ〜なんでですかメーデ様ぁ?」

大百足さんにユウロを諦めろと言ってくれた。

「だって本人が嫌がってるのに無理矢理は良くないよ〜!わたしそういうの嫌いだし〜」
「むーっ!!」

全くもってその通りだと思う。
嫌がっているユウロを無理矢理攫っていい家庭が作れるわけがない…ってのは人間の常識な気がするけど、メーデさんも嫌だと言っているのだし魔物でもそういう感じな人もいるのだろう。
しかし、大百足さんは納得いっておらず、むくれてしまった。

「むくれないで〜。今度よさそうな男の子紹介してあげるから〜」
「まぁメーデ様がそこまで言うなら…わかりました、諦めます。絶対に紹介して下さいよ!!」
「だいじょ〜ぶ!わたしに任せなさ〜い!!」

だがメーデさんがそう宥めたおかげで多少は機嫌が直ったようで、大百足さんは渋々森の奥に帰っていった。


「えっと…助かりました…ありがとうございます!!」
「いえいえ…どういたしまして。それより…アメリと一緒に旅しているあなた達はなんて名前なの?」

一騒動も納まって、改めてメーデさんは私達の事を聞いてきた。

「ああ…俺はユウロです。訳あって魔物だろうと人間だろうとそういった関係になるわけにはいかないので助かりました!」
「いえいえお気になさらず…アメリと旅してくれてありがとうね〜♪」
「私はサマリです。元人間ですがいろいろあってアメリちゃんに魔物にしてもらいました!」
「へぇ〜…後でそのいろいろの部分も聞かせてね〜♪」
「アタイはスズです!ウシオニなんですが…記憶が無くなって最近見た事以外の事が何もわからないので…」
「あら…それは大変ねぇ…スズちゃんの記憶が戻るといいね♪」

なので、私達は改めて簡潔に自己紹介をした。
そしたら一人一人にメーデさんは返してくれた。

「んでウチが花梨!人間の女で見ての通り旅する商人や!」
「……え?」

だが、カリンの自己紹介の時だけメーデさんは何故か不思議そうな顔をした。

「あれぇ?だってあなた…カリンちゃんってどう考えてもg…」
「まったメーデお姉ちゃん!!ちょっと…」
「ん〜?なーにアメリ?」

何かを言いかけたメーデさんをアメリちゃんが慌てて止めて、何やらこそこそとメーデさんに耳打ちをし始めた。

「ごにょごにょ……ということなの…だから…」
「なるほどねぇ…了解!」

そして話がまとまったようだ…いったいなんだったのだろうか?

「カリンちゃんも頑張って立派な商人を目指してね♪わたし応援してるわぁ♪」
「お、おお…おおきに……」

まあとにかく全員自己紹介も終わった事だし…

「ねえメーデお姉ちゃん、アメリもっとメーデお姉ちゃんとおはなししたい!」
「わたしもアメリや皆とお話したいからぁ…わたしの家に寄ってく?」
「ぜひ!おねがいします!!」
「それじゃあわたしについてきてね〜。ここからなら歩いて30分は掛からないと思うから〜」

私達は、メーデさんのお家でもっとお話しする事になった。





「アメリちゃんアメリちゃん…」
「ん?なーにカリンお姉ちゃん?」
「アメリちゃんさぁ…さっきウチの事言わんでもらえるようメーデさんに頼んだんやろ?」
「うん!だってみんなにはないしょなんでしょ?」
「ああ…ほんまありがとうな…お礼にウチ特製のアメちゃんやるわ!好きなのを好きなだけ持っていきな!」
「ホントに!?わーい!!ありがとーカリンお姉ちゃん!!」
「ええよ!ウチもアメリちゃんのおかげで助かっとるしな!」





また後ろのほうでアメリちゃんとカリンがこそこそと何かを話しているけど…やっぱり話の内容までは聞き取れなかった。



====================



「とうちゃーく!どう?素敵なジパング家屋でしょ?」
「おおー!!大きいー!!りっぱなおうちだー!!」

現在15時。
私達はメーデさんのお家まで歩いてきた。
先程メーデさんが言ったとおりたしかに30分程で到着する事は出来たのだが…

「はぁ……はぁ……歩くの早すぎ……」
「大丈夫かユウロ?アタイが背中で運んであげようか?」
「いや…はぁ……大丈夫だ……ふぅ……」

かなりのハイペースだったためか人間約一名がかなりバテている。
山道にも関わらずズンズンと進んでいくメーデさん…喋り方とは正反対で動きはかなり俊敏である。

「おかえりなさいませメーデ様……あら?その方々は?」

そんなユウロの息を整える為にも少しの間メーデさんの家を見ていたら、庭があると思われる場所から白い着物を着た白い毛が生えた4尾の狐の魔物が現れた。

「……うわ……最悪や……稲荷がおる…」
「はい?私が居ては駄目ですか?」
「あ、気にしないでください。こいつは稲荷に昔何かされて稲荷が嫌いだと喚いているだけですから」
「あら…それは少し悲しいですね…」

カリンの反応からこの人は稲荷らしい…ここに居るって事はメーデさんのお付き人かな?

「紹介するわね。この子は稲荷のサツキ。わたしの右腕的存在よ〜」
「皐月です。よろしくお願いします」
「それでこの子がわたしの妹のアメリで、わたしのように会った事の無い姉妹達に会う為に旅をしているんだって。皆さんはそんなアメリと一緒に旅しているお仲間さん達なの〜」
「よろしくね!」
「「「「よろしくお願いします!」」」」

やはりお付き人だったようだ。メーデさんと違いテキパキと早口気味で喋る人である。

「まあ玄関口でお喋りするのも変ですし、客室まで案内します」
「よろしくね〜♪わたしはおやつの準備してくるから〜」
「それでしたら私が…」
「ううん。折角妹が来てくれたんだもの。自分でやりたいの」
「わかりました。ではご案内します」

メーデさんと別れた後、私達はサツキさんの案内で客室までついて行った。


…もちろん一人かなり嫌な顔でサツキさんをみている商人に注意を入れながらだが…




…………



………



……








「お待たせ〜。わたしが作ったジパングのおやつよ〜♪」
「わーい!すっごくおいしそー!!」

案内されてから10分もしないうちにメーデさんがおやつを持って現れた。
そのおやつは…饅頭のようにも見えたけど…餡で何かを包んであるから別物かな?

「ああ…牡丹餅か」
「ぼたもち?これぼたもちって言うんだー」
「美味しい緑茶もあるよ〜」

どうやらこれは牡丹餅というらしい。
どんなものなのか…早速食べてみようと思う。

「ではいただきます」
「どうぞ召し上がれ〜」


一口食べて………ん!?これは……


「お米?」
「そうですよ〜。食べたこと無かった?」
「はい…凄く美味しいです!!」

餡の中にはもち米…だけじゃない気がするけど何かわからないや…とにかくつかれたもち米が入っていた。
お餅と違い粒は残っているが…その粒のプチっとした食感がたまらない。

「うん、これは俺がいままで食べた牡丹餅より旨いわ。特売品とは違うなやっぱ」
「これ手作りか?」
「はい、わたしが自分で作ったものですよ〜」
「マジか!?そこら辺の店で売っとるもんより旨いで!!」
「うふふっ、ありがとうございます〜!」

美味しい牡丹餅を食べ緑茶を飲みながら、私達はサツキさんも含めてお話をする事にした。



「メーデさんって旦那さんいるんですか?」
「それがねぇ…まだいないのよ」

どうやらメーデさんはまだ旦那さんが居ないらしい。意外である。
こんなに美貌を持ってゆったりしてて優しい人なんだからもう居るものだと思ってた。

「あ、そうですか…じゃあどんな人が良いとかってあります?」
「ええ…わたしの事を一途に想いながらも他にも気を配れるジパング人の殿方がいいですね〜」
「ジパング人がいいんですか?」
「ええ!小さい頃からジパング人の男の人が好きだったのでねぇ…だから今こうしてお母様のもとから自立してジパングで暮らしているのよ〜」

なるほどね…自分がジパング人が好きだからジパングに住んでいるのか…
魔物ってやっぱり男が絡んでくると大胆な行動するものなんだな…私はそんな事ないから結構ビックリする。

「へぇ〜…サツキさんはいつからメーデさんと一緒に?」
「私はメーデ様がまだサマリさん程の年齢だった頃に、メーデ様がジパングに旅行に来た際事故で動けなくなっていた私を助け出してくれたのです…それからずっとお仕えしてます」
「そうなんだ〜…もしかして元人間?」
「いえ…生まれた時から稲荷ですが…」

そしてサツキさんにも話を聞いてみた。
事故で動けなくなっていたところを助けてもらったとか言ったからてっきり元人間かと思った…まあ私がそんな感じだっただけでそれが魔物化した人の全てじゃないか。

「そんであんたは旦那おるんか?」
「いません…メーデ様を差し置いて夫など作りませんよ」
「あら〜、別に気にする事ないのよ〜?サツキにもいい旦那様を見つけてほしいわ〜」
「まあいずれですね…」

なんとサツキさんも独身らしい。
サツキさんもかなり美人の部類に入っているのに…二人揃って意外である。


「ところでぇ…皆は今までどんな旅をしてきたの?他の姉妹のお話も含めてぜひ聴きたいわ〜」
「そうですね…話すと長くなりそうですが…」
「いいのいいの!なんなら今日はここに泊まっていっていいわよ〜。むしろ一晩だけでもいいから泊まってほしい〜」
「わかりました!じゃあお言葉に甘えさせてもらいます!」

メーデさんが私達の旅の事を聞きたいと言い、更には泊まってほしいと言ってきたので私達は泊まらせてもらう事にした。

「では私はお布団の準備をしてきますので一旦抜けさせてもらいます」
「よろしくねサツキ〜」

そしてサツキさんはお布団の準備の為にお話から抜けてどこかに行ってしまった。
夕飯の準備とかもあるなら私も手伝おうかな…

「じゃあまずアメリがみんなと出会う前…デルエラお姉ちゃんに会いに行ったときのおはなしするね!」
「いいけどちょっと待ってアメリ」
「ん?なーにメーデお姉ちゃん?」
「ちょっとこっちに来てほしいの」
「うんわかった」

そしてアメリちゃんが話し始めようとした時にメーデさんが急に止めて自分の近くに来るように言って…

「なーにメーデお姉ちゃnわあっ!?
「えっへへ〜♪アメリつ〜かま〜えた〜♪抱き心地いい〜♪」

…近付いてきたアメリちゃんに勢いよく抱きついた。

「むみゅぅ…メーデお姉ちゃん!急にビックリしたよー!!」
「ごめんねアメリ。でもアメリ可愛いから抱いてみたかったのよ〜」
「メーデお姉ちゃん…///いいよ!メーデお姉ちゃんあったかーい!!」

姉妹が笑顔で抱き合って座っている…なんと微笑ましい光景だろうか。
しかもその姉妹は魔王様の娘であるリリムだ。だからか一種の芸術品のようにも見えた。

「でもアメリ凄い抱き心地ねぇ…」
「ですよね!私いつもアメリちゃんを抱いて寝ているんですが、毎回アメリちゃんの抱き心地がよくてすぐ安心して寝ちゃう程なんですよ!!」
「サマリちゃんは毎日アメリを抱いて寝てるの〜!?羨ましいわ〜…」

そう言って一層アメリちゃんをぎゅっと抱きしめたメーデさん。
たしかにアメリちゃんの抱き心地は最高だもんな〜…

「それじゃあアメリのおはなしをするね!えっと…まずはクノイチのベリリお姉ちゃんといっしょにデルエラお姉ちゃんがいるレスカティエって場所に向かったんだけど………」



アメリちゃんが私達と会う前の旅のお話から始まり、今までの旅の話を順番にメーデさんとお布団を持って戻ってきたサツキさんと話をしながら、今日という日はゆったりと過ぎて行った…
12/06/07 22:28更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
前回が長かったので短く感じるかもしれませんがこれでも1万字はあります。
という事で今回は久々のアメリの姉の登場でした!
前に出たのは旅14、僕オリジナルは旅6以来のお姉ちゃんはゆったり系。どうだったでしょうか?

さて、ジパング編も大体半分。こっからはジパング後編になります…前半との違いなどほぼありませんが。
そんな次回はメーデの家から出発して…また別の山でのお話。いろんな魔物が出て大騒ぎ…の予定。
あと旅裏更新。旅19〜24までの情報追加しました。

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