旅16 気付いていなかったのは幸せだから
「危ないぞ林檎!!早くこっちに来るんだ!!」
「待って椿!!もうちょっとで手が届くから!!」
わたしと椿が付き合い始めてから3年程経ったある日の事…
その日は、例年にないほどの大きな嵐が町を襲っていた。
しかもこの嵐、水神様でもどうにもならないらしい…よっぽどのものである。
「そんなものどうでもいいから早くこっちに来るんだ!!」
「どうでもよくないよ!あれは椿が小さい頃から大切にしている相棒の刀じゃない!!」
わたしと椿は嵐の中、町中を駆け回り様子を確認していた。
なぜなら、嵐の様子や子供が外に出ていないか確認したりするためだ。
「そうだけど…僕にとっては林檎のほうが大事なんだ!林檎の身に何かがあったら大変だから!!」
「大丈夫だって!待っててよ、すぐに取ってあげるから!」
そして海岸に行った時の事である。
大嵐なので、もちろん風も相当強くなっていた。
そのためか、ちょうどわたし達が海岸に着いたときに、わたし達目掛けて看板が飛んできたのだ。
椿が咄嗟に自分の刀で自分とわたしを看板を弾いて護ったが、看板の勢いを殺しきれずに刀が堤防の向こうまで看板に持ってかれてしまったのだ。
しかし、運よく岸辺から手を伸ばせば取れそうな位置にあった岩に引っ掛かったので、わたしは後先考えずに堤防を乗り越えて刀を取りに行ったのだ。
「ん〜…よし!取れたよ!!」
「わかったから早くこっちに来るんだ!!いつ大波が来てもおかしくないんだぞ!」
そう叫ぶ椿に向かって歩きはじめたわたし。
風が強すぎて吹き飛ばされないように歩くのが限界で、とても走る事は出来なかった。
「はい!先に刀を渡しておくね!」
「わかったから早くこっちに…って掴まれ林檎!!」
「えっ……」
なんとか堤防までたどり着き、椿に刀を先に渡し、堤防を乗り越えようとしたそのとき…
「あっ!きゃあぶ!!!!!!」
「林檎ー!!リンゴォォ!!!!」
大きな波が、後ろからわたしに襲いかかってきた。
わたしは伸ばされた椿の手を……
……握る事ができず波に攫われてしまった。
「もがっ!ぐぼばぶっ…」
そのまま荒れ狂う海に呑まれたわたしは、当然呼吸なんか出来るはずもなく…
上下左右がさっぱりわからなくなるほど振り回され…
「がぽ……」
視界が暗くなり、息苦しさを感じたまま意識が遠のいていった……
「林檎………ばかやろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
椿の悲痛な叫び声は…もちろんわたしの耳に届く事は無かった……
…………
………
……
…
そして、溺れたわたしはポセイドン様のおかげでネレイスとなり生き続ける事ができた。
これだけでも良かったといえば良かったのだが…
なんと、今日適当に大陸のほうまで来ただけだというのに、椿を発見する事ができたのだ。
今わたしがいる場所から見上げた、山の頂近くのちょうど木が生えていない場所に居るのを確認できたのだ。
本当にちょっとしか見えないけど、遠くからでも椿を見違えるわけが無いのであれは絶対椿だろう。
知らないうちに大陸の服なんか着てたから最初わからなかったよ…
本来は椿に会えた事を喜ぶべきなのだろう…
でも、今はそれ以上に我が目を疑う光景が見える…
それは、わたしが波に攫われた日の事を鮮明に思い出してしまうほど強烈なものだった…
「椿の近くにいるあの白っぽい女…ナニ?」
「なんでアイツ…わたしの椿に抱きついたりしてるの?」
「そして椿…なんでそんなにソイツと楽しそうに喋ってるの?」
おっと…おもわず声に出してしまった…でも仕方が無いだろう…
だって何度目を擦ってから見ても、その白っぽい女は消えなかったのだから。
それに頬をつねってみたら痛かった…だからこれは夢じゃない…
「はああ?」
わけがわからない…なんなのアイツ…
なんでアイツと椿が楽しそうに一緒に居るの?
そしてなんで椿もアイツと楽しそうに一緒に居るの?
もしかして…わたしの事なんかもう…忘れちゃったの?
「ふ、ふふ、ふふふふ、ふふふふふふふふ……」
なーんだ…わたしの事なんか忘れちゃってもうどーでもいいんだ…へぇ……
まあ仕方ないよね…椿はわたしが死んでいると思っているんだから…
………
なんかむかつくなあ……
今あいつらの前に現れたらどんな顔するかなあ……
椿のやつ必死に謝ってくれるかなあ……
謝っても許さないけどね………
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
そうだ…ここから同族の子に教えてもらったものやってみようかな…
ずぶ濡れになっていい気味だし、それで気付いたら面白そうだし…
決めた!あいつらに向かって水の塊をb……
ざっばああああああああああああああん!!
「うわあっ!?」
ビックリした…いきなりすぐ近くでかなりの水柱が上がるんだもん…
いったいなんなのよあの青い奴…ってわたしも青いけど…ていうかわたしのほうが青いけど…
あ、もう…さっきの青い奴のせいで椿もあの女も見えなくなっちゃったじゃない…
はぁ……まあいいや……
それなら直接会いに行けばいいんだから…
だから待っててね椿…わたしが椿の目を覚まさせてあげる……
椿をたぶらかすようなあんな白い奴……わたしが駆除してあげるから……
「ふふふふふ…ふへへへへへへへへ…」
わたしは椿に…そして人の男を奪ったあの憎たらしい白っぽい女に会う為に…すぐ近くの港町からあいつらが来るだろう道を進む事にした……
=======[サマリ視点]=======
「わあ〜!!すっごい綺麗だ〜!!」
「おお!久々に海なんて見たよ!!」
「アメリもはじめてみた!!マーメイドさんとかいるかな〜?」
「ホント…穏やかな海は綺麗だね…」
現在15時。私達は山登りをしていた。
反魔物領の近くの道に入ってから数日、最初にセレンちゃんとセニックさんに会った後は今のところ他の勇者や教団関係者に襲われてはいない。
何度か危なかった事もあったが、すべてどうにか誤魔化してここまで無事に来る事ができた。
そして、この山の頂上を越えればそこからは親魔物領の街であるヘプタリアの領域になる。
そうすればもう安全だと言ってもいいだろう。それにこのローブを着なくても済むし、アメリちゃんも堂々と人外のパーツを出すことだってできる。
「はぁ……」
「ん?どうしたのツバキ?」
「いや……」
それで今私達は山のちょうど木が無い場所から見える景色を…辺り一面に広がる、輝く海を見ていた。
私は生れてから一度も海を見た事無かったのでもの凄く感動した。
他の皆もそれぞれ興奮気味に感想を述べているが……ツバキだけ少し暗い顔をしていた。
「海を見ていると…どうしても林檎の事を思い出してしまってね…」
「あ…」
そういえばツバキの大切な人…リンゴって大波に攫われてしまったんだっけ…
海を見てその事を思い出していたのか…
「まあツバキ、元気だしなって!」
「うわっ!?な、なんだいサマリ…急に抱きついてきたりして…」
「ツバキが暗い顔してたらリンゴだって悲しむよ!」
そんな暗い顔をしているツバキを、私は励ます事にした。
この毛皮には眠りの魔力が込められている…だったら多少の落ち着き効果だってあるだろう。だから私はローブを脱ぎ抱きついてみた。
一応効果はあったらしく、ツバキの表情は明るくなり…
「そうだね…うん、ありがとサマリ!いつまでも落ち込んでたらダメだよね!」
「そうそう!その調子!!」
にっこりと笑いながら私にお礼を言ってきた。
「あ、そうだツバキお兄ちゃん…」
「ん?なんだいアメリちゃん?」
と、ここでアメリちゃんが…
「そのリンゴさんって海でおぼれて死んじゃったんだよね?」
「え?ああ…そうだけど…」
「だったら…リンゴさん生きてるかも…」
「「「!?」」」
かなり衝撃的な事を言った。
「そ、それってどういう事だい?」
「んーとね…海にはおぼれちゃった人間さんは『ネレイス』って魔物になることがあるの。だからもしかしたらリンゴさんは生きてるかもしれないって思ったんだ!」
「ネ、ネレイス!?」
「あ〜聞いたことあるわ。たしか海のサキュバスだ」
なるほど…そんな魔物もいるのか……サキュバスってやっぱり亜種多いなぁ…
「ということは…」
「林檎はそのネレイスになって生きているかもしれないって事かい!?」
「う、うん…でもたぶんだよ。ツバキお兄ちゃんのところにすぐかえってきてなかったっていうのが少し気になって…だからすぐには言えなかったんだ…」
なんでアメリちゃんがすぐにその事を言わなかったのか気になったが…なるほど、ツバキをぬか喜びさせないためか…
アメリちゃんって子供にしては案外周りに気を使うところあるんだよな…まあいいところではあるけどね。
「それなら、ジパングに着いたらまずツバキの故郷に行ってみようよ!」
「えっ?」
「もしかしたらリンゴがツバキの帰りを待っているかもしれないじゃん!」
「あ…そうか…じゃあ行ってみようか!」
居なかったら余計辛くなるかもしれないけれど、居るかもしれないのならば行ってみたほうが良い。
なので私達はツバキの故郷に行くことにした。
「さあ、そうと決まればちゃっちゃとこんな山越えてあの海の向こうにあるジパングに行こう!!」
と言いながらツバキの肩を抱き寄せ、海のほうを指した瞬間……
ざっばああああああああああああああん!!
「え!?な、なにあれ!?」
「うわあ!?」
いきなり海に大きな水柱が出現した。
その高さは…軽く30メートルは超えていると思う。
そして、その水柱の先端から青い何かが飛び出してきたのが見えた……ていうかこっちに近付いてる!?
「なあアメリちゃん…なんか見覚えない?」
「うん…というかたぶんそうだと思う…」
何かユウロとアメリちゃんが言っている気がするけど、耳に入ってこない程驚いている。
そして…
すたっ!
「…………」じーっ
「え、えっと…こんにちは…」
「…………」じーっ
その青い何か…というか手足に青い鱗と水掻きがついていて、魚の尾鰭の様な長い尻尾が生えていて、無表情な魔物は私達の目の前に華麗な体勢で見事に着地した。
…ってあれ?この魔物どっかで見たことあるような……
「ってやっぱり…」
「川におとされたサマリお姉ちゃんをたすけてくれたサハギンさんだー!!」
「ええーっ!?」
「…………」はっ!
あの時のサハギンさんかー!
どおりで見覚えがあるだけでハッキリと覚えて無かったのか…あの時は結構意識が朦朧としていたからな…
ちょうどいいや。あの時はきちんと言えなかったしお礼を言っておこう。
「あのー、あの時は助けていただきありがとうございました!」
「………?」
んー…表情が無いからわかりづらいけど…どうやら私があの時助けた人間だってわかって無さそうだ。
あの時ってのもピンときて無さそうだし…まあ今私は人間じゃなくてワーシープだから仕方ないよね。
「えっと…今は訳あってワーシープになってますが、テトラストの近くの川で溺れていてあなたに助けてもらった人間だった者です」
「……あ…あの時の……」
「わあっ!?」
「……何?」
「あ、いえ、なんでもないです…」
「…………」じーっ
今まで何も喋らなかったからてっきり何も話せない魔物だと思ってたのに、いきなり声を出したのでビックリした。
ってユウロも頷いてる…同じ経験をしたって事か…
「元気そうでなにより……」
「あ、はい!あなたに助けられたから今こうして元気に過ごせてます!ありがとうございました!!」
「…………」シュッ!
そしてサハギンさんは、私達に背を向けながら手を挙げ山の奥へ去っt…
「あ、ちょっと…」
「……何?」ムスゥ
「う、す、すいません…」
…去って行く前にユウロが呼びとめた。
もう去っていく気満々だったところで呼び止められたからか不機嫌オーラがサハギンさんの周りに漂っている。それは無表情と組み合わさってちょっと怖い。
「えっと…何してたんですか?俺達に気付いて来たわけでもなさそうですし…」
「…………」
「……」
「…記録…」
「…えっ?」
「……更新」ドヤァ
「…ああ…そういえば10メートル以上は高かったですね…」
……記録更新?何がだろうか?
そして何で無表情のはずのサハギンさんから自慢げな表情が読み取れるんだろうか?
「ところで何でサハギンのお姉ちゃんは海にいたの?サハギンさんって川にいるよね?」
と、次はアメリちゃんの質問だ。
サハギンって川に生息する魔物か…たしかに助けられたのは川だったもんな…
じゃあなんで今海から出て来たんだろうか?
「…………」
「……」
「……ぼーっとしてたら……流された……」シュン…
『……』
うーん…ホント表情変わって無い筈なのにいろいろ変わっているように見えるなぁ…
というか流されたって……なんて言ったら良いかなぁ…
「えっと…ドンマイ!元気だしなって!」
「……ありがと…」ニコッ
そのまま表情を変える事無く(と思いたいけど思えない)サハギンさんは去っていった…
あ、名前聞くの忘れてた…
====================
「ふぅ…やっと頂上に着いたー!!」
「ここまで来たらもう安心だよね!」
現在17時。
私達はあのあともずっと山を登り、やっと頂上まで辿り着いた。
ここを越えた後は親魔物領…つまり、今までよりもずっと安全になる!
「ちょっと動きづらかったからもうこのローブ脱いじゃおうっと!」
「アメリもつかれたからじゅつといちゃおうっと!」
「あ、ちょっとまって二人とも…」
「わ、バカ!早まるな!!」
「なによ…大丈夫だって…」
なので私はちょっと動き辛く感じていたローブを脱ぎ去り、アメリちゃんは人化の術を解いて角などを出し始めた。
ツバキとユウロが慌てているけど、もうここから先は安全なんだから大丈夫だろう。
ガサガサッ!!!!
「ほーらネオブ!やっぱりここで油断して正体明かすおバカな魔物が絶対に居ると思ったんだ!やっぱりここで見張っていて正解だったろ?」
「そうだね…ルコニの言うとおりだったよ!ヘプタリアの連中にバレないかヒヤヒヤしながらも見張っていて正解だったね!」
大丈夫だろう……そう思っていた私を今無性に殴り倒したいです……
山の頂上にあった叢…その中から男女2人組がいきなり飛び出してきた。
二人ともそろって十字模様が入った服を着てるし、女性のほうは細長い剣…いや、刀か?…を2本、ほぼ同じ形状だが銀色の物と漆黒の物を持っていたところから…おそらく勇者であろう。
「はぁ…やっぱ嫌な予感がしたんだよな…」
「まあはやる気持ちもわかるし、今更どうしようもないけど…はぁ……」
「うぅ…お兄ちゃんたちごめんね……」
「ホント二人ともゴメン……」
となると闘うしかないだろう…相手はその気のようだから平和的解決は望めないし…
それで、アメリちゃんはともかく私は闘えない。私とアメリちゃんの油断でバレたとしても闘うのはユウロとツバキなのだ。
……なんか申し訳なくなってくる……
「というか勇者って草木の中に隠れるの好きだなぁ…」
「…それ俺に対しての嫌味か?」
「ううん、総合的にそう思っただけ」
だってユウロといいホルミさんといいこの二人といいなんか草木が生えている場所に勇者がいるイメージがあるからおもわず呟いてしまった。
しかもこの呟きが相手にも聞こえたらしく…
「失礼な!あたし達がまるで虫系の魔物みたいじゃないか!!」
「たしかに僕達はここに隠れていたけど…そう言われると腹立つな…」
なんか余計怒りを煽ってしまった…
「こんな失礼な魔物はあたしが成敗してやる!覚悟しな!!」
そう言いながら、ルコニと呼ばれた女勇者が双剣を構え私達のほうに跳びかかってきた。
「はぁ…やるか!!いくぞツバキ!」
「そうだね…いくよユウロ!」
そんなルコニに対して、二人は同時に…ユウロは右から頭に目掛けて、ツバキは左から胴体に目掛けてそれぞれ武器を振り抜いた。
ルコニの跳びかかってくる勢いや二人の連携から絶対に当たると思ったのだが…
バシッ!
キィィン!!
「なっ!?」
「えっ!?」
「ふんっ!あんたらの攻撃なんかお見通しなんだよ!」
二人の攻撃を完全に見切っていたのか、構えていたそれぞれの剣でいとも簡単に防がれてしまった。
「くっ!だったらこれならどうだ!!」
ユウロが素早く我武者羅に、それでいてたまに当たるように木刀を振り回す…これならフェイントみたいになり攻撃を読むも何もないが…
「だからお見通しだってば!」
「くそっ!全部防ぎやがって!!」
ルコニは顔色一つ変えることなくそのすべてを銀色の剣一本で防いでいた。
「隙あり!」
「なにいっ!?」
が、その合間を縫ってツバキが刀の峰で後ろから打撃を加え…
「…なーんてな!それも『教えてもらって』るよ!!」
「えっ!?」
…ることが出来なかった。
なんとツバキのほうを一切見ずにもう一つの漆黒の剣で防いだのだ。
「ニオブ!」
「はいよ!『ヘルプエイド』!!」
そして、ニオブと呼ばれた男が何かの呪文を唱えた瞬間…
「はあああああっ!!」
「うわっ!?」「くっ!!」
ルコニの身体が黄色い光に包まれ、力でも上がったのかユウロとツバキの二人が少し離れた場所まで移動していた私達が居る場所まで弾き飛ばされてしまった。
「だ、大丈夫!?」
「ああ、一応大丈夫だ。でも正直勝てるかどうかわからねえ…」
「どうやらルコニのほうは相当な実力の剣士で、ニオブのほうは攻撃補助系の魔法が得意らしいね…やっかいな組み合わせだなあ…」
やっぱりあれは身体を強化する魔法だったようだ…これは相当強いんじゃあ…というか、今まであった中で一番強いかもしれない…
すくなくとも、前みたいに私が隙を見て抱きつくなんて事は出来無さそうである…
「ボーっとしてていいのかい?僕は攻撃魔法も一応使えるんだよ!『ロックフォール』!!」
「んなっ!?」
いきなりそう言ってきたニオブが手を頭上に掲げて呪文を唱えたら、私達の真上に大きな魔法陣が展開して…
…私達全員を潰せる程大きな岩が降ってきた。
「ちょっと!?あれどうするの!?」
「アメリがなんとか魔法でこわして…」
「いや待って!あれも魔法なら…」
パニックになっていた私達にツバキがそう言って…
「僕は斬る事ができるよ!」
スパッ!!
ズウゥゥゥン!!
「なっ!?」
「おお〜!!さっすがツバキ!」
大きな岩を一閃し、私達には当たらずに地面に落ちた。
「…エミニ、念のため今のを記録だ…」
なにかルコニが呟いた気がするが…よくわからなかった…
「おっし!反撃するぞ!!最悪逃げられればいいんだから無理しない程度でな!」
「了解…でもルコニのほうが厄介だね…こっちの攻撃が簡単に読まれちゃうし…」
「アメリの魔法ならどうかな…『フレイムラジエーション』!!」
反撃をするために、まずアメリちゃんが腕を前に出し手で輪を作り、そこから放射状の炎をルコニ目掛けて発射した。
これならたとえ読まれていても剣で防げるとは思えないし、避けた隙に迎撃する事ができる……はずだった。
「ルコニ!!」
「だーいじょうぶ!こんなもん…」
しかし…ルコニは余裕の表情のまま…
「うおらあああ!!」
ズパンッ!!
「んなっ!?」
「うっそぉ…」
「へえ〜、こりゃすげえな…」
アメリちゃんが放った炎を、まるでツバキがやったかのように真っ二つに斬り裂いた。
心なしか、ルコニが持っている漆黒の剣もツバキの刀みたいに見えた気がする。
「……あれ?」
「ん?どうしたのアメリちゃん?」
と、魔法を防がれたアメリちゃんが何かに気付いたような顔をした。
「……なんであのお姉ちゃんアメリたちとたたかってるの?」
「へ?」
そしてアメリちゃんが生じた疑問は…意味がわからなかった。
「んなもんあいつらが俺達を殺そうとしているからだろ?」
「うーん…なんでだろ?」
ユウロが的確な答えを言っても、アメリちゃんの疑問は解決されていないようだ…
「それより、今のは確実に僕と同じ動きだったよね…しかも斬る直前にその漆黒の剣…僕の相棒と瓜二つになった気がするんだけど…」
ツバキもそう言うって事はさっきルコニが持っている剣がツバキの刀に見えたのは私だけじゃなさそうだが…
「ほお…まさか一発で気付くとはな…そのとおりだよ!」
どうやらあっていたらしい。ルコニが手に持つ漆黒の剣を私達に見せてきたが…その形は最初に見たものと異なっており、ツバキの刀のようになっていた。
しかし…意味がわからない。なんでそんな事が起こったんだ?
「不思議に思うか?どうせお前らはあたし達に勝てっこないし、冥土の土産に教えてやるよ!」
「え?教えちゃっていいのかい?」
「問題ねーだろ!それともニオブはあたし達が負けるかもとか思っているのか?」
「ううん、それもそうだね。教えたところでどうにもならなそうだしいいんじゃないかな」
どうやら教えてもらえるらしい。それが本当に冥土の土産にならないようにしないとな…
「この漆黒の剣『エニミ』はな…相手の武器や魔法を完璧に模写する事ができるんだよ!最近はあたしに馴染んできたのか、動きまでマネできるようになったしな!」
「なるほどね…その剣は魔法具の一つか…ってことはそっちの銀色のほうも何か秘密があるのか?」
「はんっ!こっちは気付かなかったのか?こいつは『ジェミ』、お前らの動きを先読みしてあたしに教えてくれるんだよ!」
「ああ…だから僕達の攻撃が全部読まれていたのか…」
うわ…なんという便利アイテム…
こっちの技をコピーする剣にこっちの動きがわかる剣のタッグとか…反則じゃん。
とか思ってたら……
「更に良い事教えてやるよ…こいつら細いからそのままだったら斬り裂く力があんま無いけどな…二つを組み合わせた完全体として一本の大剣にする事ができるんだよ!」
「!?」
どうやら更に何か出来るらしい…本当に厄介な相手だ…
いつの間にか日が沈みそうになっているし…このまま長引くとますますこちらが不利になっちゃう…
「ま、お前らには特別にその完全な姿『ジェミニ』を見せてやるよ…接合!!」
あ、合体じゃないんだ…ってそんなこと思っている場合じゃないか…
そうルコニが叫んだ途端、ジェミは輝きを強くし、エミニは逆に余計黒ずんでいき…ジェミの中に溶け込んでいった。
そして、ジェミのほうも形が変わっていき…二つを組み合わせた程の大きさになっていき…
輝きが収まったら…そこには、黒銀色のどこか禍々しい雰囲気を持った大剣が現れた。
「な、なんだあれ?見てるだけで嫌な予感しかしないんだけど…」
「どうだ!これがあたしの聖なる武器の完全体、ジェミニだ!……自分でもたまにこれ本当に聖なる武器か?って思う時もあるがな…」
そう言うルコニは…
「…ってあれ?お前その剣重いんじゃないのか?」
「ああそうだが…なんで二つが合体しただけなのに重量が4倍になるのやら…」
先程までとは違い、重そうに腕を震わせながらその大剣を持ち上げていた。
あれ……これって……
「これ……チャンスj…」
「ま、普通はチャンスだと思うんだろうけど…そうは行かないように僕がいるのさ!」
チャンスじゃんって言おうとしたらニオブに遮られた。というかジェミニの衝撃で居た事をちょっとの間忘れてたよ…
ってたしかニオブは攻撃補助系の魔法が得意って事は…マズい!!
「じゃあいくよルコニ!『ヘルプエイド』、『ハイスピードムーブ』、『ダンシングソード』、『アイロンウォール』!!」
「おっしゃあああ!!一気に行くぞ!!」
複数の身体強化魔法だと思われるものをニオブに掛けられたルコニは、先程の重そうにしていたのが嘘のようにジェミニを振り回し、目に止まらない速さで私達のほうに一気に近づいてきて…
「うおりゃああああああ!!」
ぶぉん!!
「きゃあ!」「うわっ!」「くっ!」「あわわわ…」
私達の近くで回転斬りを仕掛けてきた。
全員当たりこそしなかったものの、振り回す力が大きかったためか発生した風圧によって砂煙ごと吹き飛ばされてしまった。
「さっすがニオブ!ヘルプエイドはニオブの身体能力付加、ハイスピードムーブは機動力上昇、ダンシングソードはパワー上昇、そして…」
「もらったあっ!!」
余裕からかニオブの魔法自慢を始めたルコニ。その姿は隙だらけに見える。
そこを逃さず態勢を整えたユウロが砂煙から飛び出し、木刀を振りかざし頭を打ち抜いたが…
ガシッ!
「うええっ!?なんだこれ!?」
「…アイロンウォールは身体硬化だよ!!」
ガツンッ!!
「う……ぐわっ!!」
「ユウロ!!」
特に動じることなく、ユウロを剣の柄で殴り飛ばした。
「ははっ!日も暮れちまう事だし、そろそろ止めにしようか!」
「そんな…どうすれば…」
このままでは確実に全員倒されて…いや、殺されてしまう…
それだけは避けたいが…良い方法が何も思いつかない…
そんなときである…
「ねえサマリお姉ちゃん…お姉ちゃんが魔物になってから今日でどれ位?」
「へ?いきなり何を…」
「いいから!だいたい何日位?」
アメリちゃんが、何の解決にもならなそうな質問を私にしてきた。
いったいどうしたというのだろうか…
「えっと…大体半月位だと思うけど…」
「やっぱり…だったら…」
そして、私の答えを聞いたアメリちゃんは…
「アメリたちは…あのお姉ちゃんにころされないよ!!」
「えっ!?」
驚く事を口にし始めた。
「な、なんで?」
「だって…あのときはまんげつだったから…あれから半月たった今日は…」
「なーに呑気に喋ってんだ!魔物のお前らから討伐してやるよ!!」
そして、私達のほうに跳んできたルコニは…
「しんげつ…」
「ん?……う、うぅうう…」
夜になった瞬間…突然身体の動きを止め…そして……
「な、なんだこれは!?あ、あたしに何が…!?」
ルコニの身体から…真っ黒な…影みたいなものがいきなり噴出した…
「何って…やっぱりお姉ちゃん気付いてなかったんだね…」
「な…あたしに何をしたんだ!!」
「アメリは何もしてないよ…これはね…」
「お姉ちゃんは『ドッペルゲンガー』だから、月のない夜はへんしんできないからそれがかいじょされているんだよ…」
アメリちゃんが言うとおり…ルコニの身体が段々と変化していき…
「な、何これ…?あたし……なんで魔物になってるの?」
やがて…顔はほぼそのままだが瞳が紅く、そして髪も服も黒い少女になってしまった。
「え……ルコニ……?」
「や……こ、こないでニオブ!あたしを見ないで!!」
「お、おい!どうなってるんだよ!?」
「いやぁ…お願いだから今のあたしを見ないでよぉ…」
更には、性格も違う気がする…さっきまでは強気だったのに、今はかなり弱気になっている…
いったい何が起きているのだろうか?
そういえば…アメリちゃんが言っていた事の…
「アメリちゃん…『ドッペルゲンガー』って何?」
「魔物だよ。あのお姉ちゃんがもっていた剣やお姉ちゃん自体からドッペルゲンガーの魔力を感じたからおかしいとおもってたの!しかもすでにお姉ちゃんになじんでたから魔物になってからけっこうたってると思うよ」
なるほど…アメリちゃんが途中からずっと私達を襲うルコニに疑問を感じていたのは、ルコニが魔物だってわかったからだったのか…
ん?そういえば、ルコニが持っていた剣からもドッペルゲンガーっていう魔物の魔力を感じた…ってことは…
「そうか!ルコニが持ってるジェミニって『コンステレーションシリーズ』の一つか!」
「え?ねえユウロ、何それ?」
「あ〜ツバキは知らないんだっけか…えっとな…勇者たちの間で古代の聖なる武器という名目で出回っている魔物の魔力が込められている呪いの装備品の事だ。持ち主のルコニがドッペルゲンガーになっているところから見て間違いないと思う」
「そ…そんなぁ…あたしは騙されてたって事…?」
やっぱりコンステレーションシリーズ…女性が持つとその込められた魔力の魔物になってしまうという傍迷惑な武器か。
「お、おい…なら何で今までルコニは魔物化した事に気付かず人の姿のままでいられたんだよ?そこのサキュバスのガキ曰くずっと前から魔物になってたっぽいじゃないか!」
「アメリはリ・リ・ム!!……お姉ちゃんが全く気付かなかったのはたぶんお兄ちゃんのせいだよ…」
「そ、それってどういうこと?」
ルコニがそのままでいられた理由は……
「きっとお兄ちゃんは…そのままのルコニお姉ちゃんの事が好きだったんだよ!」
アメリちゃんが言うには…とても素敵な事であった。
「え………ええっ!?なんでわかったの!?」
「……へ?い、いまなんて……?」
しかも、どうやら正解っぽい。
「ドッペルゲンガーさんは男の人の好きな人のすがたをしてるんだよ。それで、ルコニお姉ちゃんが自分でも全く気付かなかったってことは、ニオブお兄ちゃんはルコニお姉ちゃんが好きだって事になるんだよ!」
「そうなのか…」
つまり、ルコニはドッペルゲンガーになってすぐに近くに居たニオブの想いに反応し、人間としてのルコニに化けていたという事か…
驚きである…こんなこともあるんだ…
でも…それじゃあ…
「え…じ、じゃあ…今の臆病で黒いあたしは…ダメだよな…」
「へ?」
「だって…あたし、人間じゃなくなっちゃったんだよ?見た目だってかなり変わっちゃったし…今だってニオブに何言われるかわからなくて怖いんだ!!ニオブの事が好きだから、拒絶の言葉が怖いんだ!!」
「ルコニ…」
人間じゃなくなり、見た目も性格も変化してしまったルコニは…どうなってしまうのだろうか…
ニオブが好きなルコニで無くなったルコニの事を、ニオブはどう思うのか…
「ねえルコニ…」
「……」ビクッ!
「ルコニは僕の事好きなんだよね?」
「あ、ああ…そうだけど…」
「それは……魔物になったから?」
「え…それは……」
少し言うのを躊躇した後に…
「違う…実は……初めてニオブと一緒に訓練をした時から好きだった!……うぅ…すっごく恥ずかしいよぉ……///」
顔を真っ赤にしながら、ルコニはそう告白した。
「だったらさ…僕と一緒に逃げよう!」
「え?ニオブ…今何て…」
「魔物になっちゃったのならここにはいられない…どこか遠くの親魔物領まで一緒に行こうよ!」
つまり…ニオブは…
「僕もルコニの事がその頃から好きだった。それは姿や性格が変わっても、人間じゃなくなっても変わらない!どちらにしてもルコニはルコニなんだから!!」
「!!」
「むしろこうしてお互い好きだって言えたんだ!勇者をやってたら出来なかった事だし、これでよかったんだよ!!」
「ニオブ……ありがとう!!」
二人は抱き合って、お互いの愛を噛みしめた…
それはとても幸せそうに見え…ううん、幸せなのだろう。
お互いが好きだってわかって、お互いを好きであって、幸せを感じながら抱き合って…
こう言うのを見ると恋もいいなって思えてくるなぁ…
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「じゃあ俺達がここを通ってもいいんだな?」
「そりゃあまあ僕達も同じような感じだしね…僕達はなるべく遠くに行くつもりだから違う道を行くけどね」
現在19時。月が無く星明りだけが輝く山の頂点に私達は居た。
一通り落ち着いた後、改めて話を整理してみる事にしたからだ。
ルコニは魔物になってしまったので、ニオブと供にどこかの親魔物領まで亡命するつもりらしい。
しかし、ヘプタリアだとすぐに足がつく可能性が高いから私達とは供に行かないとのこと。
それで私達は普通にヘプタリアに向かう事にした。
二人は勇者をやめるので私達を止める必要が無いからだ。
「本当にゴメンな…あたしいろいろやった気がするけど大丈夫だったか?」
「俺はまだ殴られたところが痛いけど他は特に問題は無い」
「そうか…」
二人だけで大丈夫なのか…とは言えない。
実際もう少しルコニが魔物になっている事がわかるのが遅かったら私達は余裕で殺されていたのだ。
そんな強い二人ならきっと無事に親魔物領まで行けるだろう。
「さて、今のうちに逃げとかないと面倒な事になるかもs…」
ぐうぅぅぅぅ……
「…面倒な事になるかもしれないし、そっちのリリムの女の子もお腹を空かせてるみたいだし、そろそろ行く事にするよ」
「うぅ……おなかすいた……」
「……ぷっはははははは!!」
『ははっ…あははははは!!』
「もう!みんなわらわないでよ!!」
アメリちゃんのお腹も空腹を訴えていることだし、はやく安全そうな場所まで行って『テント』を張って夜ご飯にしよう!
笑った後、私達は別れてそれぞれの行き先に向けて出発した。
ここから先は比較的安全な親魔物領だ。
きっと何事もなくジパングに行けるだろう。
そう思うと、あんな大変な事があったばかりなのに、自然と私達の足取りは軽くなっていた。
「待って椿!!もうちょっとで手が届くから!!」
わたしと椿が付き合い始めてから3年程経ったある日の事…
その日は、例年にないほどの大きな嵐が町を襲っていた。
しかもこの嵐、水神様でもどうにもならないらしい…よっぽどのものである。
「そんなものどうでもいいから早くこっちに来るんだ!!」
「どうでもよくないよ!あれは椿が小さい頃から大切にしている相棒の刀じゃない!!」
わたしと椿は嵐の中、町中を駆け回り様子を確認していた。
なぜなら、嵐の様子や子供が外に出ていないか確認したりするためだ。
「そうだけど…僕にとっては林檎のほうが大事なんだ!林檎の身に何かがあったら大変だから!!」
「大丈夫だって!待っててよ、すぐに取ってあげるから!」
そして海岸に行った時の事である。
大嵐なので、もちろん風も相当強くなっていた。
そのためか、ちょうどわたし達が海岸に着いたときに、わたし達目掛けて看板が飛んできたのだ。
椿が咄嗟に自分の刀で自分とわたしを看板を弾いて護ったが、看板の勢いを殺しきれずに刀が堤防の向こうまで看板に持ってかれてしまったのだ。
しかし、運よく岸辺から手を伸ばせば取れそうな位置にあった岩に引っ掛かったので、わたしは後先考えずに堤防を乗り越えて刀を取りに行ったのだ。
「ん〜…よし!取れたよ!!」
「わかったから早くこっちに来るんだ!!いつ大波が来てもおかしくないんだぞ!」
そう叫ぶ椿に向かって歩きはじめたわたし。
風が強すぎて吹き飛ばされないように歩くのが限界で、とても走る事は出来なかった。
「はい!先に刀を渡しておくね!」
「わかったから早くこっちに…って掴まれ林檎!!」
「えっ……」
なんとか堤防までたどり着き、椿に刀を先に渡し、堤防を乗り越えようとしたそのとき…
「あっ!きゃあぶ!!!!!!」
「林檎ー!!リンゴォォ!!!!」
大きな波が、後ろからわたしに襲いかかってきた。
わたしは伸ばされた椿の手を……
……握る事ができず波に攫われてしまった。
「もがっ!ぐぼばぶっ…」
そのまま荒れ狂う海に呑まれたわたしは、当然呼吸なんか出来るはずもなく…
上下左右がさっぱりわからなくなるほど振り回され…
「がぽ……」
視界が暗くなり、息苦しさを感じたまま意識が遠のいていった……
「林檎………ばかやろおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
椿の悲痛な叫び声は…もちろんわたしの耳に届く事は無かった……
…………
………
……
…
そして、溺れたわたしはポセイドン様のおかげでネレイスとなり生き続ける事ができた。
これだけでも良かったといえば良かったのだが…
なんと、今日適当に大陸のほうまで来ただけだというのに、椿を発見する事ができたのだ。
今わたしがいる場所から見上げた、山の頂近くのちょうど木が生えていない場所に居るのを確認できたのだ。
本当にちょっとしか見えないけど、遠くからでも椿を見違えるわけが無いのであれは絶対椿だろう。
知らないうちに大陸の服なんか着てたから最初わからなかったよ…
本来は椿に会えた事を喜ぶべきなのだろう…
でも、今はそれ以上に我が目を疑う光景が見える…
それは、わたしが波に攫われた日の事を鮮明に思い出してしまうほど強烈なものだった…
「椿の近くにいるあの白っぽい女…ナニ?」
「なんでアイツ…わたしの椿に抱きついたりしてるの?」
「そして椿…なんでそんなにソイツと楽しそうに喋ってるの?」
おっと…おもわず声に出してしまった…でも仕方が無いだろう…
だって何度目を擦ってから見ても、その白っぽい女は消えなかったのだから。
それに頬をつねってみたら痛かった…だからこれは夢じゃない…
「はああ?」
わけがわからない…なんなのアイツ…
なんでアイツと椿が楽しそうに一緒に居るの?
そしてなんで椿もアイツと楽しそうに一緒に居るの?
もしかして…わたしの事なんかもう…忘れちゃったの?
「ふ、ふふ、ふふふふ、ふふふふふふふふ……」
なーんだ…わたしの事なんか忘れちゃってもうどーでもいいんだ…へぇ……
まあ仕方ないよね…椿はわたしが死んでいると思っているんだから…
………
なんかむかつくなあ……
今あいつらの前に現れたらどんな顔するかなあ……
椿のやつ必死に謝ってくれるかなあ……
謝っても許さないけどね………
「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
そうだ…ここから同族の子に教えてもらったものやってみようかな…
ずぶ濡れになっていい気味だし、それで気付いたら面白そうだし…
決めた!あいつらに向かって水の塊をb……
ざっばああああああああああああああん!!
「うわあっ!?」
ビックリした…いきなりすぐ近くでかなりの水柱が上がるんだもん…
いったいなんなのよあの青い奴…ってわたしも青いけど…ていうかわたしのほうが青いけど…
あ、もう…さっきの青い奴のせいで椿もあの女も見えなくなっちゃったじゃない…
はぁ……まあいいや……
それなら直接会いに行けばいいんだから…
だから待っててね椿…わたしが椿の目を覚まさせてあげる……
椿をたぶらかすようなあんな白い奴……わたしが駆除してあげるから……
「ふふふふふ…ふへへへへへへへへ…」
わたしは椿に…そして人の男を奪ったあの憎たらしい白っぽい女に会う為に…すぐ近くの港町からあいつらが来るだろう道を進む事にした……
=======[サマリ視点]=======
「わあ〜!!すっごい綺麗だ〜!!」
「おお!久々に海なんて見たよ!!」
「アメリもはじめてみた!!マーメイドさんとかいるかな〜?」
「ホント…穏やかな海は綺麗だね…」
現在15時。私達は山登りをしていた。
反魔物領の近くの道に入ってから数日、最初にセレンちゃんとセニックさんに会った後は今のところ他の勇者や教団関係者に襲われてはいない。
何度か危なかった事もあったが、すべてどうにか誤魔化してここまで無事に来る事ができた。
そして、この山の頂上を越えればそこからは親魔物領の街であるヘプタリアの領域になる。
そうすればもう安全だと言ってもいいだろう。それにこのローブを着なくても済むし、アメリちゃんも堂々と人外のパーツを出すことだってできる。
「はぁ……」
「ん?どうしたのツバキ?」
「いや……」
それで今私達は山のちょうど木が無い場所から見える景色を…辺り一面に広がる、輝く海を見ていた。
私は生れてから一度も海を見た事無かったのでもの凄く感動した。
他の皆もそれぞれ興奮気味に感想を述べているが……ツバキだけ少し暗い顔をしていた。
「海を見ていると…どうしても林檎の事を思い出してしまってね…」
「あ…」
そういえばツバキの大切な人…リンゴって大波に攫われてしまったんだっけ…
海を見てその事を思い出していたのか…
「まあツバキ、元気だしなって!」
「うわっ!?な、なんだいサマリ…急に抱きついてきたりして…」
「ツバキが暗い顔してたらリンゴだって悲しむよ!」
そんな暗い顔をしているツバキを、私は励ます事にした。
この毛皮には眠りの魔力が込められている…だったら多少の落ち着き効果だってあるだろう。だから私はローブを脱ぎ抱きついてみた。
一応効果はあったらしく、ツバキの表情は明るくなり…
「そうだね…うん、ありがとサマリ!いつまでも落ち込んでたらダメだよね!」
「そうそう!その調子!!」
にっこりと笑いながら私にお礼を言ってきた。
「あ、そうだツバキお兄ちゃん…」
「ん?なんだいアメリちゃん?」
と、ここでアメリちゃんが…
「そのリンゴさんって海でおぼれて死んじゃったんだよね?」
「え?ああ…そうだけど…」
「だったら…リンゴさん生きてるかも…」
「「「!?」」」
かなり衝撃的な事を言った。
「そ、それってどういう事だい?」
「んーとね…海にはおぼれちゃった人間さんは『ネレイス』って魔物になることがあるの。だからもしかしたらリンゴさんは生きてるかもしれないって思ったんだ!」
「ネ、ネレイス!?」
「あ〜聞いたことあるわ。たしか海のサキュバスだ」
なるほど…そんな魔物もいるのか……サキュバスってやっぱり亜種多いなぁ…
「ということは…」
「林檎はそのネレイスになって生きているかもしれないって事かい!?」
「う、うん…でもたぶんだよ。ツバキお兄ちゃんのところにすぐかえってきてなかったっていうのが少し気になって…だからすぐには言えなかったんだ…」
なんでアメリちゃんがすぐにその事を言わなかったのか気になったが…なるほど、ツバキをぬか喜びさせないためか…
アメリちゃんって子供にしては案外周りに気を使うところあるんだよな…まあいいところではあるけどね。
「それなら、ジパングに着いたらまずツバキの故郷に行ってみようよ!」
「えっ?」
「もしかしたらリンゴがツバキの帰りを待っているかもしれないじゃん!」
「あ…そうか…じゃあ行ってみようか!」
居なかったら余計辛くなるかもしれないけれど、居るかもしれないのならば行ってみたほうが良い。
なので私達はツバキの故郷に行くことにした。
「さあ、そうと決まればちゃっちゃとこんな山越えてあの海の向こうにあるジパングに行こう!!」
と言いながらツバキの肩を抱き寄せ、海のほうを指した瞬間……
ざっばああああああああああああああん!!
「え!?な、なにあれ!?」
「うわあ!?」
いきなり海に大きな水柱が出現した。
その高さは…軽く30メートルは超えていると思う。
そして、その水柱の先端から青い何かが飛び出してきたのが見えた……ていうかこっちに近付いてる!?
「なあアメリちゃん…なんか見覚えない?」
「うん…というかたぶんそうだと思う…」
何かユウロとアメリちゃんが言っている気がするけど、耳に入ってこない程驚いている。
そして…
すたっ!
「…………」じーっ
「え、えっと…こんにちは…」
「…………」じーっ
その青い何か…というか手足に青い鱗と水掻きがついていて、魚の尾鰭の様な長い尻尾が生えていて、無表情な魔物は私達の目の前に華麗な体勢で見事に着地した。
…ってあれ?この魔物どっかで見たことあるような……
「ってやっぱり…」
「川におとされたサマリお姉ちゃんをたすけてくれたサハギンさんだー!!」
「ええーっ!?」
「…………」はっ!
あの時のサハギンさんかー!
どおりで見覚えがあるだけでハッキリと覚えて無かったのか…あの時は結構意識が朦朧としていたからな…
ちょうどいいや。あの時はきちんと言えなかったしお礼を言っておこう。
「あのー、あの時は助けていただきありがとうございました!」
「………?」
んー…表情が無いからわかりづらいけど…どうやら私があの時助けた人間だってわかって無さそうだ。
あの時ってのもピンときて無さそうだし…まあ今私は人間じゃなくてワーシープだから仕方ないよね。
「えっと…今は訳あってワーシープになってますが、テトラストの近くの川で溺れていてあなたに助けてもらった人間だった者です」
「……あ…あの時の……」
「わあっ!?」
「……何?」
「あ、いえ、なんでもないです…」
「…………」じーっ
今まで何も喋らなかったからてっきり何も話せない魔物だと思ってたのに、いきなり声を出したのでビックリした。
ってユウロも頷いてる…同じ経験をしたって事か…
「元気そうでなにより……」
「あ、はい!あなたに助けられたから今こうして元気に過ごせてます!ありがとうございました!!」
「…………」シュッ!
そしてサハギンさんは、私達に背を向けながら手を挙げ山の奥へ去っt…
「あ、ちょっと…」
「……何?」ムスゥ
「う、す、すいません…」
…去って行く前にユウロが呼びとめた。
もう去っていく気満々だったところで呼び止められたからか不機嫌オーラがサハギンさんの周りに漂っている。それは無表情と組み合わさってちょっと怖い。
「えっと…何してたんですか?俺達に気付いて来たわけでもなさそうですし…」
「…………」
「……」
「…記録…」
「…えっ?」
「……更新」ドヤァ
「…ああ…そういえば10メートル以上は高かったですね…」
……記録更新?何がだろうか?
そして何で無表情のはずのサハギンさんから自慢げな表情が読み取れるんだろうか?
「ところで何でサハギンのお姉ちゃんは海にいたの?サハギンさんって川にいるよね?」
と、次はアメリちゃんの質問だ。
サハギンって川に生息する魔物か…たしかに助けられたのは川だったもんな…
じゃあなんで今海から出て来たんだろうか?
「…………」
「……」
「……ぼーっとしてたら……流された……」シュン…
『……』
うーん…ホント表情変わって無い筈なのにいろいろ変わっているように見えるなぁ…
というか流されたって……なんて言ったら良いかなぁ…
「えっと…ドンマイ!元気だしなって!」
「……ありがと…」ニコッ
そのまま表情を変える事無く(と思いたいけど思えない)サハギンさんは去っていった…
あ、名前聞くの忘れてた…
====================
「ふぅ…やっと頂上に着いたー!!」
「ここまで来たらもう安心だよね!」
現在17時。
私達はあのあともずっと山を登り、やっと頂上まで辿り着いた。
ここを越えた後は親魔物領…つまり、今までよりもずっと安全になる!
「ちょっと動きづらかったからもうこのローブ脱いじゃおうっと!」
「アメリもつかれたからじゅつといちゃおうっと!」
「あ、ちょっとまって二人とも…」
「わ、バカ!早まるな!!」
「なによ…大丈夫だって…」
なので私はちょっと動き辛く感じていたローブを脱ぎ去り、アメリちゃんは人化の術を解いて角などを出し始めた。
ツバキとユウロが慌てているけど、もうここから先は安全なんだから大丈夫だろう。
ガサガサッ!!!!
「ほーらネオブ!やっぱりここで油断して正体明かすおバカな魔物が絶対に居ると思ったんだ!やっぱりここで見張っていて正解だったろ?」
「そうだね…ルコニの言うとおりだったよ!ヘプタリアの連中にバレないかヒヤヒヤしながらも見張っていて正解だったね!」
大丈夫だろう……そう思っていた私を今無性に殴り倒したいです……
山の頂上にあった叢…その中から男女2人組がいきなり飛び出してきた。
二人ともそろって十字模様が入った服を着てるし、女性のほうは細長い剣…いや、刀か?…を2本、ほぼ同じ形状だが銀色の物と漆黒の物を持っていたところから…おそらく勇者であろう。
「はぁ…やっぱ嫌な予感がしたんだよな…」
「まあはやる気持ちもわかるし、今更どうしようもないけど…はぁ……」
「うぅ…お兄ちゃんたちごめんね……」
「ホント二人ともゴメン……」
となると闘うしかないだろう…相手はその気のようだから平和的解決は望めないし…
それで、アメリちゃんはともかく私は闘えない。私とアメリちゃんの油断でバレたとしても闘うのはユウロとツバキなのだ。
……なんか申し訳なくなってくる……
「というか勇者って草木の中に隠れるの好きだなぁ…」
「…それ俺に対しての嫌味か?」
「ううん、総合的にそう思っただけ」
だってユウロといいホルミさんといいこの二人といいなんか草木が生えている場所に勇者がいるイメージがあるからおもわず呟いてしまった。
しかもこの呟きが相手にも聞こえたらしく…
「失礼な!あたし達がまるで虫系の魔物みたいじゃないか!!」
「たしかに僕達はここに隠れていたけど…そう言われると腹立つな…」
なんか余計怒りを煽ってしまった…
「こんな失礼な魔物はあたしが成敗してやる!覚悟しな!!」
そう言いながら、ルコニと呼ばれた女勇者が双剣を構え私達のほうに跳びかかってきた。
「はぁ…やるか!!いくぞツバキ!」
「そうだね…いくよユウロ!」
そんなルコニに対して、二人は同時に…ユウロは右から頭に目掛けて、ツバキは左から胴体に目掛けてそれぞれ武器を振り抜いた。
ルコニの跳びかかってくる勢いや二人の連携から絶対に当たると思ったのだが…
バシッ!
キィィン!!
「なっ!?」
「えっ!?」
「ふんっ!あんたらの攻撃なんかお見通しなんだよ!」
二人の攻撃を完全に見切っていたのか、構えていたそれぞれの剣でいとも簡単に防がれてしまった。
「くっ!だったらこれならどうだ!!」
ユウロが素早く我武者羅に、それでいてたまに当たるように木刀を振り回す…これならフェイントみたいになり攻撃を読むも何もないが…
「だからお見通しだってば!」
「くそっ!全部防ぎやがって!!」
ルコニは顔色一つ変えることなくそのすべてを銀色の剣一本で防いでいた。
「隙あり!」
「なにいっ!?」
が、その合間を縫ってツバキが刀の峰で後ろから打撃を加え…
「…なーんてな!それも『教えてもらって』るよ!!」
「えっ!?」
…ることが出来なかった。
なんとツバキのほうを一切見ずにもう一つの漆黒の剣で防いだのだ。
「ニオブ!」
「はいよ!『ヘルプエイド』!!」
そして、ニオブと呼ばれた男が何かの呪文を唱えた瞬間…
「はあああああっ!!」
「うわっ!?」「くっ!!」
ルコニの身体が黄色い光に包まれ、力でも上がったのかユウロとツバキの二人が少し離れた場所まで移動していた私達が居る場所まで弾き飛ばされてしまった。
「だ、大丈夫!?」
「ああ、一応大丈夫だ。でも正直勝てるかどうかわからねえ…」
「どうやらルコニのほうは相当な実力の剣士で、ニオブのほうは攻撃補助系の魔法が得意らしいね…やっかいな組み合わせだなあ…」
やっぱりあれは身体を強化する魔法だったようだ…これは相当強いんじゃあ…というか、今まであった中で一番強いかもしれない…
すくなくとも、前みたいに私が隙を見て抱きつくなんて事は出来無さそうである…
「ボーっとしてていいのかい?僕は攻撃魔法も一応使えるんだよ!『ロックフォール』!!」
「んなっ!?」
いきなりそう言ってきたニオブが手を頭上に掲げて呪文を唱えたら、私達の真上に大きな魔法陣が展開して…
…私達全員を潰せる程大きな岩が降ってきた。
「ちょっと!?あれどうするの!?」
「アメリがなんとか魔法でこわして…」
「いや待って!あれも魔法なら…」
パニックになっていた私達にツバキがそう言って…
「僕は斬る事ができるよ!」
スパッ!!
ズウゥゥゥン!!
「なっ!?」
「おお〜!!さっすがツバキ!」
大きな岩を一閃し、私達には当たらずに地面に落ちた。
「…エミニ、念のため今のを記録だ…」
なにかルコニが呟いた気がするが…よくわからなかった…
「おっし!反撃するぞ!!最悪逃げられればいいんだから無理しない程度でな!」
「了解…でもルコニのほうが厄介だね…こっちの攻撃が簡単に読まれちゃうし…」
「アメリの魔法ならどうかな…『フレイムラジエーション』!!」
反撃をするために、まずアメリちゃんが腕を前に出し手で輪を作り、そこから放射状の炎をルコニ目掛けて発射した。
これならたとえ読まれていても剣で防げるとは思えないし、避けた隙に迎撃する事ができる……はずだった。
「ルコニ!!」
「だーいじょうぶ!こんなもん…」
しかし…ルコニは余裕の表情のまま…
「うおらあああ!!」
ズパンッ!!
「んなっ!?」
「うっそぉ…」
「へえ〜、こりゃすげえな…」
アメリちゃんが放った炎を、まるでツバキがやったかのように真っ二つに斬り裂いた。
心なしか、ルコニが持っている漆黒の剣もツバキの刀みたいに見えた気がする。
「……あれ?」
「ん?どうしたのアメリちゃん?」
と、魔法を防がれたアメリちゃんが何かに気付いたような顔をした。
「……なんであのお姉ちゃんアメリたちとたたかってるの?」
「へ?」
そしてアメリちゃんが生じた疑問は…意味がわからなかった。
「んなもんあいつらが俺達を殺そうとしているからだろ?」
「うーん…なんでだろ?」
ユウロが的確な答えを言っても、アメリちゃんの疑問は解決されていないようだ…
「それより、今のは確実に僕と同じ動きだったよね…しかも斬る直前にその漆黒の剣…僕の相棒と瓜二つになった気がするんだけど…」
ツバキもそう言うって事はさっきルコニが持っている剣がツバキの刀に見えたのは私だけじゃなさそうだが…
「ほお…まさか一発で気付くとはな…そのとおりだよ!」
どうやらあっていたらしい。ルコニが手に持つ漆黒の剣を私達に見せてきたが…その形は最初に見たものと異なっており、ツバキの刀のようになっていた。
しかし…意味がわからない。なんでそんな事が起こったんだ?
「不思議に思うか?どうせお前らはあたし達に勝てっこないし、冥土の土産に教えてやるよ!」
「え?教えちゃっていいのかい?」
「問題ねーだろ!それともニオブはあたし達が負けるかもとか思っているのか?」
「ううん、それもそうだね。教えたところでどうにもならなそうだしいいんじゃないかな」
どうやら教えてもらえるらしい。それが本当に冥土の土産にならないようにしないとな…
「この漆黒の剣『エニミ』はな…相手の武器や魔法を完璧に模写する事ができるんだよ!最近はあたしに馴染んできたのか、動きまでマネできるようになったしな!」
「なるほどね…その剣は魔法具の一つか…ってことはそっちの銀色のほうも何か秘密があるのか?」
「はんっ!こっちは気付かなかったのか?こいつは『ジェミ』、お前らの動きを先読みしてあたしに教えてくれるんだよ!」
「ああ…だから僕達の攻撃が全部読まれていたのか…」
うわ…なんという便利アイテム…
こっちの技をコピーする剣にこっちの動きがわかる剣のタッグとか…反則じゃん。
とか思ってたら……
「更に良い事教えてやるよ…こいつら細いからそのままだったら斬り裂く力があんま無いけどな…二つを組み合わせた完全体として一本の大剣にする事ができるんだよ!」
「!?」
どうやら更に何か出来るらしい…本当に厄介な相手だ…
いつの間にか日が沈みそうになっているし…このまま長引くとますますこちらが不利になっちゃう…
「ま、お前らには特別にその完全な姿『ジェミニ』を見せてやるよ…接合!!」
あ、合体じゃないんだ…ってそんなこと思っている場合じゃないか…
そうルコニが叫んだ途端、ジェミは輝きを強くし、エミニは逆に余計黒ずんでいき…ジェミの中に溶け込んでいった。
そして、ジェミのほうも形が変わっていき…二つを組み合わせた程の大きさになっていき…
輝きが収まったら…そこには、黒銀色のどこか禍々しい雰囲気を持った大剣が現れた。
「な、なんだあれ?見てるだけで嫌な予感しかしないんだけど…」
「どうだ!これがあたしの聖なる武器の完全体、ジェミニだ!……自分でもたまにこれ本当に聖なる武器か?って思う時もあるがな…」
そう言うルコニは…
「…ってあれ?お前その剣重いんじゃないのか?」
「ああそうだが…なんで二つが合体しただけなのに重量が4倍になるのやら…」
先程までとは違い、重そうに腕を震わせながらその大剣を持ち上げていた。
あれ……これって……
「これ……チャンスj…」
「ま、普通はチャンスだと思うんだろうけど…そうは行かないように僕がいるのさ!」
チャンスじゃんって言おうとしたらニオブに遮られた。というかジェミニの衝撃で居た事をちょっとの間忘れてたよ…
ってたしかニオブは攻撃補助系の魔法が得意って事は…マズい!!
「じゃあいくよルコニ!『ヘルプエイド』、『ハイスピードムーブ』、『ダンシングソード』、『アイロンウォール』!!」
「おっしゃあああ!!一気に行くぞ!!」
複数の身体強化魔法だと思われるものをニオブに掛けられたルコニは、先程の重そうにしていたのが嘘のようにジェミニを振り回し、目に止まらない速さで私達のほうに一気に近づいてきて…
「うおりゃああああああ!!」
ぶぉん!!
「きゃあ!」「うわっ!」「くっ!」「あわわわ…」
私達の近くで回転斬りを仕掛けてきた。
全員当たりこそしなかったものの、振り回す力が大きかったためか発生した風圧によって砂煙ごと吹き飛ばされてしまった。
「さっすがニオブ!ヘルプエイドはニオブの身体能力付加、ハイスピードムーブは機動力上昇、ダンシングソードはパワー上昇、そして…」
「もらったあっ!!」
余裕からかニオブの魔法自慢を始めたルコニ。その姿は隙だらけに見える。
そこを逃さず態勢を整えたユウロが砂煙から飛び出し、木刀を振りかざし頭を打ち抜いたが…
ガシッ!
「うええっ!?なんだこれ!?」
「…アイロンウォールは身体硬化だよ!!」
ガツンッ!!
「う……ぐわっ!!」
「ユウロ!!」
特に動じることなく、ユウロを剣の柄で殴り飛ばした。
「ははっ!日も暮れちまう事だし、そろそろ止めにしようか!」
「そんな…どうすれば…」
このままでは確実に全員倒されて…いや、殺されてしまう…
それだけは避けたいが…良い方法が何も思いつかない…
そんなときである…
「ねえサマリお姉ちゃん…お姉ちゃんが魔物になってから今日でどれ位?」
「へ?いきなり何を…」
「いいから!だいたい何日位?」
アメリちゃんが、何の解決にもならなそうな質問を私にしてきた。
いったいどうしたというのだろうか…
「えっと…大体半月位だと思うけど…」
「やっぱり…だったら…」
そして、私の答えを聞いたアメリちゃんは…
「アメリたちは…あのお姉ちゃんにころされないよ!!」
「えっ!?」
驚く事を口にし始めた。
「な、なんで?」
「だって…あのときはまんげつだったから…あれから半月たった今日は…」
「なーに呑気に喋ってんだ!魔物のお前らから討伐してやるよ!!」
そして、私達のほうに跳んできたルコニは…
「しんげつ…」
「ん?……う、うぅうう…」
夜になった瞬間…突然身体の動きを止め…そして……
「な、なんだこれは!?あ、あたしに何が…!?」
ルコニの身体から…真っ黒な…影みたいなものがいきなり噴出した…
「何って…やっぱりお姉ちゃん気付いてなかったんだね…」
「な…あたしに何をしたんだ!!」
「アメリは何もしてないよ…これはね…」
「お姉ちゃんは『ドッペルゲンガー』だから、月のない夜はへんしんできないからそれがかいじょされているんだよ…」
アメリちゃんが言うとおり…ルコニの身体が段々と変化していき…
「な、何これ…?あたし……なんで魔物になってるの?」
やがて…顔はほぼそのままだが瞳が紅く、そして髪も服も黒い少女になってしまった。
「え……ルコニ……?」
「や……こ、こないでニオブ!あたしを見ないで!!」
「お、おい!どうなってるんだよ!?」
「いやぁ…お願いだから今のあたしを見ないでよぉ…」
更には、性格も違う気がする…さっきまでは強気だったのに、今はかなり弱気になっている…
いったい何が起きているのだろうか?
そういえば…アメリちゃんが言っていた事の…
「アメリちゃん…『ドッペルゲンガー』って何?」
「魔物だよ。あのお姉ちゃんがもっていた剣やお姉ちゃん自体からドッペルゲンガーの魔力を感じたからおかしいとおもってたの!しかもすでにお姉ちゃんになじんでたから魔物になってからけっこうたってると思うよ」
なるほど…アメリちゃんが途中からずっと私達を襲うルコニに疑問を感じていたのは、ルコニが魔物だってわかったからだったのか…
ん?そういえば、ルコニが持っていた剣からもドッペルゲンガーっていう魔物の魔力を感じた…ってことは…
「そうか!ルコニが持ってるジェミニって『コンステレーションシリーズ』の一つか!」
「え?ねえユウロ、何それ?」
「あ〜ツバキは知らないんだっけか…えっとな…勇者たちの間で古代の聖なる武器という名目で出回っている魔物の魔力が込められている呪いの装備品の事だ。持ち主のルコニがドッペルゲンガーになっているところから見て間違いないと思う」
「そ…そんなぁ…あたしは騙されてたって事…?」
やっぱりコンステレーションシリーズ…女性が持つとその込められた魔力の魔物になってしまうという傍迷惑な武器か。
「お、おい…なら何で今までルコニは魔物化した事に気付かず人の姿のままでいられたんだよ?そこのサキュバスのガキ曰くずっと前から魔物になってたっぽいじゃないか!」
「アメリはリ・リ・ム!!……お姉ちゃんが全く気付かなかったのはたぶんお兄ちゃんのせいだよ…」
「そ、それってどういうこと?」
ルコニがそのままでいられた理由は……
「きっとお兄ちゃんは…そのままのルコニお姉ちゃんの事が好きだったんだよ!」
アメリちゃんが言うには…とても素敵な事であった。
「え………ええっ!?なんでわかったの!?」
「……へ?い、いまなんて……?」
しかも、どうやら正解っぽい。
「ドッペルゲンガーさんは男の人の好きな人のすがたをしてるんだよ。それで、ルコニお姉ちゃんが自分でも全く気付かなかったってことは、ニオブお兄ちゃんはルコニお姉ちゃんが好きだって事になるんだよ!」
「そうなのか…」
つまり、ルコニはドッペルゲンガーになってすぐに近くに居たニオブの想いに反応し、人間としてのルコニに化けていたという事か…
驚きである…こんなこともあるんだ…
でも…それじゃあ…
「え…じ、じゃあ…今の臆病で黒いあたしは…ダメだよな…」
「へ?」
「だって…あたし、人間じゃなくなっちゃったんだよ?見た目だってかなり変わっちゃったし…今だってニオブに何言われるかわからなくて怖いんだ!!ニオブの事が好きだから、拒絶の言葉が怖いんだ!!」
「ルコニ…」
人間じゃなくなり、見た目も性格も変化してしまったルコニは…どうなってしまうのだろうか…
ニオブが好きなルコニで無くなったルコニの事を、ニオブはどう思うのか…
「ねえルコニ…」
「……」ビクッ!
「ルコニは僕の事好きなんだよね?」
「あ、ああ…そうだけど…」
「それは……魔物になったから?」
「え…それは……」
少し言うのを躊躇した後に…
「違う…実は……初めてニオブと一緒に訓練をした時から好きだった!……うぅ…すっごく恥ずかしいよぉ……///」
顔を真っ赤にしながら、ルコニはそう告白した。
「だったらさ…僕と一緒に逃げよう!」
「え?ニオブ…今何て…」
「魔物になっちゃったのならここにはいられない…どこか遠くの親魔物領まで一緒に行こうよ!」
つまり…ニオブは…
「僕もルコニの事がその頃から好きだった。それは姿や性格が変わっても、人間じゃなくなっても変わらない!どちらにしてもルコニはルコニなんだから!!」
「!!」
「むしろこうしてお互い好きだって言えたんだ!勇者をやってたら出来なかった事だし、これでよかったんだよ!!」
「ニオブ……ありがとう!!」
二人は抱き合って、お互いの愛を噛みしめた…
それはとても幸せそうに見え…ううん、幸せなのだろう。
お互いが好きだってわかって、お互いを好きであって、幸せを感じながら抱き合って…
こう言うのを見ると恋もいいなって思えてくるなぁ…
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「じゃあ俺達がここを通ってもいいんだな?」
「そりゃあまあ僕達も同じような感じだしね…僕達はなるべく遠くに行くつもりだから違う道を行くけどね」
現在19時。月が無く星明りだけが輝く山の頂点に私達は居た。
一通り落ち着いた後、改めて話を整理してみる事にしたからだ。
ルコニは魔物になってしまったので、ニオブと供にどこかの親魔物領まで亡命するつもりらしい。
しかし、ヘプタリアだとすぐに足がつく可能性が高いから私達とは供に行かないとのこと。
それで私達は普通にヘプタリアに向かう事にした。
二人は勇者をやめるので私達を止める必要が無いからだ。
「本当にゴメンな…あたしいろいろやった気がするけど大丈夫だったか?」
「俺はまだ殴られたところが痛いけど他は特に問題は無い」
「そうか…」
二人だけで大丈夫なのか…とは言えない。
実際もう少しルコニが魔物になっている事がわかるのが遅かったら私達は余裕で殺されていたのだ。
そんな強い二人ならきっと無事に親魔物領まで行けるだろう。
「さて、今のうちに逃げとかないと面倒な事になるかもs…」
ぐうぅぅぅぅ……
「…面倒な事になるかもしれないし、そっちのリリムの女の子もお腹を空かせてるみたいだし、そろそろ行く事にするよ」
「うぅ……おなかすいた……」
「……ぷっはははははは!!」
『ははっ…あははははは!!』
「もう!みんなわらわないでよ!!」
アメリちゃんのお腹も空腹を訴えていることだし、はやく安全そうな場所まで行って『テント』を張って夜ご飯にしよう!
笑った後、私達は別れてそれぞれの行き先に向けて出発した。
ここから先は比較的安全な親魔物領だ。
きっと何事もなくジパングに行けるだろう。
そう思うと、あんな大変な事があったばかりなのに、自然と私達の足取りは軽くなっていた。
12/05/02 20:46更新 / マイクロミー
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