連載小説
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旅15 天使の様な悪魔の笑顔は逆もあり!
「何?急に呼び出したりなんかしてどうしたの?」
「いや、ちょっと聞いて欲しい事があってね…」


これは夢かな…それであの思い出の日の事か…


「本当に何よ、こんな夜遅くに呼び出して…」
「ゴメンね。どうしても今聞いてもらいたくて…」


輝く星空の下で、わたしは幼馴染みに呼び出されて、近くの誰も居ない海岸にいた。


「まあいいけどね…それで、話って何?」
「ああ…そうだね…」


わたしは平然を装いながらも、内心ドキドキしていた。
彼が何を言うつもりなのかはなんとなく予想できてたし、それに対する回答も用意していた。
それでも、この雰囲気や事の大きさから、わたしは緊張していた。


「よく聞いてくれよ…林檎…僕は…」


そして彼はわたしの名前を言い…


「僕は…林檎の事が好きだ。幼馴染としてだけじゃなく、一人の女として!」


こう、私に告白してきた。
もちろんわたしは…


「わたしも…椿の事が大好き!もちろん幼馴染としてだけじゃなくて、一人の男として!」


彼の…椿の事が好きだから…自分の気持ちを告白返しみたいな形で伝えた。


「……ははっ!」
「……へへっ!」


なんだか照れくさくって、二人で微笑みあった。


「それじゃ、帰ろうか!」
「そうだね!」


そしてわたし達は二人で手を繋ぎながら家に帰った。

小さな頃は普通に繋いでいたのに、いつからか恥ずかしくて繋ぐ事が無かった手を繋ぎながら…


繋いだ手を通して、互いの熱を感じながら…



………………………



目を覚ますと、光り輝く月が目に入った。



それもそのはず。今は夜だから。



わたしは、海面に浮かびながら、ゆっくりと流れに任せていた。



なんであの頃の夢を見たんだろうか…やっぱりショックだったからかな…



故郷に戻ったわたしは、早速わたしが生きている事を皆に伝えた。



近所のおじさん達や仲の良かった友達、それにお母さんとお父さん…



皆、わたしが生きていた事を喜んでくれた。



わたしが人間じゃなくなってても受け入れてくれた。



といっても、元々わたしの故郷は妖怪とともに生活している町だ。町に居る水神様だって妖怪だしね。



だからわたしが妖怪…海で出会った同族が言うには魔物『ネレイス』になっていても問題は無かったようだ。



でも、わたしにはある問題が発生した。



その故郷で一番会いたかった幼馴染み…椿が居なかったのだ。



どうやら死んだと思われていたわたしの事を忘れるために、大陸へ一人で旅立ったらしい。



椿に会えなくて…とても残念だった。とても寂しかった。



だからわたしは大陸に向かう事にした。



わたしが生きていると伝えるために。



そして、椿と……ふふっ……♪



でも、あれから半年は過ぎている。



もし椿がわたしの事忘れて他の女とイチャイチャしてたら…



考えたくないけど…もしそんな事をしてたら…



……ゆるさないんだから……



そのときは…椿も、その女も…どうしてあげようかなぁ…



=======[サマリ視点]=======



「うーん…こんな感じ?」
「そうだな…少し怪しい気もするけど…まあ大丈夫かな?」

現在19時。
私達はヘプタリアに向けて旅をしていた。
マルクトを出発してからそこそこ経ったが、今のところ前よりは疲れを感じてはいない。
たぶん今のところは勇者に遭遇する心配がほとんどなかったからだろう。
盗賊などはユウロやツバキが追い払ってくれるから心配する必要は無いし。
だから、今のところは特に問題も無かった。
そう、『今のところは』だ。

「どうかな?」
「うん!大丈夫だとおもうよ!」
「そうだね。覗きこまれたり抱きつかれたりしなければ問題無いと思うよ」

だけど、ここから先は少し問題があるのだ。
ヘプタリアまでのルートはここからなら二種類あるのだが…


片方は到底通れそうでもない急な斜面が続く山道。


もう片方は坂は緩やかだが距離があり、なおかつ反魔物領、しかも大きな教団がある街の近くを通る道。


そう、どちらの道を通るにせよ危険が伴うのだ。

それで、私達は反魔物領の近くを通る道で行く事にした。
なぜなら、こちらの道が危険なのは「魔物にとって」なだけで、人間にとっては特に危険な道ではないからだ。

「うーん…人化の術ってのを使えれば楽だったんだろうなー…」
「ワーシープじゃ難しいと思うよ?それに元々サマリは魔術に対する知識が俺以上に無いから習得もすぐには出来なかったと思うけど…」
「そうだよね…ま、いいか。ローブがあれば毛や角なんかは隠せるし、大丈夫だと思おう!」

だから私とアメリちゃんは魔物としての正体を隠しながらその道を通る事にした。
アメリちゃんはいつぞやの『人化の術』があるので問題は無いが…困ったのは私だ。
私は角や尻尾、身体中に生えている毛をその人化の術で隠す事が出来ないのだ。
元々私が魔法の知識が無いうえにワーシープじゃあ習得が困難どころじゃないとのこと。

だから私は大きいローブで全身を覆う事にした。

鏡で確認もしてみたが、そこには人間だったサマリとなんら変わらない女の子が居た。
足元まであるので蹄も見えなくなるし、顔も目より上は隠れるから魔物だって簡単には気付かれなくなる。
これならそう簡単には私が魔物だってバレはしないだろう。

「しっかしまあ冷静に考えるとサマリって魔物になってからあんまり服らしい服着てないよな」
「まあね。だってこの毛皮が服みたいな感じだからね」

ユウロに言われたとおり、私はワーシープになってからはまともに服を着ていない気がする。
と言っても下着は着ているが…というよりは下着ぐらいしか身につけていない。
まあ身体中を覆うもこもこの毛が短めと言っても服代わりになっているし、そもそもこの毛皮の上から服を着るのが大変だから最近は着ても上着を羽織っているだけの事が多い。
まあ別にこの恰好をしているからって注意されたこともないし、じろじろとエロい視線で見られた事もない…はず。
だから最近はまともに服を着ていなかったから、このローブが久しぶりにまともに着る服という事になる。

「あれ?もしかしてユウロ私が裸みたいなものだからって興奮しちゃったりしてるの?」
「そんな事はないけど…やっぱ毛皮が服みたいに思えるしな」

なんとなく聞いてみたが、普通に否定されてしまった。つまらないな…

「ま、いいや。それより夜ご飯にしよ!」
「そうだな。今日は昨日作って置いたカレーか…」
「今日は小型のハンバーグも付けるよ!」
「わーい!!ハンバーグカレーだー!!」
「うん、白米もいい感じに炊けてるね。じゃあ食器を取り出すよ」

大丈夫そうだと確認も終えたことだし、私達は夜ご飯を食べる事にした。



…………



………



……







「ふにゅ……すぅ……」

現在22時。
アメリちゃんはぐっすりと眠っているが…

「で、実際どうするよ?」
「うーん…二人で何とかできる?」
「相手によるね…こっちは退けるだけでも、相手は殺しに掛かってくる可能性もあるしね…」

私達はまだ話し合いをしていた。
これから勇者などに遭遇し、もしバレて襲われた時にどういった対処法をとるかという事でだ。
実際なんとかなるで済むとは思えないのでアメリちゃんが寝た後こうして話し合いをする事にしたのだ。

「そうは言っても、こっちで戦えるのは一応俺達二人だけだからな…」
「そうだね…せめて2人までなら…ただ一気に大勢に囲まれたりすると…」
「うーん…私の毛皮でなんとかならないかな…」

ただ、話し合いをしていても一向に良いアイデアは出てこない。
なのでなんとなく思った事を呟いたのだが…

「それは…不意打ちでならなんとかなるかもしれないけど…」
「…そんなまぬけがくるとは思えないけどな…」
「あ、やっぱダメか」

二人に否定されてしまった。


その後も23時辺りまで話は続いたが一向に良いアイデアは出ず、結論としてなにがなんでもアメリちゃんを護って全員死なない事を頭に入れながら行動すると言う事にした。





………………………………




ぐぅ…………




====================



「そういえば俺この状態のアメリちゃんは初めて見た気がする」
「そーだね。アメリテトラストに向かうときは人化のじゅつ使ってなかったもんね」
「うーん…人間に化けてたらホルミに襲われなかったのかな?」
「そうかも…こんどから魔物にやさしくない場所の近くを歩くときはなるべく使おっかな…つかれるけど…」

現在11時。
テントから出た私達は、予定通り魔物だと言う事を隠しながらヘプタリアに向かっていた。

私はローブで顔以外を隠しながら、アメリちゃんは人化の術で角や尻尾、翼を隠している。
どこからどう見ても人間4人の旅人にしか見えない……はずだ。


…私は若干怪しい人みたいな雰囲気を醸し出している気がしないでもないが。


「というか本当に不思議だね…アメリちゃんに角とか無いのって違和感がある…」
「違和感と言えば…サマリのローブ姿も…怪しいって言えば怪しいよな…」
「だよね…他全員は普通の格好してるのになんで私だけって思われたらどうしようか…」

なぜ顔以外をすっぽりと隠しているのか聞かれたらどうしよう…
ごまかしきれないと大変な事になるかもしれない…
それが一般の傭兵だったらユウロが一発で倒せるとか言ってたけど、ユウロより強い勇者だったら本当に大変だ。

「そのときははやくにげてねサマリお姉ちゃん」
「それはアメリちゃんもね…」
「アメリは大丈夫!いざとなったらとんでにげるもん!」
「そうか…アメリちゃんは飛べるもんね…」

って事は私が一番危ないのか…
はぁ……アメリちゃんにまで心配されるとは…なんとか見返してやりたいなあ…



…………



………



……







「…うわ…嫌なパターンが来たんじゃね?」
「だね……でもあれは回避できないよね…」
「あれじゃあアメリとんでにげられないね…バレないようにしようねサマリお姉ちゃん!!」
「そうだね…なんかすぐバレそうで怖いんだけど…」

現在…ってそれどころじゃないや。
まだ相手には気付かれていないけど、見張りっぽい『者達』が私達の進行方向に居た。
しかも関所よろしくじっとその場に居るので隙を見て通り抜けるとか居なくなるのを待つとかは出来無さそうだ。
それに…その者達はただの見張りじゃなく…

「それにしたって…なんでよりによって『エンジェル』が居るんだよ…」
「エンジェルがついているって事はあの男も相当実力があるかもしれないね…」

そう、勇者の男とエンジェルの女の子という組み合わせなのだ。
まさかエンジェルが居るとは思っていなかったので、一気に怖くなってきた…
なぜなら、エンジェルは私やアメリちゃんの魔力を感知できるかもしれないし、アメリちゃんが飛んで逃げても相手も飛べて逃げ切れない可能性が出てきたからだ。

「まぁ…平然を装いながら行くか…でも覚悟はしておけよ」
「うん…行こう!」

私達は気付かれないように、そして気付かれてもすぐに対処出来るようにその二人の横を早歩きで通り抜ける事にした…




スタスタ…




スタスタ……




スタスタ………



スタs「そこの4人!止まりなさい!」ビクッ!


やはり止められてしまった。


「あなた達、何者ですか?どうやら親魔物領がある方角から来たようですが…」
「場合によっては…わかってるな?」

やはり見張りか何からしい。鋭い目つきで、武器をこちらに向けながら質問してきた。

「えっと…親魔物領は選んだ道が悪くて…ただ突き進んできただけです…」
「それは本当か?何の目的でここへ?」
「うーんと…ここはただの通り道で…俺達は宝探しの旅をしているのですが…」
「は?子供を連れているのにですか?」

…ユウロよ…いくらなんでもそれはないんじゃないのか?
咄嗟に言い訳をしたはいいが、言い訳の中身が微妙だったせいで余計に疑われたようだ。

「えっと…アメリはまいごになってたところをおくってもらってるの!」
「へぇー…そうですか…」
「え、はい!そうです!!」
「ごめんなさい。こいつは説明を飛ばしてしまう癖があるもので…」

ナイスアメリちゃん!
子供であるアメリちゃんがそう言った事で少し疑いが晴れたようだ。
武器はまだ手に持ってはいるが、こちらに向けはしなくなった。

「そうですか…では、なぜ一人だけやけに怪しい恰好を?」
「え、えっと…私ですか?」
「他に誰がいると?」

それで、やはり私の事を聞いてきた。
うまく誤魔化せるかな…

「その…私は昔全身に大きな火傷を負ってしまって…顔はなんとか大丈夫だったのですが…」
「ほう…ならその火傷の痕を見せてもらおうか?」
「な!?なんて事をいうのですか!?見られたくないからこんな可愛げのないものを着たくもないのに着ているんですよ!?それを脱いで見せろだなんて…あなたは女の敵です!!変態です!!
「えっ、あ、いや、その…」
「諦めましょうセニック…ワタシだって火傷の痕なんかあったら見られたくありませんから…」
「だけどセレン、それじゃあ……ああ、わかったよ」

どうやら上手く誤魔化せたようだ。我ながらなかなかの演技だった。
セレンと呼ばれたエンジェルがセニックと呼ばれた男に目で何かの合図をして、完全に疑いが晴れたようだ。

「では、ここを通っていいですか?」
「はい、どうぞ!」

ふぅ…なんとかなった…
これで一応不安は去ったけど…まだまだ油断ならないな…

「あ、そうだ。一つ言い忘れてました」
「へ?なんですか?」

と、先に進もうとしたら後ろからセレンちゃんに声を掛けられて…











「この先、魔物は生きて通れませんので…」
「オレに斬られてから行って下さいねっと!」










振り向いたら、アメリちゃんのすぐ後ろで剣を振り下ろそうとしているセニックさんが居た。



「え……!?」





ガシィィィン!!




「あっぶね〜…やっぱり気付いてやがったか…」
「ほぅ…お前はオレ達がわざと通した事に気づいていたのか…」

が、ギリギリのところでユウロが止めたので、アメリちゃんは無事に済んだ。

「まあな…テメエらから俺達に向けて殺気を感じたからな…」
「ちっ…やっぱ隠せるもんじゃねえのか…」
「まあ仕方ありませんよ…相手は魔物、しかも魔力の量からして上位種ですからね…殺気ぐらい出てしまいます…」

どうやらアメリちゃんが魔物であると二人にバレていたようだ。
それどころか上位の魔物であるともバレているようだが…

「どうして…私達が魔物だってわかったのですか?」

さっきまでのやりとりで、私はともかくアメリちゃんが魔物だってバレた理由がわからない。

「正確にはあなたはまだ半信半疑でしたけどね…あなた達…特にその子供のほうからは親魔物領を通ってきただけでは考えられない程の魔物の魔力が感じられましたからね…」

なるほど…会話云々以前の問題だったと言う事か…
しかし…魔物の魔力を感知できるって…このエンジェル…もしかしたら相当の実力を持っているのかも…

「つまり最初っから気付いていたというわけか…そして俺達が油断した所をズバッとヤるつもりだったと…」
「まあな!まっさか一番芝居が下手で残念そうなお前が気付くとは思わなかったよ!もしかして下手な芝居をする演技か?」
「うるせー!!俺はアドリブに弱いだけだ!!」

ユウロが顔を真っ赤にして言い訳をしている…今はそれどころじゃないのに…


「ま、お前らの本当の目的が何かは知らないが…そんなのオレ達にとってはどうでもいい…」

そう言いながらセニックさんはアメリちゃんに向けて剣の切先を向けて…



「あなたたちは…ここでワタシ達に討伐されるのですから…」

セレンちゃんは私に掌を突き出して…



それぞれ攻撃態勢に入った…





が…

「…おいお前、何のマネだ?」
「おいおい…仲間が攻撃されそうなのをだまって見ているわけ無いだろ…」

セニックさんとアメリちゃんの間にユウロが割って入り…


「なんですか?あなたは主神様を裏切り魔物を護るとでも言うのですか?」
「生憎だけど僕の故郷は水神信仰が主流だからね…それに魔物だから殺すなんて事を言う野蛮な神なんて信仰する気は起きないね!」

セレンちゃんと私の間にツバキが割って入り…


「だったら…お前ごと退治してやるよ!!

「今…主神様を野蛮と言いましたね…許しませんよ!!


そして…


「望むところだ!!やってみろよ三下勇者!!」

「別に許してもらう気は無いよ…仲間に手を出そうとした事、僕も許さないからね!!」

それぞれで闘いが始まった!


=======[ユウロ視点]=======



「オレの事を三下とは…ずいぶん余裕じゃねーか…よ!」
「ふん!そんな単調な攻撃が当たるか!!」

とは言っているものの、実際結構ギリギリだったりする。
左右に大きく振り下ろしているだけの単調な動きではあるが、斬りかかる毎にヒュンッと空気を斬る音がはっきりと聞こえるほどその速度がかなり速いのだ。
どうやら剣そのものは軽いようだが…

「じゃあこれならどうだ!!」
「うおっと!」

急に動きを変え俺の脇腹目掛けて横一線に斬りかかってきた。
なんとか身体をくの字に曲げかわしたが…

「うわぁ…マジかよ…」
「どうだ!オレの聖剣の切れ味は抜群だろ?」

剣先が掠っただけの服がパックリと斬られていた。
この切れ味…一発でも貰ったらヤバいか?

なんて考えていたら…

「ボーっとしてる余裕なんかあるのかよ!」
「うおっと!」

今度は下から振り上げるように俺に斬りかかってきた。
他事を考えていたせいで避けられそうもないので咄嗟に木刀で防ごうとして…気がついた。


掠っただけで斬れる聖剣に正面から木刀を当てて無事で済むかという事に…
もしかしたら木刀斬られるんじゃね?って事に気がついたのだ。

木刀を斬ったときに少しでも速度が落ちてくれたらまだ避ける余裕ができるかもしれないけど、スパッと切れたら俺もそのまま斬られておしまいだ。

はたして…どうなってしまうのか…





ガシィィィィン!!



「な!?」
「なにい〜!?」




自分でも驚く事が起きた。まさかこれほどとは…




斬りかかられた結果、木刀は斬られず、セニックの聖剣を受け止めたのだ。
流石ドリアードお墨付きの木から出来た木刀。強度がそこいらのものとは違う。
それどころか、俺を木刀ごと斬る気満々だったからか勢いよく振り上げたセニックは、止められた事によって…


ガチャン!!


「くそ…腕が痺れ…」
「ラッキー!今度はこっちの番だ!!」
「ちっ!!クソが!!」

衝撃により腕が痺れて剣を持てなくなり地面に落とした。
そのチャンスをわざわざ見逃すはずもなく、俺はセニックに思いっきり木刀を頭に向けて打ち付けた…が避けられてしまった。
だが、相手は武器が無いうえ腕は痺れて動かせないのだ。だからまだこちらが有利だ!

「おらあ!さっきまでの威勢はどうしたんだ三流勇者!!」
「ダマレ!!腕の痺れが取れたらお前なんか…!!」

どうやら手の痺れが取れたら何かをしでかすつもりらしい。
何されるかわからないから…セニックの腕の痺れが取れる前に何とかしないと…

「…ん?」

しかし、必死で木刀を振っているが、なかなか当たらない。
結構俺も型にはまっているところがあるから軌道を読まれやすいからよけられるのだろう…どうにかしないとな…

そんな感じで我武者羅に攻撃している時に気がついた。そこにあるはずの気配が無くなっているという事にだ。

ふと自分の後ろを横目で確認したら……誰も居なかった。
下を見てみると…俺とセニックの間に小さな影が見えた。

だったら…良い作戦を思いついた。
セニックの腕だけじゃなく全身を痺れさせてしまおう!



「腕の痺れが取れたら何をするかは知らないけど…これでどうだ!」

俺は大きく一歩踏み込んで…



思いっきりセニックの顎に木刀を突き上げた。



「はっ!痺れてるのは腕だけだぜ!そんな大きな動きをする攻撃なんか食らうかよ!!」


が、顔を上にあげられ避けられてしまった……





…って感じに見られるんだろうな普通は。

「もちろん、食らうとは思ってないよ…」
「あ…ああ……!!」

だが、俺はわざと大きな動きをして、顔を上げて避けさせるようにしたのだ。
なぜなら、セニックが顔を上げたその先に…


「今だアメリちゃん!!ホルミにやったアレを使うんだ!!」
「わかったよユウロお兄ちゃん!!『メドゥーサグレア』!!」
「ぐ!!クソ……このガキ……リリムだったの…かよ……」


いつの間にかリリムとしての姿で空を飛んでいたアメリちゃんがいるのだ。

影を見たときに、きっとアメリちゃんが上空に居るだろうと思ったのだ。
影の正体がセレンという選択肢は、その影が俺では無くセニックに向けて動いていたところと、少し蝙蝠の翼みたいな形をしていたところからなかった。
なのでこのまま闘っていてはどうなるかわからないので、俺はアメリちゃんが以前ホルミに使っていた全身を痺れさせて動けなくする魔法を使ってもらう事を思いついたのだ。
だから俺は顔を上にあげさせた。アメリちゃんも予想通りセニックに何かやろうとして待機していたので上手い事綺麗に決まったのだ。
この作戦はセニックも影に気付いていたなら成功しなかっただろう…ほんと上手くいって良かった。

アメリちゃんの魔法を受けたセニックは身体中が痺れたためか、全身を硬直させたまま仰向けに倒れた。

「クソ…二人掛りとは卑怯だぞ…」
「命取られそうなのに卑怯もクソもあるか!これはスポーツじゃないんだぜ?」
「チッ…一理あるのが腹立つ……テメエら覚えてろよ!!次は絶対に勝つ!」
「じゃ、今回は俺達の勝ちって事で…」




ガスンッ!!




「ぐはっ!!うぅ……」

俺は動けないセニックの鳩尾に思いっきり拳を打ち付けて気絶させた。
これで当分は動けないだろうし、いきなり痺れを何かしらの力で取り去って起き上がることもないだろう。

「ユウロお兄ちゃん大丈夫だった?」
「おう!アメリちゃんが空に居てくれたおかげで何かされる前に倒せたし何ともないよ!」
「よかった〜…おなかきられたときはユウロお兄ちゃん死んじゃうんじゃないかってアメリ思ったよ…」

そう言って俺の服の斬られたところを触り始めたアメリちゃん。
その手は少し震えている…やっぱり怖かったのだろうか。

「ま、俺は簡単には死なないさ…安心しな!」

そう言って、俺はアメリちゃんの頭を撫でた。
あんまり触った事無かったけど、髪も角も柔らかいな…

「うん……えへへ///」

アメリちゃんは照れくさそうに笑った……かわいいなあ……



「そういえば…ツバキ達はどうなったんだ?」

俺はツバキ達が闘っているであろう場所に視線を向けた…


=======[ツバキ視点]=======



「何が仲間ですか!!魔物に魅入られ堕ちた人間が!!」
「別に魅入られた訳でもないし、旅仲間である事には変わりないからね」

このエンジェル…ちょっと怖いな…
なんで笑顔のままそんな怒りの言葉を口に出しているのだろうか?

「そうですか…ならあなたも主神様の名の下、討伐させていただきます!!『ホーリーフレイム』!!」

彼女が前に突き出したままだった手から魔法陣が広がり、神々しく虹色に輝く炎の塊がそこから僕に目掛けて放たれた。
避ける事も可能だが、もし僕が避けたらまだ後ろにいるサマリに当たってしまうかもしれない。

だから僕は…


「そんな魔法では……僕は倒せないよ!!」


スパッ!


「な!?う、嘘でしょ!?」
「す、凄いよツバキ!!」


セレンが放った魔法を…縦に思いっきり斬り裂いた。
そして斬られた魔法は僕達を避けて後ろにそのまま進んでいき、音を立てずに消えた。


「いったい何をしたのですか!?」
「僕の剣術の師匠は元退魔師でね。人よりはこういった魔法の類を斬ったりするほうが得意なんだ」

実際に習得するのに3年は掛かったけどね。
しかし思いだす…師匠の指導は厳しかったからなぁ…魔力を帯びた水で構成された芯を捉えないと斬れない球を1000個休みなしで斬らせるとか12歳にやらせる事じゃないよ…

「退魔師…なるほど…どおりでそんなふざけた芸当ができるのですか…」
「まあね…じゃあ今度はこっちから行くよ!」

僕は刀の峰のほうを向けて、セレンの腹部目掛けて横一線に振り抜いた。
だけど…

「ふん!そんなもの、飛んでしまえば当たりません!!」
「あーやっぱりか…」

僕の刀はセレンに当たる事無く空中を裂くだけだった。
彼女は僕の刀が当たらない場所で、相変わらずどこか怖い笑顔で飛んでいた。

「では、これを防ぎきる事は出来ますか?『ミサイルニードル』!!」
「うっそお!?ちょっと不味いな…」

そしてセレンの翼が大きく広がり、大きな魔法陣が翼を中心に展開して、僕に向かってそこから針状の魔力の塊が無数に降り注ぎ始めた。
さすがに数が多すぎて全部を撃ち落とす事は出来無さそうだから避けるしかない。
せめてもの救いは、サマリが先程の攻撃を防いだ後にどこかに逃げてくれた事だろう。
だから僕はかわす事に集中することができる。

「さあ!!早く攻撃を受けて倒れるのです!!」
「くっ!うわっと!まだまだ!!」

少し顔に掠ったりはするが、まだ当たりまではしていない。
だが、このままでは時間の問題だ。どうにかしてセレンに攻撃しないと…




…あ、そうだ!


「ちょこまかと動かないでほしいです!」
「君本当にエンジェル?ちょっと怖いんだけど…」
「失礼な!ワタシは正真正銘、主神様から遣わされたエンジェルです!!怖いと思うのはあなた達は倒すべき存在だから容赦をしていないからです!!……ってああ!?」

よし!なんとなしに聞いた質問がうまく事を運んだようだ。
あれだけの大技を使うのには集中しなければならないだろう。だから僕は彼女の集中力を乱そうとして気にしてそうな事を彼女に聞こうとして、まずは普通に自分が気になっている事を聞いたのだ。
だけど彼女はそう言われたのが心外だったらしく、僕に向かってさっきまでの怖い笑顔じゃなく本当に怒った顔で僕に叫んできた。
その結果集中力が途切れたようで、魔法陣が消えて針も無くなった。

「うぅ…しまった…なら今度は接近戦です!!『ホーリーブレード』!!」
「へぇ…魔力で形成された剣か…」

セレンが呪文を唱えると、彼女の手から青白く光る、どこかセニックが持っている聖剣と同じような形状をした魔力が現れた。
そしてそのまま僕に向かって急降下しながらその剣を振りかざしてきた。



キイィィィン!!



「おっと!これは掻き消す事が出来無さそうだね…」
「あれ?その刀ごとあなたを斬るつもりだったのですが…やはり退魔の力が働いているようですね…」

刀で防ぎながらセレンの剣を掻き消すつもりだったが出来ずに金属音が辺りに響いた。
彼女も驚いた顔をしているのは、言葉から察するに僕の刀の強度に驚いているのだろう。
では、もっと驚いてもらおうか。

「言っておくけど、刀自体は普通の刀だよ」
「なっ!?ではなぜこんなに強度があるのですか!?」
「さあね?水神様のおかげじゃないかな?」

この刀で師匠の奥さんである水神様の魔力が纏っている水球を何回も斬ったのだからそれだけ魔力の影響で耐久力がついたのかもしれないし、また別の原因があるかもしれない。
小さい頃から大事に使っているだけあって今まで全く折れそうになった事すらないが、それが何故かは僕にもわからない。

「ふざけた事を…では更にその刀を折れるまで魔力を高めるだけです!!」
「ちょっとそれは困ったな…」

互いの力が均衡だからこそ今は鍔迫り合いみたいな状態が続いて会話まで出来るのだが、相手が強くなると流石に不味い。
このままじゃこっちがやられてしまうからどうにかしなければ……と思ったその時……



「スキあり!!もこもこホールド!!」
「えっ!?なっ!?あなたは!?」

逃げていたと思っていたサマリがセレンの後ろからがっしりと抱きついたのだ。

「くっ!魔物め!!離しなさい!!」
「離したら暴れるでしょ?このまま寝ちゃいましょ!」
「イヤっ!こうなったら…」

そのままの状態でセレンが何かをしようとしているのか、呪文を…

「『ラウドエクスpムプッ!?」
「もこもこインパクト!」

唱えようとしたところでよくわからない技名みたいなの付きでサマリが鞄の中に入れている自分の毛の塊をセレンの顔に押し付けた。
サマリの毛…つまりワーシープの毛なので…





「む〜〜〜〜!!む〜〜……ん〜………ん…………すぅ…………すぅ…………」





セレンはすやすやと先程までの暴れっぷりが嘘のように大人しく眠り始めた。
寝顔はアメリちゃん並に可愛らしいな…寝顔は。

「ふぅ…意外となんとかなるものね…」
「助かったよサマリ、ありがとう。でもなんで逃げてなかったの?」
「へ?ああ…逃げるにしても一人で遠くに行って誰か他の勇者なんかに遭遇したらそっちのほうが危ないから近くにいただけだよ」

なるほど…たしかにそれなら近くに居たほうが安全だね…盲点だったよ。

「それと、なんか二人でずっと睨み合いながらお話していたようだったからこっそり近付いて抱きつけば案外バレないかなと思って近付いてみたんだよ。結果大成功だったけど」
「はは…案外バカにできないねそれ」
「あれ?バカにしてたんだ…ちょっとショック…」

もこもこなんたら…案外恐ろしい事がわかった。
だって実際今僕達の目の前で無防備にぐっすりと寝ているセレンがいるのだから。

「ま、とにかく助かったよ。ありがとうね」
「いやいや///…ところでユウロ達はどうなったんだろう?」
「そうだね…無事だといいけど…」

僕はユウロ達が闘っているであろう場所に視線を向けた…




















……ちょうど終わったようでユウロも僕のほうに視線を向けていた。

「おー、ツバキとサマリも倒したか!」
「まあね。サマリのおかげだけど」
「まあこっちもアメリちゃんのおかげだけどな」

どうやら全員無事らしい…よかった。

「ま、この二人が目を覚ます前に急いでここを離れたほうがよさそうだね」
「だな。じゃあ行くからサマリはちゃんとローブを着て、アメリちゃんは人間に化けろよ」
「わかった」
「うん!」

準備も整ったので、僕達は急いでこの場から離れた…


=======[セレン視点]=======



ぐぅ…………



ぐぅ…………



ぐぅ………はっ!!


「しまった!!彼らは…ってセニック!大丈夫ですか!?

目を覚ましたワタシは、あの魔物達がまだ周りに居ないか探しましたが、彼らよりも前に倒れているセニックを見つけました。
なのでワタシはセニックに駆け寄りました…まだ眠気が完全に取れておらず、足取りが覚束ないですが…
どうやら彼らに倒されてしまったようですが…無事なのでしょうか…

「う、うーん…げほっ、げほっ…くっそ…」
「ほっ…どうやら大きな怪我は負ってないようですね…」

意識も取り戻したようですし、身体の様子からしてもたいした怪我はしていなさそう…安心しました…

「はっ!セレン、あいつらは!?」
「…どうやら逃げられてしまったようです…ワタシももう一人の魔物…ワーシープだったらしく、油断して眠らされてしまいました…」
「そうか…くっそ〜!!くやしいなあ!!」

本当に悔しいです。まさかワタシ達が負けるとは思いませんでしたから。

「早く探し出して討伐したいが…わるい、まだオレ動けそうもねえや」
「仕方ありません。彼らがワタシ達が住む街にいくのなら確実に討伐されるでしょうし、そうでなければあの街に被害はありません。ジパング人だと思われる人が旅仲間って言っていたのでおそらく街は大丈夫でしょう。とても悔しいですが今回は諦めましょう」
「はぁ…仕方ないか…くそっ……」

今回は負けを認めます。そして命を奪ったり、ワタシ達を魔物にしなかった事には感謝をしてあげましょう。


しかし、今度会った時は必ずセニックと一緒に討伐してみせます!!


その時を覚悟していなさい!!
12/05/02 20:46更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
最近忙しくてあまりSS作れなかったけどGWなので今のうちにいっぱい書くぞ!
ということで今回は勇者とエンジェル…セニックとセレンのコンビとのなんちゃってバトルでした。この作品中旅7を抜いて最長回になりました。
ラストからわかると思いますが、彼らはまたいつか登場します。

そして最近ずっと冒頭に出ていた人物の正体がわかりました…そう、実はネレイスとなって生きていたリンゴでした!!
ってたぶんほとんどの人が気付いていたと思いますがwww
そんなリンゴはちょっと怪しい雰囲気を出していますが…彼女はまだアメリちゃん達の前に姿を現しません。もう一話ほどお待ちください。

という事で次回は、今回と似たようななんちゃってバトル…今度は星座のほう…の予定。

あ、それと、「お前に私のキャラや街をコラボさせてやろう」と言って下さる方、いましたら感想かメールで言って下さい。別にリリムが居なくても構いませんのでお願いします。
ジパング以外もジパングから帰ってきてから行ったり会ったりさせますので…いつになるかはわかりませんが。
それと、逆にこの作品のキャラを使いたいって言う人がもしいれば、これも感想かメールで一言言ってくだされば誰を使っても構いません。処女・童貞喪失と死(自分も相手も)以外なら何してくれても構いませんので。

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