旅14 コラボルート 純白と漆黒とロリと旅
「おーい、待ってよ〜!!」
「はぁ…まったく…遅いよ!!」
目を閉じると、大切な幼馴染との思い出がよみがえってくる。
「ゴメン…いつもと着てるもの違うから動き辛くって…」
「ああそっか…じゃあ仕方ないか…ゴメンな気付かなくて」
これは、彼と隣町の祭りに行った時の記憶だ。
「いいよ謝らなくて…祭りだってはしゃいで動き辛くても綺麗な着物を着て来たのはわたしの勝手だし…」
「それでも、男として気付かなかったのは良くないかなって…」
祭りだからという建前で、彼と一緒に隣町まで出掛けるからという本音で普段は絶対着ない綺麗な着物を着たわたしは思うように動けず、置いていかれそうになっていた。
でも、彼はそんなわたしの事情を理解し、申し訳なさそうにして待ってくれた。
彼は全く悪くないのに…優しいからな…
「ううん…悪いのはわたし。それに、一緒に行けるだけで嬉しい!」
「そうか…あのな…」
「ん?なーに?」
「……なんでもない…」
この時はまだ言ってくれなかったけれど、きっと後に言ってくれた事を言おうとしたんだろうな…
「なんでもないって…まあいいけどさ…」
「ま、それより祭り楽しもうよ!」
「そうだね!」
そしてわたし達は二人で祭りを楽しんだ…
………………………
…目を開けると、その思い出の光景も消えてしまい、綺麗な青が広がるのみ。
でも、今日はいつもと違う。
なぜなら、彼が居る場所…自分の故郷がどこにあるかわかったからだ。
これでやっと彼に会える…
そして、一緒に居る事が出来るのだ…
だから、寂しくない。
だから、嬉しい。
わくわくしながら、わたしは故郷に向けて、その足を動かした……
=======[サマリ視点]=======
「楽しみだね〜♪」
「わくわく♪」
現在20時。
今日のお昼にファストサルド領を出発した私達は、親魔物領の港町『ヘプタリア』に向かって旅をする事にした。
なぜ港町か…それは…
「ジパングに行くのがそんなに楽しみなの?」
「うん!だってアメリジパングってきいたことあるだけでじっさいに見たことないもん!」
「私も!早くジパングに行きたい!!」
そう、私達はジパングに行ってみる事にしたのだ!
何故そんな話になったのか…
それは今日の15時頃の事である。
「次はどこに行こうか?」
「うーん…そうだね…」
私達はファストサルド領を出た後、とりあえず適当に歩いていた。
適当って言っても一応親魔物領がある方向だが、どこの町を目指してって事で歩いているのではない。
まあ、アメリちゃんのお姉さんがどこに居るかわからないってのが適当に歩いている理由かな。
「ユウロはどこか行きたい場所ってある?」
「そんなの俺に振られても…そうだなぁ…」
だからユウロに聞いてみた。
特に理由は無い。なんとなく困っていたから聞いただけだった。
「うーん……ジパング?」
「へっ?」「え?」「ほへ?」
「な、なんだよ…別に変な事は言ってないだろ?」
だが、ユウロはジパングに行きたいと言い出したのだ。
それを聞いた私とアメリちゃんは…
「ジパングか…あ〜私も行ってみたいかも!」
「アメリも行ってみたい!!ジパング行こうよ!!」
乗り気だった。
だって話には聞いたことあるけど、実際行った事どころか見た事すらないからね。
「あ、でも、ツバキはジパング人だし…行っても面白くないか…」
「そんなことはないよ。僕もたまにはジパングに帰りたくもなるしね」
ジパング人であるツバキもそう言うって事は行く気はあるのだろう。
「だったらさ、ジパングに行こう!!」
「さんせー!!」
「俺も賛成!!」
「ま、いいかな。白米はあるけどあっちの料理も恋しくなってきた頃だし」
ジパングに行くという意見に全員賛成したので、次の目的地はジパングに決定!
…って感じで、私達はジパングに向かう為に港町であるヘプタリアを目指す事にしたのだ。
「で、ヘプタリアまではどの位掛かる?」
「うーん…どうだろう…ラノナスで買った地図からすると数日は掛かるかな…」
「そっか…じゃあまずはどこか近い町を目指す?ずっと歩きっぱなしは精神的に疲れるってのを経験してるから…」
ジパングまで行くのには海を渡る必要がある。船旅になるとはいえ、いろいろと準備も必要だろう。
それに長くどこの町も着かずに歩き続けるのが大変なのはジーナとテトラスト間で経験済みだ。
しかもヘプタリアに続く道は反魔物領のすぐ近くだから用心しながら行かなければならないのだ。
なのでまずは遠回りにならない程度でどこかの町に行く事にしようと思う。
「とりあえずここ目指す?ここからだと一番近いし」
「どれどれ…マルクトか…確かにここから一番近い街か…」
地図を見てみると、ここからたいして掛からない場所に大きな街…『マルクト』があった。
「いいんじゃない?もしかしたらアメリちゃんのお姉さんが居たりしてね」
「ん?なんでサマリお姉ちゃん?」
「それは、アメリちゃんのお姉さんが今までずっと大きな街に居たからね…」
実際アクチさんといいリリスさんといいあったことがあるリリムはアメリちゃんを除き皆大きな街の領主をしていた。
だからまた領主かなにかやってそうな気がするのだが…当たってたりして。
「ま、とりあえず明日はマルクトを目指すか。この距離なら昼前には着くだろうしな」
「そうだね…どんな街だろう…」
いつもそうだが、自分が行ったことない土地に行くのはワクワクする。
興奮して眠れない…って事はないけど、それでも気持ちが高ぶって落ち着かない。
「で、今からどうする?もう寝る?」
「アメリまだねむくないよ!」
「じゃあ遊ぶか!」
まだ誰も眠くないと言う事で、私達は皆で遊ぶ事にした。
何の遊びしようかなと考えていたら…
「しりとりでもしようぜ!」
ユウロが提案してきたけど…なんだそれ?
「しりとり?お尻を触ったりして遊ぶの?」
「えっ!?ユウロお兄ちゃんアメリのおしりさわりたいんだ…ユウロお兄ちゃんやツバキお兄ちゃん、サマリお姉ちゃんならいいよ///」
「違う!そういう危ない遊びじゃないから!!」
なんだ、違うのか。てっきりお尻をとる=お尻を触る遊びだと思ったのに。
じゃあどんな遊びなんだろうか?と思ってたら…
「しりとりってのは言葉遊びで、簡単にルールを言うとある人が何か単語を言って、次の人がその単語の最後の文字から始まる単語を言って…て感じで続けていって、単語を言えなくなった人が負け。ちなみに『ん』で終わる言葉を言っても負けね」
「へえ〜、おもしろそう!早速やろうよ!」
ツバキがルールを簡単に教えてくれた。
聞いた感じだと面白そうだから早速やってみる事にした。
「おっしゃ!最初は…アメリちゃんからでいいか」
「わーい!何からはじめようかな…」
「じゃあ年齢順でアメリちゃん、サマリ、僕、ユウロの順番でいいね」
「別にいいぜ?俺負けねえし」
やっぱり面白くて、私達はアメリちゃんが眠くなった1時間後までしりとりをやり続けた。
ちなみに言うだけあってユウロは強かった。ツバキが「ぞ」攻めしても屈しないなんて…
あと意外とアメリちゃんが言葉を知っていてビックリした。やっぱ王女だから頭もいいのかな?
====================
「ここがマルクトかー」
「お店がいっぱいだー!!」
現在12時。
朝から歩き続けて、ほぼ予定通りお昼には到着する事が出来た。
今は街の北の方にいるのだが、人も魔物もいたるところに大勢いる。
カップルや夫婦は魔物とのほうが多い感じかな?
「あれ?」
「ん、どうしたアメリちゃん?」
と、アメリちゃんが急に首を傾げた。
何かを感じ取ったらしいが、もしかして…
「んっとね…なんかこのまちのどこかからお姉ちゃんの魔力を感じる…」
「本当に!?まさか領主とか!?」
どうやらアメリちゃんのお姉さんがこの街にも居るらしい。
だけど…アメリちゃんの様子が少し変だ。どうも何か引っかかるらしい。
「うーん…それはちがうと思う…」
「え?そうなの?」
「たぶん…わからないけど…でも少なくとも感じるのはあそこからじゃないよ?」
「あそこって……ああ…」
アメリちゃんが指差した方向、そこには…
「でかいね」
「でかいな」
「でかすぎるよ」
「たぶんりょうしゅさまのおうちってあれだよね?でもあそこからお姉ちゃんの魔力は感じないよ」
端が見えないほど長く続く高い塀、細部までこだわり彫られた柱、黒く輝く大きな鉄の門があった。
その門から見える建物はさらに大きいってもんじゃない。屋敷って言うより豪邸である。
今までの経験上確実にあそこが領主の屋敷だろう。
で、あそこから感じないと言う事は、今回はリリムが領主様ではないと。
じゃあ…一般市民なのか?それはそれで無理がある気がするけど…
「ま、とりあえずこの街にも居ることは確実なんだ。適当に周ってたら遇えるかもよ?」
「それもそうか…じゃあとりあえず飲食店探そうか」
「さんせー!だってアメリおなかすいてきたもん!」
ってことで、この街の観光をしながらよさそうな飲食店を探しつつアメリちゃんのお姉さんを探してみる事にした。
…………
………
……
…
「とりあえずここ入って見る?」
「そうね…ん?」
街のいろんな建物を見て周り大体30分位経った。
お腹も空いてきた事だし、今居る場所の近くにあった食事処『ハンカチーフ』に入ろうとしたのだが…
『今ユウタの事襲おうとしたでしょ!』
『ご、誤解ですよぉ!』
「あれ?何か騒ぎでも起きてるのか?」
その向かい側にある牛乳屋さん『ミルミルオーレ』から何か大きな声が聞こえてくる。
内容はよく聞こえないが…どうやら誰かが揉めているようだ。
その声が外まで漏れ出していて、店の前には野次馬が集まっていた。
「……あれ?このこえって…」
「へっ?アメリちゃん今何かいt…ってあれ?アメリちゃん?」
その漏れ出ていた声を聞いたアメリちゃんが何かに気付いたのかボソッと何かを言った。
よく聞こえなかったので聞き返そうとしたら…さっきまで居た場所にアメリちゃんは居なかった。
どこに行ったのだろうかと辺りを見回してみると…
「あ、いた!」
「え?どこに…って店に入るの!?」
アメリちゃんは野次馬を掻い潜り、ミルミルオーレの入口付近にいた。
そしてお店の中に入ろうとしていたので、私達も野次馬をよけながらアメリちゃんを追ってお店の中に入る事にした。
「もうやめなって…実際に何かされたわけじゃないんだからさ…」
「そうだけど…もう、なんで結婚したのにゆうたを狙う子が多いのかしら…ユウタもユウタよ!ちょっと目を離した隙にお店の手伝いしてるんだから…」
「いや、だって女性が一人でお店を営んでるなんて大変そうだったから…」
「もう…ユウタらしいけどさ…」
私達が店の中に入ったとき、ちょうど揉め事が終わったようで大きな声は聞こえなくなった。
どうやらこの店の店主のホルスタウロスさんとお客夫婦(かな?)の間で一悶着あったらしいが…ってあれ?
客の女性のほう…黒い角に白い翼と尻尾と髪で、後姿でもわかる無駄にでかいおっぱい…ってことは…
「やっぱり…おーい、フィオナお姉ちゃーん!!」
「ん?私の名前を呼ぶのはだれ……あ!」
振り返ったその顔は、少し違うがやはりアメリちゃんと似ていた…つまりリリムだった。
「アメリじゃない!久しぶり〜!どうしたの?」
「それはアメリのセリフだよ…フィオナお姉ちゃんこそどうしたの?」
どうやらそのリリム…フィオナさんの隣に居るやけに全身が黒い男の子をめぐって何か問題があったようだけど…
……ってあれ?
「アメリちゃんが知ってるお姉さん?」
「うん、そうだよ!フィオナお姉ちゃんはおうちにすんでるから知ってるよ!」
「へぇ〜…」
ってことは、たまたま旅行に来ていたお姉さんと偶然に再会したと言う事か。
そんなこともあるんだな…これだから旅は面白い。
「で、フィオナお姉ちゃん。いったいどうしたの?」
「そうそうアメリ聞いてよ!この子がユウタを襲おうとしたのよ!」
「ですからそれは誤解ですぅ…」
うん。どうやらフィオナさんの勘違いが原因で言い争いが起こっていたようだ。
まあそれだけこの全身黒の少年に思い入れがあr……
「誤解って…じゃあ何であなたユウタにハンカチのプレゼントを渡して、わざわざここで開けさせようとしたの?」
「え!?そ、それは何周年かは忘れたけどの開店記念の余りで…先程手伝ってもらったのでお礼として…」
「…ハンカチの色が赤なんだけど?」
『……』
どうやらフィオナさんの勘違いでも無かったようだ。
ホルスタウロスもそうなのかは知らないけど、確か同じような魔物『ミノタウロス』は赤いものを見ると興奮するはずだ。
もしホルスタウロスも同じなら…つまりそう言う事だろう。
「えっとぉ…ごめんなさい…優しい人ですからつい…」
店主のホルスタウロスさんもどうやら認めたようである。
「もうっ!何でユウタを狙う子が後を絶たないのかしら?」
「ははは……ところでフィオナ、そろそろいいかな?」
「何?」
「えっと…この子供は…妹?」
「へ?…ああ!ユウタは会ったことないんだっけ!そう、妹のアメリよ!お城に居ない姉妹達に会いたくて旅に出たのよ!」
「そうか…よろしくなアメリちゃん!オレの名前は黒崎ゆうた。フィオナの夫だ」
「よろしくね!ユウタお兄ちゃん!」
やはり見たことのない服を着ている漆黒の少年…ユウタさんはフィオナさんの旦那さんのようだ。
ツバキよりも髪や瞳が黒いイメージがあるほど黒く…どこか不思議な感じがする少年だ。
「…で、そちらの人達は?」
「そうそう、貴方達は?」
と、ここで二人が私達に気がついたようで、私達が何者かを聞いてきた。
なので、なんか恒例な気がするけど自己紹介をする事にした。
「私達はアメリちゃんと一緒に旅してます。で、私はサマリ。見ての通りワーシープですが、ちょっと前までは人間でした」
「俺はユウロ。元勇者で訳あって魅了を防いだりしてますが皆を危険から護るために一緒に旅してます」
「僕は椿。恰好は大陸のものですがジパング人です」
「そうなの…皆アメリの事お願いね!」
と、いいつつもフィオナさんが私のほうをじっと見てきた。
うーん…何か用でもあるのか?
「ところでサマリ…あなたもユウタの事狙わないよね?」
なるほど、そういうことか。
確かにさっきユウタさんを狙う子が多いって言ってたな…そりゃあ疑われても仕方ないか。
そのままでいてもアレだしはっきりと言っておくか。
「恋愛感情としての興味は一切無いです。そもそも恋愛感情というものがわかりません」
「…それはそれで心配になるけど…あなた本当に魔物娘?元人間でも女の子なら恋はするものよ?」
「そう言われましても…」
実際今まで誰かを恋愛対象として見たことは無いし、それは魔物になった今も変わらない。
別にツバキにも…ユウロ…にもそう見たことはない…はず。
ぐうぅぅぅぅ……
「あ…///」
ん?この音は…
「あら…ねえアメリ、お昼一緒に食べない?旅で出会った姉妹の話もちょっと興味あるし。ユウタもいいでしょ?」
「オレはいいけど…貴方達は?」
「よろしければ一緒に向かいの食事処で食べましょう!お二人の話も聞きたいですし」
アメリちゃんのお腹の音が建物の中に響いたので、私達は食事処ハンカチーフで一緒にご飯を食べる事にした。
…………
………
……
…
「って事は学生服がきまっているユウタくんは別世界から来たって事ですか!?」
「うーん…ちょっとだけ違うよユウロさん。オレはフィオナに召喚されたんだよ」
私達はフィオナさん達と一緒にこのハンカチーフでご飯を食べながらお互いの事を話していた。
そして、魔王城に住んでいるフィオナさん達がどうしてこの街に居たのかを聞いたのだ。
どうやらこの世界の事をあまり知らないユウタさんがフィオナさんに頼んでいろんな場所を見たいと言う事で、知り合いのヴァンパイアが領主を務めているこのマルクトにちょうど来ていたらしい。
『この世界』の事をあまり知らない…って事は、ユウタさんは別世界の人間という事。
以前にも別世界から来ていた人達…アレスさんとライムちゃんがいたから、疑う事はないけど…それにしたって不思議だ。
そうそう別世界から来た人なんて居ないと思うのだけど…よく遇うな…
「え!?そうなのですか!?」
「え、そ、そうだけど…私の勝手で、今までのユウタの人生を奪って…」
「まったフィオナ!!暗くなるのはやめようよ!」
それでお昼にしようとしたところでフィオナさんが何かを見つけて追っ払っている隙にユウタさんは大変そうにしていたさっきの店主を手伝っていて…ああなったらしい。
ちなみに追っ払った何かというのは…おそらくさっきから店の外から覗いているデュラハンだと思う女性ととエキドナさんとヴァンパイアだと思われる女性の事だろう。
ユウタさんを狙っているのかフィオナさんの反応を楽しみたいのかはわからないが、これは大変そうだ。
大変そうだと言えば、出会い方に何か問題でもあったのか、その話題に触れた途端にフィオナさんの表情が暗くなってしまい、今にでも泣き出しそうになってしまった。
「オレはフィオナと会えてよかったんだ。だからそんな顔をするなよな」
「うん…ありがとうユウタ…」
「おう…んっ!?」
「あっ」
「お熱いこって…」
「わ〜!!」
「す、すごい…」
だがすぐさまユウタさんがフォローして、フィオナさんは顔に明るさが戻ってきて…
私達だけでなく大勢が居る前で、ユウタさんに抱きついてキスをした。
大胆だなぁ…
「もう…大勢の前でするなよ!!恥ずかしいじゃないか!!」
「ごめんねユウタ…でも、これはあの子達に対しての見せしめよ!!」
そう言いながら先程覗いていた三人組…あ、よく見たらもう一人、山羊っぽい女の子もいた…その四人組のほうをキッと睨みつけた。
「あ!!なんでここに!?」
「もう…親衛隊という名の覗き魔じゃない…」
それに気付いた四人組は苦笑いしながらだったり、平然を装いながらも堂々と店の中に入ってきた。
「まさか気付いていたとはね…それともそこのワーシープの子が君に言ったのかい?」
「あのねぇクレマンティーヌ…あんなに堂々と覗き見してたら誰でも気付くわよ!!」
もしかして…このヴァンパイアがこの街の領主様かな?知り合いみたいだし。
あの豪邸に住んでいるのがヴァンパイア…貴族ってもんじゃない気が…雰囲気からしても凄い人だな…
「はぁ…だからやめましょうって言ったのですが…」
「よく言うのう…ならばなぜおぬしもわしらと一緒に覗いておったのじゃ?」
「あ、そ、それはですね隊長…」
「そうですよセスタさん。わざわざ首の固定具まで外したままで…」
「貴方達!!」
いやぁ…なんだか…
「賑やかだな…」
「そうだね…」
これはフィオナさんの苦労が絶えないわけだ。
でも、毎日楽しそうである。
「ところで君はアメリかい?」
「うんそうだよ!えっと…たしかお母さんのおともだちの…」
「クレマンティーヌだよ。ほとんど会ったことないが覚えてくれてたのかい?」
「うん!それにたしかそっちのバフォメットのお姉ちゃんは…ヘレネお姉ちゃんだっけ?」
「ヘレ『ナ』じゃ!」
へぇ…この山羊っぽい女の子が『バフォメット』か〜。
名前だけは聞いたことあったけど…可愛いな…
でも私も魔物になったからわかるのかな…このヘレナさん、凄い魔力を感じる。
やはり聞いた事があるように、上位の魔物なのだろう。
「あ!ごめんなさいヘレナお姉ちゃん!!」
「いや、別によい…まあわしもおぬしとはほとんど会った事ないから仕方ないだろう…ところでおぬし、『フラン』はどうしたのじゃ?城には居なかったようじゃからてっきり一緒におると思ったのじゃが…」
「…え?フランいないの?」
ん?フラン?誰の事だ?
アメリちゃんと一緒に居た魔物と言えば…クノイチのベリリさんしか思いつかないのだが…
アメリちゃんに聞いてみるか…
「えっとアメリちゃん?フランって誰?」
「…みんなはきにしなくていいよ…」
そう言ってかなり不機嫌な表情になった…本当に誰の事なんだろうか?
「で、貴方達はいつまでここにいるのかしら?」
と、フィオナさんが痺れを切らしてこの四人組に尤もな質問をした。
「ここは私の領地だから居てもおかしくは無いと思うのだが?」
「…それ以外は?」
「親衛隊として近くに居るのは当然じゃろ?」
「…どうせセスタも同じ事言うのでしょ?エリヴェラは?」
「ユウタ君を見ていたいからに決まってるじゃないですか!」
「…堂々とし過ぎて何も言えないわ…」
一人の男を複数の魔物が好きになることは良くある事…それを改めて実感した…
「…ユウタさんもてもてですね」
「あはは…」
当の本人は若干困りつつも、満更でもなさそうにしていた。
「まあ、皆元気で毎日が楽しいからね…たまに家族…双子の姉を思い出す事もあるけど…それでもこの世界に来た事を悔やんだりはしないさ」
「え?双子のお姉さんが居るんですか?」
「ああ…うん…まあ……」
その話題はあまり触れなかったほうが良かったのか、ユウタさんはどこか遠い目をしていた。
………………
……………
…………
………
……
…
「いろいろ案内してもらいありがとうございました!」
「いや、いいさ。親友の娘のためでもあるんだ。これぐらいはするさ」
私達はその後クレマンティーヌさんの案内でいろんなお店を周り、旅に必要な物を買いそろえた。
中には妖孤とは違う狐の魔物が開いている不思議なお店なんかもあり面白かった。
だが街全部を周りきれなかったので一晩この街に泊まろうと思い、そして宿まで案内してもらったのだ。
「それじゃアメリ、私達はお城に帰るから。怪我とかには気をつけてよ!」
「うん!心配してくれてありがとうフィオナお姉ちゃん!」
フィオナさんとユウタさんも一緒に周った。
本当はフィオナさんは二人きりのほうが良かったらしいが、ユウタさんが私達や他の人達と周ろうと言ったので渋々了解していた。
「それでは皆さんお元気で!」
「アメリの事よろしくお願いしますね!」
「はい!」
私達はお別れのあいさつをして、宿の中に入っていった…
「じゃあ帰ろうか!」
「二人で抜け駆けはさせんぞ?」
「…んもう…」
「……あれ?そういえば…」
「ん?どうしたのユウタ?」
「いや…オレって今着ている服を学生服だって言ったっけ?」
「え?いや、服の話題は触れてたじゃん。その時に私が言ったけど…」
「それって皆で街を周っている時だろ?でも昼ご飯を食べているときにも言われた気がするんだけど…」
「気のせいじゃない?だってこのガクセイフクってやつこの世界にはないもの」
「だよなぁ…」
====================
「いやぁ…凄い人たちだったね」
「そうだな…」
現在20時。
私達は宿の一室で今日の事を話していた。
もちろん皆同じ部屋である。ユウロとツバキの二人に襲われることは無いし、私が襲う事もまずないから問題は無い。もちろん性的な意味である。
「ユウタお兄ちゃんはちがう世界の人だっていってたけど…かえれないなんてかわいそう…」
「でも本人がそれでいいって言ってるんだからいいんじゃないかな?」
「そうだね…ユウタお兄ちゃんもフィオナお姉ちゃんもしあわせそうだからいっか!」
「あ、そうだアメリちゃん…」
ここでずっと疑問に思っていた事を聞いてみようと思う。
「そう言えb…」
「フランのことはきにしなくていいからね!」
「あ、えっと…その事じゃなくて…」
いや、実際そのフランという存在についてもかなり気になるのだが、アメリちゃんは頑なに言おうとしないので一先ずその事は置いておく事にして、違う事を聞く。
「アメリちゃん、ユウタさんの事見たことなかったの?初対面ぽかったけど…」
「うん…フィオナお姉ちゃんのけっこん式の時はアメリとおくから見てたからだんなさんのかおよく見えていなかったし、フィオナお姉ちゃんのおへやアメリとはなれてたからあまりあうことなかったし、それにフィオナお姉ちゃんがけっこんしてからは今日まで一度も会ってなかったから…」
「そうなの!?」
まさか同じ家に住んでいるのに滅多に会わないなんて…
「それだけ魔王城が大きいってことなんじゃないのか?」
「それもあるけど…お姉ちゃんけっこんしてからはたぶんユウタお兄ちゃんとラブラブしてたんじゃないかなぁ?」
「はは…かもね…」
人が多いとそれはそれで大変なんだなぁ…
やっぱりリリムって種族が確立しているだけあって多そうだし…こんな事もあるんだな…
その後アメリちゃんが眠くなり、私達は寝る事にした。
もちろん私はアメリちゃんを抱きながら寝た。
もちろんアメリちゃんの寝顔は究極の可愛さであった。
「はぁ…まったく…遅いよ!!」
目を閉じると、大切な幼馴染との思い出がよみがえってくる。
「ゴメン…いつもと着てるもの違うから動き辛くって…」
「ああそっか…じゃあ仕方ないか…ゴメンな気付かなくて」
これは、彼と隣町の祭りに行った時の記憶だ。
「いいよ謝らなくて…祭りだってはしゃいで動き辛くても綺麗な着物を着て来たのはわたしの勝手だし…」
「それでも、男として気付かなかったのは良くないかなって…」
祭りだからという建前で、彼と一緒に隣町まで出掛けるからという本音で普段は絶対着ない綺麗な着物を着たわたしは思うように動けず、置いていかれそうになっていた。
でも、彼はそんなわたしの事情を理解し、申し訳なさそうにして待ってくれた。
彼は全く悪くないのに…優しいからな…
「ううん…悪いのはわたし。それに、一緒に行けるだけで嬉しい!」
「そうか…あのな…」
「ん?なーに?」
「……なんでもない…」
この時はまだ言ってくれなかったけれど、きっと後に言ってくれた事を言おうとしたんだろうな…
「なんでもないって…まあいいけどさ…」
「ま、それより祭り楽しもうよ!」
「そうだね!」
そしてわたし達は二人で祭りを楽しんだ…
………………………
…目を開けると、その思い出の光景も消えてしまい、綺麗な青が広がるのみ。
でも、今日はいつもと違う。
なぜなら、彼が居る場所…自分の故郷がどこにあるかわかったからだ。
これでやっと彼に会える…
そして、一緒に居る事が出来るのだ…
だから、寂しくない。
だから、嬉しい。
わくわくしながら、わたしは故郷に向けて、その足を動かした……
=======[サマリ視点]=======
「楽しみだね〜♪」
「わくわく♪」
現在20時。
今日のお昼にファストサルド領を出発した私達は、親魔物領の港町『ヘプタリア』に向かって旅をする事にした。
なぜ港町か…それは…
「ジパングに行くのがそんなに楽しみなの?」
「うん!だってアメリジパングってきいたことあるだけでじっさいに見たことないもん!」
「私も!早くジパングに行きたい!!」
そう、私達はジパングに行ってみる事にしたのだ!
何故そんな話になったのか…
それは今日の15時頃の事である。
「次はどこに行こうか?」
「うーん…そうだね…」
私達はファストサルド領を出た後、とりあえず適当に歩いていた。
適当って言っても一応親魔物領がある方向だが、どこの町を目指してって事で歩いているのではない。
まあ、アメリちゃんのお姉さんがどこに居るかわからないってのが適当に歩いている理由かな。
「ユウロはどこか行きたい場所ってある?」
「そんなの俺に振られても…そうだなぁ…」
だからユウロに聞いてみた。
特に理由は無い。なんとなく困っていたから聞いただけだった。
「うーん……ジパング?」
「へっ?」「え?」「ほへ?」
「な、なんだよ…別に変な事は言ってないだろ?」
だが、ユウロはジパングに行きたいと言い出したのだ。
それを聞いた私とアメリちゃんは…
「ジパングか…あ〜私も行ってみたいかも!」
「アメリも行ってみたい!!ジパング行こうよ!!」
乗り気だった。
だって話には聞いたことあるけど、実際行った事どころか見た事すらないからね。
「あ、でも、ツバキはジパング人だし…行っても面白くないか…」
「そんなことはないよ。僕もたまにはジパングに帰りたくもなるしね」
ジパング人であるツバキもそう言うって事は行く気はあるのだろう。
「だったらさ、ジパングに行こう!!」
「さんせー!!」
「俺も賛成!!」
「ま、いいかな。白米はあるけどあっちの料理も恋しくなってきた頃だし」
ジパングに行くという意見に全員賛成したので、次の目的地はジパングに決定!
…って感じで、私達はジパングに向かう為に港町であるヘプタリアを目指す事にしたのだ。
「で、ヘプタリアまではどの位掛かる?」
「うーん…どうだろう…ラノナスで買った地図からすると数日は掛かるかな…」
「そっか…じゃあまずはどこか近い町を目指す?ずっと歩きっぱなしは精神的に疲れるってのを経験してるから…」
ジパングまで行くのには海を渡る必要がある。船旅になるとはいえ、いろいろと準備も必要だろう。
それに長くどこの町も着かずに歩き続けるのが大変なのはジーナとテトラスト間で経験済みだ。
しかもヘプタリアに続く道は反魔物領のすぐ近くだから用心しながら行かなければならないのだ。
なのでまずは遠回りにならない程度でどこかの町に行く事にしようと思う。
「とりあえずここ目指す?ここからだと一番近いし」
「どれどれ…マルクトか…確かにここから一番近い街か…」
地図を見てみると、ここからたいして掛からない場所に大きな街…『マルクト』があった。
「いいんじゃない?もしかしたらアメリちゃんのお姉さんが居たりしてね」
「ん?なんでサマリお姉ちゃん?」
「それは、アメリちゃんのお姉さんが今までずっと大きな街に居たからね…」
実際アクチさんといいリリスさんといいあったことがあるリリムはアメリちゃんを除き皆大きな街の領主をしていた。
だからまた領主かなにかやってそうな気がするのだが…当たってたりして。
「ま、とりあえず明日はマルクトを目指すか。この距離なら昼前には着くだろうしな」
「そうだね…どんな街だろう…」
いつもそうだが、自分が行ったことない土地に行くのはワクワクする。
興奮して眠れない…って事はないけど、それでも気持ちが高ぶって落ち着かない。
「で、今からどうする?もう寝る?」
「アメリまだねむくないよ!」
「じゃあ遊ぶか!」
まだ誰も眠くないと言う事で、私達は皆で遊ぶ事にした。
何の遊びしようかなと考えていたら…
「しりとりでもしようぜ!」
ユウロが提案してきたけど…なんだそれ?
「しりとり?お尻を触ったりして遊ぶの?」
「えっ!?ユウロお兄ちゃんアメリのおしりさわりたいんだ…ユウロお兄ちゃんやツバキお兄ちゃん、サマリお姉ちゃんならいいよ///」
「違う!そういう危ない遊びじゃないから!!」
なんだ、違うのか。てっきりお尻をとる=お尻を触る遊びだと思ったのに。
じゃあどんな遊びなんだろうか?と思ってたら…
「しりとりってのは言葉遊びで、簡単にルールを言うとある人が何か単語を言って、次の人がその単語の最後の文字から始まる単語を言って…て感じで続けていって、単語を言えなくなった人が負け。ちなみに『ん』で終わる言葉を言っても負けね」
「へえ〜、おもしろそう!早速やろうよ!」
ツバキがルールを簡単に教えてくれた。
聞いた感じだと面白そうだから早速やってみる事にした。
「おっしゃ!最初は…アメリちゃんからでいいか」
「わーい!何からはじめようかな…」
「じゃあ年齢順でアメリちゃん、サマリ、僕、ユウロの順番でいいね」
「別にいいぜ?俺負けねえし」
やっぱり面白くて、私達はアメリちゃんが眠くなった1時間後までしりとりをやり続けた。
ちなみに言うだけあってユウロは強かった。ツバキが「ぞ」攻めしても屈しないなんて…
あと意外とアメリちゃんが言葉を知っていてビックリした。やっぱ王女だから頭もいいのかな?
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「ここがマルクトかー」
「お店がいっぱいだー!!」
現在12時。
朝から歩き続けて、ほぼ予定通りお昼には到着する事が出来た。
今は街の北の方にいるのだが、人も魔物もいたるところに大勢いる。
カップルや夫婦は魔物とのほうが多い感じかな?
「あれ?」
「ん、どうしたアメリちゃん?」
と、アメリちゃんが急に首を傾げた。
何かを感じ取ったらしいが、もしかして…
「んっとね…なんかこのまちのどこかからお姉ちゃんの魔力を感じる…」
「本当に!?まさか領主とか!?」
どうやらアメリちゃんのお姉さんがこの街にも居るらしい。
だけど…アメリちゃんの様子が少し変だ。どうも何か引っかかるらしい。
「うーん…それはちがうと思う…」
「え?そうなの?」
「たぶん…わからないけど…でも少なくとも感じるのはあそこからじゃないよ?」
「あそこって……ああ…」
アメリちゃんが指差した方向、そこには…
「でかいね」
「でかいな」
「でかすぎるよ」
「たぶんりょうしゅさまのおうちってあれだよね?でもあそこからお姉ちゃんの魔力は感じないよ」
端が見えないほど長く続く高い塀、細部までこだわり彫られた柱、黒く輝く大きな鉄の門があった。
その門から見える建物はさらに大きいってもんじゃない。屋敷って言うより豪邸である。
今までの経験上確実にあそこが領主の屋敷だろう。
で、あそこから感じないと言う事は、今回はリリムが領主様ではないと。
じゃあ…一般市民なのか?それはそれで無理がある気がするけど…
「ま、とりあえずこの街にも居ることは確実なんだ。適当に周ってたら遇えるかもよ?」
「それもそうか…じゃあとりあえず飲食店探そうか」
「さんせー!だってアメリおなかすいてきたもん!」
ってことで、この街の観光をしながらよさそうな飲食店を探しつつアメリちゃんのお姉さんを探してみる事にした。
…………
………
……
…
「とりあえずここ入って見る?」
「そうね…ん?」
街のいろんな建物を見て周り大体30分位経った。
お腹も空いてきた事だし、今居る場所の近くにあった食事処『ハンカチーフ』に入ろうとしたのだが…
『今ユウタの事襲おうとしたでしょ!』
『ご、誤解ですよぉ!』
「あれ?何か騒ぎでも起きてるのか?」
その向かい側にある牛乳屋さん『ミルミルオーレ』から何か大きな声が聞こえてくる。
内容はよく聞こえないが…どうやら誰かが揉めているようだ。
その声が外まで漏れ出していて、店の前には野次馬が集まっていた。
「……あれ?このこえって…」
「へっ?アメリちゃん今何かいt…ってあれ?アメリちゃん?」
その漏れ出ていた声を聞いたアメリちゃんが何かに気付いたのかボソッと何かを言った。
よく聞こえなかったので聞き返そうとしたら…さっきまで居た場所にアメリちゃんは居なかった。
どこに行ったのだろうかと辺りを見回してみると…
「あ、いた!」
「え?どこに…って店に入るの!?」
アメリちゃんは野次馬を掻い潜り、ミルミルオーレの入口付近にいた。
そしてお店の中に入ろうとしていたので、私達も野次馬をよけながらアメリちゃんを追ってお店の中に入る事にした。
「もうやめなって…実際に何かされたわけじゃないんだからさ…」
「そうだけど…もう、なんで結婚したのにゆうたを狙う子が多いのかしら…ユウタもユウタよ!ちょっと目を離した隙にお店の手伝いしてるんだから…」
「いや、だって女性が一人でお店を営んでるなんて大変そうだったから…」
「もう…ユウタらしいけどさ…」
私達が店の中に入ったとき、ちょうど揉め事が終わったようで大きな声は聞こえなくなった。
どうやらこの店の店主のホルスタウロスさんとお客夫婦(かな?)の間で一悶着あったらしいが…ってあれ?
客の女性のほう…黒い角に白い翼と尻尾と髪で、後姿でもわかる無駄にでかいおっぱい…ってことは…
「やっぱり…おーい、フィオナお姉ちゃーん!!」
「ん?私の名前を呼ぶのはだれ……あ!」
振り返ったその顔は、少し違うがやはりアメリちゃんと似ていた…つまりリリムだった。
「アメリじゃない!久しぶり〜!どうしたの?」
「それはアメリのセリフだよ…フィオナお姉ちゃんこそどうしたの?」
どうやらそのリリム…フィオナさんの隣に居るやけに全身が黒い男の子をめぐって何か問題があったようだけど…
……ってあれ?
「アメリちゃんが知ってるお姉さん?」
「うん、そうだよ!フィオナお姉ちゃんはおうちにすんでるから知ってるよ!」
「へぇ〜…」
ってことは、たまたま旅行に来ていたお姉さんと偶然に再会したと言う事か。
そんなこともあるんだな…これだから旅は面白い。
「で、フィオナお姉ちゃん。いったいどうしたの?」
「そうそうアメリ聞いてよ!この子がユウタを襲おうとしたのよ!」
「ですからそれは誤解ですぅ…」
うん。どうやらフィオナさんの勘違いが原因で言い争いが起こっていたようだ。
まあそれだけこの全身黒の少年に思い入れがあr……
「誤解って…じゃあ何であなたユウタにハンカチのプレゼントを渡して、わざわざここで開けさせようとしたの?」
「え!?そ、それは何周年かは忘れたけどの開店記念の余りで…先程手伝ってもらったのでお礼として…」
「…ハンカチの色が赤なんだけど?」
『……』
どうやらフィオナさんの勘違いでも無かったようだ。
ホルスタウロスもそうなのかは知らないけど、確か同じような魔物『ミノタウロス』は赤いものを見ると興奮するはずだ。
もしホルスタウロスも同じなら…つまりそう言う事だろう。
「えっとぉ…ごめんなさい…優しい人ですからつい…」
店主のホルスタウロスさんもどうやら認めたようである。
「もうっ!何でユウタを狙う子が後を絶たないのかしら?」
「ははは……ところでフィオナ、そろそろいいかな?」
「何?」
「えっと…この子供は…妹?」
「へ?…ああ!ユウタは会ったことないんだっけ!そう、妹のアメリよ!お城に居ない姉妹達に会いたくて旅に出たのよ!」
「そうか…よろしくなアメリちゃん!オレの名前は黒崎ゆうた。フィオナの夫だ」
「よろしくね!ユウタお兄ちゃん!」
やはり見たことのない服を着ている漆黒の少年…ユウタさんはフィオナさんの旦那さんのようだ。
ツバキよりも髪や瞳が黒いイメージがあるほど黒く…どこか不思議な感じがする少年だ。
「…で、そちらの人達は?」
「そうそう、貴方達は?」
と、ここで二人が私達に気がついたようで、私達が何者かを聞いてきた。
なので、なんか恒例な気がするけど自己紹介をする事にした。
「私達はアメリちゃんと一緒に旅してます。で、私はサマリ。見ての通りワーシープですが、ちょっと前までは人間でした」
「俺はユウロ。元勇者で訳あって魅了を防いだりしてますが皆を危険から護るために一緒に旅してます」
「僕は椿。恰好は大陸のものですがジパング人です」
「そうなの…皆アメリの事お願いね!」
と、いいつつもフィオナさんが私のほうをじっと見てきた。
うーん…何か用でもあるのか?
「ところでサマリ…あなたもユウタの事狙わないよね?」
なるほど、そういうことか。
確かにさっきユウタさんを狙う子が多いって言ってたな…そりゃあ疑われても仕方ないか。
そのままでいてもアレだしはっきりと言っておくか。
「恋愛感情としての興味は一切無いです。そもそも恋愛感情というものがわかりません」
「…それはそれで心配になるけど…あなた本当に魔物娘?元人間でも女の子なら恋はするものよ?」
「そう言われましても…」
実際今まで誰かを恋愛対象として見たことは無いし、それは魔物になった今も変わらない。
別にツバキにも…ユウロ…にもそう見たことはない…はず。
ぐうぅぅぅぅ……
「あ…///」
ん?この音は…
「あら…ねえアメリ、お昼一緒に食べない?旅で出会った姉妹の話もちょっと興味あるし。ユウタもいいでしょ?」
「オレはいいけど…貴方達は?」
「よろしければ一緒に向かいの食事処で食べましょう!お二人の話も聞きたいですし」
アメリちゃんのお腹の音が建物の中に響いたので、私達は食事処ハンカチーフで一緒にご飯を食べる事にした。
…………
………
……
…
「って事は学生服がきまっているユウタくんは別世界から来たって事ですか!?」
「うーん…ちょっとだけ違うよユウロさん。オレはフィオナに召喚されたんだよ」
私達はフィオナさん達と一緒にこのハンカチーフでご飯を食べながらお互いの事を話していた。
そして、魔王城に住んでいるフィオナさん達がどうしてこの街に居たのかを聞いたのだ。
どうやらこの世界の事をあまり知らないユウタさんがフィオナさんに頼んでいろんな場所を見たいと言う事で、知り合いのヴァンパイアが領主を務めているこのマルクトにちょうど来ていたらしい。
『この世界』の事をあまり知らない…って事は、ユウタさんは別世界の人間という事。
以前にも別世界から来ていた人達…アレスさんとライムちゃんがいたから、疑う事はないけど…それにしたって不思議だ。
そうそう別世界から来た人なんて居ないと思うのだけど…よく遇うな…
「え!?そうなのですか!?」
「え、そ、そうだけど…私の勝手で、今までのユウタの人生を奪って…」
「まったフィオナ!!暗くなるのはやめようよ!」
それでお昼にしようとしたところでフィオナさんが何かを見つけて追っ払っている隙にユウタさんは大変そうにしていたさっきの店主を手伝っていて…ああなったらしい。
ちなみに追っ払った何かというのは…おそらくさっきから店の外から覗いているデュラハンだと思う女性ととエキドナさんとヴァンパイアだと思われる女性の事だろう。
ユウタさんを狙っているのかフィオナさんの反応を楽しみたいのかはわからないが、これは大変そうだ。
大変そうだと言えば、出会い方に何か問題でもあったのか、その話題に触れた途端にフィオナさんの表情が暗くなってしまい、今にでも泣き出しそうになってしまった。
「オレはフィオナと会えてよかったんだ。だからそんな顔をするなよな」
「うん…ありがとうユウタ…」
「おう…んっ!?」
「あっ」
「お熱いこって…」
「わ〜!!」
「す、すごい…」
だがすぐさまユウタさんがフォローして、フィオナさんは顔に明るさが戻ってきて…
私達だけでなく大勢が居る前で、ユウタさんに抱きついてキスをした。
大胆だなぁ…
「もう…大勢の前でするなよ!!恥ずかしいじゃないか!!」
「ごめんねユウタ…でも、これはあの子達に対しての見せしめよ!!」
そう言いながら先程覗いていた三人組…あ、よく見たらもう一人、山羊っぽい女の子もいた…その四人組のほうをキッと睨みつけた。
「あ!!なんでここに!?」
「もう…親衛隊という名の覗き魔じゃない…」
それに気付いた四人組は苦笑いしながらだったり、平然を装いながらも堂々と店の中に入ってきた。
「まさか気付いていたとはね…それともそこのワーシープの子が君に言ったのかい?」
「あのねぇクレマンティーヌ…あんなに堂々と覗き見してたら誰でも気付くわよ!!」
もしかして…このヴァンパイアがこの街の領主様かな?知り合いみたいだし。
あの豪邸に住んでいるのがヴァンパイア…貴族ってもんじゃない気が…雰囲気からしても凄い人だな…
「はぁ…だからやめましょうって言ったのですが…」
「よく言うのう…ならばなぜおぬしもわしらと一緒に覗いておったのじゃ?」
「あ、そ、それはですね隊長…」
「そうですよセスタさん。わざわざ首の固定具まで外したままで…」
「貴方達!!」
いやぁ…なんだか…
「賑やかだな…」
「そうだね…」
これはフィオナさんの苦労が絶えないわけだ。
でも、毎日楽しそうである。
「ところで君はアメリかい?」
「うんそうだよ!えっと…たしかお母さんのおともだちの…」
「クレマンティーヌだよ。ほとんど会ったことないが覚えてくれてたのかい?」
「うん!それにたしかそっちのバフォメットのお姉ちゃんは…ヘレネお姉ちゃんだっけ?」
「ヘレ『ナ』じゃ!」
へぇ…この山羊っぽい女の子が『バフォメット』か〜。
名前だけは聞いたことあったけど…可愛いな…
でも私も魔物になったからわかるのかな…このヘレナさん、凄い魔力を感じる。
やはり聞いた事があるように、上位の魔物なのだろう。
「あ!ごめんなさいヘレナお姉ちゃん!!」
「いや、別によい…まあわしもおぬしとはほとんど会った事ないから仕方ないだろう…ところでおぬし、『フラン』はどうしたのじゃ?城には居なかったようじゃからてっきり一緒におると思ったのじゃが…」
「…え?フランいないの?」
ん?フラン?誰の事だ?
アメリちゃんと一緒に居た魔物と言えば…クノイチのベリリさんしか思いつかないのだが…
アメリちゃんに聞いてみるか…
「えっとアメリちゃん?フランって誰?」
「…みんなはきにしなくていいよ…」
そう言ってかなり不機嫌な表情になった…本当に誰の事なんだろうか?
「で、貴方達はいつまでここにいるのかしら?」
と、フィオナさんが痺れを切らしてこの四人組に尤もな質問をした。
「ここは私の領地だから居てもおかしくは無いと思うのだが?」
「…それ以外は?」
「親衛隊として近くに居るのは当然じゃろ?」
「…どうせセスタも同じ事言うのでしょ?エリヴェラは?」
「ユウタ君を見ていたいからに決まってるじゃないですか!」
「…堂々とし過ぎて何も言えないわ…」
一人の男を複数の魔物が好きになることは良くある事…それを改めて実感した…
「…ユウタさんもてもてですね」
「あはは…」
当の本人は若干困りつつも、満更でもなさそうにしていた。
「まあ、皆元気で毎日が楽しいからね…たまに家族…双子の姉を思い出す事もあるけど…それでもこの世界に来た事を悔やんだりはしないさ」
「え?双子のお姉さんが居るんですか?」
「ああ…うん…まあ……」
その話題はあまり触れなかったほうが良かったのか、ユウタさんはどこか遠い目をしていた。
………………
……………
…………
………
……
…
「いろいろ案内してもらいありがとうございました!」
「いや、いいさ。親友の娘のためでもあるんだ。これぐらいはするさ」
私達はその後クレマンティーヌさんの案内でいろんなお店を周り、旅に必要な物を買いそろえた。
中には妖孤とは違う狐の魔物が開いている不思議なお店なんかもあり面白かった。
だが街全部を周りきれなかったので一晩この街に泊まろうと思い、そして宿まで案内してもらったのだ。
「それじゃアメリ、私達はお城に帰るから。怪我とかには気をつけてよ!」
「うん!心配してくれてありがとうフィオナお姉ちゃん!」
フィオナさんとユウタさんも一緒に周った。
本当はフィオナさんは二人きりのほうが良かったらしいが、ユウタさんが私達や他の人達と周ろうと言ったので渋々了解していた。
「それでは皆さんお元気で!」
「アメリの事よろしくお願いしますね!」
「はい!」
私達はお別れのあいさつをして、宿の中に入っていった…
「じゃあ帰ろうか!」
「二人で抜け駆けはさせんぞ?」
「…んもう…」
「……あれ?そういえば…」
「ん?どうしたのユウタ?」
「いや…オレって今着ている服を学生服だって言ったっけ?」
「え?いや、服の話題は触れてたじゃん。その時に私が言ったけど…」
「それって皆で街を周っている時だろ?でも昼ご飯を食べているときにも言われた気がするんだけど…」
「気のせいじゃない?だってこのガクセイフクってやつこの世界にはないもの」
「だよなぁ…」
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「いやぁ…凄い人たちだったね」
「そうだな…」
現在20時。
私達は宿の一室で今日の事を話していた。
もちろん皆同じ部屋である。ユウロとツバキの二人に襲われることは無いし、私が襲う事もまずないから問題は無い。もちろん性的な意味である。
「ユウタお兄ちゃんはちがう世界の人だっていってたけど…かえれないなんてかわいそう…」
「でも本人がそれでいいって言ってるんだからいいんじゃないかな?」
「そうだね…ユウタお兄ちゃんもフィオナお姉ちゃんもしあわせそうだからいっか!」
「あ、そうだアメリちゃん…」
ここでずっと疑問に思っていた事を聞いてみようと思う。
「そう言えb…」
「フランのことはきにしなくていいからね!」
「あ、えっと…その事じゃなくて…」
いや、実際そのフランという存在についてもかなり気になるのだが、アメリちゃんは頑なに言おうとしないので一先ずその事は置いておく事にして、違う事を聞く。
「アメリちゃん、ユウタさんの事見たことなかったの?初対面ぽかったけど…」
「うん…フィオナお姉ちゃんのけっこん式の時はアメリとおくから見てたからだんなさんのかおよく見えていなかったし、フィオナお姉ちゃんのおへやアメリとはなれてたからあまりあうことなかったし、それにフィオナお姉ちゃんがけっこんしてからは今日まで一度も会ってなかったから…」
「そうなの!?」
まさか同じ家に住んでいるのに滅多に会わないなんて…
「それだけ魔王城が大きいってことなんじゃないのか?」
「それもあるけど…お姉ちゃんけっこんしてからはたぶんユウタお兄ちゃんとラブラブしてたんじゃないかなぁ?」
「はは…かもね…」
人が多いとそれはそれで大変なんだなぁ…
やっぱりリリムって種族が確立しているだけあって多そうだし…こんな事もあるんだな…
その後アメリちゃんが眠くなり、私達は寝る事にした。
もちろん私はアメリちゃんを抱きながら寝た。
もちろんアメリちゃんの寝顔は究極の可愛さであった。
12/04/21 21:37更新 / マイクロミー
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