旅10 少女が選ぶこれからの道
…
……
…………
……………………
「サマリお姉ちゃん!!」
「………はっ!!」
現在……何時だろうか?
アメリちゃんの叫び声が聞こえて、私は目を覚ました。
…ってここはどこだろうか?
たしか私はディナマを潰しに行って…リーダー格の男に攻撃され気絶し崖に落ちていくアメリちゃんを護るために崖に飛び出して…そのまま落ちて…気絶して……
で、今私の目の前に広がるのは白い……天井?
「あ!!サマリお姉ちゃんが目をさました!!」
あ、アメリちゃんが私の顔を覗き込んできた。
見た感じ身体は問題なさそうだ…良かった。
でも相変わらず可愛い顔はほんの少し目元が腫れている…泣いていたのかな?
「本当かアメリちゃん!?サマリ!意識はしっかりしてるか!?」
今度はユウロがアメリちゃんとは逆方向から現れた。
その表情は安堵と共にかなり疲れが見える…もしかして私何日か気絶したままでユウロが看護してくれていたのかな?
ってことはここは病院…かな?そういえば私ベッドみたいなものに寝ている気がするし…
「サマリ…良かったよ…無茶はしないでくれよ…」
さらにユウロの隣にツバキが現れた。
ちょっと厳しい事を言っているが、その表情はユウロと同じようなものだ…
心配させちゃったな…あやまらないと…
ガラガラガラガラ…バンッ!!
「サマリが起きたってホントか!?……おお!良かった!!心配したぞ!!」
急に勢いよく扉が開くような音とプロメの声がして…すぐにアメリちゃんの隣にプロメが現れた。
私が目を覚まして嬉しいのか、疲れこそ見えるもののその表情は笑顔だ。
そういえばネオムさんはどうなったんだろう…まあひとまずそれは置いといて…
「皆…なんか心配や迷惑をかけちゃったみたいだね…ごめんね…」
皆そろったし…私は起き上がって…謝ることにした。
「何言ってるんだ!サマリが生きて目を覚ましただけで良かったよ!」
「そうそう、気にする必要は無いよ。これは名誉の負傷なんだから!」
「誰もサマリを責めようだなんて思っていないさ!」
「よがっだ〜サマリお姉ぢゃ〜ん!!アメリをだずげでぐれでありがど〜!!」
「アメリちゃん落ち着いて!!ほら泣きやんで!皆もありがとうね…」
皆優しく…私を許してくれた。
アメリちゃんに至っては大泣きしながら私の胸に飛び込んできた。
「ちょっと皆さん!!お気持ちはわかりますがここは病院です!他の患者様に迷惑がかかるので静かにして下さい!!」
「あ、すいません…」
と、皆が私の無事を喜んでいたら入口から看護師さんと思われる人…じゃなくて魔物が注意してきた。
下半身が白い馬のようだからケンタウロスだと思うけど…ケンタウロスに角なんて生えていたっけなぁ?
「サマリさん、意識はきちんとありますか?」
「あ、はい。えーと、看護師さんですか?あとここはやっぱり病院ですか?」
「はい。私は看護師兼医師で、見ての通り『ユニコーン』です。ここはラノナスにある一番大きな病院ですよ」
看護師さんが軽く自己紹介をしてくれた。
ユニコーン?ケンタウロスじゃないのか?
いや、そういえば聞いたことがあるような気がする…ケンタウロスの亜種で治癒の魔術が強力な魔物だっけ。
…ああ、だから看護師兼医師か。
「では、身体で調子が悪いところはありますか?」
そう看護師さんに言われてから、私は気がついたことがあった。
「…私って今、足ついてますか?」
「……」
両足の感覚が…全くないのだ。
「…足は2本とも付いてはいますよ」
「…ついて『は』いる…って…ことは…」
たしかに、私の足があるのかベッドのシーツが少し足の形に浮いている。
だから、足は付いてはいるのだろう。
付いてはいるが…
「私の…足は…動かなくなっている…ということ…です…か?」
『え!?』
「……」
「……ごめんなさい…」
やっぱり…か…
「ちょ…ちょっと待てよ…看護師さん、アンタ確かほとんどの怪我を治癒したって…」
「ええ…ですが…サマリさんの足は粉砕骨折、しかも神経はズタズタで…私の治癒能力でも治らない可能性があって…頑張ってみましたが…」
「それで治らなかったのか…なんて事だ!そんなのあんまりじゃないか!」
打ちどころが悪すぎたのか…落ちた時から…足だけは感覚が全くなかったもんな…
「じゃあサマリお姉ちゃんはもう足がうごかないの!?」
「なんとかならないのですか!?」
「おい!どうなんだよ!?」
「そ、それは…」
「いいよ皆!」
皆が必死に看護師さんに言いよっているのを見て、私は申し訳ない気持ちと一緒に、皆がこんなにも私のことを思っていてくれるんだと嬉しくもあった。
「サマリ…」
「たしかに足は動かなくなっちゃったけど…私は生きてる!それだけで十分だよ!」
あの時アメリちゃんは死んじゃ嫌だって言っていたほどだ。それに自分でも見た感じかなりの重症だったはずだ。
なのに今の私には外傷がほとんどない。多少は痣や傷も残っているが身体の痛みはほぼ無くなっている。
ここまでの治癒を施されているんだ。足だけはどうにもならなかったのだろう。
自分の命が残っているのだ。十分素晴らしいじゃないか。
「でも…」
と、ここでアメリちゃんが私のほうを見ながら…
「サマリお姉ちゃん…足うごかないなら…旅できないよね?」
「……」
一番重要な事を言ってきた。
たしかに足が動かないならもう旅はできない。
それどころか帰るのですら困難だ。
私の旅は…ここで終わるしかない…
「アメリイヤだよ…サマリお姉ちゃんとこんなかんじで別れるなんてイヤだよ!!」
アメリちゃんがいくら泣き叫んでも…一緒に旅することはできない…
「サマリお姉ちゃん!もっといっしょに旅してたいよ!!」
そんな泣き叫ぶアメリちゃんを見て…
「…はは…ベリリさんにあわせる顔が無いや…」
私は…どうすることもできなかった…
なにが「私はアメリちゃんを悲しませるようなことはしません。アメリちゃんを残して消えるつもりは無いです」だよ…
今私はアメリちゃんを悲しませているじゃないか…
今私はアメリちゃんを残して消えるじゃないか…
でも…足が動かないのだから…どうしようもないじゃないか…!!
病室の中では…アメリちゃんの泣き叫ぶ声と…私のすすり泣く音しか…音はしていなかった…
「あ、あの〜…ちょっといいですか?」
と、ここで看護師さんが口を開いた。
「なんですか?」
「えっと…サマリさんが皆さんと旅を続ける方法が2つだけですが…あります…」
『えっ!?』
しかも、驚くことを言ってきた。
「おしえてユニコーンのお姉ちゃん!どうしたらサマリお姉ちゃんはアメリたちと旅を続けられるの!?」
「えっと…まず一つ目ですが…こちらを見て下さい」
そう言って看護師さんが廊下から何かを持ってきた。
それは…椅子みたいなものに何かの箱やレバー、それに車輪が付いているものだった。
「車いす…」
「え?これにそんな名前がついているのですか?」
「え、いや、なんとなくだよなんとなく!」
ユウロが車いすと言った物体…これはいったい何だろうか?
「えーと、こちらは町長の奥様がもしサマリさんが足が動かなくなっていた場合のために作成した車輪付き多機能椅子です」
町長の奥さん…たしかドワーフって魔物だったな…
「実際に触ってもらった方が早いでしょう。ではサマリさん、こちらに座っていただいて、ベルトを締めてもらいます。そして右手にあるレバーを動かすと…」
「…おお!」
その可動椅子に座りレバーを動かすと…なんとそれに合わせて椅子に付いている車輪も動いたのだ!
レバーを前に倒すと前に、後ろに倒すと後ろに、右に倒すと右に曲がり、左に倒すと左に曲がるのだ!
「それでは階段のほうへ行きます」
私は自分で動かして階段まできた。下りしかないってことはここは最上階だったのか。
「ではレバーに付いている青いほうのボタンを押してください」
「はい……ってわわっ!!」
言われたとおりに青いボタンを押したら椅子の下から空気が出て少し浮いた。
「このままゆっくりと階段のほうへお進みください」
ちょっと怖いがゆっくり前に出てみると…浮いているからか、まるで緩いスロープを下るかのように下りて行った。
「下まで降りましたね。では今度は上ってみてください」
同じようにさっき下りてきた階段に向かってゆっくりと進んでみると…やはり浮いているからか、こちらも緩いスロープを上るかのように上っていった。
「おお!!これ凄いですね!」
「ええ。ちなみに赤いボタンのほうは高速移動機能です。どうしても急ぐ必要がある場合のものですので、普段は押さないようにした方が身体にも負担がかからないのでいいですよ。またさっきのホバーも10分使用したら1時間は使用不可能になるそうなので気をつけて下さい」
「ほえ〜!!」
こんな便利な椅子を作りあげるとは…町長の奥さんのドワーフって…物作りの達人か何かなのか?
でも…
「これ、車輪が壊れたらまずくないですか?」
「…ええ。それがこれの弱点です」
じゃあダメじゃん。
旅は整備された綺麗な道を行くだけじゃないのだ。これじゃあ小石が転がる山道などは行けないじゃん。
「ユニコーンのお姉ちゃん…ふざけてるならアメリおこるよ?」
「いえ、ふざけてはないのですが…それに、もう一つの方法は確実に旅が出来るわけではないのです…」
ああ…だから一応旅が出来る方を先に紹介したのか…
「では、もう一つの方法って?」
「それは……」
看護師さんの次の言葉を聞いたとき…私は少し聞いたことを後悔した。
「何かしらの方法で…サマリさんが魔物になる事です」
看護師さんは…魔物になれと言ってきた。
「幸いお連れの方にはワーウルフにリリムと人間を魔物に変えることができる人もいますし、自分の足で旅をするというのならこちらのほうがお勧めです。こちらなら反魔物領以外ならどこでも気軽に行くことはできますから」
たしかに、魔物になれば……ん?
「え?なんで魔物になれば旅を自分の足で出来るようになるのですか?」
いくら魔物になっても私の身体であることには変わりがない筈では?
「魔物は人間と比べて遥かに丈夫で頑丈です。実際身体が弱くて寝たきり状態だった人が魔物になったことで元気にはしゃぎまわることが出来るようになったという例もあります。なのでもしかしたら足も治るかもしれません」
「かもってことは絶対ではないのですね?」
「はい…それはなんとも言えません…」
なるほどね…確かにそれなら魔物になるというのも手段の一つになる。
でも、確実じゃないのか…
「お?だったらアタシが一噛みしてやろうか?ワーウルフなら絶対元気になるだろうしな!」
「ダメ!!サマリお姉ちゃんはアメリが魔物にするの!!」
「あらあら…お二人はやる気満々ですね!」
魔物達は私を魔物にする気満々だが…
「こういうのは本人に聞いてみようか?なあサマリ、ワーウルフになりたくないか?」
「アメリならサマリお姉ちゃんがなりたい魔物になんでもかえれるよ!アメリにしてほしいよね?」
私は…
「ごめん皆!!…ちょっと一人にして…」
この状況になっても…悩んでいた…
だから…どうするかを一人で考えたかった…
「サマリがそう言っていることだし皆出ていくぞ。とりあえず廊下に出ろ〜」
私が魔物になるか…ならないかを…
=======[ユウロ視点]=======
「結局サマリはどうするんだろうな?ワーウルフになりたいって言ってくれないかなあ?」
「きっとサマリお姉ちゃんはアメリに魔物にしてほしいってたのんでくるよ!プロメお姉ちゃんのでばんはないよ!」
「お!言うねぇ…リリムって魔物化する際に魔力を大量に使うんじゃないのか?アメリは魔力足りているのか?」
「う……それは……」
「あ、それならうちの病院でフォローできますよ。子供が飲むにはちょっとキツイですが、一応精補給剤はうちの病院に沢山用意してあるので問題ないですよ」
「だって!」
「ふーん…それはよかったことで…それなら精が不足している魔物になったサマリも無暗にユウロやツバキを襲う事もないな!」
「あ、ホントだ!よかったねユウロお兄ちゃん!」
「……」
さて、勝手な事を言っている魔物どもになんて言おうかな?
「…あのなぁ…もしかしてお前ら全員サマリがどの種族になるかで悩んでいるのかと思っているのか?」
「「「え?ちがうの(ですか)?」」」
「…はぁ……」
これだから魔物は…
明らかにサマリが迷っていたのは、人間を辞めるかどうかだったじゃないか…
「まあ無理もないよ。魔物は皆人間の女を同族に変えたがっているようなものっていうか、たしか魔王って種族統一しようとしているからね…男は人間、女は魔物って具合にね」
「そうだよ!お母さんはそんな世界をめざしているんだよ!」
なるほどね…
だからサマリが魔物化を選ぶことを前提とした話しかしていないのか…
「サマリは…人間を辞めてまで旅を続けるか…人間のまま一生を過ごすかで悩んでいるんだよ…」
「え!?なんで!?魔物になったほうがアメリたちと旅できるしいいじゃん!」
「それでも!」
「!?」ビクッ!
俺の大きな声でアメリちゃんがビクッとしたが、気にせず続ける。
「それでも…人間にとって…魔物になるというのは…後戻りが出来ない…怖い選択なんだよ!!」
「…そうなのか?」
プロメが、この場に居るもう一人の人間…ツバキに確認した。
「…ああ、そうだね…魔物にはわからない…人間の複雑な部分だよ…」
ツバキは、わかっているようだ。
「そっか…だからサマリお姉ちゃんは魔物になりたくないって…」
「まあ実際はもっと複雑だろうな…人間でいることにこだわってはいなそうだけど、魔物になりたがっているわけでもない…もともとサマリは反魔物領出身なだけあって、アメリちゃんと出会うまでは魔物を絵などですら見たことなかったらしいからよけいにね…」
「ま、こればかりはサマリが自分で答えを見つけるしか方法は無いだろうね…足が動くようになるかは絶対じゃないのに魔物になってまで旅を続けるか…旅をやめ、足が一生動かないままでいてまで人間でいるか…」
ツバキの言うとおり、こればかりは他人がどうこう言えるものではない。
辛いかもしれないけど、サマリ自身が決めるしかないのだ。
「どれだけサマリが悩むかはわからないけど、サマリ自身が決めるまではこの話題は一切しないこと。アメリちゃんもプロメもわかった?」
「うん!」「ああ…まあ仕方ないか…」
二人ともわかってくれたようだ。
あとはサマリがどうするかだ。
俺としては一緒に旅がしていたい。今俺がこの旅をしているのはサマリのおかげだと言えるだろう。
そんなサマリが居なくなるってのは寂しいなんてもんじゃない。
でも、だから魔物になってくれとは絶対に言いたくない。他人に自分の考えを強要するのは良くない。
だから、サマリがどんな答えを出しても、俺は受け入れるつもりだ。
あとはアメリちゃんか…
サマリが怪我をした後、ずっとサマリが大怪我を負ったのは自分のせいだって泣いていた。それこそサマリの意識が無かった2日間ずっとだ。
表には出ていないけど、たぶん今もサマリの足が動かなくなってしまったのは自分のせいだと思っているのだろう。
俺達がいくら言っても、アメリちゃんはずっと自分を責めていた程だからきっとそうだろう。
そんなアメリちゃんが、今後サマリ無しで旅ができる精神状態でいられるかと言ったら…正直無理だろう。
だからサマリが魔物にならないと決めた時は…アメリちゃんもなんとか落ち込まないようにしたいが…難しいだろうな…
「さて、じゃあ今はそれぞれ自由行動だ。サマリが会いたくなったら自分からあの椅子を使ってくると思うからそれまでサマリに会いに行かないようにすること」
『了解!』
=======[サマリ視点]=======
「はぁ……………」
さて、どうしようか…
まさかこんな形で、しかも余裕が全くない状況で魔物になるかどうかを選ばざるを得なくなるとは思わなかった。
魔物にならなければならない時がきたらなるって考えていたけど…いざその時がきたら…決心がつかない。
魔物になる…それは、なにも悪い事ではない。
いままで旅の中で出会ってきた魔物達は、皆良い魔物ばかりだった。実際に主神が言っているような人を喰らうような魔物なんか誰一人としていなかった。
それどころか…人間との違いは見た目ぐらいじゃないかと思えるほどだ。
その見た目…人間に無いパーツがついていて違和感があるかと言われたら、全く無いと言える…いや、むしろそのパーツが付いていないほうが違和感が出てくるほど似合っていた。
だから、きっと私に人外のパーツが付いても問題なく思うだろう。
それに、そのパーツ以外は人間の女の子とほぼ変わらない見た目であるから…きっと魔物化した後でも人外のパーツが付くだけでそれ以外は私のままだと思う。
見た目が大きく変わることはなさそうだから、安心はできるだろう。
さらにアメリちゃんやプロメみたいな綺麗な身体が手に入るのだと考えたら…もの凄くお得だ。
それに、魔物になれば人間以上に丈夫で頑丈な身体が手に入る。
風邪をひいたり、今回のように大怪我することもぐっと少なくなるだろう。
旅をするうえでは体力が多いに越したことは無い。その点でも非常に魔物は優秀だろう。
また、今回みたいに戦闘することもまたあるかもしれない。その時魔物だったら私も戦う事が出来るかもしれないのだ。
つまり、料理だけでなく、もっといろんな事で皆の役に立てるかもしれない。
魔物化のメリットだけを考えれば自分から進んで魔物になるとはっきりと言う事ができるだろう。
魔物化のデメリットは…魔物だから勇者や教団から命を狙われる事と、思考がエロくなることかな?
でも、命を狙われるほうは、アメリちゃん達魔物と旅をしていれば人間のままでも殺される可能性はある。実際間違いだったとはいえホルミさんに殺されかけたのだから。
襲われた際魔物であるほうが生き残る可能性は高いと思う。
思考がエロくなるのも…別に問題は無い気がする。
流石にユウロやツバキを襲うかもって考えると怖くなるし…変な理由で変な男を好きになるのは嫌だけれど…そんなものは自分の心の問題だ。
今の私には恋愛感情なんてものも無いし、思ってもいない行動をすることもないだろう。
ここまで考えると…魔物になったほうが良いと思える。
また自分の足で…2本の足で大地を踏みしめながら旅が出来るかもしれないのだから。
でも…そうじゃない。
魔物になりたくない…人間のままでいたい私も…強く存在しているのだ。
メリットやデメリットじゃない。理屈なんかでは説明できない何かが…魔物になりたくないって叫んでいるのだ。
無理やり魔物に変えられるならともかく、判断が自分に委ねられているからこその叫びだ。
魔物になるというのは、もう人間に戻れないと言う事だ。
つまり、人間としての自分を…17年間生きていたサマリという人間をこの世から消すという事だ。
言うなれば…厳密には違うけど…自殺するようなものだ。
それに、私が魔物になったとき、私が私でいられる保証が無い。
考え方がエロい方向になると言うだけでも今の自分と大きく変わってしまうのじゃないだろうか?
今の人間である自分が魔物になって消えてしまわないか…もの凄く不安なのだ。
私は今までの旅の中で魔物になった元人間女性にあったことが無い。だから魔物化はどんなものなのか聞いた事すらないから余計にどうなるかわからず怖い。
一応メイドアルプさんは元人間だったけど男だし、魔物になった時の心境など詳しい事は聞いていない。
それに、魔物になるかどうかと言う事を考えている原因である私の足。
看護師さんの話では、魔物になったからって100%歩けるようになるわけではないというのが引っ掛かる。
もし魔物になっても足が動かなければ…なんで魔物になったのかわからなくなってしまう。
魔物になっても旅が出来ないのであれば、魔物になった意味が全くないのだ。
どうしてもなりたいわけじゃないから、余計悲しくなるだろう。
それに私の家は反魔物領…二度と帰ることはできなくなるという嫌なおまけがつく。
魔物になりたくないとは思えない…同時に、魔物になりたいとも思えない…
「ふぅ…………」
いくら考えてもキリがない…
悩めば悩むほどどうすればいいかわからなくなる…
決心が…どうしてもつかない。
「考え方を変えてみようかな…」
早く答えを出さないと皆にも迷惑がかかるだろう。
だから私は別の面から考えることにした。
……………
…………
………
……
…
ガラガラガラガラ……
「お、サマリ。もういいのか?」
「うん…これからどうするのか決めた」
現在20時。
皆が私に気を利かせてくれたのだろう。夜ご飯の時も含めてずっと私を一人にしてくれていた。
あのユニコーンの看護師さんも業務的な事と天気の話ぐらいしか話さなかったので気を利かせてくれていたのだと思う。
そのおかげもあって、私はどうするか決めることが出来た。
「ところでユウロ、皆は?」
早速私が決めたことを言おうとして例の可動椅子に座り廊下にでたら、月明かりが差し込む廊下でユウロが一人壁にもたれかかっていた。
他の皆の姿は見当たらない。
「えっと…俺はサマリに何かあるといけないから見張りをしてた…それで、プロメが一階下のネオムさんの病室でネオムさんの様子を見てる。アメリちゃんはたぶんここ数日の間よく居たこの廊下の先の曲がり角を左に曲がった先にあるバルコニーに居るかと。ツバキは町へ買い出しに行ってる。詳しい場所まではわからない」
「そう、ありがとう」
私は皆の場所をユウロから聞いた後、椅子を進め始めた。
私が決めたことを、皆に話すために…
私が皆の顔を…皆の事を思い浮かべながら選んだ答えを…これからの道を伝えるために…
「で、結局どうするんだ?」
「それはね…」
もちろん、ユウロにどうするかを言った後でだが…
………
……
…
キィィ…バタン
「ん?あ、サマリお姉ちゃん!」
「……」
私は、まず病院のバルコニーへ向かい、アメリちゃんに会う事にした。
「あれ?どうしたのサマリお姉ちゃん?へんなかおしてるよ?」
「え!?いや、なんでもないよ!!」
「ふーん…」
廊下からはわからなかったが、今日の月は丸くて、大きくて、どこか赤く光っていた。
その月の下にいたアメリちゃんが…いつもと違う風に感じた。
妖しく光る月の下で一人佇んでいるアメリちゃん…
瞳は紅く仄かに輝き、悪魔の翼が広がり、尻尾がゆっくりと揺らめく…
その見た目は…まるで私の命を刈りに来た…死神のように見えた。
可愛い見た目の、素直な心を持った…死神に。
その雰囲気に呑まれて、私は恐怖を感じていた。
アメリちゃんにいつもの調子で話しかけられたから今は恐怖は軽減したが。
「それで、サマリお姉ちゃんはどうするの?おはなしするためにアメリのところに来たんだよね?」
「うん、そうだよ…」
我ながらおかしな事を感じたと思ってはいる。
でも、あながち間違ってはいないとも思う。
それだけ、私が決めたことは…後悔と恐怖が大きいのだ…
「アメリちゃん…あのね…」
私が決めたこと…
私が出した答え…
私が選んだこれからの道…
「私を…アメリちゃんの手で…魔物にして……」
それは…魔物になること…
アメリちゃんに魔物にしてもらう事…
皆と一緒に旅が出来る可能性へ…足が治る可能性がある方に掛ける事だった。
「うん。わかった!」
私の言葉を聞いたアメリちゃんの笑顔は……私と言う存在を変える…どこか怖い悪魔のように思えたと同時に……私を救う可愛い天使のようにも思えた。
……
…………
……………………
「サマリお姉ちゃん!!」
「………はっ!!」
現在……何時だろうか?
アメリちゃんの叫び声が聞こえて、私は目を覚ました。
…ってここはどこだろうか?
たしか私はディナマを潰しに行って…リーダー格の男に攻撃され気絶し崖に落ちていくアメリちゃんを護るために崖に飛び出して…そのまま落ちて…気絶して……
で、今私の目の前に広がるのは白い……天井?
「あ!!サマリお姉ちゃんが目をさました!!」
あ、アメリちゃんが私の顔を覗き込んできた。
見た感じ身体は問題なさそうだ…良かった。
でも相変わらず可愛い顔はほんの少し目元が腫れている…泣いていたのかな?
「本当かアメリちゃん!?サマリ!意識はしっかりしてるか!?」
今度はユウロがアメリちゃんとは逆方向から現れた。
その表情は安堵と共にかなり疲れが見える…もしかして私何日か気絶したままでユウロが看護してくれていたのかな?
ってことはここは病院…かな?そういえば私ベッドみたいなものに寝ている気がするし…
「サマリ…良かったよ…無茶はしないでくれよ…」
さらにユウロの隣にツバキが現れた。
ちょっと厳しい事を言っているが、その表情はユウロと同じようなものだ…
心配させちゃったな…あやまらないと…
ガラガラガラガラ…バンッ!!
「サマリが起きたってホントか!?……おお!良かった!!心配したぞ!!」
急に勢いよく扉が開くような音とプロメの声がして…すぐにアメリちゃんの隣にプロメが現れた。
私が目を覚まして嬉しいのか、疲れこそ見えるもののその表情は笑顔だ。
そういえばネオムさんはどうなったんだろう…まあひとまずそれは置いといて…
「皆…なんか心配や迷惑をかけちゃったみたいだね…ごめんね…」
皆そろったし…私は起き上がって…謝ることにした。
「何言ってるんだ!サマリが生きて目を覚ましただけで良かったよ!」
「そうそう、気にする必要は無いよ。これは名誉の負傷なんだから!」
「誰もサマリを責めようだなんて思っていないさ!」
「よがっだ〜サマリお姉ぢゃ〜ん!!アメリをだずげでぐれでありがど〜!!」
「アメリちゃん落ち着いて!!ほら泣きやんで!皆もありがとうね…」
皆優しく…私を許してくれた。
アメリちゃんに至っては大泣きしながら私の胸に飛び込んできた。
「ちょっと皆さん!!お気持ちはわかりますがここは病院です!他の患者様に迷惑がかかるので静かにして下さい!!」
「あ、すいません…」
と、皆が私の無事を喜んでいたら入口から看護師さんと思われる人…じゃなくて魔物が注意してきた。
下半身が白い馬のようだからケンタウロスだと思うけど…ケンタウロスに角なんて生えていたっけなぁ?
「サマリさん、意識はきちんとありますか?」
「あ、はい。えーと、看護師さんですか?あとここはやっぱり病院ですか?」
「はい。私は看護師兼医師で、見ての通り『ユニコーン』です。ここはラノナスにある一番大きな病院ですよ」
看護師さんが軽く自己紹介をしてくれた。
ユニコーン?ケンタウロスじゃないのか?
いや、そういえば聞いたことがあるような気がする…ケンタウロスの亜種で治癒の魔術が強力な魔物だっけ。
…ああ、だから看護師兼医師か。
「では、身体で調子が悪いところはありますか?」
そう看護師さんに言われてから、私は気がついたことがあった。
「…私って今、足ついてますか?」
「……」
両足の感覚が…全くないのだ。
「…足は2本とも付いてはいますよ」
「…ついて『は』いる…って…ことは…」
たしかに、私の足があるのかベッドのシーツが少し足の形に浮いている。
だから、足は付いてはいるのだろう。
付いてはいるが…
「私の…足は…動かなくなっている…ということ…です…か?」
『え!?』
「……」
「……ごめんなさい…」
やっぱり…か…
「ちょ…ちょっと待てよ…看護師さん、アンタ確かほとんどの怪我を治癒したって…」
「ええ…ですが…サマリさんの足は粉砕骨折、しかも神経はズタズタで…私の治癒能力でも治らない可能性があって…頑張ってみましたが…」
「それで治らなかったのか…なんて事だ!そんなのあんまりじゃないか!」
打ちどころが悪すぎたのか…落ちた時から…足だけは感覚が全くなかったもんな…
「じゃあサマリお姉ちゃんはもう足がうごかないの!?」
「なんとかならないのですか!?」
「おい!どうなんだよ!?」
「そ、それは…」
「いいよ皆!」
皆が必死に看護師さんに言いよっているのを見て、私は申し訳ない気持ちと一緒に、皆がこんなにも私のことを思っていてくれるんだと嬉しくもあった。
「サマリ…」
「たしかに足は動かなくなっちゃったけど…私は生きてる!それだけで十分だよ!」
あの時アメリちゃんは死んじゃ嫌だって言っていたほどだ。それに自分でも見た感じかなりの重症だったはずだ。
なのに今の私には外傷がほとんどない。多少は痣や傷も残っているが身体の痛みはほぼ無くなっている。
ここまでの治癒を施されているんだ。足だけはどうにもならなかったのだろう。
自分の命が残っているのだ。十分素晴らしいじゃないか。
「でも…」
と、ここでアメリちゃんが私のほうを見ながら…
「サマリお姉ちゃん…足うごかないなら…旅できないよね?」
「……」
一番重要な事を言ってきた。
たしかに足が動かないならもう旅はできない。
それどころか帰るのですら困難だ。
私の旅は…ここで終わるしかない…
「アメリイヤだよ…サマリお姉ちゃんとこんなかんじで別れるなんてイヤだよ!!」
アメリちゃんがいくら泣き叫んでも…一緒に旅することはできない…
「サマリお姉ちゃん!もっといっしょに旅してたいよ!!」
そんな泣き叫ぶアメリちゃんを見て…
「…はは…ベリリさんにあわせる顔が無いや…」
私は…どうすることもできなかった…
なにが「私はアメリちゃんを悲しませるようなことはしません。アメリちゃんを残して消えるつもりは無いです」だよ…
今私はアメリちゃんを悲しませているじゃないか…
今私はアメリちゃんを残して消えるじゃないか…
でも…足が動かないのだから…どうしようもないじゃないか…!!
病室の中では…アメリちゃんの泣き叫ぶ声と…私のすすり泣く音しか…音はしていなかった…
「あ、あの〜…ちょっといいですか?」
と、ここで看護師さんが口を開いた。
「なんですか?」
「えっと…サマリさんが皆さんと旅を続ける方法が2つだけですが…あります…」
『えっ!?』
しかも、驚くことを言ってきた。
「おしえてユニコーンのお姉ちゃん!どうしたらサマリお姉ちゃんはアメリたちと旅を続けられるの!?」
「えっと…まず一つ目ですが…こちらを見て下さい」
そう言って看護師さんが廊下から何かを持ってきた。
それは…椅子みたいなものに何かの箱やレバー、それに車輪が付いているものだった。
「車いす…」
「え?これにそんな名前がついているのですか?」
「え、いや、なんとなくだよなんとなく!」
ユウロが車いすと言った物体…これはいったい何だろうか?
「えーと、こちらは町長の奥様がもしサマリさんが足が動かなくなっていた場合のために作成した車輪付き多機能椅子です」
町長の奥さん…たしかドワーフって魔物だったな…
「実際に触ってもらった方が早いでしょう。ではサマリさん、こちらに座っていただいて、ベルトを締めてもらいます。そして右手にあるレバーを動かすと…」
「…おお!」
その可動椅子に座りレバーを動かすと…なんとそれに合わせて椅子に付いている車輪も動いたのだ!
レバーを前に倒すと前に、後ろに倒すと後ろに、右に倒すと右に曲がり、左に倒すと左に曲がるのだ!
「それでは階段のほうへ行きます」
私は自分で動かして階段まできた。下りしかないってことはここは最上階だったのか。
「ではレバーに付いている青いほうのボタンを押してください」
「はい……ってわわっ!!」
言われたとおりに青いボタンを押したら椅子の下から空気が出て少し浮いた。
「このままゆっくりと階段のほうへお進みください」
ちょっと怖いがゆっくり前に出てみると…浮いているからか、まるで緩いスロープを下るかのように下りて行った。
「下まで降りましたね。では今度は上ってみてください」
同じようにさっき下りてきた階段に向かってゆっくりと進んでみると…やはり浮いているからか、こちらも緩いスロープを上るかのように上っていった。
「おお!!これ凄いですね!」
「ええ。ちなみに赤いボタンのほうは高速移動機能です。どうしても急ぐ必要がある場合のものですので、普段は押さないようにした方が身体にも負担がかからないのでいいですよ。またさっきのホバーも10分使用したら1時間は使用不可能になるそうなので気をつけて下さい」
「ほえ〜!!」
こんな便利な椅子を作りあげるとは…町長の奥さんのドワーフって…物作りの達人か何かなのか?
でも…
「これ、車輪が壊れたらまずくないですか?」
「…ええ。それがこれの弱点です」
じゃあダメじゃん。
旅は整備された綺麗な道を行くだけじゃないのだ。これじゃあ小石が転がる山道などは行けないじゃん。
「ユニコーンのお姉ちゃん…ふざけてるならアメリおこるよ?」
「いえ、ふざけてはないのですが…それに、もう一つの方法は確実に旅が出来るわけではないのです…」
ああ…だから一応旅が出来る方を先に紹介したのか…
「では、もう一つの方法って?」
「それは……」
看護師さんの次の言葉を聞いたとき…私は少し聞いたことを後悔した。
「何かしらの方法で…サマリさんが魔物になる事です」
看護師さんは…魔物になれと言ってきた。
「幸いお連れの方にはワーウルフにリリムと人間を魔物に変えることができる人もいますし、自分の足で旅をするというのならこちらのほうがお勧めです。こちらなら反魔物領以外ならどこでも気軽に行くことはできますから」
たしかに、魔物になれば……ん?
「え?なんで魔物になれば旅を自分の足で出来るようになるのですか?」
いくら魔物になっても私の身体であることには変わりがない筈では?
「魔物は人間と比べて遥かに丈夫で頑丈です。実際身体が弱くて寝たきり状態だった人が魔物になったことで元気にはしゃぎまわることが出来るようになったという例もあります。なのでもしかしたら足も治るかもしれません」
「かもってことは絶対ではないのですね?」
「はい…それはなんとも言えません…」
なるほどね…確かにそれなら魔物になるというのも手段の一つになる。
でも、確実じゃないのか…
「お?だったらアタシが一噛みしてやろうか?ワーウルフなら絶対元気になるだろうしな!」
「ダメ!!サマリお姉ちゃんはアメリが魔物にするの!!」
「あらあら…お二人はやる気満々ですね!」
魔物達は私を魔物にする気満々だが…
「こういうのは本人に聞いてみようか?なあサマリ、ワーウルフになりたくないか?」
「アメリならサマリお姉ちゃんがなりたい魔物になんでもかえれるよ!アメリにしてほしいよね?」
私は…
「ごめん皆!!…ちょっと一人にして…」
この状況になっても…悩んでいた…
だから…どうするかを一人で考えたかった…
「サマリがそう言っていることだし皆出ていくぞ。とりあえず廊下に出ろ〜」
私が魔物になるか…ならないかを…
=======[ユウロ視点]=======
「結局サマリはどうするんだろうな?ワーウルフになりたいって言ってくれないかなあ?」
「きっとサマリお姉ちゃんはアメリに魔物にしてほしいってたのんでくるよ!プロメお姉ちゃんのでばんはないよ!」
「お!言うねぇ…リリムって魔物化する際に魔力を大量に使うんじゃないのか?アメリは魔力足りているのか?」
「う……それは……」
「あ、それならうちの病院でフォローできますよ。子供が飲むにはちょっとキツイですが、一応精補給剤はうちの病院に沢山用意してあるので問題ないですよ」
「だって!」
「ふーん…それはよかったことで…それなら精が不足している魔物になったサマリも無暗にユウロやツバキを襲う事もないな!」
「あ、ホントだ!よかったねユウロお兄ちゃん!」
「……」
さて、勝手な事を言っている魔物どもになんて言おうかな?
「…あのなぁ…もしかしてお前ら全員サマリがどの種族になるかで悩んでいるのかと思っているのか?」
「「「え?ちがうの(ですか)?」」」
「…はぁ……」
これだから魔物は…
明らかにサマリが迷っていたのは、人間を辞めるかどうかだったじゃないか…
「まあ無理もないよ。魔物は皆人間の女を同族に変えたがっているようなものっていうか、たしか魔王って種族統一しようとしているからね…男は人間、女は魔物って具合にね」
「そうだよ!お母さんはそんな世界をめざしているんだよ!」
なるほどね…
だからサマリが魔物化を選ぶことを前提とした話しかしていないのか…
「サマリは…人間を辞めてまで旅を続けるか…人間のまま一生を過ごすかで悩んでいるんだよ…」
「え!?なんで!?魔物になったほうがアメリたちと旅できるしいいじゃん!」
「それでも!」
「!?」ビクッ!
俺の大きな声でアメリちゃんがビクッとしたが、気にせず続ける。
「それでも…人間にとって…魔物になるというのは…後戻りが出来ない…怖い選択なんだよ!!」
「…そうなのか?」
プロメが、この場に居るもう一人の人間…ツバキに確認した。
「…ああ、そうだね…魔物にはわからない…人間の複雑な部分だよ…」
ツバキは、わかっているようだ。
「そっか…だからサマリお姉ちゃんは魔物になりたくないって…」
「まあ実際はもっと複雑だろうな…人間でいることにこだわってはいなそうだけど、魔物になりたがっているわけでもない…もともとサマリは反魔物領出身なだけあって、アメリちゃんと出会うまでは魔物を絵などですら見たことなかったらしいからよけいにね…」
「ま、こればかりはサマリが自分で答えを見つけるしか方法は無いだろうね…足が動くようになるかは絶対じゃないのに魔物になってまで旅を続けるか…旅をやめ、足が一生動かないままでいてまで人間でいるか…」
ツバキの言うとおり、こればかりは他人がどうこう言えるものではない。
辛いかもしれないけど、サマリ自身が決めるしかないのだ。
「どれだけサマリが悩むかはわからないけど、サマリ自身が決めるまではこの話題は一切しないこと。アメリちゃんもプロメもわかった?」
「うん!」「ああ…まあ仕方ないか…」
二人ともわかってくれたようだ。
あとはサマリがどうするかだ。
俺としては一緒に旅がしていたい。今俺がこの旅をしているのはサマリのおかげだと言えるだろう。
そんなサマリが居なくなるってのは寂しいなんてもんじゃない。
でも、だから魔物になってくれとは絶対に言いたくない。他人に自分の考えを強要するのは良くない。
だから、サマリがどんな答えを出しても、俺は受け入れるつもりだ。
あとはアメリちゃんか…
サマリが怪我をした後、ずっとサマリが大怪我を負ったのは自分のせいだって泣いていた。それこそサマリの意識が無かった2日間ずっとだ。
表には出ていないけど、たぶん今もサマリの足が動かなくなってしまったのは自分のせいだと思っているのだろう。
俺達がいくら言っても、アメリちゃんはずっと自分を責めていた程だからきっとそうだろう。
そんなアメリちゃんが、今後サマリ無しで旅ができる精神状態でいられるかと言ったら…正直無理だろう。
だからサマリが魔物にならないと決めた時は…アメリちゃんもなんとか落ち込まないようにしたいが…難しいだろうな…
「さて、じゃあ今はそれぞれ自由行動だ。サマリが会いたくなったら自分からあの椅子を使ってくると思うからそれまでサマリに会いに行かないようにすること」
『了解!』
=======[サマリ視点]=======
「はぁ……………」
さて、どうしようか…
まさかこんな形で、しかも余裕が全くない状況で魔物になるかどうかを選ばざるを得なくなるとは思わなかった。
魔物にならなければならない時がきたらなるって考えていたけど…いざその時がきたら…決心がつかない。
魔物になる…それは、なにも悪い事ではない。
いままで旅の中で出会ってきた魔物達は、皆良い魔物ばかりだった。実際に主神が言っているような人を喰らうような魔物なんか誰一人としていなかった。
それどころか…人間との違いは見た目ぐらいじゃないかと思えるほどだ。
その見た目…人間に無いパーツがついていて違和感があるかと言われたら、全く無いと言える…いや、むしろそのパーツが付いていないほうが違和感が出てくるほど似合っていた。
だから、きっと私に人外のパーツが付いても問題なく思うだろう。
それに、そのパーツ以外は人間の女の子とほぼ変わらない見た目であるから…きっと魔物化した後でも人外のパーツが付くだけでそれ以外は私のままだと思う。
見た目が大きく変わることはなさそうだから、安心はできるだろう。
さらにアメリちゃんやプロメみたいな綺麗な身体が手に入るのだと考えたら…もの凄くお得だ。
それに、魔物になれば人間以上に丈夫で頑丈な身体が手に入る。
風邪をひいたり、今回のように大怪我することもぐっと少なくなるだろう。
旅をするうえでは体力が多いに越したことは無い。その点でも非常に魔物は優秀だろう。
また、今回みたいに戦闘することもまたあるかもしれない。その時魔物だったら私も戦う事が出来るかもしれないのだ。
つまり、料理だけでなく、もっといろんな事で皆の役に立てるかもしれない。
魔物化のメリットだけを考えれば自分から進んで魔物になるとはっきりと言う事ができるだろう。
魔物化のデメリットは…魔物だから勇者や教団から命を狙われる事と、思考がエロくなることかな?
でも、命を狙われるほうは、アメリちゃん達魔物と旅をしていれば人間のままでも殺される可能性はある。実際間違いだったとはいえホルミさんに殺されかけたのだから。
襲われた際魔物であるほうが生き残る可能性は高いと思う。
思考がエロくなるのも…別に問題は無い気がする。
流石にユウロやツバキを襲うかもって考えると怖くなるし…変な理由で変な男を好きになるのは嫌だけれど…そんなものは自分の心の問題だ。
今の私には恋愛感情なんてものも無いし、思ってもいない行動をすることもないだろう。
ここまで考えると…魔物になったほうが良いと思える。
また自分の足で…2本の足で大地を踏みしめながら旅が出来るかもしれないのだから。
でも…そうじゃない。
魔物になりたくない…人間のままでいたい私も…強く存在しているのだ。
メリットやデメリットじゃない。理屈なんかでは説明できない何かが…魔物になりたくないって叫んでいるのだ。
無理やり魔物に変えられるならともかく、判断が自分に委ねられているからこその叫びだ。
魔物になるというのは、もう人間に戻れないと言う事だ。
つまり、人間としての自分を…17年間生きていたサマリという人間をこの世から消すという事だ。
言うなれば…厳密には違うけど…自殺するようなものだ。
それに、私が魔物になったとき、私が私でいられる保証が無い。
考え方がエロい方向になると言うだけでも今の自分と大きく変わってしまうのじゃないだろうか?
今の人間である自分が魔物になって消えてしまわないか…もの凄く不安なのだ。
私は今までの旅の中で魔物になった元人間女性にあったことが無い。だから魔物化はどんなものなのか聞いた事すらないから余計にどうなるかわからず怖い。
一応メイドアルプさんは元人間だったけど男だし、魔物になった時の心境など詳しい事は聞いていない。
それに、魔物になるかどうかと言う事を考えている原因である私の足。
看護師さんの話では、魔物になったからって100%歩けるようになるわけではないというのが引っ掛かる。
もし魔物になっても足が動かなければ…なんで魔物になったのかわからなくなってしまう。
魔物になっても旅が出来ないのであれば、魔物になった意味が全くないのだ。
どうしてもなりたいわけじゃないから、余計悲しくなるだろう。
それに私の家は反魔物領…二度と帰ることはできなくなるという嫌なおまけがつく。
魔物になりたくないとは思えない…同時に、魔物になりたいとも思えない…
「ふぅ…………」
いくら考えてもキリがない…
悩めば悩むほどどうすればいいかわからなくなる…
決心が…どうしてもつかない。
「考え方を変えてみようかな…」
早く答えを出さないと皆にも迷惑がかかるだろう。
だから私は別の面から考えることにした。
……………
…………
………
……
…
ガラガラガラガラ……
「お、サマリ。もういいのか?」
「うん…これからどうするのか決めた」
現在20時。
皆が私に気を利かせてくれたのだろう。夜ご飯の時も含めてずっと私を一人にしてくれていた。
あのユニコーンの看護師さんも業務的な事と天気の話ぐらいしか話さなかったので気を利かせてくれていたのだと思う。
そのおかげもあって、私はどうするか決めることが出来た。
「ところでユウロ、皆は?」
早速私が決めたことを言おうとして例の可動椅子に座り廊下にでたら、月明かりが差し込む廊下でユウロが一人壁にもたれかかっていた。
他の皆の姿は見当たらない。
「えっと…俺はサマリに何かあるといけないから見張りをしてた…それで、プロメが一階下のネオムさんの病室でネオムさんの様子を見てる。アメリちゃんはたぶんここ数日の間よく居たこの廊下の先の曲がり角を左に曲がった先にあるバルコニーに居るかと。ツバキは町へ買い出しに行ってる。詳しい場所まではわからない」
「そう、ありがとう」
私は皆の場所をユウロから聞いた後、椅子を進め始めた。
私が決めたことを、皆に話すために…
私が皆の顔を…皆の事を思い浮かべながら選んだ答えを…これからの道を伝えるために…
「で、結局どうするんだ?」
「それはね…」
もちろん、ユウロにどうするかを言った後でだが…
………
……
…
キィィ…バタン
「ん?あ、サマリお姉ちゃん!」
「……」
私は、まず病院のバルコニーへ向かい、アメリちゃんに会う事にした。
「あれ?どうしたのサマリお姉ちゃん?へんなかおしてるよ?」
「え!?いや、なんでもないよ!!」
「ふーん…」
廊下からはわからなかったが、今日の月は丸くて、大きくて、どこか赤く光っていた。
その月の下にいたアメリちゃんが…いつもと違う風に感じた。
妖しく光る月の下で一人佇んでいるアメリちゃん…
瞳は紅く仄かに輝き、悪魔の翼が広がり、尻尾がゆっくりと揺らめく…
その見た目は…まるで私の命を刈りに来た…死神のように見えた。
可愛い見た目の、素直な心を持った…死神に。
その雰囲気に呑まれて、私は恐怖を感じていた。
アメリちゃんにいつもの調子で話しかけられたから今は恐怖は軽減したが。
「それで、サマリお姉ちゃんはどうするの?おはなしするためにアメリのところに来たんだよね?」
「うん、そうだよ…」
我ながらおかしな事を感じたと思ってはいる。
でも、あながち間違ってはいないとも思う。
それだけ、私が決めたことは…後悔と恐怖が大きいのだ…
「アメリちゃん…あのね…」
私が決めたこと…
私が出した答え…
私が選んだこれからの道…
「私を…アメリちゃんの手で…魔物にして……」
それは…魔物になること…
アメリちゃんに魔物にしてもらう事…
皆と一緒に旅が出来る可能性へ…足が治る可能性がある方に掛ける事だった。
「うん。わかった!」
私の言葉を聞いたアメリちゃんの笑顔は……私と言う存在を変える…どこか怖い悪魔のように思えたと同時に……私を救う可愛い天使のようにも思えた。
12/04/01 18:40更新 / マイクロミー
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