旅9 なんだかんだ言いつつ結局無双かよ…
シャアアアアア……
「はぁ〜凄いなぁ…やっぱリリムは違うのかねぇ…」
「う〜ん…プロメお姉ちゃんもすごいとおもうんだ…」
「ね?やっぱりこの『テント』凄いのよ」
現在20時。
アメリちゃんの攻撃で体力が無くなったプロメが這ってでもラノナス、ひいては盗賊団ディナマのアジトまで行こうとしたのを止めて、今日はアメリちゃんの例の『テント』で休むことにした私達。
今は夜ご飯も食べ終わったので、女の子だけでシャワーを浴びているところだ。
ちなみに、ユウロとツバキはお皿洗いをやってもらっている。あっちはあっちで男の子同士のお話をしているのであろう。
「いやさ、普通こういうテントって3人も同時にシャワールームに入れないと思うんだけど」
「…まだ4人は入れそうだよね。詰めればさらに2人はいけるかな?」
「う〜ん…」
まあ初めてなので男の子のほうも私達と同じくこの『テント』がいかに凄いかの話になっているだろうけど。
シャアアアアア……
「いやぁ…改めて見るとプロメも身体綺麗だよね…」
「ん?そうか?自分で気にしたことないや」
「気にしたことなくてこの綺麗さか…魔物がうらやましい…」
今は女の子だけ、しかもシャワーを浴びているのでもちろん全員裸だ。
なのでこの機会にプロメの裸体をじっくりと見ることにした。もちろん変な意味は無い。
やはり魔物であるからか肌の質はとても良く、女性特有の丸みを帯びた、それでいてほど良い筋肉がついており引き締まっている所は引き締まっている体型である。
それにお昼にユウロやアメリちゃんから攻撃されていたのにもかかわらずプロメの身体に痣などは見当たらない。魔物が丈夫であるのと回復力も高いのだろう。目立った傷なども見当たらない。
ワーウルフ特有の耳や尻尾もその身体によく似会って、美しさを惹きたてている。男が惚れるのもわかる気がする。更に手足は狼のようになっているが、それほど怖いという印象はさっきと違い無い。おそらく今はその爪の攻撃対象になっていないからだろう。
あと、デカ乳淫魔共(ベリリさんとアクチさん)よりは小柄の胸をしているが、それでもプロメの胸は私よりは一回り大きい。
「ほぉ…魔物がうらやましいと…だったらアタシが噛んでやろうか?サマリなら別に良いぞ?」
「えっ!?いや…」
「ダメだよプロメお姉ちゃん!!」
おっと、うらやましいなんて言ったらプロメから魔物化のお誘いをされてしまった。
ワーウルフに噛まれたりして身体に傷を負ったら私もワーウルフになっちゃうんだよね…
まだ魔物になる気は無いから断ろうとしたらアメリちゃんが止めてくれた。
やっぱりアメリちゃんはわかってくれて…
「サマリお姉ちゃんを魔物にするのはアメリがやるの!!」
「おーそうだったのか!それは悪かった!」
「……」
…わかってなかった。まさかの自分が魔物にする発言かい。
「ちょっと二人ともいつ私が魔物になりたいって言ったのよ!?」
「あ、そういえばサマリお姉ちゃんは魔物になりたくないんだっけ…」
「え!?そうなのか!?なんで?」
「なんでって…」
そりゃあ明確な理由はないけどさ…
「と、とにかくなりたくないの!」
「ふーん…ま、いいや。本人の意思を無視するのはアタシは嫌いだからな」
「アメリもがまんする!」
ほっ……
どうやら無理やり魔物にすることはなさそうだ。
シャアアアアア……
「でもさ…私も考えるんだ…」
「ん?何を?」
「これから先旅を続けるなら…魔物になったほうがいいのかなって…」
「ほぉ…なんでそう考えるんだ?」
なんか人生相談みたいになってきたが気にせず続けることにする。
「だってさ…今からディナマを潰してプロメの旦那さん…えっと…」
「ネオムだ」
「そうそう、ネオムさんを助けに行くよね?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
さっきからずっと悩んでいた事…
「私ってなんの役にも立たないよね…力は無いし、武器も魔法も使えないから…」
私が、今からの盗賊退治では…ただのお荷物でしかない事…
確認の意味を込めて、私はプロメに聞いてみた。
「はぁ……何を言い出すかと思えば……それで力をつけるために魔物になったほうが良いかもって思ったのか?」
「うん…だって、私まだ旅に出てから1カ月も経ってないけど、もうすでに死にかけたし…」
「ふーん…」
プロメは私の話を真剣に聞いてくれている。
「それに、このままじゃ死にかけずに本当に死んじゃうこともあるかもしれない…」
「それは…」
「例えそうならなくても、ユウロやアメリちゃん、今ならプロメやツバキにも迷惑を掛けることになっちゃうし…」
誰かの迷惑にはなりたくない。
そう言った時だった。
「はぁ……そんなことないって!」
「えっ?」
唐突にプロメが私の話を止めて話し始めた。
「まあ確かにネオムを助けるその時はサマリは何の役にも立たないし、人質なんかにされたら迷惑ではある」
「うっ!」
ズバリと言われてしまった。
自分でわかっていてもいざ他人に言われるとグサッとくるな…
「プロメお姉ちゃん…」
「アメリ、そんな非難するような眼でアタシをジッと睨まないで…まだ続きがあるから…」
そう言ってプロメは私の手を握り…
「でも、サマリの手は戦う為のものじゃなくて、快適な旅をするために必要なんだ!」
そう、力強く言ってきた。
でも…
「それって…どういうこと?」
「へ?」
よく意味がわからなかった。
快適な旅をするため?それってこのアメリちゃんの『テント』のおかげじゃないのかな?
「ああ…ちょっと解りづらかったか…」
「うん、さっぱりわからない」
「うーん、そうだなー…『料理』だよ」
「料理?」
料理がどうかしたのだろうか?
「昼頃のパンケーキやさっきの夕飯、サマリが作ったんだろ?」
「うん。アメリちゃんにも手伝っては貰ってるけどね。ね?」
「うん!アメリもお手伝いしてるよ!」
確かにおやつのパンケーキも今日の夜ご飯も私(とアメリちゃん)が作ったけど…どっちもプロメとツバキはおいしいって言ってくれたけど…それがどうかしたのだろうか?
「だからさ、サマリの手はアタシ達においしいご飯を食べさせる為にあるんだよ!」
「へ?」
「旅に必要なのは武力よりもそういった力なのさ。アタシ達はサマリのおいしい料理が食べられるから元気に戦えるんだよ」
「え?ホントに?」
「ああ!サマリが作ったウマい料理を食べたらアタシはすぐ元気になった!おかげでネオムを簡単に助けられそうだ!」
私の料理が力になる…
私が料理を作るから元気に戦える…
「……ありがとプロメ…なんか元気が湧いて来たよ!」
「ははっ!まあ魔物になりたかったらすぐにしてあげるよ!」
「それはアメリがするのー!!」
「いや、なる気ないから…」
プロメの言葉で私は悩むのを止めることにした。
人間のままでも皆の役に立てているのだから、変に魔物になる必要は無い。
もっと皆に喜んでもらえるように、料理の腕をあげなきゃね!
シャアアアアア……
「ところで、プロメはなんでネオムさんの事が好きになったの?」
ここでガールズトークを始めようと思ったら…
「そりゃあカッコいいし強いし優しいしチンコがデカくてアタシを善がらせてくれるからな!」
「ブッ!!」
最後の一言で一気に台無しになった。
「ちょっとプロメ!」
「なんだサマリ…なんで顔を真っ赤にして怒ってるんだ?」
「なんでここで男性器の話が出てくるのよ!!」
ここまで言ってから気付いた。
「サマリお姉ちゃん、魔物なら男の人のおちんちんがすきなのはよくあることだよ!デルエラお姉ちゃんの所にいた黒稲荷のお姉ちゃんもそれっぽいこと言ってたよ!」
「はぁ……」
魔物って、基本エロいんだよねって。
人間には…少なくとも私には理解できません…やっぱ魔物になりたくなくなってきた気がする…
====================
「本当に行くのですか!?」
「ああ!アタシの旦那が捕まってるんだ!協力しないのなら黙っていてくれ!!」
現在12時。
私達は今日の11時頃にラノナスに到着した。
だが私達の目的はこの町ではなくこの町から東に行った所にある崖付近にあるディナマのアジトだ。
なのでラノナスでは昼食をとるだけにして出発しようとしたのだが…
「そんな!?見殺しになんてできません!!」
「だーかーらーアタシ達は死なないって!逆に奴等を潰してくるから!」
どこかで私達の噂でも聞いたのか、この町の町長が私達を止めに来てしまった。
「そんな保証はどこにもないですよ!」
「あのなぁ…そろそろ退いてくれないとお前もぶっ飛ばすぞ?」
「ひっ!そ、それでも…あれ?」
町長さんが「あれ?」って言った理由?それはね…
「プロメお姉ちゃん…」「プロメ…」「それはないわ…」「関係無い人をぶっ飛ばしてどうするのよ…」
「見るなあ!冗談だからそんな蔑むような視線でアタシを見るなあ!!」
プロメが私達から総攻撃を受けていたからだ。
ホント、プロメは血の気が多いんだから…
この後、町長さんの奥さんの幼女(アメリちゃんが『ドワーフ』って言ってた)が出てきて「こいつら強そうだし大丈夫だろ。むしろ町民使わず、傭兵とか頼まずに勝手に潰してくれるんならお得だろ?」って言ってくれたのでそのまま私達はディナマのアジトに向かう事にした。
…………
………
……
…
「どうアメリちゃん?青い屋根の小屋見つけた?」
「うーん…」
ラノナスから出発した私達はディナマのアジトを探していた。
プロメ曰く青い屋根のボロ小屋がアジトだそうだ。元ディナマに聞いたって言ってたから間違いないと思う。
なので今アメリちゃんに飛んでもらい、上空からその青い屋根の小屋を探してもらっている。
っていうかアメリちゃん空飛べたんだ…翼がついているから飛べてあたりまえだけど今まで飛んでいるところ見たことなかったから知らなかったよ…
アメリちゃん曰く、飛ばない理由は「旅は歩いたほうがいいし、とぶのもちょっとつかれるもん」とのこと。飛ぶのにも魔力を使うのかな?
「あ!あったよ〜!!」
「ホントか!?」
「うん!ここからちょっと右にまっすぐすすんでちょっと大きな木を左にまがるとがけがあって、その近くにある!」
「よし!ナイスだアメリ!!早速行くぞ!!」
『ああ!』
アメリちゃんがディナマのアジトらしきものを見つけたので早速向かう事にした。
私は最後についていくことにする。だって私に戦闘は出来ないからね。
「うー、緊張するな…」
「ま、勇者クラスの実力者ってのに気をつければ大丈夫だろ。サマリは隠れてろよ?」
「うん。でも皆も気をつけてね。無茶はしないでね…」
『おう!』
気を引き締めながら、私達は小屋へ急いだ。
あ、いいこと思いついた。
「ねえ皆、ちょっと聞いて……」
今思いついたことを皆に伝えた。上手くいくと良いけど…
………
……
…
「おらあ!出てこいディナマ!!アタシの旦那、ネオムを返せ!!」
私達『4人』は小屋の目の前に辿りついた。
アメリちゃんが言ったとおり、すぐ近くにはかなり危ない崖がある。というか断崖絶壁ってところか。落ちたらひとたまりもないだろう。
小屋の中には誰かが居る気配がするのでおそらくディナマのアジトだろう。
なので早速プロメが叫び始めた。
「あ?誰だテメェ?俺達に何か用か?」
「ネオムって…ああ!あいつのことか!」
「なんだあ?俺達から奪い返そうってか?ははっ!それっぽっちでなにができるってんだ?」
「残念だが奴は俺達の大切なお財布なんだよ。狼ちゃんに返す訳にはいかないなあ!」
そしたら、いかにも盗賊ですって感じの人相が悪い男がぞろぞろと小屋から出てきた。
その数はざっと50人は居るだろう。
「お前らあ!ふざけるな!!なんでネオムを攫ったんだ!お財布ってどういう事だ!?」
「はっ!テメェは旦那のこと何にも知らないのかよ?」
「んだと!?どういうことだ!?」
プロメがリーダー格の男に掴みかかろうとしたが…
「おっと!これ以上近付くとお前の旦那が死ぬぞ?」
リーダー格の男が小屋の入口付近を指差した。
そこには身体中ぼこぼこに殴られたのか赤く腫れた後があり、縛られている男の人がいた。
その男の人の喉もとには剣があてがわれていた。
「なっ!?ネオム!!無事かネオム!!」
「う…プロメ…?なんでここに…?」
「ネオムを助けに来たんだよ!」
「なっ…バカ…殺されちまう……」
男の人とプロメの反応から、あの男の人はネオムさんで間違いないだろう。
ひどい事をする…腫れてしまった顔は見ていて痛々しい…
「クソッ!お前らネオムを離しやがれ!!」
「だからこいつは俺達の大事なお財布だって言ってるだろ?離すと思うか?」
「だからそれはどういう意味だ!?」
リーダー格の男がさっきから言っているお財布って意味がわからない。
「ネオムさんがお金持ちってこと?」
「お、そっちの人間のお譲ちゃんは理解したようだな。一方『自称』妻の狼ちゃんは頭が残念のようだ」
「あ”?お前殺すぞ?」
「落ち着けプロメ!ここで暴れたらネオムさんが殺されちまう!」
「そうだ!そうなったら僕達がここまで来た意味が無くなってしまうだろ!」
「う”う”ぅ……」
「じゃあ頭の悪い狼ちゃんにもわかるように説明してあげよう。俺は良い人だからな!」
「殺す!!絶対お前はブッ殺す!!」
「だーかーらー落ち着けって!!」
リーダー格の男の挑発に簡単にかかるプロメ。
普通の人が見たら失禁するんじゃないかと思うほどの恐い顔をしながらリーダー格の男に爪で切りかかろうとしたそんなプロメをユウロとツバキが一生懸命止めている。
自分の旦那さんを酷い目にあわせた人に言われたのだから襲いかかりたい気持ちはわからなくもないが…もう少しだけ我慢は出来ないのか…
「こいつはな、とある大きな街に住む上流貴族の坊ちゃまなんだ。それでな、ここのところ行方不明になっていて捜索願が出ていたんだよ。しかも見つけた人には多額の謝礼金を払うってな!」
プロメを挑発するのを止めて、リーダー格の男はどうしてネオムさんを攫ったのか言い始めた。
「俺達としても金が欲しくてな。行方がわからなくなったって場所もちょうどこの近くだったから早速その坊ちゃんを探すことにした。そしたらあっという間に見つかった」
そしてこちらを…プロメを見ながら……
「なんとその坊ちゃんは魔物に攫われていた!だから俺達はその魔物からとり返したってわけさ!」
堂々とした態度で、そう言った。
「アタシはネオムを攫ったりなんか…!!」
「たまたま狼ちゃんの群れの近くの生態を調査していた坊ちゃんを押し倒してレイプして持ち帰ったことを攫うと言わず何と言うのかな?」
「くっ……それは……」
事実なのか、先程とはうってかわって勢いを無くしていくプロメ。
明らかに元気が無くなっていき、顔色も悪くなった。
「それで俺達は『ワーウルフに攫われていた坊ちゃんを助けました!』と言ってこいつを受け渡そうとしたんだが、こいつは何故か狼ちゃんに攫われていない、自分の意思で一緒にいたとほざき続けるから困った」
「……え?」
でも、リーダー格の男のその言葉からネオムさんはプロメを愛していたらしい。
その言葉を聞いたプロメの悪くなっていた顔色が元に戻った。
「だから俺達はそう言えないようにこいつを躾けていたんだよ。あと、狼ちゃんがここに来てくれることも願ってたよ」
「なんだと!?それはどういうことだ?」
「簡単さ…」
リーダー格の男が話しながら手を上げると、合図だったのか後ろにいたディナマの男達が動き始めて…
「狼ちゃんの死体でもあればこいつも言う事聞かざるを得ないと思うだろうし、俺達の言っていることの信憑性もあがるからな!!」
私達の周りを囲ってきた。
「フンッ!アタシがそう簡単に殺せると思ってるのか?」
「もちろん思ってないさ。だからこその人質だろ?誰か一人でも攻撃してみろ。あっという間にお前の大事な旦那さんは動かない人形になっちまうぜ?もちろん狼ちゃんに協力しているガキどももな!」
「チッ!ふざけやがって!!」
つまり、ネオムさんを生きたまま助けたかったら抵抗せずに殺されるしかない。抵抗したらネオムさんが首元にあてがわれている剣で殺されてしまう。
…本当に嫌な作戦だ。この通り行くと二人が生きて助かる選択肢が無い。
でも…
「別にディナマの人達を倒しちゃえばいいんじゃない?」
『は!?』
そう言ったら、敵からも味方からも疑問の声が上がった。
「な!?何言うんだサマリ!?」
「だってさあ、私達が攻撃するとネオムさんを殺すって言ってるけど、そうするとディナマも困るよね?折角の金蔓を自ら手放す事になるし」
「あ」
実際ネオムさんが死体になったら困るのはディナマも一緒だ。
「さらに、プロメ、もしネオムさんが殺されたらディナマの人達をどうするつもり?」
「は?そんなの我を忘れて一人残らず殺すんじゃないかな?想像もしたくないから何とも言えないけどな…」
「じゃあもし生きて返してもらえたら?」
「…ムカつくが、ぶっ飛ばすだけで命は取らない。そもそもアタシはよっぽどのことが無い限り人間を殺そうとは思わないし、思っても実行まではする気は無いし…」
「ほら、聞いた?ネオムさん殺したらプロメに殺されちゃうんだよ?怒りで我を忘れた魔物ってどうなるんだろうね?」
「ふん…何が言いたい?」
皆私の話に注目している。それはネオムさんに剣をあてがっている男も含めてだ。
どうやら上手くいきそうだ。
「だから、ネオムさんを殺すという脅しは意味をなしていないって言ってるのよ」
「ほぅ…残念だったな。別にこいつが死んだら死んだで他に策があるんでね。それに殺されるっていうがあくまで仮定でしかない。そんな事言って人質を開h……」
「ところで、人質って誰の話?」
「誰ってこいt……あれ!?どうなってる!?どこ行きやがった!?」
慌て始めたリーダー格の男。
それもそうだ。人質として縛り付けておいたネオムさんがいつの間にか居なくなっており、剣をあてがっていた男が痙攣しながら倒れているのだから。
じゃあネオムさんがどこ行ったのかって?
それは…
「さくせんせいこー!!プロメお姉ちゃーん!ネオムおじさんをたすけたよー!!」
「わわっ!?た、高い!ゆ、揺れる!お、落とさないでくれよ!?」
「アメリはゆらしてないよ!ネオムおじさんが自分でゆれているんだよ…とびにくいからおとなしくして!」
アメリちゃんに抱きかかえられながら、空中に浮いていた。
…高いところが苦手ってプロメから聞いていたけど、尋常じゃない慌てっぷりである。
「ナイスだアメリ!ネオムも大人しくしてな!!」
「くそっ、やられた!!もう一人仲間がいたのか!!」
「ははっ!作戦通りだ!よくやったアメリちゃん!」
ここに向かう途中で私が思いついたことは、ネオムさんが人質にされる可能性があることと、それの対処方法だった。
それは、私達が何かしらの方法でディナマの人達の注意を私達に引きつけて、隙を見て上空で待機しているアメリちゃんがネオムさんを救出するというものだ。
あらかじめ飛んでいれば存在がバレる可能性は少ないし、たとえ気付かれてもここは親魔物領だから魔物が空を飛んでいても違和感は無い。
結果…作戦は成功した。あとはアメリちゃんがネオムさんを安全な場所まで運ぶだけだ。
ネオムさんの救出さえできれば、後は…
「よーし、お前ら…アタシからネオムを攫ったんだ…覚悟は出来てるんだろうな?」
「他人の大切な人同士を引き離すなんて…いい度胸してるね?何されても文句は言えないよね?」
「さーて、何か言っておきたいことはあるか?謝罪とかさ…言ったところでやることは変わらないけどな!」
「くそっ!!怯むな!!相手は俺達より少ないんだ!全員でかかれ!!」
ディナマを潰すだけだ!!
「うらああああああああっ!!」
「ぐわっ!」「ひゃぶっ!」「あべしっ!」
右のほうではプロメがワーウルフの高い身体能力を活かした素早い動きでディナマの男達の間を掻い潜りながら顔や腹部を殴りとばし、蹴り飛ばしと男達をなぎ払っていく。
プロメが通った後は竜巻でも起きたのか、男達が呻き声をあげながら宙に浮いている。
…人間って宙に浮くって初めて知った。あ、私も前に浮いたことあるや…
「ふっ!はあっ!!やあっ!!」
「うぶっ!」「ぐふぅ!」「む、むねん…」
左のほうではツバキが相棒の刀の峰で男達の腹部を叩いたり、足など比較的致命傷にならない部位に突きを入れている。
その動きは竜巻の様なプロメとは違い、まるで清流のような滑らかな動きで、ツバキが通った後に男達が沈んでいく。
…なんか川に落とされた時の事思い出した。あれは恐かったなぁ…
「めーん!どおー!!つきい!!」
「ぐはっ!」「ぼへっ!」「ひでぶっ!」
そして正面ではユウロが木刀を振り回し、男達の頭部や横腹、喉元などを正確に狙いながらなぎ払っていく。
どこか穏やかで、それでいて激しいと他の二人を足して2で割ったような動きだが、喧嘩や戦闘というよりスポーツをやっているような印象が残る。
…あ、あのナイフの人だ。ユウロに一瞬でやられて…あ、ちゃんとナイフを返してる。足に刺すというちょっと酷い返し方だけど…
「おまたせー!ネオムおじさん安全な場所までつれて行ったよー!アメリもたたかうねー!『エレクトリックディスチャージ』!!」
「あばばばば!」「びびびっ!」「しびれびれー!」
ネオムさんを安全な場所まで運び終え戻ってきたアメリちゃんは、空中から三人がたどり着いていない奥の方に居る男達に向かって両手をかざした。
そして呪文を唱えた瞬間その手から黄色い電撃が広範囲に発生して男達を痺れて動けなくさせた。おそらくさっきの人にも同じような魔法を使ったのだろう。同じように痙攣しながら倒れている。
…というか最近アメリちゃんよく魔力を使っている気がするけど大丈夫なのかな?ちょっと心配だ…
ちなみに、私は皆の様子を崖の近くにあった大木に隠れながら見ていた。ここなら気付かれにくいし、近くに居るのをこっちが先に気付くことも簡単だからである。
私は戦力にはならないから人質になることを全力で回避s…
「おい小娘!隠れているってことはお前は弱いんだな!」
あ、やばい。皆の戦いっぷりをじっくり見ていたら近付かれているのに気がつかなかった。
「ははっ!だったらお前を人質にしt…」
けど、相手は一人。しかも私が戦えないとわかったからか完全に油断していた。
なので私は…
「はああああああっ!!」
「うがっ!?!?!?!?」
男の人の大事な部分…急所をおもいっきり蹴った。
なんか足に変な感触がして少し気持ち悪いが、私の蹴りで近付いてきた男は白目を向いてピクピクとしながら気絶していた。
…たぶん私がこれやったって言ったらアメリちゃん怒るだろうな…他の皆もたぶん引くんだろうな…
「くそっ!相手はたかが5人だぞ!俺達ディナマが何故こうもあっさりとやられる!」
リーダー格の男は焦りを隠せない様子だ。
無理もない。下手な勇者より強い者もいるはずなのに関係無く4人にあっという間に倒されているのだから。
「せめて一人だけでも!『サンダー』!!」
だが、そのリーダー格の男は天に手を突き上げ魔法を使い始めた。
しかもかなり強力そうなもの…上空に黒い雲を出現させ、そこから極太の雷を発生させた。
狙いは…アメリちゃんだ!
「っ!!アメリちゃん危ない!!」
「え?きゃわわわわ!!」
私が叫んだが、間に合わずにアメリちゃんに直撃した。
かなりの衝撃だったらしくアメリちゃんは気絶してしまい、落下し始めてしまった。
しかも…落下していく方向には……崖。
「やった!一人倒したぞ!ザマーみろ!」
「で?こっちはあとお前だけだよ!」
「なっ!?がはあっ!!」
アメリちゃんを倒したことで調子にのっていたリーダー格の男だけど、他のディナマの男達を皆倒してリーダー格の男が居る場所まで一気に踏み込んだツバキによって顎をおもいっきり刀の柄で打ち付けて宙に飛ばし…
「アメリちゃんに攻撃してんじゃねーよクズが!!」
「ぐはっ!!」
飛ばした所まで高くジャンプしたユウロが腹部に木刀をおもいっきり叩きつけて逆に地面に落とし…
「ネオムを誘拐したことをこれで許してやる!優しいアタシに感謝しな!!」
「ぶがっ!!」
落下地点にいたプロメが拳を力強く握り、カウンターみたいに背中を殴りあげた。
その結果リーダー格のダメージは計り知れないほどとなり、息こそしているもののピクリとも動かなくなった。
「ふぅ…たいしたことなかったな!」
「そうだね…ってアメリちゃんはどうなった!?」
「やばい!たしか崖のほうに落ちていったぞ!!」
でも私はそんな皆の様子は一切見ていなかった。
「おいサマリ!アメリちゃんは……ってサマリはどこだ?」
「え?あそこの木の陰に隠れて……っていない!?」
「いったいどこに……っておい!サマリ何をして…!!」
なぜなら私は、アメリちゃんが落ちていくのを見た瞬間身体が動き出し…
「アメリちゃん!!!!」
崖に落ちていくアメリちゃんを抱きかかえるように、崖に飛び出して落ち始めていたからだ。
「ぐっ!がっ!くっ!」
そのまま壁の側面を転がっていくように落ちていく私。
足が、腕が、背中が、頭が…全身が落ちていくときに打ちつけられて痛い。
でも、アメリちゃんだけは傷つかないように、投げ出さないように腕の力を入れて、私の身体に包み込むようにして護る。
でも、だんだんと身体の痛みが無くなってきた。
全身至る所に打撲の痕があり、切り傷が出来て血が出ているはずなのに……おそらく、痛すぎて身体が痛みを感知できなくなってきたのだろう…
それでも、アメリちゃんだけは絶対に離さない…離してたまるか!
「がっ!……がはっ!!」
そして地上の手前辺りで身体が大きく跳ね飛ばされ、地面に背中から叩きつけられた。
ものすごい衝撃だが…背中から落ちたから抱えているアメリちゃんには大きな負担は掛かってないはず…
アメリちゃんは無事かな…
「う、う〜ん…からだがピリピリする……あれ?サマリお姉ちゃん?」
と、アメリちゃんが目を覚まして身体を動かし始めた。
ピリピリすると言ったので崖から落ちたほうの傷とかはなさそうだ…
よかった…
「サマリおね……サマリお姉ちゃん!?どうしたのそのケガ!?血がいっぱいでてるよ!!」
「はは……ア……ち……ぶ………た………」
あれ?声が上手く出せない…
「お姉ちゃん!ダメ!目を閉じちゃダメ!!」
身体も…特に足なんか全く動かないや…
唯一動く瞳は、ゆっくりと閉じていくだけ…
「しっかりしてサマリお姉ちゃん!しんじゃヤダ!!」
あれ?おかしいな…
近くにずっといるはずのアメリちゃんの声が…だんだん遠くなっていく…
「サマリお姉ちゃん!!サマリおねえちゃーん……」
目の前が真っ暗になって…アメリちゃんの声も聞こえなくなって……
……………………
…………
……
…
「はぁ〜凄いなぁ…やっぱリリムは違うのかねぇ…」
「う〜ん…プロメお姉ちゃんもすごいとおもうんだ…」
「ね?やっぱりこの『テント』凄いのよ」
現在20時。
アメリちゃんの攻撃で体力が無くなったプロメが這ってでもラノナス、ひいては盗賊団ディナマのアジトまで行こうとしたのを止めて、今日はアメリちゃんの例の『テント』で休むことにした私達。
今は夜ご飯も食べ終わったので、女の子だけでシャワーを浴びているところだ。
ちなみに、ユウロとツバキはお皿洗いをやってもらっている。あっちはあっちで男の子同士のお話をしているのであろう。
「いやさ、普通こういうテントって3人も同時にシャワールームに入れないと思うんだけど」
「…まだ4人は入れそうだよね。詰めればさらに2人はいけるかな?」
「う〜ん…」
まあ初めてなので男の子のほうも私達と同じくこの『テント』がいかに凄いかの話になっているだろうけど。
シャアアアアア……
「いやぁ…改めて見るとプロメも身体綺麗だよね…」
「ん?そうか?自分で気にしたことないや」
「気にしたことなくてこの綺麗さか…魔物がうらやましい…」
今は女の子だけ、しかもシャワーを浴びているのでもちろん全員裸だ。
なのでこの機会にプロメの裸体をじっくりと見ることにした。もちろん変な意味は無い。
やはり魔物であるからか肌の質はとても良く、女性特有の丸みを帯びた、それでいてほど良い筋肉がついており引き締まっている所は引き締まっている体型である。
それにお昼にユウロやアメリちゃんから攻撃されていたのにもかかわらずプロメの身体に痣などは見当たらない。魔物が丈夫であるのと回復力も高いのだろう。目立った傷なども見当たらない。
ワーウルフ特有の耳や尻尾もその身体によく似会って、美しさを惹きたてている。男が惚れるのもわかる気がする。更に手足は狼のようになっているが、それほど怖いという印象はさっきと違い無い。おそらく今はその爪の攻撃対象になっていないからだろう。
あと、デカ乳淫魔共(ベリリさんとアクチさん)よりは小柄の胸をしているが、それでもプロメの胸は私よりは一回り大きい。
「ほぉ…魔物がうらやましいと…だったらアタシが噛んでやろうか?サマリなら別に良いぞ?」
「えっ!?いや…」
「ダメだよプロメお姉ちゃん!!」
おっと、うらやましいなんて言ったらプロメから魔物化のお誘いをされてしまった。
ワーウルフに噛まれたりして身体に傷を負ったら私もワーウルフになっちゃうんだよね…
まだ魔物になる気は無いから断ろうとしたらアメリちゃんが止めてくれた。
やっぱりアメリちゃんはわかってくれて…
「サマリお姉ちゃんを魔物にするのはアメリがやるの!!」
「おーそうだったのか!それは悪かった!」
「……」
…わかってなかった。まさかの自分が魔物にする発言かい。
「ちょっと二人ともいつ私が魔物になりたいって言ったのよ!?」
「あ、そういえばサマリお姉ちゃんは魔物になりたくないんだっけ…」
「え!?そうなのか!?なんで?」
「なんでって…」
そりゃあ明確な理由はないけどさ…
「と、とにかくなりたくないの!」
「ふーん…ま、いいや。本人の意思を無視するのはアタシは嫌いだからな」
「アメリもがまんする!」
ほっ……
どうやら無理やり魔物にすることはなさそうだ。
シャアアアアア……
「でもさ…私も考えるんだ…」
「ん?何を?」
「これから先旅を続けるなら…魔物になったほうがいいのかなって…」
「ほぉ…なんでそう考えるんだ?」
なんか人生相談みたいになってきたが気にせず続けることにする。
「だってさ…今からディナマを潰してプロメの旦那さん…えっと…」
「ネオムだ」
「そうそう、ネオムさんを助けに行くよね?」
「そうだが、それがどうかしたか?」
さっきからずっと悩んでいた事…
「私ってなんの役にも立たないよね…力は無いし、武器も魔法も使えないから…」
私が、今からの盗賊退治では…ただのお荷物でしかない事…
確認の意味を込めて、私はプロメに聞いてみた。
「はぁ……何を言い出すかと思えば……それで力をつけるために魔物になったほうが良いかもって思ったのか?」
「うん…だって、私まだ旅に出てから1カ月も経ってないけど、もうすでに死にかけたし…」
「ふーん…」
プロメは私の話を真剣に聞いてくれている。
「それに、このままじゃ死にかけずに本当に死んじゃうこともあるかもしれない…」
「それは…」
「例えそうならなくても、ユウロやアメリちゃん、今ならプロメやツバキにも迷惑を掛けることになっちゃうし…」
誰かの迷惑にはなりたくない。
そう言った時だった。
「はぁ……そんなことないって!」
「えっ?」
唐突にプロメが私の話を止めて話し始めた。
「まあ確かにネオムを助けるその時はサマリは何の役にも立たないし、人質なんかにされたら迷惑ではある」
「うっ!」
ズバリと言われてしまった。
自分でわかっていてもいざ他人に言われるとグサッとくるな…
「プロメお姉ちゃん…」
「アメリ、そんな非難するような眼でアタシをジッと睨まないで…まだ続きがあるから…」
そう言ってプロメは私の手を握り…
「でも、サマリの手は戦う為のものじゃなくて、快適な旅をするために必要なんだ!」
そう、力強く言ってきた。
でも…
「それって…どういうこと?」
「へ?」
よく意味がわからなかった。
快適な旅をするため?それってこのアメリちゃんの『テント』のおかげじゃないのかな?
「ああ…ちょっと解りづらかったか…」
「うん、さっぱりわからない」
「うーん、そうだなー…『料理』だよ」
「料理?」
料理がどうかしたのだろうか?
「昼頃のパンケーキやさっきの夕飯、サマリが作ったんだろ?」
「うん。アメリちゃんにも手伝っては貰ってるけどね。ね?」
「うん!アメリもお手伝いしてるよ!」
確かにおやつのパンケーキも今日の夜ご飯も私(とアメリちゃん)が作ったけど…どっちもプロメとツバキはおいしいって言ってくれたけど…それがどうかしたのだろうか?
「だからさ、サマリの手はアタシ達においしいご飯を食べさせる為にあるんだよ!」
「へ?」
「旅に必要なのは武力よりもそういった力なのさ。アタシ達はサマリのおいしい料理が食べられるから元気に戦えるんだよ」
「え?ホントに?」
「ああ!サマリが作ったウマい料理を食べたらアタシはすぐ元気になった!おかげでネオムを簡単に助けられそうだ!」
私の料理が力になる…
私が料理を作るから元気に戦える…
「……ありがとプロメ…なんか元気が湧いて来たよ!」
「ははっ!まあ魔物になりたかったらすぐにしてあげるよ!」
「それはアメリがするのー!!」
「いや、なる気ないから…」
プロメの言葉で私は悩むのを止めることにした。
人間のままでも皆の役に立てているのだから、変に魔物になる必要は無い。
もっと皆に喜んでもらえるように、料理の腕をあげなきゃね!
シャアアアアア……
「ところで、プロメはなんでネオムさんの事が好きになったの?」
ここでガールズトークを始めようと思ったら…
「そりゃあカッコいいし強いし優しいしチンコがデカくてアタシを善がらせてくれるからな!」
「ブッ!!」
最後の一言で一気に台無しになった。
「ちょっとプロメ!」
「なんだサマリ…なんで顔を真っ赤にして怒ってるんだ?」
「なんでここで男性器の話が出てくるのよ!!」
ここまで言ってから気付いた。
「サマリお姉ちゃん、魔物なら男の人のおちんちんがすきなのはよくあることだよ!デルエラお姉ちゃんの所にいた黒稲荷のお姉ちゃんもそれっぽいこと言ってたよ!」
「はぁ……」
魔物って、基本エロいんだよねって。
人間には…少なくとも私には理解できません…やっぱ魔物になりたくなくなってきた気がする…
====================
「本当に行くのですか!?」
「ああ!アタシの旦那が捕まってるんだ!協力しないのなら黙っていてくれ!!」
現在12時。
私達は今日の11時頃にラノナスに到着した。
だが私達の目的はこの町ではなくこの町から東に行った所にある崖付近にあるディナマのアジトだ。
なのでラノナスでは昼食をとるだけにして出発しようとしたのだが…
「そんな!?見殺しになんてできません!!」
「だーかーらーアタシ達は死なないって!逆に奴等を潰してくるから!」
どこかで私達の噂でも聞いたのか、この町の町長が私達を止めに来てしまった。
「そんな保証はどこにもないですよ!」
「あのなぁ…そろそろ退いてくれないとお前もぶっ飛ばすぞ?」
「ひっ!そ、それでも…あれ?」
町長さんが「あれ?」って言った理由?それはね…
「プロメお姉ちゃん…」「プロメ…」「それはないわ…」「関係無い人をぶっ飛ばしてどうするのよ…」
「見るなあ!冗談だからそんな蔑むような視線でアタシを見るなあ!!」
プロメが私達から総攻撃を受けていたからだ。
ホント、プロメは血の気が多いんだから…
この後、町長さんの奥さんの幼女(アメリちゃんが『ドワーフ』って言ってた)が出てきて「こいつら強そうだし大丈夫だろ。むしろ町民使わず、傭兵とか頼まずに勝手に潰してくれるんならお得だろ?」って言ってくれたのでそのまま私達はディナマのアジトに向かう事にした。
…………
………
……
…
「どうアメリちゃん?青い屋根の小屋見つけた?」
「うーん…」
ラノナスから出発した私達はディナマのアジトを探していた。
プロメ曰く青い屋根のボロ小屋がアジトだそうだ。元ディナマに聞いたって言ってたから間違いないと思う。
なので今アメリちゃんに飛んでもらい、上空からその青い屋根の小屋を探してもらっている。
っていうかアメリちゃん空飛べたんだ…翼がついているから飛べてあたりまえだけど今まで飛んでいるところ見たことなかったから知らなかったよ…
アメリちゃん曰く、飛ばない理由は「旅は歩いたほうがいいし、とぶのもちょっとつかれるもん」とのこと。飛ぶのにも魔力を使うのかな?
「あ!あったよ〜!!」
「ホントか!?」
「うん!ここからちょっと右にまっすぐすすんでちょっと大きな木を左にまがるとがけがあって、その近くにある!」
「よし!ナイスだアメリ!!早速行くぞ!!」
『ああ!』
アメリちゃんがディナマのアジトらしきものを見つけたので早速向かう事にした。
私は最後についていくことにする。だって私に戦闘は出来ないからね。
「うー、緊張するな…」
「ま、勇者クラスの実力者ってのに気をつければ大丈夫だろ。サマリは隠れてろよ?」
「うん。でも皆も気をつけてね。無茶はしないでね…」
『おう!』
気を引き締めながら、私達は小屋へ急いだ。
あ、いいこと思いついた。
「ねえ皆、ちょっと聞いて……」
今思いついたことを皆に伝えた。上手くいくと良いけど…
………
……
…
「おらあ!出てこいディナマ!!アタシの旦那、ネオムを返せ!!」
私達『4人』は小屋の目の前に辿りついた。
アメリちゃんが言ったとおり、すぐ近くにはかなり危ない崖がある。というか断崖絶壁ってところか。落ちたらひとたまりもないだろう。
小屋の中には誰かが居る気配がするのでおそらくディナマのアジトだろう。
なので早速プロメが叫び始めた。
「あ?誰だテメェ?俺達に何か用か?」
「ネオムって…ああ!あいつのことか!」
「なんだあ?俺達から奪い返そうってか?ははっ!それっぽっちでなにができるってんだ?」
「残念だが奴は俺達の大切なお財布なんだよ。狼ちゃんに返す訳にはいかないなあ!」
そしたら、いかにも盗賊ですって感じの人相が悪い男がぞろぞろと小屋から出てきた。
その数はざっと50人は居るだろう。
「お前らあ!ふざけるな!!なんでネオムを攫ったんだ!お財布ってどういう事だ!?」
「はっ!テメェは旦那のこと何にも知らないのかよ?」
「んだと!?どういうことだ!?」
プロメがリーダー格の男に掴みかかろうとしたが…
「おっと!これ以上近付くとお前の旦那が死ぬぞ?」
リーダー格の男が小屋の入口付近を指差した。
そこには身体中ぼこぼこに殴られたのか赤く腫れた後があり、縛られている男の人がいた。
その男の人の喉もとには剣があてがわれていた。
「なっ!?ネオム!!無事かネオム!!」
「う…プロメ…?なんでここに…?」
「ネオムを助けに来たんだよ!」
「なっ…バカ…殺されちまう……」
男の人とプロメの反応から、あの男の人はネオムさんで間違いないだろう。
ひどい事をする…腫れてしまった顔は見ていて痛々しい…
「クソッ!お前らネオムを離しやがれ!!」
「だからこいつは俺達の大事なお財布だって言ってるだろ?離すと思うか?」
「だからそれはどういう意味だ!?」
リーダー格の男がさっきから言っているお財布って意味がわからない。
「ネオムさんがお金持ちってこと?」
「お、そっちの人間のお譲ちゃんは理解したようだな。一方『自称』妻の狼ちゃんは頭が残念のようだ」
「あ”?お前殺すぞ?」
「落ち着けプロメ!ここで暴れたらネオムさんが殺されちまう!」
「そうだ!そうなったら僕達がここまで来た意味が無くなってしまうだろ!」
「う”う”ぅ……」
「じゃあ頭の悪い狼ちゃんにもわかるように説明してあげよう。俺は良い人だからな!」
「殺す!!絶対お前はブッ殺す!!」
「だーかーらー落ち着けって!!」
リーダー格の男の挑発に簡単にかかるプロメ。
普通の人が見たら失禁するんじゃないかと思うほどの恐い顔をしながらリーダー格の男に爪で切りかかろうとしたそんなプロメをユウロとツバキが一生懸命止めている。
自分の旦那さんを酷い目にあわせた人に言われたのだから襲いかかりたい気持ちはわからなくもないが…もう少しだけ我慢は出来ないのか…
「こいつはな、とある大きな街に住む上流貴族の坊ちゃまなんだ。それでな、ここのところ行方不明になっていて捜索願が出ていたんだよ。しかも見つけた人には多額の謝礼金を払うってな!」
プロメを挑発するのを止めて、リーダー格の男はどうしてネオムさんを攫ったのか言い始めた。
「俺達としても金が欲しくてな。行方がわからなくなったって場所もちょうどこの近くだったから早速その坊ちゃんを探すことにした。そしたらあっという間に見つかった」
そしてこちらを…プロメを見ながら……
「なんとその坊ちゃんは魔物に攫われていた!だから俺達はその魔物からとり返したってわけさ!」
堂々とした態度で、そう言った。
「アタシはネオムを攫ったりなんか…!!」
「たまたま狼ちゃんの群れの近くの生態を調査していた坊ちゃんを押し倒してレイプして持ち帰ったことを攫うと言わず何と言うのかな?」
「くっ……それは……」
事実なのか、先程とはうってかわって勢いを無くしていくプロメ。
明らかに元気が無くなっていき、顔色も悪くなった。
「それで俺達は『ワーウルフに攫われていた坊ちゃんを助けました!』と言ってこいつを受け渡そうとしたんだが、こいつは何故か狼ちゃんに攫われていない、自分の意思で一緒にいたとほざき続けるから困った」
「……え?」
でも、リーダー格の男のその言葉からネオムさんはプロメを愛していたらしい。
その言葉を聞いたプロメの悪くなっていた顔色が元に戻った。
「だから俺達はそう言えないようにこいつを躾けていたんだよ。あと、狼ちゃんがここに来てくれることも願ってたよ」
「なんだと!?それはどういうことだ?」
「簡単さ…」
リーダー格の男が話しながら手を上げると、合図だったのか後ろにいたディナマの男達が動き始めて…
「狼ちゃんの死体でもあればこいつも言う事聞かざるを得ないと思うだろうし、俺達の言っていることの信憑性もあがるからな!!」
私達の周りを囲ってきた。
「フンッ!アタシがそう簡単に殺せると思ってるのか?」
「もちろん思ってないさ。だからこその人質だろ?誰か一人でも攻撃してみろ。あっという間にお前の大事な旦那さんは動かない人形になっちまうぜ?もちろん狼ちゃんに協力しているガキどももな!」
「チッ!ふざけやがって!!」
つまり、ネオムさんを生きたまま助けたかったら抵抗せずに殺されるしかない。抵抗したらネオムさんが首元にあてがわれている剣で殺されてしまう。
…本当に嫌な作戦だ。この通り行くと二人が生きて助かる選択肢が無い。
でも…
「別にディナマの人達を倒しちゃえばいいんじゃない?」
『は!?』
そう言ったら、敵からも味方からも疑問の声が上がった。
「な!?何言うんだサマリ!?」
「だってさあ、私達が攻撃するとネオムさんを殺すって言ってるけど、そうするとディナマも困るよね?折角の金蔓を自ら手放す事になるし」
「あ」
実際ネオムさんが死体になったら困るのはディナマも一緒だ。
「さらに、プロメ、もしネオムさんが殺されたらディナマの人達をどうするつもり?」
「は?そんなの我を忘れて一人残らず殺すんじゃないかな?想像もしたくないから何とも言えないけどな…」
「じゃあもし生きて返してもらえたら?」
「…ムカつくが、ぶっ飛ばすだけで命は取らない。そもそもアタシはよっぽどのことが無い限り人間を殺そうとは思わないし、思っても実行まではする気は無いし…」
「ほら、聞いた?ネオムさん殺したらプロメに殺されちゃうんだよ?怒りで我を忘れた魔物ってどうなるんだろうね?」
「ふん…何が言いたい?」
皆私の話に注目している。それはネオムさんに剣をあてがっている男も含めてだ。
どうやら上手くいきそうだ。
「だから、ネオムさんを殺すという脅しは意味をなしていないって言ってるのよ」
「ほぅ…残念だったな。別にこいつが死んだら死んだで他に策があるんでね。それに殺されるっていうがあくまで仮定でしかない。そんな事言って人質を開h……」
「ところで、人質って誰の話?」
「誰ってこいt……あれ!?どうなってる!?どこ行きやがった!?」
慌て始めたリーダー格の男。
それもそうだ。人質として縛り付けておいたネオムさんがいつの間にか居なくなっており、剣をあてがっていた男が痙攣しながら倒れているのだから。
じゃあネオムさんがどこ行ったのかって?
それは…
「さくせんせいこー!!プロメお姉ちゃーん!ネオムおじさんをたすけたよー!!」
「わわっ!?た、高い!ゆ、揺れる!お、落とさないでくれよ!?」
「アメリはゆらしてないよ!ネオムおじさんが自分でゆれているんだよ…とびにくいからおとなしくして!」
アメリちゃんに抱きかかえられながら、空中に浮いていた。
…高いところが苦手ってプロメから聞いていたけど、尋常じゃない慌てっぷりである。
「ナイスだアメリ!ネオムも大人しくしてな!!」
「くそっ、やられた!!もう一人仲間がいたのか!!」
「ははっ!作戦通りだ!よくやったアメリちゃん!」
ここに向かう途中で私が思いついたことは、ネオムさんが人質にされる可能性があることと、それの対処方法だった。
それは、私達が何かしらの方法でディナマの人達の注意を私達に引きつけて、隙を見て上空で待機しているアメリちゃんがネオムさんを救出するというものだ。
あらかじめ飛んでいれば存在がバレる可能性は少ないし、たとえ気付かれてもここは親魔物領だから魔物が空を飛んでいても違和感は無い。
結果…作戦は成功した。あとはアメリちゃんがネオムさんを安全な場所まで運ぶだけだ。
ネオムさんの救出さえできれば、後は…
「よーし、お前ら…アタシからネオムを攫ったんだ…覚悟は出来てるんだろうな?」
「他人の大切な人同士を引き離すなんて…いい度胸してるね?何されても文句は言えないよね?」
「さーて、何か言っておきたいことはあるか?謝罪とかさ…言ったところでやることは変わらないけどな!」
「くそっ!!怯むな!!相手は俺達より少ないんだ!全員でかかれ!!」
ディナマを潰すだけだ!!
「うらああああああああっ!!」
「ぐわっ!」「ひゃぶっ!」「あべしっ!」
右のほうではプロメがワーウルフの高い身体能力を活かした素早い動きでディナマの男達の間を掻い潜りながら顔や腹部を殴りとばし、蹴り飛ばしと男達をなぎ払っていく。
プロメが通った後は竜巻でも起きたのか、男達が呻き声をあげながら宙に浮いている。
…人間って宙に浮くって初めて知った。あ、私も前に浮いたことあるや…
「ふっ!はあっ!!やあっ!!」
「うぶっ!」「ぐふぅ!」「む、むねん…」
左のほうではツバキが相棒の刀の峰で男達の腹部を叩いたり、足など比較的致命傷にならない部位に突きを入れている。
その動きは竜巻の様なプロメとは違い、まるで清流のような滑らかな動きで、ツバキが通った後に男達が沈んでいく。
…なんか川に落とされた時の事思い出した。あれは恐かったなぁ…
「めーん!どおー!!つきい!!」
「ぐはっ!」「ぼへっ!」「ひでぶっ!」
そして正面ではユウロが木刀を振り回し、男達の頭部や横腹、喉元などを正確に狙いながらなぎ払っていく。
どこか穏やかで、それでいて激しいと他の二人を足して2で割ったような動きだが、喧嘩や戦闘というよりスポーツをやっているような印象が残る。
…あ、あのナイフの人だ。ユウロに一瞬でやられて…あ、ちゃんとナイフを返してる。足に刺すというちょっと酷い返し方だけど…
「おまたせー!ネオムおじさん安全な場所までつれて行ったよー!アメリもたたかうねー!『エレクトリックディスチャージ』!!」
「あばばばば!」「びびびっ!」「しびれびれー!」
ネオムさんを安全な場所まで運び終え戻ってきたアメリちゃんは、空中から三人がたどり着いていない奥の方に居る男達に向かって両手をかざした。
そして呪文を唱えた瞬間その手から黄色い電撃が広範囲に発生して男達を痺れて動けなくさせた。おそらくさっきの人にも同じような魔法を使ったのだろう。同じように痙攣しながら倒れている。
…というか最近アメリちゃんよく魔力を使っている気がするけど大丈夫なのかな?ちょっと心配だ…
ちなみに、私は皆の様子を崖の近くにあった大木に隠れながら見ていた。ここなら気付かれにくいし、近くに居るのをこっちが先に気付くことも簡単だからである。
私は戦力にはならないから人質になることを全力で回避s…
「おい小娘!隠れているってことはお前は弱いんだな!」
あ、やばい。皆の戦いっぷりをじっくり見ていたら近付かれているのに気がつかなかった。
「ははっ!だったらお前を人質にしt…」
けど、相手は一人。しかも私が戦えないとわかったからか完全に油断していた。
なので私は…
「はああああああっ!!」
「うがっ!?!?!?!?」
男の人の大事な部分…急所をおもいっきり蹴った。
なんか足に変な感触がして少し気持ち悪いが、私の蹴りで近付いてきた男は白目を向いてピクピクとしながら気絶していた。
…たぶん私がこれやったって言ったらアメリちゃん怒るだろうな…他の皆もたぶん引くんだろうな…
「くそっ!相手はたかが5人だぞ!俺達ディナマが何故こうもあっさりとやられる!」
リーダー格の男は焦りを隠せない様子だ。
無理もない。下手な勇者より強い者もいるはずなのに関係無く4人にあっという間に倒されているのだから。
「せめて一人だけでも!『サンダー』!!」
だが、そのリーダー格の男は天に手を突き上げ魔法を使い始めた。
しかもかなり強力そうなもの…上空に黒い雲を出現させ、そこから極太の雷を発生させた。
狙いは…アメリちゃんだ!
「っ!!アメリちゃん危ない!!」
「え?きゃわわわわ!!」
私が叫んだが、間に合わずにアメリちゃんに直撃した。
かなりの衝撃だったらしくアメリちゃんは気絶してしまい、落下し始めてしまった。
しかも…落下していく方向には……崖。
「やった!一人倒したぞ!ザマーみろ!」
「で?こっちはあとお前だけだよ!」
「なっ!?がはあっ!!」
アメリちゃんを倒したことで調子にのっていたリーダー格の男だけど、他のディナマの男達を皆倒してリーダー格の男が居る場所まで一気に踏み込んだツバキによって顎をおもいっきり刀の柄で打ち付けて宙に飛ばし…
「アメリちゃんに攻撃してんじゃねーよクズが!!」
「ぐはっ!!」
飛ばした所まで高くジャンプしたユウロが腹部に木刀をおもいっきり叩きつけて逆に地面に落とし…
「ネオムを誘拐したことをこれで許してやる!優しいアタシに感謝しな!!」
「ぶがっ!!」
落下地点にいたプロメが拳を力強く握り、カウンターみたいに背中を殴りあげた。
その結果リーダー格のダメージは計り知れないほどとなり、息こそしているもののピクリとも動かなくなった。
「ふぅ…たいしたことなかったな!」
「そうだね…ってアメリちゃんはどうなった!?」
「やばい!たしか崖のほうに落ちていったぞ!!」
でも私はそんな皆の様子は一切見ていなかった。
「おいサマリ!アメリちゃんは……ってサマリはどこだ?」
「え?あそこの木の陰に隠れて……っていない!?」
「いったいどこに……っておい!サマリ何をして…!!」
なぜなら私は、アメリちゃんが落ちていくのを見た瞬間身体が動き出し…
「アメリちゃん!!!!」
崖に落ちていくアメリちゃんを抱きかかえるように、崖に飛び出して落ち始めていたからだ。
「ぐっ!がっ!くっ!」
そのまま壁の側面を転がっていくように落ちていく私。
足が、腕が、背中が、頭が…全身が落ちていくときに打ちつけられて痛い。
でも、アメリちゃんだけは傷つかないように、投げ出さないように腕の力を入れて、私の身体に包み込むようにして護る。
でも、だんだんと身体の痛みが無くなってきた。
全身至る所に打撲の痕があり、切り傷が出来て血が出ているはずなのに……おそらく、痛すぎて身体が痛みを感知できなくなってきたのだろう…
それでも、アメリちゃんだけは絶対に離さない…離してたまるか!
「がっ!……がはっ!!」
そして地上の手前辺りで身体が大きく跳ね飛ばされ、地面に背中から叩きつけられた。
ものすごい衝撃だが…背中から落ちたから抱えているアメリちゃんには大きな負担は掛かってないはず…
アメリちゃんは無事かな…
「う、う〜ん…からだがピリピリする……あれ?サマリお姉ちゃん?」
と、アメリちゃんが目を覚まして身体を動かし始めた。
ピリピリすると言ったので崖から落ちたほうの傷とかはなさそうだ…
よかった…
「サマリおね……サマリお姉ちゃん!?どうしたのそのケガ!?血がいっぱいでてるよ!!」
「はは……ア……ち……ぶ………た………」
あれ?声が上手く出せない…
「お姉ちゃん!ダメ!目を閉じちゃダメ!!」
身体も…特に足なんか全く動かないや…
唯一動く瞳は、ゆっくりと閉じていくだけ…
「しっかりしてサマリお姉ちゃん!しんじゃヤダ!!」
あれ?おかしいな…
近くにずっといるはずのアメリちゃんの声が…だんだん遠くなっていく…
「サマリお姉ちゃん!!サマリおねえちゃーん……」
目の前が真っ暗になって…アメリちゃんの声も聞こえなくなって……
……………………
…………
……
…
12/03/30 09:55更新 / マイクロミー
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