旅8 狼女性と侍少年の頼み事
「……」
現在23時。『テント』の中のベッドでいつものようにアメリちゃんを抱きながら寝ようとして1時間半程経ったが、なかなか寝られずにいる。
別に疲れていないわけではないし、お昼寝して眠くないなんて事もない。
もちろんお腹が空いていることもないし、今日の不思議体験に興奮しているってことも少ししかない。
眠れない理由……それはただ、考え事をしているだけだ。
「魔物になる…か…」
アメリちゃんの元従者のベリリさん、アメリちゃんのお姉さんのアクチさん…その二人に私が言われたこと…
それは、これから旅をしていくのならば『魔物にならないか』ということ。
ずっと安全に旅が出来るなら私が人間のままでも問題ないだろうけど、そう上手くは行かない。
今までだって、勇者に襲われたりした。
今日だって盗賊に襲われたが、私は何もしていない。
実際旅に出てからまだそんなに経ってないのに私は死にかけた。
この前だって勇者に魔物と間違えられて襲われ、そのまま川に落とされて溺れ死ぬところだった。
その時は偶々サハギンっていう魔物(私はあまり姿とか覚えていないけど、アメリちゃんがそう言ってた)が近くを泳いでおり、私を助けてくれたから死なずに済んだ。
でもその後もそれが原因で高熱が出て、4日も入院する破目になった。その間、ユウロやアメリちゃんには多大な迷惑と心配を掛けてしまった。
私は弱い人間…この先の旅でも苦労することも、ユウロとアメリちゃんの足を引っ張ることも多いだろう。
そう考えると、私は人間でいるより魔物になったほうが良いかもしれない。
別に魔物になりたくないことは無い。今まで関わった魔物を見ていると、人間と大して違わない…それどころか人間より素直な人が多くて好感が持てるぐらいだ。
そんな魔物になることを完全否定する気は起きない。
身体も丈夫になるし、魔物になってもいいかなと思ったこともある。
でも…魔物になりたくない自分もいる。
魔物になんか…って言い方は悪いかもしれないけれど…人間として生まれたからには魔物になんかなってたまるかと思っている自分も確かに存在しているのだ。
「はぁ……」
考えれば考えるほど頭が痛くなるしもやもやする。
魔物になってしまった時はその時だ!それ以外はその時じゃない!って感じに気楽に考えたほうが良いかな…
「すぅ……すぅ……」
「……ふふっ…」
考え事を止め、寝息を立ててぐっすりと眠るアメリちゃんの可愛い寝顔を見て安心してから私は眠りについた…
====================
「「「ごちそうさま!!」」」
現在8時。
私を含め皆がちょっと寝坊しちゃったから遅くなってしまった朝ご飯を食べ終わったところだ。
「おいしかったー!アメリまんぞく!!」
「うん!今日もウマかった!」
「へへっ!ありがと!」
二人とも満足してくれたので良かった。
アクチさんのとこにいたメイドアルプさんにいろいろとアドバイスしてもらったことを早速実践してみたんだけど、上手く出来たようだ。
自分で食べていてもおいしいと思ったし、これで私の料理の腕が更に上がって二人を私の料理で満足させられるって考えると嬉しい限りだ。
「それじゃあ片付けも終わったし早速出発しようか!」
「そうだな…ラノナスに着くにはどれくらいかかるかな…」
「アクチお姉ちゃんはジーナからテトラストの間よりはちかいって言ってたけど…」
「ま、気楽に行こうよ!ディナマはちょっと怖いけど勇者に襲われる事はほぼないんだし、テトラストに行く時と違って急ぐ必要も全くないんだから!!」
「……それもそうだな!」
お皿も洗い、身支度も済んだし、早速ラノナスに向かっていくことにした。
今度は何日掛かっても勇者に襲われるかもって恐怖は無いから気が楽である。
ただ盗賊団ディナマがちょっと怖いけど、ユウロとアメリちゃんなら襲われても簡単に返り討ち出来そうだし特に問題は無いだろう。あとは私がヘマしない様に気をつけるだけだ。
「それじゃあしゅっぱーつ!!」
私達は『テント』を出て、暖かい陽気の中ゆったりと歩きはじめた…
…………
………
……
…
「るんるん♪」
現在11時。ゆったりと歩き続けて約3時間経過。
いやぁ…流石新魔物領。この3時間でいろんな魔物を見かけた。
空を見上げるとハーピー達が散歩(散飛行?)しているし、丘の向こう側ではピョンピョン跳ねているワーラビットとそれを無邪気に追い掛けているアメリちゃん位のサキュバスの子供が居たし、木々の上に緑の髪の女性(アメリちゃんが言うにはドリアードって魔物)が寝ていた。
そのどれもがほのぼのとした光景だった。
まあ茂みの中から変な臭いがして変な声が聞こえた事もあったけど…ほのぼのしているのには変わりない。
「のどかだなぁ…」
「本当に盗賊団なんているのか疑問に思うほどだな…いやまぁ実際に遭遇したけど」
アメリちゃんと一緒に居るからか魔物に襲われる事もなく、昨日出てきたディナマも現れないし、本当にのんびりと気楽に旅が出来ている。
こうも気楽に事が進むと逆に嫌な予感がするのは私が捻くれているのかな?
「こんにちはー!!」
「こんにちは!リリムの子供なんてめずらしいねー!何してるの?」
「アメリのお姉ちゃんたちに会ってみたくて旅してるのー!」
と、ちょっとだけ先に進んでいるアメリちゃんが、腰に壺みたいなものをぶら下げている蜂の女の子とお話を始めていた。
蜂は蜂でもお尻の針は小さいし、そもそも魔物だから刺される危険とかは無さそうだ。
「へえー!大変だね!」
「そんなことないよ!たしかにたいへんな事もあるけど、一人じゃないからさみしくないし、旅していろんなものみたり、ふしぎなたいけん出来たりたのしーよ!!」
「そーなんだー!楽しそうだね!!」
なんかあの蜂の女の子テンション高いなあ。
「あ、じゃああそこにいる人間のお兄さんとお姉さんが一緒に旅してる人?」
「うん!あ、ユウロお兄ちゃんさらっちゃだめだよ!」
「だいじょーぶ!わたしは奪ったりはしないから!」
ユウロを攫うとか奪うとか何気に物騒な事言ってるなあ…見た目だけなら微笑ましい子供のお喋りなのに。
「そーだ!わたしの蜜わけてあげる!」
「え!?いいの!?」
「うん!お菓子とかに使ってね!」
「わーい!!ありがとーハニービーのお姉ちゃん!!」
あの蜂の魔物『ハニービー』っていうんだ…
アメリちゃんと喋っていたハニービーの女の子は腰にぶら下げている壺みたいなもののさらに小型版みたいなものをどこからか取り出し、壺の中に入っている蜂蜜みたいな液体をそれで掬ってアメリちゃんに渡した。
とても甘い匂いが漂っている。
「ありがとうね。ところでこの蜜人間が食べても大丈夫なの?」
「うん!わたしの蜜をそのまま使っちゃうと強力な媚薬と同じになっちゃうけど、薄めてから使えば上質なハチミツと同じように使えるよ!」
「…そうなの…気をつけて使わせてもらうね!」
強力な媚薬って…さすが魔物。
そういえばメイドアルプさんも「クッキーに使用しているアルラウネの蜜はきちんと薄めて使っているのでただのシロップと変わらないので安心して下さい」とか言ってたな…なんの事かわからなかったから流したけどあれもたぶん同じような事だよね。
「あっ!そろそろ帰らないと!じゃーねーアメリちゃん!」
「バイバイハニービーのお姉ちゃん!」
ハニービーの女の子はそのまま元気に去っていった。
「おいしいみつ使って何か作ってねサマリお姉ちゃん!」
「うん!あ、でもその前にお昼ご飯にしよっか!」
「うん!」
私達はお昼ご飯にするため、また貰った蜜を大事に保管するためにアメリちゃんの『テント』の中に入った。
…………
………
……
…
「らんらん♪」
お昼ご飯も食べ終わり、さっきの蜜を使っておやつのミニパンケーキも作ったので私達は出発した。
午前より日差しは強く少し暑いが、風が吹いてきたので気持ちいい午後といったところだ。
アメリちゃんも私もウキウキ気分で歩いている。散歩しているような感じだ。
「……」
「…どうしたのユウロ?」
「…いや…ちょっと…」
でも、なぜかユウロは出発してから緊迫した面立ちをしている。
「なに?身体の調子でも悪いの?」
「いや、そうじゃないけど…」
「調子悪かったら言ってよね。無理はしちゃダメだからね!」
「サマリがそれ言うなよ」
「あはは……で、どうしたの?」
ちょっと痛いところをつかれ話が逸れたが、調子悪くないのなら一体どうしたというのだろうか?
「なんだろう…殺気みたいなものを感じる…」
「殺気?もしかして昨日返り討ちにしたディナマの人?」
「いや…だったらどこに居るかわかると思うし…たいした脅威でもないけど…」
「じゃあ……」
親魔物領なのにアメリちゃんを狙った勇者でも居るの?って聞こうとした時だった…
ガサリッ!!
「うらあああっ!!」
「…えっ!?」
まるで月光の様な金色の瞳を持った紺色の何かが近くの茂みから私達のほうに飛び出してきて、私達を鋭く光る何かで切りつけてきた。
それはまるで私の身体を真っ二つにするように……
バギィィン!!
「くっ!大丈夫かサマリ!?」
「えっうん。たぶん…」
振り下ろされる直前に、ユウロの木刀が防いでくれた。
おかげで私は無傷だった…
=======[ユウロ視点]=======
「くっ!大丈夫かサマリ!?」
「えっうん。たぶん…」
……セーフ!
サマリと話していたら突然殺気が強くなり茂みから何かが飛び出してくる音がした。
はっとして音がしたほうを向くと俺達に向かって切りつけてくる何かが見えた。
狙いがサマリだったので俺は咄嗟に背中の木刀をそいつに向けて振り上げたらなんとか防ぐことが出来た。
だが、相当な力が入っている。木刀が折れないのはやはりドリアードお墨付きってところか。
「お前何者だ!!」
「……」
何も言葉を発さずに強襲を掛けてきた者は後ろに跳び下がった。
おかげでそいつの全体像を見ることが出来た。
「…ワーウルフか…!」
「……」
そいつは金色の瞳に鋭い牙を持った口の凛とした顔立ちで、鋭い爪が生えている手足が紺色の毛に覆われていて、同じく紺色でフサフサの尻尾を腰から生やし、頭からはイヌ科の耳が生えている。
きちんとした服を着ているものの、これらの特徴から狼のような魔物…『ワーウルフ』であると考えられる。
「なんでいきなり襲ってきた!」
「……」ダッ!
「くっ!だんまりかよ!!」
こちらの問い掛けに答えることなく、ワーウルフは俺のほうに跳躍しながら鋭い手の爪で引っ掻いてきた。
力任せに振り下ろされる腕を力いっぱい振り上げた木刀で弾くが、もう一方の腕がはじいた瞬間に横から飛んでくる。
右から左から、上から下からと襲ってくる爪を何とか捌いてはいるがなかなか反撃するチャンスがやってこない。
「おい!いったい何がしたいんだ!?」
「……ふ」
「!?…な…!!」
突然ワーウルフが笑ったかと思ったら俺はバランスを崩しひっくり返っていた。
どうやら足払いをされたらしい。動きながらなのによく出来たものだ。って感心している場合じゃないか。
「……」
そしてとどめをさすつもりなのか俺の身体を足で押さえつけて右手で拳を握り、俺の顔に振り下ろそうとしてきた。
「っさせるかあっ!!」
「!?くがっ!」
振り下ろされる前に地面の土を左手に取り、ワーウルフの顔に投げつけた。
砂を掛けられて流石に怯んだようで俺の顔に向かうはずだった右手はワーウルフの顔の前に来ていた。
その隙に俺は右手に持っていた木刀に力を込めてワーウルフの腹におもいきり突きを入れた。
意外と軽かったおかげでワーウルフが吹っ飛び俺の身体から離れ、起き上がることが出来た。
さて、こっから反撃するか…と思ったけど、ワーウルフの向こう側から氷の塊みたいなものが飛んでくるのが見えた。
「げほっ…はぁ……はぁ……」
「はぁ……俺ばっか見ていていいのかい?」
「はぁ……!!?」
俺の突きが結構効いたらしくワーウルフは息を荒げ俺をじっと睨みつけていた。それこそもう俺に変な行動をさせないようにか俺の動き一つ一つを見るかの如く集中して俺を睨んでいた。
しかし、それは逆にいえば俺しか見ていないという事で、つまりワーウルフの後ろから飛んでくる氷の塊に気付いていないって事になる。
「『ドロップアイシクル』!!」
「うわああ!!ぶがっ!!」
先が丸まっているから刺さりはしないもののかなりの質量がありそうな氷柱のような氷の塊…アメリちゃんが放った魔法が俺の言葉で振り向いたものの驚いて動けなかったワーウルフに直撃した。
見た目通りの威力があるのか、直撃したワーウルフはかろうじて意識こそあるもののもう戦えそうでもなかった。
「ワーウルフのお姉ちゃん!なんでいきなりサマリお姉ちゃんやユウロお兄ちゃんにおそってきたの!?」
「くぅ…うぅ…」
「ちゃんとこたえて!」
そして、アメリちゃん(子供)に怒られるワーウルフ(おそらく大人)という何とも言えない光景が目の前に広がっている…
「アメリちゃん…もう少し待ってあげようよ…流石にまだ喋れないって…」
「む〜〜〜〜!!」
ホルミのときと違ってワーウルフの『お姉ちゃん』と呼んでいるからまだあの時ほど怒ってはなさそうだけどアメリちゃんがすごく怒ってる…
アメリちゃんは俺やサマリが危険な目に遭うと怒って攻撃するのかな?
仲間としては嬉しいけど…なんかアメリちゃんに助けられてる感じがするな…俺が護る側のはずなんだけどな…
「おい、大丈夫か?そんでどうしていきなり襲ってきたんだ?」
「きゅぅ………」
「おーい!しっかりしろー!!」
やっぱり相当効いたらしく、ワーウルフは気絶してしまった。
ほかっておくわけにもいかないし、どうしようかと考えていたら…
ガサガサ…
「あーあ、気絶しちゃった。だからやめたほうが良いって言ったのに…」
「うおっ!だ、誰だお前は!?」
いきなりワーウルフが飛び出してきたのと同じ茂みから今度は黒目黒髪の俺と同じ歳位の男がゆっくりと出てきた。
「僕?僕は椿。ジパング人だよ…って言ってももう大陸に来てから半年以上は経つから服は大陸の物を着ているけどね」
「ツバキか…ツバキはこのワーウルフの知りあいか?それとも旦那か?」
「知りあいっていうか協力者ってところかな。僕も君たちと同じようにそこのワーウルフ、プロメに襲われてね…気絶しちゃったから事情は僕が話すよ」
そして、何故プロメが俺達を襲ってきたのかの説明をツバキが始めた……
…………
………
……
…
「…てことはつまり俺達の実力を試してたってことか?」
「そうなるね…こんなめんどくさい方法使わなくてもって言ったんだけど聞かなくてね…」
とりあえずツバキの話をまとめると、そこでまだ気絶しているワーウルフのプロメは自分の旦那をあの盗賊団ディナマに攫われたらしい。
そして旦那を助けるためにラノナスの近くにあるアジトに乗り込もうとしているけど、流石に多勢に無勢ということで向かっている途中に実力を持っていそうな人が居たら協力を求めることにしたと。
で、ツバキを同じように襲って返り討ちにあったから実力があると認めて協力を頼み、ツバキはプロメに協力することにしたから一緒にいると。
そんでテトラストを出てラノナスに向かっているところで俺達を見掛け、殺気を出してみたら俺が反応していたから実力がどれほどか戦って試したかったらしいと。
俺達が一応ディナマの奴と会ったみたいな話をしていて、追い払ったみたいな風に聞こえたから丁度良いとも思い、飛び出してきたらしい。
で、まずは弱そうなサマリに襲いかかり、もしサマリがプロメに攻撃されてワーウルフになったらどうせ性交し始めて話にならないからそのまま放置していくつもりだったと。なんて迷惑な。
それで、俺達を襲った結果、まさかの子供からの攻撃が飛んできてこのありさまと…
「なんつーか…大変だな…」
「いやぁ…まさかこの子がリリムとは僕は思わなかったよ…せいぜいアークインプ辺りかと…たぶんプロメは気付いてただろうけど攻撃されるとは思ってなかっただろうな…」
「アークインプなら逆に危ないだろ…これ位の見た目で大人なのもいるらしいしさ…」
「あ、それもそうか」
まあ、どちらにせよ子供から氷の塊で攻撃されるなんて普通考えないよな…
「サマリお姉ちゃんワーウルフさんにならなくてよかったね!」
「ホント良かったよ…流石に困るよ…覚悟してないってレベルじゃないよ…」
サマリとアメリちゃんはプロメから少し離れた場所にいる。
サマリは魔物になりたくないらしく、意識を戻した後暴れたりして事故などで自分を魔物に変える可能性があるからと離れていて、アメリちゃんはそんなサマリと話をするために離れている。
「う…うーん…ん?アタシはどうして…」
「あ、気がついた」
と、ここでプロメが目を覚ましたようだ。
「うーん…はっ!えっと…その…なんだ…」
それで俺達の顔を見た後、シュンとなってどもり始めた。
「あー大丈夫だプロメ、僕が一通り話しておいたから」
「ホントか!?ありがとうツバキ!!」
ツバキの言葉を聞いたら、逆に元気になった。
「で、俺の実力は?」
「えと…お前の実力は十分に強いってわかった。勝ったと思ったら逆転されたし、あのまま続けていてもアタシが負けていた可能性が高い。だから頼みがある!!」
そして、俺のほうを向いて…
「アタシの旦那…ネオムをディナマの奴等から取り戻すのを手伝ってくれ!!」
頭を下げて、旦那の救出を頼んできた。
「僕からもお願いするよ。大切な人を失うのは誰であろうと見たくないからね」
「うーん…そうだなあ…」
俺は別にいいけど、二人がなんていうかな…
そう思い、二人が居る方に顔を向けた。
「私はいいと思うよ?だって旦那さんを助けたいんでしょ?それにディナマが潰れて無くなるなら安心できるじゃん!」
「アメリもいいよ!でもアメリたちにあやまってねプロメお姉ちゃん!!」
二人もそう言ってくれることだし…
「じゃあいいぜ!協力するよ!!」
プロメの旦那…ネオムさんを救出するのを手伝う事にした。
「…!!ありがとう!!あと試すといっていきなり襲ってごめんな!」
「いいよ!これからよろしくねプロメお姉ちゃん!!」
「ああ…え〜っと…名前は…」
そういえばまだ俺達の事を言ってなかったな…自己紹介するか!
「俺はユウロ!これでも一応元勇者だ!人や魔物を殺したくないから木刀を使っている。よろしく!」
「私はサマリ!私は戦えないただの弱い人間だから旦那さんを助けるのには協力出来ないかもしれないけどそれ以外のことで何か協力するね!よろしく!」
「アメリだよ!サキュバスさんでもアークインプさんでもなくリリムだよ!!プロメお姉ちゃんのだんなさんをさらうなんてゆるせないからアメリ魔法でディナマをやっつけるよ!よろしくね!」
「おう!よろしくユウロ、サマリ、アメリ!アタシはワーウルフのプロメ!」
「じゃあ僕もちゃんと自己紹介しておこうかな…僕は椿。ジパングでは一応侍みたいな事をやってた。この刀は僕の相棒だ。よろしくな!」
こうして俺達の旅に新たに二人が加わった。
狼の女性プロメと、侍の少年ツバキの二人が。
そして、二人の頼み事を聞いて、ディナマを潰しに行く事にした。
ディナマか…危ない戦いになりそうだから気を引き締めないとな……
「じゃ、早速いくかあぁぁぁ……」
早速ネオムさんを救出するためにまずはラノナスに向かおうとした瞬間、プロメが力無く倒れた。
「…おい、どうしたプロメ…いきなり地面に伏せて…」
「…力が入らない……早く助けに行きたいのに……」
「…ごめんなさい…アメリがつよくやりすぎちゃったから…」
「いや…あれはアタシが悪かったからアメリは謝らなくていいよ…」
どうやら思った以上にダメージが大きかったらしい。さっきの元気が嘘だったかのようにぐったりしている。
「じゃあ今日はここで休むとしますか」
「なっ!?アタシは這ってでも進むぞ!早く行かないとネオムが何されるか…!!」
「って這って行くような状態でいってもあっという間に倒されちゃうでしょ?それに這って進む分疲れるし時間も掛かる。だったら今休んで体力を回復させてから行ったほうが絶対早く着くしネオムさんを助けられる確率もあがると思うけど?」
「でも!………あ、いや、そうだな…この状態で行って奴等に殺されたりしたらシャレにならないな…」
「でしょ?じゃ、アメリちゃん、『テント』をそこの広い場所に出してね!」
「はーい!!」
プロメがサマリに言いくるめられたので、今日はここで休むことになった。
「…サマリって何かが強い気がする…昨日も寝ずに行こうとしたから30分程かけて説得したのに…」
「…何故か皆あまりサマリには逆らえないんだよ…」
なんでだろうか…力は一番無い筈なんだけどな…それ故かなあ…
現在23時。『テント』の中のベッドでいつものようにアメリちゃんを抱きながら寝ようとして1時間半程経ったが、なかなか寝られずにいる。
別に疲れていないわけではないし、お昼寝して眠くないなんて事もない。
もちろんお腹が空いていることもないし、今日の不思議体験に興奮しているってことも少ししかない。
眠れない理由……それはただ、考え事をしているだけだ。
「魔物になる…か…」
アメリちゃんの元従者のベリリさん、アメリちゃんのお姉さんのアクチさん…その二人に私が言われたこと…
それは、これから旅をしていくのならば『魔物にならないか』ということ。
ずっと安全に旅が出来るなら私が人間のままでも問題ないだろうけど、そう上手くは行かない。
今までだって、勇者に襲われたりした。
今日だって盗賊に襲われたが、私は何もしていない。
実際旅に出てからまだそんなに経ってないのに私は死にかけた。
この前だって勇者に魔物と間違えられて襲われ、そのまま川に落とされて溺れ死ぬところだった。
その時は偶々サハギンっていう魔物(私はあまり姿とか覚えていないけど、アメリちゃんがそう言ってた)が近くを泳いでおり、私を助けてくれたから死なずに済んだ。
でもその後もそれが原因で高熱が出て、4日も入院する破目になった。その間、ユウロやアメリちゃんには多大な迷惑と心配を掛けてしまった。
私は弱い人間…この先の旅でも苦労することも、ユウロとアメリちゃんの足を引っ張ることも多いだろう。
そう考えると、私は人間でいるより魔物になったほうが良いかもしれない。
別に魔物になりたくないことは無い。今まで関わった魔物を見ていると、人間と大して違わない…それどころか人間より素直な人が多くて好感が持てるぐらいだ。
そんな魔物になることを完全否定する気は起きない。
身体も丈夫になるし、魔物になってもいいかなと思ったこともある。
でも…魔物になりたくない自分もいる。
魔物になんか…って言い方は悪いかもしれないけれど…人間として生まれたからには魔物になんかなってたまるかと思っている自分も確かに存在しているのだ。
「はぁ……」
考えれば考えるほど頭が痛くなるしもやもやする。
魔物になってしまった時はその時だ!それ以外はその時じゃない!って感じに気楽に考えたほうが良いかな…
「すぅ……すぅ……」
「……ふふっ…」
考え事を止め、寝息を立ててぐっすりと眠るアメリちゃんの可愛い寝顔を見て安心してから私は眠りについた…
====================
「「「ごちそうさま!!」」」
現在8時。
私を含め皆がちょっと寝坊しちゃったから遅くなってしまった朝ご飯を食べ終わったところだ。
「おいしかったー!アメリまんぞく!!」
「うん!今日もウマかった!」
「へへっ!ありがと!」
二人とも満足してくれたので良かった。
アクチさんのとこにいたメイドアルプさんにいろいろとアドバイスしてもらったことを早速実践してみたんだけど、上手く出来たようだ。
自分で食べていてもおいしいと思ったし、これで私の料理の腕が更に上がって二人を私の料理で満足させられるって考えると嬉しい限りだ。
「それじゃあ片付けも終わったし早速出発しようか!」
「そうだな…ラノナスに着くにはどれくらいかかるかな…」
「アクチお姉ちゃんはジーナからテトラストの間よりはちかいって言ってたけど…」
「ま、気楽に行こうよ!ディナマはちょっと怖いけど勇者に襲われる事はほぼないんだし、テトラストに行く時と違って急ぐ必要も全くないんだから!!」
「……それもそうだな!」
お皿も洗い、身支度も済んだし、早速ラノナスに向かっていくことにした。
今度は何日掛かっても勇者に襲われるかもって恐怖は無いから気が楽である。
ただ盗賊団ディナマがちょっと怖いけど、ユウロとアメリちゃんなら襲われても簡単に返り討ち出来そうだし特に問題は無いだろう。あとは私がヘマしない様に気をつけるだけだ。
「それじゃあしゅっぱーつ!!」
私達は『テント』を出て、暖かい陽気の中ゆったりと歩きはじめた…
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…
「るんるん♪」
現在11時。ゆったりと歩き続けて約3時間経過。
いやぁ…流石新魔物領。この3時間でいろんな魔物を見かけた。
空を見上げるとハーピー達が散歩(散飛行?)しているし、丘の向こう側ではピョンピョン跳ねているワーラビットとそれを無邪気に追い掛けているアメリちゃん位のサキュバスの子供が居たし、木々の上に緑の髪の女性(アメリちゃんが言うにはドリアードって魔物)が寝ていた。
そのどれもがほのぼのとした光景だった。
まあ茂みの中から変な臭いがして変な声が聞こえた事もあったけど…ほのぼのしているのには変わりない。
「のどかだなぁ…」
「本当に盗賊団なんているのか疑問に思うほどだな…いやまぁ実際に遭遇したけど」
アメリちゃんと一緒に居るからか魔物に襲われる事もなく、昨日出てきたディナマも現れないし、本当にのんびりと気楽に旅が出来ている。
こうも気楽に事が進むと逆に嫌な予感がするのは私が捻くれているのかな?
「こんにちはー!!」
「こんにちは!リリムの子供なんてめずらしいねー!何してるの?」
「アメリのお姉ちゃんたちに会ってみたくて旅してるのー!」
と、ちょっとだけ先に進んでいるアメリちゃんが、腰に壺みたいなものをぶら下げている蜂の女の子とお話を始めていた。
蜂は蜂でもお尻の針は小さいし、そもそも魔物だから刺される危険とかは無さそうだ。
「へえー!大変だね!」
「そんなことないよ!たしかにたいへんな事もあるけど、一人じゃないからさみしくないし、旅していろんなものみたり、ふしぎなたいけん出来たりたのしーよ!!」
「そーなんだー!楽しそうだね!!」
なんかあの蜂の女の子テンション高いなあ。
「あ、じゃああそこにいる人間のお兄さんとお姉さんが一緒に旅してる人?」
「うん!あ、ユウロお兄ちゃんさらっちゃだめだよ!」
「だいじょーぶ!わたしは奪ったりはしないから!」
ユウロを攫うとか奪うとか何気に物騒な事言ってるなあ…見た目だけなら微笑ましい子供のお喋りなのに。
「そーだ!わたしの蜜わけてあげる!」
「え!?いいの!?」
「うん!お菓子とかに使ってね!」
「わーい!!ありがとーハニービーのお姉ちゃん!!」
あの蜂の魔物『ハニービー』っていうんだ…
アメリちゃんと喋っていたハニービーの女の子は腰にぶら下げている壺みたいなもののさらに小型版みたいなものをどこからか取り出し、壺の中に入っている蜂蜜みたいな液体をそれで掬ってアメリちゃんに渡した。
とても甘い匂いが漂っている。
「ありがとうね。ところでこの蜜人間が食べても大丈夫なの?」
「うん!わたしの蜜をそのまま使っちゃうと強力な媚薬と同じになっちゃうけど、薄めてから使えば上質なハチミツと同じように使えるよ!」
「…そうなの…気をつけて使わせてもらうね!」
強力な媚薬って…さすが魔物。
そういえばメイドアルプさんも「クッキーに使用しているアルラウネの蜜はきちんと薄めて使っているのでただのシロップと変わらないので安心して下さい」とか言ってたな…なんの事かわからなかったから流したけどあれもたぶん同じような事だよね。
「あっ!そろそろ帰らないと!じゃーねーアメリちゃん!」
「バイバイハニービーのお姉ちゃん!」
ハニービーの女の子はそのまま元気に去っていった。
「おいしいみつ使って何か作ってねサマリお姉ちゃん!」
「うん!あ、でもその前にお昼ご飯にしよっか!」
「うん!」
私達はお昼ご飯にするため、また貰った蜜を大事に保管するためにアメリちゃんの『テント』の中に入った。
…………
………
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「らんらん♪」
お昼ご飯も食べ終わり、さっきの蜜を使っておやつのミニパンケーキも作ったので私達は出発した。
午前より日差しは強く少し暑いが、風が吹いてきたので気持ちいい午後といったところだ。
アメリちゃんも私もウキウキ気分で歩いている。散歩しているような感じだ。
「……」
「…どうしたのユウロ?」
「…いや…ちょっと…」
でも、なぜかユウロは出発してから緊迫した面立ちをしている。
「なに?身体の調子でも悪いの?」
「いや、そうじゃないけど…」
「調子悪かったら言ってよね。無理はしちゃダメだからね!」
「サマリがそれ言うなよ」
「あはは……で、どうしたの?」
ちょっと痛いところをつかれ話が逸れたが、調子悪くないのなら一体どうしたというのだろうか?
「なんだろう…殺気みたいなものを感じる…」
「殺気?もしかして昨日返り討ちにしたディナマの人?」
「いや…だったらどこに居るかわかると思うし…たいした脅威でもないけど…」
「じゃあ……」
親魔物領なのにアメリちゃんを狙った勇者でも居るの?って聞こうとした時だった…
ガサリッ!!
「うらあああっ!!」
「…えっ!?」
まるで月光の様な金色の瞳を持った紺色の何かが近くの茂みから私達のほうに飛び出してきて、私達を鋭く光る何かで切りつけてきた。
それはまるで私の身体を真っ二つにするように……
バギィィン!!
「くっ!大丈夫かサマリ!?」
「えっうん。たぶん…」
振り下ろされる直前に、ユウロの木刀が防いでくれた。
おかげで私は無傷だった…
=======[ユウロ視点]=======
「くっ!大丈夫かサマリ!?」
「えっうん。たぶん…」
……セーフ!
サマリと話していたら突然殺気が強くなり茂みから何かが飛び出してくる音がした。
はっとして音がしたほうを向くと俺達に向かって切りつけてくる何かが見えた。
狙いがサマリだったので俺は咄嗟に背中の木刀をそいつに向けて振り上げたらなんとか防ぐことが出来た。
だが、相当な力が入っている。木刀が折れないのはやはりドリアードお墨付きってところか。
「お前何者だ!!」
「……」
何も言葉を発さずに強襲を掛けてきた者は後ろに跳び下がった。
おかげでそいつの全体像を見ることが出来た。
「…ワーウルフか…!」
「……」
そいつは金色の瞳に鋭い牙を持った口の凛とした顔立ちで、鋭い爪が生えている手足が紺色の毛に覆われていて、同じく紺色でフサフサの尻尾を腰から生やし、頭からはイヌ科の耳が生えている。
きちんとした服を着ているものの、これらの特徴から狼のような魔物…『ワーウルフ』であると考えられる。
「なんでいきなり襲ってきた!」
「……」ダッ!
「くっ!だんまりかよ!!」
こちらの問い掛けに答えることなく、ワーウルフは俺のほうに跳躍しながら鋭い手の爪で引っ掻いてきた。
力任せに振り下ろされる腕を力いっぱい振り上げた木刀で弾くが、もう一方の腕がはじいた瞬間に横から飛んでくる。
右から左から、上から下からと襲ってくる爪を何とか捌いてはいるがなかなか反撃するチャンスがやってこない。
「おい!いったい何がしたいんだ!?」
「……ふ」
「!?…な…!!」
突然ワーウルフが笑ったかと思ったら俺はバランスを崩しひっくり返っていた。
どうやら足払いをされたらしい。動きながらなのによく出来たものだ。って感心している場合じゃないか。
「……」
そしてとどめをさすつもりなのか俺の身体を足で押さえつけて右手で拳を握り、俺の顔に振り下ろそうとしてきた。
「っさせるかあっ!!」
「!?くがっ!」
振り下ろされる前に地面の土を左手に取り、ワーウルフの顔に投げつけた。
砂を掛けられて流石に怯んだようで俺の顔に向かうはずだった右手はワーウルフの顔の前に来ていた。
その隙に俺は右手に持っていた木刀に力を込めてワーウルフの腹におもいきり突きを入れた。
意外と軽かったおかげでワーウルフが吹っ飛び俺の身体から離れ、起き上がることが出来た。
さて、こっから反撃するか…と思ったけど、ワーウルフの向こう側から氷の塊みたいなものが飛んでくるのが見えた。
「げほっ…はぁ……はぁ……」
「はぁ……俺ばっか見ていていいのかい?」
「はぁ……!!?」
俺の突きが結構効いたらしくワーウルフは息を荒げ俺をじっと睨みつけていた。それこそもう俺に変な行動をさせないようにか俺の動き一つ一つを見るかの如く集中して俺を睨んでいた。
しかし、それは逆にいえば俺しか見ていないという事で、つまりワーウルフの後ろから飛んでくる氷の塊に気付いていないって事になる。
「『ドロップアイシクル』!!」
「うわああ!!ぶがっ!!」
先が丸まっているから刺さりはしないもののかなりの質量がありそうな氷柱のような氷の塊…アメリちゃんが放った魔法が俺の言葉で振り向いたものの驚いて動けなかったワーウルフに直撃した。
見た目通りの威力があるのか、直撃したワーウルフはかろうじて意識こそあるもののもう戦えそうでもなかった。
「ワーウルフのお姉ちゃん!なんでいきなりサマリお姉ちゃんやユウロお兄ちゃんにおそってきたの!?」
「くぅ…うぅ…」
「ちゃんとこたえて!」
そして、アメリちゃん(子供)に怒られるワーウルフ(おそらく大人)という何とも言えない光景が目の前に広がっている…
「アメリちゃん…もう少し待ってあげようよ…流石にまだ喋れないって…」
「む〜〜〜〜!!」
ホルミのときと違ってワーウルフの『お姉ちゃん』と呼んでいるからまだあの時ほど怒ってはなさそうだけどアメリちゃんがすごく怒ってる…
アメリちゃんは俺やサマリが危険な目に遭うと怒って攻撃するのかな?
仲間としては嬉しいけど…なんかアメリちゃんに助けられてる感じがするな…俺が護る側のはずなんだけどな…
「おい、大丈夫か?そんでどうしていきなり襲ってきたんだ?」
「きゅぅ………」
「おーい!しっかりしろー!!」
やっぱり相当効いたらしく、ワーウルフは気絶してしまった。
ほかっておくわけにもいかないし、どうしようかと考えていたら…
ガサガサ…
「あーあ、気絶しちゃった。だからやめたほうが良いって言ったのに…」
「うおっ!だ、誰だお前は!?」
いきなりワーウルフが飛び出してきたのと同じ茂みから今度は黒目黒髪の俺と同じ歳位の男がゆっくりと出てきた。
「僕?僕は椿。ジパング人だよ…って言ってももう大陸に来てから半年以上は経つから服は大陸の物を着ているけどね」
「ツバキか…ツバキはこのワーウルフの知りあいか?それとも旦那か?」
「知りあいっていうか協力者ってところかな。僕も君たちと同じようにそこのワーウルフ、プロメに襲われてね…気絶しちゃったから事情は僕が話すよ」
そして、何故プロメが俺達を襲ってきたのかの説明をツバキが始めた……
…………
………
……
…
「…てことはつまり俺達の実力を試してたってことか?」
「そうなるね…こんなめんどくさい方法使わなくてもって言ったんだけど聞かなくてね…」
とりあえずツバキの話をまとめると、そこでまだ気絶しているワーウルフのプロメは自分の旦那をあの盗賊団ディナマに攫われたらしい。
そして旦那を助けるためにラノナスの近くにあるアジトに乗り込もうとしているけど、流石に多勢に無勢ということで向かっている途中に実力を持っていそうな人が居たら協力を求めることにしたと。
で、ツバキを同じように襲って返り討ちにあったから実力があると認めて協力を頼み、ツバキはプロメに協力することにしたから一緒にいると。
そんでテトラストを出てラノナスに向かっているところで俺達を見掛け、殺気を出してみたら俺が反応していたから実力がどれほどか戦って試したかったらしいと。
俺達が一応ディナマの奴と会ったみたいな話をしていて、追い払ったみたいな風に聞こえたから丁度良いとも思い、飛び出してきたらしい。
で、まずは弱そうなサマリに襲いかかり、もしサマリがプロメに攻撃されてワーウルフになったらどうせ性交し始めて話にならないからそのまま放置していくつもりだったと。なんて迷惑な。
それで、俺達を襲った結果、まさかの子供からの攻撃が飛んできてこのありさまと…
「なんつーか…大変だな…」
「いやぁ…まさかこの子がリリムとは僕は思わなかったよ…せいぜいアークインプ辺りかと…たぶんプロメは気付いてただろうけど攻撃されるとは思ってなかっただろうな…」
「アークインプなら逆に危ないだろ…これ位の見た目で大人なのもいるらしいしさ…」
「あ、それもそうか」
まあ、どちらにせよ子供から氷の塊で攻撃されるなんて普通考えないよな…
「サマリお姉ちゃんワーウルフさんにならなくてよかったね!」
「ホント良かったよ…流石に困るよ…覚悟してないってレベルじゃないよ…」
サマリとアメリちゃんはプロメから少し離れた場所にいる。
サマリは魔物になりたくないらしく、意識を戻した後暴れたりして事故などで自分を魔物に変える可能性があるからと離れていて、アメリちゃんはそんなサマリと話をするために離れている。
「う…うーん…ん?アタシはどうして…」
「あ、気がついた」
と、ここでプロメが目を覚ましたようだ。
「うーん…はっ!えっと…その…なんだ…」
それで俺達の顔を見た後、シュンとなってどもり始めた。
「あー大丈夫だプロメ、僕が一通り話しておいたから」
「ホントか!?ありがとうツバキ!!」
ツバキの言葉を聞いたら、逆に元気になった。
「で、俺の実力は?」
「えと…お前の実力は十分に強いってわかった。勝ったと思ったら逆転されたし、あのまま続けていてもアタシが負けていた可能性が高い。だから頼みがある!!」
そして、俺のほうを向いて…
「アタシの旦那…ネオムをディナマの奴等から取り戻すのを手伝ってくれ!!」
頭を下げて、旦那の救出を頼んできた。
「僕からもお願いするよ。大切な人を失うのは誰であろうと見たくないからね」
「うーん…そうだなあ…」
俺は別にいいけど、二人がなんていうかな…
そう思い、二人が居る方に顔を向けた。
「私はいいと思うよ?だって旦那さんを助けたいんでしょ?それにディナマが潰れて無くなるなら安心できるじゃん!」
「アメリもいいよ!でもアメリたちにあやまってねプロメお姉ちゃん!!」
二人もそう言ってくれることだし…
「じゃあいいぜ!協力するよ!!」
プロメの旦那…ネオムさんを救出するのを手伝う事にした。
「…!!ありがとう!!あと試すといっていきなり襲ってごめんな!」
「いいよ!これからよろしくねプロメお姉ちゃん!!」
「ああ…え〜っと…名前は…」
そういえばまだ俺達の事を言ってなかったな…自己紹介するか!
「俺はユウロ!これでも一応元勇者だ!人や魔物を殺したくないから木刀を使っている。よろしく!」
「私はサマリ!私は戦えないただの弱い人間だから旦那さんを助けるのには協力出来ないかもしれないけどそれ以外のことで何か協力するね!よろしく!」
「アメリだよ!サキュバスさんでもアークインプさんでもなくリリムだよ!!プロメお姉ちゃんのだんなさんをさらうなんてゆるせないからアメリ魔法でディナマをやっつけるよ!よろしくね!」
「おう!よろしくユウロ、サマリ、アメリ!アタシはワーウルフのプロメ!」
「じゃあ僕もちゃんと自己紹介しておこうかな…僕は椿。ジパングでは一応侍みたいな事をやってた。この刀は僕の相棒だ。よろしくな!」
こうして俺達の旅に新たに二人が加わった。
狼の女性プロメと、侍の少年ツバキの二人が。
そして、二人の頼み事を聞いて、ディナマを潰しに行く事にした。
ディナマか…危ない戦いになりそうだから気を引き締めないとな……
「じゃ、早速いくかあぁぁぁ……」
早速ネオムさんを救出するためにまずはラノナスに向かおうとした瞬間、プロメが力無く倒れた。
「…おい、どうしたプロメ…いきなり地面に伏せて…」
「…力が入らない……早く助けに行きたいのに……」
「…ごめんなさい…アメリがつよくやりすぎちゃったから…」
「いや…あれはアタシが悪かったからアメリは謝らなくていいよ…」
どうやら思った以上にダメージが大きかったらしい。さっきの元気が嘘だったかのようにぐったりしている。
「じゃあ今日はここで休むとしますか」
「なっ!?アタシは這ってでも進むぞ!早く行かないとネオムが何されるか…!!」
「って這って行くような状態でいってもあっという間に倒されちゃうでしょ?それに這って進む分疲れるし時間も掛かる。だったら今休んで体力を回復させてから行ったほうが絶対早く着くしネオムさんを助けられる確率もあがると思うけど?」
「でも!………あ、いや、そうだな…この状態で行って奴等に殺されたりしたらシャレにならないな…」
「でしょ?じゃ、アメリちゃん、『テント』をそこの広い場所に出してね!」
「はーい!!」
プロメがサマリに言いくるめられたので、今日はここで休むことになった。
「…サマリって何かが強い気がする…昨日も寝ずに行こうとしたから30分程かけて説得したのに…」
「…何故か皆あまりサマリには逆らえないんだよ…」
なんでだろうか…力は一番無い筈なんだけどな…それ故かなあ…
12/03/25 16:57更新 / マイクロミー
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