旅6 やっとお姉ちゃん登場!!
「ん〜〜〜シャキーン!!サマリ完・全・復・活!!」
………
「よし、じゃあ退院の準備するか〜」
「よかったねサマリお姉ちゃん!」
………
もうちょっと反応してほしかったな…「なんじゃそりゃ!?サマリらしくないぞ!」とか「サマリお姉ちゃんおおげさ〜」とか言ってほしかったな……
…って私は何やってるんだか…どうやら入院中の寂しさと熱でおかしくなってしまったようだ。
テトラストに到着してから4日経った。その間私はずっと病院のベッドの中で過ごしていた。
女勇者(ホルミって名前だったかな?)に川に落とされてびしょ濡れになったせいで風邪をひいてしまっただけでなく、かなりの高熱にうなされていたのだ。
その間アメリちゃんは一応ずっと私のそばにいてくれたけど、私の風邪がうつるといけないし、それに私の負担になるといけないからって夕方から次の日の朝に掛けては私は一人ぼっちで寂しかった。
ちなみにユウロは旅費を稼ぐと言ってこの病院の裏方のほうを手伝っていたようだ。だからお昼などの休憩時間と宿に行く直前くらいにしか会えてなかったのだ。
まあたまに看護師さんが話し相手になってくれたからまだいいけど…魔物なだけあって会話や行動にちょくちょく下ネタ挿むから恥ずかしくなるんだよね…
なんだよ、「喉が痛いなら下のお口で会話しましょうか」って……断ったしジョークだったらしいけどナニする気だったんだ?
「ユウロお兄ちゃん!こっちはおわったよ!」
「そうか。おーし、これで準備は整ったぞ〜」
「じゃあ行こ!サマリお姉ちゃん!」
「うん!」
ただ、私が入院してアメリちゃんとユウロが二人っきりでいる時間が多かったためか、二人の仲がいつの間にかかなり良くなっていた。
普通に楽しそうにお話しているだけでなくて手を繋いで歩いていたので、二人の壁はほぼ無くなったと見て良いだろう。
結果的には私が入院して良かったのかな?ちょっと寂しいけど。
あ、そういえば……
「アメリちゃんのお姉さんがこの街のどこにいるか調べた?」
「ううん。サマリお姉ちゃんのことが心配だったから…」
どうやらアメリちゃんのお姉さんはこの街にいるようだけど、場所まではわからないらしい。
じゃあ聞いてみるか。
「それではお大事に。今度は気をつけてくださいね」
「あのー看護師さん、ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「この街にアメリちゃんと同じリリムが居るらしいのですがどこに居るかわかりますか?」
ずっと私に係りっきりだった兎の耳が頭から生えている、下半身が白くもふもふした看護師さん(アメリちゃんが言うにはワーラビットって魔物らしい)にアメリちゃんのお姉さんについて何か知ってないかを聞いてみた。
「わかるもなにも、このテトラストの領主様はそのリリム、アクチ様ですよ!」
「えっ!?そうなんですか!?」
そしたら真っ赤な瞳が満遍なく見えるほど目を見開かせながら興奮気味に教えてくれた。
「はい。もしかして領主様にお会いに?」
「ええ、アメリちゃんはお姉さん達に会う為に旅をしているんですよ」
「あら、そうなんですか。でしたらこの街の中心に行くといいですよ。そこに領主様のお屋敷がありますから」
「そうですか!ありがとうございます!」
アメリちゃんのお姉さんがまさかこのテトラストの領主だとは…会うのに許可とかいるかなぁ…
「アメリちゃんのお姉さん、この街の領主様で街の中心に居るんだって!」
「きこえてたよ!早くアクチお姉ちゃんに会いにいこ!」
「リリムか……どんな人(?)だろうか……ちょっと怖いな……」
でもまあアメリちゃんも早く会いたがっていることだし(ユウロはちょっと怖がっているけど)、とりあえず街の中心にあるお屋敷に向かいますk……
ぐうぅぅぅぅ……
「「……」」
「もうやだ……///」
ぐうぅぅぅぅ……
「どうしてアメリこんなにおなかすくんだろ…///」
……まずはお昼ご飯を食べに行きますか。
====================
「ごちそうさま!!」
「うまかったな!」
「この味私にもできるかなぁ…」
病み上がりで私が料理する気にもなれなかったし、二人はいろいろとテトラストの飲食店を食べ歩いてたみたいだけど私はずっと病院食しか食べてなかった(まあおいしかったけど)から、私達は目の前の噴水がある広場の様子が見えるオシャレなカフェでお昼ご飯を食べることにした。
私はそこで新鮮な野菜と程良い厚さのベーコンが挟まれたサンドイッチを食べた…とても美味しかった。
出来ればこの味の再現をしてみたいものだが…新鮮な野菜ってのは旅しているとなかなか難しいんだよね。
「アメリおなかいっぱい!!」
「って言いながら2、3時間後にはまたお腹がすくんだろ?ここ何日かずっとそうじゃないか」
「うぅ……ユウロお兄ちゃんのイジワル!」
アメリちゃんもお腹が一杯になって満足そうにしていた…が、ユウロがアメリちゃんをからかったのでムスッとした表情になってしまった。
二人ともホント仲良くなったな〜……ってそうじゃなくて、ユウロめ…折角のアメリちゃんの可愛い満足顔を可愛いムスッとした顔に変えやがって…
いや、まあどっちの表情も可愛いんだけどね。
でも確かにここ何日かはアメリちゃんのお腹の音をよく聞くな…何かの病気じゃなければいいけど…う〜ん…リリムのことはリリムに聞いたほうがいいかな。
「ユウロ、アメリちゃんをからかってないでそろそろいこ!」
「そうだな。しかし親魔物領は物価が安くて助かるな…おかげでまだ予算に余裕があるし」
「安いのはあれじゃない?魔物の技術が凄いとか、魔物とエッチな事していれば生きていけるからとかなんとか…」
ここまで大きな街なら物価も高いかと思ったが、全くそんなことは無く、むしろ安すぎて目を疑ったほどだ。
どうやらこの街は人間よりも魔物のほうが多いらしく(実際この街で人間、特に女性はほとんど見ていない)、様々な魔物がそれぞれに適した職業についている事が多いんだとか。
それにお店で売っている物も魔物が体内で生成するものだったり、そうでなくても魔物達の知恵で人間だけで作るよりは良い出来の物を簡単に作れてしまうから安いんだとか。
例えば、このカフェに来る途中でジャイアントアント(ってアメリちゃんが言ってた)達がもの凄い速さで大きな家を造っていた。たった3分しか見ていなかったのにもかかわらずあっという間に何もなかった場所が部屋になっていったのは驚いた。
それ以外にもアラクネって魔物が作った肌触りのよい服が売っていたり、ホルスタウロスっていう牛の魔物の栄養満点でおいしいミルク(試飲した。もちろん即購入決定)が売っていたりと、いたる所で魔物の凄さが目立っていた。
しかもその出来で下手すれば私が住んでいた村で売っていた比べ物にならない程ショボい物よりも安かったりするから驚きである。
「ま、いいか。それじゃあ領主様のところに行くとするか!」
「うん!アクチお姉ちゃんに早く会いたい!」
とりあえず会計を済ませて、私達は街の中心にある領主様のお屋敷に向かう事にした。
……………
…………
………
……
…
「ここ…かな?」
「大きい…」
「広いな…」
お店を出た後、私達はいろんな人や魔物に道を尋ねながら、1時間ちょっと掛けてようやく領主様のお屋敷だと思われる場所に到着した。
そのお屋敷を見た感想を一言でいえば……デカ過ぎである。
だって、目の前にそびえ立つ門は私の十数倍は高いし、お屋敷を囲っている塀は端が見えない。
さらに目の前のやけに白いお屋敷に至っては一番上を見ると首が痛くなるほど高く大きい。
ただの住居じゃなくてどうやら役所も兼ねているとは聞いていたけど、それにしたって大き過ぎである。
「アクチお姉ちゃんはここにいるんだよね?」
「たぶん…でも勝手には言っても良いのかなぁ?」
「さあ…どうだろ?どこかに誰かいないかなぁ…」
大きすぎるせいで勝手に入ってはいけない雰囲気が出ているので、どうしようか迷って立ち止まっていると…
バサッ……バサッ……
「ん?」
「どうしたサマリ?」
「いや、なんか……」
羽ばたいているような音がどこかから聞こえない?って言おうとした瞬間…
「あなた達、この街の住人じゃないわね…しかもわざわざ住居の入口にいるとは…私に何か用かしら?」
突然上空から凛とした女性の声が聞こえてきた。
「えっ!?」
声のする方へ顔を上げてその声の正体を見ようとしたが、太陽の光のせいで陰ってよく見えなかった。
が、悪魔の尻尾や蝙蝠の様な翼、それと陰っているにもかかわらず妖しく光る紅い瞳が確認できた。
これらのパーツからしておそらくこの女性だと思われる者の正体は……
フワッ……
「人間の男女とは珍しいわね…男の子のほうは一応武器を持っているようだけど女の子のほうは特に物騒なものは持っていないと…どうやら私を退治しに来たかわいい勇者くんや勇者ちゃんってわけではなさそう………ってあら?」
そして、その女性はゆっくりと私達の目の前に舞い降りた。
その結果、その女性はロングで純白の髪と対照的なねじ曲がった漆黒の角、さらに翼や尻尾も白く、胸が無駄にデカイ(おそらくベリリさんよりアルファベットが一つ上)という事がわかった。
目の前の魔物は私達を見て何かを言い始めたが、アメリちゃんを見た途端に何かに気づいたようだ。
もう確信した。おそらくこの魔物は…
「あなた…もしかして私と同じリリム?」
「うん!あなたがアクチお姉ちゃんですか?」
「ええ、そうよ。私はアクチ。あなたは?」
「アメリだよ!!はじめましてアクチお姉ちゃん!!」
やっぱりアメリちゃんのお姉ちゃん…リリムのアクチさんだった。
お互いに挨拶し手を握り合っている姿は姉妹だけあってそっくりだけど、よく見ると角の形とか細部が結構違うな…
「はじめまして!ところでアメリはどうしてここに?それとこの人達は?」
「アメリはまだ会ったことのないお姉ちゃんたちに会いたくて旅をしているの!それでサマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんはアメリといっしょに旅してるの!」
「へぇ〜、そうなの?」
アクチさんが私達のほうを見てきた。自己紹介したほうがいいかな。
「あ、はい。私はサマリです。アメリちゃんと一緒に旅をしている人間です!」
「お、俺はユウロです。同じくアメリちゃんと一緒に旅をしている人間です!」
「そう…私はアクチ。アメリの姉だからわかると思うけど見ての通りリリムで、このテトラストの領主をしているわ。これからもアメリをよろしくね♪」
「「は、はい!」」
アクチさんは柔らかい雰囲気を出しつつもどこかカリスマ性を感じて、どうしても畏まってしまう。
「せっかく来てもらったことだし、お客様として迎えさせてもらうわね。私とゆっくりとお話でもしましょ♪」
「うん!」
「「あ、お、お願いします」」
「ふふっ…そんなに緊張しなくてもいいわよ。もっと気楽にしてね♪」
いや、アメリちゃんにとっては実のお姉さんだからか、アメリちゃんはもう気楽に接しているけど、それは人間には難しいんじゃないかと思う。
私達はアクチさんの案内で広いお屋敷の中に入っていった。
====================
「こちらはこの屋敷内で栽培したハーブを使ったハーブティと、この街に住んでいるアルラウネから譲ってもらった蜜を使った自家製のクッキーでございます」
「あ、どうも」
「ふふっ…いつもありがとうね♪」
「はい、ありがとうございます。では私はこれで失礼します」
アクチさんの案内で私達は応接室みたいな部屋に連れて行かれた。
ふっかふかの黒いソファーに座らされたけど、こんなの今まで座ったことないから落ち着かない。
「いやぁ、部屋も広いですね…」
「ソファーふかふかだ〜!!」
落ち着かなくてそわそわしているのはどうやら私だけじゃないようだ。ユウロはやけに白くて広い部屋をあれこれと見ているし、アメリちゃんは子供らしくソファーで跳ねてはしゃいでいる。
「折角おいしいハーブティとクッキーを用意してくれたのだから遠慮せずに食べてね!」
「あ、はい。ではいただきます…」
ハーブの香りが漂う紅茶を飲んでみた。
うん、良い香りと相まってもの凄くおいしい。
「どう?」
「凄くおいしいです…ハーブの香りも良いですし…」
「クッキーあまくておいしー!!」
「うおっ!こんなウマいクッキー食べたことねぇ!」
「ふふっ…そんなに喜んでくれてるならあの子も喜ぶわ!」
あの子ってのはさっきのメイド服着たサキュバスさんの事かな?
とりあえず二人が絶賛してるクッキーも食べてみる……うん、おいしい。
アルラウネの蜜って言ってたからどんなのだろうと思ったけど、しっかり甘くて、それでいてしつこくないという、程良い甘さであり、クッキーそのものの焼き加減も抜群である。
後で機会があれば作り方教えてもらおうかな……その時に魔物にされたりしなければいいけど…
「ところであなた達はどこからこの街に来たの?」
「え、えっと…ここからかなり距離のあるジーナっていう反魔物領の村から来ました」
「なるほどね〜…」
優しい笑みを浮かべながらアクチさんが質問してきた。
「じゃあ、もしかして勇者か何かに襲われたりした?」
「ええ、道中で2回ほど。そのうち1回はそこにいるユウロですが」
「ゲホッ!?ちょっ!?サマリ!?言わなくても良いじゃないか!!」
「へぇ〜、ユウロ君は勇者なのか〜」
私がユウロに襲われたとうっかり言ってしまったら、アクチさんは若干冷たくなった気がする視線をユウロに向けた。
「さしずめアメリを退治しに来たのかな?」
「…すいませんでした!!」
そして、ユウロは流れるようにソファーから下り、旅に加わるときにアメリちゃんにしたような綺麗な土下座をアクチさんにした。
「あ、いや、別に怒っているわけじゃないわよ」
「へっ!?」
「いや、だってアメリもユウロ君のこと信頼しているようだし、そもそもいまアメリと旅しているってことは本気で殺そうとしていないんでしょ?」
「え、あ、はい。まぁ確かに嫌々でしたけど…」
「なら別に謝る必要は無いわ…そういえば、どうしてユウロ君は私達魔物を拒んでいるのかって聞いていい?」
「……気付きましたか…」
…へ?
「なんのこと?」
「あら?他の人には言ってないのね。ユウロ君は私達魔物の魅了や誘惑の魔法を何かの道具を使って最小限まで抑えているのよ」
「え?そうなのユウロお兄ちゃん?」
「…ああ、まあな…」
どうやらユウロは魔物の誘惑を振り払っているらしい。
そう言えば病院に居る時も何度かユウロに声を掛けてる魔物がいたし、何人かはかなり積極的だったけど、全部やんわりと断っていた気がする。
「なんで?」
「いや、まあ魔物だけじゃなくて人間でもかな?俺は結ばれるのはもちろん、彼女を作る訳にはいかないからね」
人間もか…どうしてだろうか?
「どうして?」
「どうしてかは言えないな…というよりは言って良いものじゃないから…」
「ふーん…ユウロお兄ちゃんが言いたくないならいいよ。アメリとなかよくしてくれるんでしょ?」
「おう!友達とか仲間なら全く問題ないよ!!」
そう言えば前に子供と接するのが怖いとか言ってたっけ。それと何か関係あるのかな?
「ま、生きていれば誰にだって言いたくないことの一つや二つあるわね…しょうがないからこれ以上は聞かないことにするわ」
「ありがとうございます」
まあ本人が言いたくないものを無理に聞きだすのも悪いし、自分から何か言ってくれるのを気長に待つとしますか。
「で、私が聞きたかったのはその事じゃなくて、ユウロ君が襲ってきた時にアメリは魔法を沢山使ったのかってことなの」
「いえ、俺のときは全く使ってませんが、その後に襲ってきた勇者のときにかなり強力なものを何発か使ってました」
「やっぱりか…」
それを聞いたアクチさんは何かを考え始めた。
そしてアメリちゃんのほうを見て…
「ねえアメリ、あなたここ最近お腹がすぐ減っちゃったりしない?」
もう答えがわかっているような顔でアメリちゃんに質問をした。
「うん…おなかいっぱいごはんたべてもすぐおなかすいちゃう…アクチお姉ちゃんはなんでアメリがすぐおなかすいちゃうかわかるの?」
「まあね…アメリ、ちょっと私の膝の上に座ってくれる?」
「えっ、うん…」
アクチさんに言われて、アメリちゃんはトテトテとアクチさんのところまで歩いていって、アクチさんの膝の上にちょこんと座った。
「確かにここのところアメリちゃんはすぐお腹を空かしていましたけど…それと魔法を使った事が関係あるのですか?」
「ええ、大アリよ。今はっきりとわかったけど、アメリの魔力が空っぽに近いのよ…精が足りてないわ」
なるほど…アメリちゃんがここのところお腹を空かせていたのは魔力が少なかったせいなのか。
その魔力を補うためにいっぱい食べ物が必要だったってことかな。
でも精って…なんだろう?
「ユウロ君、アメリに精をあげちゃったりしない?」
「……精をあげる方法は?」
「それはもちろんセックs「アメリちゃんはまだ8歳ですよ!?」…あらそうなの?」
「うん。アメリ8さいだよ!」
セック……精……まさかね。
いや、でもアメリちゃん達リリムはサキュバスと同じようなものだから…まさかかも。
「8歳じゃ流石に2年は早いわね…」
「いや10年は早いですよ!!」
「あら、魔物なら10歳にもなればセックスできるし、なんなら赤ちゃんだって作れるわよ?」
そのまさかかい!
そういえば魔物は皆エロいって話だったな…魔物が魔力を得るには人間の男が必須ってことか…なるほど…だからか。
しかし10歳からって…最低でもあと4年は待てよ…
「そういう問題じゃ……ってマジですか!?」
「ええ。アメリもユウロ君のおちんちんからでる精が欲しいよね〜?」
「うーん…アメリまだよくわからないけど…ユウロお兄ちゃんがアメリとしたいっていうなら…」
「ちょっとアメリちゃん何言ってるの!?アクチさんも2年早いって言ったばかりじゃないですか!!」
こういうのを聞いているとアメリちゃんも魔物なんだなーって思うのはなんでかな?
「仕方ないわね…アメリには私の魔力を分けてあげるわ」
「えっ!?ホントに?」
「ええ、ちょっとじっとしててね」
「うん!」
そういったアクチさんはアメリちゃんの頭の上に手を乗せて…
「……ふにゃあ〜〜〜〜〜〜♪」
よくわからないけど、アクチさんは何か黒いもの…魔力かな?魔力を掌からアメリちゃんに流し始めた。
その感覚が気持ちいいのか、アメリちゃんは蕩けた表情を浮かべている。
「どうアメリ、気持ちいい?」
「うん…きみょちいい……♪」
…気のせいかどこかエッチな顔をしている気がする。8歳児なのに。
………
……
…
「……はい、これでよし!」
「ふにゃあ〜♪」
魔力を注ぎ始めてから5分位経った。どうやら終わったようだ。
アメリちゃんはまだ蕩けた笑顔を浮かべてぼーっとしている。
「ところであなたたちはいつ出発するとか決めているのかしら?」
「いえ、特には決めていませんが…」
「なら今日はここに泊まっていって明日出発するといいわ!私ももっとアメリとお話したいし、それに私の夫も紹介したいしね♪」
まあ初めて会ったって言っても本当の姉妹なわけだし、もう少しお話したいのはわかる。それに私達の旅は急いでいるものでもないし、私やユウロは目的も特にないわけだから今日はお言葉に甘えてここに泊まっていくことにしよう。
「ではそうさせてもらいます………って旦那さんいたんですね」
「ええ、今はお仕事の最中よ♪私の次に仕事が大事って言うほどで、仕事が仕事だから帰りがちょっと遅いからまだ紹介できないのよ」
へぇ…こんな美人で領主という立場にいる奥さんに頼りきらずに仕事している旦那さんか〜…
「旦那さんは何の仕事をしているのですか?」
「この街の自警団長よ!私が大切にしているこの街を俺も護っていきたいからっていうのよ!!もうかっこよくて自慢の夫なのよ〜。この前だってね…」
(あ、なんか変なスイッチ入れちゃったかも…)
アクチさんの惚気話は小一時間は続いた……
まあ途中でユウロを生贄にして私はメイドのサキュバスさんにクッキーとハーブティの作り方を聞きに行ったけどね。
あ、違った。あのメイドさんはアルプって魔物だって自分で言ってたわ。サキュバスとの違いがわからないけど。
サキュバスって亜種多すぎてよくわからないや。今度アメリちゃんにいろいろ聞いてみよ。
私達は、やっと会えたアメリちゃんのお姉さん…アクチさんの家で一晩を過ごした。
アクチさんに旦那さんを紹介してもらったけど、アクチさんの言うとおり旦那さんは良い人だった。
次はどんなお姉さんに会うのかなぁ…と言っても、アクチさんも他のお姉さんの居場所はわからないらしいし、一応親魔物領の場所は聞いたからまずはそこに行って…まあ気ままに旅をしながら会っていくしかないか…
アクチさんは旦那さんに抱かれているから、私は久々にアメリちゃんを抱きながら寝た。
…やっぱりアメリちゃんの抱き心地は最高だね。
========[???視点]========
ガシンッ!!
「おい!!なんでこんなことをしたんだ!!」
「ぐっ…」
アタシは逃げる男を捕まえ、右手で大木に叩きつけながら情報を聞きだしていた。
「おいっ!!何か言え!!噛むぞ!!」
「し、知らねえよ!!」
「なんだと!?ふざけるな!!」
「ひ、ひぃ…」
大きく口を開けて脅したら簡単に怯みやがった。どうやらアタシが本当に噛むとでも思ったらしい。
冗談じゃない。こんな奴頼まれたって噛むもんか!
「知らないってどういうことだ!?アンタは奴等の仲間じゃないのか!?」
「お、俺はシタッパだから詳しい事は聞いてないんですよ…」
ちっ、こいつじゃ聞きだそうとしても意味ないのか。
「…ふんっ!じゃあアンタらのアジトの位置を教えてもらおうか!!」
「い、嫌です!そ、そんなことしたら俺が殺される…」
「はっ!知るかそんなこと!アタシの大切なネオムに手を出しておいてよくそんなことが言えるな!なんなら今ここでアタシがこの爪でアンタの腹でも抉って殺してやろうか!?」
「ひ、ひぃぃ…勘弁して下さいぃ…」
本当に腹が立つ。
本気で殺してやりたいぐらいだが、こんなのでも好きになる奴がいるから本当に殺すのは良くない。
だからアタシは自分の左手の鋭い爪を腹に押しつけながら脅し続ける。
「勘弁してほしかったらアジトの場所を吐きな!」
「い、いや…それだけは……」
「アンタが奴等と縁を切れば良いだろ!?それにアタシが潰すからアンタも殺されない!」
「で、でも……」
あーもーじれったい!!
「アタシにアジトの場所を言うか、ここでアタシに殺されるか、好きなほうを選べ!!」
「ひっ!そ、そんなの…」
「さあどうするんだ!考える頭があるならどっちのほうが良いかわかるよな!?」
「わ、わかりました!言います!言いますからその手を離して下さい!!」
ようやく言う気になったようなので、仕方がないから左手を男から離してやった。
「さあ言え!アンタらのアジトはどこにある!?」
「ラ、ラノナスを東に行ってすぐ近くにある崖の傍です…青い屋根のボロ小屋があるからすぐわかるかと…」
「そうか…ラノナスか…」
ラノナス…ここから少し遠くにある親魔物領か…
わざわざ姿を隠さずに行ける分余計な事に神経を削る必要が無くて助かる…
「わかった。もうアンタは好きにしていいぞ…と言ってもアンタを狙っている魔物がそこらじゅうにいると思うけどな…」
「お、おい!まさかお前一人で乗り込むつもりか!?」
「そうだが?私は群れから離れた一匹狼。他に頼る仲間なんていないからな」
アタシは結婚した際に群れから離れた。元いた群れがいる集落はラノナスとは正反対の位置にあるし、頼りに行くような時間は無い。
「いくらなんでも無茶だ!お前が魔物だからって多勢に無勢、敵うものか!!」
「あ?知るかそんなの。アタシは奴等を潰してネオムを返してもらう、それだけだ!」
だが確かにアタシ一人で奴等を潰すのは難しいだろう。
噂によると奴等は50人程の組織で、中にはそこそこの実力者もいるらしい。
だから…ラノナスに向かう途中で実力を持った者がいれば協力を頼んだほうが良いかもしれない。
「じゃあなっ!アンタは奴等の事なんか忘れて幸せに暮らしな!」
「へっ?ってわあ!?」
「うふふ!やっとお邪魔なワンちゃんが居なくなったし、私と中で気持ちいい事しましょうね♪」
ずっとこちらの様子を大木の上から見ていたドリアードに襲われてる男を尻目に、アタシは早速行動することにした。
アタシの大切な旦那…ネオムを、奴等盗賊から取り戻すために……
………
「よし、じゃあ退院の準備するか〜」
「よかったねサマリお姉ちゃん!」
………
もうちょっと反応してほしかったな…「なんじゃそりゃ!?サマリらしくないぞ!」とか「サマリお姉ちゃんおおげさ〜」とか言ってほしかったな……
…って私は何やってるんだか…どうやら入院中の寂しさと熱でおかしくなってしまったようだ。
テトラストに到着してから4日経った。その間私はずっと病院のベッドの中で過ごしていた。
女勇者(ホルミって名前だったかな?)に川に落とされてびしょ濡れになったせいで風邪をひいてしまっただけでなく、かなりの高熱にうなされていたのだ。
その間アメリちゃんは一応ずっと私のそばにいてくれたけど、私の風邪がうつるといけないし、それに私の負担になるといけないからって夕方から次の日の朝に掛けては私は一人ぼっちで寂しかった。
ちなみにユウロは旅費を稼ぐと言ってこの病院の裏方のほうを手伝っていたようだ。だからお昼などの休憩時間と宿に行く直前くらいにしか会えてなかったのだ。
まあたまに看護師さんが話し相手になってくれたからまだいいけど…魔物なだけあって会話や行動にちょくちょく下ネタ挿むから恥ずかしくなるんだよね…
なんだよ、「喉が痛いなら下のお口で会話しましょうか」って……断ったしジョークだったらしいけどナニする気だったんだ?
「ユウロお兄ちゃん!こっちはおわったよ!」
「そうか。おーし、これで準備は整ったぞ〜」
「じゃあ行こ!サマリお姉ちゃん!」
「うん!」
ただ、私が入院してアメリちゃんとユウロが二人っきりでいる時間が多かったためか、二人の仲がいつの間にかかなり良くなっていた。
普通に楽しそうにお話しているだけでなくて手を繋いで歩いていたので、二人の壁はほぼ無くなったと見て良いだろう。
結果的には私が入院して良かったのかな?ちょっと寂しいけど。
あ、そういえば……
「アメリちゃんのお姉さんがこの街のどこにいるか調べた?」
「ううん。サマリお姉ちゃんのことが心配だったから…」
どうやらアメリちゃんのお姉さんはこの街にいるようだけど、場所まではわからないらしい。
じゃあ聞いてみるか。
「それではお大事に。今度は気をつけてくださいね」
「あのー看護師さん、ちょっと良いですか?」
「はい、何でしょうか?」
「この街にアメリちゃんと同じリリムが居るらしいのですがどこに居るかわかりますか?」
ずっと私に係りっきりだった兎の耳が頭から生えている、下半身が白くもふもふした看護師さん(アメリちゃんが言うにはワーラビットって魔物らしい)にアメリちゃんのお姉さんについて何か知ってないかを聞いてみた。
「わかるもなにも、このテトラストの領主様はそのリリム、アクチ様ですよ!」
「えっ!?そうなんですか!?」
そしたら真っ赤な瞳が満遍なく見えるほど目を見開かせながら興奮気味に教えてくれた。
「はい。もしかして領主様にお会いに?」
「ええ、アメリちゃんはお姉さん達に会う為に旅をしているんですよ」
「あら、そうなんですか。でしたらこの街の中心に行くといいですよ。そこに領主様のお屋敷がありますから」
「そうですか!ありがとうございます!」
アメリちゃんのお姉さんがまさかこのテトラストの領主だとは…会うのに許可とかいるかなぁ…
「アメリちゃんのお姉さん、この街の領主様で街の中心に居るんだって!」
「きこえてたよ!早くアクチお姉ちゃんに会いにいこ!」
「リリムか……どんな人(?)だろうか……ちょっと怖いな……」
でもまあアメリちゃんも早く会いたがっていることだし(ユウロはちょっと怖がっているけど)、とりあえず街の中心にあるお屋敷に向かいますk……
ぐうぅぅぅぅ……
「「……」」
「もうやだ……///」
ぐうぅぅぅぅ……
「どうしてアメリこんなにおなかすくんだろ…///」
……まずはお昼ご飯を食べに行きますか。
====================
「ごちそうさま!!」
「うまかったな!」
「この味私にもできるかなぁ…」
病み上がりで私が料理する気にもなれなかったし、二人はいろいろとテトラストの飲食店を食べ歩いてたみたいだけど私はずっと病院食しか食べてなかった(まあおいしかったけど)から、私達は目の前の噴水がある広場の様子が見えるオシャレなカフェでお昼ご飯を食べることにした。
私はそこで新鮮な野菜と程良い厚さのベーコンが挟まれたサンドイッチを食べた…とても美味しかった。
出来ればこの味の再現をしてみたいものだが…新鮮な野菜ってのは旅しているとなかなか難しいんだよね。
「アメリおなかいっぱい!!」
「って言いながら2、3時間後にはまたお腹がすくんだろ?ここ何日かずっとそうじゃないか」
「うぅ……ユウロお兄ちゃんのイジワル!」
アメリちゃんもお腹が一杯になって満足そうにしていた…が、ユウロがアメリちゃんをからかったのでムスッとした表情になってしまった。
二人ともホント仲良くなったな〜……ってそうじゃなくて、ユウロめ…折角のアメリちゃんの可愛い満足顔を可愛いムスッとした顔に変えやがって…
いや、まあどっちの表情も可愛いんだけどね。
でも確かにここ何日かはアメリちゃんのお腹の音をよく聞くな…何かの病気じゃなければいいけど…う〜ん…リリムのことはリリムに聞いたほうがいいかな。
「ユウロ、アメリちゃんをからかってないでそろそろいこ!」
「そうだな。しかし親魔物領は物価が安くて助かるな…おかげでまだ予算に余裕があるし」
「安いのはあれじゃない?魔物の技術が凄いとか、魔物とエッチな事していれば生きていけるからとかなんとか…」
ここまで大きな街なら物価も高いかと思ったが、全くそんなことは無く、むしろ安すぎて目を疑ったほどだ。
どうやらこの街は人間よりも魔物のほうが多いらしく(実際この街で人間、特に女性はほとんど見ていない)、様々な魔物がそれぞれに適した職業についている事が多いんだとか。
それにお店で売っている物も魔物が体内で生成するものだったり、そうでなくても魔物達の知恵で人間だけで作るよりは良い出来の物を簡単に作れてしまうから安いんだとか。
例えば、このカフェに来る途中でジャイアントアント(ってアメリちゃんが言ってた)達がもの凄い速さで大きな家を造っていた。たった3分しか見ていなかったのにもかかわらずあっという間に何もなかった場所が部屋になっていったのは驚いた。
それ以外にもアラクネって魔物が作った肌触りのよい服が売っていたり、ホルスタウロスっていう牛の魔物の栄養満点でおいしいミルク(試飲した。もちろん即購入決定)が売っていたりと、いたる所で魔物の凄さが目立っていた。
しかもその出来で下手すれば私が住んでいた村で売っていた比べ物にならない程ショボい物よりも安かったりするから驚きである。
「ま、いいか。それじゃあ領主様のところに行くとするか!」
「うん!アクチお姉ちゃんに早く会いたい!」
とりあえず会計を済ませて、私達は街の中心にある領主様のお屋敷に向かう事にした。
……………
…………
………
……
…
「ここ…かな?」
「大きい…」
「広いな…」
お店を出た後、私達はいろんな人や魔物に道を尋ねながら、1時間ちょっと掛けてようやく領主様のお屋敷だと思われる場所に到着した。
そのお屋敷を見た感想を一言でいえば……デカ過ぎである。
だって、目の前にそびえ立つ門は私の十数倍は高いし、お屋敷を囲っている塀は端が見えない。
さらに目の前のやけに白いお屋敷に至っては一番上を見ると首が痛くなるほど高く大きい。
ただの住居じゃなくてどうやら役所も兼ねているとは聞いていたけど、それにしたって大き過ぎである。
「アクチお姉ちゃんはここにいるんだよね?」
「たぶん…でも勝手には言っても良いのかなぁ?」
「さあ…どうだろ?どこかに誰かいないかなぁ…」
大きすぎるせいで勝手に入ってはいけない雰囲気が出ているので、どうしようか迷って立ち止まっていると…
バサッ……バサッ……
「ん?」
「どうしたサマリ?」
「いや、なんか……」
羽ばたいているような音がどこかから聞こえない?って言おうとした瞬間…
「あなた達、この街の住人じゃないわね…しかもわざわざ住居の入口にいるとは…私に何か用かしら?」
突然上空から凛とした女性の声が聞こえてきた。
「えっ!?」
声のする方へ顔を上げてその声の正体を見ようとしたが、太陽の光のせいで陰ってよく見えなかった。
が、悪魔の尻尾や蝙蝠の様な翼、それと陰っているにもかかわらず妖しく光る紅い瞳が確認できた。
これらのパーツからしておそらくこの女性だと思われる者の正体は……
フワッ……
「人間の男女とは珍しいわね…男の子のほうは一応武器を持っているようだけど女の子のほうは特に物騒なものは持っていないと…どうやら私を退治しに来たかわいい勇者くんや勇者ちゃんってわけではなさそう………ってあら?」
そして、その女性はゆっくりと私達の目の前に舞い降りた。
その結果、その女性はロングで純白の髪と対照的なねじ曲がった漆黒の角、さらに翼や尻尾も白く、胸が無駄にデカイ(おそらくベリリさんよりアルファベットが一つ上)という事がわかった。
目の前の魔物は私達を見て何かを言い始めたが、アメリちゃんを見た途端に何かに気づいたようだ。
もう確信した。おそらくこの魔物は…
「あなた…もしかして私と同じリリム?」
「うん!あなたがアクチお姉ちゃんですか?」
「ええ、そうよ。私はアクチ。あなたは?」
「アメリだよ!!はじめましてアクチお姉ちゃん!!」
やっぱりアメリちゃんのお姉ちゃん…リリムのアクチさんだった。
お互いに挨拶し手を握り合っている姿は姉妹だけあってそっくりだけど、よく見ると角の形とか細部が結構違うな…
「はじめまして!ところでアメリはどうしてここに?それとこの人達は?」
「アメリはまだ会ったことのないお姉ちゃんたちに会いたくて旅をしているの!それでサマリお姉ちゃんとユウロお兄ちゃんはアメリといっしょに旅してるの!」
「へぇ〜、そうなの?」
アクチさんが私達のほうを見てきた。自己紹介したほうがいいかな。
「あ、はい。私はサマリです。アメリちゃんと一緒に旅をしている人間です!」
「お、俺はユウロです。同じくアメリちゃんと一緒に旅をしている人間です!」
「そう…私はアクチ。アメリの姉だからわかると思うけど見ての通りリリムで、このテトラストの領主をしているわ。これからもアメリをよろしくね♪」
「「は、はい!」」
アクチさんは柔らかい雰囲気を出しつつもどこかカリスマ性を感じて、どうしても畏まってしまう。
「せっかく来てもらったことだし、お客様として迎えさせてもらうわね。私とゆっくりとお話でもしましょ♪」
「うん!」
「「あ、お、お願いします」」
「ふふっ…そんなに緊張しなくてもいいわよ。もっと気楽にしてね♪」
いや、アメリちゃんにとっては実のお姉さんだからか、アメリちゃんはもう気楽に接しているけど、それは人間には難しいんじゃないかと思う。
私達はアクチさんの案内で広いお屋敷の中に入っていった。
====================
「こちらはこの屋敷内で栽培したハーブを使ったハーブティと、この街に住んでいるアルラウネから譲ってもらった蜜を使った自家製のクッキーでございます」
「あ、どうも」
「ふふっ…いつもありがとうね♪」
「はい、ありがとうございます。では私はこれで失礼します」
アクチさんの案内で私達は応接室みたいな部屋に連れて行かれた。
ふっかふかの黒いソファーに座らされたけど、こんなの今まで座ったことないから落ち着かない。
「いやぁ、部屋も広いですね…」
「ソファーふかふかだ〜!!」
落ち着かなくてそわそわしているのはどうやら私だけじゃないようだ。ユウロはやけに白くて広い部屋をあれこれと見ているし、アメリちゃんは子供らしくソファーで跳ねてはしゃいでいる。
「折角おいしいハーブティとクッキーを用意してくれたのだから遠慮せずに食べてね!」
「あ、はい。ではいただきます…」
ハーブの香りが漂う紅茶を飲んでみた。
うん、良い香りと相まってもの凄くおいしい。
「どう?」
「凄くおいしいです…ハーブの香りも良いですし…」
「クッキーあまくておいしー!!」
「うおっ!こんなウマいクッキー食べたことねぇ!」
「ふふっ…そんなに喜んでくれてるならあの子も喜ぶわ!」
あの子ってのはさっきのメイド服着たサキュバスさんの事かな?
とりあえず二人が絶賛してるクッキーも食べてみる……うん、おいしい。
アルラウネの蜜って言ってたからどんなのだろうと思ったけど、しっかり甘くて、それでいてしつこくないという、程良い甘さであり、クッキーそのものの焼き加減も抜群である。
後で機会があれば作り方教えてもらおうかな……その時に魔物にされたりしなければいいけど…
「ところであなた達はどこからこの街に来たの?」
「え、えっと…ここからかなり距離のあるジーナっていう反魔物領の村から来ました」
「なるほどね〜…」
優しい笑みを浮かべながらアクチさんが質問してきた。
「じゃあ、もしかして勇者か何かに襲われたりした?」
「ええ、道中で2回ほど。そのうち1回はそこにいるユウロですが」
「ゲホッ!?ちょっ!?サマリ!?言わなくても良いじゃないか!!」
「へぇ〜、ユウロ君は勇者なのか〜」
私がユウロに襲われたとうっかり言ってしまったら、アクチさんは若干冷たくなった気がする視線をユウロに向けた。
「さしずめアメリを退治しに来たのかな?」
「…すいませんでした!!」
そして、ユウロは流れるようにソファーから下り、旅に加わるときにアメリちゃんにしたような綺麗な土下座をアクチさんにした。
「あ、いや、別に怒っているわけじゃないわよ」
「へっ!?」
「いや、だってアメリもユウロ君のこと信頼しているようだし、そもそもいまアメリと旅しているってことは本気で殺そうとしていないんでしょ?」
「え、あ、はい。まぁ確かに嫌々でしたけど…」
「なら別に謝る必要は無いわ…そういえば、どうしてユウロ君は私達魔物を拒んでいるのかって聞いていい?」
「……気付きましたか…」
…へ?
「なんのこと?」
「あら?他の人には言ってないのね。ユウロ君は私達魔物の魅了や誘惑の魔法を何かの道具を使って最小限まで抑えているのよ」
「え?そうなのユウロお兄ちゃん?」
「…ああ、まあな…」
どうやらユウロは魔物の誘惑を振り払っているらしい。
そう言えば病院に居る時も何度かユウロに声を掛けてる魔物がいたし、何人かはかなり積極的だったけど、全部やんわりと断っていた気がする。
「なんで?」
「いや、まあ魔物だけじゃなくて人間でもかな?俺は結ばれるのはもちろん、彼女を作る訳にはいかないからね」
人間もか…どうしてだろうか?
「どうして?」
「どうしてかは言えないな…というよりは言って良いものじゃないから…」
「ふーん…ユウロお兄ちゃんが言いたくないならいいよ。アメリとなかよくしてくれるんでしょ?」
「おう!友達とか仲間なら全く問題ないよ!!」
そう言えば前に子供と接するのが怖いとか言ってたっけ。それと何か関係あるのかな?
「ま、生きていれば誰にだって言いたくないことの一つや二つあるわね…しょうがないからこれ以上は聞かないことにするわ」
「ありがとうございます」
まあ本人が言いたくないものを無理に聞きだすのも悪いし、自分から何か言ってくれるのを気長に待つとしますか。
「で、私が聞きたかったのはその事じゃなくて、ユウロ君が襲ってきた時にアメリは魔法を沢山使ったのかってことなの」
「いえ、俺のときは全く使ってませんが、その後に襲ってきた勇者のときにかなり強力なものを何発か使ってました」
「やっぱりか…」
それを聞いたアクチさんは何かを考え始めた。
そしてアメリちゃんのほうを見て…
「ねえアメリ、あなたここ最近お腹がすぐ減っちゃったりしない?」
もう答えがわかっているような顔でアメリちゃんに質問をした。
「うん…おなかいっぱいごはんたべてもすぐおなかすいちゃう…アクチお姉ちゃんはなんでアメリがすぐおなかすいちゃうかわかるの?」
「まあね…アメリ、ちょっと私の膝の上に座ってくれる?」
「えっ、うん…」
アクチさんに言われて、アメリちゃんはトテトテとアクチさんのところまで歩いていって、アクチさんの膝の上にちょこんと座った。
「確かにここのところアメリちゃんはすぐお腹を空かしていましたけど…それと魔法を使った事が関係あるのですか?」
「ええ、大アリよ。今はっきりとわかったけど、アメリの魔力が空っぽに近いのよ…精が足りてないわ」
なるほど…アメリちゃんがここのところお腹を空かせていたのは魔力が少なかったせいなのか。
その魔力を補うためにいっぱい食べ物が必要だったってことかな。
でも精って…なんだろう?
「ユウロ君、アメリに精をあげちゃったりしない?」
「……精をあげる方法は?」
「それはもちろんセックs「アメリちゃんはまだ8歳ですよ!?」…あらそうなの?」
「うん。アメリ8さいだよ!」
セック……精……まさかね。
いや、でもアメリちゃん達リリムはサキュバスと同じようなものだから…まさかかも。
「8歳じゃ流石に2年は早いわね…」
「いや10年は早いですよ!!」
「あら、魔物なら10歳にもなればセックスできるし、なんなら赤ちゃんだって作れるわよ?」
そのまさかかい!
そういえば魔物は皆エロいって話だったな…魔物が魔力を得るには人間の男が必須ってことか…なるほど…だからか。
しかし10歳からって…最低でもあと4年は待てよ…
「そういう問題じゃ……ってマジですか!?」
「ええ。アメリもユウロ君のおちんちんからでる精が欲しいよね〜?」
「うーん…アメリまだよくわからないけど…ユウロお兄ちゃんがアメリとしたいっていうなら…」
「ちょっとアメリちゃん何言ってるの!?アクチさんも2年早いって言ったばかりじゃないですか!!」
こういうのを聞いているとアメリちゃんも魔物なんだなーって思うのはなんでかな?
「仕方ないわね…アメリには私の魔力を分けてあげるわ」
「えっ!?ホントに?」
「ええ、ちょっとじっとしててね」
「うん!」
そういったアクチさんはアメリちゃんの頭の上に手を乗せて…
「……ふにゃあ〜〜〜〜〜〜♪」
よくわからないけど、アクチさんは何か黒いもの…魔力かな?魔力を掌からアメリちゃんに流し始めた。
その感覚が気持ちいいのか、アメリちゃんは蕩けた表情を浮かべている。
「どうアメリ、気持ちいい?」
「うん…きみょちいい……♪」
…気のせいかどこかエッチな顔をしている気がする。8歳児なのに。
………
……
…
「……はい、これでよし!」
「ふにゃあ〜♪」
魔力を注ぎ始めてから5分位経った。どうやら終わったようだ。
アメリちゃんはまだ蕩けた笑顔を浮かべてぼーっとしている。
「ところであなたたちはいつ出発するとか決めているのかしら?」
「いえ、特には決めていませんが…」
「なら今日はここに泊まっていって明日出発するといいわ!私ももっとアメリとお話したいし、それに私の夫も紹介したいしね♪」
まあ初めて会ったって言っても本当の姉妹なわけだし、もう少しお話したいのはわかる。それに私達の旅は急いでいるものでもないし、私やユウロは目的も特にないわけだから今日はお言葉に甘えてここに泊まっていくことにしよう。
「ではそうさせてもらいます………って旦那さんいたんですね」
「ええ、今はお仕事の最中よ♪私の次に仕事が大事って言うほどで、仕事が仕事だから帰りがちょっと遅いからまだ紹介できないのよ」
へぇ…こんな美人で領主という立場にいる奥さんに頼りきらずに仕事している旦那さんか〜…
「旦那さんは何の仕事をしているのですか?」
「この街の自警団長よ!私が大切にしているこの街を俺も護っていきたいからっていうのよ!!もうかっこよくて自慢の夫なのよ〜。この前だってね…」
(あ、なんか変なスイッチ入れちゃったかも…)
アクチさんの惚気話は小一時間は続いた……
まあ途中でユウロを生贄にして私はメイドのサキュバスさんにクッキーとハーブティの作り方を聞きに行ったけどね。
あ、違った。あのメイドさんはアルプって魔物だって自分で言ってたわ。サキュバスとの違いがわからないけど。
サキュバスって亜種多すぎてよくわからないや。今度アメリちゃんにいろいろ聞いてみよ。
私達は、やっと会えたアメリちゃんのお姉さん…アクチさんの家で一晩を過ごした。
アクチさんに旦那さんを紹介してもらったけど、アクチさんの言うとおり旦那さんは良い人だった。
次はどんなお姉さんに会うのかなぁ…と言っても、アクチさんも他のお姉さんの居場所はわからないらしいし、一応親魔物領の場所は聞いたからまずはそこに行って…まあ気ままに旅をしながら会っていくしかないか…
アクチさんは旦那さんに抱かれているから、私は久々にアメリちゃんを抱きながら寝た。
…やっぱりアメリちゃんの抱き心地は最高だね。
========[???視点]========
ガシンッ!!
「おい!!なんでこんなことをしたんだ!!」
「ぐっ…」
アタシは逃げる男を捕まえ、右手で大木に叩きつけながら情報を聞きだしていた。
「おいっ!!何か言え!!噛むぞ!!」
「し、知らねえよ!!」
「なんだと!?ふざけるな!!」
「ひ、ひぃ…」
大きく口を開けて脅したら簡単に怯みやがった。どうやらアタシが本当に噛むとでも思ったらしい。
冗談じゃない。こんな奴頼まれたって噛むもんか!
「知らないってどういうことだ!?アンタは奴等の仲間じゃないのか!?」
「お、俺はシタッパだから詳しい事は聞いてないんですよ…」
ちっ、こいつじゃ聞きだそうとしても意味ないのか。
「…ふんっ!じゃあアンタらのアジトの位置を教えてもらおうか!!」
「い、嫌です!そ、そんなことしたら俺が殺される…」
「はっ!知るかそんなこと!アタシの大切なネオムに手を出しておいてよくそんなことが言えるな!なんなら今ここでアタシがこの爪でアンタの腹でも抉って殺してやろうか!?」
「ひ、ひぃぃ…勘弁して下さいぃ…」
本当に腹が立つ。
本気で殺してやりたいぐらいだが、こんなのでも好きになる奴がいるから本当に殺すのは良くない。
だからアタシは自分の左手の鋭い爪を腹に押しつけながら脅し続ける。
「勘弁してほしかったらアジトの場所を吐きな!」
「い、いや…それだけは……」
「アンタが奴等と縁を切れば良いだろ!?それにアタシが潰すからアンタも殺されない!」
「で、でも……」
あーもーじれったい!!
「アタシにアジトの場所を言うか、ここでアタシに殺されるか、好きなほうを選べ!!」
「ひっ!そ、そんなの…」
「さあどうするんだ!考える頭があるならどっちのほうが良いかわかるよな!?」
「わ、わかりました!言います!言いますからその手を離して下さい!!」
ようやく言う気になったようなので、仕方がないから左手を男から離してやった。
「さあ言え!アンタらのアジトはどこにある!?」
「ラ、ラノナスを東に行ってすぐ近くにある崖の傍です…青い屋根のボロ小屋があるからすぐわかるかと…」
「そうか…ラノナスか…」
ラノナス…ここから少し遠くにある親魔物領か…
わざわざ姿を隠さずに行ける分余計な事に神経を削る必要が無くて助かる…
「わかった。もうアンタは好きにしていいぞ…と言ってもアンタを狙っている魔物がそこらじゅうにいると思うけどな…」
「お、おい!まさかお前一人で乗り込むつもりか!?」
「そうだが?私は群れから離れた一匹狼。他に頼る仲間なんていないからな」
アタシは結婚した際に群れから離れた。元いた群れがいる集落はラノナスとは正反対の位置にあるし、頼りに行くような時間は無い。
「いくらなんでも無茶だ!お前が魔物だからって多勢に無勢、敵うものか!!」
「あ?知るかそんなの。アタシは奴等を潰してネオムを返してもらう、それだけだ!」
だが確かにアタシ一人で奴等を潰すのは難しいだろう。
噂によると奴等は50人程の組織で、中にはそこそこの実力者もいるらしい。
だから…ラノナスに向かう途中で実力を持った者がいれば協力を頼んだほうが良いかもしれない。
「じゃあなっ!アンタは奴等の事なんか忘れて幸せに暮らしな!」
「へっ?ってわあ!?」
「うふふ!やっとお邪魔なワンちゃんが居なくなったし、私と中で気持ちいい事しましょうね♪」
ずっとこちらの様子を大木の上から見ていたドリアードに襲われてる男を尻目に、アタシは早速行動することにした。
アタシの大切な旦那…ネオムを、奴等盗賊から取り戻すために……
12/03/17 18:34更新 / マイクロミー
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