旅2 最初の町、怪しい人影
「完成!夜ご飯はシチューだよ!!」
「わー!いいにおい!!」
現在20時。つまり夜。
私達はまず隣町の『ジーナ』を目指す事にしたのだが、家からジーナまでは歩きだと大人でも半日ほどかかってしまう。旅立ったのが昼過ぎだったうえにまだ子供であるアメリちゃんの歩幅は大人のそれよりも小さいため日が暮れるまでにジーナまでたどり着く事が出来ず、私達は現在道沿いから少し外れた場所にある丘の上でキャンプしている。
「じゃあ食べよっか!」
「うん!いただきまーす!」
「はい、いただきます!」
私達はアメリちゃんが持っていた『折り畳み小屋』の中にある木で出来た立派な椅子に座りながらこれまた立派なテーブルの上に乗せたシチューとパン、それに野菜サラダ(材料は家から持ってきた)を食べている。
……誰が何と言おうが私達はキャンプをしているのである。
「ごちそうさま!!やっぱりサマリお姉ちゃんのごはんはとってもおいしい!!」
「いやあ…そこまで真っ直ぐ言われると照れるよ…///」
目の前に居るリリムの女の子、アメリちゃんはとても素直な子だ。
今まで私は魔物というものを実際に見た事が無かったけど、こうして一緒に居てお話をしていると世間で言われている恐ろしさは微塵も感じない。見た目以外は人間の女の子との違いがさっぱりわからない。
大人の魔物になるとまた違うのかもしれないけど、アメリちゃんの話からすると今の魔物は魔王の魔力の影響で人間を愛するようになっているとの事なのできっと人間女性と大差ないのだろう。
……人間女性より大幅にエロいらしいけど。まあ魔王=アメリちゃんのお母さんはサキュバスらしいから仕方ないか。
「ところで…この小屋?テント?…まあいいや。これって凄くない?」
「え?そうかなあ?」
この小屋にはルーンが刻まれたスイッチを押すだけで段階調節が可能な熱を発するプレート、蛇口、電灯があり、食材を保存・保冷する事が出来る箱に、ちょっと大きめのベッドまで複数存在し、トイレとシャワー完備……
しかもこの小屋の外見は少し大きめのテントと変わらないのに内部の空間はこのようにその数倍の広さである……
更にこの小屋は人除け、獣除け、ついでに虫除けの魔力が込められているのでよほどの事が無い限りは安心だとか……
やっぱりこれ凄くない?魔物の社会では普通なの?
「んーでもたしかこのテントは一級品でアメリ用だってベリリお姉ちゃんが言ってた」
あー、ここまで凄いのは王女仕様だからか。
でもそれぞれの機能は普通に存在しているんだろうな……
恐るべし魔物の技術。
「ところでアメリちゃん、いま向かっているジーナは反魔物領なんだけど本当に大丈夫なの?」
「うん。一週間ぐらいずっとその町にいるってなるとあぶないけど少しならだいじょーぶだよ!!」
本人がこう言う事だしきっと大丈夫なのだろうけど…不安になる。
一応護衛術を軽く身につけてはいるけど、勇者が現れたりしたら護りきれる自信が全く無い。
実際アメリちゃんは私と出会う前に勇者に襲われている。視界が悪い森の中に入ったことでなんとか逃げ切る事が出来たと言っていたが、村や平野など見晴らしが良い場所で遭遇したら逃げるのも困難だ。
うーん…まずは親魔物領を目指した方が良いかな。そのほうが襲われたり恐れられたりする確率はぐっと減るし、最悪襲われても他の魔物が助けてくれるかもしれないし。
「ふぁ〜〜〜……ねむくなってきた……」
「じゃあもう寝る?でも寝る前に歯を磨いておこうね」
「うん…」
これからの旅についていろいろと考えていたらアメリちゃんが眠たそうに欠伸をしていた。
魔物でも子供は早く寝るものなんだな……こういうのを目の当たりにすると人と魔物の違いなんてあまりないと実感する。
「サマリお姉ちゃん、はみがきおわったよー」
「はい、それならおやすみ、アメリちゃん」
「あれ?サマリお姉ちゃんはねないの?」
「私は食器とかを洗って片付けてから寝るよ」
「……じゃあまってる!いっしょにねよ!」
……ものすっごくカワイイ!!!!
こんな妹がずっと欲しかったから「一緒に寝よ!」なんて言われて凄く嬉しい!!
もう眠たいアメリちゃんを長く待たせるのは悪いので急いで片づけをすませた。
そして同じベッドで二人一緒に寝た。
アメリちゃんの抱き心地は最高だった。
====================
「で、アメリちゃん。そろそろジーナに着くけどどうするの?」
早く寝たからか朝早くに起きれたので、そのまま朝ご飯を食べて出発したおかげでお昼前にはジーナの入口の門が見える所までたどり着く事が出来た。
しかし、ここは反魔物領だ。アメリちゃんは大丈夫と言っていたけどどうするのだろうか?
「ちょっとまってね……う〜〜〜ん……えいっ!」
「!?」
いやあ……びっくりしたぁ……
アメリちゃんが念じ始めると同時に人と違う部分…黒い角や白い尻尾や翼がだんだん小さくなっていき、最終的には消えてしまった。そして耳の先端も人と同じように丸まっていた。
今目の前に居るのは魔物リリムの子供ではなく、白い髪と肌、そして深紅の瞳を持った人間の女の子だ。
「そんな事が出来るんだ!?」
「うん!人化のじゅつって言うんだ!!これで魔物にやさしくない場所でももんだいないよ!!」
なるほど…確かにこれなら自分から魔物と言わない限り問題は無さそうだ。
…………あれ?
「そういえば私と出会ったときは普通に翼とか出してたよね?なんで?」
「あ、あれは朝おきたばかりでそのあと勇者のお兄ちゃんにおそわれてがんばってにげてたからかくすのわすれてて…//」
なるほど。それじゃあしょうがないか。
魔物とわかる姿のアメリちゃんと出会ったおかげで私の魔物に対する印象が変わったのだからある意味良かったのかな。
「じゃあジーナまで行こうか!」
「うん!」
………………
「うわあ〜〜〜…!!」
「お店がいっぱいだ〜…!!」
ジーナに着いてまず目に入ったのは、人が溢れかえっているにぎやかな商店街だった。
私の住んでいた村にはこんな大きな商店街は無いのでこの光景は新鮮だった。
「ねえねえサマリお姉ちゃん!これかわいい!!」
「ほわあ〜!かわいいタヌキのお人形さんだね!」
アメリちゃんも目を輝かせていろんなお店を見ている。
「わあ〜〜、かっこいいオオカミさんの絵がついてる〜!」
「マグカップか〜……買おっか?」
「えっ!?いいの!?」
「うん。まだ予算はあるし、少しぐらいなら全然良いよ!」
「わーい!ありがとサマリお姉ちゃん!!」
「どういたしまして!すみませーん、このマグカップ買いまーす!」
そんなアメリちゃんと同じように私もはしゃいでいた。
「ふう…これで大体必要なものは買ったかな?」
「たべものばっかりだけどね〜」
いろんなお店を回って旅に必要なものを購入した。
と言っても生活に必要なものは大体アメリちゃんの『テント』に揃っているのでほとんどが食料品だが。
「これからどうするの?もう町出るの?」
「うーん…もう少しお店を回りつつ次どこ行こうか考えようかな」
次は親魔物領の方に行こうとは思っているのだが…どっちに行けばあるのかさっぱりだ。
他の人に聞こうにもここは反魔物領。聞いたら変な人に見られるだろうし、最悪教団の人に見つかって連行されるかもしれない。そうなると魔物のアメリちゃんが危ない。
かといって適当に進んで行くとしても、結果余計に魔物を嫌っている地域なんかに足を踏み込んでしまう可能性だってある。
うーん……どうしようか?
この町のどこかにアメリちゃんみたいに人間に変装してる魔物居ないかなあ……
「ねえサマリお姉ちゃん、あのお店なんだろう?」
「ん?」
突然アメリちゃんが話しかけてきてあるお店を指差していた。
そのお店は何を売っているのかまではここからではわからないが、人気でもあるのか沢山の人で溢れかえっていた。
男の人ばかり集まっているけど、一応女の人も少数だけど居る。男の人向けの何かを売っているのかな?
気になったので近付いてみると……
「……骨董屋?」
店の中を覗いてみると、どこか古い壺やお皿、それとよくわからない石みたいなものが置いてあった。
私にはさっぱりわからないが何か良い物でもあるのだろうか?
とりあえずすぐ隣に居るおじさんに何があるのか聞いてみよう。
「あの〜、このお店なんでこんなに沢山人が集まっているのですか?」
「ん?ああ、このお店の主人の最近出来た嫁さんがかなりの美人さんって聞いたからどんなものか見に来たんだよ」
美人のお嫁さんを見るためか…どうりで男の人ばっか居て女の人が少ないわけだ。
でもこんなに人が集まって見てみたいぐらいの美人か……私も見てみたいな……
「そのお嫁さんはどこに居るのですか?」
「ああ、そろそろお店のほうに出てくるらしいよ……って噂をすれば出てきたぞ!」
おじさんが声を大きくして指差した方を見てみると……
「うわあ〜〜〜〜〜!!」
そこには黒く長いストレートな髪の毛、吊り目で黒い瞳をもったジパング人だと思われる美人が居た。
それだけじゃない。綺麗な肌や張りのあるふくよかな太腿、やたらと大きな胸部が強調され目を釘付けにする。
……うらやましい。Bカップの私にその胸を少し分けてほしい。
それと、何故か顔の下半分を白いマスクで覆っていた。だがそれが逆にこの人の美を強めている。
「凄い美人だ……」
「や、大和撫子……」
「うらやましい……」
「きぃぃい!!なによ!!なんなのあのデカ胸!!」
「フトモモ…ハアハア…」
「くそ!旦那もげちまえ!!」
「おっぱい!おっぱい!」
あの人を見た他の人達もそれぞれ感想(妬み?願望?)を叫んでいる。中には変なのもいるが。
「アメリちゃん、あの人凄い美人さんだね…………ってあれ?アメリちゃん?」
「」
「あ、あれ?…アメリちゃん!?」
アメリちゃんに話しかけても何も返事が来なかったので不思議に思いアメリちゃんの方を見てみると、なんと誰も居なかった。
つまり……アメリちゃんとはぐれた!?
「アメリちゃん!!どこー!!アメリちゃーん!!」
必死に探そうとしてもいつの間にか更に人が増えてて満足に探せない。
「んー…どうしよう…………ん?」
アメリちゃんを探していたらどこかから鋭い視線を感じた。
視線を感じる方を見てみると……さっきの美人のお嫁さんが居た。
……あれ?あの人やっぱりこっちを睨んでる気がする。っていうか近付いてきてるような……
「そこのお嬢さん」
「は、はい」
なんと話しかけられてしまった。
「すこしお時間良いかしら?」
「え?ってちょっと!?」
そのまま腕を掴まれて店の奥まで連れてかれてしまった。
アメリちゃんを探したいのに……いったい何が起きているのか……
「サマリお姉ちゃんどこ〜〜〜!!」
「どうしよーまいごになっちゃった……お店の中だからまだいいけど……」
「ん〜〜…………あれ?お店のお姉ちゃんにつれてかれてるのサマリお姉ちゃん?」
「それに…あのお姉ちゃん……もしかして……」
====================
「あの〜いったい何ですか?お店の裏側まで急に連れてこられてわけがわからないのですが……」
美人さんに腕を掴まれたままお店のカウンターを通り過ぎ、そのまま扉を通ってお店の裏側…たぶん生活空間かな?まで連れてかれた。
「私に何の用が……」
ジャキンッ!!
「……え!?」
そのまま何の説明も無しにいきなり喉元に見た事のない刃物をあてがわれた。
「ちょ、ちょっと!!いったいなんですか!?」
「……答えろ。貴様は何者だ?」
こっちの質問は完全に無視されて、耳元で呟くように質問された。
見た目と同じく声も綺麗だった。ってそんなこと考えてる場合じゃないか。
「な、何者って…普通の人間の旅人ですが…」
「ほう……では何故普通の人間である貴様から微量のリリムの魔力を感じるのか説明してもらおうか」
「えっ!?」
私から感じるリリムの魔力って、多分アメリちゃんの魔力だ。出会ってからずっと一緒に居るから私に少し付いていても不思議ではない。
でも、それを感じ取るこの人は何者だ?絶対普通の人じゃない。
「な、なんのことですか?」
「ほう……しらばっくれるか……」
アメリちゃんと同じ人に変装した魔物ならまだいいけど、もし教団の人だったらアメリちゃんが危ない。
幸いこの場にアメリちゃんは居ないからなるべくごまかさないと……
ガチャッ
「サマリお姉ちゃんここにいるの〜?」
「ア、アメリちゃん…」
連れてかれる私を見かけていたのか、なんと私を探しにアメリちゃんがここまで来てしまった。
最悪のタイミングだ…この人が教団の人だったら確実にアウトd……
「ア、アアア、アアアアア、アアアアアアア」
「んー…あ、やっぱり!」
…アメリちゃんを見た美人さんの様子がおかしい。凄く驚いた顔をしながらずっと「ア」ばっかり言っているし、だんだん顔色も悪くなってきた。
アメリちゃんはアメリちゃんで美人さんの顔を見て何かわかった様子だ。もしかして知り合いなんだろうか?
「アアアアアアアアメリ様!!!!もももももも申し訳ございません!!!!!!」
突然美人さんが私から離れ、床に膝をついて平伏し額を床に打ちつけながらものすごい勢いで謝罪し始めた。たしかジパング特有の最上位の謝り方…土下座だ。
しかしなんでいきなりアメリちゃんに土下座をするんだろう?それにアメリ『様』って…
「こんな場所にいたんだね、ベリリお姉ちゃん!」
「は、はいい!!本当に申し訳ございません!!」
ん?ベリリお姉ちゃんってどこかで聞いたような………あ!
「ベリリさんってアメリちゃんを置いてどこかに行ったクノイチって魔物か!」
そういえば何回かアメリちゃんの口から出ていた、私と出会う少し前までアメリちゃんと一緒に旅していた魔物の名前がベリリだった。ということはこの人は人間に変装してる魔物か!
「な!?アメリ様の事を知っているとは貴様いったい何者!?」
「サマリお姉ちゃんは今アメリといっしょに旅してるんだよ!」
「へ!?それは真か!?」
「はい、どこかの誰かさんが突然居なくなり一人で旅していた幼い子供のアメリちゃんがかわいそうだし危険なので私も一緒に旅しようかなと思ったので」
「う……」
こんな子供を置いて勝手にどこかに行くような人には少しきつく言わないとね。
「ところでベリリお姉ちゃん、なんでいきなりアメリのもとからいなくなったの?」
「そ、それは……」
「おーいベリリ、どうしたー?口数が少ないお前らしくないほどお前の声が聞こえるんだが……」
今度は奥から男の人が現れた。
「あ、あなた…」
「あなた?もしかしてこの人ベリリさんの旦那さん?」
「あ、はい。俺はベリリの旦那でボロンと言います」
男の人…ボロンさんはベリリさんの旦那さん…ってことは……
「あー、いい男の人を見つけたんだね」
「は、はい…すみません、アメリ様の護衛の任務に付いておきながら…」
「しかたないよ。いいだんなさんなんでしょ?」
「はい。ありがとうございます!」
やっぱり、ボロンさんをみて惚れて付いていったからアメリちゃんのところから居なくなったのか。
……それを仕方ないと普通に赦しちゃうアメリちゃん。魔物の間ではよくあることなのかな?
「じゃあベリリお姉ちゃんの居場所もわかったしじゃましちゃわるいからそろそろいこっ!サマリお姉ちゃん!」
「う、うん…」
まだ戸惑っている私を元気なアメリちゃんが引っ張ってお店を出ていこうとしたその時…
「ちょっと待って下さい!!」
ベリリさんに止められた。
「なに?」
「私はそのサマリという名の人間がアメリ様を護れるとは到底思えません!その者と旅するのは危険です!!」
まあたしかに私じゃ護りきれる自信は無い。無いけど…
「でも私はベリリさんと違ってアメリちゃんと最後まで一緒に旅しますよ?」
「うぐっ」
途中で子供をほっといて自分が惚れた人のもとに行ってしまう人には言われたくない。
「では、少し試させてもらおう」
そう言ったベリリさんの腰から細く鋭い尻尾が生えてきて耳も尖った。つまり人化の術を解除したのだろう。
「試すって?」
「今から私は分身の術を使う。その分身の中から本物の私を貴様が見抜いて攻撃出来たらベリリ様の御供として認めてやる。武器はこれを使え」
そういってギザギザに折りたたんだ紙……ハリセンを渡された。
これで本体を攻撃すればいいのか。
「では始める。忍法、分身のj…」
スパアアアアアン!!
「……」
「……」
「……」
「これでいい?」
始めるって言ったし、私は分身の術を使われる前にハリセンでおもいっきりベリリさんの本体を叩いた。
「……貴様、私の説明を聞いていたか?」
「うん。だから分身の術を使われてわざわざ不利になる前に攻撃した。ダメ?」
実際こちらの方が弱いのにさらにわざわざ不利になる必要は無い。やられる前にやればいいだけの話だ。
「はははは…たしかにこの子の言うとおりだ!不利になる前に攻撃すれば問題は無い!」
「ちょっとボロン!この娘の味方する気!?」
「いや、そういうわけじゃないよ。でもこの子が言っている事は間違ってないだろ?」
「それはそうだが…」
「それにベリリが俺についてきたから見失っていた王女様を無事に連れて居るじゃないか。お前が文句言える立場じゃないだろ?」
「うっ……ボロンまで……」
ボロンさんがこう言ってもベリリさんはまだ納得いってなさそうだけど…
「だって実際の闘いになった場合相手は待ってくれないわけだから…」
「あーもーいい!!認める!貴様をアメリ様の御供として認める!!」
もうなげやりだけどどうやら認めてもらえたようだ。
「やったあ!じゃあサマリお姉ちゃんさっそく出発しよ!」
「うん!あ、まってアメリちゃん」
いけないいけない、大事な事を忘れるとこだった。
「あのーベリリさん」
「なんだ?」
「この町から親魔物領に行くならどう行ったらいいかわかります?」
せっかく逢えた魔物、しかも元アメリちゃんの護衛をしていたほどの魔物だから知ってたら教えてくれるはず。
安全のためにも親魔物領を目指したいし折角だから聞いてみた。
「あれ?アメリ様、デルエラ様に地図をもらっていたはずでは?」
「なくしちゃった…」
「……そうですね……ではこの町から南に行った先にある大きな都市『テトラスト』に向かうと良いとおもいます。そこにリリム様が居るという情報もありますし」
「ホント!?じゃあそこに行くー!!」
親魔物領であるばかりか、どうやらアメリちゃんのお姉さんも居るらしい。
私達は早速テトラストに向かう…
「ですが、今からこの町の門が閉まってしまうので出発は明日の方が良いかと。今日はここに泊まってください」
…事が出来そうでもないのでお言葉に甘えて泊まる事にした。
====================
夜、アメリちゃんが寝た後に私はベリリさんに呼び出された。
「何ですか?まだ私がアメリちゃんと旅する事が不安なのですか?」
「ああ……アメリ様は貴様にとても懐いているのでもう引き離すことはしないがな……」
私にどうしても言っておきたい事があるらしい。先程以上に真剣な顔をして話し始めた。
「だが、貴様はなにも訓練されていない只の人間だ。勇者などに襲われたらアメリ様を護るどころか…」
「ただの足手まといでしかない。でしょ?」
「……よくわかっているではないか」
そんなことはわかりきっている。たぶん魔王の娘であるアメリちゃんの方がよっぽど強いだろう。きっと私の方がアメリちゃんに護られる立場になる。
「だから貴様に一つ提案がある」
「なんでしょうか?」
「貴様…魔物にならないか?そうすれば多少はマシになるが…」
ベリリさんが、私がアメリちゃんを護れるように人間より基本的に体力があり強い魔物にならないかと勧めてきた。
アメリちゃんもベリリさんもサキュバス種の魔物だから人を魔物に変えることができるからの提案だ。
たしかに魔物になれば多少はマシになるだろう。だが……
「お断りします。私は『まだ』人でいたいので」
「……そうか」
これから何があるかわからない。いつかは魔物にならなければいけない時が来るかもしれない。
でも今ではない。その時まで私は人間としてのサマリでいたいのだ。
別にどうしても人間でいたいわけじゃない。実際人間のように変装も出来るし旅で困ることは少ないだろう。
でも、まだ私は人間でいたい。理屈とかじゃなく、心の問題だ。
「わかった。この話は聞かなかった事にしてくれ」
「はい…でも、一つだけ言っておきます」
「なんだ?」
「私はアメリちゃんを悲しませるようなことはしません。アメリちゃんを残して消えるつもりは無いです」
「……そうか。ありがとう」
私は改めて決意をした。どんなことがあっても私はアメリちゃんと旅を続ける。そのためにも旅が出来なくなる…最悪死ぬなんて事は絶対にしない。
私は与えられた部屋に戻り、アメリちゃんの頭を撫でてから寝た。
========[???視点]========
くそ…この町の宿の料金高すぎだろ…
…ん?あれは…間違いない。
「では気をつけて!」
「うん、ありがとう!!ベリリお姉ちゃんもシアワセにね♪」
「はい、ありがとうございます!!」
ついに見つけたぞ、子供リリム!!
ったく苦労させやがって…教団のおえらいさんに怒られるじゃねーか。現場に出ず適当な指示しかしない癖に踏ん反り返ってウザいんだよなあいつ。
「それじゃあいこっかアメリちゃん!」
「うん!テトラストにしゅっぱーつ!!」
どうやらテトラストに向かうようだ。町中で襲っても他の人に迷惑だし先回りするか。
「おいサマリ!アメリ様を頼んだぞ!!」
「わかってます!」
どうやら護衛が一人ついているが…普通の人間の女の子のようだな。
様子からしてあの子供がリリムとわかっているようだが…流石に人間に手を掛ける気はしないな…どうにか引き離せないか…
「お姉ちゃんいるかな〜?」
「どうだろうね?いたらいいけど…」
ふん、別に他のリリムがテトラストに居ようが居まいが関係ないさ。
今度こそ貴様は俺が殺すからな!
「わー!いいにおい!!」
現在20時。つまり夜。
私達はまず隣町の『ジーナ』を目指す事にしたのだが、家からジーナまでは歩きだと大人でも半日ほどかかってしまう。旅立ったのが昼過ぎだったうえにまだ子供であるアメリちゃんの歩幅は大人のそれよりも小さいため日が暮れるまでにジーナまでたどり着く事が出来ず、私達は現在道沿いから少し外れた場所にある丘の上でキャンプしている。
「じゃあ食べよっか!」
「うん!いただきまーす!」
「はい、いただきます!」
私達はアメリちゃんが持っていた『折り畳み小屋』の中にある木で出来た立派な椅子に座りながらこれまた立派なテーブルの上に乗せたシチューとパン、それに野菜サラダ(材料は家から持ってきた)を食べている。
……誰が何と言おうが私達はキャンプをしているのである。
「ごちそうさま!!やっぱりサマリお姉ちゃんのごはんはとってもおいしい!!」
「いやあ…そこまで真っ直ぐ言われると照れるよ…///」
目の前に居るリリムの女の子、アメリちゃんはとても素直な子だ。
今まで私は魔物というものを実際に見た事が無かったけど、こうして一緒に居てお話をしていると世間で言われている恐ろしさは微塵も感じない。見た目以外は人間の女の子との違いがさっぱりわからない。
大人の魔物になるとまた違うのかもしれないけど、アメリちゃんの話からすると今の魔物は魔王の魔力の影響で人間を愛するようになっているとの事なのできっと人間女性と大差ないのだろう。
……人間女性より大幅にエロいらしいけど。まあ魔王=アメリちゃんのお母さんはサキュバスらしいから仕方ないか。
「ところで…この小屋?テント?…まあいいや。これって凄くない?」
「え?そうかなあ?」
この小屋にはルーンが刻まれたスイッチを押すだけで段階調節が可能な熱を発するプレート、蛇口、電灯があり、食材を保存・保冷する事が出来る箱に、ちょっと大きめのベッドまで複数存在し、トイレとシャワー完備……
しかもこの小屋の外見は少し大きめのテントと変わらないのに内部の空間はこのようにその数倍の広さである……
更にこの小屋は人除け、獣除け、ついでに虫除けの魔力が込められているのでよほどの事が無い限りは安心だとか……
やっぱりこれ凄くない?魔物の社会では普通なの?
「んーでもたしかこのテントは一級品でアメリ用だってベリリお姉ちゃんが言ってた」
あー、ここまで凄いのは王女仕様だからか。
でもそれぞれの機能は普通に存在しているんだろうな……
恐るべし魔物の技術。
「ところでアメリちゃん、いま向かっているジーナは反魔物領なんだけど本当に大丈夫なの?」
「うん。一週間ぐらいずっとその町にいるってなるとあぶないけど少しならだいじょーぶだよ!!」
本人がこう言う事だしきっと大丈夫なのだろうけど…不安になる。
一応護衛術を軽く身につけてはいるけど、勇者が現れたりしたら護りきれる自信が全く無い。
実際アメリちゃんは私と出会う前に勇者に襲われている。視界が悪い森の中に入ったことでなんとか逃げ切る事が出来たと言っていたが、村や平野など見晴らしが良い場所で遭遇したら逃げるのも困難だ。
うーん…まずは親魔物領を目指した方が良いかな。そのほうが襲われたり恐れられたりする確率はぐっと減るし、最悪襲われても他の魔物が助けてくれるかもしれないし。
「ふぁ〜〜〜……ねむくなってきた……」
「じゃあもう寝る?でも寝る前に歯を磨いておこうね」
「うん…」
これからの旅についていろいろと考えていたらアメリちゃんが眠たそうに欠伸をしていた。
魔物でも子供は早く寝るものなんだな……こういうのを目の当たりにすると人と魔物の違いなんてあまりないと実感する。
「サマリお姉ちゃん、はみがきおわったよー」
「はい、それならおやすみ、アメリちゃん」
「あれ?サマリお姉ちゃんはねないの?」
「私は食器とかを洗って片付けてから寝るよ」
「……じゃあまってる!いっしょにねよ!」
……ものすっごくカワイイ!!!!
こんな妹がずっと欲しかったから「一緒に寝よ!」なんて言われて凄く嬉しい!!
もう眠たいアメリちゃんを長く待たせるのは悪いので急いで片づけをすませた。
そして同じベッドで二人一緒に寝た。
アメリちゃんの抱き心地は最高だった。
====================
「で、アメリちゃん。そろそろジーナに着くけどどうするの?」
早く寝たからか朝早くに起きれたので、そのまま朝ご飯を食べて出発したおかげでお昼前にはジーナの入口の門が見える所までたどり着く事が出来た。
しかし、ここは反魔物領だ。アメリちゃんは大丈夫と言っていたけどどうするのだろうか?
「ちょっとまってね……う〜〜〜ん……えいっ!」
「!?」
いやあ……びっくりしたぁ……
アメリちゃんが念じ始めると同時に人と違う部分…黒い角や白い尻尾や翼がだんだん小さくなっていき、最終的には消えてしまった。そして耳の先端も人と同じように丸まっていた。
今目の前に居るのは魔物リリムの子供ではなく、白い髪と肌、そして深紅の瞳を持った人間の女の子だ。
「そんな事が出来るんだ!?」
「うん!人化のじゅつって言うんだ!!これで魔物にやさしくない場所でももんだいないよ!!」
なるほど…確かにこれなら自分から魔物と言わない限り問題は無さそうだ。
…………あれ?
「そういえば私と出会ったときは普通に翼とか出してたよね?なんで?」
「あ、あれは朝おきたばかりでそのあと勇者のお兄ちゃんにおそわれてがんばってにげてたからかくすのわすれてて…//」
なるほど。それじゃあしょうがないか。
魔物とわかる姿のアメリちゃんと出会ったおかげで私の魔物に対する印象が変わったのだからある意味良かったのかな。
「じゃあジーナまで行こうか!」
「うん!」
………………
「うわあ〜〜〜…!!」
「お店がいっぱいだ〜…!!」
ジーナに着いてまず目に入ったのは、人が溢れかえっているにぎやかな商店街だった。
私の住んでいた村にはこんな大きな商店街は無いのでこの光景は新鮮だった。
「ねえねえサマリお姉ちゃん!これかわいい!!」
「ほわあ〜!かわいいタヌキのお人形さんだね!」
アメリちゃんも目を輝かせていろんなお店を見ている。
「わあ〜〜、かっこいいオオカミさんの絵がついてる〜!」
「マグカップか〜……買おっか?」
「えっ!?いいの!?」
「うん。まだ予算はあるし、少しぐらいなら全然良いよ!」
「わーい!ありがとサマリお姉ちゃん!!」
「どういたしまして!すみませーん、このマグカップ買いまーす!」
そんなアメリちゃんと同じように私もはしゃいでいた。
「ふう…これで大体必要なものは買ったかな?」
「たべものばっかりだけどね〜」
いろんなお店を回って旅に必要なものを購入した。
と言っても生活に必要なものは大体アメリちゃんの『テント』に揃っているのでほとんどが食料品だが。
「これからどうするの?もう町出るの?」
「うーん…もう少しお店を回りつつ次どこ行こうか考えようかな」
次は親魔物領の方に行こうとは思っているのだが…どっちに行けばあるのかさっぱりだ。
他の人に聞こうにもここは反魔物領。聞いたら変な人に見られるだろうし、最悪教団の人に見つかって連行されるかもしれない。そうなると魔物のアメリちゃんが危ない。
かといって適当に進んで行くとしても、結果余計に魔物を嫌っている地域なんかに足を踏み込んでしまう可能性だってある。
うーん……どうしようか?
この町のどこかにアメリちゃんみたいに人間に変装してる魔物居ないかなあ……
「ねえサマリお姉ちゃん、あのお店なんだろう?」
「ん?」
突然アメリちゃんが話しかけてきてあるお店を指差していた。
そのお店は何を売っているのかまではここからではわからないが、人気でもあるのか沢山の人で溢れかえっていた。
男の人ばかり集まっているけど、一応女の人も少数だけど居る。男の人向けの何かを売っているのかな?
気になったので近付いてみると……
「……骨董屋?」
店の中を覗いてみると、どこか古い壺やお皿、それとよくわからない石みたいなものが置いてあった。
私にはさっぱりわからないが何か良い物でもあるのだろうか?
とりあえずすぐ隣に居るおじさんに何があるのか聞いてみよう。
「あの〜、このお店なんでこんなに沢山人が集まっているのですか?」
「ん?ああ、このお店の主人の最近出来た嫁さんがかなりの美人さんって聞いたからどんなものか見に来たんだよ」
美人のお嫁さんを見るためか…どうりで男の人ばっか居て女の人が少ないわけだ。
でもこんなに人が集まって見てみたいぐらいの美人か……私も見てみたいな……
「そのお嫁さんはどこに居るのですか?」
「ああ、そろそろお店のほうに出てくるらしいよ……って噂をすれば出てきたぞ!」
おじさんが声を大きくして指差した方を見てみると……
「うわあ〜〜〜〜〜!!」
そこには黒く長いストレートな髪の毛、吊り目で黒い瞳をもったジパング人だと思われる美人が居た。
それだけじゃない。綺麗な肌や張りのあるふくよかな太腿、やたらと大きな胸部が強調され目を釘付けにする。
……うらやましい。Bカップの私にその胸を少し分けてほしい。
それと、何故か顔の下半分を白いマスクで覆っていた。だがそれが逆にこの人の美を強めている。
「凄い美人だ……」
「や、大和撫子……」
「うらやましい……」
「きぃぃい!!なによ!!なんなのあのデカ胸!!」
「フトモモ…ハアハア…」
「くそ!旦那もげちまえ!!」
「おっぱい!おっぱい!」
あの人を見た他の人達もそれぞれ感想(妬み?願望?)を叫んでいる。中には変なのもいるが。
「アメリちゃん、あの人凄い美人さんだね…………ってあれ?アメリちゃん?」
「」
「あ、あれ?…アメリちゃん!?」
アメリちゃんに話しかけても何も返事が来なかったので不思議に思いアメリちゃんの方を見てみると、なんと誰も居なかった。
つまり……アメリちゃんとはぐれた!?
「アメリちゃん!!どこー!!アメリちゃーん!!」
必死に探そうとしてもいつの間にか更に人が増えてて満足に探せない。
「んー…どうしよう…………ん?」
アメリちゃんを探していたらどこかから鋭い視線を感じた。
視線を感じる方を見てみると……さっきの美人のお嫁さんが居た。
……あれ?あの人やっぱりこっちを睨んでる気がする。っていうか近付いてきてるような……
「そこのお嬢さん」
「は、はい」
なんと話しかけられてしまった。
「すこしお時間良いかしら?」
「え?ってちょっと!?」
そのまま腕を掴まれて店の奥まで連れてかれてしまった。
アメリちゃんを探したいのに……いったい何が起きているのか……
「サマリお姉ちゃんどこ〜〜〜!!」
「どうしよーまいごになっちゃった……お店の中だからまだいいけど……」
「ん〜〜…………あれ?お店のお姉ちゃんにつれてかれてるのサマリお姉ちゃん?」
「それに…あのお姉ちゃん……もしかして……」
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「あの〜いったい何ですか?お店の裏側まで急に連れてこられてわけがわからないのですが……」
美人さんに腕を掴まれたままお店のカウンターを通り過ぎ、そのまま扉を通ってお店の裏側…たぶん生活空間かな?まで連れてかれた。
「私に何の用が……」
ジャキンッ!!
「……え!?」
そのまま何の説明も無しにいきなり喉元に見た事のない刃物をあてがわれた。
「ちょ、ちょっと!!いったいなんですか!?」
「……答えろ。貴様は何者だ?」
こっちの質問は完全に無視されて、耳元で呟くように質問された。
見た目と同じく声も綺麗だった。ってそんなこと考えてる場合じゃないか。
「な、何者って…普通の人間の旅人ですが…」
「ほう……では何故普通の人間である貴様から微量のリリムの魔力を感じるのか説明してもらおうか」
「えっ!?」
私から感じるリリムの魔力って、多分アメリちゃんの魔力だ。出会ってからずっと一緒に居るから私に少し付いていても不思議ではない。
でも、それを感じ取るこの人は何者だ?絶対普通の人じゃない。
「な、なんのことですか?」
「ほう……しらばっくれるか……」
アメリちゃんと同じ人に変装した魔物ならまだいいけど、もし教団の人だったらアメリちゃんが危ない。
幸いこの場にアメリちゃんは居ないからなるべくごまかさないと……
ガチャッ
「サマリお姉ちゃんここにいるの〜?」
「ア、アメリちゃん…」
連れてかれる私を見かけていたのか、なんと私を探しにアメリちゃんがここまで来てしまった。
最悪のタイミングだ…この人が教団の人だったら確実にアウトd……
「ア、アアア、アアアアア、アアアアアアア」
「んー…あ、やっぱり!」
…アメリちゃんを見た美人さんの様子がおかしい。凄く驚いた顔をしながらずっと「ア」ばっかり言っているし、だんだん顔色も悪くなってきた。
アメリちゃんはアメリちゃんで美人さんの顔を見て何かわかった様子だ。もしかして知り合いなんだろうか?
「アアアアアアアアメリ様!!!!もももももも申し訳ございません!!!!!!」
突然美人さんが私から離れ、床に膝をついて平伏し額を床に打ちつけながらものすごい勢いで謝罪し始めた。たしかジパング特有の最上位の謝り方…土下座だ。
しかしなんでいきなりアメリちゃんに土下座をするんだろう?それにアメリ『様』って…
「こんな場所にいたんだね、ベリリお姉ちゃん!」
「は、はいい!!本当に申し訳ございません!!」
ん?ベリリお姉ちゃんってどこかで聞いたような………あ!
「ベリリさんってアメリちゃんを置いてどこかに行ったクノイチって魔物か!」
そういえば何回かアメリちゃんの口から出ていた、私と出会う少し前までアメリちゃんと一緒に旅していた魔物の名前がベリリだった。ということはこの人は人間に変装してる魔物か!
「な!?アメリ様の事を知っているとは貴様いったい何者!?」
「サマリお姉ちゃんは今アメリといっしょに旅してるんだよ!」
「へ!?それは真か!?」
「はい、どこかの誰かさんが突然居なくなり一人で旅していた幼い子供のアメリちゃんがかわいそうだし危険なので私も一緒に旅しようかなと思ったので」
「う……」
こんな子供を置いて勝手にどこかに行くような人には少しきつく言わないとね。
「ところでベリリお姉ちゃん、なんでいきなりアメリのもとからいなくなったの?」
「そ、それは……」
「おーいベリリ、どうしたー?口数が少ないお前らしくないほどお前の声が聞こえるんだが……」
今度は奥から男の人が現れた。
「あ、あなた…」
「あなた?もしかしてこの人ベリリさんの旦那さん?」
「あ、はい。俺はベリリの旦那でボロンと言います」
男の人…ボロンさんはベリリさんの旦那さん…ってことは……
「あー、いい男の人を見つけたんだね」
「は、はい…すみません、アメリ様の護衛の任務に付いておきながら…」
「しかたないよ。いいだんなさんなんでしょ?」
「はい。ありがとうございます!」
やっぱり、ボロンさんをみて惚れて付いていったからアメリちゃんのところから居なくなったのか。
……それを仕方ないと普通に赦しちゃうアメリちゃん。魔物の間ではよくあることなのかな?
「じゃあベリリお姉ちゃんの居場所もわかったしじゃましちゃわるいからそろそろいこっ!サマリお姉ちゃん!」
「う、うん…」
まだ戸惑っている私を元気なアメリちゃんが引っ張ってお店を出ていこうとしたその時…
「ちょっと待って下さい!!」
ベリリさんに止められた。
「なに?」
「私はそのサマリという名の人間がアメリ様を護れるとは到底思えません!その者と旅するのは危険です!!」
まあたしかに私じゃ護りきれる自信は無い。無いけど…
「でも私はベリリさんと違ってアメリちゃんと最後まで一緒に旅しますよ?」
「うぐっ」
途中で子供をほっといて自分が惚れた人のもとに行ってしまう人には言われたくない。
「では、少し試させてもらおう」
そう言ったベリリさんの腰から細く鋭い尻尾が生えてきて耳も尖った。つまり人化の術を解除したのだろう。
「試すって?」
「今から私は分身の術を使う。その分身の中から本物の私を貴様が見抜いて攻撃出来たらベリリ様の御供として認めてやる。武器はこれを使え」
そういってギザギザに折りたたんだ紙……ハリセンを渡された。
これで本体を攻撃すればいいのか。
「では始める。忍法、分身のj…」
スパアアアアアン!!
「……」
「……」
「……」
「これでいい?」
始めるって言ったし、私は分身の術を使われる前にハリセンでおもいっきりベリリさんの本体を叩いた。
「……貴様、私の説明を聞いていたか?」
「うん。だから分身の術を使われてわざわざ不利になる前に攻撃した。ダメ?」
実際こちらの方が弱いのにさらにわざわざ不利になる必要は無い。やられる前にやればいいだけの話だ。
「はははは…たしかにこの子の言うとおりだ!不利になる前に攻撃すれば問題は無い!」
「ちょっとボロン!この娘の味方する気!?」
「いや、そういうわけじゃないよ。でもこの子が言っている事は間違ってないだろ?」
「それはそうだが…」
「それにベリリが俺についてきたから見失っていた王女様を無事に連れて居るじゃないか。お前が文句言える立場じゃないだろ?」
「うっ……ボロンまで……」
ボロンさんがこう言ってもベリリさんはまだ納得いってなさそうだけど…
「だって実際の闘いになった場合相手は待ってくれないわけだから…」
「あーもーいい!!認める!貴様をアメリ様の御供として認める!!」
もうなげやりだけどどうやら認めてもらえたようだ。
「やったあ!じゃあサマリお姉ちゃんさっそく出発しよ!」
「うん!あ、まってアメリちゃん」
いけないいけない、大事な事を忘れるとこだった。
「あのーベリリさん」
「なんだ?」
「この町から親魔物領に行くならどう行ったらいいかわかります?」
せっかく逢えた魔物、しかも元アメリちゃんの護衛をしていたほどの魔物だから知ってたら教えてくれるはず。
安全のためにも親魔物領を目指したいし折角だから聞いてみた。
「あれ?アメリ様、デルエラ様に地図をもらっていたはずでは?」
「なくしちゃった…」
「……そうですね……ではこの町から南に行った先にある大きな都市『テトラスト』に向かうと良いとおもいます。そこにリリム様が居るという情報もありますし」
「ホント!?じゃあそこに行くー!!」
親魔物領であるばかりか、どうやらアメリちゃんのお姉さんも居るらしい。
私達は早速テトラストに向かう…
「ですが、今からこの町の門が閉まってしまうので出発は明日の方が良いかと。今日はここに泊まってください」
…事が出来そうでもないのでお言葉に甘えて泊まる事にした。
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夜、アメリちゃんが寝た後に私はベリリさんに呼び出された。
「何ですか?まだ私がアメリちゃんと旅する事が不安なのですか?」
「ああ……アメリ様は貴様にとても懐いているのでもう引き離すことはしないがな……」
私にどうしても言っておきたい事があるらしい。先程以上に真剣な顔をして話し始めた。
「だが、貴様はなにも訓練されていない只の人間だ。勇者などに襲われたらアメリ様を護るどころか…」
「ただの足手まといでしかない。でしょ?」
「……よくわかっているではないか」
そんなことはわかりきっている。たぶん魔王の娘であるアメリちゃんの方がよっぽど強いだろう。きっと私の方がアメリちゃんに護られる立場になる。
「だから貴様に一つ提案がある」
「なんでしょうか?」
「貴様…魔物にならないか?そうすれば多少はマシになるが…」
ベリリさんが、私がアメリちゃんを護れるように人間より基本的に体力があり強い魔物にならないかと勧めてきた。
アメリちゃんもベリリさんもサキュバス種の魔物だから人を魔物に変えることができるからの提案だ。
たしかに魔物になれば多少はマシになるだろう。だが……
「お断りします。私は『まだ』人でいたいので」
「……そうか」
これから何があるかわからない。いつかは魔物にならなければいけない時が来るかもしれない。
でも今ではない。その時まで私は人間としてのサマリでいたいのだ。
別にどうしても人間でいたいわけじゃない。実際人間のように変装も出来るし旅で困ることは少ないだろう。
でも、まだ私は人間でいたい。理屈とかじゃなく、心の問題だ。
「わかった。この話は聞かなかった事にしてくれ」
「はい…でも、一つだけ言っておきます」
「なんだ?」
「私はアメリちゃんを悲しませるようなことはしません。アメリちゃんを残して消えるつもりは無いです」
「……そうか。ありがとう」
私は改めて決意をした。どんなことがあっても私はアメリちゃんと旅を続ける。そのためにも旅が出来なくなる…最悪死ぬなんて事は絶対にしない。
私は与えられた部屋に戻り、アメリちゃんの頭を撫でてから寝た。
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くそ…この町の宿の料金高すぎだろ…
…ん?あれは…間違いない。
「では気をつけて!」
「うん、ありがとう!!ベリリお姉ちゃんもシアワセにね♪」
「はい、ありがとうございます!!」
ついに見つけたぞ、子供リリム!!
ったく苦労させやがって…教団のおえらいさんに怒られるじゃねーか。現場に出ず適当な指示しかしない癖に踏ん反り返ってウザいんだよなあいつ。
「それじゃあいこっかアメリちゃん!」
「うん!テトラストにしゅっぱーつ!!」
どうやらテトラストに向かうようだ。町中で襲っても他の人に迷惑だし先回りするか。
「おいサマリ!アメリ様を頼んだぞ!!」
「わかってます!」
どうやら護衛が一人ついているが…普通の人間の女の子のようだな。
様子からしてあの子供がリリムとわかっているようだが…流石に人間に手を掛ける気はしないな…どうにか引き離せないか…
「お姉ちゃんいるかな〜?」
「どうだろうね?いたらいいけど…」
ふん、別に他のリリムがテトラストに居ようが居まいが関係ないさ。
今度こそ貴様は俺が殺すからな!
12/03/03 12:23更新 / マイクロミー
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