旅1 幼き王女との出会いと旅立ち
「うーん…気持ちの良い朝だ…」
現在10時。
もう朝とは言えない時間だけど私はついさっき起きたばかりだから朝だ。
「青い空、白い雲、輝く太陽…うん、良い旅立ち日和だ」
今日から私は17歳になった。
だからというわけではないけど、今日の昼過ぎから私は家を出て旅にでる。
小さい頃から世界中を旅してみたいと思っていたから旅立つ。だから旅の目的は特に無い。しいて言うならいろんな場所を見てまわるのが目的かな。
もちろん両親の許しは得ている。
両親は私が旅の途中で魔物に襲われないか心配はしているが、魔物は何故か男を襲う確率のほうが高く、女は無視する事も多々あるらしい。
私は女だから男よりは魔物に対してはずっと安全だろうということで両親は私が旅にでる事を許してくれた。
今私は旅にでる前の最後の散歩をしている。一度旅にでたら帰ってくるのは何年後かわからないし、もしかしたら帰らない可能性だってある。
だから自分の家の周りの景色を覚えておこうと思って、私は出発する予定の道がある方向とは逆にある小さな森の中を散歩していた。
「旅先にはここより凄い森もあるかな…」
苔がそこらに生えている少し湿った地面、そよ風に吹かれて葉が擦れ合い奏でる音楽、隙間から降り注ぐ綺麗な木漏れ日、自分の背丈ほど高く成長している青々とした草…
私はこれら森の様子を思い出として記憶しているのと同時に、まだ見ぬ旅先の景色を思い浮かべていた。
…やっぱり旅が楽しみだ。今すぐにでも出発したくなってきた。
まあ最後にお昼ご飯を両親に作ってから行く約束をしたからまだ出発はしないけどね。
…とまああれこれと考えながら散歩していたら……
うわあああああああん……
「ん?」
木の葉の擦れる音が聞こえるほど静かな森には似合わない、小さな女の子の泣き声みたいなものが聞こえてきた。
「迷子でもいるのかな?」
私は産まれた時からここに住んでいるのでこの森で迷子になる事はないけど、小さな女の子なら迷子になる事も十分にあり得るだろう。
たしかこの近所に森で迷子になるほどの小さな女の子はいなかったはずだから、遠くからきた子が親とはぐれてしまったかもしれない。
一応保護しておいたほうが良いかなと思い、泣き声がするほうに向かってみる。
どうやら高い草むらの向こう側から泣き声が聞こえるっぽい。
なので草を掻き分けて見てみると…
カサカサ…
「わああああん……ひっ!?だ、だれ!?」
「……えっ!?」
草の向こう側には、確かに泣いている女の子がいた。
その女の子は、深紅の瞳にセミロングの白い髪で、ピンクのハートマークが小さく描かれている黄色のTシャツにフリルがついている青いスカートを履いていた。
ここまでなら何の問題も無かったのだけど…
「魔物…」
その女の子の頭には髪とは対称的な黒い角があり、背中には髪と同じ白い蝙蝠の様な翼、そして同じく白く細長い尻尾が腰から生えていた。
誰がどう見たって明らかに人間じゃない。魔物…あまり魔物に詳しくないから確信は無いけど、多分サキュバスの子供だ。
でも…
「もしかして…アメリをやっつけるために来た勇者さん?」
「私が?ううん違うよ!」
私を警戒しながら見ている魔物の女の子は怯えていた。
その姿は、とても恐ろしい魔物とは思えなかった。
「じゃあ…お姉ちゃんだれ?何でアメリのところに来たの?」
「私はサマリ。たまたまこの森を散歩してたらアメリちゃん…だよね?アメリちゃんの泣いている声が聞こえたから気になって見に来たんだよ」
「ホント?」
「うん、ホントに」
この魔物の女の子…アメリちゃんは、人間の女の子と何も違わないように思えた。
だから私は、自分でも驚くほど普通に話しかけていた。
そのためなのか、怯えていたアメリちゃんはいつの間にか私に警戒しなくなっていた。
「ところで、何でアメリちゃんはこんな場所に居るの?お母さんとかは?」
ここは反魔物領だから魔物が居ること自体おかしいし、何よりもこんな小さな女の子が一人で森の中に居るのが不思議でしょうがない。
「アメリ?アメリは今一人で旅してるの!」
「……へっ!?」
こんなに小さい女の子が一人旅をしているって…嘘でしょ!?
魔物にとっては当たり前なのだろうか?
それとも見た目が幼いだけで実年齢は私より上なのかな?幼い子供の姿をした成体の魔物も居るって聞いた事あるし…
「アメリちゃん今いくつ?」
「8さいだよ!!」
「……」
私の年齢の半分以下でした。
「それでね、アメリはお姉ちゃんたちに会うために旅してたんだけどね、今日の朝ごはんを食べようとしてた時に勇者のお兄ちゃんがアメリをやっつけに来て…むちゅうで走ってにげてるうちにまいごになっちゃったの…」
「へ、へぇーそうなんだー…」
アメリちゃんは自分のお姉ちゃん『達』に会うために旅してるって言ったけど、沢山居るのだろうか?というかよく親もこんなに幼い子を旅に出したな…やっぱり魔物にとっては問題ないのか?それとも親が無責任なのか?
それと勇者のお兄ちゃんがやっつけに来たって…こんな子供をやっつけようとする勇者がいるなんて…
信じられない!魔物といっても子供なのに!なんて小さい勇者だ!!
「それでせっかくデルエラお姉ちゃんからもらった他のお姉ちゃんたちの居場所がわかる地図も落としちゃって…だからもうお姉ちゃんたちの居場所もわがらなぐで……うええええええん!!」
「あっ!な、泣かないで!私が何とかしてあげるから!」
「ぐすんっ…ホント?」
しまった。泣き止んでほしくてつい何とかしてあげるって言っちゃった。
凄くキラキラとした期待の眼差しを私に向けてくる。
これは今更無理とは言えないな…
しかし、どうしようか…
どこで落としたかわからない地図を探すのは不可能に近いし、私も昼過ぎから旅立つし…
ぐうぅぅぅぅ……
「ん?」
「あっ///」
突然何かの音が鳴った。
そしてアメリちゃんが顔を真っ赤にしながらお腹を抑えて俯いた。
ぐうぅぅぅぅ……
「……」
「うう…///」
また鳴った。
どうやらアメリちゃんのお腹から聞こえてくるようだ。
「アメリちゃんお腹すいてる?」
「うん…///」
そういえばさっき朝ご飯を食べようとしたら勇者に襲われたって言ってたな…
ってことはまだアメリちゃんは朝から何も食べていないということか。そりゃあお腹がすくわけだ。
「とりあえず…私の家でご飯食べる?」
「えっ!?いいの!?」
アメリちゃんは魔物だけど、今のところ全く危険性は感じられない。まさしく普通の子供だ。
どうせ両親の為に今からお昼ご飯を作るし、ついでにアメリちゃんの空腹も救ってあげようと思って、私はアメリちゃんをご飯に誘った。
「あっでも、アメリちゃんみたいなサキュバスって普通のご飯食べられる?」
そういえばサキュバスって精(ってなんだろう?)を主食にしてるって聞いた事があるから確認の為聞いてみたら…
「むぅ〜…アメリはリリムだもん!!」
頬をプクッと膨らましながらアメリちゃんはこう言ってきた。
どうやらアメリちゃんはサキュバスでは無くリリムって魔物らしい。
でもリリムってなんだろう?聞いた事無いや。
「リリム?サキュバスと違うの?」
「ちょっとちがう!」
よくわからないけど、「ちょっと」違うのでサキュバスの一種には間違いないだろう。
「それで、アメリちゃんは普通のご飯食べられるの?」
「うん!!」
「じゃあ行こっか!着いてきてね!」
私はアメリちゃんの手をとり一緒に家に行く事にした。
====================
「ただいまー」
「おかえrひいいっ!!ま、魔物…!!」ガクブル……
帰って早々アメリちゃんをみたお母さんが怯え始めた。
「どうしtってわあっ!!サ、サマリ!!なななんでま魔物と…!?」ガクブル……
お母さんの悲鳴を聞いてかけつけたお父さんまで怯え始めた。
魔物といっても子供なんだからそんなに怯えなくてもいいのに…
「森の中で迷子になって泣いてたから一応保護してきた」
「ほ、保護してきたって…」
「お腹すいてるからご飯食べさせてあげようと思って連れてきた」
「つ、連れてきたって…」
「なんかお姉さん達に会うために旅してるんだって。危険な魔物とは思えなかったから問題無いでしょ?」
「いや、そういう問題じゃあ…」
まだ怯えてる…
子供相手に怯えてる大人って…
「そういえばここらへんって魔物にやさしくないんだっけ…」
そんな両親の様子を見てるアメリちゃんが明らかにガックリしてる…
「まあお母さんとお父さんはあんな感じだけど気にしないでね!」
「うん…」
「じゃあそこの椅子に座ってて!ご飯作ってくるから!」
「うん!!」
「あ、お母さんとお父さんも椅子に座っててね。それで待ってる間にアメリちゃんとお話でもしててね。そうすれば多分全然怖くないってわかるから」
「「えっ!?ちょっと!?」」
なんか両親が死刑宣告受けたような顔をしてるけど、特に気にする事無く私はお昼ご飯を作りにキッチンへ行く事にする。
さて、何作ろうかな…とりあえず食材から確認するかな。
「えっと…あなたの名前は?」
「アメリだよ!!」
あ、一応会話し始めた。
「ア、アメリちゃんは何歳?」
「8さい!!」
「あら、凄く若いのに一人で旅しているのねー…」
「ちょっと前まではクノイチのベリリお姉ちゃんがいっしょだったけど、いつの間にかどこかに行っちゃったんだ…」
「そう…それは大変ね…」
へぇー、元々一人で旅してたんじゃないんだ。
というかツレのクノイチって魔物の種族かな?そのクノイチはアメリちゃんを置いてどこに行ったんだろうか?
あっ、ウインナー発見。
「ところで君はサキュバスなのかい?」
「ちがうよ!アメリはリリムだよ!!」
「リ、リリムって魔王の娘じゃないか!?」
「ひいっ!お、おたすけ…い、命だけは…」
「むぅ…別に何もしないのに…」
へぇ、リリムって魔王の娘の事なんだ!
って事はアメリちゃんは王女か〜、すごいな…
種族として存在してるって事はいっぱい姉妹いるんだろうなー。
んー…タマネギ、キャベツ、ニンジンがあるな。
「というか魔物はみんな人間さんをころしたりしないよ!」
「えっ!?ほ、本当かい?」
「お母さんがそうしたもん!!」
「う、うそ…!?」
「うそじゃないもん!!魔物はみんな人間さん、とくに男の人と愛し合うようになってるもん!!」
なるほど〜。だから男ばかり襲われるというか魔物と居なくなるのか。
確かに魔物に襲われて食べられるってよく聞くけど実際そんな事してるなら親魔物領があるわけ無いよね。
ていうか両親よ…アメリちゃんみたいな素直な子が嘘つくわけ無いじゃん…何疑ってるんだ…
あれ?じゃあ主神って嘘つき?まあいっか。
あっ!じゃがいもあるじゃん。じゃあ簡単なポトフにしよう!!
「それに、アメリのお父さんは人間の勇者さんだったんだよ!」
「へぇ…そうなんだ…お父さんとお母さんはそれで仲良いの?」
「うん!!だいたいずっとベッドでラブラブしてるよ!」
ベッドでラブラブしてるって…魔王夫妻自分の子供に大人の事情を見られてるのか…
子供の教育上あまりよろしくないと思うんだけど…いや、サキュバスだから良いのかな?
とりあえず野菜はアメリちゃんが食べやすいように小さく切って…
「あっでも…」
「何かあるのかい?」
「お父さんとお母さんたまにものすごいケンカする時もある…」
まあ夫婦喧嘩は人間も魔物も変わらないのか。両親もたまにするし。
野菜を全部鍋に入れて水とコンソメを入れて煮始めてっと…
「ものすごいケンカって?」
「何かがバクハツする音が聞こえてくることもあるし、おうちがゆれてちょっとこわれることもある」
もうそれ喧嘩って言うより決闘だよね!?凄いな魔王夫妻!
じゃがいもが柔らかくなってきたしウインナーを茹で始めてっと。
「しかもその後お母さんがアメリや妹たちやお姉ちゃんたちに泣きながら『お父さんとケンカしちゃった〜どうしよ〜!!』って言ってくることもあるし…」
「「…魔王っていったい…」」
なんか魔王可愛いな…何処が悪の親玉なんだろうか?
塩を少し加えて…うん、味付けカンペキ!
「でもちゃんとすぐになかなおりしてラブラブしてるからお父さんとお母さんはなかよしだよ!!」
「へぇー、良かったね!」
ぐうぅぅぅぅ…
「あら?」「おや?」
「うぅ…///」
アメリちゃんのお腹の音がキッチンまで聞こえてきた。相当お腹がすいてるみたいだ。
最後にお皿に盛ってパセリを振りかけて………完成!!
早速持っていこう!!
「お待たせ〜、出来たよ〜!」
「わーい!おいしそう!!」
「サマリの料理の腕は確かだからな!」
「あなたが自慢してどうするのよ…でもサマリの料理が上手なのは確かよ!」
完成したポトフを持って行ったら先程とはうってかわって両親が楽しそうにアメリちゃんと笑顔でお話ししていた。
どうやら少なくとも目の前にいる魔物の子供に対する恐怖心は消えたようだ。
「じゃあ食べようか!」
「わーい!いただきまーす!!あむっ!!……パクパク…」
よほどお腹がすいていたのか、ものすごい速さでアメリちゃんのお皿の中身が減っていく。
でもそんなに速く食べたら…
「パクパク…モグモグ…ンッ!けほっ、けほっ…」
やっぱりむせた。
「大丈夫!?そんなに慌てて食べなくても…」
「けほっ…うぅ……おなかすいてたし、サマリお姉ちゃんのごはんおいしくてつい…」
「ふふっ、ありがと!まだ沢山あるから慌てなくていいよ」
「はーい!!」
注意したら元気に返事してくれた。やっぱり可愛いなあ…
「しかし、これでサマリの料理が当分食べられなくなると思うと少し寂しくなるな…」
「ええ…」
一方、両親はしんみりとした雰囲気で食べている。
まあ私はこれから旅立つし、場合によっては帰ってこない可能性もあるから仕方ないか。
「ん?なんで?」
「サマリはこの後アメリちゃんと同じように旅に出るのよ」
「えっ!?そうなの!?」
「そうだよ!」
そういえばアメリちゃんには言ってなかったっけ。
「まあ私はアメリちゃんと違って目的の無い旅だけどね」
「ふーん……あっ!お姉ちゃんたちの居場所がわかる地図なくしてたんだ…どうしよ〜…」
そっか…アメリちゃん地図なくして困っていたんだっけ。
力になってあげたいけどな…
……あ、ひらめいた。
「ねぇアメリちゃん。お姉さん達がどこにいるかわかる?」
「わかんない。デルエラお姉ちゃんだけは知ってたからまず行ってみたんだ。そこで他のお姉ちゃんが近くにいたら反応するまほうの地図をもらったんだ…」
なるほど、お姉さん達の居場所はわからないのか。
「アメリちゃんこれからどうするの?無くした地図を探すのは難しいと思うけど…」
「うん…どうしよう…」
これからどうするかも決めてなさそうだ。
「だったらさ、私と一緒に旅しない?」
「えっ?サマリお姉ちゃんと?」
だから私は、アメリちゃんと一緒に旅しようと考えた。
「居場所がわからないなら一緒にいろんな場所に行って、見つけた時に会えばいいかなっと思ってね。まあお姉さん達に会うのが急ぎの用事なら無理だとしても地図を探すけどね」
「ううん。アメリがまだ見たことないお姉ちゃんたちに会ってみたいと思って旅してるだけだよ」
なら決まりだ。
「じゃあ一緒に行こう!!一人より二人のほうがきっと旅も楽しいよ!」
「うん!!」
こんな幼い子供でも旅の先輩だ。きっと頼りになる。
それに一人で旅するより絶対に楽しいに決まっている。
「でもアメリちゃんは大丈夫なの?ここら辺は大体反魔物領だけど…」
あ、確かに。いくらなんでも魔物のアメリちゃんは危ないような…
「あ、それならだいじょーぶ!」
大丈夫らしい。本人が言うなら心配いらないか。
「じゃあ食べたら早速出発しようか!」
「うん!!」
私達はゆっくりとお昼ご飯を食べた。
====================
「サマリ、気をつけるんだぞ!」
「何かあったらすぐに連絡するのよ!」
「うん!わかった!!」
「アメリちゃん、サマリをよろしくね」
「うん!!」
お昼ご飯も食べ終わり片付けも終わったので、私達は早速旅立つ事にした。
これからどんな事が起こるのだろうか?
どんな景色が見れるのだろうか?
どんな体験をするのだろうか?
それはわからない。わからないから旅が楽しみなのだ。
「それじゃあ……」
「「いってきます!!」」
「いってらっしゃい!」
「気をつけるのよ〜!」
こうして私は、幼き王女と一緒に家を飛び出し旅を始めた。
現在10時。
もう朝とは言えない時間だけど私はついさっき起きたばかりだから朝だ。
「青い空、白い雲、輝く太陽…うん、良い旅立ち日和だ」
今日から私は17歳になった。
だからというわけではないけど、今日の昼過ぎから私は家を出て旅にでる。
小さい頃から世界中を旅してみたいと思っていたから旅立つ。だから旅の目的は特に無い。しいて言うならいろんな場所を見てまわるのが目的かな。
もちろん両親の許しは得ている。
両親は私が旅の途中で魔物に襲われないか心配はしているが、魔物は何故か男を襲う確率のほうが高く、女は無視する事も多々あるらしい。
私は女だから男よりは魔物に対してはずっと安全だろうということで両親は私が旅にでる事を許してくれた。
今私は旅にでる前の最後の散歩をしている。一度旅にでたら帰ってくるのは何年後かわからないし、もしかしたら帰らない可能性だってある。
だから自分の家の周りの景色を覚えておこうと思って、私は出発する予定の道がある方向とは逆にある小さな森の中を散歩していた。
「旅先にはここより凄い森もあるかな…」
苔がそこらに生えている少し湿った地面、そよ風に吹かれて葉が擦れ合い奏でる音楽、隙間から降り注ぐ綺麗な木漏れ日、自分の背丈ほど高く成長している青々とした草…
私はこれら森の様子を思い出として記憶しているのと同時に、まだ見ぬ旅先の景色を思い浮かべていた。
…やっぱり旅が楽しみだ。今すぐにでも出発したくなってきた。
まあ最後にお昼ご飯を両親に作ってから行く約束をしたからまだ出発はしないけどね。
…とまああれこれと考えながら散歩していたら……
うわあああああああん……
「ん?」
木の葉の擦れる音が聞こえるほど静かな森には似合わない、小さな女の子の泣き声みたいなものが聞こえてきた。
「迷子でもいるのかな?」
私は産まれた時からここに住んでいるのでこの森で迷子になる事はないけど、小さな女の子なら迷子になる事も十分にあり得るだろう。
たしかこの近所に森で迷子になるほどの小さな女の子はいなかったはずだから、遠くからきた子が親とはぐれてしまったかもしれない。
一応保護しておいたほうが良いかなと思い、泣き声がするほうに向かってみる。
どうやら高い草むらの向こう側から泣き声が聞こえるっぽい。
なので草を掻き分けて見てみると…
カサカサ…
「わああああん……ひっ!?だ、だれ!?」
「……えっ!?」
草の向こう側には、確かに泣いている女の子がいた。
その女の子は、深紅の瞳にセミロングの白い髪で、ピンクのハートマークが小さく描かれている黄色のTシャツにフリルがついている青いスカートを履いていた。
ここまでなら何の問題も無かったのだけど…
「魔物…」
その女の子の頭には髪とは対称的な黒い角があり、背中には髪と同じ白い蝙蝠の様な翼、そして同じく白く細長い尻尾が腰から生えていた。
誰がどう見たって明らかに人間じゃない。魔物…あまり魔物に詳しくないから確信は無いけど、多分サキュバスの子供だ。
でも…
「もしかして…アメリをやっつけるために来た勇者さん?」
「私が?ううん違うよ!」
私を警戒しながら見ている魔物の女の子は怯えていた。
その姿は、とても恐ろしい魔物とは思えなかった。
「じゃあ…お姉ちゃんだれ?何でアメリのところに来たの?」
「私はサマリ。たまたまこの森を散歩してたらアメリちゃん…だよね?アメリちゃんの泣いている声が聞こえたから気になって見に来たんだよ」
「ホント?」
「うん、ホントに」
この魔物の女の子…アメリちゃんは、人間の女の子と何も違わないように思えた。
だから私は、自分でも驚くほど普通に話しかけていた。
そのためなのか、怯えていたアメリちゃんはいつの間にか私に警戒しなくなっていた。
「ところで、何でアメリちゃんはこんな場所に居るの?お母さんとかは?」
ここは反魔物領だから魔物が居ること自体おかしいし、何よりもこんな小さな女の子が一人で森の中に居るのが不思議でしょうがない。
「アメリ?アメリは今一人で旅してるの!」
「……へっ!?」
こんなに小さい女の子が一人旅をしているって…嘘でしょ!?
魔物にとっては当たり前なのだろうか?
それとも見た目が幼いだけで実年齢は私より上なのかな?幼い子供の姿をした成体の魔物も居るって聞いた事あるし…
「アメリちゃん今いくつ?」
「8さいだよ!!」
「……」
私の年齢の半分以下でした。
「それでね、アメリはお姉ちゃんたちに会うために旅してたんだけどね、今日の朝ごはんを食べようとしてた時に勇者のお兄ちゃんがアメリをやっつけに来て…むちゅうで走ってにげてるうちにまいごになっちゃったの…」
「へ、へぇーそうなんだー…」
アメリちゃんは自分のお姉ちゃん『達』に会うために旅してるって言ったけど、沢山居るのだろうか?というかよく親もこんなに幼い子を旅に出したな…やっぱり魔物にとっては問題ないのか?それとも親が無責任なのか?
それと勇者のお兄ちゃんがやっつけに来たって…こんな子供をやっつけようとする勇者がいるなんて…
信じられない!魔物といっても子供なのに!なんて小さい勇者だ!!
「それでせっかくデルエラお姉ちゃんからもらった他のお姉ちゃんたちの居場所がわかる地図も落としちゃって…だからもうお姉ちゃんたちの居場所もわがらなぐで……うええええええん!!」
「あっ!な、泣かないで!私が何とかしてあげるから!」
「ぐすんっ…ホント?」
しまった。泣き止んでほしくてつい何とかしてあげるって言っちゃった。
凄くキラキラとした期待の眼差しを私に向けてくる。
これは今更無理とは言えないな…
しかし、どうしようか…
どこで落としたかわからない地図を探すのは不可能に近いし、私も昼過ぎから旅立つし…
ぐうぅぅぅぅ……
「ん?」
「あっ///」
突然何かの音が鳴った。
そしてアメリちゃんが顔を真っ赤にしながらお腹を抑えて俯いた。
ぐうぅぅぅぅ……
「……」
「うう…///」
また鳴った。
どうやらアメリちゃんのお腹から聞こえてくるようだ。
「アメリちゃんお腹すいてる?」
「うん…///」
そういえばさっき朝ご飯を食べようとしたら勇者に襲われたって言ってたな…
ってことはまだアメリちゃんは朝から何も食べていないということか。そりゃあお腹がすくわけだ。
「とりあえず…私の家でご飯食べる?」
「えっ!?いいの!?」
アメリちゃんは魔物だけど、今のところ全く危険性は感じられない。まさしく普通の子供だ。
どうせ両親の為に今からお昼ご飯を作るし、ついでにアメリちゃんの空腹も救ってあげようと思って、私はアメリちゃんをご飯に誘った。
「あっでも、アメリちゃんみたいなサキュバスって普通のご飯食べられる?」
そういえばサキュバスって精(ってなんだろう?)を主食にしてるって聞いた事があるから確認の為聞いてみたら…
「むぅ〜…アメリはリリムだもん!!」
頬をプクッと膨らましながらアメリちゃんはこう言ってきた。
どうやらアメリちゃんはサキュバスでは無くリリムって魔物らしい。
でもリリムってなんだろう?聞いた事無いや。
「リリム?サキュバスと違うの?」
「ちょっとちがう!」
よくわからないけど、「ちょっと」違うのでサキュバスの一種には間違いないだろう。
「それで、アメリちゃんは普通のご飯食べられるの?」
「うん!!」
「じゃあ行こっか!着いてきてね!」
私はアメリちゃんの手をとり一緒に家に行く事にした。
====================
「ただいまー」
「おかえrひいいっ!!ま、魔物…!!」ガクブル……
帰って早々アメリちゃんをみたお母さんが怯え始めた。
「どうしtってわあっ!!サ、サマリ!!なななんでま魔物と…!?」ガクブル……
お母さんの悲鳴を聞いてかけつけたお父さんまで怯え始めた。
魔物といっても子供なんだからそんなに怯えなくてもいいのに…
「森の中で迷子になって泣いてたから一応保護してきた」
「ほ、保護してきたって…」
「お腹すいてるからご飯食べさせてあげようと思って連れてきた」
「つ、連れてきたって…」
「なんかお姉さん達に会うために旅してるんだって。危険な魔物とは思えなかったから問題無いでしょ?」
「いや、そういう問題じゃあ…」
まだ怯えてる…
子供相手に怯えてる大人って…
「そういえばここらへんって魔物にやさしくないんだっけ…」
そんな両親の様子を見てるアメリちゃんが明らかにガックリしてる…
「まあお母さんとお父さんはあんな感じだけど気にしないでね!」
「うん…」
「じゃあそこの椅子に座ってて!ご飯作ってくるから!」
「うん!!」
「あ、お母さんとお父さんも椅子に座っててね。それで待ってる間にアメリちゃんとお話でもしててね。そうすれば多分全然怖くないってわかるから」
「「えっ!?ちょっと!?」」
なんか両親が死刑宣告受けたような顔をしてるけど、特に気にする事無く私はお昼ご飯を作りにキッチンへ行く事にする。
さて、何作ろうかな…とりあえず食材から確認するかな。
「えっと…あなたの名前は?」
「アメリだよ!!」
あ、一応会話し始めた。
「ア、アメリちゃんは何歳?」
「8さい!!」
「あら、凄く若いのに一人で旅しているのねー…」
「ちょっと前まではクノイチのベリリお姉ちゃんがいっしょだったけど、いつの間にかどこかに行っちゃったんだ…」
「そう…それは大変ね…」
へぇー、元々一人で旅してたんじゃないんだ。
というかツレのクノイチって魔物の種族かな?そのクノイチはアメリちゃんを置いてどこに行ったんだろうか?
あっ、ウインナー発見。
「ところで君はサキュバスなのかい?」
「ちがうよ!アメリはリリムだよ!!」
「リ、リリムって魔王の娘じゃないか!?」
「ひいっ!お、おたすけ…い、命だけは…」
「むぅ…別に何もしないのに…」
へぇ、リリムって魔王の娘の事なんだ!
って事はアメリちゃんは王女か〜、すごいな…
種族として存在してるって事はいっぱい姉妹いるんだろうなー。
んー…タマネギ、キャベツ、ニンジンがあるな。
「というか魔物はみんな人間さんをころしたりしないよ!」
「えっ!?ほ、本当かい?」
「お母さんがそうしたもん!!」
「う、うそ…!?」
「うそじゃないもん!!魔物はみんな人間さん、とくに男の人と愛し合うようになってるもん!!」
なるほど〜。だから男ばかり襲われるというか魔物と居なくなるのか。
確かに魔物に襲われて食べられるってよく聞くけど実際そんな事してるなら親魔物領があるわけ無いよね。
ていうか両親よ…アメリちゃんみたいな素直な子が嘘つくわけ無いじゃん…何疑ってるんだ…
あれ?じゃあ主神って嘘つき?まあいっか。
あっ!じゃがいもあるじゃん。じゃあ簡単なポトフにしよう!!
「それに、アメリのお父さんは人間の勇者さんだったんだよ!」
「へぇ…そうなんだ…お父さんとお母さんはそれで仲良いの?」
「うん!!だいたいずっとベッドでラブラブしてるよ!」
ベッドでラブラブしてるって…魔王夫妻自分の子供に大人の事情を見られてるのか…
子供の教育上あまりよろしくないと思うんだけど…いや、サキュバスだから良いのかな?
とりあえず野菜はアメリちゃんが食べやすいように小さく切って…
「あっでも…」
「何かあるのかい?」
「お父さんとお母さんたまにものすごいケンカする時もある…」
まあ夫婦喧嘩は人間も魔物も変わらないのか。両親もたまにするし。
野菜を全部鍋に入れて水とコンソメを入れて煮始めてっと…
「ものすごいケンカって?」
「何かがバクハツする音が聞こえてくることもあるし、おうちがゆれてちょっとこわれることもある」
もうそれ喧嘩って言うより決闘だよね!?凄いな魔王夫妻!
じゃがいもが柔らかくなってきたしウインナーを茹で始めてっと。
「しかもその後お母さんがアメリや妹たちやお姉ちゃんたちに泣きながら『お父さんとケンカしちゃった〜どうしよ〜!!』って言ってくることもあるし…」
「「…魔王っていったい…」」
なんか魔王可愛いな…何処が悪の親玉なんだろうか?
塩を少し加えて…うん、味付けカンペキ!
「でもちゃんとすぐになかなおりしてラブラブしてるからお父さんとお母さんはなかよしだよ!!」
「へぇー、良かったね!」
ぐうぅぅぅぅ…
「あら?」「おや?」
「うぅ…///」
アメリちゃんのお腹の音がキッチンまで聞こえてきた。相当お腹がすいてるみたいだ。
最後にお皿に盛ってパセリを振りかけて………完成!!
早速持っていこう!!
「お待たせ〜、出来たよ〜!」
「わーい!おいしそう!!」
「サマリの料理の腕は確かだからな!」
「あなたが自慢してどうするのよ…でもサマリの料理が上手なのは確かよ!」
完成したポトフを持って行ったら先程とはうってかわって両親が楽しそうにアメリちゃんと笑顔でお話ししていた。
どうやら少なくとも目の前にいる魔物の子供に対する恐怖心は消えたようだ。
「じゃあ食べようか!」
「わーい!いただきまーす!!あむっ!!……パクパク…」
よほどお腹がすいていたのか、ものすごい速さでアメリちゃんのお皿の中身が減っていく。
でもそんなに速く食べたら…
「パクパク…モグモグ…ンッ!けほっ、けほっ…」
やっぱりむせた。
「大丈夫!?そんなに慌てて食べなくても…」
「けほっ…うぅ……おなかすいてたし、サマリお姉ちゃんのごはんおいしくてつい…」
「ふふっ、ありがと!まだ沢山あるから慌てなくていいよ」
「はーい!!」
注意したら元気に返事してくれた。やっぱり可愛いなあ…
「しかし、これでサマリの料理が当分食べられなくなると思うと少し寂しくなるな…」
「ええ…」
一方、両親はしんみりとした雰囲気で食べている。
まあ私はこれから旅立つし、場合によっては帰ってこない可能性もあるから仕方ないか。
「ん?なんで?」
「サマリはこの後アメリちゃんと同じように旅に出るのよ」
「えっ!?そうなの!?」
「そうだよ!」
そういえばアメリちゃんには言ってなかったっけ。
「まあ私はアメリちゃんと違って目的の無い旅だけどね」
「ふーん……あっ!お姉ちゃんたちの居場所がわかる地図なくしてたんだ…どうしよ〜…」
そっか…アメリちゃん地図なくして困っていたんだっけ。
力になってあげたいけどな…
……あ、ひらめいた。
「ねぇアメリちゃん。お姉さん達がどこにいるかわかる?」
「わかんない。デルエラお姉ちゃんだけは知ってたからまず行ってみたんだ。そこで他のお姉ちゃんが近くにいたら反応するまほうの地図をもらったんだ…」
なるほど、お姉さん達の居場所はわからないのか。
「アメリちゃんこれからどうするの?無くした地図を探すのは難しいと思うけど…」
「うん…どうしよう…」
これからどうするかも決めてなさそうだ。
「だったらさ、私と一緒に旅しない?」
「えっ?サマリお姉ちゃんと?」
だから私は、アメリちゃんと一緒に旅しようと考えた。
「居場所がわからないなら一緒にいろんな場所に行って、見つけた時に会えばいいかなっと思ってね。まあお姉さん達に会うのが急ぎの用事なら無理だとしても地図を探すけどね」
「ううん。アメリがまだ見たことないお姉ちゃんたちに会ってみたいと思って旅してるだけだよ」
なら決まりだ。
「じゃあ一緒に行こう!!一人より二人のほうがきっと旅も楽しいよ!」
「うん!!」
こんな幼い子供でも旅の先輩だ。きっと頼りになる。
それに一人で旅するより絶対に楽しいに決まっている。
「でもアメリちゃんは大丈夫なの?ここら辺は大体反魔物領だけど…」
あ、確かに。いくらなんでも魔物のアメリちゃんは危ないような…
「あ、それならだいじょーぶ!」
大丈夫らしい。本人が言うなら心配いらないか。
「じゃあ食べたら早速出発しようか!」
「うん!!」
私達はゆっくりとお昼ご飯を食べた。
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「サマリ、気をつけるんだぞ!」
「何かあったらすぐに連絡するのよ!」
「うん!わかった!!」
「アメリちゃん、サマリをよろしくね」
「うん!!」
お昼ご飯も食べ終わり片付けも終わったので、私達は早速旅立つ事にした。
これからどんな事が起こるのだろうか?
どんな景色が見れるのだろうか?
どんな体験をするのだろうか?
それはわからない。わからないから旅が楽しみなのだ。
「それじゃあ……」
「「いってきます!!」」
「いってらっしゃい!」
「気をつけるのよ〜!」
こうして私は、幼き王女と一緒に家を飛び出し旅を始めた。
12/02/29 21:34更新 / マイクロミー
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