僕とタオルと臆病で強気な先輩
ゴロゴロ……ピシャーンッ!!
ザアァァァァァァァ……
「うわっ!? この季節に雷雨かよ!?」
夏もとうの昔に過ぎ、瞬く間に秋も終わり肌寒さが目立ち始めた季節。
週末という休み前で少しテンションが上がった中での学校からの帰り道。突如季節外れの夕立に襲われた僕は、雨宿りをしようと大急ぎで雨の当たらない場所まで駆け始めた。
「あーもう、ずぶ濡れだよクソ……」
今日の朝は普通に太陽も出ていたので傘なんて持っていなかった僕は、突然の雷雨に為す術もなく、頭の先から足下まで一瞬のうちにずぶ濡れになってしまった。
どうにか高架下まで辿り着いた頃には、髪の毛も学ランも水を吸って重くなり水滴が滴り落ちていた。
ダダ下がりのテンションで思わず悪態をつきながら、僕は手持ちのタオルでできる限り水分を吸い取ろうと鞄を漁り始めた。
「タオルタオルっと……ん?」
がさごそとタオルを探していると、耳に水を切る音が聞こえたと同時に、目の前が人影で少し暗くなった。
どうやら僕と同じく突然の雷雨に襲われた人が高架下まで逃げ込んできたらしい。
別段気になったわけではないが、急に人が現れると反射でそっちを見てしまうのが人間というものだ。
という事で、僕はタオルを探す手を止めてふと顔を上げた。
「あうぅ……」
そこにいたのは、雨に濡れて寒そうにぶるぶると震えている、一人の小柄な女性だった。
着ている制服はうちの高校のもので、襟に付いているピンバッジの色からして一つ上の学年だろう。名札を見たところ、どうやら国母先輩というらしい。
全身、特に手足が白くなっており、とても寒そうだ。髪の毛は燃えるような赤色なので余計にそう感じた。
というか身体が冷え過ぎたのか歯をガチガチと慣らしている。若干涙すら浮かべているみたいで、どちらかといえば怯えているような様子だ。
「えっと……大丈夫ですか……ん?」
あまりにも寒そうにして、そして怯えた様子なので思わず声を掛けた時、彼女の頭の上に付いているものに目が行った。
彼女の頭の上には、丸くてふわふわとした物が付いていた。例えるならそう、ネズミの耳だ。
手足が異様に白いのも、よく見たら白い毛皮だ。それに、尾てい骨の辺りからは細長い尻尾も生えていた。
「……ラージマウス……いや……」
ネズミの特徴を持つ国母先輩は人間ではない。
おそらくこの世界に、特にこの国のこの街に沢山いる魔物娘と呼ばれる存在だろう。
その魔物娘の中でもネズミの特徴を持つ種族といえば『ラージマウス』や『ドーマウス』がいる。実際、同じクラスには国母閨(ねや)というドーマウスの女子がいるし、国母先輩は名字的におそらく彼女の姉なのでドーマウスなのかと思った。
だが、白くなった毛、何かに怯えた様子、そして別に眠たそうにしていない事から、また別の種族だと僕は考えた。
国母家はこの街の3大屋敷に住む家庭の一つで、エキドナの母を持つ大家族だ。その一家はほぼ全員別種族なので、同級生の国母さんと微妙に違うのもうなずける。
「ひねz」
ガラガラピッシャーン!!
「おっと」
「ひああっ!?」
ネズミはネズミでもあの種族かなと思い口を開こうとしたところで、特大の雷が近くに落ちた。
大きな音と、空気が震える感覚にビックリし、言おうとした言葉を思わず止めてしまった。
だが、目の前の彼女の驚きはそれ以上だったようで、尻尾をピンと張って跳び上がった。
「あわわわわ……」
「だ、大丈夫ですか?」
どうやら国母先輩は雷鳴に怯えていたようだ。大きく飛びあがったと思ったら、耳を伏せて小さく縮こまって震え始めた。
「か、雷こわ……」
ガラガラドゴォォォン!!
「びゃあああああっ!?」
「うわっ!?」
更に追い打ちを掛けるように、より近くに落ちた雷。振動で思わず仰け反りそうになる程だ。
これには国母先輩も我慢が出来なかったようで、大声で叫びながら大粒の涙をこぼし、なんと僕の胸元に抱きついてきてそのままガクブルと縮こまってしまった。
「うえええ雷怖いよぉぉ……」
「あ、あの……」
抱きつかれた事そのものも困った事だが、何よりも全身ずぶ濡れな為、彼女の下着が透けて見えてしまっているのだ。
特に彼女はネズミの魔物にしてはそこそこ大きい胸と、それを覆うピンクのブラが透けているので目のやり場に困る。
そしてその柔らかな胸が身体に押し付けられているのはそれ以上に困る。魔物娘はそういうのに敏感らしいので意識しないようにするのはもの凄く大変だ。
「ううぅぅ……」
ゴロゴロ……ドオォォンッ!!
「ぴえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
雷が落ちろ毎に泣き叫びギュッと抱きついてくる国母先輩。
「お、落ち付いて下さい!」
僕は何を思ったのか、彼女を落ち着かせるために、彼女の頭を撫で始めた。
もちろん直にではなく、彼女の頭の水分を拭うためにタオル越しにである。
「うぐっぴええええええっ!!」
それでも落ち付く事はなく、ただ泣き叫び続ける先輩に僕は、為す術もなく頭をごしごしとするだけであった……
…………
………
……
…
「……」
「あのー、もう大丈夫だと思いますよ?」
しばらくそのままでいたら、雷鳴はいつしか鳴り止み、雨も止んで雲の隙間から星空と三日月が顔を覗かせていた。
身体の震えは止まったものの、未だに僕の胸元に顔を埋めている彼女。
なんとなくタオルを掴んだ手を動かしたまま、僕は国母先輩に声を掛けた。
「あの……もしもし?」
「……」
「聞こえてますかー?」
「……」
だが、彼女の反応はない。
指が当たる度に耳をピクピクと動かしているので気絶まではしていないと思うが、何故だか先程から一言も喋らないのだ。
「ちょっと失礼しますねー」
「うわっ!?」
このままでは埒が明かないと思い、失礼だと思いながらも無理矢理身体から引き剥がした。
「あ、あのー……」
「……」
引き剥がして、正面から見た彼女の顔は……まるで燃えているかのように真っ赤であった。
髪の毛や耳も真っ赤ではあるが、それ以上に赤くなっている顔。
まだ目に涙を浮かべながら、今度は恥ずかしさのあまりプルプルと震えていたのだ。
「もう雨も止みましたし、帰りませんか?」
「……」
「その、もう夜ですし、お腹も空いてきましたし……」
「……」
ちょっと可愛いなと思いつつも、どうにかこの場をなんとかしようと一生懸命言葉を搾り出す。
もちろんこんな経験のない僕は、気の利いた言葉など出てこない。それでも黙っているのはキツイので言葉を紡ぐ。
そして……
「な、なんなら送って行っても……」
「す、すまなかった……それじゃあ……」
「あ……」
ようやく言葉を口にしたと思ったら、もの凄い駆け足で高架下から出て闇夜に消えてしまった。
しかも、何を思ったのか僕のタオルを掻っ攫って、それを頭から被って顔を隠しながらだ。
「……」
あっという間の出来事だったので、何も反応できずにその場で固まったままの僕。
「……まあいいや。来週国母さんを通して返してもらおう……」
国母なんて名字はこの街には超有名な1軒しかない。なのでどう考えても彼女は同級生の国保さんの姉だろう。
タオルを返してもらうために、そしてもうちょっとお話したいと思う気持ちを解消するためにも、来週その国保さんを通して紹介してもらおうかなと考えながら、僕は自分の家へと歩き始めたのであった。
……………………
「あの、国保さん」
「むにゃ……なあに吉田君?」
「いや、僕水根なんだけど……」
そして週明け、月曜日の昼休み。
僕は気持ちよさそうに昼寝をしている、同じクラスの国母さんに声を掛けた。
「ねえ、国母さんのお姉さんにさ、1歳差で火鼠の人っている?」
「ぐぅ……ひな姉の事?」
「あー、名前まではわからないけど……いるんだね」
「うん」
ドーマウスらしく、寝たまま受け答えをする国母さん。
やはり一つ年上の火鼠の姉がいるらしい。おそらく週末にあった彼女で間違いないだろう。
「あのさ、そのお姉さんらしき人にタオル持って行かれちゃったから返してほしいと頼みに行きたいんだけど……」
「あー……むにゃ……ひな姉が誰かからパクッてきたあのタオル、水根君のだったんだねぇ……」
「あーうん。今ので確信が持てたよ。今すぐ返してほしいってわけじゃないけど、とりあえず話を通しておきたいからお姉さんに合わせてくれないかな?」
「いーよぉ……むにゃぁ……」
という事で、昼寝しているところで悪いが国母さんに頼んでお姉さんの所まで案内してもらった。
快く引き受け、ふらふらとぼとぼと歩く国母さんに付いて行く。
「むにゅ……ひな姉……」
「うおっ!? なんだ閨か……いきなりどうした?」
そして、2年の教室付近の廊下を歩いていた、燃え盛る炎のような赤い毛皮を身に纏ったネズミ型の魔物娘を見つけ、圧し掛かって呼びとめた。
「ひな姉にお客さ〜ん……すやあ……」
「客? あ……」
「あ、どうも」
振り向いたひな姉という人物は、あの時と違い釣り目でキリッと力強い表情をしており、いかにも武術を嗜んでいますと言わんばかりのしなやかな体勢だった。また、手足の毛皮も白くはなく、炎のように揺らめいて……というか、そこまで暑さを感じないものの炎そのものであった。
一瞬別人なんじゃと思ったが、その赤い髪と丸い耳はまさに記憶の中の彼女のそれと一致していたし、それに僕の方を見て目を丸くしているところからして当人なのだろう。
「き、君は先週末の……」
「はい。ではやはり国母さんのお姉さんでしたか」
「あ、ああ……そのなんだ、タオルの件は済まなかった。洗って家に置いてあるから明日閨に持って行ってもらうよ」
「あ、ちょっと……」
僕の姿を見た国母先輩は、先週末の出来事を思い出して恥ずかしくなったのか顔を真っ赤に染めながら早口でタオルの事を謝ってきた後、そそくさとその場を立ち去ろうとした。
「ひな姉逃げちゃダメだよ〜」
「のわっ!? は、離せ閨!」
「あったかぁい……ぐぅ……」
だが、彼女の身体に圧し掛かっていた国母さんが、振り落とされんとしたのかガシッと腰を掴んで動きを止めてしまった。
火鼠は武術に長けた者が多い種族だし、彼女もそれなりに力はあるはずだ。しかし、国母さんの執念が強いのか、一向に離れる気配はない。
「あーもう、こうなると当分動かなくなるからなぁ……なあ君」
「えっあ、はい」
「重ね重ね済まないが、閨の座席を教えてくれないか? こうなってしまうと妹は座らせるまで離れようとしないからな」
「あ、そうなんですか。わかりましたでは……」
しばらくは引き剥がそうとしていたのだが、全然離れない国母さんの寝顔を見て諦めたみたいだ。
しばらく悩んだ後、意を決したかのように表情を固め、僕に向かってそう頼み事をしてきた。
もちろん同じクラスだし、国母さんの座席も知っているので案内する事にした。
「えっと……ひな先輩?」
「国母雛香(こくぼひなか)だ。姉妹達からはひなと呼ばれているがな。君は?」
「あ、僕は水根秀佳(みずねひでよし)です」
ぐっすり寝ている国母さんを尻目に、僕は雛香先輩と互いに自己紹介をした。
「なんというか、この前と雰囲気が違いますね。あんなに雷に怯えてたのに今は凄くキリッとしているというか……まあ、火鼠だからだと思いますが」
「ぐ……まあ火鼠について知っているのならば隠す必要はないか……」
そして、そのまま少しの間会話を続けた。
「どうもずぶ濡れになると弱気になってしまってな……普段は平気なのだが、あの状態だと雷すら恐ろしく感じてしまう……他の人には絶対に言うなよ?」
「あ、はい。大丈夫です。なのでその拳は仕舞って下さい」
「よし」
今の強気な彼女は、この前の雷鳴に怯えて泣き叫んでいた人とは同一人物とは思えない程だった。
まあ、火鼠は本来の臆病な性格を毛皮の炎で上げられている闘争心で隠している魔物だと本で読んだ記憶があるので、きっと雛香先輩もそうなのだろう。そうでなければぴえええと泣いていた人が握り拳をこちらに見せながらそんな事は言ってこないだろう。
「ところで水根君」
「なんです?」
「水根君は何か格闘技をやっていたりするのか?」
「いえ、格闘技はやってません」
「そうか……」
そんな闘争心が強い火鼠だからか、僕に格闘技をやっているか聞いてきた。
だが僕は格闘技はやっていない。そう伝えると少しだけがっかりした表情を見せた。
「その……あの時気付いたのだが、結構身体つきがガッシリしていたからな。武術の心得でもあるのかと思ったよ」
「まあ、一応運動部ですからね。身体は鍛えてます。ちなみに水泳部です」
「す、水え……水根君は凄いな……」
どうやら意外と身体がしっかりとしているから格闘技をしているのかもと思っていたらしい。
たしかに、自分で言うのもなんだが程良く筋肉は付いていると思う。
格闘技はしていないが、僕は水泳部で頑張っている。だから身体も鍛えている。
「そこまで凄くはないですよ。一応部の中では期待されてますが、部長とかと比べたらまだまだですしね。マーメイドみたいに水棲系の魔物にもまだ僅かに勝てません」
「1年生でそこと比較できている時点で充分だと思うが……いや、私は泳げないものでな……水は苦手だ」
「あー……まあ仕方ないですよ」
「まあな。だから、私にとっては水根君は凄い」
「そ、そうですか……えへへ……」
たしかに、大量の水が弱点である火鼠である雛香先輩からしたら水泳は天敵だろう。
そんな人物からしたら水泳部の僕は凄いのかもしれない。なんというか、凄いと言われて結構嬉しかった。
「雛香先輩は何部ですか?」
「私は武術部だ。武術と言っても総合格闘技だがな。こう見えても主将を務めている」
「へぇ〜。武術部というのはわりと想像できましたが、主将とは……じゃあお強いんですね」
「まあな。とはいえ、まだまだ上には上がいるがな」
そして先輩は武術部らしい。
まあ、そういった部活だろうとは思っていたが、まさか主将を務めているとまでは思わなかった。
「おっと、教室に着いたみたいだな」
「あ、ですね。国母さんは左から3列目の一番後ろの席です」
「あそこか。ありがとう。ほら閨、自分の席に着いたぞ」
「むぅ……ぽかぽかがぁ……」
そうこうしているうちに、教室まで辿り着いてしまった。
つまり、このお話タイムも終わりである。
「それじゃあ水根君。タオルは明日閨伝いに返すよ」
「あ、あの、その事なんですが、やっぱり直接返してもらえませんか? 今日部活が終わった後家まで取りに行くんで……」
「ん? まあそれならそれで良いが……わかった。それではまた放課後に」
「はい! 部活後、昇降口で待ってます!」
まだお話し足りないと思った僕は、雛香先輩にそう告げた。
これならばまた取りに行った時にお話できる。そう考えて、直接返してくれと頼んでみたのである。
「……」
「むにゃあ……水根君……」
「ん?」
「むにゃむにゃ……ひな姉に惚れたね?」
了承し、雛香先輩が去った後、寝惚け口調で国母さんにそう指摘された僕。
「うえっ!? え、えっと……」
「ふっふっふ……私にはわかるよ……すぴぃ……」
そう、国母さんが言った通り、僕は雛香先輩に惚れた。
元々キリッとした女性は好きだし、何よりそんな人が見せた弱い部分が可愛らしくてもうメロメロだ。できればお付き合いしたい。
「脈は多分あるよ……その先は水根君次第だけどね……」
「え?」
「ひな姉に勝負を仕掛けて勝てばもしかしたら……ぐぅ……」
「勝負に勝てば……か……」
妹の国母さんがそんな事を言うので、つい期待してしまう。
とはいえ勝負に勝てと言われると……難しい気がする。
そこそこ筋肉が付いているとはいえ、武術はおろか格闘技なんてやった事はない。雨の日でもなければ勝てるとは到底思えない。
キーン コーン カーン コーン
「あ、昼休みも終わりか」
「すぴー」
と、考えていたら昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。授業は真面目に受けないと付いていけないので、考えていられる時間も終わりだ。
本格的に寝始めた国母さんをよそに、僕は授業の準備をする為に自分の席へと戻ったのであった。
……………………
「ふぅ……あ、雛香先輩!」
「やあ。本当に待っていたとは思わなかったよ」
「こっちから約束しましたからね。流石に破りませんよ」
部活も終わり、帰りの時間。僕は約束通り、昇降口で雛香先輩がやってくるのを待っていた。
「おや、髪の毛が濡れているな」
「そりゃあ僕も部活終わりですし」
「あれ? こんな寒い季節でも泳いでいるのか?」
「うちの学校のプールは屋内ですし水温調整もできるので年中泳げますよ」
「ああ、そういえばそうか。水泳の授業は避けていたから忘れていたよ」
現れた雛香先輩と共に、夜道を歩き始めた僕。
いつの間にやら空には分厚い雲が掛かっているので、ちょっと足を速めたほうが良さそうだ。
ふと先輩の方を見ると、部活終わりな事もあってかその額はうっすらと汗に濡れていた。
それとも、夜道を明るく照らすその手足や尻尾の炎のせいだろうか。
「先輩はやっぱり水が苦手なんですね」
「そりゃあまあ……水滴程度ならこの炎で蒸発させられるが、水の塊なんぞに突っ込んだら流石に消えてしまう」
「やっぱそれ炎なんですね。ちょっと触ってみても良いですか?」
「ああいいぞ。姉妹達、特に閨には冬はカイロ扱いされる程度の温かさだから火傷はしないと思う」
「あ、本当だ。なんだか温かいや」
しかし、そんな炎からはそこまで熱さを感じられなかった。
なので、先輩にお願いをして炎を触らせてもらう事にした。
たしかに先輩の言う通り、火傷するような熱さではなかった。ぽかぽかしているという言葉が最適だろう。
だが、そうして炎を触っている手よりも、触っているうちに僕の中でアツく燃え上がる物を感じた。
メラメラと燃えあがる、とある想いを。
「そういえば先輩は武術部の主将でしたよね?」
「ああそうだ。どうかしたのか?」
「いや、じゃあ先輩は部活の中では一番強いのかなと思いまして」
「ああ。男子も含め全員と戦い全勝したからそうだろう。小柄だからと嘗めて掛かってきた奴も中には居たが、その後きちんと本気で挑んできた時も勝ったし、うちの部活では最強だ。今日だって全戦全勝だしね」
「ほお……やっぱりお強いんですね」
「まあな!」
やはり先輩はうちの学校の、少なくとも武術部の中では最強みたいだ。
心なしか炎を普段より強く燃え上がらせながらえへんと誇らしげにする先輩。そのドヤ顔ももの凄く可愛く、余計に惚れてしまいそうだ。
「と言っても、やっぱり全国には猛者も集う。私より強い火鼠や人虎も多いから、当面の目標はそいつらを越える事だけどね」
「そうですか……ねえ雛香先輩」
「ん、どうした?」
だからこそ僕は、そんなに強い先輩に……
「僕と……一勝負して下さい!」
「……は?」
無謀な挑戦を叩き付けた。
「いきなり何を言い出すのかと思えば……言っておくが、流石に水泳部の人間に負けるような雑魚ではないよ。それとも水泳勝負か?」
「いえ、あなたと直接、格闘勝負をしたいのです!」
もちろんそれは、僕が絶対有利な勝負ではなく、正真正銘彼女との真っ向勝負だ。
「人の話を聞いていたか? 水根君では私に勝てるとは到底思えないぞ?」
「わかっています。ですが……」
もちろん、彼女に勝てない事ぐらい十分承知している。
「僕は……先輩の事が好きになってしまいました」
「……は?」
「ですから先輩に勝ってお付き合いさせて欲しいのです!」
でも、僕は先輩の事を好きになってしまったのだ。
火鼠は戦いに生きる魔物。あまり恋愛沙汰には興味はないと聞いた事がある。
愛を示すには、戦って勝つしかないのだ。
「そ、そのなんだ……私は別にそういった事は興味はない。だが、水根君が私に好意を持ってくれている事はわかった」
「はい。大好きです! ほぼ一目惚れですが、先輩に惚れました! お付き合いしたいです! だから勝負して下さい!」
「そこまで言うのであれば勝負してやらんでもない。だが……水泳部でしかない君と今すぐ勝負する気は起きない」
「そ、そんなぁ……」
だが、雛香先輩のほうは全く乗り気ではなさそうだ。
やはり、僕の事は眼中にないのだろうか。
「だから、今日から私が鍛えてやる」
「え?」
「私が戦いたいと思えるような男になるまで鍛えてやると言ったのだ。嫌か?」
「い、いえ、嫌ではないです」
とか思っていたら、先輩直々に鍛えてやると言われた。
たしかに、超えたい相手から教わるのが一番早い気はするが……それはありなのだろうか。
「でも、良いのですか?」
「別にいいさ。そこまで好いてくれている事への、私なりの答えだ。ただし、別に転部しろとか言うわけじゃなく、きちんと水泳も続けた上でだ」
「はい、わかりました。それではよろしくお願いします!」
まあ、本人が良いと言うのだから良いのだろう。
出された条件も、元々そのつもりであった水泳部として水泳を続ける事だ。特に困る事はない。
ならば願ったり叶ったりだ。という事で、僕は雛香先輩に師事する事にした。
「では、毎週土日、互いに部活がない時間に我が家に来てくれ。家の位置は……わかるよな?」
「一応は……国母家はこの街に住む人間には有名ですからね。国母家、八木家、垢院家の3大屋敷って感じで」
「ま、まあね……その中で我が家は残りと違って普通の一般家庭だから並べられると違和感を感じるが……」
「でも正直な話、魔物屋敷じゃないですか。下手すれば1年に一人は増えてますよね?」
「まあ……たまに産まれない時もあるが、大体毎年一人は妹が増えてはいるな……上も結構な数がいるし……」
平日は互いに学業と部活で忙しいので、基本は土日の週2日、先輩の家で特訓をする事になった。
「ってうわっ!? 雨が降ってきた!」
「急ぎましょう! また雷になっても大変ですからね!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
予想通り雨が降ってきたので、先輩の炎が消えないうちに大急ぎで国母家へと走り出す。
これからの特訓の日々を、そして、その先にある未来を夢見ながら、僕は先輩と共に走ったのであった……
……………………
「はっ、やあっ!」
それから、僕の特訓の日々は始まった。
「脇が甘いぞ!」
「うぎゃっ!」
基礎体力は水泳のおかげでできているとはいえ、武術は全く齧りすらした事がなかった僕は、始めの頃は満足な動き一つすらできず、よく先輩にどつかれていた。
「やっ、えやあっ!!」
「おっ、中々良い動きになってきたじゃないか!」
「ありがとうございますっ! はあっ!」
しかし、高校を卒業し、大学生になった頃には、ある程度本気を出した先輩とも渡り合えるようになるぐらい動けるようになった。
「先輩! 今日も指導を……あれ? 国母さん?」
「むにゃ……今朝ひな姉足を滑らせて池ポチャしたから今日は自主練だってさ〜……」
「そ、それはそれで様子を見に行きたいんだけど……」
「それはひな姉に勝ってからのお楽しみ〜……すやぁ……」
たまにハプニングもあって会えなかった事もあったけど、毎週先輩に会って、一緒に特訓をした。
「先輩! 今日先輩に1回でも拳を入れられたらこの後一緒に映画を見に行ってもらえませんか?」
「ふん……そういう浮かれた事を考えているうちは私に勝てないぞ!」
「うわっと!?」
その間も、僕の先輩を好きだという気持ちは薄れる事はなかった。
いや、薄れるどころか、日が経つにつれ想いも強くなっていった。
「ふっ、はあっ!!」
「……随分動きも良くなった。これなら……」
そして……あの雨の日から、タオルで先輩の頭をゴシゴシした日から10年もの歳月が流れたある日の事。
「ふぅ……」
「水根君」
「なんですか雛香先輩?」
「……明日、私と勝負してくれないか?」
「っ!?」
特訓の終わりの時間になり、一息ついていたところで、先輩の方から勝負を挑まれた。
「という事はいよいよ……」
「ああ。私が全力で戦いたいと思う程、君は強くなった。だから明日、私と真剣勝負をしてくれないか?」
「もちろんです!」
ここまで随分長い時間がかかってしまったが……とうとう僕は、彼女と戦うにふさわしい力を身に付ける事ができた。
「本当は今すぐにでも戦いたいが、今日の訓練での疲れもあるからな……明日、全快の状態で、ここで戦おう」
「はいっ!」
でもここで終わりじゃない。僕はこの戦いに勝たなければならない。
先輩に勝って、興味を持ってもらい、相応しい男として恋人になるのが最終目標だ。
だから慢心せず、ベストを尽くす為に、出来る限りの事をしてきた。
そして、次の日……
「さて水根君……覚悟は良いかな?」
「先輩こそ……!!」
とうとうやってきた戦いの日。国母邸、道場内。
先輩の炎の効果だろうか、互いに燃え盛る闘志。逃げるなんて選択肢は、もちろんない。
国母さんを始め、彼女の両親など複数のギャラリーもいるが、それらは背景と同化し目に入らない。僕も先輩も、互いしか見えていない。
「ごく……」
「……」
自分の心臓の鼓動と呼吸音以外、何も聞こえない。
場に緊張感が走る。
そして……
「試合……始め!!」
「はああっ!!」
「やあっ!」
審判をやってくれているお姉さんの合図と同時に、僕と先輩は足に力を入れ、ほぼ同時に相手へと跳びかかった。
先輩は素早く腹部に蹴りを入れてきたので、片手で受け止めて上方向に流し転倒させようとした。
しかし先輩は手を地面に着き、バク転するようにそのまま僕と距離を置き、隙を見せずにそのまま距離を置いた。
先輩は小柄な体を活かして相手の懐に入っての打撃や投げ技が得意だ。懐に入られないように気を付けつつ、僕は先輩に向かって踏み込み胸元へストレートパンチを仕掛けた。
「甘い!」
「ぐっ」
しかし、先輩には簡単に見切られた。それどころか同じように上に流されてしまい、バランスを崩す。
その隙を見逃す先輩ではなく、胴に回し蹴りを仕掛けてきた。
身体を捻り蹴りは何とかかわすが、ただでさえ崩れていたバランスが大きく崩れ、腕から地面に倒れてしまう。
「隙あり!」
そんな僕に向かって、肘を突き出しながら跳び付いてきた先輩。
このままでは肘打ちを食らってしまう。そう考えた僕は瞬時に横へ転がりそれをかわしつつ起きあがり、逆に落ちてくる先輩に向けて蹴りあげる。
ただ、この動きも先輩にとっては想定内だったようで、身を捻りもう一方の腕でその足に手を置き、蹴りの力を利用してそのまま後ろに跳び退いた。
そして正面を向く。試合の始めと同じ構図だった。
「ふっ……すぐ勝負が付いてしまうのかと思ったぞ」
「まさか。先輩に鍛えられておいてそんな期待外れな事は起きませんよ」
「ほう。言うじゃないか。ならこれはどうだ!」
短い会話を交わした後、再び動き始めた先輩。
半歩後ろに下がったかと思えば、バネの様に踏み切ってこちらに跳んできて、拳を振り下ろしてきた。
だが、その動きは今までの訓練の中で何度も見てきた物だ。これはどうだと息巻いてきたからもっと凄いものだと思い身構えていた分少し拍子抜けだ。
スッと後ろへ下がり、身体に向けて振り下ろされる拳をかわしたところでカウンターとしてこちらの左拳を腹に喰らわせようと構えた。
「……ふ」
「なっ!?」
しかし、先輩の狙いはそれではなかったようだ。なんと拳は身体ではなく顔の近くに飛んできたのだ。
しかし、顔への攻撃は反則なのでそのまま喰らわせるはずがない。そう思い少し油断してしまった。
その瞬間、僕の目の前が真っ赤に染まった。
それは……先輩の腕の炎だった。
「くっ!?」
「隙あり!」
「しまっ……!!」
どうやら炎を目くらましとして使ったみたいだ。この炎は先輩の身体の一部、というか体毛だし、卑怯でも反則でもない。
その事に気付けなかった僕はまともに炎を見てしまい、一瞬目が炎の光に包まれて何も見えなくなる。
その隙に、警戒していた懐に入られてしまい……胸元に強い衝撃が走る。
「ぐっ!」
「はああっ!!」
先輩は小柄とはいえ、その拳は決して軽いわけではない。一発一発が重く、まるでブロック塀でも投げつけられたかのように叩きつけられる。
その重い拳を無防備な胸元に打ちつけられ、衝撃で呼吸が止まりそうになる。痛みも相当なもので、動きのほうは確実に止まってしまう。
そこにすかさず飛んできた先輩の膝蹴り。これが腹部に決まれば、おそらく僕はダウンして負けてしまう。
そうなれば、今日ここで先輩とお付き合いする事は叶わなくなってしまう。
「うらあああっ!!」
「なっ!?」
それだけは何としても避けたい僕は、ほぼ反射的に身体を動かした。
懐に入っていた先輩の方を掴み、力強く押しその反動で身体を仰け反り膝蹴りをかわした。
そして、力強く押された先輩は、流石に僕の動きは予測できなかったようで、驚いた表情を浮かべながら押された反動と膝蹴りの動きの相乗効果によって仰向けに倒れていく。
「おらああっ!!」
「うわっ!?」
もちろん、それをただ見ているだけなわけもなく、僕は倒れゆく先輩の上に覆い被さり、腕を彼女の脇の下に通す。
そして、首の横からもう一方の腕を身体の下に通し自分の両手をそこで握って先輩の頸動脈を圧迫し、肩で喉を抑えつける。
そう、倒れ込んだ先輩に僕は絞め技を仕掛けたのだ。
苦しい思いをさせてしまうが、彼女の身体に打撃による痣を作らずに済むので、始めから望んでいた絞め技の流れに持って来れた今、絶対成功させたい。
「ぐっ、がっ」
魔物娘なので基本的な力は普通の女子はもちろん、僕よりも強い先輩。
だが、体重は僕のほうがずっと重い。上から体重を乗せ肩を押し付けている僕を弾く事は簡単にはできない。
だが、先輩もただやられているだけではない。僕の下で暴れ、振りほどこうとじたばたしている。
抜けだされたらまた次のチャンスが来るとは限らない。絶対にここで決めたい僕は、必死に体重を掛けて抜けだされないようにしっかりと締め付ける。
「ぐぅ……ぬぅ……」
僕の身体を蹴ったり殴ったりしようとすれば、そうさせない為に身体を少し動かして足や腕を抑えつける。
暴れて抜けだそうとしたら、体重を掛けて押さえつける事に集中する。
そうこうしているうちに先輩の動きが段々と鈍くなっていき、そして……
「むぅ……」
「そこまで!!」
炎が灯る尻尾で力無く腰をぺちぺちと叩く先輩。どうやら諦めてギブアップのようだ。
審判をしていたお姉さんもそう判断をしたようで、試合終了のコールを出した。
そう……僕の勝利だ。僕は先輩に勝ったのだ。
「ぷはぁ……はぁ……まさか絞め技で来るとは……負けたよ水根君……」
「雛香先輩……」
まだ先輩の上に乗ったままだが、とりあえず首絞めを緩めて呼吸をできるようにする。
大きく息を吸って呼吸を落ち着かせた先輩は、自身が負けた事を悔しそうに宣言した。
そう、これで僕は完璧に先輩に勝利した。
つまり僕は、先輩の恋人になれる権利を得たのだ。
「先輩……僕は先輩の事が大好きです。恋人になって……いえ、僕と結婚して下さい!」
「ああ、恋人に……け、結婚!?」
だから僕は、そのままの体勢で雛香先輩に告白した。恋人に……いや、結婚してくれと。
もう既に僕は26歳だ。そして先輩は27歳。結婚したっておかしくない年齢だ。
だからこそ僕は先輩に結婚してくれと告白したのだ。
「け、結婚はなんというか、は、早過ぎないか? い、いくらなんでもそれは……」
「良いじゃないですか。僕はこんなにも先輩の事が好きなんです。先輩を幸せにします。先輩の全てが欲しいのです!」
「す、全てって……っておい!? な、何をして……!?」
そう、先輩の全てが欲しい。その笑顔も可愛さも強さも身体も全てが欲しい。
この気持ちは燃え上がり、熱気球のように膨れ上がり、溢れだしてとまらない。
欲情として溢れだしたその熱に、僕は滾る想いを乗せながら、先輩の全てが欲しいと、その可愛らしくも主張している胸のふくらみに手を伸ばした。
「先輩……先輩!!」
「や、やめ……あっ」
先輩の胸はネズミの魔物にしては桃饅頭のような形の膨らみがある。
胸に触れる手のひらに伝わる張りのある弾力と仄かな熱。少し強く揉む度に、先輩の口からは可愛らしい声が漏れる。
恥ずかしいのか、10年前の泣きやんだ時のように真っ赤な顔を浮かべる先輩は、逃げ出そうとしているのか試合中のように暴れている。
しかし、その力は比べものにならない位弱く、そもそも僕に乗られているので抜けだせるわけがない。
「先輩、大好きです!!」
「わかった! 判ったから脱がせ……ひあっ!」
先輩の身体をもっと見たい……そう思った僕は、躊躇う事なく先輩の服を脱がした。
露わになる先輩のおっぱい。大きさは身体に合わせて小さいが、膨らみは見た目通りかなりのものだ。
「や、やめて……ひゃんっ」
柔らかな先輩の桃饅頭を、僕は舌で堪能する。先程まで戦っていて汗を掻いているからかほんのりしょっぱく、そして熱い。
やめてだのと口では拒絶しているが、舌先に当たる乳首は硬くしこりを持っていた。
本当は嬉しいのだろう。僕はそう思い尚も舐め続け、乳首を軽く噛む。
乳首や乳輪辺りを攻めると、普段のキリッとした低い声ではなく、初めて会った時のように高い声で鳴くので、余計に攻めたくなる。
「む、胸をしゃぶったり揉むのは止めろ……んぶぅ!?」
悦びの声をあげているにも拘らず、ずっと胸を弄るのはやめろと言い張る先輩。
そうか、胸ばかりじゃ物足りないのか。そう考えた僕は、先輩の唇を奪った。
先輩は知らないが、僕にとっては初めてのキスだ。だから知識にあるだけなので上手くはないが、先輩の舌に僕の舌を絡める。
押しとどめようと抵抗する先輩だが、やはりその力は弱い。歯茎や舌の裏など、口内をねっとりとしゃぶり、先輩を堪能する。
「はぁ……はぁ……」
酸素が不足してきたので、名残惜しいが唇を離す。互いの唾液が混ざったものが、唇同士で繋がっている。
荒く呼吸をする先輩の顔に、その透明な橋が落ちる。腕の炎は、ただの赤い毛にしか見えなくなるほど弱まっていた。
「はぁ……も、もうやめ……ひあっ!?」
「何言ってるんですか先輩……ここ、こんなに濡れてるじゃないですか」
「ち、ちが……ああっ」
少し涙を浮かべ、弱々しくも僕を睨みながらやめろと言う先輩。
だが、道着の下に穿いている下着は、筋に沿って濡れている。本当はしてほしくてたまらないのだろう。
「や、やだ……んんっ!」
先輩の腕を抑え、ピンク色のパンツを脱がす。パンツと股間との間に、透明な糸が引く。
パンツの下は、綺麗なピンク色の秘所が、軽く口を開けていた。
しかし、まだそこは弄らずに、僕は先輩の程良い筋肉がつきむちむちな太股に舌を這わせた。
ビクビクと震える先輩。どうやら拙い舌技で感じてくれているようだ。
「はぁ……先輩の……はぁ……おまんこ……」
「やめれ……ひゃあっ♪」
舌を這わせながらゆっくりと上へと進んでいき……先輩の秘所に触れる。
じわりと愛液を垂らすその割れ目を指で広げながら、舌を入れて絡め取る。
膣の入口は少しざらついている。そして、愛液は少し甘いように感じた。
「ぷあ……先輩……挿れますね……」
「お、大きい……じゃなくて、そういうのはまだ……」
「とか言っておきながら自分で広げてるじゃないですか。もう我慢できませんので挿れますね」
「ほ、本当にま……あああああっ!」
今までの前戯で先輩の秘所はもう男根を受け入れる準備ができていた。
それは僕自身も同じだ。もう、先輩の中に挿入できるほど硬く勃っていた。
だから僕はズボンを脱ぎ、下着も下ろして、その硬く反り勃った肉棒を取り出して、先輩の股間に当てた。
口ではまだだの待ってだの言っているが、先輩の手は股の前にあり、自身の大事な場所をくぱぁと広げている。
それは挿れてほしいという合図だと受け取った僕は、先輩の制止を無視し……その肉棒を、先輩の穴に突き刺した。
「ひぃうっ、ふあああああっ♪」
「先輩……気持ち良いです……!」
「あっあっ、おっきいのがあ……❤」
中に挿れた途端、鈴口にみっちりと絡み付いてきた膣肉。
鍛えられているからか締め付けもかなりのもので、僕の竿から子種汁を搾りだそうと締まる。
途中で処女膜らしいものを破った気がするが、特に血らしき物は出てこないし、それに先輩も痛がらずに気持ちよさそうにしているので、気にする事なく突き進む。
そして、根元まで突き進んだ瞬間……童貞だった僕は興奮も限界量を越え、先輩の中に射精してしまった。
「あぁああっ♪ アツい物が出てりゅぅ……❤」
ドクドクと、先輩の膣内に勢い良く精液を流し込む。
それでも変わらず……いや、それ以上に強く締め付けてくる膣肉。僕からその白濁液を搾り出そうと貪欲にうねる。
先輩の毛皮も、精液に染められているかのように白くなっていく。そこには燃え盛る炎の姿はなく、ふわふわとした毛皮が生えているだけだった。
「先輩……僕、まだ……」
「うん……もっとシてぇ……❤」
先輩の中に零す事なく精液を注ぎ終えた僕は、普段の自慰の時とは違い萎えきる事なく先輩の膣壁を犯し続けていた。
ずっと拒んでいた先輩も、中出しされてその気になったようで、もっとシテと短い脚を腰に回し、自らもっと深く突き刺さるように腰を押し付ける。
「うあ……」
「あ……んん……ひうっ❤」
先輩もその気になったところで、僕は正常位のままゆっくりと腰を動かし始めた。技術も何もない、ただの抽送運動だが、先輩も気持ちよさそうに喘ぐ。
相変わらずキツく締めるそれに、僕も思わず声を漏らす。先輩の膣が与える快感が、電気が流れるかのように僕の全身に駆け廻っていく。
抽送する度に、先程射精した精液と先輩の愛液が混じったドロドロの液が隙間から漏れ出し、先輩の小柄なお尻を穢す。
それがまた新たな興奮を生み出し、僕等をアツい行為に及ぼす。
「先輩……好きです! 大好きです!!」
「私もしゅきぃ……だいしゅきぃ……❤」
互いに揺すり合う腰、ぐちゃぐちゃという淫猥な音が道場中に響く。
どうやら周りの家族達も、相手がいればお互いに盛り上がっており、相手が居ない人も一部は残って僕等をオカズに自慰をしたり、互いに互いの性器を弄っているみたいだ。
とはいえ、僕等はお互いしかほとんど見えていないので、周りなど気にする事は出来なかった。
見えているのは、涎を垂らして恍惚とした、それでいて幸せそうな先輩の笑顔だけだった。
「ふぁぁあ❤ じゅっとしゅきだったのぉ❤ タオルでごしごししてくれたあの日からじゅっとぉぉぉっ❤」
「僕もです! 僕もです先輩!!」
「ずっと一緒に居てぇ、強くなってぇ、嬉しいのぉ❤ らいしゅきぃ❤」
ずっと僕の事が好きだったと告白する先輩。それがより心を高め、腰の動きを早くする。
僕もずっと大好きだった。それは互いにそうだった。もう、二度と先輩以外の女性なんて見れない。
「せ、先輩……僕、また射精す……!」
「きてぇ……水根君のせーえき、いっぱい注いでぇ……❤」
一度射精したと言うのに、またもや臨戦態勢に入ったペニス。それだけ気持ちは高鳴っているのだ。
気持ちだけでなく、きゅんきゅんと締め付けてくる先輩の膣肉が僕の射精を促す。奥にある子宮口に、注いでくれと言わんばかりに。
そこまでされて、我慢できる男はいない。
「はぅあっ❤ ふあああっ❤ イ、イク❤ イッちゃうぅ❤」
「う、うおおぉぉぉ……!!」
「い、イクううううぅぅうっ❤」
きゅうきゅうと、今まで以上に男根に絡み付き射精をねだる膣。先輩は達したようだ。
もちろんそんな攻めに耐えられる僕ではない。
先輩がイッたのとほぼ同じタイミングで、僕も達してしまった。
腰を脈打たせながら、熱い子種汁を先輩の子宮へと沢山注ぐ。先程よりも多く、先輩に僕の子供を孕ませようとするかのように。
「あひ、あは……あへぇ……❤」
絶頂に達し、ピクピクと震え、白目をむきながら気絶している先輩。
その表情に苦しさはなく、ただひたすら悦びに満ちていた。
先輩の炎はもう既に鎮火しきっている。だが、僕の劣情はその逆で、今まで以上に燃え上がっている。
「うひぃ……ふあっ❤」
まだ気絶している先輩に構う事なく、再び腰を振り始めた僕。
もっと深く、もっと愛し合うために、僕達は疲れて眠ってしまうまで身体を重ね合い続けたのであった……
……………………
ゴロゴロ……ピシャーンッ!!
ザアァァァァァァァ……
「うわっ!? いきなりの雷雨かよ!?」
残暑も終わり、瞬く間に秋も過ぎて肌寒さが目立ち始めた季節。
週末という休み前で少しテンションが上がった中での会社からの帰り道。突如季節外れの夕立に襲われた僕は、雨宿りをしようと大急ぎで雨の当たらない場所まで駆け始めた。
「あーもう、ずぶ濡れだよクソ……」
今日の天気は晴れだとテレビの予報は言っていたので傘なんて持っていなかった僕は、突然の雷雨に為す術もなく、頭の先から足下まで一瞬のうちにずぶ濡れになってしまった。
どうにか高架下まで辿り着いた頃には、髪の毛もスーツも水を吸って重くなり水滴が滴り落ちていた。いつもは手に纏っている炎だって消えてしまう程だ。
ダダ下がりのテンションで思わず悪態をつきながら、僕は十数年前から使い続けているタオルでできる限り水分を吸い取ろうと鞄を漁り始めた。
「タオルタオルっと……ん?」
がさごそとタオルを探していると、耳に水を切る音が聞こえたと同時に、目の前が人影で少し暗くなった。
どうやら僕と同じく突然の雷雨に襲われた人が高架下まで逃げ込んできたらしい。
なんとなくデジャビュを感じたので、もしやと思い僕はタオルを探す手を止めてふと顔を上げた。
「あうぅ……」
そこにいたのは、雨に濡れて寒そうにぶるぶると震えている、一人の小柄な女性だった。
燃えるような赤い髪を持ち、手足が白い毛皮に覆われており、ネズミの丸い耳が頭から、ネズミの細長い尻尾が腰から生えている、僕の愛しの妻だった。
手足の毛皮がいつもの炎ではなく白くなっているのでとても寒そうだ。髪の毛は燃えるような赤色のままなので余計にそう感じた。
というか身体が冷え過ぎたのか歯をガチガチと慣らしている。若干涙すら浮かべているみたいで、どちらかといえば怯えているような様子だ。
「大丈……」
ガラガラピッシャーン!!
「おっと」
「ひああっ!?」
大丈夫かと声を掛けようとしたら、特大の雷が近くに落ちた。
大きな音と、空気が震える感覚にビックリし、言おうとした言葉を思わず止めてしまった。
だが、目の前の妻の驚きはそれ以上だったようで、尻尾をピンと張って跳び上がり、そのまま僕に抱き付いてきた。
「うえええひで君……雷怖いよぉぉ……」
「ははは……ひなは相変わらず雷は苦手なんだね……」
昔と同じように抱き付いてきたひな。昔と違うのは、僕だとわかって安心するために抱き付いている事だろう。
おそらく、胸のふくらみを僕の身体に押し付けているのもわざとだ。彼女は水にぬれて臆病な性格が前に出てくると、僕の肌の温もりをいつも求めてくるのだから。
ゴロゴロ……ドオォォンッ!!
「ぴえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ほら落ち着いて。もうちょっとしたら雷もいなくなるからね」
あの時と同じタオルで、濡れたひなの頭を乾かそうとごしごしと拭く。
お義母さんの魔術によって痛む事なく現存しているこのタオルは、僕とひなを引き合わせてくれた大切な宝物だ。いつも大事に持ち歩いており、こういった事になったら使えるようにしている。
「うっ……ぐす……」
「落ち付いたかい?」
「うん……ありがとうひで君……」
やがて雷は遠くへ去り、雨も弱まってきた。
まだまだひなは弱ったままだが、一応落ち付いてきたようでまともに返事ができるようになってきた。
「さあ、雨も止んできたし、家に帰って二人でお風呂で温まろう」
「うん……大好きだよひで君……❤」
「僕もだよひな」
まだぽつぽつとしているが、ここまで濡れていてはもう気にならない。
僕達は二人で高架下から脱出し、ゆっくりと家に向かって歩き始めた。
「お風呂で……子供も作ろうな❤」
「もちろんそのつもりだよ。ひながその気にさせたわけだしね」
「えへへ……」
タオルから始まった僕とひなの恋は、これからもずっと続いて行く。
時に戦い合い、時に愛し合いながら、僕達の時間は続いて行くのであった。
ザアァァァァァァァ……
「うわっ!? この季節に雷雨かよ!?」
夏もとうの昔に過ぎ、瞬く間に秋も終わり肌寒さが目立ち始めた季節。
週末という休み前で少しテンションが上がった中での学校からの帰り道。突如季節外れの夕立に襲われた僕は、雨宿りをしようと大急ぎで雨の当たらない場所まで駆け始めた。
「あーもう、ずぶ濡れだよクソ……」
今日の朝は普通に太陽も出ていたので傘なんて持っていなかった僕は、突然の雷雨に為す術もなく、頭の先から足下まで一瞬のうちにずぶ濡れになってしまった。
どうにか高架下まで辿り着いた頃には、髪の毛も学ランも水を吸って重くなり水滴が滴り落ちていた。
ダダ下がりのテンションで思わず悪態をつきながら、僕は手持ちのタオルでできる限り水分を吸い取ろうと鞄を漁り始めた。
「タオルタオルっと……ん?」
がさごそとタオルを探していると、耳に水を切る音が聞こえたと同時に、目の前が人影で少し暗くなった。
どうやら僕と同じく突然の雷雨に襲われた人が高架下まで逃げ込んできたらしい。
別段気になったわけではないが、急に人が現れると反射でそっちを見てしまうのが人間というものだ。
という事で、僕はタオルを探す手を止めてふと顔を上げた。
「あうぅ……」
そこにいたのは、雨に濡れて寒そうにぶるぶると震えている、一人の小柄な女性だった。
着ている制服はうちの高校のもので、襟に付いているピンバッジの色からして一つ上の学年だろう。名札を見たところ、どうやら国母先輩というらしい。
全身、特に手足が白くなっており、とても寒そうだ。髪の毛は燃えるような赤色なので余計にそう感じた。
というか身体が冷え過ぎたのか歯をガチガチと慣らしている。若干涙すら浮かべているみたいで、どちらかといえば怯えているような様子だ。
「えっと……大丈夫ですか……ん?」
あまりにも寒そうにして、そして怯えた様子なので思わず声を掛けた時、彼女の頭の上に付いているものに目が行った。
彼女の頭の上には、丸くてふわふわとした物が付いていた。例えるならそう、ネズミの耳だ。
手足が異様に白いのも、よく見たら白い毛皮だ。それに、尾てい骨の辺りからは細長い尻尾も生えていた。
「……ラージマウス……いや……」
ネズミの特徴を持つ国母先輩は人間ではない。
おそらくこの世界に、特にこの国のこの街に沢山いる魔物娘と呼ばれる存在だろう。
その魔物娘の中でもネズミの特徴を持つ種族といえば『ラージマウス』や『ドーマウス』がいる。実際、同じクラスには国母閨(ねや)というドーマウスの女子がいるし、国母先輩は名字的におそらく彼女の姉なのでドーマウスなのかと思った。
だが、白くなった毛、何かに怯えた様子、そして別に眠たそうにしていない事から、また別の種族だと僕は考えた。
国母家はこの街の3大屋敷に住む家庭の一つで、エキドナの母を持つ大家族だ。その一家はほぼ全員別種族なので、同級生の国母さんと微妙に違うのもうなずける。
「ひねz」
ガラガラピッシャーン!!
「おっと」
「ひああっ!?」
ネズミはネズミでもあの種族かなと思い口を開こうとしたところで、特大の雷が近くに落ちた。
大きな音と、空気が震える感覚にビックリし、言おうとした言葉を思わず止めてしまった。
だが、目の前の彼女の驚きはそれ以上だったようで、尻尾をピンと張って跳び上がった。
「あわわわわ……」
「だ、大丈夫ですか?」
どうやら国母先輩は雷鳴に怯えていたようだ。大きく飛びあがったと思ったら、耳を伏せて小さく縮こまって震え始めた。
「か、雷こわ……」
ガラガラドゴォォォン!!
「びゃあああああっ!?」
「うわっ!?」
更に追い打ちを掛けるように、より近くに落ちた雷。振動で思わず仰け反りそうになる程だ。
これには国母先輩も我慢が出来なかったようで、大声で叫びながら大粒の涙をこぼし、なんと僕の胸元に抱きついてきてそのままガクブルと縮こまってしまった。
「うえええ雷怖いよぉぉ……」
「あ、あの……」
抱きつかれた事そのものも困った事だが、何よりも全身ずぶ濡れな為、彼女の下着が透けて見えてしまっているのだ。
特に彼女はネズミの魔物にしてはそこそこ大きい胸と、それを覆うピンクのブラが透けているので目のやり場に困る。
そしてその柔らかな胸が身体に押し付けられているのはそれ以上に困る。魔物娘はそういうのに敏感らしいので意識しないようにするのはもの凄く大変だ。
「ううぅぅ……」
ゴロゴロ……ドオォォンッ!!
「ぴえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
雷が落ちろ毎に泣き叫びギュッと抱きついてくる国母先輩。
「お、落ち付いて下さい!」
僕は何を思ったのか、彼女を落ち着かせるために、彼女の頭を撫で始めた。
もちろん直にではなく、彼女の頭の水分を拭うためにタオル越しにである。
「うぐっぴええええええっ!!」
それでも落ち付く事はなく、ただ泣き叫び続ける先輩に僕は、為す術もなく頭をごしごしとするだけであった……
…………
………
……
…
「……」
「あのー、もう大丈夫だと思いますよ?」
しばらくそのままでいたら、雷鳴はいつしか鳴り止み、雨も止んで雲の隙間から星空と三日月が顔を覗かせていた。
身体の震えは止まったものの、未だに僕の胸元に顔を埋めている彼女。
なんとなくタオルを掴んだ手を動かしたまま、僕は国母先輩に声を掛けた。
「あの……もしもし?」
「……」
「聞こえてますかー?」
「……」
だが、彼女の反応はない。
指が当たる度に耳をピクピクと動かしているので気絶まではしていないと思うが、何故だか先程から一言も喋らないのだ。
「ちょっと失礼しますねー」
「うわっ!?」
このままでは埒が明かないと思い、失礼だと思いながらも無理矢理身体から引き剥がした。
「あ、あのー……」
「……」
引き剥がして、正面から見た彼女の顔は……まるで燃えているかのように真っ赤であった。
髪の毛や耳も真っ赤ではあるが、それ以上に赤くなっている顔。
まだ目に涙を浮かべながら、今度は恥ずかしさのあまりプルプルと震えていたのだ。
「もう雨も止みましたし、帰りませんか?」
「……」
「その、もう夜ですし、お腹も空いてきましたし……」
「……」
ちょっと可愛いなと思いつつも、どうにかこの場をなんとかしようと一生懸命言葉を搾り出す。
もちろんこんな経験のない僕は、気の利いた言葉など出てこない。それでも黙っているのはキツイので言葉を紡ぐ。
そして……
「な、なんなら送って行っても……」
「す、すまなかった……それじゃあ……」
「あ……」
ようやく言葉を口にしたと思ったら、もの凄い駆け足で高架下から出て闇夜に消えてしまった。
しかも、何を思ったのか僕のタオルを掻っ攫って、それを頭から被って顔を隠しながらだ。
「……」
あっという間の出来事だったので、何も反応できずにその場で固まったままの僕。
「……まあいいや。来週国母さんを通して返してもらおう……」
国母なんて名字はこの街には超有名な1軒しかない。なのでどう考えても彼女は同級生の国保さんの姉だろう。
タオルを返してもらうために、そしてもうちょっとお話したいと思う気持ちを解消するためにも、来週その国保さんを通して紹介してもらおうかなと考えながら、僕は自分の家へと歩き始めたのであった。
……………………
「あの、国保さん」
「むにゃ……なあに吉田君?」
「いや、僕水根なんだけど……」
そして週明け、月曜日の昼休み。
僕は気持ちよさそうに昼寝をしている、同じクラスの国母さんに声を掛けた。
「ねえ、国母さんのお姉さんにさ、1歳差で火鼠の人っている?」
「ぐぅ……ひな姉の事?」
「あー、名前まではわからないけど……いるんだね」
「うん」
ドーマウスらしく、寝たまま受け答えをする国母さん。
やはり一つ年上の火鼠の姉がいるらしい。おそらく週末にあった彼女で間違いないだろう。
「あのさ、そのお姉さんらしき人にタオル持って行かれちゃったから返してほしいと頼みに行きたいんだけど……」
「あー……むにゃ……ひな姉が誰かからパクッてきたあのタオル、水根君のだったんだねぇ……」
「あーうん。今ので確信が持てたよ。今すぐ返してほしいってわけじゃないけど、とりあえず話を通しておきたいからお姉さんに合わせてくれないかな?」
「いーよぉ……むにゃぁ……」
という事で、昼寝しているところで悪いが国母さんに頼んでお姉さんの所まで案内してもらった。
快く引き受け、ふらふらとぼとぼと歩く国母さんに付いて行く。
「むにゅ……ひな姉……」
「うおっ!? なんだ閨か……いきなりどうした?」
そして、2年の教室付近の廊下を歩いていた、燃え盛る炎のような赤い毛皮を身に纏ったネズミ型の魔物娘を見つけ、圧し掛かって呼びとめた。
「ひな姉にお客さ〜ん……すやあ……」
「客? あ……」
「あ、どうも」
振り向いたひな姉という人物は、あの時と違い釣り目でキリッと力強い表情をしており、いかにも武術を嗜んでいますと言わんばかりのしなやかな体勢だった。また、手足の毛皮も白くはなく、炎のように揺らめいて……というか、そこまで暑さを感じないものの炎そのものであった。
一瞬別人なんじゃと思ったが、その赤い髪と丸い耳はまさに記憶の中の彼女のそれと一致していたし、それに僕の方を見て目を丸くしているところからして当人なのだろう。
「き、君は先週末の……」
「はい。ではやはり国母さんのお姉さんでしたか」
「あ、ああ……そのなんだ、タオルの件は済まなかった。洗って家に置いてあるから明日閨に持って行ってもらうよ」
「あ、ちょっと……」
僕の姿を見た国母先輩は、先週末の出来事を思い出して恥ずかしくなったのか顔を真っ赤に染めながら早口でタオルの事を謝ってきた後、そそくさとその場を立ち去ろうとした。
「ひな姉逃げちゃダメだよ〜」
「のわっ!? は、離せ閨!」
「あったかぁい……ぐぅ……」
だが、彼女の身体に圧し掛かっていた国母さんが、振り落とされんとしたのかガシッと腰を掴んで動きを止めてしまった。
火鼠は武術に長けた者が多い種族だし、彼女もそれなりに力はあるはずだ。しかし、国母さんの執念が強いのか、一向に離れる気配はない。
「あーもう、こうなると当分動かなくなるからなぁ……なあ君」
「えっあ、はい」
「重ね重ね済まないが、閨の座席を教えてくれないか? こうなってしまうと妹は座らせるまで離れようとしないからな」
「あ、そうなんですか。わかりましたでは……」
しばらくは引き剥がそうとしていたのだが、全然離れない国母さんの寝顔を見て諦めたみたいだ。
しばらく悩んだ後、意を決したかのように表情を固め、僕に向かってそう頼み事をしてきた。
もちろん同じクラスだし、国母さんの座席も知っているので案内する事にした。
「えっと……ひな先輩?」
「国母雛香(こくぼひなか)だ。姉妹達からはひなと呼ばれているがな。君は?」
「あ、僕は水根秀佳(みずねひでよし)です」
ぐっすり寝ている国母さんを尻目に、僕は雛香先輩と互いに自己紹介をした。
「なんというか、この前と雰囲気が違いますね。あんなに雷に怯えてたのに今は凄くキリッとしているというか……まあ、火鼠だからだと思いますが」
「ぐ……まあ火鼠について知っているのならば隠す必要はないか……」
そして、そのまま少しの間会話を続けた。
「どうもずぶ濡れになると弱気になってしまってな……普段は平気なのだが、あの状態だと雷すら恐ろしく感じてしまう……他の人には絶対に言うなよ?」
「あ、はい。大丈夫です。なのでその拳は仕舞って下さい」
「よし」
今の強気な彼女は、この前の雷鳴に怯えて泣き叫んでいた人とは同一人物とは思えない程だった。
まあ、火鼠は本来の臆病な性格を毛皮の炎で上げられている闘争心で隠している魔物だと本で読んだ記憶があるので、きっと雛香先輩もそうなのだろう。そうでなければぴえええと泣いていた人が握り拳をこちらに見せながらそんな事は言ってこないだろう。
「ところで水根君」
「なんです?」
「水根君は何か格闘技をやっていたりするのか?」
「いえ、格闘技はやってません」
「そうか……」
そんな闘争心が強い火鼠だからか、僕に格闘技をやっているか聞いてきた。
だが僕は格闘技はやっていない。そう伝えると少しだけがっかりした表情を見せた。
「その……あの時気付いたのだが、結構身体つきがガッシリしていたからな。武術の心得でもあるのかと思ったよ」
「まあ、一応運動部ですからね。身体は鍛えてます。ちなみに水泳部です」
「す、水え……水根君は凄いな……」
どうやら意外と身体がしっかりとしているから格闘技をしているのかもと思っていたらしい。
たしかに、自分で言うのもなんだが程良く筋肉は付いていると思う。
格闘技はしていないが、僕は水泳部で頑張っている。だから身体も鍛えている。
「そこまで凄くはないですよ。一応部の中では期待されてますが、部長とかと比べたらまだまだですしね。マーメイドみたいに水棲系の魔物にもまだ僅かに勝てません」
「1年生でそこと比較できている時点で充分だと思うが……いや、私は泳げないものでな……水は苦手だ」
「あー……まあ仕方ないですよ」
「まあな。だから、私にとっては水根君は凄い」
「そ、そうですか……えへへ……」
たしかに、大量の水が弱点である火鼠である雛香先輩からしたら水泳は天敵だろう。
そんな人物からしたら水泳部の僕は凄いのかもしれない。なんというか、凄いと言われて結構嬉しかった。
「雛香先輩は何部ですか?」
「私は武術部だ。武術と言っても総合格闘技だがな。こう見えても主将を務めている」
「へぇ〜。武術部というのはわりと想像できましたが、主将とは……じゃあお強いんですね」
「まあな。とはいえ、まだまだ上には上がいるがな」
そして先輩は武術部らしい。
まあ、そういった部活だろうとは思っていたが、まさか主将を務めているとまでは思わなかった。
「おっと、教室に着いたみたいだな」
「あ、ですね。国母さんは左から3列目の一番後ろの席です」
「あそこか。ありがとう。ほら閨、自分の席に着いたぞ」
「むぅ……ぽかぽかがぁ……」
そうこうしているうちに、教室まで辿り着いてしまった。
つまり、このお話タイムも終わりである。
「それじゃあ水根君。タオルは明日閨伝いに返すよ」
「あ、あの、その事なんですが、やっぱり直接返してもらえませんか? 今日部活が終わった後家まで取りに行くんで……」
「ん? まあそれならそれで良いが……わかった。それではまた放課後に」
「はい! 部活後、昇降口で待ってます!」
まだお話し足りないと思った僕は、雛香先輩にそう告げた。
これならばまた取りに行った時にお話できる。そう考えて、直接返してくれと頼んでみたのである。
「……」
「むにゃあ……水根君……」
「ん?」
「むにゃむにゃ……ひな姉に惚れたね?」
了承し、雛香先輩が去った後、寝惚け口調で国母さんにそう指摘された僕。
「うえっ!? え、えっと……」
「ふっふっふ……私にはわかるよ……すぴぃ……」
そう、国母さんが言った通り、僕は雛香先輩に惚れた。
元々キリッとした女性は好きだし、何よりそんな人が見せた弱い部分が可愛らしくてもうメロメロだ。できればお付き合いしたい。
「脈は多分あるよ……その先は水根君次第だけどね……」
「え?」
「ひな姉に勝負を仕掛けて勝てばもしかしたら……ぐぅ……」
「勝負に勝てば……か……」
妹の国母さんがそんな事を言うので、つい期待してしまう。
とはいえ勝負に勝てと言われると……難しい気がする。
そこそこ筋肉が付いているとはいえ、武術はおろか格闘技なんてやった事はない。雨の日でもなければ勝てるとは到底思えない。
キーン コーン カーン コーン
「あ、昼休みも終わりか」
「すぴー」
と、考えていたら昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。授業は真面目に受けないと付いていけないので、考えていられる時間も終わりだ。
本格的に寝始めた国母さんをよそに、僕は授業の準備をする為に自分の席へと戻ったのであった。
……………………
「ふぅ……あ、雛香先輩!」
「やあ。本当に待っていたとは思わなかったよ」
「こっちから約束しましたからね。流石に破りませんよ」
部活も終わり、帰りの時間。僕は約束通り、昇降口で雛香先輩がやってくるのを待っていた。
「おや、髪の毛が濡れているな」
「そりゃあ僕も部活終わりですし」
「あれ? こんな寒い季節でも泳いでいるのか?」
「うちの学校のプールは屋内ですし水温調整もできるので年中泳げますよ」
「ああ、そういえばそうか。水泳の授業は避けていたから忘れていたよ」
現れた雛香先輩と共に、夜道を歩き始めた僕。
いつの間にやら空には分厚い雲が掛かっているので、ちょっと足を速めたほうが良さそうだ。
ふと先輩の方を見ると、部活終わりな事もあってかその額はうっすらと汗に濡れていた。
それとも、夜道を明るく照らすその手足や尻尾の炎のせいだろうか。
「先輩はやっぱり水が苦手なんですね」
「そりゃあまあ……水滴程度ならこの炎で蒸発させられるが、水の塊なんぞに突っ込んだら流石に消えてしまう」
「やっぱそれ炎なんですね。ちょっと触ってみても良いですか?」
「ああいいぞ。姉妹達、特に閨には冬はカイロ扱いされる程度の温かさだから火傷はしないと思う」
「あ、本当だ。なんだか温かいや」
しかし、そんな炎からはそこまで熱さを感じられなかった。
なので、先輩にお願いをして炎を触らせてもらう事にした。
たしかに先輩の言う通り、火傷するような熱さではなかった。ぽかぽかしているという言葉が最適だろう。
だが、そうして炎を触っている手よりも、触っているうちに僕の中でアツく燃え上がる物を感じた。
メラメラと燃えあがる、とある想いを。
「そういえば先輩は武術部の主将でしたよね?」
「ああそうだ。どうかしたのか?」
「いや、じゃあ先輩は部活の中では一番強いのかなと思いまして」
「ああ。男子も含め全員と戦い全勝したからそうだろう。小柄だからと嘗めて掛かってきた奴も中には居たが、その後きちんと本気で挑んできた時も勝ったし、うちの部活では最強だ。今日だって全戦全勝だしね」
「ほお……やっぱりお強いんですね」
「まあな!」
やはり先輩はうちの学校の、少なくとも武術部の中では最強みたいだ。
心なしか炎を普段より強く燃え上がらせながらえへんと誇らしげにする先輩。そのドヤ顔ももの凄く可愛く、余計に惚れてしまいそうだ。
「と言っても、やっぱり全国には猛者も集う。私より強い火鼠や人虎も多いから、当面の目標はそいつらを越える事だけどね」
「そうですか……ねえ雛香先輩」
「ん、どうした?」
だからこそ僕は、そんなに強い先輩に……
「僕と……一勝負して下さい!」
「……は?」
無謀な挑戦を叩き付けた。
「いきなり何を言い出すのかと思えば……言っておくが、流石に水泳部の人間に負けるような雑魚ではないよ。それとも水泳勝負か?」
「いえ、あなたと直接、格闘勝負をしたいのです!」
もちろんそれは、僕が絶対有利な勝負ではなく、正真正銘彼女との真っ向勝負だ。
「人の話を聞いていたか? 水根君では私に勝てるとは到底思えないぞ?」
「わかっています。ですが……」
もちろん、彼女に勝てない事ぐらい十分承知している。
「僕は……先輩の事が好きになってしまいました」
「……は?」
「ですから先輩に勝ってお付き合いさせて欲しいのです!」
でも、僕は先輩の事を好きになってしまったのだ。
火鼠は戦いに生きる魔物。あまり恋愛沙汰には興味はないと聞いた事がある。
愛を示すには、戦って勝つしかないのだ。
「そ、そのなんだ……私は別にそういった事は興味はない。だが、水根君が私に好意を持ってくれている事はわかった」
「はい。大好きです! ほぼ一目惚れですが、先輩に惚れました! お付き合いしたいです! だから勝負して下さい!」
「そこまで言うのであれば勝負してやらんでもない。だが……水泳部でしかない君と今すぐ勝負する気は起きない」
「そ、そんなぁ……」
だが、雛香先輩のほうは全く乗り気ではなさそうだ。
やはり、僕の事は眼中にないのだろうか。
「だから、今日から私が鍛えてやる」
「え?」
「私が戦いたいと思えるような男になるまで鍛えてやると言ったのだ。嫌か?」
「い、いえ、嫌ではないです」
とか思っていたら、先輩直々に鍛えてやると言われた。
たしかに、超えたい相手から教わるのが一番早い気はするが……それはありなのだろうか。
「でも、良いのですか?」
「別にいいさ。そこまで好いてくれている事への、私なりの答えだ。ただし、別に転部しろとか言うわけじゃなく、きちんと水泳も続けた上でだ」
「はい、わかりました。それではよろしくお願いします!」
まあ、本人が良いと言うのだから良いのだろう。
出された条件も、元々そのつもりであった水泳部として水泳を続ける事だ。特に困る事はない。
ならば願ったり叶ったりだ。という事で、僕は雛香先輩に師事する事にした。
「では、毎週土日、互いに部活がない時間に我が家に来てくれ。家の位置は……わかるよな?」
「一応は……国母家はこの街に住む人間には有名ですからね。国母家、八木家、垢院家の3大屋敷って感じで」
「ま、まあね……その中で我が家は残りと違って普通の一般家庭だから並べられると違和感を感じるが……」
「でも正直な話、魔物屋敷じゃないですか。下手すれば1年に一人は増えてますよね?」
「まあ……たまに産まれない時もあるが、大体毎年一人は妹が増えてはいるな……上も結構な数がいるし……」
平日は互いに学業と部活で忙しいので、基本は土日の週2日、先輩の家で特訓をする事になった。
「ってうわっ!? 雨が降ってきた!」
「急ぎましょう! また雷になっても大変ですからね!」
「言われなくてもそのつもりだ!」
予想通り雨が降ってきたので、先輩の炎が消えないうちに大急ぎで国母家へと走り出す。
これからの特訓の日々を、そして、その先にある未来を夢見ながら、僕は先輩と共に走ったのであった……
……………………
「はっ、やあっ!」
それから、僕の特訓の日々は始まった。
「脇が甘いぞ!」
「うぎゃっ!」
基礎体力は水泳のおかげでできているとはいえ、武術は全く齧りすらした事がなかった僕は、始めの頃は満足な動き一つすらできず、よく先輩にどつかれていた。
「やっ、えやあっ!!」
「おっ、中々良い動きになってきたじゃないか!」
「ありがとうございますっ! はあっ!」
しかし、高校を卒業し、大学生になった頃には、ある程度本気を出した先輩とも渡り合えるようになるぐらい動けるようになった。
「先輩! 今日も指導を……あれ? 国母さん?」
「むにゃ……今朝ひな姉足を滑らせて池ポチャしたから今日は自主練だってさ〜……」
「そ、それはそれで様子を見に行きたいんだけど……」
「それはひな姉に勝ってからのお楽しみ〜……すやぁ……」
たまにハプニングもあって会えなかった事もあったけど、毎週先輩に会って、一緒に特訓をした。
「先輩! 今日先輩に1回でも拳を入れられたらこの後一緒に映画を見に行ってもらえませんか?」
「ふん……そういう浮かれた事を考えているうちは私に勝てないぞ!」
「うわっと!?」
その間も、僕の先輩を好きだという気持ちは薄れる事はなかった。
いや、薄れるどころか、日が経つにつれ想いも強くなっていった。
「ふっ、はあっ!!」
「……随分動きも良くなった。これなら……」
そして……あの雨の日から、タオルで先輩の頭をゴシゴシした日から10年もの歳月が流れたある日の事。
「ふぅ……」
「水根君」
「なんですか雛香先輩?」
「……明日、私と勝負してくれないか?」
「っ!?」
特訓の終わりの時間になり、一息ついていたところで、先輩の方から勝負を挑まれた。
「という事はいよいよ……」
「ああ。私が全力で戦いたいと思う程、君は強くなった。だから明日、私と真剣勝負をしてくれないか?」
「もちろんです!」
ここまで随分長い時間がかかってしまったが……とうとう僕は、彼女と戦うにふさわしい力を身に付ける事ができた。
「本当は今すぐにでも戦いたいが、今日の訓練での疲れもあるからな……明日、全快の状態で、ここで戦おう」
「はいっ!」
でもここで終わりじゃない。僕はこの戦いに勝たなければならない。
先輩に勝って、興味を持ってもらい、相応しい男として恋人になるのが最終目標だ。
だから慢心せず、ベストを尽くす為に、出来る限りの事をしてきた。
そして、次の日……
「さて水根君……覚悟は良いかな?」
「先輩こそ……!!」
とうとうやってきた戦いの日。国母邸、道場内。
先輩の炎の効果だろうか、互いに燃え盛る闘志。逃げるなんて選択肢は、もちろんない。
国母さんを始め、彼女の両親など複数のギャラリーもいるが、それらは背景と同化し目に入らない。僕も先輩も、互いしか見えていない。
「ごく……」
「……」
自分の心臓の鼓動と呼吸音以外、何も聞こえない。
場に緊張感が走る。
そして……
「試合……始め!!」
「はああっ!!」
「やあっ!」
審判をやってくれているお姉さんの合図と同時に、僕と先輩は足に力を入れ、ほぼ同時に相手へと跳びかかった。
先輩は素早く腹部に蹴りを入れてきたので、片手で受け止めて上方向に流し転倒させようとした。
しかし先輩は手を地面に着き、バク転するようにそのまま僕と距離を置き、隙を見せずにそのまま距離を置いた。
先輩は小柄な体を活かして相手の懐に入っての打撃や投げ技が得意だ。懐に入られないように気を付けつつ、僕は先輩に向かって踏み込み胸元へストレートパンチを仕掛けた。
「甘い!」
「ぐっ」
しかし、先輩には簡単に見切られた。それどころか同じように上に流されてしまい、バランスを崩す。
その隙を見逃す先輩ではなく、胴に回し蹴りを仕掛けてきた。
身体を捻り蹴りは何とかかわすが、ただでさえ崩れていたバランスが大きく崩れ、腕から地面に倒れてしまう。
「隙あり!」
そんな僕に向かって、肘を突き出しながら跳び付いてきた先輩。
このままでは肘打ちを食らってしまう。そう考えた僕は瞬時に横へ転がりそれをかわしつつ起きあがり、逆に落ちてくる先輩に向けて蹴りあげる。
ただ、この動きも先輩にとっては想定内だったようで、身を捻りもう一方の腕でその足に手を置き、蹴りの力を利用してそのまま後ろに跳び退いた。
そして正面を向く。試合の始めと同じ構図だった。
「ふっ……すぐ勝負が付いてしまうのかと思ったぞ」
「まさか。先輩に鍛えられておいてそんな期待外れな事は起きませんよ」
「ほう。言うじゃないか。ならこれはどうだ!」
短い会話を交わした後、再び動き始めた先輩。
半歩後ろに下がったかと思えば、バネの様に踏み切ってこちらに跳んできて、拳を振り下ろしてきた。
だが、その動きは今までの訓練の中で何度も見てきた物だ。これはどうだと息巻いてきたからもっと凄いものだと思い身構えていた分少し拍子抜けだ。
スッと後ろへ下がり、身体に向けて振り下ろされる拳をかわしたところでカウンターとしてこちらの左拳を腹に喰らわせようと構えた。
「……ふ」
「なっ!?」
しかし、先輩の狙いはそれではなかったようだ。なんと拳は身体ではなく顔の近くに飛んできたのだ。
しかし、顔への攻撃は反則なのでそのまま喰らわせるはずがない。そう思い少し油断してしまった。
その瞬間、僕の目の前が真っ赤に染まった。
それは……先輩の腕の炎だった。
「くっ!?」
「隙あり!」
「しまっ……!!」
どうやら炎を目くらましとして使ったみたいだ。この炎は先輩の身体の一部、というか体毛だし、卑怯でも反則でもない。
その事に気付けなかった僕はまともに炎を見てしまい、一瞬目が炎の光に包まれて何も見えなくなる。
その隙に、警戒していた懐に入られてしまい……胸元に強い衝撃が走る。
「ぐっ!」
「はああっ!!」
先輩は小柄とはいえ、その拳は決して軽いわけではない。一発一発が重く、まるでブロック塀でも投げつけられたかのように叩きつけられる。
その重い拳を無防備な胸元に打ちつけられ、衝撃で呼吸が止まりそうになる。痛みも相当なもので、動きのほうは確実に止まってしまう。
そこにすかさず飛んできた先輩の膝蹴り。これが腹部に決まれば、おそらく僕はダウンして負けてしまう。
そうなれば、今日ここで先輩とお付き合いする事は叶わなくなってしまう。
「うらあああっ!!」
「なっ!?」
それだけは何としても避けたい僕は、ほぼ反射的に身体を動かした。
懐に入っていた先輩の方を掴み、力強く押しその反動で身体を仰け反り膝蹴りをかわした。
そして、力強く押された先輩は、流石に僕の動きは予測できなかったようで、驚いた表情を浮かべながら押された反動と膝蹴りの動きの相乗効果によって仰向けに倒れていく。
「おらああっ!!」
「うわっ!?」
もちろん、それをただ見ているだけなわけもなく、僕は倒れゆく先輩の上に覆い被さり、腕を彼女の脇の下に通す。
そして、首の横からもう一方の腕を身体の下に通し自分の両手をそこで握って先輩の頸動脈を圧迫し、肩で喉を抑えつける。
そう、倒れ込んだ先輩に僕は絞め技を仕掛けたのだ。
苦しい思いをさせてしまうが、彼女の身体に打撃による痣を作らずに済むので、始めから望んでいた絞め技の流れに持って来れた今、絶対成功させたい。
「ぐっ、がっ」
魔物娘なので基本的な力は普通の女子はもちろん、僕よりも強い先輩。
だが、体重は僕のほうがずっと重い。上から体重を乗せ肩を押し付けている僕を弾く事は簡単にはできない。
だが、先輩もただやられているだけではない。僕の下で暴れ、振りほどこうとじたばたしている。
抜けだされたらまた次のチャンスが来るとは限らない。絶対にここで決めたい僕は、必死に体重を掛けて抜けだされないようにしっかりと締め付ける。
「ぐぅ……ぬぅ……」
僕の身体を蹴ったり殴ったりしようとすれば、そうさせない為に身体を少し動かして足や腕を抑えつける。
暴れて抜けだそうとしたら、体重を掛けて押さえつける事に集中する。
そうこうしているうちに先輩の動きが段々と鈍くなっていき、そして……
「むぅ……」
「そこまで!!」
炎が灯る尻尾で力無く腰をぺちぺちと叩く先輩。どうやら諦めてギブアップのようだ。
審判をしていたお姉さんもそう判断をしたようで、試合終了のコールを出した。
そう……僕の勝利だ。僕は先輩に勝ったのだ。
「ぷはぁ……はぁ……まさか絞め技で来るとは……負けたよ水根君……」
「雛香先輩……」
まだ先輩の上に乗ったままだが、とりあえず首絞めを緩めて呼吸をできるようにする。
大きく息を吸って呼吸を落ち着かせた先輩は、自身が負けた事を悔しそうに宣言した。
そう、これで僕は完璧に先輩に勝利した。
つまり僕は、先輩の恋人になれる権利を得たのだ。
「先輩……僕は先輩の事が大好きです。恋人になって……いえ、僕と結婚して下さい!」
「ああ、恋人に……け、結婚!?」
だから僕は、そのままの体勢で雛香先輩に告白した。恋人に……いや、結婚してくれと。
もう既に僕は26歳だ。そして先輩は27歳。結婚したっておかしくない年齢だ。
だからこそ僕は先輩に結婚してくれと告白したのだ。
「け、結婚はなんというか、は、早過ぎないか? い、いくらなんでもそれは……」
「良いじゃないですか。僕はこんなにも先輩の事が好きなんです。先輩を幸せにします。先輩の全てが欲しいのです!」
「す、全てって……っておい!? な、何をして……!?」
そう、先輩の全てが欲しい。その笑顔も可愛さも強さも身体も全てが欲しい。
この気持ちは燃え上がり、熱気球のように膨れ上がり、溢れだしてとまらない。
欲情として溢れだしたその熱に、僕は滾る想いを乗せながら、先輩の全てが欲しいと、その可愛らしくも主張している胸のふくらみに手を伸ばした。
「先輩……先輩!!」
「や、やめ……あっ」
先輩の胸はネズミの魔物にしては桃饅頭のような形の膨らみがある。
胸に触れる手のひらに伝わる張りのある弾力と仄かな熱。少し強く揉む度に、先輩の口からは可愛らしい声が漏れる。
恥ずかしいのか、10年前の泣きやんだ時のように真っ赤な顔を浮かべる先輩は、逃げ出そうとしているのか試合中のように暴れている。
しかし、その力は比べものにならない位弱く、そもそも僕に乗られているので抜けだせるわけがない。
「先輩、大好きです!!」
「わかった! 判ったから脱がせ……ひあっ!」
先輩の身体をもっと見たい……そう思った僕は、躊躇う事なく先輩の服を脱がした。
露わになる先輩のおっぱい。大きさは身体に合わせて小さいが、膨らみは見た目通りかなりのものだ。
「や、やめて……ひゃんっ」
柔らかな先輩の桃饅頭を、僕は舌で堪能する。先程まで戦っていて汗を掻いているからかほんのりしょっぱく、そして熱い。
やめてだのと口では拒絶しているが、舌先に当たる乳首は硬くしこりを持っていた。
本当は嬉しいのだろう。僕はそう思い尚も舐め続け、乳首を軽く噛む。
乳首や乳輪辺りを攻めると、普段のキリッとした低い声ではなく、初めて会った時のように高い声で鳴くので、余計に攻めたくなる。
「む、胸をしゃぶったり揉むのは止めろ……んぶぅ!?」
悦びの声をあげているにも拘らず、ずっと胸を弄るのはやめろと言い張る先輩。
そうか、胸ばかりじゃ物足りないのか。そう考えた僕は、先輩の唇を奪った。
先輩は知らないが、僕にとっては初めてのキスだ。だから知識にあるだけなので上手くはないが、先輩の舌に僕の舌を絡める。
押しとどめようと抵抗する先輩だが、やはりその力は弱い。歯茎や舌の裏など、口内をねっとりとしゃぶり、先輩を堪能する。
「はぁ……はぁ……」
酸素が不足してきたので、名残惜しいが唇を離す。互いの唾液が混ざったものが、唇同士で繋がっている。
荒く呼吸をする先輩の顔に、その透明な橋が落ちる。腕の炎は、ただの赤い毛にしか見えなくなるほど弱まっていた。
「はぁ……も、もうやめ……ひあっ!?」
「何言ってるんですか先輩……ここ、こんなに濡れてるじゃないですか」
「ち、ちが……ああっ」
少し涙を浮かべ、弱々しくも僕を睨みながらやめろと言う先輩。
だが、道着の下に穿いている下着は、筋に沿って濡れている。本当はしてほしくてたまらないのだろう。
「や、やだ……んんっ!」
先輩の腕を抑え、ピンク色のパンツを脱がす。パンツと股間との間に、透明な糸が引く。
パンツの下は、綺麗なピンク色の秘所が、軽く口を開けていた。
しかし、まだそこは弄らずに、僕は先輩の程良い筋肉がつきむちむちな太股に舌を這わせた。
ビクビクと震える先輩。どうやら拙い舌技で感じてくれているようだ。
「はぁ……先輩の……はぁ……おまんこ……」
「やめれ……ひゃあっ♪」
舌を這わせながらゆっくりと上へと進んでいき……先輩の秘所に触れる。
じわりと愛液を垂らすその割れ目を指で広げながら、舌を入れて絡め取る。
膣の入口は少しざらついている。そして、愛液は少し甘いように感じた。
「ぷあ……先輩……挿れますね……」
「お、大きい……じゃなくて、そういうのはまだ……」
「とか言っておきながら自分で広げてるじゃないですか。もう我慢できませんので挿れますね」
「ほ、本当にま……あああああっ!」
今までの前戯で先輩の秘所はもう男根を受け入れる準備ができていた。
それは僕自身も同じだ。もう、先輩の中に挿入できるほど硬く勃っていた。
だから僕はズボンを脱ぎ、下着も下ろして、その硬く反り勃った肉棒を取り出して、先輩の股間に当てた。
口ではまだだの待ってだの言っているが、先輩の手は股の前にあり、自身の大事な場所をくぱぁと広げている。
それは挿れてほしいという合図だと受け取った僕は、先輩の制止を無視し……その肉棒を、先輩の穴に突き刺した。
「ひぃうっ、ふあああああっ♪」
「先輩……気持ち良いです……!」
「あっあっ、おっきいのがあ……❤」
中に挿れた途端、鈴口にみっちりと絡み付いてきた膣肉。
鍛えられているからか締め付けもかなりのもので、僕の竿から子種汁を搾りだそうと締まる。
途中で処女膜らしいものを破った気がするが、特に血らしき物は出てこないし、それに先輩も痛がらずに気持ちよさそうにしているので、気にする事なく突き進む。
そして、根元まで突き進んだ瞬間……童貞だった僕は興奮も限界量を越え、先輩の中に射精してしまった。
「あぁああっ♪ アツい物が出てりゅぅ……❤」
ドクドクと、先輩の膣内に勢い良く精液を流し込む。
それでも変わらず……いや、それ以上に強く締め付けてくる膣肉。僕からその白濁液を搾り出そうと貪欲にうねる。
先輩の毛皮も、精液に染められているかのように白くなっていく。そこには燃え盛る炎の姿はなく、ふわふわとした毛皮が生えているだけだった。
「先輩……僕、まだ……」
「うん……もっとシてぇ……❤」
先輩の中に零す事なく精液を注ぎ終えた僕は、普段の自慰の時とは違い萎えきる事なく先輩の膣壁を犯し続けていた。
ずっと拒んでいた先輩も、中出しされてその気になったようで、もっとシテと短い脚を腰に回し、自らもっと深く突き刺さるように腰を押し付ける。
「うあ……」
「あ……んん……ひうっ❤」
先輩もその気になったところで、僕は正常位のままゆっくりと腰を動かし始めた。技術も何もない、ただの抽送運動だが、先輩も気持ちよさそうに喘ぐ。
相変わらずキツく締めるそれに、僕も思わず声を漏らす。先輩の膣が与える快感が、電気が流れるかのように僕の全身に駆け廻っていく。
抽送する度に、先程射精した精液と先輩の愛液が混じったドロドロの液が隙間から漏れ出し、先輩の小柄なお尻を穢す。
それがまた新たな興奮を生み出し、僕等をアツい行為に及ぼす。
「先輩……好きです! 大好きです!!」
「私もしゅきぃ……だいしゅきぃ……❤」
互いに揺すり合う腰、ぐちゃぐちゃという淫猥な音が道場中に響く。
どうやら周りの家族達も、相手がいればお互いに盛り上がっており、相手が居ない人も一部は残って僕等をオカズに自慰をしたり、互いに互いの性器を弄っているみたいだ。
とはいえ、僕等はお互いしかほとんど見えていないので、周りなど気にする事は出来なかった。
見えているのは、涎を垂らして恍惚とした、それでいて幸せそうな先輩の笑顔だけだった。
「ふぁぁあ❤ じゅっとしゅきだったのぉ❤ タオルでごしごししてくれたあの日からじゅっとぉぉぉっ❤」
「僕もです! 僕もです先輩!!」
「ずっと一緒に居てぇ、強くなってぇ、嬉しいのぉ❤ らいしゅきぃ❤」
ずっと僕の事が好きだったと告白する先輩。それがより心を高め、腰の動きを早くする。
僕もずっと大好きだった。それは互いにそうだった。もう、二度と先輩以外の女性なんて見れない。
「せ、先輩……僕、また射精す……!」
「きてぇ……水根君のせーえき、いっぱい注いでぇ……❤」
一度射精したと言うのに、またもや臨戦態勢に入ったペニス。それだけ気持ちは高鳴っているのだ。
気持ちだけでなく、きゅんきゅんと締め付けてくる先輩の膣肉が僕の射精を促す。奥にある子宮口に、注いでくれと言わんばかりに。
そこまでされて、我慢できる男はいない。
「はぅあっ❤ ふあああっ❤ イ、イク❤ イッちゃうぅ❤」
「う、うおおぉぉぉ……!!」
「い、イクううううぅぅうっ❤」
きゅうきゅうと、今まで以上に男根に絡み付き射精をねだる膣。先輩は達したようだ。
もちろんそんな攻めに耐えられる僕ではない。
先輩がイッたのとほぼ同じタイミングで、僕も達してしまった。
腰を脈打たせながら、熱い子種汁を先輩の子宮へと沢山注ぐ。先程よりも多く、先輩に僕の子供を孕ませようとするかのように。
「あひ、あは……あへぇ……❤」
絶頂に達し、ピクピクと震え、白目をむきながら気絶している先輩。
その表情に苦しさはなく、ただひたすら悦びに満ちていた。
先輩の炎はもう既に鎮火しきっている。だが、僕の劣情はその逆で、今まで以上に燃え上がっている。
「うひぃ……ふあっ❤」
まだ気絶している先輩に構う事なく、再び腰を振り始めた僕。
もっと深く、もっと愛し合うために、僕達は疲れて眠ってしまうまで身体を重ね合い続けたのであった……
……………………
ゴロゴロ……ピシャーンッ!!
ザアァァァァァァァ……
「うわっ!? いきなりの雷雨かよ!?」
残暑も終わり、瞬く間に秋も過ぎて肌寒さが目立ち始めた季節。
週末という休み前で少しテンションが上がった中での会社からの帰り道。突如季節外れの夕立に襲われた僕は、雨宿りをしようと大急ぎで雨の当たらない場所まで駆け始めた。
「あーもう、ずぶ濡れだよクソ……」
今日の天気は晴れだとテレビの予報は言っていたので傘なんて持っていなかった僕は、突然の雷雨に為す術もなく、頭の先から足下まで一瞬のうちにずぶ濡れになってしまった。
どうにか高架下まで辿り着いた頃には、髪の毛もスーツも水を吸って重くなり水滴が滴り落ちていた。いつもは手に纏っている炎だって消えてしまう程だ。
ダダ下がりのテンションで思わず悪態をつきながら、僕は十数年前から使い続けているタオルでできる限り水分を吸い取ろうと鞄を漁り始めた。
「タオルタオルっと……ん?」
がさごそとタオルを探していると、耳に水を切る音が聞こえたと同時に、目の前が人影で少し暗くなった。
どうやら僕と同じく突然の雷雨に襲われた人が高架下まで逃げ込んできたらしい。
なんとなくデジャビュを感じたので、もしやと思い僕はタオルを探す手を止めてふと顔を上げた。
「あうぅ……」
そこにいたのは、雨に濡れて寒そうにぶるぶると震えている、一人の小柄な女性だった。
燃えるような赤い髪を持ち、手足が白い毛皮に覆われており、ネズミの丸い耳が頭から、ネズミの細長い尻尾が腰から生えている、僕の愛しの妻だった。
手足の毛皮がいつもの炎ではなく白くなっているのでとても寒そうだ。髪の毛は燃えるような赤色のままなので余計にそう感じた。
というか身体が冷え過ぎたのか歯をガチガチと慣らしている。若干涙すら浮かべているみたいで、どちらかといえば怯えているような様子だ。
「大丈……」
ガラガラピッシャーン!!
「おっと」
「ひああっ!?」
大丈夫かと声を掛けようとしたら、特大の雷が近くに落ちた。
大きな音と、空気が震える感覚にビックリし、言おうとした言葉を思わず止めてしまった。
だが、目の前の妻の驚きはそれ以上だったようで、尻尾をピンと張って跳び上がり、そのまま僕に抱き付いてきた。
「うえええひで君……雷怖いよぉぉ……」
「ははは……ひなは相変わらず雷は苦手なんだね……」
昔と同じように抱き付いてきたひな。昔と違うのは、僕だとわかって安心するために抱き付いている事だろう。
おそらく、胸のふくらみを僕の身体に押し付けているのもわざとだ。彼女は水にぬれて臆病な性格が前に出てくると、僕の肌の温もりをいつも求めてくるのだから。
ゴロゴロ……ドオォォンッ!!
「ぴえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「ほら落ち着いて。もうちょっとしたら雷もいなくなるからね」
あの時と同じタオルで、濡れたひなの頭を乾かそうとごしごしと拭く。
お義母さんの魔術によって痛む事なく現存しているこのタオルは、僕とひなを引き合わせてくれた大切な宝物だ。いつも大事に持ち歩いており、こういった事になったら使えるようにしている。
「うっ……ぐす……」
「落ち付いたかい?」
「うん……ありがとうひで君……」
やがて雷は遠くへ去り、雨も弱まってきた。
まだまだひなは弱ったままだが、一応落ち付いてきたようでまともに返事ができるようになってきた。
「さあ、雨も止んできたし、家に帰って二人でお風呂で温まろう」
「うん……大好きだよひで君……❤」
「僕もだよひな」
まだぽつぽつとしているが、ここまで濡れていてはもう気にならない。
僕達は二人で高架下から脱出し、ゆっくりと家に向かって歩き始めた。
「お風呂で……子供も作ろうな❤」
「もちろんそのつもりだよ。ひながその気にさせたわけだしね」
「えへへ……」
タオルから始まった僕とひなの恋は、これからもずっと続いて行く。
時に戦い合い、時に愛し合いながら、僕達の時間は続いて行くのであった。
14/11/14 23:22更新 / マイクロミー