聖なる夜のエトセトラ
今日はクリスマス。
この日はどこぞの偉い神様の誕生日を祝う日だけど、この街の人達にはそんな事はあまり関係無く、ただ単にお祭り行事の一つである、そんな楽しい日。
今にも雪が降り始めそうな寒空の下、光り輝くイルミネーションが飾られた街路からひっそりとした路地裏まで、街の中では多くの人や人ならざる者達……魔物娘達で賑わっていた。
愛を育む者や一人寂しくその人達を羨ましそうに見ている者、また家族で楽しそうに食事している者にここぞとばかりに商売してる者など、本当に様々な者達が色とりどりな様子を見せている。
そんな彼ら彼女らが今日という日をどのように過ごしているか、少し覗いてみましょう……
=======[Case.1]=======
「うぅ……身体が冷えて思うように動かない……」
「おいおい……大丈夫なのか?」
まず目に入ったのは、居住区をゆっくりと歩く学ランを着た男子と、一見毛玉と間違えそうな程セーターやニット帽など毛糸で作られた衣服を着込んでいる下半身が蛇の女子……つまりラミアの二人組。
仲睦まじく歩く様子から、おそらくカップルでしょう。
クリスマスだというのに補講があってデートはできなかったみたいですが……こうして二人で仲良く歩いていますし、さほど問題はなさそうです。
「まあなんか雪でも降ってきそうな天気だからな……身体は本当に大丈夫なのか?」
「なんか眠い……」
「それ本気でマズくないか? 冬眠しかかってるんじゃないよな?」
「流石にそれは……ないとは言い切れないけど……」
「言い切れないんだ……」
ラミアは蛇の特徴を持つので、冬は、特に今日みたいに気温がもの凄く低い日は身体が冷えて動きも鈍くなってしまうみたい。
かなり厚着をしているのにも関わらず、身体を震わせ眠気を堪えながら道を這っていますね。
「ほら、もう少しで家に着くからさ、それまで頑張ろう」
「うん……」
彼氏も隣で彼女を応援しているようですが、それだけで暖かくなるほど単純なものではありません。
亀の方が速いんじゃないかというほどゆっくりとした速度で進むラミアは、今にも目を瞑ってしまいそうです。
「ほら、いざとなったら引っ張ってやるからさ」
「えー、できればおぶって……あったかい……」
「流石にラミアを持ち上げられるほどの力はないからこれで我慢してくれ」
「仕方ないなぁ……」
見兼ねた彼氏は、彼女の手を握ってあげました。
おぶってほしいと言った彼女は少し不満そうだけど、握られた手のひらから感じる温もりに笑顔が浮かんでいます。
微笑ましくもあり、羨ましくもありますね。
「ねえ、いっそ巻きついても……」
「歩けなくなるから家に着いてからな」
「ぶぅ……じゃあ早く帰ろう!」
「そうだな!」
彼の手の温もりで少し元気が出たようで、尻尾の先を少し彼氏に巻きつけてましたが、拒否されて普通に戻りました。
まさかのロールミー拒否で不貞腐れているようですが、家に着いたらしてもいいと彼氏の言葉を受け取り、さっきまでの遅さが嘘のように早々と移動を始めたようです。
どうやら彼氏の作戦が成功したみたいですね。
「今日は家に着いたら……じっくりねっとりとシてあげるから……ね❤」
「まったく仕方ないな……でもまずは飯食って体力つけたうえに身体を温めてからな。折角ケーキも買ってあるし、ずっとシ続けるんじゃなくてさ」
「勿論よ。私がケーキ食べさせてあげるからね❤」
「お、おう……恥ずかしいな……」
……なんだか2人の周りにピンク色のオーラが出ているような気がします。
路上にも関わらず自分達の世界に入り、アツアツのラブラブなのは別に本人達にとってはいいと思いますが、そんな様子を見ていると嫌な気分になる人がいるのもまた事実。
私も凄く羨ましいので爆発でもしてほしいと思いますが、そんな気持ちを抑えて、他の人の様子を見てみることにしましょう……
=======[Case.2]=======
「けっ……高校生のガキがイチャイチャしやがって……」
こちらは先程のラミアのカップルとは対照的に、どす黒いオーラを放ちながら居住区を歩く男性。
カップルとは反対方向へ進んでいましたが、すれ違う時に鋭く睨みつけてました。
そんな様子を見るに、どうやら彼は今日という日を一人で過ごしているようです。
「あーくそ! 俺だって彼女欲しいよー!!」
彼の悲痛な叫びは、周りの民家に響いていきます。
しかし……その声は誰にも聞こえていないみたい。
元々人通りが少ないうえ、家の中では子供達の元気な声で溢れていたり夫婦の営みが行われていたりと、外の声は耳に入らないようです。
まあ、聞こえてしまってもこの男性が困るだけでしょうけど。
「あーあ、サンタが彼女をくれたりしないかな……」
そうボヤく彼ですが、虚しさを含んだその言葉は、ただ寒空に溶けて消えていくだけでした。
暗い表情を浮かべながら歩く彼の言葉は、冬の空に虚しく響きます。
「…あん? 雪か?」
それと同時に、灰色の空から白くてふわふわとした粒が降ってきました。
「寒いと思ったら雪かよ……チッ面倒だなぁ……」
クリスマスにしんしんと降る白い雪……ホワイトクリスマスと言えばなんだかロマンチックですが、あまり関係ない身にとってはただ寒さが増加するだけ。
傘も何も持っていない男性は、雪が本格的になる前に帰ろうと、駆け出し始めた時でした。
「……あれ? これ雪じゃないような……綿?」
自身の身体に触れた白いものが冷たくなく、また溶けなかった事から、降っているものが雪ではない事に気付いたようです。
それはふわふわとしていて、息を吹くだけで飛んで行ってしまう軽い綿毛のようなものでした。
「なんでこんなものが……」
「わふー♪」
「へ……もぷっ!?」
何故そんなものが降ってくるのか……そう思った男性が上を見上げると、顔より少し大きいサイズの毛玉が降ってきて、顔の上に乗りました。
その毛玉の中には笑顔を浮かべている小さな女の子が入ってました。どうやら毛玉の正体はケサランパサランだったみたいです。
「こんにちはー♪」
「ぷはっ! こ、こんにちは……」
男性は困惑した表情を浮かべながら、顔に張り付いたケサランパサランを引き剥がしました。
彼女達の毛玉を吸った者は思考がぼやけて幸せな気持ちになるのですが、あまりにも唐突な登場で更には顔面にダイレクトアタックされた衝撃で現状あまり幻覚が効いてないみたいですね。
「わはー♪ おにーさん、元気出して!」
「えっ? げ、元気?」
「うん! 暗い顔はダメだよ! ニコーッ♪」
「に、にこーっ……」
そんな男性に、自分の毛玉を分散させながら笑いかけるケサランパサラン。
どうやら彼女がいない事を嘆き暗い顔を浮かべていた男性に笑顔になってほしくて降りてきたみたいです。
言われて笑顔を浮かべる男性ですが、どこかぎこちない感じがします。
「でもどーして暗い顔してたの?」
「あ、いや……なんでも……」
「なんでもないのに暗い顔してたの? あははおっかしー♪」
「笑うな! クリスマスなのに彼女がいなくて寂しくて暗い顔してただけだ! これでいいかチクショー!」
どうして暗い顔をしているのかを聞かれた男性は、流石に恥ずかしいのか誤魔化そうとしました。
しかし、誤魔化した事で笑われたからか、半分怒りながら理由を言ってしまいました。
それを聞いたケサランパサランは、少し考えたあと……
「へぇ〜……じゃあわたしがおにーさんの彼女になってあげる!」
「なんで俺ばっかこんな目に……え?」
ぶつくさと不貞腐れている男性に、満面の笑みで彼女になってあげると言いました。
突然の事で男性は思考が追いついていないみたいで、キョトンとした表情を浮かべてます。
「だからわたしがおにーさんの彼女になってあげる! そして笑顔になろっ♪」
「ほ、本当にかい?」
「うんっ! だから元気だしてね♪」
「お、おう! ありがとう!」
それでも段々と何を言われたのかハッキリとわかってきたようです。
徐々に男性にも笑顔が浮かび上がってきます……ケサランパサランと同じように、明るい笑顔が。
「あはははっ♪ 元気元気〜♪」
「あははは〜♪ サンタさんプレゼントありがとう♪」
まさにサンタがくれた彼女というプレゼントに、先ほどまでのどす黒いオーラは微塵も残ってないほど上機嫌になった男性。
「ねえおにーさん、わたしとエッチな事しよ!」
「えへへ、いいよ。だって俺達カップルだろ? チュッ♪」
「んっ! やんっ♪ おにーさんだいたーん!」
それに、ようやく幻覚が効いてきたのか、だらしなく笑顔を浮かべながら、ケサランパサランの誘いに乗ってしまいました。
軽く啄ばむようなキスをして、なんと路上だというのに彼女の胸を撫で始めたのです。
「でもー、ここは寒いから、おにーさんのお家でシよーね!」
「そうだね! じゃあ急いで帰ろー!」
「おーっ♪」
ケサランパサランも自身の毛玉を男性に降らせていたように、最初からその気だったためか、笑顔に艶かしさが浮かんできました。
しかし、流石に外でしかも人通りが少ないとはいえ路上ではマズいという知識はあったのか、それとも言葉通り寒いからというだけか、家に連れて行くように頼みました。
おそらくここまで彼女の作戦通りでしょう……恐ろしいですが、それで一人の男性に幸せが訪れたのですから良しとしましょう。
「しっかり捕まってるんだぞ!」
「わっふー! はやーい♪」
男性はケサランパサランが飛んでいかないようにしっかりと手のひらで包んで走り始めました。
これ以上追いかけても男女の営みが見られるだけなので、また他の様子を見てみる事にしましょう……
=======[Case.3]=======
「それではバフォ様、私はお兄ちゃんとお出掛けするのでこれで失礼します」
「わかったからさっさと帰って兄上とお出掛けでもなんでもしてくるのじゃ」
お次は、先程の道から少し進んだ所にある小さな公園。
そこには、二人の幼女達が今にも別れるところでした。
幼女と言っても、公園に残る方は山羊みたいな姿をした魔物……つまりバフォメットなので、今公園から走り去った女の子はきっと魔女でしょう。
「あーあ、クリスマスなんてつまらんのじゃ……」
どうやらこのバフォメットにはお兄ちゃんがいないみたい。
ブランコに乗って不機嫌そうに頬を少し膨らませ、魔女が去って行った方向をジッと見つめています。
「兄上がおらぬ魔女達が集まってクリスマスパーティーをしとるようじゃが……流石にそれに混じるのは無しじゃな……今日は予定があると言ってしもうたし、プライドがあるからのぉ……」
自分の部下達がパーティーをしているところに行くのは上司として嫌らしく、そう呟きながら誰もいない公園でブランコを漕ぐ彼女。
こんな所で一人ブランコで遊ぶ姿を他の魔女に見られたほうがプライドがあるならマズい気がしないでもないですが……まあ、本人は気付いていないのでしょう。
「さてどうするか……一人でケーキを1ホールやけ食いでもするかのう……」
つまらなそうにブランコを漕ぎ続けるバフォメット。
「はぁ……」
「あれ? 君は見掛けない子だね? どうしたの?」
「おん? なんじゃガキか」
そんな彼女のもとに、一人の男の子が近付いてきました。
「ガキって君も同じぐらいじゃんか」
「違うわい! ワシはこれでもお主のおばあちゃんよりは歳上じゃ!」
「うっそだー! そんなおばあちゃんみたいな喋り方しても君はどこからどう見たって僕と同じぐらいの歳じゃんか!」
「嘘じゃないのじゃ!」
見た目だけなら、たしかにバフォメットと同じぐらいだろう男の子。
こうしてムキになっている姿がより一層そう見えてしまいますね。
でも、このバフォメットは少なくとも80年前にはこの街に生存していた事が確認できるため、嘘はついてないでしょう。
バフォメットというのはどれだけ歳をとろうと、幼い女の子の見た目から変わる事がないので、実年齢が男の子のおばあちゃんより上と言うのも信憑性はあります。
それでも男の子が頑なに信じないのは、おそらくバフォメットという魔物の事をよく知らないからでしょう。
「まあおばあちゃんより上でも下でもいいや。君、こんな所で一人で何してるの?」
「そ、それは……」
そんな男の子は、彼女に禁断の質問をしてしまいました。
やはり高いプライドでもあるのか、見知らぬ男の子相手だというのに「彼氏がいなくて魔女達の中にも混ざれないから一人ぼっち」という理由も言えず、ずっとまごついています。
「そ、そういうお主はどうしてここにおるのじゃ? 子供は両親とクリスマスパーティーでもしとればよかろうに」
「……」
「な、なんじゃ? 急に寂しそうな顔をして…ワシは聞いてはいけない事を聞いたのか?」
自分は言いたくないからか、同じ質問を男の子にしたバフォメット。
でもたしかに、ほとんどの子供達は家族でクリスマスパーティーをしていたり、またサンタからのプレゼントは何かなと楽しそうに家族に話していたりしています……一人で公園に来たこの男の子は少し様子が変です。
案の定ワケありみたいで、聞かれた瞬間元気だった顔が一気に沈みました。
「仕方ないじゃん。パパもママも今日はお仕事で帰りは真夜中になるんだもん」
「……そうか……それは寂しいのう……」
「うん……だから公園に誰かいないかなと思って来たんだけど……」
「ワシしかおらんかったと……まあ寒いし、クリスマスじゃからのぅ……」
どうやら男の子の両親は今日も仕事で家にいないみたいです。
クリスマスとはいえ、全員が休みというわけではないですからね。
誰かが働いているからこそ、遊園地や水族館などでデートしたり、美味しいご飯が出るレストランで好きな人と食事したりできるのですから。
ただ、両親とも働いているせいで、この男の子は寂しい思いをしているみたい。
だから公園に友達がいないか様子を見に来たのでしょう……ですが、ご覧の通りこの公園にいるのは男の子のバフォメットの2人だけでした。
「あ、そうだ。ねえ君、ここに一人で居るって事は僕と同じようなものなの?」
「えっ、ま、まあそうじゃな。ワシも家に帰っても誰もおらんから暇じゃのう」
「そっかー。じゃあさ、僕の家に一緒に来てよ!」
「……はあ!? いきなり何を言うのじゃ?」
ふと顔を上げた男の子は、目の前にいたバフォメットに自分と同じようなものかを確認した後、笑顔で自分の家に来ないかと言い出しました。
男性から家に来るように誘われたのなら魔物ならば何も考えずにほいほい付いて行って(性的な意味で)食べてしまいますが……この場合は自分の趣味と違うどころかまだ精通前の男の子が相手な事もあり、少し戸惑っています。
「いいから一緒に来てゲームでもしようよ! チキンとかケーキも一人で食べられない量あるしさ、一緒にクリスマス楽しもうよ! 一人じゃつまらなくても、二人なら楽しいよ!」
「なっ!? どわあっ!」
ですが、そんな事はお構いなしに男の子はバフォメットの手を握り、引っ張って駆け出し始めました。
驚き、よろめきながらもバフォメットはなんとか転ばすについていきます。
「おおっ!」
「な、なんじゃいきなり変な声出して……」
「君の手、ぷにぷにしてて気持ちいいし、それにあったかいね」
「……ふふん、そうじゃろ! お主の手もあったかいぞ」
「そうかな? 冷たいと思うけど……」
「そうじゃの。でも、ワシにはあったかく感じるのじゃよ」
「ふ〜ん……変なの……」
バフォメットは一応獣型の魔物ですから、その手は体毛に包まれているので暖かいし、また肉球もあって感触は気持ちいいでしょう。
男の子は自分が握った手がそういう手だと気付いたようで、素直に感想を言いました。
それを聞いたバフォメットは、途端に嬉しそうな顔をして、相手の手を強く握り返しました。
男の子の手はこの寒い中で冷え切ってますが、彼女には温かく感じるようです。
「で、お主の家はどこにあるのじゃ?」
「え……本当に来てくれるの?」
「そこまで言われたら行くに決まっておる。ほれ案内せい。一緒にクリスマスを楽しもうなのじゃ」
「うん! じゃあ付いてきて!」
最初は子供だからと相手にしてなかったバフォメットですが、どうやら積極的に手を握られ、また褒められた事で考えが変わったようです。
「……あと数年、ワシの兄上に相応しく成長するまで待つとしようかのう……」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないのじゃ」
今はまだだけど、将来は兄になってもらおう……バフォメットはそう考える事にしたようです。
掴まれた手を、バフォメットのほうからもギュっと握り、一緒に男の子の家へと歩き始めました。
「ほれ、雪が降り始める前に急ぐのじゃ!」
「そうだね! 急いで帰ってまずは……ゲームでもやろうか!」
「ゲームか……あまり激しいのは得意ではないぞ?」
「大丈夫! 色々あるから、君に選ばしてあげる!」
「ありがとなのじゃ♪」
嬉しそうに笑顔を浮かべながら公園を去って行く二人……これで、二人とも寂しいクリスマスにならずに済みそうですね。
二人の間に割り込むのもなんか悪いので、次はイルミネーションの輝く街の中心部の様子を見る事にしましょう……
=======[Case.4]=======
「ムフフ〜♪」
「えらく機嫌がいいな……何かあったか?」
「だってぇ、君と一緒にお買い物してるんだよ。機嫌も良くなるよ〜♪」
「そ、そうか……ハッキリ言われるとなんか恥ずかしいな……」
光り輝くイルミネーションに飾られた街の中心部。
様々な店が立ち並んでいることもあり、先程までと比べて明らかに人通りが多いです。
その中でも、やたらと互いの身体を密着させている、1組の白いカップルが目に付きました。
「ところでどこに向かっているの?」
「うーん……大雑把に言えば服屋、かな……」
「なんで? 寒いの? じゃあもっと暖かくなるように抱きしめてあげる!」
「いや、充分暖かいよ。それにこれ以上抱きつかれるとその……押し付けられたもので興奮して路上でヤりたくなっちゃうから控えめでお願い」
「えー」
雪でも被ったかのようにやたら白い2人ですが、よく見たら女性の方は身に着けているものはマフラーだけのようで、あとは褐色の肌にもこもことした白い毛皮に覆われているみたい……角などはないので、どうやら彼女はイエティのようです。
男性の方も白くもこもことしたジャンパーを着て、まるでペアルックのようになっています。
やたら密着しながら歩いているのは、ラブラブなのは勿論、彼女がイエティだからでしょう。
「いいじゃん私たちの愛を皆に見せつけちゃおうよ!」
「ダメだよ。マナーというか法律違反もいいところだし、それに……」
「それに?」
「君のあられのない姿を他の人に見せたくない」
「んふっ♪ じゃあ仕方ないね。これくらいのぎゅ〜で我慢してあげる!」
駄目とか何とか言いながらも、満更そうでもない彼氏。
どこからどう見てもラブラブなカップルに、少し妬いてしまいそうですね。
「ぎゅ〜♪」
「ふふ……あ、着いたぞ」
「ん? ああ、あの茶色のお店? 私ここは来たことないなぁ……」
「そっか。それは丁度良かった」
そんな2人が向かった先は、木造の質素なお店でした。
とは言っても、クリスマスに合わせて控えめながらも装飾はされています。
外見からはどんなお店なのかイマイチわかりませんが、小さな窓の向こうに洋服が見えますし、彼氏の言ったとおり服屋なんでしょう。
「じゃあお店に入ろうか」
「うん。でも珍しいね。君はあまりこういったお店には行かないものだと思ってたよ」
「まあね。今回はちょっとね……」
「ん〜?」
店の前についたカップルは、木製の扉を開けて中へ入って行きました。
「いらっしゃいませ」
「わあっ! 可愛い服がいっぱいあるね!」
「ありがとうね。この服は全部私の手作りなの」
「えっそうなんですか! ほえ〜さすがジョロウグモさん……」
店内に入ると、フリル付きの服から成人式で着るような着物まで、様々な服が飾られていました。
それ以外にもタオルやニット帽など、編み物が多く展示されています。
そして、店にはジョロウグモが一人……どうやらこのお店の店長みたいで、ここにある服は皆彼女が作ったものみたい。
女物が多くて男物が皆無なのはそのためでしょう。
「すみませーん、注文してた者なんですが……」
「ええわかってるわ。オーダーしてくる男性は少ないし、その中でもあれを注文する事はまずないから、あなたの事はよく覚えているわ。少しそこで待ってなさい」
「あ、はい。ではお願いします」
このお店に何の用があるのかと思えば、どうやらオーダーメイドを頼んでいたみたいです。
「なになに? 何か作ってもらったの?」
「まあね。何かはまだ秘密」
「むぅ……服なんでなくても私がぎゅ〜ってしてあげるのに……」
「それだと一緒にお出掛けできないでしょ。それに、俺のじゃないし服でもないよ」
「えっ? じゃあ何?」
服屋で服ではない物を注文しているらしい彼氏。
それが何か思いつかない彼女は、頭の上にはてなマークを浮かべています。
「ほら持ってきたわよ。出来前は完璧よ。あとはあなたの好きにしなさい」
「はい。ありがとうございます!」
と、そこへ丁度店長が戻ってきました。
そして、そこそこ大きいサイズの袋に入った商品を男性へと渡しました。
「ねえねえ、これ何?」
「これはね……君へのクリスマスプレゼントさ!」
「えっ!? ほんと!?」
そしてその袋を、彼氏は彼女にクリスマスプレゼントと言って差し出しました。
突然のプレゼントに、彼女も驚いています。
「な、なんだろ……」
「開けてみてよ。一応デザインは俺が考えたんだけど……」
「どれどれ……わあ〜っ!」
袋を受け取った彼女は、早速中に入っているものを取り出しました。
そこには……コバルトブルーの生地に、白い線が入っている、先にイエティの毛皮のようにふわふわした毛が付いている、とても長いマフラーでした。
「どうかな……あまり服や帽子を着ている姿を見た事ないから、よく身につけてるマフラーにしたんだけど……」
「わあ〜!! ありがとうー!! 大好きー! ぎゅ〜❤」
「わっとと……」
たしかに、自身の体温と毛皮のおかげで服を着ていない彼女が身につけているものは、下着と少し古くなっているマフラーだけ。
だからこそ、彼は彼女に自分でデザインを考えたマフラーをプレゼントすることにしたのでしょう。
大好きな彼氏からのプレゼントに、イエティの彼女は愛情たっぷりと抱きつきます。
「早速着けてみてよ」
「うん! ふっふふ〜♪ ぬくぬく〜♪」
彼氏に着けてみてと言われ、上機嫌でマフラーを首に巻いていく彼女。
結構長いマフラーなので、首元がかなりもこもことしそうです。
「あ、そうだ! ねえねえちょっと近くに来て」
「ん? なんだ……わっ!」
「にへ〜♪ 長いから2人でマフラーしよ!」
着けている途中でイエティの動きが止まり、彼氏を呼びました。
どうしたのかと近付いた彼氏を抱き寄せて、まだ巻いていなかった部分をそのまま彼へと巻きつけました。
「あらあらお熱い事ね。ま、そうなるように長めに作ったのだけどね」
「ぬふふー♪ 二人マフラー❤」
「は、恥ずかしいな……」
抱き寄せたまま2人で一つのマフラーを巻いて、幸せそうなイエティ。
彼のほうも、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも満更でもなさそうです。
「じゃあ次のお店に行こうか。普通のレストランだけど、そこでご飯を食べよう」
「うん! 君と一緒ならなんだっていいよ!」
アツアツな2人の世界を作りながら店を出た2人。
他のどんなカップルと比べてもラブラブな二人の様子に、周りの人達も羨ましそう。
かく言う私も、もの凄く羨ましくて、少し悔しく思います。
このまま二人の様子を見ていても良くない感情が湧き上がってくるので、また別の人の様子を見ることにしましょう……
=======[Case.5]=======
「く、クリスマスケーキいかがですかー!」
「あ、間に合ってます」
「そ、そうですか……クリスマスケーキいかがですかー!」
先程のお店から少し離れた、人通りの多いメインストリート。その中でも一際輝く大きなクリスマスツリー。
その真正面のお店の前で、サンタクロースの衣装を着ながら、一生懸命ケーキを売っている少女がいました。
「はぁ……全然売れない……まったく、どいつもこいつも神に祈らず不純異性交遊なんかしてなんて罰当たりな……せめてこの健全な食材しか使ってないケーキぐらい買って行きなさいよ……」
いや、よく見ると少女の背中には白い翼、頭上には光の輪が見えます。ですから、少女はエンジェルでしょう。
「まあ……生活費の為にこんなところでアルバイトしている私が言えたものではないでしょうけど……神よ、魔物の巣窟でお金を稼ぐ私をお許しください……」
しかも、言動的に彼女は魔物化していないエンジェルのようです。
そんな彼女がこんなところでアルバイトを行っているというのは少し不思議ですが……おそらく生活が余程苦しいのか、給料がその苦労以上に貰えるからなのでしょう。
どちらにせよ大変そうです。
「クリスマスケーキいかがですかー! 甘くて美味しい健全なケーキですよー!」
「1つください」
「はい、ありがとうございます! もう1ついかがです?」
「えと……1つでいいです」
そんな彼女の目の前にある机の上には大量に置かれているケーキの山……中々売れていないみたいです。
寒空の下で寒さに耐えながら一生懸命呼び込んでいますが、あまり人は寄ってきません。
それもそのはず。魔物が憎いのかカップルが憎いのかは定かではありませんが、先程から黒い影と憎しみの表情が顔に表れているのですから、近付こうとはなかなか思えないのですから。
「はぁ……やっぱり魔物は魔界産の果物を使用したいかがわしいケーキのほうがいいのかな……こっちの方が絶対いいのに。舌が腐っているんじゃないですかね……」
「まあ、今日はこの後魔物だけじゃなくて人間だって聖夜ならぬ性夜だろうからね。そういう効果があるほうがいいんじゃない?」
「そうですか……はぁ……なんて穢らわしい……ん?」
中々売れない事に気分が悪いエンジェルは、ますます怖い顔を浮かべながら下を向きながら文句を言っています。
そこへ、別の女の子の声が聞こえてきました。
「あらあら、あまり売れてないみたいね」
「……ようやく帰ってきましたか……ケーキを売らずどこで油を売っていたのですか?」
エンジェルの目の前には、同じようにサンタクロースのコスプレをした少女が……背中に生えている蝙蝠状の翼や蒼白い皮膚、そして白目が黒いところからして、この少女はデビルでしょう……が、呆れ顔で立っていました。
エンジェルの彼女と同じ服を着ているのに、どこか扇情的に見えるのは何故でしょうね。
「あら、私はきちんとケーキを売ってきたわよ。ほら、20個分の代金」
「あ……そ、そうですか……20個も……」
「見た感じそっちは開始からまだ10個も売れてないみたいね」
「ぐぬぬ……」
どうやらこのデビルの少女も彼女と同じくケーキ販売のアルバイトをしているようです。
自分が売ってきた分のケーキ代金をレジの中に入れました……その量は、明らかにエンジェルが売った分よりも多いです。
てっきりサボっていたと思っていた相手が自分より商売してきたのを目の当たりにし、可愛い顔を歪にして悔しがっています。
「いったいどんな汚い売り方をしてきたのですか?」
「ん? 別に普通に売ってきたわよ。しいて言うなら彼女がいない男に狙いを定めて、愛嬌良くしたぐらいね。少なくともあなたが考えてるような手は使ってないわよ?」
「だ、だれが何を考えてるって言うのですか!」
「何も言ってないわよ。まあ、自分でもデビルらしくないとは思うけど……ま、私は単に彼氏彼女がいない人達の暗い顔を明るくしたいと思って声を掛けて、ついでにケーキを売ってきただけよ」
「……」
「それでデビルなのに消極的だなと思わせてギャップに萌えた男のうち誰か1人ぐらいは私にまた会いに来てくれるかもしれないしね! そうしたら腑抜けにし放題だもの!」
「……途中少しだけ感心したのが馬鹿でした……」
動機はともかく、商売の腕はデビルの少女のほうが上手みたいですね。
「まあ、一つだけアドバイスするなら……まずは明るい顔をしたら?」
「明るい顔……? 私、そんなに暗い顔してましたか?」
「あれ、気付いてなかったの? 今すぐリア充どもを殲滅してやると言わんばかりの負のオーラを撒き散らしてたわよ」
「別にそんな風に思ってませんが……たしかに、ちょっと悪い感情に飲まれそうになっていた気はします……」
そんな彼女は、エンジェルの少女に簡単なアドバイスをしました。
どうやらエンジェルは自分が負のオーラを撒き散らしながら呼び込みをしていた事に気付いていなかったみたいで、かなりショックを受けた様子を見せました。
「まあリア充爆発しろって事を思っていないとしたら、魔物憎しってところかしらね」
「……はい……」
「あなたは魔物化していないエンジェルだし、そう考えるのもわかるわ。でも、この仕事を選んだのもあなた自身なのよ?」
「……確かにそうですね」
近くにある巨大なツリーが多彩な光に輝いており、丁度客もそっちに注目していて捕まりそうにないタイミングだからか、デビルの彼女はエンジェルの彼女とお話を始めました。
諭すように、それでいて優しく語りかけるデビルの彼女……傍から見た限り、邪悪な姿からは全く想像できないような、世話焼きのお姉さんです。
「そうですよね……魔物なんか、とか思いながら商売をするのはよくないですよね……」
「そうね。私達は魔物とは言ってもさ、ただの恋する女の子なのよ。特に今日は、愛する人と一緒に時を過ごしているだけ。それっていけない事かしら?」
「……いえ、そう考えるのであれば、悪い事ではないと思います」
「でしょでしょ? あなただって恋の一つや二つ、した事あるんじゃない?」
「……はい、あります」
「ほらね。人間も魔物も神族も皆一緒よ! そう考えれば、魔物だからと憎むのは間違ってると思わない?」
「それは……まあ、そうかもしれませんね」
デビルの少女とお話をしているうちに、エンジェルの少女の中で何かが変わってきたようです。
黒いオーラは徐々に薄まっていき、自然な笑みがこぼれ始めました。
「さてと、じゃあこのケーキをちゃっちゃと全部売っちゃおうよ。今度は二人で一緒に、ね♪」
「はい! 頑張りましょう! ケーキいかがですかー!!」
「甘くて美味しいケーキ、おひとついかが? この後のエッチにおいて魔界の食べ物の力を使わず自分の技量だけで彼氏旦那様を魅了したいと思っている人にはお勧めよ」
「もちろん、普通に食べる分にもお勧めですよ。甘過ぎず、程良いデザートにもなりますよ!」
そして、元気に商売を再開し始めました。
今度は二人一緒に笑顔で……その可愛らしさから、多くの人が集まってきました。
「一つ500円です! はい、ありがとうございます!」
「美味しかったらまた買ってねー! ねえ、これが終わったら一緒にお茶しない?」
「え……いえ私は……」
「大丈夫、10時終わりだし1時間ぐらいならまだその後で神にお祈りする時間はあるわよ。女の子同士、恋バナでもしましょ。もちろん健全な範囲でね」
「そう……ですね。終わったら一緒にお茶でもしましょうか!」
「ええ! あなたは多分あまりこの街の事知らなそうだし、私がすっごく美味しい紅茶とケーキがあるお店、教えてあげる!」
それに、二人の仲も良くなったみたいです。
客の列が途切れたタイミングで二人はまた少しおしゃべりして、バイト後に喫茶店までお茶を飲みに行くことに決めたみたい。
良い笑顔を浮かべる二人の少女達が織り成す恋バナにも興味がありますが……なにやらクリスマスツリーの方から気になる気配を感じたので、そちらに向かってみる事にしましょう……
=======[Case.6]=======
「うっわ……なんか人がいっぱい集まっているな……」
「キラキラしてるから仕方ないよ。落ち付かない?」
「まあ……今までそんなに注目されるような人間じゃなかったからね。どちらかと言えば休みの時間は教室の隅っこで読書してるタイプだったし」
「そうだね。アナタは年齢が上がるにつれて大人しくなった印象があるよ」
不思議な気配を辿ってみたところ、それは一際輝く大きなクリスマスツリーの内部から感じていました。
神通力を使って樹の内部を覗いてみると……そこには一組の男女がいました。
樹の内部で普通に居られる人なんて、ドリアードとその夫ぐらいなので、二人はそうなのでしょう。
「ごめんね。でも、こればかりはたとえアナタの為でも断れなかったから……」
「わかってるよ。このクリスマスツリーを毎年楽しみにしている子供達が大勢いるからだろ?」
「うん。毎年、私の宿るこの樹がキラキラと光輝いているのを見て笑顔になる子供達を見るのが好きだったから……今はアナタの笑顔が一番だけどね」
「それは嬉しいな。でも、僕もこの樹をクリスマスツリーとして飾るのは賛成だよ。なんたって数年前は僕もこのツリーを見て笑顔になっていた側だったからね」
「そうだね、よく覚えているよ」
派手な飾りや迫力ある大きなツリーに人々が注目しているので、まるで中にいる二人も注目されているように感じるのでしょう。
男性の方が少し恥ずかしそうにしていますが、それと同時に懐かしそうにしています。
今の言葉からして、おそらく男性も元はこのクリスマスツリーを見て笑っていた子供達の中の一人だったみたいです。
「ツリーの天辺に飾られている星を取ろうとしてよじ登って落ちた挙句怒られたりさ……一応樹の根を動かして受け止めてあげたけど、痛いし怒られるしで涙目になっちゃって……」
「ちょっ!? なんでそんな事覚えてるの!?」
「アナタの事はなんだって覚えているよ。次の年はたしか……故意ではないとはいえ枝を一本折っちゃったりとか……」
「ご、ゴメンって! まさか適当に蹴りあげた石が樹に当たるとは思っていなかったんだよ!」
「さらにその半年後の夏には、何か虫が居ないかと思いっきりこの樹を何回も蹴り飛ばしてたっけ……あの時は痛くて苦しくて……あの餓鬼いつか産まれてきた事を後悔するような凌辱をしてやると考えたかな……」
「ひぃっ!! ご、ごめんなさい!!」
「ふふ……ウソウソ冗談よ♪ 子供は元気が一番だもの。あれぐらいじゃ私はビクともしないしね」
その頃の出来事を思い出して、ドリアードさんはあえて恥ずかしくて忘れたい事を話題に出して楽しそうに旦那さんを苛めています。
確かこの樹は先程のバフォメットがこの街に生存していたことが確認できる年よりも前から存在しているので、このドリアードさんは相当長生きしているでしょう。
その中で選んだのがこの男性……よっぽどドリアードさんにとって印象深かったのでしょうか。
「でも、初めてだったんだ。私を、正確にはこの樹をずっと見てくれた男の人ってさ」
「えっ、そうなの? だから僕を樹の中に閉じ込めたのかい?」
「その言い方はアレとしてもその通りよ。子供の時からもずっと、それこそクリスマスの時以外でも私の事を見てくれてたからね。将来旦那にするならこの子かなって、アナタが小学校高学年の時から思ってた」
「そっか……でも、そのおかげで君とずっと一緒になれたんだからよかったよ。筆卸をされた時から、僕の頭には君の顔しかなかったからね」
「もう……恥ずかしい事真正面から言わないでよ〜照れちゃうじゃんか〜!」
だからこそ、自分の宿る樹に男性を閉じ込めたらしいドリアードさん。
樹の中に閉じ込められた男性はやがて樹と同化し、彼女と同じ寿命になるので、ずっと一緒というのは間違っていません。
そんな事を笑顔で夫に言われたドリアードさんは、顔を真っ赤にして照れています。
それと同時にクリスマスツリーの飾りも強く輝きました……どうやら樹の飾りは彼女と連動しているみたいですね。
照れていてもどこか嬉しそうなドリアードさんに合わせ、オーナメントも種類毎に激しかったり、幻想的に輝きを放ちます。
「ところで、今まで聞くタイミングがなくて聞いていなかったけど、どうしてアナタはずっと私を見ていたの? 他の人達はクリスマス前後の飾りが付いている時ぐらい、それも2,3年ぐらいしか見る事ないのにさ」
「んー、最初はこのツリーが綺麗だったからかな」
「ちぇー、やっぱりかー」
「仕方ないじゃん。この樹にドリアードが宿っているって知ったのは中学になってからなんだからさ」
「そうだけどー……なんか樹に負けた気分がしてつまんないの……」
そして、逆に不機嫌になると輝きも落ち着くようです。
もうすっかり空は暗くなっていますが、辺りを昼間のように明るく照らしていたクリスマスツリー。それが今は蛍の光のように淡い物になっています。
「あ、じゃああのテストが赤点でこの樹の根元に埋めようとして私が話しかけた時に初めて気付いたの?」
「ま、まあそうだけど……って本当に人が忘れてほしいと思うものばかり覚えているなぁ……」
「言ったでしょ? アナタの事は全部覚えているって。それにしてはそう驚いていなかったような……」
「その頃にもなればある程度魔物の知識はあったからね。むしろこの樹にもやっぱりドリアードがいたんだという思いの方が強かったよ」
「そうなんだ。すぐスイマセンって謝ってて、可愛いと思ったのよね〜」
思い出話で少し盛り上がっているからか、今度はイルミネーションのように光が模様を描くように点滅しています。
これは一種の芸術品です……道行く人達の中には、このツリーを動画に納めている人もいます。
「可愛いと……あのさ、もしかしてだけどさ……」
「そうだよ。だからあの後襲っちゃった♪」
「襲っちゃった♪ じゃないよもう……初めてがあれって相当ショックだったんだからね……もっと互いに好きになった相手と良い雰囲気の中ベッドの上でやると思ったら野外で逆レイプだったなんて……」
「ゴメンね。でも自分が発する喘ぎ声に恥ずかしかったり罪悪感を感じたりしながらも私のナカで熱くて白い物を迸らせるアナタのあの時の顔……思い出すだけでゾクゾクしてきちゃう……❤」
「僕は思い出すだけで身体がおまえと別の意味で火照ってくるよ……」
さらには……興奮してくるとツリー全体に妖しい光が灯りました。
見ている者を桃色の淫気に取り込むような光……異変をいち早く察知したさっきのデビルがエンジェルと一緒に独り身らしき人達や人間のカップルを避難させていますが、淫気にあたった魔物達はその場で彼氏や夫を襲っています。
「なんだか濡れてきちゃったし、あの時のように可愛らしい声で鳴かせてあげるね❤」
「お、お手柔らかに……このSっ気に興奮する辺り自分はマゾなのか、それとも調教されたと考えるべきなのか……うっ」
「そんな考えはすぐに気にならなくしてあげるね」
そして、夫婦の交わりと同時に始まったクリスマスツリーを中心とした青姦乱交パーティー……
このままこの場にいると私も興奮してお股が濡れてきてしまうかもしれないので、急いでこの場を離れる事にしましょう……
=======[Case.7]=======
「はぁ……」
街の中心部から離れ、街外れにある小川の脇にある道路。
そこでは、一人の中年男性が大きな溜息を吐きながら、佇んでいました。
「今年は一人か……はぁ……」
どこか哀愁が漂う中年男性……去年までは一人じゃなかったという事は、彼女に振られたのか、奥さんと離婚でもしたのでしょうか。
「一緒にいた時は鬱陶しいとしか思わなかったのに……いざ離れるとわりと寂しい物だな……」
魔物からしたら中々信じられませんが、人間同士では時には上手くいかずに別れる事もあります……どこか哀愁が漂っているのは、そのせいかもしれません。
「はぁ……今年の冬は長く冷たい物になりそうだな……」
こんな時間に足下の小石を拾って一人で川の中に投げ込む姿は、とても寂しいものです。
冷たい風が容赦なく男性を襲いますが……それを防いでくれる人は誰一人いませんでした。
「はぁ……ん?」
しかし、何度目かわからない溜息を吐きながらこれまた何度目かわからない小石を投げた時でした。
男性の目の前の水面に、突然大きな波紋が現れました。
もちろん、男性が投げた小石による物ではありません。それにしては大き過ぎる波紋が浮かんだのです。
「な、なんだ……うわっ!?」
何が起こっているかわからず、しばらく男性が身動きを取らずにじっとその波紋を見ていると……細かい泡が浮かんできたと思ったら、女性の髪の毛が川底から浮かび上がってきました。
思わぬ物の登場で、男性は驚き後退ります。
「じー……」
「わ……あ……と……サハギン?」
「じー」
いや、髪だけではなく、無表情な女の子の顔や鰭の付いた耳なども水面に浮かび上がりました。
どうやらたまたまサハギンの少女がその場を通りかかっていたみたい。
表情から感情が全く読めないので怒っているのかはわかりませんが、髪の毛には先程この男性が投げた小石が引っ掛かっています。
「あ……ご、ゴメン……」
「……こく」
自分の投げた小石が引っ掛かってる事に気付いた男性は咄嗟に謝りました。
ですが、どうやらその事に対して怒っていたわけではないようで、少しだけ頷いた後もじーっと男性を無表情のまま見つめています。
「……」
「……」
「……」
「……」
「えっと……何か用、かな?」
「……」
何が何だかわからない男性は、サハギンと同じようにジッと様子を見ていましたが……なんとも言えない気まずい沈黙にとうとう痺れを切らして、何か用かと尋ねました。
しかし、サハギンは無口な魔物……尋ねても一向に回答は返ってきません。
「……」
「えーっと……本当に何用?」
「じー」
そのまま一言も発する事無く、中年男性にゆっくりと近付くサハギン。
スク水みたいな鱗も、魚の鰭のような尻尾も、そして水掻き付きの手足も水面から出てきて、とうとう陸地に上がってきました。
そのまま表情を変える事も、言葉を発する事もなく、男性の隣まで移動します。
押し倒す為に近付いているにしては動きがゆっくり過ぎですし、かといって男性の様子からして知り合いというわけではなさそうですので、本当に謎です。
「あの……用がないなら帰るけ……!?」
「……」
「えと……その……これは……」
「なでなで……」
特に何かしてこない為、とりあえず帰ろうとした男性に、ついに動き始めたサハギン。
鱗に覆われた手をシュッと伸ばしたかと思えば、男性の頭を優しく撫で始めました。
突然の行動に驚く男性。物事があまり考えられないのか、言葉がハッキリと出てきません。
「いったい……何を……?」
「……悲しそうだった……慰めてる……」
「え……あ、うん……ありがとう……」
それでも搾り出した疑問の言葉に、ようやく言葉を発して返答したサハギン。
どうやら水中から寂しそうにしている男性を見掛け、慰めに来たようです。
表情からは全く読み取れませんが、そんな男性の様子に心配していたみたい。
「ぎゅ」
「わわっ、冷たい」
「元気出せ……」
「あ、うん……」
頭を撫でるだけでなく、さながらイエティのように男性にぎゅっと抱きつくサハギン。
おそらくこれも男性を慰めるためにしているのでしょう……問題は、ついさっきまで冷たい川に入っていた為全身濡れており、それが男性の服にも滲みて冷たそうです。
まあ、それでも男性は少し笑顔になっています。
どうやら久々の人のぬくもりに少し安心しているみたいですね。
「ありがとう。少し元気がでたよ。それじゃあ……」
「ふるふる」
「ん? どうかしたのかい?」
ちょっとだけ寂しさを解消できた男性は、お礼を言って家へ帰ろうとします。
ですが、サハギンは首を横に振って離そうとしません。
「……わたしも一緒に行く……」
「え……まあ君みたいなかわいい女の子が来てくれると嬉しいけど……でもいいのかい? 家は川から距離があるけど……」
「いい。行く……」
足を絡ませ、胸を押しつけながら家までついていくと言うサハギン……きっと、男性の事が好きになったのでしょう。
その場で押し倒しまではしてませんが、交わる気満々なその愛情表現がそう物語っています。
表情の変化が乏しい彼女達サハギンの、溢れんばかりの愛情表現ですからね。
「わかった。じゃあついてきてね」
「こくん」
「あ、でもその前にケーキでも買って行くかい? 折角のクリスマスだしさ」
「……ケーキ? 何それ?」
「おや知らないのか。甘い食べ物の一つだよ。じゃあ教えてあげるためにも買いに行かないとな」
「……ケーキ……甘い食べ物……じゅるり……」
どうやら、男性の冬は短く温かな物になりそうです。
最初に見たときとは正反対の楽しそうな笑顔を浮かべながら、ケーキ屋へ向かってサハギンと手を繋ぎながら歩き始めました。
「楽しみ……」
「そんなにケーキが楽しみなのか。意外と食いしん坊なんだね」
「……」
おそらくサハギンが楽しみにしているのは、ケーキもそうでしょうけどまた違うものでしょう。
男性は気付いていないようですが、彼女の視線は男性の口元や股間に向いていますからね。
まあ、どのみち二人には早めの春が訪れそうなので、安心して他の人達の様子を見る事にしましょうか……
=======[Case.8]=======
「ただいまー」
「……」
「あ、えっと……ただいま……」
「……ぐすん……」
お次は、先程の川からも少し離れ、街の外にある山の麓にあるとある家の前。
そこでは、仕事帰りの男性が困った顔をしながら立っていました。
「ねえ……どこ行ってたの……?」
「えっと……急な仕事が入っちゃって……」
「ぐす……じゃあ黙って行かないでよぉ……君がいなくて寂しかったんだからぁ……急に居なくなって怖くて眠れなかったんだからぁ……」
「そ、その……本当にゴメン……気持ちよさそうに眠ってたし、いつものように寝言で返事すらしなかったから起こすのも悪いかなと思って……」
「ばかぁ……ひっく……」
その男性の前には、大量の男ものの服に囲まれた一人の少女が涙を浮かべて立っていました。
少女と言っても腰からは尻尾が生えていますし、頭の上には丸い耳も付いているので人間じゃありません。
鼠の特徴を持つ彼女は……眠そうな顔をしているところからしても、おそらくドーマウス。
夫を持つドーマウスは夫が離れると不安でたまらなくなるそうです……おそらく男性の方が仕事で急に外出しなければならなくなり、起こさないようにそっと出て行ったので一日中自分の夫の匂いが染みついている衣服を身に着けてどうにかして落ち着こうとしていたのでしょう。
それでも本人からの温もりには到底敵いません。そのためまだ帰って来ないかと寂しくて泣いていたみたい。
そもそも気持ちよさそうに眠るドーマウスから離れられた彼も相当凄いと思いますが……まあ、真面目な人なのでしょうね。
「ほ、ほら、ケーキとチキン、あと美味しいチーズも買ってきてあげたからさ……チキンはなんと珍しくチーズトッピングもしてあるぞ!」
「美味しそうな食べ物を買ってきたぐらいじゃ許さないもん……」
「あ、うん……」
「けど、チーズとケーキとチキンは食べる……」
「え、そ、そうだよね! それじゃあ早速食べる準備をしよう!」
なんとなくこうなる事を察していたのか、帰宅中に買ってきた物で機嫌を取ろうとする男性。
口では許さないと言っているドーマウスですが……ほんのちょっぴり嬉しそうなのとまだ起きているのに口から垂れている涎が若干機嫌が戻った事を示しています。
それを確認した男性は、どうにかして機嫌を完全に良くしてもらおうと急いでご飯の準備を進めています。
「ほら、食べよ!」
「むぅ……あたしは食べ物につられにゃい……すぅ……」
「はは。やっぱりすぐに寝ちゃったか……」
買ってきた食べ物をテーブルに並べ、男性は彼女を抱き寄せて椅子に座りました。
まだまだ不機嫌な彼女でしたが、彼の腕の中という安心して眠れる場所に誘われたため、瞬く間に夢の国へと旅立って行きました。
眠りネズミとも呼ばれる彼女はおそらく今日ずっと起きっぱなしだったのでしょう……眠気に耐えられるわけも無く、すぐさま幸せそうな表情で眠ってしまいました。
「ほら、ジューシーな骨付きチキンだよ〜。口あけて〜」
「むにゃ……あーん……むしゃむしゃ……おいひぃ……」
「……ほんといつ見ても不思議なものだなぁ……本当に寝てるんだよね?」
「美味しいけどあたしは食べ物につられないぞぉ……すぅ……」
寝ていてもさほど問題無く行動するのがドーマウス。
男性が口元にチーズの掛かったチキンを持っていくと、むしゃむしゃと美味しそうに食べ始めました。
食べながらも寝息を立てているので本当に寝ているのでしょう……そんな彼女の様子に、男性も安心と楽しさが入り混じった表情を浮かべています。
「さてと、俺も食べるか」
「チーズぅ……むにゃ……」
「ん、ちょっと値が張っただけあって美味いな」
「美味しいねぇ……ぐぅ……」
彼女の口元に食べ物を運びながら、もう片方の手で器用に食べ始めた男性。
もう慣れたものなのか、彼女を落としそうになる事も無く自身も食べ物を堪能してます。
二人して美味しそうに食べる姿を見ていると、こちらもお腹が空いてきてしまいますね。
「うん、ケーキも美味い」
「おいひぃ……クリームぅ……」
「ん? 顔にクリームが付いているぞ?」
「そうだねぇ……苺もおいしいねぇ……すぅ……」
ケーキも同じように口に運んでいましたが、寝ながら食べているせいで口周りには大量のクリームが付いてしまっています。
男性は注意しましたが、ドーマウスは意にも介さず寝息を立てながらケーキを食べ続けています。
「べっとり付いちゃってるけど良いのか?」
「うん……あまあま……」
「取らないのかい? だったら……」
「すぅ……ん……♪」
いくら言っても口周りのクリームを拭きとるどころか舐め取りすらしないドーマウス。
そんな彼女に、男性はケーキを置いた後顔を自分の方に向かせ、なんとそのクリームを舐め取ったのです。
彼女の小さな唇を舐めるように、優しく、それでいて貪欲に舌で攻める彼……でも、舐められている彼女は、どこか幸せそうな顔をしています。
「あまあま……♪」
「うん、甘いな。流石俺の嫁」
「えへへへ……❤ すぅ……」
「そんなだらしない顔をしていると今度は口内のクリーム舐めちゃうぞ」
「きてぇ……キスしてぇ……❤」
どうやら男性はドーマウスの魔力に染められたみたいです。
寝ている彼女達から発せられる魔力には、男性に強い劣情を抱かせる効果がありますから、抱き抱えている彼女を犯したくなってきたのでしょう。
まあ、夫婦ですし仕方ありませんね。
「んちゅぅ……もっとぉ……にへぇ……❤」
「仕方ないなぁ……じゃあケーキよりも美味しい物を下の口から食べさせてあげるよ」
「えへへぇ……あたしも大好きぃ……❤」
人様の事情を覗くのも良くないですし、そもそも羨ましくて直視できないので、そろそろ飛び去る事にします。
これから幸せな夢……と言う名の現実を見るドーマウス夫婦にこっそりと別れを告げ、すぐ近くにある山の方へ向かってみましょうか……
=======[Case.9]=======
「ぅあっ、あっ、あ、あふぅぅ……」
「ふふん♪ 今日もいっぱい出したじゃねえか。腹いっぱいだぜ」
「ど、どうも……」
街に隣接している山の中。
中腹辺りにひっそりとある洞窟の中から、一組の男女の声が聞こえてきました。
「ま、しばらくはそこでゆっくりしてな」
「あ、あれ? いつもより短い……」
「あん? もっと搾り取ってほしかったのか? そうかそれなら……」
「あ、いやいやそうじゃなくって! どっちにしても休憩させてほしいな〜と……」
「チッ、まあいい。後でまた激しくシてやるから体力回復のためにそこで大人しく寝ているんだな」
洞窟の内部を覗いてみますと、そこには裸の男性と、同じく裸の女性が居ました。
女性と言っても、その下半身は巨大で黒い毛に覆われた蜘蛛のものであり、また頭からは大きな二本の角も生えています……肌が緑色ですし、彼女はウシオニのようです。
丁度性交が終わった……と言うよりは中断したタイミングのようで、ウシオニの女性器からはこの男性のものと思われる白い液体が滴り落ちています。
「あ、逃げようと思うなよ? 逃げたら吊るしあげた状態で3日3晩犯してやるからな!」
「疲れて動けないし、それにそんな気はもうとうの昔に失せてるよ……僕も君無しじゃ生きていけないからね」
「なっ!? う、うっせー! そういう恥ずかしい事を簡単に口に出してんじゃねえよ!!」
「あべしっ!」
「あ、わ、わりい!」
どうやら少し前にウシオニがこの男性を自分の住処に連れ去り、滅茶苦茶に犯していたようです。
とはいえ、既に幾らかの時は過ぎているようで、男性に逃げ出す意思はないどころか、ウシオニを深く愛しているようです。
ウシオニのほうは真っ直ぐに言われたその言葉に照れたのか、その大きな拳で男性の顔を思いっきり殴りました。
もちろん傷付けるつもりはなかったのかすぐに謝ります……恐い魔物として名前がよく上がるウシオニですが、こうしてみると可愛いものです。旦那さんの体力が持つかはわかりませんが。
「良いからオレが呼ぶまではそこで寝ていろ!」
「あ、うん。わかったよ」
顔をほんのり赤く染めながら洞窟の奥へと消えていくウシオニ。
何かを準備するようで、旦那さんを一人残して行ってしまいました。
「ん〜……いったいどうしたんだろうか……いつもなら眠くなるまで性交し続けるのに……なんか今日は朝から様子が変なんだよな……」
一人残された旦那さんは、ウシオニの様子がどこかおかしい事について考え始めました。
ウシオニは無尽蔵な獣欲を持ち、徹底的に男性を犯し蹂躙する事を望む事が多い魔物……多少固体差はあれど、先程からの旦那さんの発言からしてあのウシオニも例外ではないのでしょう。
そんなウシオニがある程度身体を交えただけで行為を中断したとなれば、毎日その激しい愛を受けている旦那さんが疑問に思うのも不思議ではありません。
「なんか朝から……いや、思い返してみれば数日前からこっそりと何かをしてるみたいなんだよな……隠し事するような性格じゃないけど……なんだろうな……」
どうやら何日か前から様子がおかしかったらしいです。
旦那さんに秘密にしておくような事とはいったい何でしょうか。
「……ん? なんか香ばしい香りが匂うな……なんでだ?」
と、しばらくしたら、洞窟の奥から良い匂いが漂ってきました。
私はここにくるまでに何度か嗅いだ匂いですが……普段ここでは絶対に漂う事がない匂いなんでしょう、旦那さんは首を傾げています。
「おい、もう歩けるか?」
「え、まあ……まだふらふらしてるけどなんとか……」
「チッしゃあねえ。オレが運んでやるよ!」
「へ? わわっ!」
そして、洞窟の奥からウシオニが再び姿を現しました。
少しは歩けるようになったと言う旦那さんに舌打ちをし、蜘蛛糸でぐるぐる巻きにして背負います。
どうやら出来るだけ早く来てほしかったみたいですね。
「い、いったい何が……なんかもの凄く食欲をそそられる匂いがするんだけど……」
「自分で糸をずらしてその眼で確かめてみるんだな!」
「わ、わかった……なっ……!?」
身体だけではなく目隠しをするように糸を巻き付け、旦那さんを洞窟の奥の広いスペースまで運んだウシオニ。
地面に下ろした後、目隠しを外すように指示しました。
言われた通り旦那さんが目に覆われた糸を取り外すと……
「こ、これは……」
「どうだ、全部オレが作ったんだぞ!」
「す、凄い……お刺身にフライドチキンにサンドウィッチ、それに生ハムのサラダにポテトフライ……まだまだ沢山……」
そこには、色とりどりの料理が並んでいました。
差ながらクリスマスパーティーでもするかのように多くの種類の料理が所狭しと並んでいます……しかもその全てをこのウシオニが作ったと言うのです。
この数日の間様子がおかしかったのは、おそらくこの料理を作る為に色々と準備をしていたからでしょう。
「料理できたの?」
「できたさ! と言いたいところだが……実はここ一月ぐらいこっそり麓の街の料理教室に毎日通ってたから作れた」
「へぇ……全然気付かなかった……」
見た感じはお店に売り物として置いてあっても問題無いぐらいです……たった1ヶ月料理教室に通っていただけにしては相当上手いと思います。
旦那さんは先程から目をぱちくりとさせて驚き続けています。
「でもなんてまた料理なんか……」
「あん? テメェ覚えてねえのかよ。テメェを連れてきて数日経った時辺りに料理が食いてえって言ってたし、1ヶ月前にはクリスマスの料理が食いてえって言うから頑張ったんだぞ!」
「え……いや、言ったのは覚えてるけど……まさか僕の為に料理を習って材料揃えて作ってくれたの?」
「お、おう……まあそういう事だな……」
しかも、彼女は旦那さんの為に頑張ったみたい。
たしかに、最近街にある料理教室にこのウシオニさんが料理を習っていたのを見た気がします。
その時はたしか包丁で魚を捌かずにまな板と机を捌いていたような気がしますが……旦那さんの為だけを思い、ここまで上達したのでしょう。
「ありがと。僕の為にこんなに頑張ってくれて嬉しいよ」
「う、うるせえ! ほらさっさと食うぞ!」
旦那さんに感謝されて、またしても顔を真っ赤にして照れるウシオニ。
誤魔化すように自分が作った料理を旦那さんの口に押し付けます。
「あむ……うん、味もしっかりしていて美味しいよ!」
「そ、そうだろ! なんたって自信作だからな!」
「クリスマスだけじゃなくて今後も毎日作ってくれると嬉しいんだけどな……こんなに美味しいのなら毎日食べたい」
「そ、それはまあ……考えておいてやる!」
自分の手料理を美味しいと食べてくれる旦那さんを見て、とても幸せそうな表情を浮かべるウシオニ。
凶暴なイメージの強い種族ですが、こうして女の子っぽい顔もできるものですね。
「さてと……それはともかく……」
と、ここでウシオニがゆらりと洞窟の入口の方へ顔を動かしました。
「さっきから覗き見してるやつがいるなぁ……オレは今機嫌が凄く良いから、3秒以内に消えるのなら何もしないでやる。そうでなければ大きなフライドチキンにするからな。それさーん、にー……」
どうやら私が覗き見しているのがばれていたみたいで、そんな脅しをしてきました。
血走った目が本気にしか思えないので、私は急いで洞窟から飛び出て街まで戻る事にしました……
=======[Case.EX]=======
「はぁ……はぁ……本気で料理されるかと思った……」
山から街まで戻った私は、学校の屋上でへばっている。
こんな日に学校の補習があって嫌になっていたから、終わった後ストレス発散を兼ねて趣味の人間観察をしていたわけだが……まさか気付かれるとは思っていなかった。
そもそも上位の魔物であるバフォメット辺りには気付かれるかなとは思ったがまさかウシオニにばれるとは……一生の不覚である。
「ふぅ……でもこれで一安心……」
「何が一安心なんだ?」
「え……あ、お兄ちゃん……」
全力で飛ばして逃げてきたため、疲れたので屋上で一息ついていると、後ろから馴染みのある男子の声が聞こえてきた。
振り向くと、同じ学校に通っている私のお兄ちゃんが立っていた。
「なかなか家に帰って来ないと思ったら……お前また人様の行動を勝手に覗き見してたのか?」
「え、あ、あはは、仕方ないじゃん私カラステングだし」
「なーにが仕方ないだ。無差別ストーカーとか笑えないだろ」
「う……」
私が人の様子を覗き見していた事を咎めるお兄ちゃん。
でも、この趣味ばかりは昔からのものなのでとてもじゃないが止められないし主張も譲れない。
「はぁ……うちの妹を変態にしやがって……勝手にお前を魔物にした例のリリムに会う事があったらとっちめてやろうか……」
「えーそれは駄目だよ! 私はこの身体気にいってるんだからさ! それに女性経験のないお兄ちゃんじゃリリム相手には勝つどころか見た瞬間射精しちゃうよ!」
「するか! というか女の子がそんな恥ずかしい事叫ぶな!」
ちなみに私はカラステングだが、お兄ちゃんは正真正銘私のお兄ちゃんである。
もちろんお兄ちゃんは人間であり、私も半年前までは人間だった。
ただ、半年ほど前に、旦那と従者のヴァンパイア夫妻と共に世界中を旅していると言うリリムの手によってこうして魔物のカラステングに変えられたのだ。
まあ、カラステングという種族になったのは私の人間観察の趣味のせいだろうけど。
「はぁ……まあいい、帰るぞ」
「う、うん……ねえお兄ちゃん」
「なんだ?」
「疲れたからおんぶして」
「はあ? お前この歳にもなっておんぶとか……」
「良いじゃん別に。この身体になってから驚くほど体重軽くなったんだし。それにこの羽のおかげでお兄ちゃんもぽかぽかだよ!」
「そういう事じゃ……はぁ、まあいいや……」
それに、お兄ちゃんには言っていないが……私が魔物になったのは、自分の意志である。
私の内に秘めた願いを叶えるために、たまたま見掛けたそのリリムに私を魔物に変えてと頼んだのだ。
「こんなところ見られたら何を言われるか……よいしょっと。しっかり掴まっていろよ」
「うん……ねえお兄ちゃん、この後さ……」
「あん? 何か言いたい事でもあるのか?」
「あ……うん、なんでもない……」
そう、私は……お兄ちゃんの事が好きなのだ。
もちろんそれは兄妹、家族として好きなのではなく……異性として好きなのだ。
人間である場合の近親婚はタブー……だから、私は問題が無くなる魔物に変えてもらったのだ。
でも、魔物になっても私は勇気を出せないようだ……半年経った今でも、お兄ちゃんに告白する事はできないでいた。
もし断られたら……それが原因でお兄ちゃんに距離を置かれるようになったら……そう思うと、想いを打ち明ける事ができずにいた。
でも、今日こそは……
「はぁ……」
「なんだよ急に……ん?」
「あ……雪……」
お兄ちゃんの背中で大きな溜息を吐きつつ学校を出たところで、空からふわふわとした白い物が降ってきた。
今度はケサランパサランの毛玉ではなく、正真正銘冷たい雪が降ってきた。
「どうりで寒いと思った……よし、急いで帰るか」
「そうだね……しかしホワイトクリスマスか……」
「ん? お前そんなロマン感じるほうだったっけ?」
「そりゃ女の子ですもん」
しんしんと降り始めた雪……このペースなら、おそらく積もるだろう。
普通の日ならただ雪が降ってきただけだが、今日はクリスマス。
つまり……これで今日はホワイトクリスマスになったわけだ。
「ねえお兄ちゃん……」
「ん? やっぱ何か用があるのか?」
「うん。今日ご飯食べた後、お兄ちゃんの部屋に行っていい? ちょっと他の人には聞かれたくない事言いたいからさ」
「んーまあいいぞ」
それに背中を押されたと言うわけではないけど……私は覚悟を決める事にした。
このままじゃ魔物としての本能も、そして私自身の気持ちも納まらないし、それにずっと苦しいままだ。
だから私は……今日、この後でお兄ちゃんに想いを伝える事にしたのだった。
「しっかし賑やかだな……クリスマスだからってはしゃぎ過ぎだろ」
「まあそんなもんだよ。むしろお兄ちゃんははしゃがないの?」
「子供の頃は楽しみにしてたけどな。こちとらモテないもんでね」
「はは……まあモテないのは私のせいだけどね……」
「ん? なんか言ったか?」
「気のせいじゃない?」
今日という聖なる夜に起きた、いくつもの幸せ。
「さて、飛ばすからしがみついてろよ!」
「うん、お兄ちゃん頑張って!」
その皆の幸せを少し分けてもらえるよう、私は雪降る夜空に願ったのだった……
今日はクリスマス。
この街でも、いろんな人達が賑やかに今日という日を楽しんでいます。
彼氏に巻き付きながら、窓から見える雪に感動するラミア
雪にも気付かず、部屋の中で楽しく笑いながら性交するケサランパサラン
男の子とチキンを食べながら、テレビゲームをして盛り上がっているバフォメット
一つのマフラーを彼氏と首に巻きながら、夜景の綺麗なレストランで食事をするイエティ
喫茶店で温かいお茶を飲みながら、恋の話で盛り上がるエンジェルとデビル
周りの人達の事なんて全く気にせず、愛する人と身体を交えているドリアード
気に入った男の人に買ってもらった美味しいケーキを食べて、無表情ながらも若干目を輝かせているサハギン
互いに抱き合って、幸せな夢を見ながら眠るドーマウス
美味しい料理に舌鼓を打ち、満足している旦那さんの笑顔に満足するウシオニ
そして……これから自分の兄に告白しようと、ドキドキしながら兄におぶられているカラステング
十人十色、多種多様な、今日という日の過ごし方。
しかし、その誰もが、今日という日を満足に過ごしているのです。
あなたはどうでしょうか?
誰かと一緒に過ごしていますか?
誰かというのは、一人の異性ですか? それとも複数人の同性の友達ですか?
家族と楽しくお喋りでもしていますか?
それとも一人でパソコンの画面でも眺めていますか?
どれであっても、それで満足ならいいのです。
満足じゃなくても、それはそれでいいのです。
この聖なる夜の過ごし方は、その人その人で違うのです。
幸せの基準、満足の基準も、その人次第なのですから……
メリー・クリスマス!
この日はどこぞの偉い神様の誕生日を祝う日だけど、この街の人達にはそんな事はあまり関係無く、ただ単にお祭り行事の一つである、そんな楽しい日。
今にも雪が降り始めそうな寒空の下、光り輝くイルミネーションが飾られた街路からひっそりとした路地裏まで、街の中では多くの人や人ならざる者達……魔物娘達で賑わっていた。
愛を育む者や一人寂しくその人達を羨ましそうに見ている者、また家族で楽しそうに食事している者にここぞとばかりに商売してる者など、本当に様々な者達が色とりどりな様子を見せている。
そんな彼ら彼女らが今日という日をどのように過ごしているか、少し覗いてみましょう……
=======[Case.1]=======
「うぅ……身体が冷えて思うように動かない……」
「おいおい……大丈夫なのか?」
まず目に入ったのは、居住区をゆっくりと歩く学ランを着た男子と、一見毛玉と間違えそうな程セーターやニット帽など毛糸で作られた衣服を着込んでいる下半身が蛇の女子……つまりラミアの二人組。
仲睦まじく歩く様子から、おそらくカップルでしょう。
クリスマスだというのに補講があってデートはできなかったみたいですが……こうして二人で仲良く歩いていますし、さほど問題はなさそうです。
「まあなんか雪でも降ってきそうな天気だからな……身体は本当に大丈夫なのか?」
「なんか眠い……」
「それ本気でマズくないか? 冬眠しかかってるんじゃないよな?」
「流石にそれは……ないとは言い切れないけど……」
「言い切れないんだ……」
ラミアは蛇の特徴を持つので、冬は、特に今日みたいに気温がもの凄く低い日は身体が冷えて動きも鈍くなってしまうみたい。
かなり厚着をしているのにも関わらず、身体を震わせ眠気を堪えながら道を這っていますね。
「ほら、もう少しで家に着くからさ、それまで頑張ろう」
「うん……」
彼氏も隣で彼女を応援しているようですが、それだけで暖かくなるほど単純なものではありません。
亀の方が速いんじゃないかというほどゆっくりとした速度で進むラミアは、今にも目を瞑ってしまいそうです。
「ほら、いざとなったら引っ張ってやるからさ」
「えー、できればおぶって……あったかい……」
「流石にラミアを持ち上げられるほどの力はないからこれで我慢してくれ」
「仕方ないなぁ……」
見兼ねた彼氏は、彼女の手を握ってあげました。
おぶってほしいと言った彼女は少し不満そうだけど、握られた手のひらから感じる温もりに笑顔が浮かんでいます。
微笑ましくもあり、羨ましくもありますね。
「ねえ、いっそ巻きついても……」
「歩けなくなるから家に着いてからな」
「ぶぅ……じゃあ早く帰ろう!」
「そうだな!」
彼の手の温もりで少し元気が出たようで、尻尾の先を少し彼氏に巻きつけてましたが、拒否されて普通に戻りました。
まさかのロールミー拒否で不貞腐れているようですが、家に着いたらしてもいいと彼氏の言葉を受け取り、さっきまでの遅さが嘘のように早々と移動を始めたようです。
どうやら彼氏の作戦が成功したみたいですね。
「今日は家に着いたら……じっくりねっとりとシてあげるから……ね❤」
「まったく仕方ないな……でもまずは飯食って体力つけたうえに身体を温めてからな。折角ケーキも買ってあるし、ずっとシ続けるんじゃなくてさ」
「勿論よ。私がケーキ食べさせてあげるからね❤」
「お、おう……恥ずかしいな……」
……なんだか2人の周りにピンク色のオーラが出ているような気がします。
路上にも関わらず自分達の世界に入り、アツアツのラブラブなのは別に本人達にとってはいいと思いますが、そんな様子を見ていると嫌な気分になる人がいるのもまた事実。
私も凄く羨ましいので爆発でもしてほしいと思いますが、そんな気持ちを抑えて、他の人の様子を見てみることにしましょう……
=======[Case.2]=======
「けっ……高校生のガキがイチャイチャしやがって……」
こちらは先程のラミアのカップルとは対照的に、どす黒いオーラを放ちながら居住区を歩く男性。
カップルとは反対方向へ進んでいましたが、すれ違う時に鋭く睨みつけてました。
そんな様子を見るに、どうやら彼は今日という日を一人で過ごしているようです。
「あーくそ! 俺だって彼女欲しいよー!!」
彼の悲痛な叫びは、周りの民家に響いていきます。
しかし……その声は誰にも聞こえていないみたい。
元々人通りが少ないうえ、家の中では子供達の元気な声で溢れていたり夫婦の営みが行われていたりと、外の声は耳に入らないようです。
まあ、聞こえてしまってもこの男性が困るだけでしょうけど。
「あーあ、サンタが彼女をくれたりしないかな……」
そうボヤく彼ですが、虚しさを含んだその言葉は、ただ寒空に溶けて消えていくだけでした。
暗い表情を浮かべながら歩く彼の言葉は、冬の空に虚しく響きます。
「…あん? 雪か?」
それと同時に、灰色の空から白くてふわふわとした粒が降ってきました。
「寒いと思ったら雪かよ……チッ面倒だなぁ……」
クリスマスにしんしんと降る白い雪……ホワイトクリスマスと言えばなんだかロマンチックですが、あまり関係ない身にとってはただ寒さが増加するだけ。
傘も何も持っていない男性は、雪が本格的になる前に帰ろうと、駆け出し始めた時でした。
「……あれ? これ雪じゃないような……綿?」
自身の身体に触れた白いものが冷たくなく、また溶けなかった事から、降っているものが雪ではない事に気付いたようです。
それはふわふわとしていて、息を吹くだけで飛んで行ってしまう軽い綿毛のようなものでした。
「なんでこんなものが……」
「わふー♪」
「へ……もぷっ!?」
何故そんなものが降ってくるのか……そう思った男性が上を見上げると、顔より少し大きいサイズの毛玉が降ってきて、顔の上に乗りました。
その毛玉の中には笑顔を浮かべている小さな女の子が入ってました。どうやら毛玉の正体はケサランパサランだったみたいです。
「こんにちはー♪」
「ぷはっ! こ、こんにちは……」
男性は困惑した表情を浮かべながら、顔に張り付いたケサランパサランを引き剥がしました。
彼女達の毛玉を吸った者は思考がぼやけて幸せな気持ちになるのですが、あまりにも唐突な登場で更には顔面にダイレクトアタックされた衝撃で現状あまり幻覚が効いてないみたいですね。
「わはー♪ おにーさん、元気出して!」
「えっ? げ、元気?」
「うん! 暗い顔はダメだよ! ニコーッ♪」
「に、にこーっ……」
そんな男性に、自分の毛玉を分散させながら笑いかけるケサランパサラン。
どうやら彼女がいない事を嘆き暗い顔を浮かべていた男性に笑顔になってほしくて降りてきたみたいです。
言われて笑顔を浮かべる男性ですが、どこかぎこちない感じがします。
「でもどーして暗い顔してたの?」
「あ、いや……なんでも……」
「なんでもないのに暗い顔してたの? あははおっかしー♪」
「笑うな! クリスマスなのに彼女がいなくて寂しくて暗い顔してただけだ! これでいいかチクショー!」
どうして暗い顔をしているのかを聞かれた男性は、流石に恥ずかしいのか誤魔化そうとしました。
しかし、誤魔化した事で笑われたからか、半分怒りながら理由を言ってしまいました。
それを聞いたケサランパサランは、少し考えたあと……
「へぇ〜……じゃあわたしがおにーさんの彼女になってあげる!」
「なんで俺ばっかこんな目に……え?」
ぶつくさと不貞腐れている男性に、満面の笑みで彼女になってあげると言いました。
突然の事で男性は思考が追いついていないみたいで、キョトンとした表情を浮かべてます。
「だからわたしがおにーさんの彼女になってあげる! そして笑顔になろっ♪」
「ほ、本当にかい?」
「うんっ! だから元気だしてね♪」
「お、おう! ありがとう!」
それでも段々と何を言われたのかハッキリとわかってきたようです。
徐々に男性にも笑顔が浮かび上がってきます……ケサランパサランと同じように、明るい笑顔が。
「あはははっ♪ 元気元気〜♪」
「あははは〜♪ サンタさんプレゼントありがとう♪」
まさにサンタがくれた彼女というプレゼントに、先ほどまでのどす黒いオーラは微塵も残ってないほど上機嫌になった男性。
「ねえおにーさん、わたしとエッチな事しよ!」
「えへへ、いいよ。だって俺達カップルだろ? チュッ♪」
「んっ! やんっ♪ おにーさんだいたーん!」
それに、ようやく幻覚が効いてきたのか、だらしなく笑顔を浮かべながら、ケサランパサランの誘いに乗ってしまいました。
軽く啄ばむようなキスをして、なんと路上だというのに彼女の胸を撫で始めたのです。
「でもー、ここは寒いから、おにーさんのお家でシよーね!」
「そうだね! じゃあ急いで帰ろー!」
「おーっ♪」
ケサランパサランも自身の毛玉を男性に降らせていたように、最初からその気だったためか、笑顔に艶かしさが浮かんできました。
しかし、流石に外でしかも人通りが少ないとはいえ路上ではマズいという知識はあったのか、それとも言葉通り寒いからというだけか、家に連れて行くように頼みました。
おそらくここまで彼女の作戦通りでしょう……恐ろしいですが、それで一人の男性に幸せが訪れたのですから良しとしましょう。
「しっかり捕まってるんだぞ!」
「わっふー! はやーい♪」
男性はケサランパサランが飛んでいかないようにしっかりと手のひらで包んで走り始めました。
これ以上追いかけても男女の営みが見られるだけなので、また他の様子を見てみる事にしましょう……
=======[Case.3]=======
「それではバフォ様、私はお兄ちゃんとお出掛けするのでこれで失礼します」
「わかったからさっさと帰って兄上とお出掛けでもなんでもしてくるのじゃ」
お次は、先程の道から少し進んだ所にある小さな公園。
そこには、二人の幼女達が今にも別れるところでした。
幼女と言っても、公園に残る方は山羊みたいな姿をした魔物……つまりバフォメットなので、今公園から走り去った女の子はきっと魔女でしょう。
「あーあ、クリスマスなんてつまらんのじゃ……」
どうやらこのバフォメットにはお兄ちゃんがいないみたい。
ブランコに乗って不機嫌そうに頬を少し膨らませ、魔女が去って行った方向をジッと見つめています。
「兄上がおらぬ魔女達が集まってクリスマスパーティーをしとるようじゃが……流石にそれに混じるのは無しじゃな……今日は予定があると言ってしもうたし、プライドがあるからのぉ……」
自分の部下達がパーティーをしているところに行くのは上司として嫌らしく、そう呟きながら誰もいない公園でブランコを漕ぐ彼女。
こんな所で一人ブランコで遊ぶ姿を他の魔女に見られたほうがプライドがあるならマズい気がしないでもないですが……まあ、本人は気付いていないのでしょう。
「さてどうするか……一人でケーキを1ホールやけ食いでもするかのう……」
つまらなそうにブランコを漕ぎ続けるバフォメット。
「はぁ……」
「あれ? 君は見掛けない子だね? どうしたの?」
「おん? なんじゃガキか」
そんな彼女のもとに、一人の男の子が近付いてきました。
「ガキって君も同じぐらいじゃんか」
「違うわい! ワシはこれでもお主のおばあちゃんよりは歳上じゃ!」
「うっそだー! そんなおばあちゃんみたいな喋り方しても君はどこからどう見たって僕と同じぐらいの歳じゃんか!」
「嘘じゃないのじゃ!」
見た目だけなら、たしかにバフォメットと同じぐらいだろう男の子。
こうしてムキになっている姿がより一層そう見えてしまいますね。
でも、このバフォメットは少なくとも80年前にはこの街に生存していた事が確認できるため、嘘はついてないでしょう。
バフォメットというのはどれだけ歳をとろうと、幼い女の子の見た目から変わる事がないので、実年齢が男の子のおばあちゃんより上と言うのも信憑性はあります。
それでも男の子が頑なに信じないのは、おそらくバフォメットという魔物の事をよく知らないからでしょう。
「まあおばあちゃんより上でも下でもいいや。君、こんな所で一人で何してるの?」
「そ、それは……」
そんな男の子は、彼女に禁断の質問をしてしまいました。
やはり高いプライドでもあるのか、見知らぬ男の子相手だというのに「彼氏がいなくて魔女達の中にも混ざれないから一人ぼっち」という理由も言えず、ずっとまごついています。
「そ、そういうお主はどうしてここにおるのじゃ? 子供は両親とクリスマスパーティーでもしとればよかろうに」
「……」
「な、なんじゃ? 急に寂しそうな顔をして…ワシは聞いてはいけない事を聞いたのか?」
自分は言いたくないからか、同じ質問を男の子にしたバフォメット。
でもたしかに、ほとんどの子供達は家族でクリスマスパーティーをしていたり、またサンタからのプレゼントは何かなと楽しそうに家族に話していたりしています……一人で公園に来たこの男の子は少し様子が変です。
案の定ワケありみたいで、聞かれた瞬間元気だった顔が一気に沈みました。
「仕方ないじゃん。パパもママも今日はお仕事で帰りは真夜中になるんだもん」
「……そうか……それは寂しいのう……」
「うん……だから公園に誰かいないかなと思って来たんだけど……」
「ワシしかおらんかったと……まあ寒いし、クリスマスじゃからのぅ……」
どうやら男の子の両親は今日も仕事で家にいないみたいです。
クリスマスとはいえ、全員が休みというわけではないですからね。
誰かが働いているからこそ、遊園地や水族館などでデートしたり、美味しいご飯が出るレストランで好きな人と食事したりできるのですから。
ただ、両親とも働いているせいで、この男の子は寂しい思いをしているみたい。
だから公園に友達がいないか様子を見に来たのでしょう……ですが、ご覧の通りこの公園にいるのは男の子のバフォメットの2人だけでした。
「あ、そうだ。ねえ君、ここに一人で居るって事は僕と同じようなものなの?」
「えっ、ま、まあそうじゃな。ワシも家に帰っても誰もおらんから暇じゃのう」
「そっかー。じゃあさ、僕の家に一緒に来てよ!」
「……はあ!? いきなり何を言うのじゃ?」
ふと顔を上げた男の子は、目の前にいたバフォメットに自分と同じようなものかを確認した後、笑顔で自分の家に来ないかと言い出しました。
男性から家に来るように誘われたのなら魔物ならば何も考えずにほいほい付いて行って(性的な意味で)食べてしまいますが……この場合は自分の趣味と違うどころかまだ精通前の男の子が相手な事もあり、少し戸惑っています。
「いいから一緒に来てゲームでもしようよ! チキンとかケーキも一人で食べられない量あるしさ、一緒にクリスマス楽しもうよ! 一人じゃつまらなくても、二人なら楽しいよ!」
「なっ!? どわあっ!」
ですが、そんな事はお構いなしに男の子はバフォメットの手を握り、引っ張って駆け出し始めました。
驚き、よろめきながらもバフォメットはなんとか転ばすについていきます。
「おおっ!」
「な、なんじゃいきなり変な声出して……」
「君の手、ぷにぷにしてて気持ちいいし、それにあったかいね」
「……ふふん、そうじゃろ! お主の手もあったかいぞ」
「そうかな? 冷たいと思うけど……」
「そうじゃの。でも、ワシにはあったかく感じるのじゃよ」
「ふ〜ん……変なの……」
バフォメットは一応獣型の魔物ですから、その手は体毛に包まれているので暖かいし、また肉球もあって感触は気持ちいいでしょう。
男の子は自分が握った手がそういう手だと気付いたようで、素直に感想を言いました。
それを聞いたバフォメットは、途端に嬉しそうな顔をして、相手の手を強く握り返しました。
男の子の手はこの寒い中で冷え切ってますが、彼女には温かく感じるようです。
「で、お主の家はどこにあるのじゃ?」
「え……本当に来てくれるの?」
「そこまで言われたら行くに決まっておる。ほれ案内せい。一緒にクリスマスを楽しもうなのじゃ」
「うん! じゃあ付いてきて!」
最初は子供だからと相手にしてなかったバフォメットですが、どうやら積極的に手を握られ、また褒められた事で考えが変わったようです。
「……あと数年、ワシの兄上に相応しく成長するまで待つとしようかのう……」
「ん? 何か言った?」
「なんでもないのじゃ」
今はまだだけど、将来は兄になってもらおう……バフォメットはそう考える事にしたようです。
掴まれた手を、バフォメットのほうからもギュっと握り、一緒に男の子の家へと歩き始めました。
「ほれ、雪が降り始める前に急ぐのじゃ!」
「そうだね! 急いで帰ってまずは……ゲームでもやろうか!」
「ゲームか……あまり激しいのは得意ではないぞ?」
「大丈夫! 色々あるから、君に選ばしてあげる!」
「ありがとなのじゃ♪」
嬉しそうに笑顔を浮かべながら公園を去って行く二人……これで、二人とも寂しいクリスマスにならずに済みそうですね。
二人の間に割り込むのもなんか悪いので、次はイルミネーションの輝く街の中心部の様子を見る事にしましょう……
=======[Case.4]=======
「ムフフ〜♪」
「えらく機嫌がいいな……何かあったか?」
「だってぇ、君と一緒にお買い物してるんだよ。機嫌も良くなるよ〜♪」
「そ、そうか……ハッキリ言われるとなんか恥ずかしいな……」
光り輝くイルミネーションに飾られた街の中心部。
様々な店が立ち並んでいることもあり、先程までと比べて明らかに人通りが多いです。
その中でも、やたらと互いの身体を密着させている、1組の白いカップルが目に付きました。
「ところでどこに向かっているの?」
「うーん……大雑把に言えば服屋、かな……」
「なんで? 寒いの? じゃあもっと暖かくなるように抱きしめてあげる!」
「いや、充分暖かいよ。それにこれ以上抱きつかれるとその……押し付けられたもので興奮して路上でヤりたくなっちゃうから控えめでお願い」
「えー」
雪でも被ったかのようにやたら白い2人ですが、よく見たら女性の方は身に着けているものはマフラーだけのようで、あとは褐色の肌にもこもことした白い毛皮に覆われているみたい……角などはないので、どうやら彼女はイエティのようです。
男性の方も白くもこもことしたジャンパーを着て、まるでペアルックのようになっています。
やたら密着しながら歩いているのは、ラブラブなのは勿論、彼女がイエティだからでしょう。
「いいじゃん私たちの愛を皆に見せつけちゃおうよ!」
「ダメだよ。マナーというか法律違反もいいところだし、それに……」
「それに?」
「君のあられのない姿を他の人に見せたくない」
「んふっ♪ じゃあ仕方ないね。これくらいのぎゅ〜で我慢してあげる!」
駄目とか何とか言いながらも、満更そうでもない彼氏。
どこからどう見てもラブラブなカップルに、少し妬いてしまいそうですね。
「ぎゅ〜♪」
「ふふ……あ、着いたぞ」
「ん? ああ、あの茶色のお店? 私ここは来たことないなぁ……」
「そっか。それは丁度良かった」
そんな2人が向かった先は、木造の質素なお店でした。
とは言っても、クリスマスに合わせて控えめながらも装飾はされています。
外見からはどんなお店なのかイマイチわかりませんが、小さな窓の向こうに洋服が見えますし、彼氏の言ったとおり服屋なんでしょう。
「じゃあお店に入ろうか」
「うん。でも珍しいね。君はあまりこういったお店には行かないものだと思ってたよ」
「まあね。今回はちょっとね……」
「ん〜?」
店の前についたカップルは、木製の扉を開けて中へ入って行きました。
「いらっしゃいませ」
「わあっ! 可愛い服がいっぱいあるね!」
「ありがとうね。この服は全部私の手作りなの」
「えっそうなんですか! ほえ〜さすがジョロウグモさん……」
店内に入ると、フリル付きの服から成人式で着るような着物まで、様々な服が飾られていました。
それ以外にもタオルやニット帽など、編み物が多く展示されています。
そして、店にはジョロウグモが一人……どうやらこのお店の店長みたいで、ここにある服は皆彼女が作ったものみたい。
女物が多くて男物が皆無なのはそのためでしょう。
「すみませーん、注文してた者なんですが……」
「ええわかってるわ。オーダーしてくる男性は少ないし、その中でもあれを注文する事はまずないから、あなたの事はよく覚えているわ。少しそこで待ってなさい」
「あ、はい。ではお願いします」
このお店に何の用があるのかと思えば、どうやらオーダーメイドを頼んでいたみたいです。
「なになに? 何か作ってもらったの?」
「まあね。何かはまだ秘密」
「むぅ……服なんでなくても私がぎゅ〜ってしてあげるのに……」
「それだと一緒にお出掛けできないでしょ。それに、俺のじゃないし服でもないよ」
「えっ? じゃあ何?」
服屋で服ではない物を注文しているらしい彼氏。
それが何か思いつかない彼女は、頭の上にはてなマークを浮かべています。
「ほら持ってきたわよ。出来前は完璧よ。あとはあなたの好きにしなさい」
「はい。ありがとうございます!」
と、そこへ丁度店長が戻ってきました。
そして、そこそこ大きいサイズの袋に入った商品を男性へと渡しました。
「ねえねえ、これ何?」
「これはね……君へのクリスマスプレゼントさ!」
「えっ!? ほんと!?」
そしてその袋を、彼氏は彼女にクリスマスプレゼントと言って差し出しました。
突然のプレゼントに、彼女も驚いています。
「な、なんだろ……」
「開けてみてよ。一応デザインは俺が考えたんだけど……」
「どれどれ……わあ〜っ!」
袋を受け取った彼女は、早速中に入っているものを取り出しました。
そこには……コバルトブルーの生地に、白い線が入っている、先にイエティの毛皮のようにふわふわした毛が付いている、とても長いマフラーでした。
「どうかな……あまり服や帽子を着ている姿を見た事ないから、よく身につけてるマフラーにしたんだけど……」
「わあ〜!! ありがとうー!! 大好きー! ぎゅ〜❤」
「わっとと……」
たしかに、自身の体温と毛皮のおかげで服を着ていない彼女が身につけているものは、下着と少し古くなっているマフラーだけ。
だからこそ、彼は彼女に自分でデザインを考えたマフラーをプレゼントすることにしたのでしょう。
大好きな彼氏からのプレゼントに、イエティの彼女は愛情たっぷりと抱きつきます。
「早速着けてみてよ」
「うん! ふっふふ〜♪ ぬくぬく〜♪」
彼氏に着けてみてと言われ、上機嫌でマフラーを首に巻いていく彼女。
結構長いマフラーなので、首元がかなりもこもことしそうです。
「あ、そうだ! ねえねえちょっと近くに来て」
「ん? なんだ……わっ!」
「にへ〜♪ 長いから2人でマフラーしよ!」
着けている途中でイエティの動きが止まり、彼氏を呼びました。
どうしたのかと近付いた彼氏を抱き寄せて、まだ巻いていなかった部分をそのまま彼へと巻きつけました。
「あらあらお熱い事ね。ま、そうなるように長めに作ったのだけどね」
「ぬふふー♪ 二人マフラー❤」
「は、恥ずかしいな……」
抱き寄せたまま2人で一つのマフラーを巻いて、幸せそうなイエティ。
彼のほうも、恥ずかしそうに顔を赤くしながらも満更でもなさそうです。
「じゃあ次のお店に行こうか。普通のレストランだけど、そこでご飯を食べよう」
「うん! 君と一緒ならなんだっていいよ!」
アツアツな2人の世界を作りながら店を出た2人。
他のどんなカップルと比べてもラブラブな二人の様子に、周りの人達も羨ましそう。
かく言う私も、もの凄く羨ましくて、少し悔しく思います。
このまま二人の様子を見ていても良くない感情が湧き上がってくるので、また別の人の様子を見ることにしましょう……
=======[Case.5]=======
「く、クリスマスケーキいかがですかー!」
「あ、間に合ってます」
「そ、そうですか……クリスマスケーキいかがですかー!」
先程のお店から少し離れた、人通りの多いメインストリート。その中でも一際輝く大きなクリスマスツリー。
その真正面のお店の前で、サンタクロースの衣装を着ながら、一生懸命ケーキを売っている少女がいました。
「はぁ……全然売れない……まったく、どいつもこいつも神に祈らず不純異性交遊なんかしてなんて罰当たりな……せめてこの健全な食材しか使ってないケーキぐらい買って行きなさいよ……」
いや、よく見ると少女の背中には白い翼、頭上には光の輪が見えます。ですから、少女はエンジェルでしょう。
「まあ……生活費の為にこんなところでアルバイトしている私が言えたものではないでしょうけど……神よ、魔物の巣窟でお金を稼ぐ私をお許しください……」
しかも、言動的に彼女は魔物化していないエンジェルのようです。
そんな彼女がこんなところでアルバイトを行っているというのは少し不思議ですが……おそらく生活が余程苦しいのか、給料がその苦労以上に貰えるからなのでしょう。
どちらにせよ大変そうです。
「クリスマスケーキいかがですかー! 甘くて美味しい健全なケーキですよー!」
「1つください」
「はい、ありがとうございます! もう1ついかがです?」
「えと……1つでいいです」
そんな彼女の目の前にある机の上には大量に置かれているケーキの山……中々売れていないみたいです。
寒空の下で寒さに耐えながら一生懸命呼び込んでいますが、あまり人は寄ってきません。
それもそのはず。魔物が憎いのかカップルが憎いのかは定かではありませんが、先程から黒い影と憎しみの表情が顔に表れているのですから、近付こうとはなかなか思えないのですから。
「はぁ……やっぱり魔物は魔界産の果物を使用したいかがわしいケーキのほうがいいのかな……こっちの方が絶対いいのに。舌が腐っているんじゃないですかね……」
「まあ、今日はこの後魔物だけじゃなくて人間だって聖夜ならぬ性夜だろうからね。そういう効果があるほうがいいんじゃない?」
「そうですか……はぁ……なんて穢らわしい……ん?」
中々売れない事に気分が悪いエンジェルは、ますます怖い顔を浮かべながら下を向きながら文句を言っています。
そこへ、別の女の子の声が聞こえてきました。
「あらあら、あまり売れてないみたいね」
「……ようやく帰ってきましたか……ケーキを売らずどこで油を売っていたのですか?」
エンジェルの目の前には、同じようにサンタクロースのコスプレをした少女が……背中に生えている蝙蝠状の翼や蒼白い皮膚、そして白目が黒いところからして、この少女はデビルでしょう……が、呆れ顔で立っていました。
エンジェルの彼女と同じ服を着ているのに、どこか扇情的に見えるのは何故でしょうね。
「あら、私はきちんとケーキを売ってきたわよ。ほら、20個分の代金」
「あ……そ、そうですか……20個も……」
「見た感じそっちは開始からまだ10個も売れてないみたいね」
「ぐぬぬ……」
どうやらこのデビルの少女も彼女と同じくケーキ販売のアルバイトをしているようです。
自分が売ってきた分のケーキ代金をレジの中に入れました……その量は、明らかにエンジェルが売った分よりも多いです。
てっきりサボっていたと思っていた相手が自分より商売してきたのを目の当たりにし、可愛い顔を歪にして悔しがっています。
「いったいどんな汚い売り方をしてきたのですか?」
「ん? 別に普通に売ってきたわよ。しいて言うなら彼女がいない男に狙いを定めて、愛嬌良くしたぐらいね。少なくともあなたが考えてるような手は使ってないわよ?」
「だ、だれが何を考えてるって言うのですか!」
「何も言ってないわよ。まあ、自分でもデビルらしくないとは思うけど……ま、私は単に彼氏彼女がいない人達の暗い顔を明るくしたいと思って声を掛けて、ついでにケーキを売ってきただけよ」
「……」
「それでデビルなのに消極的だなと思わせてギャップに萌えた男のうち誰か1人ぐらいは私にまた会いに来てくれるかもしれないしね! そうしたら腑抜けにし放題だもの!」
「……途中少しだけ感心したのが馬鹿でした……」
動機はともかく、商売の腕はデビルの少女のほうが上手みたいですね。
「まあ、一つだけアドバイスするなら……まずは明るい顔をしたら?」
「明るい顔……? 私、そんなに暗い顔してましたか?」
「あれ、気付いてなかったの? 今すぐリア充どもを殲滅してやると言わんばかりの負のオーラを撒き散らしてたわよ」
「別にそんな風に思ってませんが……たしかに、ちょっと悪い感情に飲まれそうになっていた気はします……」
そんな彼女は、エンジェルの少女に簡単なアドバイスをしました。
どうやらエンジェルは自分が負のオーラを撒き散らしながら呼び込みをしていた事に気付いていなかったみたいで、かなりショックを受けた様子を見せました。
「まあリア充爆発しろって事を思っていないとしたら、魔物憎しってところかしらね」
「……はい……」
「あなたは魔物化していないエンジェルだし、そう考えるのもわかるわ。でも、この仕事を選んだのもあなた自身なのよ?」
「……確かにそうですね」
近くにある巨大なツリーが多彩な光に輝いており、丁度客もそっちに注目していて捕まりそうにないタイミングだからか、デビルの彼女はエンジェルの彼女とお話を始めました。
諭すように、それでいて優しく語りかけるデビルの彼女……傍から見た限り、邪悪な姿からは全く想像できないような、世話焼きのお姉さんです。
「そうですよね……魔物なんか、とか思いながら商売をするのはよくないですよね……」
「そうね。私達は魔物とは言ってもさ、ただの恋する女の子なのよ。特に今日は、愛する人と一緒に時を過ごしているだけ。それっていけない事かしら?」
「……いえ、そう考えるのであれば、悪い事ではないと思います」
「でしょでしょ? あなただって恋の一つや二つ、した事あるんじゃない?」
「……はい、あります」
「ほらね。人間も魔物も神族も皆一緒よ! そう考えれば、魔物だからと憎むのは間違ってると思わない?」
「それは……まあ、そうかもしれませんね」
デビルの少女とお話をしているうちに、エンジェルの少女の中で何かが変わってきたようです。
黒いオーラは徐々に薄まっていき、自然な笑みがこぼれ始めました。
「さてと、じゃあこのケーキをちゃっちゃと全部売っちゃおうよ。今度は二人で一緒に、ね♪」
「はい! 頑張りましょう! ケーキいかがですかー!!」
「甘くて美味しいケーキ、おひとついかが? この後のエッチにおいて魔界の食べ物の力を使わず自分の技量だけで彼氏旦那様を魅了したいと思っている人にはお勧めよ」
「もちろん、普通に食べる分にもお勧めですよ。甘過ぎず、程良いデザートにもなりますよ!」
そして、元気に商売を再開し始めました。
今度は二人一緒に笑顔で……その可愛らしさから、多くの人が集まってきました。
「一つ500円です! はい、ありがとうございます!」
「美味しかったらまた買ってねー! ねえ、これが終わったら一緒にお茶しない?」
「え……いえ私は……」
「大丈夫、10時終わりだし1時間ぐらいならまだその後で神にお祈りする時間はあるわよ。女の子同士、恋バナでもしましょ。もちろん健全な範囲でね」
「そう……ですね。終わったら一緒にお茶でもしましょうか!」
「ええ! あなたは多分あまりこの街の事知らなそうだし、私がすっごく美味しい紅茶とケーキがあるお店、教えてあげる!」
それに、二人の仲も良くなったみたいです。
客の列が途切れたタイミングで二人はまた少しおしゃべりして、バイト後に喫茶店までお茶を飲みに行くことに決めたみたい。
良い笑顔を浮かべる二人の少女達が織り成す恋バナにも興味がありますが……なにやらクリスマスツリーの方から気になる気配を感じたので、そちらに向かってみる事にしましょう……
=======[Case.6]=======
「うっわ……なんか人がいっぱい集まっているな……」
「キラキラしてるから仕方ないよ。落ち付かない?」
「まあ……今までそんなに注目されるような人間じゃなかったからね。どちらかと言えば休みの時間は教室の隅っこで読書してるタイプだったし」
「そうだね。アナタは年齢が上がるにつれて大人しくなった印象があるよ」
不思議な気配を辿ってみたところ、それは一際輝く大きなクリスマスツリーの内部から感じていました。
神通力を使って樹の内部を覗いてみると……そこには一組の男女がいました。
樹の内部で普通に居られる人なんて、ドリアードとその夫ぐらいなので、二人はそうなのでしょう。
「ごめんね。でも、こればかりはたとえアナタの為でも断れなかったから……」
「わかってるよ。このクリスマスツリーを毎年楽しみにしている子供達が大勢いるからだろ?」
「うん。毎年、私の宿るこの樹がキラキラと光輝いているのを見て笑顔になる子供達を見るのが好きだったから……今はアナタの笑顔が一番だけどね」
「それは嬉しいな。でも、僕もこの樹をクリスマスツリーとして飾るのは賛成だよ。なんたって数年前は僕もこのツリーを見て笑顔になっていた側だったからね」
「そうだね、よく覚えているよ」
派手な飾りや迫力ある大きなツリーに人々が注目しているので、まるで中にいる二人も注目されているように感じるのでしょう。
男性の方が少し恥ずかしそうにしていますが、それと同時に懐かしそうにしています。
今の言葉からして、おそらく男性も元はこのクリスマスツリーを見て笑っていた子供達の中の一人だったみたいです。
「ツリーの天辺に飾られている星を取ろうとしてよじ登って落ちた挙句怒られたりさ……一応樹の根を動かして受け止めてあげたけど、痛いし怒られるしで涙目になっちゃって……」
「ちょっ!? なんでそんな事覚えてるの!?」
「アナタの事はなんだって覚えているよ。次の年はたしか……故意ではないとはいえ枝を一本折っちゃったりとか……」
「ご、ゴメンって! まさか適当に蹴りあげた石が樹に当たるとは思っていなかったんだよ!」
「さらにその半年後の夏には、何か虫が居ないかと思いっきりこの樹を何回も蹴り飛ばしてたっけ……あの時は痛くて苦しくて……あの餓鬼いつか産まれてきた事を後悔するような凌辱をしてやると考えたかな……」
「ひぃっ!! ご、ごめんなさい!!」
「ふふ……ウソウソ冗談よ♪ 子供は元気が一番だもの。あれぐらいじゃ私はビクともしないしね」
その頃の出来事を思い出して、ドリアードさんはあえて恥ずかしくて忘れたい事を話題に出して楽しそうに旦那さんを苛めています。
確かこの樹は先程のバフォメットがこの街に生存していたことが確認できる年よりも前から存在しているので、このドリアードさんは相当長生きしているでしょう。
その中で選んだのがこの男性……よっぽどドリアードさんにとって印象深かったのでしょうか。
「でも、初めてだったんだ。私を、正確にはこの樹をずっと見てくれた男の人ってさ」
「えっ、そうなの? だから僕を樹の中に閉じ込めたのかい?」
「その言い方はアレとしてもその通りよ。子供の時からもずっと、それこそクリスマスの時以外でも私の事を見てくれてたからね。将来旦那にするならこの子かなって、アナタが小学校高学年の時から思ってた」
「そっか……でも、そのおかげで君とずっと一緒になれたんだからよかったよ。筆卸をされた時から、僕の頭には君の顔しかなかったからね」
「もう……恥ずかしい事真正面から言わないでよ〜照れちゃうじゃんか〜!」
だからこそ、自分の宿る樹に男性を閉じ込めたらしいドリアードさん。
樹の中に閉じ込められた男性はやがて樹と同化し、彼女と同じ寿命になるので、ずっと一緒というのは間違っていません。
そんな事を笑顔で夫に言われたドリアードさんは、顔を真っ赤にして照れています。
それと同時にクリスマスツリーの飾りも強く輝きました……どうやら樹の飾りは彼女と連動しているみたいですね。
照れていてもどこか嬉しそうなドリアードさんに合わせ、オーナメントも種類毎に激しかったり、幻想的に輝きを放ちます。
「ところで、今まで聞くタイミングがなくて聞いていなかったけど、どうしてアナタはずっと私を見ていたの? 他の人達はクリスマス前後の飾りが付いている時ぐらい、それも2,3年ぐらいしか見る事ないのにさ」
「んー、最初はこのツリーが綺麗だったからかな」
「ちぇー、やっぱりかー」
「仕方ないじゃん。この樹にドリアードが宿っているって知ったのは中学になってからなんだからさ」
「そうだけどー……なんか樹に負けた気分がしてつまんないの……」
そして、逆に不機嫌になると輝きも落ち着くようです。
もうすっかり空は暗くなっていますが、辺りを昼間のように明るく照らしていたクリスマスツリー。それが今は蛍の光のように淡い物になっています。
「あ、じゃああのテストが赤点でこの樹の根元に埋めようとして私が話しかけた時に初めて気付いたの?」
「ま、まあそうだけど……って本当に人が忘れてほしいと思うものばかり覚えているなぁ……」
「言ったでしょ? アナタの事は全部覚えているって。それにしてはそう驚いていなかったような……」
「その頃にもなればある程度魔物の知識はあったからね。むしろこの樹にもやっぱりドリアードがいたんだという思いの方が強かったよ」
「そうなんだ。すぐスイマセンって謝ってて、可愛いと思ったのよね〜」
思い出話で少し盛り上がっているからか、今度はイルミネーションのように光が模様を描くように点滅しています。
これは一種の芸術品です……道行く人達の中には、このツリーを動画に納めている人もいます。
「可愛いと……あのさ、もしかしてだけどさ……」
「そうだよ。だからあの後襲っちゃった♪」
「襲っちゃった♪ じゃないよもう……初めてがあれって相当ショックだったんだからね……もっと互いに好きになった相手と良い雰囲気の中ベッドの上でやると思ったら野外で逆レイプだったなんて……」
「ゴメンね。でも自分が発する喘ぎ声に恥ずかしかったり罪悪感を感じたりしながらも私のナカで熱くて白い物を迸らせるアナタのあの時の顔……思い出すだけでゾクゾクしてきちゃう……❤」
「僕は思い出すだけで身体がおまえと別の意味で火照ってくるよ……」
さらには……興奮してくるとツリー全体に妖しい光が灯りました。
見ている者を桃色の淫気に取り込むような光……異変をいち早く察知したさっきのデビルがエンジェルと一緒に独り身らしき人達や人間のカップルを避難させていますが、淫気にあたった魔物達はその場で彼氏や夫を襲っています。
「なんだか濡れてきちゃったし、あの時のように可愛らしい声で鳴かせてあげるね❤」
「お、お手柔らかに……このSっ気に興奮する辺り自分はマゾなのか、それとも調教されたと考えるべきなのか……うっ」
「そんな考えはすぐに気にならなくしてあげるね」
そして、夫婦の交わりと同時に始まったクリスマスツリーを中心とした青姦乱交パーティー……
このままこの場にいると私も興奮してお股が濡れてきてしまうかもしれないので、急いでこの場を離れる事にしましょう……
=======[Case.7]=======
「はぁ……」
街の中心部から離れ、街外れにある小川の脇にある道路。
そこでは、一人の中年男性が大きな溜息を吐きながら、佇んでいました。
「今年は一人か……はぁ……」
どこか哀愁が漂う中年男性……去年までは一人じゃなかったという事は、彼女に振られたのか、奥さんと離婚でもしたのでしょうか。
「一緒にいた時は鬱陶しいとしか思わなかったのに……いざ離れるとわりと寂しい物だな……」
魔物からしたら中々信じられませんが、人間同士では時には上手くいかずに別れる事もあります……どこか哀愁が漂っているのは、そのせいかもしれません。
「はぁ……今年の冬は長く冷たい物になりそうだな……」
こんな時間に足下の小石を拾って一人で川の中に投げ込む姿は、とても寂しいものです。
冷たい風が容赦なく男性を襲いますが……それを防いでくれる人は誰一人いませんでした。
「はぁ……ん?」
しかし、何度目かわからない溜息を吐きながらこれまた何度目かわからない小石を投げた時でした。
男性の目の前の水面に、突然大きな波紋が現れました。
もちろん、男性が投げた小石による物ではありません。それにしては大き過ぎる波紋が浮かんだのです。
「な、なんだ……うわっ!?」
何が起こっているかわからず、しばらく男性が身動きを取らずにじっとその波紋を見ていると……細かい泡が浮かんできたと思ったら、女性の髪の毛が川底から浮かび上がってきました。
思わぬ物の登場で、男性は驚き後退ります。
「じー……」
「わ……あ……と……サハギン?」
「じー」
いや、髪だけではなく、無表情な女の子の顔や鰭の付いた耳なども水面に浮かび上がりました。
どうやらたまたまサハギンの少女がその場を通りかかっていたみたい。
表情から感情が全く読めないので怒っているのかはわかりませんが、髪の毛には先程この男性が投げた小石が引っ掛かっています。
「あ……ご、ゴメン……」
「……こく」
自分の投げた小石が引っ掛かってる事に気付いた男性は咄嗟に謝りました。
ですが、どうやらその事に対して怒っていたわけではないようで、少しだけ頷いた後もじーっと男性を無表情のまま見つめています。
「……」
「……」
「……」
「……」
「えっと……何か用、かな?」
「……」
何が何だかわからない男性は、サハギンと同じようにジッと様子を見ていましたが……なんとも言えない気まずい沈黙にとうとう痺れを切らして、何か用かと尋ねました。
しかし、サハギンは無口な魔物……尋ねても一向に回答は返ってきません。
「……」
「えーっと……本当に何用?」
「じー」
そのまま一言も発する事無く、中年男性にゆっくりと近付くサハギン。
スク水みたいな鱗も、魚の鰭のような尻尾も、そして水掻き付きの手足も水面から出てきて、とうとう陸地に上がってきました。
そのまま表情を変える事も、言葉を発する事もなく、男性の隣まで移動します。
押し倒す為に近付いているにしては動きがゆっくり過ぎですし、かといって男性の様子からして知り合いというわけではなさそうですので、本当に謎です。
「あの……用がないなら帰るけ……!?」
「……」
「えと……その……これは……」
「なでなで……」
特に何かしてこない為、とりあえず帰ろうとした男性に、ついに動き始めたサハギン。
鱗に覆われた手をシュッと伸ばしたかと思えば、男性の頭を優しく撫で始めました。
突然の行動に驚く男性。物事があまり考えられないのか、言葉がハッキリと出てきません。
「いったい……何を……?」
「……悲しそうだった……慰めてる……」
「え……あ、うん……ありがとう……」
それでも搾り出した疑問の言葉に、ようやく言葉を発して返答したサハギン。
どうやら水中から寂しそうにしている男性を見掛け、慰めに来たようです。
表情からは全く読み取れませんが、そんな男性の様子に心配していたみたい。
「ぎゅ」
「わわっ、冷たい」
「元気出せ……」
「あ、うん……」
頭を撫でるだけでなく、さながらイエティのように男性にぎゅっと抱きつくサハギン。
おそらくこれも男性を慰めるためにしているのでしょう……問題は、ついさっきまで冷たい川に入っていた為全身濡れており、それが男性の服にも滲みて冷たそうです。
まあ、それでも男性は少し笑顔になっています。
どうやら久々の人のぬくもりに少し安心しているみたいですね。
「ありがとう。少し元気がでたよ。それじゃあ……」
「ふるふる」
「ん? どうかしたのかい?」
ちょっとだけ寂しさを解消できた男性は、お礼を言って家へ帰ろうとします。
ですが、サハギンは首を横に振って離そうとしません。
「……わたしも一緒に行く……」
「え……まあ君みたいなかわいい女の子が来てくれると嬉しいけど……でもいいのかい? 家は川から距離があるけど……」
「いい。行く……」
足を絡ませ、胸を押しつけながら家までついていくと言うサハギン……きっと、男性の事が好きになったのでしょう。
その場で押し倒しまではしてませんが、交わる気満々なその愛情表現がそう物語っています。
表情の変化が乏しい彼女達サハギンの、溢れんばかりの愛情表現ですからね。
「わかった。じゃあついてきてね」
「こくん」
「あ、でもその前にケーキでも買って行くかい? 折角のクリスマスだしさ」
「……ケーキ? 何それ?」
「おや知らないのか。甘い食べ物の一つだよ。じゃあ教えてあげるためにも買いに行かないとな」
「……ケーキ……甘い食べ物……じゅるり……」
どうやら、男性の冬は短く温かな物になりそうです。
最初に見たときとは正反対の楽しそうな笑顔を浮かべながら、ケーキ屋へ向かってサハギンと手を繋ぎながら歩き始めました。
「楽しみ……」
「そんなにケーキが楽しみなのか。意外と食いしん坊なんだね」
「……」
おそらくサハギンが楽しみにしているのは、ケーキもそうでしょうけどまた違うものでしょう。
男性は気付いていないようですが、彼女の視線は男性の口元や股間に向いていますからね。
まあ、どのみち二人には早めの春が訪れそうなので、安心して他の人達の様子を見る事にしましょうか……
=======[Case.8]=======
「ただいまー」
「……」
「あ、えっと……ただいま……」
「……ぐすん……」
お次は、先程の川からも少し離れ、街の外にある山の麓にあるとある家の前。
そこでは、仕事帰りの男性が困った顔をしながら立っていました。
「ねえ……どこ行ってたの……?」
「えっと……急な仕事が入っちゃって……」
「ぐす……じゃあ黙って行かないでよぉ……君がいなくて寂しかったんだからぁ……急に居なくなって怖くて眠れなかったんだからぁ……」
「そ、その……本当にゴメン……気持ちよさそうに眠ってたし、いつものように寝言で返事すらしなかったから起こすのも悪いかなと思って……」
「ばかぁ……ひっく……」
その男性の前には、大量の男ものの服に囲まれた一人の少女が涙を浮かべて立っていました。
少女と言っても腰からは尻尾が生えていますし、頭の上には丸い耳も付いているので人間じゃありません。
鼠の特徴を持つ彼女は……眠そうな顔をしているところからしても、おそらくドーマウス。
夫を持つドーマウスは夫が離れると不安でたまらなくなるそうです……おそらく男性の方が仕事で急に外出しなければならなくなり、起こさないようにそっと出て行ったので一日中自分の夫の匂いが染みついている衣服を身に着けてどうにかして落ち着こうとしていたのでしょう。
それでも本人からの温もりには到底敵いません。そのためまだ帰って来ないかと寂しくて泣いていたみたい。
そもそも気持ちよさそうに眠るドーマウスから離れられた彼も相当凄いと思いますが……まあ、真面目な人なのでしょうね。
「ほ、ほら、ケーキとチキン、あと美味しいチーズも買ってきてあげたからさ……チキンはなんと珍しくチーズトッピングもしてあるぞ!」
「美味しそうな食べ物を買ってきたぐらいじゃ許さないもん……」
「あ、うん……」
「けど、チーズとケーキとチキンは食べる……」
「え、そ、そうだよね! それじゃあ早速食べる準備をしよう!」
なんとなくこうなる事を察していたのか、帰宅中に買ってきた物で機嫌を取ろうとする男性。
口では許さないと言っているドーマウスですが……ほんのちょっぴり嬉しそうなのとまだ起きているのに口から垂れている涎が若干機嫌が戻った事を示しています。
それを確認した男性は、どうにかして機嫌を完全に良くしてもらおうと急いでご飯の準備を進めています。
「ほら、食べよ!」
「むぅ……あたしは食べ物につられにゃい……すぅ……」
「はは。やっぱりすぐに寝ちゃったか……」
買ってきた食べ物をテーブルに並べ、男性は彼女を抱き寄せて椅子に座りました。
まだまだ不機嫌な彼女でしたが、彼の腕の中という安心して眠れる場所に誘われたため、瞬く間に夢の国へと旅立って行きました。
眠りネズミとも呼ばれる彼女はおそらく今日ずっと起きっぱなしだったのでしょう……眠気に耐えられるわけも無く、すぐさま幸せそうな表情で眠ってしまいました。
「ほら、ジューシーな骨付きチキンだよ〜。口あけて〜」
「むにゃ……あーん……むしゃむしゃ……おいひぃ……」
「……ほんといつ見ても不思議なものだなぁ……本当に寝てるんだよね?」
「美味しいけどあたしは食べ物につられないぞぉ……すぅ……」
寝ていてもさほど問題無く行動するのがドーマウス。
男性が口元にチーズの掛かったチキンを持っていくと、むしゃむしゃと美味しそうに食べ始めました。
食べながらも寝息を立てているので本当に寝ているのでしょう……そんな彼女の様子に、男性も安心と楽しさが入り混じった表情を浮かべています。
「さてと、俺も食べるか」
「チーズぅ……むにゃ……」
「ん、ちょっと値が張っただけあって美味いな」
「美味しいねぇ……ぐぅ……」
彼女の口元に食べ物を運びながら、もう片方の手で器用に食べ始めた男性。
もう慣れたものなのか、彼女を落としそうになる事も無く自身も食べ物を堪能してます。
二人して美味しそうに食べる姿を見ていると、こちらもお腹が空いてきてしまいますね。
「うん、ケーキも美味い」
「おいひぃ……クリームぅ……」
「ん? 顔にクリームが付いているぞ?」
「そうだねぇ……苺もおいしいねぇ……すぅ……」
ケーキも同じように口に運んでいましたが、寝ながら食べているせいで口周りには大量のクリームが付いてしまっています。
男性は注意しましたが、ドーマウスは意にも介さず寝息を立てながらケーキを食べ続けています。
「べっとり付いちゃってるけど良いのか?」
「うん……あまあま……」
「取らないのかい? だったら……」
「すぅ……ん……♪」
いくら言っても口周りのクリームを拭きとるどころか舐め取りすらしないドーマウス。
そんな彼女に、男性はケーキを置いた後顔を自分の方に向かせ、なんとそのクリームを舐め取ったのです。
彼女の小さな唇を舐めるように、優しく、それでいて貪欲に舌で攻める彼……でも、舐められている彼女は、どこか幸せそうな顔をしています。
「あまあま……♪」
「うん、甘いな。流石俺の嫁」
「えへへへ……❤ すぅ……」
「そんなだらしない顔をしていると今度は口内のクリーム舐めちゃうぞ」
「きてぇ……キスしてぇ……❤」
どうやら男性はドーマウスの魔力に染められたみたいです。
寝ている彼女達から発せられる魔力には、男性に強い劣情を抱かせる効果がありますから、抱き抱えている彼女を犯したくなってきたのでしょう。
まあ、夫婦ですし仕方ありませんね。
「んちゅぅ……もっとぉ……にへぇ……❤」
「仕方ないなぁ……じゃあケーキよりも美味しい物を下の口から食べさせてあげるよ」
「えへへぇ……あたしも大好きぃ……❤」
人様の事情を覗くのも良くないですし、そもそも羨ましくて直視できないので、そろそろ飛び去る事にします。
これから幸せな夢……と言う名の現実を見るドーマウス夫婦にこっそりと別れを告げ、すぐ近くにある山の方へ向かってみましょうか……
=======[Case.9]=======
「ぅあっ、あっ、あ、あふぅぅ……」
「ふふん♪ 今日もいっぱい出したじゃねえか。腹いっぱいだぜ」
「ど、どうも……」
街に隣接している山の中。
中腹辺りにひっそりとある洞窟の中から、一組の男女の声が聞こえてきました。
「ま、しばらくはそこでゆっくりしてな」
「あ、あれ? いつもより短い……」
「あん? もっと搾り取ってほしかったのか? そうかそれなら……」
「あ、いやいやそうじゃなくって! どっちにしても休憩させてほしいな〜と……」
「チッ、まあいい。後でまた激しくシてやるから体力回復のためにそこで大人しく寝ているんだな」
洞窟の内部を覗いてみますと、そこには裸の男性と、同じく裸の女性が居ました。
女性と言っても、その下半身は巨大で黒い毛に覆われた蜘蛛のものであり、また頭からは大きな二本の角も生えています……肌が緑色ですし、彼女はウシオニのようです。
丁度性交が終わった……と言うよりは中断したタイミングのようで、ウシオニの女性器からはこの男性のものと思われる白い液体が滴り落ちています。
「あ、逃げようと思うなよ? 逃げたら吊るしあげた状態で3日3晩犯してやるからな!」
「疲れて動けないし、それにそんな気はもうとうの昔に失せてるよ……僕も君無しじゃ生きていけないからね」
「なっ!? う、うっせー! そういう恥ずかしい事を簡単に口に出してんじゃねえよ!!」
「あべしっ!」
「あ、わ、わりい!」
どうやら少し前にウシオニがこの男性を自分の住処に連れ去り、滅茶苦茶に犯していたようです。
とはいえ、既に幾らかの時は過ぎているようで、男性に逃げ出す意思はないどころか、ウシオニを深く愛しているようです。
ウシオニのほうは真っ直ぐに言われたその言葉に照れたのか、その大きな拳で男性の顔を思いっきり殴りました。
もちろん傷付けるつもりはなかったのかすぐに謝ります……恐い魔物として名前がよく上がるウシオニですが、こうしてみると可愛いものです。旦那さんの体力が持つかはわかりませんが。
「良いからオレが呼ぶまではそこで寝ていろ!」
「あ、うん。わかったよ」
顔をほんのり赤く染めながら洞窟の奥へと消えていくウシオニ。
何かを準備するようで、旦那さんを一人残して行ってしまいました。
「ん〜……いったいどうしたんだろうか……いつもなら眠くなるまで性交し続けるのに……なんか今日は朝から様子が変なんだよな……」
一人残された旦那さんは、ウシオニの様子がどこかおかしい事について考え始めました。
ウシオニは無尽蔵な獣欲を持ち、徹底的に男性を犯し蹂躙する事を望む事が多い魔物……多少固体差はあれど、先程からの旦那さんの発言からしてあのウシオニも例外ではないのでしょう。
そんなウシオニがある程度身体を交えただけで行為を中断したとなれば、毎日その激しい愛を受けている旦那さんが疑問に思うのも不思議ではありません。
「なんか朝から……いや、思い返してみれば数日前からこっそりと何かをしてるみたいなんだよな……隠し事するような性格じゃないけど……なんだろうな……」
どうやら何日か前から様子がおかしかったらしいです。
旦那さんに秘密にしておくような事とはいったい何でしょうか。
「……ん? なんか香ばしい香りが匂うな……なんでだ?」
と、しばらくしたら、洞窟の奥から良い匂いが漂ってきました。
私はここにくるまでに何度か嗅いだ匂いですが……普段ここでは絶対に漂う事がない匂いなんでしょう、旦那さんは首を傾げています。
「おい、もう歩けるか?」
「え、まあ……まだふらふらしてるけどなんとか……」
「チッしゃあねえ。オレが運んでやるよ!」
「へ? わわっ!」
そして、洞窟の奥からウシオニが再び姿を現しました。
少しは歩けるようになったと言う旦那さんに舌打ちをし、蜘蛛糸でぐるぐる巻きにして背負います。
どうやら出来るだけ早く来てほしかったみたいですね。
「い、いったい何が……なんかもの凄く食欲をそそられる匂いがするんだけど……」
「自分で糸をずらしてその眼で確かめてみるんだな!」
「わ、わかった……なっ……!?」
身体だけではなく目隠しをするように糸を巻き付け、旦那さんを洞窟の奥の広いスペースまで運んだウシオニ。
地面に下ろした後、目隠しを外すように指示しました。
言われた通り旦那さんが目に覆われた糸を取り外すと……
「こ、これは……」
「どうだ、全部オレが作ったんだぞ!」
「す、凄い……お刺身にフライドチキンにサンドウィッチ、それに生ハムのサラダにポテトフライ……まだまだ沢山……」
そこには、色とりどりの料理が並んでいました。
差ながらクリスマスパーティーでもするかのように多くの種類の料理が所狭しと並んでいます……しかもその全てをこのウシオニが作ったと言うのです。
この数日の間様子がおかしかったのは、おそらくこの料理を作る為に色々と準備をしていたからでしょう。
「料理できたの?」
「できたさ! と言いたいところだが……実はここ一月ぐらいこっそり麓の街の料理教室に毎日通ってたから作れた」
「へぇ……全然気付かなかった……」
見た感じはお店に売り物として置いてあっても問題無いぐらいです……たった1ヶ月料理教室に通っていただけにしては相当上手いと思います。
旦那さんは先程から目をぱちくりとさせて驚き続けています。
「でもなんてまた料理なんか……」
「あん? テメェ覚えてねえのかよ。テメェを連れてきて数日経った時辺りに料理が食いてえって言ってたし、1ヶ月前にはクリスマスの料理が食いてえって言うから頑張ったんだぞ!」
「え……いや、言ったのは覚えてるけど……まさか僕の為に料理を習って材料揃えて作ってくれたの?」
「お、おう……まあそういう事だな……」
しかも、彼女は旦那さんの為に頑張ったみたい。
たしかに、最近街にある料理教室にこのウシオニさんが料理を習っていたのを見た気がします。
その時はたしか包丁で魚を捌かずにまな板と机を捌いていたような気がしますが……旦那さんの為だけを思い、ここまで上達したのでしょう。
「ありがと。僕の為にこんなに頑張ってくれて嬉しいよ」
「う、うるせえ! ほらさっさと食うぞ!」
旦那さんに感謝されて、またしても顔を真っ赤にして照れるウシオニ。
誤魔化すように自分が作った料理を旦那さんの口に押し付けます。
「あむ……うん、味もしっかりしていて美味しいよ!」
「そ、そうだろ! なんたって自信作だからな!」
「クリスマスだけじゃなくて今後も毎日作ってくれると嬉しいんだけどな……こんなに美味しいのなら毎日食べたい」
「そ、それはまあ……考えておいてやる!」
自分の手料理を美味しいと食べてくれる旦那さんを見て、とても幸せそうな表情を浮かべるウシオニ。
凶暴なイメージの強い種族ですが、こうして女の子っぽい顔もできるものですね。
「さてと……それはともかく……」
と、ここでウシオニがゆらりと洞窟の入口の方へ顔を動かしました。
「さっきから覗き見してるやつがいるなぁ……オレは今機嫌が凄く良いから、3秒以内に消えるのなら何もしないでやる。そうでなければ大きなフライドチキンにするからな。それさーん、にー……」
どうやら私が覗き見しているのがばれていたみたいで、そんな脅しをしてきました。
血走った目が本気にしか思えないので、私は急いで洞窟から飛び出て街まで戻る事にしました……
=======[Case.EX]=======
「はぁ……はぁ……本気で料理されるかと思った……」
山から街まで戻った私は、学校の屋上でへばっている。
こんな日に学校の補習があって嫌になっていたから、終わった後ストレス発散を兼ねて趣味の人間観察をしていたわけだが……まさか気付かれるとは思っていなかった。
そもそも上位の魔物であるバフォメット辺りには気付かれるかなとは思ったがまさかウシオニにばれるとは……一生の不覚である。
「ふぅ……でもこれで一安心……」
「何が一安心なんだ?」
「え……あ、お兄ちゃん……」
全力で飛ばして逃げてきたため、疲れたので屋上で一息ついていると、後ろから馴染みのある男子の声が聞こえてきた。
振り向くと、同じ学校に通っている私のお兄ちゃんが立っていた。
「なかなか家に帰って来ないと思ったら……お前また人様の行動を勝手に覗き見してたのか?」
「え、あ、あはは、仕方ないじゃん私カラステングだし」
「なーにが仕方ないだ。無差別ストーカーとか笑えないだろ」
「う……」
私が人の様子を覗き見していた事を咎めるお兄ちゃん。
でも、この趣味ばかりは昔からのものなのでとてもじゃないが止められないし主張も譲れない。
「はぁ……うちの妹を変態にしやがって……勝手にお前を魔物にした例のリリムに会う事があったらとっちめてやろうか……」
「えーそれは駄目だよ! 私はこの身体気にいってるんだからさ! それに女性経験のないお兄ちゃんじゃリリム相手には勝つどころか見た瞬間射精しちゃうよ!」
「するか! というか女の子がそんな恥ずかしい事叫ぶな!」
ちなみに私はカラステングだが、お兄ちゃんは正真正銘私のお兄ちゃんである。
もちろんお兄ちゃんは人間であり、私も半年前までは人間だった。
ただ、半年ほど前に、旦那と従者のヴァンパイア夫妻と共に世界中を旅していると言うリリムの手によってこうして魔物のカラステングに変えられたのだ。
まあ、カラステングという種族になったのは私の人間観察の趣味のせいだろうけど。
「はぁ……まあいい、帰るぞ」
「う、うん……ねえお兄ちゃん」
「なんだ?」
「疲れたからおんぶして」
「はあ? お前この歳にもなっておんぶとか……」
「良いじゃん別に。この身体になってから驚くほど体重軽くなったんだし。それにこの羽のおかげでお兄ちゃんもぽかぽかだよ!」
「そういう事じゃ……はぁ、まあいいや……」
それに、お兄ちゃんには言っていないが……私が魔物になったのは、自分の意志である。
私の内に秘めた願いを叶えるために、たまたま見掛けたそのリリムに私を魔物に変えてと頼んだのだ。
「こんなところ見られたら何を言われるか……よいしょっと。しっかり掴まっていろよ」
「うん……ねえお兄ちゃん、この後さ……」
「あん? 何か言いたい事でもあるのか?」
「あ……うん、なんでもない……」
そう、私は……お兄ちゃんの事が好きなのだ。
もちろんそれは兄妹、家族として好きなのではなく……異性として好きなのだ。
人間である場合の近親婚はタブー……だから、私は問題が無くなる魔物に変えてもらったのだ。
でも、魔物になっても私は勇気を出せないようだ……半年経った今でも、お兄ちゃんに告白する事はできないでいた。
もし断られたら……それが原因でお兄ちゃんに距離を置かれるようになったら……そう思うと、想いを打ち明ける事ができずにいた。
でも、今日こそは……
「はぁ……」
「なんだよ急に……ん?」
「あ……雪……」
お兄ちゃんの背中で大きな溜息を吐きつつ学校を出たところで、空からふわふわとした白い物が降ってきた。
今度はケサランパサランの毛玉ではなく、正真正銘冷たい雪が降ってきた。
「どうりで寒いと思った……よし、急いで帰るか」
「そうだね……しかしホワイトクリスマスか……」
「ん? お前そんなロマン感じるほうだったっけ?」
「そりゃ女の子ですもん」
しんしんと降り始めた雪……このペースなら、おそらく積もるだろう。
普通の日ならただ雪が降ってきただけだが、今日はクリスマス。
つまり……これで今日はホワイトクリスマスになったわけだ。
「ねえお兄ちゃん……」
「ん? やっぱ何か用があるのか?」
「うん。今日ご飯食べた後、お兄ちゃんの部屋に行っていい? ちょっと他の人には聞かれたくない事言いたいからさ」
「んーまあいいぞ」
それに背中を押されたと言うわけではないけど……私は覚悟を決める事にした。
このままじゃ魔物としての本能も、そして私自身の気持ちも納まらないし、それにずっと苦しいままだ。
だから私は……今日、この後でお兄ちゃんに想いを伝える事にしたのだった。
「しっかし賑やかだな……クリスマスだからってはしゃぎ過ぎだろ」
「まあそんなもんだよ。むしろお兄ちゃんははしゃがないの?」
「子供の頃は楽しみにしてたけどな。こちとらモテないもんでね」
「はは……まあモテないのは私のせいだけどね……」
「ん? なんか言ったか?」
「気のせいじゃない?」
今日という聖なる夜に起きた、いくつもの幸せ。
「さて、飛ばすからしがみついてろよ!」
「うん、お兄ちゃん頑張って!」
その皆の幸せを少し分けてもらえるよう、私は雪降る夜空に願ったのだった……
今日はクリスマス。
この街でも、いろんな人達が賑やかに今日という日を楽しんでいます。
彼氏に巻き付きながら、窓から見える雪に感動するラミア
雪にも気付かず、部屋の中で楽しく笑いながら性交するケサランパサラン
男の子とチキンを食べながら、テレビゲームをして盛り上がっているバフォメット
一つのマフラーを彼氏と首に巻きながら、夜景の綺麗なレストランで食事をするイエティ
喫茶店で温かいお茶を飲みながら、恋の話で盛り上がるエンジェルとデビル
周りの人達の事なんて全く気にせず、愛する人と身体を交えているドリアード
気に入った男の人に買ってもらった美味しいケーキを食べて、無表情ながらも若干目を輝かせているサハギン
互いに抱き合って、幸せな夢を見ながら眠るドーマウス
美味しい料理に舌鼓を打ち、満足している旦那さんの笑顔に満足するウシオニ
そして……これから自分の兄に告白しようと、ドキドキしながら兄におぶられているカラステング
十人十色、多種多様な、今日という日の過ごし方。
しかし、その誰もが、今日という日を満足に過ごしているのです。
あなたはどうでしょうか?
誰かと一緒に過ごしていますか?
誰かというのは、一人の異性ですか? それとも複数人の同性の友達ですか?
家族と楽しくお喋りでもしていますか?
それとも一人でパソコンの画面でも眺めていますか?
どれであっても、それで満足ならいいのです。
満足じゃなくても、それはそれでいいのです。
この聖なる夜の過ごし方は、その人その人で違うのです。
幸せの基準、満足の基準も、その人次第なのですから……
メリー・クリスマス!
13/12/25 22:02更新 / マイクロミー