旅56 気付いてしまった本当の気持ち
「きゃは♪おまたせ……ってなんか人数が減ってるわね」
「天使の夫婦、居ない……」
「あの二人は先にパンデモニウム……だったかな?なんかそう言うところに行きました」
「お姉ちゃんたちに助けていただきありがとうございましたって伝えといてって言われたよ!」
「えっと……そういう事でしたら……あの……大丈夫です……」
現在19時。
空が暗くなってきた頃、ようやく3人のリリム達が小屋に来た。
全員が全員同じような姿をしているが……よく見ると3人ともそれぞれ角の形状や翼の大きさなんかが結構違う。もちろんアメリちゃんとも差がある。
「えっと……それでお姉ちゃんたちは……」
「わ、私はトリーです!えっと……こう見えてもこの中では一番のお姉ちゃんだよ」
「きゃはっ♪アタシはロレン!好きな物は人間女性の魔物化!嫌いな物は性に無頓着な頭カッチン!よろしくねアメリ♪」
「キュリー。よろしく」
「うん!よろしくねトリーお姉ちゃん!ロレンお姉ちゃん!キュリーお姉ちゃん!アメリはアメリだよ!今8さいで、お姉ちゃんたちに会うために旅をしてるんだ!!」
それでも、トリーさんもロレンさんもキュリーさんもやはり顔はどこかアメリちゃんと似ている。
まあ姉妹なので当たり前ではあるが……もちろん性格のほうは今までがそうだったようにバラバラのようだ。
「それであなた達がサマリとユウロであってるわよね?」
「はい。私がワーシープのサマリです」
「そうですね。俺はユウロです。よろしくおねがいします」
「よろしく……」
私達も自己紹介が済み、全員がソファーに座った。
「そういえばサマリは人間から魔物になったのよね?」
「え?あ、はい。そうですよ。ユーリムさんに聞いたのですか?」
「そうよ」
時間が時間なので夕飯どうしようかな、アメリちゃんのお姉さん達も食べるのかな……なんて考えていたら、いきなりロレンさんに話を振られた私。
「やっぱり魔物の身体っていいでしょ?でしょ?」
「あ、まあ……丈夫ですし、旅をする中では魔物になって良かったと思う事も多いですね」
「だよね〜!やっぱり人間は皆魔物になるべきなのよ♪」
「み、皆はどうなんでしょう……」
魔物になって良かったと言ったら、やたら嬉しそうなロレンさん。
それどころか人間は皆魔物になるべきとか……
「ロレン姉は過激派……」
「何よ。別にいいじゃない。最終的にはオスは皆インキュバス、メスは皆魔物になるんだからいいでしょ?」
「えっと……強制は良くないよ?」
「トリーお姉様もキュリーもその考えが甘いのよ。お母様の理想に手っ取り早く近付くためには積極的に行かないと!デルエラお姉様みたいに大きな国の一つや二つ堕とす勢いで行かないとね♪」
どうやら過激な思想を持った人らしい。
前にアメリちゃんから、人間女性は全て魔物になるべきだとして女性を見たら積極的に魔物に変える過激派な魔物もいると聞いた事はあったが……ロレンさんもまさにその過激派なのだろう。
たしかアメリちゃんが私と会う前に会ったデルエラってお姉さんも過激派だったはずだ……リリムの中には、他にも過激派な人がいるらしい。
「それに強制って言うけど、アタシはどうしてもなりたくない理由がある人は変えてないわよ?100人中99人変えてるだけよ」
「それ、ほとんどじゃないですか……」
ロレンさんの場合は一応融通が利くみたいだけど……見つかった人間女性は魔物として強く生きてくれる事を願うしかないだろう。
「大体サマリだって魔物になってよかったって言うし、魔物化したら皆ハッピーじゃない!トリーお姉様だって夫の前の奥さんをグールとして蘇らせて喜ばれたんでしょ?」
「え、うん……そうだけど……」
「ん?前のおくさん?トリーお姉ちゃんにだんなさんがいるのは精のにおいがするからわかってたけど、お姉ちゃん以外にもだんなさんにおくさんいるの?」
「あ……うん」
たしかに魔物化してよかったとは思うけど……今となっては困った事もある。
おそらく魔物になったからここまでわかるのだと思うけど……先程から隣に座るユウロの匂いを嗅ぐと頭がくらくらしてきて、下半身が疼いてきてしまう。
ただ……だからといって勢い任せにユウロを襲う事は出来ないし、たとえ良くても私自身なんか嫌なので、なるべく会話に集中して意識しないようにしているのであった。
で、そんな会話の中で気になる話題が出てきた……トリーさんは既に夫がいるみたいだけど、どうやら妻はトリーさん一人じゃないらしい。
「あーまあ、確かに今までも複数の妻を持った人はいましたね」
「好きになった人が奥さんに先立たれた男性だったんだよねたしか。トリーお姉様も大変ねぇ……」
「私は2番目でもいいからと……そう、夫に……イリジさんに言い寄ったのです……」
「へぇ〜。お姉ちゃんはそれでもいいの?」
「はい!何番目であろうが、私がイリジさんの事が好きなのは変わりありませんし、それに……その……最初の妻であるオスミさんと同じぐらい……愛してもらってるから……」
「トリー姉……幸せそう……」
それでも、顔を赤らめて愛してもらっている事を語るトリーさんは幸せそうだ。
本人がそれでいいと言っているのであれば、それでいいのだろう。
「あ、そうだ。それで……その……ちょっとアメリ達に聞きたい事があったのですよ」
「ん?なにトリーお姉ちゃん?」
しばらくの間、旦那さんの事を思い出していたのか悶えていたトリーさんであったが、突然何かを思い出したようだ。
「何々?どうかしたの?」
「あのですね……ロレン達には言ったけど……息子の事でちょっと……」
「え?トリーさんには息子さんがいるのですか!?」
「魔物って女の子しか産めないんじゃ……」
「えっと……オスミさんが人間だった時に産んだ子供です……つまり義理の息子です」
「あ〜なるほど……」
急に息子さんの話をし始めたトリーさん。
魔物は魔物しか産めないんじゃ……そう思ったのだが、どうやらもう一人の奥さんが人間だった時に産んだ子らしい。
たしかにそういった経緯であれば親が魔物で息子も居るって事もあるのだろう。
「可愛い子ですよ?イリジさんに似て男前ですし……金髪で、眼鏡をかけてて、それでいて可愛らしい男の子なんですよ♪」
「へぇ……」
「それに……忌まわしい事ですが勇者として鍛えられてた事もあってとっても強いですし……それに最近ミノタウロスの奥さんをお嫁さんに連れてきたのですよ」
「ほぉ……ん?」
「つい最近までは教団に攫われてて行方不明になってたけどね……まあ、イリジさんが事故で怪我して中々帰らないでいたらどうやら勇者として連れ去られていて……まあ……ついうっかりその街の教会は潰しちゃったけど」
「へぇ〜お姉ちゃんすごーい!」
義理の息子の事を想うあまりとはいえついうっかりで教会を潰せるとは……いくら大人しそうであっても、リリムは恐ろしく強いという事を認識させられる。
それと……その息子さんの特徴を聞いていたら……なんか特徴に当てはまる人物が一人脳裏に浮かんだ。
いやまさかと思いつつも……金髪で眼鏡でミノタウロスでさらに勇者と言ったら……あまりにも合致する条件が揃い過ぎている。
「あの〜……一ついいですか?」
「は、はい。えっと……何でしょうかユウロさん?」
「その息子の名前って……」
なので、違うだろうと思いつつ、その息子の名前を聞いてみたところ……
「はい。おそらくあなた達も知っていると思います……えっと……エルビです」
「えー!?あのエルビさんがトリーお姉ちゃんの子供なの!?」
「やっぱりか……」
やはり思い浮かべた人物……何度か私達の前に立ち憚った強敵……エルビの事だった。
「えと……やっぱり知り合いだったんだね」
「やっぱり?」
「はい……その……帰って来た後、私ともお話してくれたのですが……その……その時に小さなリリムに会ったって聞いたものですから……ホルミさんから聞いた名前もたしか……アメリだったかなと……」
「あーそれで俺達の事じゃないかって思ったんですね」
「そういう事です」
ホルミさんに連れ去られた後いったいどうなったのかと思ってたけど……どうやらエルビは無事ホルミさんに手篭めにされたらしい。
それに話からすると、たしかエルビは父親に捨てられたとか言っていたような気がしたが、どうやらそれはユウロと違って勘違いだったみたいだ。
「あいつは元気にしてましたか?」
「はい……ホルミさんと一緒に……えっと……今まで迷惑をかけてきた人達への罪滅ぼしの旅をしているそうです。まあ……ご両親の事もありますから、今はまだ家にいますけどね」
「そうですか……」
「はい……毎日少しずつ傷付いた人達への謝罪と……その……ホルミさんと二人でセックスしてたりします……」
「へぇ〜……セックス……か……」
結局家族もきちんといて、自分も愛してくれる人もいると……きっと、もう曲がる事無く、ホルミさんと二人いつまでも仲良くやって行くのだろう。
……ちょっぴり羨ましい。
「いやあしかし、トリーお姉様もさぞかし驚いたんでしょ?まさか息子の捜索依頼を頼んだ相手が婿として連れてくるなんてさ」
「えっと……想定の範囲内だった……」
「へ?そうなんですか?」
そんな息子が依頼主の婿として連れてきてさぞ驚いた……のかと思ったら、想定の範囲内だったとの事。
「だって……ホルミさんは……なんというか……その……オスミさんと雰囲気似てましたから……」
「なるほど……納得……」
「あー、あいつ母親については何も言ってなかったし……というか母親は好きそうだったもんなぁ……」
それなら納得……はしないけど、意外とトリーさんは策士なのかもしれないと思った瞬間であった。
「そうそう、それでね……その……」
ぐうぅぅぅぅ……
『……』
「きゃは♪アメリったらお腹空いたのね♪」
「……うん……おなか空いた……」
話をしているうちに……やっぱり時間が時間だったので、案の定お腹の音が鳴ったアメリちゃん。
顔を赤らめて恥ずかしそうにお腹が空いたと呟くアメリちゃん……そういえばこの展開なんだか久しぶりだ。
「さて……じゃあ何か作りましょうか」
「ん?サマリは何か料理できるの?」
「はい。一応旅の中では私が料理担当なので」
「サマリお姉ちゃんのごはんはおいしいよ!!」
「それは気になる……食べてみたい……」
「じゃあ何か作ってみて。作る場所は一応あのキッチンの機能が生きてるからそこでいいとして……食材は……悪いけど、旅で使ってるものでお願い」
「わかりました。それじゃあアメリちゃん、食材出すからそこの広い場所に『テント』広げてちょうだい」
「うん!」
という事で、今から私は料理を作る事にした。
またリリムに、しかも今度は3人ものリリムに食べてもらうと考えると緊張する。
……………………
「さてと……アメリちゃんもお腹空かせてるし、もう時間も遅いからちゃちゃっと作りますか」
現在20時。
いつもより遅い時間だし、今日の夕飯は簡単に、かついっぱい作れるもののほうがいいと思う。
という事で……
「ねえねえサマリお姉ちゃん。今日の夜ごはん何?」
「今日はチャーハンよ。ほら、前にユウロが言って作ったやつ。そろそろ無くなってきた白米を一気に使ってね」
「わーい!!」
霧の大陸の料理で、どうやらユウロの故郷にもあったらしい、ユウロの大好物のチャーハンを作ってみる事にした。
一応1回は作った事あるけど、なにぶん経験不足なので上手く作れるか心配である。
「アメリちゃんはもう今日はお姉さん達とお話しててね。すぐ作っちゃうから」
「え?アメリまだ材料出してネギ切っただけだよ?」
「そうだけど……ほら、折角のお姉さんだしお話しなきゃ。それにユウロ一人に任せられないでしょ?」
「わかった。じゃあアメリはお姉ちゃんたちとお話してくる!」
とりあえず下準備として白米は炊いておいたし、必要な具材もアメリちゃんと一緒に切っておいた。
ここからならすぐに完成まで出来るだろうという事で、ユウロやトリーさん達のもとへアメリちゃんを向かわせた。
折角お姉さんが大勢いるわけだし、ここで料理しているより話をさせたほうが良いだろう。
それに、一応大丈夫だとは思うが……ロレンさんやキュリーさんがユウロを狙っていたらと思うと怖くて仕方が無いので、アメリちゃんに見張りの役目もさせるつもりだ。
「さてと……作りますか」
まずは全員分が作れるように用意した大きなフライパン2つに油を引いて温めつつ、お肉を焼く準備をした。
「えっと……それでね……私にはちょっと夢があってね……」
「夢?」
油が熱されたので、まずは肉を炒め始めたところ、皆の会話内容が聞こえてきた。
「うん……その……エルビに母さんって呼んでほしいなって……せめてトリー母さんって……」
「あー……あいつ今トリーさんの事なんて呼んでるんですか?」
「あの……とか、その……とか、あんた……とか、どうしても個人指名する必要がある時はトリーさんって……」
「自分からそう呼んでって言ってみたら?」
「そう言ったんだけど……その……あんたから生まれたわけじゃないからって……オスミさん曰く照れ隠しらしいけど……」
「前途多難……」
まあ私はあまり関わった事無いからなんとも言えないけど、そんなものだろうなと思いつつ……今度はフライパンに長ネギを投入する。
「そういえばキュリーさんは何か……」
「私……聞き専……」
「そうなのよねー。この子ったら昔からいろんな事に無関心でさ〜。自分の好みの話すらしないのよね。姉として将来が不安だったけど、これでも人気はあるのよね」
「人気?」
「そう。たまに見せる笑顔が凄く可愛いのよ。普段とのギャップで惚れる人続出でね」
「……特に意識してない……」
そういえばキュリーさんはずっと無表情で、口数も少なかったな……と、卵を投入し、ちょっと混ぜた後に卵が固まらないうちに白米を入れ力を入れて混ぜながら炒める。
「キュリーお姉ちゃんの好きなことって何かあるの?」
「……読書……」
「読書ですか。ちなみにどんな本を?」
「官能小説……相思相愛系……」
「官能……そこはぶれないんですね……」
「きゃは♪エッチな事が嫌いな魔物はいないわ♪特にアタシ達リリムはたとえこの子みたいに普段はまるで発情してないマンティスみたいな性格してても性への関心はきちんと持ってるのよ♪」
「ロレン姉……流石にそこまでじゃない……」
たしかに何事にも関心はなさそうに見えたけど、そんな事はないという事か……なんて思いつつも、パラパラになってきたので塩コショウやしょうゆで味付けを施しながら炒め続け……
「ん?なんだかいい匂いが……」
「サマリがそろそろ作り終える頃かと……だよなー?」
「うん!あとちょっとで完成するからもう少し待っててー!!」
一口味見して……ちょっと塩コショウを加えて強火で炒めて……チャーハンの完成!
紅ショウガを乗っけるとよりおいしいとはユウロが言っていたけど、これは人によって好みがあるだろうから別に出す事にしよう。
「お待たせしましたー!」
「美味しそう……」
「えと……いい匂いです……」
きちんと人数分お皿に盛りつけて、皆が待つテーブルへ運ぶ。
流石に一気には運べないので、一つずつ運んでいたら……
「サマリ、俺も運ぶの手伝うよ!」
「え!?あ、うん、ありがとう……」
私の事を気遣ってくれたのか、それとも単に自分の好物だったりお腹が空いたからか、ユウロが途中から運ぶのを手伝ってくれた。
一番最初の理由だったら……いや、もし他の理由であっても嬉しい。
「それじゃあこれを……あっ」
「おっとゴメン。じゃあ俺はこっちを運ぶよ」
「あ……うん……」
そして……一つのお皿を取ろうとして……同じものを取ろうとしたユウロと手が触れ合った。
一瞬とはいえ、ユウロに触れたのだ……なるべく表には出さないようにしたが、とても嬉しくて笑顔になる……と同時に、一瞬しか触れられなかった事を寂しくも思った。
それに、触れた瞬間、私の鼓動がはち切れんばかりに激しくなった……嬉しい半面、気付かれてたら怖いとも思う……
「見た目は完璧ね」
「味もおいしいよ!」
「ありがとうねアメリちゃん。じゃあ早速食べましょうか!」
『いただきまーす!』
「ジパング式ね♪今回はそれに合わせて……いただきます!」
ユウロの手の感触を忘れないようにしながらも、お皿に盛られたチャーハンを全部運んだので、早速食べる事にした。
「むぐむぐ……美味しい……」
「たしかに……アメリが言う通り美味しいわね♪」
「あ、あの……とっても……その……美味しいです……イリジさんの精には勝てませんけど……」
上手くできたか自信はなかったが、おおむね好評のようだ。
流石に旦那さんの精の味に勝るわけはないが……トリーさんもキュリーさんもロレンさんもおいしいと言いながらパクパクと食べ続けてくれている。
卵が絡み、パラパラとしたご飯が舌先で転がる。塩コショウなどの味付けもきちんと付いており、かつ強すぎない。
自分でも食べて美味しいと感じる……きちんと作れたようだ。
「はぐはぐ……ごくん!チャーハンおいしいよサマリお姉ちゃん!」
「ふふ、ありがと」
アメリちゃんもご満悦の様子だ……スプーンを口に運ぶ手が一切休まない。
「うん。めっちゃ美味い!まあこれは俺が一番好きな味付けだしな!」
「え?そうなの!?」
ユウロにも大好評だったみたいだ。にこやかに私が作ったチャーハンをおいしいって言ってくれている。
しかも味付けが好みだったとは……私が一番美味しいと思った味付けをしただけなので、好みが一緒だと思うとついにやけてしまう。
「あん?どうしたサマリ?なんかニヤニヤして……」
「ふぇ?あ、いや……その……皆おいしそうに食べてくれるなーっと思ってさ。今日のはあまり作った事無いものだったからいつもより自信なかったからね」
「いやいやこれは充分美味しいわよ。ほぼ毎日こんな食事ができるアメリが羨ましいわ」
にやけてたらユウロ本人に突っ込まれてしまったので、あわてて誤魔化した。
「サマリ」
「え?はい、何でしょうか?」
誤魔化したところで、キュリーさんが声を掛けてきた。
「作り方……教えて……」
「え?えっと……このチャーハンの事ですか?」
「うん」
一体何かと思ったら……チャーハンの作り方を教えてという事だった。
「あーまあキュリーってユーリムお姉様と一緒で味見すらしたくない子だもんね。いつもこういったご飯作ってるしね」
「精は……一人だけでいい……」
「そんな事言ってるからいつまでたっても男ができないのよ」
「えっと……男が出来ないのはロレンも……」
「言わないでよトリーお姉様……」
どうやらキュリーさんは誰かの精を貰っているのではなく、普通に食事を取っているらしい。
「そういう事なら後でいろいろ教えますよ?」
「助かる……」
という事で、ご飯を食べ終えてからキュリーさんにいくつかのレシピを教える事にした。
「ふぅ……お腹いっぱいね……」
「ごちそーさまー!!」
なんて事を話しているうちに、私以外はあっという間にご飯を食べ終えてしまった。
私は……ユウロに気付かれないようにちらちら見てたりして食べる事に集中してなかったせいでまだ残ってる……ので、急いで平らげた。
「さてと……そういえばあなた達はこの後どうする気なの?」
「え?どうするって……」
「そうね……今日はこの後どうするつもりなのかとか、今後どこに旅しに行くのかとかね」
皿洗いをユウロとの共同作業で終わらせた後、休憩としてソファーでのんびりくつろいでいたらロレンさんにそう尋ねられた。
そういえば、結局ここでトリーさんや他のお姉さん達とも会えたわけだし……どうするか全く決まってなかった。
「というか今更ですが、ここって空き小屋なんですよね?やたら整備されてる気がするんですが……」
「ええそうよ。ここは少し前までペンタティアの兵隊達が魔界の様子を探る為の拠点として使ってた小屋でね。あなた達が通るとしたらこの近くかなって思ったからここにいた人達アタシ一人で全員魔物とその番にしてユーリムお姉様やお母様のところなど適当な魔界に転送させたから空き小屋よ」
「あ〜……なんというかその……凄いですね……」
そういえばここの小屋は空き小屋にしてはやたら整備されているとは思った。
なにせセレンちゃんに説教を受けた部屋は埃も特に被って無かったし、今も普通にキッチンが使えたのだから。
どうやらそれは本当につい最近まで普通に使われていたからとの事だ……というか、話し的に無理矢理ここの人達を追いだしたらしい……
なんというか……さすが過激派リリムである。
「何よその言い方……あなたも堕落させてあげましょうか?」
「え……それは……」
「だめですよ!!」
「きゃは♪冗談よ冗談♪そんなに怒らないでよ♪」
「はぁ……そうですか……」
そんなロレンさんがユウロを堕とそうだなんて言ってきたので、私は慌ててロレンさんに怒鳴ってやめさせようとした。
どうやら冗談だったみたいだけど……正直この人が言うと冗談に聞こえないのでやめてほしい。
「別にあなた達夫婦の間柄を壊すような事しないわよ」
「え、ふ、夫婦だなんてそんな……」
ただまあ、お姉さん達との会話の中で私をユウロとの夫婦と言われ、やっぱりそういう風に見えるんだと嬉しく思ったり……
「いやあ、俺とサマリはそんな関係じゃないですよ?」
「え?そうなの?」
「えっと……てっきりそうかと思ってました……」
「……意外……」
「なんか最近はよく言われるんですよね……一応ただの旅仲間でしかないですよ。な、サマリ?」
「え、あ、うん。そうですよ」
即座にユウロに否定されて悲しくなったりした。
まあそりゃあ事実私とユウロはまだそういった関係にはなってないけど……意識してなかった時はもやもやとしただけだったが、今はユウロがそう言ったり、自分で否定すると凄く心が苦しくなる。
「それはちょっと想定外だったわね……まあそれはそれとして、話は戻すけど結局これからどうするのか決めてないのね?」
「ええまあ……」
こちらがもやもやとしているうちに話が戻ったようだ。
だからと言って心が晴れたわけではないが……すぐ解決できるようなものではないし、とりあえずは平常心で話を続ける。
「とりあえず今日はこのまま小屋に泊まっていきなさいよ。どうせアタシ達もここに泊まるつもりだしね」
「え?そうなの?」
「えっとね……明日、さっきの教団兵達が居た街をね……その……堕としに行くの……」
「……へ?」
「奴隷の魔物……解放……」
「奴隷の……魔物?」
「ええ。さっきあの元兵士達を魔界に送る時に聞いたのよ。あの国では秘密裏ではあるけど魔物を奴隷として飼っているってね……言い分からすると自ら性奴隷になった魔物ってわけじゃないからさ、解放するついでに国一つ堕としてやろうかと思ってね♪」
今日はこの後どうしようかなと思っていたのだが……そういう事ならここに泊まって行こうと思う。
そういえば3人はどうするんだろうと思っていたのだが、どうやら明日ペンタティアを堕としにいくらしい。
たしかに魔物は生き辛いと聞いていたが、まさか奴隷としているとは……言っちゃ悪いが、ペンタティアは堕とされても仕方が無いと思う。
というかリリム3人に攻め込まれるのだ……もうペンタティアの運命は決まったも同然だ。
「じゃあアメリも……」
「アメリは駄目よ。そういうのはもっと大人になってからね♪」
「そう……あなたは旅をする……」
「えっと……私達以外の姉妹を……その……探すほうがいいかなと……」
「う〜ん……わかった。じゃあ魔物のお姉ちゃんたちを助けてね!」
「心配しなくても楽勝よ♪」
アメリちゃんも手伝おうと考えたようだ……おそらくペンダントの力もあるから楽に戦えるだろうし、魔物が奴隷にされていると聞いて腹が立ったのだろう。
でも、流石に8歳であるアメリちゃんに手伝わせようとは誰も考えていないようだ。きちんと断っていた。
「じゃあアメリはお姉ちゃん探しの旅にでるとして……他のお姉ちゃんの居場所とかわかる?」
「わからない」
「私も……この二人とユーリムお姉様以外は……えっと……詳しくわからない……」
「残念だけどアタシも他は知らないわ。多少は知ってるけどユーリムお姉様に聞いた感じ皆会ってるみたいだしね」
「そっか〜……」
ならば次のお姉さん探しをしよう……そう思い、何か心当たりはないかと聞いてみたのだが……残念ながら3人居てもこれといった情報は得られなかった。
「まあ、アタシとしてはロキリアからペンタティアとは反対にある親魔物領の街に行ってみたらいいと思うわ。何かしらの情報が得られるかもしれないし、こっちと違って危険性は皆無だろうしね」
「なるほど……ありがとうございます」
「ちなみにその街でもしリリムの情報が得られてもペンタティア方面であればおそらくアタシ達のうちの誰かの事だと思うからね♪」
「あー。はい、わかりました」
なので、いつも通りに親魔物領をめぐる旅を続けようと思う。
なんだかんだで情報を得られる可能性も多いし、安心して旅を続けられるのだから……
…………
………
……
…
「……ふぅ……」
現在23時。
どこに行くか決めた後、私はキュリーさんにチャーハンとポトフと天ぷらと肉じゃがの作り方を教えた。
ずっと無表情で私から教わっていたのだが……全部の作り方を理解した後
『……ありがとう……』
だなんて顔を真っ赤にして微笑みながら言われてしまった。
その微笑みの破壊力たるやアメリちゃんの笑顔と同じ位、いや、それ以上に可愛くて思わず抱きしめてしまった程だ。
それと同時に絶対ユウロにだけは見せないようにしようとも思った……あんなのを見てしまっては流石のユウロだって恋してしまう可能性が否定しきれない程だったからだ。
「はぁ……なんか眠れないな……」
教え終わったところでシャワーを浴びて、そのまま寝室で寝る事になった。
ほとんどの部屋が二人一組の部屋だったので全員でまとまって寝るのではなく、トリーさんとキュリーさん、アメリちゃんとロレンさん、そして……私とユウロで同じ部屋で寝る事になった。
何故この部屋割りかというと……ロレンさんがアメリちゃんと寝たいと言い出し、他の二人もそう言いだしたがじゃんけんの結果ロレンさんが勝ったからだ。
そしてユウロ一人男な事もあり、普段から一緒の空間で寝てる私がユウロと一緒に寝る事になったのだ。
「……」
ユウロの事を意識し始めて、いきなり二人きりで寝る事になるとは……私はワーシープのはずなのに、さっきからドキドキし過ぎてまったく眠れない。
勿論ユウロはそんな私にお構いなしに既に夢の中だ……寝息を立てながら安らかに眠っている。
「……」
私はベッドから抜け、ユウロの寝顔をジッと見つめていた。
ユウロの寝顔を見続けるうちに……私はお腹の下が熱くなってきて、落ち着かなくなってきた。
「う……」
今までなりを潜めていた魔物の本性が、ユウロを襲い精を貰えと訴えてくる。
ユウロの顔に自分の顔を近付け、唇が触れ合いそうになって……冷静になって離れる。
ユウロの身体に触れ、撫で回し……ユウロが身を捩じり慌てて手を離す。
さっきからこんな事をずっと繰り返してる……襲いたいと思うと同時に、襲ってはいけないという理性もきちんと働いている。
「ん……ふぅ……」
それでも……下腹部の疼きは止まらない……
どうすればいいのかわからないまま……私はユウロを起こさないようにそっと部屋を出て、とりあえず防音魔術が『テント』程ではないが掛けられていたシャワールームへふらふらと向かった。
「はぁ……」
シャワールームの一室に入り、座りこむ私。
「ん……」
そのまま股を広げ……自分では一度も触った事のない、熱を帯びている場所へ右手を伸ばした。
自分の腰回りの毛を掻き分け、下着の上から人差し指でそっと触れてみると、そこは既に微かに湿っていた……
これは汗や尿なんかじゃなく、おそらく……
「んっ……」
少しだけ吐息を漏らしながら……私は、疼きが導くままに自慰をし始めた。
もちろん今の今までした事はない。なので、なんとなく、身体の赴くままにし始めた。
「んぅ……ぁ……」
下着の上から、自分の秘裂に沿って、ゆっくりと指を動かし始める。
指に力を入れ、少しだけ強く刺激するたび、ゾクッとした快感が身体中に走る。
「んん……んふぅ……」
指を動かすたびに、もっと快感を得ようとその動きは意識しないうちに速くなっていく。
指と布が擦れる音と、私の漏らす吐息の音だけがシャワールームに響く。
「んふ……ああっ!」
しばらく掻いているうちに、下着の上からでは物足りなくなってきた。
そこで私は下着をずらし、直接秘所を指で触れてみたら……おもわず声を上げ、身体が少し跳ねる程の快感が襲ってきた。
布越しで触っていたのとは比べ物にならない程敏感に感じる身体……もじもじと身を捩ってしまう。
「んあっ、うぁ、あはぁ……」
最初は湿っていた程度だった秘所も……気付けばかなり濡れていた。
防音は完璧じゃないから、大きな声を出してしまうと誰かに聞こえてしまうかもしれない……そう思っていても、漏れ出す喘ぎを抑える事は難しかった。
「ひあぁ……ふぅん……」
指に絡みつく粘液……にちゃにちゃと指を動かす度に鳴る音……
それらを見るにつれ、その音が耳に響くにつれ、私の中で何かが高なってくる。
いつしか下着をずらすだけでなく、完全に脱ぎ取っていた。
「んん……ふああああっ!?」
夢中になって指を動かしていると、突然強い刺激を感じ、身体がビクンと跳ね、おもわず声も高く出てしまった……
一体どうしてしまったんだろうと思ったら……どうやら陰核、つまりクリトリスを触ってしまったらしい。
知識としてそういった部位があるのは知っていたが……まさかここまで痺れるような快感が駆け巡るとは思わなかった。
「ふぁ、あ、ああっ!!」
カリカリと指先で掠めるようにクリトリスを刺激し続ける。
身体がビクビクと跳ねあがり、抑えようとしても声が出続けてしまう。
お尻の下に少し水溜りを作る程どろどろと流れ落ちる愛液……毛にも吸収されていて、べっとりと濡れている。
「ああっ、あ、あはああああっ!!」
この手が自分のではなくユウロのものだったら……そう思い始めると、興奮が一気に強くなった。
ユウロの手が私の秘所を愛撫し、私を感じさせる……想像するだけで、電気が流れるように快感が全身を廻る。
そのままクリトリスやその周辺を攻め続けるうちに、全身を波打つ快感に気持ちは高く昇っていき……
「ああっ、はああっ、ふあああああああっ!!っ!!」
……とうとう絶頂を迎えた。
ガクガクと大きく腰が震え、体液を噴出した。
「あ……あぁ……ぁ…………はぁ……はぁ……」
絶頂が過ぎ、力が抜けて壁にもたれかかる。
荒く息をつきながら……ふわふわとしている感覚の中で絶頂の余韻を感じていた。
「はぁ……はぁ…………ふぅー……」
自分の手によって迎えた、初めての絶頂。
身体はまだ火照っているが、完全に無くなったわけではないものの、高まっていた性欲も抑えられたようだ。
まどろみと気だるさの中、そのまま寝てしまいそうになるが……流石にこの場でこのまま寝てしまえば何をしていたのか全員にばれてしまうので、なんとか頭を振り眠気を飛ばしながら力の入らない身体を起こし、後処理を始めた。
「うわ……ベトベトだ……」
丁度シャワールームにいるので、私はシャワーで床に溜まっていたり下着や毛皮にべっとりとついていたりする愛液を洗い流す。
今日はもうこの下着は穿けないので、部屋に戻ったら新しいのと穿き替えなければ……
「こんなもんかな……」
濡れていたものを洗い終わり、タオルで水気をしっかり取り、部屋の中にたちこめる性臭を換気により薄める。
しっかりと処理を終えた為、私が言わない限りはここでオナニーをしていたなんて誰も気付かないだろう。
あとは、絶頂前後で結構大きな声を出していたので、それで誰か起きていない事を願うばかりだ。
「……」
全てを再確認し、大丈夫だと思い部屋に戻ると、熟睡しているユウロの姿があった。
これで少なくともユウロにはバレていない……それがわかって、かなりホッとした。
「……おやすみ、ユウロ……」
下着を穿き替え、ユウロの寝顔を見ながらそう呟いて布団に潜り、私は心地良い眠りに着いたのであった……
「天使の夫婦、居ない……」
「あの二人は先にパンデモニウム……だったかな?なんかそう言うところに行きました」
「お姉ちゃんたちに助けていただきありがとうございましたって伝えといてって言われたよ!」
「えっと……そういう事でしたら……あの……大丈夫です……」
現在19時。
空が暗くなってきた頃、ようやく3人のリリム達が小屋に来た。
全員が全員同じような姿をしているが……よく見ると3人ともそれぞれ角の形状や翼の大きさなんかが結構違う。もちろんアメリちゃんとも差がある。
「えっと……それでお姉ちゃんたちは……」
「わ、私はトリーです!えっと……こう見えてもこの中では一番のお姉ちゃんだよ」
「きゃはっ♪アタシはロレン!好きな物は人間女性の魔物化!嫌いな物は性に無頓着な頭カッチン!よろしくねアメリ♪」
「キュリー。よろしく」
「うん!よろしくねトリーお姉ちゃん!ロレンお姉ちゃん!キュリーお姉ちゃん!アメリはアメリだよ!今8さいで、お姉ちゃんたちに会うために旅をしてるんだ!!」
それでも、トリーさんもロレンさんもキュリーさんもやはり顔はどこかアメリちゃんと似ている。
まあ姉妹なので当たり前ではあるが……もちろん性格のほうは今までがそうだったようにバラバラのようだ。
「それであなた達がサマリとユウロであってるわよね?」
「はい。私がワーシープのサマリです」
「そうですね。俺はユウロです。よろしくおねがいします」
「よろしく……」
私達も自己紹介が済み、全員がソファーに座った。
「そういえばサマリは人間から魔物になったのよね?」
「え?あ、はい。そうですよ。ユーリムさんに聞いたのですか?」
「そうよ」
時間が時間なので夕飯どうしようかな、アメリちゃんのお姉さん達も食べるのかな……なんて考えていたら、いきなりロレンさんに話を振られた私。
「やっぱり魔物の身体っていいでしょ?でしょ?」
「あ、まあ……丈夫ですし、旅をする中では魔物になって良かったと思う事も多いですね」
「だよね〜!やっぱり人間は皆魔物になるべきなのよ♪」
「み、皆はどうなんでしょう……」
魔物になって良かったと言ったら、やたら嬉しそうなロレンさん。
それどころか人間は皆魔物になるべきとか……
「ロレン姉は過激派……」
「何よ。別にいいじゃない。最終的にはオスは皆インキュバス、メスは皆魔物になるんだからいいでしょ?」
「えっと……強制は良くないよ?」
「トリーお姉様もキュリーもその考えが甘いのよ。お母様の理想に手っ取り早く近付くためには積極的に行かないと!デルエラお姉様みたいに大きな国の一つや二つ堕とす勢いで行かないとね♪」
どうやら過激な思想を持った人らしい。
前にアメリちゃんから、人間女性は全て魔物になるべきだとして女性を見たら積極的に魔物に変える過激派な魔物もいると聞いた事はあったが……ロレンさんもまさにその過激派なのだろう。
たしかアメリちゃんが私と会う前に会ったデルエラってお姉さんも過激派だったはずだ……リリムの中には、他にも過激派な人がいるらしい。
「それに強制って言うけど、アタシはどうしてもなりたくない理由がある人は変えてないわよ?100人中99人変えてるだけよ」
「それ、ほとんどじゃないですか……」
ロレンさんの場合は一応融通が利くみたいだけど……見つかった人間女性は魔物として強く生きてくれる事を願うしかないだろう。
「大体サマリだって魔物になってよかったって言うし、魔物化したら皆ハッピーじゃない!トリーお姉様だって夫の前の奥さんをグールとして蘇らせて喜ばれたんでしょ?」
「え、うん……そうだけど……」
「ん?前のおくさん?トリーお姉ちゃんにだんなさんがいるのは精のにおいがするからわかってたけど、お姉ちゃん以外にもだんなさんにおくさんいるの?」
「あ……うん」
たしかに魔物化してよかったとは思うけど……今となっては困った事もある。
おそらく魔物になったからここまでわかるのだと思うけど……先程から隣に座るユウロの匂いを嗅ぐと頭がくらくらしてきて、下半身が疼いてきてしまう。
ただ……だからといって勢い任せにユウロを襲う事は出来ないし、たとえ良くても私自身なんか嫌なので、なるべく会話に集中して意識しないようにしているのであった。
で、そんな会話の中で気になる話題が出てきた……トリーさんは既に夫がいるみたいだけど、どうやら妻はトリーさん一人じゃないらしい。
「あーまあ、確かに今までも複数の妻を持った人はいましたね」
「好きになった人が奥さんに先立たれた男性だったんだよねたしか。トリーお姉様も大変ねぇ……」
「私は2番目でもいいからと……そう、夫に……イリジさんに言い寄ったのです……」
「へぇ〜。お姉ちゃんはそれでもいいの?」
「はい!何番目であろうが、私がイリジさんの事が好きなのは変わりありませんし、それに……その……最初の妻であるオスミさんと同じぐらい……愛してもらってるから……」
「トリー姉……幸せそう……」
それでも、顔を赤らめて愛してもらっている事を語るトリーさんは幸せそうだ。
本人がそれでいいと言っているのであれば、それでいいのだろう。
「あ、そうだ。それで……その……ちょっとアメリ達に聞きたい事があったのですよ」
「ん?なにトリーお姉ちゃん?」
しばらくの間、旦那さんの事を思い出していたのか悶えていたトリーさんであったが、突然何かを思い出したようだ。
「何々?どうかしたの?」
「あのですね……ロレン達には言ったけど……息子の事でちょっと……」
「え?トリーさんには息子さんがいるのですか!?」
「魔物って女の子しか産めないんじゃ……」
「えっと……オスミさんが人間だった時に産んだ子供です……つまり義理の息子です」
「あ〜なるほど……」
急に息子さんの話をし始めたトリーさん。
魔物は魔物しか産めないんじゃ……そう思ったのだが、どうやらもう一人の奥さんが人間だった時に産んだ子らしい。
たしかにそういった経緯であれば親が魔物で息子も居るって事もあるのだろう。
「可愛い子ですよ?イリジさんに似て男前ですし……金髪で、眼鏡をかけてて、それでいて可愛らしい男の子なんですよ♪」
「へぇ……」
「それに……忌まわしい事ですが勇者として鍛えられてた事もあってとっても強いですし……それに最近ミノタウロスの奥さんをお嫁さんに連れてきたのですよ」
「ほぉ……ん?」
「つい最近までは教団に攫われてて行方不明になってたけどね……まあ、イリジさんが事故で怪我して中々帰らないでいたらどうやら勇者として連れ去られていて……まあ……ついうっかりその街の教会は潰しちゃったけど」
「へぇ〜お姉ちゃんすごーい!」
義理の息子の事を想うあまりとはいえついうっかりで教会を潰せるとは……いくら大人しそうであっても、リリムは恐ろしく強いという事を認識させられる。
それと……その息子さんの特徴を聞いていたら……なんか特徴に当てはまる人物が一人脳裏に浮かんだ。
いやまさかと思いつつも……金髪で眼鏡でミノタウロスでさらに勇者と言ったら……あまりにも合致する条件が揃い過ぎている。
「あの〜……一ついいですか?」
「は、はい。えっと……何でしょうかユウロさん?」
「その息子の名前って……」
なので、違うだろうと思いつつ、その息子の名前を聞いてみたところ……
「はい。おそらくあなた達も知っていると思います……えっと……エルビです」
「えー!?あのエルビさんがトリーお姉ちゃんの子供なの!?」
「やっぱりか……」
やはり思い浮かべた人物……何度か私達の前に立ち憚った強敵……エルビの事だった。
「えと……やっぱり知り合いだったんだね」
「やっぱり?」
「はい……その……帰って来た後、私ともお話してくれたのですが……その……その時に小さなリリムに会ったって聞いたものですから……ホルミさんから聞いた名前もたしか……アメリだったかなと……」
「あーそれで俺達の事じゃないかって思ったんですね」
「そういう事です」
ホルミさんに連れ去られた後いったいどうなったのかと思ってたけど……どうやらエルビは無事ホルミさんに手篭めにされたらしい。
それに話からすると、たしかエルビは父親に捨てられたとか言っていたような気がしたが、どうやらそれはユウロと違って勘違いだったみたいだ。
「あいつは元気にしてましたか?」
「はい……ホルミさんと一緒に……えっと……今まで迷惑をかけてきた人達への罪滅ぼしの旅をしているそうです。まあ……ご両親の事もありますから、今はまだ家にいますけどね」
「そうですか……」
「はい……毎日少しずつ傷付いた人達への謝罪と……その……ホルミさんと二人でセックスしてたりします……」
「へぇ〜……セックス……か……」
結局家族もきちんといて、自分も愛してくれる人もいると……きっと、もう曲がる事無く、ホルミさんと二人いつまでも仲良くやって行くのだろう。
……ちょっぴり羨ましい。
「いやあしかし、トリーお姉様もさぞかし驚いたんでしょ?まさか息子の捜索依頼を頼んだ相手が婿として連れてくるなんてさ」
「えっと……想定の範囲内だった……」
「へ?そうなんですか?」
そんな息子が依頼主の婿として連れてきてさぞ驚いた……のかと思ったら、想定の範囲内だったとの事。
「だって……ホルミさんは……なんというか……その……オスミさんと雰囲気似てましたから……」
「なるほど……納得……」
「あー、あいつ母親については何も言ってなかったし……というか母親は好きそうだったもんなぁ……」
それなら納得……はしないけど、意外とトリーさんは策士なのかもしれないと思った瞬間であった。
「そうそう、それでね……その……」
ぐうぅぅぅぅ……
『……』
「きゃは♪アメリったらお腹空いたのね♪」
「……うん……おなか空いた……」
話をしているうちに……やっぱり時間が時間だったので、案の定お腹の音が鳴ったアメリちゃん。
顔を赤らめて恥ずかしそうにお腹が空いたと呟くアメリちゃん……そういえばこの展開なんだか久しぶりだ。
「さて……じゃあ何か作りましょうか」
「ん?サマリは何か料理できるの?」
「はい。一応旅の中では私が料理担当なので」
「サマリお姉ちゃんのごはんはおいしいよ!!」
「それは気になる……食べてみたい……」
「じゃあ何か作ってみて。作る場所は一応あのキッチンの機能が生きてるからそこでいいとして……食材は……悪いけど、旅で使ってるものでお願い」
「わかりました。それじゃあアメリちゃん、食材出すからそこの広い場所に『テント』広げてちょうだい」
「うん!」
という事で、今から私は料理を作る事にした。
またリリムに、しかも今度は3人ものリリムに食べてもらうと考えると緊張する。
……………………
「さてと……アメリちゃんもお腹空かせてるし、もう時間も遅いからちゃちゃっと作りますか」
現在20時。
いつもより遅い時間だし、今日の夕飯は簡単に、かついっぱい作れるもののほうがいいと思う。
という事で……
「ねえねえサマリお姉ちゃん。今日の夜ごはん何?」
「今日はチャーハンよ。ほら、前にユウロが言って作ったやつ。そろそろ無くなってきた白米を一気に使ってね」
「わーい!!」
霧の大陸の料理で、どうやらユウロの故郷にもあったらしい、ユウロの大好物のチャーハンを作ってみる事にした。
一応1回は作った事あるけど、なにぶん経験不足なので上手く作れるか心配である。
「アメリちゃんはもう今日はお姉さん達とお話しててね。すぐ作っちゃうから」
「え?アメリまだ材料出してネギ切っただけだよ?」
「そうだけど……ほら、折角のお姉さんだしお話しなきゃ。それにユウロ一人に任せられないでしょ?」
「わかった。じゃあアメリはお姉ちゃんたちとお話してくる!」
とりあえず下準備として白米は炊いておいたし、必要な具材もアメリちゃんと一緒に切っておいた。
ここからならすぐに完成まで出来るだろうという事で、ユウロやトリーさん達のもとへアメリちゃんを向かわせた。
折角お姉さんが大勢いるわけだし、ここで料理しているより話をさせたほうが良いだろう。
それに、一応大丈夫だとは思うが……ロレンさんやキュリーさんがユウロを狙っていたらと思うと怖くて仕方が無いので、アメリちゃんに見張りの役目もさせるつもりだ。
「さてと……作りますか」
まずは全員分が作れるように用意した大きなフライパン2つに油を引いて温めつつ、お肉を焼く準備をした。
「えっと……それでね……私にはちょっと夢があってね……」
「夢?」
油が熱されたので、まずは肉を炒め始めたところ、皆の会話内容が聞こえてきた。
「うん……その……エルビに母さんって呼んでほしいなって……せめてトリー母さんって……」
「あー……あいつ今トリーさんの事なんて呼んでるんですか?」
「あの……とか、その……とか、あんた……とか、どうしても個人指名する必要がある時はトリーさんって……」
「自分からそう呼んでって言ってみたら?」
「そう言ったんだけど……その……あんたから生まれたわけじゃないからって……オスミさん曰く照れ隠しらしいけど……」
「前途多難……」
まあ私はあまり関わった事無いからなんとも言えないけど、そんなものだろうなと思いつつ……今度はフライパンに長ネギを投入する。
「そういえばキュリーさんは何か……」
「私……聞き専……」
「そうなのよねー。この子ったら昔からいろんな事に無関心でさ〜。自分の好みの話すらしないのよね。姉として将来が不安だったけど、これでも人気はあるのよね」
「人気?」
「そう。たまに見せる笑顔が凄く可愛いのよ。普段とのギャップで惚れる人続出でね」
「……特に意識してない……」
そういえばキュリーさんはずっと無表情で、口数も少なかったな……と、卵を投入し、ちょっと混ぜた後に卵が固まらないうちに白米を入れ力を入れて混ぜながら炒める。
「キュリーお姉ちゃんの好きなことって何かあるの?」
「……読書……」
「読書ですか。ちなみにどんな本を?」
「官能小説……相思相愛系……」
「官能……そこはぶれないんですね……」
「きゃは♪エッチな事が嫌いな魔物はいないわ♪特にアタシ達リリムはたとえこの子みたいに普段はまるで発情してないマンティスみたいな性格してても性への関心はきちんと持ってるのよ♪」
「ロレン姉……流石にそこまでじゃない……」
たしかに何事にも関心はなさそうに見えたけど、そんな事はないという事か……なんて思いつつも、パラパラになってきたので塩コショウやしょうゆで味付けを施しながら炒め続け……
「ん?なんだかいい匂いが……」
「サマリがそろそろ作り終える頃かと……だよなー?」
「うん!あとちょっとで完成するからもう少し待っててー!!」
一口味見して……ちょっと塩コショウを加えて強火で炒めて……チャーハンの完成!
紅ショウガを乗っけるとよりおいしいとはユウロが言っていたけど、これは人によって好みがあるだろうから別に出す事にしよう。
「お待たせしましたー!」
「美味しそう……」
「えと……いい匂いです……」
きちんと人数分お皿に盛りつけて、皆が待つテーブルへ運ぶ。
流石に一気には運べないので、一つずつ運んでいたら……
「サマリ、俺も運ぶの手伝うよ!」
「え!?あ、うん、ありがとう……」
私の事を気遣ってくれたのか、それとも単に自分の好物だったりお腹が空いたからか、ユウロが途中から運ぶのを手伝ってくれた。
一番最初の理由だったら……いや、もし他の理由であっても嬉しい。
「それじゃあこれを……あっ」
「おっとゴメン。じゃあ俺はこっちを運ぶよ」
「あ……うん……」
そして……一つのお皿を取ろうとして……同じものを取ろうとしたユウロと手が触れ合った。
一瞬とはいえ、ユウロに触れたのだ……なるべく表には出さないようにしたが、とても嬉しくて笑顔になる……と同時に、一瞬しか触れられなかった事を寂しくも思った。
それに、触れた瞬間、私の鼓動がはち切れんばかりに激しくなった……嬉しい半面、気付かれてたら怖いとも思う……
「見た目は完璧ね」
「味もおいしいよ!」
「ありがとうねアメリちゃん。じゃあ早速食べましょうか!」
『いただきまーす!』
「ジパング式ね♪今回はそれに合わせて……いただきます!」
ユウロの手の感触を忘れないようにしながらも、お皿に盛られたチャーハンを全部運んだので、早速食べる事にした。
「むぐむぐ……美味しい……」
「たしかに……アメリが言う通り美味しいわね♪」
「あ、あの……とっても……その……美味しいです……イリジさんの精には勝てませんけど……」
上手くできたか自信はなかったが、おおむね好評のようだ。
流石に旦那さんの精の味に勝るわけはないが……トリーさんもキュリーさんもロレンさんもおいしいと言いながらパクパクと食べ続けてくれている。
卵が絡み、パラパラとしたご飯が舌先で転がる。塩コショウなどの味付けもきちんと付いており、かつ強すぎない。
自分でも食べて美味しいと感じる……きちんと作れたようだ。
「はぐはぐ……ごくん!チャーハンおいしいよサマリお姉ちゃん!」
「ふふ、ありがと」
アメリちゃんもご満悦の様子だ……スプーンを口に運ぶ手が一切休まない。
「うん。めっちゃ美味い!まあこれは俺が一番好きな味付けだしな!」
「え?そうなの!?」
ユウロにも大好評だったみたいだ。にこやかに私が作ったチャーハンをおいしいって言ってくれている。
しかも味付けが好みだったとは……私が一番美味しいと思った味付けをしただけなので、好みが一緒だと思うとついにやけてしまう。
「あん?どうしたサマリ?なんかニヤニヤして……」
「ふぇ?あ、いや……その……皆おいしそうに食べてくれるなーっと思ってさ。今日のはあまり作った事無いものだったからいつもより自信なかったからね」
「いやいやこれは充分美味しいわよ。ほぼ毎日こんな食事ができるアメリが羨ましいわ」
にやけてたらユウロ本人に突っ込まれてしまったので、あわてて誤魔化した。
「サマリ」
「え?はい、何でしょうか?」
誤魔化したところで、キュリーさんが声を掛けてきた。
「作り方……教えて……」
「え?えっと……このチャーハンの事ですか?」
「うん」
一体何かと思ったら……チャーハンの作り方を教えてという事だった。
「あーまあキュリーってユーリムお姉様と一緒で味見すらしたくない子だもんね。いつもこういったご飯作ってるしね」
「精は……一人だけでいい……」
「そんな事言ってるからいつまでたっても男ができないのよ」
「えっと……男が出来ないのはロレンも……」
「言わないでよトリーお姉様……」
どうやらキュリーさんは誰かの精を貰っているのではなく、普通に食事を取っているらしい。
「そういう事なら後でいろいろ教えますよ?」
「助かる……」
という事で、ご飯を食べ終えてからキュリーさんにいくつかのレシピを教える事にした。
「ふぅ……お腹いっぱいね……」
「ごちそーさまー!!」
なんて事を話しているうちに、私以外はあっという間にご飯を食べ終えてしまった。
私は……ユウロに気付かれないようにちらちら見てたりして食べる事に集中してなかったせいでまだ残ってる……ので、急いで平らげた。
「さてと……そういえばあなた達はこの後どうする気なの?」
「え?どうするって……」
「そうね……今日はこの後どうするつもりなのかとか、今後どこに旅しに行くのかとかね」
皿洗いをユウロとの共同作業で終わらせた後、休憩としてソファーでのんびりくつろいでいたらロレンさんにそう尋ねられた。
そういえば、結局ここでトリーさんや他のお姉さん達とも会えたわけだし……どうするか全く決まってなかった。
「というか今更ですが、ここって空き小屋なんですよね?やたら整備されてる気がするんですが……」
「ええそうよ。ここは少し前までペンタティアの兵隊達が魔界の様子を探る為の拠点として使ってた小屋でね。あなた達が通るとしたらこの近くかなって思ったからここにいた人達アタシ一人で全員魔物とその番にしてユーリムお姉様やお母様のところなど適当な魔界に転送させたから空き小屋よ」
「あ〜……なんというかその……凄いですね……」
そういえばここの小屋は空き小屋にしてはやたら整備されているとは思った。
なにせセレンちゃんに説教を受けた部屋は埃も特に被って無かったし、今も普通にキッチンが使えたのだから。
どうやらそれは本当につい最近まで普通に使われていたからとの事だ……というか、話し的に無理矢理ここの人達を追いだしたらしい……
なんというか……さすが過激派リリムである。
「何よその言い方……あなたも堕落させてあげましょうか?」
「え……それは……」
「だめですよ!!」
「きゃは♪冗談よ冗談♪そんなに怒らないでよ♪」
「はぁ……そうですか……」
そんなロレンさんがユウロを堕とそうだなんて言ってきたので、私は慌ててロレンさんに怒鳴ってやめさせようとした。
どうやら冗談だったみたいだけど……正直この人が言うと冗談に聞こえないのでやめてほしい。
「別にあなた達夫婦の間柄を壊すような事しないわよ」
「え、ふ、夫婦だなんてそんな……」
ただまあ、お姉さん達との会話の中で私をユウロとの夫婦と言われ、やっぱりそういう風に見えるんだと嬉しく思ったり……
「いやあ、俺とサマリはそんな関係じゃないですよ?」
「え?そうなの?」
「えっと……てっきりそうかと思ってました……」
「……意外……」
「なんか最近はよく言われるんですよね……一応ただの旅仲間でしかないですよ。な、サマリ?」
「え、あ、うん。そうですよ」
即座にユウロに否定されて悲しくなったりした。
まあそりゃあ事実私とユウロはまだそういった関係にはなってないけど……意識してなかった時はもやもやとしただけだったが、今はユウロがそう言ったり、自分で否定すると凄く心が苦しくなる。
「それはちょっと想定外だったわね……まあそれはそれとして、話は戻すけど結局これからどうするのか決めてないのね?」
「ええまあ……」
こちらがもやもやとしているうちに話が戻ったようだ。
だからと言って心が晴れたわけではないが……すぐ解決できるようなものではないし、とりあえずは平常心で話を続ける。
「とりあえず今日はこのまま小屋に泊まっていきなさいよ。どうせアタシ達もここに泊まるつもりだしね」
「え?そうなの?」
「えっとね……明日、さっきの教団兵達が居た街をね……その……堕としに行くの……」
「……へ?」
「奴隷の魔物……解放……」
「奴隷の……魔物?」
「ええ。さっきあの元兵士達を魔界に送る時に聞いたのよ。あの国では秘密裏ではあるけど魔物を奴隷として飼っているってね……言い分からすると自ら性奴隷になった魔物ってわけじゃないからさ、解放するついでに国一つ堕としてやろうかと思ってね♪」
今日はこの後どうしようかなと思っていたのだが……そういう事ならここに泊まって行こうと思う。
そういえば3人はどうするんだろうと思っていたのだが、どうやら明日ペンタティアを堕としにいくらしい。
たしかに魔物は生き辛いと聞いていたが、まさか奴隷としているとは……言っちゃ悪いが、ペンタティアは堕とされても仕方が無いと思う。
というかリリム3人に攻め込まれるのだ……もうペンタティアの運命は決まったも同然だ。
「じゃあアメリも……」
「アメリは駄目よ。そういうのはもっと大人になってからね♪」
「そう……あなたは旅をする……」
「えっと……私達以外の姉妹を……その……探すほうがいいかなと……」
「う〜ん……わかった。じゃあ魔物のお姉ちゃんたちを助けてね!」
「心配しなくても楽勝よ♪」
アメリちゃんも手伝おうと考えたようだ……おそらくペンダントの力もあるから楽に戦えるだろうし、魔物が奴隷にされていると聞いて腹が立ったのだろう。
でも、流石に8歳であるアメリちゃんに手伝わせようとは誰も考えていないようだ。きちんと断っていた。
「じゃあアメリはお姉ちゃん探しの旅にでるとして……他のお姉ちゃんの居場所とかわかる?」
「わからない」
「私も……この二人とユーリムお姉様以外は……えっと……詳しくわからない……」
「残念だけどアタシも他は知らないわ。多少は知ってるけどユーリムお姉様に聞いた感じ皆会ってるみたいだしね」
「そっか〜……」
ならば次のお姉さん探しをしよう……そう思い、何か心当たりはないかと聞いてみたのだが……残念ながら3人居てもこれといった情報は得られなかった。
「まあ、アタシとしてはロキリアからペンタティアとは反対にある親魔物領の街に行ってみたらいいと思うわ。何かしらの情報が得られるかもしれないし、こっちと違って危険性は皆無だろうしね」
「なるほど……ありがとうございます」
「ちなみにその街でもしリリムの情報が得られてもペンタティア方面であればおそらくアタシ達のうちの誰かの事だと思うからね♪」
「あー。はい、わかりました」
なので、いつも通りに親魔物領をめぐる旅を続けようと思う。
なんだかんだで情報を得られる可能性も多いし、安心して旅を続けられるのだから……
…………
………
……
…
「……ふぅ……」
現在23時。
どこに行くか決めた後、私はキュリーさんにチャーハンとポトフと天ぷらと肉じゃがの作り方を教えた。
ずっと無表情で私から教わっていたのだが……全部の作り方を理解した後
『……ありがとう……』
だなんて顔を真っ赤にして微笑みながら言われてしまった。
その微笑みの破壊力たるやアメリちゃんの笑顔と同じ位、いや、それ以上に可愛くて思わず抱きしめてしまった程だ。
それと同時に絶対ユウロにだけは見せないようにしようとも思った……あんなのを見てしまっては流石のユウロだって恋してしまう可能性が否定しきれない程だったからだ。
「はぁ……なんか眠れないな……」
教え終わったところでシャワーを浴びて、そのまま寝室で寝る事になった。
ほとんどの部屋が二人一組の部屋だったので全員でまとまって寝るのではなく、トリーさんとキュリーさん、アメリちゃんとロレンさん、そして……私とユウロで同じ部屋で寝る事になった。
何故この部屋割りかというと……ロレンさんがアメリちゃんと寝たいと言い出し、他の二人もそう言いだしたがじゃんけんの結果ロレンさんが勝ったからだ。
そしてユウロ一人男な事もあり、普段から一緒の空間で寝てる私がユウロと一緒に寝る事になったのだ。
「……」
ユウロの事を意識し始めて、いきなり二人きりで寝る事になるとは……私はワーシープのはずなのに、さっきからドキドキし過ぎてまったく眠れない。
勿論ユウロはそんな私にお構いなしに既に夢の中だ……寝息を立てながら安らかに眠っている。
「……」
私はベッドから抜け、ユウロの寝顔をジッと見つめていた。
ユウロの寝顔を見続けるうちに……私はお腹の下が熱くなってきて、落ち着かなくなってきた。
「う……」
今までなりを潜めていた魔物の本性が、ユウロを襲い精を貰えと訴えてくる。
ユウロの顔に自分の顔を近付け、唇が触れ合いそうになって……冷静になって離れる。
ユウロの身体に触れ、撫で回し……ユウロが身を捩じり慌てて手を離す。
さっきからこんな事をずっと繰り返してる……襲いたいと思うと同時に、襲ってはいけないという理性もきちんと働いている。
「ん……ふぅ……」
それでも……下腹部の疼きは止まらない……
どうすればいいのかわからないまま……私はユウロを起こさないようにそっと部屋を出て、とりあえず防音魔術が『テント』程ではないが掛けられていたシャワールームへふらふらと向かった。
「はぁ……」
シャワールームの一室に入り、座りこむ私。
「ん……」
そのまま股を広げ……自分では一度も触った事のない、熱を帯びている場所へ右手を伸ばした。
自分の腰回りの毛を掻き分け、下着の上から人差し指でそっと触れてみると、そこは既に微かに湿っていた……
これは汗や尿なんかじゃなく、おそらく……
「んっ……」
少しだけ吐息を漏らしながら……私は、疼きが導くままに自慰をし始めた。
もちろん今の今までした事はない。なので、なんとなく、身体の赴くままにし始めた。
「んぅ……ぁ……」
下着の上から、自分の秘裂に沿って、ゆっくりと指を動かし始める。
指に力を入れ、少しだけ強く刺激するたび、ゾクッとした快感が身体中に走る。
「んん……んふぅ……」
指を動かすたびに、もっと快感を得ようとその動きは意識しないうちに速くなっていく。
指と布が擦れる音と、私の漏らす吐息の音だけがシャワールームに響く。
「んふ……ああっ!」
しばらく掻いているうちに、下着の上からでは物足りなくなってきた。
そこで私は下着をずらし、直接秘所を指で触れてみたら……おもわず声を上げ、身体が少し跳ねる程の快感が襲ってきた。
布越しで触っていたのとは比べ物にならない程敏感に感じる身体……もじもじと身を捩ってしまう。
「んあっ、うぁ、あはぁ……」
最初は湿っていた程度だった秘所も……気付けばかなり濡れていた。
防音は完璧じゃないから、大きな声を出してしまうと誰かに聞こえてしまうかもしれない……そう思っていても、漏れ出す喘ぎを抑える事は難しかった。
「ひあぁ……ふぅん……」
指に絡みつく粘液……にちゃにちゃと指を動かす度に鳴る音……
それらを見るにつれ、その音が耳に響くにつれ、私の中で何かが高なってくる。
いつしか下着をずらすだけでなく、完全に脱ぎ取っていた。
「んん……ふああああっ!?」
夢中になって指を動かしていると、突然強い刺激を感じ、身体がビクンと跳ね、おもわず声も高く出てしまった……
一体どうしてしまったんだろうと思ったら……どうやら陰核、つまりクリトリスを触ってしまったらしい。
知識としてそういった部位があるのは知っていたが……まさかここまで痺れるような快感が駆け巡るとは思わなかった。
「ふぁ、あ、ああっ!!」
カリカリと指先で掠めるようにクリトリスを刺激し続ける。
身体がビクビクと跳ねあがり、抑えようとしても声が出続けてしまう。
お尻の下に少し水溜りを作る程どろどろと流れ落ちる愛液……毛にも吸収されていて、べっとりと濡れている。
「ああっ、あ、あはああああっ!!」
この手が自分のではなくユウロのものだったら……そう思い始めると、興奮が一気に強くなった。
ユウロの手が私の秘所を愛撫し、私を感じさせる……想像するだけで、電気が流れるように快感が全身を廻る。
そのままクリトリスやその周辺を攻め続けるうちに、全身を波打つ快感に気持ちは高く昇っていき……
「ああっ、はああっ、ふあああああああっ!!っ!!」
……とうとう絶頂を迎えた。
ガクガクと大きく腰が震え、体液を噴出した。
「あ……あぁ……ぁ…………はぁ……はぁ……」
絶頂が過ぎ、力が抜けて壁にもたれかかる。
荒く息をつきながら……ふわふわとしている感覚の中で絶頂の余韻を感じていた。
「はぁ……はぁ…………ふぅー……」
自分の手によって迎えた、初めての絶頂。
身体はまだ火照っているが、完全に無くなったわけではないものの、高まっていた性欲も抑えられたようだ。
まどろみと気だるさの中、そのまま寝てしまいそうになるが……流石にこの場でこのまま寝てしまえば何をしていたのか全員にばれてしまうので、なんとか頭を振り眠気を飛ばしながら力の入らない身体を起こし、後処理を始めた。
「うわ……ベトベトだ……」
丁度シャワールームにいるので、私はシャワーで床に溜まっていたり下着や毛皮にべっとりとついていたりする愛液を洗い流す。
今日はもうこの下着は穿けないので、部屋に戻ったら新しいのと穿き替えなければ……
「こんなもんかな……」
濡れていたものを洗い終わり、タオルで水気をしっかり取り、部屋の中にたちこめる性臭を換気により薄める。
しっかりと処理を終えた為、私が言わない限りはここでオナニーをしていたなんて誰も気付かないだろう。
あとは、絶頂前後で結構大きな声を出していたので、それで誰か起きていない事を願うばかりだ。
「……」
全てを再確認し、大丈夫だと思い部屋に戻ると、熟睡しているユウロの姿があった。
これで少なくともユウロにはバレていない……それがわかって、かなりホッとした。
「……おやすみ、ユウロ……」
下着を穿き替え、ユウロの寝顔を見ながらそう呟いて布団に潜り、私は心地良い眠りに着いたのであった……
13/08/10 19:08更新 / マイクロミー
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