読切小説
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Revive of Queen
魔物達は今や美しい女性そのものであり基本的に無害、私達人間に友好的に接してきているのに。
人間ときたらそれを悪だと一方的に決めつけ、処分を下してきた。

私はその事実を知っていた。
知っていて尚、彼女達の命を奪ってきた。

そう、教会の掌の上では、私は歴史にその名を馳せる大英雄。



私はトゥエンティと呼ばれていた。
戦闘中のその姿から狂戦士<バーサーカー>との名称で呼ばれたことも、最も魔物を"浄化"した才女と持て囃されたこともあった。
言わば、教会のお気に入り。
もっと言えば――子供の頃から過酷で特殊な訓練を受けた、<20番目>の生体兵器。

獲物は、両手に装着した爪。
これに魔力をこめ、一振りすれば発生する鎌鼬で相手の首を次々に刎ねていった。
身体能力も自ら魔法を唱えて劇的に強化し、最早獣じみた動きで戦場を駆け巡った。

私はそれだけで満足していた。
敵である魔物を容赦なく、殺す、殺す、殺す。
子供だろうが、夫が居ようが。
背徳感は、とっくの昔にぶっ壊れていた。
そして、気が付くと何時も血と肉片で私の身体は真っ赤に染まっている。
それに私はそれに最高の悦楽を感じ、高笑いを上げていたのであった。

それは教会の歪んだ事実を知っても、私は止められなかった。

『魔物は人を喰らわない。』
『人間側が歩み寄れば、どちら側にも全くの損害無くこの戦いは終わる。』
『魔物が台頭することが世界の唯一の救済にも繋がる。』

――関係ないわね。
だって、楽しいんだもの。
肉を切り裂き、血を浴びることが。
それが、神の名の元で許されているんですもの。
こんなに楽しいことを他に知らない…否、そんなものは存在しない。
私にとって、殺戮が糧であり仕事であり、唯一無二の楽しみ――だった。

そんな私に、最大級の楽しみが来た。
魔王の娘と呼ばれる最高峰のサキュバス、リリム――彼女が私の元に来たのだ。

思わず、ゾクゾクとした。
快感にも似た刺激が、体中を駆け巡るのである。
嗚呼、彼女と一体どんな素敵な殺し合いができるのだろうって――!

…しかし、彼女は期待外れと言い様が無かった。
力は精々サキュバスに毛の生えた程度。
それに彼女はただ何度も繰り返し、私に問い掛け続けていたのである。
幾ら傷付こうが、ふらふらになろうが、それでも。
最後の瞬間まで、彼女は私に叫び続け…そして倒れた。

「貴方の戦いに、意味はあるのですか」

…ですって。
最強が呆れた、馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。

…その時はそう思っていた。



しかしその言葉は。
彼女を殺めたあとも頭の中で幾度もなく反芻し、その日は勿論、国を挙げて祝福され祭りと相まったときもずっと。
彼女が、頭の中に居座り続けるのである。
辛辣そうな顔をして、私を思い被るような目で、ずっと私のことを見ているのである。
あの儚げで大人しい声で、ずっと私に叫ぶのだ。

ずっとだ。
私は彼女に縛られ続けた。
彼女の存在に、眠れない夜もあった。
戦闘にもまるで集中できず、前線を離脱させられた。
しかし、何をしようがやはり彼女は私に幾度もなく幾度もなく、問いかけ続けるのであった。

意味?楽しいからに決まっているじゃない。
そこに善悪も存在しない。
ただ、それだけよ。
私には神の名の元に、それが許されていた。
魔物たちを殺せば教皇が、街の皆が喜んでくれた。
部隊の可愛い部下の娘らも、私のような者に輝いた目をして付いてきてくれる。
その為の訓練をずっと受けてきた。
10歳の頃から前線に立ち、爪を振るって。
ただ魔物を殺すだけの…。


……。


じゃあ、私。
自分で何かしようとしたことがあるの?


私はただの殺人機械<キリングマシン>。
言われたままに爪を振るって魔物を殺し、殺し、殺し、殺し、殺し。
西へ、東へ、魔物だと言われれば、首をハネ、血肉を浴び、高らかに笑い…。

じゃあ、私自身で何をやってきた?
教会が意味を無くした瞬間――私という存在は、ただの空っぽの人間?

私はただただ与えられたことに、身を任せてきただけじゃないの?

おおよそ、街一つ分近くを葬った後だった。
そんな簡単なことにも気付かずに、この24年間生きてきた?
じゃあ彼女は本当に、命を張ってまで私の事を思って――

自室でベットに倒れこんだ私は、瞳より零れる涙を抑えることができなかった。
それは夕暮れのことである。

もう手遅れなのだろうか。
それでも、この無意味で空虚な人生をやり直したい。
自分で何とかできるだろうか…いや、何もできるとは思えない。
この異常なまでの殺戮能力が無ければ――私はただの肉塊に等しいからだ。
それが無ければ、私は一人ぼっち…?

…誰か。

誰か…私に、慈悲――を!

『ならば、私が力を授けましょう。貴方を変える力を――』

……彼女の言葉は、変わって。
それを最後に聞こえなくなってしまった。

――代わりに、私の身体が熱を帯びて熱くなってきたのである。
それに、身体が疼いて疼いて…私はたまらず狂った。
それは殺人欲ではない、今までそれを代わりとして満たしていたもの…性欲。

「な…んぁ、はぁっ…あぁんっ…!」

私は自室のベッドで、ただひたすらに快楽を貪り続けた。
やり方は、本能が知っていた。
下腹部に指を入れてはかき回し、自らの二つの胸の、先端をこねくり回し。

「やっ…また、イクッ…んぁああっ!」

弓なりに身体を反らして、絶頂に伴うもう一つの悦楽に顔をぐちゃぐちゃにして…。
頭が、身体が、全て白に染め上げられていく感覚。
その声は、獣じみて──



「……はっ…あ…」

気が付いたときには。
その身すら、獣へと変貌していた。

私は、ワーウルフにその身を変えていたのだった。
今まで数千と殺めてきた魔物に、私自身がなっていたのだ。

しかし――鏡で見たその姿に私は愛おしさを感じたのであった。
髪と同じ銀色の毛が生えた手足の鋭く尖った爪は、自らの肌を引っ掻いても傷は付かず、この指で私の中を弄くり回しても全く怪我をすることは無い。
頭からは狼の耳が生えてきており、周囲の環境音から、隣の家庭の話声までしっかり聞き取れるようだ。
更に嗅覚も発達したようで、私の洗濯されたはず衣類からは、まだ血の匂いが嗅ぎ取れるようになっていた。
お尻から生えた尻尾は自らの意志で揺らせるようで、ゆらゆらと動かすだけでも可愛らしい…。

嗚呼なんとも、素晴らしい姿なのだろうか。
幸福と快楽に満ちた笑顔を、私は浮かべていた。
そして身体が、満ち足りていた。
今なら、何でも出来る気がする…そんな気さえしていた。

……さぁ、私は変わった。
何をしようか。
身体の疼きに身を任せて、男の精を搾り取るだけの魔物になるだけでは勿体無いような気がして。
いや、そもそも私にはまだ、意中の男性は居ない。
出会いの場も勿論全て断絶されていたからである。
…ならば──

「…そうね…」

この幸せを、皆に分け合いたい。
この快楽を、皆に与えたい。
そのために、何をすればいいか。

……日も完全に落ち、虫も寝静まりかえる夜。
私は部下の女性達の寮へ潜入した。
六人全員の首筋に牙を突き立て、全身の精を奪って…ワーウルフへと変えた。

私は、何故かこの方法を知っていた。
これも、魔物の本能なのかしら。

「……た、隊長…これ、は」
「あ…ふん…身体、がぁ…」
「私達…ワーウルフに…?!い、嫌ぁ…」

すっかり変わった彼女達を起こすと、そのリアクションは様々であった。
急激な身体の変化に、戸惑う者。
身体の火照りに、快楽を貪り始める者。
自らの姿には気付かず、私の容姿を見て驚く者。
そのあまりの可愛らしさに…私は興奮を覚えた。

「…殺戮の他に、面白いことを覚えてしまったの。みんなみんな、気持ち良くなれる方法を…ね」
「…みんな、気持ち良く…?」

私は頷いたが…辛抱たまらない。
魔物へと変貌し、パニックになっている一人の少女を強引に抱きしめると同時に、唇を重ねた。

「あっ…う…ん…んんっー?!」
「ん…れろっ…ちゅる…♪」

舌を侵入させ、彼女の口内を犯す。
唇を離すと忽ち唾液のアーチが掛かった。

「……ぷはぁ…たい、ちょお…」
「ふふっ…今から街を回って、女性全員をこっそり、ワーウルフに変えて来て頂戴。子供もお年寄りも関係無く…全員よ。朝の日差しが上ってきた頃には、この街は素晴らしいものになるでしょう」

私は口では穏やかに笑みを浮かべ…ているはずだが、多分淫らな微笑みになってしまっているだろうか。
それでも、彼女達はその顔に疑問を浮かべることも無く、ほぅっとした目つきで私を見てくれた。
このような状況でも私に従ってくれるのが、たまらなく嬉しかった。

「…凄く、エッチな気持ちでしょう?凄く、幸せな気分でしょう?これを皆にお裾分けしてあげるのよ…良いわね?」
「た、隊長…」
「ふふっ…その後は、皆で楽しみましょう?貴方も…ね」
「あっ…はぁっ…はぁい…♪」

私は先ほどの少女を解放してあげた。
彼女の表情は蕩けきっていた…ではなくそうさせた、が正解だろうか。
私はそれに微笑むと、頭を撫でてやった。

…そうね。
この街を変えたら。それを統べる者が必要でしょう――それを、私が。


『…私の匂いをよく覚えなさい。朝になったら、私の匂いを追ってくるの。今のあなた達ならそれが出来るわ』

私は彼女達にそう告げて散開させると、私は一人、街の中央にある総督府を兼ねた小城へ向かった。
堀を、塀を、軽々と飛び越えると――あ、見張りの兵士の目の前。

「――!まも」

彼が声を発する瞬間。
直ぐに彼に向かって駆け出し、思う存分に彼を切り裂くように爪を振るった。
勿論、殺した訳じゃない。気絶させただけだ。
人の肉体を切り裂かず、精神体のみを直接攻撃する。
でなければ先程の一撃で――彼は25分割程になっていただろうか?

「――っと」

私は気絶し倒れる彼を咄嗟に抱き止めた。
鎧を着た彼が倒れればその音は小城全体に鳴り響いて忽ち騒動になる。
できるだけ、静かに、そして朝が来た瞬間に変貌するのが望ましい。
…が、別の意味でそれは危険なことであった。

「…ん…ふぁ…っ?!」

…香る、男の子の匂い。
それが鼻腔に入った瞬間…私は魔物と成った際のあの身体の疼きを強く感じた。
それと同時に、彼を愛しく思うように感じた。
彼は年端も行かぬ少年兵で、その幼く可愛い顔を見ると…衝動的に襲ってしまいそうになってしまう。
これも魔物の本能、だろうか…しかし彼を犯し、交わることが今回の主だった目的ではない。

「ん…ふっ…くぅっ…ふぅ」

身体の疼きに耐えに耐えた私はとりあえず、彼は庭の茂みに隠しておいた。
我ながら、良く我慢できたと思う。
常人だったら最初のコンタクトでもう持たないだろう。
あ…後で、彼も戴きに戻ろうかしら。

それから数時間だろうか。
小城を軽々と制圧した。
幸いかいつも通りというか、見張り達は連日の勤務で鈍くなっていた。
たまにはもう少し、休ませてあげた方が良いと何時も思うのだけど。
そこを、暗殺するかのように気絶させて…基、無理やり休憩を与えた。
女性兵士は気絶させてからワーウルフに変えた。
小城で働くメイド達も勿論、一人残らず。

…さて。
東の空も白んできた。

そろそろ、最後の仕上げをしなくては。

「…おはようございます、総督」
「おはよう。今日の教団との会議はどのように――?!」

最後に私が向かった先は――総督室。
この街を取り仕切る…えっと、毎回名前を忘れてしまう女総督。
魔物討伐を成功させてきた度に彼女の所まで赴いて報告させられてきた。
今回は、こちらから赴いた。

「本日の会議は中止でございますわ、総督。理由は、新しい街の夜明け故」
「…貴女は、トゥエンティ?!しかしその姿っ…は…!」

ベッドに腰掛けていた彼女を押し倒し、その両手を抑えた。
…彼女はそれ程若くは無い。だが、魔物化すればそれは関係の無いこととなる。

「…墜ちたわね、この殺戮人形めが」
「…違いますわ、総督。私は、殺戮人形から、魔物へと昇華致しましたの」

……外から、淫猥に満ちた叫び声、喘ぎ声が聞こえてきた。
それは朝の静寂を打ち砕くような、まるで昼間の喧騒。
小城内からも聞こえてきた。
起きてきたメイド達が、見張り兵達を犯し始めたのであろうか。

「ふふっ――聞こえていますでしょう?この悦びに満ちた祝福の福音が!もう間もなくこの街は、魔物達の楽園へと生まれ変わるのよ」
「く…全て、貴女が…?」
「私と、私の愛しき部下達が、日の昇る前に全てを準備しましたわ。後は――貴女だけです、総督」

私は彼女の首元に近づき…噛みついた。
そして彼女の内から、精を吸い上げる。

「んぁああぁあああぁっ!こ、こんな事をすれば、いずれは貴女に、神の裁きがぁっ!」

そして、私の魔力を送り返す。
すると忽ち人間の姿から、ワーウルフへと変わってしまうのだ…彼女も例外では無い。

「あ…あぁっ…」
「…ふぅ。裁きは、もう下されましたわ。生体兵器、トゥエンティはもう居ない。今ここに居るのは…」

牙を抜き、最後の大仕事に一息付くと、私は総督の部屋の棚に向かっていた。
その上に誇らしげに飾ってある、王冠を手にすると、私はそれを躊躇いもなく被った。

「…クイーンワーウルフ、”ウェスティ・サンヴェルグ”よ」
「……女…王…?」

私の本当の名前。
それは、生まれたときに教団から拉致され、非人道的な教育を受けさせられて死に至った悲しい女の名前。
そしてそれは、魔物として蘇った、女王の名前――。

…総督はもう殆どワーウルフに身を変えていた。
年を取っていた筈の身体は若返り、その熟れた肢体は魅力に溢れていた。
ふむ、こうしてみると…意外と美人ね。

「……はぁっ…はぁん……女王、殿下…」

彼女はそのように言葉を紡いだ。
私はそれに微笑みを返すと、言葉を返した。

「…貴女の愛する者の傍に行きなさい。そして、その幸福を他の人間達にも教えて差し上げなさい――!」
「……はっ、女王殿下!」

すっかりワーウルフとなった元総督は、私の言葉に従い、あっと言う間に外に飛び出してしまった。
…あーそう言えば彼女、遠方に同じ総督をやってる夫がいるんだっけ。

…彼女の名前って、何だったかしら。


――私が女王なんておこがましいかしら。
でも、英雄と呼ばれるよりは、こっちの方が――断然良いと思ったのだ。


彼女の個室を出れば、そこはすっかり乱交会場であった。
ワーウルフとなった女性が男を犯し、かと思えば目覚めた彼が、愛しの彼女となっただろう女性を貫き責め立て…。

「――ふふっ」

その横を通り過ぎる。
あぁ、この匂いと音、情景。
皆の幸せそうな、淫らな笑顔。

私が、やったんだ。
私だけでは無いが、私自らの行動が、皆を悦ばせれたことに繋がったのだ。
初めて、自分で行動して――この成果は最高といえる。

「隊長…任務、完了致しました」
「皆で頑張って、皆私達の仲間にしましたよっ」
「ですから…たいちょ〜♪」

そこに、六人の部下達が私の元に戻ってきた。
彼女達は皆一様に私に我慢出来ないと訴え、私の元に駆け寄ってきた。

「ふふっ…皆、良くやってくれたわ。貴女達のお陰で、街は新たな一歩を踏み出したのよ」

そう言っている間にも手を出されそうだったので、ちょっと待って、と制止をかけた。
そして付いてきなさい、とも言った。
彼女達六人を連れて向かった先は…小城の中心、謁見の間。

そこには宝石で飾られた玉座が、堂々と鎮座していた。
領主の尊厳を保つための、金の玉座。

「でも、これからが大変よ。この街を束ねていかないといけないし、この街や私を狙ってくる教団からも皆を守らないといけない…勿論、街の外の皆にも幸せを分けてあげないといけないし…ね」

私はそこに腰掛け、頭に載せた王冠に手をやり、さするようにした。
その周りに集まってくる、六人の彼女達。
…もう、皆耐えかえないといった表情で私を見つめていた。

「ふふっ、焦らせ過ぎちゃったわね…お待たせ、では始めましょう…♪」
「はぁい…"殿下"様ぁ♪」

私が肌を露出させると、そこに次々と腕が伸び――

――これで終わりじゃない。
寧ろ、これから始まっていく。
街の総督…いや、一国の女王として。
自分の意志で、自分自身の行動で。

生きる。










…ところで、ふと気が付く。

「…そう言えば外の見張りの…あの可愛らしい男の子、ってまだ眠ってるのかしら」
「もう誰かがたべちゃってましたよー」
「勿論性的な意味でー」
「………まぁ、そうよ、ねぇ…」

…まぁ、暫くは未婚で良いかしら…ねぇ。
12/11/19 18:37更新 / 23night

■作者メッセージ
マスエフェクトおもしれえ(挨拶)

というわけで久々にこの世界へ干渉できて嬉しい限り。
この夏休み中にもう一個小説書くぞー。

2012/11/19 主人公の本名をちょっと変更。
あとこれで「新しい小説のカタチ」を、作ります。

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