連載小説
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Report.11 私と蚯蚓と密林の決戦
〜獣の吼える森・森神様の祭壇〜
「因縁在る敵と因縁在る地で戦う、ですか……偶然は恐ろしいですね」
対峙した『魔物娘捕食者』を見据えながら、コラムは静かに呟いた。
コラムが決戦の地に選んだのは、『人類の護符』に住処を追われてからエヴァンと出会うまでを過ごした獣の吼える森。
コラムと彼女見据える『魔物娘捕食者』が対峙する場所は、嘗てエヴァンとフェランがオーク達に鍋にされかけた、森神様の祭壇である。

「旧世代の魔物・ズアウィアの名を冠する怪物、『GE‐01』。こうして、貴方と再び対峙するとは思ってもいませんでした」
コラムが対峙するは『GE‐01』……コラムがバイコーンへと変化した遠因であり、家族を奪った憎き仇敵である。
鎌首を擡げ、赤黒い粘液を滴らせながら巨躯を揺らす『GE‐01』を、コラムは普段の彼女とは掛け離れた感情を浮かべて睨んでいる。
ソレは憎悪、血の繋がりは無けれども大切な家族を奪われた憎悪をコラムは浮かべていた。

「来なさい、ズアウィア……貴方に喰われたオーク達の恨みを、今晴らします!」
そう叫ぶと同時に、コラムは右掌から魔力で出来た漆黒の鎖を生み出し、その鎖を『GE‐01』目掛けて鞭のように振るう!
振るわれた鎖は金属が擦れる音を鳴らしつつ『GE‐01』目掛けて伸び、強かに巨躯を叩く。
コラムの鎖鞭で叩かれた『GE‐01』は身体から触手を何本も伸ばし、仕返しと言わんばかりに触手を振るう。

「遅いっ!」
振るわれる触手の群をコラムは持前の機動力で颯爽と避け、外れた触手が地面を抉る。
コラムは左腕を『GE‐01』に突き出し、掌から六本の鎖が『GE‐01』目掛けて伸びる。
その先端には刃渡り二〇センチ程の刃が付いており、刃付きの鎖は次々と『GE‐01』の巨躯に突き刺さる!

『決戦間近になっちまったけど、『束縛鎖陣』の応用を教えてやるよ』
『大蛮族』の招集から戻ってきたフランシスは、魔力で出来た鎖で敵を拘束する『束縛鎖陣』の応用をコラムに指導した。
『束縛鎖陣』の鎖は魔力で作られた物であり、使い手が望めば鎖の形状変化が可能である。
即ち、鎖の先端を刃や鉄球に変化させれば、『束縛鎖陣』を攻撃に用いる事が可能なのだ。

「まだまだ、行きますよ!」
刃付きの鎖が突き刺さり、突き刺さった所から粘液を噴き出す『GE‐01』にコラムは右掌からも六本の刃付きの鎖を放つ。
計一二本の鎖が突き刺さった『GE‐01』は痛みで触手を振り回し、振り回される触手を避ける為、コラムは双掌から鎖を切り離す。
切り離された鎖は光の粒子と化して消え、一本の触手がコラムへと振り下ろされる。

「『因果壁』!」
振り下ろされる触手と自分の間に割り込ませるようにコラムは『因果壁』を展開、触手が透明な壁に叩きつけられ、叩きつけられた壁は七色の光を放つ。
七色の光は触手を貫き、貫かれた触手は赤黒い粘液塊へと変わる。
『GE‐01』は走り回るコラム目掛けて触手を振り下ろし、振り下ろされる度にコラムは『障壁』か『因果壁』を展開して防ぐ。
「はぁぁっ!」
無論、コラムも守るだけでは無い……触手を防ぎながらコラムは刃付きの鎖を放ち、少しずつ『GE‐01』にダメージを蓄積させていく。

「……っ!」
颯爽と駆けるコラムに、今の状態ではダメージを与える事が困難と判断したのか。
蚯蚓のような巨躯が崩れ、『GE‐01』は赤黒い粘液の海へと変わり、コラムを押し潰さんと粘液の海が迫る。
津波の如く迫る粘液にコラムはドーム状の『障壁』を展開、粘液の津波から身を守るが、絶え間無く叩きつけられる大質量は『障壁』に罅を入れ、その亀裂は次第に大きくなる。
「う、くぅっ! …………え?」
亀裂の走る『障壁』に焦るコラムだが、不意に止まった赤黒い奔流に首を傾げる。

「コレは、闘技場のつもりでしょうか……」
『障壁』越しに見た光景は、宛ら闘技場……コラムの周囲は赤黒い粘液で囲まれており、直径一〇〇メートル程の空地が彼女の前に広がっていた。
コラムは警戒しつつも『障壁』を解き、空地の中心に佇む人型の粘液塊へと近付く。
『久し振りだなぁ、売女(バイタ)……彼此、一年振りかぁ?』
用心深く近付くコラムに人型の粘液塊は声を掛け、その声にコラムは眉を顰める。
「全く嬉しくない再会の挨拶がソレですか、オリバー・ウェイトリィ」
そう、闘技場の中心に佇んでいたのは、オリバー・ウェイトリィだった。

×××

「出会い頭に人を『売女』呼ばわり、淑女に対する配慮が欠けていますね」
『はっ! テメェ等屑共を、淑女扱いする必要はねぇだろうが』
売女と呼ばれたコラムは呆れと怒りを滲ませて呟き、オリバーは彼女の呟きを鼻で笑う。
ングラネクの地底湖で遭遇した時と、オリバーの姿は変わっていない……レッドスライムの如く全身が真っ赤である事を除けば、だが。
付け加えるなら、今のオリバーはレッドスライムよりも黒っぽく、まるで『GE‐01』が『オリバー』という形を取ったとも言える。

「以前出会った時と比べて、随分と変わりましたね」
『まぁ、な。テメェ等屑共を一匹残さずブッ殺す為、僕はコイツと……『GE‐01』と融合したんだ』
コイツを新しく生み出すのは苦労したぜ、とオリバーは肩を竦め、彼の言葉にコラムは本能的な嫌悪感を抱く。
オリバー・ウェイトリィは人間では無い、自分達魔物が愛する人間では無い。
『先ずはテメェだ、売女! テメェをブッ殺して、その首、エヴァンに見せてやらぁっ!』
「オリバー・ウェイトリィ、貴方を……貴方を、この世界に住まわせる訳にはいきません!」
オリバーの四肢が膨れ上がる、手は手甲(ガントレット)を付けたかの如く、足は脚甲(グリーブ)を付けたかの如く。
コラムの双掌から鎖が現れる、世界の怨敵を滅ぼす為、オリバーを地獄に縛り付ける為に。

『ヒャッハァァ――――――――ッ!!』
「はぁぁっ!」
オリバーは膨れ上がった腕をコラムに叩きつけようと迫り、コラムは巨腕を振り上げる彼を鎖で拘束する。
コラムの双掌から放たれる一二本の鎖は獲物を狙う蛇の如くうねり、オリバーの四肢と身体に巻き付いて拘束する。
『うおっ、と……んな、チンケな鎖で僕を拘束出来ると思ってんのかよぉっ!』
コラムの鎖に巻き付かれたオリバーは一瞬驚いたが、身体を膨張させる事で鎖を引き千切り、引き千切られた鎖は光の粒子となって消える。

『オラオラオラオラオラオラァァ――――ッ! 守ってばっかじゃ、この僕を殺せねぇぞ! いや、殺せねぇんだったなぁ、テメェ等屑共は! アハハハハハハハハッ!』
鎖を引き千切ったオリバーは狂笑と共に巨腕を振り回し、嵐の如く振り回されるオリバーの巨腕をコラムは『障壁』で防ぐ。
『障壁』を連打するオリバーにコラムは顔を顰めながら彼の猛攻を防ぎ、巨腕を防ぐ度に『障壁』は軋み、叩きつけられる度に轟音と衝撃波が木々を揺らす。
『ドォララララララララララァァ――――ッ!!』
顔を顰めるコラムに気を良くしたのか……オリバーは拳を振るう速度を上げ、『障壁』を砕かんと一気呵成に攻め立てる。

『どうした、売女ぁ! 守ってばっかで、ちっとも反撃してこねぇじゃねぇか! 反撃出来ねぇのか! ヒャッハァァ――――ッ!!』
「反撃がお望みならば、返礼します! 『解放(リリース)』!」
『はぁ?』
猛攻に晒されるコラムが『解放』と叫び、オリバーの拳がコラムの『障壁』を叩いた瞬間、『障壁』から光が放たれる。
放たれた光は洪水の如くオリバーを襲い、質量を持った光の洪水に彼は押し流される!
『がぁ、がはっ……テ、テメェ……』
光の洪水に押し流されたオリバーはコラムから一〇メートル程離れた所で立ち上がるが、彼の足は生まれたての仔馬のように震えている。

「『応報壁(ネメジ・ウォル)』、御自身の与えた攻撃を返される気分はどうですか?」
してやったり、と微笑むコラムに、オリバーは頭に血が昇る―今の彼に頭に昇る血があるかは、不明だが―のを感じ取る。
『応報壁』とは『因果壁』の亜種魔法……『因果壁』が受けた攻撃を即座に返すなら、『応報壁』は受けた攻撃を溜め込む。
そして、『解放』と宣言する事で、『応報壁』は溜め込んだ衝撃を一気に解き放つ。
つまり、オリバーは自身の攻撃を己自身で受ける事になったのだ。
『こっ、のぉ……売女がぁぁ―――――っ!!』
激痛で震える身体を強引に動かし、憤怒で顔を歪ませたオリバーが迫る。

『死ねよ、さっさと死ねよ! 死ね、死ね死ね死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇ―――――っ!! とっとと死ねや、ゴルァァ――――ッ!!』
「くぅっ!」
憤怒に滾るオリバーは『応報壁』の存在を忘れ、コラムの『障壁』を只管に殴打する。
己の拳だけでは飽き足らないのか……オリバーは背中から六本の触手を生やし、その先端を拳に変え、計八つの拳で『障壁』を殴打し続ける。
八つの拳の猛攻は、如何に『障壁』を得意とするコラムでも些か厳しい。
八つの拳の一つ一つがコラムの『障壁』に罅を入れるには充分な威力、魔力を注ぎ込んで罅を修復しても、絶え間無く晒される拳の弾幕の前では焼け石に水である。

『ッダオラァァ――――ッ!!』
「っ!?」
裂帛の気合と共に放たれたオリバーの拳にコラムの『障壁』はとうとう砕かれ、砕かれた『障壁』は硝子のように砕け散る。
そして、オリバーの八つの拳が一斉にコラムへと叩きつけられる!
「っく、あぁぁ―――!?」
迫る八つの拳にコラムは全身に薄い『障壁』を咄嗟に展開、同時に腕を交差させて衝撃を緩和するが、それでも彼女の身体に激痛が走る。

「こ、のぉっ!」
八つの拳の連打を耐えながらコラムは腹部に魔方陣を展開、魔方陣の中央から放たれた鎖がオリバーの腹へと突き刺さる。
放たれた鎖の先端は直径五〇センチ程の球体であり、勢いよく放たれた球体が与える衝撃は剛力を誇るオーガの拳と等しかった。
『ぐぶぇっ!?』
鎖が腹に突き刺さったオリバーは潰れた蛙の如き声を上げながら吹き飛び、受け身を取る事も出来ずに地面を転がる。
その隙にコラムは『癒光』を行使して激痛を和らげるが、痺れの如き鈍痛が彼女の全身を蝕む。

『がっ、はっ……テメェ、調子に、乗るんじゃ、ねぇぇ―――――っ!!』
腹を押さえつつ立ち上がったオリバーは全身から触手を生やし、無数の触手がコラムへと一斉に迫る!
迫る触手をコラムは避けようとするが、身体を蝕む鈍痛で持前の機動力は精彩に欠け、何本かの触手が彼女の身体を掠める。
「くっ、『癒光』!」
触手掠める度にコラムは『癒光』を行使するが正直焼け石に水、次々と迫る触手が齎す擦り傷は増える一方である。

「拘束結界、『束縛鎖陣』!」
闘技場を駆けつつコラムは『束縛鎖陣』を詠唱、オリバーの周囲に魔法陣が浮かび上がり、魔方陣の中央から無数の鎖が一斉に放たれる。
放たれた鎖はオリバーへ絡みつき、鎖は彼の身体から生える触手すらも捕らえて拘束する。
『だから、言ってんだろうがっ! 僕を、んなチャチな鎖で、縛れるもんかよぉっ!』
無数の鎖で雁字搦めにされたオリバーは、再度身体を膨張させて引き千切ろうとするが、膨張する彼の身体に合わせて鎖が伸びて引き千切れない。
『うっ、おぉっ!? んの、売女がぁ!』
オリバーは身体を粘液化させて脱出を試みるが、鎖から滲み出る束縛の魔力が粘液化を阻害しているらしく、身体は固体を保ったままだ。

×××

「さぁ、覚悟はよろしいですか!」
『っ!?』
覚悟は出来たのかと叫ぶコラム。
『束縛鎖陣』に封じられたオリバーは彼女の左手に膨大な魔力が集まっているのを見た。
左手に集う膨大な魔力、その左手に因る一撃がコラムの切り札だとオリバーは悟り、鎖に拘束される身体を強張らせた。

「殺された方々の怨念、余さず纏めて貴方に返礼します!」
膨大な魔力を左手に集め、オリバー目指してコラムは疾駆する。
膨大な魔力集う左手は優しく温かな光を放ち、その温かな光を見たオリバーは疾駆するコラムを嘲笑い、強張らせた身体を弛緩させる。
「はぁぁ―――――っ!!」
コラムの手刀はオリバーを束縛する鎖を断ち、人間で言えば心臓に当たる部分へ突き刺さり、膨大な魔力がオリバーの身体に流れ込む。
流れ込む魔力を感じ、己の推測が正しかった事に、オリバーは侮蔑に満ちた笑みを浮かべる。

『ヒャハハハハハハハハッ! テメェ、とうとう頭がおかしくなったのかぁ? 僕に『癒光』を使ってどうすんだよ! 見た感じ、残りの魔力を全部注ぎ込んだみてぇだしなぁ!』
そう、コラムの左手に集い、オリバーの身体に流れ込んだのは癒しの魔力。
あろう事か、コラムは敵であるオリバーに『癒光』を施したのだ。
コラムが残る魔力を注ぎ込んだ一撃は、オリバーに更なる活力を与えただけだった。
自殺行為に等しき一撃にオリバーは侮蔑で顔を歪めるが、顔歪める彼にコラムは不敵に笑う。

「確かに、私が全魔力を注ぎ込んで行使したのは『癒光』……ですが、世界の怨敵たる貴方に、私が単純に『癒光』を施すとお思いですか?」
『はぁ? 何言ってんだよ、売女が! 実際、僕の身体には力が溢れ』
力が溢れている。
そう、オリバーは言おうとしたが、その言葉は己の身体に起こった異変で打ち消された。

ぽん

『は? え? 何で? 何でだよ? 力が、溢れ、過ぎぎぎぎぎぎぎぎ』
拘束する鎖を引き千切ってオリバーの右腕が極限まで膨らみ、間抜けな程に軽い破裂音と共に彼の右腕が爆ぜる。
右腕だけではない。
右腕の破裂に連動するかの如く、オリバーの身体は鎖を引き千切りながら膨らんでいく。
確かに、オリバーの身体には力が溢れている……溢れる力がオリバーの全身を駆け巡るが、力が『溢れ過ぎている』。
溢れ過ぎる力はオリバーの身体を逆に蝕み、崩壊へと導いていく。

『ば、ばばば、売女たたたたたぁぁ――――っ! テ、テテテ、メメメメェ、ななな、何ををををを、しししたたたぁぁ―――――っ!?』
溢れ過ぎる力に身体を膨らませつつオリバーは叫び、コラムは静かに『切り札』の名を呟く。

『過剰なる治癒、甘美なる猛毒(ハイパーキュア・オーバードライヴ)』

『な、ななな、何だだだだ、とととぉぉ―――――――――っ!?』
その呟きにオリバーは驚愕し、驚愕のままに残った左腕でコラムを叩き潰そうとするが、既に彼の行動は遅かった。

ぽん、ぽぽん、ぽぽぽん

限界まで膨れた身体は次々と破裂し、叩き潰そうと振り上げた左腕も破裂する。
そして、
『チ、チチチ、チク、ショオォォ――――――ッ!!』
「全ては甘美なる猛毒に沈む」
コラムの死刑宣告と共に、オリバーの頭部は破裂した。

『まさか、テメェが禁じ手使うなんて、思わなかったぜ……』
溢れ過ぎる力を抑えきれずに破裂し、四散したオリバー。
そのオリバーの顔は泥水に落とした仮面の如く、コラムを見上げて呟いた。
コラムはオリバーの顔を冷たい目で見下ろしながら、右前脚の蹄をゆっくりと持ち上げ、彼の顔が驚愕と恐怖で歪む。

『オ、オイッ! 何だよ、僕を殺すのか! 人間の僕を! 人間を殺せない屑のテメェが、この僕を殺すのかよぉっ!?』
オリバーの顔が叫ぶ、己は人間だと。
『やめろ、やめろやめろぉ! 死にたくない、死にたくねぇよぉ! なぁ、頼む! 悪かった、僕が悪かった! だから、助けてくれぇっ!』
オリバーの顔は感じた、死の恐怖を。
初めて感じた死の恐怖に、オリバーの顔は赤黒い涙を流しながらコラムに命乞いをする。

『頼む、僕は死にた』
されど、オリバーの命乞いは届かなかった……蹄は無慈悲に振り下ろされ、オリバーの顔は踏み潰され、赤黒い粘液を飛び散らせる。
オリバーの顔を踏み潰した後、コラムは静かに呟いた。
「死を撒き散らした貴方が、『死にたくない』と命乞いするのは御門違いというもの。未来永劫、死者の怨念に囚われなさい……オリバー・ウェイトリィ」

×××

「ふぅ……ぶっつけ本番でしたが、何とかなりましたね」
本体のオリバーが死んだ為か……コラムを囲んでいた粘液は跡形も無く蒸発し、森神様の祭壇にはコラムしか存在していない。
一応オリバーの破片が無いかを確認した後、黄金の蜂蜜酒を召喚。
黄金の蜂蜜酒を飲んだコラムは、フゥ…と安堵の溜息を吐く。

『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』。
攻撃魔法が不得手なコラムが行使出来る唯一にして最強の攻撃魔法であり、ソレは『癒光』の応用である。
元々、『癒光』とは自然治癒力を促進させて怪我を治す魔法、『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』は自然治癒力を過剰促進させ、内部から崩壊させる魔法だ。
植物には水が必要だが与え過ぎれば根を腐らせて枯らしてしまうように、病気を治す為の薬も分量や用法を間違えれてしまえば猛毒になるように。
過剰な癒しの力は、生物である以上は逃れる事の出来ない猛毒と化すのだ。

「『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』、治癒の禁忌……行使を禁止するのも、納得出来ます」
ローラから『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』の存在を聞いた時にもコラムは驚愕したが、実際に行使してみると、その威力に畏怖するしかない。
『癒光』は生物なら誰もが持つ自然治癒力を促進させる魔法で、過剰促進された自然治癒力は誰もが抗う事の出来ない猛毒である。
誰にも抗えない猛毒故に『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』は治癒魔法の禁忌として、その行使を禁止されている。
事実、『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』を受けたオリバーは溢れ過ぎる力に振り回され、瞬く間に自己崩壊してしまったのだから。

「さぁ、行きましょう……エヴァンさんの元へ!」
『人類の護符』の首魁であるオリバーが死んだ以上、エヴァンが戦っているオリバーは偽者だと判断したコラムは簡易転移魔法陣展開装置である紅い宝石を召喚する。
そして、召喚した紅い宝石を地面に叩きつけて転移魔法陣を展開、展開された転移魔法陣の中にコラムは入る。
ホーヴァス、ボイド、キーンと同じく、コラムも帰還用の紅い宝石の転移先をエヴァンの現在地に変更していた。
勿論、その理由は言わずもがなというモノだ。

「待っていてください、エヴァンさん。今、行きます!」
そして、コラムは転移する。
苦戦しているであろうエヴァンを助ける為に……

Report.11 私と蚯蚓と密林の決戦 Closed
To be nextstage→Report.12 アタシと包帯と砂漠の決戦
12/11/07 15:33更新 / 斬魔大聖
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■作者メッセージ
お待たせしました、魔物娘捕食者更新です。
コラムの必殺技炸裂しました!
執筆にあたり、コラムの必殺技を如何するかで悩み、思い付いたのが『過剰なる治癒、甘美なる猛毒』ですが、某国民的RPGの漫画に出てきた技みたいになってしまいました。
所謂、閃○烈光拳……我ながら、何とも古い(笑)。

さて、次回はフェランが主役。
フェランが決戦前にホーヴァスと共に編み出した必殺技が炸裂しますので、楽しみにしていてください。

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