文化祭が終わり、とりあえず後期の単位も取れたので俺達は長めの冬休みに入った。

「…。」

『どうかしたの？』

「…いや、大したことはない。」

『隠し事は良くない、悩み事が有るなら力になりたい。』

「クリスマスイブに昔の仲間に誘われた、行くべきかどうかってな。」

『なんだ、大したことじゃないわね。』

「だからそう言った。」

『行って来たらいいわ、クリスマス本番はご馳走作って待ってるから。』

「…あぁ。」

『？』

「さて、夕食にしようか。」

『そうね。』








そして、クリスマスイブ当日の早朝。

「…。」

俺は師匠が残した技術の全ての準備を整え、手紙を書いた。

「…行くか。」

俺はほとんど聞こえないような声で呟いて、ブランの別荘から出るとバイクに荷物を乗せて出発した。

三十分くらいバイクで移動して、俺はとある建物に入った。

「…よう。」

「あ、貴方は…。」

「俺もその作戦に加えて欲しい。」

「確か貴方は、やることは済ませたから抜けたのでは？」

「まあな、だけどやっぱお前達の気持ちが痛いほど分かって伝わって来た。」

「彼女からのメール、見てくれたんですね。」

「よう、ナンバー0。」

「それは貴方のナンバーです。」

「抜けたときに渡したんだけどなぁ。」

「とても僕には貴方みたいな能力、ありませんよ。」

「別に能力だけじゃない、俺はお前の人格と将来性からリーダーの座をお前に託したんだからな。」

「僕は、リーダーとして勤めを果たせているでしょうか？」

「この作戦にメンバー全員が参加した、これが答えじゃないのか？」

「でもジュンさんって、魔族の夫になったんじゃ？」

「そういえばそう聞いたよ。」

「真実を全部伝えずに出て来た、後のことは気にするな。」

「ありがとう、そしてごめんなさい…。」

「いや、気にするな。」

「でも…。」

「俺は自分の意思でこの作戦に参加するって決めたんだからな。」

「奥さんはどうするんですか？」

「戻った後に離婚されても俺には後悔はない。」

「そんな、なら戻ってください、今なら間に合います！」

「俺は虐げられていたからお前達の痛みや苦しみがよく分かる、だからここに来た。」

「…。」

「さあ、はじめよう。」

俺は仮面を着けて言った。





二時間くらい経って、俺達は報復対象の人間達を廃工場に閉じ込めた。

「さて、そろそろサツも動く頃合いだろうな。」

「リーダー…。」

「俺はリーダーを降りたのに、まだ俺をリーダーって呼ぶのか。」

「僕にとってのリーダーはジュンさんだけです！」

「嬉しいこと言ってくれるな、ここからが本番だ。」

「え？」

「俺がサツや魔物を食い止める、だからお前達は早く報復を果たせ。」

「リ、リーダー！？」

「俺一人で行く、皆は一刻も早く報復を果たして逃げろ。」

「えぇ！？」

「俺の家の近くの廃倉庫の近くに移動する転移術式を用意しておいた、報復を遂げた奴から逃げろ。」

「リーダー…。」

「恐らく俺がリーダーとしてしてやれることはこれで最後だ」

「リーダー…。」

「ここで追ってはいけない、追ったらリーダーの気遣いが全部無駄になっちゃうから。」

「そう、だよね。」

「なら俺は門の前で食い止めているから全員が逃げ終わったら連絡してくれ。」

「リーダー。」

「ん？」

「死なないで下さい…。」

「死んだらあいつらからの説教も聞けないしな。」

俺は廃工場の外にある唯一の出入口の門の前に立った。

「さて、どのくらい持つかな。」







しばらく経って、魔物の警官や魔王軍がやって来た。

『お前、何のつもりだ？』

「この門は、俺を倒せなければ開かない。」

『なんだと？』

「ここから先は、一歩も行かせん。」

『なるほど、お前を倒さなければ中での惨劇は止められないということか。』

「そういう事だ、ちなみに結界を張ってあるから無理に通ろうとしても無駄だ。」

『…。』

「魔力で結界を侵食しようものなら俺は大爆発を起こすだろう、ここら一帯数十キロは跡形もなく消し飛ぶだろうな。」

『出任せだな。』

「なら試してみたらいい、まあそうしたならお前達どころかここら一帯数十キロの関係ない奴らまで消し飛ぶだろうけどな。」

『リベリオンは解散したのではなかったのか？』

「解散ではない、活動休止だ。」

『なんだと？』

「これからも虐げられる奴らが居るならリベリオンはそれこそ永久不滅だろうな。」

『お前達は、間違っている。』

「なら有無を言わさず魔物にしたり人間の女から男を奪うことは正しいのか？能力が劣るからと言って切り捨てる奴らが正しいのか？人間の女は能力が劣るからと人間を増やすための道具として使う奴らが正しいのか？」

『…。』

「しょせんお前達は生まれながらの強者、弱者の痛みや苦しみを理解しろと言ってもそれは不可能だったな。」

『確かにそうかもしれない、だがお前達がしていることも正しいのか？』

「少なくとも綺麗事の理想論に比べれば意味はあるだろうな。」

『ちょっと、いいかしら？』

「？」

『あの廃工場の中の拉致された人間か貴方の仲間の中に私達の夫が居るの、会わせてもらえないかしら？』

「そんな事をして俺達に何の得、メリットがある？答えはNOだ。」

『仮に貴方の仲間だとしたら歩み寄れるところがあるかもしれないのよ。』

「ないな、俺の仲間達は全員そういう事の被害者だ。」

『同じ痛みや苦しみを背負ってるのね。』

「そういう事だ、分かってくれたなら帰って欲しい。」

『でも貴方達のしていることは正しいとは思えないわ。』

「正しいことが常に最良の結果をもたらすとは限らない、例え間違っている方法でも最良の結果になる可能性はある。」

『それは認めざるを得ないわね。』

「それに、間違っている方法かどうかさえ終わってみないと分からない。」

『結果は終わってみないと分からないわよね、確かに。』

「…どうやらこの戦い、俺自身は負けたが俺達はの勝ちのようだ。」

『？』

「こうやって話している間に俺を除いた全員が報復を遂げたようだ。」

『しまった！』

「全員離脱したようだし、ってなにやってる、あいつら…！。」

「僕はリーダーを、置いて行けません！」

「そうやって全員戻って来たわけか、バカ野郎…。」

「リーダー、逃げましょう！目的は達成しました！」

「よし、これより撤退戦に切り替える。」

「…はい！」

「俺が殿をやる、早く逃げろ。」

「…はい！」

俺達は廃工場の中にある転移術式に向かって走った。
「リーダー、急いでください！」

『分かってる！』

俺は魔物達の攻撃を捌きながらも転移術式に向かった。

『させるものか！』

「しまった…」

最初に俺に話しかけてきたアヌビスらしき警官に術式を破壊された。

『貴様だけでも捕まえてやる…。』

「…いや。」

『何をするつもり！？』

「俺も侍の血をほんの少しは引いている、なら…。」

『！？』

「はっ！」

俺は結界の中にさらに小さい結界ひ張った。

『何をするつもりだ…？』

「敵の手に掛かるは、侍の名折れにして恥だ！」

『！？』

俺は仮面を外して叫んだ。

「俺の最期の剣、見届けてもらう！」


俺は腰に差していた剣を腹に突き立て…。

『だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！！！！！』

ブランが結界を突き破って刃を掴み、俺に剣は届かなかった。

「なぜ止める、俺に相応しい最期を送らせてくれない？」

『なにがあったのかは知らないけど、なんで私達に言わなかったのよ…？そんなに信用ないかしら…？』

「信じているからこそ、俺の問題は俺の手で解決しないといけない。」

と話していると、さっきのアヌビスらしき警官が横槍を入れて来た。

『聞きたいことがある。』

「黙秘で。」

『何故奴らを殺さなかった？』

「死んでないのかよ。」

『全員再起不能だが死んではいない。』

「しくじったのかな、あいつら。」

『しかもほんのわずかだが魔力を感知したらしい。』

「そうか。」

『ジュン、貴方まさか。』

「殺したら奴ら以下だからな、限界まで魔界銀の配合率を下げた武器をあいつらに持たせた。」

『なるほど、だから再起不能で済んだのか。』

「もう二度と起き上がるどころか意識さえ戻るか分からないしそれなのに生き続けなければならない、奴らに相応しい末路じゃないか？」

『そこまで考えていたとは、大した千両役者だ。』

「で、俺を拘束するのか？」

『今回は私達にも反省するところはある、だからお前の伴侶に全て任せることにした。』

「あんだけ再起不能にした作戦の首謀者にしては随分寛大な処置だな。」

『私達も分かっていないところがあるのを痛感した、もっと分かっていたならこんなことにはならなかっただろうからな。』

「俺に願いを言っていいなら、国にもっとまともな教育者と政治家を増やして欲しい。」

『確かに今回で理解しても、根本的なものが変わらないとまた同じようなことが起こるわね。』

「そういう事。」

『じゃあ、帰りましょうか。』

「あ、ああ。」

『どうかした？』

「いや、怒ってないのかって。」

『怒ってないわよ？』

「？」

『貴方は自分の命を犠牲にしてでも仲間を守ろうとした、それだけ仲間と自分のしたことに誇りを持っていたってことでしょう？』

「言わなかったことについてもお咎めなしか。」

『言ったら余計な心配をかけると考えたんでしょう？』

「あと下手したら監禁されるかなと考えてた」

『しないわよ、止めるけど。』

「だと思ったから言わなかった。」

『怒ってはないけど少し嫉妬してるのは確かね。』

「？」

『貴方が命をかける程仲間達を思っていたことよ。』

「そうか、ブランにもそういうところあるのか。」

『悪いイメージ持ったかしら？』

「いや、多少独占欲がある方が女はいいと俺は思う。」

『なら問題ないわね。』

と話しつつ俺達は家に帰ったはいいがその後にセレナとミーアから二人掛かりでいろいろ言われたのはその後の話。

■作者メッセージ
どうも、サボテンです。

第17話、いかがだったでしょうか？

補足すると、ジュンはリベリオンという報復者達のグループのリーダーでしたが、ブラン達の伴侶になるのを機に一度グループを抜けて今回はグループの新顔から必死の訴えを受けて離婚覚悟でチームに戻った設定です。

その後のリベリオンのメンバーは全員魔物娘達にお持ち帰りされたのは言うまでもありませんwww


次回は自分のしたことの責任の代償(意味深)を払うことになります、期待(？)していてください。