連載小説
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クローンでも恋がしたい!




未来編

ニャルラトホテプとの戦時中クローンコマンダーと呼ばれたタイプKクローン。





現在彼はエルベ・ビスマルクと名乗り、魔界軍との交渉に勤めていた。





「第七クローン大隊としては、魔界軍に編入する気はない、と?」




空中戦艦内でエルベはヴィルヘルミナ・リンデマン少将と会話をしていた。




テーブル上にはヴィルヘルミナの副官であり、サキュバスのアリーラ・リッテカーン中佐、さらには護衛役であるワーウルフのカーリムもいた。




一方の第七クローン大隊の代表はコマンダーたるエルベ・ビスマルク大佐、『スカーフェイス』の異名をとるクィルラン・プレイシス大尉、エルベの秘書官であるバーナード中尉である。


他には護衛役として、ダークエンジェルのアミルもいたが、彼女を除けば全員タイプKのクローンである。



片側は全員種族も違うため識別し易いが、クローン大隊のほうはクローンらしくほぼ同じ容姿である。




だが最近はリミッターが外れた影響からか個性を発揮し始めたクローンもおり、今日来ている者はそれが如実に出ていた。





エルベは視力矯正ナノマシンの注射で両眼が金色に、クィルランはどの魔物にやられたのか右頬に三本戦の、まるでキスマークのような傷跡が。




バーナードに至っては髪をシルバーに染め、ピアスを片耳にはめており、全員他のクローンに比べればまだ認識がし易い。





「リンデマン少将、第七大隊は今大変な時期で魔界軍に入り、戦う与力はありません」



第七大隊はニャルラトホテプのリミッターが外れ、徐々に人間らしさを取り戻しているクローンが多い。




しかし大隊はオペレーター含め千人の大世帯、それぞれが人間らしい個性を探した結果ちょっとした混乱が起きているのだ。





例えば黒髪を金髪に染めた者がいれば、真似をし始めるものが続出したり。


髪型を変えれば、その髪型が流行りだしたり。



筋肉増強を図り、身体を大きくしようとする者がいれば、その小隊員は全員マッチョになったり。


挙句個性を求めるあまり男色に走ろうとするなど、様々だ。



「ははあ、それはたしかに、頭が痛いな・・・」


実際色々考えたのかヴィルヘルミナの表情は険しい。


「特に最後の件に関しては重大です、せっかく魔物と和解しても、これでは仲良くなりきれないかと」


指揮官たるエルベの心労は察するにあまりある、ヴィルヘルミナはしばらく考えていたが、アリーラは何か思いついたようで、少将に耳打ちした。



「・・・なるほど、ビスマルク大佐、どうだろうか?、交流を兼ねてクローンと魔物で合同の食事会は・・・」


なるほど、魔物と会話して個性を学ぶとともに交流を図るわけか。


上手い手だ、エルベの懸案が解決出来るかもしれない。


「魔界軍に編入するかしないかはおいおい考えていけば良い、どうだろうか?」



ヴィルヘルミナの言葉に対してエルベはすぐさま頷いた。


「わかりました、早速全員に通達しましょう」









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第七大隊の野営地、早速エルベな大隊員に魔物との交流会開催を発布した。



「個性を磨きたい者もこれを機会に魔物と交流し、しっかりと・・・」



「納得出来ませんぞっ!」


中尉っ!、と周りの兵士が止める中、前に出たのはマカライト・飛鳥・フェイルグラント中尉である。


「魔の血に染まりしは我だけで十分、他の同胞まで染まる必要はない」


ばさっ、と改造軍服を翻して、特に意味のない右手の包帯を晒すマカライト。


「フェイルグラント中尉、これは確定事項だ、開催は決定されている、それに・・・」



じっ、とエルベはマカライトを見つめた。



「いくら魔物と話したくないからと言って、そういうのはよくないぞ?」


「なっ!、べべべべべ、別に俺、いや、我は魔物が、ここここ怖いわけでは・・・」



ともあれ、若干の反対意見はあったものの、クローンと魔物の交流会は開催されることとなった。







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さて、会場である魔界軍基地、そこにはたくさんの魔物とクローンが集まっていた。



「よしよし、みんな仲良くやっているな?」


会場を見回るエルベとヴィルヘルミナ、特に混乱もなく交流会は進んでいるようだ。



中には過剰なスキンシップを図る魔物もいるが、まあ公序良俗に反する事態にならない限りは大丈夫だろう。



「しかし皆、我々クローンをよく識別出来ていますね」



外見的な個性が強まるクローンが多数いるものの、中には未だほとんど変わらない者もいる。


実際小隊同士ですらごくたまに見分けがつかないこともあるのに、魔物たちはしっかり個人がわかるようだ。



「魔物は精の匂いに敏感でな、誰が誰かわかるのだ」



ヴィルヘルミナはこともなさげに告げたが、エルベは感心したように頷いた。



「なるほど、やはり魔物は我々クローンにも優しい種族ですね・・・」







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「コマンダー、見回りですか?」



呼び声にエルベが振り向くと、すぐ近くのテーブルにクィルラン大尉がいた。




「わふっ!、ヴィルヘルミナさんも一緒?」



クィルランの膝でゴロゴロしているのはワーウルフのカーリム、リラックスしているのか目を細めている。





「コマンダー、実はこのカーリムが俺の頬に傷をつけた魔物なんですよ」





自分の異名の由来となった傷跡をなぞるクィルラン、その目に敵意はない。





「わふっ!、だって気に入ったんだもんっ!、盗られる前に、ボクのマスターだってマーカーをつけないと」





クィルランの身体能力は他のクローンに比べて高かったが、そうか、インキュバスになっていたのか。






「しばらく俺はカーリムと話してます、コマンダーもヴィルヘルミナ少将とごゆっくり」





敬礼してエルベはまた歩き出したが、何故かヴィルヘルミナの顔は真っ赤だった。







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見回りをしていると、エルベは机の下に隠れている部下を見つけた。



「フェイルグラント中尉?、何をしている?」


それは厨二患者のマカライト・飛鳥・フェイルグラントに他ならなかった。



「うぬ、組織の手の者が我が運命を牛耳らんと迫ってくるのだ」



相変わらずよくわからない言葉遣いのクローンである。



「ダーリン、どこかしら〜?」



机の下を次々と調べているのは、サキュバスのアリーラだ。



「うっ!、あ、あやつこそ組織の手の者、我が運命を・・・」



「あ、いたいた、もう探したわよ?」


アリーラはマカライトを無理やり机から引っ張り出すと、抱きしめた。




「や、やややややや、止めんかっ!」



「もう〜、ほんとに照れ屋さんなんだから〜」



「アリーラ、説明してくれないか?」



ヴィルヘルミナの言葉にアリーラはマカライトを抱きしめたまま応える。



「この子すっごく可愛いの、ダークなカッコしてるくせに照れ屋でヘタレだし、何だか守ってあげたくなっちゃう」



ぎゅうっ、と豊満な胸に抱きしめるアリーラだが、マカライト自身はジタバタと暴れている。


「ささっ、坊や、あっちの人気のないとこに行きましょうね〜」



「もがっ!、もががががっ!」



助けを求めるマカライトだが、そのままズルズルと物置部屋に引きずられていった。





「やれやれ、だ・・・」



「ビスマルク大佐、少し外の空気を吸いに行かないか?」



上目遣いにそんなことを言うヴィルヘルミナ、ちょうど疲れていたところ、エルベは快く頷いた。








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外は澄み渡る空気に、頭上に満天の星が輝く美しい世界だった。


「ビスマルク大佐、こうして我々が笑いながら並んでいられるのも、あの青年のおかげ、だな?」



「クレメンス・ビスマルク、彼がいなければ我々クローンは道具のまま死んでいたでしょう」



南の魚座には変わらずフォマルハウトが輝いているが、今日はいつもよりも美しく見えた。



「どうだろうか?、魔界軍のことは、考えてもらえたかな?」


ヴィルヘルミナはエルベの顔色をちらっと伺いながらそう訊ねた。



「クローンたちも楽しそうです、それに交流会をきっかけにして、たくさんの人が良い影響を受けそうです」



魔物はクローンであっても差別はしないし、簡単に個人を判別してみせる。



これほどまでにクローンが協力するに相応しい種族はいないのではないか?



「そ、そうか、そう言って貰えると嬉しい」



いつもきびきびしているヴィルヘルミナにしては珍しく、もじもじとエルベの様子を伺っている。




「その、だな、ビスマルク大佐、私は君のことを高く買っている」



「それは、ありがとうございます」



一礼するエルベに、ヴィルヘルミナは明後日の方向を向いた。



「ど、どうだろうか?、魔界軍に編入した暁には、クローンの代表として、私の近くにいてはくれないだろうか?」


「もちろんそのつもりです、これからも協力して、魔物とクローンの、人類の未来を考えて行きましょう」



笑顔でエルベはヴィルヘルミナと握手を交わすと、そのまま会場に戻ろうとした。



「あ、び、ビスマルク大佐、あの、その・・・」






ここで逃せば終生後悔する、ヴィルヘルミナは意を決して口を開いた。







「好きだっ!、エルベさんっ!」






たった一言ではある、しかし魔物らしい愛に満ちた言葉だ。




「は、はいっ!?」



慌てて振り向くエルベに、無理やり唇を重ねるヴィルヘルミナ。


最初こそエルベは慌てていたが、嫌がるそぶりはない。



しばらくして口を離すと、エルベは照れたように頬をかいた。



「その、私で良いのですか?」




「君が、欲しいんだ、私は・・・」


そこでようやく、ヴィルヘルミナは今置かれている状況に気づいた。


あの声が会場にまで届いていたようで、窓から会場にいた人員が全員こちらを眺めていたのだ。


「は、はわわわわ、わ、私・・・」



静かにエルベは頷くと、ヴィルヘルミナを抱き寄せ、会場に向かってVサインをして見せた。



それが答えだ、その日会場が盛り上がり、何組ものカップルが誕生したのは、言うまでもない。










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現代編

未来世紀における戦いを終えて、『這い寄る混沌』ニャルラトホテプと『生ける炎』クトゥグアの打倒に成功したクレメンス。



そんな彼だが、実は今迷いに迷っていた。



「優柔不断だと、嫌われるぞ?」



ゼボイムの喫茶店、そこでクレメンスは輝夜の夫である香月睦月と向かい合っていた。



和服に、クレメンスよりもはるかに歳下に見える少年のような外見の睦月だが、その瞳は老練の剣士のように鋭い。


実際この外見で四人の子持ちなのだと言うのだから末恐ろしい。


現実世界における第一次世界大戦の従軍経験があるとのことだが、それだと百を軽く越える年齢のはずだが。



「別に君は、ルミヤのことを嫌ってはいないのだろ?」



「それはそうですが、どうにも告白方法がわかりません」


つい先日のことだが、色々ありクレメンスはルミヤに対して好意を持っていることを自覚した。



長らくその感情が好意とはわからなかったが、クトゥグアとの戦いを経て、ようやく自覚出来たわけだ。



「告白するならしたら良い、それで私に相談しに来たのだろ?」


紅茶を飲みながらそんなことを言う睦月、その通りだが、クレメンスとしてはまずは告白方法から知らねばならない。



クローン兵として魔物と戦い、さらにはニャルラトホテプ、クトゥグアとも戦ったクレメンスだが。



いざ好きな女の子に告白しようとすると、中々出来ないものだ。



「しかしせっかく相談しにきて貰って悪いが私は輝夜にしか告白したことがない、あまり参考になるアドバイスは出来そうにない」



そうは言っても、睦月は睦月で、凄まじい修羅場の果てにようやく輝夜と結ばれた過去があるため、なんとか協力したかった。


「そこで、こういうのが詳しい者を呼んである」


パチリと睦月が指を鳴らすと、喫茶店に眼鏡の少年が入ってきた。


顔立ちは悪くはないが、あまり活発な印象は受けない、どちらかと言うとクールな外見の少年だ。



「木曽真一君だ、息子の後輩らしい」



「・・・香月さん、僕はこう見えて忙しいんですが?」


ペラペラと本を読み始める真一、瞳は真剣そのものだが、あまりに読むスピードが速い。



「そう言うな、それに君は私に一つ借りがあるだろう?」


ふんっ、と真一は鼻を鳴らし、面白くなさそうにそっぽを向いた。


「・・・それで?、彼の告白を成功させれば良いのですね?」



しかし協力するつもりではあるようだ、真一は本を懐にしまうと、クレメンスを見つめた。



「・・・なるほど、心を持ったクローンの告白か、ならもう最終話間近だな」



「最終話?」



首をかしげるクレメンスだが、睦月はそれを見て軽く頭を振るった。




「あまり発言を真剣に考えないほうが良い、木曽に関してはやるべきことだけを聞くようにしろ」



木曽はメガネをかけ直すと、メモ帳になにやら書き込み始めた。



「最終話間近と言うことは主人公とヒロインの好感度はかなり高いはず、何か山場は乗り越えたか?」



「ルミヤを救出して、邪神を倒して、帰還しました」


淡々と述べるクレメンスに、真一は軽く頷いた。


「理想的な流れだ、後は告白すれば二人は幸せなキスをして最終話は終了、といったところか・・・」



「キっ・・・」



真一の言葉に唖然とするクレメンス、ラノベ中毒者はそんな主人公にはかまわずにメモ帳に書き込みを続ける。



「ここに至るまでが肝心だ、特にファンタジアな異能バトルが絡み出すと、決戦が終わってもヒロイン数が多いと上手く最後が纏まらないことがある」



「それは大丈夫だろう、クレメンスにはヒロインは一人しかいないからな?」


真一の言葉にニヤリと笑う睦月、それを聞いてクレメンスは何か引っかかるものを感じたが、何も言わなかった。



「問題は告白方法だ、ファンタジアな異能バトルだと最初にヒロインと会った場所で告白すれば八割成功する」



八割、かなりの数値だが、だとするならば残り二割はなんだろうか?



「ヒロインが万一ラスボスや黒幕だった場合、そこで最後の決戦に突入して告白どころでなくなる」



ニャルラトホテプにクトゥグア、ラスボス格二柱と争い、さすがにそれはないと思いたいが、と真一は呟いた。



「とにかく、告白を成功させるならば、まず彼女を最初に会った場所に連れ出すところからかな?」



真一の言うことはおそらく一理ある、だがクレメンスは静かに目を閉じた。



「香月さん、木曽さん、ありがとうございます」


立ち上がり一礼すると、クレメンスは一呼吸置いてから、口を開いた。



「私はルミヤに告白します、私なりの言葉で彼女への想いを伝えるつもりです」



しばらく二人は黙り込んでいたが、まず睦月が口を開いた。



「ああ、それで良い、人間はみんな自分の言葉で、自分の心の内を伝えるものだ」



睦月に続いて、真一もまた頷く。


「君の人生だから好きにすれば良い、時にはマニュアルに逆らうのも人間らしいと思う」



二人の言葉を受け、クレメンスは決心を固めると、すぐさま喫茶店を後にした。


















「成功すると思うか?」


睦月の問いかけに、真一は少しだけ考え込む素振りを見せた。



「なるようにしかならないでしょう、人生は中々ラノベみたいにはいきません、しかし・・・」



しばらく真一は、クレメンスが出て行った扉を眺めた。






「きっとそんな人生を受け入れて、折り合いをつけていくことができるのも、人間らしいと考えます」












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クレメンスが走る先、そこはゼボイムの辺境に位置する場所だ。



この世界に初めて来た時に、ルミヤと出会った場所、続いて次元破断爆弾が現れた場所だ。


今は大きなクレーターが残るばかりだが、クレメンスにとっては、特別な場所である。




そんな場所に向かうと、やはり彼女はそこにいた。



「・・・クレメンス?」


エンジェルのルミヤ、彼女は一人ボンヤリとクレーターを眺めていた。



「ルミヤ、ここにいましたか」


ゆっくりとクレメンスはルミヤの前に立つと、心の内を吐き出そうと口を開いた。




「すう・・・ごほっ!」



しかしあまりに急いで走ってきたため、息を吸うとむせ込んでしまっていた、これではしまらない。



「だ、大丈夫?」


慌ててさすさすと背中をさするルミヤ、これはもう今日は告白やめたほうが良いのではないか?



だが今日を逃せばもう告白は出来ないかもしれない、クレメンスは息を整えると、まっすぐにルミヤを見つめた。




「・・・ルミヤ」



「えっと、何、かな?」


色々言おうと思っていた台詞はあったが、人間らしくシンプルに行くべきだろう。








「好きだっ!」










「はいっ!」





たった一言ずつの応酬であった、だがその言葉には、クレメンスが取り戻した、戦いの中で肯定した全ての気持ちが籠っていた。



人間らしい心を持ち、誰かを愛する、それさえ忘れなければ、誰だって大切な者と伴侶になれる。


人間だろうと魔物だろうと、神族だろうと共に歩むことが出来るのだ。





心を持つことは、確かに迷いや憎しみといった負の思念を産み、結果的に自分を苦しめるかもしれない。


しかし、誰かを愛することが出来るのは、人間らしい心があるからこぞ。



心から魔物を愛し、隣人を愛し、遍く生命を愛するのだ。




愛し愛されたその先に、必ず平和な未来はあるのだから・・・。







16/07/12 17:45更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんにちは〜、水無月であります。

かくしてサイバネティック・エンジェル完結の運びとなりました。

実は最初にお話しを書いたのはこの最終話でありましたが、色々考えているうちにもう少し未来世紀の肉付けをしたくなり、長編となりました。

みなさまここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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