連載小説
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覚醒





「何とか、生きているな」


基地に不時着した輸送機、コクピット内部でヴィルヘルミナはホッと一息ついた。



「はい、しかし彼は、クレメンスさんは・・・」


魔女の言葉に、ヴィルヘルミナは表情を暗くする。



「・・・あのダークエンジェルを倒すためにあそこまで、やはり彼は、教団のクローンではなかった、か・・」



何とか捜索したいが、あれほどの混乱、どこを探せば良いのかまるでわからない。



「あら?、隊長、何かのデータが送られてきました」


いくつかのデータを空間に投影する魔女、それは何かの施設の位置や、その施設の内容を示すデータである。



「これは、もしやクローンの研究施設か?」










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広大なジャングルの中、クレメンスはクローンのダークエンジェルと歩く。



「見えてきた、あれがそう」




ダークエンジェルが指差す方向には、大きな研究施設がある。



おそらく、あの中にルミヤが捕らわれているのだろう。




「ここまでありがとう、『アミル』」




クローンL0001、彼女はクレメンスによって新たにアミルの名前を与えられていた。




「礼には及ばない、ここからが肝心、中は警備が厳しい」




しかし、とアミルは続けると、端末を取り出し、施設の図面を映した。




「通気口を通れば最深部、ルミヤの捕らわれている場所まで行ける」




ただし、とアミルは注意をつけた。




「最深部には教団のクローン研究主任であるネクロ・カオスがいる、注意して」



ネクロ・カオス、噂には聞いたことがある、研究者でありながら魔物以上の身体能力とオーバーテクノロジーの深い知識を備えたまさに魔人。



「なんとか私も時間稼ぎはするが、ネクロ・カオスはそんなことで騙せる相手ではない、用心を」



「わかった、無茶はするなよ?」


互いにうなずき合うと、クレメンスは通気口に、アミルは施設の玄関に向かった。








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時折端末を見て、図面を確認しながら、クレメンスは通気口を慎重に進んでいく。



時折下を見ると、たくさんのクローンがカプセルに入れられて並んでいたが、エンジェル、つまりアミルと同じようなクローンは見つからなかった。




やはりアミルはプロトタイプのようだが、一度できた以上、いずれエンジェルによる軍団が出来るのだろう。



不完全だった医療用ナノマシンとリミッターを完璧にすれば、戦いが激化し、また多くのクローンが、歪んだ理由で生みだされる。



それは避けねばならない、クローンもただ戦うためでなく、魔物と人類の共存に、貢献出来るはずだ。




知らず、クレメンスの右手に力が籠っていた。








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施設の最深部、プラズマナイフで通気口を切り裂き、クレメンスは部屋に降りた。



そこは体育館くらいはある広大な部屋であり、周りにたくさんのカプセルが並んでいた。





『良くぞここまで辿り着いた』



耳障りな呼吸音とともに、入り口から強化鎧装の人間が現れた。



『余がネクロ・カオス、クローンたちの生みの親だ』



彼が手を挙げると、ゆっくりと床が開き、一つのカプセルがあらわれた。



「ルミヤっ!」



中にはルミヤが拘束されており、ぐったりと力なくうなだれている。



『さあ、彼女を助けてみせろ』


ゆっくりと歩き、クレメンスの前に立つと、ネクロはプラズマブレードを引き抜いた。



「ネクロ・カオス」


クレメンスに呼びかけられ、彼はぴくりと動きを止めた。



「お前は、何者だ?」



『異な事を聞く、余はネクロ・カオス、魔物を滅ぼし教団の平和を成し遂げる者だ』



否、違う、ネクロは、それだけではないはずだ。


たしかに彼は人間に、教団に力を貸しているように見える、しかしその実ジリ貧に誘導してはいまいか。


勝ちにこだわるならば、クローンをもっと大量に各戦線に投入すれば魔物との戦いはなんとでもなるはず。


だが、あえてそれをせずに後手後手に回るかのような戦法、どういうつもりだ。


まるで、自然な流れによる人類敗北を演出するかのような。




それに今も、彼は明らかにクレメンスがルミヤを助けに来たことを知っている。


おかしな話しだ、本来クレメンスもルミヤも、イレギュラーな存在のはずなのに把握しているとは。




『くっはっはっはっは・・・』



くぐもった声で笑い出すネクロ、男声にも女声にも聞こえる声が、不気味だった。




『面白い、泳がせておいた意味があったというものだ』



プラズマブレードを起動させると、ネクロはクレメンスに斬りかかる。



「ちっ、ネクロ・カオスっ!」



『一度しかない人生だ、楽しめ、クローン』


赤い光刃を青い光刃で受け止めるクレメンス、やはりネクロの後ろには、人間以外の何かがある。



剣術に関しては、ネクロのほうがまだ上だろう、しかしクレメンスが諦めない限り、勝ち目はある。



数合打ち合い、裏拳でネクロを跳ね飛ばすクレメンス。


「むう、やってくれる」


後ろに下がると、ネクロは左手から電撃を放った。



「っ!」



慌ててプラズマブレードで電撃をかわすクレメンス、こんな飛び道具までネクロは使えたのか。



『余の力は貴様を圧倒している、遊びは終わりだ』




瞬間、すさまじい速度でネクロから放たれた電撃がクレメンスのプラズマブレードを弾き飛ばした。



「しまったっ!」



三撃目の電撃がクレメンスに迫る、その刹那。



「やあっ!」


赤い光刃が電撃を阻んでいた。



「アミルっ!」


ダークエンジェルのアミル、クレメンスの前に立ち、電撃を受け止めていた。



「奴の相手は任せてルミヤを」


クレメンスはしっかりと頷くと、プラズマナイフを起動させ、ルミヤのカプセルに向かって走る。



『やらせんっ』



電撃をクレメンスに向けて放つネクロだが、彼は走りながらも、素早くレイザーディスクを投擲した。



狙いは過たず、そのままカプセルを破壊、どろりとした液体とともに、ルミヤが倒れてきた。



『ちいっ!、やってくれるなっ!』



プラズマブレードを構え、クレメンスとアミルを睨みつけるネクロ。



瞬間、どかどかとクローン兵士が部屋に踏み込み、ビームマシンガンをクレメンスとアミルに向けた。




『ふっ、やっと来たか』


じっとクレメンスを見つめるクローンたち、しかし誰一人として発砲する気配はない。



『どうした?、まさか貴様らまで心を・・・』


愕然とするネクロ、先頭にいたクローンはクレメンスにウィンクしてみせたが、もしや森の中であったクローンたちだろうか?




『相変わらず、てめえはもってまわったやり方をする奴だな?』



突如として声がした。



『むっ!、この忌々しい声は・・・』



声はクレメンスの影の中から聞こえているが、この声は聞き覚えのあるものだった。




「クトゥグアかっ!?」


『おう、その通りさ、よくあいつをここまで追い詰めてくれたな、礼を言うぜ、クレメンス』


クトゥグアの声を聞き、ネクロは明らかに狼狽したように後ろに下がる。



『馬鹿な、貴様らではこの時空は関知できぬはず』



『それがてめえの弱点さ、過信と傲慢、歪んだ未来を作って自分好みな混沌を作る、てめえらしい悪趣味だ』



苦し紛れに電撃をクレメンスに放つネクロだが、彼の全身から赤い力が漏れ、攻撃を打ち消した。



『なにっ!』



『いい加減人間の格好から出てきて正体を現したらどうだっ?!







外なる神、『這い寄る混沌』






nyarlathotep(ニャルラトホテプ)っ!』





ぐらぐらと施設が揺れ動き、天井や壁にヒビが入る。



『おのれクトゥグアっ!、おのれクレメンスっ!、よくも、よくも、余の邪魔だてをぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」



絶叫とともにネクロ・カオス、否、『這い寄る混沌』ニャルラトホテプはその姿を現わす。



「ここは危険だ、アミルっ!」



「わかっているわ」



クレメンスとアミルはルミヤを担ぐと、そのまま研究施設を後にした。










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爆発とともに何とか脱出に成功した一同。



「大丈夫ですか?」



クローン兵の手を借り、ゆっくりと立ち上がるクレメンス。


「ああ、なんとか」


クローンたちもリミッターがなくなれば普通の人間と変わらない心を取り戻せる。


クレメンスは知らず、微笑していた。



「なんとか、逃げ延びたな」




命からがら研究施設から出たクレメンスたち、だが脅威は未だ去ってはいない。





『逃すかあっ!』



崩れ落ちる研究施設から、巨大な姿の混沌が現れた。



「あれが、『這い寄る混沌』・・・」



数千キロの巨体に、あちこちにある口や眼球、さらには全身から放つ漆黒の気運にすさまじい圧迫感。



あたかも別次元の生き物が、無理やり三次元世界に現れたかのような異様な姿だ。



見ているだけでも正気を失いかねない邪悪な神、それこそがニャルラトホテプだ。





『おのれクレメンスっ!、おのれクトゥグアっ!、余の邪魔をした貴様らは、必ず滅ぼしてくれるわっ!』



周囲に闇の波動を放つニャルラトホテプ、凄まじい力である。




「奴を倒さないと、この世界は・・・」



黒幕であるニャルラトホテプをなんとかしなければ、またこの世界は同じように混沌が支配するままになってしまう。


だが、あれほどの力を持つ神、倒すことが出来るのか?




『倒せるか、じゃねぇよ、倒すんだよ』


クトゥグアの声に、クレメンスは頷いた。



「ああっ!」


『貴様らだけで、この余を、外なる神である余を倒せるつもりか』



周囲に電撃を放ち、クレメンスを攻撃するニャルラトホテプ。



「私たちだけではないわ」



ルミヤを担いだアミルが、上空を指差した。



「ポジトロンキャノンスタンバイっ!、奴を狙い撃てっ」



無数の飛行戦艦が、戦いに駆けつけてくれたのだ。



「間に合ったわね」


そうか、施設の場所を、アミルは魔界軍にリークしたのか。



『こちらリザードマンのヴィルヘルミナ、借りは返させてもらうぞ、クレメンス・ビスマルク』



空を舞う戦艦から攻撃を受け、さしものニャルラトホテプも仰け反る。



『おのれぇぇぇ、魔物風情が神に楯突くかっ!』



「彼に味方するは魔物だけではないぞ」



「我ら第7大隊のクローン兵が相手だ」




クレメンスとそっくりながら微妙に異なるクローン兵士たちも、ビームマシンガンやプラズマブレードを構えている。



魔物と教団クローン、敵対していたはずの二つの勢力が共通の敵を得たことで団結していた。



『おのれクローンどもっ!、余の作品の分際で、余に刃向かうかっ!!』



「行くぞ、ニャルラトホテプっ!」


クレメンスはプラズマブレードを起動させ、ニャルラトホテプに斬りかかった。




『ちいっ!、クトゥグアの犬め、貴様はこいつらと遊んでいろっ!』



ニャルラトホテプから、八人強化鎧装の人間が現れた。


それはネクロ・カオスそのものだったが、恐らくはクローンを応用した複製だろう。



「行くぞっ!」
16/07/10 12:11更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんにちは〜、水無月であります。

いよいよ今回はラスボスとの対峙でございました、話数的には次回でニャルラトホテプとは決着をつけて、その後最終回に入ります、ゆえに後二話程度ですね。

ではではみなさま今回はこの辺りで。

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